2.研究系の研究活動 - Institute of Space and Astronautical Science

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Ⅱ.研究活動
2.研究系の研究活動
a.高エネルギー天文学研究系
Ⅱ-2-a-1
超軟X線背景放射と高温星間物質の研究
教
授
満田和久
Michael Bauer
マックスプランク研究所
大学院学生
Dan McCammon
ウイスコンシン大学
吉野友崇
助
教
首都大・理
准教授
山崎典子
洋
金沢大・理
藤本龍一
石崎欣尚
大学院学生
萩原利士成
大学院学生
木村俊介
竹井
「すざく」の低エネルギーX 線に対する高い分光性能を活かして,超軟 X 線背景放射の理解へ向けた総合的な研
究をすすめている.1 キロ電子ボルト以下のエネルギー範囲の X 線背景放射の大部分は,我々の銀河系内の高温星
間物質によると考えられてきた.本年度は,「すざく」による 14 方向からの背景放射について分光解析を行ない,
電荷交換反応によると考えられる一定の成分と,高温星間物質に起因する成分の寄与を切り分けることに成功した.
高温星間物質の温度は約 200 万度で,方向によって強度は 5 倍以上変わるが,輝線比の示す温度は約 10%の範囲
で一致していることを示した.
Ⅱ-2-a-2
主系列星からのX線放射の研究
教
授
満田和久
助
教
竹井
ウイスコンシン大学
洋
Dan McCammon
准教授
山崎典子
吉野友崇
大学院学生
木村俊介
大学院学生
X 線背景放射のうち,系外の活動銀河核による成分は,特に 1keV 以下のエネルギー領域では銀河面上では強く
吸収を受けるはずであるが,実際の背景放射にはそのような構造は見られない.我々は反銀河中心方向である銀河
面からの放射を「すざく」によって分光観測することにより,1000 万度程度の高温プラズマ放射と考えられるこ
とを明らかにした.この放射を星間物質起源とすることは,圧力平衡の観点等から難しく,エネルギースペクトル,
強度からはむしろ主系列星からの放射の重ね合わせだと考えられることを示した.強度については,星の分布を反
映する赤外線放射との相関もあり,銀河系内の星の分布,X 線を吸収する星間物質の分布を反映していると考えら
れる.
Ⅱ-2-a-3
太陽風の電荷交換反応を起源とするX線放射の研究
教
授
満田和久
金沢大・理
Dan McCammon
ウイスコンシン大学
助
F. Scott Porter
教
竹井
洋
Michael Bauer
准教授
山崎典子
教
前澤
授
洌
准教授
松岡彩子
育
首都大・理
江副祐一郎
NICT
寺田直樹
大学院学生
二元和朗
東北大・理
中川広務
大学院学生
萩原利士成
マックスプランク研究所
NASA/GSFC
藤本龍一
准教授
篠原
電荷交換反応による高電離イオンからの非熱的な輝線放射が,様々な 1 キロ電子ボルト以下の X 線放射におい
て,無視できない量を占めている可能性が指摘されている.「すざく」の 1 キロ電子ボルト以下の空間的に広がっ
た低エネルギーX 線放射に対する高い分光性能を生かして,地球近傍および太陽圏内からの太陽風の電荷交換反応
による X 線放射の研究をすすめている.約 900km の高度でその場観測を行っている DMSP 衛星によるイオンの観
測データを調べたところ,「すざく」により,特に強く,かつ 10 分程度の速い時間変動を示す電荷交換反応による
X 線放射が観測された時間帯において,「すざく」の観測方向で,太陽風イオンが地球磁場の極方向から低高度ま
で入り込んでいたことがわかった.DMSP 衛星によって観測されたイオンフラックスとすざくの観測した酸素輝線
Ⅱ.研究活動
47
強度から,振り込んできた太陽風中の高電離酸素イオンとその高度の地球ジオコロナの中性物質による電荷交換反
応によりその強度をほぼ説明できることを示した.
Ⅱ-2-a-4
X線による銀河団ガスの研究
准教授
山崎典子
首都大・理
大橋隆哉
教
首都大・理
石崎欣尚
助
田村隆幸
金沢大・理
佐藤浩介
宇宙航空プロジェクト研究員
太田直美
教
授
石田
学
銀河団内部では,銀河間物質が 1000 万度以上にまで加熱された高温ガスとなり,X 線で明るく輝いている.高
温ガスの温度,密度の分布は,ガスを閉じ込めているダークマターの分布を直接に反映したものと考えられる.
我々は「すざく」によって銀河団中に含まれる高温ガスの中の酸素,マグネシウム,珪素,硫黄,鉄の量および空
間分布を正確に測定する観測を続けている.複数の銀河団において,重元素を生成した元となった超新星爆発の宇
宙開闢以来の個数を決定し,Ia 型と II 型の超新星の比率が 1 対 3 であることを示した.また銀河群 NGC507,小
規模銀河団 AWM7 等と大規模銀河団の比較から,大規模銀河団中の銀河間物質ほど内部の星の明るさに比して多
くの重元素を含むことを定量的に示した.また遠方(z=0.451)の高温銀河団において,「すざく」の CCD カメラ
および PIN 検出器の組み合わせにより 3 億度という非常に高温な放射を発見した.銀河団形成時の重力エネルギ
ー開放に伴うものと考えられる.
Ⅱ-2-a-5
X 線による渦巻き銀河における高温星間物質の研究
山崎典子
准教授
首都大・理
大橋隆哉
大学院学生
三石郁之
金沢大・理
佐藤浩介
我々の銀河系にも高温星間物質があるように,系外の渦巻き銀河においても高温星間物質があることが知られて
いる.この高温ガスは超新星等のエネルギーによって作られ,重元素の銀河内での循環あるいは,銀河間空間への
持ちだしといった化学進化に大きな役割を果たしていると考えられるが,その物理状態や銀河の活動性との比較は
あまり進んでいない分野である.我々は系外の通常渦巻き銀河 NGC 4631 を「すざく」によって観測し,銀河面と
垂直方向に星の分布よりも遥かに広がった高温星間物質が存在することを確認した.さらに「すざく」の分光性能
により,酸素や鉄の重元素比を始めて定量的に求め,重元素比は II 型超新星による生成物に近く,銀河団中の銀
河間物質とは異なっていることを示した.
Ⅱ-2-a-6
“ダークバリオン”としての銀河間高温物質探査の研究
授
満田和久
首都大・理
准教授
山崎典子
教
助
教
田村隆幸
首都大・理
助
教
竹井
首都大・理
佐々木伸
東大・理
河原
創
金沢大・理
藤本龍一
名大・理
田原
譲
教
洋
授
大橋隆哉
名大・理
古澤彰浩
石田
学
東大・理
須藤
石崎欣尚
筑波大・理
靖
吉川耕司
近年の宇宙論研究により,宇宙の大部分は未知の暗黒物質と暗黒エネルギーによって占められ,核子などの普通
の物質(=バリオン)は全体の 4%程度であることがわかってきた.ところが現在の宇宙の星や銀河団高温ガスを
集めても存在するはずのバリオンの半分にも達しない.つまり,宇宙の約 2%をミッシングバリオンあるいはダー
クバリオンが占めていることになる.宇宙論シミュレーションからは,それらが温度 10 万度から 100 万度の高温
物質として銀河間空間に存在することが予測されている.これらの銀河間高温物質(WHIM)は,暗黒物質の分布
に良く追随しており,バリオンの中で宇宙の大規模構造をもっとも強く反映すると予想される.我々は,酸素の輝
線観測により全天の広い範囲から銀河間高温物質を検出し,さらに,赤方偏移を利用して z=0.1 から 0.3 の宇宙
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Ⅱ.研究活動
に存在する銀河間高温物質の分布を 3 次元的に明らかにする観測の可能性を,理論的および観測的な見地から検討
している.具体的なミッション提案として,小型衛星計画 DIOS(Diffuse Intergalactic Oxygen Surveyor),アメリカ
との国際ミッション XENIA として提案し,具体的検討を行なっている.
Ⅱ-2-a-7
X 線分光観測による銀河間高温物質の探査
教
授
満田和久
助
教
竹井
洋
金沢大・理
藤本龍一
准教授
山崎典子
助
田村隆幸
首都大・理
大橋隆哉
教
木村
大学院学生
俊
J. Patrick Henry
ハワイ大学
マックスプランク研究所
Alexis Finoguenov
最近,明るい銀河中心核のスペクトル中に高電離酸素吸収線が発見され,それが“ダークバリオン”の候補であ
る銀河間高温物質(WHIM)による可能性が示唆されている.我々は近傍の銀河団の外側の銀河間高温物質を検出
する目的で,銀河団周辺の分光観測と,その背景にあるクエーサーを観測する研究を進めている.本年度は,
XMM-Newton 衛星によって酸素輝線の検出が報告されたかみのけ座銀河団周辺領域を「すざく」によって観測し
た.「すざく」の方が,酸素輝線の検出感度は優れているが,軟X線背景放射等を考慮した結果,銀河団に伴う酸
素輝線は有意に検出することはできず,上限値を得るに留まった.すなわち XMM-Newton 衛星で観測された輝線
は WHIM 起源ではないことを明らかにした.輝線の起源は太陽風の電荷交換反応だと考えている.この上限値は,
理論的に銀河団周辺に予想される強度範囲に達している.また,WHIM の温度,密度への制限を強めるために,
銀河団,超銀河団周辺の観測数を増やしている.
Ⅱ-2-a-8
活動銀河核ジェットの観測的研究
教
授
高橋忠幸
埼玉大・理
田代
信
東工大・理
片岡
淳
助
教
スタンフォード KIPAC 研究所
渡辺
伸
内山泰伸
宇宙航空プロジェクト研究員
佐藤理江
ハイデルベルグ観測所
Stefan Wagner
大学院学生
牛尾雅佳
SLAC 加速器センター
Greg Madejski
「すざく」を用いて,さまざまブレーザー天体の観測を精力的に行い,活動銀河核ジェット内の加速の研究を行
った.「すざく」の HXD と XIS の組み合わせにより,0.5 キロ電子ボルトから 100 キロ電子ボルトという X 線,
硬 X 線における広帯域の高精度観測が初めて可能になり,それらの観測データから,強度やスペクトルの時間変
動を広帯域に得ることができた.また,いくつかの観測では,新世代の TeV ガンマ線望遠鏡である H.E.S.S や
MAGIC によるガンマ線領域,Swift 衛星による紫外・可視光領域との同時観測を計画し,実行した.高感度の多波
長観測により,スペクトル形状や時間変動を同時に比較することが可能になった.
これらの観測から得られた広帯域スペクトルからは,ジェットの速度と組成に直接的な制限を与えることが初め
て可能となった.また,「すざく」で観測された時間変動は,ジェット内部の現象を直接的に反映すると考えられ,
ジェット内の粒子加速の機構や到達最大エネルギーを導くことに成功した.
Ⅱ-2-a-9
ガンマ線連星の観測的研究
教
授
高橋忠幸
准教授
国分紀秀
スタンフォード大学 KIPAC 研究所
内山泰伸
スタンフォード大学 KIPAC 研究所
田中孝明
大学院学生
岸下徹一
Max Planck Institute for Nuclear Physics
Felix Aharonian
TeV ガンマ線望遠鏡 H.E.S.S.によって発見された超高エネルギー天体のうち,X 線連星と起源が一致するものが
複数見つかり,ガンマ線連星という新たな種族の存在が明らかになりつつある.そこで「すざく」を用いてこれら
の天体を観測し,とくに LS5039 については連星周期をカバーするような長時間観測の結果から,TeV エネルギー
Ⅱ.研究活動
49
帯域で観測される時間変動との相関や,それに伴うスペクトル形状の変化を初めて明らかにし,放射領域のサイズ
や粒子加速の効率などを求めることに成功した.また,新たなガンマ線連星の有力な候補である HESS J0632+057
をすざくによって観測し,H.E.S.S.によって検出された TeV 天体と同じ位置に X 線源が確かに存在することを確認
し,そのエネルギースペクトル及び時間変動のタイムスケールから,第 4 のガンマ線連星である可能性が極めて高
いことを明らかにした.
Ⅱ-2-a-10
「すざく」によるブラックホール連星の研究
授
堂谷忠靖
東大・理
山田真也
広島大・理
高橋弘充
芝浦工大・工
久保田あや
教
教
授
INAF/IASF
東大・理
海老澤研
Ada Paizis
牧島一夫
ブラックホール連星は,名前の通りブラックホールと通常の星からなる近接連星系で,我々の銀河系内には,そ
の候補も含めると 40 天体ほどが知られている.ブラックホール連星系では,通常の星からのガスがブラックホー
ルに落ち込む際に解放される膨大な重力エネルギーがその活動の源になっている.このような質量降着で解放され
る重力エネルギーは,宇宙の様々な高エネルギー現象のエネルギー源になっているが,重力エネルギーがいかにし
て輻射やジェットに変換されるのかは,未だに良くわかっていない.ブラックホール連星系は,質量降着をエネル
ギー源とする活動天体の中では,最も単純な系であり,質量降着に伴う放射機構を探るのに最適の天体である.ブ
ラックホール連星は,軟X線から硬 X 線まで 2 桁以上のエネルギー範囲に渡って輻射を出すため,エネルギー放
射の全貌を観測するには,「すざく」のような広帯域をカバーするX線衛星が不可欠である.我々は,ブラックホ
ール連星からの放射機構の解明のため,「すざく」を用いたブラックホール連星の観測を系統的に進めている.
2008 年度は,X線新星 IGR J17497-2821 の解析を行った.これは,2006 年に出現したX線新星で,
「すざく」は発
見から 8 日後に観測を行った.観測時には 2×1037erg/s 程度の明るさで,典型的なハード状態であった.エネルギ
ースペクトルは,基本的に降着円盤からの低温度黒体放射が約 80 キロ電子ボルトの高温電子により逆コンプトン
散乱された放射として説明されるものの,散乱体は一様ではなく,降着円盤のごく一部しかカバーしていないこと
が明らかになった.これは,代表的なブラックホール連星である白鳥座 X-1 の結果と同じであり,一般的に成立
していることが示唆される.
Ⅱ-2-a-11
超高エネルギーガンマ線天体 HESS J1837-069 の X 線観測に基づく研究
教
授
堂谷忠靖
研究員
馬場
彩
授
海老澤研
大学院学生
穴田貴康
教
12
テラ電子ボルト(TeV,10 電子ボルト)のエネルギー帯でガンマ線を放射している天体の存在が,近年の
H.E.S.S.チェレンコフ望遠鏡を初めとするガンマ線観測によって明らかになって来た.TeV ガンマ線が放射される
メカニズムとしては,高エネルギー電子による宇宙マイクロ波背景放射の逆コンプトン散乱か,高エネルギー陽子
が物質と相互作用する時に生成されるパイ中間子の崩壊が考えられ,いずれにしても粒子加速が起きていることに
なる.HESS J1837-069 は,H.E.S.S.チェレンコフ望遠鏡で 2004 年に発見された TeV ガンマ線天体で,7 分角×3 分
角の広がりを持っている.その近傍に「あすか」によって発見されたX線源 AX J1838-065 があり,最近 RXTE 衛
星の観測で 70ms 周期のパルスが見つかった.我々は,「すざく」による観測と「あすか」のアーカイブデータの
解析を行い,この点源が,長期にわたり安定したパルス周期変化率とX線光度を保っていることを明らかにした.
これにより,AX J1838-065 が回転駆動型のパルサーであることが確定した.一方,AX J1838-065 の位置は HESS
J1837-069 の位置から数分角ずれている.おそらく,HESS J1837-069 の位置はパルサーが生まれた場所に対応して
おり,誕生直後に大量に作られた高エネルギー電子が今も逆コンプトン散乱により TeV ガンマ線を作っているの
ではないかと考えられる.
50
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-a-12
超高エネルギーガンマ線天体のX線による系統的な研究
教
授
堂谷忠靖
穴田貴康
大学院学生
研究員
宮崎大・工
馬場
森
彩
浩二
近年の H.E.S.S.チェレンコフ望遠鏡を初めとするガンマ線望遠鏡の発達により,テラ電子ボルト(TeV,1012 電
子ボルト)のエネルギー帯でガンマ線を放射している天体が銀河面に沿って多数存在することが明らかになって来
た.これらの超高エネルギーガンマ線天体では,効率良い粒子加速が起きていることになり,宇宙線の起源につな
がる天体として注目を浴びている.しかしながらこれらの天体の多くは,他波長での対応天体が見つかっておらず,
その正体は不明である.TeV ガンマ線は,宇宙背景放射の高エネルギー電子による逆コンプトン散乱が放射過程の
ひとつであり,そのような電子は星間磁場とのシンクロトロン放射でX線を放射することが期待される.したがっ
て,TeV ガンマ線源の解明には,X 線観測が有効である.実際,TeV ガンマ線源の近くには,パルサー風星雲を伴
ったパルサーがしばしば観測される事があり,パルサーとの関連が指摘されていた.我々はこのような背景のもと,
TeV ガンマ線近傍にあるパルサー風星雲のX線による系統的な研究を行っている.2008 年度は,TeV ガンマ線天
体への付随が示唆されている 10 のパルサー風星雲について,X線の(主にアーカイブ)データ解析を行った.そ
の結果,パルサーの周囲には,表面輝度が低いものの大きく広がった放射領域があり,年齢が古いもの程広がりが
大きく,年齢数万年のパルサー風星雲では数十キロパーセクの広がりに達することが明らかになった.パルサー風
星雲の広がりは,高エネルギー電子の拡散に対応していると考えられるが,従来考えられていた星間磁場中の拡散
ではこれほどの広がりは説明できない.磁場の乱流度合いの時間発展や,パルサー風に伴う電子の移流を考慮しな
いといけない可能性があり,パルサー風が作る衝撃波の構造を考える上で重要な示唆を持つと考えられる.
Ⅱ-2-a-13
「すざく」による銀河系内宇宙線加速器候補「暗黒加速器」の研究
教
授
広島大・理
堂谷忠靖
山崎
了
馬場
研究員
郡
Lancaster U
彩
和範
大学院生
MPI/LSW
MPI/LSW
藤永貴久
Stefan Wagner
Gerd Puelhofer
12
近年 H.E.S.S.チェレンコフ望遠鏡は,テラ電子ボルト(TeV,10 電子ボルト)のエネルギー帯でガンマ線を放
射している天体が銀河面に沿って多数存在することを発見した.これらの天体の中には, 未だに対応天体が他波長
で見つかっていないものがあり,宇宙線加速源の有力な候補「暗黒加速器」として注目を浴びている.
「暗黒加速器の正体は何なのか」,「加速されている粒子は何なのか」,という問題を解決するため,我々は「すざ
く」衛星の低バックグラウンド観測を活かした研究を行なっている.2008 年度は, HESS J1745-303 と HESS J1702420 という,暗黒加速器の中でも特に TeV ガンマ線で明るい二天体について,「すざく」で集中的に研究を行なっ
た.
HESS J1745-303 の「すざく」mapping 観測では,TeV ガンマ線放射領域からの有意な X 線放射は検出されなか
った.これは,この天体が暗黒加速器の一つであることを示した初めての観測結果である.さらに我々は同領域か
ら,中性鉄輝線を発見した.中性鉄輝線は,外部から X 線で照らされた冷たくて濃い物質,つまり分子雲からよ
く発見される.このことから,HESS J1745-303 の対応天体は分子雲であることが考えられる.近傍には古い超新
星残骸も存在することが分かった.これらの状況証拠から我々は,「HESS J1745-303 の TeV ガンマ線放射は,古い
超新星残骸で加速された宇宙線が近傍の分子雲の中で pi-0 崩壊を起こしたことが起源である」というシナリオを
提唱し,論文にまとめた.X 線帯域から TeV ガンマ線帯域までの広帯域スペクトルを説明するためには,加速陽
子への注入エネルギーは 1050erg 程度が必要である.
HESS J1702-420 についても,我々は「すざく」の深い観測を利用して,X 線帯域では厳しい上限値をつけた. こ
の天体に対しても, 広帯域スペクトルを計算し,天体の起源を突き止める予定である.
Ⅱ.研究活動
51
Ⅱ-2-a-14
「すざく」による激変星の観測
授
石田
学
大学院学生
林多佳由
東大・理研
牧島一夫
研究員
馬場
彩
埼玉大・理
寺田幸功
大学院学生
中村良子
埼玉大・理
原山
教
淳
激変星は白色矮星と普通の星からなる近接連星系であり,白色矮星への質量降着により温度 10-40 キロ電子ボル
トの光学的に薄いプラズマからの放射を示すことで知られている.プラズマは白色矮星へ近づくに従って冷却し,
低エネルギーのX線を放射するとともに,白色矮星からの反射により,高エネルギー側にも放射が延びるので,
0.2-600 キロ電子ボルトの広いエネルギー帯をカバーしている「すざく」にとって格好のターゲットである.本年
度は「すざく」の試験観測期間に観測した SS Cyg,AO-1 で観測した V1223 Sgr,EX Hya のデータ解析を継続する
と共に,AO-3 で観測した静穏時の AM Her の解析に着手した.
矮新星 SS Cyg は静穏時と可視光での爆発時の 2 度に亘って観測された.静穏時の境界層の空間的広がりが白色
矮星の半径の 12%未満であること,爆発時には,光学的に厚い円盤が白色矮星表面まで到達していると考えて矛
盾がなく,硬 X 線を放つコロナがこの円盤の上に存在していることなどの新事実が明らかになった.この結果は
日本天文学会欧文研究報告に発表ずみである.DQ Her 型強磁場激変星のうち,明るさが上位 1,2 位を占める EX
Hya と V1223 Sgr からは,XIS の高いエネルギー分解能により,白色矮星へ落ち込んで行くガスのドップラー変移
を初めて捉えることに成功した.Low state にある強磁場激変星 AM Her からは,構造のないべき関数型の高エネ
ルギー放射が観測された.フラックスは high state の 1/100 ほどしかない.AE Aqr につづく新たな白色矮星加速源
を捉えた可能性があり,ひきつづき慎重に解析を続けている.
Ⅱ-2-a-15
XMM-Newton による超新星残骸 W28 の観測
教
授
石田
学
研究員
馬場
彩
大学院学生
中村良子
中心集中した X 線放射とシェル状の X 線放射を併せ持つ超新星残骸 W28 のデータを解析している.シェルは特
に北東方向のエッジで卓越しており,X 線では光学的に薄い熱的放射が卓越している.CO 電波輝線や OH メーザ
ー,TeV ガンマ線の検出などから,この領域では ejecta が分子雲と衝突して衝撃波を形成していると考えられる.
複雑な構造のイメージを分けて解析することで,温度や電離パラメータの分布を明らかにし,衝突が起きた時期に
よってパラメータの値にばらつきが出たと結論づけた.一方で,中心領域では,低エネルギー側では熱的放射が卓
越するが,高エネルギー側に非熱的放射らしい,構造のないベキ型のスペクトルを持つ放射を検出した.熱的放射
の解析から得られる温度や密度などのパラメータをもとに,非熱的放射のもとになる粒子加速がどのように起きて
いるかについて検討を進めている.
Ⅱ-2-a-16
「すざく」による大マゼラン雲超新星残骸 N23 と DEM L71 の観測
教
授
石田
学
研究員
馬場
彩
大学院学生
染谷謙太郎
LMC からはこれまで無慮数十個の超新星残骸からの X 線が報告されている.このうち N23 と DEM L71 は「あ
すか」などの観測から,比較的若い超新星残骸だと考えられてきた.しかしこれらの超新星残骸を「すざく」で観
測したところ,X 線 CCD カメラの低エネルギー側での優れた感度とエネルギー分解能のお蔭で,これまで知られ
ていなかった温度 0.2keV 程度の低温成分を初めて検出した.このためこれらの超新星残骸の年齢は一桁以上増大
し,特に N23 はほとんど電離平衡に達していることが明らかになった.
52
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-a-17
「すざく」による大質量星連星系η Car の観測
教
授
石田
学
大学院学生
関口晶子
NASA・GSFC
濱口健二
助
辻本匡弘
立教大・理
北本俊二
教
「すざく」は試験観測期間に,星風の衝突による相互作用をする大質量星連星系エータ・カリーナ(η Car)を
2 回観測し,HXD-PIN により 10-40 keV でベキ関数型のスペクトルを持つ硬 X 線成分を検出した.この成分は過
去に Beppo-SAX 衛星でも観測されていたが,source confusion があったため,これがη Car から来ていることを実
証したのは今回の「すざく」の観測の成果である.ベキ関数の光子インデックスは 1.5 程度と極めて硬く,星風同
士の衝突で発生する衝撃波面で単純な二次のフェルミ加速が生じていると考えるには若干無理がある.一方で,温
度 15keV 程度の熱制動放射であるという可能性も否定できないため,硬 X 線放射機構については慎重に解析を進
めている.ここまでの成果は日本天文学会欧文研究報告に掲載済みである.
Ⅱ-2-a-18
Wolf-Rayet 星の星風の観測による GRB 周辺環境の研究
助
教
前田良知
最近の研究から,Low metalicity な環境で生まれた Wolf-Rayet 星がガンマ線バーストの前駆星の最有力候補とし
て注目されている.ガンマ線バーストは超新星の爆発エネルギーが爆発前に撒き散らされた Wolf-Rayet wind に追
いつくことで外部衝撃波を立て,残光としてX線等が放射されている可能性が考えられる.またそのスペクトルは
その周りを囲う Wolf-Rayet wind による吸収を受ける.したがって,ガンマ線バーストの前駆星の星風の解明が,
ガンマ線バーストの理解を推し進める重要な因子になっている.
我々は,はえ座θ型星の WC 型の星風のアバンダンスを測定し,C/N(炭素/窒素)比が太陽組成を桁で超える
ことを見つけた.WC 星を親星とするガンマ線バーストが発生した時には,この炭素と酸素の吸収を受けることが
予想される.したがって,ガンマ線バーストの吸収構造を調べることで,その前駆星の起源が検証できることを観
測的に立証した重要な観測結果であると考えている.また,この連星は周期 19 日の連星と思われていたが,我々
の特性 X 線を用いたドップラー解析で周期 130 年以上の 3 番目の伴星が存在することがわかった.一例であるが,
Wolf-Rayet 星の連星率が高い可能性を支持する結果であり,我々が推進している X 線の分光観測が Wolf-Rayet 星
の連星率の導出にも有効であることを示唆している.
Ⅱ-2-a-19
マイクロマシン技術を応用した X 線マイクロカロリメータアレイの開発
授
満田和久
大学院学生
准教授
山崎典子
大学院学生
吉武
准教授
廣瀬和之
助
三田
教
萩原利士成
首都大・理
横田
宏
金沢大・理
藤本龍一
大学院学生
三石郁之
産総研
前田龍太郎
信
首都大・理
大橋隆哉
助
首都大・理
石崎欣尚
宇宙航空プロジェクト研究員
篠崎慶亮
首都大・理
江副祐一郎
大学院学生
吉野友崇
首都大・理
星野晶夫
大学院学生
土屋彰広
首都大・理
赤松弘規
大学院学生
木村俊介
首都大・理
石川久美
大学院学生
輿石真樹
首都大・理
阿部祐輝
教
教
竹井
渉
洋
X 線の精密撮像分光は,高温ガスの存在やその動きを高感度に測定する極めてユニークな方法であり,宇宙の大
規模構造の形成を理解する上で重要な観測である.2005 年 7 月に打ち上げられた「すざく」には,世界で初めて
X 線マイクロカロリメータが搭載され,冷凍システムの問題により宇宙 X 線観測はできなかったが,軌道上で 5.9
キロ電子ボルトの X 線に対してエネルギー分解能 7 電子ボルトが実現された.われわれはさらにその先の X 線天
文衛星に搭載することを目指して,
「すざく」の XRS を上回る数電子ボルトのエネルギー分解能と,1000 画素程
度の優れた撮像性能を持つ新しい X 線マイクロカロリメータアレイの開発を進めている.我々が開発研究をすす
Ⅱ.研究活動
53
めているマイクロカロリメータは TES 型と呼ばれ,超伝導薄膜の抵抗の超伝導遷移端温度での急激な変化を温度
計として利用する.2008 年度は,素子および測定系の改善により,エネルギー分解能の日本新記録である 3.5 電
子ボルトを達成した.製作手法の工夫により,256 画素の TES 素子に吸収体をつけること,背面の Si 基板を削り
こみ弱い熱リンクを形成することに成功し,多画素 TES カロリメータの製作に成功した.さらに,開口効率の高
いマッシュルーム型吸収体の素子で,エネルギー分解能をあげることができるよう,X 線吸収体の物性評価と,検
出器内部の X 線に対する熱応答を再現するシミュレーションモデルの構築を進めている.
Ⅱ-2-a-20
TES 型 X 線マイクロカロリメータアレイの信号多重化の研究
授
満田和久
大学院学生
吉武
宏
准教授
山崎典子
大学院学生
三石郁之
助
竹井
洋
首都大・理
大橋隆哉
大学院学生
土屋彰広
首都大・理
石崎欣尚
大学院学生
吉野友崇
首都大・理
江副祐一郎
大学院学生
木村俊介
金沢大・理
藤本龍一
大学院学生
萩原利士成
大学院学生
輿石真樹
教
教
X 線マイクロカロリメータは絶対温度 100 ミリ度の極低温で動作するため,数 100 あるいは 1000 画素のアレイ
からの信号を独立に室温まで取り出すことは困難である.そのため,複数の画素からの信号を,信号の独立性を保
ち,かつ,雑音を加算することなく単一のチャンネルに足し合わせる(あるいは多重化する)ことが必要になる.
我々は,マイクロカロリメータからの信号に振幅変調を加える方法を世界に先駆けて提案し,それを実現するため
の研究をすすめている.マイクロカロリメータに AC 変調をかけて周波数空間で多重化する回路の実現を目指し,
SQUID へのフィードバック回路の広帯域化,および低ノイズ化を行った.SQUID への入力信号の駆動バイアス周
波数を 2MHz としても信号の復調が可能であることを示し,また,複数の駆動周波数を混合して信号多重化を行
なうための回路設計を行なった.
Ⅱ-2-a-21
次世代電子顕微鏡要素技術としての TES 型X線マイクロカロリメータの開発
教
授
SII ナノテクノロジー
満田和久
中山
准教授
山崎典子
洋
九州大学
前畑京介
大学院学生
萩原利士成
日本電子
大崎光明
宇宙航空プロジェクト研究員
篠崎慶亮
物質・材料研究機構
SII ナノテクノロジー
哲
助
教
田中啓一
竹井
原
徹
従来の半導体検出器よりも 1 桁以上エネルギー分解能の優れた TES 型X線マイクロカロリメータを透過型電子
顕微鏡に搭載し,元素分析を行う次世代電子顕微高の要素技術として,マイクロカロリメータの多ピクセル化,冷
凍機技術の開発,振動等環境条件の解決,測定系および解析技術の開発を行っている.我々はマイクロカロリメー
タのアナログ信号処理系からのアナログ信号を受け,それをリアルタイムで X 線スペクトルの形まで処理するた
めのデジタル信号処理回路の開発と,無冷媒冷凍システム内外の計装配線の開発を担当する.今年度は,冷凍機シ
ステム内で用いる超伝導フレキシブル配線の製作を行ない,10 画素の TES 素子を 1cm 角のスノート上に配置する
ことを可能とし,冷却試験を行なった. またデジタル処理回路として,ADC,トリガー回路の製作,波形取得ソフ
トウェアの開発を行ない,実際に透過型顕微鏡に搭載した TES 素子からの波形取得を行なった.
Ⅱ-2-a-22
次世代宇宙 X 線検出器用断熱磁気冷凍機の開発
授
満田和久
首都大・理
金沢大学・理
藤本龍一
助
教
教
江副祐一郎
竹井
洋
准教授
山崎典子
金沢大学・理
佐藤浩介
宇宙航空プロジェクト研究員
篠崎慶亮
TES 型マイクロカロリメータは,熱浴の温度として「すざく」搭載 XRS よりも低い絶対温度 50 ミリ度以下の温
54
Ⅱ.研究活動
度を必要としている.我々は,この温度を念頭に,次世代宇宙 X 線検出器用の断熱消磁冷凍機を用いた宇宙用冷
凍機システムの開発研究を行っている.2008 年度は,2 段式断熱消磁冷凍機の製作を行なった.
直径 40cm,高さ 70cm 程度の小型デュワーを製作し,その中に磁気作業物質である CPA(クロムカリウムミョ
ウバン),GGG(ガドリニウムガリウムガーネット)のセル,超伝導磁石を格納し,さらに断熱用の MLI,ヒート
スイッチ等必要部品の製作と実装を完了させた.実際に 2 段冷凍動作を行ない,100mK 級の冷却に成功した.さ
らに冷却の制御・効率化を進めている.
Ⅱ-2-a-23
マイクロマシン技術を応用した軽量 X 線反射鏡の研究
授
満田和久
産総研
産総研
銘苅春隆
助
大学院学生
輿石真樹
東北大・工
首都大・理
立命館大・工
教
准教授
山崎典子
信
東北大・工
中嶋一夫
東北大・工
金森義明
大学院生
三石郁之
藤平慎也
首都大・理
江副祐一郎
東北大・工
森下浩平
石崎欣尚
立命館大・工
加藤史樹
フロリダ大
教
前田龍太郎
三田
杉山
進
山口ひとみ
首都大・理
フロリダ大
高木うた子
Raul Riveros
X 線の精密撮像分光は,高温ガスの存在やその動きを高感度に測定する極めてユニークな方法であり,宇宙の大
規模構造の形成を理解する上で重要な観測である.宇宙からの微弱な X 線を検出するには X 線反射鏡により X 線
を集光することが必須であるが,大面積で集光するためには X 線反射鏡も重くなる.我々は,単位有効面積当た
りの重量が「すざく」等の X 線反射鏡に比べて 2 桁程度小さく,角度分解能は 1 桁上の X 線反射鏡の実現をめざ
して研究をすすめている.これにより,大面積 X 線反射鏡の軽量化,中程度の面積の反射鏡の 100kg クラスの小
型衛星へ搭載などが可能になる.様々なミッション実現に向けて自由度が増すメリットが考えられる.我々は,厚
さ 300 ミクロン程度の基板内に多数の X 線反射鏡が 20 ミクロン程度の間隔で整列した反射鏡をマイクロマシン技
術を用いて実現することをめざしている.今年度はシリコン基板をドライエッチングして作った微細構造体の側壁
を,水素アニールで平滑化した反射鏡テスト素子を製作し,1.5 キロボルトの X 線で評価を行い世界で初めて X
線反射を実証した.さらに,X 線リソグラフィーを用いたニッケル鏡テスト素子の側壁を磁気研磨することで,や
はり X 線反射鏡が製作可能であることを世界で初めて実証した.並行してドライエッチングしたシリコン基板を
高温変形して作った 1 回反射型光学系について,可視光での結像評価を行い,回折限界で決まる角度分解能が達成
されていることを確認した.
Ⅱ-2-a-24
非抵抗型マイクロカロリメータの開発
教
授
満田和久
准教授
山崎典子
金沢大・理
佐藤浩介
教
授
川崎繁男
助
竹井
九州大・理
前畑京介
教
洋
マイクロカロリメータのエネルギー分解能を決めるノイズとして,検出器そのものの熱揺らぎによるフォノンノ
イズを避けることはできないが,抵抗温度計を用いる場合は,さらにジョンソンノイズによる劣化が不可避である.
そのため,抵抗を利用しない誘電体温度計や磁気温度計を利用したカロリメータの可能性を探っている.低温で大
きな誘電率をもつ酸化物誘電体の評価に着手し,また,その信号をマイクロ波帯の高周波で読み出す測ための基礎
研究を開始し,ストリップラインの開発環境の整備を行なった.
Ⅱ.研究活動
55
Ⅱ-2-a-25
Space Wire 標準に基づいた次世代型衛星データ処理装置の開発
授
高橋忠幸
准教授
吉光徹雄
教
授
山田隆弘
准教授
国分紀秀
教
授
橋本樹明
助
教
尾崎正伸
客員教授
能町正治
助
教
渡辺
教
伸
准教授
京大・理
高島
健
安東正樹
「ASTRO-H」や「BepiColombo」などの衛星において,信頼度の高いデータ処理系を実現するための機上データ
処理装置や地上試験装置のアーキテクチャの研究を科学衛星専門委員会の宇宙データ処理班との連携のもとに行な
っている.Space Wire と呼ばれる高速で柔軟性が高く,冗長度をもった系を構築することのできるシリアルリンク
のプロトコルの研究を行ない,ESA や NASA との議論を続けている.すでに開発した地上実証用の小型の汎用
DHU - Space Cube -に基づき,JAXA が開発した宇宙用 CPU を用い,JAXA の小型衛星 SDS-I にサブシステムとし
て搭載するための Space Cube2 の設計,開発を行い,リアルタイム OS の搭載を行なった.SDS-I 打ち上げ後は,
SpaceWire 実証モジュール(SWIM)の軌道上運用を実施し,SpaceWire ネットワーク上でのリモートメモリアク
セスプロトコルによるデータ通信を世界で初めて実証することに成功した.また標準 I/O ボードと SpaceWire ルー
ターボードを用いたネットワーク型接続の実証を行うとともにデータ転送速度を向上させるための FPGA 回路の
開発を進めた.
Ⅱ-2-a-26
X線 CCD のバックグラウンドの起源の解明
教
授
堂谷忠靖
研究員
馬場
彩
教
尾崎正伸
大学院学生
穴田貴康
助
X線 CCD カメラは,「あすか」に初めて搭載されて以来,X線望遠鏡の標準的な焦点面検出器と位置づけられ
ており,将来にわたって利用されていくと考えられている.一方,次世代のX線 CCD カメラでは,「あすか」や
「すざく」搭載のものに比べて,一層のバックグラウンドの低減が求められている.そのためには,まずバックグ
ラウンドの起源を明らかにする必要がある.X 線 CCD カメラのバックグラウンドについては,
「あすか」以来の
フライトデータからその強度やスペクトルは良く知られているものの,今だに生成メカニズムは明らかになってい
ない.これまでのシミュレーション研究により,おおよそ 10 キロ電子ボルト以下では硬 X 線が CCD でコンプト
ン散乱する過程が,10 キロ電子ボルト以上では宇宙線陽子から作られた 2 次電子が CCD に入射する過程が,おも
にバックグラウンドとして効いていることが判明している.一方,「すざく」で取得されたバックグラウンドデー
タのグレード分岐比から電子雲の広がりを調べたところ,表面照射型 CCD ではバックグラウンドの方がX線に比
べて電子雲の広がりが大きい傾向がみられた.これは,硬 X 線のコンプトン散乱や電子の直接入射がバックグラ
ウンドを作ると言うシミュレーション結果と一致している.一方,背面照射型 CCD では,数キロ電子ボルト以下
では電子雲の広がりに大きな違いは見られなかった.これは低エネルギー電子がバックグラウンド源になっている
可能性が考えられ,引き続き解析を行っている.
Ⅱ-2-a-27
多重薄板 X 線望遠鏡の結像性能向上の研究
教
授
石田
学
大学院学生
中村良子
大学院学生
佐藤拓郎
助
教
前田良知
大学院学生
染谷謙太郎
首都大・理工
白田渉雪
大学院学生
林多佳由
招聘職員
森
英之
高効率 X 線望遠鏡を実現するには多重薄板望遠鏡が基本となる.その開発のポイントは,(1)反射鏡の形状,
(2)位置決め精度,の両方の改良により空間分解能を高めることにある.昨年度までで(2)はほとんど原理的限
界まで達したので,今年度は(1)の反射鏡の形状の向上を図るとともに,大小あわせて数十組の反射鏡を製作し
て,宇宙科学研究本部での望遠鏡製作技術の確立を目指した.
56
Ⅱ.研究活動
反射鏡の表面形状の向上の鍵は,反射材である金をガラス母型からアルミ基板に剥がし取るときに塗布するエポ
キシ接着剤の厚さを,反射鏡全面でいかに一様にできるかが握っている.この工程の開発は難航を極めたが,反射
鏡を大きめに作り,精度の悪い両端を切除することで解決することができた.この方法で反射鏡を製造し,「すざ
く」用 X 線望遠鏡の半径 80mm,100mm,114mm,170mm 近傍の 4 バンチにそれぞれ 10 組ずつを搭載(充填率
40/169 = 23.7%)して X 線で結像性能を測定したところ,Half-Power Diameter で 1.08 分角を達成した.昨年度ま
では半径 114mm 付近に 10 組で 1.47 分角であったので,今年度の研究により,結像性能は大きく向上したことに
なる.昨年度と同じ条件で比較実験を行ったところ,結像性能は HPD で 0.89 分角であった.また,この結像性能
向上に伴う副産物として,有効面積の欠損率が 20%から 10%へと低減されたことを確認した.
Ⅱ-2-a-28
塑性変形させた Si 基板による X 線反射鏡の開発
教
授
石田
学
大学院学生
染谷謙太郎
東北大・金材研
中嶋一雄
教
授
満田和久
大学院学生
林多佳由
東北大・金材研
森下浩平
助
教
前田良知
大学院学生
佐藤拓郎
東北大・工
宇佐見徳隆
首都大・理工
江副祐一郎
大学院学生
中村良子
首都大・理工
白田渉雪
森
招聘職員
英之
将来の軽量・高精度 X 線望遠鏡の開発を目指し,塑性変形させた Si 基板を X 線反射鏡として利用する研究に着
手した.手始めとして,厚さ 300μm の 4 インチ Si(111)基板を,融点近くの温度にした恒温槽内で,曲率半径
1000mm の材質や表面処理の異なる何種類かの凸型と凹型の治具ではさみ,加圧,変形させて球面鏡を作成した.
変形後の基板の巨視的な形状をレーザー変位計で測定したところ,治具や加圧条件を正しく選べば,綺麗な球面に
変形させることができることがわかった.ただし,できあがって球面鏡はスプリングバックの影響のため,曲率半
径は治具より大きい 1030mm であった.曲率半径の制御は今後の課題である.変性させた基板の凸面側の X 線反
射率を測定したところ,表面の滑らかさを劣化させることなく(粗さ 1nm 程度)変形させられたことが確認でき
た.塑性変形後の Si 基板の X 線反射を確認したのは世界初である.表面粗さについては原子間力顕微鏡でも測定
し,おおむね X 線反射率測定と矛盾のない結果を得ている.
Ⅱ-2-a-29
EURECA プロジェクトへの参加
准教授
山崎典子
助
竹井
教
首都大・理
SRON
授
満田和久
教
授
池田博一
洋
大学院学生
木村俊介
大学院学生
萩原利士成
大橋隆哉
首都大・理
石崎欣尚
金沢大・理
藤本龍一
Piet de Korte
教
SRON
Henk Hoevers
SRON
Jan-Willem den Herder
次世代大型国際X線天文台「IXO」に搭載される焦点面検出器としての TES カロリメータの性能実証のために,
EURECA(EURopean-JapanEse micro-Calorimeter Array)プロジェクトという開発研究が行われている.EURECA で
は絶対温度 50 ミリ度の冷凍能力をもつ断熱消磁冷凍機内に 5×5 のカロリメータを設置し,信号多重化により 4 チ
ャネルの信号を取り出し,0.1-3 キロ電子ボルトのエネルギー範囲でエネルギー分解能 2 電子ボルトの実現を目指
している.我々は信号多重化の 1 チャンネルを受け持っており,仕様の検討,信号処理系の設計を進めている.
今年度は SQUID へのフィードバック回路の広帯域化,および低ノイズ化に成功した.そして,この回路をヨーロ
ッパの TES に接続して測定を行うべく検討を行っている.
Ⅱ.研究活動
57
Ⅱ-2-a-30
SRG/SXC プロジェクトの推進
授
満田和久
首都大・理
大橋隆哉
准教授
山崎典子
首都大・理
石崎欣尚
教
授
高橋忠幸
首都大・理
江副祐一郎
教
堂谷忠靖
物質・材料研究機構
沼澤健則
准教授
国分紀秀
神谷宏治
宇宙航空プロジェクト研究員
篠崎慶亮
つくば大・理
村上正秀
教
授
物質・材料研究機構
教
授
村上
浩
理
研
川原田円
教
授
中川貴雄
理
研
三原建弘
教
授
松原英雄
理
研
玉川
研究員
菊池健一
立教大・理
北本俊二
総研本部
杉田寛之
総研本部
佐藤洋一
埼玉大・理
寺田幸功
金沢大・理
藤本龍一
東大・理
牧島一夫
埼玉大・理
田代
信
徹
Spectrum Rontgen Gamma(SRG)衛星は,ロシアが 1990 年代より進めていた X 線天文衛星であり,現在の打ち
上げ予定は 2012 年である.主要な観測装置としては,ロシアが担当する硬X線検出器 ART-XC と,ドイツが担当
するX線全天サーベイ検出器 eROSITA の搭載が予定されているが,この衛星に,オランダ,米国,独国と協力し
て,X 線マイクロカロリメータを検出器として用いた広視野 X 線分光観測装置 SXC を搭載する検討を行うと同時
に,その実現に必要な 3He ガスを用いたジュールトムソン冷凍機のエンジニアリングモデルの開発を行なった.
SXC システムの検討は,SRG 衛星に搭載できる見通しを得るところまで進んだが,ロシア側の都合により,残念
ながら搭載はキャンセルされた.本研究によってすすめられた冷却システムの基本設計は,Astro-H 衛星の X 線マ
イクロカロリメータを用いた観測装置 SXS にそのまま反映される.さらに,本研究で製作したジュールトムソン
冷凍機エンジニアリングモデルは,Astro-H 衛星および 赤外線観測衛星 SPICA の今後の設計検討と技術実証のた
めの性能試験と長期寿命試験に用いる予定である.この意味で,SRG 衛星への搭載はなくなったものの,SXC の
研究の成果は大きかったといえる.
b.赤外・サブミリ波天文学研究系
Ⅱ-2-b-1
日印共同気球実験による星生成領域の遠赤外線[CII]ライン分光観測
教
授
客員教授
インド・タタ研究所
中川貴雄
芝井
広
D. Ojha
助
金田英宏
教
鈴木仁研
招聘職員(研究員)
インド・タタ研究所
S. K. Ghosh
奥田治之
名誉教授
インド・タタ研究所
インド・タタ研究所
R.P.Verma
B.Mookerjea
星生成領域の星間ガスのエネルギー収支を明らかにするために,口径 1mの大口径気球搭載望遠鏡に超流動液体
ヘリウムで冷却された高感度なファブリ・ペロー分光器を搭載して,星生成領域を高分解能分光観測する計画を進
めている.この計画は,インド・タタ研究所との共同研究であり,センサー,分光器を日本側が用意し,気球搭載
望遠鏡をインド側が用意するという役割分担となっている.
昨年度から実験の準備を進めてきており,2009 年 2 月度には,インド・タタ研究所のハイデラバード気球基地
から気球の放球を行った.観測機器は順調に作動し,星生成領域からの[CII]スペクトル線のデータを,良い
S/N で取得することができた.
58
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-b-2
気球搭載遠赤外線干渉計「FITE」による星間塵雲の詳細研究
広
教
授
吉田哲也
准教授
斎藤芳隆
教
松浦周二
助
教
金田英宏
研究支援推進員
成田正直
東大・総合文化
土井靖生
名大・理
川田光伸
名大・理
渡部豊喜
阪大・理
深川美里
JSPS 特別研究員
松尾太郎
共同研究学生
叶
共同研究学生
加藤恵理
共同研究学生
幸山常仁
共同研究学生
松本有加
共同研究学生
森下裕乃
共同研究学生
伊藤優佑
共同研究学生
狩野良子
共同研究学生
田邉光弘
共同研究学生
中島亜紗美
共同研究学生
山本広大
客員教授
助
芝井
哲生
星生成領域,原始惑星系円盤,銀河核スターバーストなど,星間塵熱放射がきわめて重要な役割を果たしている
天体について,秒角スケールの角分解能の撮像を行い,各天体において星間塵温度分布を初めて明らかにすること
で,恒星誕生直前の原始星の温度構造,原始惑星系円盤の温度構造,および銀河核スターバーストの温度構造を明
らかにすることが本研究の目的である.このためには,熱放射のピークが来る遠赤外帯において高解像撮像をする
以外に,直接的に答えを得る方法が無く,遠赤外帯において初めて基線長 20m の干渉計を開発し観測に用いる.
最初のフライトでは基線長 8m で観測を行うこととし,日伯共同研究の一環として初フライトをブラジル気球基地
で行うべく現地にて組み立て調整を行った.気象条件が整わなかったために,フライトは次年度以降に延期した.
Ⅱ-2-b-3
サブミリ波検出器の基礎開発
教
授
村上
助
教
東海大・工
浩
准教授
片依宏一
教
松浦周二
金田英宏
助
教
山下恭平
東海大・工
和田武彦
研究員
渡辺健太郎
若木守明
民間等共同研究員
助
阿部
治
波長 200μm から 1mm の波長帯は,天文学的に重要な波長帯でありながら,検出器技術開発が遅れている.そ
こで,波長 200μm~300μm に感度を持つ n 型ガリウム砒素半導体を用いた外因性光導型検出器の開発を行って
いる.2007 年度は,液相エピタキシ装置によるガリウム砒素結晶成長において,アクセプタ不純物となり得るシ
リコンの混入を防ぐため,石英製の反応管に替えて,世界でも新しい試みであるアルミナセラミックス製反応管を
用いる実験を 2007 年度より開始した.2008 年度には本格的なガリウム砒素結晶成長実験を実施し,全体の不純物
濃度 1014 個/cc 程度を達成し,しかもアクセプタ不純物をドナー不純物の 10 分の 1 に抑えることができた.こ
れにより検出器の感度をさらに向上させることができる見通しを得た.
