ビール業界 ~キリンホールディングスとアサヒビール~ 福田哲也ゼミナール 経済学部 8 期生 中井茜 山口真美 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 目次 1. はじめに……..……………………………………………………………………………….3 2. 業界概要….……..……………………………………………………………………………4 2-1 ビール産業の歴史…………….…………………………………………………………4 2-2 ビール業界の現状……….………………………………………………………….…...7 2-3 ビール業界の動向.….……..…………………………………………………………….9 3. 企業概要…….……..…………………………...............…………………………….……17 3-1 事業概要…….….………………………….……………………………….……………17 3-2 企業の歩み………………………………………………………………………………18 (1) キリンホールディングス…………………………………………………………18 (2) アサヒビール………………………………………………………………………20 4. 経営戦略分析……….…………………………………………………………………….. 22 4-1 財務分析…………………………………………………………………………………22 4-1-1 成長性分析…………………………………………………………………………22 4-1-2 収益性分析…………………………………………………………………………34 4-1-3 安全性分析…………………………………………………………………………53 4-1-4 キャッシュフロー分析……………………………………………………………61 4-2 企業分析…………………………………………………………………………………65 4-2-1 経営理念……………………………………………………………………………65 (1) キリンホールディングス…………………………………………………………65 (2) アサヒビール………………………………………………………………………65 4-2-2 経営戦略……………………………………………………………………………65 (ア) キリンホールディングス…………………………………………………………66 (イ) アサヒビール………………………………………………………………………68 4-2-3 リーダーシップ……………………………………………………………………70 (1)キリンホールディングス…………………………………………………………70 (2)アサヒビール………………………………………………………………………71 5. 今後の課題………..…………………………………….…………………………………72 (1) キリンホールディングス…………………………………………………………….72 (2) アサヒビール………………………………………………………………………….75 6. 終わりに……..………….…………………………………………………………………78 参考資料………………………………………………………………………………………….79 参考文献………………………………………………………………………………………….88 2 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 1 はじめに (山口真美) 大学生になり、ゼミナールやサークルの仲間と居酒屋や自宅で飲み会をし、アルコール 飲料を手にする機会が増えた。また、アルコール飲料は CM でもよく見かける。さらに規 制緩和によってコンビニエンスストアやドラックストアなどでも販売が開始され、手軽に 購入できるようになった。このアルコール飲料には、「ビールが一番好き」「ビールは苦い からチューハイ」「安い発泡酒がいい」などといった消費者の好みやこだわりがある。その 中で、一番人気がある酒類はビールである。2004 年度の消費者が飲食店・居酒屋・レスト ランで一番初めによくオーダーする酒類の割合は、カクテル 7%、チューハイ 12%、ビー ルは 66%である。(食生活データ総合統計年報)また、2005 年度の酒類別販売数量は、清 酒 71 万kl、焼酎 100 万kl、ビール 341 万klであり 11 品目ある中でビールが1位で あった。(国税庁調べ)つまり、ビールは日本で一番飲まれているアルコール飲料である。 ところが、1996 年には 679 万klであったビールの出荷量は 10 年後の 2006 年には、 348 万klにまで半減している。そのため、日本のビールメーカーの業績は、年々下降傾向 にあるがビールメーカーはビール類だけでなく、チューハイ、焼酎、ウイスキー、梅酒等 も製造・販売し、ビールの減少部分を補っている。よって、近年ではビール以外の酒類や グループ企業全体に力を入れている企業が業績を伸ばしている傾向になっている。 また、1994 年には発泡酒が発売となり、2003 年には第 3 のビール(新ジャンル)が発 売となった。日本では 1853 年からビールが醸造されてきたが、ここ十数年の間に新しいビ ール系飲料が 2 つも誕生した。また、近年では高級感のある酒類やカロリーオフなどの酒 類が話題を呼んでいる。このように、衰退しているビールシェアを補っていくため、ビー ルメーカー各社は新市場を確立している。 そこで今回、市場が停滞しているビール業界に注目し、本論文では、2006 年度業界売上 上位の 2 社であるキリンホールディングスとアサヒビールを取り上げ、戦略や課題を明ら かにしていく。1 位のキリンホールディングスは、酒類事業の麒麟麦酒、飲料事業のキリン ビバレッジを完全子会社にし、総合飲料グループとして多角化事業を行っている。2 位のア サヒビールは、トップブランドビールである「アサヒスーパードライ」の販売に力を入れ、 酒類事業の成長に軸足を置いている。それぞれ異なった経営を行っている両社は実際、業 界の動向に合った経営、戦略を行っているのかを見て課題を提案する。 まず業界概要では、ビール産業の歴史を述べた後、業界の現状と動向を明らかにする。 次に、企業概要では両社の相違点と共通点を比較し、両社の歩みを見ていく。さらに、経 営戦略分析では財務諸表を基に両社の強みと弱みを明らかにする。最後に企業分析を踏ま えた上で、両社の今後の課題・展望を提案したい。 まず、業界概要から見ていく。 3 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 2 業界概要 2-1 ビール産業の歴史 (山口真美) まず、日本におけるビール産業の歴史を述べる。ここでは、どのようにして日本にビー ルが誕生したかを明らかにした後、どのようにして現在のビールメーカーに至ったかを見 ていく。 ビール産業の誕生 日本にビールが入ってきたのは、1860 年に英米の船が来航したことがきっかけであった。 日本人で初めてビールを醸造したのは、1869 年に当時の品川県知事であった古賀一平氏で あり、産業として醸造を開始した。また、古賀氏は土佐藩屋敷跡(現在の東京都品川区大 井)にビール工場を建造した。さらに 1872 年には、渋谷庄三郎氏が大阪市でビールの醸造・ 販売を行った。こうして 1869 年以降、日本のビール産業は黎明(れいめい)期を迎えるこ とになった。一時は全国に 100 社前後のビール会社ができるほどで、この頃の文明開化は 日本人の生活様式にも多くの変化を与え、ハイカラ族はビールを好んでいた。ただし、こ の時期は国産ビールに比べ、舶来ビールが幅を利かせていた。 近年大手ビールメーカーの原点 1887 年以降、日本も産業革命による近代化が本格的になった。 1887 年には東京で「日本麦酒醸造会社」が、1888 年には北海道庁から大倉組に払い下げ られ「札幌麦酒会社」が、1889 年には大阪で「大阪麦酒会社」が設立され、1893 年にそれ ぞれ「日本麦酒株式会社」、「札幌麦酒株式会社」、「大阪麦酒株式会社」となった。この日 本麦酒、札幌麦酒、大阪麦酒はいずれもアサヒビールの前身である。また、横浜のコープ ランドビールは、後に香港法人のジャパン・ブリュワリー・リミテッドが引き継ぎ、1888 年に「キリンビール」 (現、キリンラガービール)を発売し、1907 年には「麒麟麦酒株式会 社」を設立した。このように、麒麟麦酒やアサヒビールなどの現在に至る会社はいずれも この時期に誕生した。 1860 年代のビールは、舶来ビールが国産ビールの生産量を上回っていたが、1887 年には 国産と舶来が逆転し、国産ビールは徐々に人々の生活に浸透していった。 1860 年代当時、酒税は清酒のみに課せられており、ビールには酒税が課せられていなか った。しかし、1900 年に中国で義和団事件が起き、日本も軍備増強が必要となったため、 1901 年 10 月、ビールにも軍備増強のために酒税が課せられることになる。これにより、 資金力の弱い小醸造所はその負担に耐えられず、倒産や合併などによって姿を消していっ た。1906 年には日本麦酒、札幌麦酒、大阪麦酒も合併され、 「大日本麦酒株式会社」となっ た。 4 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) ビール産業の活況 1914 年の第一次世界大戦で、日本は地理的条件にも恵まれ、ほとんど参戦することなく 経済的には好況を迎えた。ビール業界も第一次世界大戦の影響を受け、ヨーロッパからビ ールの補給を断たれた東南アジアやインドの市場に進出するなど大戦景気を満喫した。そ の後もビールに対する需要は旺盛で、ビール会社は次々に新工場の建設に乗り出し、新た にビール事業を始める会社も現れ、ビール業界は活気付いた。 ビール産業の低迷 しかし、1920 年代は大戦後の反動的不況が深刻化し、消費量の低下や安売り競争の激化 などビール産業も混乱と低迷の時代を迎えた。 1939 年、ヨーロッパで第二次世界大戦が勃発すると、価格統制令が施行され物価だけで なく原料や製造量まで統制を受けることになり、ビールの価格統制は、価格指定から始ま り、都市、地方別に公定価格が設定され、全国単一の公定価格となった。 この間、ビールに課された酒税は、戦費調達のためほとんど毎年のように増税された。 ビール産業の復興 戦後の混乱の中でビール会社は復興への努力を開始した。 1949 年、ビール産業にも過度経済力集中排除法が適用され、トップメーカーである大日 本麦酒が「日本麦酒」(現、サッポロビール)と「朝日麦酒」(現、アサヒビール)に分割 されて戦後の新しい体制が出来上がるとともに、酒類配給公団が廃止されて、ビール会社 は自由に出荷・販売できるようになった。 1950 年には特約店ルートによる販売を開始して本格的な競争を再開し、1952 年には原料 統制が解除され、1953 年には戦前の最高水準を超す生産高を達成した。 1955 年以降は所得倍増の波に乗ってビールに対する需要も大幅に伸びた時代で、戦前の ビール消費がほとんど料飲店であったのに対し、電気冷蔵庫が普及した時期が重なったこ とにより、家庭で飲まれるビールが飛躍的に伸びた。 5 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 近年の市場の動向 【図表 2-1】 ビール製造量 (万kl) 800 700 600 500 400 300 200 100 0 ビール製造量 1977年 1987年 1989年 1994年 400 500 600 713.5 (ビールの歴史と変遷ホームページ) 【図表 2-1】はビール製造量の推移を表したものである。 1960 年代はビール需要の伸び率が徐々に鈍化したが、1977 年には、製造量が 400 万k lに達し、年率平均 2.6%の伸び率となり安定成長期に入った。 その後、1987 年に製造量が 500 万klを突破し、1989 年には 600 万kl、さらに 1994 年には 700 万klを超えた。1994 年に記録した 713 万 5 千klが過去最高の製造量となっ ている。 また、外国ブランドビールの国内ライセンス生産を行っている工場もあり、国際的な広 がりも出てきている。 さらに、規制緩和の一つとして 1994 年 4 月にビール製造免許に係る最低製造数量基準が 年間 2,000klから 60klに引き下げられたことにより、近年、地ビールなどのローカル ブランドが続々増え、それぞれ個性あるビールを製造できるようになった。 しかし、近年では、少子高齢化や消費者の嗜好の多様化・個性化や若者のアルコール離 れの影響によりビール市場が縮小傾向になっている。そこで、ビールメーカー各社は各種 の新商品の発売を含めた商品対策の展開を活発的に行っている。消費構造そのものが大き く変化しているためビールメーカー各社は、商品戦略はもちろん、とりわけ営業戦略その ものを変える必要に迫られてきた。近年から現代の動向については後ほど述べることとす る。 ここまで、ビール産業が発展した経由を歴史で振り返り述べてきた。これを理解したう えで次に、現在のビール業界の現状・動向を見ていく。さらに動向では、キーワードを取 り上げ、解説をしていく。 6 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 2-2 ビール業界の現状 ここでは、 近年のビール業界がどのような状態であるのかを 2 つの特徴を挙げ見ていく。 まず、ビール業界に属する企業の出荷数量シェアから特徴を導き出す。 【図表 2-2】 オ リオ ン ビール 0 .9 % 2 0 0 6 年 度 ビール 出 荷 数 量 シ ェア サ ントリー 1 0 .8 % サッポロ ビール 1 2 .9 % アサヒ ビール 3 7 .8 % キリン ビール 3 7 .6 % (日経産業新聞 2007 年 7 月 24 日) 【図表 2-2】は 2006 年度のビール出荷数量シェアを表したものである。 ビール業界のシェア争いは 1967 年以降、アサヒビール、キリンビール、サッポロビール、 サントリー、オリオンビールの 5 社で繰り広げられている。つまり、ビール業界は 1 つの 市場を少数の企業で支配する寡占市場である。 2006 年度では、アサヒビールが 37.8%で 1 位、キリンビールが 37.6%で 2 位であり、ビ ール市場の約 7 割をアサヒビールとキリンビールの 2 社で占めている。1954 年から 1997 年までキリンビールがシェアトップであったが、1998 年にアサヒビールが首位に躍り出て からはアサヒビールが首位の座を保っている。 このように、ビール業界の 1 つ目の特徴として、ビール業界は寡占市場であり、市場の 約 7 割をアサヒビールとキリンビールが占めていることが挙げられる。 もう 1 つの特徴を、業界平均の売上高とビール出荷高の推移から見ていく。 7 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 2-3】 業 界 平 均 売 上 高 とビ ール 出 荷 高 の 推 移 900,000 866,862 2,400,000 871,858 850,000 838,985 2,275,829 2,300,000 売上高 ビール出荷高 2,200,000 2,100,000 800,000 2,000,000 747,941 2,003,336 750,000 700,000 692,191 664,315 1,759,435 650,000 1,900,000 1,500,000 1,468,726 2000年 2001年 2002年 2003年 1,700,000 1,600,000 1,621,295 1,599,886 600,000 1,800,000 2004年 1,400,000 2005年 【図表 2-3】はビール業界の平均売上高とビール出荷高の推移を表したものである。 ビールの出荷高の下降とともに平均売上高も減少し、ビール市場が縮小傾向であること が分かる。ビールメーカーはその名の通りビール事業を主として活動しているため、ビー ルの売上が不調であれば、各社の業績も低下する。ビールメーカーの業績が低下している 大きな原因は、先ほどビール産業の歴史で述べたように近代では少子高齢化や消費者の嗜 好の多様化に伴う消費者のビール離れが影響しているからである。 ここで、ビールの出荷高が低下している中、他の酒類の売上高はどのように推移してい るのかを見ていく。 【図表 2-4】 酒類別販売数量 (千kl) 6,000 (千kl) 300 5,000 250 4,000 200 3,000 150 2,000 100 1,000 50 0 ビール 焼酎 果実酒類 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2005年 5,185 734 282 4,622 792 266 4,132 832 271 3,783 921 247 3,617 983 234 3,408 999 247 8 0 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) (国税庁統計年報書) 【図表 2-4】はビール、焼酎、果実酒類の販売数量の推移を比較したものである。ビー ルと焼酎を左軸にとり、果実酒類を右軸にとっている。 ビールの販売数量が低下しているのに対して焼酎が好調であることが分かる。また、果 実酒類も 2004 年から 2005 年にかけて増加している。ビールメーカーは 2000 年以降、缶 チューハイやカクテルのような低アルコール飲料を発売している。また、商品が豊富であ り、若者や女性にも人気がある。各ビールメーカーが主体としているビールの売上が年々 減少している中、ビールから離れていったユーザーを取り戻すには、多種多様な顧客のニ ーズに合わせた商品開発が必要になってくる。そのため、 【図表 2-4】で出荷高が伸びてい る酒類にも力を入れていかなくてはならない時代になっているといえる。 ここで、ビール業界の 2 つ目の特徴として、消費者のビール離れが進行している中、他 の酒類の消費量が増えていることが挙げられる。 ここまでビール業界の現状を述べ、業界は寡占状態であることと、ビール市場が縮小傾 向であることが分かった。このような現状であるビール業界は今後どのような動向を見せ るのか明らかにしていく。 2-3 ビール業界の動向 消費者がビール離れをしている中、今後ビール業界にとってさまざまな対策が必要にな ってくる。近年のビール業界では、消費者の嗜好の変化だけでなく、酒税法の改定や海外 市場も大きく影響している。そこで、業界の動向を表す 3 つのキーワードとして、 「酒税法 対策」「多様化・多嗜好」「アジア進出による事業拡大」を挙げ、これらのキーワードにつ いて解説をしていく。 まず、「酒税法対策」について説明する。 ビールには酒税が課せられるが、アルコールの度数や原料によって課税額が異なる。し かし、酒税法は頻繁に改正されているためビールメーカーはその都度対応が必要になって くる。また、酒税法の改正は消費者にも大きな影響を与えている。 国税庁の酒税課税状況表によると、2006 年度上半期の酒類出荷量が前年同期の 0.7%増 となった。増加の要因として、業務用のビールや低アルコール飲料の推移が好調だったこ とである。しかし、主要 5 社によるビール・発泡酒の出荷量は、前年比 2.7%の減少であっ た。近年の経済状況は低価格化傾向にあり、ビール・発泡酒の 1 世帯当たりの支出金額は、 2002 年では 26,949 円であったが 2006 年には 21,930 円と減少している。 (総務省統計局) 低価格化を背景に発泡酒の売れ行きは好調であったが、過去 2 度の酒税法改正により割安 感が薄れた発泡酒の落ち込みが目立った。また、発泡酒と入れ替わる形で 2004 年にはさら に低価格である第 3 のビールが発売された。2004 年以降、発泡酒から第 3 のビールへ転換 9 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) する消費者が増え、発泡酒の消費量が減少したことによって、2006 年度の出荷量における シェアが 20%を超え急成長した。 ここで、酒税法の改正の歴史を振り返っておく。1975 年から 1984 年の間に 4 回の増税 が行われ、1989 年の消費税導入時に酒税が改正されたことによって、27 年ぶりに大瓶1本 当たり 10 円近く減税された。しかし、1994 年には、再び1本当たり 10 円近くの増税とな った。また、発泡酒に関しては、1996 年と 2003 年に増税となった。発泡酒は低価格でも 飲み応えがあるという支持を集めていたにも関わらず、税率の差が縮まったことでビール と発泡酒の価格にも差が縮まり、発泡酒の売上に大きな影響を与ることとなった。発泡酒 の税率が上がったことによって登場したのが第 3 のビールであるが、2006 年 5 月に行われ た酒税法の改定により、第 3 のビールが 350mlで 3.8 円増税された。また、ビールが 0.7 円減税となったため、ビールと第 3 のビールとの税率の差が縮まった。 さらに、2006 年の酒税法改正では、酒類分類の簡素化のため集計酒類品目が 10 種類 11 品目から 4 種類 17 品目に変更となった(【図表 2-5】)。新酒税法では、課税上の必要性か ら、酒類をその製法等に着目して、発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類及び混成酒類の 4 種 類に分類し、その分類ごとに異なる税率を適用することを基本としている。(国税庁調べ) これまでビールメーカーは複雑な税率のすき間をぬって発泡酒、第 3 のビールと低税率の 商品を開発してきた。そのため、税率によって価格に大きな差が生じることを防止するた めに、国税庁によってこの改正が行なわれた。その上、新酒税法では、現在想定していな い酒類が今後開発された場合は、4 つの酒類のどこかに分けた上で、その酒類の一番高い税 率を適用することも決められた。 【図表 2-5】 旧酒税法(10 種類 11 品目) 分類 醸造酒 混成酒 種類 清酒 合成清酒 蒸留酒 しょうちゅう 甲類 乙類 みりん ビール 果実酒 果実酒類 甘味果実酒 ウイスキー ウイスキー ブランデー スピリッツ スピリッツ 原料アルコール リキュール 発泡酒 雑酒 粉末酒 その他の雑酒 混成酒 醸造酒 醸造酒 蒸留酒 蒸留 混成酒 混成酒 品目区分 新酒税法(4 種類 17 品目) 分類 発泡性酒類 醸造酒類 蒸留酒類 混成酒類 品目区分 ビール 発泡酒 清酒 果実酒 その他の醸造酒 連 続 式 蒸 留 しょうちゅう 単 式 蒸 留 しょうちゅう ウイスキー ブランデー 原料用アルコール スピリッツ 合成清酒 みりん 甘味果実酒 リキュール 粉末酒 雑酒 (国税庁ホームページ) 10 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 今後、低税率を狙って低価格の商品が発売されるのは困難である。そこで、ビールメー カーはビールに限定せず、幅広く商品を開発する必要がある。 ここまで「酒税法対策」について見てきた。次に、2 つ目のキーワードである「多様化・ 多嗜好」について説明する。 ここでは、消費者の嗜好の変化として低価格志向、健康志向、高級志向を取り上げ、こ れらを見ていく。 消費者の嗜好の変化に伴って、商品も多様化している。ビールメーカーはこれに合った 商品を開発していかなくてはならない。近年では酒税法の改定によってビールや発泡酒の 価格が上昇し、消費量が減少した。そのような中でよりビールの味わいに近づけた低価格 商品が販売された。消費者の低価格志向と合致したこともあり、この商品が成功し、販売 数量を伸ばしている。 【図表 2-6】 (kl) 酒類別販売数量(上位3社) 4,500,000 4,000,000 3,500,000 3,000,000 2,500,000 2,000,000 1,500,000 1,000,000 500,000 0 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 ビール 4,075,967 3,683,754 3,617,201 3,308,378 3,225,184 発泡酒 2,070,230 2,080,043 1,964,503 1,485,192 1,368,322 2,882 232,207 826,877 971,802 新ジャン ル (国税庁ホームページ) 【図表 2-6】は酒類別で見た上位 3 社の合計販売数量の推移を表したものである。 ビールと発泡酒は年々減少傾向にあるのが分かる。この背景には酒税が影響している。 発泡酒は元々、ビールよりも低価格の商品として好調であった。しかし、先ほど酒税法の 改定で述べたように発泡酒の税率が値上げにより、ビールとの価格が変わらなくなった。 そこで、登場したのが第 3 のビールである。ビールや発泡酒の原料は麦芽であるが、第 3 のビールは麦芽を使用せず、エンドウ豆や大豆を原料としている。麦芽以外の原料を使用 することによって、ビールメーカーはより低価格で販売できるのである。第 3 のビールが 誕生したのは 2004 年 2 月に発売されたサッポロビールの「ドラフトワン」である。その後、 2005 年にキリンビールは「のどごし<生>」、アサヒビールは「新生」が発売された。 この結果、ビール・発泡酒が減少傾向にある中、第 3 のビール販売数量は年々上昇して 11 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) いる。 消費者がビール離れをしている原因は価格面だけではない。ビールは下腹に溜まるとい ったネガティブなイメージがある。そこで、健康面を意識した人はポリフェノールが含ま れている赤ワインを手に取る。これが赤ワインブームである。またビールはアルコール度 数、味とともに横並びのため、価格も割安で自分の好みの度数や味に変化することができ る焼酎や、多種類の商品・味覚を揃えている低アルコール飲料が好まれるようになった。 