2-(2)-1 流域 A2O 法施設の最適な運転管理方法 流域下水道本部 技術部 施設管理課 水質保全係 斉藤慎哉、伊藤正宏、○蝶野詩織、葛西孝司(現、日本下水道事業団)、 渡邉三雄(現、東部第二管理事務所)、八巻健二(現、北部第一管理事務所)、半沢修 1.はじめに 流域の水再生センターの特徴は、全ての水再生センターが水処理施設と汚泥処理施設を合わ せ持ち、かつ、水処理施設に標準法と高度処理法が導入されていることである。このため、汚 泥処理返水による高度処理への影響や、高度処理で除去したりんを含む汚泥処理返水による標 準法処理水質の低下などが見られることから、安定した運転を行うためのマニュアルの整備が 求められていた。そこで、処理コストの低減と安定した処理のための運転方法を検討し、流域 版高度処理運転管理方法(マニュアル)を作成した。 2.A2O 法の基本的な運転条件の検討 従来の標準法における処理は、流入水質、活性汚泥濃度、溶存酸素濃度などの項目について、 適正な運転条件を把握した上で運転を行っている。A2O 法は、窒素・りんを同時に処理する方 法であるが、窒素除去とりん除去の運転方法は相反する部分が多いことから、安定した除去を 行うためには、標準法以上に詳細な運転条件の検討が必要である。 具体的な例として、図-1に平成15年 処 理 水 全 窒 素 (m g/ l) 12 度の清瀬水再生センターの A2O 法処理水 質を示した。処理水の全窒素が低いときは 8 全りんが高く、全窒素が高いときは全りん が低いことが分かる。つまり、窒素除去率 4 y = -5.1443x + 10.285 0 0.0 図-1 を上げようとする運転(放流水の全窒素濃 度の低下)を行えば、りん除去が不安定(全 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 1.2 処理水全りん(mg/l) A2O 法処理水の全窒素と全りんの関係 りん濃度の上昇)になることを意味してい る。一般的に言われている A2O 法の運転 条件は、返送率 50%、循環率 150%以上と されている。しかし、りんを安定的に除去 しようとすると、循環率を低くするために窒素除去が不十分になるなど、現状のマニュアルだ けでは良好な処理が難しいことから、流域 A2O 法施設における最適な運転方法を確立するた めに以下の検討を行った。 (1) 返送率の検討 嫌気槽において、りんの吐き出しを促進するためには嫌気度を高め、反応槽流入水の有機 物濃度を高く保つことが重要である。 嫌気槽に戻る返送汚泥中には、活性汚泥が短時間で利用可能な有機物がほとんどなく、返 送率をあげた場合には、硝酸も多く含まれていることから嫌気度が低下する結果となる。こ のため、返送汚泥の濃度を高くし、硝酸の持込を少なくする運転が重要である。 調査の結果、返送率 15%で良好な結果が得られたが、冬場に、第二沈殿池に滞留した汚泥 により処理水中のりん酸性りんの上昇が発生したため、返送率を 25%とした。以上のことか ら、流域 A2O 法施設における返送率は 15~25%で十分と判断した。 (2) 硝化液循環率の検討 りん除去が安定した状態で窒素除去を行うためには、硝化液循環率も重要なポイントであ る。調査の結果、循環率を 85%として無酸素槽の硝酸濃度を確認し、好気槽の残留アンモニ ア濃度を 0.5~1mg/l 程度で運転した条件において、窒素除去も良好な結果が得られたこと から、硝化液循環率は 85%以上とした。 (3) 汚泥処理の管理 りん除去の安定化には、返流水に高濃度のりんが戻らないよう汚泥管理を行うことが重要 である。具体的な返流水の種別ごとの水質管理項目と推奨値を表1に示した。 表1 返流水の管理項目と推奨値 返流水の種類 水質管理項目 推奨値 PO 4 -P 4mg/l 以下 総合返水 SS 400mg/l 以下 遠心濃縮分離液 PO 4 -P 3mg/l 以下 PO 4 -P 50mg/l 以下 脱水分離液 SS 100mg/l 以下 なお、この推奨値は、反応タンク流入水量に占める割合から過去の実績をもとに、経験値 として定めたものである。 (4) 一沈バイパス、生汚泥投入、PAC添加の扱い りん除去対策として一般的に行われている一沈バイパス、生汚泥投入およびPAC添加に ついては、処理水質の安定とコストの両面を考慮し基本的に実施しないこととした(ただし 例外として、全りんの排出基準を超過するおそれが生じた場合に限りPACを添加すること とした)。 その理由は、一沈バイパスや生汚泥投入の目的は、反応槽内の有機物濃度を高めてりん除 去を促進させることであるが、一方で好気槽での空気量の増大や余剰汚泥の増加に伴う脱水 性の低下により、処理コストやCO 2 排出量が増大すると考えられるからである。実例とし 700 1.2 600 1.0 500 0.8 400 0.6 汚泥投入量 300 送風倍率の比 0.4 200 0.2 100 0.0 0 4月 5月 図- 2 6月 7月 8月 9月 100 80 累積度数(%) 1.4 汚 泥 投 入 量 ( m 3/ 日 ) 送風倍率の比 (A 2O 法 / 標 準 法 ) て、送風倍率の増大について図-2に、ケーキ含水率の変化について図-3に示した。 60m3/日投入 60 40 120m3/日投入 20 0 70 10月 11月 12月 生 汚泥 投入 に よる 送風 倍 率の 増 図-3 72 74 76 78 80 脱水ケーキ含水率(%) 生汚泥投入によるケーキ含水率変 図-2は、流域内の分流地域の水再生センターにおいて A2O 法施設に生汚泥を投入し、 そのときの A2O 法と標準法との送風倍率の比の推移を示したものである。図-3は、図- 2とは別の水再生センターにおいて生汚泥の投入量を変え、そのときに発生した脱水ケーキ の含水率を累積度数分布で示したものであるが、一沈バイパスや生汚泥投入を行うことによ り、共に処理コストが増大することを確認した。 (5) 簡易放流時の対応 簡易放流を実施する状態にまで流入下水が希釈されると、A2O 法運転のままでは十分な嫌 気状態を維持できない。このような場合には硝化液循環を停止し、りん除去を優先させるこ ととした。 降雨によって流入下水が希釈され、溶存酸素を含んだ状態で反応槽に流入すると、本来の 嫌気槽は嫌気状態から無酸素状態になる。これに対して、硝化液循環を停止した場合、好気 槽から無酸素槽への酸素や硝酸の供給がなくなり、かつ、機械攪拌での滞留時間が増大する ことによって、若干ではあるが、無酸素槽が嫌気状態となる。結果として、嫌気・好気法処 120 0.8 80 0.4 40 0 14 15 16 17 18 19 20 21 図-4 22 23 24 25 26 降雨量 処理水りん濃度 160 1.2 120 0.8 80 0.4 40 0.0 日 A 2 O法運転を継続 降雨量(mm/日) 1.2 0.0 1.6 160 処理水りん濃度(mg/l) 降雨量 処理水りん濃度 降雨量(mm/日) 処理水りん濃度(mg/l) 1.6 0 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 図-5 日 硝化液循環ポンプ停 理となり、りん除去についてはある程度の維持が可能になる。 図-4および図-5に、A2O 法での運転を継続した水再生センターと、硝化液循環を停止 して AO 法運転に変更した水再生センターの処理水のりん濃度の変化を示した。両者は、同 一期間のデータである。A2O 法運転を継続した水再生センター(図-4)では、処理水のり ん濃度が上昇してから回復するまでに7日間要した。一方、硝化液循環を停止した水再生セ ンター(図-5)では、処理水のりん濃度の上昇は小さく、かつ、短い期間での回復が可能 であった。 3.まとめ 調査結果をもとに、流域水再生センターA2O 法施設の運転管理マニュアルは以下の5点を考 慮して作成した。 ① 汚泥返送率は、通常 15~25% 程度とする ② 窒素除去の条件は、(汚泥返送率)+(硝化液循環率)≧ 100% で判断する ③ 返流水の種類ごとに水質の推奨値を設定し、汚泥管理を徹底する ④ 『一沈バイパス』、『生汚泥投入』、『PAC添加』は原則として行なわない ⑤ 簡易放流実施時には硝化液循環を停止し、りん除去の安定化を優先させる 4 .