Ⅱ-2-b-4
ミリ波広帯域分光観測装置による赤外線銀河の研究
授
松原英雄
助
教
松浦周二
大学院学生
稲見華恵
NASA/JPL
NASA/JPL
H.Nugyen
カリフォルニア工科大
教
台湾中央研究院
大山陽一
M. Bradford
NASA/JPL
J.J.Bock
J.Zmuidzinas
コロラド大
J.Glenn
近年サブミリ波サーベイ観測で見つかった未知の天体は,宇宙初期の原始銀河である可能性が高いが,これを確
かめるには宇宙膨張による天体のスペクトルの赤方偏移を測定することが有効である.そこで,サブミリ波天体の
ミリ波スペクトルを広い波長域(1-1.5mm)にわたり一挙に分光し,一酸化炭素・HCN・HCO+などの分子からの
輝線を複数同定することで天体の赤方偏移や物理状態を決定するための広帯域分光観測装置を開発し,地上観測を
行っている.2008 年度は,ハワイのカルテクサブミリ波天文台において,ついに重力レンズを受けた高赤方偏移
サブミリ波天体からの,一酸化炭素分子輝線の観測に成功した.また近傍の大光度赤外線銀河・スターバースト銀
河の観測とデータ解析を行った.また観測装置のデザインは次世代赤外天文衛星 SPICA に搭載する遠赤外観測装
置のプロトモデルと位置づけられる.
Ⅱ.研究活動
59
Ⅱ-2-b-5
次世代衛星搭載に向けた BIB 型 Ge 遠赤外線検出器の基礎研究
教
和田武彦
大学院学生
和田健介
国立天文台
鈴木仁研
名大・理
金田英宏
研究員
渡辺健太郎
宇宙航空プロジェクト研究員
永田洋久
准教授
廣瀬和之
教
授
松原英雄
教
教
授
中川貴雄
准教授
助
授
村上
浩
片依宏一
超高純度 Ge 結晶中に,不純物を高濃度にドープした受光層をもつ BIB(Blocked Impurity Band)型 Ge 検出器は,
100-250 ミクロン帯の新しい検出器として注目されている.この波長帯では圧縮型 Ge:Ga 検出器が広く使われて来
たが,大きな加圧機構が必要なため,大規模アレイ化が困難であった.また,衛星環境において放射線の影響を受
けやすく,深刻な光過渡応答を示すなどの問題点もかかえる.本研究では,過渡応答や放射線の影響を低減でき,
当該波長帯をカバーするのに圧縮の必要がない BIB 型 Ge 検出器の国内開発を行う.BIB 型検出器は,光感度を担
う高濃度領域と,暗電流を低減するブロック層からなる.現在,MBE(Molecular-BeamEpitaxy)によるブロック
層形成をめざして基礎実験を続けている.2008 年度は,結晶成長条件の最適化により高濃度 Ga ドープ層の上に低
ドープ層(Ga 濃度 1014/cc 以下)を形成することに成功した.また,MBE 装置内の真空評価システムを開発し,
真空度が成長結晶の高純度化に必要なレベルに達していることを実証できた.
Ⅱ-2-b-6
スペース天文用赤外線画像センサのための基礎研究
助
教
和田武彦
宇宙航空プロジェクト研究員
永田洋久
授
池田博一
研究員
渡辺健太郎
教
スペース天文用赤外線画像センサに必要となる,極低温で動作する読みだし集積回路 ROIC の開発に必要な基礎
研究を行なっている.CMOS プロセスで作られた従来の ROIC は極低温(<30K)で性能が劣化することが知られ
ている.プロセスを改良して極低温での性能が出せるようにするアプローチもあるが,それには,資金と時間が必
要で,さらにプロセスの維持にはさらに莫大な資金が必要となり現実的でない.そこで,本研究では,通常のプロ
セスを利用しながら,比較的容易に行なえる「平面構造」と「回路」の設計の最適化により極低温動作を目指す.
さらに,試作リスク/コスト軽減のために,合い乗り試作サービスを積極的に利用する.2008 年度は,完全空乏
型(FD-)SOI 構造を持つ MOSFET の極低温電流電圧特性を評価した.そして,それに基づき,読みだしに必要と
なる回路(オペアンプ,スイッチ,ソースフォロアー回路など)の設計と試作を行った.
Ⅱ-2-b-7
銀河系中心領域の星間物質の観測的研究
教
授
中川貴雄
助
教
金田英宏
宇宙航空プロジェクト研究員
岡田陽子
大学院学生
安田晃子
銀河中心領域の星間雲の物理状態を,遠赤外線分光観測を用いることにより明らかにし,それをもとにして銀河
中心領域での星形成史を解明することにとりくんでいる.データとしては,ヨーロッパの赤外線衛星「ISO」の観
測結果と,2006 年度からは「あかり」のデータとを併用している.これらの観測結果から,遠赤外[CII]スペク
トル線の遠赤外線連続波に対する相対強度が,銀河中心領域において系統的に低くなっていることが見出された.
他のスペクトル線の情報を取り入れ,物理モデルとの詳細な比較を行った結果,一般的な銀河中心領域は星生成活
動が活発ではなく,星間輻射場の平均エネルギーが銀河円盤部より低くなっていることの強い証拠を得た.この成
果は,投稿論文や博士論文として発表した.
60
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-b-8
活動的銀河核内の分子雲トーラスの観測的研究
教
中川貴雄
授
白籏麻衣
研究員
国立天文台
臼田知史
ドイツ・マックスプランク研究所
後藤美和
活動的銀河核の示す諸性質を説明するために分子雲トーラスの存在が予言されている.しかしながら,その物理
的性質は未だ解明されていない.我々は,活動銀河核を背景光源として,分子雲トーラス内の一酸化炭素分子の吸
収を測定することにより,その物理的性質を明らかにすることを試みてきた.その結果,Subaru の観測により,
一部の銀河から分子雲トーラスに起因すると思われる高温の分子ガスを検出することに成功した.
2008 年度には,これまでの観測結果をまとめた.さらに「あかり」観測結果とも比較し,どのような銀河にお
いてこのような現象がみられるのか,高温ガスを暖めている源が何であるかについて研究を進めた.
Ⅱ-2-b-9
赤外線モニター観測装置による赤外線天体の観測
教
授
村上
浩
教
中川貴雄
授
名誉教授
奥田治之
客員教授
金沢大・理
村上敏夫
金沢大・理
授
松原英雄
広
派遣職員
成田正直
米徳大輔
国立天文台
小林行泰
芝井
教
赤外線モニター観測装置(口径 1.3m 反射望遠鏡)に対して,老朽化した駆動装置を改修し駆動速度を上げるな
ど,ガンマ線バーストのアフターグロー観測に用いるのに必要な改修を実施した.2009 年度より本格的なガンマ
線バーストの観測を開始する.
Ⅱ-2-b-10
北黄極領域の多波長サーベイ観測による銀河・銀河団進化の研究
教
授
松原英雄
助
教
松浦周二
国立天文台
国立天文台
OCIW
韓国ソウル大
英国オープン大
英国 RAL
授
中川貴雄
教
和田武彦
宇宙利用推進本部
度會英教
台湾中央研究院
大山陽一
後藤友嗣
研究員
大藪進喜
学振特別研究員
高木俊暢
有本信雄
名古屋大
川田光伸
名古屋大
大内正己
国立天文台
児玉忠恭
岩手大・人文
花見仁史
M.Im
韓国ソウル大
H.M.Lee
韓国キョンヒ大
S.J.Pak
S.Serjeant
英国オープン大
M.Negrello
英国 RAL
C.Pearson
M.Malkan
大学院学生
和田健介
教
G.White
UCLA
助
竹内
努
銀河の誕生とその進化,銀河団の形成とその進化,そして大規模構造形成の歴史の解明を目標として,可視光・
近赤外線から電波にわたって連携した多波長広域サーベイ観測プロジェクトを進めている.2008 年度は,ケック
望遠鏡による多天体可視分光観測や紫外線観測衛星 GALEX による深いサーベイ観測を実行・データ解析を行うと
ともに,赤外天文衛星「あかり」による近~遠赤外ディープサーベイで得られた銀河カタログの多波長データを用
いて,有機物放射で明るい純粋スターバースト銀河や遠方の極赤活動的銀河核の研究や遠方銀河団探査等をおこな
った.また,これらの多波長データの世界への公開を目指して準備を進めている.
Ⅱ-2-b-11
E+A 銀河の光度関数からさぐるその成因の研究
大学院学生
稲見華恵
国立天文台
後藤友嗣
研究員
山内千里
教
松原英雄
授
E+A 銀河は,強いバルマー吸収線をもちながら,星生成を示す[OII]や Hαの輝線が無いことが特徴の銀河で,
ポストスターバースト銀河だと解釈される.SDSS DR6 により,E+A 銀河のサンプル数が 1000 個を超え,ついに
光度関数などの統計量の調査が可能となった.2008 年度は引き続き,色等級分布や質量関数の解析を行い E+A 銀
Ⅱ.研究活動
61
河が,渦巻銀河から楕円銀河への急激な進化過程にある銀河である強い証拠を得た.
Ⅱ-2-b-12
GOALS プロジェクト:銀河同士のマージングと銀河活動性の関係についての研究
大学院学生
稲見華恵
Caltech
教
松原英雄
助
授
L.Armus
J.Surace
Caltech
和田武彦
教
研究員
大藪進喜
台湾中央研究院
大山陽一
米国の GOALS プロジェクト(PI は,Armus 博士)は,マージング中の銀河が銀河中の星形成や活動的銀河核の
成長にどのように関係しているか,を近傍宇宙の高光度赤外線銀河の X 線~赤外線にわたるスペースからの観測
(チャンドラ X 線望遠鏡,ハッブル宇宙望遠鏡,スピッツァー赤外線衛星)をもとに解明するプロジェクトである.
2008 年度は,相互作用銀河 IIZw096 を多波長にわたり徹底的に研究を行ったとともに,GOALS 銀河サンプルにつ
いて「あかり」の 2.5-5 ミクロン分光観測を行った.
Ⅱ-2-b-13
ロケットによる近赤外宇宙背景放射の観測(CIBER)
名誉教授
松本敏雄
大学院学生
津村耕司
名古屋大
鈴木和司
Caltech
UCSanDiego
教
松浦周二
名古屋大
川田光伸
助
Caltech
I.Sullivan
B.Keating
Caltech
UCSanDiego
J.Bock
教
和田武彦
名古屋大
渡部豊喜
助
Caltech
J.Battle
M.Zomcov
Caltech
T.Rembarger
V.Hristov
KASI
D.Lee
キョンヒ大
S.Pak
IRTS や COBE による観測の結果,近赤外宇宙背景放射の明るさは,これまでに知られている銀河の重ね合わせ
で得られるものの数倍に相当し,宇宙にはまだ知られていない膨大なエネルギー発生源があることが分かった.ま
た,宇宙背景放射のスペクトルは可視域から近赤外にかけて急激に増大していることが見出され,この急峻な形状
は,宇宙第一世代の星が発した紫外線放射が赤方偏移して観測されたものとして解釈できる.さらに,近赤外宇宙
背景放射は大きな空間的ゆらぎを示し,銀河形成以前の宇宙初期の構造形成を反映していると考えられた.我々は,
これらの結果に基づき,宇宙背景放射の可視・近赤外スペクトルと空間的ゆらぎを測定するロケット観測計画
(Cosmic Infrared Background ExpeRiment:CIBER)を立ち上げた.CIBER により IRTS や ASTRO-F では観測できな
い波長 1μm 付近での絶対強度,スペクトル,揺らぎの観測が可能となる.2009 年 2 月に打上げが成功し,良好
な観測データを得ることができた.今後,このデータを解析し,宇宙背景放射に関する研究を進める.
Ⅱ-2-b-14
ソーラーセイル計画における赤外線宇宙背景放射観測の検討
助
教
松浦周二
名誉教授
松本敏雄
助
教
和田武彦
IRTS や COBE などの赤外衛星により,近赤外宇宙背景放射が銀河形成以前の宇宙初期の天体進化と構造形成に
関する重要な情報を含んでいる可能性が高いことが明らかにされた.しかし,このような観測データには,黄道光
(太陽系の惑星間ダストによる太陽散乱光)が前景成分として大きく寄与しており,その差し引き精度が宇宙背景
放射の測定精度を決定している.そこで,我々は,惑星探査機に赤外線望遠鏡を搭載して,惑星間ダスト密度が充
分低い小惑星帯以遠にて宇宙背景放射を観測することを提案している.その実現にむけて,次期工学試験衛星の侯
補であるソーラーセイルの理学観測機器として赤外分光測光器の搭載を目指している.2008 年度は,本計画の搭
載装置のプロトタイプモデルとしての CIBER ロケット搭載装置の動作実証に成功した.
62
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-b-15
UKSchmidt 望遠鏡/広視野 CCD カメラと 40 インチ望遠鏡/WideFieldImager を用いた南天 CCD サーベイ
研究員
大藪進喜
東大・理
川良公明
東大・理
浅見奈緒子
東大・理
鮫島寛明
東大・理
オーストラリア国立大学
東大・理
松岡良樹
B.A.Peterson
家中伸幸
超高赤方偏移クェーサー・褐色矮星・低温度白色矮星の探査を行うために,南天をオーストラリア・サイディン
グスプリング天文台 UK Schmidt 望遠鏡と我々の開発した広視野 CCD カメラ,それと並行してサイディングスプ
リング天文台の 40 インチ望遠鏡に Wide Field Imager の組み合わせを使用して広範囲において I バンド z バンドの
CCD サーベイを行っている.我々の製作した広視野 CCD カメラは,UKSchmidt 望遠鏡に装着することで 1.1 度×
1.1 度視野を確保し,さらにドリフトスキャンすることで,高効率高感度の CCD サーベイ観測を可能にするもの
である.2005 年 3 月に観測を行い,4 晩で I,z の 2 色で 120 平方度のサーベイを行うことに成功した.並行して
40 インチ望遠鏡と Wide Field Imager を用いてサーベイの効率を上げている.この二つの望遠鏡を用いてのサーベ
イ面積は,現在 1000 平方度に到達した.これからのサーベイから見つかった赤い天体の詳細な調査のために SSO
2.3m 望遠鏡,IRSF 1.4m 望遠鏡,岡山観測所 1.9m 望遠鏡を用いて近赤外線測光によるフォローアップ観測を進
めている.2008 度は分光フォローアップを,すばる望遠鏡,CTIO 4m 望遠鏡で進めたが,高赤方偏移クェーサー
の発見には至っていない.一方,本サーベイとジェミナイ望遠鏡の観測から,赤方偏移 1.26 の 10 の 11.5 乗太陽
質量という重い銀河の発見し,すでに査読論文誌にレポートしている(Matsuoka et al. 2008).
Ⅱ-2-b-16
あかり IRC による赤方偏移 3.91 のクェーサーAPM08279+5255 の近・中間赤外線分光観測
研究員
大藪進喜
東大・理
川良公明
レッドフォクス社
続唯美彦
東大・理
松岡良樹
東大・理
浅見奈緒子
東大・理
鮫島寛明
台湾・ASIAA
大山陽一
あかり IRC を用いて赤方偏移 3.91 のクェーサーAPM08279+5255 の近・中間赤外線分光観測を行った.検出され
た連続光成分は,中心核付近から来ると考えられるべき則にのった青い連続光と,その中心核を取り囲むように存
在すると考えられているダストトーラスから熱的放射の成分で理解できる.特に,光学的厚いダストからの熱的放
射は 1300K の温度に相当する.一方,水素の Hα,Paα,Paβの幅の広い輝線の検出にも成功した.輝線比を用
いて診断した結果,これらの輝線は,E(B-V)~0.3-0.6 等のわずかな塵による吸収を受けていることがわかった.
ダストからの熱放射,また輝線の観測結果は,近傍のクェーサーと比較しても大きな変化が見られないものとなっ
ている.これらの輝線は,ダストトーラスより内側の位置する広輝線領域から放射していると考えられているが,
光学的に厚いダストからの放射と,わずかな吸収を受ける内側の広輝線領域の存在は,活動銀河核で考えられてい
る統一モデルの描像をサポートする観測結果となっている.この観測結果は,査読論文誌に受理された(Oyabu et
al. 2009).
Ⅱ-2-b-17
原始惑星系円盤の構造と進化の観測的研究
准教授
片依宏一
神奈川大学
本田充彦
茨城大
広島大学
山下卓也
国立天文台
藤吉拓哉
東大・理
岡本美子
尾中
敬
東大・理
宮田隆志
東大・理
酒向重行
東大・理
左近
樹
原始惑星系円盤の構造とその進化の研究を観測的に研究している.観測は中間赤外領域に見られるダスト粒子の
分光学的な特徴の観測と地上の大望遠鏡の解像力を生かした空間的構造の撮像観測を組合せ,さらに分光スペクト
ルの空間的変化の観測を主として行っている.かなり質量のおおきな天体である B 型星の周囲にみられる円盤構
造についての詳細な解析を実施した.これは円盤構造の直接観測がなされた最も大質量の天体である.
Ⅱ.研究活動
63
Ⅱ-2-b-18
気球搭載の遠赤外観測望遠鏡と観測装置の開発
准教授
片依宏一
教
村上
授
研究員
浩
渡辺健太郎
教
和田武彦
大学院学生
上塚貴史
助
我々のグループで開発している遠赤外線検出器を用いて星・惑星系形成の観測的研究を行うため,口径 69cm
(有効口径 56cm)の気球搭載望遠鏡,および観測装置の開発を行っている.2008 年度は,気球搭載望遠鏡構造の
光学試験を開始し,これまでに主鏡の形状測定を,主鏡支持構造と一体にしたうえで行った.また,気球による天
体観測のための予備的実験として,気球高度での赤外放射を測定するシステムの開発をすすめ,4 チャンネル同時
で空の明るさをモニターできる気球搭載観測装置を開発した.
Ⅱ-2-b-19
イメージスライサー分光装置の開発研究
准教授
片依宏一
茨城大学
岡本美子
国立天文台
三ツ井健司
国立天文台
岡田則夫
次世代赤外線天文衛星のみならず,小型衛星や地上望遠鏡でも有用になると思われるイメージスライサーを用い
た観測装置を開発している.本年度は装置の心臓部分となるイメージスライスユニットの組み立てを行い,その機
能を確認した.
Ⅱ-2-b-20
30 ミクロン帯の観測装置の開発
准教授
片依宏一
東
大
宮田隆志
東
大
酒向重行
これまで非常に限られた観測しか行われていない 30 ミクロン帯での観測を進めるためにこの波長域での観測装
置の開発を行っている.30 ミクロン帯に感度を有する Si:Sb 検出器を用いたカメラを開発している.本年度は装置
内部に持つ冷却環境下での鏡駆動部分の機構改良とこの駆動のためのピエゾアクチュエータを新規に開発すること
で大幅な駆動能力の向上をはたし,さらに装置内部にグリズム分光ユニットも搭載した.
Ⅱ-2-b-21
北黄極領域における遠方(z≦1.6)活動銀河核のモニター観測
教
授
中川貴雄
助
教
和田武彦
東大天文センター
青木
勉
教
授
松原英雄
吉井
助
教
塩谷圭吾
峰崎岳夫
譲
東大天文センター
国立天文台
小林行泰
国立天文台
菅沼正洋
国立天文台
越田進太郎
国立天文台
山内正洋
東大天文センター
本研究の目標は,z=0.4-1.6 という広範にわたる活動銀河核について可視赤外変光遅延を検出し,ダスト反響と
いうユニークな手法により,活動銀河核の構造・放射機構を調べ,またその結果を利用して距離・宇宙論パラメー
ターの決定に挑むことである.MAGNUM 計画による地上望遠鏡からの可視赤外同時モニター観測によって,可視
赤外変光遅延の検出例は,従来の z=1.6 から 3.4 に,約 2 倍(にも)遠方まで拡張された.しかし地上からの観
測では赤方偏移のため,より遠方の天体について近赤外放射を観測することは困難である.そこで赤外線天文衛星
「あかり」と MAGNUM との同時モニターを進めてきた.本研究の今年度の主な成果としては,まず MAGNUM 望
遠鏡による可視域での先行モニター観測をさらにすすめ,光度曲線のスパンを大幅に拡大できたことが挙げられる.
その結果,大半の天体(~10 天体)において有望な変光を結論することができた.それにもとづいて「あかり」
へのモニター観測の提案を行った結果 phase-3 の mission proposal として採択され,100 ポインティングを獲得し,
モニター観測を開始することができた.あかりによるデータのうち,モニターの初期の 6 か月分を解析した結果,
変光の兆候が見られた.今後,観測スパンが長くなるにつれ,変光検出の確からしさが高まるものと期待される.
さらに,可視赤外変光遅延の検出を目指すため,今後もモニター観測,解析を継続する.
64
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-b-22
韓国の赤外天文衛星 MIRIS に搭載する赤外観測装置の開発
名誉教授
松本敏雄
教
授
村上
浩
教
授
松原英雄
助
教
松浦周二
助
教
和田武彦
韓国では初の赤外線天文衛星 MIRIS(Multi-purpose IR Imaging System)の開発が KASI(Korea Astronomy and
Space Science Institute)を中心に進められている.MIRIS は重量 30kg の小型衛星であり,ピギーバックとして
2010 年に打ち上げられる予定である.観測波長域は 0.9-2.0μm で銀河系内の電離物質や宇宙背景放射の観測を目
的としている.MIRIS は冷媒を持たないため,放射冷却によって出来るだけ望遠鏡を冷却する必要がある.また
光学系は低温下で十分な性能を持つことが要求される.この種の装置について我々は IRTS,AKARI,CIBER によ
る多くの経験を持っていることから,韓国側からの要請により MIRIS の共同開発を進めることになった.2008 年
度は詳細な熱設計,光学設計をすすめ,装置の製作を行なった.
c.宇宙プラズマ研究系
Ⅱ-2-c-1
「GEOTAIL」による磁気圏プラズマの観測
技術参与
教
授
向井利典
藤本正樹
洌
准教授
東大・理
平原聖文
京大・理
東大・理
星野真弘
東工大・理
教
授
前澤
齋藤義文
町田
忍
寺沢敏夫
「GEOTAIL」に搭載されている低エネルギー粒子観測装置(LEP)は,初期観測で素晴らしい結果を見せた直後
に電子回路の一部がラッチアップするという不慮の事故のために観測不能の状態が続いていたが,1993 年(平成 5
年)9 月 1 日に行われた特殊オペレーションによって回復し,9 月中旬から観測を再開した.その後,磁気圏尾部
及びその境界面,磁気圏前面の境界層,衝撃波,磁気シース領域,上流の太陽風におけるプラズマ観測から多くの
新しい現象が発見された.現在では,他衛星(ESA・Cluster,NASA・THEMIS など)や地上観測との同時観測研
究が中心的に行われて,磁気圏プラズマ現象の時空発展の把握が試みられている.
Ⅱ-2-c-2
地球近傍プラズマシート中の物質およびエネルギー輸送
教
授
前澤
洌
名大・STE 研
堀
智昭
技術参与
向井利典
准教授
齋藤義文
磁気圏尾部プラズマシートは,サブストーム時に大量のエネルギーが放出されるところであり, またオーロラ
粒子の粒子源として重要である.しかしながら太陽風から具体的にどのような道筋でエネルギーや粒子が流入し,
またそのうちどの部分が再び他の領域に放出されるのか明確になっていない.我々は,「GEOTAIL」によって観測
されたプラズマシートプラズマの速度,密度,温度,電磁エネルギー束(ポインティングフラックス)のデータか
ら,平均的な質量,運動エネルギー,熱エネルギー,磁場エネルギーの輸送量の空間マップを作成することにより,
定量的にそれぞれの輸送量と輸送経路を見積っている.質量輸送で重要なのは,遠方テイルで流入したプラズマの
地球向き輸送であり,エネルギー輸送で重要な役割を果たしているのは,高緯度テイル(テイルローブ)からの電
磁エネルギー束である.ひきつづきサブストーム時と非サブストーム時に分けた統計を行ない,全体像の把握を目
指している.
Ⅱ.研究活動
65
Ⅱ-2-c-3
太陽風と火星の相互作用の電磁流体シミュレーション
教
授
前澤
洌
久保田康文
大学院学生
NICT
陣
英克
太陽風と惑星の相互作用については,多くの電磁流体近似シミュレーションが行われているが,3 次元ではリソ
ースの関係から格子間隔をすべての領域で十分小さくすることが困難なため,全領域で精度を保つことが難しい.
特に金星,火星では電離層の構造が太陽風との相互作用に大きな影響を与えているにもかかわらず,3 次元格子で
は電離層に十分な空間精度を与えることができない.現在の計算機リソースでこの問題を回避するため,非構造格
子を用いて,昼側から夜側まで,電離層の詳細な構造を含むシミュレーションに成功した.火星のWAKEの構造
を明らかにしたと同時に,現在太陽風の圧力によって火星周囲のプラズマ環境がどう変わるかを調べている.夜側
の電離層のイオン密度,電離層上空の流れの構造(渦の存在)などが太陽風圧力に依存して特徴的な変化を生ずる
ことがわかってきた.
Ⅱ-2-c-4
現在の衛星データを用いた解析に基づく過去の太陽風パラメータ導出
教
授
前澤
洌
太陽風の直接観測データは,ほぼ 40 年間のデータが蓄積しているが,それ以前のデータはない.一方,黒点デ
ータや,地磁気観測データは 100 年以上の観測の蓄積があり,太陽活動には 11 年変動のほかに,数十年以上にわ
たる長期変動があることが知られている.この長期変動に,太陽風の状態変化がどのように係わっているかは非常
に興味深い問題である.「GEOTAIL」を含む衛星データの存在する期間についての太陽風パラメータと地磁気擾乱
の相関解析を行い,その結果を過去に外挿することにより,過去の太陽風速度と,惑星間空間磁場強度を独立に導
出する手段について検討している.また,Geotail 衛星が直接測っている地球プラズマシートの温度密度パラメー
タと太陽活動度の関係を調べている.
Ⅱ-2-c-5
新 MHD コードによる火星電離層イオン流出機構の研究
教
授
前澤
洌
大学院学生
久保田康文
NICT
陣
英克
これまでの一般に行われてきた MHD シミュレーションでは,イオンが数種類ある場合も全部まとめて一流体と
して扱うため,それぞれのイオン種の速度は等しいと仮定しなければならなかった.これでは,太陽風と惑星電離
層の相互作用の問題など,多種類のイオンの別々の行動が重要になる場合に大きな不都合が生じる.そこで我々は,
それぞれのイオン種を別々の速度を持つ(したがって磁場に Frozen-in しない)流体として扱う MHD コードを開
発して,太陽風と惑星の相互作用の問題に応用しようと試みている.火星に関しての数値シミュレーションで,今
までの MHD コードとは異なった,新しいプラズマ構造が出現している.
Ⅱ-2-c-6
複数科学衛星同時観測データ解析による地球磁気圏ダイナミクスの多点解析
教
授
准教授
藤本正樹
宇宙航空プロジェクト研究員
宮下幸長
篠原
宇宙航空プロジェクト研究員
高田
育
拓
教
長谷川洋
大学院学生
井筒智彦
助
現 在 , 世 界の 磁 気 圏 科 学衛 星 を 足 し 合わせれば,磁気圏には常に数機が飛んでおり( Geotail,Cluster ,
DoubleStar,THEMIS,…),長年の課題であり時空解析のためには必須である磁気圏ダイナミクスの多点解析が可
能である.この研究では,多点解析を効率的に進めるためデータ閲覧ツールを開発し世界へ公開している.さらに,
それを活用して,磁気圏尾部ダイナミクスや磁気圏境界ダイナミクスの研究を進めている.
66
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-c-7
大規模数値シミュレーションによる宇宙プラズマダイナミクスの研究
教
授
藤本正樹
研究員
田中健太郎
准教授
篠原
育
研究員
中村琢磨
宇宙プラズマダイナミクスの特徴は,たとえそれが全体としては大規模な流体(MHD)的な現象であっても,
非線形発展ととも非 MHD 効果が卓越する領域が現れ,その非 MHD 効果がしばしば全体ダイナミクスを制御する,
という点にある.このような「スケール間結合」を根源的に理解するには,非 MHD 方程式系で MHD 規模の現象
を計算する必要がある.そのような大規模数値実験をこの研究では実行している.具体的な課題は,磁気リコネク
ションの駆動問題,磁気リコネクションでの粒子加速,磁気島融合過程,磁気リコネクション領域の熟成過程,電
磁流体渦におけるプラズマ輸送,である.
Ⅱ-2-c-8
原始惑星系円盤における電磁流体効果
教
授
藤本正樹
東工大・理
井田
茂
惑星系形成論の最大の難問の一つは,ダスト落下問題である.これは,原始太陽系円盤内にあり,微惑星を経て,
いずれは惑星を形作るはずのダスト粒子が,円盤ガスとの相互作用をするうちに,中心星に落下してしまう,とい
う問題である.われわれは,円盤ガスにおける活動性を考慮すべきであることに注目し,また,この起源が電磁流
体効果にあると考え,ダスト落下の防止だけでなく,ダスト集積とそれによる微惑星の形成を担う物理過程に関し
て,数値実験という手法で研究を進めている.
Ⅱ-2-c-9
荷電アンプ搭載型多チャンネル MCP アノードの開発
准教授
齋藤義文
助
教
横田勝一郎
大学院学生
斉藤実穂
大学院学生
原田昌朋
助
教
浅村和史
技術参与
向井利典
宇宙空間における数 eV から数 10keV のエネルギー範囲の荷電粒子計測には,偏向型静電エネルギー分析器がよ
く用いられている.これらの分析器でエネルギー分析された荷電粒子を検出するための検出器について,現状では
満足できる性能のものが無い.そこで本研究ではこれまでに無い高い時間分解能で荷電粒子の検出が可能な,新し
い検出器の開発を行っている.検出器は 2 次元の広がりを持ち,その 2 次元上の位置情報が測定荷電粒子の到来方
向やエネルギーの情報を持つ.従来の技術では検出したい位置の分解能を増やせば増やすほど信号処理電子回路の
回路規模や,消費電力が人工衛星搭載に許容できないレベルとなってしまうという問題があった.本研究では,最
新の技術で製作された非常に小型で高性能のアナログ ASIC チップ(荷電アンプとカウンタを含む)をアノード上
に直接搭載することでこの問題の解決を目指す.本年度は,観測ロケット搭載用アノードのフライト性能実証試験
を行ない,非常に良好な結果を得た.
Ⅱ-2-c-10
米国の磁気圏衛星 MMS 搭載低エネルギーイオン計測センサーFPI-DIS の検討
准教授
齋藤義文
技術参与
教
授
向井利典
前澤
洌
教
横田勝一郎
東大・理
星野真弘
助
MMS 衛星計画は,米国の Sun-Earth Connection(SEC)Mission Roadmap 上に載っている衛星計画であり,現在
2014 年の打ち上げを目指して準備が進められている.同一構成の 4 機の衛星から構成される編隊飛行衛星計画で,
地球磁気圏の様々な領域において,複数衛星を用いた時間と空間を分離した観測を行なう.MMS 衛星計画は,地
球磁気圏昼間側の磁気圏界面で発生する磁力線再結合の物理素過程の解明を行なうことを最大の目的としている.
本年度は,MMS 衛星搭載 FPI(Fast Plasma Instrument)を構成するセンサーのうち,イオンのエネルギー分布を測
定する DIS(Dual Ion Sensor)の設計,製作,アセンブル,単体環境試験,初期性能確認試験を担当すべく,昨年
Ⅱ.研究活動
67
度に製作したプロトモデルの試験,改良を行った他,来年度の CDR に向けて,エンジニアリングモデルの設計を
行なった.
Ⅱ-2-c-11
ノルウェーの観測ロケット ICI-2 搭載低エネルギー電子計測センサーLEP-ESA の開発
准教授
齋藤義文
助
教
横田勝一郎
大学院学生
斉藤実穂
大学院学生
原田昌朋
2008 年 12 月にノルウェーから打ち上げられた観測ロケット ICI-2 に低エネルギー電子の計測装置,LEP-ESA を
搭載したが,本観測装置の開発を行なった.HFレーダによる電離圏の対流パターン観測では,予期しない強い後
方散乱波を引き起こすターゲットを捉える事がある.このような後方散乱エコーは極域カスプに見られる特徴的現
象で,全天カメラとの同時観測から散乱エコーを生じるターゲットの発生領域は,極域カスプの発光領域に一致す
ることが報告されている.ICI(Investigation of Cusp Irregularities)-2 観測ロケットプロジェクトの科学目的は
この現象の発生メカニズムを解明することである.
低エネルギー電子の計測を行なう LEP-ESA はカスプ上空においてこれまでに無い高い時間分解能(22 ミリ秒で
32 ステップのエネルギースペクトルを取得)でエネルギー分布関数計測を行う.後方散乱エコー現象の解明にお
いて,カスプ領域の電子密度擾乱を引き起こすプラズマ不安定の自由エネルギー源を担っているのは LEP-ESA の
測定対象である低エネルギー電子と考えられている.このため,LEP-ESA による低エネルギー電子の観測はIC
I-2 計画において必要不可欠であると言える.2008 年 12 月 5 日に打ち上がった ICI-2 観測ロケットの飛翔は正
常で,LEP-ESA も正常に動作,貴重なデータを取得することに成功した.
Ⅱ-2-c-12
「かぐや」衛星搭載 MAP-PACE による月周辺プラズマの観測
准教授
齋藤義文
助
教
横田勝一郎
大学院学生
田中孝明
助
浅村和史
教
プラズマ観測装置 MAP-PACE (MAgnetic field and Plasma experiment - Plasma energy Angle and Composition
Experiment)は月周回衛星「かぐや」に搭載された 14 の観測装置のうちの一つであり,月周辺プラズマの観測を
行う.MAP-PACE は,電子観測器 ESA(Electron Spectrum Analyzer)-S1, S2,イオン観測器 IMA(Ion Mass
Analyzer)と IEA(Ion Energy Analyzer)の 4 種類のセンサーで構成されている.
「かぐや」が 2007 年 9 月に打ち上
げられ月周回へ投入された後 2007 年 12 月 14 日以降,連続観測を開始した.PACE の 4 台のセンサーは太陽風プ
ラズマ,月の WAKE 領域のプラズマ,地球磁気圏のプラズマを観測している.電子の観測装置 ESA は磁力計と共
に電子反射計として運用し,月面上の磁気異常の検出を進めている.また ESA は月面磁気異常上空における電子
の加熱現象や,月の WAKE 領域における月面からの電子ビームなどを観測している.イオン観測装置 IEA と IMA
は,月周辺に分布するイオンの詳細な分布を初めて明らかにした.月周回 100km 高度におけるイオンの観測はア
ポロ時代以降約 30 年ぶりに実現されたが,IMA は月面あるいは月大気を起源とするアルカリイオンの存在を初め
て明らかにした他,酸素やヘリウムなどの成分が月外圏大気中に存在することを明らかにした.また,IEA と
IMA によって,月面から太陽風イオンが反射される現象が発見された.MAP-PACE の観測によって,予想以上に
様々な現象の起こっている月周辺環境が明らかにされつつある.
Ⅱ-2-c-13
デジタル方式フラックスゲート磁力計の開発
准教授
松岡彩子
大学院学生
井口恭介
将来の地球電磁気圏(SCOPE 等)・惑星観測ミッションにおける飛翔体搭載用磁力計として,従来のアナログ方
式フラックスゲート磁力計を小型軽量・省電力化した,デジタル方式フラックスゲート磁力計の開発を行った.デ
ジタル方式フラックスゲート磁力計は,センサーからのピックアップ信号をアナログ-デジタル変換し,デジタル
68
Ⅱ.研究活動
信号処理によってセンサードライブ周波数の 2 次高調波の振幅を積分し,フィードバック量を計算する.それをデ
ジタル-アナログ変換してセンサーにフィードバックする.平成 19 年度は,16 ビットのデジタル-アナログ変換
器を用いて S310-38 号機搭載 DFG を製作し,良好な結果を出した.デジタル-アナログ変換機は,最終的な磁場
データの分解能と同じ分解能が必要であり,20 ビットを目標にしている.しかし,現在のところ,宇宙用の部品
で 20 ビットのデジタル-アナログ変換を実現する部品は存在しない.そこで平成 20 年度は,20 ビットの分解能
を目指して,ΔΣ変調方式を用いたデジタル-アナログ変換器の開発を行った.計算機のシミュレーション結果で
は,オーバーサンプリング比(OSR),ΔΣ変調された信号に対するローパスフィルターの減衰率,ΔΣの次数を
上げることにより,分解能が向上することがわかった.
Ⅱ-2-c-14
「GEOTAIL」によって磁気圏尾部で観測された大振幅 Alfven wave の統計解析
准教授
松岡彩子
研究員
東大・理
高田
拓
教
星野真弘
授
技術参与
早川
基
向井利典
地球の磁気圏夜側,特にオーロラ発光領域につながるプラズマシートにおける Alfven 波が報告されている.電
離層まで伝播した Alfven 波がオーロラを光らせる電子の加速機構の有力な候補として注目を集めている.Geotail
の観測領域である近尾部領域(10~30Re)においても,プローブ法によって測定された大振幅の電場変動と,背
景磁場の方向に垂直でかつ電場と直交する方向の磁場変動として観測される Alfven 波が見つかっている.更に,
プラズマの分布関数等との比較研究により,大きなエネルギーを運んでいるアルフベン波はイオンビームのサイク
ロトロン不安定によって立てられており,イオンビームの減衰と共にアルフベン波も減衰するらしいことがわかっ
た.リコネクションによって生じたイオンビームのエネルギーが,アルフベン波のエネルギーとなり,それがプラ
ズマシートの加熱に寄与していることが示唆される.最近になって,「ひので」衛星によってアルフベン波による
突起構造(スピキュール)の振動が太陽表面に観測された.プラズマがどのようにして加熱されて,太陽外層の高
温コロナ(100 万度)となるのかは,宇宙物理学における長年の謎であった.太陽表面での大振幅アルフベン波の
発見により,アルフベン波がコロナ加熱を起こしている可能性が高まり,一気に注目されるようになった.地球磁
気圏尾部におけるプラズマシートがどのようなプロセスで加熱されているのかも,磁気圏物理学における大きな課
題である.前述のアルフベン波が,プラズマシートの加熱を行う可能性について,解析を行っている.
Ⅱ-2-c-15
「SELENE」搭載粒子計測器(CPS)による月周辺粒子観測
准教授
高島
健
助
教
三谷烈史
神奈川大・工
柏木利介
神戸大
伊藤真之
KAGUYA 衛星に搭載された粒子線検出器(CPS)による月周辺粒子観測を行っている.CPS には,月面からの
α線を計測する ARD 検出器と宇宙線を計測する放射線検出器(PS)の 2 つからなり,打上後にデータ取得を続け
ている.α線計測により月面上における Rn 放出のメカニズムの解明ならびに短期的な月地殻活動を探る.取得さ
れたデータの較正を実施して,Rn/Po マップの生成とデータ解析を続けている.一方 PS 検出器は,月周辺環境に
おける陽子と電子の観測を続けており,そのエネルギー較正と解析を進めている.
Ⅱ-2-c-16
科学衛星搭載観測機器の耐放射線性能評価に関する研究
准教授
高島
助
三谷烈史
教
健
授
高橋忠幸
放射線医学総合研究所
内堀幸夫
教
授
早川
基
放射線医学総合研究所
北村
尚
教
衛星にとって重量と電力のリソースは非常に貴重であるため,放射線シールドについて,適切な対策を行う知識
を共有することが重要である.衛星機器において過剰な放射線対策は,リソースを減らすこととなりサイエンスデ
ータの質を下げることとなりかねない.宇宙環境では,圧倒的にプロトンが支配する世界であるが,放射線試験で
Ⅱ.研究活動
69
は,その簡便さから 60Co が使用されることが多い.放射線試験の対象とする試料の材質や衛星内での配置を考慮
した上で,プロトンかγ線を照射するかを決定・評価し,放射線(特に宇宙空間で支配的な Proton)と物質の相互
作用を正しく理解することが重要である.その結果として最適化された放射線対策が可能となる.また,耐放射線
性能としては部品単体での評価も重要である一方,センサー全体の機能として放射線粒子に対して耐性を持つこと
が,質の高いサイエンスデータを得るためには重要である.例えば,放射線粒子の強度が高い場所で,反同時計測
により,微弱な信号を精度良くかつ正確に捉えることが,まさに「ソフト的耐放射線性能」としてあげられる.放
射線環境の厳しい水星探査や金星探査衛星で使用する 部品の耐放射線性能を放射線医学総合研究所の加速器施設
を用いて実施し,部品選定の資料を作成した.将来ミッション計画である木星探査においては,これまでにない非
常に強い放射線の影響を衛星全体が受けることとなり,耐性をもつ電子部品の開発も進めている.
Ⅱ-2-c-17
次世代高分解能粒子検出器の開発
准教授
高島
助
浅村和史
教
健
授
高橋忠幸
スタンフォード大
田島宏康
教
教
三谷烈史
東大・理
平原聖文
東大・理
中澤知洋
助
高係数率,高温,高放射線環境下での高エネルギー粒子測定が,今後の太陽系・惑星探査等を考えた時必要にな
ってくる.現在まで高エネルギー粒子測定には,非常に高いエネルギー分解能を持っていることより,Si 検出器
が広く使用されている.
しかし,上記の厳しい環境下で,高エネルギー分解能を持った測定を実施するには,検出器のリーク電流を押さ
え込むことと,複数粒子がほぼ同時に同一読出しチャンネルに入射(パイルアップ)しないようにする必要がある.
現在使用されているタイプの Si 検出器では,これらの条件を満たすことができない.そこで,新たにピクセル型
の Si 検出器の開発しチャンネルあたりのリーク電流を減らし,VLSI を用いた高速で S/N の高い読出し回路の開発
を行うことによって,極限環境下で動作する粒子検出器の開発を行っている.
Ⅱ-2-c-18
固体検出器による 1-100keV 電子計測技術の研究
准教授
高島
健
技術参与
助
教
向井利典
准教授
齋藤義文
浅村和史
助
三谷烈史
教
本研究では APD(Avalanche Photodiode)という半導体素子を用いて,今日まで検出素子の技術上の問題から正
確な観測が困難だった 1-100keV の中エネルギー電子をターゲットにした新型電子センサー開発を目指している.
これまで宇宙空間において数十 keV までの低エネルギーの電子は,エネルギー分析部の静電分析器と検出部の二
次電子増倍管(MCP,CEM 等)を組み合わせた測定系で計測してきたが,検出部において数 keV 以上の電子に対
し,検出効率の低下と,検出効率の決定が困難であるという課題があった.また数十 keV 以上の電子に関しては
SSD(半導体検出器)が使われてきたが,ノイズの問題から高分解能の観測が困難であった.中エネルギー領域の
電子は,文字通り熱的電子と非熱的電子の中間的な存在であり,磁気圏物理において本質的な課題である加速・加
熱過程や,そもそも観測データの少ない地球近傍の内部磁気圏を解明する上で重要な意味をもっている.従ってこ
の中エネルギー電子の精確な計測技術は,これまでの観測を確かなものにするためにも,また新しい物理現象を見
出し得るという意味においても,次世代の高精度プラズマ計測技術の基盤を築く上での一つの鍵となる.APD は
光検出に用いられる素子で,内部利得により高 S/N 観測が可能である.これまで我々が行ってきた基礎実験の結
果,APD 素子は単体で電子のエネルギーを分解することができ,高い検出効率で中エネルギー電子を測定可能で
あることがわかった.さらに,ピクセル化の技術により粒子イメージングという新しい観測方式が可能となってき
ている.今後は宇宙空間への応用を考慮に入れた実験を行っていく.
70
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-c-19
中間エネルギー荷電粒子計測器の開発
大学院学生
笠原
慧
助
教
浅村和史
准教授
高島
健
准教授
齋藤義文
技術参与
向井利典
教
三谷烈史
東大・理
平原聖文
助
地球磁気圏には,0.1eV 程度から 10MeV 以上まで,8 桁以上のエネルギーレンジにわたってプラズマ粒子が存
在しているが,その中で,中間エネルギー帯と呼ばれる~10keV-200keV のエネルギー領域は,その物理学的重要
性にも拘らず,観測手法に関する研究開発が十分に行われていない領域である.中間エネルギープラズマ粒子の観
測技術が未熟である主な理由のひとつとして,低エネルギー(<~40keV)荷電粒子計測に用いられるようなエネ
ルギー分析器(静電分析器)を単純に中間エネルギー帯に応用すれば,そのサイズが衛星搭載困難なほど大きくな
ってしまう事が挙げられる. そこで我々は静電分析器の斬新な形状を考案し,感度・視野・測定エネルギー範囲
などの性能を損なわずして,衛星搭載可能なサイズを実現した.さらに,APD(アバランシェフォトダイオード)
とよばれる半導体素子を組み合わせて電子計測を行うことによって,放射線帯高エネルギー電子による背景雑音を
除去する手法を考案した.そして,その手法の効果を数値計算によって評価し,現実的なセンサー質量で十分な雑
音除去が可能であることを示した.
Ⅱ-2-c-20
水星探査機搭載用高速中性粒子観測器の開発
助
教
浅村和史
技術参与
向井利典
准教授
齋藤義文
水星周回探査衛星 BepiColombo/MMO 搭載用に高速中性粒子観測器を開発している.水星は自身の持つ固有磁
場強度が小さく,地表を取り巻く大気も極めて希薄であると考えられている.このため,太陽風や磁気圏プラズマ
粒子が容易に地表にまで到達すると考えられ,結果として地表から二次的な粒子がたたき出される(スパッタリン
グ).スパッタリング過程によってたたき出された粒子は,降り込み粒子の運動量によって高いエネルギーを持ち
得る.このことは光子や電子の衝突による脱ガス過程には見られない現象であり,エネルギー選別によってスパッ
タリング粒子を選択的に観測することが可能であることを示している.ほとんどが電気的に中性であるスパッタリ
ング粒子の観測により,磁気圏プラズマ現象のモニタリング,及び水星大気の生成過程にせまる.本年度は電子基
板試験モデルの試作を行うとともに,サーマルシールドの試作,白色塗装を行った.
Ⅱ-2-c-21
月探査機搭載用高速中性粒子観測器の開発
助
教
浅村和史
技術参与
向井利典
准教授
齋藤義文
インドの月探査衛星計画 Chandrayaan-1 に搭載する観測機器の国際公募が行われた.その結果,スウェーデン宇
宙科学研究所(IRF)が主開発機関となって応募した高速中性粒子観測器が採択機器の一つとして選ばれた.この
観測器は,太陽風などの降りこみによって月面からたたき出されるスパッタリング粒子を観測することで月面上の
物質組成を探ろうというものである.観測器そのものは水星探査機(BepiColombo/MMO)に搭載が予定されてい
る観測器 (MPPE/ENA) とほぼ同じものである.我々は検出器部及び電子回路部を担当した.衛星は 2008 年 10
月に打ち上げられ現在月周回軌道で観測を行っている.
Ⅱ-2-c-22
粒子計測器における高エネルギー粒子ノイズの除去法の開発
大学院学生
笠原
慧
大学院学生
内田大祐
助
教
浅村和史
准教授
高島
健
准教授
齋藤義文
助
教
三谷烈史
東大・理
平原聖文
地球磁気圏には,0.1eV 程度から 10MeV 以上まで,8 桁以上のエネルギーレンジにわたってプラズマ粒子が存
Ⅱ.研究活動
71
在している.MeV レンジ以上のエネルギーを持つ高エネルギー粒子は,観測器の壁を突き抜ける場合があり,低
エネルギー粒子観測にとってノイズとなる.このため,特に高エネルギー粒子が濃密に存在している放射線帯領域
においても十分なノイズ除去を行うための手法を開発している.これまで質量分析に用いられてきた飛行時間分析
法を用いる場合,ノイズカウントレートをある程度抑制すると効率の良いノイズ弁別性能が得られる.ノイズカウ
ントレートを抑制する方法として,検出器面積を低減するような極板配置,極板を厚くすることによるシールド効
果などを検討している.また,半導体検出器を用いたエネルギー分析によるノイズ弁別手法も検討している.これ
は,イオン・電子など,対象物によって粒子観測器の機器構造が異なるため,それぞれの観測器にとって適切な手
法を用いる必要があるためである.
Ⅱ-2-c-23
内部磁気圏探査の検討
東北大・理
小野高幸
准教授
松岡彩子
名大・太陽地球環境研
三好由純
准教授
高島
健
教
浅村和史
東大・理
平原聖文
名大・太陽地球環境研
関華奈子
名大・太陽地球環境研
塩川和夫
助
ERG
ワーキンググループ
地球の放射線帯には MeV 以上におよぶ高エネルギー粒子が捕捉されており,地球周辺の宇宙空間の中では最も
高いエネルギーを持つ粒子が存在する領域である.しかし,その加速,散逸,輸送過程など多くの現象が未だ明ら
かにされていない.ERG ワーキンググループでは,地球の放射線帯内における高エネルギー粒子加速現象の解明
を目的として直接探査の検討を行っている.重要となるのは,磁場・電場・プラズマ波動の観測とともに低エネル
ギーから高エネルギーまでをカバーしたプラズマ粒子観測である.特に,粒子観測器には高エネルギー粒子/光子
によるバックグラウンドノイズの低減が必要となる.衛星システムには,現在次期固体ロケットによる打ち上げを
想定して進められている小型科学衛星バスシステムを用いる.本年度は観測機器の検討とともにバスシステムの検
討を行った.また,小型科学衛星 2 号機公募に対し本計画の提案を行った.
Ⅱ-2-c-24
その場観測からプラズマ・磁場の二次元像を再現する手法の開発
助
教
長谷川
洋
ダートマス大
B. Sonnerup
コロラド大
W.-L. Teh
プラズマと電磁場の直接衛星観測から,衛星軌道周辺のプラズマ・電磁場構造を可視化するデータ解析手法を開
発している.本手法は,「プラズマ構造は二次元であり,ある系でみて時間変化しない」という仮定に基づいて,
実際の観測値を空間の初期値として用いることにより,衛星が遭遇したプラズマ構造を再現する.基本的には電磁
流体(MHD)方程式系を用いており,以下のタイプが現存する.①Grad-Shafranov 方程式に基づく,磁力線構造
の再現,②流れ関数についての Grad-Shafranov 型方程式に基づく,流線構造の再現,③一流体 MHD 方程式系に基
づく,磁場・速度場の同時再現,④Hall-MHD 方程式系に基づく,電磁場・速度場の同時再現.さらに現在,二流
体方程式系に基づく電磁場・速度場の同時再現についての理論が構築されつつあり,将来的には磁気リコネクショ
ンの磁場拡散(非 MHD)領域を可視化できる可能性がある.数値シミュレーションを利用した試験や,実際の衛
星観測に適用することで,上記新手法の有用性と限界を調査するとともに,宇宙空間プラズマダイナミクスについ
ての知見を得るための解析を進めている.本手法は将来の宇宙プラズマ・磁気圏衛星観測ミッション―JAXA 推進
中の SCOPE/Cross-Scale や米国の MMS など―における利用が期待される.
