石英系高NA光ファイバケーブル

石英系高 NA 光ファイバケーブル
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石英系高 NA 光ファイバケーブル
Optical Cable Using High-NA Optical Fiber Composed of Silica Glass
石田太郎
Taro ISHIDA
栃谷
元
Gen TOCHITANI
コア,クラッドが共に石英系ガラスで構成され,NA 値 0.3 以上を示す光ファイバを作製し,LAN および FA
用の光ファイバケーブルを試作した。作製した光ファイバには HPCF と同様の操作性を得るために NSP 層を付
加したが,伝送特性にその影響が現れないことをヒートサイクル試験により確認した。この光ファイバを用い
て F08 形 2 心光ファイバコネクタが適用可能なWシース構造の光ケーブルを試作し評価した結果,既存の光ケー
ブルと等価な特性を示した。従って,この光ファイバを適用するケーブルは HPCF の使用が難しい高温や油汚
れ環境でのネットワーク構築に有効だと思われる。
The optical cable using the optical fiber which has high numerical aperture, more than 0.3, has been developed. This
optical fiber was composed of only silica-based glass. This fiber has a NSP (Non-Strippable Primer) layer on cladding surface to obtain the same mechanical property as hard-polymer cladding fiber (HPCF). The optical cable with the structure
for LAN and FA was prepared using this optical fiber. Optical and mechanical properties of this cable showed that a cable
using this optical fiber could be applied for design an optical network under the conditions in which HPCF was hardly used.
1.は
じ
め
に
決方法の一つとして提案されるものである。すなわち,こ
こで試作した光ケーブルは「コアおよびクラッドに石英系
従来,LAN(Local Area Network)や FA(Factory
ガラスを使用し,同時に高 NA(〜 0.35)を実現した光ファ
Automation)では,①開口数(NA : Numerical Aper-
イバ」をケーブル化したものであり,導波路部分に樹脂を
ture)が大きく光源との結合効率が高い,②ファイバ間の
使用していない。また,この光ファイバは,コア径の拡大
接続が容易,③低価格,という利点から多成分系光ファイ
を計るためコア構造に QSI(Quasi Step Index)型構造を
バが使用されてきた。しかし,最近の多成分ファイバの原
採用している。
料費の上昇に伴い,低価格という利点を維持することが困
また,HPCF の特徴の一つである,接着剤を使用せずに
難になったことから,多成分系光ファイバに代わる光ファ
物理的応力でファイバを固定するという特徴を実現するた
イバとして HPCF(Hard-Polymer Cladding Fiber)が採
め,昭和電線の NSP(Non-Strippable Primer)技術 1)を使
用され始めている。HPCF は一般的に NA が 0.4 程度であり,
用し,圧着固定タイプの光コネクタにも対応しているので,
多成分系光ファイバのNA(〜0.5)に近い値であるため,光
HPCF ケーブルと問題なく置き換えが可能である。
源との結合効率をあまり損なわずに置き換えが可能であ
2.光ファイバの開発
る。また,クラッド部の樹脂は被覆層としても機能しコア
ガラスを外傷から保護するため,接着剤を使用せず,クラッ
図 1 に今回作製した高 NA 光ファイバの略図を,表 1 に
ド部分に物理的応力を加えることにより光ファイバを固定
各層の構造を示す。コア部分は GeO 2 をドープした石英で
することも可能になる。
ある。
このような特長を示す HPCF は,構内及び室内等の安定
した環境下で使用する限り,安価な導波路として問題なく
クラッド
(SiO2)
NSP層
使用できる。しかし一方,高温,高湿,大きな寒暖の差,
油脂による汚れ等が存在するような環境(例えば自動車内
や工場内)では,クラッド樹脂やクラッド/コア界面に劣
化や剥離等の問題が発生し,導波路構造に変化が生じ伝送
特性が劣化することが懸念される。
本論文で報告する高 NA 光ファイバ製品は,HPCF が樹
脂クラッドを使用していることに起因するこれら問題の解
