第 46号 2006. 1 テクニカルレポート Hitachi Chemical Technical Report ISSN 0288-8793 ■ダイシング・ダイボンディング一体型テープ FHシリーズ 半導体パッケージの小型化,多機能化の要求に伴い,複 数個の半導体素子を積層するスタックドマルチチップパッ ケージに対する注目が高まっており,特に半導体素子の多 段積層化の開発が進んでいる。 多段積層化に伴う課題としては,パッケージ作製工程の 複雑化,薄ウェハ搬送性,高パッケージ信頼性の確保等が 挙げられ,これらの課題解決が必要である。 表紙の写真は当社が古河電気工業(株)殿と共同開発し たダイシング・ダイボンディング一体型テープFHシリー ズである。熱硬化型ダイボンディングフィルムと紫外線反 応型ダイシングテープの組み合わせによる本一体型テープ はウェハラミネートに適した形状にプリカット加工がなさ れており,優れたプロセス適性を有している。 特に多段積載時の薄ウェハの搬送性確保,パッケージ製 造プロセスの工数削減を実現すると共に,高いパッケージ 信頼性を確保できる。 テクニカルレポート 第 46 号 2006年 1月 巻頭言 5 アトムエコノミカル重縮合 上田 総 充 説 7 当社における知的財産戦略 関 論 泰幸 文 15 微細配線形成用プロファイルフリー銅箔技術 小川 信之・上山 健一・田邉 貴弘・小野関 仁・熊倉 俊寿 フェノリックジスルフィドによる金に対する接着性の向上 熊木 尚・福地 巌・立木秀康・陶 23 3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板 山本 19 晴昭 礼・宮寺 信生・黒田 敏裕・山口 正利・八木 成行・鯉渕 滋 半導体パッケージ用感光性ソルダレジスト 29 吉野 利純・上面 雅義・片木 秀行 エステル交換法による高品位機能性アクリレ−ト 林 35 克則・亀井 淳一 ダイシング・ダイボンディング一体型テープ 39 松崎 隆行・稲田 禎一・畠山 恵一 難燃剤フリー系ノンハロゲン封止材 池澤 良一・石黒 正・林 43 智弘・赤城 清一 油分解能を有する微生物を用いた厨房廃水処理システム 49 喜田 義一・近山 憲幸・冨安 雅樹・篠沢 隆雄 ブレーキ用摩擦係数安定型ディスクパッド 小野 学・永吉央幸・海野光朗・鏑木 55 努 60〜66 製品紹介 高耐熱性絶縁接着材 KS6000,KS7000 シリ−ズ ミューチップインレット COG用低温接続アニソルム AC-8408 高信頼性環境対応多層材 MCL-BE-67G(J) 多層化接着用化学粗化剤 HIST-7300 高輝度シート Sparkle UH 電池状態判定装置内蔵自動車用バッテリー AIバッテリーCYBOX(サイボックス) 通信モジュール用高精細配線板 ハロゲンフリー,鉛フリー対応 補強板固定用接着フィルム ハイボン10-851 油分解能を有する微生物を用いた厨房廃水処理システム 3 Contents Commentary Mitsuru Ueda 5 Intellectual Property Strategy of Hitachi Chemical Yasuyuki Seki 7 Profile-Free Copper Foil for Fine Printed Wiring Boards Nobuyuki Ogawa・Ken-ichi Kamiyama・Takahiro Tanabe・Hitoshi Onozeki・Toshihisa Kumakura 15 Improvement of Adhesion Characteristics Using Phenolic Disulfide onto Gold Takashi Kumaki ・Iwao Fukuchi ・Hideyasu Tsuiki・Haruaki Sue 19 Polymer optical waveguide for WDM module of 3 wavelength application Rei Yamamoto・Nobuo Miyadera・Toshihiro Kuroda・Masatoshi Yamaguchi ・Shigeyuki Yagi・ Shigeru Koibuchi 23 Advanced Photo-definable Solder Mask for High-performance Semiconductor Packages Toshisumi Yoshino・Masayoshi Johmen・Hideyuki Katagi 29 High-quality Functional Acrylates Made by Transesterification Katsunori Hayashi・Junichi Kamei 35 Dicing/Die Bonding Double Functioning Tape FH-900 Takayuki Matsuzaki・Teiichi Inada・Keiichi Hatakeyama 39 Non-hologen and Retardant Free EMC Ryouichi Ikesawa・Tadashi Ishiguro・Tomohiro Hayashi・Seiichi Akagi 43 Kitchen Wastewater Treatment System using Microorganisms Active in Oil Degradation Yoshikazu Kita・Noriyuki Chikayama・Masaki Tomiyasu・Takao Shinozawa 49 Automotive Brake Disc Pad with Stable Friction Coefficient Manabu Ono・Teruyuki Nagayoshi・Mitsuo Unno・Tutomu Kaburagi 55 Products Guide 60〜66 Licensing Business ──────────────────────────────────────────────── 50 4 巻 頭 言 アトムエコノミカル重縮合 この四半世紀の間に,リビングカチオン重合,メタロセン触媒を用いた オレフィンの重合,リビングラジカル重合などビニルモノマーの重合に関 東京工業大学大学院理工学研究科教授 して非常に目を見張る進展がなされてきた。Dormant(休止)種の導入に より初めてカチオンおよびラジカル重合でリビング重合が可能になった。 従来,アニオン重合によってのみ可能であった合成高分子の分子量および 分子量分布の精密制御,さらには,ブロック,スターおよび多分岐ポリマ の合成など,まさに望みの一次構造や分子量の規制されたポリマの合成が 上田 充(うえだ みつる)Mitsuru Ueda 略歴: 1972年 千葉大学大学院工学研究科修士課 程修了 1978年 工学博士(東京工業大学) 1972年 山形大学工学部高分子化学科 助手 1980年 山形大学工学部高分子化学科 助教授 1989年 山形大学工学部高分子化学科 教授 1999年 東京工業大学大学院理工学研究科 有機・高分子物質専攻 教授 留学: 1978-79年 アラバマ大学化学科 博士研 究員 1985-89年 米国IBM Almaden Research Center 客員研究員 専門分野: 高分子合成化学,感光性ポリマーの合成 容易になった。 一方,重縮合系高分子合成でも21世紀に入り,分子量・分子量分布を制 御する方法が開発された。逐次的に重合が進行する重縮合では,生成ポリ マの分子量分布はFloryの理論式に従い,重合の進行と共に広がり,理論 的に2に近づく。従って,リビング重合に見られるような単分散ポリマの 合成に関してほとんど報告されていなかった。ところが,重縮合反応にリ ビング重合の概念を取り入れ,重縮合を成長末端とモノマー間で進行させ る方法が開発され,分子量および分子量分布の制御が可能になり,連鎖的 重縮合と命名されている。 以上のように研究者の日々のひたむきな努力の積み重ねにより,革新的 な合成法が開発されてきた。筆者は長いこと重縮合系高分子合成に携わっ てきた。この分野で,次に取り組むべき重要課題はなにか?と聞かれると アトムエコノミカル(原子利用効率の高い)重縮合 と答える。21世 紀の材料合成はグリーンケミストリーの考えを基本に行う必要があるから である。グリーンケミストリー12箇条の中に原料をなるべく無駄にしない 受賞略歴: アメリカ化学会 PMSE部門 The Doolittle Award(1989) The Photopolymer Science and Technology Award(2003) 主な著書: 「高分子の合成と反応」 (高分子学会編,共 立出版) 「高分子工業化学」(朝倉書店),実用高分 子化学(丸善)などいずれも共著 形の合成をすること,すなわち,副生成物ゼロの合成が求められている。 多くの重合反応,たとえば,付加重合であるビニル重合,開環重合,重付 加などは理想的なアトムエコノミカル(原子利用効率:100%)重合である。 一方,重縮合は必ず副生成物を生成する。従って,重縮合の観点から副生 成物の量を極力抑えたアトムエコノミカル反応の開発が重要である。具体 的な研究課題例を三つあげる。 芳香族系ポリアミド合成では得られるポリアミドの融点が高く,また芳 香族ジアミンの求核性が低いため,溶融重合を適用することが難しい。そ 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 5 こで,酸塩化物のような活性ジカルボン酸誘導体とジアミンの溶液重合や 縮合剤を用いた重合が芳香族系ポリアミド合成に適用され,多量の副生成 物を出している。一つ目の課題は芳香族ジカルボン酸と芳香族ジアミンか ら直接アラミド合成を可能にする触媒を見出すことである。 芳香族ポリマの原点はポリフェニレン類の合成であり,多くの合成方法 が提案されている。遷移金属触媒を用いたアリールジハライドのカップリ ング反応は有効であるが,モノマーの活性化やカップリングの位置選択性 を計るために,モノマーに脱離基を導入しているので,多量の副生成物を 生じる。今後は脱離基の導入を行わず,C-H結合の活性化により最もアト ムエコノミカルでクリーンな高分子合成法の開発が重要である。その意味 で,ベンゼン環同士の脱水素カップリング反応は一番クリーンで重要かつ 簡便な合成方法である。しかし,これまで脱水素カップリング反応を利用 したポリフェニレン類の合成では,得られたポリマのカップリング位置に 選択性がなく,また低分子量体である。二つ目の課題はこの位置選択的カ ップリング反応を可能にする重合手法や触媒の開発である。 スーパーエンジニアリングプラスチックであるポリ(エーテルスルホン) やポリ(エーテルケトン)は芳香族求核置換重合で合成されている。この 重合でも多量の塩が副生成物として生成する。三つ目の課題はこの重合を 脱離基の導入なしに,芳香環のC-Hとビスフェノール類の水酸基の直接脱 水素カップリング反応で,上記のポリマ類を合成することである。 国立大学の独立行政法人化以後,高分子関係の学科,専攻では研究テー マが新合成法の開発から材料指向の研究へと大きくシフトしている。研究 費獲得のために致し方ないところもあるが,この傾向に危惧の念を持って いる人も多い。新規な高分子合成法の開発は機能材料合成を支える基盤で ある。一方,機能材料開発からの要求は新しい高分子合成の種でもある。 これらの共生が衰退しては,わが国の化学工業の発展は期待できない。機 能材料としての高分子材料はわが国の産業発展に寄与する役割は大きい。 今後はグリーンケミストリーの考えを基本に持ち,両者の良い連携とバラ ンスを構築し,機能材料の開発が益々進展することを期待する。 6 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) U.D.C. 001.8/.9:007:347.2:347.77/.78:65 総 説 当社における知的財産戦略 Intellectual Property Strategy of Hitachi Chemical 当社 研究開発本部 知的財産室長 関 泰幸 Yasuyuki Seki 近年,我が国ではプロパテント (知的財産保護の強化) の流れが政策的にも実質的にも 進行してきた。また,企業活動のグローバル化が進むにつれ,国境を越えた知的財産紛 争が頻発するようになってきた。このような潮流の中, 「技術革新型企業」 を目指す当社と しては,ただ漫然と特許の件数を増やすのではなく,有効な特許を精選して取得するとと もにそれを積極的に活用し,事業部門,研究開発部門,知的財産部門が三位一体となっ て事業戦略,研究開発戦略,知的財産戦略を推進することにより,知的財産経営の実現 を目指すのが好ましいと考えられる。 以上を踏まえ,本報では,当社の知的財産戦略の推移,研究開発戦略の変化に応じた 具体的な知的財産戦略活動,製品の観点からの知的財産戦略の実行例の3点について 説明する。 In these days, the pro-patent trend respecting intellectual properties has been politically and practically prevailing in Japan. With expanding globalization, we often see international lawsuits concerning intellectual property. Under such circumstances, it is more important for Hitachi Chemical, aiming to be a Technologically Innovative Corporation , to acquire and actively utilize effective patents that support the business rather than to aimlessly raise the number of patents that do not. It is also important to promote a triune strategy of business, R&D, and intellectual property through a tight cooperation between each department to assimilate intellectual property with the management of the corporation. In this paper, we will explain the following three points: the transition of an intellectual property strategy, the specific activities of intellectual property corresponding to the change in R&D strategy, and the specific practice of the former strategy on specific products. 〔1〕 緒 けるとともに,それを特許によって独自技術として保護し, 言 国際競争力を強化することが企業に強く求められている。政 近年,時代のキーワードとして「知的財産」というフレー 府も,2002年に知的財産を国家の発展の基盤となす旨の「知 ズが頻繁に取り上げられている。知的財産とは,人間の知的 的財産戦略大綱」を発表するとともに「知的財産基本法」を 創造活動により生み出された無形の知的資産の総称であり, 制定し,プロパテント政策を推し進めて知的財産立国の実現 その権利は知的財産権法によって保護されている。具体的に を目指している。 は,物や方法の発明に対する特許権,物の考案に対する実用 前述の通り「技術革新型企業」を目指し研究開発力を最重 新案権,デザインに対する意匠権,ブランドのロゴ,社名, 要視している当社にとって,このプロパテントの流れは,研 商品名等に対する商標権,文化的創作物に対する著作権,ノ 究開発成果を迅速かつ効果的に特許として権利化するととも ウハウ・営業秘密(不正競争防止法)等がある。その中でも, に,積極的にそれを活用して,競争力の維持・強化を図る絶 「技術革新型企業」を目指し,研究開発に特に力を注いでい 好の機会である。しかし,プロパテント化によって競合他社 る当社にとっては,特許の占める重要性が大きい。従って本 の意識もまた高まっており,競合他社の動きも見据えた戦略 報では,主として特許に関する知的財産戦略を述べる。 的な知的財産活動が必要であると言える。 今日では,情報通信の進歩により技術情報の伝播速度が格 本報では,このような状況の中で,当社における知的財産 段に向上し,また,生産拠点の国際化によって製造力の世界 戦略がどのように推移したか,特許を生み出す基礎となる研 的地域格差は小さくなりつつある。その結果,技術の模倣が 究開発戦略に応じた知的財産戦略を,現在どのように実行し 容易になり,単に技術を所有しているだけでは国際競争を勝 ているか,および製品の観点からの知的財産戦略の実行例を ち抜けない時代になった。従って,新規な技術を生み出し続 説明する。 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 7 総 説 ていたに過ぎず,1995年から1997年にかけての高付加価値製 〔2〕 知的財産戦略の推移 品への転換期に再度増加して以来,1999年まで多いままであ 当社は過去において,他社からの攻撃に対する防御を主目 った。また,個別の特許の質も以前と大差なく,活用の見込 的とする「守りの知的財産戦略」に軸足を置いてきたが, みが少ないものが多かった。すなわち,1990年に「量から質 2000年より,他社に対して特許を有効に活用する「攻めの知 へ」という戦略を定めたものの,1999年までは意識のみが先 的財産戦略」へと大きく方向転換をした。 行し実体を伴わずにいた。 国内においては,1963年に当社が日立製作所から分立して そこで, 「量から質へ」戦略の深化を図るため,2000年以 以降1990年まで,特許をより多く出願することを方針とし, 降は「事業戦略に対応した有効特許の取得と活用」という方 売上高の増加に伴って出願件数を伸ばしてきた。しかし,そ 針の下で,具体的活用を見越して特許の質を充分に審査する の多くは防御を主目的としており,当社製品そのものしか保 ことにより,権利範囲が広い特許や活用の可能性が高い特許 護できないような権利範囲が狭く活用の見込みが薄いものだ を厳選して出願・権利化することとした。また,市場の伸び った。また,分野を絞らず総花的に出願・権利化していた。 が期待できるエレクトロニクス分野等の出願・権利化に注力 従って特許の出願件数・保有件数は多くとも,それらの多く することとした。その結果,質の低い出願が減少し,出願件 は競合他社に有効に活用できず,事業戦略を支援する役割を果 数は年間およそ600件から700件の適正と考えられる水準で推 たせないものであった。 移するようになった(図1参照) 。加えて,保有特許の全面 そのため当社は,1990年のバブル崩壊を契機に「量から質 的見直しも行い,他社へのライセンスを含めて活用の見込み へ」という特許戦略を打ち出して出願件数の適正化を図った が無いものを放棄した。これにより,保有件数は2002年度ま が,その目的と手段は必ずしも明確ではなく,適正件数の客 で段階的に減少した(図2参照) 。2003年度以降は,前述の 観的基準もない模索状態だった。この「量から質へ」の戦略 質の高い特許を厳選して取得するという戦略の下で微増を続 により,出願件数は1990年から1995年にかけて減少したもの けている。このように,国内では「量から質へ」という知的 の,それはバブル崩壊以前と同様に売上高の変遷にリンクし 財産戦略の変更を行ってきた。 図1 推移 当社分立以来の国内出願状況の 出願件数は1990年まで増加,バブル 崩壊以降減少し,1995年まで売上高にリン 売上高 (億円) 3,500 売上高 出願件数 (公開ベース) 1,400 出願件数 バブル崩壊 3,000 1,200 「量から質へ」 の転換 2,500 1,000 2,000 800 600 1,500 1,000 出 適願 正件 化 数 高付加価値製品 への転換 当社分立 500 0 1965 1963 1970 1975 1980 1985 1990 1995 400 200 0 2002 2000 クしている。その後製品転換により再増加 し,2000年から権利活用をにらんだ出願件 数適正化により減少,現在は安定して推移 している。 Fig. 1 Number of annual domestic patent applications since the establishment of Hitachi Chemical in 1962 Along with the transition of net sales, the number of annual domestic patent applications increased up until 1990 and dropped after the collapse of the bubble economy. Afterwards, the change in strategy for the products caused a boost in applications once again. The examination of the number of patent applications when taking into consideration their employment possibility in 2000, made the number decline somewhat; it is relatively stable at the moment. 図2 (件数) 1,400 1,200 の後微増傾向である。 980 831 896 958 注1:住宅機器・環境設備部門は,2001年10 月1日付で (株) 日立ハウステックとして分社し た。上記のグラフにおいては,同部門に分類 800 される特許を除外して表記している。 600 400 20 8 保有 的見直しにより2002年まで段階的に減少,そ 1,115 1,000 0 国内特許保有件数の推移 件数は,権利活用をにらんだ保有要否の全面 2000 2001 2002 2003 2004(年度) 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) Fig. 2 Number of domestic patents held The number of the domestic patents held by Hitachi Chemical kept declining until fiscal 2002. This was a result of the thorough examination of patents considering their employment possibility. From then on, the number has continued to slightly increase. 総 説 一方海外においては,かつては特許出願件数・保有件数と もに少なく,海外における事業戦略をサポートするのには充 分でなかった。これは,海外企業の日本進出に対する防御を 守り(他社からの攻撃防御) 重視して国内出願件数・保有件数の充実を図っていた反面, 当社の海外進出という攻めの視点は弱かったためである。し 国内出願 中心 かし,企業活動の国際化が進むにつれて国境を越えた特許係 全分野への 総花的出願 争が増加し,グローバルな競争を勝ち抜く上では海外特許戦 狭い権利の 獲得 略の推進が不可欠となった。 そこで2000年以降,当社および競合他社の製造・販売の拠 点であり,特許の実施地域である米国,韓国,中国および台 経営環境の変化 湾地域を中心として,海外特許の出願増強を行ってきた。こ の結果,出願件数は2001年度から大幅な増加傾向にある(図 3参照) 。また,保有特許についても,活用の見込みの薄い グローバル化 欧州での件数を減らしアジアでの件数を増やしている。現在 は出願件数をさらに増強するとともに,それらの権利化を進 エレクトロニクス 関連製品の 売上増加 プロパテント 特許係争の 増加 めることで,グローバルな特許網の構築を行っている。また, 海外企業に対する特許の積極的な活用も開始している。 以上のように,当社の知的財産戦略は「守りの知的財産戦 略」から「攻めの知的財産戦略」に推移してきた(図4参 照) 。 海外(アジア) 出願の重視 エレクトロニクス 分野等へ 注力して出願 広く強い 権利の獲得 攻め(自社・他社への積極的活用) (件数) 350 302 300 図4 知財戦略の守りから攻めへの転換 経営環境の変化に対応し,知 財戦略を守りから攻めに転換し,海外(アジア)出願の重視,エレクトロニクス 分野への出願注力,広く強い権利の獲得を目指すこととなった。 Fig. 4 Transition of intellectual property strategy from defensive to offensive In order to correspond to the change in management environment, our intellectual property strategy has changed from a defensive one to an offensive one. Furthermore, Hitachi Chemical is now making a lot of foreign patent applications (especially in Asian countries), patent applications in the electronics field, and the establishment of broad and strong rights. 250 200 200 138 150 178 112 100 〔3〕研究開発戦略における変化 50 一方で近年,特許を生み出す基礎となる全社的研究開発戦 略が明確に定義された。具体的には,研究開発資源の最適な 0 2000 2001 2002 2003 2004(年度) 分配を検証,促進するために,新規市場獲得の可能性や成長 性の観点から,研究開発資源を研究開発テーマごとに, 「Ⅰ:探索」 「Ⅱ:育成」 「Ⅲ:拡大」 「Ⅳ:維持」の4つのス テージに区分し,研究開発資源の配分を管理する「ステージ 図3 海外特許出願件数の推移 出願件数は,米国,韓国,中国および台 別管理」を2003年度から導入した。 「探索」は,市場動向と 湾地域への出願増強活動により2001年から大幅に増加傾向である。 当社の基盤技術を照らし合わせて新製品創造の糸口を探す, 注1:上記のグラフにおいては,住宅機器・環境設備部門に分類される特許出 言わばマーケティングに相当するステージである。「育成」 願を除外して表記している。 注2:直接出願およびヨーロッパ特許出願(EPC出願)は出願した旨の連絡が は,前ステージで製品化の可能性が高いと判断されたテーマ あった日を,国際出願(PCT出願)は各国に移行した旨の連絡があった日をそ を本格的に立ち上げるステージである。売上高が想定売上高 れぞれ基準にし,1ヶ国を1件として年度別に集計している。ただし,ヨーロ の20%に達するまで,あるいは売上高が月額1億円までの製 ッパ特許出願は各国に移行前の段階で1件として計上した。 品に関するテーマが該当する。 「拡大」は,すでに順調に立 Fig. 3 Number of annual foreign patent applications Hitachi Chemical has been working on foreign patent application, especially to the USA, Korea, China and Taiwan regions, and the number of foreign patent applications has been increasing significantly since fiscal 2001. ち上がっている製品に改良を加える等,資源を集中投入して 最大限に拡大を図るステージである。3年間にわたって年 20%超の売上高成長を期待できる製品に関するテーマが該当 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 9 総 説 Ⅳ:維持 図5 関係 Ⅲ:拡大 売上高と研究開発ステージとの 研究開発ステージは,売上高の変遷 に伴い「I:探求」 「II:育成」 「III.拡大」 「IV.維 売 上 高 持」の4つにわけることができる。当社では 研究開発資源をステージ別に管理している。 Fig. 5 Relationship between net sales and R&D stages Hitachi Chemical manages R&D resources by introducing a four-stage assessment. Each resource is classified into one of the four stages, according to the sales or growth potentials of the products using the resource. The four stages are Incubation, Cultivation, Expansion, and Preservation. Ⅱ:育成 Ⅰ:探索 ステージ する。 「維持」は,成長はしているが「拡大」の定義に該当 当社では,収益性や将来性の高い製品および技術を「知的 しない製品(例えば,成長率が低い製品,市場が小さい製品 財産戦略テーマ」として定め,各テーマにつき知的財産室員 等)や,すでに市場が飽和または縮小し始めており,今後拡 1〜2名を専任担当者に据え,発明の発掘や特許の出願・権利 大が見込めない成熟製品に関するテーマが該当するステージ 化を重点的に行い,強固な特許網の構築に努めている。この である。 知的財産戦略テーマは,後述の5FP活動を始めとする当社の 当社では過去において,短期的な売上高拡大を志向するあ 知的財産戦略の基本単位となっている。なお,前述の専任担 まり, 「拡大」 「維持」に過度に多くの資金と人材が配分され 当者は研究所や開発部門のある製造事業所に配置されてお る傾向にあった。しかし中長期的に増収増益を果たす上では り,知的財産室員と研究開発者とが連携して知的財産戦略テ 新事業・新製品の創造が不可欠であるとの認識から, 「ステ ーマの推進を行うことができる体制が整えられている。知的 ージ別管理」の考え方を導入して以降は「探索」 「育成」へ 財産戦略テーマは半年ごとに見直しを行っており,2005年度 の比率を増加させ,長期的研究開発の整備とアウトプットの 下期は,ダイボンディング材料等の8分野を設定している。 強化を図った。 知的財産戦略としては,この「探索」 「育成」への研究開 ・ 5FP活動 発資源の配分比率の増加にあわせて,新事業・新製品の基礎 当社は,日立製作所(株)が実施している5FP(Fighting となる発明抽出に注力し,新事業・新製品をカバーする基本 Patents)活動を導入している。5FP活動とは,特許の活用 特許の出願・権利化を増進している。 を見越して,抽出された発明を見直したり出願・権利化する 特許を整理したりすることにより,他社が将来製品化する可 〔4〕具体的な知的財産戦略活動 能性の高い製品仕様をカバーできる有効特許を,製品・技術 次いで,前述の「攻めの知的財産戦略」の具体的な活動内 容を説明する。 分野ごとに最低5件取得することを目標とする活動である。 5FP活動の目的は,特許活用の際に5件程度の有効特許を同時 に活用することにより,相手方にとってそれらすべてを回避 ・ Material System Solution(MSS)に連動した特許の出願・ または無効化することが難しい状況を作り,権利行使の確度 を上げることにある。5FP活動は,前述の知的財産戦略テー 権利化 当社では,顧客が望む最適材料,最適サービス,最適解を マと連動して行われている。 一連のシステムとして提供する当社独自のビジネスモデル 「Material System Solution(以下,MSS) 」を推進しており, ・ 職務発明報奨規定の改定 材料や部材を通してソリューションが提供できるよう,顧客 当社では,2005年4月,改正特許法に則り,職務発明に関 の使用方法等にまで踏み込んだ研究開発を行っている。知的 する会社規則である「発明報奨・表彰規則」および「発明報 財産戦略もこれに連動しており,材料や部材にとどまらず, 奨・表彰基準」の改定を行った。この改定では,グローバル それらを使用するセットメーカーや装置メーカーのプロセス な事業展開に対応するため,国内偏重だった出願報奨および 領域においても発明の抽出を行い,幅広い特許の取得に努め 登録報奨を是正し,海外特許の出願および登録に対する報奨 ている。後述の異方導電性フィルムおよびダイボンディング 金を増額させて,海外特許出願・権利化へのインセンティブ フィルムは,MSSに連動した特許の出願・権利化により特許 の付与を図った。また,積極的な特許活用を推進するため, 網を構築した事例である。 実施料収入実績報奨金を倍増させた(図6参照)。さらに, 報奨金の決定基準・発明の評価結果を開示して制度と評価に ・ 知的財産戦略テーマ 10 対する透明性を高めることにより,発明者と知的財産室員と 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 総 説 出 願 1 出願報奨 国内と外国の 報奨バランス の見直し 図6 登 録 2 登録報奨 報奨規則の見直し グローバルな 事業戦略に対応して外国出願の出願・登録 グローバルな 事業への対応 報奨を引き上げるとともに,積極的な権利 活用を推進するため実施料収入実績報奨を 倍増した。 自社製品 への実施 ・ ライセンス Fig. 6 Revision of reward system To have an effect on the current global business strategy, the new reward system has increased rewards for foreign filing and registration of patents. At the same time, to encourage the employment of the rights, the reward amount, when royalty income is realized, has increased to twice that of the previous system. 実施料収入に対する 報奨金を倍増 3 実績報奨 1 社内実施 2 実施料収入 審査結果の確認と 問い合せを電子化 の意思疎通を促進させた。 Package用アセンブリテープの4つをあげて説明する。 (1) 異方導電性フィルム ・ 特許ライセンス活動・権利侵害への対応 当社は,製品・技術の優位性を維持し,事業展開を支援す 当社は,異方導電性フィルムを1984年に世界で初めて製品 る資産として保有特許を位置づけているため,グループ会社 化して以来,同製品分野におけるパイオニア企業として常に 以外への積極的なライセンス供与は原則として行っていな 技術トレンドを先取りし,基本特許を継続的に出願・権利化 い。他社からのライセンス許諾の申し込みに対しては,社内 してきた(図7参照) 。特に,異方導電性フィルムそのもの で厳格に審査を行い,事業戦略上必要と認められ,一定の要 を規定した基本特許の「導電異方性接着シート(特許第 件を満たした場合にのみライセンスを供与している。なお, 1882895号) 」は, (社)発明協会の「2003年度全国発明表彰 特許料収支(ノウハウ込みの場合を含み,グループ会社から 特別賞(内閣総理大臣発明賞) 」を受賞した。 の収入を除く)は,1999年度から2004年度まで黒字を維持し これらの基本特許を中心として,MSSに連動した特許の出 願・権利化を推し進めたことにより,絶縁接着樹脂の合成, ている。 また,当社の知的財産権を侵害する行為に対しては,当社は 導電性粒子の製造,絶縁接着樹脂中への導電性粒子の混合・ 侵害警告を発し,訴訟も辞さない毅然たる態度で臨んでいる。 分散,ベースフィルムへの導電性粒子を含有した絶縁接着樹 同時に,研究開発のフェーズに即して既存特許の調査を行い, 脂の塗工,リール化等の製品そのものの製造工程にとどまら 他社との知的財産権に関する係争の防止に努めている。 ず,同製品を使って電子部品を接続する工程にまで対応した 特許を取得し,重厚な特許網を構築することに成功した(図 〔5〕知的財産戦略の実行例 8参照) 。 続いて,上述の知的財産戦略の実行例として,当社製品の異 現在は,この特許網のさらなる強化を進めるとともに,国 方導電性フィルム,ダイボンディングフィルム,リチウムイ 内外で積極的にこれを活用することにより,本製品の優位性 オン電池用カーボン負極材およびQuad Flat Non-Leaded 黎明期 異方導電性フィルム 基本発明 (特許第1882895号) 図7 異方導電性フィルムの基本特許の変遷 立上期 新世代 マイクロカプセル粒径 基本発明 応力緩和型 異方導電性フィルム 基本発明 ラジカル系異方導電性フィルム 基本発明 時代に応じた技術トレンドを先取りし異方導電性フィルムの基本特許を継続的に出願・権利化してきた。 Fig. 7 Transition of basic patents for anisotropic conductive film (ACF) Hitachi Chemical has continuously pioneered the technology trend of ACF. We have kept filing and establishing the rights of the innovative basic patents for ACF. 