72
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-c-25
かぐや衛星搭載超高層大気・プラズマイメージャによる地球周辺プラズマ環境の観測
助
山崎
教
東大・理
敦
大学院学生
吉川一朗
立教大
東北大・理
麻生直樹
極地研
菊池雅行
田口
教
中村正人
真
岡野章一
授
東海大・工
三宅
亙
地球周辺プラズマ環境は,太陽活動に伴うフレア現象や地球磁気活動度に対応して時々刻々と変化している.こ
の時間変動の大局的なプラズマ分布を把握するためには光学観測によって全体像を取得することが最適である.月
軌道から地球周辺プラズマ環境の光学観測を目指し開発されてきた超高層大気・プラズマイメージャは,2007 年 9
月打上げ成功したかぐや衛星に搭載され,「月からの科学」の一端を担っている.超高層大気・プラズマイメージ
ャは,機上で衛星軌道・姿勢データを受信し月軌道から地球を追尾する独立したジンバルを保有しており,地球周
辺プラズマの光学観測を行った.今年度は初期解析を行った.
Ⅱ-2-c-26
小型科学衛星 1 号機極端紫外光観測機器の開発
東大・理
助
教
東北大・理
上野宗孝
敦
准教授
澤井秀次郎
東大・理
吉川一朗
東北大・理
笠羽康正
NICT
寺田直樹
東北大・理
鍵谷将人
助
福田盛介
土屋史紀
教
山崎
小型科学衛星 1 号機として極端紫外分光望遠鏡の開発を行っている.科学目標は,極端紫外光領域のプラズマや
大気発光分布を 1 次元分光観測することにより,非磁化惑星大気と太陽風プラズマの相互作用を捉え太陽風条件に
よる大気散逸量を定量的に測定すること,木星磁気圏プラズマと衛星イオの火山ガス大気の相互作用を捉え木星磁
気圏内のエネルギーや物質の流れを測定することである.こられの観測により,惑星大気とその周辺プラズマの相
互作用プロセスを解明し,惑星大気進化過程を明らかにすることができると期待される.
Ⅱ-2-c-27
国際宇宙ステーション日本実験棟曝露部の第 2 期利用ポート共有実験ミッション装置の開発
准教授
阿部琢美
敦
ファンクションマネージャ
阪大・工
牛尾知雄
北大・理
佐藤光輝
阪大・工
森本健志
東北大・理
高橋幸弘
阪大・工
河崎善一郎
東北大・工
吉田和哉
津山高専
芳原容英
大阪府大・工
石田良平
京大・理
齊藤昭則
東北大・理
坂野井健
東大・理
吉川一朗
極地研
菊池雅行
名大・STE 研
大塚雄一
京大・生存圏研
助
教
山崎
鈴木
山本
睦
衛
国際宇宙ステーション日本実験棟曝露部の第 2 期利用ポート共有実験ミッションのうち,地球観測に関する 2 つ
のミッションを遂行する観測機器の開発を行っている.ひとつは地球超高層大気撮像観測(IMAP)ミッションで,
もうひとつはスプライト及び雷放電の高速測光撮像センサ(GLIMS)ミッションである.ともに ISS 高度(約
400km)から地球観測を行うミッションである.IMAP ミッションは高度 80km 以上の超高層における大気光とプ
ラズマ共鳴散乱光の光学観測を行い,地球超高層大気と周辺プラズマの擾乱発生機構を明らかにすることを目的と
している.GLIMS ミッションは,雷放電とスプライト現象を,撮像と電波の同時観測から捉え,雷放電の全球分
布とその時間・空間変化を捉え,雷放電プロセスを明らかにすることが目的である.
Ⅱ-2-c-28
内部磁気圏におけるホイッスラーモード・コーラス放射の電磁粒子シミュレーション
客員教授
大村善治
金沢大学大学院学生
疋島
充
准教授
八木谷聡
教
長野
授
勇
コーラス放射の観測・理論研究は 40 年を超える歴史があり,高緯度領域の地上観測局での観測,及び 70 年代か
Ⅱ.研究活動
73
ら現在までに至る人工飛翔体によりもたらされた直接観測結果に基づく研究によって,その特徴が明らかにされて
きた.90 年代の後半には,地球放射線帯外帯の相対論的高エネルギー電子のフラックスをコントロールする重要
な要素であることが指摘され,コーラス放射に関わる物理過程は宇宙天気・地球環境科学の研究分野において特に
重要な研究課題として認識されている.本研究では,長年の謎であったコーラス放射を双極子磁場モデルのもとで
マックスウェル方程式とニュートンの運動方程式をそのまま解き進める電磁粒子モデルの計算機シミュレーション
によって再現し,そのデータ解析と理論解析を通じてコーラス放射の周波数変動のメカニズムを解明した.
Ⅱ-2-c-29
放射線帯における相対論的電子加速過程の理論・シミュレーション
大村善治
客員教授
東北大学 JSPS 研究員
University of New Foundland Prof.
加藤雄人
Danny Summers
地球放射線帯を形成している相対論的な電子フラックスを生成する電子加速機構について理論とホイッスラーモ
ード・コーラス放射を再現した電子ハイブリッド・シミュレーションにより明らかにした.特に相対論的粒子固有
の非常に効率の良い加速過程として理論的に検討されている Relativistic Turning Acceleration(RTA)および UltraRelativistic Acceleration(URA)の 2 つの過程が,コーラスの発生過程と同時進行するかたちでおこることを確認
した.
Ⅱ-2-c-30
マグネトシースにおける L モード電磁サイクロトロン不安定性とミラー不安定性の競合関係の研究
客員教授
大村善治
京都大学大学院学生
小路真史
本研究は,ミラー不安定性が L モード電磁イオンサイクロトロン不安定性に与える影響について三次元ハイブ
リッドシミュレーションによって解析することを目的とする.これらの不安定性は背景磁場に垂直方向に高い温度
異方性を持つ高温粒子が存在する空間内で起こる.特に,ミラー不安定性によって励起される波動は地球磁気圏,
とりわけマグネトシース内において古くから観測されてきた.最近ではクラスター宇宙探査機による多点観測も行
われている.しかしながら,同時に観測できるはずの L モード電磁イオンサイクロトロン波は観測されず,その
原因は分かっていなかった.ミラーモード波は,背景磁場に対して斜め方向に伝搬し,L モード電磁イオンサイク
ロトロン波は背景磁場に平行に伝搬するために,これらの競合関係を調べるためには三次元のハイブリッドコード
による解析が不可欠である.一次元,二次元,三次元シミュレーション結果の比較及び高温粒子の温度異方性比な
どのパラメータを変化させ,解析を行った.
Ⅱ-2-c-31
極域電離圏からのプラズマ流出に関する研究
准教授
阿部琢美
カルガリー大学
A.W.Yau
北大・理
渡部重十
極域電離圏からのプラズマ流出現象(ポーラーウインド)は,「あけぼの」によって本格的に観測されるように
なった.統計的解析結果としてイオン加速の太陽活動度依存性が低高度(<4000km)と高高度(>5000km)で異な
ることが示された他,季節依存性やイオンの種類に応じた特性などが示され,イオン加速の一般的描像が明らかに
なった.低高度から高高度までのプラズマ輸送過程のひとつとして捉え,大規模なプラズマ対流への影響を議論し
ている.
Ⅱ-2-c-32
極域電離圏における高密度プラズマ領域発生に関する研究
准教授
阿部琢美
大学院学生
北野谷有吾
極域電離圏高高度(3000-5000km)に突発的に発生する高密度プラズマ領域の発生メカニズムについて,熱的電
子,熱的イオン,低エネルギー電子についての観測データをもとに研究を行っている.この現象の発生は地磁気活
74
Ⅱ.研究活動
動度と密接な関係があり,高密度領域の内部では電子温度,イオンドリフト,イオン組成に顕著な変化が現れる.
このような特徴から,磁気圏やプラズマ圏との結合を含む大規模なエネルギー輸送を考慮して発生メカニズムを議
論する必要のあることが推測されている.
Ⅱ-2-c-33
ポーラーウインドのイオン加速に対する光電子束の寄与について
准教授
阿部琢美
大学院学生
北野谷有吾
技術研修生
蜂谷宣人
技術参与
向井利典
極域電離圏ポーラーウインドは分極電場により軽イオンが加速されて生じる現象であるが,光電子フラックスが
十分に大きい時にはその寄与が大きいとの理論があるが,これらの関係を観測的に明らかにした研究は無い.「あ
けぼの」に搭載された SMS,LEP,TED の 3 つの測定器の観測データを用いて,光電子束とイオン加速度の関係
を定量的に調べている.
Ⅱ-2-c-34
観測ロケット S-520-23 号機搭載ラングミューアプローブによる電離圏下部子温度構造に関する研究
准教授
阿部琢美
宇宙航空プロジェクト研究員
下山
学
大学院学生
北野谷有吾
観測ロケット S-520-23 号機は中性大気-電離大気の運動量輸送過程の解明を主目的として平成 19 年夏に内之浦
宇宙空間観測所から打ち上げられた.観測機器の中でラングミューアプローブは熱的電子の温度と密度の推定を目
的として搭載された.測定から導き出された電子温度はプラズマの基本データとして,中性大気との運動量輸送を
議論するために用いられる.その他にも,高度 100km 付近で得られた特徴的な温度変化についての研究が行われ
ている.
Ⅱ-2-c-35
観測ロケット S-310-38 号機搭載ラングミューアプローブによるスポラディックE層生成機構に関する研究
准教授
阿部琢美
宇宙航空プロジェクト研究員
下山
学
観測ロケット S-310-38 号機は下部電離圏における 3 次元プラズマ空間分布の観測を主目的として,平成 20 年 2
月に内之浦宇宙空間観測所より打ち上げられた.このロケットではマグネシウムイオンイメージャ,中波帯電波受
信機により下部電離圏のプラズマ分布を観測するほかプローブによりロケット位置での局所的な密度の測定を行っ
た.ラングミューアプローブの観測は成功裡に行われ,導出された電子温度と密度は他の観測器の取得データとと
もに議論されている.
d.固体惑星科学研究系
Ⅱ-2-d-1
「かぐや」リレー衛星搭載中継器(RSAT)を用いた研究
准教授
岩田隆浩
名誉教授
忠
九大・理
並木則行
国立天文台
河野宣之
国立天文台
高野
野田寛大
国立天文台
花田英夫
国立天文台
松本晃治
国立天文台
石原吉明
総研大・大学院学生
小川美奈
リレー衛星搭載中継器(RSAT)は,「かぐや」とその子衛星であるリレー衛星「おきな」に搭載して,4 ウェイ
ドプラ観測により月の裏側の重力場マッピングを行うための観測機器である.本機器について,運用,データ解析
を行うと共に,得られたデータから月重力場の研究を行った.これにより,世界初となる月周回軌道での 4 ウェイ
通信リンクを実現するとともに,月の裏側の重力場の分布を明らかにした.この観測結果から,月の大型衝突盆地
は,その重力場構造から,従来のマスコンに加えてタイプ I,タイプ II の 3 種類に分類できること,その要因とし
Ⅱ.研究活動
75
て地殻の厚さや温度などの内部構造に二分性の存在が示唆されることを示した.
Ⅱ-2-d-2
月の衝突盆地の進化過程に関する研究
准教授
岩田隆浩
東大・大学院学生
松村瑞秀
国立天文台
石原吉明
国立天文台
松本晃治
研究員
国立天文台
諸田智克
Sander Goossens
「かぐや」による月重力場のグローバルマップと高解像度の地形データから,月の衝突盆地の起源と進化過程に
ついて研究した.重力場と地形のデータから,隕石衝突直後に形成されたエクスカベーションキャビティを求める
手法を確立した.そこから得られる直径・深さなど種々のパラメータから,マントル上昇とその後に続く緩和過程
の様子を明らかにした.
Ⅱ-2-d-3
小型衛星用軽量型平面アンテナの特性に関わる研究
准教授
岩田隆浩
国立天文台
国立天文台
河野宣之
名誉教授
鶴田誠逸
国立天文台
浅利一善
高野
国立天文台
劉
忠
慶会
「かぐや」の子衛星「おきな」に搭載するために開発した S 帯平面アンテナに関して,軌道上性能を測定・評価
した.同アンテナは,重力場計測のための 4 ウェイドプラ観測データにおいて衛星スピンの影響を低減するために,
送受信を分離して衛星スピン軸対象に配置するものであり,従来宇宙機アンテナより軽量化を実現した.月周回軌
道での位相パターン測定によって重力場観測での十分な計測精度が達成し得ることを確認した.
Ⅱ-2-d-4
「かぐや」相対 VLBI 用衛星電波源(VRAD)の開発・初期チェックアウト・定常運用
准教授
岩田隆浩
国立天文台
花田英夫
国立天文台
河野宣之
相対 VLBI 用衛星電波源(VRAD)は,「かぐや」とその子衛星であるリレー衛星「おきな」と VRAD 星「おう
な」に搭載して,多周波相対 VLBI 観測により月の表側及び縁辺部の重力場マッピングの高精度化を達成するため
の観測機器である.本機器について,運用,データ解析を行うと共に,得られたデータから月重力場の研究を行っ
た.これにより,世界初となる月周回軌道での多周波・位相遅延・相対 VLBI を実現するとともに,月の重力場の
高精度観測を行った.この結果,特に月縁辺部の重力場分布の様子が明確になった.今後は,月のコアの物理状態
の高精度な推定を行う.
Ⅱ-2-d-5
ドプラ観測による衛星姿勢推定法の研究
准教授
岩田隆浩
国立天文台
菊池冬彦
国立天文台
花田英夫
国立天文台
河野宣之
国立天文台
劉
慶会
スピン衛星の姿勢変動を,ドプラ観測データから推定する手法の研究を行った.これは,アンテナ位相中心の運
動を姿勢変動の要因から解く方法であり,擬似データを用いて成立性を確認した.これにより,月周回軌道におい
て姿勢テレメトリを持たない「かぐや」の子衛星「おきな」「おうな」の姿勢を推定するとともに,重力場データ
の校正と自動運用計画への反映を行うことを実現した.
Ⅱ-2-d-6
「かぐや」の小型衛星:リレー衛星「おきな」/VRAD 衛星「おうな」の軌道上特性の測定に関する研究
准教授
岩田隆浩
主任開発員
南野浩之
主任開発員
佐々木健
「かぐや」で測月ミッションを行うための 2 機の小型衛星であるリレー衛星(Rstar:おきな)/VRAD 衛星
(Vstar:おうな)について,運用を行うと共に,軌道上性能に関わるデータ取得と評価を行った.これらの衛星は,
76
Ⅱ.研究活動
重力場計測精度の向上と軽量化のために姿勢・軌道マヌーバを行わないことから,ミッション期間中に十分安定に
姿勢を維持できる設計とした.これらについて,月周回軌道においてシステムの健全性ならびに所定の性能を維持
していることを確認した.特に,電源系(バッテリ,電力制御器)及び太陽電池が,ミッション遂行に必要な電力
の発生,蓄積,分配を行えることを確認した.また,熱制御系は,軌道上の熱環境に対して,搭載機器への適切な
熱環境の維持,制御を行えることを確認した.また,これらの小型衛星用に開発した,軽量型分離機構により印加
されたスピン角速度と姿勢が,継続して安定していることを確認した.
Ⅱ-2-d-7
月回転変動計測のための月面天測望遠鏡(ILOM)の研究
准教授
岩田隆浩
国立天文台
花田英夫
国立天文台
野田寛大
国立天文台
河野宣之
国立天文台
鶴田誠逸
国立天文台
荒木博志
月面天測望遠鏡(ILOM)は,月の極域に設置する PZT(写真天頂筒)型の位置天文観測用光学望遠鏡の計画で
ある.月の秤動等の回転変動を初めて直接計測することにより,月の内部状態を高精度で観測することを目的とし
ている.本観測システムでは,星像重心を CCD において 1/1000 ピクセルの高精度で決定する必要があることか
ら,セントロイド試験により実現可能性を示した.また月面での熱環境における姿勢の高安定性を示すため,光学
系の熱設計検討を行った.
Ⅱ-2-d-8
月低周波電波望遠鏡(LLFAST)の研究
准教授
岩田隆浩
助
央
国立天文台
河野宣之
高知高専
今井一雅
情報通信研究機構
国立天文台
野田寛大
東北大・理
三澤浩昭
東北大・理
土屋史紀
福井工大
近藤哲朗
中城智之
教
竹内
低周波(短波帯以下)の電波観測は,地上及び地球周回では地球の電離層の影響を受けるため,月の裏側が最適
な観測サイトである.そこで将来の月裏側の大型電波干渉計を目指して,その第 1 段階としての月-地球基線の電
波干渉計による観測システムの設計を行っている.木星 Io-DAM(イオのデカメータ波)等の惑星電波の観測を目
標に,特に,アンテナ,デジタル信号処理機能,周波数標準について設計検討を進めた.またサンプラーを試作し
て,観測パラメータの最適化のための試験観測を実施した.
Ⅱ-2-d-9
探査機を用いた小天体重力場探査の研究
准教授
岩田隆浩
国立天文台
菊池冬彦
国立天文台
河野裕介
太陽系内小天体の重力場は,強度と構造が微小であるため,これを観測する計測手法について研究している.こ
れまでに,多周波 SST(衛星間測距)による高精度位相比較や,SST による多周波逆 VLBI が有効であることを示
した.この研究結果に基づいて,将来の小惑星重力場探査ミッションの設計検討も行っている.
Ⅱ-2-d-10
逆 VLBI 法(iVLBI)を用いた月月重力場および火星回転変動計測の研究
准教授
岩田隆浩
国立天文台
菊池冬彦
国立天文台
松本晃治
国立天文台
河野裕介
逆 VLBI 法(iVLBI)は,衛星間測距と地上での VLBI 航法を組み合わせることにより,地上局からの距離に依
存しないで高精度の重力場・回転変動の測定が可能になる.そこで,月着陸機と月周回衛星を用いた iVLBI によ
り,月の巨大衝突盆地の局所的な重力場の高精度観測を行い, 衝突盆地の起源と進化の解明を目指す.また,火
星着陸探査において,火星の回転変動を計測することにより,固体惑星と大気との角運動量交換の様子を明らかに
する.これらを目的とした観測手法の研究と搭載機器の設計を行った.
Ⅱ.研究活動
77
Ⅱ-2-d-11
次期近地球型小天体ランデブー・サンプルリターンミッションの設計・開発
教
矢野
創
准教授
川勝康弘
元教授
藤原
顯
助
森
京大・生存圏
山川
助
教
治
宏
准教授
吉光徹雄
准教授
安部正真
准教授
吉川
開発員
長谷川直
准教授
岩田隆浩
真
東大・工
宮本英昭
東邦学園大
高木靖彦
会津大
出村裕英
小天体探査ワーキンググループ
大学院学生
森本睦子
茨城大
野口高明
「はやぶさ」に続く小天体の候補として,既にスペクトル型が判明している近地球型小天体で,それぞれタイプ
の異なる天体にランデブーし,全球マッピング後にタッチ&ゴー式でサンプル採集をし,地球帰還するミッション
の設計と基礎開発を行っている.9 年程度で二つの小惑星に訪問し,サンプルリターンする例を始め,複数の解が
存在する事が分かった.また,サンプリング装置,小惑星表面探査ローバ,オービターからの科学観測,誘導,制
御,航法の課題等もサブグループ単位で開発・研究を進めている.
Ⅱ-2-d-12
電波エコー観測による惑星表面・表層下構造の研究
客員教授
小野高幸
名大・理
山口
靖
准教授
京大・理
岡田達明
山路
敦
東大・理
助
教
佐々木晶
春山純一
惑星表層下の構造を調べる手段に電波エコー観測がある.惑星表層が乾燥したレゴリスやメガレゴリス層に覆わ
れているため電気伝導度が極めて低く,電波の透過性が高い性質を利用する.アポロ 17 号でもこの手法が試験的
に行われ,月の数箇所で地下構造の探査に成功した.われわれは「SELENE」搭載レーダサウンダー(LRS)でこ
の電波エコー観測を行う予定であり,その観測の対象,解析手法,そのフィージビリティについて検討を進めてい
る.
Ⅱ-2-d-13
かぐや(SELENE)搭載地形カメラを用いた研究
教
春山純一
研究員
教
大竹真紀子
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
開発員
鳥居雅也
助
横田康弘
助
かぐや(SELENE)月探査計画では,3 次元立体視可能な高空間分解能カメラである地形カメラを搭載している.
地形カメラは 10m/画素の空間分解能で月全球を撮像し,これまでに得られている月画像の解像度を一桁以上あ
げることになる.また全球の立体視データは世界初となる.本年度は,引き続き観測を進めるとともに,以降順調
に観測と得られた画像を用いた研究および研究成果の発表を進めている.また,web 等において成果の社会への公
開も行った.
Ⅱ-2-d-14
かぐや(SELENE)搭載マルチバンドイメージャを用いた研究
助
教
大竹真紀子
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
助
教
春山純一
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
招聘研究員
横田康弘
開発員
鳥居雅也
かぐや(SELENE)月探査計画では,可視域に 5 バンド,近赤外域に 4 バンドでの撮像を行うマルチバンドイメ
ージャを搭載している.マルチバンドイメージャは,可視域で 20m/画素,近赤外域で 60m/画素の空間分解能
で月全球を撮像し,これまでに得られている月分光画像の解像度を一桁以上あげることになる.本年度は,引き続
き観測を進めるとともに,以降順調に観測と得られた画像を用いた研究および研究成果の発表を進めている.また,
78
Ⅱ.研究活動
web 等において成果の社会への公開も行った.
Ⅱ-2-d-15
かぐや(SELENE)搭載スペクトルプロファイラを用いた研究
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
宇宙航空プロジェクト研究員
横田康弘
研究員
開発員
教
大竹真紀子
諸田智克
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
鳥居雅也
国立環境研究所・地球環境研究センター
小川佳子
助
春山純一
教
助
かぐや(SELENE)月探査計画では,可視域から近赤外波長領域にかけての連続分光をおこなうスペクトルプロ
ファイラを搭載している.スペクトルプロファイラは,6~8nm の波長分解能で月全球にわたって観測をおこなう.
SP 観測波長領域での探査機搭載連続分光装置による月面観測は世界初である.本年度は,引き続き観測を進める
とともに,以降順調に観測と得られたデータを用いた研究および研究成果の発表を進めている.また,web 等にお
いて成果の社会への公開も行った.
Ⅱ-2-d-16
かぐや(SELENE)地形カメラの輝度較正処理システムを用いた研究
助
春山純一
教
松永恒雄
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
研究員
教
大竹真紀子
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
横田康弘
鳥居雅也
助
開発員
かぐや(SELENE)に搭載されている地形カメラについて,大量のデータについて,輝度変換,フォトメトリッ
ク補正および反射率変換といった輝度較正処理を迅速におこない,良質の科学データを出すための処理システムを
構築してきた.地形カメラの場合,非可逆圧縮の影響をどのように較正するかが特に課題となっている.本年度は
地形カメラの実データを用いて較正処理を開始し,評価を進めている.
Ⅱ-2-d-17
かぐや(SELENE)マルチバンドイメージャの輝度較正処理システムを用いた研究
助
教
大竹真紀子
松永恒雄
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
宇宙航空プロジェクト研究員
研究員
横田康弘
諸田智克
助
教
宇宙航空プロジェクト研究員
鳥居雅也
開発員
東大・工
春山純一
本田親寿
岩崎
晃
かぐや(SELENE)に搭載されているマルチバンドイメージャでは,高空間分解能かつ高い輝度解像度で取得さ
れた大量のデータに対する処理が必要であるほか,解析において最も重要な輝度変換,フォトメトリック補正およ
び反射率変換といった輝度較正処理を迅速におこない,良質の科学データを出すための処理システムを構築してき
た.特にマルチバンドイメージャの場合,フレームトランスファー補正をいかに精度よく効率よくおこなうかが重
要なテーマのひとつとなっている.本年度はマルチバンドイメージャの実データを用いて較正処理を開始し,評価
を進めている.
Ⅱ-2-d-18
かぐや(SELENE)スペクトルプロファイラの輝度較正処理システムを用いた研究
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
開発員
松永恒雄
教
春山純一
助
教
大竹真紀子
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
研究員
横田康弘
国立環境研究所・地球環境研究センター
小川佳子
鳥居雅也
助
かぐや(SELENE)に搭載されているスペクトルプロファイラについて,輝度変換,フォトメトリック補正およ
び反射率変換といった輝度較正処理をおこない,良質の科学データを出すための処理システムを構築してきた.本
年度はスペクトルプロファイラの実データを用いて較正処理を開始し,評価を進めている.
Ⅱ.研究活動
79
Ⅱ-2-d-19
かぐや(SELENE)搭載地形カメラの幾何補正処理システムを用いた研究
教
春山純一
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
研究員
横田康弘
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
開発部員
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
開発員
助
助
教
大竹真紀子
吉澤
明
鳥居雅也
かぐや(SELENE)に搭載されている地形カメラについて,大量のデータについて,ラインごとの撮像時刻,衛
星位置情報,衛星姿勢情報,天体歴,センサ指向情報などを考慮した幾何補正処理を迅速におこない,良質の科学
データを出すための処理システムを構築してきた.本年度は地形カメラの実データを用いて幾何補正処理を開始し,
評価を進めている.
Ⅱ-2-d-20
かぐや(SELENE)搭載マルチバンドイメージャの幾何補正処理システムを用いた研究
助
教
大竹真紀子
松永恒雄
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
平田
会津大学コンピュータ理工学部
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
成
研究員
教
春山純一
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
横田康弘
鳥居雅也
助
開発員
かぐや(SELENE)搭載のマルチバンドイメージャでは,可視・近赤外 2 本の直下視望遠鏡より得られる 9 バン
ド画像の各画素が見ている月面上位置を正確に把握するために衛星軌道高度・姿勢や視線ベクトルなどの幾何補正
が必要となる.マルチバンドイメージャでは特に 1 枚の画像内での幾何補正に加えて 9 つのバンド間での画像マッ
チングを行う必要があることから,マルチバンドイメージャに最も適した幾何補正処理アルゴリズムの検討と,検
討により得られたアルゴリズムに対するシミュレーション画像を用いた幾何補正精度評価および幾何補正処理シス
テムを構築してきた.本年度はマルチバンドイメージャの実データを用いて幾何補正処理を開始し,評価を進めて
いる.
Ⅱ-2-d-21
かぐや(SELENE)搭載マルチバンドイメージャの重点解析領域の研究
助
教
大竹真紀子
会津大学コンピュータ理工学部
平田
成
助
教
春山純一
海洋研究開発機構・地球深部探査センター
杉原孝充
主幹研究員
武田
弘
産業技術総合研究所・グリッド研究センター
児玉信介
東大・工
岩崎
晃
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
阪大・理
佐伯和人
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
名大・環境学
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
国立極地研究所・南極隕石センター
山口
靖
研究員
荒井朋子
横田康弘
開発員
鳥居雅也
会津大学・コンピュータ理工学部
出村裕英
会津大学・コンピュータ理工学部
浅田智朗
かぐや(SELENE)搭載のマルチバンドイメージャでは,可視・近赤外 2 本の直下視望遠鏡より得られる 9 バン
ド画像を用い,月面上における鉱物・岩層分布を知ることによって月全体の水平(多地点観測)および垂直方向
(異なるクレータサイズの中央丘=異なる深さの岩層)の化学組成について調べることを目的としている.マルチ
バンドイメージャの重点解析領域を過去の「クレメンタイン」分光画像データや「ルナープロスペクタ」γ線によ
る元素分布データ,反射スペクトル実験データなどを用いて選定する研究を行っており,これまでに始原的地殻の
化学組成推定に向けて月裏側の特定地域や中央丘等いくつかの重点領域を選定した.本年度は選定領域についてマ
ルチバンドイメージャの実データと比較した解析・研究を進めている.
80
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-d-22
かぐや(SELENE)搭載スペクトルプロファイラの重点解析領域の研究
松永恒雄
教
春山純一
産業技術総合研究所・グリッド研究センター
児玉信介
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
平田
会津大学・コンピュータ理工学部
助
教
大竹真紀子
成
産業技術総合研究所
宇宙航空プロジェクト研究員
中村良介
本田親寿
助
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
横田康弘
開発員
鳥居雅也
国立環境研究所・地球環境研究センター
小川佳子
研究員
かぐや(SELENE)搭載のスペクトルプロファイラでは可視から近赤外域にかけて約 300 点のスペクトルデータ
を取得することによって月面上における詳細な鉱物・岩層の同定を行い,月の化学組成について知ることを目的と
している.スペクトルプロファイラの重点解析領域を過去の「クレメンタイン」分光画像データや「ルナープロス
ペクタ」γ線による元素分布データ,反射スペクトル実験データなどを用いて選定する研究を行っており,特定の
海における玄武岩溶岩の判別などいくつかの重点領域を選定した.本年度は選定領域についてスペクトルプロファ
イラの実データと比較した解析・研究を進めている.
Ⅱ-2-d-23
かぐや(SELENE)搭載月面撮像/分光機器の月面数値地形モデル作成システムを用いた研究
助
春山純一
教
平田
会津大学・コンピュータ理工学部
成
本田親寿
宇宙航空プロジェクト研究員
宇宙航空プロジェクト研究員
横田康弘
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
開発員
鳥居雅也
教
大竹真紀子
諸田智克
招聘研究員
助
かぐや(SELENE)に搭載される地形カメラによって得られたステレオ視観測データから,月の全表面について
数値地形モデルの生成を行う.このステレオ視データは,月の地形構造を系統的に整理するうえで重要なデータと
なるとともに,分光機器の輝度校正精度を向上させるために要される.一日あたり 55Gbits にものぼる大量のデー
タを迅速にかつ,精度よく処理して,全球の 3 次元情報を得るためのシステムの開発を行ってきた.本年度は地形
カメラの実データを用いて月面数値地形モデルの作成を開始し,評価を進めている.
Ⅱ-2-d-24
かぐや(SELENE)搭載地形カメラの重点解析手法,解析領域の研究
助
教
春山純一
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
助
教
大竹真紀子
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
研究員
横田康弘
成
産業技術総合研究所
中村良介
本田親寿
開発員
鳥居雅也
会津大学・コンピュータ理工学部
宇宙航空プロジェクト研究員
平田
かぐや(SELENE)搭載地形カメラによってもたらされる膨大なデータについて,解析手法や解析領域を重点化,
整理することで,より効率よい解析を目指すとともに,実運用における撮像パラメータや,オプショナルな観測可
能時期における撮像優先順位の選定に資することを念頭に,ソフトウェア開発を行ってきた.本年度は地形カメラ
の実データを用いて解析を開始し,評価を進めている.
Ⅱ-2-d-25
将来月探査に向けた搭載望遠カメラの基礎開発
阪大・理
佐伯和人
助
教
大竹真紀子
海洋研究開発機構・地球深部探査センター
助
教
杉原孝充
春山純一
「SELENE-2」月着陸実験では,科学的な重要地点にピンポイントかつ障害物回避による軟着陸をした後,地質
探査を行うことを検討している.「SELENE-2」の着陸機には地質探査において最も基礎となる地形着陸地点(例
えばクレータ中央丘)の地形および鉱物・岩層判読を行うための望遠分光カメラの搭載が必須であり,このような
Ⅱ.研究活動
81
装置の検討および基礎開発を行っている.本年度は,地上実験モデルを用いた評価を行った.
Ⅱ-2-d-26
将来月探査に向けた搭載マクロ分光カメラの基礎開発
助
教
大竹真紀子
海洋研究開発機構・地球深部探査センター
杉原孝充
教
春山純一
阪大・理
佐伯和人
助
「SELENE-2」月着陸実験では,科学的な重要地点にピンポイントかつ障害物回避による軟着陸をした後,地質
探査を行うことを検討している.「SELENE-2」の着陸機には着陸地点で採取されたサンプルやローバにより様々
な地域から採取されたサンプルについて鉱物組織の判別や詳細な鉱物同定を行うためのマクロ分光カメラを搭載す
ることが必須である.このようなマクロ分光カメラの検討および基礎開発を行っている.分光方式としては AOTF
素子(音響光学素子)を用い,AOTF に印加する超音波の周波数を変動させることによって 2 次元の連続分光画像
を取得することを検討しており,観測目的に適したマクロレンズの光学設計や AOTF 素子の開発を行っている.
本年度は,AOTF 素子の性能評価を行う試験システムを構築し,試験を開始した.
Ⅱ-2-d-27
将来月探査に向けた搭載マルチバンドカメラの基礎開発
海洋研究開発機構・地球深部探査センター
杉原孝充
助
教
大竹真紀子
教
春山純一
阪大・理
佐伯和人
助
「SELENE-2」月着陸実験では,科学的な重要地点にピンポイントかつ障害物回避による軟着陸をした後,地質
探査を行うことを検討している.「SELENE-2」では着陸地点における地質探査だけで無く,ローバを用いてより
広い領域における地質探査とサンプル採取を行うためにマルチバンドカメラの搭載が必須である.マルチバンドカ
メラは小型・軽量化が求められるローバにおいて必要な地質探査と採取するサンプルの選定を行うのに最適なカメ
ラであり,このような観測目的に適したレンズの光学設計やバンド変更に用いるフィルタホイール用モータの選定
など基礎開発を行っている.本年度は,フィルタホイール用モータの選定やデータ解析システムの詳細検討を実施
した.
Ⅱ-2-d-28
将来月惑星探査機搭載用電波探査機器の研究
助
教
春山純一
宮本英昭
東大・工
主任開発員
西堀俊幸
秋田大・工学資源
秋山演亮
「SELENE-2」では月面に着陸し地質探査を行う.本研究では,将来の月着陸探査機搭載用の,表層(数 m から
数十 m)の地下探査が可能な電波探査機器の可能性や課題を研究している.これまで,電波探査の有効性を確認
するためのスケーリングした実験や富士山ろくの溶岩チューブなどを対象に調査を行い,データを集積している.
また,探査機搭載用小型アンテナを試作し,搭載型モデルの開発に向けて準備を進めている.
Ⅱ-2-d-29
地上分光望遠鏡を用いた月面分光特性の研究
阪大・理
佐伯和人
助
教
春山純一
助
教
大竹真紀子
月面分光特性(反射スペクトルの位相角依存性など)や月面の化学組成(Fe や Ti 量の分布など)研究目的で,
ハワイ,ハレアカラ山頂からの望遠鏡観測を行い,所定のデータを取得し,溶岩流の化学組成進化について研究を
行った.このデータはまた,SELENE 搭載の光学観測機器の較正研究にも利用される.
82
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-d-30
かぐや(SELENE)搭載月面撮像/分光機器の最適運用の研究
教
春山純一
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
助
教
大竹真紀子
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
開発員
鳥居雅也
国立環境研究所・地球環境研究センター
小川佳子
研究員
横田康弘
助
かぐや(SELENE)搭載月面撮像/分光機器は,地形カメラ,マルチバンドイメージャ,スペクトルプロファイ
ラからなるが,データ容量の制限などから緻密な運用が求められる.本研究を通して,月面撮像/分光機器の最適
な運用をどのような手順やツールを用いて行うのかについて研究を進めており,成果に基づき手順およびツールの
構築を行ってきた.本年度は実際にそれら手順・ツールを用いて搭載月面撮像/分光機器の運用を開始している.
Ⅱ-2-d-31
月面における年代決定方法の研究
助
教
春山純一
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
研究員
横田康弘
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
月面の溶岩噴出域やクレータ生成の年代を,クレータのサイズ頻度分布やクレータの崩壊状況などをもとに詳細
に決定する方法の研究を進めている.また,本研究の成果を SELENE 搭載地形カメラによる 3 次元数値地形モデ
ルや影の状況から,判断する手法を検討してきた.本年度は地形カメラの実データを用いてこれまで検討してきた
手法を用いて月面の年代決定を開始している.
Ⅱ-2-d-32
月面におけるクレータ生成頻度分布の不均質性について
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
助
教
春山純一
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
研究員
横田康弘
月面のクレータ形成頻度は空間的不均質であることが知られている.本研究では,このクレータ生成率不均質が
月の初期進化にどのような影響を与えたかについて考察している.また,クレータカウンティングによる年代決定
法に与える影響についても検討し,手法の精度向上の研究を進めてきた.本年度は地形カメラの実データを用いて
月面の年代決定により月面のクレータ形成頻度は空間的不均質に関する研究を開始している.
Ⅱ-2-d-33
月面の可視・近赤外波長域における分光特性の研究
助
教
大竹真紀子
国立極地研究所・情報・システム研究機構
千葉工大附属総合研究所
荒井朋子
武田
弘
月探査衛星かぐや(SELENE)搭載のマルチバンドイメージャによる正確な鉱物・岩層分布の把握にはデータの
較正精度が非常に重要であるが,月など固体惑星上の反射スペクトルにおける反射率較正においてはグランドトゥ
ルースが取れないなどの理由から較正精度に問題のあることが知られている.そのため,アポロソイルサンプルの
地上反射スペクトル測定結果や化学組成の詳細測定値を用いて較正誤差の原因を解明し,同誤差が岩石中鉄の含有
量推定値に及ぼす影響を把握する研究を行ってきた.本年度はマルチバンドイメージャの実データと地上実験の結
果とを比較した研究を開始した.
Ⅱ.研究活動
83
Ⅱ-2-d-34
かぐや(SELENE)搭載 LISM(月面撮像/分光機器)のレベル 2A 処理システムの開発
教
春山純一
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
開発員
鳥居雅也
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
研究員
横田康弘
国立環境研究所・地球環境研究センター
小川佳子
助
教
大竹真紀子
助
月探査衛星かぐや(SELENE)に搭載されている地形カメラ,マルチバンドイメージャ,スペクトルプロファイ
ラは,電源やデータ処理部を共通化することで小型軽量化を図っており,3 機器を総称して月面撮像/分光機器と
称している.3 機器からのデータは月面撮像/分光機器として衛星から地上局へ下ろされるが,そのデータ量は 1
日 55Gbit にも達する.こうした大量データについて迅速に圧縮解凍,デパケット処理,初期画質情報抽出,
SELENE データベースへの登録をおこなう処理(レベル 2A 処理)システムの開発を行ってきた.本年度は昨年度
に引き続き LISM(月面撮像/分光機器)の実データに対してレベル 2A 処理を行なった.
Ⅱ-2-d-35
かぐや(SELENE)搭載マルチバンドイメージャによる月面における最も始原的な地殻探査の研究
助
教
大竹真紀子
主幹研究員
武田
弘
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
国立極地研究所・南極隕石センター
荒井朋子
月探査衛星 SELENE 搭載のマルチバンドイメージャでは,可視・近赤外 2 本の直下視望遠鏡より得られる 9 バ
ンド画像を用い,月面上における鉱物・岩層分布を知ることによって月全体の水平(多地点観測)および垂直方向
(異なるクレータサイズの中央丘=異なる深さの岩層)の化学組成について調べることを目的としている.過去の
「クレメンタイン」分光画像データや「ルナープロスペクタ」γ線による元素分布データ,最も始原的な化学組成
を持つと考えられている月隕石の反射スペクトル実験データと化学組成測定結果などを用いてマルチバンドイメー
ジャの重点解析領域を選定する研究を行っており,これまでに始原的地殻の化学組成推定に向けて月裏側の特定地
域や中央丘等いくつかの重点領域を選定した.本年度は,マルチバンドイメージャの実データを用いて重点領域に
ついて資源的地殻の探査を開始した.
Ⅱ-2-d-36
1 枚の月の溶岩流中における化学組成分化の研究
国立極地研究所・情報・システム研究機構
荒井朋子
助
教
大竹真紀子
最近の月溶岩流の研究により,1 枚の溶岩流中においてもシートの上部・中部・下部において冷却速度の違いか
ら化学組成の分化が生じ得ることが示唆されている.このことから,溶岩流組成の月隕石について鉱物化学組成測
定と反射スペクトル測定を行い,両者の相関関係から SELENE など将来のリモートセンシングデータによる溶岩
流分化過程を理解するための解析手法確立を目指して研究を行ってきた.本年度はマルチバンドイメージャの実デ
ータを用いてた同解析を開始した.
Ⅱ-2-d-37
鉱物反射スペクトル解析手法の研究
東大・大学院生
二村徳宏
ブラウン大学
廣井孝弘
教
大竹真紀子
准教授
安部正真
助
月探査衛星かぐや(SELENE)搭載のスペクトルプロファイラで得られる可視・近赤外波長域の反射スペクトル
を用いて月面の鉱物化学組成を理解するためには,同分野で広く用いられている改良ガウシアンモデル(MGM)
法を用いるが,MGM 法にはまだ課題も多い.そのような課題の 1 つとして,特に月面のように宇宙風化の影響を
強く受けている場合にカーブのフィッティングパラメータが一意に決まらないという問題がある.本研究ではカー
ブフィッティングの各種パラメータ間の相関関係を制約条件として利用することにより,MGM 法をさらに改良し
84
Ⅱ.研究活動
てこの問題を解決する手法を得た.本年度は,スペクトルプロファイラの実データを参考により実際の月面に即し
た解析手法の検討を行った.
Ⅱ-2-d-38
かぐや(SELENE)搭載 LISM(月面撮像/分光機器)の観測運用支援ツールの開発
教
大竹真紀子
国立環境研究所・社会環境システム研究領域
松永恒雄
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
産業技術総合研究所・グリッド研究センター
児玉信介
横田康弘
鳥居雅也
助
教
春山純一
助
研究員
開発員
月探査衛星かぐや(SELENE)に搭載されている地形カメラ,マルチバンドイメージャ,スペクトルプロファイ
ラは,電源やデータ処理部を共通化することで小型軽量化を図っており,3 機器を総称して LISM(月面撮像/分
光機器)と称している.LISM の観測運用は,ダウンリンク可能なデータ容量の制約や撮像にあたっての蓄積時間
最適化などの理由から複雑になっており,1 日の LISM 運用に必要なコマンド総数が約 850 にもなる.このような
複雑な観測運用計画を立案し,運用要求リクエストファイル(ORL)を誤り無く作成するための支援ツール開発を
行ってきた.本年度は,開発したツールを用いて LISM(月面撮像/分光機器)の引き続き観測運用を行なった.
Ⅱ-2-d-39
かぐや(SELENE)搭載マルチバンドイメージャを用いた岩相識別手法の研究
奥野信也
名古屋大学・大学院学生
名古屋大学
山口
靖
教
大竹真紀子
産業技術総合研究所
児玉信介
助
かぐや(SELENE)搭載のマルチバンドイメージャでは可視・近赤外 2 本の直下視望遠鏡より 9 バンドの画像が
得られる.これら画像を用いて月表層の岩相を識別し,月表層の化学組成を理解するとともに月の進化過程を明ら
かにする目的で,岩相識別手法の確立に向け地上分光計による岩石反射スペクトルデータを用いたアルゴリズムの
研究を行ってきた.本年度は,マルチバンドイメージャの実データを用いて同研究のための解析を開始した.
Ⅱ-2-d-40
かぐや(SELENE)搭載複数観測機器データを用いた月高地地殻の統合的解析に関する研究
岡田達明
准教授
助
教
大竹真紀子
国立極地研究所
荒井朋子
海洋研究開発機構
杉原孝充
かぐや(SELENE)にはマルチバンドイメージャや X 線分光計など月化学組成を観測するための複数機器が搭載
されている.これら複数機器から得られた化学組成データを用いて月高地地殻の化学組成を統合的に解析し,地殻
形成過程明らかにする目的で,解析手法確立に向けたアルゴリズム検討および解析対象地点の選定を行った.本年
度は,かぐや搭載の複数機器の実データを用いて初期的な解析を開始した.
Ⅱ-2-d-41
かぐや(SELENE)および他国における月探査計画による相互データ校正・検証に関する研究
助
教
教
授
大竹真紀子
加藤
學
准教授
岡田達明
准教授
岩田隆浩
准教授
高島
助
春山純一
健
教
かぐや(SELENE)とチャンドラヤーン,LRO 等他国で行われる探査計画において取得される観測データを比較
し,相互のデータ校正および検証を行うことにより得られた観測データの精度を向上する目的で,相互データ校
正・検証の手法(標準サイト選定,観測条件検討,比較処理レベル検討など)に関する研究を行っている.
Ⅱ.研究活動
85
Ⅱ-2-d-42
月面地形のkmスケールでの粗さを用いたマッピング法の検討
助
研究員
教
春山純一
横田康弘
助
教
大竹真紀子
宇宙航空プロジェクト研究員
諸田智克
小川佳子
国立環境研究所・地球環境研究センター
国立環境研究所地球環境研究センター
松永恒雄
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
会津大学・コンピュータ理工学部
出村裕英
会津大学・コンピュータ理工学部
平田
成
かぐや(SELENE)に搭載される地形カメラからは,月面の三次元デジタル数値地形モデルが得られる.月面の
起伏には過去の衝突の履歴が反映されていることから,本研究では,地形モデルを用いて「地形の粗さ」を数値化
して,月面層序境界の判別や地質区分の指標とする検討を行っている.今年度は,地形カメラの実データを用いた
地形モデルの作成を行なっている.
Ⅱ-2-d-43
「はやぶさ」搭載用蛍光 X 線スペクトロメータの運用と小惑星イトカワの観測
准教授
岡田達明
教
山本幸生
大学院学生
教
授
加藤
細野
學
共同研究員
荒井武彦
大学院学生
井上達年
共同研究員
白井
慶
大学院学生
小川和律
大学院学生
井上朋香
助
梢
小惑星探査機「はやぶさ」は,太陽系始原天体である小惑星のひとつ 25143 Itokawa(1998SF36)にランデブー
し,近傍から小惑星探査を行った.蛍光 X 線スペクトロメータは太陽 X 線が小惑星表面に照射することで励起さ
れる元素に固有なエネルギーをもつ蛍光 X 線を観測し,小惑星表面の主要元素組成を調べる装置である.本機器
は,エネルギー分解能の良好な CCD を X 線検出器に用いること,極薄ベリリウム窓を使用すること,標準試料を
用いて機上で太陽 X 線による蛍光 X 線励起の較正を行うことによって,エネルギー検出範囲の拡大,元素組成の
決定精度の向上を図るべく解析を進めている.
Ⅱ-2-d-44
「はやぶさ」搭載蛍光 X 線スペクトロメータによる月観測
准教授
岡田達明
助
共同研究員
荒井武彦
共同研究員
教
山本幸生
白井
慶
授
加藤
學
大学院学生
細野
梢
大学院学生
小川和律
教
「はやぶさ」は 2004 年 5 月 19 日に地球スイングバイを行ったが,その直前には月の観測を実施した.蛍光 X 線
スペクトロメータは月から発生した蛍光 X 線を背景宇宙 X 線から分離に成功し,世界初の月裏側からの X 線検出
を行った.月裏側の平均組成が斜長岩的であることとよく一致する結論が得られた.詳細な解析を継続的に進めて
いる.
Ⅱ-2-d-45
「はやぶさ」搭載用蛍光 X 線スペクトロメータの機上データ処理法の開発
教
山本幸生
共同研究員
白井
准教授
岡田達明
共同研究員
荒井武彦
助
慶
大学院学生
教
授
小川和律
加藤
學
「はやぶさ」搭載の蛍光 X 線スペクトロメータでは,テレメトリ回線の厳しい条件で最大限の科学的成果を引き
出せるように,機上でのデータ処理方法の検討・試験・実装を行った.ハードウェア機能として,CCD の生出力
の記憶,各画素の読み出しノイズや暗電流ノイズの平均値算出,X 線イベント抽出を行う.SH-OBC を用いたソフ
トウェア処理として,グレード判定,ホットピクセル除去,ヒストグラム作成,データ圧縮,などを行い,データ
の CCSDS 準拠のパケットを生成する.
86
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-d-46
「はやぶさ」での機上較正および X 線天体の観測とシミュレーション
共同研究員
荒井武彦
共同研究員
准教授
岡田達明
助
白井
慶
山本幸生
教
大学院学生
教
授
小川和律
加藤
學
「はやぶさ」は小惑星到着までの 2 年,小惑星出発から地球帰還までの 1.5 年の期間中に宇宙 X 線の観測を行う
ため,観測対象天体の選出と,観測予測シミュレーションを行っている.科学観測のほか,検出器の較正にも用い
る.これまでに蠍座 X1,ケプラー超新星残骸,かに星雲,IC443 などの X 線天体の観測を実施している.
Ⅱ-2-d-47
「はやぶさ」における小惑星蛍光 X 線元素組成マッピング法の研究
准教授
岡田達明
共同研究員
白井
助
山本幸生
共同研究員
荒井武彦
教
慶
教
授
加藤
學
大学院学生
小川和律
大学院学生
細野
梢
「はやぶさ」搭載蛍光 X 線スペクトロメータの観測視野は約 3.5 度であり,ランデブー時のホームポジションか
らほぼ小惑星全体を観測する.小惑星の自転によって自転位相による元素分布を調べることができる.任意形状の
小惑星に対して,太陽 X 線を照射した場合に観測される X 線スペクトルの算出,逆問題として元素組成を推定す
る手法を考案し,解析ツールを構築している.
Ⅱ-2-d-48
「はやぶさ」搭載蛍光 X 線スペクトロメータの熱設計と小惑星熱モデルの構築
准教授
岡田達明
共同研究員
助
教
白井
慶
山本幸生
教
授
大学院学生
加藤
學
井上達年
小惑星の形状,表面物性を与えた時の小惑星表面温度分布を算出するツールを作成している.一方,「はやぶ
さ」搭載蛍光 X 線スペクトロメータの熱モデルは単体熱真空試験,システム熱真空試験で検証している.探査機
が小惑星タッチダウンを行う際に,小惑星からの熱放射を受けて温度上昇するプロファイルから,小惑星表面の温
度特性を知ることができる.その際の温度シミュレーションを行っている.
