福井県衛生環境研究センター年報 第 13 巻(2014) 資料 湖沼中の難分解性有機物に関する挙動解析 松井 亮・荻野賢治・中村大充・田中宏和 Behavior of Refractory Dissolved Organic Matter in Mikata Lake Ryou MATSUI, Kenji OGINO, Masamitsu NAKAMURA, Hirokazu TANAKA 1.はじめに 福井県内の公共用水域常時監視調査の結果では、三方五 湖において、有機物等汚濁の代表的な指標である化学的酸 素要求量(COD)が環境基準に適合していない地点が存 在する。そこで、三方五湖における湖沼水の COD のこれ までの経年変化を見ると、図 1 に示すとおり三方湖は類型 指定が B 類型で基準が 5 mg/L であるのに対し、環境基準 に適合していない年が多い。しかし、その原因については 不明である。 他県においては、琵琶湖の COD が 1984 年を境に徐々 に増加している。琵琶湖では水質悪化が問題視されてから、 様々な浄化対策が行われており、琵琶湖に流入する汚濁負 荷量が増えていないにも関わらず、COD が増加している 現状がある。一方、微生物により分解されやすい有機物の 量を表す生物化学的酸素要求量(BOD)は、横ばいか低 減傾向である。これらのことから、微生物によって分解さ れにくい難分解性有機物が蓄積していると推察されてい る 1)。 湖沼における微生物に分解されにくい難分解性有機物 に関する研究は、海外でも日本国内でも研究事例が少ない。 しかし、現実の湖沼の水質汚濁現象を解明する上では不可 欠な研究テーマとなっており、多くの研究者・機関が取り 組むことが期待されている。 そこで、当県の三方五湖においても、環境基準を達成し ていない原因の一つと考えられる、難分解性有機物に着目 し、分布状況を明らかにして、その結果に応じた環境保全 対策に繋げることを目的とした研究をすすめている。これ まで福井県内における公共用水域において、難分解性有機 物についての研究を行った事例はない。県外においては、 滋賀県で琵琶湖における研究事例および石川県で河北潟 における研究事例等がある 1,2)。 12 水質経年変化(三方五湖) 日向湖 久々子湖 水月・菅湖 三方湖 A類型基準 B類型基準 COD(mg/l)75%値 10 8 6 5 → 4 2 0 S60 S61 S62 S63 図1 H1 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24 2.1.1 BOD測定 BOD 測定は、JIS K 0102 21(2013)に基づいて行い、 20℃、暗条件下で 5 日間放置したとき消費された溶存酸素 の量(mgO/L)から求めた。 2.1.2 COD測定 COD 測定は、JIS K 0102 17(2013)に基づいて行い、 試料を硫酸酸性とし、酸化剤として過マンガン酸カリウム を加え、沸騰水浴中で 30 分間反応させ、そのとき消費し た過マンガン酸の量を求め、相当する酸素の量(mgO/L) から求めた。 2.1.3 DOC測定 DOC 測定は、JIS K 0102 22.2(2013)に基づいて行 い、燃焼酸化-赤外線式 TOC 自動計測法を用いた。TOC 計測器((株)島津製作所 TOC-VCSH)に供給した試料 に、酸を加えて pH を 2 以下にし、通気して無機態炭素を 除去した後、その一定量をキャリヤーガスとともに高温の 全炭素測定管に送り込み、有機物中の炭素を二酸化炭素と し、その濃度を非分散型赤外線ガス分析計で測定して DOC 濃度を求めた。 3.結果および考察 3.1 長期生分解実験 その結果を図 2、3 に示す。図 2 の長期生分解実験結果 を見ると、BOD は採水後著しく低下し、経過日数約 50 日以降はほぼ同値となった。 また、COD は濃度低下挙動が見られるが、その速度は ゆるやかであり、経過日数約 50 日以降も濃度低下が見ら れた。 図 3 を見ると、DOC は経過日数約 20 日後では大きな 変化は見られず、約 50 日後に約 30%の濃度低下が確認さ れ、約 170 日後には経過日数約 50 日後に比べて濃度上昇 が確認できた。 経過日数約 20 日後に、生物易分解性有機物指標の BOD はほとんど検出されなくなったが、COD は経過日数 164 日後も低下傾向が確認され、DOC の結果から有機物の細 粒化も示唆された。この結果から、福井県三方湖の難分解 性有機物は全く分解が停止するわけではなく、時間経過と ともに成分が変化すると考えられた。 福井県三方五湖湖沼水の COD の経年変化 4.まとめ 2.実験方法 2.1 長期生分解実験の方法 三方湖東部地点の表層湖沼水試料を室温で保管し、採水 してから 0、20、50、164 日後試料の COD、BOD および 溶存態有機体炭素(DOC)を測定した。 試料保管時は、曝気処理等は行わず、静置した。 (1)福井県三方湖湖沼水の生物易分解性有機物の分解は、 約 50 日間で完了すると考えられる。 (2)同湖沼水の難分解性有機物は時間経過とともに成分 が変化すると考えられる。 - 104 - 参考文献 1) 岡本 高弘他:水質汚濁メカニズムの解明に関する政策 課題研究-難分解性を考慮した琵琶湖における有機物 の現状と課題,滋賀県琵琶湖環境科学研究センター研究 報告書, 7, 87-102(2011) 2) 安田 能生弘他:河北潟における難分解性有機物に関す る実態調査(第 2 報),石川県保健環境センター研究年 報, 51, 34-38(2014) 4.0 2.00 BOD(mgO/L) 3.5 COD(mgO/L) 1.50 DOC(mgC/L) 濃度(mgO/L) 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 1.00 0.50 0.5 0.0 図2 0 50 100 経過日数(日) 150 0.00 200 三方湖湖沼水における採水後の生分解経過日数 と BOD、COD 濃度との関係 図3 - 105 - 0 50 100 経過日数(日) 150 200 三方湖湖沼水における採水後の生分解経過日数 と DOC 濃度との関係
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