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 11 総 説 導電異方性接着シート 1 全国発明表彰特別賞 (内閣総理大臣発明賞) 導電性粒子の 粒子径の発明 2 材 料 7 硬化反応に特徴の ある発明 8 接着剤層における 充填材の発明 フィルム化 図8 出願・権利化活動により,材料以外にもフ ィルム化,リール化,実装・接続の各工程 硬化反応系の 9 接着剤に関する発明 3 接着剤の組成の発明 までも含んだ重厚な特許網を形成した。 リール化 4 導電性粒子の 分布状態の発明 5 接着剤層の 構造の発明 6 接着剤層の特性を 規定した発明 実装・接続 10 接着剤樹脂の 改良の発明 11 使用時の歩留り 向上の発明 12 使用状態での特性を 規定した発明 の維持,強化に努めている。 異方導電性フィルムの特許網 Material System Solution(MSS)に連動した Fig. 8 Patent network for ACF Filing patents and establishing the rights based on the concept of Material System Solution (MSS) have enabled the construction of a strong patent network that covers not only the patents of raw materials for ACF, but also those of each process for film forming, reeling, mounting, and connecting among others. 照) 。特にダイボンディングフィルムにおいては,MSSに連 (2) ダイボンディングフィルム 動した特許の出願・権利化を行うことにより,材料のみでな 当社は近年,半導体実装用接着材料分野における研究開発 く顧客における使用形態に至るまでの各工程において幅広く 成果の積極的な特許出願および権利化に努めている(図9参 特許を取得し,現在では国内外あわせて500件を越える非常 H社 G社 8件 D社 8件 10 件 2000年 E社 13 件 A社 19 件 D社 17 件 2002年 A社 18 件 日立化成 55件 C社 18 件 C社 23 件 日立化成 93件 D社 12 件 2001年 日立化成 60件 G社 B社 11 件 13 件 A社 46 件 図9 B社 13 件 D社 17 件 2003年 B社 30 件 半導体実装用接着材料分野の年度別特許出願件数上位5社 日立化成 52件 A社 35 件 D社 13 件 F社 13 件 C社 18 件 E社 13 件 2004年 B社 26 件 日立化成 49件 A社 31 件 過去5年間における半導体実装用接着材料分野の特許出願件数において,当社は常に高 いポジションを占めている。 注1:PATOLISで,技術の中心となる分類(Fターム)と発明の名称を検索キーとして国内特許出願を検索した結果である( 「PATOLIS」は(株)PATOLISの登録商 標) 。 検索キー:(半導体 AND 接着) OR (ダイボンディング AND フィルム) Fig. 9 Top-five patent applicants in adhesive materials for semiconductor packaging (Number of patent applications) For the past five years, Hitachi Chemical has retained the highest number of patent applications in the field of adhesive materials for semiconductor packaging. 材 料 フィルム化 テープ / フィルム 実装・貼付 ①特定構造のポリイミド樹脂含有を特徴とする発明 ②特定のガラス転移温度のポリイミド樹脂含有を特徴とする発明 ③低アウトガス硬化剤含有を特徴とする発明 ④残存揮発分・吸水率等を規定した発明 ⑤硬化前の弾性率を規定した発明 ⑥表面エネルギーを規定した発明 ⑦個片貼付用リールフィルムに関する発明 ⑧フィルムを基板に熱圧着するラミネート方法の発明 ⑨ダイボンド工程を効率化する発明 顧客製品 12 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 図10 ダイボンディングフィルムの特 許網 MSSに連動した出願・権利化活動に より,材料以外にも顧客の使用形態も含ん だ重厚な特許網を形成した。 Fig. 10 Patent network for die bonding film Filing patents and establishing the rights based on the concept of MSS have enabled the construction of a strong patent network that covers not only the patents of raw materials, but also those of the process used by the customers. 総 説 に強固な特許網を構築している(図1 0参照) 。 特に,残存揮発分・吸水率等を規定した発明に関する特許 は,リフロークラックという顧客の使用時の問題点に対し材 料面からMSSを提供する過程において,それを解決するため の必須の物性を見出し,基本特許の取得につながった例であ かさ密度×アスペクト比 を規定した発明 負極材の製造法 の発明 結晶化度を 規定した発明 負極材構造を 規定した発明 負極材構造 る(図1 1参照) 。 各種製造工程の発明 結晶化度 現在この特許網は積極的に活用され,当社ダイボンディン 電極密度 グフィルムの世界市場におけるシェアの維持・拡大に貢献し 電極密度×負極材構造 を規定した発明 ている(当社推定 約70%) 。 電極密度×アスペクト比 を規定した発明 アスペクト比 顧客使用時の問題点 細孔体積 細孔体積を 規定した発明 解決手段 比表面積 細孔体積×負極材構造 を規定した発明 ダイボンディング工程における加熱 ボイド発生 (残存揮発分が原因) チップ ダイボンディング材 基板 M 水分 吸収 リフローはんだ付け実装時の加熱 水分 気化 蒸気圧の影響 界面剥離 S S の 実 践 [ダイボンディングフィルムの特性を規定] 残存揮発分(3.0wt%以下) × 吸水率(1.5vol%以下), or 飽和吸湿率(1.0vol%以下), or ピール強度(0.5kgf/5mm×5mmチップ以上) リフロークラック抑制に必須の物性 破壊 基本特許取得 図12 リチウムイオン電池用カーボン負極材の特許網 製品の特徴を 多面的に捉え,種々の要素・特性を規定した特許を出願・権利化し重厚な特許 網を形成した。 Fig. 12 Patent network for anode material of lithium ion batteries We observed the feature of the product from various aspects and have constructed a strong patent network by filing the patents that define the variety of factors and physical properties of the product. その活用を進めていく予定である。 (4) Quad Flat Non-Leaded Package用アセンブリテープ Quad Flat Non-Leaded Package(以下,QFN)用アセンブ リテープは,ICパッケージの実装方法の1つであるQFN方式 図11 MSSと連動した基本特許の取得 顧客使用時の問題点(リフローク ラック)に対する材料面からのMSS提供の過程において必須の物性を見出し, において,パッケージを一括封止する際に用いられるテープ 状の材料である(図1 3参照) 。当社のQFN用アセンブリテー 基本特許取得につなげた。 Fig. 11 Acquirement of basic patents based on MSS concept This basic patent was acquired through the process of providing customers with MSS. While trying to solve the reflow crack problem with our die bonding film, we became aware of an indispensable physical feature of our film, which led us to the acquirement of the basic patents for the film. 金属フレーム QFN用アセンブリテープ 半導体チップ (3) リチウムイオン電池用カーボン負極材 封止材 当社はモーター用ブラシ等の開発を通じて培ってきたカー ボン技術を活かし,リチウムイオン電池用負極材として,高 度な結晶性を有するとともに内部に細孔を有することを特徴 とする人造黒鉛粒子の球塊状材料を開発し,1998年より販売 している。この負極材を採用したリチウムイオン電池は,従 来の負極材を採用したものに比べ,高容量で放電特性に優れ, 長時間使用しても電池の持ちが良く,寒冷環境下においても 使用が可能という優れた性能を備えている。 本製品に関する初期の特許出願は,上記の優れた性能を必 ずしもカバーしきれておらず,事業の優位性を維持するのに は不充分であった。そこで5FP活動を行い,本製品の特徴を 多面的に捉えて種々の要素・特性を規定した複数の特許を出 図13 Quad Flat Non-Leaded Package (QFN)用アセンブリテー プの使用例 QFN用アセンブリテープはパッケージの一括封止後,剥離され 願・権利化して,特許網の再構築を行った。その特許網は, る。テープ貼付後の金属フレームの反り,封止時の熱劣化,剥離時の糊残り等 負極材構造の発明,負極材の細孔体積の発明,負極材の電極 が問題だった。 密度の発明およびそれらの組み合わせの発明等,本製品の優 れた性能を得るために必須の特許を多数含んでいる(図1 2参 照) 。現在,本製品に関する主要な特許の権利化は完了して おり,今後は関連する出願の権利化による特許網の強化と, Fig. 13 Example of usage of QFN assembly tape The QFN assembly tape is removed after the encapsulation of the packages. The problem for this product was the warping of the metal frame with tape applications, heat degradation while encapsulating, and the adhesive residue after tape removal. 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 13 総 説 プは,高耐熱性を持ち,テープを剥離する際の糊残りが極め て少ないため,ワイヤボンド時の歩留まりの大幅な向上を実 現している。また,従来の粘着系QFN用アセンブリテープで 研究開発 による 発明創造 必要だったカバーフィルムが不要である。加えて,樹脂漏れ や糊残りがほとんどなく洗浄工程が不要なため,トータルコ 出 願 利 益 ストダウンに大きく貢献できる。さらに,QFN用アセンブリ 研究開発 戦略 テープを貼り付けた後の金属フレームの反りがほとんどな い。このように,当社のQFN用アセンブリテープは優れた特 三位一体 性を保持している。 事業戦略 知的財産 戦略 特許を活用した 事業活動 特許の 出願・権利化 上記の優れた特性を有する当社QFN用アセンブリテープの 優位性を維持するため,5FP活動を行い,本製品の特徴を達 成するための基本的な設計コンセプト,材料設計技術を多面 的に捉えて複数特許化し,基本特許網を構築した(図1 4参照) 。 特許 5 3層構造を規定 した発明 1 樹脂層と支持 フイルムの厚 さの比を規定 した発明 図15 三位一体となった知的財産経営 研究開発の成果を知的財産権と して権利化し,これを活用した事業活動を行うことで得た利益を新たな研究開 発に再投下するというサイクルを繰り返して企業価値を高めていく企業運営が 求められている。 Fig. 15 Intellectual property management by triune strategy The desirable style of corporate management is to repeat the cycle of turning the outcome of R&D into intellectual property tights, employing the rights to make a profit in business, and utilizing part of the profit for new R&D resources. 非接 着性 樹脂 層 支持 フィ ルム 接着 性樹 脂層 一体として推進する知的財産経営の実現である。 現在, 「 〔5〕知的財産戦略の実行例」のように,当社の事 3 接着性樹脂層の接着力 に関する発明 4 接着性樹脂の組成に関 する発明 2 支持フイルムの 加熱収縮率等を 規定した発明 業活動に特許を有効活用し具体的な効果があがった例が現れ 始めている。しかし,三位一体の知的財産経営の全体的な浸 透はまだ不充分であり,その緒についた段階というのが正直 なところである。今後も「攻めの知的財産戦略」への移行を 推し進めるとともに,事業部門,研究開発部門,知的財産部 図14 QFN用アセンブリテープの特許網 5FP活動により本製品の特徴 を達成するための基本的な設計コンセプト,材料設計技術を多面的に捉えて複 門の連携を深めることにより,三位一体の知的財産経営をさ らに推進していきたい。 数特許化し,基本特許網を構築した。 Fig. 14 Patent network for QFN assembly tape This patent network has been constructed based on the Five Fighting Patents (5FP) Program. Accordingly, the basic design concept and material design technology were examined from various aspects and were put in patents claims to fully cover the features of this product. 2004年11月にはその旨が新聞等で取り上げられ,市場に広く 知られることとなった。 現在は,この特許網のさらなる強化を進めるとともに,積 極的にこれを活用することで,QFN用アセンブリテープの優 位性の維持,強化に努めている。 〔6〕結言 以上述べてきたように,当社はかつての「守りの知的財産 戦略」を脱却し,積極的な活用を主眼に置いた「攻めの知的 財産戦略」へと移行しつつある。この知的財産戦略の目指す ところは,研究開発の成果を知的財産権として権利化し,こ れを活用した事業活動を行うことで得た利益を新たな研究開 発に再投下するというサイクルを繰り返して,企業価値の向 上に貢献する事業戦略,研究開発戦略,知的財産戦略を三位 14 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) U.D.C. 669.3-416:621.784.4:621.3.049.73:621.3.029.51.64.091 微細配線形成用プロファイルフリー銅箔技術 Profile-Free Copper Foil for Fine Printed Wiring Boards 小川信之* 上山健一* Nobuyuki Ogawa 小野関 仁** Ken-ichi Kamiyama Hitoshi Onozeki 熊倉俊寿** 田邉貴弘** Takahiro Tanabe Toshihisa Kumakura 機器の高機能化と小型化に伴い,半導体実装基板の微細配線化が進んでいる。プリ ント配線板に一般的に使用されている銅箔(以下,一般銅箔)のような粗化形状を有 する銅をエッチング除去する場合,粗化部分が除去されにくいため,微細配線の形成 には不適である。そこで当社では,表面に粗化処理を施していない表面粗さが1.5 µm 以下で微細配線の形成が可能な平滑な銅箔(以下,プロファイルフリー銅箔と称す) を開発した。一般に表面を平滑にするとピール強度が低下するが,特殊な表面処理を 施すことにより,ロープロファイル銅箔と同等の0.7 kN/m以上のピール強度を達成し た。プロファイルフリー銅箔を用いることで,エッチングによるサブトラクティブ法 で60 µmピッチの微細配線を形成でき,無電解ニッケル/金(Ni /Au)めっきの工程で, めっきの異常析出を低減することができた。また,大量の情報を高速に処理するため に信号の高周波化が進んでいる。本銅箔を使用すると,一般銅箔に比較して5 GHzの 信号の伝送損失を8 dB/m低減できることを確認した。本技術は,今後の半導体実装基 板や高周波対応基板に有効であり,基板技術の進歩に寄与できるものと考えている。 A new profile-free copper foil has been developed whose surface roughness(Rz) is less than 1.5 µm but that has satisfactory adhesion strength. The original surface treatment provided can afford good peel strength (0.7 kN/m or more) equal to that for the conventional roughened foil with sufficient reliability. With the new profile-free copper foil, the conventional subtractive method is applicable to the wiring of 60 µm pitch or less, and the short-circuit fault of electroless Ni/ Au plating that is prone to occur in fine wiring will be restrained since the wiring is formed on a smoother surface. Moreover, the transmission loss at 5 GHz will decrease by 8 dB/m since the surface roughness of the conductor line is decreased. 〔1〕 緒 以上の背景から,表面が平滑な銅箔でも高い接着力を発現 言 する技術を開発した。本報告では,プロファイルフリー銅箔 機器の高機能化,小型化,軽量化に伴い,半導体実装基板 やマザーボード基板の微細配線化が進んでいる。例えば半導 体実装基板の配線は,2010年には10〜20 µmピッチの超微細 化へ進行すると予想されている 1)。ところが,十点平均粗さ の接着力並びに微細配線形成性や高周波領域での伝送損失に ついて報告する。 〔2〕 プロファイルフリー銅箔の開発方針 (以下,Rzと表記する)が7 µm以上の一般銅箔は,エッチン 図1に各種銅箔とプロファイルフリー銅箔の被接着面の表 グ時に粗化面の凹凸に起因して銅が残存しやすいため,微 面写真を示す。一般銅箔は,投錨効果により銅箔と樹脂の接 細配線に不適である。銅箔メーカでは微細配線用にRzが2 着力(ピール強度)を発現するように粗化処理が施されてい 〜3 µmのロープロファイル銅箔を開発してきたが 2),3),この る。ロープロファイル銅箔は微細配線の形成を容易にするた 銅箔を用いても,60 µmピッチ以下の微細配線を歩留りよく め一般銅箔より小さい粒子で粗化表面が形成されており,Rz 製造することは困難である。また,これまでは銅箔と樹脂と は2.5〜3.5 µmである。プロファイルフリー銅箔は,一般銅箔 の接着力を主に粗化形状(投錨効果)に依存していたため, やロープロファイル銅箔に施している粗化処理を行っておら 表面が平滑なプロファイルフリー銅箔を用いると接着力が低 ず,そのRzは1.0〜1.5 µmである。この平滑な表面でも高いピ く,実用レベルでの使用は困難であった。 ール強度を確保するため,特殊な表面処理が必要となる。接 さらなる高度情報化社会においては,高速デジタル信号が 着には,1)投錨説,2)吸着説,3)拡散説,4)静電気説, 普及し,使用される周波数は10 GHz以上になることが予想さ 5)酸−塩基説,6)化学的接着説など多くの考え方がある5)〜 れる 4)。また,高周波信号を導体に通すと,信号が導体表面 7) から1〜2 µmの厚みを流れる現象(表皮効果)が発生し,表 ある樹脂に化学的な結合を付与したものである。この特殊な 面の粗い導体では信号の減衰が大きくなる5)。このことから,信 表面処理によりピール強度試験後の銅箔剥離部分は,銅箔− 号の減衰を抑制する点でも,導体表面の平滑化が必要となる。 樹脂の界面から樹脂の凝集破壊へと移行しており (図3) ,Rzが * 当社 電子材料研究所 ** (図2) 。本技術は化学的接着に注目して,銅と有機材料で 当社 配線板材料事業部 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 15 5.0 µm 5.0 µm ロープロファイル銅箔 Rz = 2.5〜3.5 µm 一般銅箔 Rz = 7〜8 µm 図1 銅箔の被接着面の表面SEM写真 5.0 µm プロファイルフリー銅箔 Rz = 1.0〜1.5 µm 一般銅箔,ロープロファイル銅箔は,樹脂との接着力を確保するため粗化形状を有するが,プロファイルフリー銅箔 は粗化処理を施していない。 Fig. 1 SEM photographs of copper foil surfaces (adhesion side) The two conventional and low-profile copper foils have enough surface roughness to give adequate adhesion. The roughening process is not applied to the profile-free copper foil(right). ダーレジスト(SR)の界面(B部)で剥離が発生しやすい。 従来の銅箔を使用したプロセスでは,銅箔表面の粗化形状が 転写されるため,樹脂面には無数の凹状の粗化形状が形成さ れる。多層化積層時およびSR形成時に,この転写した粗化形 状が投錨効果となって接着力が発現し,吸湿耐熱試験が良好 (3)拡散説 になると考える。本検討では平滑な銅箔と樹脂の接着力(ピ (1)投錨説 (2)吸着説 δ+ δ+ δ+ 塩基 る多層化プリプレグやSRの接着力を考慮した接着処理の設計 δ− δ− δ− 酸 を行い,ロープロファイル銅箔使用時と同レベルの吸湿耐熱 ール強度)だけでなく,銅箔をエッチングした樹脂面に対す 性を確保した(表1) 。 (5)酸 ―塩基説 (4)静電気説 図2 接着機構の考え方 (6)化学的接着説 本技術では,投錨効果よりも化学的な接着力に 〔3〕 プロファイルフリー銅箔の効果 3. 1 微細配線形成性 一般銅箔のような粗化形状を有する銅をエッチング除去す 着目した。 Fig. 2 Adhesion theories る場合,粗化部分が除去されにくく,ショート不良が発生し In this study, good adhesion is attributed to chemical bonding(6) rather than to anchor effect(1). やすい。これを避けるためには過剰なエッチングが必要とな る。プロファイルフリー銅箔を用いると,粗化部分がないた めにエッチング時間を短縮できる。また過剰なエッチングの 必要がないことから,微細配線の形成が可能になる。図6に は,第二塩化銅系エッチング液を用いてサブトラクティブ法 により形成した配線の写真を示す。プロファイルフリー銅箔 を用いることにより,サブトラクティブ法でも,ショート不 良をもたらすことなく,ライン/スペース(L/S) :30/30 µmレ 10 µm 10 µm ベルの微細配線を広いトップ幅で作製可能であった。 3 µm以下の極薄銅箔を用いたセミアディティブ法 9)では, 表面処理無し 図3 表面処理有り ピール強度測定後の樹脂表面のSEM写真 表面処理により,ピール プロファイルフリー銅箔を用いることによって,めっきによ る回路形成後の給電層(プロファイルフリー極薄銅箔)のエ ッチングが同様に容易になり,L/S:15/15 µmレベルの微細配 強度試験時の破壊部分が,銅箔−樹脂界面剥離から樹脂の凝集破壊に移行した。 線も形成可能であった(図7) 。また,回路形成後の無電解 Fig. 3 SEM photographs of resin surfaces after peeling ニッケル/金(Ni/Au)めっき工程で,スペース部分にめっき Cohesive failure rather than interfacial delamination occurred when our original treatment was applied (right). の異常析出が発生して問題となることがある。しかし,プロ ファイルフリー銅箔を用いると,この異常析出が抑制できる ことが分かった(図8)。樹脂表面が平滑であることから, 2〜3 µmのロープロファイル銅箔と同レベルのピール強度を エッチングした金属イオンの洗浄が容易であること,めっき 達成できた(図4) 。 液の循環性が良好であること等が原因と考えられる。 また,プロファイルフリー銅箔を用いた多層板を吸湿耐熱 3. 2 高周波特性 試験した場合,銅箔をエッチングした内層板の樹脂面と多層 高周波領域では,信号は表皮効果により導体表面 から の 化プリプレグとの界面(図5のA部)および,樹脂面とソル 1〜2 µmの厚みを流れ,導体表面の粗さに従って抵抗が増大 16 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) Rz:7〜8 µm ピール強度(kN/m) 1.2 1.0 Rz:2.7〜3.3 µm 0.8 Rz:1.1〜1.5 µm 図4 各種銅箔を用いた時のピール強 度 未処理のプロファイルフリー銅箔はピ 0.6 Rz:1.1〜1.5 µm 0.4 ール強度が低いが,開発品は接着処理によ りロープロファイル銅箔と同等のピール強 0.2 0 度を示す。 一般銅箔 ロープロ ファイル銅箔 プロファイル フリー銅箔 (未処理) Fig. 4 Peel strength results for various copper foils 開発 プロファイル フリー銅箔 Profile-free copper foil with our original treatment showed the same good adhesion as low-profile copper foil. 使用基板材料:日立化成工業 (株) 製 高Tg多層材料E−679F, 銅箔厚み:18 µm 銅 ソルダーレジスト 銅 銅 多層化プリプレグ A 内層板 多層化プリプレグ ソルダーレジスト B 粗化銅箔使用時 プロファイルフリー銅箔使用時 図5 各銅箔粗化形状の転写の概念図 従来銅箔を使用すると,銅箔の粗化形状が多層化プリプレグに転写するため,内層板樹脂−多層化プリプレグ樹脂(樹脂− 樹脂) 界面並びに,樹脂−ソルダーレジスト (SR) 界面に投錨効果が発現する。プロファイルフリー銅箔を用いると,樹脂−樹脂界面並びに,樹脂−SR界面が平滑になるた め,界面の接着力が重要になる。 Fig. 5 Schematic concept of roughned copper foil transcription The surface roughness of the conventional copper foil is transferred to give adequate adhesion to all interfaces. In the profile-free copper process(right) also, resin to resin adhesion as well as resin to SR interface adhesion is essential. 表1 プロファイルフリー銅箔に用いた特殊表面処理の効果 表面が平滑なプロファイルフリー銅箔は,樹脂−樹脂界面の接着力が低下し,吸湿耐熱性で ふくれが発生しやすい。ピール強度だけでなく,吸湿耐熱性が低下しない接着処理が必要である。 Table 1 Effect of our original treatment for profile-free copper foil Profile-free copper foil will result in low peel strength and low adhesion between resin and resin. Our original treatment will improve not only peel strength but also adhesion between resin and resin under high temperature / humidity condition. 高Tgエポキシ多層材料 銅箔 プロファイルフリー銅箔 環境対応高Tgエポキシ多層材 ピール強度(kN/m) 吸湿耐熱性* ピール強度(kN/m) 吸湿耐熱性* 処理無し 0.3 ふくれ発生 0.2 ふくれ発生 開発品 0.8 異常なし 0.7 異常なし 0.9 異常なし 0.7 異常なし ロープロファイル銅箔 *プレッシャークッカー処理 (121℃ 0.22 MPa) 1h後 288℃はんだ耐熱試験 Top Bottom 図6 各種銅箔を用いてサブトラクティ プロ ブ法により作製した配線の形状 ファイルフリー銅箔を用いると,配線が太く, 均一に作製できる。エッチング時間比(a)1.0, (b)0.83,(c)0.71 Fig. 6 Line figures manufactured by the subtractive method using various copper foils 30 µm (a)一般銅箔 30 µm (b) ロープロファイル銅箔 30 µm (c) プロファイルフリー銅箔 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) The line formed with profile-free copper foil was the widest and straightest of all. Etching time ratio was (a) 1.0, (b) 0.83, (c) 0.71. 17 0 伝送損失(dB/m) プロファイルフリー銅箔 − 10 − 20 − 30 ロープロファイル銅箔 100 µm 一般銅箔 − 40 0 図7 1 2 3 4 周波数(GHz) 5 6 極薄銅箔を用いたセミアディティブ法により作製した配線の形状 プロファイルフリーの極薄銅箔により,L/S:15/15 µm レベルの微細配線の作製が 図9 可能。 り,伝送損失の低減が可能である。 Fig. 7 Line figures manufactured by the semi-additive method using profilefree ultrathin copper foil Fig. 9 Transmission loss for various copper foils Fine wirings of L/S:15/15 µm level can be fabricated. 伝送損失に与える銅箔の影響 プロファイルフリー銅箔の使用によ Using profile-free copper foil will be effective in reducing transmission loss. 1.0E+12 抵抗(Ω) 1.0E+11 プロファイル 1.0E+10 L/S:20/20µm 85℃/85%RH/5V dc 1.0E+09 フリー銅箔 10 µm 1.0E+08 0 500 1,000 1,500 2,000 経過時間(h) 図10 絶縁信頼性の評価結果 L/S:20/20 µm の微細配線でも信頼性を確保 できている。 一般銅箔 Fig. 10 10 µm エッチング後 Insulation reliability Fine wiring of L/S:20/20 µm will have good insulation reliability when our newly developed profile-free copper foil is adopted. 無電解めっき後 〔4〕 結 言 以上,当社で開発した表面に粗化を施さないプロファイル 図8 無電解Ni/Auめっきの異常析出の改善 プロファイルフリー銅箔 フリー銅箔技術を紹介した。開発したプロファイルフリー銅 の使用により,めっきの異常析出が発生しにくい。 箔は特殊な表面処理を行ったものであり,ロープロファイル Fig. 8 Suppression of short-circuit fault (circled) after electroless Ni/Au plating 銅箔と同程度の接着力を示す。またこの銅箔は,信頼性を維 Using profile-free copper foil(upper) will be effective in suppresing shortcircuit faults caused by electroless Ni/Au plating. 持したまま,微細配線性や高周波特性に優れており,今後の 半導体実装基板や高周波対応基板の進歩に寄与できると考え ている。 して,伝送損失が増大する。表面が平滑なプロファイルフリ 参考文献 ー銅箔を使用すると,伝送損失の低減が期待できる。図9に 1)2003年度版日本実装技術ロードマップ, (社)電子情報技術産業 当社製の高周波対応多層材料MCL-LX-67Yに各種銅箔を用い た際の伝送損失の測定値を示す。図9より,1 GHz以下の領 域では伝送損失の差が小さいが,2 GHz以上の領域ではプロ ファイルフリー銅箔の優位性が出現し,例えば5 GHzでは一 般銅箔よりも8 dB/m,ロープロファイル銅箔よりも3 dB/mの 伝送損失の低減効果を確認した。 3. 3 会(2003) 2)H.P.Cheskis et al. ,Copper foil for HDI applications, 2001 IPC Expo Proceedings,S13-2-1 (2001) 3)高見,電解銅箔・圧延銅箔についての特性と技術動向,エレクト ロニクス実装技術,17(2) , 20(2001) 4)Kaoru Narita et al. ,Extracting propagation constants for highspeed digital data transmission on printed circuit boards,2003 信頼性 International Conference on Electronics Packaging,276(2003) セミアディティブ法により作製したL/S: 20/20 µmレベル 5)小西,マイクロ波技術講座,日刊工業新聞社刊(2001) の配線の耐電食性を評価した。図10に結果を示すように, 6)中前,外,接着・粘着の化学と応用,大日本図書(1998) 85℃/85%RHの条件で,1,500時間を超えても絶縁抵抗は低下 7)佐藤,塗膜の接着,高分子刊行社(1999) せず,本検討で使用した特殊な表面処理が絶縁性や耐電食性 8)宮城,外,接着ハンドブック,日刊工業新聞(1996) に影響を与えないことを確認した。 9)片岡,極薄銅箔を使った新しい工法への チャレンジ,エレクトロ ニクス実装学会誌,4,108 (2001) 18 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) U.D.C. 546.59:546.22:678.029.4:678.686:547.562:621.3.049.73 フェノリックジスルフィドによる金に対する接着性の向上 Improvement of Adhesion Characteristics Using Phenolic Disulfide onto Gold 熊木 尚* Takashi Kumaki 立木秀康*** Hideyasu Tsuiki 福地 巌** Iwao Fukuchi 陶 晴昭**** Haruaki Sue 近年,電子機器の配線には金が多用されている。しかしながら,ほとんどの樹脂は 金には接着し難く,このことが電子材料用樹脂にとって大きな問題となってきた。一 方,金に対してはイオウが結合しやすいことが知られている。そこで,樹脂中にイオ ウを含む官能基を導入し接着過程でチオール基と金との結合を形成できれば,金に対 する樹脂の接着性を向上させることが可能であると考えた。また,電子機器実装分野 ではエポキシ樹脂が多く用いられているので,フェノール誘導体にチオール基やジス ルフィド基を導入した添加剤を合成し,これをエポキシ樹脂に添加した場合の接着性 を評価した。チオール基を有する添加剤では接着力は低下した。これはチオール基が エポキシ基と反応して,樹脂の硬化を阻害し樹脂強度を低下させたためと考えた。ま た,量子化学計算を用いた金とジスルフィド基との相互作用の計算において,ジスル フィド基は金の近傍でS-S結合が開裂してAu-S結合を形成することが示唆する結果を 得た。そこで,ジスルフィド基を有するフェノール誘導体を合成し接着性評価を行っ た。