Ⅱ-2-d-49
「SELENE-2」月着陸実験での月クレータ中央丘の地質調査の検討
東大・理
佐々木晶
准教授
久保田孝
准教授
岡田達明
JAMSTEC
助
教
杉原孝充
明治大・工
黒田洋司
大竹真紀子
中央大・工
國井康晴
千葉工大
武田
弘
阪大・理
佐伯和人
教
授
秋田大・資源
加藤
學
秋山演亮
「SELENE-2」月着陸実験では,科学的重要地点にピンポイントかつ障害物回避をして安全に軟着陸した後,地
質探査を行うことを前提に科学探査ミッションを検討している.現状では,クレータ中央丘近傍に着陸地点を設定
し,ランダとローバを用いて月面深部物質を採取し,表面を研磨して観察・分析を行うという探査について,科学
探査目標や搭載機器検討,技術的課題について検討している.
Ⅱ.研究活動
87
Ⅱ-2-d-50
「はやぶさ」による小惑星イトカワの科学観測
元教授
藤原
顕
神戸大
向井
准教授
岡田達明
准教授
安部正真
准教授
吉川
真
助
教
矢野
創
平田
成
潤
会津大
出村裕英
会津大
東大・博物館
宮本英昭
神戸大・理
中村昭子
国立天文台
産総研
中村良介
教
はやぶさプロジェクト研究員
齋藤
正
川口淳一郎
授
佐々木晶
Don Yeomans
JPL
「はやぶさ」JST
小惑星探査機「はやぶさ」によるランデブー期間中に取得したデータを解析し,S 型小惑星イトカワに関する形
状,密度,および表面物質に関する科学的特徴を得た.イトカワが極めて低密度であることや外観的特徴から,い
わゆる「瓦礫の寄せ集め」的な天体である可能性が示唆される.これは衝突・破壊と再集積を繰り返して惑星が形
成されてゆく過程の天体を史上初めて観測に成功した可能性が高く,小天体の科学や惑星形成論に対する重要な進
展をもたらせたものであり,この結果を論文(サイエンス誌 312 号)に報告した.イトカワの形成過程の解明など,
研究を継続している.
Ⅱ-2-d-51
「はやぶさ」搭載用蛍光X線スペクトロメータによる小惑星イトカワの元素組成観測
准教授
岡田達明
教
助
山本幸生
共同研究員
教
加藤
授
學
共同研究員
白井
荒井武彦
大学院学生
小川和律
慶
小惑星探査機「はやぶさ」は,太陽系始原天体である小惑星のひとつ 25143 Itokawa(1998SF36)にランデブー
し,近傍から小惑星探査を行った.蛍光X線スペクトロメータは太陽X線が小惑星表面に照射することで励起され
る元素に固有なエネルギーをもつ蛍光X線を観測し,小惑星表面の主要元素組成を調べる装置である.本機器は,
エネルギー分解能の良好な CCD を X 線検出器に用いること,極薄ベリリウム窓を使用すること,標準試料を用い
て機上で太陽 X 線による蛍光X線励起の較正を行うことによって,エネルギー検出範囲の拡大,元素組成の決定
精度の向上を図るべく解析を進めている.初期観測結果を論文(サイエンス誌 312 号)として報告した.さらに詳
細な研究を継続中である.
Ⅱ-2-d-52
「はやぶさ」搭載用蛍光X線スペクトロメータ温度変化による小惑星イトカワの熱物性観測
准教授
共同研究員
岡田達明
白井
慶
教
山本幸生
教
共同研究員
荒井武彦
大学院学生
助
授
加藤
學
小川和律
蛍光X線スペクトロメータは CCD 冷却用放熱面を有しており,外部温度環境に対する敏感な温度センサである.
小惑星降下時には小惑星からの熱放射を検出することができる.小惑星表面の形状モデルを用いて,表層物質を仮
定することで,イトカワの自転に伴って変化する各地域の温度日変化を計算した.さらに小惑星降下時の位置情報
から,放熱面の温度変化を予測できる.その結果を観測値と比較することで小惑星表面温度について制約できる.
現在までの解析で,イトカワ岩石小片に相当する熱物性(熱慣性)を有する物質で覆われている可能性が高いこと
が確認され,高解像度撮像データと整合する結果となった.現在は軌道データが未確定であるが,確定し次第研究
論文として報告する予定である.
Ⅱ-2-d-53
「はやぶさ」での機上較正およびX線天体の観測とシミュレーション
共同研究員
荒井武彦
准教授
岡田達明
共同研究員
白井
慶
助
山本幸生
大学院学生
小川和律
教
加藤
學
教
授
「はやぶさ」は小惑星到着までの 2 年,小惑星出発から地球帰還までの 1.5 年の期間中に宇宙 X 線の観測を行う
88
Ⅱ.研究活動
ため,観測対象天体の選出と,観測予測シミュレーションを行っている.科学観測のほか,検出器の較正にも用い
る.これまでに蠍座 X1,ケプラー超新星残骸,かに星雲,IC443 などの X 線天体の観測を実施している.
Ⅱ-2-d-54
「はやぶさ」における小惑星蛍光X線元素組成分布と硫黄,鉄の存在度推定
共同研究員
荒井武彦
准教授
大学院学生
小川和律
共同研究員
岡田達明
助
教
山本幸生
白井
教
授
加藤
慶
學
「はやぶさ」搭載蛍光X線スペクトロメータの観測視野は約 3.5 度であり,ランデブー時のホームポジションか
らほぼ小惑星全体を観測する.小惑星の自転によって自転位相による元素分布を調べることができる.任意形状の
小惑星に対して,太陽 X 線を照射した場合に観測される X 線スペクトルの算出,逆問題として元素組成を推定す
る手法を考案し,解析ツールを構築している.特に硫黄の分布と鉄の存在度について解析を進めた(Arai et al.
2008).
Ⅱ-2-d-55
「SELENE」搭載用蛍光X線分光計の開発
教
授
加藤
學
准教授
岡田達明
共同研究員
白井
助
教
山本幸生
共同研究員
荒井武彦
大学院学生
小川和律
常深
立教大・理
北本俊二
阪大・理
宮田恵美
阪大・理
博
教
授
慶
藤村彰夫
月周回探査「SELENE」に搭載する蛍光X線分光計の開発を行っている.本機器は,月面の極域を除くほぼ全域
を,主要元素 Mg,Al,Si については空間分解能 20km,その他 Ca,Ti,Fe についても高い分解能でマッピング探査
を行う.「はやぶさ」用の蛍光 X 線スペクトロメータの後継機であり,基本原理は同じであるが,総有効面積を
100cm2 と大口径化している.また,PIN 型フォトダイオードによる太陽X線直接モニタも実施する.2006 年度ま
でで全ての地上試験が終了した.
Ⅱ-2-d-56
月・惑星蛍光X線スペクトルの数値シミュレーションの高精度化と月ミッションへの応用
大学院学生
小川和律
共同研究員
白井
慶
准教授
岡田達明
助
教
山本幸生
共同研究員
荒井武彦
教
授
加藤
ウェールズ大
學
マニュエル・グランデ
SELENE をはじめとする今後の月惑星蛍光 X 線探査において,観測精度向上を目指すために蛍光 X 線数値シミ
ュレーション用コードの高精度化を進めている.合わせて室内実験を行うことで検証している.
Ⅱ-2-d-57
「SELENE-2」月着陸実験におけるサイエンスシステムの検討
准教授
中央大・工
岡田達明
國井康晴
教
准教授
授
加藤
學
久保田孝
JAMSTEC
杉原孝充
SELENE-2 ローバ・サイエンス分科会
「SELENE-2」のサイエンスを実現するためのシステム設計を進めている.現状ではミッションが成立する最小
限必要なシステムの検討を行ってきたが,今後はリソース的に許容される範囲で最適化してゆく.また,越夜によ
る低温対策についての検討も行っている.
Ⅱ.研究活動
89
Ⅱ-2-d-58
「SELENE-2」月着陸実験用X線蛍光・回折分析装置の基礎開発
准教授
岡田達明
共同研究員
白井
助
山本幸生
共同研究員
荒井武彦
教
慶
大学院学生
教
授
小川和律
加藤
學
将来の惑星着陸探査用の小型ランダ・ローバ搭載 X 線蛍光・回折分析装置の基礎開発を進めている.X 線蛍光
による主要元素分析,X 線回折による結晶構造解析は,惑星表面物質のその場分析として最も基本的な測定項目で
ある.本装置は X 線 CCD を用いることによって,1 つのセンサで同時に実施することができる.現在は特に,
「SELENE-2」搭載用に概念設計を進めている.
Ⅱ-2-d-59
カーボンナノチューブを用いた FE 型小型 X 線管球の基礎開発
准教授
岡田達明
大学院学生
小川和律
共同研究員
白井
慶
助
山本幸生
共同研究員
荒井武彦
教
加藤
學
教
授
将来の月惑星探査用として,小型 X 線管球の開発を進めているが,とくにカーボンナノチューブを用いた電界
放射型(FE 型)の管球は将来有望であるため,実験室モデルを試作し,性能評価を進めている.岩石の蛍光 X 線
分析等が十分可能なことまでは確認できた.岩石の結晶ごとの分析を可能とするマッピング型管球の研究に取り組
んでいる.また,小型モデルを試作し,性能を確認した.改良型の試作 2 号機を製作中である.
Ⅱ-2-d-60
「SELENE-2」月着陸実験用総合分析パッケージの検討
准教授
岡田達明
中央大・工
國井康晴
助
教
大竹真紀子
JAMSTEC
杉原孝充
阪大・理
佐伯和人
明治大・工
黒田洋司
大学院学生
小野正太
准教授
久保田孝
教
授
加藤
學
小型のローバやランダに搭載する分析装置は,試料の採取後に搬送・加工を施した後で複数の分析装置にかける
必要があるため,これらをパッケージ化するのがリソース的に効率がよい.そこで,パッケージ化の方式の概念検
討,および岩石搬送・固定部の試作を行っている.
Ⅱ-2-d-61
「SELENE-2」用試料採取のためのロボットアームおよびエンドエフェクタの開発
准教授
岡田達明
准教授
田中
智
教
大槻真嗣
准教授
久保田孝
中央大・工
國井康晴
教
加藤
助
授
學
2m 長のロボットアームの小型軽量化と試作による評価は,今後の月惑星着陸探査における重要な開発点である.
今回,地上用モデルのロボットアームを試作し,その制御方法を開発した.現時点で 5kg 相当の荷物を約 6kg のア
ームで搬送できることが確認できている.月面においてはさらに構造的軽量化も可能である.今後はこのアームの
間接部の改良,およびこれを用いたフィールド試験を実施し,実際のサンプリング性能を検討してゆく.
Ⅱ-2-d-62
「SELENE-2」用岩石研削装置の開発
准教授
岡田達明
中央大・工
國井康晴
准教授
久保田孝
豊田工大
古谷克司
阪大・理
佐伯和人
教
加藤
授
學
月惑星でのその場岩石学的研究には,転石をそのまま分析するだけでなく,部分的に研磨することによって内部
組織や組成の分布を観察・分析することが可能になる.そのための研削技術は極めて重要であり,超音波振動方式
による研削装置の基礎開発を進めている.現在までに,低硬度の岩石の研削は成功しており,高硬度の岩石の研削
のために研削ホーン先端部の構造や材質の改良を進めている.
90
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-d-63
「SELENE-2」用全方位眺望分光撮像カメラの開発
大阪大・理
佐伯和人
甲南大・理
海老塚昇
准教授
岡田達明
将来の月面探査において,着陸地点の周囲の岩石や露頭を可視・近赤外分光カメラによって岩石の特徴を調べ,
ローバによる探査計画の立案に結びつけるカメラの搭載化検討,および試作を行っている.グリズム系による分光
光学で小型軽量のシステムの構築を目指している.
Ⅱ-2-d-64
「ベピ・コロンボ」水星探査計画での蛍光X線分光計の検討
准教授
岡田達明
教
加藤
授
學
ウェールズ大
レスター大
M. Grande
G. Fraser
国際共同水星探査計画「ベピ・コロンボ」の水星周回探査機 MPO に搭載する蛍光 X 線分光計についての機器提
案,検討を行っている.水星からのX線観測(MIXS),太陽 X 線モニタ(SIXS)の 2 種類のセンサ構成とし,デ
ータ解析用データベース構築や熱試験に関して担当する.
Ⅱ-2-d-65
「ベピ・コロンボ」における水星表面・内部構造の研究
准教授
岡田達明
水星は原始太陽系の太陽系内縁部の特徴をもった形成過程や進化過程を経たと考えられており,それらを反映す
る特徴が現在の水星表面や内部構造に現れていると考えられる.そこで,水星探査によって,これらの謎を解明す
る糸口がつかめる.今後,NASA の「メッセンジャ」と「ベピ・コロンボ」による観測結果から得られると考えら
れるデータから判定し得る水星の起源と進化について検討している.
Ⅱ-2-d-66
惑星表面からの蛍光X線スペクトルの鉱物粒子効果の研究
准教授
岡田達明
助
教
山本幸生
教
授
加藤
學
惑星表面はレゴリスに覆われており,ガラス質や合金などの均質組成ではなく,粒子レベルの規模で表面組成は
不均質である.蛍光 X 線観測によって元素定量分析を行うには,その効果を詳細に調べる必要がある.複数の鉱
物の混合物と,それをガラス化し均質な試料とで,蛍光 X 線スペクトルの変化を実験的に調べた.また,モデル
計算も実施し,鉱物粒子効果の定量化・定式化を行っている.
Ⅱ-2-d-67
惑星表面の粒子サイズ効果による蛍光X線強度・スペクトル形状変化の研究
准教授
岡田達明
大学院院生
小川和律
大学院学生
教
授
川村太一
加藤
學
惑星表面は平滑な面ではなく,レゴリスの代表的粒子サイズである数 10 ミクロン程度の微小凹凸で覆われてい
る.この微小凹凸によって,各元素の蛍光 X 線強度比が太陽位相角によって大きく影響を受けることが分かった.
さらに実験およびモデル計算を進めることによって,粒子サイズ効果の定量化・定式化を進めている.
Ⅱ.研究活動
91
Ⅱ-2-d-68
チャンドラヤーン 1 号搭載蛍光X線分光計 C1XS による月元素組成探査の研究
岡田達明
准教授
大学院学生
小川和律
教
授
ウェールズ大
M. Grande
ラザフォードアップルトン研究所
ロンドン大
I. Crawford
ISRO/ISAC
加藤
學
B. Kellett
Shyama Narendranath
インドの月探査機チャンドラヤーン 1 号に搭載される蛍光X線分光計 C1XS と SELENE 搭載 XRS との間では相
互協力に高い価値があり,共同で観測する予定である.C1XS の科学検討に参加し,観測提案やモデルの向上を行
っている.
Ⅱ-2-d-69
月面小型クレータの形態,密度と月の表層進化との関連
准教授
岡田達明
本田親寿
宇宙航空プロジェクト研究員
九大・理
並木則行
月面の小型クレータの形態から,表層下の地質の層状構造を調べることができる.また,地下構造の特徴は小型
クレータのサイズ分布に反映されることが知られる.小型クレータの検出と分布の調査には,デジタル画像データ
に対する自動抽出方法を研究開発する.一方,小型クレータの頻度分布はローカルな地質の年代を表すと考えられ,
それを基に表層進化の過程を調べる試みを行っている.将来は「LUNAR-A」搭載カメラ LIC で行う予定の観測項
目であるが,惑星画像解析センターの画像を用いて研究している.
Ⅱ-2-d-70
月面小型クレータの存在密度の太陽高度依存性
准教授
岡田達明
宇宙航空プロジェクト研究員
本田親寿
大学院学生
小野正太
宇宙航空プロジェクト研究員
教
授
諸田智克
加藤
學
月や惑星の表面の年代はクレータサイズ密度分布から間接的に求めるのが一般的であるが,小型クレータの検出
限界は太陽高度によって大きく影響を受ける,即ち年代決定の誤差が大きくなる可能性は以前から指摘されていた.
今回,アポロ・マッピングカメラのデジタル画像を用いて異なる 3 つ以上の太陽高度で撮像された画像のある月面
の 10 ヵ所の地域で,クレータサイズ密度分布と太陽高度の関係を初めて系統的に調べた.その結果,太陽高度依
存性が確かに存在し,表面年代によらずクレータサイズ密度分布が太陽高度との相対比が一定の関係で変化するこ
と,過去の研究で数億~10 数億年見誤った例があることなどが分かった.
Ⅱ-2-d-71
地中レーダによる月惑星表層探査の基礎研究
准教授
岡田達明
教
春山純一
東大・工
宮本英昭
助
主任開発員
韓国地質研究所(KIGAM)
西堀俊幸
小林敬夫
地中レーダは月惑星表層数 10mから 1km 程度の構造を探査する有力な手法であるが,今後主流となる表面探査
においてその重要性が増大するため,特に月面での表層下探査での有用性の検討とアンテナ方式の最適化のための
基礎開発を開始した.ビバルディアンテナ等の比較的広帯域かつ周波数を任意に取れる方式の試作を行い,また砂
箱での室内実験,フィールド実験を通じて評価を進めている.
Ⅱ-2-d-72
将来月惑星着陸機のためのガンマ線分光計の基礎開発
助
教
准教授
三谷烈史
助
教
山本幸生
准教授
岡田達明
高島
助
教
渡辺
教
高橋忠幸
健
伸
授
太陽系の月・惑星に探査衛星を送り込み,元素組成を明らかにしていくことは,その天体の起源・進化を問うう
えで,最も基本的かつ重要な観測である.そこで,将来の月・惑星探査における月・惑星表面上への着陸機・ロー
92
Ⅱ.研究活動
バーへの搭載を目指し,3MeV 程度までの元素固有のラインガンマ線同定による元素分析を行う検出器の開発を始
めた.低電力・小型の検出器を目標とし,テルル化カドミウム(CdTe)半導体を積層し,アナログ LSI で読み出
す「積層型 CdTe 検出器」の製作を進めている.また,最適な積層段数/配置を求めるために,シミュレーション
を用いた評価を行っている.
Ⅱ-2-d-73
小型衛星 SPRITE-SAT 搭載のガンマ線カウンターの開発
教
三谷烈史
准教授
東大・理
中澤知洋
東大・理
助
高島
健
東大・理
榎戸輝揚
牧島一夫
東北大学
高橋幸弘
近年の観測により地球から数 10MeV まで到達する様なガンマ線が数 msec という短時間に放射される現象が発
見された.これは雷電場により加速された粒子からの放射であると考えられているが,地球上でこのような高エネ
ルギーまでの加速が自然に行われているということは驚くべきことであった.東北大学による小型衛星 SPRITESAT に搭載されるガンマ線カウンターは,この雷起因のガンマ線を捉えるべく開発された CsI シンチレータと
APD からなる小型検出器である.この FM 品の製作を今年度後半に急ピッチに進め,現在衛星搭載に向けた熱真
空試験,振動試験,衛星との噛み合わせ試験を行っている.
Ⅱ-2-d-74
窒素雰囲気中での炭素質隕石の蒸発実験
客員准教授
杉田精司
東京大学
黒澤耕介
東京大学
関根康人
JASTEC
大河内直彦
有機物を豊富に含む隕石(炭素質隕石)を標的として Nd:YAG レーザーの照射によって蒸発をさせた.また,
実験チェンバーの雰囲気には,原始地球大気を模擬した CO2-N2-H2O の混合気体を用いた.生成したガスと凝縮物
は,それぞれガスクロマトグラフ質量分析計(GCMS)と FTIR で分析を行い,生命の起源に大きな影響を持って
いた可能性がある HCN 分子と CN 化合物の収量を計測した.今年度は,これまで計測が行われていなかった凝縮
物中の CN 結合の定量分析の分析に力を入れて実験を行った.実験の結果は,標的物質に鉄が多く含まれる場合に
は HCN ガスの収量は減少するものの,凝縮物質中の CN 結合の存在度は高くなることが判明した.この結果は,
これまでの模擬物質を用いた実験で得られたシアン化合物の天体衝突による生成という化学反応過程が,実際の炭
素質隕石に対しても起きることを強く示唆し,今から約 38~40 億年前の隕石重撃期における炭素質隕石の大量衝
突の際に地球に大量の有機物が供給された可能性を示唆する.
Ⅱ-2-d-75
Laser-induced breakdown spectroscopy(LIBS)法による惑星表面の元素組成測定法の開発
客員准教授
杉田精司
東京大学
鎌田俊一
東京大学
黒澤耕介
東京大学
鈴木絢子
東京大学
長雄一郎
東京大学
丸山智志
東京大学
小澤一仁
JAXA/ISAS
岡田達明
東京大学
松井孝典
将来,月や火星から試料を持ち帰る探査を行う場合には,どの試料を持ち帰るべきかその場で選択することは,
非常に重要な作業である.この試料選択に際しては,試料の元素性を簡便かつ正確に測定できることが望まれる.
このような需要に対しては,Laser-induced breakdown spectroscopy 法(レーザー誘起絶縁破壊分光法(LIBS))が非
常に有効であるという主張があり,2011 年打ち上げ予定の Mars Science Laboratory 探査機には,LIBS 装置が搭載
予定である.しかし,LIBS という計測方法はその特性がきちんと解明されているわけではなく,今後の探査機搭
載のためには多くの基礎実験が必要な段階にある.本研究計画では,Nd:YAG レーザーと可視分光計を用いて
LIBS システムを組み,LIBS の基本性質を一つ一つ解き明かすことが目的である.本年度は,レーザー照射頻度の
増加に伴って観察されるレーザーパルス一発あたりの発光量増加を定量的に評価し,かつこの現象の物理的な原因
を解明することに主眼を置いた.実験では,中間赤外カメラでの観測を行い,ターゲットの岩石が大きく昇温する
Ⅱ.研究活動
93
ことがレーザープリュームの発光状況を大きく変化させることを見いだした.また,レーザープラズマの温度と電
子密度の観測も同時に行ったが,これらの変化は有意に起きないことが確認された.これらの結果は,探査機搭載
用の測器として開発する上で重要な知見であると期待している.
Ⅱ-2-d-76
惑星探査機搭載用小型可視・近赤外分光計の基礎開発
准教授
安部正真
大学院学生
二村徳宏
ローバ搭載を考えている小型分光計で得られるデータは,地上観測やオービタ観測に比べ,局所的な地形による
入出射角の変化やレゴリスの粒径の影響が大きくなる.そのため,入射角,出射角が可変である可変角反射測定装
置を用いて小惑星に存在する鉱物の可視・近赤外反射率測定を行っている.
Ⅱ-2-d-77
「はやぶさ」ミッションターゲットの地上観測
准教授
安部正真
神戸大
北里宏平
大学院学生
川上恭子
大学院学生
猿楽祐樹
開発員
長谷川直
ソウル大
石黒正晃
2003 年打ち上げに成功した「はやぶさ」ミッションの探査ターゲット小惑星である Itokawa に関するデータを収
集するために地上観測を行ってきた.Itokawa のライトカーブデータを 2001 年から 2007 年まで総合的に解析し,
Itokawa の自転周期変動と YORP 効果の関係を調査した.
Ⅱ-2-d-78
次期小天体探査計画探査候補天体の地上観測
准教授
安部正真
大学院学生
川上恭子
神戸大
北里宏平
大学院学生
猿楽祐樹
台湾中央大学
木下大輔
開発員
長谷川直
次期小天体探査計画探査候補天体のスペクトルタイプや自転周期を推定するために,東京大学木曽観測所の
1.05m シュミット望遠鏡や海外の望遠鏡を用いて多色測光や連続測光などの観測を実施している.
Ⅱ-2-d-79
「はやぶさ 2」探査候補天体 1999JU3 の地上観測
准教授
安部正真
大学院学生
川上恭子
神戸大
北里宏平
大学院学生
猿楽祐樹
台湾中央大学
木下大輔
開発員
長谷川直
国立天文台
黒田大介
はやぶさ 2 探査対象として最も有力なターゲットである,1999JU3 が 2007 年から 2008 年にかけて観測好機を迎
えた.これまでスペクトル型が C 型であるという情報しかなかったため,我々は観測キャンペーンを実施し,小
惑星の自転周期や自転軸の向き,形状に関する情報を得るために,ライトカーブ観測を実施し,自転周期などの情
報を明らかにした.
Ⅱ-2-d-80
「はやぶさ 2」探査候補天体 1999JU3 の熱赤外観測
准教授
安部正真
大学院学生
川上恭子
ハワイ大
春日敏測
開発員
長谷川直
助
教
和田武彦
国立天文台
板
国立天文台
高遠徳尚
国立天文台
藤吉拓哉
国立天文台
寺田
由房
宏
はやぶさ 2 探査対象小惑星である 1999JU3 の熱赤外観測をすばる望遠鏡の COMICS および赤外線天文衛星「あ
かり」の IRC を用いて行った.この観測と可視光による観測結果を組み合わせて,小惑星の反射率と大きさの推
定を行った.
94
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-d-81
「はやぶさ」ミッションターゲット熱モデルの構築
准教授
安部正真
開発員
長谷川直
ハワイ大
春日敏測
大学院学生
川上恭子
ドイツマックスプランク研究所
T. Muller
2005 年に探査機「はやぶさ」が探査を行った小惑星 Itokawa の表面温度分布および表面物質の熱物性を見積もる
ために小惑星熱モデルの構築を行った.2001 年と 2004 年に行った地上観測などでえられた情報のみから推定され
た Itokawa の温度・サイズ・アルベドは探査機による近傍観測による結果と非常によい一致を得た.今年度新たに
赤外線天文衛星「あかり」による熱赤外観測を実施している.その結果とはやぶさが実際の観測で明らかにした詳
細な形状モデルを組み合わせて,現在より詳細な熱モデルを構築中である.
Ⅱ-2-d-82
惑星物質受入施設におけるサンプル拡散反射測定装置の開発
准教授
安部正真
大学院学生
ブラウン大
廣井孝弘
開発員
川上恭子
矢田
達
大学院学生
二村徳宏
教
藤村彰夫
授
「はやぶさ」が回収する小惑星試料の拡散反射および透過スペクトルの測定を行う装置の開発を行った.可視域
から近赤外域の拡散反射スペクトルを分析チャンバーの窓を介して非接触で測定できることを確認した.
Ⅱ-2-d-83
小惑星分光型と宇宙物質試料の可視・近赤外分光データの比較
准教授
安部正真
神戸大
北里宏平
大学院学生
二村徳宏
ブラウン大
廣井孝弘
隕石中に含まれる代表的な鉱物や普通コンドライトの粉末などの試料について,位相角やサイズ分布による可
視・近赤外分光プロファイルの依存性を評価している.その結果は,小惑星の地上観測データと比較評価されてい
る.
Ⅱ-2-d-84
小惑星探査機搭載用赤外線検出器の開発
准教授
安部正真
愛知東邦大
高木靖彦
神戸大
北里宏平
小惑星探査機搭載用の赤外分光器は地球周回衛星搭載用の分光器に比べて軽量であることが要求される.しかし,
探査機自身が対象天体に接近するため,一般天文観測に比べて感度を必要としない.そのような点を考慮して電子
冷却程度で使用可能な宇宙用の赤外線検出器の開発を行っている.本年度は InAs のリニアアレイの試作と性能デ
ータ収集を行った.
Ⅱ-2-d-85
近地球型小惑星の軌道データの収集と探査候補天体の捜索
准教授
安部正真
准教授
川勝康弘
開発員
長谷川直
年間 500 個近く発見されている近地球型小惑星の軌道情報の入手及び整理をすばやく行い,エネルギー的に探査
機の到達しやすい小惑星の早期発見を行っている.その結果をもとに地上観測を行い,科学的に探査する意義が高
い惑星の選定を行っている.
Ⅱ.研究活動
95
Ⅱ-2-d-86
「はやぶさ」搭載近赤外分光器観測データを用いた小惑星 Itokawa の表面の宇宙風化の研究
准教授
安部正真
ブラウン大
廣井孝弘
神戸大
北里宏平
台湾中央大學
阿部新助
国立天文台
佐々木晶
ソウル大
石黒正晃
愛知東邦大
イサカ大
ジョンホプキンス大
高木靖彦
Beth Clark
Barnouin-Jha
2005 年に小惑星 Itokawa を探査した「はやぶさ」に搭載されている近赤外線分光器を用いて得られた Itokawa の
表面反射スペクトルの解析を行っている.初期の解析の結果,イトカワの表面には明るさの違いがあり,明るい部
分は宇宙風化の程度が低く,より普通コンドライト隕石に近いスペクトルを持つことが明らかになった.このこと
から,これまで謎とされていた普通コンドライトと S 型小惑星の関係について,両者は関連していることが明ら
かになった.本年度は宇宙風化の進行度の場所による違いについて調査した.
Ⅱ-2-d-87
「はやぶさ」搭載近赤外分光器観測データを用いた小惑星 Itokawa の表面の鉱物種分布の研究
准教授
安部正真
神戸大
北里宏平
愛知東邦大
高木靖彦
ブラウン大
廣井孝弘
台湾中央大學
阿部新助
イサカ大
Beth Clark
アリゾナ大
Faith Vilas
2005 年に小惑星 Itokawa を探査した「はやぶさ」に搭載されている近赤外線分光器を用いて得られた Itokawa の
表面反射スペクトルの解析を行っている.初期の解析の結果,Itokawa の表面には明るさの違いがあるものの,鉱
物種の違いはほとんどないことが分かった.この結果イトカワは熔融を経験していない未分化な表面を持っている
と考えることができる.このことは Itokawa の表面物質が普通コンドライトと対応している推定を支持するもので
ある.
Ⅱ-2-d-88
「はやぶさ」搭載近赤外分光器観測データを用いた Itokawa 表面物質の光散乱特性の研究
神戸大
北里宏平
准教授
安部正真
イサカ大
Beth Clark
アリゾナ大
Faith Vilas
愛知東邦大
高木靖彦
ブラウン大
廣井孝弘
台湾中央大學
阿部新助
2005 年に小惑星 Itokawa を探査した「はやぶさ」に搭載されている近赤外線分光器を用いて得られた Itokawa の
表面反射スペクトルの解析を行っている.イトカワの表面をさまざまな入・反射角および太陽位相角条件で観測し
たデータを総合的に解析することで,Itokawa の表面物質の光散乱特性を調べることが可能である.この解析デー
タをもとに Itokawa の観測データの幾何補正式を得ることに成功した.この結果は Itokawa 表面のマップ作成に際
して欠かせない情報である.
Ⅱ-2-d-89
「はやぶさ」搭載近赤外分光器観測データを用いた Itokawa 表面物質の粒子サイズに関する研究
神戸大
北里宏平
准教授
安部正真
アリゾナ大
Faith Vilas
愛知東邦大
高木靖彦
イサカ大
Beth Clark
ブラウン大
廣井孝弘
台湾中央大學
阿部新助
Itokawa 表面の光散乱特性のデータの解析から,Itokawa の表面の各場所における粒子サイズに関する情報を抽出
することが出来る.本年度は解析から推定される粒子サイズの場所による違いを調べた.
96
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-d-90
「はやぶさ」搭載近赤外分光器の In-flight 較正の研究
准教授
安部正真
アリゾナ大
Faith Vilas
NASA
Paul Abell
神戸大
北里宏平
愛知東邦大
高木靖彦
ブラウン大
廣井孝弘
台湾中央大學
阿部新助
イサカ大
Beth Clark
2005 年に小惑星 Itokawa を探査した「はやぶさ」に搭載されている近赤外線分光器を用いて得られた Itokawa の
表面反射スペクトルの解析を行っている.この観測データを地上観測で得られた反射スペクトルデータと比較する
ことで,近赤外線分光器の In-flight 較正を行うことができる.航行中にモニタしている較正ランプなどのデータと
合わせて,現在航行中の分光器の感度データの較正を行っている.
Ⅱ-2-d-91
次期小天体探査計画の検討
准教授
吉川
准教授
准教授
真
准教授
吉光徹雄
川勝康弘
助
教
准教授
安部正真
創
愛知東邦大
矢野
岩田隆浩
助
教
森
高木靖彦
治
茨城大
野口高明
小天体 WG
出村裕英
会津大
「はやぶさ」ミッションに続く次の小天体探査計画の検討を行っている.理学委員会の下で WG 第 5 年目の活動
を行った.科学目標の明確化,ミッション候補案の検討,試料採取法の検討を進めた.
Ⅱ-2-d-92
小惑星 Itokawa の YORP 効果に関する研究
安部正真
准教授
ミシガン大
D. Scheeres
准教授
吉川
真
「はやぶさ」の観測によって得られた形状モデルをもとにして,YORP 効果の見積もりを行った.その結果を今
後行われる地上観測結果と比較することで理論と観測との比較検証を行い,小惑星表面物質における熱慣性に関す
る情報を得る予定である.
Ⅱ-2-d-93
はやぶさサイエンスデータアーカイブの研究
准教授
安部正真
神戸大
北里宏平
准教授
吉川
助
山本幸生
教
真
「はやぶさ」で取得した科学データを研究者に供与する目的で,サイエンスデータアーカイブの構築を行ってい
る.
Ⅱ-2-d-94
はやぶさサイエンスデータの国際相互利用化の研究
准教授
安部正真
准教授
吉川
真
惑星科学研究所
助
教
Don Davis
山本幸生
「はやぶさ」で取得したサイエンスデータを海外の研究者にも使いやすくするために,サイエンスデータの相互
利用化の研究が進められている.NASA とは PDS 化する作業がすでに進んでいる.並行して ESA との相互利用化
も視野に入れ可視化ツールの作成などを検討している.
Ⅱ.研究活動
97
Ⅱ-2-d-95
惑星内部構造の研究
教
授
藤村彰夫
助
教
白石浩章
助
教
准教授
早川雅彦
田中
智
地球以外の天体で地震学的な情報が得られている月について,サイズ,質量,慣性能率の密度分布,地震波速度
分布,温度分布から岩石学的内部構造を推定した.今後は月の地震学的データの見直しを含め,モデルの精密化を
進めると共に他の惑星や衛星についても研究を進める予定である.
Ⅱ-2-d-96
月の地殻熱流量の再解析
田中
准教授
智
教
授
藤村彰夫
大学院学生
斎藤靖之
助
教
白石浩章
助
早川雅彦
教
月の地殻熱流量計測はこれまでアポロ計画において 2 地点で行われた.このデータ解析は地形補正など多くの点
でまだ不十分であるとの指摘がある.クレメンタインやルナープロスペクタといった月探査機のガンマ線スペクト
ルデータや高度データを使い,これまでの熱流量データの解析を一新することを目指し再解析を進めている.今ま
でにレゴリス層の厚さの水平方向不均質を考慮すると,表面で観測される熱流量値は局所的に大きな変化があり得
ることを数値的に示した.このため,アポロ計画で得られた観測値はその地域の代表的平均値から 20%程度ずれ
ている可能性が指摘された.
Ⅱ-2-d-97
月震データベースの研究
助
教
白石浩章
助
教
早川雅彦
教
授
准教授
藤村彰夫
田中
智
アポロ地震計ネットワークで得られた月震データは合計で約 125GB 程度と膨大であるために,その検索や解析
には大変めんどうな手続きを必要としている.本研究ではこのアポロ月震データを効率的,高速に解析するために,
データベース化を行いさらにその検索,解析に必要なソフトウェアの開発を行っている.
Ⅱ-2-d-98
月熱流量解析の研究
准教授
田中
智
教
白石浩章
助
教
早川雅彦
大学院学生
斎藤靖之
教
授
藤村彰夫
助
月面にペネトレータを設置して熱流量計測を実施する場合の諸問題を,実験的,解析的,理論的に研究している.
ペネトレータの各構成部毎について熱真空条件での熱物性の計測,熱数学モデルの構築と数値解析,ペネトレータ
全熱物性の熱真空データ取得と数値解析結果を踏まえ,ペネトレータ全機熱数学モデルと月面環境を反映したモデ
ル構築と数値解析を実施している.
Ⅱ-2-d-99
地震計の非線形バネ特性と長周期化用磁気力の研究
教
授
藤村彰夫
教
白石浩章
研究員
横田康弘
大学院学生
山田竜平
准教授
田中
助
智
「LUNAR-A」ペネトレータ用月震計は小型・軽量・省電力であって,長周期化のために磁場を利用した磁気力制
御と非線形ダイヤフラムバネを採用している.この月震計の振子端周囲の磁場と,振子の変位と力の関係を精密に
3 次元計測するシステムを構築し,これ等が地震計センサー特性に与える影響についての実験的研究を進めている.
磁場の軸対称性の重要性や振子の中立位置が非線形ダイヤフラムバネに与える影響について明らかとなってきてい
98
Ⅱ.研究活動
る.月震の規模と同程度の地球上の小さな地震の観測を実施して,地震計振子の変位量が少ない場合についての動
作について研究を進めている.
Ⅱ-2-d-100
月・惑星内部構造探査のための広帯域地震計の開発研究
教
白石浩章
東工大
小林直樹
中央大
鹿熊英昭
中部大
山田功夫
大学院学生
山田竜平
准教授
田中
教
藤村彰夫
助
授
智
LUNAR-A ペネトレータ用搭載として開発した月震計は固有周期 1 秒の短周期計であるが,それをベースとした
広帯域計への改良を検討している.特に,次期月探査で軟着陸による内部構造探査を提案するため,小型・軽量・
耐衝撃性構造を維持したままフィードバック機構を付与した改良を行い,有効な観測帯域を広げた月震計の搭載を
目標として開発を進めている.
Ⅱ-2-d-101
小惑星内部構造探査用ペネトレータシステムの開発研究
准教授
田中
智
教
授
藤村彰夫
助
教
白石浩章
助
矢野
創
東工大
小林直樹
教
授
石井信明
教
未分化小天体は予想に対して平均密度が小さく,その理由を明らかにするために内部構造の解明が始原天体研究
における最重要課題の一つである.我々は地震学的に内部構造を解明するために小天体にペネトレータを貫入させ,
人工地震観測を行なうためのシステム開発研究を行っている.本研究は,ESA が 2011 年に打ち上げを目指す小惑
星探査ミッション「通称:ドンキホーテ」にペネトレータシステムを搭載することを前提として行った.我々は
LUNAR-A ペネトレータ開発成果を踏まえ,搭載機器や製造技術をできるだけ活用することをベースにした検討を
行い,ペネトレータの諸元(重量やサイズ,構造など)や投下システム(投下方法,貫入速度など)の概念検討を
行った.また,地震観測システムに求められる性能,仕様を決定するために人工地震源のエネルギーで励起される
小惑星の振動モードに対する地動振幅を推定した.ペネトレータを未知の小天体に貫入させる場合に重要となるペ
ネトレータの潜り込み特性に関する半経験的な検討を実施し,物理条件が確定していない未分化小天体表層への潜
り込みについて制約条件を求めた.
Ⅱ-2-d-102
月惑星探査ランダー搭載用自律化掘削システムの基礎開発研究
准教授
田中
智
教
授
藤村彰夫
大学院学生
小川和律
准教授
久保田孝
助
教
白石浩章
大学院学生
永岡健司
教
小松敬治
授
月面や惑星表層は通常熱伝導率が極めて悪い粉体(レゴリス)で覆われている.このために非常に高い断熱効果
が期待され,数 10cm~1m 深さでは昼夜間の温度差はほとんどなくなる.従って長期間の寿命が必要な観測機器を
設置するのに大変良好な条件である.本研究では着陸機に搭載可能で地震計などを搭載できる適切なサイズ,重量
を有し,自律的な動作,ロジックでメートルオーダーの深さまで貫入させることが可能なシステムの基礎開発を行
っている.
Ⅱ.研究活動
99
Ⅱ-2-d-103
月惑星表層(レゴリス)の物理的,機械的性質に関する基礎研究
准教授
田中
智
教
授
藤村彰夫
大学院学生
斎藤靖之
准教授
久保田孝
助
教
白石浩章
大学院学生
永岡健司
教
小松敬治
授
月面や惑星表層は数 10 億年にわたって隕石の衝突が繰り返された結果生成されたものであり,非常に細粒の粉
体様物質で覆われている.これらの粉体物質が表層付近でどのような物理的,機械的な性質を有するかはペネトレ
ータの貫入ダイナミクスだけでなく将来のランダーによる月惑星表層での種々の観測(地震観測,熱流量観測,地
質観測)などのためにも不可欠な基礎的なデータである.我々は微細な粉体を均質に圧密できる装置を開発し,
種々の圧密条件や粒度分布で物理的,機械的の基礎データ取得をすすめている.
Ⅱ-2-d-104
「はやぶさ」搭載用蛍光 X 線スペクトロメータの開発と初期観測
教
加藤
授
學
共同研究員
荒井武彦
阪大・理
宮田恵美
大学院学生
小川和律
助
教
山本幸生
教
藤村彰夫
立教大・理
北本俊二
准教授
岡田達明
授
共同利用研究員
白井
慶
客員教授
常深
博
「はやぶさ」小惑星探査計画では,太陽系始原天体である小惑星のひとつ 25143 Itokawa(1998SF36)にランデブ
ーし,小惑星の近傍から小惑星の探査を行う.蛍光 X 線観測スペクトロメータは太陽 X 線が小惑星表面に照射す
ることで励起される元素に固有なエネルギーをもつ蛍光 X 線を観測し,小惑星表面の主要元素組成を調べる.
本機器は,エネルギー分解能の良好な CCD を X 線検出器に用いること,極薄ベリリウム窓を使用すること,標
準試料を用いて機上で太陽 X 線による蛍光 X 線励起の較正を行うことによって,エネルギー検出範囲の拡大,元
素組成の決定精度の向上を図っている.2003 年 5 月 9 日に打上げに成功し,以後は初期動作確認,宇宙 X 線の観
測を行いながら機上での調整を進めている.
Ⅱ-2-d-105
惑星物質試料受け入れ設備の機能性能確認
教
授
准教授
藤村彰夫
教
田中
准教授
智
九州大
學
開発員
安部正真
岡山大・地球物質
中村智樹・岡崎隆司
茨城大
授
加藤
矢田
達
富岡尚敬・辻森
樹・国広卓也
野口高明
2007 年度に完成した共同利用の惑星物質試料受け入れ設備は最初に「はやぶさ」が回収する小惑星「イトカ
ワ」のサンプルを受け入れ,保管,管理を実施すると共に,将来にわたって試料の記載や配分等を行う.これら以
外にも今後のサンプルリターンに関連する基礎的研究も行うことを目的としている.惑星物質試料は地球物質によ
る汚染を極力防止した状態での取り扱いが要請される.このための特殊な仕様を持つ設備について,はやぶさプロ
ジェクトの一次分析チーム(HASPET)と協力して機能性能試験を実施し,設計仕様を満たすことを確認した.
Ⅱ-2-d-106
将来月探査における氷探査に向けたペネトレータの研究
助
教
大竹真紀子
産業技術総合研究所
中村良介
准教授
田中
智
将来の月探査において氷探査を実施する場合には極域の永久陰領域に着陸し,地下数十 cm に存在すると考えら
れている氷をその場観測することを可能とするシステムが必要になる.このような非常に厳しい条件において氷探
査を実現するためのシステムとして,ペネトレータに質量分析計等観測機器を搭載することを考え,そのフィージ
ビリティー(特に,現状実現可能な電力量を想定した場合のペネトレータ内部の温度プロファイルから,観測可能
な温度条件を何日確保可能か)について検討を行った.
100
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-d-107
極微小試料ハンドリング用静電制御型マニピュレータの開発と応用
教
藤村彰夫
授
九州大学部学生
小川真帆
准教授
安部正真
開発員
矢田
達
極微小試料ハンドリングを目的とした静電制御型マニピュレータを開発している.特徴は微小惑星物質試料粒子
の分極を利用して,マニピュレータ針に印加する極性と電圧を制御して,試料ピックアップやリリースを安全且つ
容易に実施するハンドリング性を有する.現状は先端径~μmの 2 本のマニピュレータ腕(針)間の微小試料(~
10μm以上)の受け渡しなどの複雑な操作も可能である.この装置では粒子状試料をサイズでソーティングするこ
とも可能であるので実証を行う予定である.更に,生体細胞用マイクロインジェクター機能を利用した極微小試料
の固定法確立に関する検討も実施している.
Ⅱ-2-d-108
超音波洗浄法の検討及び評価
教
授
藤村彰夫
開発員
矢田
達
准教授
安部正真
准教授
田中
智
教
加藤
授
學
超音波洗浄の周波数を 40kHz 帯,100kHz 帯,及び 1MHz 帯と換えることで,洗浄除去する粒子サイズを最適化
する清浄効果について,更に 40kHz 帯および 100kHz 帯近傍で周波数送引することで再付着を防止する粒子除去性
について検討を進めている.有機溶剤あるいは水による洗浄を実施しているが,水による場合は洗浄用洗剤などを
使用することなく,オーバーフローさせた超純水を用いることで超音波洗浄効果を向上させることを目指している.
洗浄後の接触角計測による清浄度評価は物理的洗浄法である大気圧プラズマ洗浄を施したテストピースを基準とし
て行っている.
Ⅱ-2-d-109
石英製試料封止容器の開発
教
授
藤村彰夫
准教授
安部正真
開発員
矢田
達
准教授
田中
智
有機分析チームからの要請を満たすべく,石英製の容器に惑星物質試料を清浄な不活性ガス(あるいは真空)で
密封する方法について開発研究を進めている.内部に封入する試料に対しては昇温させることなく熱環境条件を確
保し,清浄な環境を保持して,短時間に高純度石英容器を溶融密閉する新規技術である.基礎的試験は実施済みで
良好な密閉容器がほぼ想定される環境で製作できることが確認できており,今後,2010 年にはやぶさにより帰還
が予定されている惑星物質試料配布用としての利用が見込まれている.
Ⅱ-2-d-110
超高真空長期保管容器の開発
教
授
藤村彰夫
准教授
安部正真
開発員
矢田
達
隕石や宇宙塵などの地上回収試料と違って,惑星探査機によって地球にリターンされる惑星物質試料は,地球物
質による汚染が無いか,あるいは,汚染状況を制御するので履歴が明らかであり,また,採取地点情報があるなど
きわめて貴重なものである.これら試料を将来の科学分析のために清浄な環境に保管することは小惑星サンプルリ
ターンを世界に先駆けて実施しているわが国の責務であるが,このような装置も容器も存在していない.そのため,
これら貴重な試料を清浄な環境で長期保管する容器の開発を実施している.
複合電解研磨後に超精密洗浄した金属製の超高真空容器を特殊なゲッターポンプで駆動してウルトラピュアーな
超高真空環境を実現すべく検討試作を進めた.容器に取り付けた 2 台のゲッター真空ポンプの 1 台を使うなどの予
備的状況で実施した試験結果では,試料を封じ切った状態を模擬した環境において 10-8Pa 以下の超高真空環境を
1 ヶ月程度維持できている.今後更なる性能向上を目指すと共に,長期保管に関する基礎データを取得し,2010 年
Ⅱ.研究活動
101
に予定されているリターンサンプルの長期保管に供する予定である.
Ⅱ-2-d-111
超高純度窒素ガス供給システムと評価システムの開発
教
藤村彰夫
授
東工大
平田岳史
開発員
矢田
達
東大地殻化学
長尾敬介
准教授
安部正真
惑星探査機によりリターンされた惑星物質試料について,地球物質での汚染を極力制限してハンドリングを実施
するための環境として高純度窒素環境が提唱されている.これを実現するために,きわめて純度の高い液体窒素を
入手し,気化して窒素ガスを作り,更に純化することで購入可能な最高純度のガスよりもはるかに高純度な窒素ガ
スを供給するシステムを構築した.高純度液体窒素を製造する工場の選択と,途中拠点数の少ない入手経路を確保
することで液体窒素の純度を確保している.途中拠点での容器移し替えによる大気中の希ガスの混入が起これば通
常の純化装置では除去不能であるので,経路中の移し替え拠点の液体窒素タンクや搬送用容器(ELF)について混
入希ガス濃度を実測定した.特に Ar,Kr,Xe といった重希ガス濃度については大気成分の 1/1000 以下を最終の
ユースポイントでの環境で実現し,リターンされる惑星試料についての 1 次分析チームのガス分析班からの要請を
満たしている.希ガス以外の混入ガスについては 2 機種のガス純化装置を直列構成したシステムにより純化を行い,
専用ガス配管でクリーンチャンバーなどのユースポイントに供給を行っている.供給された窒素ガスの純度につい
てはユースポイントでの差動排気型 4 重極質量分析計や大気圧質量分析計などによって ppb~ppt レベルで窒素ガ
スに溶存するガス成分を不純物としてモニターしている.
Ⅱ-2-d-112
極微細固体試料の無蒸着観察及び化学分析用特殊 SEM 試料ホルダーの開発
教
藤村彰夫
授
准教授
安部正真
開発員
矢田
達
准教授
田中
智
惑星物質試料など汚染防止が要請される微小物質の走査電子顕微鏡(SEM)観察などでは,汚染防止の観点か
ら試料の帯電を防止する導電体によるコートができないため,これらが不要な低真空モードでの観察,測定で対応
している.しかし電子線照射による試料粒子の帯電に起因する飛散に対しての更なる対策は無いため,1 粒の試料
が極めて貴重な試料の飛散損失を防止する方法の確立が要請された.本開発研究では粉体状の微小試料を 1 粒 1 粒
マイクロマニピュレータなどの手段により SEM 試料ホルダーに設置後,透過電子顕微鏡用の金属メッシュによる
蓋をすることで檻に閉じ込め,メッシュ間から SEM 観察を実施する方法を新規に考案開発した.この方法により,
微細な無蒸着試料も固着することなく十分な分解能で観察し,且つ EDX による化学組成分析も一部可能なシステ
ムを構築した.開発した試料ホルダーを用いることで,試料は惑星物質試料受け入れ設備の高純度窒素雰囲気のク
リーンチャンバー内において,マイクロマニピュレータにより試料ホルダーにセットされ,そこでの窒素雰囲気を
保持した状態で SEM まで搬送され,SEM の高純度窒素雰囲気の低真空モードで試料観察,X 線化学分析に供せら
れる.