このように、ビールから離れている消費者の対応策として各ビールメーカーは今まで強 化してきた定番ビール(スーパードライ、一番絞り、黒ラベル、モルツ)の他にも重点を 置き、社会の志向に基づいた商品ラインアップを増やしている。例として、健康志向向け の商品が挙げられる。 健康を気にしている消費者向けにカロリーや糖質を抑えた商品が開発された。しかし、 カロリーを減らした商品は最近始まったことではなく、アサヒビールでは 2000 年に「スー パーモルト」を、サッポロビールでは 2003 年に「ハーフ&ハーフ」を販売していた。しか し、発売当初のカロリーオフ商品は味が薄くて消費者に好まれていなかった。そこで、味 わいはそのままにし、糖質、カロリー、プリン体をカットした商品が投入されるようにな り、市場を拡大している。定番ビールの糖質は、350ml 缶 1 本当たり 10.0g から 15.0g ほ ど含まれているが、この健康志向向けのビール系飲料の糖質は 50%から 80%カットした。 さらに、アサヒのスタイルフリーでは糖質をゼロにし、2007 年 3 月に販売され、同年 9 月 には 570 万函に到達し当初の目標まで 30 万函と好調な売上を出している。2007 年では主 要 4 社で 7 商品が投入されており、中でもキリンビールは 3 商品と健康志向に意欲的であ る。この健康志向向けの商品は、ビールだけに止まらず低アルコール飲料でも糖質オフが 浸透している。また、2007 年 9 月にアサヒビールはカゴメと共同開発することよって既存 の缶入りカクテルやチューハイなどにないトマトを使用した商品を産み出した。素材に野 菜を使用することで身体にやさしいアルコールを提供し他社と異なった点で勝負している。 近年では、低価格や健康を求める時代ではあるが、週末や記念日などに価格の高い商品 を好む傾向にもなっている。そこで高級志向に合わせた商品も誕生した。 12 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 2-7】 ビール・発泡酒・新ジャンル市場とプレミアムビール市場の比較 (サントリーホームページ) 【図表 2-7】はビール・発泡酒・新ジャンル(第 3 のビール)市場の出荷高推移とプレ ミアムビール市場のシェアを比較したものである。 ビールを選ぶこだわりとして、高級感、吟味された素材の使用、贅沢感を求める消費者 が増えている。このような消費者向けに開発されたビールをプレミアムビールと呼び、現 在ではスッキリとしたのど越しを楽しむのではなく、苦くてコクが強い従来のビールを楽 しむ人が増えている。ビール・発泡酒市場が下降状態にある中、第 3 のビールとともに上 昇しているのがプレミアムビール市場である。このプレミアムビール市場に火をつけたの が 2005 年にモンドセレクション最高金賞を受賞したサントリーの「ザ・プレミアムモルツ」 である。以前から各社でプレミアムビールは販売されていたが売上は伸びなかった。その 間市場を独占していたのがサッポロビールの「エビス」であった。しかし、「ザ・プミアム モルツ」が最高金賞を受賞したことを CM でアピールしたことにより、消費者にプレミア ムビールを印象付け、それにあやかって各社でプレミアムビールを投入し始めた。プレミ アムビールは利幅が大きく価格は 350ml缶で 250 円程度であり 135 円程度で売られてい る第 3 のビールの 2 倍弱にもなる。利益も 2 倍確保できメーカーだけではなく流通、飲食 店にとってもメリットがあり期待の出来る市場である。 ビールメーカーは、近年の嗜好の多様化に合わせ万人に受けるビールを生み出すのでは なく、各々の消費者が求めている商品を生み出す必要がある。ビール市場が停滞している 中、新たに切り開かれた市場は確実に拡大している。今後も消費者の「多様化・多嗜好」 に合わせた商品開発がキーワードとなっていく。 13 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 最後に「アジア進出による事業拡大」について説明する。 【図表 2-8】 (万kl) 国 別 ビ ール 消 費 量 3,500.0 3,000.0 2,500.0 2,000.0 1,500.0 1,000.0 500.0 0.0 中国 アメリカ合衆国 日本 2000年 2001年 2002年 2003年 2004年 2,203.6 2,318.4 710.0 2,243.9 2,348.5 711.0 2,349.8 2,382.0 693.0 2,499.5 2,372.2 649.7 2,864.0 2,397.4 654.9 (ビール酒造組合ホームページ) 【図表 2-8】は国別ビール消費量を表したものである。 日本のビールシェアが縮小する中、同じアジア地区で成長を遂げている国がある。それ が中国である。中国国民の平均所得の増加や生活レベルの向上とともに中国人の趣向が変 化している。 【図表 2-8】より、中国のビール消費量は 2003 年に世界トップに躍り出て年 率 20%近くの伸びを示している。1 人当たりの消費量が日本人の 4 分の 1 であることから、 人口の多い中国では、今後も飛躍的にビール消費量が伸びる可能性が大きい。このように 拡大する中国市場に期待を寄せ、中国のビールメーカーに投資するビールメーカーが日本 だけでなく世界で確実に増加している。 日本のビールメーカーで最初に中国市場に参入したのは、サントリーである。中国では 低価格帯、中価格帯、高価格帯の 3 層の価格が形成され、サントリーはその中でも外資系 ビールで一般となっている高価格帯を避け独自の中価格帯に近い価格設定をした。このこ とが勝因となり、中国で人気を集めることとなった。また、上海地域では 2 つの大衆ビー ルメーカーを手中にし、サントリーは上海市場シェアを 6 割まで伸ばしている。 サントリーの中国進出から 10 年を経てアサヒビールは、1994 年に 4 ヶ所のビール工場 を買収したことから始まった。上海に統括所と販売会社があり、5 工場でビールの生産をし ている。アサヒビールは、伊藤忠商事をパートナーに迎え、両社で中国ビール会社を M&A によって資本参加をしている。アサヒビールは 2007 年に中国で第 5 位のビールメーカーと なった。 14 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) しかし、アサヒビールより手強いのがキリンホールディングスである。キリンホールデ ィングスは台湾の統一グループと共同で珠海麒麟統一麦酒設立し、キリン一番絞り等を生 産してきた。また、中国だけにとどまらず、オーストラリア第 2 位ビールメーカーである ライオンネイサン社に出資し麒麟ブランドを産み出している。そんな中、中国が世界消費 量1位となりキリンホールディングスは 2004 年末から中国に重点を置いて投資する戦略を 立てた。まず、北方製造拠点を確保し、上海に中国全土を統括する投資会社を設けた。次 に 100 億円規模の投資で南方拠点の拡大の布石を打った。当初、台湾パートナーと共同で 出資していたものを買い取り 100%子会社とし、2 倍の製造能力と醸造設備を持つ新工場を 建設した。この積極的な投資活動により、キリンホールディングスは 2006 年において海外 比率を 20%以上にまで上昇させたのである。 主要5社で国内のビールシェアを拡大するにも限度があり、人口減や高齢化が進む以上、 将来的に市場が急拡大することは期待できない。その中で、隣国である中国が急成長して いる。この成長市場に参入することで既存事業を強化し、また新たな事業を取り組み各社 の業績を拡大することになるであろう。 しかし、成長している市場に投資しても業績に結びつかなければ不安要素になりかねな い。有力な企業を見極め、日本のビールメーカーの規模を活発化させるために「海外・ア ジア進出による事業拡大」がキーワードとなる。 ここまでビール業界の動向を述べてきた。動向の中で、 「酒税法対策」「多様化・多嗜好」 「アジア進出による事業拡大」の3つのキーワードが挙げられた。 このキーワードで挙げられた「多様化・多嗜好」の中の低価格志向、健康志向、高級志 向に合った商品開発に加え、各社の戦略の成果によって市場が拡大した。その戦略とは、 営業促進に力を注ぐことである。 営業促進費は広告宣伝費に販売促進費を加えたものである。日本の企業の 2005 年度営業 促進費ランキングでは、サントリー6 位、アサヒビール 10 位、キリンビール 11 位とビール 業界が上位を占めている。また、上場企業での業種別売上高に対する広告宣伝費の比率で は、自動車 0.98%、電気機器 0.77%、化学 2.09%、通信 1.03%、食品 2.36%であった。ビ ール業界は食品に属されているが、ビール業界だけでの比率は 3.80%であり、他業界より も高いことが分かる。 売上高広告宣伝費率が高いことがビール業界の特徴であり、CM や新聞といった広告やイ ベントやキャンペーンといった販売促進を強化することによって企業や製品のイメージを 良くしていく。イメージ戦略をとっているのはビールの消費者が味で差別化を図るのは極 めて難しいため、営業促進によって情報を提供していくためである。 2005 年から人気急上昇した「ザ・プレミアムモルツ」もモンドセレクション最高金賞の 受賞だけが勝因ではなく、「最高金賞のビールで最高の週末を」というキャッチコピーで新 たな飲み方の提案をおこなった。この戦略により、潜在ニーズを掘り起こしプレミアムブ 15 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) ームの先駆けとなった。その他にも、この戦略で空前の大ヒットが産み出されたビールが ある。それはアサヒスーパードライである。スーパードライは発売当時で珍しかった店頭 での試飲イベントを行ったことにより小売店での導入が増え、消費者の心をつかんだ。ま た、鮮度を追求している映像を CM で消費者に伝え、スーパードライは鮮度がよいという イメージを定着させ販売数量はうなぎのぼりとなった。 このように新たな市場を切り開いていくためにも、ブランドを強化するためにも営業促 進を効果的に使うことで他社との差別化を図ることができるのだ。 以上のことから、今後のビール業界が成長を遂げるためには前途に上げたキーワード・ イメージ作りをどのように確立していくかが問われてくる。 ここまでビール業界の動向を見てきた。このような状況の中で、ビール出荷数量シェア 1 位のキリンホールディングスと 2 位のアサヒビールの両社はどのような戦略をとっている のかを詳しく見ていきたい。 次に述べる企業概要では、両社の共通点と相違点、両社の歩みを見ていく。 16 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 3 企業概要 3-1 事業概要 (山口真美) 両社の事業概要を比較したものである。 社名 キリンホールディングス株式会社 設立 1907 年 2 月 23 日 1949 年 9 月 1 日 本社所在地 東京都中央区新川 2-10-1 東京都中央区京橋 3-7-1 代表者 加藤 壹康 荻田 資本金 102,045 百万円(2006 年 12 月現在) 182,531 百万円(2006 年 12 月現在) 従業員数 5,040 名(2006 年 12 月 31 日現在) 3,672 名(2006 年 12 月 31 日現在) 売上高 1,665,946 百万円 1,446,385 百万円 (2006 年 1 月~12 月) (2006 年 1 月~12 月) 事業内容 アサヒビール株式会社 伍 グループの経営戦略・経営管理な アサヒビールグループは、中核で らびに専門サービスの提供 ある国内酒類事業をはじめ、飲料、 食品・薬品などのグループ事業や 国際事業を展開 グループ企業 国内酒類事業・・10 社 国内酒類事業・・11 社 国際酒類事業・・10 社 飲料事業・・3 社 清涼飲料事業・・2 社 チルド事業・・2 社 医療事業・・9 社 食品:薬品事業・・4 社 健康/機能性食品事業・・3 社 国際事業・・13 社 アグリバイオ事業・・11 社 原材料事業・・1 社 不動産事業・・2 社 物流事業・・3 社 食品/サービス事業・・10 社 外食事業・・5 社 機能分担会社・・2 社 不動産事業・・1 社 その他事業・・8 社 営 業 利 益 構 成 酒類・・70% 酒類・・88% 比 飲料・・17% 飲料・・9% 医薬・・10% 食品、薬品・・1% その他・・3% その他・・2% (2006 年度) (2006 年度) 17 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) この表の中から、両社の違いを見ていく。まず、社名を見てわかるように会社体制に違 いがある。キリンホールディングスとは、麒麟麦酒株式会社が 2007 年 7 月 1 日より純粋持 株会社制を導入して発足したものである。キリンホールディングスは純粋持株会社である ため酒類を製造するなど直接事業には携わっていない。実際事業に携わるのは、事業子会 社である麒麟麦酒やキリンビバレッジなどである。一方、アサヒビールは事業持株会社で あり、自ら事業も行っている。また、アサヒビールもキリンホールディングスと同様にア サヒ飲料やアサヒフードアンドヘルスケアなどの子会社がある。 2 つ目の違いは営業利益構成比である。まず、キリンホールディングスの営業利益構成比 を見ると、キリンホールディングスは酒類が 70%であり営業利益の大半を酒類で占めてい る。しかし、キリンホールディングスは酒類以外にも飲料や医薬にも力を入れている。こ の 2 つの事業を合わせると営業利益の約 30%弱を占めている。一方、アサヒビールは営業 利益の 88%が酒類で占めており、残りの 10%をその他の事業で構成されている。営業利益 構成比を見て分かるように、キリンホールディングスは、酒類以外にも多種類の事業を展 開し、アサヒビールは基幹ブランドである酒類を中心に事業を展開しているのである。 ここまで両社の違いを見てきたが、両社には共通している部分もある。それは、グルー プ企業の数とそれぞれの企業の事業内容である。まず、両社のグループ企業の事業内容を 見ていく。両社ともビールの製造・販売を中心とする国内酒類事業がある。国内酒類事業 とは、ビールや発泡酒、焼酎等を製造・販売する事業である。また、両社とも国際事業が 10 社以上あり、海外でも幅広く事業を行っている。事業数で見ると、両社とも 10 種類近く ある。 以上、事業概要を比較してきた。次に企業の歩みを述べることによって、両社がどのよ うな歴史を歩んできたのかを見ていく。 3-2 企業の歩み ここでは、両社がどのような歴史を歩んできたのかを見ていく。まず、両社の沿革を簡 単に述べていく。 (1)キリンホールディングス 1888 年 ジャパン・ブルワリー、明治屋と一手販売契約を締結し、 「キリンビール」とし て発売 1907 年 麒麟麦酒株式会社設立、ジャパン・ブルワリーの事業を継承 1949 年 出荷制限が解除され、本格的自由販売がスタート 商標「キリンビール」を復活して販売を開始 1954 年 ビールのシェアが業界トップになる 1966 年 ビールのシェアが 50%まで上昇 18 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 1972 年 ビールのシェアが 60%まで上昇 1988 年 キリン生ビールドライ発売 1989 年 キリングループ長期経営構想「キリン・グループ・ビジョン 2015」を発表 1998 年 発泡酒「麒麟 2007 年 純粋持株会社制に伴い、キリンホールディングスに商号変更 淡麗<生>」発売 初期 麒麟麦酒の起源は、1870 年にノルウェー系アメリカ人ウィリアム・コープランドが横 浜山手に「スプリング・バレー・ブルワリー」を開設し、日本で初めてビールを製造・ 販売したことから始まった。1885 年に三菱財閥の岩崎弥之助らが外国資本による香港国 籍の新会社「ジャパン・ブルワリー」を設立した。ジャパン・ブルワリーは 1888 年に明 治屋と一手販売契約を締結し、 「麒麟ビール」を発売した。そして、1907 年に三菱財閥と 明治屋の出資によって日本国籍会社「麒麟麦酒」が発足した。 中期 ~成長期~ 戦後、1949 年に自由販売競争時代となり、麒麟麦酒は品質の良さと知名度に支えられ さらに、特約店網の強化をすることによって確実に販売数量を伸ばした。また、1954 年 には原材料である大麦の買い入れが自由化となり、生産制限がなくなった。品質本位と 堅実経営を信念としてきた麒麟麦酒は、1954 年の出荷量は 14kl を超えてビール業界でシ ェアトップとなる。 ~最盛期~ 1954 年にシェアトップに躍り出た麒麟麦酒は約半世紀もの間、他社に首位の座を譲ら なかった。1966 年にはビールシェアの過半数を獲得することになる。首位となってから、 工場を毎年のように創設させ、1975 年にはブラジルの東山農産加工の資本に参加するな ど設備投資にも力を入れた。1980 年に業界初となる連結売上高が 1 兆円を突破し、さら に多角化経営を推進するために 1982 年には医薬事業を開始した。1990 年には一番絞り が発売となり、ラガーに並ぶ主力ビールとなった。 ~変動期~ 1987 年アサヒビールのスーパードライの発売により、1998 年ビール出荷量で首位脱落 となった。しかし、1998 年に発泡酒「麒麟 淡麗<生>」を発売し、この年の大ヒット 商品となって発泡酒市場においてトップに躍り出た。新商品の投入合戦で熾烈なシェア 争奪戦を繰り広げている麒麟麦酒は、主力ビールだけで勝負するのではなく、ビール以 外の発泡酒やチューハイを含めた新商品を大量投入しているため、酒類の販売数量は業 19 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 界一である。 現在 2005 年に発売開始した第 3 のビール「キリン のどごし<生>」は、課税出荷数量で 業界トップとなった。また、2007 年 7 月 1 日より純粋持株会社制を導入し、キリンホー ルディングス株式会社が発足した。さらに医薬事業は独立し、キリンファーマ株式会社 として発足した。 (2)アサヒビール 1889 年 朝日麦酒㈱の前身である大阪麦酒会社設立。日本麦酒醸造会社、札幌麦酒㈲も相 前後して創立され、日本のビール産業の興隆期を迎える 1891 年 「アサヒビール」発売 1906 年 大阪麦酒、日本麦酒、札幌麦酒の 3 社合同により、大日本麦酒㈱設立 1949 年 過度経済力集中排除法により、大日本麦酒㈱は朝日麦酒㈱と日本麦酒㈱に分割 1985 年 CL(コーポレート・アイデンティティー)導入宣言 1987 年 日本初の辛口生ビール「アサヒスーパードライ」発売 ビール業界に革命を起こすヒット商品となる 2001 年 国内ビール・発泡酒市場でシェア首位の座を獲得 2005 年 新ジャンル市場に参入 初期 1949 年、集中排除法により、大日本麦酒㈱が朝日麦酒㈱と日本麦酒㈱(現、サッポロビ ール)に分割され、山本為三郎が朝日麦酒の初代社長に就任した。朝日麦酒は設立当初、 西日本を中心にビールを販売した。また、家庭用はあまり普及せず、業務用を中心に販売 をしていた。 ~衰弱期~ 大日本ビールをアサヒビールとサッポロビールに分割した後、アサヒビールは西日本を 中心に売れ行きは好調で、分割当初はキリンビールを含めた 3 社間で市場シェア 1 位を誇 っていた。しかし、1970 年代以降はキリンビールに市場シェアの先行を許し、生ビール競 争に敗れてサッポロビールにも追い抜かれた。1985 年には市場シェアが過去最低である 9.6%となり、4 位のサントリーに追い抜かれる寸前までいった。経営状況が悪化した結果、 吾妻橋工場を閉鎖し売却するまでとなり、この頃から約 20 年間多額な有利子負債を抱える ことになり、住友銀行による支援を受けた。 20 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) ~成長期~ 経営状況が悪化したアサヒビールは、1986 年に経営改善策として住友銀行から樋口廣太 郎氏が送り込まれ、アサヒビールの社長に就任した。1987 年に世界初となる辛口ビール「ア サヒスーパードライ」を発売し、以後、スーパードライのみにブランドを強化する一本足 打法戦略をとった。この結果、スーパードライが空前の大ヒットとなり、アサヒビールは 売上高・市場シェアとともに復興することが出来た。 1998 年には、競合各社が立て続けにドライビールを発売して挑んだドライ戦争にも完全 勝利を収め、国内ビール市場シェア首位に踊り出た。当時の社長である瀬戸雄三氏は「価 格よりも味で勝負したいので発泡酒は一切売らない」と宣言した。 ~停滞期~ スーパードライは好調であったが、デフレの流れで他社の発泡酒シェアが伸びる中、看 板商品のスーパードライの売上が停滞してきたことにより、止む無くアサヒも 2001 年から 「本生」で発泡酒市場に参入することになる。その後は発泡酒の増税もあり、2005 年から 第 3 のビールの市場にも参入した。 ~現在~ 2001 年にニッカウヰスキーを完全子会社化にし、2002 年には協和発酵工業と合弁で「ア サヒ協和酒類製造株式会社」を新たに設立した。さらに、2005 年にはダイエット食品やア グリ関連事業への新規参入など酒類以外の事業も強化し、クループ全体の事業拡大に取り 組んでいる。 近年アサヒビールは主力商品への整理・集中投資を実施しており、過去 10 年間で新商品 は 15 個発売しているが、ビールはそのうちに 5 個しか開発していないため、スーパードラ イに絞った事業をしていることがわかる。 キリンホールディングスは過去 10 年で 20 個以上の商品を販売しており、そのうち 9 個 がビールである。そこに主力ブランドのラガーシリーズ・一番絞りシリーズが加わり、種 類が豊富ということで同じメーカーでも消費者の選択の幅が広がることになり、販売数量 が上昇している。 以上企業概要を述べて両社の違いがわかったところで、次に取り上げる経営戦略分析で は両社の違いをさらに細かく見ていく。 21 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 4 経営戦略分析 4-1 財務分析 (中井茜) ここでは、キリンホールディングスとアサヒビールがどのような戦略をとっているのか を明らかにするために経営戦略分析を行う。まず財務分析では、両社の財務諸表を元に数 字から分析していく。分析するにあたって、次に取り上げる 4 つの観点から分析していく。 はじめに過去 5 年間での企業の成長力を見る成長性分析、企業が資本を有効活用し、収益 をどれだけ出せているかを見る収益性分析、企業の財務上の長期・短期の支払能力を見る 安全性分析、そして最後に、現金収支がどのように行われているかを見るキャッシュフロ ー分析という形で見ていく。 4-1-1 成長性分析 まず、成長性分析を行う。成長性分析では、各企業の過去 5 年間の売上高・総資本・営 業利益・経常利益がどのような成長傾向にあるのかを各項目別の推移を見た後で、各企業 の過去 5 年間の売上高・総資本・営業利益・経常利益の推移をまとめたグラフを見ていく。 たとえ売上高や利益が増加していても、その年によって伸び方が違う。そこで、前年度か らどのくらい伸びているのかを見るために伸び率も用いる。 はじめに各企業の売上高の推移を見ていく。 【図表 4-1】 各社売上高の推移 (百万円) 2,000,000 1,500,000 1,000,000 500,000 0 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 1,583,248 1,357,267 2003年 1,597,509 1,400,301 2004年 1,654,886 1,444,225 2005年 1,632,249 1,430,026 2006年 1,665,946 1,446,385 【図表 4-1】は、キリンホールディングス、アサヒビールの過去 5 年間の売上高の推移 を示したものである。 キリンホールディングスはアサヒビールよりも売上高が高く、2005 年を除いて年々上昇 22 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 傾向にある。またアサヒビールもキリンホールディングスと同様に 2005 年を除いて年々上 昇傾向にある。両社とも 2005 年に「キリン のどごし<生>」や「アサヒ新生 3」などの 第 3 のビールの発売を開始した。この低価格である第 3 のビールを積極的に売り出すこと により、酒類事業では販売数量は増加したものの売上高は減少した。さらに売上高の変動 原因を分析するために各社のセグメント別売上高を見る。 まずキリンホールディングから見ていく。 【図表 4-2】 キ リンホ ー ル デ ィング ス セグ メ ント別 売 上 高 (百万円) 1,800,000 1,600,000 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 その他 医薬 飲料 酒類 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 170,780 134,924 57,540 359,622 1,045,422 166,500 67,702 372,392 1,053,291 165,118 67,605 380,177 1,019,347 142,653 67,245 392,729 1,063,318 342,946 1,069,521 【図表 4-2】は、キリンホールディングスの過去 5 年間のセグメント別売上高の推移を まとめたものである。 2003 年より医薬事業の売上高が計上されている。この 2003 年には三共株式会社や中外 製薬株式会社との共同開発により、多くの医薬品が販売された。また、キリンホールディ ングスの有するヒト抗体産生マウス技術に関しては、武田薬品工業株式会社とライセンス 契約を結んだ。