マニュアルの運用状況について 作成した流域 A2O 法マニュアルが、流域7センターにおいてどの ように運用されているの か を、通常時と降雨時における運転対応の状況について紹介する。 ( 1) 通常時(雨の影響を受けないとき) 通常時の運転(少量の降雨を含む)のポイントとして、処理水の全りん濃度に影響を及ぼ さないよう、活性汚泥のりん除去能力を高めた状態を維持することとした。活性汚泥のりん 除去能力が高い状態では、りん除去に不利な状況になっても活性汚泥内の余力(利用できる 有機物)によって、短期間ならば見かけ上 影響を受けない。この状態を維持するために、次 の 2点に留意した運転を行なっている。 ① 完全硝化を確保しつつ処理水量をできる限り増大させる(処理負荷を高める) ② 二沈でりんが溶出しない状態を維持しながら汚泥の返送 率をできる限り下げる ①については、過去の経験から導き出された結論である。 ②の汚泥の返送率については、前述したように、汚泥の返送率が低いほどりん除去に有利 である。しかし、極端に低くすると、二沈でりんの溶出を招き処理水中のりん濃度が上昇す る。目安として、(処理水のりん酸性りん濃度)-(好気槽末端でのりん酸性りん濃度)< 0.2 を確認しながら返送率を下げていくこととした。7水再生センターでの具体的な値は、 通常時で 15~25%程度、低水温期のみ 25~30%と若干上げることとしている。低水温期は、 降雨の頻度が減少すること、好気槽内での有機物の酸化分解が進行しにくいため 二沈で脱窒 やりんの溶出が生じやすくなることなどからやや高めで運転することとした。 表2 項 目 雨の影響がない場合の運転条 最 適 な 運 転 状 況 運 転 変 更 の 目 安 処理水量 硝化が完了する上限水量 水温を考慮しながら設定する 返送汚泥率 15~25% 程度 二沈でりんが溶出しない程度で、なるべく量を少なくする 硝化液循環率 85~120% 程度 無酸素槽 NO3-N を確認しながら設定する MLSS濃度 1,000~1,500mg/L 程度 低水温期のみ 1,500mg/L とする 最終回路 DO濃度 1~3mg/L 程度(施設ごとに異なる) 処理水 NH4-N濃度 1mg/L 以下を維持する 最終回路 NH4-N濃度 日平均 0.5~1mg/L 程度 (2) 降雨時 降雨によって嫌気槽の嫌気度が低下し、りん除去が不安定になることがわかっている。そ こで活性汚泥が持つりん除去能力の低下を抑制するために、特に反応タンク内への有機物流 入量を少しでも多くす ることや、雨天時の放流水質を改善することを目的として、以下の方 法を実施している。 ① A2O 施設への流入水量を増大させることによってBOD-SS負荷の低下を抑制す る。 ② 汚泥の返送率をさらに低下させ、嫌気槽への 硝酸の持込量等を抑制する。 ③ 簡易放流時には、硝化液循環を停止する。 表3 項 目 雨天時の運転条件 運 転 方 法 備 考 処理水量 可能な範囲で増大させる 二沈での状況を確認 返送汚泥率 15% 程度を目安に低下させる 最低流量で固定しても良い 硝化液循環率 通常運転のまま 通常の降雨では変更せず 一沈バイパス および生汚泥投入 実施しない 処理コストが増大 常時実施しないと効果が小さいため PAC添加 法令に違反するおそれがある場合に限り実施する 実施によって汚泥の脱水性の悪化が懸念される 5.今後の課題 今回のマニュアルの導入によって、処理コストはある程度の削減が見込めるものの、標準法 に比べると高い状態にある。最大の原因は、嫌気槽や無酸素槽に設置されているプロペラ式水 中攪拌機の動力費であり、処理コスト全体の 40%を占めている。流域では、今後、標準法から 高度処理法への施設改良が計画されているため、さらなるコストの低減が求められている。そ こで、現在流域では、攪拌方法を機械方式から空気攪拌方式を採用した新たな A2O 法の処理 に ついて検討を行っているところである。 参考文献: 嫌気-無酸素-好気法運転管理マニュアル 東京都下水道局計画部(H8.4)
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