Ⅱ-2-d-113
はやぶさ試料コンテナ開封機構の開発と機能性能確認
藤村彰夫
准教授
安部正真
中村智樹・岡崎隆司
茨城大
野口高明
教
開発員
矢田
達
九大
授
岡山・地球物質
富岡尚敬・辻森
樹・国広卓也
2010 年に「はやぶさ」が小惑星「いとかわ」の試料をリターンする予定である.この帰還カプセルの試料コン
テナ部の内部状況(内部圧力,ガス組成,など)は事前に知ることはできない.この試料コンテナ内には回収され
た固体試料及びそこから放出された残留ガスなどが封入されているが,地球物質による汚染と飛散による喪失を極
力防止しつつ,コンテナ内部の残留ガス採取も実施しながら安全に開封する必要がある.このため帰還してくる試
102
Ⅱ.研究活動
料コンテナの構造と機構に対応して適切に開封するためのコンテナ開封機構を製作し,プロトモデルなどの模擬試
料コンテナを用いて種々の条件設定の下で,開封機構の機能と性能を確認する試験を実施している.
Ⅱ-2-d-114
惑星科学国際教育研究拠点の構築
客員教授
山本哲生
神戸大学および国内外の惑星科学者との連携しつつ,グローバル COE プログラム「惑星科学国際教育研究拠点
の構築」の支援のもとに,教育研究コーディネーション機能をもつ共同利用センターとしての「惑星科学研究セン
ター (CPS)」の構築に向けた活動を行いつつある.CPS では,
・個々の大学の枠を超え,惑星科学コミュニティーの種々の教育研究活動を支援
・国内外からの研究者,若手研究者,大学院生が集い交流する場,高度な知見
を集積し発信する場の提供を通した若手研究者を育成することを目指している.
Ⅱ-2-d-115
太陽系外惑星科学の新展開:ダストから太陽系外惑星に至る物質進化の実験および理論的研究
客員教授
山本哲生
科学研究費特定研究「太陽系外惑星科学の新展開」の一環として,宇宙物質進化の研究・教育拠点として,全国
から多数の研究者が研究討論や共同研究に訪れている.本研究は新たな研究分野であるとともに,幅広い分野と関
係する.本グループは関連研究者のネットワーク形成の核の役割を担ってきている.この活動を通じて,系外惑星
形成に関わる物質進化の広範な研究を進めた.本研究の 5 年間の成果のまとめを日本天文学会誌に出版した(天文
月報 第 102 巻,2 号,pp. 118-126,2009)
Ⅱ-2-d-116
原始惑星系円盤における結晶化と粒子形成の理論と実験
客員教授
山本哲生
北海道大学学術研究員
東北大学
田中今日子
塚本勝男・三浦
均
立命館大
墻内千尋
東工大
中本泰史
宇宙ダストの低温結晶化の理論の実証実験(Kaito et al. 2007)のモデリングを行った.東北大,東工大グループ
と共同でコンドリュール形成メカニズムの研究を展開しつつある.
Ⅱ-2-d-117
デブリダスト円盤の力学進化
客員教授
山本哲生
北海道大学学術研究員
小林
浩・木村
宏
名古屋大学
渡邊誠一郎
惑星系が存在すると考えられる主系列星周りのダスト円盤の力学進化の数値モデルおよび解析的モデルを完成し
た.
Ⅱ-2-d-118
ダスト光学集合体の光学
客員教授
山本哲生
北海道大学学術研究員
木村
宏・小林
浩
東北大
E. Zubko
ダストアグリゲイトの光学を追求した.常温結晶化によるから期待される構造をもつダストの赤外スペクトルを
計算し彗星ダストの観測と比較した.その結果,従来の宇宙鉱物学の常識に反し,観測されている赤外スペクトル
の変化は粒子の成長ではなくコンパクションによることを明らかにした.また負偏光生成メカニズムを追求した.
Ⅱ.研究活動
103
Ⅱ-2-d-119
偏光輸送コードの開発と近赤外線天文観測モデリング
客員教授
山本哲生
北海道大学学術研究員
木村
宏・小林
国立天文台
田村元秀
京都大学
福江
翼
浩・E. Zubko,
他
ダストによる電磁波の多重散乱過程におけるストークス・パラメータの変化過程を追跡する計算コードの開発を
完成した.このコードを星惑星形成領域の赤外線観測のモデリングに応用しつつある.
e.宇宙科学共通基礎研究系
Ⅱ-2-e-1
物質と反物質の反応過程の研究
助
教
崎本一博
電子とミューオニック水素原子の衝突における解離性付着過程ならびに電子と反陽子ヘリウムイオンの衝突によ
る解離性再結合過程の研究を行った.また,ミューオンとヘリウムイオンの衝突におけるミューオン捕獲反応過程
の研 究を行った.R行列法を利用した計算方法を開発し,共鳴現象の詳細な研究を行うことに成功した.上記過
程の断面積を共鳴構造を含めて量子力学的に詳しく計算できたのは本研究が世界で初めてである.さらに,ミュー
オンと水素原 子の衝突におけるミューオン捕獲反応過程の計算を進めており,共鳴現象がないかを調べている.
Ⅱ-2-e-2
高エネルギー化学反応の量子動力学の研究
助
教
崎本一博
星間雲の主成分である水素分子は,近くの星からの紫外線を吸収し,電子状態が励起されたり,解離する.その
ような星間雲の中では,水素分子は振動励起状態にあると考えられる.振動励起状態の放射寿命は長く,星間雲の
中で振動励起状態にある水素分子およびそのイオンは,他の原子や分子と衝突し,原子の組み替えや分子の解離が
起こる可能性が高い.振動状態が高く励起されている分子の衝突素過程を理論的に研究することは,原子の組み替
え反応に加えて,分子の解離過程を考えないといけない.また,燃焼や衝撃波といった高 温あるいは非平衡ガス
中でも,高振動状態にある分子の組み替え反応や解離反応が重要になってくる.さらに,解離反応の逆過程である
三体結合反応は,低温での気体の凝縮を理解するために非常に重要な過程である.最近の話題としてはアルカリ原
子のボーズアインシュタイン凝縮などが知られている.これらの反応過程を量子力学的に厳密に解くために,波束
伝達法による計算プログラムを開発し,計算を行っている.
Ⅱ-2-e-3
等核 2 原子分子の多価イオン衝撃クーロン爆発における立体電子力学
助
教
市村
淳
都立産技高専
山口知子
分子に強い外場をかけると分子は多価に電離しクーロン爆発を起こす.最近,多価イオン衝撃による等核 2 原子
分子のクーロン爆発において,解離イオン対の電荷に関する左右の非対称性が見い出されている.この現象を記述
するために,従来から開発してきた 3 中心の障壁乗り越えモデルを拡張し,衝突速度が非常に遅い場合,衝突の途
中で解離が始まるため動いている 3 中心場における 2 個の鞍点が絡む立体電子力学が本質的になることを示した.
解離電荷対分布を計算し,実験で観測されている非対称性を説明することに成功した.
104
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-e-4
撃力散乱における分子の形とエネルギー損失スペクトルの形
助
教
市村
淳
日大理工
中村正人
原子が分子に近づくと強い斥力が働き,分子は不可侵の表面を持つように振舞う.この描像に基づき,大角散乱
におけるエネルギー損失スペクトルの形を分子の形と関係づけて説明する古典力学的モデルを開発している.それ
を道具として,様々なアルカリ金属イオンと等核 2 原子分子の衝突を系統的に解析している.特に,イオン質量が
重くなると,軽い場合に普遍的に見えている二重ピーク構造が崩れる傾向があることに注目し,そのメカニズムを
解明するための検討をした.
Ⅱ-2-e-5
分子雲に関する観測的研究
准教授
北村良実
招聘研究員
池田紀夫
国立天文台
東工大・理
齋藤正雄
東工大・理
建井秀史
新潟大・教育
丸田
新潟大・自然科学
創
総研大
国立天文台
川辺良平
樋口あや
東工大・理
吉田淳志
中村文隆
新潟大・自然科学
塚越
崇
総研大
西
亮一
瀧田
怜
星の初期質量関数(IMF)の起源を解明するためには,星形成の直接の母体である分子雲コアを最下層に含む分
子雲の階層構造を詳しく調べなければならない.そのため我々は,25 マルチビーム(BEARS)を搭載した国立天
文台・野辺山の 45m 電波望遠鏡を用いて,分子雲の広域・高分解能マッピングサーベイを行っている.本年度の
主な成果は以下の通り.1)巨大分子雲オリオン A の OMC1 領域について,C18O 分子輝線を用いてマッピング観
測を行い,65 個の分子雲コアを同定した.コアの質量関数を評価したところ,10Msun 以上での傾きが IMF と一致
することが分かった.この事実は,IMF の起源は密度が 103-4cm-3 以下の構造にあることを意味している.[PI 池
田] 2)埋もれている若いクラスター11 天体を H13CO+分子輝線を用いて観測した結果,母体クランプの中心集中
度とクラスター質量に反相関関係が見られた.これは,星形成が進むにつれ高密度ガスが消費され中心集中度が小
さくなる,と解釈できる.[PI 樋口] 3)クラスター形成が起こる直前の天体と考えられている赤外線暗黒星雲
(IRDC)7 天体について H13CO+分子輝線を用いてマッピング観測を行った.その結果,母体クランプの自己相関サ
イズと Spitzer24 ミクロン全フラックス密度に反相関関係が見られ,自己相関サイズが高密度ガスの良い進化指標
になり得ることが分かった.[PI 樋口] 4)低質量星形成領域 L1551 について,12CO,13CO,C18O 分子輝線マッピ
ングデータを詳細に再解析し,速度幅・サイズ関係を求めた.その結果,速度幅・サイズ関係の密度依存性が弱い
ことが明らかになった.さらに,乱流エネルギー輸送過程において,衝撃波によるエネルギー散逸やアウトフロー
以外のエネルギー供給源が重要な役割を果たしていることが示唆された.[PI 吉田] 5)へびつかい座分子雲の
H13CO+分子輝線マッピングデータを解析し,68 個の高密度コアを同定した.オリオン座分子雲のコアと比較した
ところ,へびつかい座のコアはオリオン座のコアの微細構造に対応することが分かった.さらに,へびつかい座の
コアはアウトフローによって駆動されている乱流圧によって支えられている可能性が高いことが分かった.
[PI 丸
田] 6)分子雲 L134,L183,NGC2264 について NH3 観測を行った結果,L134 のみ検出できなかった.この違い
は,同じ領域にある L183 は星形成に至る高密度にまで進化しているが,L134 はまだ密度が低く進化が進んでいな
いことを示唆している.[PI 建井]
Ⅱ-2-e-6
原始星に関する観測的研究
准教授
北村良実
国立天文台
古屋
玲
カリフォルニア工科大学
新永浩子
東大・総合文化
土井靖生
国立天文台
川辺良平
国立天文台
齋藤正雄
総研大
塚越
崇
原始星は分子雲コアの重力収縮によって中心部に形成され,その収縮の様子はコアの性質で大きく異なることが
理論的に知られている.我々は,星形成の初期条件を探る目的で,国立天文台・野辺山の 45m 電波望遠鏡やチリ
Ⅱ.研究活動
105
にある 10m サブミリ波望遠鏡 ASTE,赤外線天文衛星あかり等を用いて,原始星とジェット,その母体コアにつ
いての詳細観測を行っている.本年度の主な成果は以下の通り.1)最も若い原始星 GF9-2 の母体コア周辺につい
て,45m望遠鏡を用いた
12
CO,13CO,C18O 分子輝線によるマッピング観測を行った.その結果,コア周辺は超音
速乱流が卓越していることが分かった.[PI 古屋] 2)GF9-2 コアについて,45m望遠鏡を用いた HCO+分子輝線
によるマッピング観測を行った.落下運動を示すブルー側が強いダブルピークプロファイルをモデル解析した結果,
落下速度に異方性を発見した.現在,定量化を進めている.[PI 古屋] 3)GF9 フィラメント全体をカバーする,
あかり遠赤外線広域マップの解析を始めた.最初のステップとして,マップデータの質の評価を行い,マップ作成
にフィードバックをかけた.[PI 北村]
Ⅱ-2-e-7
原始惑星系円盤に関する観測的研究
准教授
北村良実
准教授
片依宏一
総研大
東大・総合文化
阪大・理
上野宗孝
名大・理
河村晶子
名大・理
深川美里
茨城大・理
百瀬宗武
総研大
国立天文台
川辺良平
国立天文台
田村元秀
国立天文台
総研大
工藤智幸
台湾中央研究院
大橋永芳
瀧田
怜
石原大助
塚越
崇
齋藤正雄
ASTE 星・惑星系形成チーム
太陽系や多様な系外惑星系は,星形成に必然的に伴う若い星のまわりの原始惑星系円盤から誕生すると考えられ
ている.従って,円盤の形成・進化過程を観測的に明らかにすれば,惑星系の多様性の起源や惑星系形成の初期条
件を解明することができる.我々は,原始星周囲での円盤形成過程や T タウリ型星周囲での円盤進化過程を明ら
かにする目的で,赤外線天文衛星あかり,国立天文台・野辺山の 45m 電波望遠鏡,チリの 10m サブミリ波望遠鏡
ASTE 等を用いて,円盤の観測を行っている.本年度の主な成果は以下の通り.1)あかり全天サーベイデータを
使って,おうし座-ぎょしゃ座方向の二千平方度にわたり,T タウリ型星を探査した.その結果,72 天体の検出に
成功し,そのうち 31 天体は新発見であった.現在,さらなる解析を行っている.[PI 瀧田] 2)ASTE に搭載され
たボロメーターカメラ AzTec を用いて,南天のカメレオン座,オオカミ座で T タウリ型星のサーベイを行った.
その結果,カメレオン座で 2 天体,オオカミ座で 12 天体を新しく検出した.[PI 塚越] 3)すばる望遠鏡によっ
て円盤が撮像された FN Tau を,マウナケア山頂にあるサブミリ波干渉計 SMA を用いて観測した.その結果,コ
ンパクトな円盤成分と,それを取り巻く薄く広がったエンベロープ成分の存在が明らかになった.[PI 百瀬]
Ⅱ-2-e-8
「あかり」による星形成領域の観測
准教授
北村良実
招聘研究員
池田紀夫
教
授
中川貴雄
准教授
山村一誠
准教授
片依宏一
助
教
金田英宏
助
教
松浦周二
東大・総合文化
上野宗孝
東大・総合文化
土井靖生
名大・理
川田光伸
名大・理
河村晶子
茨城大・理
岡本美子
国立天文台
田村元秀
総研大
瀧田
怜
あかり星形成 MP チーム
現在,「あかり」による星・惑星系形成領域観測 Mission Program AFSAS では,データ処理を中心に研究が進め
られている.特に,分子雲の遠赤外線指向観測に最適化されたデータ処理パイプラインプログラムを整備,拡張中
である.本年度の進捗状況は次の通りである.1)不良データ検出アルゴリズムについて,より精度の高いものを
考案してプログラムに組み込んだ.その結果,非常に強く,広がった構造を持つ天体を不良データとして誤検出し
てしまう不具合が大幅に改善された.
[PI 池田] 2)カメレオン座分子雲方向のデータを使った性能評価を集中的
に行った.その結果,検出器感度と暗電流の時間変動をより高精度で補正するためには,パイプライン処理結果を
微調整する必要があることが判明したため,自動処理に加えて手動による微調整操作を容易に行うための GUI を
各処理段階に付加した.その付加機能によって,パイプライン自動処理で除去しきれない不良データのマスクが行
えるようになり,遠赤外線広域マップにおいて問題となっているスキャンパターンを以前に比べて低く抑えること
106
Ⅱ.研究活動
に成功した.[PI 池田] 3)プログラムの改善と並行して行ったカメレオン座分子雲の予備的研究を通して,星間
物質の温度分布・柱密度分布の導出,原子ガス成分と分子ガス成分の分離,星間乱流の確率密度関数やパワースペ
クトルを用いた統計的記述,分子雲コアの同定とコア質量関数の導出等を行う解析ツールを開発した.[PI 北村]
Ⅱ-2-e-9
ミリ波 LNA 用 InP 技術を基にした MMIC の開発
教
坪井昌人
授
准教授
村田泰宏
国立天文台
川口則幸
国立天文台
河野裕介
法政大・工
春日
隆
法政大学春日隆教授,国立天文台川口則幸教授のグループと共同でミリ波 LNA 用の InP コプレナー線路技術を
基にした MMIC を開発している.30K 冷却時に 40GHz で雑音温度 40K 以下の性能を実現した.
この雑音温度は InP の性質から予想される性能の 2 倍であるが,現行の GaAs 技術を基にした MMIC のそれと同
等である.
Ⅱ-2-e-10
銀河系中心領域の SiO,H13CO+輝線の撮像観測
東大・院
佐藤麻美子
但木謙一
東大・院
国立天文台
宮崎敦史
教
坪井昌人
授
国立天文台野辺山宇宙電波観測所のミリ波干渉計と 45m 電波望遠鏡を用いて銀河系中心領域の SiO,H13CO+輝
線の撮像観測を行なった.SiO 輝線は分子ガス中の衝撃波領域をトレースする特徴,H13CO+輝線は分子ガスの質
量分布をトレースする特徴を有する.SgrA,SgrB 領域を含む広い領域で分子雲クランプの性質を調べ,H13CO+の
質量スペクトルを求め,そのベキ乗の指数が-2 程度であることを見つけた.また SiO 輝線が銀河中心超新星残骸
SgrA east の周囲を取り囲むように検出された.鞘のような構造と推測される.
Ⅱ-2-e-11
多種分子のミリ波輝線観測による銀河系中心分子雲帯の研究
東大・院
但木謙一
授
坪井昌人
国立天文台
宮崎敦史
教
東大・院
東
13
大
佐藤麻美子
半田利弘
+
野辺山 45m電波望遠鏡を用いて銀河系中心領域の研究を行っている.今年度は H CO ,SiO 分子輝線の観測を
SgrA 全体を含む広範囲の領域で行った.これまでは光学的に厚い分子輝線によるサーベイしかなされていなかっ
たため,光学的に薄い H13CO+を用いた本サーベイによって初めて分子雲の真の分布をトレースするマップを得た.
またこれらのサーベイに加えてこれまでに観測された CS,12CO,13CO,C18O などを用いて多角的なアプローチを
行っている.複数の分子輝線観測と LVG モデル計算との比較から分子雲のいくつかの物理パラメータに制限を与
えた.
Ⅱ-2-e-12
銀河系中心 50km/s 分子雲の CS 輝線の撮像観測
教
授
坪井昌人
国立天文台
宮崎敦史
国立天文台
奥村幸子
国立天文台野辺山宇宙電波観測所のミリ波干渉計を用いて銀河系中心 50km/s 分子雲の CS 輝線の撮像観測を行
なった.50km/s 分子雲中の衝撃波領域を初めて撮像し,分子雲中の膨張するシェルを発見した.(Tsuboi et al.
2009 PASJ, 61 p29)
Ⅱ.研究活動
107
Ⅱ-2-e-13
銀河系中心領域の分子雲の CO(J=3-2)輝線マッピング観測
亀谷和久
研究員
岡
慶応大・理工
朋治
田中邦彦
慶応大・理工
永井
筑波大・理
誠
我々は銀河系の中心部数百 pc(Central Molecular Zone: CMZ)に分布する星間分子雲に対して,ASTE10m サブ
ミリ波望遠鏡を用いた一酸化炭素分子の高励起輝線(CO J=3-2)のマッピング観測を行なっている.本年度までに
CMZ のほぼ全域をカバーする領域の観測を完了した.この輝線強度の,より低励起の CO J=1-0 輝線強度に対する
比を取ることで,衝撃波領域を効率的に抽出することができるその結果,この比が特に大きい領域は CMZ 全体に点
在し,非常にコンパクトで輝線の速度幅の大きい分子雲「高速度コンパクト雲」と対応が良いことが判明した.さ
らに,興味深い領域を野辺山 45m 電波望遠鏡を用いて詳しく観測した結果,「高速度コンパクト雲」は近い過去に
CMZ で頻発した超新星爆発によって加速,加熱されている可能性が高いことが分かってきた.
Ⅱ-2-e-14
銀河系中心 G0.02-0.02 分子雲の CO/HCN 輝線の撮像観測
慶応大学
岡
朋治
教
授
坪井昌人
宮崎敦史
国立天文台
他
国立天文台野辺山宇宙電波観測所のミリ波干渉計を用いて銀河系中心 G0.02-0.02 分子雲の CO 輝線の撮像観測
を行なった.衝撃波領域を初めて撮像し,分子雲中の膨張するシェルを発見した.(Oka et al. 2008 PASJ, 60 p429)
Ⅱ-2-e-15
大質量形成領域における大型有機分子輝線の観測
研究員
亀谷和久
国立天文台
国立天文台
廣田朋也
東大・理
酒井
剛
国立天文台
坂井南美
東大・理
山口伸行
山本
智
南 天 の 代 表 的 な 大 質 量 星 形 成 領 域 に 対 す る 大 型 有 機 分 子 ( 蟻 酸 メ チ ル HCOOCH3 , ジ メ チ ル エ ー テ ル
CH3OCH3)のサブミリ波帯輝線探査観測を行なった.大型有機分子は,星形成のごく初期にのみ原子星の周辺の
狭い領域に存在することから,星形成直後の状態の良いトレーサーとなるといわれている.本観測では ASTE10m
望遠鏡を用いて,大質量星形成の進化段階の異なる高密度分子雲コア 8 個に対して同分子輝線の観測を行なった.
その結果,進化段階の若いコアのみで同分子が検出されることを確認した(一部は初検出).さらにコア毎にガスの
化学組成が異なることが分かった.
Ⅱ-2-e-16
へびつかい座分子雲に対する 1.1mm 連続波の広域高感度マッピング観測
研究員
国立天文台
亀谷和久
鎌崎
剛
東大・理
平松正顕
国立天文台
立原研吾
国立天文台
梅本智文
東大・理
河野孝太郎
国立天文台
Univ. of Massachusetts
Univ. of Massachusetts
Univ. of Massachusetts
K. Scott
INAOE
G. Wilson
T. Perera
I. Aretxaga
Univ. of Massachusetts
江澤
元
M.S. Yun
Univ. of Massachusetts
J. Austermann
INAOE
D. Hughes
ASTE 望遠鏡に搭載された 144 素子 1.1mm 連続波カメラ AzTEC を使用して,へびつかい座領域に位置する分子
雲の広域かつ高感度観測を実行した.この領域には,形状,星形成モード,年齢が異なる分子雲が隣接しているた
め,それらの環境と星形成の直接の母体となる高密度コアの物理状態の関連を調べるために最適である.観測の結
果,全体で 200 個を超えるコアを検出することに成功した.これらを精査すると,コアの形状や質量関数に分子雲
毎の差異が見られることが分かってきた.
108
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-e-17
Cyg X-3 の 2006 年バーストの研究
教
坪井昌人
授
助
土居明宏
教
研究員
望月奈々子
准教授
村田泰宏
その他
マイクロクエーサ Cyg X-3 の 2006 年バーストの初期の時間変動を明らかにするとともにその後の時間変動デー
タより短センチ波からミリ波での時間変動のタイムスケールが周波数に反比例することを発見した.
(Tsuboi et al.
2008 PASJ, 60, p465)
Ⅱ-2-e-18
Cyg X-3 の 2008 年秋バーストの検出
藤沢健太
山口大
教
坪井昌人
授
山口大 32m 鏡の観測からマイクロクエーサ Cyg X-3 の 2008 年 11 月バーストの初期を検出した.
(Fujisawa et al. 2008 ATel. 1838)
Ⅱ-2-e-19
Cyg X-3 の 2008 年春バーストにおけるフラックス振動状態の検出
教
坪井昌人
授
小谷太郎
青山学院大
国立天文台
中西康一郎
国立天文台
宮崎敦史
国立天文台野辺山宇宙電波観測所のミリ波干渉計を用いてマイクロクエーサ Cyg X-3 の 2008 年春バーストの時
間変動を明らかにして,フラックスがサインカーブ的に振動状態することを検出した.
Ⅱ-2-e-20
Sgr A*のミリ波モニター観測
教
坪井昌人
授
国立天文台
宮崎敦史
上海天文台
Shen, Z-Q
上海天文台
Li Juan 他
Sgr A*の 3mm 帯のモニター観測を国立天文台野辺山宇宙電波観測所のミリ波干渉計とオーストラリア ATCA で
行った.グループが先に見つけていた.急激な時間変動:IDV の例を多数検出した.この時間変動から電波源サイ
ズを推定して 10AU 以下の上限値を得た.これはミリ波 VLB 観測の値と一致するものである.(Li et al. 2008,
JPhCS 131 p2007)
Ⅱ-2-e-21
Bullet 銀河団背景のサブミリ銀河の検出
教
授
坪井昌人
国立天文台
江沢
元
他国際観測チーム
国立天文台野辺山宇宙電波観測所の ASTE サブミリ望遠鏡に 1mm 帯 2 次元アレイ検出器を搭載して Bullet 銀河
団背景の明るいサブミリ銀河を検出した.(Wilson et al. 2008 MNRAS.390.1061)
Ⅱ-2-e-22
サイドバンド分離 SIS 受信機の開発
教
授
坪井昌人
大阪府立大・理
小川英夫
国立天文台
中島
拓
他
新しいアイデイアにもとずく 3mm 帯サイドバンド分離 SIS 受信機を開発して国立天文台野辺山宇宙電波観測所
の 45m 望遠鏡に搭載した.(Nakajima et al., 2008 PASJ, 60, 435)
Ⅱ.研究活動
109
Ⅱ-2-e-23
活動銀河核ジェットの VLBI 偏波観測による磁場構造の研究
浅田圭一
研究員
国立天文台
井上
允
JHU
客員准教授
亀野誠二
国立天文台
中村雅徳
永井
洋
我々は活動銀河核ジェットの加速,収束に大きな役割をはたしていると考えられている磁場構造を探査する目的
で,VLBI 多周波偏波観測を用いて 3 次元磁場構造を推測するという研究を行っている.本年度はクェーサー
1150-002 に付随するジェットにおいて新たに理論研究から予測されているような螺旋状の磁場が存在する可能性
を示すような観測結果を得て,日本天文学会秋季年会での報告を行なった(S27b 浅田等).また昨年度までに得ら
れていたクェーサーNRAO140 に付随するジェットにおける 3 次元磁場構造の推定に関する結果を査読付き論文と
して出版した(Asada et al. 2008,ApJ,682,798).
Ⅱ-2-e-24
内之浦 34m を含んだ Japanese VLBI Network による BAL クェーサーの観測的研究
助
土居明広
教
永井
国立天文台
洋
研究員
浅田圭一
研究員
望月奈々子
山口大・理
藤澤健太
准教授
村田泰宏
Broad-Absorption Line(BAL)クェーサーとは,紫外線帯のスペクトルにときには数万 km/s にも及ぶ広速度幅吸
収線が見られる活動銀河核であり,高速度アウトフローの存在がその原因であると考えられている.BAL クェー
サーの質量降着現象・アウトフロー現象を調査する目的で,世界で初めてとなる VLBI による BAL クェーサーの
系統的観測研究を昨年度から開始しており,今年度は,新たに VLBI 局として整備された内之浦宇宙空間観測所の
34mアンテナを Japanese VLBI Network(JVN)に参加させて,その望遠鏡能力を活かした研究をおこなった. 観
測の結果,観測した 2 つの BAL クェーサーはいずれも若い電波源によく見られる連続波スペクトルを持っている
ことがわかり,この種族の起源について重要な示唆を得た.
Ⅱ-2-e-25
低光度活動銀河核 M81 のアウトフローの VLBI による観測的研究
助
教
土居明広
共同研究学生
秦
和弘
国立天文台
永井
洋
低光度活動銀河核(Low-Luminosity Active Galactic Nuclei: LLAGN)からの電波放射はその性質,起源が未だに
よく分かっていない.我々は,最も近い LLAGN M81 について,VLBI 多波長同時観測データを解析し,スペクト
ル情報を基に電波放射の性質について調べた.その結果,M81 のコアは inverted スペクトル,弱ジェット構造は
steep スペクトルの傾向にあることがわかった.更に,スペクトル指数マップの作成によってコア~ジェット先端
にかけてスペクトル指数に強い勾配が存在することがわかった.このジェット放射は,熱的シンクロトロン放射の
可能性は低いと結論付けた.また,M81 のジェットが成長しないのは,1 つの可能性として,シンクロトロン冷却
や円盤光子の逆コンプトン冷却が強く効いているからなのかも知れない.
Ⅱ-2-d-26
若い電波銀河ローブからの GeV ガンマ線放射の理論予言
研究員
紀
基樹
早稲田大学
伊藤裕貴
国立天文台
川勝
望
国立天文台
永井
洋
活動銀河中心核から噴出する相対論的ジェットは,やがて周辺物質によってせき止められる.衝撃波減速したジ
ェットの残骸は,「電波ローブ」と呼ばれる広がった構造となり膨張していくことが,長年の電波干渉計観測でよ
く知られている.しかし,「電波ローブ」の電波以外の波長での性質は,まだよく分からないことが多い.本研究
では,サイズがおよそ 100 パーセク程度の若い電波ローブの物理状態を調べるため,断熱膨張と放射による冷却効
果を取り入れて,ローブ中の電子温度の時間進化を調べた.若いローブの典型的な物理量を初期条件として進化方
程式を解いた結果,(1)およそ GeV 程度にピークをもつ熱的ガンマ線放射をするフェーズが初期にあらわれる,
110
Ⅱ.研究活動
(2)その後は断熱冷却して,やがてジェットのローレンツ因子で規定される温度(典型的には MeV)に漸近的に
近づく,ということが分かった.初期の明るい時期に対する,Fermi 望遠鏡での検出可能性についても議論した.
(Kino et al. 2009,MNRAS,395,L43)
Ⅱ-2-e-27
大学 VLBI 連携観測事業への参加
准教授
村田泰宏
教
授
坪井昌人
助
教
土居明広
研究員
浅田圭一
客員准教授
亀野誠二
山口大・理
藤澤健太
国立天文台
小林秀行
国立天文台
川口則幸
岐阜大・工
若松謙一
岐阜大・工
高羽
浩
岐阜大・工
須藤広志
北海道大・理
羽部朝男
徂来和夫
鹿児島大・理
面高俊宏
情報通信研究機構
小山泰弘
北海道大・理
関戸
情報通信研究機構
衞
国土地理院
栗原
忍
筑波大
中井直正
茨城大・理
米倉覚則
大阪府立大・理
小川英夫
国立天文台および 7 大学(山口大学,北海道大学,岐阜大学,鹿児島大学,筑波大学,茨城大学,大阪府立大
学)が推進し,3 つの研究機関(JAXA,NICT,国土地理院)が協力して電波天文観測研究をおこなう「大学
VLBI 連携観測事業」に参加している.臼田宇宙空間観測所の 64mアンテナは,C-band と X-band の天文観測受信
システムを備えており,大学 VLBI 連携観測のネットワークでは最大口径を持ち,8GHz 帯および,6.7GHz のメ
タノールメーザの観測で重要な VLBI 観測局となっている.また,内之浦 34m アンテナも,8GHz で観測に参加を
始めた.これらのアンテナは,衛星運用がおこなわれない時間帯を利用して観測に参加しており,大学連携関係者
から提案された数々の研究テーマを扱う VLBI 観測も実行され,活動銀河核ジェットや星形成領域に付随するメタ
ノールメーザーに関する観測的研究を行っている.
Ⅱ-2-e-28
サブミリ波スペース VLBI 計画の初期検討
教
土居明広
准教授
村田泰宏
教
授
坪井昌人
客員准教授
亀野誠二
助
朝木義晴
研究員
望月奈々子
研究員
浅田圭一
研究員
山口大・理
藤澤健太
国立天文台
国立天文台
梅本智文
国立天文台
助
共同研究学生
秦
和弘
教
鹿児島大・理
紀
基樹
JAXA 統括
平林
久
井上
允
国立天文台
萩原喜昭
永井
洋
国立天文台
氏原秀樹
西尾正則
理化学研究所
高橋労太
准教授
岩田隆浩
次期電波天文衛星ミッションの可能性の 1 つとして,サブミリ波スペース VLBI を検討している.サブミリ波
VLBI は,ブラックホールの直接撮像を近未来に実現する最も有望な手法である.銀河系中心 Sgr A*とおとめ座A
電波源 M87 をターゲットとして,ブラックホール時空の測定・強重力場における電磁輻射プラズマの解明に挑む
ための,適切なアレイデザインの解を考察し始めた.感度,空間分解能,時間分解能,リンクなどの現実的な成立
性を考察した.
Ⅱ-2-e-29
「かぐや(SELENE)」の電波掩蔽による月電離層観測
准教授
国立天文台
今村
剛
准教授
野田寛大
国立天文台
台湾中央大学
ウクライナ・科学アカデミー
小山孝一郎
Alexander Nabatov
岩田隆浩
国立天文台
松本晃治
劉
国立天文台
河野裕介
スウェーデン・国立宇宙物理研究所
慶会
二穴喜文
京都大学・理
齊藤昭則
2007 年夏に打ち上げられた「かぐや(SELENE)」から分離された子衛星 Vstar を用いて月の電離層の電波掩蔽
Ⅱ.研究活動
111
観測を行い,月の電離層の存在形態と生成機構に関わる情報を得た.
Ⅱ-2-e-30
火星探査機の赤外放射データを用いた火星気象の研究
准教授
今村
剛
米国の火星周回機 Mars Global Surveyor に搭載された赤外放射計 TES による大気熱放射データを用いて,大気中
の擾乱の時空間スペクトルを季節や緯度ごとに求め,火星大気力学のエネルギーサイクルを探った.とくに,南北
温度勾配が極めて小さいなど地球大気と異なる状況にある夏期の南半球に注目して解析を進め,ドライアイスの極
冠の存在に起因する大気循環場の新たな知見を得た.
Ⅱ-2-e-31
非磁化惑星のプラズマ分布の太陽風応答に関する研究
教
授
中村正人
大学院学生
金尾美穂
准教授
阿部琢美
助
教
IRF
山崎
敦
二穴喜文
火星や金星といった強いダイポール磁場を持たない非磁化惑星では,電離圏プラズマと太陽風と直接相互作用す
る.電離圏プラズマの密度分布は太陽風の状況に支配されていると考えられる.これまでは,太陽風磁場の方向に
依存した解析が主流であった.非磁化惑星周辺では電場方向によって非対称なイオンのラーマー運動が数千キロメ
ートルの空間スケールを持ちプラズマ分布に影響を与えている可能性 がある.本研究では Pioneer Venus Orbiter 及
び Mars Express のプラズマデータ解析を執り行い太陽風誘導電場の方向に対する依存性を考察した.太陽風電場の
向きにプラズマ分布が偏ること,太陽風電場の向きによって電離圏圏界面でのプラズマ密度変化勾配が異なること
を突き止めた.
Ⅱ-2-e-32
火星地殻起源磁場上でのプラズマ密度分布に関する研究
教
授
中村正人
大学院学生
金尾美穂
准教授
阿部琢美
助
教
IRF
山崎
敦
二穴喜文
火星のダイポール磁場が非常に弱いことが知られている.しかし南半球の経度 180 度付近を中心に高度 400km
において最大強度 100nT 以上に達する地殻起源磁場の存在が 1990 年代に明らにされた.太陽風と直接相互作用す
る火星の電離圏においては太陽風速度と惑星間空間磁場によって誘引される太陽風対流電場によってプラズマ分布
や流出機構が影響を受けることをこれまでの研究で示してきた.本研究で我々は局地的な地殻起源磁場がプラズマ
密度分布に加える影響を電場の方向に着目して統計的に調べた.この結果,地殻起源磁場の強い領域が昼間側に存
在し電場の下流側領域にあたる場合に,その上空 高度 3000km 以上の領域でプロトン密度が約 8 個/cc にまで上昇
することが分かった.
Ⅱ-2-e-33
MGS/TES を用いた火星大気の温度擾乱の三次元分布の解析
教
授
中村正人
准教授
今村
剛
東大・大学院生
大島
亮
アメリカの火星探査機 Mars Global Surveyor 搭載の赤外分光計 Thermal Emission Spectrometer は,1999 年から
2006 年にかけて火星大気の温度 データを取得した.我々はこのデータを用い,火星大気で熱や運動量の輸送に強
い関わりがあると考えられる,大気の温度擾乱の三次元分布を解析した.これまでの先行研究では冬季北半球で地
表面付近に温度擾乱の大きな場所が存在することがわかっていたが,本研究ではこの温度擾乱の増大が 3 火星年の
毎冬にほぼ同じパターンで表れること,この温度擾乱の増大は高度 10km 付近で一旦切れて,高度 20km 付近から
別の増大構造が現れることを見出した.今後はこれらの構造を作り出している原因となる大気現象の解明を目指し
ている.
112
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-e-34
「かぐや(SELENE)」の電波掩蔽による月電離層観測
准教授
国立天文台
今村
剛
准教授
野田寛大
国立天文台
小山孝一郎
台湾中央大学
ウクライナ・科学アカデミー
Alexander Nabatov
岩田隆浩
国立天文台
松本晃治
劉
国立天文台
河野裕介
スウェーデン・国立宇宙物理研究所
二穴喜文
京都大学・理
齊藤昭則
慶会
2007 年夏に打ち上げられた「かぐや(SELENE)」から分離された子衛星 Vsta を用いて月の電離層の電波掩蔽観
測を行い,月の電離層の存在形態と生成機構に関わる情報を得た.
Ⅱ-2-e-35
火星探査機の赤外放射データを用いた火星気象の研究
准教授
今村
剛
米国の火星周回機 Mars Global Surveyor に搭載された赤外放射計 TES による 大気熱放射データを用いて,大気
中の擾乱の時空間スペクトルを季節や緯度ごとに求め,火星大気力学のエネルギーサイクルを探った.とくに,南
北温度勾配が極めて小さいなど地球大気と異なる状況にある夏期の南半球に注目して解析を進め,ドライアイスの
極冠の存在に起因する大気循環場の新たな知見を得た.
Ⅱ-2-e-36
「ひので」搭載 X 線望遠鏡 CCD カメラの軌道上性能検証
准教授
坂尾太郎
准教授
松崎恵一
宇宙航空プロジェクト研究員
成影典之
国立天文台
常田佐久
国立天文台
鹿野良平
国立天文台
原
国立天文台
坂東貴政
国立天文台
熊谷收可
国立天文台
田村友範
国立天文台
中桐正夫
弘久
他「ひので」チーム
「ひので」X 線望遠鏡の焦点面 CCD カメラは,(1)長波長の軟 X 線(XUV 光)にまで感度を持たせるために裏面
照射型 CCD を採用,(2)放射冷却により軌道上で CCD を約-80℃まで冷却可能,かつ CCD のベーキング機能を持
つ,(3)斜入射 X 線光学系の結像特性を活かす焦点調節機構(CCD 可動機構),などの特長を持つこの CCD カメ
ラは国立天文台との密接な協力のもとに開発・製作を行なった 2006 年の衛星打上げ後,本 CCD カメラの軌道上
での諸性能の評価を継続している.CCD カメラは,設計値を上回る良好な CCD 冷却性能・温度安定性能をはじめ,
所期の性能を示している.
Ⅱ-2-e-37
「ひので」搭載 X 線望遠鏡の開発と運用
准教授
坂尾太郎
准教授
松崎恵一
宇宙航空プロジェクト研究員
国立天文台
常田佐久
国立天文台
鹿野良平
国立天文台
成影典之
原
弘久
他「ひので」チーム
国立天文台および米国スミソニアン天文台(SAO)と協力して,「ひので」に搭載する X 線望遠鏡(XRT)の開
発・製作を実施し,観測運用を継続している.この望遠鏡は,「ようこう」に搭載された軟 X 線望遠鏡と比べて,
太陽コロナ中の 100 万度程度の低温プラズマにも感度を持つこと,2 倍以上の高空間分解能化(1 秒角)を図って
いること,などの特徴を持っており,米国側が望遠鏡部および全体組み上げを,日本側は焦点面 CCD カメラの開発
を担当した.観測運用にあたっては日米 XRT チームより半々の割合で運用を担当し,週例の国際電話会議を通じ
て観測対象の協議,望遠鏡の健全性の議論,および観測担当者間の確実な引き継ぎを図っている.
Ⅱ.研究活動
113
Ⅱ-2-e-38
「ひので」搭載 X 線望遠鏡 CCD カメラのコンタミネーション評価
准教授
坂尾太郎
宇宙航空プロジェクト研究員
国立天文台
鹿野良平
国立天文台
成影典之
国立天文台
常田佐久
原
国立天文台
坂東貴政
弘久
他「ひので」チーム
「ひので」X 線望遠鏡(XRT)の焦点面 CCD カメラ上に,コンタミネーション物質の堆積が確認され,また,コ
ンタミ物質を十分堆積させた後に実施した CCD ベーキングにより,CCD 上にスポット状のコンタミ物質残留が認
められた.このコンタミ事象に対し,X 線・可視光撮像データを用いた堆積物質の特定(フタル酸ジエチルヘキシ
ル(DEHP)または類似の成分)や,CCD 周辺部のコンタミネーションモデルを作成してのコンタミ物質の到来方
向の同定(CCD 前方の鏡筒方向より到来)を行なった.なお,ベーキングにより CCD 感度は回復する.可視光チャ
ンネル(G バンド)の太陽像の輝度変化から CCD 上へのコンタミ物質の堆積量を精度よく見積もることができ,
これと実際の太陽観測データとの比較から,CCD 前方の焦点面金属フィルターにも一定量のコンタミ物質が付着
している可能性の高いことが判明した.これらコンタミの全体像を取り込んだ XRT のレスポンスモデルを現在作
成中である.
Ⅱ-2-e-39
「ひので」可視光望遠鏡が暴いた超音速下降流の存在
准教授
国立天文台
京都大学・飛騨天文台
清水敏文
HAO/NCAR
B. Lites
国立天文台
勝川行雄
一本
潔
国立天文台
末松芳法
国立天文台
常田佐久
永田伸一
HAO/NCAR
久保雅仁
LMSAL
R. Shine
LMSAL
T. Tarbell
太陽表面「光球」は,主として対流運動に代表される,大気ガスのダイナミックな運動に満ちているが,運動ダ
イナミックスの性質やその励起機構,また上層大気:彩層やコロナの大気加熱などの理解において鍵となる磁力線
と運動ダイナミックスとの因果関係は理解に乏しい.「ひので」搭載の可視光磁場望遠鏡は,地球大気ゆらぎの影
響を受けない軌道上から空間分解能 0.3 秒角で光球起因の磁場に感度を持つ吸収線のスペクトルの偏光状態を高精
度で測定する機能(スペクトロポラリメータ)を持つ.この観測は,太陽表面のいたるところに,高速な,恐らく
超音速の下降流が多数存在することを捉えた.超音速下降流は,3 つの種類の太陽表面の磁力線が成長・発展する際
に同時に発生することが分かり,太陽表面で良く見かける特徴的な磁場構造の形成・発展を理解する上で重要な発
見である.この観測研究による成果は,Shimizu et al.(2008)として The Astrophysical Journal 誌に出版された.
Ⅱ-2-e-40
「ひので」搭載可視光望遠鏡および X 線望遠鏡からの画像データのコアライメント手法開発
准教授
清水敏文
LMSAL
G. Slater
「ひので」は,可視光,紫外線,軟 X 線の異なる波長で観測する望遠鏡を搭載している.異なる望遠鏡で得られた
データの位置合わせがコロナ・彩層・光球間の結びつきを調べるにあたり非常に重要である.軌道上で定期的に取
得しているコアライメント観測のデータを用いた較正作業の結果,可視光望遠鏡(SOT)と X 線望遠鏡(XRT)
の指向方向が軌道上でどのような振舞いをするかを明らかにし,X 線望遠鏡の時系列データを姿勢情報テレメに基
づき衛星姿勢ジッタによる像移動を除去するプログラムを開発し,誰でも使用できるように世界に公開した.サブ
秒角の精度で SOT と XRT 画像のあわせこみは,視野内に写る黒点をリファレンスに用いて実現可能である.しか
し,静穏領域の観測データではこの手法は使えないため,両望遠鏡の指向方向オフセット値を用いて機械的にあわ
せこむことで秒角の精度の合わせこみを行う手法の開発が必要である.手法の雛形を確立し,その手法で実現でき
る精度の検証を実施中である.
114
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-e-41
恒常的に発生する彩層ジェット現象の発見とその発生メカニズムの研究
清水敏文
准教授
他「ひので」可視光磁場望遠鏡開発チーム
太陽黒点にときどき発生する「ライトブリッジ」と呼ばれる領域において,1 日以上も続いてジェットが噴出し
ていることを,「ひので」可視光磁場望遠鏡(SOT)の観測で発見した.SOT は偏光観測の優れた能力を持ち,偏
光データの解析から,太陽表面の磁場の強さや向き,さらには,電流分布を高解像度かつ精度良く知ることができ
る.この解析の結果,ジェット噴出が恒常的に発生している時,非常に強い電流が「ライトブリッジ」に沿って存
在していることが判明した.電流の存在は,らせん状に強くねじれた磁力管が,太陽面下からライトブリッジ部分
に浮上し,垂直に立った強い黒点磁場の下に横たわっていることを示唆する.らせん状に強くねじれた磁力線と黒
点のまっすぐな磁力線との間で,磁力線のつなぎ替えが起きているものと考えられる.これを裏付けるように,多
数のジェットが発射される場所が反対向きの磁力線成分が存在するらせん状磁力管の左側に集中し,双方向へのガ
ス流(上向きの彩層ジェットと光球下降流の同時発生)の観測証拠も得られた.この発見は,Shimizu et al.
(2009)として The Astrophysical Journal Letters 誌に受理された.
Ⅱ-2-e-42
次期太陽観測衛星計画「SOLAR-C」の検討
国立天文台
田佐
久
准教授
国立天文台
渡邊鉄哉
国立天文台
坂尾太郎
原
准教授
清水敏文
他 SOLAR-C ワーキンググループ
弘久
次期太陽観測衛星を検討するワーキンググループ(SOLAR-C WG)の設立が 2007 年 12 月に理学委員会で承認
され,「ひので」の観測成果を踏まえて次期太陽観測衛星のミッション検討を進めている.2010 年代以降にスペー
ス太陽物理学が目指すべき科学目標として,太陽大気のダイナミックスの物理プロセスの定常的な理解,太陽磁場
の生成起源および太陽周期活動の理解をあげた.これらの目標を実現する具体案として,太陽極域観測ミッション
案と偏光分光観測ミッション案を並列して検討した.2008 年 11 月には,欧米の研究者 34 名を ISAS に招き,第 1
回 Solar-C Science Definition Meeting を開催した.会議では両案とも,ポスト「ひので」で行うべき高い科学的意義
を持つミッションとして,その方向性に参加者からの強い支持が表明され,また,どちらの案もサイエンスの内容
を今後さらに具体的なものへと練り上げていくに値する計画であるという認識を共有した..
Ⅱ-2-e-43
γ線・太陽中性子観測による太陽フレア現象におけるイオン加速機構の研究
渡邉恭子
宇宙航空プロジェクト研究員
NRL
R. J. Murphy
CEA
M. Gros
R. P. Lin
SSL/UCB
University of Maryland
G. H. Share
甲南大学
村木
綏
名古屋大学太陽地球環境研究所
松原
豊
SSL/UCB
Max Plank Institute
名古屋大学太陽地球環境研究所
S. Krucker
M. J. Harris
﨏
隆志
他太陽中性子観測グループ
太陽中性子は太陽フレア現象中で加速されたイオンが太陽大気と相互作用することによって発生する.太陽中性
子は磁場の影響を受けないため,イオンが加速された時の情報を,そのまま地球まで伝えることができる.この太
陽中性子は,地上に設置されている中性子モニターなどの検出器を用いて観測されている.この太陽中性子の地上
観測データと衛星で観測された硬X 線やγ線等のデータを包括的に解析することにより,太陽フレアで加速された
粒子の最高エネルギーの導出や太陽フレア現象中で発生したイオン加速の加速機構について研究を行うことができ
る.この太陽フレアで加速されたイオンの,フレアループ中におけるふるまいを Hua et al.(2002)を用いること
によってシミュレートすることができるが,その結果得られる核γ線と太陽中性子のプロファイルと,実際の太陽
フレアで観測されたこれらのプロファイルを比較し,観測データを再現することによって,太陽フレアループ中に
おける加速イオンのふるまいのモデル構築を行った.2005 年 9 月 7 日に発生した太陽中性子イベントについて上記
の解析を行った結果,イオンは太陽フレア現象中において,核γ線の放出プロファイルとほぼ同じプロファイルで
長時間加速されていることを突き止めた.
Ⅱ.研究活動
115
f.宇宙環境利用科学研究系
Ⅱ-2-f-1
静電浮遊法を用いた高温融体の熱物性計測
教
依田眞一
授
石川毅彦
准教授
助
教
岡田純平
浮遊法により,従来の容器を用いる方法では測定困難な高融点金属やフッ化物等の液体状態の熱物性値を過冷却
状態を含む広い温度範囲で高精度に測定する研究を進めている.得られた熱物性値は鋳造や溶接といった加工プロ
セスを最適化する際に必要な数値シミュレーションの基礎データとして重要である.平成 20 年度は希土類(ガド
リニウム,セリウム)融液の密度,表面張力及び拡散係数の測定を実施した.また,ホウ素の表面張力および粘性
係数を取得した.
Ⅱ-2-f-2
静電浮遊法を用いた液体構造の計測
教
授
栗林一彦
東大・生産技術研究所・教授
助
教
岡田純平
東大院
七尾
進
准教授
石川毅彦
濱石光洋
芝浦工業大学・講師
正木匡彦
浮遊法により高温融体について過冷却状態を含めた幅広い温度範囲でその原子構造を計測する研究を進めている.
平成 20 年度は Spring-8 においてシリコンのラマン散乱実験を行うとともに,準結晶合金やホウ素等の液体構造デ
ータの取得した.
Ⅱ-2-f-3
静電浮遊炉による金属ガラス液体の熱物性計測
准教授
石川毅彦
助
岡田純平
教
東北大学金属材料研究所・准教授
横山嘉彦
ZrCuAl 系金属ガラスを対象に静電浮遊炉による密度,表面張力及び粘性係数測定を実施している.
Ⅱ-2-f-4
ファセット的セル状凝固過程のその場観察
准教授
稲富裕光
ファセット成長界面を有するモデル物質の結晶成長を行い,その場観察法により成長時の結晶表面の形態変化に
及ぼす成長カイネティクスの影響を調べている.