その結果,封止材用エポキシ樹脂に2 wt%添加することにより,金に対する接着 強度が12%,接着エネルギーが24%向上した。 Nowadays, gold is very often used in electric circuits. Most of the resins cannot, however, easily adhere to gold. This is a serious problem for applying the resins to electric circuits. The fact is well known that sulfur can bond to gold easily. Then it is considered that the adhesion of a resin to gold may be improved if sulfur is introduced to the resin to form the bond between sulfur and gold. We synthesized certain phenol derivatives containing thiol or disulfide groups, and added them to an epoxy resin which was used in most of the electric circuits. As a result of measuring their effect on the adhesion property, the adhesion strength was decreased when the phenol derivatives contained thiol groups. The reason was considered to be as follows: the thiol groups had reacted with epoxy groups for partially hindering the polymerization of the epoxy resin, thus resulting in decreasing the strength of the resin itself. Also we got the results by quantum chemistry calculation that the S-S bond of the disulfide group was dissociated and the Au-S bond was formed when the dissociated sulfur came near to gold. In conclusion the adhesion property was measured on the epoxy resin, to which a synthesized phenol derivative containing disulfide was added by 2 wt%. The result showed that the adhesion strength and energy were increased by 12%, and 24%, respectively. 〔1〕 緒 このようなリードフレームの仕様から,例えば,封止材な 言 どの材料では金への接着性が要求される。一方,ほとんどの 電子機器の高集積化,処理速度の高速化に伴い,半導体パ 樹脂は金に対する接着性が悪く,42アロイに対してはこれま ッケージには,放熱性や電気特性の向上が強く求められてい で良好な接着性を示していた材料でも,金に対しては同等の る。従来,QFP(Quad Flat Package)やTSOP(Thin Small 接着性を発現できない。また,多ピン化が進むにつれてます Outline Package)等に用いられているリードフレームには, ます高い信頼性が要求され,銅フレーム用封止材料には金に 鉄-ニッケル系合金である42アロイが用いられてきたが,現在 対する良好な接着性が必須の条件となっている。そこで,リ では電気特性,放熱特性に優れた銅系リードフレームの使用 ードフレームの最表面やワイヤに用いられている金に着目 が主流となってきている 1)。しかし,銅は酸化されやすく, し,接着性特性の向上を目的とした添加剤の検討を行うこと 剥離や接触不良を引き起こしやすいため,酸化されにくい金 にした。 属をめっきして信頼性の低下を防止している。また,ソケッ 金の(111)面にはアルカンチオールが自己配列し,チオ トへの確実な接触性やはんだに対する濡れ性を保つ目的で, ールと金との間にAu-S結合が形成されることが多くの研究者 リードフレームの最表面には金被膜が形成されている。 によって報告されている2-4)。また,半導体パッケージのベー * 当社 電子材料研究所 ** 当社 機能性材料研究所 *** 当社 先端材料研究所 **** 当社 化成品事業部 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 19 ス樹脂には通常エポキシ樹脂が使用される。そこで,フェノ Cu (gold-plating) ール誘導体をベースにし,これにイオウを導入した添加剤を 合成すれば,イオウが金と結合し,かつ,フェノール基がエ Cu(gold-plating) ポキシ樹脂と反応して,金への接着性を大幅に向上させるこ とができると考えた。 epoxy resin with the additives to be tested for the adhesion property このような考えに基づいてチオール,チオエーテル,また はジスルフィド構造を導入したフェノール誘導体を合成し, エポキシ樹脂に添加した場合の金に対する接着性を検討し た。以下,これらの合成方法と検討結果を報告する。 〔2〕 実 2. 1 験 図1 接着評価試験片の模式図 Fig. 1 Schematic drawing of the Cu-plate test piece 本印刷株式会社製, 銅フレーム(表面金フラッシュめっき) , モデル化合物の合成 長さ:50 mm, 幅:8 mm)の先端に評価用樹脂を挟み込み, (1)モノチオール体の合成 175℃に加熱したホットプレート上で2.5 kg/cm2の圧力を加え ジチオールをセパラブルフラスコに秤量し,これにアリル ながら90秒間熱圧着し,さらにオーブンを用いて175℃で5時 フェノール①を徐々に添加した。アリルフェノールの仕込み 間加熱硬化させて試験片(接着面積約40 mm2)を作成した。 量は,ジチオールの仕込み量に対して過剰(2.5〜3倍モル) これらの試験片を用いてテンシロン(オリエンテックコーポ にした。75℃に加熱して攪拌しながら4〜6時間反応を続け, レーション社製,RTM-100)による引っ張り試験を行い,材 モノチオール体②75%〜80%,チオエーテル体④25%〜20% 料の接着性を評価した。測定条件は,温度265℃,引っ張り の混合物を得た。反応はGPCにて追跡し,モノチオール体の 速度0.5 mm/minに設定した。 生成量に変化がなくなるまで反応を続けた。反応終了後,未 なお,接着性の評価では,引っ張り強さの最大値を接着強 反応成分(アリルフェノール,ジチオール)を150℃にて減 度とし,接着エネルギーは引っ張り強さと伸びから算出した 圧・留去して(GPCのピーク面積で3%以下) ,モノチオール 値である。 体②およびチオエーテル体④を得た。 2. 3 これらの反応を式1に示す。 量子化学計算 Gaussian 98W (Gaussian Inc.製)を用いて,密度汎関数法 (近似法 B3LYP/基底系 LanL2DZ)により,量子化学計算を行 った。結合エネルギーの基準点は反応前の状態に取り,反応 HO OH OCH3 S H3CO HO S SH HS ② ① ④ OCH3 前より安定な結合状態を負で,不安定な結合状態を正で示し S OH OCH3 た。 〔3〕 結果および考察 SH 3. 1 式1 オイゲノールとエタンジチオールの反応 Scheme 1 Reaction of eugenol and ethanedithiol フェノリックチオールの合成および接着性の検討 封止材にはエポキシ樹脂が使用され,その硬化剤にはフェ ノール樹脂が使われる。そこで,チオール基をベースポリマ に導入する方法として,フェノリックチオールを合成し,こ (2)ジスルフィドの合成5-6) 上記の方法で得られたモノチオール体②をDMSOに溶解さ せ,攪拌しながら80℃に加熱してDMSO酸化を行い,ジスル フィド体③を合成した。GPCにて反応を追跡し,モノチオー れをエポキシ樹脂に添加してフェノール樹脂の一部として硬 化させる方法を考えた。 まずアリル基とチオールの反応性の高さに着目し,アリル ル体②の残存量が3%以下になるまで反応を続け(8時間), フェノールとジチオールを反応させてモノチオール体を合成 薄黄色の溶液を得た。これを水に添加して生成物を再沈澱さ する方法を試みた。アリルフェノールにはオイゲノール(2- せ,さらに4〜5回水にて再沈澱および洗浄を行い,白色沈澱 メトキシ-4-アリルフェノール)を選択し,オイゲノールとエ 物を回収してジスルフィド体③(収率95%以上)を得た。 タンジチオールにラジカル系開始剤(過酸化ベンゾイルなど) を加えて反応させた結果,式1に示すモノチオール体とチオ これらの反応を式2に示す。 エーテル体が得られた。式1の反応は次の方法で確認した。 この反応途中に測定したGPCチャートの一例を図2に示す。 HO S H3CO HO S ② DMSO OCH3 SS ③ S OH OCH3 ① SH 80 ④ Intensityh 式2 DMSO酸化法によるジスルフィドの反応 Scheme 2 Dimerization reaction of thiol in DMSO 2. 2 100 接着性評価試験 40 ② 20 封止材において,金に高い接着性を示すビフェニルエポキ 0 10 シ/ザイロック樹脂をベース組成に用い, これに本研究で合成し たモノチオール体またはジスルフィド体を2wt%添加して評価 用樹脂を作成した。次に,図1に示すように,銅板試験片(大日 20 60 12 14 16 18 20 Retention time (mm) 図2 式1反応過程のGPCチャート Fig. 2 GPC chart of the products in the Scheme 1 reaction 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 22 図2において,①は未反応のオイゲノールであり,②と④ が生成物である。また,これらの生成物②と④を電界離脱イ A,プロパンチオールから得られた化合物をThiol B,ヘキサ ンジチオールから得られた化合物をThiol Cとする。 オ ン 化 質 量 分 析 法 ( FD-MS, Field Desorption Mass 次に,これらのフェノリックチオールを添加剤として封止 Spectrometry)で測定した結果を図3に示す。図3の2つの 材に2 wt%添加した場合の接着強度を測定した。その結果を ピークの分子量はそれぞれ式1の生成物であるモノチオール 図5に示す。無添加のリファレンス(Ref)との比較からフ 体とチオエーテル体の分子量に一致した。また,アリル基や ェノリックチオールの添加による接着性の向上効果は認めら ビニル基などの二重結合に対してチオール基は特異的に反応 れなかった。測定した試料の破断面は,リファレンスでは基 することが報告されている7-11)。一方,フェノールの水酸基は 板と樹脂との界面で剥離していたのに対し,フェノリックチ 重合禁止剤として働くため,ビニル基を有するフェノールモ オールを添加した試料では樹脂内部で凝集破壊を生じてい ノマはラジカル重合反応では付加することができないことが た。したがって,フェノリックチオールの添加によって見か 報告されている7,8)。そこで,本研究でも水酸基を持たないア けの接着強度が低下したのはエポキシ樹脂の樹脂強度が低下 リルベンゼンと水酸基を持つオイゲノールについて,それぞ したためであり,基板と樹脂との界面についての情報は得ら れ単独でラジカル重合反応を試みた。その結果は図4に示す れなかった。また,樹脂強度が低下したのは,添加したチオ ように,アリルベンゼンではラジカル重合反応が進行するが, ールが連鎖移動剤として働いてエポキシ/フェノール系の硬化 オイゲノールではラジカル重合反応は進行しないことが確認 を阻害したためと推察した。 できた。したがって,オイゲノールとエタンジチオールを反 3. 2 量子化学計算より示唆される接着性 応させると,オイゲノールの単独重合は進行せず,オイゲノ フェノリックチオールとエポキシ樹脂/フェノール樹脂硬化 ールとエタンジチオールとの反応のみが進行して,チオール 系では接着性向上が認められなかったので,金と含イオウ官 体とチオエーテル体が生成することが確認された。 能基との結合エネルギーを,分子軌道法による量子化学計算 次に式1の反応について,オイゲノールとエタンジチオー を用いて比較した。まず,チオールについて金とイオウ原子 ルの仕込み比について検討を行った結果,エタンジチオール の結合エネルギーを計算した。計算結果を図6に示す。一般 を過剰にするにつれてチオエーテル体④の生成比率が減少 し,2.5〜3倍モルにするとチオール体②が75〜80%,チオエ 12 Adhesion strength(N) ーテル体が25〜20%になった。 また,エタンジチオールをプロパンジチオールおよびヘキ サンジチオールに変えて,脂肪鎖長の異なるフェノリックチ オールの合成を試みた。その結果,エタンジチオールを用い た場合と同様にフェノリックチオールを得ることができた。 エタンジチオールから得られたフェノリックチオールをThiol 10 8 6 4 2 0 100 Ref 422 ④ Thiol A Thiol B Thiol C OH OCH3 OH OCH3 OH OCH3 S SH 258 ② SH S Thiol A Thiol B SH S Thiol C 図5 フェノリックモノチオール体を添加した材料の接着強度 Fig. 5 Adhesion strength of epoxy resins with phenolic monothiol derivatives as additives 0 100 200 300 400 500 600 700 800 図3 式1での反応性生物のFD-MSチャート Fig. 3 FD-MS chart of the products in the Scheme 1 reaction ① Au BPO OH OCH3 OH 2.83Å 3.17Å Au S 2.55Å S −220kJ/mol CH3S+Au3→CH3SAu3 Intensity S 2.28Å Au Au Au Intensity S S −31kJ/mol CH3SH+Au→CH3SHAu Au Au ② Bonding energy of disulfide and gold (coordinate-like bonding ) Au 2.38Å OCH3 Coordinate-like bondidng 2.38Å S −167kJ/mol CH3S+Au→CH3SAu BPO ③ Bonding energies of thiol and gold Covalent-like bondidng −93kJ/mol CH3SH+Au3→CH3SHAu3 2.46Å Au Au Bonding energies of thioether and gold(coordinate-like bonding) Au 2.79Å Au Au Au S −198kJ/mol CH3SSCH3+Au3→Au(SCH 3 3) 2 2.53Å S Au 10 12 14 16 18 20 Retention time (min) 22 10 12 14 16 18 20 22 Retention time (min) 図4 アリル基ベンゼンとアリルフェノールの重合過程でのGPCチ ャート Fig. 4 GPC chart of the products of the polymerization reaction of allylbenzene and allylphenol −39kJ/mol CH3SCH3+Au→AuS(CH3)2 −107kJ/mol (CH3) CH3SCH3+Au3→Au3S 2 図6 チオール,チオエーテルおよびジスルフィドの金に対する結 合エネルギー Fig. 6 Bonding energy of thiol, thioether or disulfide and gold 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 21 としてチオール基から水素が外れて金とイオウとの間に共有 接着エネルギーは約24%向上した。フェノリックジスルフィ 的結合が形成された場合は安定で強い結合が形成されるが, ド化合物の効果は,ジスルフィド基が量子化学計算の結果か チオール基に水素が残ったまま配位的に結合した場合の結合 ら仮定されたように金と反応してAu-Sの強い結合を形成し, 力は弱いので,計算結果でも同様のことが確認できた(①) 。 接着性を向上させたと推察した。 また,チオエーテル基についてはイオウと金は,配位的に結 合されるので,計算結果は同様であった(②) 。 また,テトラジスルフィド化合物の添加によっても接着性 の向上が見られたことから,S-S結合は3つ以上連続していて 一方,エポキシ樹脂に対しては比較的安定であるジスルフ ィド化合物を金に近づけた場合についても同様に計算を行っ た。その結果,図6に示したモデル計算では,ジスルフィド のS-S結合が自発的に解裂して金との間にAu-Sの共有的結合 が形成されることが示唆される結果を得た(③) 。このこと も容易にAu-S結合が形成されると推察した。 〔4〕 結 言 フェノリックジスルフィドを新規に合成し,接着性評価を 行った。以下にその結果をまとめる。 から,フェノリックチオールからフェノリックジスルフィド (1)フェノリックモノチオール体をエポキシ樹脂ベースの封 化合物を合成して,これをエポキシ樹脂に添加すれば,ジス 止材に添加した場合,金に対する接着性付与効果は認められ ルフィド基はエポキシ樹脂と反応することなく,かつ,金に なかった。この理由は,フェノリックモノチオール体のチオ 近付いた時にS-S結合が自発的に解裂して強いAu-S結合を形 ール基がエポキシ樹脂と反応して樹脂強度を低下させたため 成する可能性があることが分かった。 であり,チオールが連鎖移動剤として働いて樹脂の硬化を阻 3. 3 フェノリックジスルフィドの合成と接着性付与添加剤とし ての効果 害したためと考えた。 (2)量子化学計算を用いた金とイオウ原子の結合状態の検討 量子化学計算結果からの仮定に基づき,ジスルフィド基を において,ジスルフィド化合物は金に接近するとS-S結合が 導入するため,フェノリックチオールからフェノリックジス 自発的に解裂して強いAu-S結合が形成されることが示唆され ルフィド化合物を合成した。 (式2)そして,式3に示すエ た。 タンジチオール系ジスルフィド化合物について,これを添加 (3)ジスルフィド含有フェノリック誘導体をエポキシ樹脂ベ 剤として封止材に2 wt%添加した場合の接着強度と接着エネ ースの封止材に添加した場合,金に対する接着性付与効果が ルギーを測定した。また,その他の含イオウ化合物としてテ 認められた。 トラジスルフィド化合物A1289(日本ユニカー社製) (式4) を2 wt%添加した場合についても同様の測定を行った。 測定結果を図7に示す。無添加のリファレンス樹脂(Ref) 参考文献 1)A. Nishimura, S. Kawai and G. Murakami, IEEE Transactions on と比較すると,フェノリックジスルフィド化合物,テトラジ Components Hybrids and Manufacturing Technology, 12(4), スルフィド化合物のいずれを添加した場合にも接着強度およ 639-645 (1989) び接着エネルギーが大きくなった。エタンジチオール系ジス ルフィドでは,リファレンス樹脂に対して接着強度は約12%, 2)T. Hayashi, Y. Morikawa, and H. Nozoye, J. Chem. Phys., 114 (17), (2001), 7615-7621 3)Y.Akinaga,T. Nakajima, and K. Hirao, J. Chem. Phys., 114 (19), (2001), 8555-8564 SS S HO 4)L. H. Dubois and R. G. Nuzzo, Annu. Rev. Phys. Chem., 43, S (1992), 437-463 OH OCH3 OCH3 5) K.Endo, T. Shiroi and K. Murata, J. of Polym. Sci. partA: polym. Chem., 39, 145-151 (2001) 式3 フェノリックジスルフィド化合物 Scheme 3 Phenolic disulfide derivative 6) K. Endo, K. Murata and T. Otsu, Macromolecules, 25, 5554-5556 (1992) 7) H. Togashi, T. Endo, Chem. Lett., 12, 2363-2364 (1987) OEt Si S S S EtO 8) J. P. Gao, F. G. Morin and G. D. Darling, Macromolecules, 26, 1196- OEt EtO S Si S OEt 1198 (1993) OEt 9) H. Nakamura, T. Takata and T. Endo, Macromolecules, 23, 3032- 式4 テトラジスルフィド誘導体A1289(日本ユニカー社製) Scheme 4 Tetrasulfide derivative (A1289)(Nippon Unicar Co.,Ltd.) 10) T. Nishikubo, A. Kameyama, M. Sasano and M. Sawada, J. of 3035(1990) Polym. Sci. partA: polym. chem., 31, 91-97 (1993) 14 12 10 8 6 4 2 0 Adhesion integsity (N) Adhesion integsity (N) 11) K.L.Hubbard, J. A. Finch, G.D. Darling, Reactive & Functional Ref Tetradisulfide Disulfide Polym., 40, 61-90 (1999) 0.8 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 Ref Tetradisulfide Disulfide 図7 ジスルフィドおよびテトラジスルフィド体を添加剤として用 いた材料での接着強度と接着エネルギー Fig. 7 Adhesion strength (left) and adhesion energy (right) of the epoxy resins added with tetradisulfide or disulfide additives, or without additive (Ref) 22 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) U.D.C. 621.372.049.7:535.345.6-1:678-19:666.189.21・666.22:621.396.4 3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板 Polymer optical waveguide for WDM module of 3 wavelength application 山本 礼* Rei Yamamoto 宮寺信生* Nobuo Miyadera 山口正利* Masatoshi Yamaguchi 八木成行* Shigeyuki Yagi 黒田敏裕* Toshihiro Kuroda 鯉渕 滋* Shigeru Koibuchi 日本では,ブロードバンドの高速化に拍車がかかり,FTTH(fiber to the home)を 利用したビジネスは,データ伝送に加えて映像配信を一本の光ファイバで行う,いわ ゆる通信と放送の融合へと展開されている。ポリマ光導波路基板は,低コスト化と量 産性を要求するFTTH市場において注目されるデバイスである。本報では映像信号を 多重化して伝送するシステムに用いられる3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板 を設計・作製・評価した結果について述べる。開発品では,量産性向上を目的として, 光フィルタ位置依存性を低減した構造を採用し,光学特性改善のため波長依存性を利 用する構造を考案した。光学特性では , 挿入損失が1.5 dB以下 , 光フィルタ位置ず れ±10 µmに対して損失変動が0.1 dB以下を達成し,信頼性が良好であることも確認 した。 The development of faster broadband communications is accelerating in Japan. The business using ‘fiber to the home’ (FTTH) technology is going to unite communication and broadcasting by utilizing one optical fiber for both data transmission and image delivery. The FTTH market constantly demands mass production and lower costs. The polymer planar lightwave circuit is receiving a significant amount of attention in the FTTH market, because it meets these demands. This report describes the design, fabrication, and evaluation of a polymer planar lightwave circuit for the three-wavelength division multiplexing transmission of image signals. The developmental product was adapted to reduce optical filter positional dependency for mass production, and was designed to make use of wavelength dependency for the improvement of optical characteristics. For an optical filter dislocation of ±10 µm, the insertion loss was 1.5 dB or less, and the loss change was 0.1 dB or less. The experimental product demonstrated excellent reliability. 〔1〕 緒 はPON方式を用いた3波長分割多重伝送システムの構成を示 言 す。映像信号の波長が加わったため,加入者収容局側と加入 近年,高速かつ大容量情報伝送に対応した情報通信インフ ラの整備が進み,高速ブロードバンドの普及に拍車がかかっ ている。2005年6月末時点でのブロードバンド契約数の3ヶ 月単位での純増数は,光ファイバを用いるFTTHサービスが 上りデータ伝送帯域 1260 nm 〜 1360 nm 51万契約,と従来の電話線を利用するDSL(digital subscriber line)サービスの41万契約を上回っている1)。また,トリプル Future band プレイという言葉が頻繁に取りざたされているように,イン ターネット接続に加え,映像,電話の3サービスを一つの回 映像信号伝送帯域 下りデータ伝送帯域 1550 nm 〜 1560 nm 1480 nm 〜 1500 nm 1260 Future band 1360 線で提供するサービスに期待が高まっている 2)。映像伝送サ 1480 1500 1600 波長(nm) デジタル伝送帯域 1539 nm 〜 1565 nm ービスに関しては,ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)がG.983.3 として,PON(passive optical network)に映像信号をデータ 信号とは異なる波長を用いて多重化する方式を標準化してお り3),いわゆる3波長分割多重伝送システムが注目を集めている。図 1にはG.983.3で標準化された波長配置を示す。1310 nmを上 り信号波長,1490 nmを下り信号波長としたデータ伝送に加 えて,1550 nmが下りの映像信号に割り当てられる。図2に 図1 ITU-T G.983.3の波長配置 ITU-Tでは,上り下りのデータ伝送帯 域に映像信号伝送帯域を加えた仕様を標準化した。 Fig. 1 Wavelength arrangement of ITU-T G.938.3 The image signal transmission band is standardized in addition to the upstream and downstream data transmission bands. * 当社 先端材料研究所 オプト材料開発センタ 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 23 Access area Metro area OLT WDM Home / Office Splitter WDM ONU V-ONU 図2 PON方式を用いた3波長分割多 重伝送システムの構成例 3波長分割多 V-OLT TV CATV 重伝送システムでは,映像信号の波長が加 PC わったため,加入者収容局側と加入者側に3 波長対応WDMモジュールが必要となる。 Fig. 2 Example composition of threewavelength division multiplexing transmission system using the PON method A three-wavelength division multiplexing transmission system for transmitting the image signal requires a WDM module at the central office and at the home. 者側に3波長対応WDM(wavelength division multiplexing)モ は,光導波路型の低コスト化と量産性を活かす設計を行っ ジュールが必要となる。このモジュールにはFTTH向け製品 た。 に共通の低コストおよび量産性が要求される。当社はこれま 2. 1 開発目標 4) で,FTTH向けで使用されるONU(optical network unit) ,光 表1には3波長分割多重伝送用モジュールの規格値を参考 スプリッタ5)などの用途に向けて,フッ素化ポリイミドを用 に決定した開発目標値を示す。また,光導波路の回路におい いたポリマ光導波路基板を開発してきた。本報では,3波長 ては,FTTH向け光部品の重要課題の一つである量産性を重 対応WDMモジュールに使用されるポリマ光導波路基板の開発 視した設計を進めた。 について述べる。 2. 2 〔2〕 3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板の 設計 光ファイバのパッシブ実装 光ファイバと光導波路の接続方法は,光導波路モジュール の組立工程の量産性をも考慮して,当社の特長であるV溝に 光ファイバを実装するパッシブ実装を採用した。図3には今 3波長分割多重伝送用モジュールは,ONUと同様にFTTHの 加入者宅相当の数量が必要と想定され,量産性および低コス ト化が最重要課題となっている。そのモジュール内には,合 分波機能を持つ光部品が内蔵されており,その光部品は大き コア く分けて空間結合型,光ファイバレンズ型,光導波路型の3 種類がある。なかでも光導波路型はウェハプロセスが適用可 能なため量産性に富むメリットがある。さらに当社は,高い 透明性を持つフッ素化ポリイミドを光導波路材料として採用 し,ポリマの特長であるスピン塗布による成膜,フォトリソ グラフィと反応性イオンエッチングによるコアパターン形成 といった,半導体デバイス製造で一般的に用いられている容 易なプロセスを適用することで,光部品の低コスト化にも対 応できる光導波路基板の開発を進めてきた。本開発において 光ファイバ実装用V溝 表1 開発目標値 開発目標値は,3波長分割多重伝送用モジュールの規格 値を参考に決定した。 Table 1 Target specifications for three-wavelength division multiplexing transmission Target specifications were determined based on module standards for threewavelength division multiplexing transmission. (単位:dB) 項目 波長1310 nm 波長1490 nm ≦−50 ≦−31.5 挿入損失 クロストーク 24 波長1550 nm ≦1.5 ≦−29 図3 V溝集積型3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板 V溝集積 型3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板では,光ファイバを基板両端に設置 したV溝にのせて実装することで,光ファイバアレイが不要となるばかりでなく, 実装工程簡略化,部品の低コスト化が図れる。 Fig. 3 Polymer planar lightwave circuit arranged fit V-grooves for threewavelength division multiplexing transmission Optical fibers are set in V-grooves at ends of circuit substrate. Because the optical fiber array can be omitted, the manufacturing process can be simplified so that costs are reduced. 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 回開発したV溝集積型ポリマ光導波路基板の写真を示す。基 板両端に光ファイバを実装するV溝が設置してある。このパ ッシブ実装は,光ファイバアレイを使用し光量をモニタしな 1490 nm がら位置決めを行うアクティブ実装と比較すると,光ファイ バアレイそのものが不要で,調芯時間も不要なこと,さらに 1310 nm Cポート (Common) 簡易的な実装装置を使用する点において,光部品の低コスト 化を図ることが可能である。また,V溝を基準としてフォト リソグラフィでコアパターンを位置決めして形成していくの Oポート (ONU) 1550 nm で,V溝に対するコアの位置精度,すなわち,光導波路コア 中心とV溝上に実装される光ファイバコア中心との位置精度 マルチモード光導波路 は,水平方向で±0.5 µm以下,高さ方向で±0.25 µm以下と高 光フィルタ SPF Vポート (Video-ONU) い精度を実現しており,結合損失への寄与は0.1 dB以下と見 積られる5)。 2. 3 光導波路回路設計 2. 3. 1 図5 光フィルタ位置依存性の低減 MMI構造を利用した光導波路型合分波器の使用形態 マルチモ ード光導波路とシングルモード光導波路によって構成されるMMI構造では,マ 開発した3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板は,光 導波路と誘電体多層膜タイプの薄膜光フィルタを組み合わせ た構造とした。これは,光導波路のみで構成する場合に比べ て基板寸法を縮小でき,ウェハからの取数が増すので低コス ト化に有利であると判断したためである。図4は一般的に使 ルチモード光導波路内でモード間の干渉が発生し光強度分布が変化しながら伝 搬する。 Fig. 5 Planar lightwave circuit for wavelength multiplexer using an MMI structure In an MMI structure composed of a multimode waveguide and a single mode waveguide, light propagates with generating interference between the modes in the waveguides and changing the optical intensity distribution. ード光導波路を使用したMMI(multimode interference)構造6) を採用し,反射経路信号に対する光フィルタ位置依存性の低 1490 nm Cポート (Common) 減を図った7)。 まずMMIについて説明する。図6はシミュレーションによ って得られるMMIを伝搬する光の模様を示す。シングルモー ド光導波路にコア幅の太いマルチモード光導波路が接続した MMI構造では,シングルモード光導波路からマルチモード光 1310 nm 導波路へ光が入射した際,高次モードが励振され光が伝搬し 1550 nm Oポート (ONU) ていく。