コア
(Ge-doped SiO2)
図 1 高 NA-QSI 光ファイバ
UV被覆
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
34
表 1.高 NA-QSI 光ファイバの構造
Vol. 56, No. 1 (2006)
表 2.各波長での損失(代表値)
項 目
単位
設定値
コア径
μm
200
クラッド径
μm
230
NSP 層径
μm
250
被覆層径
μm
500
理論 NA
ー
0.30 〜 0.35
各波長での損失(dB/km)
fiber NA
630 nm
850 nm
1310 nm
1550nm
0.35
13.3
3.7
1.2
1.0
0.32
11.4
3.8
1.3
1.0
図 3 から分かるように,作製した光ファイバの損失値は
NA 値,すなわち GeO2 ドープ量にほとんど依存していない。
この構造は F08 形 2 心光ファイバコネクタ(JIS C 5977)
HPCF の 850 nm における損失公称値は 6 dB/km 以下であ
用に製造されている弊社製多成分系光ファイバの構造に準
り,作製した光ファイバはこれを十分に満足していること
じており,本光ファイバは HPCF だけでなく多成分系光フ
が分かる。また,850 nm での多成分系光ファイバの損失値
ァイバの代替としても利用可能な構造となっている。
が約 12 dB/km であることを考えると,石英系ガラスを使
作製した光ファイバの損失スペクトルをカットバック法
用したことにより損失値が 1/3 程度に抑えられていること
により測定した。図 2 に使用した測定系を示す。測定は
も分かる。多成分系光ファイバの損失値で実際のネットワ
800 nm 以下の波長域ではキセノンランプを使用し,800
ーク構成が行われていることから,630 nm 付近の波長での
nm 以上の波長域ではハロゲンランプを使用して実施し
ネットワーク構築に本光ファイバを使用することも可能で
た。測定に際しては,光ファイバをボビン(φ 220)に巻
あると考えられる(635 nm 光は POF(Polymer Optical
き取った後,24 時間以上放置したサンプルを使用した。使
Fiber)で構成されているネットワークで使用)
。
用したファイバの NA は 0.32 および 0.35 である。図 3 およ
準備した光ファイバサンプルの伝送帯域を,GI 型光ファ
イバ用の帯域測定器を用いて測定した結果,いずれのサン
び表 2 に測定結果を示す。
プルも 20 MHz・km 程度の伝送帯域を示した。
次に,作製したサンプルに対しヒートサイクル試験を実
施した。サンプルは各々の光ファイバを 1000 m 束取りし
Photomultiplier (R646),
Powermeter
励振部
分光器
た。温度は図 4 に示すように− 20 ℃から 75 ℃の間で変化さ
せた。ヒートサイクル試験の結果を図 5 に示す。
測定用ファイバ
温度(℃)
Xe lamp,
Harogen lamp
たものを使用した。測定には 850 nm の LED 光源を使用し
PC
図 2 損失スペクトル測定系
80
60
40
20
0
−20
−40
0
NA=0.35
NA=0.32
30
40
0.4
損失増加量(dB/km)
25
損失(dB/km)
20
試験時間(時間)
図 4 ヒートサイクル
30
20
15
10
5
0
400
10
NA=0.35
NA=0.32
0.3
0.2
0.1
0.0
−0.1
600
800
1000
1200
波長(nm)
図 3 損失スペクトル測定系
1400
1600
20 −20 70 20 −20 70 20 −20 70 20 −20 70
温度(℃)
図 5 ヒートサイクル試験結果
石英系高 NA 光ファイバケーブル
作製した光ファイバは,HPCF と同様の操作性を得るた
35
使用時の参考データとして必要な屈曲試験も実施した。
めに硬度の高い樹脂を用いて NSP 層を形成しており,温度
JIS 項目評価結果の一覧を表 4 に,屈曲試験の結果を図 7 に
変化による損失増加が大きいことが懸念される。しかし,
示す。尚,全ての測定において測定波長は 850 nm である。
図 5 の結果から,損失は± 0.2 dB/km の間で変化しており,
これは実用に際し問題のない値だと思われることから,
NSP 層が伝送特性に与える影響は無視できると思われる。
表 4 試作コードの特性
項
3.光コードの試作
本光ファイバは,FA等の分野での適用が考えられること
から,最初に多成分 NSP ファイバを使用しており光ショー
目
試験条件
評
価
側圧特性
10 N/mm
1分間
断線無し
(外被ひび割れ無し)
衝撃特性
錘: 0.1 kgf 高さ: 1 m
回数: 3 回
断線無し
(外被ひび割れ無し)
巻付特性
φ 50 mm
巻付数: 6 回 10 サイクル
断線無し
(外被ひび割れ無し)
トリンク用ケーブルとして実用実績がある細径ショウリン
クコード獏(屋外補強タイプ)2)3)4)と同一構造にて試作を