Ⅱ-2-f-5
混晶半導体の結晶成長
准教授
稲富裕光
高品質な均一組成混晶半導体バルク結晶成長のための要因を明らかにすることを目的して,三元混晶半導体であ
る InGaSb 結晶成長に及ぼす溶質輸送過程および結晶面方位依存性の影響を調べている.
Ⅱ-2-f-6
Co 系過冷融液の磁気特性の解明
准教授
稲富裕光
宇宙航空プロジェクト研究員
樋口健介
均一磁場下での電磁浮遊法により対流が抑制された状態で Co 系合金の試料を浮遊・溶融させ,過冷却状態での
磁気特性を光学的手法により調べている.
116
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-f-7
金属融液中の物質輸送機構の解明
准教授
稲富裕光
宇宙航空プロジェクト研究員
樋口健介
均一磁場下での電磁浮遊法およびガスジェット浮遊法により対流が抑制された状態で様々な合金試料を浮遊・溶
融させ,過冷却域を含む幅広い温度域での融液中の物質輸送機構を調べている.
Ⅱ-2-f-8
ダストプラズマ研究
准教授
足立
聡
主任研究員
高柳昌弘
プラズマ中に微粒子が混在するダストプラズマにおいて,粒子が規則正しい構造を形成(クーロン結晶と呼ばれ
る)する際の支配的なメカニズムの研究を行っている.これまでは電力,ガス圧力,デバイ長等に対する粒子間距
離の依存性を取得してきた.平成 20 年度では,これら依存性を基に,地上実験データおよび微小重力実験データ
を統一的に理解するための経験則を探索した.その結果,候補となりえる経験則を見い出すことができた.この経
験則からは,粒子間距離は,クーロン結晶内外の圧力差とクーロン斥力とのバランスにより決定されることが示唆
される.
Ⅱ-2-f-9
極低温 He に関する研究
客員教授
奥田雄一
極低温における 4He 結晶の研究,および微小重力実験用高効率冷凍機(ADR)の開発支援を行っている.平成
20 年度では,当初 ADR を用いる予定であったが,トラブルのため通常の He 冷凍機を利用し,固体 4He の航空機
実験を行った.また,平成 19 年度実施の航空機実験のデータ解析を進めた結果,表面張力に起因すると考えられ
る地上では見い出せない現象が見つかった.
Ⅱ-2-f-10
宇宙農業
教
授
山下雅道
准教授
橋本博文
宇宙農業サロン
宇宙農業は,生物・生態学的な要素により物質の再生循環利用をはかり人間の生命を維持し火星などでの有人活
動を可能にする.超高温好気堆肥菌による排泄物や非可食バイオマスの処理,樹木による余剰酸素と昆虫など動物
性食料の確保,海藻や耐塩性植物によるナトリウム循環などを検討している.地球周回軌道や月面で実験すべき課
題をあげ,火星での圏外生命探査との整合性も考慮し,宇宙農業研究の総合的なシナリオを策定する.
Ⅱ-2-f-11
アストロバイオロジーの計画
准教授
橋本博文
授
山下雅道
東薬大・教授
山岸明彦
教
助
教
横国大・教授
矢野
創
小林憲正
「アストロバイオロジー」は,従来の生物学を宇宙全般に広げ,その起源や進化といった時間軸も含め,普遍的
に捉えようとする新しい研究分野である.日本の「アストロバイオロジー」研究の中核を成す研究者とネットワー
クを構築し,米NAI,欧EANAとの交流を開始した.この活動を通して,幅広い分野である「アストロバイオ
ロジー」研究の課題を整理しロードマップを示し,日本独自の惑星生命探査ミッション計画を策定している.
Ⅱ.研究活動
117
Ⅱ-2-f-12
微生物の宇宙環境曝露評価
准教授
橋本博文
Yang Yinjie
東薬大・院生
東薬大・講師
横堀伸一
東薬大・教授
山岸明彦
ISS のレファレンス・ミッションである「たんぽぽ」(地球と宇宙空間の微生物と有機物の双方向伝播)におい
て実施する「宇宙環境への微生物曝露実験」のための予備実験として基本的な真空曝露評価実験などを行ない,デ
イノコッカスとバチラスの数種類について生存期間の見積を行なった.
Ⅱ-2-f-13
アストロバイオロジーのためのシリカエアロゲル開発
准教授
橋本博文
千葉大・院生
田端
誠
千葉大・教授
河合秀幸
東薬大・講師
横堀伸一
「たんぽぽ」(地球と宇宙空間の微生物と有機物の双方向伝播)ミッションで使用する予定のシリカエアロゲルに
ついて,宇宙実験後の化学分析の感度を検討した結果,エアロゲル自体のバックグラウンド(化学的汚染)が非常
に大きいことがわかった.そこで,それを低減するために製造環境や製造工程から見直し,改良を行なった.その
結果,かなりの改善(バックグラウンド低減)が見られたが,十分な感度を得るためには,もう少し努力が必要で
ある.
Ⅱ-2-f-14
低圧低酸素環境下におけるカイコの生育
准教授
橋本博文
有人火星生命探査では孤立した宇宙での長期滞在が必須であり,食糧の自給や物質の再利用も考えなければなら
ない.これらの閉鎖生命維持システムを広く議論する宇宙農業サロンが提案する火星での物質循環システムでは,
カイコを組み込むことが検討されている.さらに,宇宙農業では農場となる温室ドームへの機械的な要求とのかね
あいから,その内部を低圧に維持することが検討されている.そこで,いくつかの全圧と酸素分圧の組み合わせ環
境下でカイコを飼育し,その成長を比較した.その結果,気体の全圧が低いこと,酸素濃度が低いことが相乗的に
影響し,生育を阻害していることがわかった.
Ⅱ-2-f-15
低圧環境下における水棲生物の耐性
橋本博文
准教授
宇宙農業に応用するために植物や昆虫の低圧耐性実験が行なわれてきたが,多量の水分が存在する水棲生物を含
む系については,あまり研究されてこなかった.設定圧力が室温における水蒸気圧に近づくため,系の湿度が極端
に高くかつ不安定であり,環境パラメータの測定と制御が困難なためである.そこで,アカウキクサをモデルとし
て,気相,液相の酸素濃度を測定する予備実験を行なった.
Ⅱ-2-f-16
脳神経系の宇宙環境感受応答の分子メカニズム
教
授
石岡憲昭
助
教
東端
晃
重力変化や宇宙放射線をストレス刺激ととらえ,そのストレス感受と応答の分子メカニズムを解明するために,
神経系培養細胞等を用いバイオインフォマティクスの手法を導入して研究している.
118
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-f-17
C.elegans の微小重力影響とそのメカニズム
助
教
東端
晃
教
授
石岡憲昭
宇宙環境下で C.elegans の遺伝子やタンパク質の発現変化に関する研究から,筋肉系タンパク質が分解と遺伝子
レベルでのダウンレギュレーションを受けていることを明らかにしており,さらに重力応答に関与しているタンパ
ク質群に関しての発現解析を行っている.
Ⅱ-2-f-18
血管内皮細胞等を利用した重力感受・応答メカニズム
助
教
東端
晃
教
授
石岡憲昭
生体における重力の感受・応答機構を細胞レベルにおいて解明することを目的として,重力ベクトル変化環境培
養や伸展培養した血管内皮細胞では,細胞骨格系を制御する低分子量 G タンパク質である Rho およびその関連分
子による細胞内情報伝達系が重力ベクトル変化に影響を受けることをが明らかにし,さらに重力感受応答機構の中
心となるべき分子メカニズムの絞り込みを行っている.
Ⅱ-2-f-19
動物の発生・分化・形態形成と重力とのかかわりに関する研究
准教授
黒谷明美
お茶の水女子大・湾岸生物教育研究センター
清本正人
無セキツイ動物の発生および形態形成のメカニズムに重力がどのような役割を果たしているのかについて研究を
行っている.とくに,胚発生過程における単離細胞の骨片形成に関与した培養系を用い,細胞内・細胞間での情報
の伝達・統合にかかわる細胞骨格の動態,カルシウムの代謝,および関連するタンパク質の発現と重力の関係に着
目した研究を行っている.今年度は,この培養系を使って,ウニの骨片形成における重力の影響が,カルシウムチ
ャネルを介してのカルシウムの取り込みにどのように関係しているかについてのデータの蓄積を行うとともに,変
態直後の稚ウニの骨片形成への重力の影響を調べるために,骨格の生体染色を行って骨片の成長速度を測定する方
法を検討した.
Ⅱ-2-f-20
海産動物の産卵・飼育条件の調査
准教授
黒谷明美
お茶の水女子大・湾岸生物教育研究センター
清本正人
宇宙生物学実験で用いられる生物試料は,打上げの延期などスケジュールが定まらないことが多いため,一年中
使用できるような生物種であることが望ましいが,これまでの研究結果の蓄積や実験の経験を生かし,研究の目的
に最適な伝統的な生物種を使うことも必要となる.発生および形態形成研究には,海産無セキツイ動物を使用する
のが有効であるが,このような生物種には産卵シーズンが存在する.海産無セキツイ動物の中でも発生や形態形成
の研究によく使われている棘皮動物ウニについて,これまでと同様の継続した方法によって,飼育の実証データを
取った.
Ⅱ-2-f-21
微小重力下での生物の挙動に関する研究
准教授
黒谷明美
両生類・魚類などのセキツイ動物や,さまざまな無セキツイ動物などを用い,微小重力下での個体の挙動と 1G
下での生活パターンとの関係を調べる研究を行っている.本年度は,昨年度から引き続き,重力と光の 2 つの刺激
に対する反応を調べるための生物種として選んだボルボックス群体の飼育条件について調査した.
Ⅱ.研究活動
119
g.宇宙航行システム研究系
Ⅱ-2-g-1
分散化 HCE の開発
助
教
森
治
白澤洋次
大学院学生
教
授
川口淳一郎
本研究では,熱制御・電力制御・通信制御等において,各種リソース制約に対応してピーク時の使用を平滑化す
る制御法を考案し,リソースを使用する各機器で分散処理により実現する.これにより,システムのリソースを小
さくでき,バス構成に高い自由度が得られる.このコンセプトをもとにした熱制御機器として,分散ヒータ制御モ
ジュールを新たに開発し,カードゲーム方式を導入して分散制御を実現した.2008 年度はこれに対応した熱数学
モデルを構築し,適用型 Duty 更新制御を組み込んだ数値シミュレーションを行った.数値シミュレーション結果
と地上実験結果と比較したところ,よく一致することが確認できた.
Ⅱ-2-g-2
分散化 DHU の開発
助
教
森
治
白澤洋次
大学院学生
教
授
川口淳一郎
本研究では,熱制御・電力制御・通信制御等において,各種リソース制約に対応してピーク時の使用を平滑化す
る制御法を考案し,リソースを使用する各機器で分散処理により実現する.これにより,システムのリソースを小
さくでき,バス構成に高い自由度が得られる.このコンセプトをもとにしたデータ伝送制御機器として,分散
DHU を新たに提案し,分散エージェントソフトウェアおよびデータレコーダソフトウェアを検証用のハードウェ
アである SpaceCube に実装した.2008 年度は,優データをとりこぼさない範囲で劣データを最大限送付するため
のアルゴリズムを検証した.データバッファを優データと劣データで区分するための長所・短所を整理し,突発的
なデータ入力にも対応できる方策等を提案した.
Ⅱ-2-g-3
小天体インパクタの光学航法誘導およびシステム検討
授
川口淳一郎
研究員
尾川順子
助
竹内
教
教
央
森
治
主任研究員
照井冬人
研究員
船瀬
龍
研究員
森本睦子
助
矢野
創
准教授
吉川
助
教
教
真
目標軌道にそって小天体をフライバイするための光学航法誘導の検討を行ってきたが,新たにインパクタとして,
はやぶさ後継機ミッションに応用するための検討を開始した.これまでの候補誘導制御を踏まえ,カギとなる光学
系のスペックや軌道決定精度などの要求を整理し,同時にシステムの初期検討を行った.
Ⅱ-2-g-4
はやぶさ後継機の着陸接近航法誘導の自律化
助
教
森
治
主任研究員
照井冬人
研究員
教
授
尾川順子
川口淳一郎
2005 年 11 月にはやぶさは小惑星イトカワに対し,2 度のタッチダウンを行った.この着陸接近運用では,はや
ぶさが撮像した画像を地上へ送信し,オペレータがはやぶさの位置を推定し,目標地点へ誘導した.本研究ではこ
の航法誘導を自律化し,はやぶさ後継機のタッチダウンで実際に採用することを目指している.小惑星と探査機の
相対姿勢は既知であるとし,まだ遠い段階では小惑星全体の形状を合わせ込むことによって位置を推定し,天体表
面上の特徴点が識別できるレベルになったら,その特徴点を用いて位置推定を行う方法を考案した.今年度は,は
やぶさが取得したデータを用いて特徴点の抽出を行い,特徴点として適切な形状等の指針を示した.また,はやぶ
さ後継機で目指す小惑星のモデルを踏まえた数値シミュレーションにより,着陸接近航法誘導を自律的に行った場
120
Ⅱ.研究活動
合の精度を検証した.
Ⅱ-2-g-5
ラブルパイル小惑星の構造に対する工学的考察
教
授
川口淳一郎
助
矢野
教
創
大学院学生
助
教
三和裕一
森
治
イトカワはがれきの積み重なった小惑星(ラブルパイル小惑星)であり,形状・地表面の土砂の大きさの分布の
偏りなど,通常の惑星には見られない特徴が確認された.これらの特徴は粒子間の引力・摩擦,自転による遠心力,
隕石落下時の衝撃等が複合的に組み合わさって生じたと考えられる.そこで,ラブルパイル小惑星を模擬した多粒
子モデルを構築し,これに適切な振動を加えることによってどのような挙動を示すか数値的に解析した.
Ⅱ-2-g-6
バイアスモーメンタム衛星の姿勢に依存する安定性解析
教
授
川口淳一郎
北島明文
大学院学生
助
教
森
治
はやぶさは 3 台の中 2 台の RW が故障したため,残り 1 台の RW を用いてバイアスモーメンタム方式の姿勢制
御を実施している.これは非常にシンプルな制御法であるが,2007 年 3 月に姿勢を乱した.そこで,バイアスモ
ーメンタム衛星の安定性解析を行った結果,姿勢角が慣性乗積と絡むことによって運動に影響を与え,ニューテー
ション運動が発散または収束する現象を明らかにした.さらにこれを踏まえ,バイアスモーメンタム衛星の設計指
針を示した.現在,安全な姿勢マヌーバについて検討中である.
Ⅱ-2-g-7
非ホロノミック運動を用いた宇宙飛行士の姿勢変更
大学院学生
佐藤祥悟
助
森
教
治
教
授
川口淳一郎
猫が空中でスピンするような非ホロノミックな運動は,コーニング効果による静的なスピンと角加速度から得ら
れる動的なスピンを組み合わせたものである.この運動を解明するため上半身と下半身がリンクで結合されている
モデルを考え,このリンク部分がフラフープ運動(円運動)を 1 周期分行なった場合の静的および動的なロールス
ピン量を明らかにし,非ホロノミック運動時の姿勢の一般解(3 次元)を導出した.今年度はこれを宇宙飛行士の
運動に応用し,スムーズに姿勢変更するための一連動作を考案した.
Ⅱ-2-g-8
宇宙教育の実践と研究
助
教
竹前俊昭
宇宙教育とは,単に宇宙に関する知識を教えるものではない.身近な現象でも宇宙へつなげ,宇宙からの視点で
考える事によって,物事を広く深く考えることができる.これこそが,宇宙を通して教育するという,宇宙教育の
重要なポイントである.
近年,宇宙教育は「Space Education」としての地位を確立しつつあり,宇宙科学関連の学会(国内国際問わず)
でも,宇宙教育のセッションが設けられ,投稿数も確実に増えている.
ロケットや人工衛星等の宇宙システムの現場の立場を生かしつつ,宇宙教育活動を実践的に進めている.
Ⅱ-2-g-9
科学衛星の熱制御技術の研究
准教授
小川博之
開発員
福吉芙由子
開発員
岩田直子
進行中のミッションの熱制御の研究のほか,将来の科学衛星に必要とされる熱制御技術の研究をおこなっている.
将来の天文衛星,惑星探査機などの将来宇宙ミッションでは,少ないリソース下での極めて厳しい温度制御や極限
Ⅱ.研究活動
121
熱環境下での温度制御技術など,新しい熱制御技術が要求される.内外の動向を踏まえ,ループヒートパイプや自
励振動ヒートパイプ,可変コンダクタンスヒートパイプ,蓄熱デバイス,機械式ヒートスイッチ等の研究をおこな
った.
Ⅱ-2-g-10
可変コンダクタンスヒートパイプの研究
准教授
小川博之
内部発熱に応じて熱輸送能力が受動的に変化する可変コンダクタンスヒートパイプの研究を行っている.今年度
は,可変コンダクタンスヒートパイプ(VCHP)を試作し,その特性を調べた.長さ 1,100mm,外径 15mm のアル
ミ製軸方向グルーブヒートパイプに,50cc のステンレス製リザーバをつけた VCHP を試作した.作動流体はアセ
トン,非凝縮性気体は空気とした. 動作試験をおこない,熱入力を上げるに従って,温度界面がリザーバに向け
て移動していることが確認され,VCHP として動作していることを確認した.今後,作動流体やヒートパイプの構
造を変えた試作・試験,温度制御法の研究を実施する.
Ⅱ-2-g-11
蓄熱デバイスの研究
准教授
小川博之
内部発熱や外部熱入力が大幅に変化する場合に,熱を貯め温度変化を鈍らせるための,軽量でかつ熱容量が大き
な蓄熱デバイスの研究を行っている.今年度は,蓄熱デバイス(PCM)の比熱の測定と蓄熱デバイスの加熱温度
試験を行った.供試 PCM の潜熱も含めた比熱はアルミと比べて一桁程度大きく,軽量で熱容量の大きい蓄熱デバ
イスの有効性が確認できた.
PCM の加熱温度試験の結果,PCM は熱伝導が悪く,PCM 全体が均一な温度にするための工夫が必要であるこ
とがわかった.今後,この結果を踏まえてデバイスの設計・試作を行っていく.
Ⅱ-2-g-12
機械式ヒートスイッチの研究
准教授
小川博之
熱輸送を機械的に ONN/OFF できる機械式ヒートスイッチの研究を行っている.今年度は,機械式ヒートスイッ
チの設計・試作に先立ち,設計のための知見・指針を得るため,福井工大の宮崎教授が以前に試作したヒートスイ
ッチを貸与していただき,動作試験を実施した.
Ⅱ-2-g-13
再使用観測ロケットのシステム研究
准教授
小川博之
助
教
授
稲谷芳文
准教授
助
教
丸
教
祐介
教
野中
聡
助
教
成尾芳博
徳留真一郎
教
授
石井信明
授
樋口
健
教
授
佐藤英一
准教授
後藤
健
助
教
竹内伸介
再使用宇宙輸送システム研究の第 1 段階として,将来型のシステムが持つべき最低限の要件である「再使用性」
を付与した観測ロケット実験機を短期間で開発し,観測ロケットとして実際に航空機と同様の繰り返し運用をする
ことにより,宇宙輸送システムの完全再使用化に向けた総合的基盤の形成とさらに次の研究開発を加速することを
提案している.再使用観測ロケット実験機の仕様として,到達高度 120km,ペイロード 100kg,1 フェールオペラ
ティブ(1 故障許容)等を仮定し,システム研究を行っている.今年度は飛行特性,サブシステム,原型エンジン
などについて検討を行い,再使用観測ロケットの機体システムベースラインをまとめた.システム再使用観測ロケ
ット技術実証プロジェクトにおける計画内容を具体化し,プロジェクト移行に向けた活動を行っている.
122
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-g-14
Magnetoplasma Sail の推力発生機構の解明
東京農工大学准教授
西田浩之
准教授
小川博之
准教授
船木一幸
助
藤田和央
教
稲谷芳文
教
授
太陽から流出している高速プラズマ流である太陽風の運動量を,探査機で発生した磁場によって受ける
「Magnetoplasma Sail」の推力発生機構:太陽風の運動量が探査機の推進力に変換されるメカニズムの解明を目指し
電磁流体解析を行った.
Ⅱ-2-g-15
再使用ロケット実験機「RVT」の効率的繰り返し運用の研究
准教授
小川博之
准教授
徳留真一郎
助
教
野中
助
教
成尾芳博
教
授
稲谷芳文
助
教
丸
開発員
八木下剛
開発員
福吉芙由子
開発員
聡
祐介
志田真樹
再使用ロケット実験の目的の一つに地上運用の効率化・簡素化がある.RVT 実験において地上オペレーション
を実践することにより,将来型の完全再使用宇宙輸送システムの効率的運用の実験的研究を行っている.今年度は
液体水素ターボポンプ特性取得単体試験,システム燃焼試験において,ターボポンプ式エンジンの運用の実践的研
究を行なった.
Ⅱ-2-g-16
再使用ロケット実験機ターボポンプ式エンジンの研究
准教授
助
教
開発員
徳留真一郎
野中
聡
福吉芙由子
開発員
八木下剛
助
教
成尾芳博
助
丸
開発員
志田真樹
教
稲谷芳文
教
准教授
祐介
小川博之
授
再使用ロケット実験機のエンジンの動作信頼性向上を狙い,液体水素ターボポンプ FTP の改修を実施し,性能
と安定性の向上を目指した.また運用性の向上を目指し,軸封シールの見直しを行った.改修後の FTP は角田宇
宙センターのラムジェットエンジン試験設備を用いてその単体特性を取得した.単体試験の成果に基づいて,高速
応答が期待できる液側制御方式のエキスパンダーサイクルエンジンシステムを組み上げ,システム燃焼試験を実施
した.ディープスロットリング試験ではエンジン限界性能を確認できた他,周波数応答特性を含む多くの運転デー
タを取得することができた.エンジンの内部熱流体流動挙動等について多くの知見が得られ,将来の高信頼・高性
能再使用エンジンに向けて技術が取得できた.
Ⅱ-2-g-17
再使用観測ロケットの飛翔性能に関する研究
助
教
野中
聡
准教授
小川博之
教
授
稲谷芳文
高度 120km への到達を目指す再使用観測ロケットの飛翔性能を解析し,システム要求として必要な空力特性,
推進性能,構造重量,機体サイズについて検討した.より高い高度への到達には上昇時の空力抵抗による損失を低
減する必要があり,そのための機体形状の検討を行い,風洞試験により空力特性を取得した.また高高度でのエン
ジン性能の改善のためデュアルベルノズルの効果について検討し,必要なノズル開口比などを明らかにした.さら
に機体サイズおよび構造重量についてもシステム要求としてまとめた.
Ⅱ-2-g-18
再使用観測ロケットの空気力学とダイナミクスの研究
助
教
野中
聡
准教授
小川博之
教
授
稲谷芳文
垂直離着陸システム固有の空力的課題として,着陸時に主エンジンの推力により減速するため(1)エンジン逆
Ⅱ.研究活動
123
噴射の際に外部主流とエンジンプルームとが干渉し空力特性に影響をあたえる,(2)ノーズファーストでエントリ
ーする場合には着陸前に機体転回運動が必要になる,などが挙げられる.垂直離着陸型再使用ロケットの空気力学
について風洞試験での 6 分力計測や表面圧力計測を行い,逆噴射が空力特性に与える影響を明らかにした.また
PIV(Particle Image Velocimetry)法を用いて流れ場を可視化することで,これまでタフト法やオイルフローでは見
ることができなかった流れの干渉領域や機体近傍での流れのはく離の様子を詳細に捉ることができた.この結果か
ら機体側面での流れのはく離が空力特性に大きく影響することを明らかにした.これらの研究から得られた結果を
システム要求として定量化し,再使用ロケット実験機の機体設計へ反映した.機体転回時における大迎角の流れ場
を PIV により可視化し,横力の発生メカニズムや非定常性・非線形性についての理解を深めた.また小型の機体
モデルを試作し,高度 30m からの滑空転回運動模擬実験を行った.
Ⅱ-2-g-19
再使用観測ロケットの誘導制御の研究
開発員
山本高行
助
教
野中
聡
准教授
小川博之
再使用観測ロケットの帰還飛行時における誘導制御に関する研究を行っている.着陸前の機体転回運動から着陸
点における垂直着陸までの誘導制御則について検討を行い,3 次元 6 自由度飛行シミュレーションを行うための研
究を進めている.
Ⅱ-2-g-20
再使用観測ロケットの要素技術研究
助
教
野中
聡
助
教
成尾芳博
准教授
小川博之
教
稲谷芳文
授
再使用観測ロケット技術実証プロジェクトでは運用システム開発のスタート時点で技術開発上大きなリスクが残
らないようリスクの大きなシステムレベルの技術課題を抽出し,それらのリスク軽減のための技術実証を行うこと
を目的とし,技術実証結果を再使用観測ロケットシステムのシステム要求やシステム仕様に反映・ベースライン化
し,開発計画に反映する.技術実証プロジェクトにおいて必要となる要素技術試験をまとめ,それぞれの計画を具
体化した.スロッシング試験,タンク排液試験,センサ開発試験/水素ガスセンサ試験,リサーキュレーション試
験,高速ネットワーク試験,小型モデル滑空試験,ヘルスモニタ試験,の各試験装置および試験条件を検討した.
Ⅱ-2-g-21
液体水素推進システムの安全かつ効率的な運用に関する研究
助
教
野中
聡
助
教
成尾芳博
開発員
八木下剛
助
丸
教
祐介
クリーンで高性能な液体水素は将来の大量宇宙輸送を実現するための完全再使用型システムの推進剤として欠か
すことができない.また安全で効率的な水素の取り扱いは将来の輸送システムの運用にとって重要な課題である.
液体水素を用いた推進システムの安全かつ効率的な運用を目指し,再使用ロケット実験機の実運用および要素技術
試験を行った.実際の運用から液体水素の効率的な充填方法や水素の漏洩検知,安全な排気および残液処理など検
討し経験を備蓄し,運用時間の短縮と課題の抽出をした.要素技術研究として液体水素注液ラインを自動離脱する
ための極低温カプラを試作し,その離脱試験を行い,運用方法に対する課題を明らかにした.
Ⅱ-2-g-22
再使用ロケット実験機の極低温推進剤スロッシングに関する研究
助
教
野中
聡
東京大学准教授
姫野武洋
助
教
成尾芳博
液体推進剤の挙動はロケットのダイナミクスに与える影響が大きく詳細にモデル化しなければならない.またエ
ンジン再着火時に推進剤吸引口に気泡が存在すると着火に失敗する可能性があり,液体推進剤の挙動を正確に予測
124
Ⅱ.研究活動
する必要がる.再使用ロケット実験機および再使用観測ロケットの飛翔時における液体推進剤の液面挙動について
実験と数値解析による研究を行った.縮小タンク模型を用いた横加速度負荷試験により相似流れを実現し,自由表
面流を模擬する数値解析により再現することで内部デバイスの効果を評価した.その結果,放物飛行中に横風を受
けた場合やエンジン故障時でも内部デバイスによりエンジンへの燃料供給が可能であることを示した.また姿勢制
御に対する要求を定量化した.
Ⅱ-2-g-23
次期固体ロケットの空力特性に関する研究
助
野中
教
聡
入門朋子
開発員
基幹本部
福添森康
プロジェクト研究員
北村圭一
次期固体ロケットの設計検討に必要とされる機体の空力特性について検討した.1/45 スケール模型による風洞
試験を行い,マッハ数 0.5 から 4.0 までの空力特性を取得し,設計に使用するために空力係数ベースラインを求め
た.また M-V ロケットの空力特性と比較し,形状の違いによる効果について検討した.
Ⅱ-2-g-24
観測ロケット(S-310/S-520)の風補正軌道解析
助
野中
教
聡
山本高行
開発員
教
授
石井信明
制御系のない観測ロケットは風により軌道が大きく変化する.軌道をノミナル値に近づけるため,風による軌道
の補正は重要である.観測ロケットの打ち上げ実験において OP 班として軌道設計および風補正を行った.ノミナ
ル軌道の設計には観測担当からの各要求をまとめ,飛翔解析プログラムにより最適化を行った.また打ち上げ時に
は気象ゾンデによる風向風速計測を行い,6 自由度軌道解析により打ち上げ発射角の風補正を行った.これまでの
打ち上げにおいて的確な風補正が行われ,飛翔には全く問題なかった.
Ⅱ-2-g-25
観測ロケット(S-310/S-520)の空気力学に関する研究
助
野中
教
聡
准教授
小川博之
教
授
稲谷芳文
観測ロケット(S-310/S-520)のアンテナや尾翼部分,頭頂部における空力加熱の検討を行った.また,飛翔中
のノーズコーン内部のベンティング解析を行い,頭胴部内部圧力履歴を予測した.それぞれ飛翔結果から問題がな
いことを確認した.
h.宇宙輸送工学研究系
Ⅱ-2-h-1
ロケットプルームからの空力騒音予測に関する基礎的研究
教
授
藤井孝藏
准教授
高木亮治
大学院学生
後藤良典
情報・計算工学センター研究員
堤
誠司
情報・計算工学センター研究員
福田紘大
情報・計算工学センター主幹開発員
嶋
英志
研究員
野々村拓
ロケットに代表される輸送システム打ち上げ時に生ずるプルームに起因した音響振動の予測・低減は輸送システ
ム本体の信頼性のみならず衛星等のペイロードの信頼性にも大きな影響を与える課題である.しかしながら,ロケ
ットプルーム音響に対する高精度の予測方法は未だに確立しておらず,実験結果や実測値を組み合わせて構成され
た半経験式に基づいた推算式が国内外において使われてきた.本研究ではロケットプルームの流れ場を単純にモデ
ル化し,高次精度の CFD を用いて解析をおこなうことで,基礎的な音響波放射の特性を把握するとともに,現在,
情報・計算工学センターで行っているより現実的なモデルを用いた空力音響解析と連携することで,ロケットプル
Ⅱ.研究活動
125
ーム音響の高精度予測方法を確立することを目的としている.本年度はロケットプルームの流れ場を超音速ジェッ
トと斜め平板干渉問題としてモデル化して数値解析を行い,発生する音波を解析した.超音速ジェットと斜め平板
干渉問題から発生する音響波はフリージェットで発生する音響波に加えて,衝突部から新たな音響波が発生してい
ることが明らかになった.
Ⅱ-2-h-2
次期固体ロケットの空力に関する研究
授
藤井孝藏
研究員
野々村拓
大学院学生
浅田健吾
教
助
教
大山
慶則
助
教
野中
聡
技術研修生
山崎佑希
情報・計算工学センター宇宙航空プロジェクト研究員
藤本圭一郎
情報・計算工学センター宇宙航空プロジェクト研究員
北村圭一
技術研修生
滑
聖
現在研究が進められている次期固体ロケットは,低コスト化の一環として姿勢制御デバイスの数が減るため,機
体の空力性能を高精度に把握することが大切になる.本研究では空力評価の精度向上を目指し,大きな突起物を取
り除いた簡易形状型のCFD解析を行い,風洞試験結果との比較を行うことで, CFD 解析の精度評価を行った.
今後は風洞試験では計測が難しいローリングモーメント特性についてもCFD解析により評価していく予定である.
Ⅱ-2-h-3
ロケットエンジンターボポンプブレード設計の多目的形状最適化
助
教
大山
聖
情報・計算工学センター開発員
谷
直樹
現在研究が行われている次世代ブースターエンジン LE-X は 2 段燃焼を行わないため,高効率のターボポンプが
必要とされている.本研究では,高効率のターボポンプを開発するため,多目的進化アルゴリズムを用いてタービ
ンブレードの空力形状最適化を行った.その結果,得られた形状は従来の形状よりも高い性能を示した.また,ど
の設計パラメータがどの目的関数に聞いているかなど,設計に有益な情報も得られた.これらのことから,多目的
進化アルゴリズムを用いたターボポンプの設計が有効であることを示した.
Ⅱ-2-h-4
火星航空機のための能動流体制御デバイスを用いた流体制御に関する研究
授
藤井孝藏
特別共同利用研究員
岡田浩一
大学院学生
浅田健吾
技術研修生
宇佐美達也
技術研修生
多田康平
横浜国立大学大学院工学研究院
宮路幸二
教
高解像度で広範囲の探査が可能な航空機による火星探査を実現するためには翼の揚力係数の大幅な向上が必要に
なる.翼の揚力係数を大きくするためには小さくてかつ能動的な制御が可能な流体制御デバイスが有効である.本
研究は,プラズマアクチュエータやシンセティックジェットを用いた動的流体制御法に注目し,数値解析と風洞実
験を行うことで流れの制御メカニズムを解明し,効果的な空力制御デバイス利用の知見を得ることを目指したもの
である.本年度は低速 2 次元風洞を用いて,プラズマアクチュエータによる 2 次元翼周り低速流れの剥離制御に関
する研究を行い,高いバースト周波数や高い交流周波数において優れた剥離制御効果が得られることを示した.ま
た,数値流体力学を用いて,シンセティックジェットによるバックステップ後方流れの剥離制御に関する研究を行
い,バックステップ高さと一様流流速で定義した無次元周波数が 0.2 の時にもっとも剥離制御効果が高いことがわ
かった.無次元周波数が 0.2 のときはシンセティックジェットにより増加した流れのレイノルズ応力がせん断層の
混合を促進させ,剥離領域を効果的に減少させていることがわかった.また,数値流体力学を用い,翼型まわり流
れにさまざまな分布をもつ仮想的な体積力を負荷する事によって剥離制御を行い,剥離制御に関するより一般的な
知見を得る試みを行っている.本年度は時間一定の仮想体積力を与えたシミュレーションを行い,翼表面近傍に翼
表面に沿った体積力を負荷する事が翼剥離制御に効果的であり,翼面に垂直な方向の力は剥離制御に大きな影響を
与えないことを明らかにした.
126
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-h-5
羽ばたき型火星航空機の空気力学に関する数値計算
教
授
藤井孝藏
助
教
大山
聖
技術研修生
山崎佑希
近年,次世代の火星探査のアプローチの一つとして,羽ばたき型の航空機による探査の実現を目指した研究を進
めている.これまで,数値流体力学と最適化手法を用いて,2 次元羽ばたき運動における揚力最大化,推力最大化,
消費エネルギー最小化の間に存在するトレードオフ関係や,各設計変数が性能に与える影響についての考察を行っ
てきた.
本年度は,現実的な 3 次元羽ばたき運動の CFD 解析を行い,3 次元羽ばたき運動特有の現象であるスパン方向
流れや翼端渦が翼性能に与える影響を調査した.また,翼の前縁から流れが大きく剥離し発生する前縁剥離渦が翼
端方向へ進むスパン方向流れと,これにより誘起されると思われる翼付け根方向へ流れる 2 次渦があることが明ら
かになった.今後はこれらの渦の発生と揚力・推力の関係をより詳細に調査していく予定である.
Ⅱ-2-h-6
斜め平板に衝突する不足膨張噴流に関する研究
教
授
藤井孝藏
研究員
野々村拓
大学院学生
後藤良典
平板衝突噴流に代表される現象はロケットの打上げ時や多段ロケット切り離し,惑星探査機の離着陸時などに見
られ,複雑な衝撃波構造をもち,平板と噴流のなす角度やノズル・平板間距離の変化によって流れ場や平板表面の
圧力分布などが大きく変化する,工学的にも流体力学的にも興味深い現象である.本研究ではシュリーレン画像計
測と感圧塗料による表面圧力計測,そして数値シミュレーションを用いて,三次元的な流れ場構造や圧力ピークの
発生メカニズム及びそれらの非定常性の解明を目指している.
本年度は,昨年度までの結果を受けて(三次元的な流れ場構造や圧力ピークの発生メカニズムを明らかにしてき
た)高次精度スキームを用いた非定常流れ場解析を行った.その結果,これまで行ってきた一連の解析の妥当性を
示し,平板上の圧力ピークの非定常性を引き起こす流れ場現象について詳細に議論した.
Ⅱ-2-h-7
多目的設計探査を用いた翼型性能と相関の高い翼型パラメータ抽出に関する研究
教
授
藤井孝藏
助
教
大山
聖
技術研修生
Paul C. Verburg
大学院学生
石川義泰
多目的設計探査は設計問題において,設計空間全体の構造を把握し設計上有益な情報を引き出す手法である.近
年,航空機設計などの分野においてこの多目的設計探査が盛んに用いられるようになってきたが,これまでは主に
目的関数・制約条件関数・設計パラメータ間の相関関係やトレードオフなどの情報を抽出することに用いられてき
た.しかし,設計パラメータにはとらわれず,得られた最適形状について適切な幾何学形状パラメータを選択する
ことで,知られている理論的・経験的知見の背後にあるメカニズム等を理解することができると考えられる.また,
逆に得られた最適解群の情報から,理論的・経験的には知られていなかった新しいパラメータや新しい知見を引き
出すことも可能であると考えられる.本研究では,遷音速翼型の多目的空力最適化により得られたパレート最適解
および実行可能解を分析し,遷音速翼型の設計に重要といわれている PARSEC のパラメータについて,相関係数
および散布図行列を用いて目的関数への影響度などについて分析を行った.さらに,翼型の翼厚分布とキャンバー
をパラメータする新たな翼型パラメータを提案し,PARSEC のパラメータとの比較を行った.その結果,新たに提
案したパラメータと PARSEC のパラメータはBスプラインの制御点をパラメータにした場合よりも目的関数とよ
り高い相関を示すことがわかった.
Ⅱ.研究活動
127
Ⅱ-2-h-8
多目的空力形状最適化問題のパレート最適解の固有直交分解を用いた分析法の提案
教
藤井孝藏
授
助
教
大山
聖
多目的設計探査手法は,設計最適化問題から設計に関する有益な設計情報を引き出すことができる手法であるが,
これまでは主に設計パラメータと目的関数値との関係に関する知識の抽出にしか使われてこなかった.本研究では
固有直交分解をもちいて,多目的空力形状最適化問題のパレート最適解がもつ,形状データや流れ場データを分析
する新しい手法を提案した.この手法は,主要な主成分(モード)と,それらの固有ベクトルの分布をみることで,
これまで(事実上)不可能だった多数のパレート最適解の形状データや流れ場データを分析することを可能とする
手法である.形状データおよび(流れ場データの一例として)表面圧力係数分布データの分析を行い,その有効性
を示した
Ⅱ-2-h-9
電気推進システムの宇宙応用
教
授
准教授
國中
均
山田哲哉
准教授
船木一幸
准教授
西山和孝
助
小泉宏之
主任開発員
清水幸夫
招聘研究員
細田聡史
教
2003 年に打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ」に搭載されたイオンエンジンの飛翔データを解析し,性能評価
を行った.作動積算時間 3 万 1 千時間の宇宙運用を通し,宇宙機システムにおいて電気推進単体が有するべき機能
や性能に関して,大いなる知見・経験を得た.地球帰還を目指し,2 月にイオンエンジンの再点火に成功し復路軌
道変換を実施中であり,宇宙運用経過に伴う性能の変化を引き続き監視している.
Ⅱ-2-h-10
マイクロ波放電式イオンエンジンの大型化に関する研究
教
授
國中
均
准教授
西山和孝
主任開発員
清水幸夫
招聘研究員
細田聡史
東大大学院
豊田康裕
マイクロ波放電式イオンエンジンの推進性能の向上を目指し,これまでの有効直径 10cm から 20cm に拡大した
イオン源の研究を実施している.自動運転装置により 1000 時間級のイオン加速長時間作動に成功した.平行して
グリッドの加速孔を計測するシステムを構築し,作動時間の経過に伴う加速孔の形状変化を分析した.さらに計測
とイオンミリング手法を組み合わせた最適グリッド設計法を確立した.
Ⅱ-2-h-11
ロケット・衛星搭載用コンタミセンサ GCM の開発
准教授
西山和孝
教
國中
授
均
特別共同利用研究員
西村太一郎
地上での製造・各種試験・射場作業・打ち上げを通じて衛星の局所的な粉体による汚染履歴を記録・再生できる
小型コンタミセンサの開発を目指している.衛星搭載を目指して,FPGA で駆動される QCM センサの設計製造を
行い,質量 100g/消費電力 1W 以下で実現できる見込みを得た.また,QCM センサを駆使して,イオンエンジン
のグリッド材料のためのデファレンシャルスパッタリングの物理データを取得した.
Ⅱ-2-h-12
マイクロ波放電式ホールスラスタの研究
教
授
國中
均
東大大学院
大野
章
直流放電によりプラズマ生成と加速を連続的に実行する従前のホール型スラスタに対し,マイクロ波放電により
生成したプラズマを直流電界により加速する 2 段式ホールスラスタの研究を行っている.これまでは円筒型空洞共
振器を用いていたのに対し,同軸円筒型を新たに作成しプラズマ点火および加速に成功した.
128
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-h-13
高比推力イオンエンジンの研究
教
授
國中
均
西山和孝
准教授
主任開発員
清水幸夫
東京大学大学院
月崎竜童
比推力 3,000 秒程度のイオンエンジンの宇宙利用が進んでいるが,深宇宙航行ではさらに高比推力が望まれる.
これに対応するためには加速電圧が 1kV から 10kV へと高電圧化に成功した.これに対応するための絶縁支持構造
と研究開発と,衛星搭載用電源の開発を行った.
Ⅱ-2-h-14
10cm 級マイクロ波放電式イオンエンジンの研究
教
國中
授
均
助
小泉宏之
教
東京大学大学院
月崎竜童
マイクロ波放電式イオンエンジンは,無電極プラズマ生成と炭素複合材イオン加速電極を特徴としており,その
高信頼・長寿命は「はやぶさ」の深宇宙動力航行にて実証された.プラズマ生成機構に関して,定式化を行い,性
能を代表する制御パラメータの整理を行った.この理論に準拠して推進剤の投入方法の最適化を行い,推力を 2 割
程度向上させることに成功した.また光ファイバープロープを用いた内部探針について予備検討を行った.
Ⅱ-2-h-15
1cm 級マイクロ波放電式イオンエンジンの研究
教
授
國中
均
助
教
小泉宏之
マイクロ波放電式イオンエンジンの宇宙利用範囲を拡大させるため,大型化のみならず小型化にも着目している.
「はやぶさ」小惑星探査機により宇宙実現した 10cm 級イオンエンジンを基本に 1cm 級システムの研究を行ってい
る.イオン源または中和器モード兼用で作動するプラズマ源を宇宙機に複数搭載し,電源の接続選択により,任意
の並進方向・回転方向に推力を発生しうる方式を新たに考案した.
Ⅱ-2-h-16
電気推進起源高速中性粒子による高層大気観測に関する研究
教
授
國中
均
細田聡史
招聘研究員
インターンシップ
小川卓哉
地球超高層大気は,電気的中性である原子状酸素がその大多数を占める.応答性が低いために,電波や光などに
よる遠隔観測が実施できない.そこで,既知の速度・時間・場所から放射された,自然界では稀な粒子種のイオン
が,中性大気と衝突し変換された高速中性粒子を遠方から観測すれば,高層中性大気の組成・密度・空間・時間分
布をリモートセンシングすることができる.APD(アバランシェ光ダイオード)にて,高速中性粒子を直接捉える
ことを試みた.
Ⅱ-2-h-17
MPD アークジェットに関する実験的研究
教
授
國中
均
中田大将
特別共同利用研究員
東京大学大学院
岩川
輝
電気推進の宇宙利用が実現し,より大電力推進への期待がある.100kW 超の電力範囲では MPD アークジェット
による高比推力作動が有望である.自己誘起磁場に頼るのではなく,クロスフィールドで外部磁場を加える方式の
装置を試作し,放電電圧が上昇する事を確認した.
Ⅱ-2-h-18
粉体推進
教
授
國中
均
東大大学院
斉藤健史
粉体は,物質相は固体であり,相変化を起こす液体や気体と比べ温度管理の許容範囲が広い.高圧を用いなくて
Ⅱ.研究活動
129
も高密度貯蔵が実現できる.固体推進剤の最大の問題点は「作動の断続」であるが,粉体を静電気や磁力を用いて,
小口で供給する方式はブレークスルーとなろう.この原理は,乾式コピーやレーザープリンタにおけるトナーの取
り扱いに既に利用されている.テフロン粉を供給する機構を開発し,これで Pulsed Plasma Thruster にて噴射させ,
推進性能を評価した.
Ⅱ-2-h-19
宇宙機材料の電気絶縁の研究
教
授
國中
均
宇宙機に利用される各種材料は,宇宙環境にて複数種の効果を受けてその性能は次第に劣化する.しかし,各種
環境要因に対する変化の実験データは不十分でデータベース化は未だされておらず,専ら経験に基づいた材料選定
が行われている.本研究では材料の電気絶縁特性に着目し,温度・厚み・周波数・時間・電子線の各要素に対して,
各種宇宙機材料(テフロン,カプトン,RTV,ガラエポ,等)の絶縁劣化特性を取得した.
Ⅱ-2-h-20
マイクロ波放電式イオンエンジン「μ10」の実利用衛星への適合化
西山和孝
准教授
招聘研究員
細田聡史
マイクロ波放電式イオンエンジンは,無電極プラズマ生成と炭素複合材イオン加速電極を特徴としており,その
高信頼・長寿命は「はやぶさ」の深宇宙動力航行にて実証された.この技術を実利用衛星へ展開するには,科学衛
星特有の分散配置からイオンエンジンサブシステムとしてまとまったモジュール化する必要があるので,そのため
の改良を実施した.またシステム性能向上の一貫として,改良した DC ブロックの QT 試験を実施した.
Ⅱ-2-h-21
電磁加速型高速プラズマ流シミュレータの開発
准教授
船木一幸
総研大・院
主任開発員
清水幸夫
京大・生存圏
防衛大・工
中山宜典
東京農工大
上野一磨・大塩裕哉
山川
宏
都木恭一郎
東海大・院
綾部友洋
教
授
安部隆士
東海大・工
堀澤秀之
東北大・工
安藤
晃
将来型宇宙推進として期待される磁気セイルをはじめ,超高速プラズマ流れと宇宙機との干渉を実験的に評価す
るためめ電磁流体加速型プラズマ風洞の基礎開発を進めている.平成 20 年度は,プラズマ風洞を半値幅 1ms の準
定常パルスで運用し,1)高速高密度プラズマジェットのプラズマ密度・速度などの気流特性の詳細評価と,2)磁
気セイルを模擬した小型コイルをプラズマ気流中に導入した際の乱流的な構造と変動磁場の測定,および,3)磁
気プラズマセイルを模擬した実験室シミュレーションにおける推力特性評価を行った.
Ⅱ-2-h-22
宇宙機用超伝導コイルの研究開発
准教授
船木一幸
京大・生存研
山川
宏
京大・工
中村武恒
京大・生存研
小嶋浩嗣・上田義勝
総研本部
杉田寛之
京大・院
佐々木大祐
磁気プラズマセイル搭載用高温超伝導コイルのスケールモデルの設計研究を進めている.平成 20 年度は,熱伝
導冷却型真空チャンバを整備して,定格電流 200A,130 ターン,直径(外径)270mm のビスマス系高温超電導コ
イルの低温通電試験を実施した.
130
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-h-23
電磁プラズマ力学(MPD)アークジェットの電磁流体解析
准教授
船木一幸
総研大・院
佐藤博紀
東工大・院
窪田健一・薄井由美
東工大・総理工
奥野喜裕
MPD アークジェットは惑星間空間航行用システムの主推進機として実現が期待されていると共に,高速高密度
プラズマジェットを必要とする様々な地上実験においてプラズマ風洞としても利用されている.平成 20 年度は,
0.1T クラス磁場を印可した MPD アークジェットの動作特性を予測するための数値計算と,時間幅 1ms 程度のパル
ス放電型 MPD アークジェットの数値解析を行い,磁場中のアーク放電によるプラズマ生成過程と加速過程・効率
を調査した.
Ⅱ-2-h-24
レーザーアブレーションスラスタの研究
堀澤秀之
東海大・工
准教授
船木一幸
東海大・院
住田聡太・小野智久
宇宙機用スラスタや高速流体試験用バリスティックレンジへの応用を目指して,様々なレーザーフルエンスにお
けるアルミ・カーボン及びシリカターゲットのアブレーション特性を調べている.20W 以下の低出力ファイバー
レーザーをアルミニウム板に照射する実験を行い,10μN クラスの定常推力が得られる事を確認した.また,レー
ザーで生成されたプラズマを静電的または電磁的に追加速するレーザー複合型スラスタの基礎実験を実施した.
Ⅱ-2-h-25
静電式小型スラスタと微小推力測定用スラストスタンドの開発
船木一幸
准教授
防衛大・工
中山宜典
東海大・工
堀澤秀之
京大・理
安東正樹
重力波観測衛星の姿勢制御には,100μN クラスで安定に動作可能な小型推力スラスタが求められる.このため,
液体金属を静電加速する電界放出型スラスタの設計ならびに試作を行った.また,マイクロスラスタの性能評価の
ために,1μN から 100μN までが測定可能なスラストスタンドの製作を行った.
Ⅱ-2-h-26
マイクロアークジェットの研究
東海大・工
堀澤秀之
准教授
船木一幸
東海大・院
澤田富智美・萩原秀志
投入電力が 10W 程度の微小電力アークジェットについて実験ならびに数値解析による検討を行っている.
Nd:YAG レーザ第 5 高調波を用いたマイクロノズルの試作を行い,試作した推進機の推進性能を実験的に評価した.
さらに,ノズルの内部流・排気流の DSMC 解析を行い,マイクロノズルの推進性能について検討した.
Ⅱ-2-h-27
パルスデトネーションエンジンの真空中における部分充填効果
准教授
船木一幸
筑波大・シス情
笠原次郎
筑波大・院
高島康弘
パルスデトネーションエンジン(PDE)では,シンプル構造にも関わらず,間欠的にジェットを生成することで,
エンジンに直接流入しない周囲空気に力を作用させて反作用を取り出すことが可能である.円筒状の PDE に部分
的に推進剤を充填した場合,推進剤後方の空気等を押し出すために,エンジン全体に推進剤を充填する場合に比べ
て,比インパルスが増大することが知られている.これは部分充填推力増大効果と呼ばれるが,本研究では,部分
充填された PDE の真空環境下での推力計測を行い,上述の推力増大効果を評価した.