これにより 2002 年までその他の事業に含まれていた医薬事業の規模が拡大 され、2003 年以降重要性が増した医薬事業はその他の事業とは区別されるようになったの である。2004 年には売上高が約 100 億円増加している。しかし、それ以降はほぼ横ばい状 態である。 飲料事業は年々成長傾向であるのが分かる。飲料事業を行っているのは、キリンビバレ ッジ株式会社である。キリンビバレッジの歴史は 1963 年に始まり、現在では「キリン 茶」「キリン 午後の紅茶」「キリン 生 ファイア」などが主力ブランドである。これらを軸 足とし、飲料事業は年々拡大展開をしているのに加え、海外飲料事業や、「小岩井」ブラン ドを中心とした食品事業など、事業領域の拡大を図っている。 23 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 酒類事業は上下変動が激しいのが分かる。2003 年、2005 年には減少、2004 年、2006 年には増加している。そこで酒類事業の売上高の内訳を見てみる。ここで取り上げる売上 高は国内酒類事業のみの売上高とするため、麒麟麦酒株式会社の個別売上高の内訳を見る。 【図表 4-3】 ビール以外 (億円) ビール (億円) 麒麟麦酒株式会社 3,500 6,000 3,000 5,000 2,500 4,000 2,000 3,000 1,500 2,000 1,000 1,000 500 0 発泡酒 第3のビール チューハイ 焼酎・洋酒・ワイン その他の酒類 ビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 3,260 3,055 3,087 526 353 70 5,500 510 294 90 5,058 586 291 65 4,898 2,456 859 582 307 41 4,339 2,554 1,243 605 321 39 4,088 0 【図表 4-3】は、麒麟麦酒株式会社における個別売上高の内訳を示したものである。右 軸はビールの売上高、左軸はビール以外の売上高を示している。 【図表 4-2】で見たようにキリンホールディングスの酒類事業の売上高は 2003 年、2005 年には減少、2004 年、2006 年には増加している。 2003 年の減少は全ての酒類における売上高の減少が起因している。一方 2005 年では【図 表 4-1】で述べたように第 3 のビールの販売開始により、高価格のビール、発泡酒の売上 高が大幅に減少している。 2004 年の増加は発泡酒、チユーハイにおける売上高の増加が原因の 1 つである。発泡酒 は消費者の健康志向に応え「淡麗ブランド」を強化し、チューハイは「キリン チューハ イ氷結」のシリーズをリニューアルしたことにより売上高が増加した。一方、ビールや焼 酎・洋酒・ワインは減少している。しかし、キリンホールディングスは海外展開が進展し ており、国際酒類事業が好調であったためキリンホールディングスの酒類事業の売上高は 増加したのである。2006 年におけるビール、その他の酒類は減少しているもの、発泡酒、 第 3 のビール、チューハイ、焼酎・洋酒・ワインの売上高が伸びている。そのためキリン ホールディングスにおける酒類事業が伸びたのだと考えられる。 キリンホールディングスはビールの売上高が減少する一方で、医薬事業や飲料事業での 24 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 売上高を伸ばしている。また酒類事業でもビールだけに注力せず、幅広い酒類の販売によ り売上高の減少を防いでいることが分かった。 次にアサヒビールを見る。 【図表 4-4】 (百万円) ア サ ヒ ビー ル セグ メ ント別 売 上 高 1,600,000 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 その他 食品・薬品 飲料 酒類 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 130,233 14,232 173,772 1,057,028 125,881 21,546 185,737 1,067,136 125,751 22,162 217,380 1,078,931 112,291 25,286 267,002 1,025,446 101,914 53,791 283,121 1,007,557 【図表 4-4】は、アサヒビールの過去 5 年間のセグメント別売上高の推移をまとめたも のである。 アサヒビールの売上高はほぼ酒類事業が占めている。そのため酒類事業の売上高が企業 の連結売上高に反映されやすい。2002 年から 2005 年までは酒類事業の売上高がアサヒビ ールの売上高に直接反映されている。2006 年のみ酒類事業の売上高は減少しているものの、 アサヒビールの連結売上高は増加している。これは、飲料事業、食品・薬品事業における 売上高の増加が起因している。2006 年飲料事業では基幹ブランドである「ワンダ」 「三ツ矢」 「アサヒ十六茶」の強化・拡大を図るとともに消費者の健康志向に応えて新商品として特 定保健用食品の販売を開始した。また国際飲料事業では中国・韓国を中心に事業を拡大し たことが売上高の増加に起因している。食品・薬品事業ではダイエット健康食品の販売を 開始した。また、株式公開買付したベビーフード大手の「和光堂株式会社」と、健康食品 事業の「株式会社サンウエル」の 2 社を 2006 年より連結子会社にしたことにより売上高が 上乗せになっている。それではアサヒビールの売上高の大半を占める酒類事業の売上高の 内訳を見る。 25 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-5】 ア サ ヒビー ル ビール以外 (億円) 2,000 1,750 1,500 1,250 1,000 750 500 250 0 発泡酒 第3のビール 焼酎 低アルコール飲料 洋酒・ウイスキー・ブランデー ワイン その他の酒類 ビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 1,914 1,956 2,006 599 519 235 323 146 26 7,844 518 283 295 144 31 7,868 1,474 459 551 327 282 145 29 7,262 1,086 672 572 327 274 151 29 7,181 313 170 256 8,415 ビール (億円) 8,600 8,400 8,200 8,000 7,800 7,600 7,400 7,200 7,000 6,800 6,600 6,400 【図表 4-5】は、アサヒビールの酒類事業における売上高の内訳を示したものである。 右軸はビールの売上高、左軸はビール以外の売上高を示している。 【図表 4-3】の麒麟麦酒の売上高の内訳と比べてみると、アサヒビールはビールの売上 高が非常に高い。これはアサヒビールが単品経営という戦略をとっているためである。ア サヒビールは様々な商品はあるが「アサヒスーパードライ」への依存度が高く、ブランド 力を強化している。そのためビールの販売数量は多いものの、年々右肩下がりである。2004 年までは発泡酒の売上高が増加していたため、アサヒビール全体の酒類事業の売上高にビ ールの売上高があまり影響していないが、2005 年以降は発泡酒・ビールともに減少してい るため、アサヒビールの酒類事業における売上高は減少している。 アサヒビールは酒類事業に力を入れている。その中でも特に「アサヒスーパードライ」 に依存する単品経営により、ビールの売上高が企業の売上高に大きく影響するのが分かっ た。 次に各企業の総資本の推移を見る。 26 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-6】 (百万円) 2,500,000 各社総資本の推移 2,000,000 1,500,000 1,000,000 500,000 0 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 1,744,131 1,294,738 2003年 1,787,867 1,244,409 2004年 1,823,790 1,250,818 2005年 1,937,866 1,218,226 2006年 1,963,586 1,288,501 【図表 4-6】は、キリンホールディングス、アサヒビールの過去 5 年間の総資本の推移 を示したものである。 キリンホールディングスは年々増加している。これは海外展開が進展しているからであ る。特に、アジア・オセアニアを中心に事業拡大を狙っている。2004 年にはタイにビール 工場を設立し、2005 年にはインドネシア、タイ、ベトナムで清涼飲料工場を新設している。 これに伴い新規持分法適応会社が 9 社増加した。そのため投資有価証券が増加している。 一方アサヒビールは 2002 年と 2006 年を比べると成長していないのが分かる。2006 年には 約 100 億円増加したものの 2002 年と比べると少ない。2006 年の増加は【図表 4-4】のア サヒビールのセグメント別売上高の推移で述べたのと同様に、ベビーフード大手の「和光 堂株式会社」と、健康食品事業の「株式会社サンウエル」の 2 社を 2006 年より連結子会社 としたため、総資本も上乗せになったことが起因している。 ここまで売上高・総資本の推移を見てきた。キリンホールディングスは多事業の展開や 海外進出を積極的に行っていたため、売上高・総資本ともに成長していた。一方、アサヒ ビールは「アサヒスーパードライ」に依存する単品経営によりビールの売上高が大きく影 響している。また海外進出などもキリンホールディングスに比べ進んでいないため、総資 本の成長も停滞気味である。 次に、各企業の営業活動の成果である営業利益の推移を見る。 27 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-7】 各社営業利益の推移 (百万円) 150,000 100,000 50,000 0 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 89,789 69,340 101,555 78,983 109,392 101,272 111,708 90,248 116,358 88,713 【図表 4-7】は、キリンホールディングス、アサヒビールの過去 5 年間の営業利益の推 移を示したものである。 キリンホールディングスは年々増加している。一方アサヒビールは 2004 年までは増加傾 向であったが 2004 年以降は減少傾向である。変動要因を見るために各社のセグメント別営 業利益を見る。 【図表 4-8】 キ リ ンホ ー ル デ ィング ス セグ メ ント別 営 業 利 益 (百万円) 140,000 120,000 100,000 80,000 60,000 40,000 20,000 0 その他 医薬 飲料 酒類 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 14,923 6,322 11,702 18,457 68,069 7,866 12,142 22,751 69,721 4,419 14,248 19,370 75,666 3,563 12,044 19,714 83,275 18,946 59,120 【図表 4-8】はキリンホールディングスの過去 5 年間のセグメント別営業利益の推移を 示したものである。 28 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 年々右肩上がりに成長しているのが分かる。特に、医薬事業は他の事業に比べ、利益率 が高いため多くの利益を生み出しているのがわかる。医薬事業は研究開発などの費用は多 くかかるが、原価がとても安いため利益率が高くなるのである。酒類事業は売上高の推移 とは異なり、全ての年度において成長している。2003 年、2005 年は売上高が減少したが営 業利益は増加している。2003 年には販売費および一般管理費の中の販売奨励金が減少して いる。発泡酒の増税、冷夏の影響でビールや発泡酒の売上個数減少に伴い販売奨励金も減 少した。販売奨励金とはメーカーが酒販卸や小売店に対し、その販売数量に応じて支払う 奨励金のことである。店頭で多く売れれば売れるほど奨励金は多くかかる。店頭ではメー カーの希望小売価格に比べ低価格で販売をすることで、販売数を増やし販売奨励金を多く 受け取っていた。そのため低価格販売が過度に進んだため 2005 年 1 月にこの制度が廃止に なった。2005 年には、第 3 のビールの登場により売上高は減少しているものの、第 3 のビ ールは他の酒類に比べて売上原価が安いため営業利益は増加している。 次にアサヒビールを見る。 【図表 4-9】 ア サ ヒ ビー ル セ グ メ ント別 営 業 利 益 (百万円) 100,000 85,000 70,000 55,000 40,000 25,000 10,000 -5,000 その他 食品・薬品 飲料 酒類 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 3,855 7 -4,085 69,145 3,398 167 2,645 72,452 2,935 -598 8,113 90,871 2,559 804 8,631 78,089 2,173 445 7,745 78,185 【図表 4-9】はアサヒビールの過去 5 年間のセグメント別営業利益の推移を示したもの である。 2002 年の飲料事業、2004 年の食品・薬品事業がマイナスである。2002 年の飲料事業の マイナスは新商品開発に注力したが、既存商品の売上高が大幅に減少したことが起因して いる。2004 年の食品・薬品事業のマイナスは広告活動を積極的におこなったためである。 酒類事業の営業利益の変動は売上高の変動とほぼ同じである。一方、2006 年食品・薬品 事業、飲料事業の売上高は上昇しているものの営業利益は減少している。食品・薬品事業 29 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) は「和光堂株式会社」「株式会社サンウエル」が連結子会社になったため、この連結調整勘 定の負担によって営業費用が多くかかった。飲料事業では、中国や韓国を中心に事業拡大 を図ったが海外飲料事業の不振により営業利益が減少した。酒類事業、飲料事業において、 2004 年に大きく増加している。酒類事業では約 180 億円、飲料事業では約 3 倍も伸びてい る。この原因は記録的な猛暑が続いたことによって全体の販売数量が増加したためである。 また、 「本生ブランド」において新たに 3 ブランドを投入するなど積極的な新商品の発売に より、企業収益が改善し個人消費も増加したからである。さらに、製造原価や物流費等の コストダウンを目指した結果、営業利益が増加した。 営業利益は両社とも売上高の推移と同じような推移であった。セグメント別で見ても、 キリンホールディングスは多事業で利益をあげているのに対し、アサヒビールは主に酒類 事業が利益を上げていた。 ここまで営業活動の成果である営業利益を見てきた。そこで営業活動の利益に財務活動 などの本業以外の損益を加減した経常利益を見る。また、経常利益は利益の王様ともいわ れ企業の総合的な成果を示す利益でもある。 【図表 4-10】 (百万円) 各社経常利益の推移 150,000 100,000 50,000 0 2002年 キリンホールディングス 84,443 57,554 アサヒビール 2003年 97,676 70,480 2004年 106,562 95,650 2005年 114,881 91,459 2006年 120,865 90,109 【図表 4-10】は、キリンホールディングス、アサヒビールの過去 5 年間の経常利益の推 移を示したものである。 【図表 4-7】の営業利益の推移と比較してみると、数値や推移の仕方ともにあまり変化 がない。つまり両社とも財務活動で大きな損益がないということである。 ここまで売上高、総資本、営業利益、経常利益の推移と変動要因について見てきた。次 30 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) に企業ごとにこれまで見てきた項目をまとめたグラフを見て、各企業の成長性について分 析する。 はじめに、キリンホールディングスの成長傾向を見ていく。 【図表 4-11】 キリンホールディングス成長傾向 営業・経常利益 (百万円) 140,000 120,000 2,000,000 100,000 1,500,000 80,000 60,000 1,000,000 40,000 500,000 20,000 0 0 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 1,583,248 1,597,509 1,654,886 1,632,249 1,665,946 売上高 1,744,131 1,787,867 1,823,790 1,937,866 1,963,586 総資本 101,555 109,392 111,708 116,358 営業利益 89,789 94,676 106,562 114,881 120,865 経常利益 84,443 売上高・総資本 (百万円) 2,500,000 【図表 4-11】は、キリンホールディングスの過去 5 年間の売上高、総資本、自己資本、 営業利益、経常利益の推移をまとめたものである。左軸に売上高・総資本の数値をとり、 右側に営業・経常利益の数値をとっている。 先ほど見たように全項目において右肩上がりになっている。また、営業利益と経常利益 は 2004 年より過去最高益を年々更新している。2004 年には飲料事業を行っているキリン ビバレッジによる製造原価のコスト削減が進んだことによって過去最高益となった。2005 年以降は酒類事業での利益が増加している。成長傾向を見たところで、これらの伸び率を 見る。 31 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-12】 キリ ン ホ ール デ ィン グ ス前 年 度 比 伸 び率 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% -5.00% 売上高伸び率 総資本伸び率 営業利益伸び率 経常利益伸び率 2002年 1.37% 4.96% 19.58% 21.78% 2003年 0.90% 2.51% 13.10% 12.12% 2004年 3.59% 2.01% 7.72% 12.55% 2005年 -1.37% 6.25% 2.12% 7.81% 2006年 2.06% 1.33% 4.16% 5.21% 【図表 4-12】は、キリンホールディングスの過去 5 年間の売上高、総資本、営業利益、 経常利益の前年度比伸び率の推移をまとめたものである。 【図表 4-11】で見た成長傾向では右肩上がりであり、年々良好であるように見えたが、 伸び率で見ると、前年度に比べて伸びが小さいところがある。 売上高・総資本は緩やかな成長傾向であるため伸び率は小さくなる。一方、営業利益・ 経常利益は 2002 年から 2004 年の間は毎年急成長しているので伸び率も大きい。しかし、 2004 年に過去最高益を更新した影響により、2005 年以降の伸び率は増加しているものの伸 びは小さくなっている。 ここまでキリンホールディングスの成長性を【図表 4-11】と【図表 4-12】を用いて見 てきた。売上高、総資本の伸び率が緩やかである中、利益が大幅に増加している。また、 2005 年は売上高が減少しても利益は増加しているので、キリンホールディングスは、売上 高よりも利益を重視している企業であるといえる。続いてアサヒビールの成長傾向を見て いく。 32 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-13】 売上高・総資本・ 自己資本(百万円) 営業・経常利益 (百万円) 120,000 アサヒビール成長傾向 2,000,000 100,000 1,500,000 80,000 60,000 1,000,000 40,000 500,000 20,000 0 売上高 総資本 営業利益 経常利益 0 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 1,375,267 1,294,738 69,340 57,554 1,400,301 1,244,409 78,983 70,480 1,444,225 1,250,818 101,272 95,650 1,430,026 1,218,226 90,248 91,459 1,446,385 1,288,501 88,713 90,109 【図表 4-13】は、アサヒビールの過去 5 年間の売上高、総資本、営業利益、経常利益の 推移をまとめたものである。左軸に売上高・総資本の数値をとり、右側に営業・経常利益 の数値をとっている。 売上高と総資本は減少した年もあるが、年々成長傾向にある。しかし、営業利益と経常 利益を見ると 2004 年までは成長傾向であるが 2005 年以降は減少傾向にある。 成長傾向を見たところで、これらの伸び率を見る。 【図表 4-14】 アサヒビール前年度比伸び率 40.00% 30.00% 20.00% 10.00% 0.00% -10.00% -20.00% 売上高伸び率 総資本伸び率 営業利益伸び率 経常利益伸び率 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 -4.05% -3.46% -10.85% -5.11% 1.82% -3.89% 13.91% 22.46% 3.14% 0.52% 28.22% 35.71% -0.98% -2.61% -10.89% -4.38% 1.14% 5.77% -1.70% -1.48% 33 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-14】は、アサヒビールの過去 5 年間の売上高、総資本、自己資本、営業利益、 経常利益の前年度比伸び率の推移をまとめたものである。 全指標において成長傾向とほぼ同じ形で表されているのが分かる。特に、営業利益と経 常利益は 2004 年が最も伸びが大きく、2005 年以降はマイナスになっている。 ここまでアサヒビールの成長性を【図表 4-13】と【図表 4-14】を用いて見てきた。売 上高が減少すると利益も減少している。この背景には、アサヒビールが酒類事業を中心に 行っているため、ビール市場が伸び悩んでいることによって、営業利益が減少しているこ とにある。 以上、キリンホールディングスとアサヒビールの成長性分析を行ってきた。キリンホー ルディングスは全項目において右肩上がりであり、特に営業利益と経常利益の伸びが良い。 一方、アサヒビールは 2004 年以降、営業利益と経常利益が減少している。以上の結果を踏 まえて成長性では、キリンホールディングスのほうが優れていると判断することができる。 次に利益に重点を置き、資本や売上高にどれだけ結びついているのかを見るために収益性 分析を行う。 4-1-2 収益性分析 (中井茜) 収益性とは、利益稼得効率を意味し、資本を有効に活用してどれだけの利益を生み出せ たかを見るものである。ここでは各企業の収益力の増減要因を明らかにし、経営戦略の特 徴について利幅と効率の 2 つの側面から指標を分解し分析を進める。 まず、企業全体の経営効率を見るために総資本経常利益率を用いる。経常利益を総資本 で除して算出され、企業が調達した資本がどれだけ財務活動を含めた利益つまり経常利益 に結びついているかを見る比率である。次に、総資本経常利益率を 2 つに比率に分解し、 利幅と効率に分けて見ていく。利幅を表すのが売上高経常利益率であり、効率を表すのが 総資本回転率である。 まず、キリンホールディングスの指標を見る。 34 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-15】 キリンホールディングス 8.00% 6.00% 4.00% 2.00% 0.00% 総資本経常利益率 売上高経常利益率 総資本回転率 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 4.84% 5.33% 0.91 5.30% 5.93% 0.89 5.84% 6.44% 0.91 5.92% 7.03% 0.84 6.16% 7.26% 0.85 (回) 0.92 0.9 0.88 0.86 0.84 0.82 0.8 【図表 4-15】はキリンホールディングスの過去 5 年間の、総資本経常利益率、売上高経 常利益率、総資本回転率の推移をまとめたものである。左軸に総資本経常利益率、売上高 経常利益率の数値をとり、右軸に総資本回転率の数値をとる。 総資本経常利益率、売上高経常利益率はほぼ同じ推移で右肩上がりある。一方、総資本 回転率は大きく変動し、過去 5 年間で見れば減少している。2005 年の減少は投資有価証券 の増加により総資本が増加したことが起因している。 キリンホールディングスは利幅を上げ利益率を改善しているが、総資本回転率が低いこ とから多くある資本をうまく活用できていないことが分かる。企業の総合評価を示す総資 本経常利益率には利幅を示す売上高経常利益率が大きく影響していた。 次にアサヒビールを見る。 【図 4-16】 アサヒビール (回) 10.00% 1.2 8.00% 1.16 6.00% 1.12 4.00% 1.08 2.00% 1.04 0.00% 総資本経常利益率 売上高経常利益率 総資本回転率 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 4.45% 4.18% 1.06 5.66% 5.03% 1.13 7.65% 6.60% 1.15 7.51% 6.40% 1.17 6.99% 6.20% 1.12 35 1 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-16】はアサヒビールの過去 5 年間の、総資本経常利益率、売上高経常利益率、 総資本回転率の推移をまとめたものである。