各モードの伝搬定数が異なるためマルチモード光導 Vポート (Video-ONU) 光フィルタ 波路内ではモード間の位相差が変化して干渉が発生する 8)。 この干渉長はマルチモード光導波路の幅と比屈折率差Δと伝 搬光の波長によって決まり,マルチモード光導波路の長さに SPF 図4 従来の光導波路型合分波器の使用形態 光導波路型合分波器は, 誘電体多層膜タイプの薄膜光フィルタと組み合せた構造である。従来構造では, マルチモード光導波路 光フィルタに反射する光の経路は幾何学的に位置づけられ,光フィルタ位置の 高精度な設置が要求される。 Fig. 4 Conventional planar lightwave circuit for wavelength multiplexer Planar lightwave circuit is combined with a dielectric multilayer thin film filter. The optical filter must be positioned extremely accurately during installation because the route of the light reflected into the waveguide is located geometrically. シングルモード 光導波路 出力 用される3波長分割多重伝送モジュール用光導波路型合分波 入力 シングルモード 光導波路 器の波長使用形態を示す。この図は加入者側に設置するモジ ュールの場合を示し,光フィルタとして1310 nmと1490 nm の光を透過するSPF(short-wavelength pass filter)を使用し ている。この形態では,光フィルタで反射する波長1550 nm の信号経路が幾何学的に位置づけられるため,反射信号の挿 入損失は光フィルタの位置精度に対して敏感に影響されるこ とになり,安定した特性を持たせるには光フィルタを高精度 に設置する必要がある。このため,ウェハプロセスによる量 産性を十分に活かしきれない難があった。そこで,従来の幾 何学的な反射構造に代わって,図5に示したようにマルチモ 図6 シミュレーションでのMMI構造を伝搬する光の模様 マルチモ ード光導波路から出力する光を低損失に接続するために,互いのモード形状が 合うようにマルチモード光導波路の長さを調整する。 Fig. 6 Simulation of light propagation pattern in an MMI structure The length of the multimode waveguide is so adjusted as each mode shape meets to reduce the coupling loss. 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 25 よってシングルモード光導波路へ出力接続する端面の光強度 分布を選択することができる。また,Δが約0.4%で,シング ルモード光導波路のコア幅に対してマルチモード光導波路の コア幅が3倍程度のMMI構造の場合,干渉周期は,波長の数 百倍と緩やかであるので,マルチモード光導波路の長さに対 光フィルタ 光フィルタ LPF BBF するシングルモード光導波路へのモードカップリングロスの 変動は,非常に鈍感である。 1550 nm 一方でMMI構造での光フィルタの位置ずれは,反射経路信 Cポート (Common) 号におけるマルチモード光導波路の長さがずれることと等価 と考えることができるので,光フィルタ位置ずれに対して損 失変動は鈍感になると考えられる。図7にはシミュレーショ Vポート (Video-ONU) 1310 nm L3 L2 1490 nm L1 Oポート (ONU) 損失増加分(dB) 0.5 図8 MMI構造に2枚光フィルタを実装した光導波路型合分波器の使 用形態 MMIが持つ波長依存性を利用して光フィルタを2枚設置した構造は, 0.4 0.3 0.2 従来構造 各波長での挿入損失を最小にできる形状を実現することが可能である。 MMI 構造 Fig. 8 Planar lightwave circuit for wavelength multiplexer having two optical filters in addition to MMI structure This structure can achieve a particular shape (L1,L2, and L3) to minimize the insertion loss at each wavelength. MMI 構造 実験値 0.1 0.0 − 10.0 − 5.0 0.0 5.0 10.0 光フィルタ位置ずれ量(µm) に対してマルチモード光導波路の長さを独立に設計すること が可能であり,各々の経路での最適形状を決定することがで きる。 波長1490 nmの場合はL1の長さを調整し,波長1310 nmの MMI 場合はL1+L2が最適形状になるようにL2の長さを調整し,波 構造では,光フィルタ位置に対して挿入損失の変動が位置ずれ量±10 µmの場 長1550 nmではL1+L2+L3が最適形状になるようにL3の長さを 合でも0.05 dB以下と極めて小さく,高精度な光フィルタ位置は不要である。 調整する。 Fig. 7 Relationship between optical filter dislocation and insertion loss increase (simulated) In an MMI structure, highly accurate positioning of the optical filter is not necessary because the insertion loss increase is 0.05 dB or less for a dislocation of ±10 µm. 2. 3. 3 図7 光フィルタ位置と損失増加の関係(シミュレーション) MMI構造によるその他の効果 MMI構造では,反射経路信号の光フィルタの位置依存性を 低減するほかに,光フィルタに対してコアが垂直に設置され ることから,以下の特長もあわせ持つと考えられる。 (1)光フィルタへは光の主成分が垂直入射するので,光フィ ンでの光フィルタ位置がずれた場合の反射経路信号の損失変動 ルタの性能を十分に活かすことができる。 を示す。シミュレーションには3次元BPM(beam propagation (2)光フィルタに対してコアが垂直配置となるため,コアの method)を使用した。このように,MMI構造では,光フィル 水平角度と光ファイバの水平角度とをあわせる曲線を設置す タ位置ずれ量が±10 µmでも0.05 dB以下の損失増加と非常に る必要がないので,基板を短尺化することができる。 小さい値となった。 2. 3. 2 波長依存性改善 MMIの干渉長は,前述したように波長によっても異なる。 一般的には波長が短いと干渉長は長くなるものである。図5 〔3〕 3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板の 作製と評価 3. 1 V溝集積型光導波路基板の作製 のSPFを使用した構造の場合,波長1310 nmと1490 nmの光が 光導波路基板の作製工程は以下の通りである。まず,V溝 同一経路を通るため,MMI部分の設計において一方の波長に が形成されたSi基板にフッ素化ポリイミドをスピンコートし 対してのみ最適にした形状にするか,両波長に対して最適か て下部クラッド層,コア層を積層し,フォトリソグラフィー らは外れるが平均的な損失が小さくなるようにするかを選択 と反応性イオンエッチングを用いてコアパターンを形成した する必要がある。いずれにしても,両波長に対してともに損 後,フッ素化ポリイミドの上部クラッドを積層した。次に, 失が最小となる最適形状を得る事が難しい。そこで図8に示 V溝上のクラッドおよびコアを除去し,光フィルタを設置す すように,各波長での最適な最小損失を得るためにMMI部分 る溝をダイシングにより加工した。こうして得られた光導波 に光フィルタを2枚設置する構造を考案した9)。波長1490 nm 路基板のV溝に光ファイバを載せUV硬化型接着剤とガラスブ の光はBBF(band blocking filter)で反射され,波長1310 nm ロックを用いて接着固定し,光フィルタ溝に光フィルタを設 の光は次のLPF(long-wavelength pass filter)で反射され,波 置し,UV硬化型接着剤で固定した。実際には,この後にパッ 長1550 nmはBBF,SPFとも透過する。この構造では,各波長 ケージング工程があるが,今回は光導波路基板の評価目的の 26 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) ため,パッケージングは省略した。また今回は,反射経路信 ので温度範囲を−20℃から70℃までとした。損失変動範囲 号における光フィルタの位置依存性を確認するため,光フィ が±0.2 dB以内と良好な結果が得られた。これにより光ファ ルタを設置する溝位置を設計値に対して±10 µmずらした基 イバとV溝の接着および光フィルタとポリマ光導波路基板の 板も作製した。 接着構造が適切であることを確認した。 3. 2 3. 2. 3 3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板の評価 3. 2. 1 挿入損失およびクロストーク 温度サイクル試験 −40℃から85℃の温度範囲,遷移時間4分で温度サイクル 表2は得られた挿入損失とクロストークの評価結果を示 試験を実施したところ,500サイクルまで,損失変化は観測 す。また光フィルタ位置を±10 µmずらした場合の損失変動 されず,光ファイバとV溝の接着および光フィルタとポリマ は,前述の図7に実験値としてプロットした値である。光フ 光導波路基板の接着は十分な強度を有していることが確認で ィルタ位置依存性は,シミュレーションと同等の値を得るこ きた。 とができ,光フィルタ位置の影響を受けにくい設計であるこ 3. 2. 4 とが確認できた。また,光フィルタ1枚の構造ではMMIの波 信頼性評価 図10には1枚フィルタ構造の信頼性を示す。信頼性試験は, 長依存性により波長1490 nmの挿入損失が犠牲になっていた 85℃85%Rhの環境下で500時間毎に挿入損失の測定を行い累 が,光フィルタ2枚の構造では,各波長に対して挿入損失を 積2,000時間になるまで実施した。損失変動は非常に小さく良 小さく抑えることができ,波長依存性の改善を確認できた。 好な結果を得た。今回の光ファイバおよび光フィルタを実装 3. 2. 2 したポリマ光導波路基板が長期安定性に優れていることが確 温度特性評価 図9に1枚フィルタ構造の温度特性を示す。3波分割多重伝 認された。 送用モジュールは,設置する場所が室外の場合が想定される 表2 3波長分割多重伝送用ポリマ光導波路基板の測定結果 開発目標値は,作製したV溝集積型ポリマ光導波路基板に光ファイバと光フィルタを実装した 後,測定を行った。挿入損失,クロストークともに小さく抑えることができたが,全項目の目標値を達成するためには,MMI構造の微調整等の再設計が必要である。 Table 2 Measurements for polymer planar lightwave circuits for three-wavelength division multiplexing transmission The developmental circuits that had V-grooves fitted with optical fibers and filters were measured. The results showed good insertion loss and crosstalk values; however, the MMI structure needs to be redesigned or fine-tuned to achieve all of the target values simultaneously. (単位:dB) 項 目 目標値 測定値 波長1310 nm 挿入損失 1.2 波長1490 nm MMI構造 ≦1.5 1.7 波長1550 nm 1枚光フィルタ クロストーク 1.2 波長1310 nm ≦−50 −35 波長1490 nm ≦−31.5 −27 波長1550 nm ≦−29 −37 波長1310 nm 1.5 波長1490 nm 挿入損失 ≦1.5 1.3 波長1550 nm MMI構造 2枚光フィルタ クロストーク 1.2 波長1310 nm ≦−50 −67 波長1490 nm ≦−31.5 −45 波長1550 nm ≦−29 −29 1.0 1550 nm 60 1310 nm 温度 40 0.0 20 1 温度(℃) 損失変動量(dB) 0.5 2 − 0.5 0 図9 温度特性評価結果 3波分割多重 伝送用モジュールは,設置する場所が室外 の場合も想定されるので温度設定を‐20か ら70℃の範囲とした。 − 1.0 − 20 時間(h) 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) Fig. 9 Temperature dependence of insertion loss variation A temperature range of ‐20 to 70℃ reflects outdoor and indoor temperatures. 27 1.0 環境:85℃85%RH,λ= 1310 nm 損失変動量(dB) 0.5 0.0 図10 − 0.5 信頼性試験結果 信頼性試験は, 85℃85%RHの環境下で500時間毎に挿入損失の 測定を行い累積2,000時間になるまで実施した結 果,損失変動が±0.2 dBと非常に小さい特性を 確認できた。 − 1.0 0 500 1,000 1,500 2,000 試験時間(h) 〔4〕 結 Fig. 10 Reliability test result The insertion loss variation remained below ± 0.2 dB even after 2,000 hours of exposure in an atmosphere of 85℃ and 85%RH. 参考文献 言 1)ブロードバンドサービス等の契約数(平成16年6月末) ,総務省報 フッ素化ポリイミドを使用したV溝集積型の3波長分割多重 道資料, (2005) 伝送用ポリマ光導波路基板の設計・作製・評価を行った。今 2)日経コミュニケーション,日経BP社,434,pp.29(2005) 回開発したV溝集積型ポリマ光導波路基板では,マルチモー 3)ITU-T Recommendation G.983.3 ド干渉を利用した構造を適用することで,低挿入損失,低ス トロークを実現する良好な結果を得た。ここで採用した設計 は,量産性と経済化を求めるFTTH市場にマッチした特長を 兼ね備えていると考える。今後は材料・プロセス面からの更 4)宮寺信生他:日立化成テクニカルレポート,37,pp.7-16(2001) 5)宮寺信生他:日立化成テクニカルレポート,43,pp.29-34 (2004) 6)Lucas B. Soldano et al.:Journal of Lightwave Technology,Vol.13 pp.615-627(1995) なる特性向上を目指すとともに,設計面からは,新しい光導 7)山本礼他:電子情報通信学会総合大会,C-3-61(2005) 波路回路の採用により幅広い応用展開を図っていきたい。 8)國分康雄: 光波光学 ,共立出版,2001,pp.53-68 9)宮寺信生他:電子情報通信学会総合大会,C-3-62(2005) 28 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) U.D.C. 621.315.615.049.7:666.266.5:621.791:3678.686.019:621.798 半導体パッケージ用感光性ソルダレジスト Advanced Photo-definable Solder Mask for High-performance Semiconductor Packages 吉野利純* Toshisumi Yoshino 片木秀行* 上面雅義* Masayoshi Johmen Hideyuki Katagi 近年,半導体パッケージ基板は,パッケージ面にはんだボールを並べて接続する面 実装方式のBGA(Ball Grid Array)が採用されている。これは従来のQFP(Quad Flat Package)に比べて,小型化と多ピン化の点で有利である。一方で現在では,多ピン化 と信号の高速伝送化の点から,従来のWB(Wire Bonding)接続に代って,FC(Flip Chip)接続を採用したBGAが増加している。それにともない,感光性ソルダレジスト の高性能化が望まれていた。 本報告では,エラストマを活用することで内部応力を緩和して耐熱衝撃性を向上し, かつ高い橋架け密度の反応性アクリレート樹脂を用いることで,信頼性を満足させた, 新しい高性能感光性ソルダレジストSR7000の開発経緯を述べる。 Ball grid array (BGA) has advantages in fine pattering and number of connections compared to conventional quad flat package (QFP). In addition, BGA with flip-chip (FC) assembling has become more popular than BGA with conventional wire bonding (WB) assembling because the former meets the requirements for high density connections and high speed signal transmission. Therefore, high performance is also needed in new solder mask. In this report, the development of new solder mask is described. “SR7000 series”, newly developed solder mask, has improved thermal shock resistance by using a certain kind of elastomer that relaxes thermal-mechanical stress and improved reliability by using reactive acrylate resin that has high density cross-linking. 〔1〕 緒 言 半導体チップ ソルダレジストは,半導体チップやコンデンサ,抵抗など アンダーフィル材 の電子部品をプリント配線板の表面にはんだ付けされる際 に,はんだ付け以外の隣接する配線回路や電極が導通しない ようにする電気絶縁膜である。 基材 図1に半導体パッケージ基板の構造を示す。電子部品の接 点にあたる銅配線以外の所定の箇所にソルダレジストを被覆 することで,配線回路との絶縁性確保とともに,はんだリフ 銅配線 ロー工程時にはんだボール(バンプ)を形成することができ ソルダレジスト る。 はんだポール(バンプ) 半導体パッケージにおいては,電子機器の小型化,高性能 化,多機能化,信号の高速化によって,小型化,薄膜化,多 図1 ピン化が求められている1)2)。 (図2) ジストに要求される信頼特性として,①耐熱衝撃性,②電気絶縁性,③耐リフ 1970年代前半においてDIP(Dual In-line Package)に代表 される従来の端子挿入実装技術から,ガルウイング型端子を 有するQFP(Quad Flat Package)に代表される周辺端子型パ フリップチップ接続型半導体パッケージ基板の構造 ソルダレ ロー性があげられる。 Fig. 1 Semi-conductor Package substrate structure of flip chip type For solder resist, high reliability such as water resistance, keeping high insulation resistance and reflow crack resistance are requested. * 当社 化成品事業部 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 29 多 ピ ン 化 FC-BGA P-BGA QFP FC-PGA DIP DIP QFP P-BGA FC-BGA FC-PGA :Dual In-line Package :Quad Flat Package :Plastic-Ball Grid Array :Flip Chip Ball Grid Array :Flip Chip Pin Grid Array 小型化, 薄型化 図2 半導体パッケージの動向1)2) 接続形式が,ワイヤボンディング接続からフリップチップ接続へと置き換わりつつある。 Fig. 2 History of semi-conductor package size and the number of pin Flip chip assembling is focused recently in stead of wire bonding. ッ ケ ー ジ の 表 面 実 装 技 術 ( SMT: Surface Mounting 表1 ソルダレジストの特性 Technology)が出現した。その後1990年代後半からは,BGA Table 1 The properties of solder resist (Ball Grid Array)に代表される面配置型への移行が急速に進 項 目 んだ。QFPがパッケージの四辺から接続端子電極をとるのに 耐熱衝撃性 対して,BGAはパッケージ面に,はんだボールを並べて接続 (-55℃/15min←→125℃/15min) する面実装方式であり,QFPに比べて小型化,多ピン化の点 電気絶縁性 で有利である。現在では,多ピン化,信号の高速化の点から, クラック無し ≧1.0E+10 (131℃/85%RH/DC) 従来のWB(Wire Bonding)接続に代わりFC(Flip-Chip)接 耐リフロー性 続のBGAが増加しており,今後,BGAの主流は,FC-BGAに 移行すると推定されている 要求特性 クラック無し (JEDEC LEVEL 2:85℃/85%RH/48h) 。 1, 3) FC-BGA化によって,パッケージ基板に用いられるソルダ レジストには,新たに以下の特性が求められるようになっ 表2 た。 Table 2 ソルダレジストの一般構成材料 Materials of solder resist (1)FC-BGAでは,半導体チップの接点が増した事から, 項 目 材料 基板と半導体チップ間において,両者の熱膨張係数(基 樹脂 材:約20〜30ppm/℃,半導体チップ:<10ppm/℃)の差 添加剤 有機成分 異が熱履歴による変形歪みとなり,ソルダレジストへの負荷と 光開始剤 なって,亀裂が入り配線回路が断線しやすい傾向にある。 有機溶剤 また高密度化のためにビルドアップ基板が用いられるが, 無機成分 フィラ ビルドアップ材の熱膨張係数(約40〜100ppm/℃)が大き く,両面基板よりも熱履歴による歪みが増す傾向にある。 一般に高い熱衝撃性を有する材料は,高ガラス転移温度を そのため,ソルダレジストに対してはより耐熱衝撃性の向 保持しかつ可とう性が求められる。2つの特性は相反する特 上が求められている。 性であるが,本開発では可とう性のあるソフトセグメントを (2)小型化・高密度化により基板回路の狭ピッチ化が加速 導入したエポキシ樹脂を選定した。また,現像性および光感 するため,狭ピッチの配線回路でも高い電気絶縁性を保持 度の点から,樹脂の構造,分子量,酸価などを最適化し,高 できるソルダレジストが求められてきている。 Tgを維持したまま内部応力を緩和することを目的に独自設計 本報告では,上記要求特性(表1)を満たし,FC-BGAに したエラストマを併用した。 適する感光性ソルダレジスト(以下,ソルダレジストと略称 する)の開発経過と特性について報告する。 なおソルダレジストは,表2に示すように樹脂,添加剤,光 開始剤,有機溶剤およびフィラから構成される。 〔2〕 30 表3に示すように,エラストマを添加することで弾性率が 低くなり,また硬化収縮率も低下している。またブタジエン ゴムを添加したソルダレジスト表面を走査型電子顕微鏡 耐熱衝撃性 (SEM)観察すると,図3のようなミクロ相分離構造(海島 耐熱衝撃性の向上のために,最初に,樹脂の分子設計を行 った。 表3に示したように,エラストマを添加することにより低 弾性率にでき,耐熱衝撃性が向上していることがわかった。 構造)を有していることが確認された。 熱履歴によって生じる外部応力がソルダレジストに加わっ 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 表3 耐熱衝撃性の評価結果 エラストマは,耐熱衝撃性に対して良好である。しかし,塗布時の外観が良くないエラストマもある。 Table 3 Thermal shock resistance Elastomer is advantage for thermal shock resistance of solder resist; however, some elastomer isn t advantage for appearance after coating. A B C エラストマの種類 項 目 無添加 ブタジエンゴム アクルルゴム 塗膜外観 ○ ○ ×(レベリング性NG) 弾性率(MPa) 2,900 2,700 2,700 耐熱衝撃性(クラック発生までのサイクル数) < 400 1,000 1,000 硬化収縮率(%) 2.3 0.9 0.9 Tg(℃) 95 95 95 た際には,ソルダレジスト中に存在するエラストマに内部応 力が吸収されてせん断帯が形成され,耐熱衝撃性が向上した 〔3〕 電気絶縁性 一般にソルダレジストの電気絶縁性は,その評価に多くの と推測される(図4) 。 図5に耐熱衝撃性の評価結果を示す。エラストマを添加す ると1,000サイクルまでは,クラックの発生は見られない。 時間(長時間の試験期間)を必要とする。 そこで,試験時間の短縮化による電気信頼性試験方法は, 高温・高湿度(131℃/85%RH)のもとで直流電圧を印可しな がら抵抗値の変化を測定する方法がとられる。電気絶縁性の低 下メカニズムについては,数多くの研究がなされてきた 3),4),5)。 図6にそのメカニズムを示す。 無添加系 10µm エラストマ添加系 10µm − 500倍 図3 500倍 + エラストマ添加系したソルダレジストの走査型電子顕微鏡) + − 島に見える箇所がエラストマである。一方,平らな箇所は樹脂である。 Fig. 3 SEM photograph of Sea-island structure with elastomer Island shows elastomer, on the other hand, sea shows base resin. 2H2O→O2+4H++4e− …(1) + エラストマ 応力緩和 陽極上 e− Cu + Cu2+ or Cu+ クラック − Cu Cum(B) 2 mCu2++2Bm−→CumB2 …(3) 電極間 e− Cu − 陰極上 CumB2→mCu2++2Bm− …(4) Cu2++2e−→Cu………… (5) 樹脂 せん断帯 図4 I V Cu→Cu2++2e−………… (2) エラストマによる応力緩和メカニズム このモデルは,応力がか かった場合,せん断帯が形成され応力を吸収するメカニズムを示す。 Fig. 4 Stress release model of Elastomer This model shows that elastomer absorbed the stress occurred by crack. 100µm 100µm 図6 電気絶縁性不良までの化学的機構 銅配線のラインとスペースの 距離が狭くなるためHAST耐性は重要な特性である。 Fig. 6 Chemical scheme of electric insulation HAST resistance is very important property, because line and space become be short annually. 陽極ではソルダレジストに浸透した水の電気分解によって 酸が発生し(図6の式1) ,同時に銅の溶解が起こる(図6 の式2) 。発生した酸は,ソルダレジストの加水分解反応を 促進し,加水分解で生成した低分子化合物(酸)は,さらに はんだボール 吸水を促進する。 図7は,ソルダレジストの電気絶縁性(例HAST;higher クラック発生 accelerated stress test)試験前後におけるソルダレジストの エラストマ添加系 図5 エラストマ無添加系 耐熱衝撃性の結果(400サイクル経過後) エラストマ添加系で FT-IRスペクトル変化を示す。電気絶縁性試験では,エステ ル結合の吸収(1730−1735cm−1)が消失し,カルボキシル基 は,クラックの発生が観測されない。 に由来する吸収(1570−1610cm−1)が増加していることが確 Fig. 5 Results of thermal shock resistance after thermal cycles No crack can be observed in case of SR with elastomer; on the other hand, one crack can be seen in case of SR without elastomer. 認されている。 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 31 HAST試験後 Absorbance HAST試験前 図7 電気絶縁信頼性(例HAST; higher accelerated stress test)前後の FT‐IRスペクトル変化 ソルダレジスト 中のエステル結合はHASTやPCT試験のよう な高温高湿において加水分解する。 4,000 3,000 2,000 1,500 Wavenumber(cm 1,000 −1 ) 電気絶縁性試験により発生した銅イオンは電子を受け取っ て銅として析出する。途中カウンターアニオン(水酸化物イ オン,ハロゲンイオン)と会合して塩を形成(図6の式3) し,さらに再度イオン化(図6の式4)しながらソルダレジ 3. 1 Fig. 7 FT-IR spectra before / after Insulation resistance such as HAST Ester bond is dehydrated after high humidity and high temperature such as HAST and PCT. 吸水率の低減 レジストの橋架け密度を上げることで,水の拡散速度が遅 くなることに着目し,反応性アクリレート系樹脂を検討した (図8) 。 スト中を再び移動(マイグレーション)を続けて陰極へと移 図8 (左)は,低橋架け密度のアクリレート樹脂を採用した 動する。銅イオンは陰極から電子をもらうことで銅単体とし レジストであり,図8 (右)は,高橋架け密度の反応性アクリ て析出する(図6の式5)結果,配線回路間の電気抵抗値の レート樹脂を採用したレジストである。写真より,高橋架け 低下が起こる。 密度の反応性アクリレート樹脂を採用することで,デンドラ 上記のような電気絶縁性の低下メカニズムから,電気絶縁 性の向上には吸水率が小さくまたカウンターイオンとなるイ オン性不純物の少ないソルダレジストの開発を行った。 イト(銅の樹枝状析出物;写真ではにじみ)の発生が無く, 電気絶縁信頼性の改良されることがわかった。 次に吸水を抑制する効果のあるフィラの添加量と電気絶縁 性能の関係を調べた結果を図9とする。これよりフィラ量が −極 −極 +極 +極 低橋架け密度のアクリレートを使用したソルダレジスト (吸水率1.9%) 図8 電気絶縁信頼性試験後(300 h後)基板の金属顕微鏡写真と吸水率 高橋架け密度のアクリレートを使用したレジスト (吸水率1.4%) 試験基板D(低橋架け密度のアクリレートを使用したソルダレジスト基板)は, 300時間後に茶褐色ににじみが発生している。試験基板E(高橋架け密度のアクリレートを使用したソルダレジスト基板)は,にじみが観測されない。 Fig. 8 Photograph after insulation test and water absorption Color change brownish in Test No.D is seen after insulation test (300h). No change is seen in Improved Test No.E. 32 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 増加すると吸水率が低下し,電気絶縁性が向上する傾向があ はんだリフロー時の急加熱によって,ソルダレジストに大 るが,フィラ量が多すぎるとチキソトロピック値が増大しス きな応力(ストレス)がかかり,封止材とソルダレジストの クリーン印刷性の悪化をもたらす。そこで,電気絶縁信頼性 界面で剥離が生じる問題がある(図1 1)6,7,8)。 とスクリーン印刷性を両立できる範囲のフィラ量を採用した。 3. 2 イオン性不純物の低減 界面剥離という点から,各種添加剤のソルダレジストの表 面性状に与える影響を調べた。 カウンターイオンとなるイオン不純物の低減を目的に,イ 1014 0.6 目 標 値 0.5 1012 0.4 1011 0.3 1010 0.2 フィラ適量範囲 印刷性 NG 109 吸水率% 電気絶縁性(オーム) 1013 0.1 108 0 小←フィラ質量%→大 図9 フィラ量と電気絶縁信頼性および吸水率の関係 電気絶縁信頼 性と吸水率は,フィラ量に依存している。しかし,過剰なフィラ配合は,印刷 性不良を招く。 Fig. 9 Relationship between filler contents and insulation resistance water absorption Insulation depends on filler contents. Water absorption depends on filler contents and excess filler contents cause not only low water absorption but also failure of coating. 図11 はんだリフロー試験後のBGAパッケージ内部の剥離(超音 波解析) 剥離箇所は,超音波解析より白く観測される。 Fig. 11 Delaminating of package interface after reflow test(Analysis of super sonic) White point shows delaminating. It can be observed that delaminating happen or not with analyzed by super sonic. FT-IR(ATR法)による表面解析を行った結果,図1 2に示 オン捕足剤の添加を検討した。 イオン捕足剤を添加することで,その抽出液(抽出条件: したように,消泡剤の添加系と無添加系のレジストの差スペ 100℃x1h)のイオン不純物濃度をほぼ3分の1に低減でき,ソ クトルが消泡剤のスペクトルと一致した。これよりレジスト ルダレジスト中のイオン不純物を少なくすることができた。 表面には消泡剤が存在していることが確認された。 以上の知見をもとに開発したソルダレジストの電気絶縁信 頼性試験を行った。図1 0に,開発した改良品の電気絶縁信頼 この表面の消泡剤が封止材との密着性に影響を与えている と考えて,消泡剤の種類を検討した。 性試験の結果,抵抗値を示す。試験時間が288h後の抵抗値 も劣化がなく,電気絶縁性の向上を図れた。 差スペクトル 耐はんだリフロー性の向上 Absorbance 〔4〕 泡消剤 泡消剤添加 泡消剤無添加 絶縁抵抗値(オーム) 開発品 2,000 1,600 目 標 値 開発前 1,200 800 Wavenumber(cm−1) 288h 図12 レジストの表面解析(FT−IR,ATR法) FT-IR解析は, SR組成分析に有効である。 Fig. 12 Surface analysis of solder resist by FT-IR ATR method Difference spectra by FT-IR ATR are advantage for surface component. 0 50 120 174 218 262 試験時間(h) その結果,特定の消泡剤を選択することでリフロー試験後 図10 開発品の電気絶縁信頼性試験結果 開発品SRは向上を図れた。 Fig. 10 Insulation test of development new solder resist New solder resist has a higher insulation resistance than the old type. の剥離が解消され,耐はんだリフロー性が改良できることが 分かった(表4) 。 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 33 表4 添加剤と耐リフロー性 リフロークラック性は,添加剤の特性に依 存する傾向があります。 Table 4 Results of reflow crack resistance with additive agent 目 #2 #1 信頼性を改良した感光性ソルダレジストSR7000を開発した。 