Ⅱ.研究活動
131
Ⅱ-2-h-28
展開型柔軟構造を有する再突入減速体の飛行実験の検討
授
安部隆士
助
研究員
秋田大輔
特別共同利用研究員
木村祐介
東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
鈴木宏二郎
教
教
山田和彦
観測ロケットや大気突入ミッションにおける回収システムとして検討されている展開型柔軟構造エアロシェルを
有するカプセル型の飛翔体についての飛行試験の準備を行った.このシステムは収納及び展開が可能な柔軟なシェ
ル構造を有した飛行体であり,特にガス圧で形状を維持するインフレータブル構造を有するエアロシェルについて
の研究を進めた.具体的には,そのガス圧によるエアロシェルの展開機構の開発と真空チャンバー内での展開実証,
また,インフレータブルトーラスの構造強度に関する解析と低速風洞を利用した構造強度試験を実施し,飛行体の
設計に欠かせない知見を得ることができた.次年度は,これらの知見を踏まえて製作した小型の実験機を用い,気
球を利用したフライト試験を実施する予定である.
Ⅱ-2-h-29
観測ロケット用回収システムの検討
教
授
安部隆士
助
教
山田和彦
東京大学大学院新領域創成科学研究科教授
鈴木宏二郎
柔軟構造大気突入システムを観測ロケット用の回収システムとして適用することに関する検討を行っている.本
システムにおいて,インフレータブルトーラスフレームを有するフレア型の柔軟エアロシェルを採用することによ
り,従来に比べ非常に簡易な熱防御システムで,観測機を地上まで無事に帰還させられることを示している.また,
観測ロケットを用いた飛行実験を提案しており,その実験機の設計に必要なデータを取得するための極超音速風洞
試験を実施した.次年度は,それらのデータを踏まえて具体的な実験機およびシステム全体としての設計を開始す
る予定である.
Ⅱ-2-h-30
電磁力による高エンタルピー流れの制御に関する研究
授
安部隆士
大学院学生
河村政昭
技術研修生
和才克巳
技術研修生
牧野
宇宙航空プロジェクト研究員
葛山
教
特別共同利用研究員
谷藤徹哉
仁
技術研修生
加藤優佳
浩
宇宙輸送ミッション本部
伊藤勝宏
静大・工・准教授
大津広隆
惑星大気に再突入する宇宙機にとって空力加熱の低減は鍵となる技術である.空力加熱の低減のため一方策とし
て,電磁力とプラズマとの干渉を利用することが可能であることが期待されている.また,これにより,再突入機
周りの流れの制御が可能となり,これを利用した宇宙機の飛行制御が可能であることが期待されている.本研究で
は,地上実験および理論的に,これらのことが可能であることを実証することを目的とする.具体的は,弱電離気
体の流れを作りだすアーク風洞,高エンタルピー流れを生成する装置として,エクスパンションチューブ,衝撃風
洞を用い,高エンタルピー流れの中に置かれたモデル前方の衝撃層の解析を行っている.その結果,モデル前部に
配置された磁場の効果により,衝撃波の位置がさらに前方に移動する効果を見いだしている.さらにこの効果によ
る抗力の増大を実験的に明らかにした.実験と併行して,数値解析を行い,実験結果の妥当性を把握している.そ
の際,ホール効果,希薄気体効果など,物理モデルの精密化を行っている.さらに,得られた実験的に得られた結
果の理論的な再現についても,検討を進めている.
Ⅱ-2-h-31
「電磁力による高エンタルピー流れの制御技術」の実証飛行実験の検討
教
授
安部隆士
芝浦工大工学部教授
京大工学部准教授
村上雅人
中村武恒
海洋大工学部教授
静大工准教授
和泉
充
大津広隆
惑星大気に再突入する宇宙機にとって空力加熱の低減は鍵となる技術である.この研究では,空力加熱の低減の
132
Ⅱ.研究活動
ため,電磁力とプラズマとの干渉を利用することが可能であることを実証することを目的とする.この技術に関す
る地上実験や,理論的研究を踏まえて,飛行実験による実証の可能性を検討した.飛行実験は,弾道飛行する大気
再突入機を利用することとし,本技術を実証するために必要な搭載機器の搭載性を検討した.搭載機器は,強磁場
発生装置,駆動電源,計測措置および制御装置である.各機器の搭載性,必要質量,環境などを検討した.特に強
磁場発生装置については,バルク超伝導体を用いる方式について検討し,その冷却系について設計を行った.冷媒
としては,固体の窒素が適当であることを確認した.その際に問題となるライアウトを防ぐ方式を検討し,見通し
を得た.
これらの検討結果として,SS520 観測ロケットを利用したシステムにより,必要な飛行実証が可能であることを
確認した.登載予定のバルク超電導体の着磁性能を把握して,十分な性能があることを把握すると共に,観測ロケ
ット登載時の振動環境への耐環境性についての試験を行い,十分な性能を持っていることを確認した.
Ⅱ-2-h-32
プラズマアクチュエータ効果による低速流れの制御に関する研究
教
安部隆士
授
大学院学生
高垣雅彦
低速流れにおけるプラズマアクチュエータ効果を実験的に明らかにすることを目指している.このプラズマアク
チュエータ効果は,DBD を利用したものである.プラズマアクチュエータの作動メカニズムを明らかにするため,
アクチュエータから発生する音響ノイズを計測し,音響ノイズと印加電圧との関係を解明した.特に,高電圧波形
の位相と発生する音響ノイズの位相との関係を明らかにし,高電圧印加に伴なう放電と,放電に伴なう周囲のガス
に発生する圧力場との関係を明確とした.これにより,大きな圧力場を生じる放電の位相が明らかと成った..
Ⅱ-2-h-33
超伝導体宇宙機と宇宙プラズマとの相互作用
教
授
安部隆士
研究員
西田浩之
超伝導体を利用した宇宙機用推進系では,超伝導体と宇宙プラズマの相互作用を把握することが必要である.こ
のため,宇宙プラズマを理想 MHD 流体として扱い,それと超伝導体との相互作用を数値シミュレーションにより,
解析した.最も大きな相互作用が予見できる柱状の超伝導体との相互作用では,プラズマ中に凍結された磁場が超
伝導体表面に非定常に堆積することで,相互作用自体も非定常となり,衝撃層も非定常に増加する.また,超伝導
体上で堆積する磁場の強度は,宇宙プラズマのアルフヴェンマッハ数により定まる値で飽和することが示された.
さらに,これらの現象には,伴流に生じる磁気李コネクションが大きな影響を持つことが示されており,これの定
量的評価をする必要がある.
Ⅱ-2-h-34
超低密度アブレータの開発
教
授
安部隆士
准教授
山田哲哉
共同研究員
横田力男
研究開発本部
小笠原俊夫
研究開発本部
石川雄一
惑星探査などで利用される大気突入プローブでは,耐熱構造を軽量化することにより,ペイロード重量を増加さ
せる必要がある.これを可能とするため,低密度アブレータ材の開発を進めている.具体的には,従来の比重 1.5
程度のアブレータに対し,低い比重を持つアブレータ材の試作を進め,比重 0.2 程度のアブレータ材の開発に成功
していた.種々の製作法に基づく,アブレータ材を作製し,そのの性能を加熱試験で把握した.耐加熱性能は,ま
だ改良の余地があるものの,当面の目標である低軌道からの再突入環境をクリアしている.これらの成果を総括し
て,アブレータの挙動についての理論的把握を深める必要がある.これにより,さらに高性能のアブレータ開発の
見通しを得ることが可能となる.
Ⅱ.研究活動
133
Ⅱ-2-h-35
固体ロケット内部旋回流と発生トルクの数値シミュレーション
教
嶋田
徹
特別共同研究員
本江幹朗
福永美保子
IHI エアロスペース部長
関野展弘
授
IHI エアロスペース課長
昨年度に引き続き,M-14 モータに類似のグレイン及びノズル形状をもつ固体ロケットの内部流れを,三次元数
値流体シミュレーションを用いて調べた.推進薬グレインの軸方向スロット内の流れと,埋没ノズルのインレット
周囲のキャビティ部におけるの渦流の三次元性がこの場合のロールトルクの原因となっている可能性が高いことを
確認した.M-V フライト時に見られるロールトルクの大きさに対して,解析結果は大きな値を示しており,計算
による定量的な再現にはまだ至っていない.今後粒子の効果,乱流の効果,グレインの表面後退の効果を評価する
必要がある.
Ⅱ-2-h-36
固体モータの燃焼時発生ロールトルク計測方法の研究
教
授
主任開発員
嶋田
徹
安田
主幹開発員
富澤利夫
誠一
開発員
IHI エアロスペースエンジニアリング技術員
鈴木直洋
尾澤
剛
固体ロケットの燃焼中に発生するロールトルクの解明には数値解析と実験による確認が不可欠である.実験はこ
れまで大小二種類のモータを使って行ってきた.いずれの実験でも燃焼中にロールトルクが発生し,燃焼室内旋回
流がこれに関与しているという点について定性的証拠を得ることに成功した.しかしながら,計測値の定量的な妥
当性について考えると,本来ロールトルクは大きな量の差分として発生する一階高次の量であるため,モータの自
重や主推力(あるいは横推力)の大きさが規定する大きな計測レンジに対して,高い計測精度が求められることに
なる.本年度はこれらの課題を解決するための評価方法,試験設備,試験機材,計測器等の検討を行った.
Ⅱ-2-h-37
宇宙用固体推進技術のロードマップ更新
教
授
嶋田
SNPE 社
徹
助
教
羽生宏人
Jean-Francois Guery
Marilyn Glick
コンサルタント
フランス国立宇宙研究センター
ATK 社
コンサルタント
Robert Wardle
Robert Glick
SNPE 社
IHI エアロスペース部長
エアロスペース・コーポレーション
Eric Robert
Christian Perut
Astrium ST 社
Gilles Vigier
SNECMA 社
アロジェット社
コンサルタント
Avio 社
関野展弘
I-Shih Chang
Didier Boury
John Napior
Max Calabro
Bruno d’Andrea
過去 50 年の間に各国は,固体推進の高性能性,コスト競争力,卓越した貯蔵性,そして即時性等の特徴を生か
して,多数の小型打ち上げ用ロケットや,大型打ち上げ用ロケットのための第 1 段ロケットあるいはブースターを
成功裏に開発してきた.これらの成功のためには,シンプルな設計,非常に高い推力水準,および低い開発・運用
経費/リスクのための技術支援があった.これらの技術の基礎と合理的な予想に基づいた最初の固体推進ロードマ
ップが 2001 年に出版された.その後の情報を見れば,このロードマップで示された,テクノロジー(高強度の複
合材ケース,高エネルギー物質の連続混和製法,低密度断熱材,省エネルギー型アクチュエーター,および高度な
詳細なシミュレーション)と,応用分野(第 1 段モータ,ストラップオンブースター,アドオンブースター,小型
打ち上げロケット,および適正な宇宙利用)の妥当性が明らかである.本活動は IAA(International Academy of
Astronautics)の先進的推進系研究ワーキンググループの活動の一環として,米国,日本,およびヨーロッパにお
ける固体推進のためのミッション,現在と未来のロケット及び探査ミッション開発の計画について概略を示し,目
標とする改良や潜在的な技術革新について議論した.
134
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-h-38
固体モータノズルの局所エロージョンの研究
教
授
嶋田
徹
固体ロケットモーター用ノズルの開口部分で使われる炭化アブレータの局所エロージョンについて,その成因に
関係する背景を含めて一般論を展開した.地上燃焼試験後見られる様子からは,局所エロージョンはスロートイン
サートの下流に発生し,溝のような形態で,浸食量が周辺に比べて非常に大きく,また発生位置は固体推進薬グレ
インの軸方向スロットまたはフィンなどの上流側の形態と単純に関係していない等の特徴がある.本研究では,ノ
ズル用炭化アブレータ,アブレーション模様,および三次元渦流れに関する過去の研究のレビューを通じて,局所
エロージョンの成長メカニズムを考察した.
Ⅱ-2-h-39
固体推進薬スラリの注型挙動シミュレーション
IHI エアロスペース課長
福永美保子
准教授
坪井伸幸
IHI エアロスペース部長
授
嶋田
徹
情報・計算工学センター研究員
関野展弘
大門
優
教
日油株式会社技術院
長谷川宏
宇宙用固体ロケットモータに広く利用されているコンポジット推進薬は,燃料であるバインダに酸化剤粒子と金
属燃焼粒子を練りこんだスラリを,型に流し込み硬化させた複合系の不均質な物質である.固体ロケットの推進力
はこの推進薬燃焼面からのガス湧き出し量,つまり燃焼面積と燃焼速度およびノズルスロート径で決まる燃焼内圧
履歴による.着火後の燃焼圧力履歴は製造時の推進薬形状(燃焼面形状)でほぼ決まることから,3 次元で複雑な
光芒形状による内面燃焼方式が採用されている場合が多い.現在,推進薬の品質保証には,製造工程の管理による
間接保証に加えて超音波や X 線による推進薬内部の検査によって推進薬内の欠陥の有無を直接確認する方法が取
られているが,この検査結果に対する評価基準の多くは経験的なものであり明確な根拠が示されたものではない.
その理由には,コンポジット推進薬の注型挙動に不明な点が多いことや,注型後の推進薬中に発見された欠陥等が
燃焼に与える影響を評価する手段の無い事などが挙げられる.従って,推進薬の安全性評価レベルを高めるために
は検査技術の向上はもちろんのこと,注型時の推進薬挙動の理解や製造後の検査結果を評価するツールが必要であ
ると考える.ACSSIB における燃焼圧力予測解析は推進薬内の許容欠陥寸法を決めたり,また検査で検出された推
進薬内の異常が燃焼圧力履歴に及ぼす影響を評価することを目的としたもので,推進薬中の欠陥を含む任意の形状
や燃焼速度分布を扱うことのできる燃焼解析ツールとなっている.また,注型挙動解析は推進薬製造時に起こる
様々な現象と局所的な燃焼特性や物性との関係を理解することを目的とし,局所燃速相関データベースの構築と平
行して取り組んでいる.本年度は,推進薬の粘度をパラメータとし注型挙動解析を実施した.それにより落下した
推進薬は下に溜まっている推進薬を押し分け潜り込み,押し分けられた推進薬は壁に沿って上方に移動することが
示された.粘度によって推進薬層の角度が変わることから,燃焼速度に影響がある可能性が考えられる.今後は推
進薬の流動特性と局所燃焼速度について実験との比較による検証とデータ整理を行っていく予定である.本研究は
「固体ロケットモータ内部弾道性能の高精度数値予測システム(ACSSIB: Advanced Computer Science on SRM
Internal Ballistics)」の研究開発の一環として実施したものである.
Ⅱ-2-h-40
固体推進薬スラリーの流動に起因するロケットモータ内の燃焼速度分布に関する実験研究
日油株式会社技術員
長谷川宏
日油株式会社技術員
清家誉志男
日油株式会社部長
IHI エアロスペース課長
福永美保子
報・計算工学センター研究員
准教授
坪井伸幸
教
授
加藤一成
大門
優
嶋田
徹
コンポジット推進薬のロケットモータグレインにおいて,その燃焼速度がグレイン中で均一でなく,ウェブ深さ
方向に連続分布し,且つ,指向性を示すことが従来観測されている.この現象は,その態様から”Midweb
anomaly”と呼ばれている.本現象についての代表的な研究では,その燃速分布の原因は注型中の未硬化推進薬ス
Ⅱ.研究活動
135
ラリーの流れに乗って酸化剤(AP)粒子が規則的に配列することや,バインダ成分が薄く層を形成することであ
ると考えられているが,その仮説の直接検証には至っていない.この従来から観測されているグレイン内の燃速分
布の発生機構を追究し解明することは,推進薬の燃焼機構の理解のみならず,実際のロケットモータの製造工程の
設計やロケットモータへの推進薬スラリー注型の CFD 解析における流れの様相と局所燃焼速度との関連付けにお
いて重要である.本研究では,注型時時のスラリー流動が燃焼速度に与える影響を知るために,実用モータの製造
方法を模擬した工程で製造した直填型の小型モータを,2 通りのスラリーの流し方で作製して,その内部の燃焼速
度特性について燃焼試験による燃焼圧力時間履歴とストランド試験による直接測定の両面から検討した.APHTPB-Al 系コンポジット推進薬を直填して作製した内両端面グレインにおいて,Midweb anomaly が測定された.
また,グレインの局所燃焼速度をストランド試験で測定した結果,その燃焼速度の分布の様子は推進薬の組成,粘
度およびスラリーの注型方法によって異なることが分かった.得られた燃焼速度分布と推進薬内部の酸化剤粒子の
分布の相関を調べるために,マイクロ X 線トモグラフィにより推進薬内部を撮影し,個々の大粒 AP を鮮明にかつ
十分な解像度で撮影することができ,今後,AP 粒子の分布と局所燃焼速度の相関を調べるためのデータベースが
得られた.本研究は「固体ロケットモータ内部弾道性能の高精度数値予測システム(ACSSIB: Advanced Computer
Science on SRM Internal Ballistics)」の研究開発の一環として実施したものである.
Ⅱ-2-h-41
固体ロケットモータ内部弾道性能の高精度数値予測システムの開発
教
授
嶋田
准教授
坪井伸幸
情報・計算工学センター研究員
IHI エアロスペース部長
関野展弘
IHI エアロスペース課長
福永美保子
IHI エアロスペース技術員
淺川弘也
日油株式会社部長
加藤一成
日油株式会社技術員
清家誉志男
日油技術員
長谷川宏
徹
大門
優
これまで固体ロケットの設計においては,注型時の推進薬スラリ流挙動や 3 次元光芒をモデル化した燃焼面後退
に関して,計算科学的なアプローチはほとんど用いられず,地上燃焼試験と工程の管理によってモータ全体の設
計・品質保証がなされてきた.このため,推進薬製造時のスラリ流れ場特性に起因する燃焼速度局所変動・バッチ
間バラツキ・スケール効果に関する知見は経験的なものに止まっている.これに対して,製造過程に遡って計算科
学的なアプローチを適用してコンポジット推進薬の注型挙動予測,スラリ流れ場を用いた局所燃焼速度の変動予測,
従来にないグレイン形状や形状異常を含む場合の燃焼圧力履歴予測を可能にすることが固体ロケットモータの高性
能・高信頼性化のために重要であると考えられている.この取り組みは諸外国では既に始まっており,我が国の取
り組みを促進させることが求められている.このような現状に鑑み,将来の衛星打ち上げ用ロケットシステムに用
いられる大型/中型/小型の固体ロケットモータの性能と信頼性を向上させる目的で,固体ロケットモータ内部弾
道性能の高精度数値予測システム本数値解析システム("Advanced Computer Science on SRM Internal Ballistics"
(ACSSIB))の構築を検討した.
Ⅱ-2-h-42
コンポジット推進薬のランダムパッキングと熱解析
特別共同利用研究員
矢島雄三
特別共同利用研究員
本江幹朗
教
授
東海大教授
嶋田
徹
平岡克己
宇宙用固体ロケットの推進薬として用いられるコンポジット推進薬は,結晶性の微粒子である酸化剤が炭化水素
高分子ゴムにより混ぜ固められて成形されている.またさらに金属微粒子が混入されることが多い.これらの粒子
径は通常 1~100m のオーダであるが,酸化剤の場合 2~3 種の粒径のグループを用意し,これらの混合比を変える
ことによって,酸素発生環境が制御されている.燃焼表面におけるエネルギー流束の保存を考えると,発熱量,伝
熱量と燃焼速度と物質の温度拡散係数の間に関係が存在し,推進薬内部の熱伝導問題が燃焼速度特性を左右するこ
とが分かる.しかし,コンポジット推進薬は上記のように複雑な非均質系であり,粒子のパッキング状況によって
この特性が左右されることが予想される.これらは燃焼速度の変動に繋がり,燃焼室スケールでの音響場の強さに
136
Ⅱ.研究活動
影響する可能性も指摘されている.本研究を取り巻く大きな目標としては,コンポジット推進薬の燃焼速度変動を
計算科学の分野で取扱い,非均質性を伴う燃焼現象の特性把握技術を確立することであるが,ここでは,ランダム
パッキング解析とその場の熱解析の技術を探求することを目標とする.我が国におけるランダムパッキング解析の
手法は金属の噴霧解析等,他分野において進展しているようであるが,固体推進薬に適用した研究は稀である.こ
れらの背景を踏まえ,ここではまず 2 次元問題に限定し,コンポジット推進薬のランダムパッキング解析と,その
熱伝導の解析の方法について研究している.さらに,これらの解析を用いて,酸化剤粒子径やその配合比の相違に
よる温度場への影響について分析した.二次元のランダムパッキング手法として「落下法」と「成長法」の 2 つの
手法を用い,これら 2 つの手法を検討し,比較も行った.その結果,これらの手法が 2 次元の基本的なコンポジッ
ト系推進薬に適用できる事を確認し,固体推進薬の数値解析において,異粒子径モデルにより,熱伝達に差異が生
じることを確認する事ができた.
Ⅱ-2-h-43
旋回流型ハイブリッドロケット燃焼室内流れの非定常数値解析
特別共同利用研究員
本江幹朗
特別共同利用研究員
矢島雄三
教
首都大学東京教授
湯浅三郎
東海大教授
授
嶋田
徹
平岡克己
ハイブリッドロケットエンジンにおける燃料後退速度の増加には,燃焼室内に噴射する酸化剤をその周方向に旋
回させることが有効であると地上,及び飛行試験で実証されている.さらに,同様なタイプのハイブリットロケッ
トについての数値解析も行われている.しかしながら,その物理的メカニズムについてはいまだ明確に解明されて
いない部分が多い.本研究は数値流体力学による燃焼室内の 3 次元非定常流れ解析を用いてその一端を解き明かし,
加えて最適な酸化剤流入条件を探ることを目的とする.また解析に際し,本研究の最終的な到達点は実際の旋回流
型ハイブリッドロケットの燃焼室内における燃焼現象をシミュレートすることである.そのため段階的に解析の精
度や扱う現象を増していき最終的には陰的 LES により乱流を解析し,同時に燃料と酸化剤間の気層反応を考慮す
る予定で有る.陰的 LES を行うために必要なのは高次時空間精度を要する非定常スキームである.本研究では精
度向上を目的として空間の離散化に WCNS(Weighted Compact Nonlinear Scheme)を用いる.さらに非定常計算に
おける時間精度確保と計算時間の短縮を図るために DTS(Dual Time Stepping)を TVDRK(TVD Runge-Kutta 法)
に適用し時間積分を行うものとする.さらに上記のスキームについての検証しつつ流れ場の概観を把握するため 3
次元オイラー方程式に対してこれらの手法を適用し非定常解析を行った.はじめに単純な 2 次元ノズルを模擬した
モデルを用いて TVDRK 法で時間積分を行った場合と,それに DTS を適用した場合における所定の時刻における
解や所要時間の比較をおこった.次に,同様な手法を用いて後述するような酸化剤旋回流型ハイブリットロケット
エンジンの簡単な 3 次元モデルに対して非定常解析を実施した.インジェクターより旋回しながら燃焼室内へ流入
する流れが定常状態に達するまでにどのような挙動を示すのかを時間的に追って把握することができた.ただし,
インジェクターによる旋回流だけが及ぼす影響に主眼を置くため燃料グレインからの質量付加は考慮していない.
Ⅱ-2-h-44
Glycidyl Azide Polymer(GAP)の燃焼機構に関する研究
准教授
堀
恵一
総研大学生
筑波大学教授
和田
豊
准教授
坪井伸幸
西岡牧人
日本油脂㈱
清家誉志男
GAP の燃焼機構解明に取組んでいる.光学観測,極細熱電対による燃焼の温度場計測,燃焼残渣の分析結果な
どから燃焼機構に関する知見を数多く得た.詳細化学反応機構を組み込んだ一次元層流燃焼モデルを構築し,線燃
焼速度の評価に成功した.
Ⅱ.研究活動
137
Ⅱ-2-h-45
GAP を用いたハイブリッドロケットの開発研究
堀
准教授
山形大学生
恵一
総研大学生
和田
豊
東大学生
藤里公司
野村裕也
主任開発員
小林清和
開発員
長谷川克也
日本油脂㈱
清家誉志男
IHIエアロスペース㈱
福地亜宝郎
ハイブリッドロケット用に GAP のガスジェネレータ試験および低燃焼速度材料 GAP+PEG(ポリエチレングリ
コール)のガスジェネレータ試験を行ない,燃焼特性を取得した.また,これらのデータを基にして,80Φモータ
を用いた GAP/GOX ハイブリッド試験を行なった.
Ⅱ-2-h-46
HAN 系液体推進剤の燃焼特性に関する研究
准教授
堀
恵一
総研大学生
勝身俊之
准教授
坪井伸幸
准教授
小川博之
細谷火工㈱
芝本秀文
本研究は,一液推進においてヒドラジンの代替として有望視されている HAN 系液体推進剤の燃焼機構を明らか
にすることを目的としている.燃焼機構を理解するため極細熱電対による燃焼波の温度履歴の取得に取組んだ.そ
の結果,HAN 系液体推進剤の燃焼において気化過程が重要であることが明らかとなった.さらに,燃焼波を高速
度カメラで観察したところ,急激に燃焼速度が増大するプロセスに関する得ることが出来た.
Ⅱ-2-h-47
HAN 系低毒性高性能スラスタの開発研究
堀
恵一
准教授
澤井秀次郎
主任開発員
小林清和
長谷川克也
開発員
中塚潤一
総研大学生
勝身俊之
細谷火工㈱
芝本秀文
三菱重工㈱
松尾哲也
准教授
開発員
HAN 系液体推進剤を用いた低毒性高性能スラスタに取組んでいる.ヒドラジン用触媒 S-405 の他,白金,パラ
ディウムなどの触媒を試験し,その効果にかんする知見を得た.23N級スラスタを試作し,最適設計パラメタの取
得に向けて各種実験を行なっている.ヒドラジンと同等の推進性能レベルであればロケットフェイズでの燃焼秒時
を確保し,SJ 装置への応用を可能とした.
Ⅱ-2-h-48
バイオメタノールの燃焼に関する研究
准教授
堀
恵一
東海大学学生
石渡大司・堤
明正
筑波大学教授
西岡牧人
木材由来のバイオ燃料は我が国の特性に合致した「石油代替燃料」として注目されている.その主成分はメタノ
ールであり,少量の水分,不純物で構成される.本研究はこの燃料を液体ロケットあるいは航空機用燃料として用
いることを想定し,基本的な燃焼特性を把握し,諸々の問題に対応できる知見を取得することを目的としている.
まずはアルコールを燃料としたブンゼン火炎を形成し,LIF により OH 濃度分布を取得し,詳細化学反応を取り入
れた燃焼モデルを構築中である.
Ⅱ-2-h-49
エアバッグ用インフレータの燃焼機構に関する研究
准教授
堀
恵一
ダイセル化学工業㈱
富山昇吾
硝酸グアニジン系エアバッグ用インフレータの燃焼機構の解明に取組んでいる.各種光学観測,極細熱電対によ
る温度場計測から,多くの知見を得た.詳細化学反応を取り込んだ燃焼モデルを構築中である.
138
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-h-50
爆轟限界の数値シミュレーションに関する研究
坪井伸幸
准教授
林
青山学院大理工学部
光一
東京大学工学部
越
光男
デトネーションの爆轟限界および爆轟限界付近で現れるスピンデトネーションの構造を把握することを目的とし
て,粘性項を考慮した水素/空気及び水素/酸素予混合気中を伝播する 2 次元数値解析を行っている.その結果,デ
トネーションの波面背後に発達する壁面境界層の影響により,デトネーションの伝播速度が 5-10%程度影響受ける
ことが分かった.また,断熱壁/等温壁でも境界層の発達の度合いが大きく変化することも示された.今後は非定
常的に伝播する衝撃波背後の境界層の発達も含めて評価し,デトネーションの伝播速度や爆轟限界に与える影響を
評価する予定である.
Ⅱ-2-h-51
パルスデトネーションエンジン用ノズルに関する数値シミュレーションの研究
准教授
坪井伸幸
技術研修生
木村勇一朗
青山学院大理工学部
General Electric
林
光一
Venkat E. Tangirala
デトネーションを推進機関に応用するものとしてパルスデトネーションエンジンがあり,その性能を左右する要
素の一つである排気ノズルの形状について,水素/空気予混合気に対する詳細反応モデルを使用した数値シミュレ
ーションをおこなった.計算はマルチサイクルで行った.高度は 1.5~15km で超音速で飛行する条件で計算を行
った.その結果,高度が高くなるほど,ノズルのスロートの絞り比が大きい方が比推力は向上することが示され,
その傾向は他の研究者の計算結果と定量的に一致した.今後は外部流れの影響や高度補償型ノズルを使った解析も
行い,最適なノズル形状を提案していきたい.
Ⅱ-2-h-52
ローテーティングデトネーションエンジンに関する数値シミュレーションの研究
准教授
坪井伸幸
林
青山学院大理工学部
光一
General Electric
Venkat E. Tangirala
デトネーションを推進機関に応用するものとしてパルスデトネーションエンジンがあるが,間欠型であるために
推力の増強が難しい側面を有している.そのため同軸管内をデトネーションを円周方向に回転させることにより,
エンジンを連続的に稼働させるローテーティングデトネーションエンジンが注目されている.今年度は 2 次元形状
で解析を行い,周方向に連続的にデトネーションを回転させることに成功した.また,貯気槽圧力によりデトネー
ションが維持する条件も明らかにした.今後はノズルを有する 3 次元形状により,性能の評価を行う予定である.
Ⅱ-2-h-53
直接起爆による爆轟伝播の数値シミュレーションに関する研究
准教授
坪井伸幸
技術研修生
朝原
誠
青山学院大理工学部
林
光一
デトネーションの直接起爆の問題は,化学プラントなどでの安全面の対策に重要であるが,一旦デトネーション
がおきると極めて甚大な被害を及ぼす.直接起爆エネルギーの推算と球状デトネーションの伝播構造の把握を目的
として,酸水素化学反応モデルを用いた酸水素デトネーションの 1 次元及び 2 次元数値解析を行った.その結果,
衝撃波圧力と衝撃波速度は伝播方向によらず,von Neumann spike における圧力と CJ 速度を中心として大きく変
動することがわかった.そしてその傾向は,従来まで解析が行われてきた 1 段階・2 段階反応モデルによる結果と
大きく異なっていることが示された.今後は解適合格子を使用した 2 次元及び 3 次元解析を進める予定である.
Ⅱ-2-h-54
低速流れに対する非定常圧縮性流体解法の構築
准教授
坪井伸幸
室蘭工大・工学部
吹場活佳
液体ロケット,固体ロケット及びハイブリッドロケットエンジンは高圧の燃焼器を有するが,エンジン内部では
Ⅱ.研究活動
139
マッハ数が 0.1 以下の遅い流れであることから,通常の圧縮性解法では収束が非常に遅く,解析そのものが非常に
困難であることも知られている.この問題を克服するために固有値を操作する前処理法を用いる方法を用いるが,
非定常流れに対する有効性と問題点が十分に明確にされていない.本研究では将来的には高圧の燃焼器内部の熱化
学現象を明らかにすることを目的として,まず通常の 2 次元圧縮性粘性解析コードに非定常前処理法を導入し,そ
の効果と課題を検討している.定常計算として,NACA0012 について一様流マッハ数 0.01,迎角 0 度,Re=2000
の計算を行ったところ,前処理を導入することで収束性と計算結果の精度が大きく改善されることが示された.ま
た,Re=200 の円柱周りの非定常計算でも抵抗係数や St 数などについて,実験値や他の計算例とも良好な一致を示
した.今後は 3 次元解析や燃焼流への適用を進める予定である.
Ⅱ-2-h-55
非構造格子を用いた三次元デトネーションの数値シミュレーションに関する研究
坪井伸幸
准教授
ジョージメソン大
富樫史弥
ジョージメソン大
R. Lohner
デトネーションに関する数値計算は,高い計算負荷と高い格子解像度を要求されることから,これまで主に 2 次
元による解析がほとんどであった.本研究は,局所的に格子解像度を上げることが可能な 3 次元非構造格子を用い
た流体解析コードに酸水素の素反応計算を考慮した解析を組み込み,反応流解析が可能となるようにすることを目
的とする.本年度は構造格子と同等の計算結果を得るために必要な非構造格子の格子解像度を調査した.その結果,
非構造格子は構造格子の約 1/5 の格子サイズが必要であることが分かった.非構造格子ではこのような高い解像度
の格子が要求され,さらに接触不連続面の解像度が若干劣るものの,構造格子と同等のデトネーションの波面構造
を示すことも示された.
Ⅱ-2-h-56
高圧タンクからの水素漏洩による着火に関する研究
准教授
坪井伸幸
青山学院大・理工学部
林
光一
青山学院大助手
山田英助
漏洩時の爆発の可能性とその抑制を念頭に置いて,高圧の水素噴流が着火する可能性を探るために,素反応モデ
ルを使用する 2 次元軸対称 Navier-Stokes シミュレーションにより研究を行った.計算はストレート管から高圧水
素ガスが噴出することを想定しており,噴出圧力は最高で 200 気圧である.ノズル出口に渦が発生することで空気
と混合し,着火することがこの計算により明らかとなった.そしてその傾向は,ストレート管が長いほど顕著であ
り,これらの結果は実験結果と一致することも示された.今後はより詳細に実験データと比較を行うと共に,多く
の条件で解析を行う予定である.
Ⅱ-2-h-57
超高圧の曲管内を伝播するデトネーションの研究
准教授
坪井伸幸
特別共同利用研究員
阿達
聡
青山学院大・理工学部
林
光一
100 気圧を超える超臨界圧状態をも含む条件で,酸水素予混合気で満たされた曲管内を伝播するデトネーション
の 2 次元解析を行った.曲管内をデトネーションが伝播する際,マッハ反射の衝撃波形態で伝播することに加え,
曲管の内径側に再度デトネーションが衝突する現象が観測された.これらの傾向は,圧力に関係なく現れた.今後
は 3 次元円管の解析や,状態方程式を非理想気体に拡張すること,さらに超臨界圧での燃焼反応を考慮された反応
モデルの適用を進める予定である.
Ⅱ-2-h-58
燃焼反応を伴うベル型ノズルの性能推算に関する数値シミュレーションの研究
准教授
坪井伸幸
研究開発本部開発員
伊藤
隆
共同研究員
宮島
博
将来宇宙輸送系に必須となるロケットエンジンのベル型ノズルの性能における燃焼反応の影響を把握するために
数値シミュレーションを行った.燃焼ガスは,酸水素混合気であり,開口比約 140 のベル型ノズルに関して,9 化
140
Ⅱ.研究活動
学種 18 素反応モデルによる化学反応を考慮したシミュレーションを実施した.ノズルの超音速部にはフィルム冷
却口が配置されている.サブスケールノズルの場合,スロートレイノルズ数が遷移域であるために,流れ場は乱流
ではなく概ね層流として取り扱う必要があることがこの解析から示された.さらに比推力に関して実験結果と比較
したところ,層流計算結果と乱流計算結果の間に実験データが存在することが示された.今後はフルスケールの解
析を行う予定である.
Ⅱ-2-h-59
極超音速流中のアエロスパイク形状周りの衝撃波干渉及び熱流束の評価の研究
准教授
坪井伸幸
東北大学・工学部
永井大樹
東北大学・工学部
浅井圭介
大気中を超音速で飛行する際,飛翔体の先端部分にスパイク(アエロスパイク)を装着すし,先端周りの流れ場
を変化させて圧力抵抗や空力加熱を低減する方法を試みている.実験的には角度の微妙な変化により様々な衝撃波
干渉のパターンが見られるが,詳細を把握することが難しく,また感温塗料を用いた熱流束も計測されているがま
だ十分な検証が必要である.そこで,これらを高温による比熱比の変化を考慮した Navier-Stokes による 3 次元数
値解析によって把握することを試みている.迎角を 0~-10 度まで変化させたところ,特に迎角-3 度以下でスパイ
クなしに比べて 5 倍ほどの局所的な熱流束の上昇がみられた.この原因は,複雑な衝撃波干渉によることがわかり,
特に三重重点からの強い超音速流れによって壁面の局所的な熱流束の上昇につながっていることが示された.今後
は非定常的な衝撃波の振動を実験/数値解析の両面から明らかにする予定である.
Ⅱ-2-h-60
マルチスケール手法に基づく数値解析手法の研究
准教授
坪井伸幸
東京大学・工学部
松本洋一郎
これまで希薄気体力学における分子論的な分子論的な見地からマルチスケール手法を研究してきたが,その知見
を 100 気圧クラスの超臨界状態における酸水素燃焼やメタン酸素燃焼に対しても適用しようと試みている.希薄気
体力学においては分子動力学法を元に分子衝突モデルを構築してきたが,超臨界状態においては熱物性データや化
学反応モデルを分子運動論的見地から統計力学のみならず分子動力学や量子分子動力学により構築することを検討
している.
Ⅱ-2-h-61
亜・超臨界状態における酸水素燃焼流の解析に関する研究
准教授
坪井伸幸
東京大学・工学部
清水和弥
再使用型観測ロケットや国産のロケットで使用される液体ロケットエンジンの高性能化・高信頼性化および開発
期間の短縮・コスト削減などを図るためには燃焼流れに関する知見を深めることが必要不可欠となっている.ロケ
ットエンジン燃焼はその条件から実験的な検討には限界があり,数値シミュレーション精度の向上は必須である.
これまでロケットエンジンの燃焼器の主要な要素である噴射器について,超臨界・亜臨界状態の両方を解析可能な
CIP 法により数値解析を行ってきた.本年度は他の研究者らが行った,一様流中の超臨界液滴の蒸発の挙動の比較
を行い,概ね妥当な結果であることを確認した.今後はさまざまな一様流条件での解析を行う予定である.
Ⅱ-2-h-62
超音速燃焼器における着火の数値シミュレーションの研究
准教授
坪井伸幸
埼玉大学・工学部
小原哲郎
再使用型宇宙輸送機でも検討されている超音速燃焼器に関する数値シミュレーションを行っている.この研究に
ついての実験は埼玉大学で行われており,それに対応した数値シミュレーションを行うことで超音速流中の詳細な
混合・燃焼反応の状態を把握することを目的としている.本年度はノズル出口の静圧孔により気流マッハ数などの
状態を把握し,また高速度カメラによる流れ場の変動の様子も撮影した.今後は実験により得られた気流の流入状
Ⅱ.研究活動
141
態を元に,数値シミュレーションによる詳細な流れ場や,バックステップ高さが混合効率や燃焼効率に与える影響
を把握することを予定している.
Ⅱ-2-h-63
超臨界燃焼流れにおけるメゾスケール熱物性モデル・燃焼反応モデルの開発
准教授
坪井伸幸
総合研究大学院大学
森井雄飛
情報・計算工学センタープロジェクト研究員
越
東京大学・工学部
東京大学・インテリジェントモデリングラボラトリ
青山学院大学・理工学部
情報・計算工学センター主任開発員
光男
東北大学・流体科学研究所
清水和弥
津田伸一
徳増
崇
東京大学・工学部
松本洋一郎
光一
情報・計算工学センター主任開発員
清水太郎
山西伸宏
東京大学・工学部理化学研究所
林
青山学院大学・理工学部
高木
周
山田英助
液体ロケットエンジンは 100 気圧の高圧,そして 50K の極低温から 3500K までの高圧で極めて過酷な環境で稼
働する.特に 100 気圧では酸素・水素が超臨界状態となるため,その物理化学的挙動が極めて不明確であり,また
水素に関しては極低温では量子効果が無視できない領域まで温度が低下する.このような条件での物理化学現象を
把握するために,鍵となる熱物性データ・状態方程式の再構築及び超臨界状態における化学反応モデルをマルチス
ケール手法に基づいて行うことについて検討した.
本年度の研究の成果としては,それぞれ次の通りになる.熱物性データや状態方程式の構築については,低温水
素に対する 2-Center Lennard-Jones ポテンシャルを用いた古典分子動力学の解析を行い,物性値の再現とその限界
を評価した.また,酸水素間の表面張力と拡散係数についても分子動力学法により評価し,表面張力については
NIST データに比べて 2-3 割減,拡散係数については同程度の結果を示した.次に燃焼反応モデルについては,高
圧における信頼性が高い詳細化学反応モデルの一つである Koshi model を引き続き用い,高圧の実験データが存在
する水蒸気希釈の酸水素予混合気における層流火炎速度の解析を行った.そして,支配的な反応である H+O2+M
→HO2+M(M=H2O)の速度定数を決定し,層流火炎速度に関して実験結果を再現することができた.今後は改良
した分子動力学法や量子分子動力学法に基づいて熱物性データ・状態方程式を再構築することや,高圧条件下で適
用可能な新しい化学反応モデルを提案する予定である.
Ⅱ-2-h-64
直角に曲る管内を伝播するデトネーションの数値解析
准教授
坪井伸幸
浅田隆利
北大連携大学院学生
北海道大学
永田先生
パルスデトネーションエンジン内を伝播するデトネーションは,管内の形状によりデトネーションが維持できな
い場合が存在する.また,条件によっては一度消えたデトネーションが再着火して再びデトネーションになること
も知られている.この研究では 90 度曲がった管内を伝播するデトネーションの伝播の挙動を把握するために数値
解析を行っている.入射するデトネーションは水素/空気予混合気を伝播するものを想定している.解析の結果,
デトネーションは 90 度曲がった後に急に拡大する場合は,その拡大比によりデトネーションが維持するケースと
維持しないケースがそれぞれ見られた.これらの傾向は実験結果とも同様であることが示された.
Ⅱ-2-h-65
ロバスト制御理論の研究
教
授
森田泰弘
教
授
川口淳一郎
ロバスト制御理論の実システムへの応用について継続的に研究を行っている.
M-V ロケットの姿勢制御アルゴリズムについては,1990 年代前半の M-V 開発期に当時最先端のロバスト制御論
理である H∞制御を導入し,初号機以降の機体に適用,良好なロバスト安定性を得てきた.この実績のある制御論
理をさらに発展させ,2003 年に打ち上げられた 5 号機以降はより高度な???制御を応用,ロバスト応答性をも獲得
するに至った.このような最先端の制御理論を衛星打ち上げロケットに次々に適用しようという試みは世界でも初
142
Ⅱ.研究活動
めてのものであり,大きなチャレンジであった.これにより,M-V ロケットの制御においては,ロバスト安定性
ばかりでなくロバスト応答性をも実現するに至り,ロケット飛翔体の制御論理として完成の域に達したと言えよう.
M-V ロケットの開発と全飛翔を通じて得た成果を次期固体ロケットの研究に発展的に活用すべく研究を進めてい
る.
平成 20 年度には,更なるロバスト性の拡大を目的として,遺伝的アルゴリズムのリアルタイム制御手法である
パーティクル・フィルタの宇宙機への応用について検討を行った.
Ⅱ-2-h-66
ロケットの推力方向制御(TVC)システムの研究
教
授
森田泰弘
グループ長
安田誠一
ロケットの TVC システムについて研究・開発を継続している.平成 20 年度は,M-V ロケット第 3 段ステージ
で実績を積んだ可動ノズル用超軽量小型の電動アクチュエータを次期固体ロケットの第 2 段ステージへ発展的に適
用すべく要求条件についての検討を行った.
Ⅱ-2-h-67
柔軟宇宙構造物のダイナミクスと制御についての研究
教
授
森田泰弘
宇宙機としてのフレキシブル・マルチボディシステムについては,運動の予測や設計される制御アルゴリズムの
有効性を検証するために,その運動をできる限り詳細に定式化することが不可欠である.ここでは,このような大
規模システムに対し,効率的な運動の定式化について継続的に研究を行っている.平成 20 年度は,新しい制御理
論であるローカライズドコントロールの実システムへの応用について研究を進めるとともに,ロバスト制御理論と
適応制御理論の融合など新しい概念の研究を推進した.
Ⅱ-2-h-68
宇宙機の姿勢運動についての研究
教
授
森田泰弘
教
授
川口淳一郎
グループ長
廣川英治
モータ燃焼,あるいは,姿勢制御やマヌーバを伴う宇宙機のダイナミクスについて研究を行っている.モータ燃
焼による姿勢運動の研究については,これまで M-V ロケットのキックモータ(KM-V1,V2)や高速再突入実験機
DASH の軌道離脱モータ(DOM)の開発において,スラストプロファイルに対する要求の策定に活用された.平
成 20 年度は,次期固体ロケットの上段モータ(KM-V3)の要求条件の設定にも適用した.
Ⅱ-2-h-69
小型宇宙機の姿勢決定と制御についての研究
教
授
森田泰弘
グループ長
廣川英治
小型宇宙機の姿勢決定・制御システムについて継続的に研究を進めている.特に,月ペネトレータ計画で開発を
始めたラムライン制御については,これを小型衛星の姿勢制御システムとして確立するとともに,次期固体ロケッ
トの回避マヌーバや姿勢反転マヌーバへの応用について検討を行った.一方,姿勢決定方式については,ロケット
用に太陽センサと地磁気センサを組み合わせた複合システムを開発し,その有効性は M-V ロケット 8 号機と 7 号
機の飛行により実証したところであるが,引き続き小型衛星への適用について研究を進めている.
Ⅱ-2-h-70
有翼型再使用宇宙機の適応制御の研究
教
授
森田泰弘
有翼型再使用宇宙機を題材に,制御対象モデルの不確定性に対してロバストな制御理論の研究を継続的に行って
Ⅱ.研究活動
143
いる.ここでは,プロセス制御で活用されている予測関数制御の概念の拡張やμ制御と適応制御の融合によるロバ
スト性能の強化など,新しい制御アルゴリズムの構築について,引き続き研究を行っている.
Ⅱ-2-h-71
固体ロケットの研究
森田泰弘
チームリーダ・教授
固体ロケット研究チーム
固体ロケット研究ワーキンググループ
M-V ロケットの後継機として,そして固体ロケット研究のさらなる発展のために,次期固体ロケットの研究を
進めている.平成 20 年度はロケットシステムの概念検討を継続し,基本要求条件を定めた.また,自律点検シス
テムや超軽量モータケースなどの新規開発項目については,要素試験を実施し開発リスクの低減を試みた.
ペンシルロケット以来培われてきた我が国固有かつ世界最先端の固体ロケット技術は,M-V ロケットに代わる
次期固体ロケットの研究開発に活用され,技術の維持,発展が確実に進められている.次期固体ロケットでは,世
界最高レベルにあった M-V ロケットの上段モータのさらなる高性能化を図るなど,固体ロケット技術の一層の高
度化により,高性能と低コストの両立を実現している.加えて,単に固体ロケットシステム技術の発展にとどまる
ことなく,打上げシステムの革新や開発プロセスの次世代化を図るなど,固体,液体を問わず,基幹ロケットや将
来輸送系をも先導するような革新コンセプトの開拓を進めている.
Ⅱ-2-h-72
固体ロケットの次世代化に関する研究
研究会議長・教授
研究会幹事会員・准教授
堀
恵一
助
教
森田泰弘
羽生宏人
研究会主宰・名誉教授
秋葉鐐二郎
次世代固体ロケット研究会
固体ロケットシステムの抜本的改革を目的として,これまでの慣性を超える革新的性能向上とコスト低減につい
て,産官学の連携による研究を推進している.平成 20 年度の大きな成果としては,これまでの固体推進薬の概念
を大きく変える熱可塑性推進薬の研究を進め,推進薬の試作および小型モータによる燃焼試験を実施して良好な結
果を得た.これにより,次年度以降に計画されている大型モータへの適用に大きな道を拓くことができた.今後は
固体ロケット推進薬の製造プロセスを効率化し,製造の高コスト体制の改革を図ることができる見通しである.ま
た,機内配線のワイヤレス化の一環として,点火器のワイヤレス化について要素試験を行い実用化に目処をつける
ことができた.次年度以降に,小型ロケットと組み合わせて試験を行う予定である.これにより,点火器の小型
化・軽量化が実現できるばかりでなく,機内火工品のレイアウトの柔軟性は向上,さらに組み立てや点検の効率化
が図られる見込みである.その他,大気圏内ブーストフェーズの飛行方式やブースタのフライバック化について考
察を進めている.このように,大型で低頻度の製造プロセスからの脱却や打ち上げ方式の革新など抜本的低コスト
化に向けた検討を推進しているところである.
Ⅱ-2-h-73
エアロンチに関する研究
教
授
森田泰弘
総研大学生
三浦政司
ロンチシステムの改革を目的として,エアロンチの研究を行っている.特に,エアロンチにおいて最も重要なロ
ケットの輸送方式と分離投下方式について検討を行うとともに,ロケット投下時の挙動を推定するために,パーテ
ィクル・フィルタというアルゴリズムの応用について研究を進めた.航空機から投下するロケットの姿勢の挙動は,
風等の予測しがたい外乱はもちろん,機体のダイナミクスにおける不可避な空力パラメータなどの不確定性により
大きな影響を受ける.不適切な姿勢でロケットに点火するとその後の軌道に大きな誤差が生じるため,リアルタイ
ムで正確にロケットの挙動を見定め適切なタイミングでロケットに点火することが必要である.このような分離時
の挙動解析や分離後の姿勢制御は,エアロンチ方式を開発する上で我が国が習得すべき最大のキー技術の一つであ
る.平成 20 年度は,ロケットの輸送方式としてロケットを航空機の内部に格納する内部搬送式を想定して分離挙
144
Ⅱ.研究活動
動を解析し,パーティクル・フィルタが投下後のロケットの挙動推定に極めて有効であることを示した.
Ⅱ-2-h-74
GAP を用いたハイブリッドロケットの開発研究(戦略的開発予算)
堀
准教授
主任開発員
恵一
東大院
藤里公司
山形大院
野村裕也
小林清和
開発員
長谷川克也
開発員
八木下剛
教
嶋田
授
徹
GAP に PEG を添加した組成の燃焼速度特性から,PEG 添加量が 50%以下で自燃性を維持する組成については
ガスハイブリッドロケットへの適用を,50%を越えて自燃性を失う組成については従来型の境界層型ハイブリッド
ロケットへ適用することとした.ガスハイブリッド型では,酸素流量の変化によるスロットリング,組成の違う燃
料を層状に配したテーラリングの基礎試験を行ない良好な結果を得た.境界層型では,極小の酸素流量で燃焼実験
を開始し,従来の不活性高分子を燃料とした場合と比較し,明らかに高水準の表面後退速度の結果を得た.