左軸に総資本経常利益率、売上高経常利益率 の数値をとり、右軸に総資本回転率の数値をとる。 キリンホールディングスと同様に、総資本経常利益率、売上高経常利益率はほぼ同じ推 移である。総資本回転率は年々改善傾向であったが 2006 年に減少した。これは成長性でも 述べたように「和光堂株式会社」の株式公開買い付けによる総資本の増加が起因している。 アサヒビールは、企業の総合業績を示す総資本経常利益率に売上高経常利益率が大きく 影響している。しかし売上高経常利益率の伸びより総資本経常利益率の伸びのほうが大き い。これは総資本回転率の伸びも影響しているからである。 【図表 4-15】【図表 4-16】よりキリンホールディングスの収益力は利幅を示す売上高 経常利益率が影響していたのに対して、アサヒビールは利幅を示す売上高経常利益率、効 率を示す総資本回転率の両方が影響していた。 それでは両社を比較するために、総資本経常利益率、売上高経常利益率、総資本回転率 の順に各比率を見ていく。 まず、企業の総合業績を示す総資本経常利益率から見ていく。 【図表 4-17】 総資本経常利益率 10.00% 8.00% 6.00% 4.00% 2.00% 0.00% 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 3.86% 4.84% 4.45% 4.64% 5.30% 5.66% 6.00% 5.84% 7.65% 5.76% 5.92% 7.51% 6.16% 6.99% 【図表 4-17】は、過去 5 年間の総資本経常利益率の推移をまとめたものである。総資本 経常利益率は比率が高いほど良好であり、資金をうまく活用でき、かつ総合業績が良い企 業であることを示す。 キリンホールディングスは、2004 年以降は緩やかではあるが上昇傾向にあり、5 年間で 見ても年々右肩上がりで成長している。キリンホールディングスの比率で 2004 年以降の伸 びが緩やかであるのは、経常利益の増加に伴い総資本も増加したためである。ちなみに、 36 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) キリンホールディングスは 2002 年から 2006 年にかけての 5 年間で経常利益が約 40 百万 円増加したのに対し、総資本が約 200 百万円も増加している。総資本が年々増加している 主な原因は、成長性で触れたように、海外展開が進展し、新たに工場を新設し、投資有価 証券も増加しているためである。 一方、アサヒビールは 2002 年から 2004 年にかけて急上昇しているが、2004 年以降は減 少している。2004 年の比率が最も高い理由は、成長性で触れたように猛暑の影響による販 売数量が増加し、売上高が増加したのに加え製造原価や物流費等のコストダウンにより、 経常利益が大幅に増加したからである。 以上のことを踏まえ、キリンホールディングスは海外展開や M&A を積極的に展開してい るため総資本は多いが、その資本をうまく活用できていないことが分かる。アサヒビール はキリンホールディングスよりも資金は少ないが、その少ない資金をうまく活用し利益を あげることができている。 次に、総資本経常利益率を分解し、各社の戦略や強み・問題点について分析していく。 まず、利幅を表わす売上高経常利益率を見ていく。 【図表 4-18】 売上高経常利益率 8.00% 7.00% 6.00% 5.00% 4.00% 3.00% 2.00% 1.00% 0.00% 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 4.16% 5.33% 4.18% 4.94% 5.93% 5.03% 6.13% 6.44% 6.60% 6.06% 7.03% 6.40% 7.26% 6.20% 【図表 4-18】は、過去 5 年間の売上高経常利益率の推移をまとめたものである。売上高 経常利益率は、経常利益を売上高で除して算出される。よって、売上に対して企業の営業 活動および財務活動の成果を反映した経常利益がどれだけ生み出されているかを見る比率 である。この比率が高いほど良好であり、利幅が高い企業であると判断される。 キリンホールディングスは、ここ 5 年間で右肩上がりに伸びている。 一方、アサヒビールは、2004 年には猛暑の影響で販売数量が増加したことによってキリ ンホールディングスを追い越したものの、2004 年以降は減少している。しかし、業界平均 37 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) は上回っているので決して衰えているわけではない。 両社を比較してみると、キリンホールディングスは比率も高く年々利益も増加させてい るので、財務活動を含めた事業全体の利益を生み出すのがうまく、利幅が高い企業である と言える。アサヒビールは、キリンホールディングスには劣るが業界平均は上回っている ため、財務活動を含めた事業全体の利益を生み出せている。 利幅を表す売上高経常利益率を見たところで、次に効率を表す総資本回転率を見ていく。 【図表 4-19】 (回) 総資本回転率 1.4 1.2 1 0.8 0.6 0.4 0.2 0 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 0.93 0.91 1.06 0.94 0.89 1.13 0.98 0.91 1.15 0.95 0.84 1.17 0.85 1.12 【図表 4-19】は、過去 5 年間の総資本回転率の推移をまとめたものである。総資本回転 率は、企業が調達した資本がどれだけ売上高に結びついているかを示すものであり、資本 の運用が効率よく行われているかをみる比率である。少ない資本で多くの利益をあげるこ とができれば効率がよいと判断される。 アサヒビールはキリンホールディングスと業界平均を大幅に上回っている。総資本回転 率が高いアサヒビールは、調達してきた資本を効率よく活用して売上高を伸ばしているの である。 キリンホールディングスは、酒類事業以外にも飲料や医薬などの事業を展開している。 一方、アサヒビールは酒類事業を中心に行っている。このように一点に集中することによ って利益率は低いが、少ない資本で売上高を伸ばすことができるのである。 売上高経常利益率と総資本回転率の推移をひとつのグラフにまとめた SPM では、両社が どのような戦略をとっているのかを見ていく。 38 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-20】 SP M 7.50 キリンホール ディングス 売 上 高 経 常 利 益 率 (% ) 7.00 6.50 アサヒビール 6.00 5.50 線形 (業界 傾向線) 5.00 4.50 4.00 3.50 3.00 0.7 0.8 0.9 1 1.1 1.2 総 資 本 回 転 率 (回 ) 【図表 4-20】の SPM では、縦軸に売上高経常利益率をとり、横軸に総資本回転率をと ることで各企業の点は総資本回転率と売上高経常利益率の積を示す。図中の点線は、業界 傾向線であり、各企業の業界平均を回帰分析によって導き出されたものである。この線を 境に、グラフの左上に傾向線が行くほど利幅が高いので高付加価値型戦略をとり、利幅を 重視した企業であると判断し、右下に傾向線が行くほど回転率が高いので高効率型戦略を とり、効率を重視した企業であると判断できる。さらに、図中の右上に位置すれば、利幅、 効率ともに良くバランスの取れた戦略をとり、総合的な業績が良好であると判断される。 キリンホールディングスは左上に位置している。年々、売上高経常利益率を上げている ものの、総資本回転率の改善はできていない。つまり利幅に重点をおいた高付加価値型の 戦略をとっている。一方、アサヒビールは右下に位置し効率を重視した高効率型の戦略を とっている。しかし、売上高経常利益率に関しても年々増加しているので業界傾向線に接 近している。また、売上高経常利益率、総資本回転率共に業界平均を上回っており、アサ ヒビールは効率を重視した戦略をとりながら利幅も追求し、バランスのとれた企業である といえる。 以上を踏まえた結果、キリンホールディングスは利幅重視であり、アサヒビールは効率 を重視し、利幅も追及しているので総合的な業績の面ではアサヒビールの方が良好である。 SPM では全体の収益力を見てきた。次に、各社の収益力の強みや問題点について分析し ていく。まず、利幅を示す売上高経常利益率をさらに分解し、その変動要因について分析 する。売上高営業利益率、売上高総利益率、売上高販管費率の順で見ていく。はじめに売 上高営業利益率を見る。 39 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-21】 売上高営業利益率 8.00% 7.00% 6.00% 5.00% 4.00% 3.00% 2.00% 1.00% 0.00% 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 4.90% 5.67% 5.04% 5.58% 6.36% 5.64% 6.52% 6.61% 7.01% 6.04% 6.84% 6.31% 6.98% 6.13% 【図表 4-21】は、過去 5 年間の売上高営業利益率の推移をまとめたものである。売上高 営業利益率は、売上高と営業利益との比率で、営業利益を売上高で除して算出される。営 業利益は、売上総利益から販売及び一般管理費を控除して算出されるものである。よって、 営業利益は企業の本来の営業活動から生じたものである。したがって、売上高営業利益率 が高い企業は、営業力と営業収益力が良いと判断することができる。 アサヒビールや業界平均が 2004 年に増加した反動により、2005 年以降減少しているの に対し、キリンホールディングスは年々0.3%~0.6%ほど比率を伸ばしている。キリンホー ルディングスは、確実に利益を増加させ、右肩上がりに伸びている。アサヒビールは、2004 年の反動による減少はあるが、5 年間で約 1%増加させ、キリンホールディングスと同様緩 やかに利益率を伸ばしている。しかし、【図表 4-18】で見た売上高経常利益率とあまり変 化がない。そこで売上高経常利益率と売上高営業利益率の関係をまとめた表を見る。 【図表 4-22】 (%) キリンホールディングス アサヒビール ①経常利益率 ②営業利益率 ①-② ①経常利益率 ②営業利益率 ①-② 2002 年 5.33 5.57 -0.24 4.18 5.04 -0.86 2003 年 5.93 6.36 -0.43 5.03 5.64 -0.61 2004 年 6.44 6.61 -0.17 6.60 7.01 -0.41 2005 年 7.03 6.84 0.19 6.40 6.31 0.09 2006 年 7.26 6.98 0.28 6.20 6.13 0.07 40 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-22】は両社の売上高経常利益率と売上高営業利益率、その差をそれぞれ示した ものである。この差がプラスであれば、金融収支がプラスであり、財テクを含めた財務運 用が良好だといえる。この差がマイナスであれば金融収支が赤字であったことを示してい る。 両社とも 2004 年まではマイナスであり、金融収支が赤字であったことが分かる。2005 年以降は財務運用を改善しプラスとなっている。両社を比較するとキリンホールディング スの財務運用の方が良好だといえる。 これまで、売上高経常利益率の変動要因を見るために売上高営業利益率を見てきたが、 両社とも変動はなかった。そのため、金融収支を比較してきたが、キリンホールディング スの財務運用の方が良好だと判断できた。 さらに各社の売上高営業利益率の特徴をつかむためにセグメント別の売上高営業利益率 を見る。まずキリンホールディングスのセグメント別売上高営業利益率を見る。 【図表 4-23】 キ リ ンホ ー ル デ ィング ス 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% 酒類 飲料 医薬 その他 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 5.53% 5.52% 6.51% 5.13% 20.34% 4.69% 6.62% 6.11% 17.93% 4.72% 7.42% 5.09% 21.08% 2.68% 7.83% 5.02% 17.91% 2.50% 8.74% 【図表 4-23】はキリンホールディングスのセグメント別売上高営業利益率の過去 5 年間 の推移をまとめたものである。 医薬事業の利益率が高いのが分かる。成長性でも述べたように、医薬品は原価が安いた め利益率が高い。キリンホールディングスは酒類事業だけに注力するのではなく、利益率 の高い医薬事業にも注力することにより利益率を上げているといえる。 次にアサヒビールを見る。 41 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-24】 アサ ヒ ビール 10.00% 8.00% 6.00% 4.00% 2.00% 0.00% -2.00% -4.00% 酒類 飲料 食品・薬品 その他 2002年 6.54% -2.35% 0.05% 2.96% 2003年 6.79% 1.42% 0.78% 2.70% 2004年 8.42% 3.73% -2.70% 2.33% 2005年 7.62% 3.23% 3.18% 2.28% 2006年 7.76% 2.74% 0.83% 2.13% 【図表 4-24】はアサヒビールのセグメント別売上高営業利益率の過去 5 年間の推移をま とめたものである。 アサヒビールは酒類事業の利益率が最も高い。しかし、キリンホールディングスに比べ、 どの利益率も低いのが分かる。 【図表 4-23】と【図表 4-24】を比較すると、キリンホールディングスの利益率には医 薬事業という強みがあるといえる。アサヒビールは利益率においても酒類事業に依存して いるといえる。 さらに売上高営業利益率の変動要因を詳しく見るために、売上高営業利益率を売上高総 利益率と売上高販管費率に分解していく。 まず、売上高総利益率から見ていく。 42 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-25】 売上高総利益率 45.00% 40.00% 35.00% 30.00% 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 33.18% 36.87% 30.43% 34.30% 38.22% 31.50% 35.28% 39.09% 32.24% 36.32% 40.33% 33.29% 40.70% 34.31% 【図表 4-25】は、過去 5 年間の売上高総利益率の推移をまとめたものである。売上高総 利益率は、売上高と売上総利益との比率で、売上総利益を売上高で除して算出される。売 上総利益は、売上高から売上原価を控除して算出されたもので、売上によって最初にもた らされる利益である。売上高総利益率が高いということは、売上原価が低く抑えられてい ることがわかる。 両社、業界平均ともに右肩上がりで増加している。特に、キリンホールディングスは比 率が高く、業界平均を上回っている。キリンホールディングスは企業概要や成長性で述べ たように、営業利益に占める割合で飲料や医薬事業の割合がアサヒビールに比べて高い。 特に医薬品は製造・売上原価がビールに比べて低く、かつ利益率も高い商品である。この 結果、キリンホールディングスは売上原価の低い医薬も幅広く販売しているので売上高総 利益率が高くなるのである。このように売上原価を抑えることによって、【図表 4-21】で 示した売上高営業利益率を伸ばすことができている。一方、アサヒビールは、業界平均を 下回っているものの、年々右肩上がりで上昇している。2004 年には製造費や物流費におけ るコストダウンが寄与し、以後、継続的に行っている。よって、アサヒビールの売上高総 利益率も良好である。 【図表 4-25】で示した売上高総利益率では、各社の事業展開の特徴が大きく影響し、キ リンホールディングスがアサヒビールを上回っていた。続いて、売上高販管費率を見てい く。 43 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-26】 売上高販管費率 40.00% 35.00% 30.00% 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 28.28% 31.15% 25.38% 28.72% 31.86% 25.86% 28.76% 32.48% 25.23% 30.28% 33.49% 26.98% 33.72% 28.18% 【図表 4-26】は、過去 5 年間の売上高販管費率の推移をまとめたものである。売上高販 管費率は、売上高と販管費との比率で、販管費を売上高で除して算出される。売上高販管 費率は、売上高に対してどれほど販管費が掛かっているかを見ることができ、また比率が 低ければ販管費を抑えられていることになる。 キリンホールディングスは業界平均を上回り、年々右肩上がりで増加している。【図表 4 -25】で示した売上高総利益率では売上原価が抑えられていることによって利益率が高か ったが、販菅費では逆に費用がかかっている。一方、アサヒビールはほぼ横ばいであり、 販管費が抑えられている。 これまで、売上高営業利益率の変動要因を見るために売上高総利益率と売上高販管費を 見た。 【図表 4-21】の売上高営業利益率の両社の差はわずかであった。一方、 【図表 4-25】 の売上高総利益率では大幅にキリンホールディングスが上回っていた。つまり【図表 4-26】 の売上高販管理費率が影響し、キリンホールディングは売上高営業利益率を下げていると いえる。 では、この販管費を構成している諸項目について見て、どの項目で費用がかかっている のか両社の違いを比較していく。 44 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-27】 キリ ン ホ ール ディン グ ス(対 売 上 高 ) 12.00% 10.00% 8.00% 6.00% 4.00% 2.00% 0.00% 広告費 運搬費 給与 減価償却費 販売促進費 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 3.58% 2.84% 5.58% 1.52% 8.61% 3.54% 2.78% 5.58% 1.58% 9.03% 3.82% 3.03% 5.40% 1.50% 9.60% 3.93% 3.09% 5.66% 1.47% 10.35% 4.00% 3.18% 5.68% 1.49% 10.59% 【図表 4-28】 アサヒビール(対売上高) 12.00% 10.00% 8.00% 6.00% 4.00% 2.00% 0.00% 広告費 運搬費 給与 減価償却費 販売促進費 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 3.71% 2.67% 3.24% 0.45% 8.00% 3.21% 2.66% 3.50% 0.43% 8.91% 3.19% 2.40% 3.66% 0.45% 8.92% 3.33% 2.63% 3.88% 0.49% 9.86% 3.37% 2.83% 4.03% 0.53% 10.43% 【図表 4-27】は、キリンホールディングスの、 【図表 4-28】はアサヒビールの売上高 に対する広告費・運搬費・給与・減価償却費・販売促進費の比率の過去 5 年間の推移をま とめたものである。 両社とも販売促進費の割合が最も高い。販売促進費の中でも 2005 年までは小売などの販 売店に支払う奨励金が主に占めていた。両社とも小売などの販売店を介して消費者に販売 をしているため比率が高くなっている。 キリンホールディングスは広告費、給与、減価償却費の割合がアサヒビールに比べると 45 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 高い。まず、キリンホールディングスは多事業に注力しているため、多くの広告費がかか っていると考えられる。また、キリンホールディングスが注力している事業の中の医薬事 業では MR という医薬情報担当者を雇っており、また研究開発から行っているため、多く 給与がかかる。そして減価償却費の差は関連会社の数の違いである。キリンホールディン グスはアサヒビールよりも多くの関連会社を持ち、これらにかかる営業権やのれんが多い ため、減価償却費が多くかかっている。 このように、キリンホールディングスは多事業の展開や、M&A などの影響で販管費が多 くかかっていた。 【図表 4-21】で示した売上高営業利益率では両社とも増加傾向ではあったが、【図表 4 -18】で示した売上高経常利益率との差はあまりなかった。しかし、売上高総利益率と売 上高販管費率で分けて見ると、費用の構成に違いがあった。キリンホールディングスは、 売上原価を抑えることによって売上高総利益率が高く、営業利益も増加している。一方、 アサヒビールは販管費を抑えることによって、営業利益を増加している。 ここまで利幅を示す利益率を分析してきた。次に、効率を示す総資本回転率に注目する。 総資本回転率を分解し、どの資産に問題があるのかを分析するため流動資産回転率、固定 資産回転率の順で見ていく。まず、総資産回転率を分解し、企業ごとに見ていく。 【図表 4-29】 キリ ンホール ディ ング ス (回) 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 総資本回転率 流動資産回転率 固定資産回転率 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 0.91 3.02 1.30 0.89 2.83 1.31 0.91 2.67 1.38 0.84 2.74 1.22 0.85 2.89 1.20 【図表 4-29】はキリンホールディングスの過去 5 年間の総資本回転率、流動資産回転率、 固定資産回転率の推移をまとめたものである。 総資本回転率は 2003 年、2005 年に下降し 2004 年、2006 年は回復している。流動資産 回転率を見ると、総資本回転率の推移とは異なり、2002 年から 2004 年までは下降傾向に あり、それ以降は回復している。また固定資産回転率も総資本回転率の推移とは異なって 46 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) いる。流動資産回転率とは対照的に 2002 年から 2004 年までは回復傾向、それ以降は下降 傾向にある。 キリンホールディングスの回転率を見ると、それぞれ異なる推移を示していた。そのた め総資本回転率には流動資産回転率、固定資産回転率の両方が影響していた。特に変動幅 の大きい回転率の影響を受けているのが分かる。 続いて、アサヒビールを見る。 【図表 4-30】 ア サ ヒビール (回) 4 3 2 1 0 総資本回転率 流動資産回転率 固定資産回転率 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 1.06 3.40 1.54 1.13 3.56 1.65 1.15 3.43 1.74 1.17 3.71 1.72 1.12 3.37 1.68 【図表 4-30】はアサヒビールの過去 5 年間の総資本回転率、流動資産回転率、固定資産 回転率の推移をまとめたものである。 総資本回転率は 2002 年から 2005 年までは回復傾向にあり、2006 年に下降している。流 動資産回転率、固定資産回転率を見ると、流動資産回転率は 2004 年の下降以外、固定資産 回転率は 2005 年の下降以外は総資本回転率と同じ推移である アサヒビールの回転率を見ると、どの回転率も推移は似ていた。キリンホールディング スと同様に総資本回転率には流動資産回転率、固定資産回転率の両方が影響していた。 【図表 4-29】 【図表 4-30】で見たように、両社とも総資本回転率には流動資産回転率、 固定資産回転率の両方が影響していた。では、両社を比較しやすくするために比率ごとに 見ていく。 【図表 4-19】より総資本回転率として分析してきたが、数値に変化がないため、総資本 回転率を総資産回転率として分析を進めていく。まず、流動資産回転率から見ていく。 47 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-31】 流動資産回転率 (回) 4.00 3.80 3.60 3.40 3.20 3.00 2.80 2.60 2.40 2.20 2.00 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 3.20 3.02 3.40 3.18 2.83 3.56 2.93 2.67 3.43 3.14 2.74 3.71 2.89 3.37 【図表 4-31】は過去5年間の流動資産回転率の推移をまとめたものである。流動資産回 転率は、1 年以内に現金化することができる流動資産の回収状況を示す指標である。 【図表 4-19】の総資本回転率と同様にアサヒビールがキリンホールディングスの回転率 を上回っている。 では、この流動資産回転率の変動要因を見るために、流動資産をさらに棚卸資産、売上 債権に分解し売上高との割合も企業別に見ていく。まずキリンホールディングスから見て いく。 