A B C 良好 良好 良好 LEVEL 3 LEVEL 3 浸透を抑制するため,フィラ濃度を最適化し,更に高い橋架 け密度を有する反応性アクリレート樹脂を用いることで絶縁 消泡性 JEDEC ることで耐熱衝撃性を向上できた。また吸水率を下げ,水の #3 添加剤 耐リフロー性 言 ベースポリマに内部応力緩和を目的にエラストマを活用す Reflow crack resistance depend on reflow crack resistance chemical properties of additive agent. 項 〔7〕 結 LEVEL 2 現在,SR7000シリーズは高信頼性が求められるFC-BGAに 広く使用されている。今後,FC-BGA用途では狭ピッチ化と 小型薄型化が進むと予想されるため,電気絶縁信頼性と耐熱 衝撃性の更なる向上を図るとともに,レーザ直描に対応した 〔5〕 感光性ソルダレジスト SR7000 の特性 本研究で開発した感光性ソルダレジストの特性を表5に示 す。本製品は,ビア開口形状が良好で,微細な像形成が可能 高感度化品の開発を行う予定である。 参考文献 1)春日壽夫:超小型パッケージCSP/BGA技術,日刊工業新聞社 (1998) である(図1 3) 。 本製品はブラインドビアへの穴埋め性に優れ(図1 4)平坦 化が容易であり,また高温のはんだ耐熱性(260℃,60秒) も良好であるので,鉛フリーはんだにも対応できる( 表5) 。 2)野村:インテル・プロセッサ・パッケージ市場動向、エレクトロニ クス実装技術,15(12) ,134‐137(1999) 3)鶴義之ら:回路実装学会誌,10, (2) 101-107 (1995) 4)山野芳昭ら:T. IEE Japan, 119, (3) 365-370 (1999) 5)川島哲哉ら:マテリアルライフ,11, (2) 71-77 (1999) 表5 添加剤と耐リフロー性 リフロークラック性は,添加剤の特性に依 存する傾向があります。 6)S.Ito. :Proc.36th Electron. Components Conf., 36(1993) 7)T.O.Stelner, et.al. :IEEE Chemt-10(2), 209(1987) Table 5 Results of reflow crack resistance with additive agent 8)Y.Nakamura, et.al. :J.Appl.Polym.Sci.32,4865(1986) Reflow crack resistance depend on reflow crack resistance chemical properties of additive agent. 項 目 開発品 従来品 Φ100 Φ120 2 ≧5 異常なし 剥がれ発生 ビア解像性 (膜厚2Sµm) (µm) ブラインドビアへの穴埋め性 段差(µm) はんだ耐熱性 (260℃×60sec) 25µm 図13 Fig. 13 ビア開口写真 Photograph of solder resist opening 改良品 図14 5µm 従来品 ブラインドビアへの穴埋め性 平坦性は,チップ実装時の位置合 わせに良好です。 Fig. 14 Plugging properties of solder resist Flat cross section of solder resist at blind via-hole is advantage for fixing the IC chip on assembling. 34 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) U.D.C. 678.002-036:658.56:547.391.3'26:547.391.1'26 エステル交換法による高品位機能性アクリレ−ト High-quality Functional Acrylates Made by Transesterification 林 克則* Katsunori Hayashi 亀井淳一* Junichi Kamei 機能性アクリル酸エステル(以下アクリレートと略記する)は,塗料,接着剤,建 材,電子材料,光学材料などに用いられる高分子材料の特性向上を目的として,幅広 い用途分野で種々の化合物が使用されている。近年,電子材料分野へのアクリレート の使用量が増加し,従来にはなかった高品質化(低硫黄分,高純度等)の要求が高ま っている。 アクリレートの工業的な製造法はエステル交換法と脱水エステル化法の2種類があ る。従来は製造上の観点から一般的に脱水エステル化法が用いられてきたが,酸性触 媒を使用するため,得られるアクリレートへの硫黄分の残存,不純物の生成・混入が 起きる等の問題があった。そこで,中性触媒を使用するエステル交換法を適用し高品 質化を図ることとした。 本報は,エステル交換法によりアクリレートを製造するにあたっての問題点および 解決策,得られるアクリレートの品質に関してまとめたものである。 Functional esters (henceforth acrylate) are used as additive in the wide variety of fields to improve the characteristics of polymer materials such as paints, adhesives, and building, electronic, and optical materials. Recently, the volume of acrylate in electronic field has increased and the demand for high quality acrylate with low sulfur and high purity has also increased. There are two major processes of manufacturing acrylate; transesterification and dehydration esterification. Dehydration esterification has been conventionally used for its convenience. However, there is a problem of impurity in acrylate by remaining sulfur because this process uses acid catalysts. Therefore, we investigated transesterification using neutral catalyst to develop high quality acrylate. This report describes the method of transesterification and the quality of acrylate in the resulting products. 〔1〕 緒 硫酸等の酸性触媒と,原料のアクリル酸(またはメタクリル 言 酸)を過剰に用いるため,合成後それらを中和水洗で除去し 塗料,接着剤,建材,電子・光学材料などに用いられる高 ても,得られるアクリレート(またはメタクリレート)中に 分子材料の特性向上を目的として,種々のアクリレートおよ は酸性触媒・原料に起因する硫黄分・不純物が残存する。こ びメタクリレート(メタクリル酸エステル)が使われている。 のため,品質の悪化(色相・酸価の経時変化)が起こりやす 近年,電子材料分野におけるUV硬化系の増大とともにアクリ いと考えられている。 レートの使用量が増加し,従来にはなかった高品質化(低硫 黄分,高純度等)の要求が高まっている。 一方,エステル交換法はプラントコストが高く運転も複雑 であるため,本法を採用しているメーカはほとんどない。ま アクリレートおよびメタクリレートの製造法は,エステル 交換法と脱水エステル化法の2種類があり,各々の製造法に より得られる製品の品質は異なる。図1,2に各々の製造法 の一般的な製造フローおよび反応式を示す。 た,原料低級アクリル酸エステルのポップコーン重合の防止 が,量産化への技術課題となっている。 当社では,メタクリレートに関してはメタクリル酸メチル を原料としたエステル交換法による製造技術を確立し採用し 現在,ほとんどのアクリレート(およびメタクリレート) てきた。この方法は中性触媒を使用するため,残存硫黄分・ メーカは,設備,運転方法の容易な脱水エステル化法を採用 不純物がなく,経時での品質安定性に優れる製品を作ること している。この方法は,パラトルエンスルホン酸(PTS)や ができる。また,一旦製造技術を確立すれば,中和水洗等の * 当社 化成品事業部 化成品開発部 五井開発グル−プ 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 35 〈仕込み〉 原料アルコール アクリル酸 反応溶媒(BTX 等) 酸性触媒 重合禁止剤 〈抜出し〉 水(反応生成物) 〈抜出し〉 反応溶媒 〈仕込み〉 アルカリ水溶液 アクリレート (製品) 図1 仕込 反応 中和水洗 濃縮 ろ過 Fig. 1 Manufacturing process of dehydration esterification This process needs acid catalyst and an additional step to remove catalyst and acrylic acid. 〈抜出し〉過剰のアクリル酸 R − OH + 原料アルコール O cat. HO アクリル酸 solv. O + H2O R−O アクリレート 〈抜出し〉 低級アクリル酸エステル 低級アルコール (反応生成物) 〈仕込み〉 原料アルコール 低級アクリル酸エステル (兼反応溶剤) 重合禁止剤 触媒 脱水エステル化法製造フロー 酸触媒および中和水洗工程が必要となる。 〈抜出し〉 低級アクリル酸エステル アクリレート (製品) 図2 エステル交換法製造フロー 仕込 R1 − OH 原料アルコール 反応 O + 濃縮 ろ過 O cat. R2O R1 − O 低級アクリル酸エステル アクリレート + 低級 アクリル酸エステルを留去する工程がある。 R2 − OH 低級アルコール Fig. 2 Manufacturing process of transesterification This process needs a step to remove lower alcohol and lower acrylic ester. 必要はなく,製造も短工程で済み,ランニングコストは低く 抑制技術の確立が必要不可欠である。当社では,ポップコー なるという効果もある。そこで,メタクリレートより技術的 ン重合を防止するために,重合禁止剤の最適化(シード生成 難易度の高いアクリレートの製造法に,エステル交換法を適 の禁止およびシード成長の抑止)および気相におけるビニル 用する検討に着手した。 化合物濃度の低減に焦点をおいて検討を行い量産化技術を確 立した。 〔2〕 エステル交換法の問題点と解決策 エステル交換法では,反応時に副生する低級アルコールを 原料の低級アクリル酸エステルと共沸させて留去する工程, 合成後に過剰の低級アクリル酸エステルを留去する濃縮工程 〔3〕 エステル交換法品の特性 エステル交換法と脱水エステル化法の違いによる品質への 影響として,電子材料用途への引き合いの多いジシクロペン がある。これらの工程の際,蒸留塔内部で低級アクリル酸エ タニルアクリレート(機能性アクリレート ステルのポップコーン重合が起きることがある。ポップコー FA-513A)を例として特性比較を行った。それぞれの特性比 ファンクリル ン重合性は,低級アクリル酸エステルの方が低級メタクリル 較表および経時品質変化試験結果(60℃における促進試験) 酸エステルよりも高く,アクリレートへのエステル交換法の を表1および図3,4に示す。 適用はメタクリレートの場合よりも難しくなっている。ポッ エステル交換法および脱水エステル化法によって製造した プコーン重合物は,多孔質で嵩高い乳白色の固体で,ほとん FA-513Aの一般的な特性はほぼ同等であったが,残存する硫 どの有機溶媒に不溶である。ポップコーン重合が起きると, 黄分に差がみとめられた。さらに,エステル交換法品は,脱 装置の閉塞から反応の停止,やがて設備破損・爆発へと繋が 水エステル化法品よりも経時での色相・酸価の変化がともに る危険な状態となる。この重合を抑制することが,安定操業 少なく,経時品質安定性に優れることが明らかになった。こ を行う上で大きな課題となっている。 の結果は,電子材料用途で使用する際,酸の遊離による電気 ポップコーン重合は,主に気相中で核となるポリマ(シー ド)が生成した後,それを起点として高温の重合熱を伴いな がら,非常に速い速度で進行する1)2)。このため,シードの生 成防止が重要と考えられ,生成機構の解析や抑制技術の検討 が行われてきているが十分には解明されていない 。 3)4) 特性等への影響や色相の変化が少ないという点で有利である。 〔4〕 硫黄分に関する検討 エステル交換法で製造したFA-513Aは脱水エステル化法で 製造したそれよりも,経時品質安定性に優れることがわかっ 以上のことから,アクリレートをエステル交換法にて製造 た。原因としては,製品中に含まれる硫黄分と関連性のある するためには,低級アクリル酸エステルのポップコーン重合 可能性が考えられる。硫黄分は,脱水エステル化法で使用す 36 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) FA-513Aの特性例 硫黄分に差がある。 O 目 単 位 エステル交換法 脱水エステル化法 純度(ガスクロ法) % 96.0以上 色相 APHA 50以下 水分 % 0.10以下 酸価 mgKOH/g 1.0以下 重合禁止剤 ppm 450〜550 硫黄分 ppm 1未満 O S −O O + = = 項 OH H2C =CH −C −O O O S −OH (cat.) O in Toluene HO = = Table 1 Characteristics of FA-513A Sulfur content differs by the processes. = 表1 図5 脱水エステル化反応と含硫黄副生成物 (a) (a)が副生する。 Fig. 5 By-product containing sulfur by dehydration esterification The by-product has a structure indicated by (a). 約1,000 加して経時品質安定性試験を行った結果,脱水エステル化に より製造したFA-513Aとほぼ同様の品質変化(悪化)が認め られた。 エステル交換法 80 80 脱水エステル化法 60 色相[APHA] 色相[APHA] 100 40 20 10 0 2 4 エステル交換法 40 20 6 保存期間[月] 図3 エステル交換法+TCD−OTs 脱水エステル化法 60 0 0 2 4 FA-513Aの経時品質変化(色相) エステル交換法品は,色相の変 6 保存期間[月] 化が小さい。 図6 エステル交換法FA-513A+TCD-OTsの経時品質変化 (色相) TCD- Fig. 3 Stability (color) of FA-513A Color of acrylate by transesterification changes very little. OTsの添加により,エステル交換法品でも色相が悪化する。 Fig. 6 Stability (color) of FA-513A by transesterification with TCD-OTs Color changes by adding TCD-OTs. 5 エステル交換法 脱水エステル化法 5 3 2 1 0 0 2 4 6 酸価[mgKOH/g] 酸価[mgKOH/g] 4 4 3 2 1 保存期間[月] 0 図4 0 FA-513Aの経時品質変化(酸価) エステル交換法品は,酸価の変 化が小さい。 Fig. 4 Stability (acid value) of FA-513A Acid value of acrylate by transesterification changes very little. 2 4 保存期間[月] 6 図7 エステル交換法FA-513A+TCD-OTsの経時品質変化 (酸価) TCDOTsの添加により,エステル交換法品でも酸価が悪化する。 Fig. 7 Stability (acid value) of FA-513A Acid value changes by adding TCD-OTs. る触媒由来の副生成物と考え,単離・同定を行った。その結 果,副生成物は原料アルコール(トリシクロデカノール)の トルエンスルホン酸エステル (a) (以下TCD-OTsとする) で あることがわかった。 次に,TCD-OTsのFA-513Aの経時品質安定性への悪影響の機 構を考察した。 〔5〕 金属腐食性 電子材料分野でのアクリレート使用の際に,金属腐食性が しばしば問題を生じる。金属腐食を起こす要因としては,ア 図4に示した試験結果より,6ヶ月後の酸価と硫黄分測定 クリレート中に種々含有する元素(例えばナトリウム,カリ 値をPTS物質量に換算すると,41.7µmol/g(酸価より換算) ウム,塩素,硫黄等)および酸(スルホン酸類,アクリル酸 および31.1µmol/g(硫黄分分析値より換算)となる。この数 等)があげられる。そこで,エステル交換法および脱水エス 値は,経時でFA-513Aに含有するTCD-OTsの加水分解に加え, テル化法で製造したFA-513Aと,TCD-OTsを添加したエステ 遊離したPTSを触媒としてFA-513A自体の加水分解反応が起 ル交換法品について金属腐食性の有無を確認した。脱水エス こり,アクリル酸の生成が起きていると考えられる。確認の テル化法品が銀への腐食を示すのに対し,エステル交換法品 ため,エステル交換法にて製造したFA-513AにTCD-OTsを添 は金属腐食を起こさなかった。また,TCD-OTsを添加したエ 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 37 ステル交換法品も脱水エステル化法品と同様の現象を起こし 性がある。そこで,各々の方法により作成したFA-513Aの たため,TCD-OTsが金属腐食性の原因となっていることがわ P.I.I.測定を行った(OECDガイドラインNo.404に準拠) 。 かった。 表2 予想通り,エステル交換法で製造したFA-513Aは,脱水エス FA-513Aによる金属腐食性 エステル交換法品は金属腐食しない が,TCD-OTsの添加により金属腐食が起きる。 Table 2 Metal corrosion by FA-513A FA-513A by transesterification does not corrode metals, but FA-513A with TCT-OTs does corrode some kinds of metals. 品 Au 名 Ag Al 硫黄分 テル化で製造したFA-513Aよりも,低いP.I.I値を示すことが確認 できた。なお後述する表5の結果より,FA-511A,512A,513A, 314Aは,エステル交換法品のP.I.I.が脱水エステル化法品よりも 顕著に低くなっているが,FA-126Aおよびその他数種の化合物 ではほとんど差が見られなかった。この要因は,アクリレー トのアルコール残基の特性に起因するためと考えている。 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月[ppm] エステル交換法+ ○ ○ ○ ○ ○ × ○ ○ ○ 900 脱水エステル化法 ○ ○ ○ ○ ○ × ○ ○ ○ 1,300 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 1未満 TCD-OTs エステル交換法 表4 FA-513Aの皮膚一次刺激性確認結果 エステル交換法を用いるこ とにより,P. I. I.が低くなる。 Table 4 P. I. I. and sulfur content P. I. I. FA-513A by transesterification has lower sulfur than that by dehydration esterification. ○腐食なし,×腐食確認 エステル交換法 〔6〕 皮膚一次刺激性(P.I.I. Primary Irritation Index) 脱水エステル化法 P.I.I. 硫黄分[ppm] P.I.I. 硫黄分[ppm] 2.5 1未満 4.0 1,000 塗料・接着剤分野においてアクリレートを使用する際, 〔7〕 結 P.I.I.が一つの指標となる。 表3 言 エステル交換法によりアクリレートを製造するにあたって 刺激性の程度 の問題点および解決策,得られるアクリレートの特徴に関し Table 3 Classification of irritancy P.I. I. 皮膚刺激性の程度 0 刺激なし て報告した。 今般,原料低級アクリル酸エステルのポップコーン重合を 0〜2 軽度な刺激 2〜5 中程度な刺激 5〜8 激しい刺激 抑制し,エステル交換法にてアクリレートの製造をできるよ うになり,製法差からくる品質の違いを検証した。その結果, エステル交換法品は中性触媒を使用するため,製品中に硫黄 分を含まず,色相および酸価の安定性と耐金属腐食性に優れ, P.I.I.とは,皮膚への刺激・かぶれ等の指標であり,一般的 皮膚一次刺激性の低い製品が得られることが確認できた。ま にアクリレートは高いものが多い。TCD-OTsが残存する脱水 た脱水エステル化法品中に含有する硫黄分は,原料アルコー エステル化法品は,経時で腐食性物質であるPTSおよびア ルのトルエンスルホン酸エステルであり,種々問題を引き起 クリル酸を生成するためP.I.I.が高くなっていると考えられ こす原因物質であることを確認できた。 現在,表5に示した化合物を製品化し,用途分野毎にワーク る。すなわち,エステル交換法で製造されるFA-513Aは脱水 エステル化法で製造されるそれと比べP.I.I.が改善される可能 表5 中である。今後,さらに適用品種を拡大していく計画である。 新規開発品アクリレ−ト特性比較 エステル交換法品は,脱水エステル化法品と比べ優れた特性を有している。 Table 5 Characteristics of newly developed acrylate The acrylate by transesterification has better characteristics than that by dehydration esterification. 品 名 *1 FA-511A(S) *1 FA-512A(S) 製法 FA-324A FA-126A O O 構造式 FA-314A O O O O O O O O 4 O C9H19 O Om O O(CH2) 6 O n O (m + n ≒ 4) O エステル交換 脱水エステル化 エステル交換 脱水エステル化 エステル交換 脱水エステル化 エステル交換 脱水エステル化 エステル交換 脱水エステル化 保存安定剤*2 0.06→0.12 0.23→0.42 0.06→0.08 0.06→0.35 0.08→0.12 0.25→7.20 測定中 測定中 0.17→0.34 0.38→6.11 硫黄分(ppm) 1未満 1,300 1未満 200 1未満 200 1未満 50 1未満 450 金属腐食性 無 有 無 有 無 有 無 有 無 有 P.I.I. 1.8 4.3 2.2 3.7 1.8 2.7 測定中 測定中 5.0 5.5 拡販用途 *1 *2 配線版レジスト 電子・光学用塗料,接着剤 脱水エステル化により製品化されている製品は,品名末尾に 60℃(0→6ヶ月)における酸価の変化 配線版レジスト S 参考文献 応 技苑 1)高士 雄吉,村谷 俊雄: ポプコーン重合 日本文理大学紀要 第26 巻 第1号 1988.2 電子・光学用塗料,接着剤 塗料,接着剤 をつけエステル交換品として区別化 No.37 31-35 1983.10.20 3)例えば M.S.Kharasch,et al., Ing.Eng.Chem., 39,830 1947 4)辰已 正和,山本 清香:ポプコン重合における溶媒の添加効果日 2)山本 清香,辰已 正和:ビニル化合物のポプコーンポリマ生成反 本化学会誌(9) 1282-1287 1983 *本報内の測定値は保証値ではありません。 38 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) U.D.C. 621.382.049.73-493-418:621.778.021:621.793.37 ダイシング・ダイボンディング一体型テープ Dicing/Die Bonding Double Functioning Tape FH-900 松崎隆行* 稲田禎一** Takayuki Matsuzaki 畠山恵一*** Teiichi Inada Keiichi Hatakeyama 半導体パッケージの小型・薄型化,多機能化の要求に伴い,複数個の半導体素子 (チップ)を垂直方向に積層するスタックドマルチチップパッケージ(以下,スタッ )が注目されており,チップの多段積層化が検討されている。 クドMCPと略す。 チップの多段積層化において,パッケージ作製工程の複雑化,薄ウェハ搬送性の確 保といった新たな課題を解決することが急務となっている。そこで,これらの課題解 決のため,熱硬化型ダイボンディングフィルムと紫外線反応型ダイシングテープの組 み合せによるダイシング・ダイボンディング(以下,DC・DBと略す)一体型テープ 「ハイアタッチ FH-900」 (以下, FH-900 と略す)を開発した。FH-900は優れたプロ セス適性を有しており,スタックドMCPの製造プロセスにおける工数削減を実現する とともに,高いパッケージ信頼性を確保できる。 Stacked multi-chip package (Stacked-MCP), in which plural chips are stacked up, has been widely noticed and is under further development by the need for semiconductor packages being smaller, thinner, and having a higher performance. Therefore, new problems are arising by the requirements for reducing steps of manufacturing packages and maintaining easy handling of thinner wafers. We have developed HIATTACH FH-900, which is a double functioning tape composed of a thermosetting type die bonding film and a UV reaction type dicing tape, to solve these problems. FH-900 fits well to the process for manufacturing Stacked-MCPs, makes possible to reduce steps of lamination, and keeps high quality of resulting packages. 〔1〕 緒 ダイボンディングフィルムとダイシングテープの2度のラミ 言 ネート工程は工数を増加させるだけでなく,特に薄ウェハの 近年携帯電話,モバイル端末機器などに搭載されるフラッ シュメモリを始めとした半導体メモリの高集積化,高機能化 場合,工程間のウェハ搬送時にウェハダメージ(割れ,欠け) を生じやすいといった欠点を有していた。 により,複数個の半導体チップを積層するスタックドMCPの これに対しDC・DB一体型テープはラミネート工数の低減 需要が急速に伸展しており,2007年度には,生産量が1,000M のみならず,一旦ラミネートした後はウェハリングにウェハ 個/年を超えると見られている1),2)。 チップの多段積層化とともに,積載チップの大型化,薄型 化が急速に進み,100um厚以下の超薄型チップの多段積載が ラミネート (1) ラミネート (2) ダイシング 紫外線照射 ダイシング &ピックアップ ブレード ①ダイボンディング ②UV反応型 フィルム ダイシングテープ 標準化されつつある 3)。大型,薄型チップの多段積載化に伴 う技術課題としては,①薄ウェハの搬送性向上,②パッケー ジ作製工数の低減,③各種チップ厚み,チップサイズへの適 ウェハ 応性,④ダイボンディングフィルムの薄膜化,⑤高パッケー ウェハリング 〈繰り返しによる多段積載〉 ジ信頼性の確保などがあげられ,これらの技術課題を解決す ダイポンド る手段の一つとしてDC・DB一体型テープへの注目が高まっ フィルムキュア ワイヤボンド モールド ている。 従来のダイボンディングフィルムを用いたスタックドMCP フィルム物性により省略可能 の製造工程を図1に示す。表面にパターン形成したウェハの 裏面にダイボンディングフィルムをラミネートした後,ダイ シングテープを貼り合せてからウェハを所望のチップサイズ にダイシングする。ダイボンドフィルム付のチップをピック アップし,基板にダイアタッチする従来のプロセスにおいて, * 当社 半導体材料事業部 半導体材料開発部 ** 当社 先端材料研究所 図1 従来のスタックドパッケージ作製工程 ダイボンディングフィル ムとダイシングテープの2回ラミネートが必要。 Fig. 1 Conventional process for manufacturing Stacked-MCPs Two lamination steps are required for die bonding film and dicing tape. *** 当社 電子材料研究所 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 39 およびテープを固定した状態となるため,ウェハの搬送性が 〔3〕 DC・DB一体型テープの開発 向上し,ウェハダメージを生じる危険性が少なくなるといっ 3. 1 た利点がある。 ダイボンディングフィルムの開発 ダイボンディングフィルムの開発にあたり,目標物性把握 ダイボンディングフィルムメーカである当社は,このよう な市場要求に対応すべく,ダイシングテープメーカである古 のため,モデルパッケージによる反り,応力解析を実施した。 河電気工業(株)殿と技術協力を行い,DC・DB一体型テー 図3に示したモデルパッケージによる各解析結果より,一定 プの開発を行った。 量以下の反り,ストレス低減目標を設定した場合の要求特性 本報ではDC・DB一体型テープ として表1の結果が得られた。 の開発経緯とそ FH-900 解析結果より得られた要求特性を満たすために,エポキシ の特性について報告する。 樹脂と低弾性ポリマによるポリマアロイ技術を用い,低線膨 〔2〕 DC・DB一体型テープの使用プロセス 張係数,低応力の両立を目指した。ここで言うポリマアロイ DC・DB一体型テープは,後工程のほぼ全てのプロセスに 技術とは,未反応状態では相溶状態にあるエポキシ樹脂と低 関わるため,各プロセスへの適性が重要となる。図2に一体 弾性ポリマが,エポキシの樹脂の硬化反応の進行に伴い,相 型テープを使用する場合の各プロセスを示す。 分離化し海島構造を形成する反応誘起型相分離技術を指す。 ポリマアロイ技術を用いることでエポキシ樹脂の高耐熱性, ラミネート ダイシング 紫外線照射 接着性,低弾性ポリマの応力緩和性を両立することができる4)。 ピックアップ 各種エポキシ樹脂,硬化剤と低弾性ポリマの組み合せによ るワニスを作製し,フィルム化後に各物性,並びにパッケー 一体型テープ ジ信頼性を評価した結果を表2に示す。検討の結果,弾性率, 〈繰り返しによる多段積載〉 ダイボンド フィルムキュア ワイヤボンド 線膨張係数については目標値を満足するものの,パッケージ モールド 信頼性がいずれの組成でも達成できないことを確認した。 パッケージ信頼性の各評価サンプルの観察結果より,信頼 フィルム物性により省略可能 図2 性不良の原因はフィルム内における凝集破壊であることが確 一体型テープ使用時のパッケージ作製工程 認され,その凝集破壊はエポキシ樹脂と低弾性ポリマの界面 ダイボンディング フィルムとダイシングテープのラミネートが1回で終了。 に沿うように発生していることが確認された。このことから Fig. 2 Novel process for manufacturing Stacked-MCPs using double functioning tape Die bonding film and dicing tape are laminated by one step. パッケージ信頼性向上のためにナノメートル径の微細シリカ フィラ粒子を分散させるナノコンポジット技術を併用するこ ととした。具体的にはエポキシ樹脂と低弾性ポリマの界面部 分に微細なフィラ粒子を介在させることで,エポキシ樹脂と Counter Bands of Equivalent Stress Inc: Time: Counter Bands of Warpage Inc: Time: 0 0.000e+00 4.000e − 03 3.600e − 03 3.200e − 03 2.800e − 03 2.400e − 03 2.000e − 03 1.600e − 03 1.200e − 03 8.000e − 03 4.000e − 03 0.000e − 03 − 4.000e − 03 − 8.000e − 03 − 1.200e − 03 − 1.600e − 03 − 2.000e − 03 − 2.400e − 03 − 2.800e − 03 − 3.200e − 03 − 3.600e − 03 − 4.000e − 03 1.000e+02 9.500e+01 9.000e+01 8.500e+01 8.000e+01 7.500e+01 7.000e+01 6.500e+01 6.000e+01 5.500e+01 5.000e+01 4.500e+01 4.000e+01 3.500e+01 3.000e+01 2.500e+01 2.000e+00 1.500e+00 1.000e+00 5.000e+00 0.000e+00 集力の向上を図った。 その結果,ナノコンポジット技術の併用により2つの顕著 な効果が得られた。1つは図5に示した高温条件下での接着 job1 Displacement 2 job1 Equivalent Stress Vector Plot of Principal Stress Inc: Time: Molding Compound 0 0.000e+00 表1 4.000e+01 3.800e+01 3.600e+01 3.400e+01 3.200e+01 3.000e+01 2.800e+01 2.600e+01 2.400e+01 2.200e+01 2.000e+01 1.800e+01 1.600e+01 1.400e+01 1.200e+01 1.000e+01 8.000e+00 6.000e+00 4.000e+00 2.000e+00 0.000e+00 Temperature Range : − 55degC to 125degC Die パッケージ反り,応力解析モデル 解析の結果,弾性率,線膨 Table 1 Requirements for the properties of die bonding film The target values of elastic modulus and C. T. E. are obtained by the results of the analysis. 温度サイクル試験時のパッケ 項 ージ反り,応力を一定レベル以下に抑えるフィルム物性の解析に用いた。 Fig. 3 Package model to analyze warp and stress This model is used to find suitable properties of die bonding film to make warp and stress smaller than designated levels in heat cycle test. 表2 ダイボンディングフィルム要求物性 張係数の目標値が得られた。 Substrate Die Bonding Film 3-Dimensional FEM Model job1 Principal Stress Max 図3 低弾性ポリマの界面部分を複雑化し,アンカー効果による凝 0 0.000e+00 試作フィルムの組成,物性,およびパッケージ信頼性評価結果 目 単 目標設定 位 反り量 <10um 応力 <20MPa 弾性率 MPa <200 <1800 線膨張係数 ppm/℃ <200 <150 フィルム物性は目標値を達成したものの,パッケージ信頼性は目標到達できず Table 2 Contents, properties, and results of reliability test of trial products The properties satisfied the target values, though reliability didn't. サンプル 組 1 2 3 4 5 6 エポキシ樹脂 A A,B併用 B A A,B併用 B 硬化剤 C C C D D D 成 低弾性ポリマ フィルム物性 パッケージ信頼性 (耐リフロー性) 40 弾性率 線膨張係数 265℃ 240℃ E E E E E E MPa 160 170 170 160 170 180 ppm/℃ 80 90 110 80 95 120 レベル2 × × × × × × レベル3 × × ○ × × × レベル2 × ○ ○ × ○ ○ 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 応型のダイシングテープはポリオレフィンからなるダイシン ナノフィラ エポキシ樹脂 グ基材の上に紫外線反応型の粘着層を有するもので,紫外線 照射により粘着層のポリマ化が進み,粘着層のタック性が低 ナノコンポジット 技術の併用 低弾性ポリマ 下するものである。