実施し,初期検討評価を行った。試作コードの構造を表 3
表 3 試作コードの構造
項 目
仕 様
光ファイバ心線
表1参照
テンションメンバ
抗張力繊維
コード内被
PVC(橙色)
内被外径(mm)
2.8
光ファイバ心数
2
緩衝層
緩衝材
コード外被
PVC(黒色)
仕上り外径(mm)
6
概算質量(kg/km)
30
損失変化(dB)
および図 6 に示す。
0.4
NA 0.35
0.3
NA 0.32
0.2
0.1
0.0
φ100
φ80
φ60
円筒直径(mm)
図 7 屈曲特性
3.2.1
側圧特性
幅 25 mm の鋼製平板を用い,各設定荷重にて 1 分間保持
した際のファイバ断線の有無を測定した。100 N/mm まで
ファイバ心線
補強繊維
コード内被(φ2.8 mm)
緩衝層
コード外被(φ6.0 mm)
実施したが,断線は見られなかった。
3.2.2
衝撃特性
直径 25 mm,質量 100g の錘を高さ 1 mからコードに 3 回
落下させ,ファイバ心線の断線の有無について測定した。
その結果,断線は見られなかった。
3.2.3
コード曲げ特性(巻き付け特性)
無荷重の状態でコードを直径 50 mm の円筒に 6 回巻き付
図 6 コード構造図(屋外補強タイプ)
け,その後解きほどく。これを 1 サイクルとし,連続 10 サ
イクル試験を実施し,ファイバ心線の断線の有無について
測定した。この試験においても,側圧特性並びに衝撃特性
このようにして製作した光コードについて,初期検討評
価を行った。それらの結果を,以下に示す。
3.1
初期伝送損失特性
試作品においてコード化後の初期伝送損失を測定したと
同様に断線は見られなかった。
3.2.4
屈曲特性
規定の円筒に試作コードを沿わせ,± 180 度に屈曲させ
ることにより損失変動を測定した。試作コードの外径は 6
ころ,測定波長 850 nm において 4 dB/km 以下とショート
mm であるから,許容最小曲げ径は直径 120 mm であるが,
リンク用として十分良好な結果が得られた。
ケーブルの光学的特性把握のため,図 7 に示した試験では,
3.2
機械特性
機械特性については,JIS C 6830「光ファイバコード」
曲げ直径 60 mm まで実施した。NA 値が 0.32 および 0.35 で
あるいずれのファイバにおいても,損失増加量 0.2 dB 以下
の 6 項に準じて測定を実施した。尚,今回適用したコード
と良好な値であった。一方,図 7 は NA 値の差により差異
構造は実用実績が十分にあるため,実施項目は圧壊(側
が発生することも示している。NA 値が高い光ファイバほ
圧)・衝撃・コード曲げの 3 項目に絞って行った。また,
ど曲げに強いコードが作製できることが示されている。
昭 和 電 線 レ ビ ュ ー
36
4.ま
と
め
コア,クラッドに石英系ガラスを用い NA 値 0.3 以上を示
す光ファイバを作製し,LANおよびFA用の光ファイバケー
昭和電線デバイステクノロジー㈱
石田 太郎(いしだ たろう)
光デバイスユニット 技術部
光ファイバケーブルの設計開発に従事
ブルを試作した。
作製した光ファイバは 850 nm での損失値が約 4 dB/km
であり,設計マージンを考慮しても HPCF と同等以上の伝
送特性を示している。また,HPCF と同様の操作性を得る
ために付加した NSP 層の影響も,ヒートサイクル試験から
は確認できなかった。この光ファイバを用いて F08 形 2 心
光ファイバコネクタ(圧着固定タイプ)が適用可能なWシー
ス構造の光ケーブル化を行い,得られた光ケーブルを評価
した結果,既存の光ケーブルと等価な特性が得られた。以
上の結果から本光ファイバを応用したケーブルは HPCF の
使用が難しい環境でのネットワーク構築にも今後の展開が
期待される。
また,ここで使用した高 NA 光ファイバのm単位での損
失は 10-2 dB/m 程度と非常に小さい。本ファイバが耐熱性
のある石英ガラスで構成されていることを合わせて考える
と,レーザガイドやバンドルファイバ用の素線としての応
用も十分に考えられる。
なお高 NA 光ケーブルの作製及び評価に際し,冨士電線㈱
殿のご協力を頂いた。
参考文献
1)K.Shiraishi et.al., : Geometric and Mechanical Characteristics of
Newly Developed SM-NSP Fiber, Proc. of 49th IWCS, p.389 (2000)
2)大橋他:ハードクラッドファイバの開発,昭和電線レビュー
Vol.38, No.1, p.88(1988)
3)八木他:多成分NSPファイバの諸特性,昭和電線レビュー
Vol.41, No.1, p.42(1991)
4)町田他:細径ショウリンクコード獏の開発,昭和電線レビュー
Vol.42, No.1, p.55(1992)
昭和電線デバイステクノロジー㈱
栃谷
元(とちたに げん)
品質保証・技術開発センター
光ワイヤリング開発部 主査
光ファイバ,光デバイスの研究開発に従事
Vol. 56, No. 1 (2006)