【図表 4-32】 キ リ ン ホ ー ル デ ィン グ ス (回) 20.00 17.50 15.00 12.50 10.00 7.50 5.00 2.50 0.00 流動資産回転率 棚卸資産回転率 売上債権回転率 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 3.02 18.86 5.88 2.83 17.98 5.63 2.67 19.87 5.65 2.74 17.34 5.63 2.89 13.90 5.18 48 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-32】は、キリンホールディングスの過去 5 年間の流動資産回転率、棚卸資産回 転率、売上債権回転率の推移をまとめたものである。 【図表 4-32】を見ると、棚卸資産回転率は比率が高く、大きく変動しているものの、流 動資産回転率の変動は小さい。一方、売上債権回転率は流動資産回転率の数値とも近く、 変動も似ている。これはキリンホールディングスの流動資産のうち棚卸資産の占める額が 少なく、売上債権の占める割合が現金および預金に次いで大きいためである。2006 年には 棚卸資産回転率は約 3.5 回、売上債権回転率は約 0.5 回下降しているが、流動資産回転率は 0.15 回回復している。これは 2005 年にキリンビバレッジ株式会社の株式取得等の投資活動 により現金及び預金が 800 億円減少したためである。棚卸資産、売上債権は増加したが、 現金及び預金の大幅な減少により、流動資産が減少したため、流動資産回転率は増加した と考えられる。 キリンホールディングスの流動資産回転率の変動は売上債権、現金および預金に影響し ていた。続いてアサヒビールを見ていく。 【図表 4-33】 ア サ ヒ ビー ル (回) 20.00 17.50 15.00 12.50 10.00 7.50 5.00 2.50 0.00 流動資産回転率 棚卸資産回転率 売上債権回転率 2002年 3.40 14.29 5.37 2003年 3.56 15.72 5.34 2004年 3.43 16.95 5.16 2005年 3.71 16.55 5.64 2006年 3.37 15.66 5.20 【図表 4-33】は、アサヒビールの過去 5 年間の流動資産回転率、棚卸資産回転率、売上 債権回転率の推移をまとめたものである。 【図表 4-33】を見ると、流動資産回転率は 2003 年、2005 年に回復しているが 2004 年、 2006 年には下降している。棚卸資産回転率は 2002 年から 2004 年までは回復傾向にあり、 それ以降は下降傾向である。売上債権回転率を見ると 2003 年を除いて流動資産回転率と同 じ動きである。アサヒビールは流動資産の中では、売上債権、棚卸資産、現金及び預金の 49 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 順で構成割合が高い。現金及び預金が少ないのは、長期間に渡って負債を返済しているか らである。そのため売上債権回転率の影響を受けやすい。2003 は売上債権回転率が下降し たにも関わらず流動資産回転率は回復していることから、棚卸資産回転率も影響している といえる。 アサヒビールは、流動資産に占める売上債権、棚卸資産の割合が多く、影響しやすいと 考えられる。 これまで企業ごとに見てきたように、キリンホールディングスの流動資産回転率の変動 は主に売上債権、現金および預金の増減の影響を受けやすい。一方、アサヒビールは売上 債権、棚卸資産の影響を受けていたことが分かった。それでは、両社を比較しやすくする ため棚卸資産回転率、売上債権回転率の順に比率ごとに分析を進めていく。 【図表 4-34】 棚卸資産回転率 (回) 25.00 20.00 15.00 10.00 5.00 0.00 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 18.86 14.29 17.98 15.72 19.87 16.95 17.34 16.55 13.90 15.66 【図表 4-34】は、過去 5 年間の棚卸資産回転率の推移をまとめたものである。棚卸資産 回転率は売上高を棚卸資産で除して算出される。この比率が高いほど製品や商品の販売効 率がよく、在庫量が少ないと判断できる。逆に、この比率が低いほど、販売活動が不振で 在庫管理費用が増大であることを示す。 2002 年から 2006 年にかけてキリンホールディングスは約 5 回減少、アサヒビールは約 1.6 回増加している。2006 年にはアサヒビールがキリンホールディングスの比率を抜いて いる。しかし、2004 年以降両社ともに回転数を減少させている。 キリンホールディングスは売上高が伸びているものの、それよりも棚卸資産が増加して いる。アサヒビールは売上高の推移と同じ推移を示し、棚卸資産は大きな変動がない。こ のように両社とも棚卸資産が減少傾向にないのが問題である。 それでは、販売効率について見てきたところで、次に売上債権回転率を見ていく。 50 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-35】 売上債権回転率 (回) 6.00 5.80 5.60 5.40 5.20 5.00 4.80 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 5.88 5.37 5.63 5.34 5.65 5.16 5.63 5.64 5.18 5.20 【図表 4-35】は、過去 5 年間の売上債権回転率の推移をまとめたものである。売上債権 回転率は、売上高を受取手形・売掛金などの売上債権で除して算出される。この比率が高 いほど売上債権の回収期間が短く、効率が良いと判断される。 両社とも下降傾向にある。先ほど流動資産回転率について見てきたが、棚卸資産回転率、 売上債権回転率ともに両社の差が小さく、2006 年まではキリンホールディングスの回転率 の方が高かった。しかし、 【図表 4-31】の流動資産回転率ではアサヒビールの回転率 の方が高い。これは長期間に渡って負債を返済しているため、現金および預金が少ないこ とが起因している。 それでは、流動資産回転率を見てきたところで、長期的に所有する固定資産の効率を見 るために固定資産回転率を見ていく。 【図表 4-36】 (回) 2.00 1.90 固定資産回転率 1.80 1.70 1.60 1.50 1.40 1.30 1.20 1.10 1.00 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 1.30 1.30 1.54 1.35 1.31 1.65 1.47 1.38 1.74 1.35 1.22 1.72 1.20 1.68 51 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-36】は過去5年間の固定資産回転率の推移をまとめたものである。固定資産回 転率は売上高を固定資産で除して算出される。この比率が高いほど固定資産を有効に活用 できていることを示す。 アサヒビールがキリンホールディングスと業界平均を大幅に上回っている。これはキリ ンホールディングスの経営形態が影響している。純粋持株会社という形態をとっているキ リンホールディングスは、企業の合併や吸収を多く行っている。そのため、固定資産の中 でも営業権やのれん、投資有価証券が多い。2006 年のアサヒビールの固定資産合計が約 8,500 億円であるのに対し、キリンホールディングスは約 1 兆 3,800 億円である。 固定資産回転率を見ると、アサヒビールは少ない資産で売上高を得ている。一方、キリ ンホールディングスは、合併や吸収により、固定資産を多く持っているがうまく活用でき ていないことが分かった。 これまで、売上高に対する資産回転率を見てきた。総資産回転率、流動資産回転率、固 定資産回転率の 3 つの比率すべてにおいて、アサヒビールがキリンホールディングスを上 回っていた。キリンホールディングスは合併や吸収により資産を多く持っているが、それ が売上高に結びついていなかった。一方、アサヒビールは多くの負債を返済しているため、 現金が少ない。また、合併や吸収に伴う営業権などもないので固定資産が少ない。しかし、 それをうまく活用できており、回転率を上げていた。 以上、収益性分析を行ってきた。企業の総合業績を示す総資本経常利益率では、アサヒ ビールがキリンホールディングスを上回っていた。次に、利幅と効率の側面から企業の戦 略や強み・問題点を分析するため、総資本経常利益率を売上高経常利益率と総資本回転率 に分解した。この 3 つの指標を視覚的に捉えるために SPM を使用した。SPM から 2 社を 相対的に分析すると、キリンホールディングスは利幅を重視する高付加価値戦略、アサヒ ビールは効率を重視した高効率戦略であるのが分かった。しかし、アサヒビールは売上高 経常利益率も高く、バランスのとれた企業であると判断できた。 さらに、各指標の変動要因を見るため、売上高経常利益率と総資本回転率をそれぞれ分 解し、分析を進めた。まず、売上高経常利益率の変動要因を見るため、売上高営業利益率、 売上高総利益率、売上高販管費率の順に見た。売上高営業利益率、売上高総利益率はキリ ンホールディングスの比率の方が良好であった。このキリンホールディングスの強みは、 原価の安い医薬品を積極的に販売していることで利益率を上げていることが分かった。し かし、売上高販管費率を見ると、アサヒビールの比率の方が良好であった。これは 2 社の 事業展開が影響していた。多事業を展開するキリンホールディングスは、酒類に力を入れ ているアサヒビールよりも多くの費用がかかっていた。 次に、総資本回転率の変動要因を見るために流動資産回転率、固定資産回転率に分解し た。この回転率の指標はス全てアサヒビールが上回っていた。キリンホールディングスは 52 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 多くの資産を持っているが売上高に結びついていない。一方、アサヒビールは少ない資産 で売上高を得ていた。 以上の分析より、総合業績ではアサヒビールの方が優れていた。両社の戦略の違いは、 キリンホールディングスが利幅重視の高付加価値戦略であるのに対し、アサヒビールは利 幅・効率ともバランスのとれた戦略であった。最後に各企業の強み、問題点を挙げる。キ リンホールディングスの強みは原価の低い医薬事業を展開することにより、利益率を上げ ている点である。問題点は M&A を積極的に行っており、資産が多くあるにも関わらず、売 上高に結びついていない点である。一方、アサヒビールの強みは少ない資産で売上高を得 ており回転率が良いこと、主に酒類事業に注力することで販管費があまりかからない点で ある。問題点としては、原価の低い商品が少ないため利益率が低下することが挙げられる。 それでは、収益力を見てきたところで次に、資金繰りについて見ていく。 4-1-3 安全性分析 (中井茜) 企業が継続して存続することができるかどうかを判断するために安全性分析を行う。安 全性分析には、企業の短期的な支払能力を分析するものと、企業の長期的な財務構造のバ ランスを分析するものという二つの視点で分析をしていく。まず、短期的な支払い能力を 見るために流動比率、当座比率、現金比率を用いる。はじめに企業ごとに比率を見ていく。 まず、キリンホールディングスの流動比率、当座比率、現金比率を見ていく。 【図表 4-37】 流動比率 当座比率 150% キ リ ンホ ー ル デ ィング ス 現金比率 45% 140% 40% 130% 35% 120% 30% 110% 25% 100% 20% 90% 80% 流動比率 当座比率 現金比率 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 113.54% 83.43% 23.45% 127.51% 91.29% 30.02% 140.19% 108.73% 41.44% 124.61% 96.78% 35.47% 128.02% 92.00% 19.90% 53 15% ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-37】は、キリンホールディングスの過去 5 年間の流動比率、当座比率、現金比 率の推移をまとめたものである。 すべての指標において 2004 年が最も高く、2004 年以降は減少傾向にある。2005 年から 2006 年にかけて流動比率は増加しているが、当座比率と現金比率は減少している。 次に、アサヒビールの流動比率、当座比率、現金比率を見ていく。 【図表 4-38】 ア サ ヒ ビー ル 流動比率 当座比率 90% 現金比率 3.2% 3.0% 80% 2.8% 70% 2.6% 60% 2.4% 50% 40% 2.2% 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 67.75% 47.39% 3.04% 72.56% 52.82% 2.16% 79.14% 57.65% 2.66% 77.10% 55.61% 3.09% 76.47% 54.99% 2.83% 流動比率 当座比率 現金比率 2.0% 【図表 4-38】は、アサヒビールの過去 5 年間の流動比率、当座比率、現金比率の推移を まとめたものである。 流動比率と当座比率に関しては、ほぼ同じような推移を示している。一方、現金比率は 流動比率と当座比率とは異なる推移を示している。 キリンホールディングスは 2006 年を除けば 3 つの指標は同じ推移を示していた。一方、 アサヒビールの流動比率は、当座比率の推移と同じであり、現金比率とは異なる推移を示 していた。 ここまで 3 つの指標を企業ごとに見てきたが、次に比率ごとに見ていく。まず、流動比 率を見ていく。 54 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-39】 流動比率 160.00% 140.00% 120.00% 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 80.84% 113.54% 67.75% 92.57% 127.51% 72.56% 101.46% 140.19% 79.14% 93.56% 124.61% 77.10% 128.02% 76.47% 【図表 4-39】は、過去5年間の流動比率の推移を表したものである。流動比率は、1 年 以内に現金化できる流動資産と 1 年以内に返済義務のある流動負債との比率であり、企業 の短期的な支払能力を示す最も基本的な指標である。流動比率は 100%以上であることが好 ましい。ちなみに欧米諸国では、この比率が 200%以上あれば良好であると判断している。 両社を比較すると、キリンホールディングスは業界平均を上回り、さらに 100%以上であ り上昇傾向にある。しかし、2004 年から 2005 年にかけて減少している。一方、アサヒビ ールは業界平均を下回り、さらに 100%以下でありほぼ横ばいである。以上の結果を踏まえ た上で、短期的な支払能力があるのはキリンホールディングスだと判断することができる。 流動比率の変動要因を見るため、流動資産の中でも直ちに現金化することができる当座 資産に視点を向け、当座比率を見ていく。 【図表 4-40】 当座比率 120.00% 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 キリンホールディングス 83.43% 91.29% 108.73% 96.78% 92.00% アサヒビール 47.39% 52.82% 57.65% 55.61% 54.99% 55 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-40】は、過去 5 年間の当座比率の推移を表したものである。当座比率とは直ち に現金化することができる当座資産と流動負債との指標であり、流動比率の補助的な比率 として利用される。ここでいう当座資産とは、すぐに換金できない棚卸資産を除いた、現 金・預金、売掛金・受取手形、有価証券のことである。当座比率は 100%以上あれば短期的 な支払能力は良好であると判断することができる。 両社を比較すると、キリンホールディングスは 2004 年が最も比率が高く、2004 年以降 は減少している。また、流動比率では 2005 年から 2006 年にかけて増加していたが、当座 比率では減少している。つまり、2006 年は棚卸資産が多かったことを示している。一方、 アサヒビールは 60%以下であり、流動比率との差もあまりない。 以上の結果を踏まえて、両社とも 100%を下回っているので、当座資産での支払能力は良 好であるとは言えないが、両社とも 5 年間で見ると比率を改善している。 最後に、現金・預金と流動負債との比率である現金比率を見ていく。 【図表 4-41】 現金比率 45.00% 40.00% 35.00% 30.00% 25.00% 20.00% 15.00% 10.00% 5.00% 0.00% キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 23.45% 3.04% 30.02% 2.16% 41.44% 2.66% 35.47% 3.09% 19.90% 2.83% 【図表 4-41】は、過去 5 年間の現金比率の推移を表したものである。現金比率は現金預 金と流動負債との比率であり、企業の即時的な支払能力を示す指標である。この比率は 20% 以上であれば即時的な支払能力が良好であると判断することができる。 両社を比較すると、キリンホールディングスは 20%を上回ってはいるが、2004 年以降は 年々減少している。特に、2004 年から 2006 年にかけて 20%ほど減少している。2005 年 の減少は、売上高が減少したことにより、現金及び預金の減少したことに加え、社債の償 還期間が 1 年以内となり、流動負債が増加したためである。2006 年にはキリンビールがキ リンビバレッジを完全子会社にし、またメルシャンの株式取得を取得したことによって、 現金を支出したためである。一方、アサヒビールは 5%以下であり、現金預金が著しく少な 56 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) い。これは 1990 年に 1 兆円を超えた有利子負債を返済するために多額の現金を長期にわた って投入しているためである。(2007 年 7 月 7 日, 日本経済新聞) 以上の結果を踏まえて、キリンホールディングスは新たに株式を取得することによって、 現金が流出される傾向にあり、一方、アサヒビールは有利子負債の返済を長期にわたって 行われているので手元にある現金が少ないのである。 ここまで流動比率、当座比率、現金比率を用いて短期的な支払能力を見てきた。キリン ホールディングスは流動比率が 100%を超えていて良好だと判断したが、現金比率において 2005 年から 2006 年にかけて大幅に減少していた。一方、アサヒビールは有利子負債の返 済の影響で現金比率はもちろん流動比率も業界平均を下回るなど短期的な支払能力は衰え ている。 次に、長期的な安全性を見ていく。ここでは、自己資本比率、固定比率、固定長期適合 率を用いる。自己資本比率は、企業の資本の構成を見る比率である。負債が少なく、返済 義務のない自己資本多い企業は長期的に安全だと判断できる。企業の資本の構成をみた後 で、固定資産投資が自己資本で賄われているかを見るため固定比率を見る。さらにこの固 定比率を発展させた固定長期適合率を見ることで企業の長期的な安全性を分析していく。 はじめに企業ごとに見ていきたい。まず、キリンホールディングスの自己資本比率、固 定比率、固定長期適合率を見ていく。 【図表 4-42】 51% 固定比率 固定長期適合率 170% 50% 160% 49% 150% 48% 140% 47% 130% 46% 120% 45% 110% 44% 100% 自己資本比率 43% 自己資本比率 固定比率 固定長期適合率 キ リ ンホ ー ル デ ィング ス 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 44.10% 158.67% 100.99% 44.96% 152.08% 96.38% 47.08% 140.10% 92.39% 50.19% 138.08% 97.24% 50.26% 157.97% 91.68% 90% 【図表 4-42】は、キリンホールディングスの過去 5 年間の自己資本比率、固定比率、固 定長期適合率の推移をまとめたものである。自己資本比率は比率が高いほど安全だと判断 57 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) される。 年々、自己資本比率は改善している。一方、固定比率・固定長期適合率は比率が低いほ ど安全であると判断される。固定比率は 5 年間で見てみると比率は改善されていないが、 固定長期適合率で見ると 10%ほど改善されている。 次に、アサヒビールの自己資本比率、固定比率、固定長期適合率を見ていく。 【図表 4-43】 自己資本比率 固定比率 固定長期適合率 250% ア サ ヒ ビー ル 41% 39% 200% 37% 35% 150% 33% 31% 29% 自己資本比率 固定比率 固定長期適合率 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 29.93% 229.78% 130.28% 32.00% 213.77% 124.33% 36.57% 198.66% 119.90% 37.30% 183.07% 120.46% 39.56% 185.47% 118.14% 100% 【図表 4-43】は、アサヒビールの過去 5 年間の自己資本比率、固定比率、固定長期適合 率の推移をまとめたものである。自己資本に関しては、年々改善傾向にある。また、固定 比率、固定長期適合率とも年々改善されている。 これまで、両社の長期的な安全性について見てきた。キリンホールディングスは年々自 己資本を増加させているものの、M&A などの影響で固定資産も増加している。そのため固 定比率は改善されていない。固定長期適合率は改善されていることから固定負債が増加し ていることが分かる。一方、アサヒビールは【図表 4-41】の現金比率で述べたように、長 期にわたって負債を返済しているため、年々負債が減少し、自己資本比率が改善傾向にあ る。また自己資本も増加しているため、固定比率、固定長期適合率も改善されている。 ここまで 3 つの指標を企業ごとに見てきた。では、両社を比較しやすくするため、比率 ごとに見ていく。まず自己資本比率から見ていく。 58 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-44】 自己資本比率 60.00% 50.00% 40.00% 30.00% 20.00% 10.00% 0.00% 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 33.63% 44.10% 29.93% 35.20% 44.96% 32.00% 37.22% 47.08% 36.57% 41.37% 50.19% 37.30% 50.26% 39.56% 【図表 4-44】は、過去5年間の自己資本比率の推移を表したものである。総資本に占め る自己資本の割合であり、自己資本を総資本で除して算出される。自己資本は、返済義務 がない資金であるため、経営者にとって永続的に安定して利用できる資本である。よって、 自己資本比率が高いほど良好であり、50%以上あれば安定性が高いと判断することができる。 両社を比較すると、キリンホールディングスの方が比率は高いが、両社とも理想の基準 である 50%を下回っている。しかし、両社とも改善傾向利益剰余金や有価証券評価差額金 などが増加し、改善傾向を示している。 自己資本比率を見てきたところで、その自己資本だけで固定資産投資ができているかど うかを見るために固定比率を用いる。 【図表 4-45】 固定比率 250.00% 200.00% 150.00% 100.00% 50.00% 0.00% 業界平均 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 211.63% 158.67% 229.78% 199.30% 152.08% 213.77% 179.07% 140.10% 198.66% 168.92% 138.08% 183.07% 157.97% 185.47% 59 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-45】は、過去 5 年間の固定比率の推移を表したものである。自己資本と固定資 産との比率であり、固定資産投資が自己資本で賄われているかを見る指標である。この比 率が 100%以上であれば固定資産投資の一部が負債によって行われていることを示す。固定 資産は長期にわたって資金が拘束されるため、返済義務のない自己資本で賄われているこ とが理想である。つまりこの比率が 100%以下であれば企業の安定性が良好であると判断さ れる。 両社とも 100%を超えており、固定資産を自己資本だけでは充当されていないということ を示している。ビール業界は、工場や生産設備装置などの設備投資に多額の費用がかかっ ているため比率が高い。キリンホールディングスは 5 年間で見れば、比率はあまり改善さ れていない。一方、アサヒビールは 5 年間で 45%ほど比率を改善している。 ここまで、自己資本だけで固定資産が調達できているかを見てきた。長期の安全性を見 る最後に、固定比率を発展させ、長期にわたり返済が許され、資金運用ができる固定負債 を合わせた固定長期適合率を見ていく。 