従来ダイボンディングフィルムとダイシ エポキシ樹脂/低弾性 ポリマの界面にフィラ介在 10µm 10µm ングテープを別個に使用したパッケージ作製プロセスにおい ては,ダイボンディングフィルムを貼り合せたウェハをダイ シングする際には,この紫外線反応型のダイシングテープが 一般的に用いられていた。 (1) ダイシング適性評価結果 ダイシング工程においてダイシング時にチップ飛び等が発 破断面が複雑化 生しないために,ウェハとダイボンディングフィルム層の十 微細フィラ混合によりエポキシ/ 分な密着力が必要となる。各ラミネート温度におけるダイボ 破断面が平滑 図4 ナノコンポジット技術の併用 低弾性ポリマの界面が複雑になり,凝集力が向上する。 ンディングフィルムとウェハ密着力の評価結果を図7に示 Fig. 4 Technology of mixing micro filler Cohesion of die bonding film becomes stronger as the surface between epoxy and low elastic modulus polymer is complicated by mixing of filler. す。ラミネート温度が上昇するに伴い,ウェハ密着力が向上 し,60℃以上の温度領域でダイシング時のチップ飛びが発生 しないことを確認した。 250 120 ナノフィラ未含有品 200 ダイシング時の チップ飛びなし ウェハ密着力(N/m) 接着強度(N/m) 100 150 ナノフィラ含有品 100 50 80 60 40 20 *240℃条件下 0 0.0 2.0 4.0 0 6.0 0 20 40 60 80 100 120 ラミネート温度(℃) 弾性率(MPa) 図5 ポリマアロイ+ナノコンポジット技術の併用効果(1) ナノフィラ 含有品はフィルム凝集力の向上により高温条件下での接着性に優れる。 図7 Fig. 5 Effect of mixing micro filler and polymer alloy technology (1) Adhesion strength under high temperature becomes higher by mixing micro filler. Fig. 7 Relationship between lamination temperature and adhesion strength between die bonding film and wafer By increasing lamination temperature, adhesion strength increases. 10,000 メタルハライド高圧水銀灯を用い,各照度条件下で紫外線 100 10 0.1 プ 間 の 剥 離 強 度 を 図 8 に 示 す 。 2 0 m W / c m 2以 上 の 照 度 で ナノフィラ 含有品 200mJ/cm2以上の積算照射量であれば剥離強度は紫外線照射 前に比べ大幅に低下し,ダイボンディングフィルム付のチッ プが容易にピックアップできることを確認した。 ナノフィラ 未含有品 0 50 100 温度(℃) 150 ポリマアロイ+ナノコンポジット技術の併用効果(2) ナノフィラ 混合品はBステージ状態の弾性率を向上させ,ワイヤボンディング温度領域でも 一定硬さを確保できるため,ワイヤボンディング前のフィルム熱硬果処理が不要。 Fig. 6 Effect of mixing micro filler and polymer alloy technology (2) Mixing micro filler enables to reduce step of curing film before wire bonding by increasing elastic modulus of B-stage film under high temperature. 性向上であり,目的であったパッケージ信頼性を確保するこ ダイボンドフィルム/ ダイシングテープ間密着力(N/25mm) 弾性率(MPa) を照射した後のダイボンディングフィルムとダイシングテー 1 2 1.8 1.6 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 とができた。もう1つは図6に示したBステージ状態のフィル ィルムキュアが不要になり,多段積載におけるプロセスの大 幅短縮の目処がついた5)。 20mW/cm2 50mW/cm2 80mW/cm2 0 100 200 300 400 500 600 紫外線照射量(mJ/cm2) ム弾性率の最適化であり,ワイヤボンディング工程の前にフ 3. 2 ラミネート温度が上昇す (2) ピックアップ適性評価結果 1,000 図6 ラミネート温度とウェハ密着性の関係 るに従い、ウエハ密着性は向上する。 図8 紫外線照射後のダイボンディングフィルム/ダイシングテープ間 の剥離力評価結果 紫外線照射によりダイボンディングフィルムとダイシング テープ間の剥離力が大幅に低下し,ピックアップ可能となる。 一体型テープのプロセス検討 一体型テープとして組み合わせるダイシングテープとし て,紫外線反応型のダイシングテープを選択した。紫外線反 Fig. 8 Adhesion strength between die bonding film and dicing tape after UV irradiation Adhesion strength decreases by UV irradiation. 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 41 (3) 埋め込み性評価結果 が十分低下せず,ピックアップ不良発生の原因となる。図10 本開発品は,被着体とダイボンディングフィルムの密着性 に無紫外線並びにクリーンルーム環境(温度25℃,湿度 を封止樹脂充填時の圧力と温度で確保するプロセスを採用し ダンボインドフィルム/ ダイシングテープ間密着力(N/25mm) ている。特に多段積載のスタックドMCPにおいては,最下段 のチップ/基板間に用いられる接着剤層部分はワイヤボンディ ング他の熱履歴を最も長く受けるため,ダイボンディングフ ィルムの硬化に伴う基板表面の配線段差埋め込み不足が懸念 される。本開発品はこのような熱履歴を考慮し,熱処理時の フィルム硬化反応を制御し,多段積載時の熱履歴を受けても 封止材充填時に十分な埋め込み性が確保できるように設計し ている。従来,この用途で用いられていたダイボンディング フィルム:HS-230シリーズと本開発品の熱処理後の埋め込み 0.7 0.6 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0 10 20 に示す。開発品は,ワイヤボンディング時の熱履歴を長時間 170℃/30 分 積算照射量:200mJ/cm2 0.5 性について,MAP-CSP基板を用いて比較評価した結果を図9 170℃/10 分 照度:20mW/cm2 ピックアップ 不良発生領域 30 40 50 60 70 経過日数 170℃/60 分 図10 ダイボンディングフィルム/ダイシングテープ間の剥離力(ワー クライフ評価結果) 室温放置条件下では徐々にダイボンディングフィルム, 埋め込み不足 部分 ダイシングテープ間の密着性が向上する傾向にある。 HS-230 Fig. 10 Adhesion strength between die bonding film and dicing tape after UV irradiation (results of work life evaluation) Adhesion strength increases with storage under room temperature. 50%RH)下での紫外線照射後の剥離強度の評価結果を示す。 FH-900 評価の結果,60日を経過してもピックアップ性に影響を及ぼ 埋め込み性 良好 すと思われる剥離強度の限界以下であることが確認できた。 本開発品:FH-900の一般特性を表3に示す。プロセス適性, パッケージ信頼性のいずれの面でも良好な結果が得られた。 〔4〕 結 図9 埋め込み性評価結果 言 FH-900は多段積載を想定したワイヤボンディ 多段積載のスタックドMCP用途にDC・DB一体型テープ, ングの熱履歴を受けても,良好な埋め込み性を確保している。 Fig. 9 Gap filling capability FH-900 shows a good gap filling performance after several times of heating that is used in wire bonding step of manufacturing Stacked-MCPs. FH-900を開発した。FH-900をチップ/基板間並びにチップ/チ 受けても埋め込み性が損なわれないことがわかった。 いだけでなく,パッケージ信頼性向上にも貢献できる。今後 (4) ワークライフ評価結果 ップ間に適用した場合,ワイヤボンディング前のフィルムキ ュアを省略できることから,プロセス短縮のメリットが大き はさらなる多段積載用の一体型テープの開発,同サイズチッ 一体型テープが受ける環境影響として,室温以上の温度環 境下で徐々にダイボンディングフィルムとダイシングテープ プを積載するスタックドMCP向けの新規プロセス対応テープ 等の開発を行っていく予定である。 の密着力が高くなり,紫外線を照射しても両者間の剥離強度 表3 FH-900の一般特性 FH-900は良好なプロセス適性,パッケージ信頼性を確保している。 Table 3 Properties of FH-900 FH-900 fits well to the process and shows high reliability. 項 目 単 弾性率 パッケージ信頼性 線膨張係数 耐リフロ−クラック性 ダイシング性 ウェハ密着性 ピックアップ性 ダイボンディングフィルム/ ダイシングテープ間の剥離力 位 特 性 備 ※ MPa 230 DVE ppm/℃ 120 TMA ― レベル2 N/m >50 N/mm 考 弊社評価基板による ラミネート温度60℃以上 UV照射前 1.8/25 メタルハライド高圧水銀灯 UV照射後 0.1/25 >20mW/cm2,200mJ/cm2 プロセス短縮 フィルムキュアの有無 ― キュアレス ワークライフ ピックアップ可能日数 日 60 ワイヤボンディング性への影響なし 弊社評価結果による ※特性値は代表値であって保証値ではありません 参考文献 1)大内:後工程と半導体材料の現状と動向,2005 大全 2)半導体産業新聞 半導体材料技術 3)銅谷:実装技術と実装材料の変遷と展望,機能材料 2004/8.4 4)稲田,他:ネットワークポリマー, vol.25,No.13 5)松崎,他:コンバーテック, vol.365,2003年8月号 42 2005年2月 号 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) (2004) U.D.C. 621.382.049:621.315.616.032.5:546.12:661.174:678.632.043:678.686 難燃剤フリー系ノンハロゲン封止材 Non-hologen and Retardant Free EMC 池澤良一* Ryouichi Ikesawa 林 智弘* Tomohiro Hayashi 石黒 正* Tadashi Ishiguro 赤城清一* Seiichi Akagi 環境問題の観点から半導体業界においてノンハロゲン封止材の要求がある。UL-94 V-0を達成する難燃剤フリー系封止材を開発することを目的に,難燃性に影響を与え る支配要因を把握し,本要因を生み出す機構を見出して,これを封止材構成要素にフ ィードバックするというアプローチを試みた。その結果,硬化樹脂と充填剤が支配要 因に重要な役割を果たしていることを把握し,これをもとにして目的とする各種難燃 剤フリー系封止材CEL-HF-10シリーズを開発した。 Non-halogen epoxy molding compounds (EMCs) are needed because of environmental problems in the semiconductor industry. We found an approach for understanding the characteristics that influence flame retardants, as well as the mechanism that determines these characteristics. We then applied this knowledge to the EMC component to develop a flame retardant free system for EMCs that achived UL-94 V-0 designation. As a result, we found that the cross linking resin and the filler play an important role in the factors, and developed various flame retardant free systems in a CEL-HF-10 series of EMCs. 〔1〕 緒 工夫と最適化がキーポイントとなる。 言 そこで,筆者らはUL-94 V-0を達成する難燃剤フリー系封止 近年全世界的に持続的発展型社会への転換気運が高まり, 材を開発することを目的に,難燃剤を含有しない封止材につ 半導体業界においても環境調和への取り組みが活発になって いて,主に樹脂と充填剤に着目して,難燃性に影響を与える いる。ヨーロッパではWEEE,RoHS指令による電気電子機器 支配要因を把握し,本要因を生み出す機構を見出して,これ についての環境法規制の積極的な動きが見られ,WEEE指令 を封止材構成要素にフィードバックするというアプローチを には回収廃棄物から除去されるものとして臭素系難燃剤を含 試みた。その結果,目的とする各種難燃剤フリー系封止材 むプラスチックの記述があり,ハロゲン含有部材の使用を避 CEL-HF-10シリーズを開発するに至ったのでここに報告する。 ける動きが出てきている1)2)。このような背景のもと,半導体 パッケージに使用される封止材に関してもノンハロゲン化が 求められている。 〔2〕 封止材樹脂の難燃性支配要因 分子構造の異なる各種エポキシ樹脂,フェノール樹脂系硬 ノンハロゲン化の手法としては各種非ハロゲン系難燃剤の 化剤を組み合わせて難燃剤を含有しない封止材を数種作製 使用があるが,信頼性の低下が懸念されるため,このような し,UL-94試験を実施した。この時,作製した封止材の樹脂 代替難燃剤を使用しない,難燃剤フリー系封止材が強く要望 以外の組成は統一し,硬化樹脂が難燃性におよぼす影響を把 されている。封止材は図1に示すように,エポキシ樹脂,硬 握することを試みた。 化剤の熱硬化性樹脂と充填剤を主成分として構成されるた UL-94試験の結果,樹脂の違いにより,封止材の難燃性に め,難燃剤を用いずに難燃化を図るためには,これら成分の 優劣が現れた。燃焼試験後の試験片表面を観察したところ, 難燃性の優劣と表面形態に関係があることを見出した。図2 に試験片断面のSEM写真を示す。難燃性が良好で自己消火性 エポキシ樹脂(5〜20wt%) を示す封止材B,Cは内部にガスを含むと予想される表面膨張 硬化剤(3〜10wt%) 層の形成が観察された。これに対し,自己消火性を示さず, 硬化促進剤(<1wt%) 充填剤(70〜90wt%) 離型剤(<1wt%) 低応力剤(<5wt%) その他添加剤(<2wt%) 難燃性に劣る封止材Aは表面膨張層の形成は見られず,表面 近傍に内部からガスが噴出した亀裂が観察された。以上のこ とから難燃剤を含有しない封止材の難燃性支配要因のひとつ として①表面膨張層の形成があげられると考えた。上記封止 材で表面膨張層形成の有無を硬化樹脂の橋架け密度で類別す 図1 封止材の基本組成 封止材はエポキシ樹脂,硬化剤の樹脂成分と充 ると,形成するもの(封止材B,C)は硬化樹脂の橋架け密度 填剤を主成分とする。 の低いもの,形成しないもの(封止材A)は橋架け密度の高 Fig. 1 Basic composition of EMCs The principal ingredients of EMCs are epoxy resin, a curing agent, and filler. いものであった。 * 当社 半導体材料事業部 封止材開発グループ 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 43 難燃性 低 高 封止材B 封止材C 封止材A (総残炎時間:クランプ) (総残炎時間:150s) (総残炎時間:70s) 2mm 表面 膨張層 図2 難燃性と封止材燃焼後表面状態 の関係1(断面) UL-94難燃性の支配要 因の一つは表面膨張層の形成である。 30μm 表面に亀裂 低 均質性 高 UL-94難燃性の支配要因①:表面膨張層の形成 低 難燃性 Fig. 2 Relationship between flame retardant and state of surface after flame of EMC (Section) One of the characteristics of the UL-94 flame retardant is the formation of a surface expansion layer. 高 封止材B 封止材C 封止材A (総残炎時間:クランプ)(総残炎時間:150s) (総残炎時間:70s) 1mm 低 均質性 高 因の一つは均質な表面膨張層の形成である。 Fig. 3 Relationship between flame retardant and state on surface after flame of EMC (Surface) One of the characteristics of the UL-94 flame retardant is the formation of a homogeneous surface on the expansion layer. 表面 膨張層 UL-94難燃性の支配要因②:均質な表面膨張層の形成 次にUL-94試験後の試験片表面を観察した結果を図3に示 図3 難燃性と封止材燃焼後表面状態 の関係2(表面) UL-94難燃性の支配要 粘弾性測定,熱分解ガスクロマトグラフィー測定を実施した。 す。最も難燃性の良好であった封止材Cは表面に欠陥が無く, 図4に前記3種封止材樹脂硬化物(充填剤非含有)の動的粘 その断面(図2参照)を観察しても,表面膨張層を形成する 弾性測定の結果を示す。燃焼時に表面膨張層を形成した封止 膜が非常に均質であることがわかった。これに対し,表面膨 材B,Cの樹脂硬化物は350〜500℃の温度範囲で貯蔵剛性率 張層を形成しても難燃性が劣る封止材Bは表面に亀裂の発生 が大きく低下していることがわかる。これに対し,表面膨張 が確認され,また断面観察(図2参照)からは表面膨張層を 層を形成しなかった封止材A樹脂硬化物は同温度範囲にて貯 形成する膜の均質性が前者よりも劣ることがわかった。以上 蔵剛性率の低下が前二者に比較して小さい。高分子材料は燃 のことから難燃剤を含有しない封止材のもうひとつの難燃性 焼時,その表面は約600〜700℃に達するとされている3)。し 支配要因として②均質な表面膨張層の形成があげられると考 かし内部に向かうにしたがい温度は低下し,高分子が分解, えた。これら封止材の硬化樹脂の違いは,封止材Cが橋架け 再橋架けを起こしている凝縮相と呼ばれる部分は約300〜 点間分子量の大きい多官能性エポキシ樹脂を使用したもので 600℃となっているものと予測される4)。この凝縮相における あるのに対し,封止材Bが2官能性エポキシ樹脂を使用したも 剛性率(弾性率)の低下度合いにより,内部から発生するガ のであった。 スによる表面膨張層の形成,非形成が分かれるのではないか 武田らは高分子材料の難燃化は,A)燃焼輻射熱の遮断,B) と考えた。本実験結果からは,支配要因①表面膨張層の形成 内部伝熱の抑制,C)分解生成物の固体内拡散の抑制,D)分 には凝縮相での貯蔵剛性率が樹脂硬化物として少なくとも 解生成物の気相拡散の抑制,のいずれかを成せば達成される 10MPa以下となることが必要であることがわかった。またこ としているが 3),前記①表面膨張層の形成はB)内部伝熱の抑 のような剛性率(弾性率)の低下を発現させるためには,封 制,②均質な表面膨張層の形成はD)分解生成物の気相拡散 止材B,CとAの硬化物構造の違いを考慮すると,樹脂硬化物 の抑制にそれぞれ効果があるものと考えられる。 の橋架け密度を低減することが有効であると考える。 〔3〕 封止材樹脂の難燃性支配要因発現機構 前記2つの難燃性支配要因 の 発現機構把握を目的に,動的 44 次に図5に封止材B,C樹脂硬化物の熱分解ガスクロマトグ ラフィー測定の結果を示す。表面膨張層を形成した封止材B, C樹脂硬化物では,凝縮相温度(500℃) ,表面層温度(700℃) 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 表面 膨張層 貯蔵剛性率(Mpa) 凝縮相 40 30 封止材A 封止材A 高架橋密度系 (多官能エポキシ系) 高架橋密度系 (多官能エポキシ系) 封止材C 低架橋密度系 (多官能エポキシ系) 20 10 0 350 低架橋密度系 封止材B (2官能エポキシ系) 400 450 500 温度(℃) 550 図4 性率 封止材B 低架橋密度系 (2官能エポキシ系) 性率化が必要であり,そのためには樹脂硬 化物の橋架け密度を低減することが有効で 封止材C 600 ある。 低架橋密度系 (多官能エポキシ系) Fig. 4 Modulus of condensed phase when cross linking resin is resolved The decreasing modulus of the condensed phase is necessary for the formation of the surface expansion layer, and it is effective to decrease the cross linking density of the resin. 表面膨張層の形成(要因①) 凝縮相の低弾性率化 硬化物の架橋密度低減 低 難 燃 性 高 封止材B 低架橋密度系 (2官能 エポキシ系) 凝縮相温度 封止材B 低架橋密度系 (2官能 エポキシ系) 樹脂硬化物分解時の凝縮相の弾 表面膨張層の形成には凝縮相の低弾 表面層温度 2官能エポキシの脱離 2官能エポキシの脱離 低架橋密度系 低架橋密度系 (多官能 (多官能 残渣 タール 残渣 エポキシ系) ガス タール エポキシ系) ガス 封止材C 0% 50% 100% 50% 100% 封止材C 0% 図5 樹脂硬化物分解時のガス成分お よびガス量 均質な表面膨張層の形成に ・表面膨張層の過剰な膨張 2官能エポキシの脱離⇒ ・表面層の均質性の低下 は発生ガス量の低減が必要であり,そのた めには多官能性樹脂の適用が有効である。 燃焼 均質な表面膨張層の形成(要因②) Fig. 5 Element and amount of gas when cross linking resin is resolved A decrease in the amount of gas generated is necessary for the formation of a homogeneous surface expansion layer, and applying of multi-functional resin is effective. 発生ガス量の低減 両者ともに難燃性の劣る封止材B樹脂硬化物の方が,ガス発 生量が多いことがわかる。凝縮相においてガス発生量が多い 〔4〕 封止材充填剤の難燃性支配要因とその発現機構 と表面膨張層内部の圧力が高くなり,表面膨張層が過剰に膨 封止材の構成成分の約70〜90wt%は充填剤である。図2に 張し,形成された膜に亀裂を与える可能性が高くなると考え 示した表面膨張層の断面観察においてもその膜中には充填剤 られる。また,表面膨張層を形成する膜中においてガス発生 が存在することが確認できる。よって樹脂とともに充填剤も 量が多いと,形成された膜の樹脂残渣が少なくなり,均質性 難燃性の支配要因にとって大きな役割を果たしているものと が低下すると考えられる。さらに,ガス発生量の多かった封 考えた。そこで,次にベース樹脂を固定して充填剤の種類を 止材B樹脂硬化物についてガス成分を同定した結果,図5に 変え,充填剤が難燃性におよぼす影響を把握することを試み 示すように,2官能性エポキシ樹脂の脱離成分の量が多いこ た。今回は充填剤について,封止材で最も多く使用されてい とがわかった。エポキシ樹脂とフェノール樹脂が反応して生 る球状溶融シリカを選択し,UL-94試験と充填剤の各種パラ 成するグリシジルエーテルとフェノール性水酸基の結合部位 メータとの関係を検討した。その結果,同一充填剤量の場合, は耐熱性が低く,熱により解裂しやすい。解裂後,この部位 封止材の難燃性は溶融シリカのある種の特性(以後,パラメ はガス化又は環化を起こすため,主鎖は残渣中に残存するも ータAと表現する)と良い相関関係があることを見出した。 のもあるが4)5)6),1分子中に2箇所しか結合部位が無いエポキ 図6に溶融シリカのパラメータAと難燃性(総残炎時間)の シ樹脂の場合,解裂後,主鎖は環化反応の前に脱離し,ガス 関係を示す。本関係より溶融シリカのパラメータAが小さい 化を起こしやすいのではないかと考えられる。以上のことか ほど,難燃性が良好となることがわかった。 ら支配要因②均質な表面膨張層の形成にはガス発生量の低減 次に図7に各種パラメータAの溶融シリカを使用した封止 が必要であり,そのためには多官能性樹脂の適用が有効であ 材の,UL-94試験後の試験片断面のSEM写真を示す。難燃性 ると考える。しかし,最近の検討では2官能性エポキシ樹脂 が良好で,UL-94 V-0となったパラメータA 1.0の溶融シリカ であっても,分子構造の工夫により,ガス発生量を抑制し, を使用した封止材は厚い表面膨張層を形成していることがわ 難燃性が良好となることも見出している。 かる。しかし,パラメータAが大きくなるに従い,表面膨張 層の厚みは低下し,パラメータAが 7.0の溶融シリカを使用し 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 45 小 パラメータA 大 300 規格外 総残炎時間(秒) 250 200 樹脂系は 低架橋密度系 (2官能エポキシ 系)に統一 150 試験片 断面観察 (図7) V-1 100 50 0 図6 充填剤パラメータAが難燃性に およぼす影響 難燃性は充填剤のパラメ V-0 V-0 1.0 3.0 7.0 ータAと良い相関関係がある。 パラメータA Fig. 6 Influence that parameter A exerts on flame retardant Flame retardant and parameter A have a high correlation. 難燃性は充填材のパラメータAと相関関係有り 小 パラメータA 1.0 パラメータA V-0 パラメータA 3.0 大 V-1 パラメータA 7.0 規格外 図7 充填剤パラメータAと封止材燃 焼後表面状態の関係(断面) 充填剤 のパラメータAが小さいほど,表面膨張層が 500μm 厚い表面膨張層 厚 表面膨張層 薄 高 難燃性 低 厚くなり,難燃性が良好となる。 Fig. 7 Relationship between parameter A of filler and state on surface after flame of EMC (Section) The surface expansion layer thickens caused by parameter A of small filler, and an excellent flame retardant is achieved. た封止材では表面膨張層の形成がほとんど見られなかった。 その温度領域での弾性率も低い。この差が表面膨張層の厚み 前記したように表面膨張層の形成は難燃剤を含有しない封止 の差に反映されているのではないかと推測される。溶融シリ 材の難燃性支配要因の一つであるが,その厚みが大きいほど, カのパラメータAと封止材弾性率低下温度の関係は未だ不明 断熱効果が大きく,難燃性が良好となる。以上のことから難 であるが,今後これを解明していきたいと考える。 燃性支配要因①表面膨張層の形成,特に厚い表面膨張層の形 成には,充填剤の観点からはパラメータAの小さい溶融シリ カを使用することが有効であると考えられる。 〔5〕 難燃性発現のまとめ 図9に難燃剤を含有しない封止材の難燃性支配要因とその 図8に各種パラメータAの溶融シリカを使用した封止材の 発現機構のまとめを示す。この図から難燃性支配要因とその 動的粘弾性測定の結果を示す。表面膨張層を形成するパラメ 発現機構および封止材構成要素へのフィードバックに分けて ータA 1.0および3.0の封止材は約300℃から貯蔵剛性率が低下 まとめると以下のようになる。 しているのに対し,表面膨張層を形成しないパラメータA 7.0 支配要因①:表面膨張層の形成 の封止材は約350℃から低下している。ここで,本封止材の →発現機構:凝縮相の弾性率低減 ベース樹脂として使用した硬化樹脂自体の熱分解開始温度 弾性率低下開始温度と樹脂分解温度のマッ (ガス発生開始温度)を測定した結果,約300℃であることが 判明した。以上のことから表面膨張層を形成するためには封 チング →樹 止材の弾性率低下開始温度とベース樹脂の分解開始温度が近 脂:硬化物橋架け密度の低減 接していることが必要であると考えた。逆にベース樹脂の分 充填剤:パラメータAの低減 支配要因②:均質な表面膨張層の形成 解開始温度よりも封止材弾性率低下温度が高い場合は,樹脂 →発現機構:ガス発生量の低減 分解によりガスが発生しているにも関わらず,系の弾性率が →樹 脂:多官能性樹脂の使用 低下しないために表面膨張層を形成できないものと考えられ 難脱離性2官能性樹脂の使用 る。また,厚い表面膨張層を形成するパラメータA 1.0の封止 上記知見を生かし,またカップリング剤等の最適化を実施 材は3.0の封止材と比較して弾性率低下温度が若干低く,また して筆者らは表1に示す各種難燃剤フリー系封止材HF-10を 46 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 弾性率(MPa) 25 低パラメータA 樹脂熱分解開始と 同時に弾性率低下 パラメータA7.0 規格外 20 パラメータA1.0 V-0 15 樹脂分解と系の 弾性率低下の マッチングが重要 10 5 図8 封止材硬化物分解時の凝縮相の 弾性率 表面膨張層の形成には凝縮相の低 弾性率化が必要であり,そのためには充填 パラメータA 3.0 V-1 剤のパラメータAを低減することが有効であ 弾性率低下開始温度 0 250 樹脂硬化物の 熱分解開始温度 (可燃性ガス発生) 300 350 400 450 る。 500 Fig. 8 Modulus of condensed phase when cross linking resin of EMC is resolved A decreasing modulus of the condensed phase is necessary for the formation of the surface expansion layer, and it is effective to decrease parameter A of the filler. 温度(℃) 充填剤のパラメータA低減 表面膨張層の形成(要因①) ・硬化物架橋密度 ・充填剤パラメータA 要因1 表面膨張層 の形成 ・発生ガス量 要因2 均質な表面層 の形成 有 無 有 消火 無 炭化層 図9 難燃剤フリー系封止材の難燃性 支配要因まとめ 難燃性におよぼす各支 燃焼 燃焼 配要因と発現機構の関係を表す。 ・断熱効果低い ・可燃性ガスの直接噴出 表1 Fig. 9 Summary of characteristics of flame retardant free system The relationship between the characteristics and the appearance of each mechanism on the flame retardant is shown. 可燃性ガスの噴出 日立化成のノンハロゲン封止材 各種パッケージに適応可能な難燃剤フリー系封止材CEL-HF-10と他のノンハロゲン封止材のラインナップを示す。 Table 1 Non halogen EMCs of Hitachi Chemical Co., Ltd. The lineup of flame retardant free systems in a CEL-HF-10 series of EMCs and other non-halogen EMCs that can adjust to various packages is shown. FR PKG BGA/CSP Items HF 9 series Warpage MSL CEL-9600HF9 BOC Warpage MSL T/LQFP/TSOP MSL QFN/BCC Warpage MSL QFP/SOP/PLCC MSL TRS MSL NA HF 13 series HF 10 series CEL-9500HF13 CEL-9700HF10 CEL-9600HF13 CEL-9700ZHF10 CEL-410HF13 CEL-9750ZHF10 CEL-1702HF13 CEL-9200HF13 HF 16 series HF 17 series NA CEL-9240HF10 NA CEL-9200HF10 CEL-9200HF9 CEL-1702HF13 CEL-9210HF10 CEL-9220HF9 CEL-9040HF13 CEL-9220HF10 CEL-9200HF13 CEL-9221HF10 CEL-9220HF13 CEL-9240HF10 CEL-1702HF9 CEL-9510HF10 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) CEL-9050HF16 CEL-1702HF16 CEL-1700HF16 CEL-1700HF17 CEL-1702HF17 CEL-4630HF17 CEL-3600HF17 47 開発した。また,難燃剤フリー系以外にも,各種パッケージ に対応できるノンハロゲン封止材として,有機リン系(HF-9) , 金属水酸化物系(HF-13,16,17)封止材も開発し,それぞ れ上市しており,これらは当社のノンハロゲン封止材の主力 となっている。 〔6〕 結 言 UL-94 V-0を達成する難燃剤フリー系封止材を開発すること を目的に,難燃性に影響を与える支配要因を把握し,本要因 を生み出す機構を見出して,これを封止材構成要素にフィー ドバックするというアプローチを試みた。その結果,支配要 因は①表面膨張層の形成,②均質な表面膨張層の形成であり, 硬化樹脂と充填剤が本支配要因に重要な役割を果たしている ことを把握し,これをもとにして目的とする各種難燃剤フリ ー系封止材CEL-HF-10シリーズを開発した。 参考文献 1)日本機械輸出組合,WEEE Handbook V,2003年 2)化学技術戦略推進機構,Q&A エレクトロニクスと高分子,436- 439(2004) 3)武田邦彦:プラスチック技術セミナー ポリマーの難燃化技術, 日 本合成樹脂技術協会 (2000) 4)Sergei V. Levchik :Polymers for Advanced Technologies,. 6, 53-62 (1994) 5)Sergei V. Levchik :Polymer Degradation and Stability,. 48, 359370 (1995) 6)高分子学会:先端高分子材料シリーズ2,高性能芳香族系高分子 材料, 丸善⑭ (1990) 48 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) U.D.C. 628.3:681.3.02:641.51/.54:663.11:664.3:535.317.25 油分解能を有する微生物を用いた厨房廃水処理システム Kitchen Wastewater Treatment System using Microorganisms Active in Oil Degradation 喜田義一* 冨安雅樹* Yoshikazu Kita Masaki Tomiyasu 近山憲幸* Noriyuki Chikayama 篠沢隆雄** Takao Shinozawa 厨房廃水処理に油分解能を有する微生物(油分解菌)を用いる方法は,油を分離する システムであるグリストラップや加圧浮上装置よりも環境に配慮したシステムである と言われている。当社オリジナルのバイオ製剤「グリスパックマン」は,土壌や河川 水等を集積培養し,その培養液から単離した油分解菌N12-111を製品化したものであ る。N12-111の油分解性能が他の油分解菌や他社のバイオ製剤と比較して高いこと , 同定試験や動物実験により生体に対して安全な細菌であることを確認した。 グリスパックマンを用いた厨房廃水処理システムを加圧浮上装置が設置されていた 実際の厨房廃水処理施設に導入した。その結果,産業廃棄物である油泥の堆積がほと んどないこと,その処理水が下水道排除基準を満足できる水質まで浄化されているこ とを実証した。また,オゾン曝気を併用することで,油分解性能が向上することを確 認し,適用範囲を拡大させた。 Using microorganisms that are active in oil degradation for kitchen wastewater treatment is better for the environment than using grease traps and the dissolved air flotation method, which only separate oils. Our original bio-preparation, Gurisupakkuman ,uses oil-degrading bacteria N12-111 isolated from soil and river water. We confirmed the oil-degrading ability of N12-111 was higher than that of other oil-degrading bacteria isolated and prepared by other companies. Then we confirmed by identification, examination, and animal experimentation that N12-111 was safe for human contact. Kitchen wastewater treatment systems using Gurisupakkuman were introduced into actual wastewater treatment facilities that previously used the dissolved air flotation method. As a result, oil-sludge and industrial waste minimally accumulated, and the treated water qualified for the oil-degrading performance of our system using ozone aeration, and expanded the range of application. 〔1〕 緒 増加している中で,産業廃棄物の処理は大きな課題といえる。 言 厨房廃水等に含まれる油の除去に油分解能を有する微生物 厨房や食品工場等から排出される廃水には,多量の油(こ (油分解菌)を利用するシステムは,油を分解するという点 こでは動植物性油を示す)が混入しており,排出先の下水道 で,従来の油を分離するシステムであるグリストラップや加 の管路閉塞や浄化槽の水質悪化等の問題が起きている。一般 圧浮上装置よりも,環境に配慮したシステムであると言われ 的に,多量の油が混入すると予想されている廃水経路にはグ ている。近年,当社でも他社のバイオ製剤(油分解菌や酵素 リストラップや加圧浮上装置等の油を除去する施設(除害施 等)を利用した廃水処理施設を維持管理することが多くなっ 設)が設置されている。しかし,グリストラップ等の小型の てきた。しかし,他社のバイオ製剤は全てブラックボックス 除害施設では,計画値を大幅に超える油の流入や,管理不良 に包まれており,適切な管理ができないのが現状である。そ 等の問題で,適切な処理が行われていないのが現状である1)。 こで,当社オリジナルの油分解菌を用いた厨房廃水処理シス また,グリストラップや加圧浮上装置は,油を水との比重 差を利用して分離する施設であり,分離された油泥(油と汚 テムの開発に着手した。 本報は,高性能油分解菌の探索から,油分解菌の単離,細 泥の固まり)を産業廃棄物として処分しなければならない。 菌の安全性の確認,油分解性能の評価を経て,実施設での油 近年,ISO14001(国際標準化機構が認証する環境マネジメン 分解性能を実証したグリスパックマンを用いた厨房廃水処理 トシステムの基準)やゼロ・エミッションを推進する企業が システムの開発に関するものである。 * 日立化成メンテナンス 開発技術部 ** 早稲田大学大学院教授(前群馬大学工学部教授) 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 49 〔2〕 油分解のしくみ 2. 1 動植物油の構造 動植物油の大部分がトリアシルグリセロールの混合物,す なわちグリセリンの脂肪酸トリエステルで構成されており, 非極性,水に不溶である。図1にトリアシルグリセロールの 構造を示す。 油の基本的な性質は,グリセリンと結合する脂 肪酸の種類によって決まる2)。 H2C O R1 C 図2 O HC O 油分解菌を植え付けたVictoria Blue寒天培地の呈色状況 培養温度30℃,培養時間24時間。コロニー周囲が青く呈色している。 C Fig. 2 Color reaction of Victoria Blue agar plate with oil-degrading bacteria The color around the colony became blue after culturing for 48 hours at 30℃. R2 O H2C O R3 C 〔4〕 油分解菌の性能評価 O 図1 トリアシルグリセロールの構造 4. 1 Rはアルキル基を示す。 識別培地による油分解性能の評価 単離した油分解菌のうち,油分解性能が高いと思われる菌 株を素早く選定するために,市販のサラダ油,バター,牛脂, Fig. 1 Structure of triacylglycerol ラードを基質とした,Victoria Blue 寒天培地を用いて,コロ ニーの成長性,培地の呈色状況等から,油分解性能を評価し 2. 2 た。表1に油分解菌によるサラダ油,バター,牛脂,ラード トリアシルグリセロールの分解 トリアシルグリセロールは難分解性有機物であり,生物は 酵素を産生して,トリアシルグリセロールをグリセリンと脂 の分解性能を示す。その結果,N12-111等,油分解性能が高 いと思われる菌株を10種類まで選定した。 肪酸に分解する。グリセリンと脂肪酸は,最終的に水と二酸 化炭素まで分解され,生物のエネルギー源となる。 油分解菌によるサラダ油,バター,牛脂,ラードの分解性能 Table 1 Degradation activity of salad oil, butter, suet, and lard by oildegrading bacteria 〔3〕 高性能油分解菌の探索 3. 1 表1 油分解菌名 集積培養法 サラダ油 バター ラード 牛脂 油を効率よく分解する微生物を得るために集積培養法を用 BY16-111 + +++ +++ +++ いた。集積培養法とは,微生物の混合集団を,特定の種の存 BY17-111 ++ ++ ++ ++ N12-111 +++ ++ ++ ++ 培養液の炭素源をオリーブオイルのみに限定した培地に土壌 ST-211 ++ ++ ++ ++ 等の微生物の混合集団を添加すると,徐々にオリーブオイル SG-151 ++ ++ ++ ++ 在比を高めながら純培養に導いていく培養法である。例えば, をよく資化する微生物の存在比が高くなる。 SG-411 + ++ ++ ++ SY2-511 + ++ ++ ++ 油を分解する微生物の存在比を高める条件で集積培養を行っ SY4-111 +++ ++ ++ ++ た。 SY5-111 ++ ++ ++ ++ SY8-111 + ++ ++ ++ 各地から土壌や河川水などの微生物の混合集団を採取し, 3. 2 油分解菌の単離 集積培養法では,1個の菌体を分離(単離)することが困 難であるため,集積培養法により油分解菌の存在比が高まっ 注)+++ 油分解性能が非常に優れている,++ 油分解性能が優れてい る,+ :油分解性能がある た培養液から,寒天培地上に油分解菌のコロニーを形成させ て,油分解菌を単離した。油分解菌を識別する培地として, 4. 2 安全性の簡易判定 従来はクリアゾーン形成培地(乳化させた油を混合した培地 油分解菌を実際の廃水処理施設で使用するにあたり,病原 で,油分解能を有する微生物のコロニーの周囲は油が分解さ 性の微生物による環境汚染は,絶対に避けなければならない。 れ,無色透明のクリアゾーンを形成する)を用いていたが, まず,油分解菌の病原性を食中毒に起因する病原菌(大腸菌, コロニーがクリアゾーンを形成するためには約1週間掛かる サルモネラ菌,腸炎ビブリオ菌,黄色ブドウ球菌)の簡易細 ため,新たにVictoria Blue寒天培地を開発した。Victoria Blue 菌検出キットで評価した。その結果,SG-151,SG-411が黄色 寒天培地上に形成された油分解菌のコロニーの周囲は,油を ブドウ球菌であることがわかった。次に,油分解菌の 分解してできる脂肪酸により青く呈色する 3)。図2に油分解 16SrDNA(沈降係数が16SのリボソームRNAをコードする 菌を植え付けたVictoria Blue寒天培地の呈色状況を示す。 DNA) の 塩 基 配 列 を 決 定 し , National Center for Victoria Blue 寒天培地を用いることで,油分解菌のコロニー Biotechnology Information(NCBI)のデータベースに対し の識別が約24時間で可能となった。これらの結果,油分解能 BLASTで相同性検索を行い,種族を推定することで安全性を を有すると思われる菌株を約150種類単離した。 評価した。その結果,SY2-511がCorynebacteriumに帰属する 50 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 細菌であることがわかった。Corynebacterium属には,日本 PNPEにはp-Nitrophenyl Butyrate (C=4) ,p-Nitrophenyl 細菌学界が示すバイオセーフティー指針に記載されている病 Caprylate (C=8),p-Nitrophenyl Laurate (C=12),p- 原菌のバイオセーフティーレベル分類のレベル2に属する病 Nitrophenyl Myristate(C=14) を使用した。その結果,脂肪 原菌が含まれている。病原性の危険度は高い方から順にレベ 酸の炭素数が短いほど分解が早く進行することがわかった。 ル4,レベル3,レベル2,レベル1(レベル2〜4以外の細菌) また,脂肪酸の炭素数の長さに関わらずN12-111が産生する に分類される。これらの結果から,レベル2〜4に属さない菌 酵素は油分解能を示すことがわかった。 株について,さらに詳しく油分解性能を調査した。 4. 3 油分解性能の比較試験 油分解性能および安全性が高いと思われる菌株を実際の廃 100 水処理施設を模倣して作製した模擬廃水処理装置に添加し 90 ヘキサン抽出物質除去率(%) て,連続系での油分解性能を調査した。図3にN12-111, BY16-111,BY17-111のヘキサン抽出物質除去率の推移を示す。 これらの結果,単離した菌株の中で,N12-111が最も高い油 分解性能を示した。 次に,N12-111および他社のバイオ製剤がその環境に十分 馴れた(馴養した)実施設の廃水を用いて,ヘキサン抽出物 質除去率を比較した。図4にN12-111と他社のバイオ製剤の 80 70 60 ヘキサン抽出物質除去率を示す。その結果,N12-111を馴養 50 N12-111 40 他社菌A 30 他社菌B 20 他社菌C 10 させた廃水が最も高いヘキサン抽出物質除去率を示した。 0 これらの結果,N12-111は実際の廃水処理施設でも,高い 0 100 300 400 初期ヘキサン抽出物質含有量(mg/L) 油分解性能を示すことを確認した。 4. 4 200 N12-111が産生する酵素の性能 p-Nitrophenyl Ester(以下PNPEと称す)を用いて,N12- 図4 N12-111と他社のバイオ製剤のヘキサン抽出物質除去率 111の酵素の性能を測定した。図5にPNPEの構造を示す。 水温20℃,反応時間24時間。 PNPEのエステル結合が酵素により加水分解されると,p- Fig. 4 Rejection ratio of hexane extract by N12-111 and bio-preparations of the other companies Nitrophenolが分離する。p-Nitrophenolは405nm付近の波長を 吸収するため,吸光度からPNPE分解率を求めることができ る4)。PNPEは脂肪酸とp-Nitrophenolがエステル結合した物質 で,油の構造と類似している。また,脂肪酸の種類による酵 素の特異性も調査することが可能である。図6にN12-111に H3C −(CH2) n− C − O よるPNPEの炭素数別分解率の推移を示す。 NO2 O 図5 PNPEの構造 Fig. 5 Structure of PNPE. 100 80 70 90 60 80 50 PNPE分解率(%) ヘキサン抽出物質除去率(%) 90 40 30 N12-111 20 BY16-111 BY17-111 10 70 60 50 40 30 0 2 4 6 8 10 10 経過日数(日) 0 C=4 図3 推移 8.0 4.5 2.5 1.0 反応時間 0.5 (h) 20 0 C=8 C=12 脂肪酸の 種類 C=14 N12-111,BY16-111,BY17-111のヘキサン抽出物質除去率の 図6 水温20℃,水槽容積10L(3室),滞留時間18時間,原水のヘキサン抽出 N12-111によるPNPEの炭素数別分解率の推移 Fig. 6 Resolution rate of PNPE by N12-111 according to number of carbons 物質含有量平均293mg/L Fig. 3 Rejection ratio of hexane extract by N12-111, BY16-111, and BY17-111 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 51 表3 〔5〕 N12-111の安全性の確認 5. 1 N12-111の細菌同定第2段階管理 Table 3 同定 油分解菌N12-111の同定と16SrDNAの塩基配列の解読によ る近縁種の解析を株式会社エヌシーアイエムビー・ジャパン Second stage identification results of N12-111 NO3 - TRP - GLU - ADH - URE - ESC - GEL - PNPG - GLUa ARAa - MNEa - MANa - NAGa - MALa - GNTa - CAPa + ADIa + MLTa + CITa + PACa - OX に依頼した。図7にN12-111の菌体の電子顕微鏡撮影写真を, 表2にN12-111の同定第1段階結果を,表3にN12-111の細菌 テスト項目 反応 / 酵素 同定第2段階結果を,図8にN12-111の16SrDNA塩基配列解読 NO3 硝酸塩還元 結果を,図9にN12-111の16SrDNA塩基配列解読結果を基に TRP インドール産生 作成した近隣結合法による系統樹を示す(すべて株式会社エ GLU ブドウ糖 * * 酸性化 * テスト項目 反応 / 酵素 MANa D-マンニトール** NAGa N-アセチル-D-グルコサミン** MALa マルトース** ヌシーアイエムビー・ジャパン殿調査結果報告書より抜粋) 。 ADH アルギニンジヒドロラーゼ* GNTa グルコン酸カリウム** 同定試験の結果,N12-111はAcinetobacter.spであると推定さ URE ウレアーゼ* CAPa n-カプリン酸** れた。また,16SrDNAの解析結果から,N12-111は ESC エスクリン加水分解* ADIa アジピン酸** Acinetobacter genomospecies 10に帰属するものと推定され GEL ゼラチン加水分解 MLTa dI-リンゴ酸** た。Acinetobacter属はバイオセーフティーレベル1に属し, PNPG β-ガラクトシダーゼ CITa クエン酸ナトリウム** ヒトに疾病を起こし,或いは動物に獣医学的に重要な疾患を GLUa ブドウ糖 PACa 酢酸フェニル** ARAa L-アラビノース** OX チトクロームオキシダーゼ* MNEa D-マンノース** * * *生化学試験 図8 ** **資化性試験 N12-111の16SrDNA塩基配列解読結果 Fig. 8 16SrDNA base sequence mapping of N12-111 図7 N12-111の菌体の電子顕微鏡撮影写真 Fig. 7 Photograph of N12-111 taken with electron microscope N Join: 3.360% 表2 Acinetobacter genomospecies 11 SHD 1270 Acinetobacter genomospecies 10 Acinetobacter genomospecies 6 Acinetobacter genomospecies 9 Acinetobacter lwoffii Acinetobacter baumannii Acinetobacter genomospecies 13 Acinetobacter genomospecies 3 Acinetobacter haemolyticus Acinetobacter johnsonii N12-111の同定第1段階結果 Table 2 First stage identification results of N12-111 検体番号 N12-111 培養温度 ℃ 30 細胞形態 桿菌(0.8×1.0〜1.2µm) グラム染色 ― 胞子 ― ― 運動性 培地:普通寒天 培養時間:48h 円形 コロニー形態 周縁やや波状 図9 N12-111の16SrDNA塩基配列解読結果を基に作成した近隣結 合法による系統樹 Fig. 9 Evolutionary tree made by neighbor-joining method based on 16SrDNA base sequence mapping of N12-111 低凸状 光沢 起こす可能性のないもの(日和見感染を含む)である。日和 クリーム色 培養温度 37 + ℃ 45 − カタラーゼ + オキシターゼ − OFテスト (グルコース) 同定の結果 見感染とは体力や免疫力に問題がない場合には病気をおこす ことのないような微生物が,体力や免疫力の弱まった人に感 染して病気を起こすことである。 5. 2 急性毒性試験 N12-111の安全性を実験用マウスによる急性毒性試験によ り確認した。N12-111の培養液を実験用マウスに与えて,そ − の後の様子を観察した。投与後,マウスの性状に変化は見ら Acinetobacter れなかった。N12-111に急性毒性がないことを確認した。 +:陽性,−:陰性,W:反応弱 52 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 5. 3 薬剤感受性試験 溶存酸素が1mg/L以上になる様な曝気装置からなる厨房廃水 近年,Acinetobacterに帰属する細菌に多剤耐性菌が見つか ったとの報告がなされた 5)。多剤耐性菌とは,多種の抗菌剤 に耐性を持った細菌のことで,多剤耐性菌に感染した場合 処理システムを立上げた。 (2001年特許出願) 〔7〕 実施設への導入例 Acinetobacter属等のバイオセーフティーレベル1に属する細 加圧浮上装置が設置されていた実際の厨房廃水処理施設に 菌でも,重大な疾患を及ぼすこととなる。今回,薬剤感受性 グリスパックマンを用いた厨房廃水処理システムを導入し 試験紙を用いてN12-111が一般に広く利用されている抗生物 た。図10にグリスパックマンを用いた厨房廃水処理システ 質のアンピシリン,ストレプトマイシン,カナマイシン,ゲ ム導入前,導入後の廃水処理系統のフローを示す。本システ ンタマイシン,テトラサイクリン30,クロラムフェニコール ムの性能は,処理水の水質と,油泥の堆積状況から評価した。 に対して感受性がある(耐性がない)ことを確認した。表4 図11に処理水のヘキサン抽出物質含有量の推移を示す。本 にN12-111の薬剤感受性試験結果を示す。その結果,N12-111 システム導入後,油泥はなくなり,廃棄物処理量が削減され は一般に広く使用されている抗生物質に感受性があり,多剤 た。また,グリスパックマン馴養後の処理水は下水道排除基 耐性菌ではないことがわかった。 準を満足する水質であることが実証された。 〔8〕 システムの高性能化 〔6〕 システムの立上げ N12-111を製品化したバイオ製剤「グリスパックマン」 ,油 廃水中の油の濃度が高い施設や廃水量が多い施設では,比 を分解するための反応時間を確保するバイオ反応槽,廃水の 較的大きな生物処理槽が必要である。しかし,立地条件等の Table 4 60 N12-111の薬剤感受性試験結果 ヘキサン抽出物質含有量 (mg/L) 表4 Medicine receptivity examination results of N12-111 項 目 感受性 アンピシリン +++ ストレプトマイシン +++ カナマイシン +++ ゲンタマイシン +++ テトラサイクリン30 +++ クロラムフェニコール ++ 50 下水道排除基準(〈30mg/L) 40 30 20 10 0 9/10 10/30 12/19 2/7 3/29 5/18 日付 図11 注)+++:感受性が非常に強い, ++感受性が強い 処理水のヘキサン抽出物質含有量の推移 導入後1ヵ月間は馴養 期間とする。 Fig. 11 Concentration of hexane extract in treatment water 導入前 洗浄水 PAC NaOH 厨房廃水 (84m3/ 日) 下水 放流 ドラム スクリーン 某ホテル 原水槽(77m3) 反応槽 加圧浮上槽 放流槽 油泥 搬出 高分子凝集剤 汚泥貯留槽 (16m3) 汚泥濃縮機 導入後 厨房廃水 (84m3/ 日) 下水 撤去 某ホテル バー スクリーン バイオ反応槽 2(77m3) 放流 放流槽 撤去 グリスパックマン 活性剤 撤去 バイオ反応槽 1 (16m3) 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 図10 グリスパックマンを用いた厨房廃 水処理システム導入前,導入後の廃水 処理系統のフロー 活性剤はグリスパクマ ンの油分解性能を補助する栄養塩である。 Fig. 10 Flow chart of kitchen wastewater treatment system before and after insutallation of Gurisupakkuman 53 問題で,大掛かりな生物処理槽を設置できない施設もある。 それらの施設にグリスパックマンを用いた厨房廃水処理シス テムを導入するため,グリスパックマンとオゾン曝気を併用 した厨房廃水処理システムの導入を検討した。オゾンは酸化 力が強く油を低分子化するため,グリスパックマンと組み合 わせることで油の分解速度を速めることができる6)。図12に グリスパックマンが馴養された廃水での,オゾン曝気時と空 気曝気時のヘキサン抽出物質除去率の推移を示す。その結果, オゾン曝気を併用することにより,油分解性能が向上するこ とがわかった。 実際のグリストラップにグリスパックマンとオゾン曝気を 併用した厨房廃水処理システムを導入した。図1 3に本シス テム導入前のグリストラップの状況を,図1 4にグリスパッ クマンとオゾン曝気を併用した厨房廃水処理システム導入3 ヵ月後のグリストラップの状況を示す。本システム導入後は, グリストラップに油泥の堆積が見られなかった。これらの検 討により,グリスパックマンを用いた厨房廃水処理システム の適用範囲が拡大した。これまでに,日立グループ各社に6 件,日立グループ以外に30件,合計36件の納入実績がある。 図14 グリスパックマンとオゾン曝気を併用した厨房廃水処理シス テム導入3ヵ月後のグリストラップの状況 3ヵ月間油泥の引抜なし。 Fig. 14 Photograph of grease trap three months after installation of Gurisupakkuman with ozone aeration ヘキサン抽出物質除去率(%) 〔9〕 結 論 100 集積培養法により存在比を高め,Victoria Blue寒天培地に 90 より単離した油分解菌N12-111は,他社のバイオ製剤よりも 80 優れた油分解性能を示した。また,N12-111は同定試験およ 70 び16SrDNAの解析結果から,Acinetobacter属に帰属している 60 と推定された。Acinetobacter属は日本細菌学界が示すバイオ 50 セーフティーレベル1に属する微生物である。次に,動物実 40 験の調査結果よりN12-111には,急性毒性がないことがわか 30 空気曝気 20 った。また,薬剤感受性試験の結果から,N12-111は多剤耐 オゾン曝気 10 性菌ではないことがわかった。これらの結果,N12-111は油 0 0 6 12 反応時間 分解性能が高く,安全な微生物であるということを確認し た。 N12-111を製品化したグリスパックマンを用いた厨房廃水 処理システムを実際の廃水処理施設に導入したところ,産業 図12 グリスパックマンが馴養された廃水での,オゾン曝気時と空 気曝気時のヘキサン抽出物質除去率の推移 廃棄物である油泥を減らし,その処理水は下水道排除基準を Fig. 12 Rejection ratio of hexane extract by aeration and air aeration スパックマンを用いた厨房廃水処理システムは,実施設にお Gurisupakkuman with ozone 満足する水質であることが確認された。その結果から,グリ いても高い油分解性能を示すことが実証された。また,オゾ ン曝気を併用することにより,グリスパックマンを用いた厨 房廃水処理システムの適用範囲が拡大された。 産業廃水等の排出規制は,環境問題がクローズアップされ る中で,益々厳しくなっていくと予想される。今後も,油分 解菌を用いた厨房廃水処理システムのさらなる高性能化を図 り,適用範囲を広げていきたい。 参考文献 1)伊与 亨:排水中の油の処理の現状, 月間浄化槽, 217, 16〜25, (1994) 2)Donaid Voet, Judith G. Voet: 脂質と膜 .ヴォート生化学(上) 第二版, 東京, 株式会社東京化学同人,1999, p.238-239 3)山本正和: リパーゼ生産菌の分離 .微生物の分離法, 東京, 株式会社R&Dプランニング, 1990, p.235-250 4)伊藤 晋:油分解菌の活性とリパーゼ活性の測定, 群馬大大学院 工学部修士論文, (2001) 図13 本システム導入前のグリストラップの状況 5)朝日新聞,12月9日号, (2001) Fig. 13 Photograph of grease trap before installation of our system 6)杉光 英俊: オゾン利用技術 , オゾンの基礎と応用, 東京, 株式会社光琳, 1996, p.193-211 54 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) U.D.C. 678.632:629.331-592-52:62-531:531.43.082.1 ブレーキ用摩擦係数安定型ディスクパッド Automotive Brake Disc Pad with Stable Friction Coefficient 小野 学* Manabu Ono 海野光朗* Mitsuo Unno 永吉央幸* Teruyuki Nagayoshi 鏑木 努** Tutomu Kaburagi 自動車のブレーキにはより高い効きとその安定性に加え,ブレーキの鳴きと振動の 低減が要求される。そのため,ブレーキ用ディスクパッドは摩擦係数が高くかつ安定 していることが必要とされる。通常走行時や高温,高速,水濡れ時などの条件下にお ける摩擦係数の安定性に加え,ブレーキブースターが失陥した場合を想定して高負荷 の繰り返し制動後に低減速度で制動した場合においても摩擦係数が安定していること を要求される。国内で最も多く用いられているディスクパッドの一つであるNAO(ノ ンアスベストスオーガニック)材は,フェノール樹脂や有機繊維,有機充填材を多く 含有しており,ブレーキの鳴きと振動が他の材質よりも小さいが,制動中にそれらの 有機物が熱分解して相手材のディスクロータに移着するため,摩擦係数の変動が大き くなりやすい。そこで,摩擦係数の変動に対する有機物の熱分解の影響について解析 し,摩擦係数が高くて安定したNAO材ディスクパッドを開発した。 Automotive brakes should have a minimal brake squeal and vibration as well as high and stable effectiveness. Accordingly, the disc pad used for automotive brakes need to have a high and stable friction coefficient, under high temperature, high speed, and wet conditions as well as under normal condition. They also should have stable friction coefficient during low pressure braking after continuous high pressure braking on the assumption that the brake power unit becomes inoperative. Non-asbestos organic (NAO) disc pads mainly used in Japan contain phenol resin, organic fibers, and organic filler. They have little brake noise and vibration; however, they tend to have an unstable friction coefficient because the organic materials will decompose and develop transferred film on the disc rotor during braking. We analyzed the effect of organic decomposition on friction coefficient variation and have developed a new NAO disc pad with high and stable friction coefficient. 〔1〕 緒 材料を組み合わせた十数種類の原材料が用いられているが, 言 NAO材はフェノール樹脂や有機繊維,有機充填材を他材質に 自動車のブレーキにはより高い効きとその安定性に加え, 比較して多く含有している。ブレーキの鳴きと振動が他の材 ブレーキの鳴きと振動の低減が要求される。ブレーキ用ディ 質よりも小さいが,高温・高負荷時にこれらの有機成分が熱 スクパッドには,高い摩擦係数とその安定性が求められる1)。 分解して相手材のディスクロータに移着するため,摩擦係数 摩擦係数の安定性に関しては,市内走行時における安定性の の変動が大きくなりやすい欠点があった。 みならず,高速走行時の制動,坂道での制動,雨天,高湿時 の制動などを想定した安定性が要求される2)。 本報では,摩擦係数の変動に対する熱分解物の影響につい ての解析結果と,摩擦係数が高くて安定したNAO材ブレーキ また,米国運輸省のブレーキに関する安全基準FMVSS (Federal Motor Vehicle Safety Standard)135 3)は,高負荷の 履歴を受けたあとにブレーキブースターが失陥し低液圧(低 減速度)になった場合にも,制動距離が保てることを要求し ている。 用ディスクパッドの開発について述べる。 〔2〕 摩擦係数安定型ディスクパッドの開発 2. 1 高温時摩擦係数の安定化 ブレーキの繰り返しによりディスクパッドが高温になった ディスクパッドには,1980年代までアスベスト材が用いら ときに,摩擦係数が急激に低下する現象をフェードという。 れてきたが,アスベストの環境問題から1980年代後半よりノ フェノール樹脂等の有機成分の熱分解物が摩擦界面を潤滑す ンアスベスト材への切り替えが進められた。その中で,現在 るために,摩擦係数が低下する 6)。図1に摩擦材中の有機成 最も多く用いられているものがセミメタリック材,ロースチ 分量とフェード時の摩擦係数の関係を示す。有機成分量を減 ール材,NAO材である 4),5)。日本や米国においてはブレーキ らすことにより摩擦係数の低下が抑制できる。また,銅粉末 の鳴きと振動の低減が重視されるために,NAO材が主として 等がフェノール樹脂の分解ガス化を促進させて,摩擦係数の 用いられてきた。ディスクパッドには有機材料,金属,無機 低下を抑制することが知られている。大きな比表面積とガス * 当社 自動車部品事業部 自動車部品開発部 ** 日本ブレーキ工業株式会社 摩擦材 開発部 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 55 透過性を有する多孔質無機充填剤が,熱分解物を吸着して摩 0.5 擦係数の低下を抑制することも知られている 7)。そこで,本 フェード時の摩擦係数最低値 開発材では図2に示すように直径が約0.001〜0.05 µmと数µm の2種類の細孔を有し,その比表面積が数百m2/gの活性アルミ 0.4 ナを充填剤に採用した。 活性アルミナを添加することにより,ディスクパッドの比 0.3 表面積と空気透過性が増加する。図3に示すように本開発材 は従来材に比較してフェード時の摩擦係数が安定している。 2. 2 0.2 低温・高湿環境放置後の摩擦係数の安定化 ブレーキの鳴きは制動時に発生する1〜10数kHzの摩擦振動 に起因するブレーキノイズである 8)。自動車を低温・高湿環 0.1 境下に数時間放置すると,摩擦係数が上昇して鳴きが発生し 少 ← 有機成分量 → 多 やすくなる。この摩擦係数の上昇は,ディスクロータ表面に 有機成分量が多いと高 移着したディスクパッド熱分解物の性状と吸湿しやすさに影 温制動時に熱分解物が多量に発生し,その摩擦界面潤滑によりフェード時の摩 響される。シリコーン等の添加により熱分解物移着膜の吸湿 擦係数が低下する。 性を改質したり,研削剤により熱分解物移着膜を除去するこ Fig. 1 Organic content of the disc pad and minimum friction coefficient at fade As the organic content of the disc pad increases, more organic materials decompose under high temperature braking and the friction coefficient falls by the effect of lubrication of the decomposed materials. とで,摩擦係数上昇が抑制されることが知られている9)。 有機成分量とフェード時摩擦係数最低値 ディスクパッドの比表面積(m2/g) 10 従来材 (活性アルミナ非含有) 10 開発材 8 8 6 6 4 4 2 2 0 0 少 図2 我々は,ディスクパッド中のフェノール樹脂の種類を変え て熱分解物移着膜を薄くする手法を検討した。加熱減量特性 ← 活性アルミナ含有量 → ディスクパッドの空気透過量(cc/cm2・min.) 図1 活性アルミナ (外観形状) 活性アルミナ (内部細孔) 多 1μm 活性アルミナ添加量とディスクパッドの比表面積および空気透過量 内部細孔を有する活性アルミナを添加するとディスクパッドの比表面積と空 気透過量が増加する。 (実線は490 kPaの空気が厚さ5 mmのディスクパッドを透過した量を示す。 ) Fig. 2 Active alumina content versus the relative surface area of the disc pad and air transmission As the active alumina content in the disc pad increases, its relative surface area and air permeability increases. (The solid line shows the amount of air transmitted through a 5-mm-thick disc pad at a pressure of 490 kPa.) 700 0.7 摩擦係数 0.6 600 従来材 0.5 500 0.4 400 0.3 300 0.2 200 0.1 100 制動前温度(℃) 開発材 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 制動回数(回) 56 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 図3 フェード時の摩擦係数 開発材は 従来材と比較して高温制動時の摩擦係数が 高い。開発材は従来材と比較してフェード 時の摩擦係数最低値が約40%向上している。 Fig. 3 Friction coefficient at fade The friction coefficient of the developed material is higher than that of the conventional material under high temperature braking conditions. The minimum friction coefficient at fade for the developed material is 40% higher than that for the conventional material. の異なる2種のフェノール樹脂AとBを配合したディスクパッ ドを用いて繰り返しブレーキを行い,ディスクロータ表面を ブレーキキャリパー (ハウジング) 観察するとディスクロータ表面の色合いが異なった。