【図表 4-46】 固定長期適合率 140.00% 120.00% 100.00% 80.00% 60.00% 40.00% 20.00% 0.00% 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 業界平均 115.11% 107.67% 103.73% 107.59% キリンホールディングス 100.99% 96.38% 92.39% 97.24% 91.68% アサヒビール 130.28% 124.33% 119.90% 120.46% 118.14% 【図表 4-46】は、過去 5 年間の固定長期適合率の推移を表したものである。固定資産と 長期資本(自己資本と固定負債の合計)との比率であり、企業の長期的な財務構造の安定 性にとって基本的な条件を示す指標である。この指標も 100%以下であれば良好であると判 断される。 キリンホールディングスは 100%を下回っており、かつ改善傾向にある。一方、アサヒビ ールも比率は年々減少し、改善傾向ではあるが 100%以上であるため資金繰りの面ではまだ 危険である。 ここまで長期的な安全性を自己資本比率、固定比率、固定長期適合率を用いて見てきた。 60 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 両社とも自己資本に関しては、50%を下回ってはいるものの、年々改善していた。キリンホ ールディングスは固定比率で見れば比率を改善できていなかったが、固定長期適合率は改 善傾向にあり 100%以下であるため安全であると判断できた。アサヒビールは全ての比率を 改善しているものの、まだ安全な数値ではなかった。 以上、キリンホールディングスとアサヒビールの安全性分析を短期と長期に分けて見て きた。短期的な支払い能力では、流動比率、当座比率、現金比率を用いて分析してきた。 両社を比較するとキリンホールディングスの方が良好であった。キリンホールディングス の流動比率は 100%を超えていた。しかし、3 つの指標とも 2004 年より減少傾向にある。 これは M&A などにより現金が流出しているためである。一方、アサヒビールは長期にわた り負債の返済をしているため、現金が少ない。このことが影響し、3 つの指標が低い。次に 長期的な安全性では、自己資本比率、固定比率、固定長期適合率を用いて分析してきた。 両社とも自己資本比率は 50%を下回っているが改善傾向にある。キリンホールディングス の固定長期適合率を見ると 100%以下であり長期面では安全であると判断できる。一方、ア サヒビールは全ての指標で改善はしているが、基準を下回っており、安全だとは判断でき ない。よって、短期・長期ともキリンホールディングスの方が良好であった。 安全性では資産全体を見てきた。しかし、各企業が存続して経営を行うためには現金が 必要になる。そこで、次に現金収支をみるキャッシュフロー分析を行う。 4-1-4 キャッシュフロー分析 (山口真美) キャッシュフローとは、資金の流れ、もしくはその結果としての資金の増減を指す。企 業の資金の循環は、資金調達から始まり、これらの資金は仕入れや原材料の購入に使用さ れる。さらに出荷される際に、付加価値がつき売上代金が回収され、再び資金の循環過程 に入る。この回収された資金は投資や借入金の返済に使われる。そのため自由に使える資 金がある企業のほうが有利である。そこで、キリンホールディングスとアサヒビールのキ ャッシュフローを見ていく。 61 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-47】 営業利益 (百万円) キャッ シ ュ フロー (百万円) 営 業 利 益 と 営 業 キャッシュフロー 140,000 140,000 120,000 120,000 100,000 100,000 80,000 80,000 60,000 60,000 40,000 40,000 20,000 20,000 0 キリンホールディングス 営 業利益 アサヒビール営業利益 キリンホールディングス キャッシュフロー アサヒビールキャッシュフ ロー 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 89,789 101,555 109,392 111,708 116,358 69,340 87,750 78,983 118,430 101,272 127,963 90,248 104,716 88,713 123,685 77,950 115,358 112,930 87,245 105,842 0 【図表 4-47】は過去 5 年間の営業利益と営業キャッシュフローの推移を表したものであ る。営業利益は、販売組織や本社運営の効率性を含めた、企業の営業活動で得た利益を指 し、営業キャッシュフローは、企業の営業活動から生じた現金収支を指す。損益計算書か ら得た知識だけで企業を判断するのは極めて危険である。最終的に利益を生み出せていて も現金がなければ会社は倒産する。そこで、キリンホールディングスとアサヒビールの営 業活動における利益と現金収支を比較してみる。 両社とも営業利益より営業キャッシュフローが多くなっている。つまり、営業活動で得 た利益のうち現金の割合が高いということである。 キリンホールディングスの営業利益において、2004 年から 2005 年にかけて上昇してい るにもかかわらず、営業キャッシュフローは減少している。これは、2004 年から 2005 年 にかけて仕入債務の回収や未払消費税が支払われたことによって現金が減少したからであ る。キリンホールディングスの営業キャッシュフローは、2005 年を除くと営業利益の増加 とともに増加しているので現金収支は良好であると判断することができる。 また、アサヒビールは、2005 年から 2006 年にかけて営業利益と営業キャッシュフロー の推移が異なっている。営業利益は減少しているが、営業キャッシュフローは増加してい る。これは、法人税等の支払額が前年度に比べて減少したからである。アサヒビールは営 業利益が減少しても営業キャッシュフローは増加しているので現金収支は良好であると判 断することができる。 ここまで営業活動から得たキャッシュフローを見てきたが、現金収支は有価証券の取得 や売却などの投資活動からも得ることができる。そこで、設備投資などへの投資と投資回 収の状況を表す投資キャッシュフローを見ていく。 62 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-48】 (百万円) 投 資 キャッ シ ュフロー 0 -50,000 -100,000 -150,000 -200,000 キリンホールディングス アサヒビール 2002年 2003年 2004年 2005年 2006年 -175,377 -61,507 -62,867 -30,753 -44,252 -54,850 -66,693 -44,547 -153,239 -82,249 【図表 4-48】は過去 5 年間の投資キャッシュフローの推移を表したものである。企業が 投資する目的として、将来の売上に関係する設備への投資と資金運用の一環としての投資 がある。企業にとって将来の成長を維持し発展することが最重要である。ビールメーカー は、設備の更新、製品開発の投資、情報関係への投資、整備のための投資といった、将来 の発展のための投資活動は欠かせないものとされている。キリンホールディングスは、毎 年有形・無形固定資産の取得による支出が多く、2002 年は投資有価証券の取得、2006 年に 関しては国内酒類事業の設備投資の強化、キリンビバレッジの株式取得によって増加とな った。アサヒビールもホールディングスと同様、工場における製造整備の投資を行ってい る。2006 年に関しては和光堂の株式公開買い付けを実施したため増加となった。両社を比 較するとキリンホールディングスのほうが年度ごとの浮き沈みはあるが積極的な投資活動 を行っていると判断することができる。 以上、キャッシュフローを営業活動と投資活動の視点から見ることによって、両社の現 金収支の状況を見ることができた。営業キャッシュフローでは、両社とも営業利益に対す る割合が高く企業経営は健全であると判断することができた。また、投資キャッシュフロ ーに関しては、両社とも有形・無形固定資産に取得による支出が多いため投資キャッシュ フローはマイナスとなっているが、積極的に投資活動を行っていることを表しているので ある。 63 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 以上、キリンホールディングスとアサヒビールの財務分析を行ってきた。成長性分析で は、キリンホールディングスは全項目において右肩上がりであり、特に営業利益と経常利 益の伸びが良い。一方、アサヒビールは 2004 年以降、売上高が減少するとともに営業利益 と経常利益も減少していた。よって、成長性ではキリンホールディングスの方が優れてい た。 次に、利益に重点を置き、資本や売上高にどれだけ結びついているのかを見るために収 益性分析を行った。収益性分析では総資本経常利益率を見た後、売上高経常利益率と総資 本回転率に分けて分析した。その結果、キリンホールディングスとアサヒビールではそれ ぞれ異なる戦略をとっていた。キリンホールディングスは多事業を展開することによって 利益を上げていく形をとっているので利幅が大きくなっている。しかし、M&A を積極的に 行っているが、売上に結びついていないため回転率が低かった。一方、アサヒビールはす べての回転率において比率が高かったので効率重視であると言える。よって、収益性では 利幅も効率も高いアサヒビールの方が優れていた。 収益性分析では利益に重点を置いて分析をしたが、利益を増加させるためには手元に十 分な資金がなくてはならない。そこで、各企業の資金繰りができているかどうかを見るた めに安全性分析も行った。安全性分析では、短期支払能力と長期支払能力の 2 つに分けて 見てきた。その結果、キリンホールディングスは長期面では良好であり、短期面に関して も良好であるとは言えないが、年々改善されていた。一方、アサヒビールは、長期面では 基準を下回っており、短期面においても改善傾向ではあるが、基準には達していなかった。 最後に行ったキャッシュフロー分析では、両社とも現金割合が高く、営業活動で得た資 金を意欲的に投資活動に使用していた。 財務分析の結果を踏まえて、次に、両社がどのような経営戦略をとっているのかを見る ために企業分析を行う。 64 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 4-2 企業分析 4-2-1 経営理念 (山口真美) 経営理念とは、経営者が企業の運営にあたって、経営の目的を明確化し、その目的を実 現するために、その組織が共有すべき価値観を文章化したものである。 (1)キリンホールディングス キリンホールディングスは、「自然と人を見つめるものづくりで、『食と健康』の新たな よろこびを広げていく」を経営理念としている。 このような経営理念のもとで、キリンホールディングスは長年培った国内ビール業界で の確固たる地位をベースに総合酒類化やグローバル展開を進める酒類事業、独創的な商品 開発を強みとする飲料事業、ビール製造技術で培ったバイオテクノロジーをベースにした 医薬事業など、バランスの良い事業展開を行い、グループ連携の強化に努めていった。ま た、「食と健康」を事業領域とするキリングループとして、これまでの知見をもとに、食 文化や生活文化における多面的な調査・研究を行い、1 人でも多くの消費者に新たな喜びを 提供する活動を進めてきた。キリンホールディングスは、いつも消費者の近くで様々な「絆」 を育み、「食と健康」の喜びを提案する企業グループとして、お客様の期待に応える様々な 取り組みを続けいく。 (2)アサヒビール アサヒビールは、「最高の品質と心のこもった行動を通して、お客様の満足を追求し、世 界の人々の健康で豊かな社会への実現に貢献する」を経営理念としている。 このような経営理念のもとで、アサヒビールは常に消費者の要望に耳を傾け、高品質で オリジナリティ溢れる商品作りと、心のこもったきめ細かな活動を進めてきた。 「おいしさ =鮮度」という原点に挑戦するため、1992 年から生産・物流・営業を中心に、全部門にま たがる「フレッシュマネジメント活動」を展開し、消費者に新鮮でおいしいビールを飲ん でもらうための徹底した全社活動を続けている。また、 「新しいビール文化の提案」のもと、 時代の変化を先取りし、独自性のある個性的な商品の開発に常にチャレンジしていく。さ らに、全営業担当者に携帯パソコンを配備し、市場の情報を迅速に収集し、消費者に対す る迅速なサービスの一層の向上を目指している。 4-2-2 経営戦略 各企業がどのような経営計画を掲げ、実際どのような経営戦略を立てているのかを見て いく。 65 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) (1)キリンホールディングス キリンホールディングスはグループ全体での強化をするために数多くの商品を取り揃え、 事業も幅広く行ってきた。まず、商品に関する戦略を具体的に見ていく。 麒麟麦酒が発売したビールには「キリンラガービール」「一番絞り」という主力ブランド があり、発売されて以来ブランド価値を高めるためにさまざまな戦略が行われてきた。「キ リンラガービール」は麒麟麦酒設立当初から発売されていた商品である。この「キリンラ ガービール」においては、1960 年代の味を再現した「キリンクラシックラガービール」も 同時に発売されている。また、「一番絞り」でも期間限定商品を発売するなどブランド群と して強化している。2007 年 9 月には「一番絞りスタウト」という黒ビールも発売された。 さらに、1998 年に発売された発泡酒「麒麟 ンラベル」や「麒麟 淡麗<生>」においても「麒麟 淡麗グリー 淡麗アルファー」などを発売し、淡麗群として発泡酒市場でトップ に踊り出た。 キリンホールディングスのブランドがこれだけ存在し、全ブランドにおいてブランド力 を強化しているのにはキリンホールディングスがとっている戦略である「マルチブランド 戦略」というものがあるからである。マルチブランド戦略とは、1 つの市場に複数の競合ブ ランドをあえて投入することである。個々のブランドイメージによって多様な消費者を獲 得することができ、他社製品への購買流出を防げることが狙いである。しかし、その反面、 市場内で自社製品が食い合う恐れもある。よって、成長が期待しにくい成熟市場で採用さ れるケースが多い。 従来は「キリンラガービール」を主力ブランドとしていたが、ここにきて「一番搾り」、 発泡酒の「淡麗<生>」の 3 ブランドを並立している。アサヒビールの急追をかわし、自 社製品のシェア低下に歯止めをかける作戦である。(2000 年 10 月 19 日, 日経流通新聞) マルチブランド戦略はビールや発泡酒だけでなく、低アルコール飲料でも行われている。 2001 年に発売された缶チューハイ「キリン チューハイ氷結」では、チューハイ市場にお けるポジションを獲得した。 「氷結」に関してもブランド力を強化するために 1 年に 1 回新 フレーバーを投入したり、販売強化をするなどの戦略を行ってきた。マルチブランド戦略 を推進するキリンホールディングスはビールや発泡酒だけでなく新たに参入したチューハ イ市場でもブランドを構築した。 キリンホールディングスは主力事業であるビール以外にも飲料や医薬事業も幅広く行っ ている。飲料事業は 1928 年に横浜工場に清涼飲料工場を設立し、 「キリンレモン」を製造・ 販売されたところから始まった。1991 年にキリンビバレッジ株式会社として独立し、 「午後 の紅茶」や「生茶」などのブランドをつくっていった。医薬事業は 1982 年に開始し、主力 商品である腎性貧血治療薬の「グラン」や白血球減少症治療薬「エスポー」を中心に製造・ 販売を行っている。これらの商品に関しては、三共株式会社との共同販売契約をしていた が、2005 年には完全自販体制へ移行した。自社販売を行うことによって売上が上昇するだ けでなく、製版一貫体制の「製薬メーカー」として扱われ医療現場や卸からさまざまな情 66 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 報を得ることができる。また、これらの情報を活用し、研究開発にフィードバックされる ことによって、新薬の開発にも結びつくのである。さらに中国やタイなど海外でも事業を 展開しているので、海外売上高シェアの上昇に貢献している。2007 年に医薬事業が独立し、 「キリンファーマ株式会社」が発足することによって新たな戦略を始めた。治験薬から製 品の生産までを一括管理する部署を立ち上げたほか、医薬情報担当者(MR)を年内に約 1 割増やす。また、高崎市の生産技術研究所に抗体医薬で新たな製造棟の建設も検討してい る。(2007 年 7 月 26 日, 日本経済新聞)さらに、2007 年 10 月には医薬品大手の協和発酵 工業の株式を取得し、2007 年 12 月にキリンファーマと統合した。(日本経済新聞、2007 年 10 月 19 日) アグリバイオ事業に関しては、1987 年に種苗事業開発部が発足し、1989 年に商品化を進 めたことから始まった。しかし、当時の種苗事業は開発に時間がかかり、単価が極めて低 いので業績は不振だった。1990 年にアグリバイオ事業部として発足してから事業システム を改善し、開発から販売まで効率よく行うことができた。アグリバイオ事業もまた多角化 経営を行う上で重要な事業になっている。ビール事業の売上高や利益が伸び悩んでいる中、 飲料・医薬・アグリバイオ事業に関しては年々増収増益している。これにより、2004 年以 降、営業利益・経常利益は過去最高益を更新している。 キリンホールディングスは、海外展開を推進しており、アジア・オセアニアを重点地域 として市場を拡大している。キリンホールディングスが中国に初めて設立したのは 1996 年 であり、麒麟中国投資有限公司を設立し、酒類事業を推進した。また、1998 年にはオース トラリア・ニュージーランドを中心に事業を展開しているライオンネイサン社に資本参加 し、45%の株式を取得した。ライオンネイサン社は中国でも事業を展開しているので、日本 やオセアニアだけでなく中国の事業拡大にもつながる。さらに、2007 年 10 月には麒麟麦 酒とライオンネイサン社が調達経費を抑えるために、ビール製造に使うホップの共同調達 を試験的に実施した。世界中でホップが不足している中、この共同調達が好評であったの で、2008 年より本格的にスタートする。(日本経済新聞、2008 年 1 月 10 日) 海外展開は酒類事業以外でも行われており、2007 年 12 月にはオーストラリアの乳製品・ 果汁飲料大手のナショナルフーズ社の発行済株式を取得した。(日本経済新聞、2007 年 12 月 28 日) 2006 年の売上高に占める海外比率は 19%であり、業界トップとなっている。さらに 2015 年には 30%を目標にしている。キリンホールディングスは海外で事業を展開することによ って、日本では低迷し続けているビール市場を補うだけでなく、多角化経営を推進するた めにグループシナジーの拡大を同時に推進しているのである。 キリンホールディングスはビールに関しては複数のブランドを強化する「マルチブラン ド戦略」をとっており、また、多角化事業の展開や海外展開を推進しているため全体的に バランスのとれた戦略となっている。そのため、財務面も好調であった。 次に、アサヒビールの経営戦略を見ていく。 67 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) (2)アサヒビール アサヒビールの売上高は、約 6 割をスーパードライで占めている。この主力商品に強化 してきたことでアサヒビールは、シェアを拡大してきた。まず、スーパードライに関する 戦略を見ていく。 アサヒビールは 1985 年までビール出荷高シェアは 10%を切るまで落ち込んでいたが、 1987 年のスーパードライの発売により、翌年の 88 年には 20.6%まで倍増した。そして、 1999 年にアサヒビールはトップシェアを誇ることが出来たのである。この復活劇の裏側に、 スーパードライの存在を外すことはできない。この救世主ともいえるビールにこだわる理 由はここにある。 スーパードライを販売し、新たなヒット商品を出そうと数々の新商品を投入したが思う ように伸びることができなかった。また、急成長するスーパードライに社内体制が追いつ けなかったことにより、シェアを落とした。そのため、様々な商品を出して力を分散する のではなく経営資源であるスーパードライに注ぎ込んでいくことにした。このようにスー パードライ 1 本に集中投入する戦略を「フォーカス戦略」という。このフォーカス戦略は、 新商品の販売に営業・広告・宣伝を費やしたり、売れ残った商品を処分する費用を無駄に せず、1 つの商品に集中投入することで利益を伸ばすという戦略である。 アサヒビールは、各社が発泡酒市場に参入している中、ビールはビール、発泡酒は発泡 酒で違うマーケットであるとし、ビールのシェアを伸ばす方針を立てた。その結果、シェ ア下落を恐れたキリンホールディングスが発泡酒「淡麗<生>」を発売したと同時に、ビ ール+発泡酒市場となり、シェアを落とすことになったアサヒビールは、2001 年発泡酒市 場に参入し、共にスーパードライの強化を図るビール+発泡酒シェアトップの座を奪い返 すことに成功した。 2007 年は、スーパードライ発売 20 周年であり、20 年経った現在でもビールの出荷高は 第 1 位である。しかし、業界の現状で述べたように消費者のビール離れによって、ビール 市場は年々縮小し、嗜好が多様化している時代になっているためビール頼りの戦略にも限 界が出てきた。主力商品に注いでいたことで、他社が開拓している市場に出遅れて参入し てきたアサヒビールだが、このような時代の変化に対応すべく、同年 3 月末にスーパード ライ頼みの国内酒類事業の立て直しに打って出ることを明らかにした。そこで、今後は既 存・新規のブランドの位置づけを見直す商品開発するマ-ケティング力を強化する方針で ある。 アサヒビールは、生産部門における製品のより一層の鮮度管理徹底を目指した鮮度管理 生産システムを全 9 工場の瓶・缶・樽の全生産ラインに導入しており、各工場や各配送セ ンターにおける製品の社内在庫を圧縮し、製品の鮮度向上を推進することを目的としてい る。 アサヒビールは、出荷に必要な数量だけを製造することを達成されるようにするために、 臨機応変に製造するシステムを採用した。その結果、受注した数量に基づき当日の製造数 68 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 量を即時修正し、容器詰めをする柔軟な生産体制を確立することができた。 従来、営業本部が作成する販売計画に基づき、生産本部は月間の生産計画を立案し、更 に週単位での生産計画を作成し変動する需給状況に合わせて生産本部は、1 週間に 2 回の修 正を加えて対応していた。このシステムを導入することにより、工場別の配送エリアで受 注した数量を、翌日の製造予定数量の基礎として修正を加えて生産することができ、生産 効率の高い生産設備への切り替えとなり生産部門では日々の製造時間を流動化させること ができ、より一層の効率化を図ることができた。同時に、将来に向けた品質及び技術の更 なるレベルアップを実現するために、製造に関わる時間以外は、安定稼働を目的とした製 造機器やメンテナンス体制の一層の充実と、技術力向上を目的とした工場従業員の研修の 強化等に充てることとしている。 活動を立ち上げた 1992 年の「製造から出荷までを 10 日に短縮」に始まり、2007 年では 「3 日台」を達成している。こうした鮮度活動を発展させたのが「トータル・フレッシュマ ネジメント活動」であり、生産・物流・営業部門に加え、マーケティングや広報、システ ム部門までが参加する「フレッシュマネジメント委員会」を設置し問題の発見と解決、そ して新たな品質技術の開発に取り組んでいる。 そして、アサヒビールは特約店と呼ばれる問屋に向けて出荷し、さらに特約店から小売 店舗に配送される形態が中心である。鮮度維持を保つにはこうした流通経路の連携が必要 である。近年、酒類を販売する小売店やコンビニエンスストアなどでは POS システムの導 入が一般的になっているので、売れている商品が分かりやすく表示される。そのため、メ ーカーもより売れる商品を揃えることが小売業との連携を深めることになる。 アサヒビールは酒類以外にも多事業を展開し、拡大しようとしている。2006 年における 事業の種類別セグメント販売実績では、飲料事業の前年度比 106.0%、 食品薬品事業 212.7% と成長している。アサヒビールは 2005 年から M&A で食と健康領域の事業を拡大してきた。 2007 年にはカゴメの筆頭株主となりカゴメを輪に加えることで、力を入れているチルド飲 料で商品開発力や生産、物流面で強力なパートナーシップが構築でき、近年の積極的な外 部からの事業取得を増やし将来に向けたグループの事業構造変革を進めている。食品薬品 事業で中核となっているアサヒフードアンドヘルスケアの事業成長に加え、大手ベビーフ ード会社である和光堂の事業取得によって、酒類・飲料事業に続くグループ第 3 の事業と して、食品薬品事業の事業基盤や展開領域を拡大する方針である。 このように、グループ会社間でさまざまな形のプロジェクトを推進するなど、今後ます ますグループ横断型の組織運営を目指すことで、技術シナジーの創出や新たな価値を提案 する新商品・新規事業の開発を担っていく。酒類事業が収益を上げると同時に、飲料事業 と食品事業でも収益を伸ばし、グループ全体を成長させて行きたい。また、成長市場であ るアジアで酒類に限らず食と健康の分野でのリーディングカンパニーとなり、世界に通用 する企業へと成長していく。2004 年には中国・韓国の飲料会社に出資をしている。 アサヒビールはスーパードライに依存した戦略であり、ビールに偏った戦略となってい 69 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) る。そのため、財務面を見ても総資本回転率は好調であるが、資産や自己資本が業界平均 に比べて少なくなっている。 以上両社の経営戦略を見てきたが、実際このような戦略を生み出しているリーダーはど のような人物でどのような考え方を持っているのかを見ていきたい。 4-2-3 リーダーシップ リーダーシップとは、集団目的を効果的に達成するためにリーダーが部下を引っ張って いくための対人的影響力である。 (1)キリンホールディングス 麒麟麦酒は、2001 年 3 月から 2006 年 3 月までの 5 年間を荒蒔康一郎氏、2006 年 3 月か ら 2007 年 6 月までの 1 年間を加藤壹康氏、2007 年 7 月から現在までを三宅占二氏が社長 の座に就いている。加藤壹康氏は 2007 年 7 月にキリンホールディングスの社長となってい る。医薬カンパニーの社長であった荒蒔康一郎氏は、2001 年に麒麟麦酒の社長となった。 技術畑出身であり、ビール業界で技術畑の人が社長になるのは珍しかった。技術者である ことから荒蒔氏は医薬事業の強化を図ってきた。医薬事業の持続的成長は、荒蒔氏が社内 の求心力を得るためにも重要であった。麒麟麦酒は 1954 年以降ビール出荷高が首位であっ たが、2001 年、48 年ぶりにアサヒビールに首位を譲ることとなった。荒蒔氏はこの結果に 対して、「お客様に支持を得られず残念に思う」と話し、また、「数字を押し上げる出荷で は会社としてもお客様のためになってない」と判断した。 (日経産業新聞、2002 年 1 月 17 日)そこで、荒蒔氏は 2001 年 11 月に「新キリン宣言」を表明した。これは、お客様本位 と品質本位を徹底し、グループの機能強化と相乗効果を発揮する麒麟麦酒の再生宣言であ る。以上のことから荒蒔氏はグループ全体で商品開発、品質管理、マーケティングを強化 してきた。 次に、加藤壹康氏を見ていく。加藤壹康氏は営業畑出身であり、営業畑出身の社長は 22 年ぶりであった。加藤氏はリーダーシップがあり、部下からの信頼も厚く、海外経験も豊 富であったため、グループ経営に役立つと期待されていた。経営課題として、「あらゆる経 営資源を単独の事業会社が用いるより、グループシナジーを発揮して事業を展開するほう が効率的である」と判断し、グループシナジーを拡大していった。(日経産業新聞、2006 年 1 月 17 日)さらに、 「お客様本位」と「品質本位」の考えに基づいて、非価格競争を勝 ち抜く開発・提案型企業スタイルへの変革を目指す加籐氏は「復活のキーワードは『価値 営業』」と宣言した。これにより営業活動の視線を競合他社から取引先や消費者に戻した。 販促奨励金で取引を勝ち取る手法を見直し、飲食店や小売店への業態や売り場提案の強化 を図る。リベート削減で取引先のひんしゅくを買ったが、改革を進め復活につなげた。(日 本経済新聞、2007 年 9 月 3 日) 2007 年 7 月にキリンホールディングスの社長となり、新体制のもとで「お客様の信頼と 70 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) ご期待に応えるグループとして、新たな価値の提案を続けていきたい」と考えている。 最後に、三宅占二氏を見ていく。2007 年 7 月 1 日に麒麟麦酒は持株会社のキリンホール ディングスと分社化し、国内酒類事業会社となった。事業子会社となった麒麟麦酒に三宅 占二氏が社長の座に就くことになる。新体制について、三宅氏は「各事業が自立して成長 し、事業間のシナジー効果を生み出し、成長する部門に人・物・金を戦略的に配分し、飛 躍的な成長につなげて行きたい」と語った。また、商品に関しては、 「消費者の多様化に伴 い、ニーズを先取りした商品を作りたい」と話しており、さらに進展していく考えを示し ている。 以上のことから、麒麟麦酒及びキリンホールディングスの社長は消費者と品質を重視し ている。また、多角化経営を推進し、相乗効果を生み出していることが分かった。 次に、アサヒビールのリーダーシップを見ていく。 (2)アサヒビール アサヒビールは、1999 年 1 月から 2002 年 1 月までの 3 年間を福地茂雄氏、2002 年 1 月から 2006 年 3 月までの 4 年間を池田弘一氏、2006 年 3 月から現在までを荻田伍氏が社 長の座に就いている。 1999 年に社長の座に就いた福地茂雄氏は、国際事業・物流・経理など幅広い事業を経験 してきた。そのため、アサヒビールを伸ばせるリーダーとして期待されていた。社長就任 当初はスーパードライに的を絞るフォーカス戦略を維持する考えをしていた。 「フォーカス 戦略はメーカーにとって効率が良いとか、メーカー側の考え方で志向しているのではない。 消費者調査を繰り返した結果の商品戦略に過ぎない。顧客のドライに対する評価を綿密に 追っているが、満足度は高い。発泡酒は出さずにドライで勝負するのがベストと考える。 ドライの味を変えたり、大型の複数商品を持つ必要はない」と語った。 (日経産業新聞、1999 年 2 月 4 日)しかし、消費者の低価格志向によって、ビールの売上が年々減少していった。 この影響を受けた福地氏は、「ビール単体から総合酒類・飲料メーカーへの転換をしたい」 (日経産業新聞、2001 年 3 月 15 日)と強調し、2001 年にアサヒビールも発泡酒市場へ参 入することになった。 次に、池田弘一氏を見ていく。生え抜きの営業畑出身であった池田弘一氏は、企業の若 返りを目指すために起用された。池田氏は「次の目標に向かって『元気を発信する企業』 であり続ける」と主張した。(日経流通新聞、2002 年 1 月 15 日)2001 年にビール・発泡 酒シェア首位になったことによって、池田氏はビール・発泡酒で五割を超えるシェアの奪 取を目標に掲げた。また、アサヒビールは主戦場で圧勝することによってキャッシュフロ ーを生み出し、業績が悪化しているアサヒ飲料などのグループ会社をてこ入れし、さらに 海外戦略を立て直せるかが課題であった。(日経産業新聞、2002 年 1 月 7 日)しかし、ビ ール・発泡酒のシェアは減少する一方であった。そこで、池田氏は M&A を推進することに よって、総合食品企業への変身を試みた。以上のことから池田氏は市場の拡大に力を入れ 71 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) ていた。 最後に、荻田伍氏を見ていく。前アサヒ飲料の社長であった荻田伍氏は、ビール事業依 存からの脱却を目指し、営業力を強化しようとした。また、アサヒビールが子会社のトッ プを起用するのは初めてであった。荻田氏は非常にポジティブな人であり、「困難なことで も前向きに捕らえ、常に挑戦が必要である」と話している。 (日経流通新聞、2006 年 4 月 5 日)前向きで挑戦的な荻田氏は、食と健康の事業領域の拡大を推進した。消費者の嗜好が 変わりやすく、競争の激しい清涼飲料業界での経験を生かして、非ビール事業をてこ入れ する。そこで、2007 年にカゴメと連携し、共同開発の商品を発売した。また、投資に上限 額を定めずに M&A を推進していきたいと話している。 以上のことから、アサヒビールの社長は前向きであり、総合酒類事業を推進していった。 ここまで両社の経営理念、経営戦略、リーダーシップを見てきた。これらを踏まえて、 両社の今後の課題を出していく。 5 今後の課題 (山口真美) これまで、ビール業界の動向をはじめ両社の財務分析を経て、リーダー達によってどの ような戦略が取られてきたのかを見てきた。しかし、両社の戦略は業界の動向と合ってい るのだろうか。業界の動向では、「酒税法対策」 「多様化・多嗜好」「アジア進出による事業 拡大」をキーワードに挙げてきた。ここでは、キーワードと財務分析を踏まえた上で、今 後の課題を提案していく。 (1)キリンホールディングス キリンホールディングスの特徴・強みは、経営戦略で取り上げたように基盤事業である ビールだけでなく、飲料や医薬などでも事業を拡大することによってグループ全体で拡大 を図っていることである。中でも医薬事業は他社より強く、2005 年には完全自社販売制と なったため「製薬メーカー」として取り扱われるようになった。 商品に関する強みは、1 つのブランドを強化し、シリーズものを新たに出していくことで ある。例えば、 「一番絞り」の期間限定商品や「キリン チューハイ氷結」において 1 年に 1 種類の新フレーバーを投入するなどが挙げられる。氷結シリーズだけでも 13 種類の商品 がラインナップしている。また、ビールだけを取り上げても、主要 5 社の中で一番商品投 入数が多いとされている。 さらに、海外市場への展開が進展している。連結売上高に占める海外比率は、他社の海 外比率が 10%未満なのに対し、キリンホールディングスは 19%であり他社を大きく上回る。 72 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 【図表 4-49】 焼酎・洋酒・ ワイン 4% 【図表 4-50】 キ リン ホー ルデ ィン グス 2 0 0 6 年国内酒類事業売上高内訳 キ リン ホー ルデ ィン グス 2 0 0 6 年酒類売上数量 内訳 チューハイ 7% 新カテゴ リー 14% のどごし生 群 23% ラガー群 20% ビール 46% 一番搾り群 23% 発泡酒 29% 淡麗群 34% 【図表 4-49】は 2006 年の国内酒類事業における売上高の内訳を表したものである。 キリンホールディングスの国内酒類事業はビール以外にも発泡酒や新カテゴリーにおい てもブランドを強化している。この結果、ビールだけでなく、発泡酒や新カテゴリーも売 上構成比に占める割合が大きくなっている。新カテゴリーは第 3 のビールを指し、主に「キ リン のどごし<生>」で占めている。 【図表 4-50】はビール・発泡酒・第 3 のビールにおけるブランド別売上数量の内訳を表 したものである。「キリン のどごし<生>」は 2005 年に発売されたのにも関わらず、キ リンビールの定番商品である「キリンラガービール」や「一番絞り」と並ぶぐらいのシェ アとなっている。このようにキリンホールディングスの商品はどの商品に関しても同じく らいの売上数量となっているのである。 キリンホールディングスは商品に関しても事業に関してもどれか 1 つに偏っているので はなく、バランスの取れたポートフォリオを作り上げている。このような戦略ができたの にはやはり消費者のビール離れや業界の動向に対応したからである。 また、業界概要のキーワードで「アジア進出への事業拡大」とあったが、キリンホール ディングスは新たな戦略を掲げている。2007 年から 2009 年までの 3 年間で海外での M&A に総額 3000 億円を投することを目標としている。もし、成功すれば国内ビール依存型の収 益構造が変革するといわれている。 (日経ビジネスオンライン)中国が世界消費量の 1 位を 獲得する以前の 2002 年におけるアジア・オセアニアシェアは 7.8%であったが、2007 年 6 月には海外売上高のうちアジア・オセアニアで 13.2%と成長を見せている。 国内のビール市場が縮小している中、財務分析の成長性分析では全項目において右肩上 がりであり、営業利益・経常利益に関しては飲料事業とライオンネイサン社の業績が好調 であったことにより 2004 年以降過去最高益を更新している。このような結果が出た背景に 73 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) は、これまで述べたようにバランスの取れた戦略が取れているからである。ビールの売上 が減少しても飲料や医薬事業での売上と利益が増加することによって、グループ全体の売 上や利益を上昇させることが出来たのである。また、キリンホールディングスは医薬事業 に強みがあり、医薬品は利益率が高いので収益性が良好であった。特に、売上高営業利益 率や売上高経常利益率は業界平均を大きく上回り、利幅が大きい企業であると判断するこ とが出来た。さらに安全性において、支払い能力に関しては長期・短期どちらとも良好で あった。自己資本は当期純利益による利益剰余金の増加によって年々増加している。また、 流動資産も業界平均を上回っているので、事業を拡大する上での資金は十分にあり、今後 の事業拡大も期待できる。しかし、収益性で述べたようにキリンホールディングスは利幅 重視であるため、総資本回転率は業界平均を下回っており、さらに低迷していた。キリン ホールディングスは多角化経営を推進するために M&A を積極的に行っているが、M&A に よって取得した資本を有効に活用できてない。つまり、資本が売上に結びついてないので ある。そこで、総資本回転率を上昇させるために M&A の見直しが今後の課題となってくる。 M&A は多角化経営を推進する上で必要ではあるが、取得した資本を有効活用できないと 事業が低迷する一方である。そこで、キリンホールディングスは純粋持株会社であるため グループ企業間での相乗効果を活用すべきである。このようなグループ企業間での相乗効 果をグループシナジーといわれ、グループ全体の事業拡大に結びつくのである。今後はグ ループシナジーの拡大を推進すべきである。 財務分析では売上高・利益ともに年々上昇傾向にあり好調であったが、中期経営計画で 定めた目標数値には達していない。 2003 年の目標で「売上高 1 兆 6,800 億円、営業利益 1,200 億円、経常利益 1,200 億円」と定められているが、実際の売上高は 1 兆 5,975 億円、営業 利益は 1,015 億円、経常利益は 946 億円であった。2003 年は発泡酒の増税による売上の減 少やチューハイへの嗜好が高まったため、ビールの売上が減少するなど国内酒類事業の業 績が不振だった。飲料や医薬事業の業績は好調であったが、国内酒類での売上減少が大き く響いたため目標値に達することが出来なかった。また、売上高販管費率が高く業界平均 を上回っており、中でも人件費が多くかかっていた。そこで、キリンホールディングスは 人件費の削減が今後の課題となる。 キリンホールディングスは多角化経営を推進することによって、バランスのとれた戦略 をとっているが、今後もビール市場は伸び悩むと思われるのでさらに多角化経営を推進す べきである。また、多角化事業を展開する際に M&A の見直しと同時に、グループシナジー の有効活用が必要である。 74 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) (2)アサヒビール アサヒビールの特徴・強みは、ビールメーカーの本業であるビールの売上シェアがトッ プであり、単一の商品のブランド価値を最優先させることによって、トップを維持し新商 品開発や売れ残りの回収作業などの無駄な費用を省いていることである。 【図表 4-51】 【図表 4-52】 ア サヒビ ー ル ア サ ヒビ ー ル 2 0 0 6 年 酒 類 売 上 箱 数 内 訳 焼酎・洋 2 0 0 6 年国内酒類事業売上高内訳 酒・ワイン 10% チューハイ 3% 新生3 5% 本生群 16% 新カテゴ リー 7% プライムタイ ム 1% 発泡酒 11% ビール 69% スー パー ド ライ 78% 【図表 4-51】は 2006 年の国内酒類事業における売上高の内訳を表したものであり、 【図 表 4-52】はブランド別の売上箱数の内訳を表したものである。 アサヒビールは事業別から見ても銘柄別から見ても、ビール事業 69%、スーパードライ 78%とビールに偏った構成となっていることが特徴にあげられる。 アサヒビールは、主にスーパードライに力を注いでいたこともあり、発泡酒の販売も業 界 4 番手に導入といった出足が遅いことが目立った。2006 年の 5 月でのアルコール飲料の 増減税に関しても、これまで高かったビールの税金が下げられ、発泡酒、第 3 のビールの 税金が上がり 3 者間での価格の差が縮まることを予想し、ビールに強いアサヒビールにと って有利と考え、酒税法対策に遅れをとった。 (日経情報ストラテジー、2007,1 月号) 主力商品であるビールの強化とともに、時代の変化に伴う志向・ブームにも乗れている。 発泡酒では、深い味わいをはじめ糖質オフ、カロリーオフなどの性質を持つ商品を造り 出した。本生シリーズで糖質 50%オフの「アクアブルー」 、2007 年 3 月には業界初の糖質 ゼロの発泡酒となる「スタイルフリー」がある。 プレミアム市場では「プライムタイム」を発売し、エビス、ザ・プレミアムモルツにつ ぐ3番手にいる。この「プライムタイム」は他社のプレミアムビールと異なり、コクや苦 味を重視するのではなくなめらかな口当たり、まったり感を出した商品であり、新たな飲 用シーンを提案した。その他にも飲食店だけでしか味わうことのできない「熟撰」があり、 プレミアムビールに新たな付加価値を加えた。 75 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 焼酎の愛飲者が増加していることに対応し、2001 年にニッカウヰスキーをアサヒグルー プに加え、焼酎、ウイスキー、チューハイの強化を計った。2002 年 9 月には、さつま司酒 造の焼酎事業を協和発酵工業から引き継ぎ、主として地元へ向けた販売を継続してきたが、 アサヒビールの傘下になったことによって全国展開を行っている。幅広い楽しみ方ができ る甲類焼酎と原料独特の風味や味わいなどの個性を楽しむことができる本格焼酎をはじめ、 アサヒビールはバラエティーにとんだ焼酎を取り揃えている。(アサヒビール HP) アジア進出についても業界概要で述べた通り、1994 年から始まり 2007 年には 9 社をア サヒグループに迎えている。中国を海外の重点戦略地域として、現地ブランドビールの生 産・販売を中心に事業展開するとともに、「スーパードライ」などアサヒブランドビールの 生産・販売も行っている。2004 年には北京で最新鋭工場が完成し 2008 年開催の北京オリ ンピックに向け、拡大が見込まれる北京市周辺市場において拡大を見込んでいる。2004 年 7 月には 2000 年から資本参加していた韓国の清涼飲料大手ヘテ飲料への出資比率を引き上 げ連結子会社化し、韓国清涼飲料市場に本格的に参入した。 アサヒビールは、グループの成長戦略推進のため、アジア地域を軸とした営業活動・生 産活動を行っている。 グループでの成長推進において、「食と健康」分野での拡大を図っている。第3次中期経 営計画では、上限枠を設けることなく金融債務の柔軟な活用も検討しながら、「食と健康」 領域で国内外を問わず戦略的事業投資や事業提携を行っていく。 2002 年から 2006 年にかけての売上高は右肩上がりに成長していた。これは、 「食と健康」 分野でおける、飲料事業と食品薬品事業が良好であることから、この2つの事業での拡大 はアサヒグループの成長の基盤となっている。しかし、利益を見ると、連結子会社化を行 う際に生じる連結調整勘定償却負担をカバーができていないことや韓国大手のヘテ飲料の 不振により利益は減少している。国際事業の展開においては、収益力の強化を追及してい るため、出資参加した企業が不振であることが問題点である。 収益面から見ると、2006 年度売上高営業利益率はアサヒビール(単体)の 7.6%に対し て、麒麟麦酒(単体)は 6.2%である。麒麟麦酒に比べアサヒビールの方が高い理由は、ス ーパードライの依存率が極めて高いことにより、生産の効率が良く、まとめて造ることが 出来れば出来るほど規模に対する利益が働くからである。また、少ない商品に的を絞るこ とによって、多種類の商品を揃えている企業に比べて設備投資も削減することができ、少 ない元手で売上を伸ばすことができることにより、総資本回転率が高くなる。アサヒビー ルは的を絞る経営方針であるため、効率性が高い企業であり、事業全体収益力を見る総資 本経常利益率が高いことから戦略と適合した経営をしている。 安全性ではどの比率を見ても低く、積極的な投資活動を行う企業にしてはとても危険で あった。このように多くの負債を抱えている企業であるため、「食と健康」「アジア進出」 での事業を拡大するという経営戦略は適していないと判断することができる。 アサヒビールは大ヒット商品をさらに伸ばすといった、的を絞った戦略を行ってきた。 76 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) この結果、総資本回転率が高く、キリンホールディングスに比べて少ない資本で売上を上 げられる企業であることが示された。今後は、スーパードライのノウハウを他の酒類や事 業に活かして各事業で主力ブランドを構築する必要がある。 また、時代の流れが嗜好の多様化している中、各社で多角化、多種類商品投入とされて いるが、アサヒビールも各カテゴリーで消費者の嗜好を独占するような商品開発を行うべ きである。 アサヒビールは、スーパードライを発売する時、今までにない辛口ビールを提案し、現 在まで昇り詰めてきた。今後の課題として、縮小しているビール市場に頼るのではなく、 時代を切り開けるような商品開発に取り組み、消費者の嗜好に合うものを作り出し、ヒッ ト商品を作り出すことが必要である。 次に財務面から課題を出していきたい。アサヒビール一時、年間 2000 億円もの設備投資 を実施したために過大な有利子負債を抱えていた。また、アサヒビールの 1993 年における 金融赤字は 250 億円であった。さらに、1992 年から 1993 年にかけて、現金及び預金は約 2300 億円以上も減少した。そのほとんどに当たるのが大口定期預金であった。減少した理 由が、金利低下とメリットが低下したコマーシャルペーパーの発行取りやめに伴い大口定 期の大半を解約したため、1993 年の現金預金は 100 億円弱と大幅に減少した。 このことがきっかけとなり、2007 年の現金預金は約 150 億であり、現金比率は連結で 2.8%、単体で 0.6%と有力企業の中で大幅に低くなっている。手元流動性の高い現金預金 が少なく、短期的に返済義務のある有利子負債の多いアサヒビールは、キャッシュフロー 計算書での現金及び現金同等物の残高がキリンホールディングスの 1600 億円に比べて 230 億円と極めて低い。また、自己資本比率も業界平均を下回っており、比率の改善か課題で ある。 どんなに高いシェアをとって成長性や収益性を上げていても、手元にある資産が少なく 借金体質の企業では安全性に欠け、景気に左右されやすい企業となり事前の備えが出来ず 不安定である。過去にアサヒビールは金融赤字が続き、東京・京都・広島工場が閉鎖し、 リストラをすることでその場しのぎをしてきた。今後は返済を迫られたときに、一番の収 入源となる商品を製造する工場を売却するのではなく、流動性の高い資産を造り出してい く必要がある。またそのような危機に見舞われないよう有利子負債残高の圧縮を優先的に 行い、資金ニーズが発生した場合も長期負債の増加につながらない調達方法を考慮し、借 金体質の財務面を強化していくべきである。 以上、キリンホールディングスとアサヒビールの今後の課題を見てきた。キリンホール ディングスの主な課題は総資本回転率の上昇であり、アサヒビールの主な課題は自己資本 の上昇である。また、両社に共通する課題として多角化経営の推進があげられる。これに 伴い、キリンホールディングスはグループシナジーの拡大を推進し、一方、アサヒビール は M&A を積極的に行うことによって、さらに企業が発展していくだろう。 77 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 6 終わりに (山口真美) ビール業界全体の特徴と動向を見ていきながら、キリンホールディングスとアサヒビー ルの経営戦略分析を行った。ビール業界は業界全体を 5 社で占める寡占市場であり、その うち約 70%が麒麟麦酒とアサヒビールで占めており、この 2 社でシェアを争って来た。し かし、近年のビール業界全体は縮小傾向にある。主な理由は、酒税法の改定による増税や 若者のビール離れといったものである。そこでこのような状況に対応するために、各メー カーは本来のビールや発泡酒とは異なった「第 3 のビール」を発売したり、ビール消費量 が年々増加している中国に事業を展開するなど事業範囲を広めている。財務分析では、キ リンホールディングスは成長性において右肩上がりに上昇し、良好であった。しかし、ビ ールの売上で見ると、年々縮小傾向にあった。キリンホールディングスは飲料や医薬でも 幅広く事業を展開する多角化経営戦略をとっている。よって、ビールの売上が伸び悩んで いても財務面では年々上昇傾向にあるのである。一方、アサヒビールはビールに重点を置 いた戦略をとっているので、ビールの売上が減少するとともに財務面でも減少しているの である。かつて、アサヒビールはスーパードライを発売して以来アサヒビールのみにブラ ンド力を強化していく「フォーカス戦略」をとってきた。しかし、ビールのみにブランド 力を強化するといった戦略は通用しなくなり、キリンホールディングスのように飲料や食 品事業も強化するようになった。今後は両社とも事業範囲を広めていくために、多角化経 営を推進する必要がある。そこで、キリンホールディングスは M&A を見直し、グループシ ナジーの拡大を推進する必要がある。一方、アサヒビールは M&A を積極的に行う必要があ る。 今後のシェア争いもキリンホールディングスとアサヒビールの 2 社で争うことになるだ ろう。 