色合い ディスクパッド が濃く黒色化したディスクロータと色合いが薄いディスクロ ータをFIB(集束イオンビーム)エッチングした後にイオン 顕微鏡を用いて観察した。図4に観察したディスクロータ断 面を示す。色合いが薄いディスクロータは,表面の移着膜の 厚さが比較的薄かった。移着膜生成の少ない樹脂を用いたデ ィスクパッド(開発材)と従来材を用いて,温度130℃で400 回制動した後,5℃40%RH環境下に2時間放置し,車速 10km/h,ブレーキ液圧0.5MPaの条件で摩擦係数を測定した。 図5に示すように開発材は摩擦係数の上昇をほとんど示さな かった。 ディスクロータ ブレーキキャリパー (ピストン) 図6 ブレーキキャパリーとディスクパッド,およびディスクロー タの構造 フローティングタイプのブレーキキャリパーは,高減速度制動時 にハウジング部がディスクロータに対して開く。 ディスクパッド移着膜 (樹脂A使用) ディスクパッド移着膜 (樹脂B使用) Fig. 6 Structure of Brake-caliper, Disc-pad and Disc rotor The housing of brake-caliper open to outside for disc rotor during high deceleration braking. 2. 3 移着膜 高負荷繰り返しブレーキ後の摩擦係数の安定化 米国運輸省のブレーキに関する安全基準FMVSS 135では, 高負荷の繰り返し制動後にブレーキブースター(踏力倍力装 ディスク ロータ 置)が失陥した際の車両停止距離が規定されている。NAO材 でこの基準に従い制動距離の試験をすると,一般的にブレー 1μm 1μm キブースター失陥時の摩擦係数が低く,停止距離が長くなる 傾向にある。そこで,台上ダイナモメータ試験機を用いた FMVSS135試験で摩擦係数の測定を行い,ディスクパッドを 図4 繰り返し制動後のディスクロータ断面 温度130℃で400回制動 した後のディスクロータ表面にはディスクパッドの熱分解物を含む移着膜が見 改良した10)。 高負荷の繰り返し制動を行うと,フローティングタイプの られる。樹脂Bを使用したディスクパッドの移着膜は薄い。 ブレーキキャリパーの場合には,そのハウジングがディスク Fig. 4 Cross section of the disc rotor after continual braking The transferred film containing the decomposition materials of disc pad was observed on the disc rotor surface after 400 brakings at 130℃. The thickness of the film for the disc pad using resin B was thinner. ロータに対して垂直方向に開く。図6に,ブレーキキャリパ 0.70 鳴き発生箇所 従来材 ーとディスクパッド,およびディスクロータの構造を示す。 図7にハウジング剛性の異なる2つのブレーキキャリパーを ハウジング剛性 高剛性 摩擦係数 0.65 0.60 高減速度制動 0.55 12 Mpa100 km/h 0.50 開発材 0.45 低減速度制動 3.2 Mpa100 km/h 0.40 0.35 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 制動回数(回) 図5 冷間放置後の摩擦係数とブレーキ鳴き 図7 制動中のディスクロータ表面温度 低剛性 330.0 ℃ 301.3 272.5 243.8 215.0 186.3 157.5 128.8 100.0 200.8 ℃ 185.8 170.7 155.7 140.6 125.6 110.5 95.5 80.4 高減速度制動時にはディスク ロータ外周部の温度が高く,低減速度制動時には発熱部位が内周側に移動する。 5℃,40%RHの温湿度環 境下に放置した後に10回制動し,摩擦係数とブレーキ鳴きを測定した。開発材 の摩擦係数は低く安定しているため,ブレーキ鳴きが発生しにくい。 Fig. 5 Friction coefficient and brake noise after leaving cold conditions Friction coefficient and brake noise were measured during ten brakings after leaving 5℃ and 40%RH conditions. Developed material makes little brake noise because of its low and stable friction coefficient. ハウジング剛性の低いブレーキキャリパーを用いた方が顕著である。この現象 はディスクパッドの偏摩耗にも影響される。 Fig. 7 Surface temperature of surface of disc rotor during braking Temperature on outside of the disc rotor was higher during high deceleration braking; higher temperature parts moved to the inside during low deceleration braking. This tendency was more remarkable for the brake caliper having lower bending strength housing. This phenomenon will also be influenced by the uneven wear of the disc pad. 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 57 用いて,高減速度で繰り返し制動したときと,その後に低減 制動中のディスクロータ表面温度差を図9に示す。この温度 速度で制動したときのディスクロータの表面温度を測定した 差に着目して,各ディスクパッドの100℃の温度差に対応す 結果を示す。ハウジング剛性の低いブレーキキャリパーを用 る加熱減量を温度毎に計算した。図1 0には350〜450℃,600 いた場合,高減速度の制動においては外周に温度の高い部分 〜700℃の夫々100℃の温度差に対する加熱減量と偏摩耗角度 があり,低減速度の制動においては内周に温度の高い部分が θの関係を示す。加熱減量と偏摩耗の間には相関が見られる。 ある。ハウジング剛性が低いとディスクパッドの面圧中心が 350〜450℃は主としてフェノール樹脂,600〜700℃は有機繊 移動して,見掛けの摩擦係数の低下が起きることを示してい 維の分解温度に相当している。開発材では,これらの有機成 る。この現象はディスクパッドがディスクロータの半径外周 分量を減らして摩擦係数の変動を小さくした。その結果, 方向に偏摩耗した場合に顕著に現れる。 FMVSS135試験における摩擦係数の低下を抑制できた。 図8にFMVSS135試験後のディスクパッドの偏摩耗角度θ とブレーキブースター失陥時の摩擦係数低下率Dµの関係を示 330.0 ℃ 301.3 272.5 243.8 215.0 186.3 157.5 128.8 100.0 す。摩擦係数低下率は式(1)により求めた。 摩擦係数低下率Dµ=(µB−µL)/ µB・100・・・・・・・(1) µB:FMVSS135試験における冷間効力条件の摩擦係数, µL:高減速度繰り返し制動後のブレーキブースター失陥 条件の摩擦係数 400 ディスクロータ外周部温度 ∆Wi ディスクロータ温度(℃) ∆Wo L ディスクロータ 内周部温度 300 200 温度差 100 0 制動時間(s) 図9 偏磨耗角度θ =tan-1{(∆Wo+∆Wi)/2L} 25 開発材 20 15 0.6 10 0.5 600〜700℃ 5 0 −5 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 偏磨耗角度θ(rad) 偏摩耗角度θと摩擦係数低下率 偏磨耗指数θ(rad) 摩擦係数低下率(%) 30 0.4 0.3 0.2 350〜450℃ 高負荷履歴後のディスクパッド偏 0.1 摩耗角度θが大きいほど摩擦係数低下率が大きくなる。 Fig. 8 Uneven wear angle of the disc pad versus the decrease ratio of the friction coefficient The decrease ratio of the friction coefficient becomes larger with increasing uneven Wear angle. ディスクパッドの種類によらず,偏摩耗角度θが大きくなる ほど摩擦係数低下率Dµが大きくなる傾向が見られた。 次に偏摩耗角度θに対する摩擦材組成の影響を調べた。各 ディスクパッドの1,000℃までの加熱減量を測定したが,明確 な相関関係が得られなかった。FMVSS135試験で最も荷重と 減速度の大きい部分でディスクロータの表面温度を測定する と,その内周と外周に約100〜150℃の温度差が生じている。 58 制動時に発生する摩擦熱により, Fig. 9 Difference of temperature between outside and inside surfaces of the disc rotor during braking In FMVSS135 test, a maximum temperature difference of 150℃ occurred by the friction heat of braking. 35 図8 制動中のディスクロータ温度差 FMVSS135試験ではディスクロータ内外周で最大約150℃の温度差が生じる。 0.0 0 1.0 2.0 3.0 4.0 5.0 6.0 加熱減量 Δ TG(wt%) 図10 100℃の温度差に対する加熱減量と偏摩耗角度θ フェノール 樹脂と有機繊維の分解温度に相当するそれぞれ約350℃と約600℃において, 加熱減量と偏摩耗角度θには相関が見られる。 Fig. 10 Thermogravimetry of disc pad and uneven wear angle for temperature difference of 100℃ The decomposition temperatures of phenol resin and organic fiber correspond to respective 350℃ and 600℃. Under such temperatures, the uneven wear angle of the disc pad is in correlation with the thermogravimetry. 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 〔3〕 結 言 自動車のブレーキに用いる高摩擦係数で摩擦係数が安定し たディスクパッドを開発した。フェノール樹脂等の有機成分 の減量と,それらの熱分解物を摩擦表面から除去する活性ア ルミナ等の配合が,高温時あるいは低温・高湿環境放置後, さらに高減速度繰り返し制動後の摩擦係数の安定化に対して 有効であった。それらの知見を活かした高摩擦係数安定型デ ィスクパッドを開発した。本開発材は中型FF車と大型FR車 へ採用され,国内と北米を中心に上市している。さらに欧州, 中国市場への展開を図るため,市場の要求特性に合わせた性 能改良を現在進めている。 参考文献 1)三部,外:ブレーキ用摩擦材料,トライボロジスト,36,3, 189-194(1991) 2)海道:自動車ブレーキ,トライボロジスト,45,12,916-919 (2000) 3)U.S. Department of Transportation : Federal Motor Vehicle Safety Standards and Regulations 4)原,外:ブレーキ用高摩擦係数ディスクパッド,日立化成テクニカ ルレポート,41,45-48(2003) 5)佐々木,外:自動車用ブレーキ材料の変遷,トライボロジスト,48, 3,197-201(2003) 6)フィリップエイテドアティー:摩擦材料における衰弱防止剤とし ての分子篩,特開昭49-21544(1974-2) 7)原,外:ブレーキ用NAO材ディスクパッド,日立化成テクニカル レポート,32,17-20(1999) 8)松島,外:ディスクブレーキ低周波鳴きFEM解析,TOYTA Technical Review,47,1, (84-89) (1997) 9)小林,外:ディスクブレーキ用パッドの冷間時µ特性の向上,自 動車技術会学術講演会前刷集,972,17-20(1997) 10)Mitsuo Unno et al:Decrease of Friction Coefficient of Disc Pads During Low G Braking After Continuous High G Braking, SAE Paper 2005-01-3938(2005) 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 59 製品 紹介 高耐熱性絶縁接着材 KS6000,KS7000 シリ−ズ KS6000,KS7000シリーズは,弊 ・高電気絶縁性(PCBT:100時間 優れる。 社が独自に開発したナノクラスのミ 以上,絶縁破壊電圧:1 3 2 k V / <用途例> クロドメイン構造を有する樹脂をベ mm) (1)FPC用接着絶縁層 ースにした熱硬化性の高耐熱性絶縁 完全硬化後の接着材には熱履歴に (2)半導体パッケージ用接着絶縁層 接着材です。ミクロドメイン構造の よる機械特性,電気特性の変化が (3)異種基材間接着材 応力緩和効果により,熱履歴に強く, ほとんど認められない。 かつ優れた電気絶縁性,接着性を実 など <推奨接着条件> ・異種間接着性(圧延光沢銅,ポリ 現しました。以下に特長,用途例, イミド,SUS,エンプラ,ガラス 推奨接着条件を示します。 エポキシ,液晶ポリマ) に優れる。 <特長> 一般的に難接着性の光沢銅や液晶 ・高 耐 熱 性 ( 5 % 重 量 減 少 温 度 : ポリマなどに対しても高い接着性 ・仮接着:140〜200℃/30分,2MPa プレス ・硬 化:180〜200℃ /1〜2時間加熱 (化成品事業部) を示す。 350℃,180℃/15時間処理で弾 性率の変化が少ない) ・レーザー穴あけ等の微細加工性に 比較例:アクリルエポキシ系接着材 KS6600−7F 1.0E+00 tanδ 加熱処理前 1.0E−01 加熱処理後 1.0E−02 図1 KSシリーズ製品例 膜厚:20〜40µm 基材:離型処理PET 図2 0 50 100 150 温度(℃) 熱処理前後の動的粘弾性 200 接着材の分解 250 0 50 100 温度(℃) 加熱処理:硬化フィルムを180℃/15時間加熱 表1 異種被着体とのピール強度 被着体(品名) 1.00E+14 1.00E+13 ポリイミドフィルム KS6600−7F(20µm) Ω 抵抗(Ω) 1.00E+12 (L/S=15/15µm) 1.00E+11 1.00E+10 ポリイミドⅠ 1.04 1.13 ポリイミドⅡ 1.10 1.20 圧延銅箔(粗化面) 1.20 1.40 銅板(光沢面) 1.09 0.88 液晶ポリマ 0.80 0.80 ポリエーテルイミド 1.35 1.67 SUS304(JIS-G4305) 1.04 1.00 試験用ガラス板 1.24 1.43 試料の構成:被着体/KS接着材/圧延銅箔 (粗化面) 1.00E+09 銅箔 Ω 8µm 1.00E+07 12µm 1.00E+06 0 8 16 24 32 40 48 56 64 72 80 88 96 経過時間(h) 60 (単位:kN/m) KS6600-7F KS7002 測定条件:90度ピール/25℃ 1.00E+08 図3 150 KS6600-7Fの線間,層間マイグレーション 試験条件:110℃,85%RH/40V 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 製品 紹介 ミューチップインレット いつでも,どこでも,あらゆる人 多くのモノにICタグを取り付ける 装構造を組み合わせ,高速実装ライ やモノがネットワークに繋がり,情 ためには1個当たり数円という低価 ンを構築することで,インレットの 報を共有・管理できるユビキタス社 格性と,大量に供給するための高生 低価格化とタクト時間0.15秒という 会の実現が進められています。その 産性が要求されており,ICチップお 高生産性を実現しました。 キーデバイスとなるのが個別情報を よび組み立てコストの低減,生産タ 今後,当社の有する材料技術を用 記録し,無線によって読み取り器と クト時間の短縮が大きな課題となっ い,種々の被着体や使用環境に対応 の交信を行うICタグ(電子荷札)で, ています。 するためのタグ材料・形状バリエー 実際のラベルやカード形状に加工す 当社は,日立製作所が開発した世 る前の中間形態としてICチップを送 界最小クラスのICタグ用チップであ 受信用アンテナに実装したインレッ るミューチップ(0.4mm×0.4mm) トがあります。 と,独自に開発したサンドイッチ実 表1 ションを提供し,用途展開を図りま す。 (機能性フィルム事業部) ミューチップインレットの仕様 項 目 単 周波数 チップ インレット 位 標 準 小 型 超小型 2.45 GHz リードオンリー型 128bit メモリ ― 外形寸法 mm 70.0×3.2 35.0×3.2 10.0×3.2 アンテナ寸法 mm 58.0×2.5 30.0×2.5 4.0×2.5 最大厚み mm 0.27 0.27 0.27 材質 ― Al/PET Al/PET Al/PET 通信距離 mm 〜200 〜50 〜5 形状 ― 58 mm 70 mm 30 mm 35 mm アンテナ 接続カバー 電極 アニソルム 4 mm 10 mm 図1 両面電極型ミューチップ サンドイッチ実装構造 COG用低温接続アニソルム AC-8408 異方導電フィルムを用いたCOG へと適用範囲が広がっています。 基板反りを低減させるため,接着剤 (Chip On Glass)実装方式は,モジ しかしながら,大型LCDモジュー を低温接続化・低応力化させること ュールの小型化や実装工程の簡略化 ルでは,実装時の駆動用ICとLCDパ で表示品位を向上しかつ高い接続信 が可能といった特長をもつため,近 ネルとの温度差に起因して発生する 頼性を示すアニソルムAC-8408を新 年,携帯電話用途の小型LCDモジュ 基板反り(パネル反り)が表示品位 たに開発しました(表1) 。 ールから,急速に需要が拡大してい を低下させることが問題となってい るノートパソコン,液晶モニタ,液 ます。 当社では、このLCDモジュールの 晶テレビ用途の大型LCDモジュール 本製品は,低温硬化系接着剤を用 い,従来品よりも接続温度を40℃低 減させることで実装時の温度差を低 減し,また接着剤設計によって一層 表1 COG用アニソルムAC-8408の仕様 項 目 単 接着剤 − 構成 − 導電粒子 最小接続回路 接続条件 注 AC-8408 従来品(AC-8501) 熱硬化系接着剤 熱硬化系接着剤 二層構成 二層構成 粒子径 µm 3 4 個/mm2 55,000 30,000 接続面積 µm2 1,200 2,500 電極間スペース µm 15 15 温度2) ℃ 150 s 10 時間 初期 処理後 4) 170 190 5 10 µm 7 15 Ω <1 <1 <5 <5 Ω 1) 粒子密度;フィルム投影粒子数 (15µm)および微小な面積 (1200µm 2)への接続を可能にしま した。 AC-8408は,COG用途の従来品 210 AC-8501と同等の優れた接続信頼性 5 と従来品比50%以下の基板反りを実 2) 温度;接続直後の異方導電フィルムの到達温度 3) 基板反り量;当社TEGによる実測値 た。さらに小粒径の粒子と導電粒子 密 度 の 最 適 化によって,狭 スペース (接着剤層+導電粒子層) (接着剤層+導電粒子層) 粒子密度1) 基板反り量3) 接続抵抗量 の低応力化と高信頼性を図りまし 位 4) 処理条件;85℃,85%RH,500hrs. 本データは実測値であり,保証値ではありません。 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 現し,今後の大型LCDモジュールの COG実装用異方導電フィルムとして期 待されています。 (実装フィルム事業部) 61 製品 紹介 高信頼性環境対応多層材 MCL-BE-67G (J) 当社の環境対応多層材(ハロゲン そこで,当社では,現行の環境対 汎用のデジタル機器以外に高多層の フリー,鉛フリーはんだ対応)は, 応多層材MCL-BE-67G(H)(以下Hタ サーバや高信頼性が要求される車載 パソコン,デジタルカメラ等に広く イ プ ) の 熱 膨 張 係 数 を 3〜 5 ppm 等へも適用が検討されています。な 使用されていますが,これらの民生 (XY方向) ,10〜20 ppm(Z方向)低 お,プリント基板としてご使用頂く 用分野においては小型化,高密度実 減し,実装信頼性およびスルーホー 上で必要なUL認定は,従来のHタイ 装化が進み表面実装部品の接続信頼 ル信頼性に優れる高信頼性環境対応 プと変わりません。 性が厳しくなっています。また,携 多層材MCL-BE-67G(J)(以下Jタイ 帯電話基地局用途等の中〜高多層分 プ)を開発しました。 野では,厳しい冷熱サイクル試験を Jタイプは,Hタイプの高Tg,優れ パスすることが要求されており,こ た成形性,高耐熱性等の特性を継承 れらの分野に適用できる熱膨張係数 し,冷熱サイクル試験では2倍以上 の小さい材料が求められています。 の信頼性を発揮します。このため, 表1 (配線板材料事業部) MCL-BE-67G(J)の特性 項 目 単 位 MCL-BE-67G(J) 現行材MCL-BE-67G (H) 13〜16 15〜19 16〜19 17〜21 X方向 ppm/℃ Y方向 熱膨張係数 25〜40 40〜55 ℃ 140〜150 140〜150 Z方向 Tg (TMA法) はんだ耐熱 260℃ − PCT 6 h OK PCT 6 h OK (20s浸漬) 288℃ − PCT 2 h OK PCT 2 h OK 冷熱サイクル 20⇔150℃ サイクル 1000以上 320〜420 (18層板) (IST試験) ※本データは当社測定値であり,保証値ではありません。 図1 MCL-BE-67G(J) の外観 多層化接着用化学粗化剤 HIST-7300 HIST-7300は多層プリント配線板 板の内層回路の銅表面に,均一で微 の黒化処理液と比較して,処理液に の耐熱性,接着性向上を目的に開発 細な凹凸(図1)を形成することに よる基材への化学的ダメージが小さ された多層化接着用化学粗化剤で, より,樹脂と銅の密着性を高めるこ く環境に優しい処理液です。また, 特に高耐熱性基材,高周波対応基材 とができます。HIST-7300は,硫 水平搬送方式での処理が可能である 等に効果的です。多層プリント配線 酸−過酸化水素系の処理液で,従来 ため薄物(t0.1mm以下)基材の処 理が容易となり,作業効率の向上, リードタイムの短縮に役立ちます。 1.主な特長 樹脂 (1) 各種基板材料への対応が可能 です。 (2) はんだ耐熱性と接着性(ピー 銅 ル強度)に優れます。 (×20,000) (×20,000) 粗化後の断面形状(FIB) 粗化後の表面形状(SEM) 図1 (3) 処理後の劣化が少ないため, 次工程での作業余裕が大きくなりま す。 銅表面の粗化形状 (4) 水平・懸垂両方式での処理が 表1 処理品の比較 項 目 ピール強度 件 単 位 黒化処理品 HIST-7300処理品 0.8〜1.4 0.8〜1.3 Cu35µm/FR-4 kN/m ハローイング 18%HCl/1h浸漬 ― あり なし はんだ耐熱性 PCT2h+260℃/20s浸漬 ― 膨れ等なし 膨れ等なし 絶縁抵抗 処理後の品質保持期間 62 可能です。 条 PCT2h+288℃/10sフロート ― 膨れ等なし 膨れ等なし 85℃/85%RH/100V/1,000h Ω 109以上 109以上 ― 日 <3 <7 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 2.HIST-7300処理品の特性 黒化処理品との比較を表1に示し ます。 (配線板事業部) 高輝度シート 自動車内外装品やディスプレー等 製品 紹介 Sparkle UH 対応できます。 (4)耐擦傷性,耐候性に優れていま で高級感向上のため,金属調外観部 (3)真空成形しても,金属層にクラ 品が多く用いられています。従来は, ックや,輝度の低下がほとんど発生 樹脂部品に湿式めっき処理を施して しません。 (限界展開倍率 すので,車両内外装に使用が可能で す。 約3倍) (新神戸電機株式会社) 金属調外観を得ていましたが,この 工法では,環境負荷物質である六価 特殊表皮層 クロムを使用するため,代替工法に 透明層 よる製品化が強く求められていま す。当社では,熱可塑性シートの多 金属層 層化技術をさらに発展させ,シート の真空成形時の引伸ばし成形に追随 ベース層(ABS 樹脂) できる金属層と耐擦傷性,耐薬品性 に優れた表皮層を付加することによ り,環境負荷の少ない,また,真空 成形が可能なめっき調の熱可塑性シ 図1 開発品の構造 表1 ートを開発しました。 開発品の特性 開発品 ABSめっき品 メタリック塗装品 本製品は以下の特長を有していま 輝度 (60° 反射率) % 500以上 500以上 90 す。 耐擦傷性 (スチールウール) − ◎ ◎ △ 耐候性試験による変色 − ◎ ○ ◎ 高速面衝撃強さ J 48 20 10 項 (1)高輝度のめっき調の外観が得ら れます。 (2)金属層には,六価クロムを使用 しておりませんので,RoHS指令に 目 単 位 曲げ強さ MPa 70 75 67 曲げ弾性率 MPa 2,600 2,800 2,300 ℃ 86 90 85 荷重たわみ温度 電池状態判定装置内蔵自動車用バッテリー AIバッテリーCYBOX (サイボックス) JAFロードサービスの出動件数の め,当社ではバッテリーの状態を検 内,バッテリートラブルは908,554 知する電子回路を内蔵したバッテリ 件(2004年度)で,第1位にランキ ーを開発しました。 くは点滅し,バッテリーの状態がひ と目でわかります。 (3)特殊カルシウム系合金の採用で ングされています。 (日本自動車連 本製品はバッテリーの充電状態や 自己放電が少なく,また蒸発水を還 盟調べ)加えて近年,カーナビゲー 劣化状態を常時監視し,バッテリー 流する特殊蓋部構造により,バッテ ション等の車載情報機器の普及およ の異常をアラーム音で自動的に教え びパワーステアリング等の補機の電 てくれるAI( 人工知能) を持った,ま 動化により,車載電装品が増加して さに「バッテリー自身が常時自己診断 おり,バッテリーからのエネルギー する」インテリジェントバッテリー (商 供給量が大きくなっています。この 品名:サイボックス) です。 ようなことから,バッテリーの充電 エンジン停止後約30秒間アラーム る検知技術の重要性が高まっていま 音でお知らせします。 (新神戸電機株式会社) (2)バッテリー上面のチェックボタ このようなニーズに対応するた 表1 付です。 (営業車を除く) (1)バッテリーの異常を検出すると, 状態および劣化状態を的確に把握す す。 リーの寿命まで補水が不要です。 (4)36ヶ月または6万kmの製品保証 ンを押すと,LEDが5秒間点灯もし 図1 操作および表示部 図2 製品外観 バッテリー要項表 性 能 液入り充電 最大外形寸法(mm) 公称電圧 5時間率容量 (V) (Ah) 65B24R/L 12 80D23R/L 形式 済み質量 総高さ 箱高さ 幅 長さ 45 227 203 129 238 13.5 12 52 225 204 173 232 16.5 110D26R/L 12 64 225 204 173 260 19.5 115D31R/L 12 74 225 204 173 306 22.0 (kg) 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 63 製品 紹介 通信モジュール用高精細配線板 電子機器の小型・高機能・高速化 加工条件の確立により穴位置精度を 1)IVHランド残り片側35µmを実現 に伴い,搭載される電子部品もより 飛躍的に向上させ,並行して小径穴 し,部品の小型化に貢献します。 小型化されています。配線板に要求 の穴埋め技術も確立しました。 2)表裏回路の位置精度は30µm以下 される仕様も,端子ピッチ・穴径・ 位置合わせ精度等がより高精細にな (2)無電解銅めっきによる,小径 り,従来のプロセスでは製造が困難 な領域に入ってきています。 特殊無電解銅めっきで高アスペク トを実現し,従来めっきでは困難で 当社ではこの様な市場要求に対応 すべく,独自技術を結集させた新し い配線板の開発に成功しました。 (1)高位置精度の小径ドリル穴加工 で,ダイシング加工を容易にしま す。 IVH形成技術 あった小径IVHのめっき付きまわり 今後,モジュール製品や小型部品の 分野への展開を進めます。 (日立エーアイシー株式会社) 性を向上させました。 (3)独自技術による極めて高い位置 合わせ精度 と穴埋め技術 当社独自の位置合わせ技術により 高位置精度穴明け機の導入と最適 飛躍的に位置精度が向上しました。 φ80μm L/S=50/50μm 片側35μm φ150μm 0.2mmピッチIVH φ80μm 80μm 小径IVH 穴埋めピア φ0.15μm 図1 高精細通信モジュール用配線板の構造例 表1 高精細通信モジュール用配線板参考仕様 項 64 目 単 位 参考仕様 L/S µm 50/50 回路表裏位置精度 µm 30 IVH穴径 µm 80 IVHランド径 µm 穴径+70 TH穴径【穴埋め可】 µm 150 THランド径 µm 穴径+100 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) ハロゲンフリー,鉛フリー対応 補強板固定用接着フィルム ハイボン10-851 近年,電子機器の小型化,薄型化 製品 紹介 に使用され,補強板の種類としては, (条件:260℃,10s)で膨れ,はが が進むにつれて,折り曲げ加工が可 ポリイミドフィルム,SUS板,ガラ れの発生しない耐熱性を有し,低流 能なフレキシブルプリント配線板 スエポキシ板などがあります。 れ出し性や打ち抜き加工性に優れて (FPC)が多用されるようになって います。また,EUの有害物質規制 (RoHS規制)の電子部品の鉛フリー ハイボン 10-851の特徴は,以下 います。 表2には,各種補強板に対する接 の通りです。 ①鉛フリーはんだ実装対応の耐熱性 着性,耐熱性を示します。補強板の 化によって,FPCの実装にも鉛フリ を有しています。 種類によらず高い接着性,耐熱性を ーはんだの使用が必須となり,実装 ②ハロゲンフリー材料を使用してい 有しています。 温度が現在より10〜20℃高くなる ます。 ことが予想されています。 ③各種補強板への高い接着性を有し の仮付けが可能な微粘着性なども有 ます。 しており作業性にも優れており安定 ハイボン10-851はFPCの補強板を 表1にハイボン10-851の一般特性 固定するための接着フィルムであり ます。 (図1)補強板は,FPCのコ また,ハイボン10-851は,補強板 した品質が得られます。 を示します。 ネクタ部や部品実装部の補強のため (日立化成ポリマー株式会社) 吸湿後も鉛フリーはんだリフロー 補強板固定用接着フィルム 補強板(PI, SUS等) 図1 補強板付きFPCの構成 表1 ハイボン10-851の一般特性 項 表2 目 単 位 条 件 特 性 ハロゲンフリー ― JPCA-ES01-2003 対応 ガラス転移温度 ℃ TMA 16 吸湿後耐リフロー耐熱性 ― 流れ出し量 mm プレス条件;160℃,5MPa ,10分 0.06 打ち抜き加工性 ― 金型打ち抜き 良好 吸湿条件;121℃,2気圧,1h リフロー条件;260℃,10s 膨れ、はがれなし 各種補強板に対する特性 補強板種類 はく離強度(N/10mm) リフロー耐熱性(260℃,10s) ポリイミド 20 膨れ,はがれなし ガラスエポキシ板 28 膨れ,はがれなし SUS 20 膨れ,はがれなし ポリエーテルイミド 14 膨れ,はがれなし 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 65 製品 紹介 油分解能を有する微生物を用いた 厨房廃水処理システム ホテルやレストラン,大型スーパ 術の開発に着手しました。 の場合,事前に詳細な現地調査や ー,工場食堂等の厨房から排出され 群馬大学との約2年におよぶ共同 ミニモデルによる実証試験等を行う る廃水は,動植物油を多く含んでお 研究の結果,新種の3種類の酵素を ことで,それぞれの施設に合わせた り,下水道へ排出する場合は,前処 産生する油分解菌「グリスパックマ 最適な処理方法をご提案できます。 理を行い,排除基準以下とする必要 ン」を開発し,それを用いた厨房廃 (3)汚泥を発生させない処理方式の があります。近年,環境に対する意 水処理システムを完成いたしまし ため,環境ISOのゼロエミッション 識の高まりから,従来用いられてき た。本システムの特長を以下に示し た加圧浮上方式や常圧浮上方式等か ます。 に貢献できます。 (4)加圧浮上方式と比べ,ランニン ら,バイオ製剤を用いた生物処理方 (1)自社で開発したバイオ製剤を用 式が主流になりつつあります。そこ いるため,菌の使用方法を熟知して (5)バイオ方式導入後は,当社が維 で,廃水処理施設の維持管理が主業 おり,菌が最大限活動できる環境を 持管理を行うため,アフターサービ 務である当社では,維持管理側(= 整えることができます。 スが万全です。 (2)既設の廃水処理施設からの改造 使用者側)の目線に立ったバイオ技 グコストを大幅に削減できます。 (日立化成メンテナンス株式会社) 図2 グリスパックマンのSEM写真 コロニー →1個の菌が増殖 してできたもの 図1 グリスパックマンの荷姿 (手前:左から,500mL,1L,2L 表1 荷 奥:左から,5L,20L,10L) グリスパックマンの概要 500mL,1L,2L,5L,10L,20L 姿 pH(−) 6.4〜7.5 生菌数 1.0×108〜4.5×109個/mL 外 観 白濁色の液体 臭 気 若干の発酵臭 危険・有毒性 表2 平均6.9 平均7.9×108個/mL 急性毒性試験,細菌感受性試験等により問題のないことを確認済 図3 グリスパックマンの生菌数の測定 (VB法) バイオ方式導入前後の廃水処理施設の状況 項 目 グリストラップ 合併浄化槽原水槽 加圧浮上方式 原水槽 バイオ方式 導入前 バイオ反応槽 バイオ方式 導入後 新設ブロワ 66 日立化成テクニカルレポート No.46(2006-1) 編集後記 お問い合わせ先 情報通信の発達による技術情報伝搬速度の向上とノウハウ込 みの製造装置の登場は,資本形成さえ可能であれば世界中のど こでも最新技術産業を興せるという製造力に地域格差がない世 界を形成している。 したがって, 模倣 が容易な時代であり,自社の技術/製品 を特許により保護することが競争力の維持に欠かせません。 今号ではこのプロパテントの流れに沿った当社知的財産戦略 の推移について総説という形で紹介させていただきました。 また,今号は技術論文9報,製品紹介10報とかなり充実した 内容とすることができました。今後もさらに内容の充実を図っ て読者の皆様にお届けするように取り組んでまいります。 Y.T. ・掲載事項に関するお問い合わせにつきましては,弊社 インターネットホームページの下記アドレスのお問い 合わせフォームをご利用くださるか,または下記事務 局までお問い合わせください。 お問い合わせページアドレス: https://www.hitachi-chem.co.jp/cgi-bin/contact/other/toiawase.cgi ・「製品紹介」に関するお問い合わせにつきましては,弊 社インターネットホームページの下記アドレスの各製品 紹介をクリックして,お問い合わせフォームをご利用 ください。 製品紹介ページアドレス: http://www.hitachi-chem.co.jp/japanese/products/index.html 編集委員 相 原 関 中 村 前 川 章 雄 板 橋 泰 幸 塚 越 吉 宏 中 山 麦 山 寺 日立化成テクニカルレポート 発 発 行 雅 憲 彦 市 村 茂 樹 大 森 英 二 岡 功 坪 松 良 明 戸 部 豊 男 中 島 文 一 郎 一 沼 田 俊 一 藤 岡 厚 堀 部 隆 横 澤 舜 哉 太 田 彦 宮 崎 文 村 昌 彦 治 安 弘 第46号 行 2006年 1月 元 日立化成工業株式会社 3346−3111 (大代表) 〒163-0449 東京都新宿区西新宿二丁目1 番1 号 (新宿三井ビル) 電話(03) 事務局 研究開発本部 研究開発推進グループ 電話 (03) 5381-2389 編集・発行人 印 刷 義之 所 日立インターメディックス株式会社 〒101-0054 東京都千代田区神田錦町二丁目 1 番地 5 (ダイヤルイン案内) 電話(03) 5281−5001 ©2006 by Hitachi Chemical Co., Ltd. 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