78 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 参考資料 キリンホールディングス 貸借対照表 (単位:百万円) 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 (資産の部) Ⅰ流動資産 1 現金及び預金 108,148 133,108 18,501 169,334 89,483 2 受取手形及び売掛金 269,106 283,661 292,708 290,077 321,694 2,017 493 800 50 675 4 たな卸資産 83,949 88,831 83,296 94,156 119,887 5 繰延税金資産 17,788 19,474 19,919 16,568 17,937 6 その他 48,032 45,072 45,111 27,219 28,059 7 貸倒引当金 △ 5,456 △ 5,312 △ 4,489 △ 2,551 △ 1,950 流動資産合計 523,585 565,327 620,848 594,855 575,787 (1)建物及び構築物 189,050 185,404 190,537 191,182 194,325 (2)機械装置及び運搬具 190,687 182,997 165,881 172,252 170,095 (3)土地 166,393 165,980 154,474 156,380 155,866 (4)建設仮勘定 13,290 30,330 33,567 25,990 33,110 (5)その他 49,961 45,276 41,819 37,081 153,165 609,382 609,989 586,279 582,887 593,639 (1)営業権 30,751 29,788 22,016 22,509 - (2)連結調整勘定 45,513 43,339 40,275 38,412 - (3)のれん - - - - 96,853 (4)その他 75,857 76,135 72,652 74,954 72,846 152,122 149,262 134,945 135,876 169,699 330,905 351,323 372,095 516,757 524,135 5,916 7,069 5,629 6,261 3,891 (3)保険積立資産 35,093 36,243 36,491 37,193 37,910 (4)繰延税金資産 55,868 39,487 17,970 15,757 15,912 1,997 1,929 - - - 33,172 31,295 53,464 52,058 46,543 △ 3,913 △ 4,060 △ 3,935 △ 3,781 △ 3,933 3 有価証券 Ⅱ固定資産 1 有形固定資産 有形固定資産合計 2 無形固定資産 無形固定資産合計 3 投資その他の資産 (1)投資有価証券 (2)長期貸付金 (5)再評価に係る繰延税金資産 (6)その他 (7)貸倒引当金 79 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 投資その他の資産合計 459,041 463,288 481,716 624,247 624,460 固定資産合計 1,220,546 1,222,540 1,202,941 1,343,010 1,387,798 資産合計 1,744,131 1,787,867 1,823,790 1,937,866 1,963,586 1 支払手形及び買掛金 98,649 109,264 111,418 107,436 107,610 2 短期借入金 47,824 16,896 24,882 18,269 25,629 - - - 69,900 - 113,660 117,119 117,066 107,563 106,429 15,599 19,532 13,523 20,270 33,641 6 賞与引当金 - - - - 2,305 7 役員賞与引当金 - - - - 297 8 未払費用 59,573 60,312 78,656 79,479 85,991 9 預り金 61,227 58,172 51,176 29,318 24,886 10 その他 64,619 62,065 46,124 45,154 62,991 461,154 443,363 442,847 477,392 449,763 1 社債 129,948 167,428 171,564 106,241 98,830 2 長期借入金 105,148 93,617 67,119 54,236 116,586 3 繰延税金負債 - - - 62,443 71,028 4 再評価に係る繰延税金負債 - - 3,197 3,197 1,471 95,414 84,771 73,227 71,958 62,153 6 役員退職慰労引当金 1,950 1,541 1,132 1,268 1,739 7 自動販売機修繕引当金 6,657 7,697 8,421 7,168 6,863 8 土地買戻損失引当金 - 4,969 5,157 3,643 2,987 9 債務保証損失引当金 - - - 786 548 10 受入保証金 78,567 72,282 73,374 72,507 69,795 11 その他 21,633 30,575 40,273 25,127 38,092 固定負債合計 439,318 462,884 443,469 408,580 470,098 負債合計 900,473 906,247 886,317 885,972 919,862 74,431 77,737 78,857 79,292 - Ⅰ資本金 - 102,045 102,045 102,045 - Ⅱ資本剰余金 - 70,868 70,984 70,999 - (負債の部) Ⅰ流動負債 31 年以内に償還する社債 4 未払酒税 5 未払法人税等 流動負債合計 Ⅱ固定負債 5 退職給付引当金 (少数株主持分) 少数株主持分 (資本の部) 80 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) Ⅲ利益剰余金 - 651,078 687,905 730,226 - Ⅳ土地再評価差額金 - △ 1,673 △ 4,713 △ 4,713 - Ⅴその他有価証券評価差額金 - 29,875 52,463 117,207 - Ⅵ為替換算調整勘定 - △ 34,128 △ 35,614 △ 18,073 - Ⅶ自己株式 - △ 14,183 △ 14,456 △ 25,091 - 803,882 858,615 972,601 - 102,045 - - - - Ⅱ資本準備金 70,868 - - - - Ⅲ連結剰余金 630,744 - - - - △ 1,627 - - - - 6,132 - - - - Ⅵ為替換算調整勘定 △ 25,308 - - - - Ⅶ自己株式 △ 13,628 - - - - 769,227 - - - - 1,744,131 1,787,867 1,823,790 1,937,866 Ⅰ資本金 - - - - 102,045 Ⅱ資本剰余金 - - - - 71,114 Ⅲ利益剰余金 - - - - 732,134 Ⅳ自己株式 - - - - △ 26,797 株主資本合計 - - - - 878,497 Ⅰその他有価証券評価差額金 - - - - 122,466 Ⅱ繰延ヘッジ損益 - - - - △ 352 Ⅲ為替換算調整勘定 - - - - △ 1,907 Ⅳ評価・換算差額合計 - - - - 115,492 少数株主持分 - - - - 49,734 純資産合計 - - - - 1,043,724 負債純資産合計 - - - - 1,963,586 資本合計 Ⅰ資本金 Ⅳ再評価差額金 Ⅴその他有価証券評価差額金 資本合計 負債、少数株主持分及び資本 合計 (純資産の部) 株主資本 評価・換算差額等 81 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) キリンホールディングス 損益計算書 (単位:百万円) 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 Ⅰ売上高 1,583,248 1,597,509 1,654,866 1,632,249 1,665,946 Ⅱ売上原価 1,000,199 986,973 1,008,049 973,920 987,852 売上総利益 583,048 610,536 646,836 658,328 678,093 Ⅲ販売費及び一般管理費 493,259 508,981 537,444 546,619 561,735 営業利益 89,789 101,555 109,392 111,708 116,358 Ⅳ営業外収益 10,217 10,179 14,034 18,817 19,142 1,147 835 750 1,058 1,484 210 - - - - 3 受取配当金 2,614 2,919 3,341 3,225 5,124 4 持分法による投資利益 2,102 - 5,112 8,495 8,131 5 不動産賃貸料 - - 1,621 - - 6 ギフト券損益 - 2,315 - - - 4,143 4,109 3,209 6,038 4,401 15,562 17,057 16,864 15,645 14,635 1 支払利息 8,955 9,822 10,221 9,231 9,736 2 製品廃棄売却損 1,452 1,374 1,326 1,963 994 - 2,189 - - - 4 その他 5,154 3,671 5,315 4,449 3,904 経常利益 84,443 94,676 106,562 114,881 120,865 Ⅵ特別利益 4,521 4,361 36,913 5,802 11,028 1 固定資産売却益 3,401 896 1,766 1,440 2,007 - 503 331 2,182 670 420 77 319 1,633 7,940 2,883 26,162 536 - - 8,333 8 - 700 - - - - 14,447 20,890 33,458 11,682 20,332 1 固定資産廃棄損 6,715 3,747 5,743 4,264 6,041 2 固定資産売却損 379 1,757 251 605 127 - - 12,419 85 5,755 4 投資有価証券評価損 2,236 810 1,150 1,466 195 5 投資有価証券売却損 7 316 17 55 4 1 受取利息 2 金銭の信託運用益 7 その他 Ⅴ営業外費用 3 持分法による投資損失 2 貸倒引当金戻入益 3 投資有価証券売却益 4 厚生年金基金代行部分返上 益 5 関係会社株式売却益 6 窯炉修繕引当金取崩益 Ⅶ特別損失 3 減損損失 - 82 - ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 6 事業構造改善費用 - 8,637 912 4,259 4,492 7 関係会社株式売却損 - - - 159 - 8 債務保証損失引当金繰入損 - - - 786 - 9 のれん償却額 - - - - 1,588 1,755 - - - - 11 土地買戻損失引当金繰入額 - 4,969 - - - 12 土地評価損 - 650 - - - 13 在外会社固定資産評価損 - - 12,962 - - 3,352 - - - - 税金等調整前当期純利益 74,517 78,147 110,018 109,001 111,560 法人税、住民税及び事業税 37,092 41,236 39,738 40,226 52,485 △ 878 △ 2,094 13,518 8,722 △ 1,627 5,762 6,610 7,662 8,788 7,189 32,540 32,395 49,099 51,263 53,512 10 特別退職割増金 14 信託土地建物評価損 法人税等調整額 少数株主利益 当期純利益 アサヒビール 貸借対照表 (単位:百万円) 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 (資産の部) Ⅰ流動資産 1 現金及び預金 18,516 11,699 14,156 15,433 15,873 256,309 262,406 279,771 253,474 278,139 3 有価証券 - - 2,172 5 5,320 4 棚卸資産 96,210 89,067 85,190 86,423 92,344 3,489 6,448 19,861 7,305 9,688 37,674 35,936 30,066 31,914 36,684 △ 7,959 △ 12,297 △ 10,438 △ 9,105 △ 9,099 2 受取手形及び売掛金 5 繰延税金資産 6 その他 7 貸倒引当金 流動資産合計 404,240 393,260 420,780 385,451 428,951 (1)建物及び構築物 240,766 230,264 222,493 214,013 209,926 (2)機械及び運搬具 214,293 201,781 196,172 192,139 182,438 55,750 52,738 51,568 49,815 49,124 204,162 204,684 183,045 173,744 185,101 3,756 4,102 4,228 4,637 8,426 718,729 693,570 657,509 634,349 635,017 Ⅱ固定資産 1 有形固定資産 (3)工具器具備品 (4)土地 (5)建設仮勘定 有形固定資産合計 83 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 2 無形固定資産 17,751 17,588 18,410 23,556 46,386 (1)連結調整勘定 - - - 10,233 32,635 (2)その他 - - - 13,322 13,751 76,645 68,137 93,653 126,981 126,796 (2)長期貸付金 6,221 3,886 5,392 5,366 3,401 (3)長期前払費用 7,573 8,893 9,062 9,215 10,275 (4)繰延税金資産 47,956 38,325 29,815 18,972 19,857 (5)その他 39,458 32,861 28,470 25,443 25,998 △ 23,839 △ 12,112 △ 12,275 △ 11,111 △ 8,183 3 投資その他の資産 (1)投資有価証券 (6)貸倒引当金 投資その他の資産合計 154,016 139,990 154,118 174,868 178,145 固定資産合計 890,497 851,149 830,038 832,775 859,549 1,294,738 1,244,409 1,250,818 1,218,226 1,288,501 1 支払手形及び買掛金 82,346 81,056 84,585 93,155 106,592 2 短期借入金 92,670 51,237 38,864 65,637 88,329 金 40,759 15,983 9,705 2,168 14,329 41 年以内償還予定の社債 25,451 47,603 49,997 50,000 40,000 136,585 146,716 148,654 133,142 132,523 6 未払消費税等 8,468 10,723 10,851 7,001 8,368 7 未払法人税等 11,668 20,999 23,958 5,590 28,796 8 未払金 39,845 39,090 43,234 49,539 49,470 9 未払費用 50,419 47,336 54,524 43,349 47,790 10 預り金 85,010 70,524 63,718 43,762 37,627 11 コマーシャルペーパー 20,000 5,500 - 3,500 3,000 3,454 5,535 3,594 3,094 4,090 596,680 542,308 531,690 499,941 560,918 197,676 159,997 120,000 70,000 55,000 2 長期借入金 25,649 55,962 84,521 97,896 89,443 3 退職給付引当金 29,523 29,772 29,183 27,720 26,973 4 役員退職慰労引当金 473 649 674 686 844 5 特別修繕引当金 219 - - - - 資産合計 (負債の部) Ⅰ流動負債 31 年以内に返済する長期借入 5 未払酒税 12 その他 流動負債合計 Ⅱ固定負債 1 社債 84 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 6 繰延税金負債 26 304 448 708 5,166 42,406 39,768 39,644 39,404 40,379 固定負債合計 295,974 286,453 274,472 236,416 217,807 負債合計 892,655 828,762 806,162 736,358 778,726 Ⅰ資本金 - - - - 182,531 Ⅱ資本剰余金 - - - - 150,504 Ⅲ利益剰余金 - - - - 142,329 Ⅳ自己株式 - - - - △ 16,946 株主資本合計 - - - - 458,418 Ⅰその他有価証券評価差額金 - - - - 14,563 Ⅱ繰延ヘッジ損益 - - - - △ 28 Ⅲ為替換算調整勘定 - - - - 3,753 評価・換算差額合計 - - - - 18,289 少数株主持分 - - - - 33,067 純資産合計 - - - - 509,774 資産、純資産合計 - - - - 1,288,501 14,543 17,494 26,827 26,976 - Ⅰ資本金 182,531 182,531 182,531 182,531 - Ⅱ資本剰余金 180,894 181,281 181,282 163,709 - Ⅲ利益剰余金 - - - - - 1 利益剰余金 32,423 50,409 74,053 106,426 - 2 連結剰余金 - - - - - 3 利益準備金 - - - - - Ⅳその他の剰余金 - - - - - 63 1,793 4,769 16,584 - 974 163 76 2,957 - △ 9,348 △ 18,026 △ 24,885 △ 17,317 - 7 その他 (純資産の部) 株主資本 評価・換算差額等 (少数株主持分) 少数株主持分 (資本の部) Ⅴその他有価証券評価差額 Ⅵ為替換算調整勘定 Ⅶ自己株式 資本合計 387,539 398,152 417,827 454,891 - 1,294,738 1,244,409 1,250,818 1,218,226 - 負債、少数株主持分及び資本 合計 85 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) アサヒビール 損益計算書 (単位:百万円) 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年 2006 年 1,375,267 1,400,301 1,444,225 1,430,026 1,446,385 Ⅱ売上原価 956,827 959,162 978,610 953,995 950,144 売上総利益 418,439 441,138 465,615 476,030 496,241 109,978 124,826 128,845 141,002 150,853 2 広告宣伝費 50,988 44,968 46,060 47,580 48,775 3 運搬費 36,759 37,274 34,607 37,597 40,881 5,322 3,512 571 450 551 44,601 49,025 52,853 55,414 58,221 6 退職給付費用 3,458 4,730 4,714 4,134 2,701 7 減価償却費 6,254 6,009 6,547 6,997 7,722 - - - - 2,140 9 その他 91,736 91,809 90,142 92,603 95,681 営業利益 69,340 78,983 101,272 90,248 88,713 1 受取利息 789 672 538 568 693 2 受取配当金 900 882 966 783 839 3 持分法による投資利益 666 326 - 4,426 6,367 4 連結調整勘定償却額 1,645 1,601 1,620 1,373 - 5 その他 1,822 1,276 2,002 2,276 1,664 5,861 4,799 4,284 4,068 4,407 - - 734 - - 3 貸倒引当金繰入額 4,888 1,347 182 32 103 4 その他 6,861 7,115 5,549 4,115 3,657 経常利益 57,554 70,480 95,650 91,459 90,109 1 固定資産売却益 249 956 449 5,596 2,028 2 投資有価証券売却益 421 288 580 442 79 3 貸倒引当金戻入額 - - - 1,459 1,496 4 工場移転補償金 - 1,542 597 694 289 62 18 - - - Ⅰ売上高 Ⅲ販売費及び一般管理費 1 販売奨励金及び手数料 4 貸倒引当金繰入額 5 従業員給料手当及び賞与 8 連結調整勘定償却額 Ⅳ営業外収益 Ⅴ営業外費用 1 支払利息 2 持分法による投資損失 Ⅵ特別利益 5 その他 Ⅶ特別損失 86 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 1 固定資産売却除却損 2 役員退職慰労金 3 退職給付信託設定損 13,122 14,476 31,314 15,313 6,121 164 154 301 233 103 3,640 - - - - - - - 4 過年度役員退職慰労引当金 繰入額 - 581 5 投資有価証券売却損 528 78 2,048 1,178 190 6 投資有価証券評価損 6,915 1,198 271 336 506 - 644 665 - - 505 - - - - 9 事業整理損失 - 4,287 - - - 10 事業再編関連損失 - - - 3,597 1,776 11 減損損失 - - - - 3,905 12 固定資産評価損 - 2,855 - - - 13 土地評価損 - - - 3,181 - 14 自動販売機新札対応費 - - 1,667 - - 15 前期販売促進費 - - 1,974 - - 926 328 664 86 234 税金等調整前当期純利益 32,483 48,680 58,368 75,725 81,165 法人税、住民税及び事業税 23,463 22,830 33,741 18,541 36,862 法人税等調整額 △ 2,266 2,451 △ 6,910 15,478 △ 1,538 少数株主損益(減算) △ 3,468 188 941 1,834 1,065 14,754 23,210 30,595 39,870 44,775 7 関係会社整理損失 8 子会社整理損失 16 その他 当期純利益 87 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) 参考文献 (倉田三郎、藤永弘、石崎忠司、坂下紀彦『入門 経営分析 三訂版』同文舘出版、2005 年) (新納一徳『アサヒビールの秘密』こう書房、1997 年) (西村晃『アサヒビールの経営戦略』たちばな出版、1999 年) (キリンビール広報部『キリンビールの歴史新戦後編』キリンビール広報部、1999 年) (日経情報ストラテジー、2007 年 1 月号) (日経産業新聞、1998 年 1 月 7 日) (日経産業新聞、2001 年 3 月 15 日) (日経産業新聞、2002 年 1 月 7 日) (日経産業新聞、2002 年 1 月 17 日) (日経産業新聞、2006 年 12 月 20 日) (日経産業新聞、2007 年 7 月 3 日) (日経産業新聞、2007 年 7 月 24 日) (日経流通新聞、2000 年 10 月 19 日) (日経流通新聞、2002 年 1 月 15 日) (日経流通新聞、2006 年 4 月 5 日) (日本経済新聞、2001 年 1 月 15 日) (日本経済新聞、2002 年 11 月 27 日) (日本経済新聞、2005 年 1 月 14 日) (日本経済新聞、2005 年 2 月 4 日) (日本経済新聞、2005 年 2 月 10 日) (日本経済新聞、2007 年 2 月 7 日) (日本経済新聞、2007 年 7 月 7 日) (日本経済新聞、2007 年 7 月 26 日) (日本経済新聞、2007 年 9 月 3 日) (日本経済新聞、2007 年 10 月 19 日) (日本経済新聞、2007 年 11 月 29 日) (日本経済新聞、2007 年 12 月 6 日) (日本経済新聞、2007 年 12 月 28 日) (日本経済新聞、2008 年 1 月 10 日) (ビール酒造組合ホームページ、http://www.brewers.or.jp/) (とりあえずビールホームページ、http://www.mirai.ne.jp/~shungen/) 88 ビール業界~キリンホールディングスとアサヒビール~ (中井・山口) (ビールの歴史と変遷ホームページ、http://www.brewers.jp) (発泡酒の税制を考える会ホームページ、http://www.happoshu.com/) (国税庁統計年報書ホームページ、http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/) (国税庁ホームページ、http://www..nta.go.jp/) (キリンビールホームページ、http://www.kirin.co.jp/) (アサヒビールホームページ、http://www.asahibeer.co.jp/) (サントリーホームページ、http://www.suntory.co.jp/) (キリンホールディングス有価証券報告書、2002 年~2006 年) (アサヒビール有価証券報告書、2002 年~2006 年) (日経経営指標、2002 年~2005 年) 89
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