Ⅱ-2-h-75
HAN を用いたスラスタの開発研究(戦略的開発予算)
堀
准教授
主任開発員
恵一
総研大院
勝身俊之
東海大学生
松田竜太
小林清和
開発員
長谷川克也
開発員
中塚潤一
准教授
澤井秀次郎
比推力 200 秒級で,ロケットの SJ フェイズの燃焼秒時に耐える条件を見出した.高比推力でかつ長時間の燃焼
に対応できる耐熱性保持材,触媒システムの研究を続けている.また消防法に則った試験を行ない,当該燃料が危
険物 5 類の範疇に入ることを確認した.
Ⅱ-2-h-76
熱可塑性樹脂を用いた新しい固体推進薬の研究
准教授
堀
恵一
教
授
森田泰弘
従来の熱可塑性樹脂が機械的物性の点で十分でない点をふまえ,ポリスチレン系の樹脂に注目し基礎研究を開始
した.その結果,AP,Al との相性がいいこと,推進薬にしても十分な機械的物性を有するポリマを見出した.
Ⅱ-2-h-77
低グレードアルコール燃料の燃焼研究
准教授
堀
恵一
総研大院
堤
明正
東海大院
石渡大司
木材由来のバイオアルコール燃料の燃焼研究を進めている.間伐材,廃材を利用したバイオメタノールは水分を
始めとして種々の不純物を含有し,純粋なメタノールと比較すると着火性,燃焼性ともに劣っている.本研究では,
まずは純エタノールを用い,大気圧下で小型燃焼器を用い基礎燃焼実験を開始した.PLIF を用い OH ラジカルの
濃度分布を観察し,Full Kinetics の 2 次元数値計算との比較からモデル化を目指している.
Ⅱ-2-h-78
完全再使用 LOX/LH2 エンジン噴射器の耐久性評価試験
准教授
徳留真一郎
教
成尾芳博
助
開発員
八木下剛
開発員
鈴木直洋
主幹開発員
主任開発員
富澤利夫
主任開発員
志田真樹
開発員
助
教
野中
聡
徳永好志
荒川
聡
迅速な繰返し運用が可能な LOX/LH2 推進系の構築を目指す活動の一環として,エンジンコンポーネントの信頼
性・耐久性の向上を目的とした電鋳技術による高耐久性燃焼器および噴射器要素の開発を行っている.すでに宇宙
科学研究本部の再使用ロケット実験機に試作エンジン要素として搭載され,地上燃焼試験,離着陸飛行試験で延べ
Ⅱ.研究活動
145
50 回の起動停止を経験しているが,耐久性の評価に十分な試験回数を稼ぐことは長い時間を要する.そこで,噴
射器要素を機体システムから切離し,上記エンジンの 1/20 スケールのガスジェネレータに組み込んだ形態で耐久
性評価試験を実施している.これまでに,合計 108 回の起動停止を繰返しており,これまでのところ健全性は損な
われていない.今後,1000 回オーダの起動停止回数を目指して試験を続行する構えである.
Ⅱ-2-h-79
水素エネルギーを利用した輸送系基盤技術の一般化に関する検討
准教授
徳留真一郎
助
教
成尾芳博
教
授
稲谷芳文
将来におけるエネルギー問題および環境問題解決の切り札として水素燃料の利用が注目されている.従来,宇宙
業界と他業界との積極的な連携はほとんど見られないが,今後,宇宙利用の促進を図る上で,インフラストラクチ
ャの共有など,宇宙技術の一般化を進めることには大きな意義があると考えている.本年度は,昨年度に引き続き
LOX/LH2 ロケットエンジンや GH2/GO2 スラスタの研究開発を通して水素エネルギー利用の一般化へ向けた繰り
返し運用技術の研究を進めている.
Ⅱ-2-h-80
ロケット複合サイクル推進系の研究
准教授
徳留真一郎
主任研究員
植田修一
助
野中
教
主任研究員
聡
主幹研究員
苅田丈士
谷香一郎
主任研究員
富岡定毅
将来型宇宙往還輸送システム成立の鍵となるロケット複合サイクル推進系の研究を進めている.2003 年度より,
地上静止状態から遷音速飛翔領域でのエンジン空気取入口性能に関する諸特性データの取得を目的として,総合技
術研究本部複合推進研究グループと共同で実験研究を開始している.
2008 年度はハイブリッドロケット CAMUI を利用したエジェクターロケットの技術実証試験を行った.本活動
は,宇宙輸送ミッション本部宇宙輸送系推進技術研究開発センター主導で北大との共同研究テーマとして取り組ん
でいる.
Ⅱ-2-h-81
N2O/エタノール推進系を利用した飛翔機体システムの研究開発
准教授
徳留真一郎
開発員
教
授
教
羽生宏人
教
八木下剛
開発員
鈴木直洋
主幹開発員
森田泰弘
准教授
澤井秀次郎
助
教
授
授
嶋田
徹
安田誠一
川口淳一郎
空気吸込みエンジン飛翔実験機体の構築,上段用無毒貯蔵性液体推進系の構築を目指して運用性に優れた N2O
(亜酸化窒素)/エタノール推進系の研究開発を行っている.2008 年度は,具体的な実用ターゲットとして次期固
体ロケットシステムポストブーストステージ用軌道制御エンジン,エアブリーザ FTB 用ブースターエンジンを設
定して推力 2kN 級推進システム BBM による推進系技術実証試験を行った.
Ⅱ-2-h-82
LOX/LH2 推進系の統合化へ向けた GH2/GO2-RCS の実用化研究
准教授
徳留真一郎
開発員
鈴木直洋
主任開発員
志田真樹
開発員
八木下剛
助
成尾芳博
教
稲谷芳文
教
授
宇宙科学研究本部の再使用ロケット実験班では,迅速な繰返し運用を実現するための鍵となる LOX/LH2 推進系
の統合化へ向けた課題に取り組んでいる.本年度は,昨年度の成果に基づいて主推進エンジンと推進剤を共通化し
た GH2/GO2-RCS についてスラスタ要素を複数組合せた統合型推進系のシステム解析を行った.
146
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-h-83
セラミック基複合材(SiC/SiC-CMC)による高性能スラスタ燃焼器の研究
徳留真一郎
准教授
准教授
後藤
健
教
授
佐藤英一
助
教
成尾芳博
2003 年度から行っている GH2/GO2-RCS スラスタへの実用化研究において抽出されたセラミック基複合材燃焼
器の気密性の課題を解決するため,製造最終工程でのコーティング,金属との接着,マトリクスの緻密化について
検討を行ってきた.2008 年度はその成果を適用した本格的な試作品を製作した.
i.宇宙構造・材料工学研究系
Ⅱ-2-i-1
柔軟付属物を持つ衛星の制御モデルに関する研究
教
小松敬治
授
研開本部
山口
功
研開本部
葛西時雄
研開本部
内田秀樹
内部に動揺する液体や太陽電池パドル・放熱板などの柔軟構造物を持つ衛星の姿勢制御用モデルの高精度化が必
要とされている.自由度をできるだけ少なくし,かつパドルなどの回転による形態変更や,液体燃料消費による重
心移動に簡単に対応できるモデルの作成法とそのインターフェース標準化に関する研究を進めている.
Ⅱ-2-i-2
衛星における擾乱管理と抑制法の研究
教
小松敬治
授
研開本部
山脇敏彦
研開本部
内田秀樹
高精度な指向性能を要求される衛星において,ホイールや冷凍機などの擾乱発生器から構体を伝達してくる擾乱
力をそれぞれの開発段階で管理することは重要である.本研究では,擾乱発生器・構体・擾乱感受性機器における
擾乱伝達の試験方法と,伝達関数合成法について研究を進め,FM モデルを使った試験よりはるか前段階の概念設
計段階から擾乱を管理する方法を開発している.
Ⅱ-2-i-3
宇宙構造物の構造と機構に関する統括的研究
教
授
開発員
樋口
健
准教授
石村康生
教
岸本直子
客員准教授
古谷
奥泉信克
寛
日大理工
宮崎康行
大学院学生
渡邉隆司
大学院学生
塩路義行
助
宇宙構造物の構造と機構について,宇宙構造物システムという観点から総合的な研究を行っている.適応構造物
のような構造概念の研究から,個々の構造要素研究や計測法までを含めて,従来より提案されている宇宙システム
の分類や,それらの特徴的性質の把握を試みている.それらの成果はスペース VLBI 用展開アンテナ,科学観測の
ための伸展マストやインフレータブル伸展構造物などの開発に生かされ,さらに SSPS などの大型宇宙構造物建造
への応用などが試みられている.
Ⅱ-2-i-4
柔軟構造要素による大型宇宙構造物の建造とダイナミクスに関する研究
教
授
開発員
樋口
健
准教授
石村康生
助
岸本直子
特定課題研究員
横山隆明
客員准教授
教
日大理工
奥泉信克
古谷
寛
宮崎康行
膜やテザーあるいは適応構造要素による大型アンテナや太陽発電衛星などの大型宇宙構造物,および月・惑星上
Ⅱ.研究活動
147
構造物の概念および建造方法の研究をしている.膜面を利用した柔軟構造物のダイナミクスとその制御や,形状記
憶合金をスマートアクチュエータに利用した宇宙構造物の自動建造可能性,インフレータブル構造物の形状精度,
膜面挙動の実験と数値計算法,張力安定トラスの宇宙構造物への利用,モジュールの自律分散制御を用いた宇宙構
造物の自動建造の検討なども取り扱っている.
Ⅱ-2-i-5
柔軟展開構造物の展開挙動と形状解析に関する研究
助
教
奥泉信克
スピン展開型大型柔軟アンテナやソーラーセイルなどの膜面構造物の宇宙構造システムについて,それらの概念
や機構運動,構造精度,ダイナミクス,膜面のしわ解析手法などを多角的に取り扱い,これらに有効な数値解析手
法の研究を行っている.昨年度に引き続き,折り畳みによって膜にしわが生じないように折り目を設計した螺旋折
り(擬似対数螺旋折り)によって収納された膜面の遠心力展開挙動を検討した.今年度は,膜面をばね・質量系で
モデル化する多粒子系モデルに対し,膜の座屈強度の見直し,折り目の剛性のモデル化および展開初期形状の修正
を行い,展開シミュレーションの精度が大幅に向上することを確認した.
Ⅱ-2-i-6
月面構造物構築に対するレゴリス地盤の工学的性質の研究
教
樋口
授
健
特定課題共同研究員
横山隆明
月面構造物構築のためには構造物の基礎としてのレゴリスの性質を知る必要があり,工学的見地から地盤性状を
研究している.また,月面構造物構築の最初に必要とされる杭打ち作業のために,振動輸送の原理を利用した杭埋
設方法を提案し,実験により有用性を確かめている.さらに,月地盤性状の把握は,月着陸船の効率的な着陸衝撃
吸収機構の開発にも応用できるため,機械力学的見地からレゴリスの性質を把握し直す試みも併せて行なっている.
そして,SPH 法による月着陸機の衝撃応答加速度の算定法を開発している.
Ⅱ-2-i-7
次期磁気圏探査衛星 SCOPE のスピン軸方向伸展アンテナの構造と機構の研究
教
樋口
授
健
東京大学・生研
荻芳郎
スピン軸方向伸展物の構造開発に,伸展長さ,質量,衛星スピンレートに関連した剛性要求,探査機慣性能率比,
伸展動作中に衛星姿勢に及ぼす影響,搭載容積(収納時の寸法)などを勘案しながら構造および伸展機構の開発と
研究を進めている.特に,SCOPE の場合は,剛性向上に直結する必要重量の配分も厳しいにも関わらず,本アン
テナが電場観測用センサであるために観測要求から来る多くの制約条件が課されている.これらの要求を満足させ
るものとして,複合材 STEM のインフレータブル伸展方式によるアンテナ構造様式について検討を進めている.
さらに,開断面梁のスピン伸展における動的不安定現象の解析手法の開発を行っている.本構造様式の開発は,広
く衛星搭載用またはロケット搭載用の伸展構造物として,また月惑星上の伸展構造物にも利用できることを目指し
ている.
Ⅱ-2-i-8
モジュール展開構造物に関する研究
教
授
樋口
健
開発員
岸本直子
宇宙空間で大型構造物を構築するために設計製造された大型柔軟構造物を地上で事前機能実証試験を行う際,重
力の影響や空気の影響を取り払うことはできず,また試験設備の大きさの制約もあるため,構造物の大型化ととも
に十分な試験を実施することが不可能になってくる.大型構造物をモジュール化し,モジュール毎に試験を実施す
ることで試験が容易となり,コストダウンとともに構造精度や信頼性も向上する.モジュール展開構造物の考え方
は ASTRO-G 搭載の大型展開アンテナに適用されている.ASTRO-G 搭載の大型展開アンテナではさらに,鏡面精
148
Ⅱ.研究活動
度向上のために新たに開発された構造様式であるラジアルリブ/フープケーブル方式を採用している.
Ⅱ-2-i-9
自然界の構造や人工物の形態に関する研究
教
樋口
授
健
開発員
岸本直子
成長過程を含む自然界の構造形態はさまざまな広域的最適化の結果であると思われる.人工物の形態も同様にあ
る種の最適化により導かれる.形態と最適化要求の関係を明らかにするため,宇宙構造物の形態の特徴を整理する
とともに,花の形態変化や繭の形成,コウモリ翼の膜構造特性などを具体例として工学的に利用するための研究を
行っている.また,フラクタルの自己相似性を利用した形状制御や宇宙構造物構築方法についても研究している.
Ⅱ-2-i-10
軽量宇宙構造の機械特性及び展開機構に関する研究
准教授
石村康生
教
東大・工
青木隆平
日大・理工
授
樋口
健
開発員
岸本直子
宮崎康行
特別共同利用研究員
片山範将
大型の太陽電池パドルなどに要求される軽量高剛性といった特性を有する宇宙構造物の研究を実施している.軽
量なコア材としてマルチセルインフレータブル構造を利用し,その構造様式から検討を行い,解析および試験によ
って,機械特性の評価・改良を実施している.さらには,インフレータブル構造として展開可能なサンドイッチパ
ネルや SSPS などの大型宇宙構造物へ応用を視野に入れて,軌道上でのロバスト性や形状の制御に関する検討も行
っている.
Ⅱ-2-i-11
先進軽量構造システムの研究(戦略的開発研究費)
教
授
樋口
健
准教授
石村康生
教
授
小野田淳次郎
教
授
小松敬治
准教授
峯杉賢治
助
教
奥泉信克
助
岸本直子
客員准教授
教
竹内伸介
開発員
宇宙輸送ミッション本部
岩佐貴史
宇宙利用推進本部
悟
東大・工
東大・工
横関智弘
東大・生研
岡部洋二
東大・生研
日大・理工
宮崎康行
早大・理工
名取通弘
武蔵工大
目黒
東工大・工
松永三郎
東工大・工
坂本
防
田中宏明
東海大・工
角田博明
東海大・工
中篠恭一
名大・工
仙場淳彦
京大・工
大府大・工
石田良平
神戸大・工
花原和之
小澤
啓
大
古谷
寛
青木隆平
荻
芳郎
在
名大・工
池田忠繁
啓
大府大・工
大久保博志
大府大・工
小木曽望
大府大・工
秋田
剛
九大・工
室園昌彦
九工大
岩田
稔
泉田
本戦略的研究開発では,次世代の宇宙構造物の課題解決に向けて大型軽量高精度な構造システムの実現を目標と
して,その基盤技術となる軽量,高精度,高剛性,高収納効率,耐候性等を有する先進構造システムの研究開発を
行なっている.この成果は,科学衛星ミッションや大型構造物への利用はもちろんのこと,軽量・高精度の先進構
造システム技術の体系化によって更に汎用的な知的材料・構造システムの宇宙への展開として活用が期待される.
Ⅱ-2-i-12
科学衛星打上げ用ロケットの構造と機能
教
授
小野田淳次郎
准教授
峯杉賢治
助
主任開発員
富澤利夫
主任開発員
教
竹内伸介
下瀬
滋
衛星打上げ用ロケット,観測ロケットなどの構造要素として,モータケース,各段間接手,ノーズフェアリング,
尾翼,尾翼筒などについて,研究開発を行っている.ロケットの性能・信頼性向上を目的とし,設計計算手法の提
Ⅱ.研究活動
149
案・改善,新規機構・構造の開発,製造法の改良等を行っている.
本年度は次期固体ロケットの開発に向けて,モータケースの要素試験・評価,接手部の設計検討,機械環境条件
の推定等の支援を実施した.またマルマンクランプ型分離接手の発生衝撃を模擬する機構を製作し,基礎データの
取得を実施した.
Ⅱ-2-i-13
飛翔体の機体計測に関する研究
教
石井信明
授
峯杉賢治
准教授
主任開発員
富澤利夫
開発員
長谷川克也
飛翔体開発計画の一環として,その飛翔時の機体各部の状態および挙動を計測するためのシステムの開発,取得
データの解析および処理方式の研究を行っている.
Ⅱ-2-i-14
飛翔体の構造動力学
教
授
小野田淳次郎
峯杉賢治
准教授
助
教
主任開発員
竹内伸介
下瀬
滋
科学衛星打ち上げ用ロケットについて機体の動特性の評価を行い,制御系の設計等に資するとともに,ランチン
グオフ,風および制御等に伴う機体の運動と荷重について研究を行っている.
本年度は次期固体ロケットをモデルとして第 1 段燃焼振動に伴う正弦波入力に対する構造応答の解析等の支援を
実施した.
Ⅱ-2-i-15
科学衛星の構造・機構
授
小松敬治
教
授
小野田淳次郎
教
授
樋口
准教授
峯杉賢治
准教授
石村康生
助
教
奥泉信克
助
教
竹内伸介
教
健
科学衛星の構造および太陽電池パドル等の展開機構の開発研究,解析手法の提案・改善を行っている.
MMO については,詳細設計を終了し,MTMの製作を開始した.Planet-C については,柔結合解析結果の検討
を行い,FM構体に向けたPFM構体改修を開始した.Astro-G については,衛星構体の基本設計を終えた.
Astro-H については,基本設計を開始した.小型科学衛星シリーズについては,各ミッションに共通に使用可能な
バス構体の詳細設計を開始した.また小型科学衛星 1 号機 SPRINT-A のミッション部構造の詳細設計を行っている.
Ⅱ-2-i-16
環境試験方式の開発研究
教
授
小野田淳次郎
准教授
主任開発員
峯杉賢治
下瀬
滋
主任開発員
富澤利夫
開発員
伊藤文成
搭載機器の計装と関連して振動・衝撃・スピン・動釣合等の機械環境試験法に関する研究および試験条件の策定
について研究を行っている.特に動電型振動試験装置による振動・衝撃試験において,小型計算機を用いた制御お
よびデータ取得の方式について研究を行っている.
本年度は観測ロケット S-520-24 号機頭胴部,Astro-G SLRA,Planet-C IR/IR2 カメラ,S-310-39 号機頭胴部,
IKAROS 衛星PM品等の振動試験,Planet-C の慣性諸量測定を実施した.またフォースリミット制御の基礎試験を
行った.
150
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-i-17
ソーラーセイルの研究
教
小野田淳次郎
授
助
教
奥泉信克
宮崎康行
日本大学
将来の惑星間探査機の推進器として期待されているソーラーセイルの研究及び実現に向けた様々な検討を行って
いる.
Ⅱ-2-i-18
柔軟構造物の振動制御の研究
授
小野田淳次郎
准教授
主任開発員
富澤利夫
主任開発員
教
峯杉賢治
助
教
竹内伸介
下瀬
開発員
伊藤文成
滋
構造物の剛性やダンパの減衰力を制御することにより,構造物の振動を減衰させるという新しい準能動的振動制
御法,クーロン摩擦や粘着層による減衰効果を利用する受動的制振法,そして能動的制振について,トラス構造・
板・弦等を中心として理論的および実験的研究を行っている.
今年度は,前年度に引き続き衛星構造モデルにピエゾ素子を取り付けエネルギ回生振動制御手法を適用すること
で,実際の衛星構造での同手法の有効性に関するデータの取得を続行している.同様の手法をハニカム板にも適用
する事によりの音響の制振が効率的に行える事を実験により実証した.また振動から回生したエネルギのみで作動
する小型省電力演算装置を用いた完全無電力制振の基礎的実験を実施した.
Ⅱ-2-i-19
動吸振器による張力安定化構造の振動制御の研究
教
小野田淳次郎
授
准教授
峯杉賢治
教
竹内伸介
大学院生
南部陽介
助
テザー・ケーブルネットワーク・膜面など歪が発生する方向(面内)と変位が発生する方向(面外)が異なり通
常の制振機構では制振効率の悪い張力安定化構造において,動吸振器を介して面外方向に減衰力を発生させる効率
的な制振手法の研究を行っている.
Ⅱ-2-i-20
宇宙エレベータのダイナミクスに関する研究
教
授
小野田淳次郎
准教授
峯杉賢治
教
竹内伸介
大学院生
木村和亮
助
宇宙エレベータの運用/設計に資するために,張力が一様でない弦の振動と,その上を移動する質点との連成に
より生じる現象について,研究を行っている.
Ⅱ-2-i-21
フライホイール用超高速回転体の開発
教
授
八田博志
准教授
後藤
健
研究開発本部・主幹研究員
岩堀
豊
大学院生
教
授
廣嶋
登
橋本樹明
大きな比強度,比剛性をもつ CFRP(炭素繊維強化プラスチックス)を用いて世界最高速度 1500m/s で回転する
回転円盤を実現する研究を行っている.目標とする回転数に耐える回転体の設計のために,数値解析による回転体
の形状および内部繊維配列の最適化を実施した.得られた形状について 3 次元炭素繊維織物を試作し,真空アシス
ト樹脂注入法により円盤を試作し,各種試験を実施している.
Ⅱ.研究活動
151
Ⅱ-2-i-22
耐熱複合材料の長期信頼性に関する研究
准教授
後藤
健
准教授
徳留真一郎
助
小柳
潤
研究開発本部・研究員
青木卓哉
早稲田大・教授
佐藤哲也
教
授
八田博志
宇宙輸送ミッション本部・研究員
竹腰正雄
東京理科大学・教授
向後保雄
東京理科大学・助教
小山昌志
教
将来の再利用宇宙輸送機や衛星推進システムでは耐熱複合材を無冷却で使用することが検討されている.しかし,
これらの耐熱複合材料の長期信頼性に関しては設計に必要なデータベースの整備や信頼性保証手法の検討は十分に
行われていない.各種エンジンへの使用を検討している,耐熱複合材料の力学的特性,熱的特性,ガスリーク特性
などの各種長期信頼性に関わる特性の取得ならびに特性向上について研究を実施している.
Ⅱ-2-i-23
耐熱複合材料の各種エンジン部品への適用
教
授
八田博志
助
教
小柳
後藤
准教授
潤
研究開発本部・研究員
研究開発本部・主任研究員
田口
健
准教授
徳留真一郎
青木卓哉
研究開発本部・研究員
小島孝之
宇宙輸送ミッション本部・研究員
竹腰正雄
秀之
カーボン・カーボン複合材料および,SiC/SiC 複合材料を燃焼器,ノズルへ適用する研究を実施している.カー
ボン・カーボン複合材料では,プラグノズルを試作し,Si の含浸によるガスリーク低減及び,2 次接着構造の実現
について技術的な検討を実施している.SiC/SiC 複合材料については,N20・エタノールエンジン用の燃焼器およ
びノズルを試作し,地上燃焼試験を実施している.機械特性ならびに,ガスリーク特性などの問題点を抽出してい
る.これらの試作試験を通じて,各種耐熱複合材料による各種エンジン部品の設計・製作技術の確立を目指して研
究開発を進めている.
Ⅱ-2-i-24
生体模擬メカニズムによるナノコンポジット創製に関する研究
教
授
八田博志
後藤
准教授
健
東京理科大学・教授
物質・材料研究機構
福田
博
生駒俊之
生体内での自己組織化メカニズムを解明・模擬することで,コンポジットの新規な製造プロセスを創出する研究
を実施している.生体内における自己組織化メカニズムとして,コレステリック液晶相を経由して繊維配向構造が
形成される可能性を持つコラーゲン分子に着目し,配向制御実験を実施している.コラーゲン分子の生体外におけ
る液晶配向制御による自己組織化機構を解明し,高度に最適制御された複雑形状の複合材料の創製を目的として研
究を進めている.
Ⅱ-2-i-25
炭素繊維強化プラスチック複合材料の長期寸法安定性
教
授
八田博志
教
小柳
潤
東京理科大・助教
小山昌志
東京理科大・教授
福田
博
早稲田大・教授
川田宏之
助
炭素繊維強化プラスチック複合材料(CFRP)は軽量,高剛性,高強度といった特性を持ち,様々な用途に適用
されている.しかし,マトリックス樹脂の吸湿膨潤,粘弾性挙動によって高精度な寸法安定性が求められる用途へ
の拡大には課題が多く残されている.本研究では,吸湿および粘弾性挙動による CFRP の微小な変形について,実
験的,解析的手法によりその発生機構の理解と予測技術の確立を目的として研究を進めている.
152
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-i-26
ノズル耐熱材料の高信頼性化
准教授
後藤
健
研究開発本部・研究員
青木卓哉
研究開発本部・主任研究員
石田雄一
固体ロケットの重要部品である,ノズル耐熱材料(CFRP ライナー,カーボン・カーボン複合材ノズルスロート
インサートなど)は H-IIA-6 号機や M-V-4 号機の失敗原因となった重要部材である.これらの信頼性を高めること
は,次期固体ロケット,H-IIA,H-IIB の SRB-A などの固体ロケットの信頼性向上に直接的に資する.そのために,
ノズルライナーCFRP およびノズルスロートインサート適用材であるカーボン・カーボン複合材を対象として,以
下の点について研究開発を進めている.(1)高信頼性ノズルライナーの開発:H-ⅡA-6 号機の失敗原因であった局
所エロージョンを排除する新しいライナーCFRPを開発する.(2)材料特性データベースの高信頼性化:ノズル
スロートインサート C/C やライナーCFRP の材料特性の取得方法に関して見直しを実施し,材料特性データベース
の信頼性を向上させる.
Ⅱ-2-i-27
耐熱性ポリイミド樹脂による接着手法の開発
准教授
後藤
健
准教授
東京理科大学・教授
峯杉賢治
福田
博
研究開発本部・主任研究員
石田雄一
東京理科大学・助教
小山昌志
衛星やロケットなどの構造体ではサンドイッチパネルなど接着構造が多用されている.接着構造の耐熱性を向上
させることで,熱設計における温度マージンを拡大し構造体の信頼性を高めることが可能となる.最新のポリイミ
ド樹脂の開発により,低粘度,高靭性であり,耐熱性も損なわない熱硬化型ポリイミド樹脂が開発されている.こ
れを用いることによりチタン合金構造物を置き換えられる 350℃程度までの高温で安定なサンドイッチパネルのコ
ア/スキン間接着や接着構造物を開発し,衛星構造,飛翔体構造の耐熱性向上による高性能化を実現する.
Ⅱ-2-i-28
非接触非破壊検査手法の探傷精度向上に関する研究
教
授
八田博志
准教授
後藤
健
大学院学生
研究開発本部・主任研究員
石川真志
杉本
直
非破壊検査は製品や構造物等の健全性評価のために不可欠な技術であり,現在までに様々な検査手法が開発され
ている.それらに共通して求められる課題は,検査精度の向上の他に,検査を何処でも容易に行えることが挙げら
れる.後者の要求を満たし得る検査手法として,検査対象物に対して非接触で検査が可能な空中伝搬超音波法と赤
外線サーモグラフィ法が存在する.しかし,両手法とも現状ではその探傷精度は十分ではなく,広く利用されるに
は至っていない.本研究では,これらの二つの手法の探傷精度向上を目指した検討を行っている.
Ⅱ-2-i-29
六方晶金属の室温クリープに関する研究
教
授
佐藤英一
大学院学生
松永哲也
大学院学生
技術研修生
上田章二
首都大学東京・都市教養
首都大学東京・システムデザイン
亀山達也
筧
幸次
北薗幸一
チタン合金(特に Ti-6Al-4V 合金)は高比強度材料として宇宙機に数多く使用されているが,室温で顕著なクリ
ープ現象を起こす.この現象自体は古くに幾つか報告はあったが,その後ほとんど引用されてきておらず,我々が
「はやぶさ」の試験中に再発見した.本研究では,この室温クリープ現象はチタンだけでなく六方晶金属に特有の,
滑石かエネルギーの非常に小さな新たな変形様式であることを明らかにし,以下のようなメカニズムを解明してき
ている.
室温クリープ領域では,粒内で一つのすべり系のみが働き,転位の切り合いが起こらず,加工硬化が顕著に現れ
ないため,クリープ変形が持続する.しかし対称性の乏しい六方晶において,たった一つのすべり系ではフォンミ
Ⅱ.研究活動
153
ーゼスの条件を満たすことかができず,粒界に堆積した転位は順次粒界に吸収され粒界辷りを起こすことにより緩
和され,クリープ変形が持続している.
また,固溶強化された合金や加工強化された素材では,微視的に転位が動き出す microyielding stress をしきい応
力として取り扱うと,純金属焼鈍材と同一の変形挙動をとることがわかった.
Ⅱ-2-i-30
セラミックの超高速衝突破壊の研究
教
授
技術研修生
佐藤英一
齊藤
助
洋
教
インターンシップ
元屋敷靖子
Samuel Soldan
技術研修生
垣本勇希
法政大学工学部
新井和吉
会津大学企画運営室
奥平恭子
セラミックスを宇宙機スラスタ材料として使用するには,ミッション中のメテオロイドとの超高速衝突耐性を評
価する必要がある.そのため,宇宙研スペースプラズマ実験設備の二段式軽ガス銃による超高速衝突実験および
AUTODYN を用いたシミュレーションにより,スラスタ候補材料の窒化ケイ素の耐メテオロイド衝突性の評価を
行っている.ISAS/JAXA の従来のヘリウムガスを用いた二段式軽ガス銃(旧型銃)による試験では,4.5km/s まで
しか速度が出せないものの,2km/s 以上の高速では,クレータ・スポール・ピンホール・内部き裂等は生じるが,
試料の全面破壊には至らないことが示された.本年度は,水素ガスを用いた新型二段式軽ガス銃(新型銃)の性能
評価に協力するとともに,本新型銃による窒化珪素の破壊挙動の観察を行った.また,軽ガス銃では実現不可能な
8km/s 以上の速度の破壊挙動を推定するため,AUTODYN によるシミュレーションを行っている.
Ⅱ-2-i-31
複合材接着構造の極低温強度靱性評価
授
佐藤英一
技術研修生
早川真也
教
助
教
元屋敷靖子
技術研修生
高橋孝平
首都大学東京・システムデザイン
北薗幸一
極低温複合材タンクは,現状では CFRP 単体では作製できず,ライナや口金といった異種材料との接着/融着部
分が存在し,極低温での破壊力学的評価が必要となっている.また,現在 ISAS で開発中の LCP ライナつき複合材
タンクでは,LCP の層間剥離や破断によるガスバリヤ性の低下が問題となっている.そこで本研究では,タンク
口金部構造の極低温での DCB 試験による破壊靭性測定を行い,残留熱応力を評価に取り入れた純粋モード I 破壊
靱性を評価した.また,LCP の成形条件による極低温での伸びと層間強度を測定し,ライナー材に適する成型条
件を示した.
Ⅱ-2-i-32
固体ロケットモータの非破壊検査の研究
教
授
佐藤英一
産総研
高坪純治
物材機構
志波光晴
固体ロケットモータの大型化に伴い,定量的な非破壊検査による品質保証を低コストで実施することが必要とな
ってきており,今後は,設計段階から効率的な品質保証方法を検討しておくべきである.
固体モータの重要な品質保証箇所および段階は,(1)ノズルスロート素材段階,
(2)チャンバ(含むインシュレ
ーション)製造段階,(3)推薬注型後のモータ,の 3 点である.(1)項はこれまでの研究で,ほぼ技術開発は完了
し,JIS への登録も完了,実機への適用も行われており,現在 ISO の審議途上である.(2)(3)項は,従来はX線
撮影により品質保証されてきた.これはモータが小さかった古くでは有効な技術であったが,モータの大型化につ
れ作業時間とコストが膨大になり,検査設備の維持費も大きくなってきているものの,逆に検査の信頼性は低下し
てきており,超音波探傷技術によるコスト低減と信頼性向上が求められている.本年度は,観測ロケット S-310 に
対する完全自動化システムを完成させ,次号機からの品質保証手順を X 線撮影から変更することとした.また,
次期固体モータに対する,UT 低周波法の適用検討を行っている.これについては,輸送ミッション本部とも連携
し,SRB-A への適用性も検討している.なお本件は,非破壊信頼性評価研究に関する NIMS-AIST-JAXA 研究協力
154
Ⅱ.研究活動
協定に基づき 2 機関の協力を得て実施している.
Ⅱ-2-i-33
固体モータチャンバの FBG によるヘルスモニタリング
教
授
佐藤英一
産総研
津田
浩
固体ロケットモータの地上試験やフライト時のヘルスモニタリング(ひずみ計測)において,従来のひずみゲー
ジを光ファイバセンサの一つである FBG センサに置換えることで,ひずみと AE の同時計測を可能とし,1 本の
光ファイバ上で多点計測を行い計装の一層の軽量化を図ることが可能な計測システムを開発している.本件は,非
破壊信頼性評価研究に関する NIMS-AIST-JAXA 研究協力協定に基づき産総研の協力を得て実施している.
Ⅱ-2-i-34
極低温複合材タンクの開発
教
佐藤英一
授
教
授
樋口
健
助
教
竹内伸介
助
教
成尾芳博
助
教
野中
聡
将来輸送系では抜本的軽量化のために推進剤(LH2,LOX)タンクの複合材(CFRP)化が不可欠とされている
が,極低温環境下で複合材マトリクスに生じるマイクロクラックからの推進剤漏洩が大きな問題となっている.宇
宙科学研究本部で進められている再使用ロケット実験機(RVT)の開発において,複合材タンク班として,上記漏
洩を防止するために LCP ライナを用いた複合材タンクの開発を行っている.
本年度は,黒鉛組立ジグ方式全融着ライナによる PFM タンクの試作,評価試験を実施した.今年度の設計にお
いては,昨年度成果に基づく口金接着構造の破壊力学的評価を取り入れた.また,LCP の成形条件による極低温
での力学特性を測定し,設計に反映した.それらを取り入れ試作したタンクを実液充填加圧サイクル試験に供し,
RVT#4 の要求を満足することを確認した.
Ⅱ-2-i-35
新コンセプトによる極低温推進剤用複合材要素の研究
教
佐藤英一
授
助
竹内伸介
教
九州工業大学
米本浩一
複合材化が検討されている推進剤タンクに加え,金属として残されたままの複雑形状のタンク周辺部材(配管
類)に適用できるライナー技術の基礎研究を行っている.その一つは,粘土結晶(Clay)ライナーであり,複合材
層間に挟み込んだ粘土結晶層で気密を確保するものである.もう一つは,電鋳ライナであり,複合材表面に電鋳を
用いて金属薄皮膜を生成しライナーとして使用するもので,複合材成型後に施工するため,形状自由度・補修性が
高い.
Ⅱ-2-i-36
耐酸化剤ダイヤフラム膜の開発
教
授
佐藤英一
准教授
澤井秀一郎
開発員
中塚潤一
小型着陸機に対するバス系からのニーズとして,大きな加速度変化の中で姿勢擾乱を低減し,タンクの個数を減
らすことが求められており,ダイヤフラム 2 液一体型タンクを提案している.そのために,酸化剤耐性ダイヤフラ
ム膜として,金メッキポリマーダイヤフラムの開発を行っている.
Ⅱ-2-i-37
宇宙機材料への微小デブリ衝突の影響評価に関する調査研究
受託研究員
北澤幸人
教
授
佐藤英一
微小デブリの生成原因・衝突模擬試験・ISO 標準化の動向について調査分析した.現状の知見では,微小デブリ
は,2 次デブリ(ejecta)に起因するものが主体と考えられているが,実測データが乏しく,地上実験での検証が
Ⅱ.研究活動
155
試みられている.また,その実験方法については国際標準化の方向で検討が行われている.
j.宇宙探査工学研究系
Ⅱ-2-j-1
SOI プロセスを用いた A/D 変換器 IP の開発
教
授
池田博一
㈱デジアンテクノロジ代表取締役
篠原慈明
本開発研究では,半導体プロセスとして,0.2μm の完全空乏型の SOI プロセスを用いている.ゲート直下のシ
リコン部分から完全にキャリヤーが排除されていることから,従来技術である部分空乏型の SOI と比べて,I-V カ
ーブに現れる異常な折れ曲がりが解消されているなどアナログ回路への応用にとって有利な特徴を有している.ま
た,宇宙応用において必須の耐放射線性を担保することができる.昨年度は,低雑音 CCD 読出し回路の試作と,
電荷再配分型の高速遂次近似型 A/D 変換器の予備的試作を行った.本年度は,当該 CCD 読出し回路に内蔵された
ウィルキンソン型 A/D 変換器,及び二重相関サンプリング回路の良好な動作を確認することができた.さらに電
荷再配分型の高速遂次近似型 A/D 変換器の二次試作開発を行った.
Ⅱ-2-j-2
「サブミリ分解能をもつ拡張型高速 PET の要素開発(JST)
」における APD 読出し回路の開発
教
授
池田博一
東京工業大学・助教
片岡
淳
プロジェクト研究員
東京工業大学・大学院学生
佐藤悟朗
小泉
誠
医療用の PET 装置への応用を目途として APD アレーの多チャンネル信号を同時に処理するアナログ LSI を開発
した.これまで我々は X-線天文学の観測装置として優れた光検出器であるアバランシェ・フォトダイオード
(APD)に着目し,宇宙動作実証を含め広く活用してきた.これを最先端のガン診断装置(陽電子断層撮影:
PET)に応用すれば,汎用性が高く,低コストかつ高性能の医療装置が期待できる.具体的には APD 素子そのも
のを小型アレー化することで撮像機能をもたせる必要がある.そうすると,膨大な画像信号を同時に処理する集積
回路が不可欠である.昨年度は,TSMC 社の 0.35 ミクロン CMOS プロセスを用いて 8 チャンネル構成の集積回路
を試作したが,本年度は,32 チャンネル構成に拡張し,これを LTCC(低温焼成セラミック基板)専用パッケージ
に実装した.これによって,雑音性能等の著しい改善を確認することができた.さらに,ピクセル化された LYSO
シンチレータ,APD ピクセルアレーと組み合わせて PET 読出しモジュールとして組上げた.
Ⅱ-2-j-3
「沖縄イノベーション創出事業」における半導体ライン状X線検出器の開発
教
授
池田博一
教
授
高橋忠幸
プロジェクト研究員
佐藤悟朗
㈱アクロラド代表取締役
大野良一
非破壊検査装置用のライン状 X 線検出器用に計数型の信号処理集積回路を開発した.集積回路は,TSMC 社の
0.35 ミクロンCMOSプロセスを用いて製造された.各信号チャンネルには,低雑音前置増幅器,整形増幅器,6
レベルからなるウィンドウコンパレータ,及びカウンタ回路が設けられている.これによって例えば食品中の金属
等の異物を検出しようとするものである.最終的には,32 チャンネルの CdTe を用いたピクセルラインをモジュー
ルとして,これを 12 個並べることによって 384 チャンネル(0.4mm ピッチのため,ライン長 153.6mm)のライ
ン状センサを構成することを企図している.これを用いて検査対象をスキャンすることによって,異物を画像とし
て捕らえることを目指している.
156
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-j-4
ディープサブミクロン CMOS を用いたディジタル・アナログ混載型集積回路技術による低電力アナログフロント
エンド回路の開発
教
授
池田博一
教
高橋忠幸
授
プロジェクト研究員
佐藤悟朗
東京大学・PD
岸下徹一
本開発研究は,宇宙機における観測機器等に必要とされるディジタル・アナログ混載型集積回路に関するもので
ある.将来の宇宙機においては,高度な観測機器を実現するために,高精度かつ高信頼性を有する集積回路の開発
が求められている.この要求の解決手段としては,いわゆるディープサブミクロン CMOS を用いた集積回路が有
力な候補である.耐放射線性,低電力,ゲート遅延の短縮といった優れた性能が期待できるからである.しかし,
アナログ部の回路方式,ディジタル回路との干渉,さらには歩留まり水準等の自明でない課題が存在する.本年度
においては,ピクセル型,ラインセンサー型の試作回路において 100 電子を切る良好な雑音レベルを達成し,技術
的ブレークスルーを確認した.
Ⅱ-2-j-5
熱制御用ラジエータの高機能化に関する研究
主任開発員
太刀川純孝
助
教
大西
晃
大学院学生
松本
貫
宇宙機の熱制御において,ラジエータの機能化を図ることは電力の削減・軽量化の立場から重要なことである.
ここでは,以下の 2 種類の熱制御材料について研究を行っている.
1.多層薄膜によるフレキシブル熱制御材料
本研究は,基材ポリイミド系フィルムに多層薄膜を施すことにより,太陽光吸収率αS や全半球放射率εH を自
由に選択できるフレキシブル熱制御材料を目指している.この特徴は,従来のようにガラスやフィルムの光学特性
に制約を受けないで設計が可能であること,多層薄膜に使用する材料を予め紫外線,放射線等に耐性のある材料を
選定できること,αS の入射角度依存性が調整できること,表面の導電性が可能であること,等が挙げられる.多
層薄膜の設計には,遺伝的アルゴリズムと光学的理論に基づくシュレーション設計を導入した.この利点は広帯域
多層薄膜設計においてαS /εH の最適化と短縮化が図られ,製作コストの削減が可能になる.フレキシブル熱制御
材料の設計目標はαS で 0.10 以下,εH で 0.75 以上とした.
今年度は,4 タイプのフレキシブル熱制御材料の設計・試作を行った.基材フィルムには既に宇宙用熱制御材料
として評価されている 75μm ポリイミドフィルム(UPILEX-S)を用いた.その結果,TiO2,SiO2,a-Si の材料の
組合せでは,設計値,測定値ともにαS で 0.21,εH で 0.74 を得た.また,TiO2,SiO2 の組合せでは,設計値αS
で 0.06 に対し,測定値では 0.14 を得ている.
2.太陽光反射膜付放射率可変素子の研究
強磁性材料であるペロブスカイト構造 Mn 酸化物に多層薄膜を施し,太陽光吸収率が小さく,かつ全半球放射率
の温度依存性の優れた太陽光反射膜付放射率可変素子(SRDM : Smart Radiation Device with Multilayer film)の開発
を目的としている.この素子は,機械的な要素と電力を必要としないため,軽量かつ高い信頼性が得られる.
今年度は,広帯域の多層薄膜を基本とする太陽光反射膜の最適化を図る目的で,1/4 波長の高・低屈折材料を積
層する考え方に,中間的な屈折材料を付加する方法を設計に取り入れた.その結果,SRD の放射率の温度依存性
を維持しつつ,低太陽光吸収率の特性を有する広帯域多層薄膜の設計が可能になった.
また,昨年度設計・試作した SRDM について,紫外線・電子線・陽子線等の照射試験を行い,照射前後におけ
る太陽光吸収率,放射率等の評価を行った.その結果,広帯域多層薄膜の劣化は認められず,宇宙用材料として十
分耐性のあることが確認された.
Ⅱ.研究活動
157
Ⅱ-2-j-6
発泡ポリイミドフォームによる断熱材に関する研究
助
教
大西
晃
主任開発員
太刀川純孝
大気中,真空中における多孔質断熱材料のふく射・伝導伝熱挙動を実験的,理論的に明らかにし,宇宙機の断熱
設計の革新的な技術の向上を図ることを目的としている.断熱材には,アウトガス,電気絶縁性,耐熱性,耐紫外
線性,耐放射線性等に優れ,かつ軽量化が図れるポリイミドフォームに着目した.
今年度は,複雑な多孔質断熱材料のふく射・伝導伝熱を理論的に明らかにするため,3D レーザ顕微鏡や X 線
CT による構造解析を行い,そのデータを基に格子ボルツマンによる 2 次元熱解析モデルの構築を行った.
実験では,大気中,真空中における-100~+100℃の範囲の熱拡散率の温度依存性,密度依存性について測定を
行った.
その結果,ポリイミドフォームの熱拡散率の密度依存性は,大気中において解析,実験とも良い一致が得られた.
Ⅱ-2-j-7
宇宙用ハイブリット光・熱エネルギー変換素子の研究
主任開発員
太刀川純孝
助
大西
教
晃
大学院学生
宮脇俊介
本研究は,熱光起電力(Thermophotovoltaic : TPV)と,熱電発電(Thermoelectric : TE)の一体化を図ったハイブ
リット光・熱エネルギー変換素子(Hybrid Energy Conversion Device:HECD)の開発を目的としている.HECD は
TPV による光エネルギーと,PV セルと宇宙空間との温度差から生まれる熱エネルギーとの加算により,エネルギ
ー効率を高めることを狙っている.
今年度は,エミッタのふく射エネルギーを効率よく PV セルの感度領域に伝えるのと,その他の波長領域では反
射して TE のエネルギーに寄与するダイクロイックミラー(DM)の設計・試作を行った.ダイクロイックミラー
は,石英ガラスを基板に遺伝的アルゴリズムにより多層薄膜の設計を行った.また,PV セルには GaSb を採用し,
その量子効率の温度依存性を測定した.さらに,DM と PV セルのデータを基に HECD のシステム検討を行うた
め,熱設計とエネルギー効率の評価を行った.
Ⅱ-2-j-8
自律型吸放熱デバイスの開発ならびに宇宙機適用化研究
助
教
大西
晃
名大・工
長野方星
ラジエータの高機能化を目指し,高熱伝導性・異方性・フレキシブルなグラファイトシートを活用した自律型吸
放熱デバイス(RTP : Reversible Thermal Panel)の開発ならびに惑星探査機搭載を目的としている.RTP はサーマル
ダブラーと宇宙空間に面した放熱フィンが一体となった構造で,搭載機器温度に対応して放熱フィンが開閉するこ
とでラジエータやアブソーバの機能を有したデバイスである.
RTP の搭載用の構造モデルの設計,試作を行い,構造設計,熱設計等の評価を完了した.今後は,搭載用に向
けて,フィンの展開・収納を効果的に行うアクチュエータの研究を行う.
Ⅱ-2-j-9
宇宙用熱制御(熱防御)材料の高温放射特性に関する研究
助
教
大西
晃
主任開発員
太刀川純孝
真空・高温下における試料表面の垂直分光放射率,光学定数,膜厚等の時間的変化を同時に測定し,高温下の試
料表面の状態変化を明らかにすることを目的としている.これまで,分離黒体法による試料表面の垂直分光放射率
と偏光解析法による光学定数・膜厚等の同時測定装置の構築を行った.
現在,試料温度 2000K 近傍の表面温度測定を行うため,細線熱電対による方法を提案し,常に放射率が 1 にな
るクリスチャンセン効果を有したジルコニアを基材に評価を行っている.また,長繊維セラミック繊維複合材料の
高温放射率測定の規格化に関するランドロビン試験に参加している.
158
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-j-10
熱電効果による宇宙用熱制御に関する研究
助
大西
教
晃
宇宙航空プロジェクト研究員
長野方星
熱電発電を基本に,宇宙用能動型熱制御システムを新たに提案・構築することを目的としている.室温と宇宙空
間との温度差による熱電効果を利用した小型,軽量な流体ループシステムの開発と新規熱電材料の熱電物性簡易迅
速評価を狙っている.
熱電材料の性能指数であるゼーベック係数・熱伝導率・比抵抗の 3 パラメータを同一試料,同一測定条件で測定
が可能なフィルム熱電対と 4 端子プローブコンタクトの方法を提案し,計測システム構築ならびに評価を行った.
その結果,コンスタンタンと鉛の例では,温度範囲 260~330K において,ゼーベック係数および熱伝導率は推奨
値に対し 1.3%,11%以内で得られることが確認された.比抵抗に対してはプローブの接触方法に改善を要するこ
とが明らかとなった.引き続き,センサの薄膜タイプへの改良と,熱電材料の開発を行う.
Ⅱ-2-j-11
簡易型太陽光吸率,全半球放射率測定装置の開発
助
教
大西
晃
主任開発員
太刀川純孝
宇宙航空プロジェクト研究員
長野方星
太陽光吸収率α,全半球放射率εについて,研究室レベルの性能を有し,かつ,小型・軽量で迅速にその場測定
が可能なポータブルタイプの計測システムの開発を行っている.
ε装置は小型黒体炉光源,積分球,サーモパイル・センサから構成され,小型でかつ高精度の計測システムが完
成された.その特徴は広範囲の赤外域の測定を実現するため,波長範囲 0.6~42μm のセンサを採用し,測定の不
確かさ 0.05 以下であることが確認された.基本的な開発は完了しているが,引き続き,測定の安定化と再現性の
確からしさを目指して改良を行っている.
αは,ツェルニーターナ型を基本に,ステッピングモータで直接駆動する小型回折格子,光源,積分球から構成
される軽量化を狙ったプロトタイプの装置を構築した.引き続き,装置の性能向上と,積分球にファイバーケーブ
ルを付加したハンディタイプの測定装置の開発を行っている.
Ⅱ-2-j-12
ワイヤレス・マルチチャンネル計測システムの開発
主任開発員
太刀川純孝
助
教
大西
晃
小型送受信機,各種センサ(温度,加速度,画像等)を搭載し,計測部にセンサを取付けることで情報を取得す
ることが可能なワイヤレスタイプと有線タイプの 2 種類のマルチチャンネル計測システムの開発を目的としている.
ワイヤレスタイプは,半導体温度センサと小型送受信機を組み込んだセンサユニットと,データ取得,処理を行う
データロガ(ベースユニット,データハンドリングユニット)から構成され,1 センサユニットにデイジーチェー
ン接続することにより,25 個までの温度センサーが取付け可能で,センサユニットを追加することにより,1 台の
データロガ で最大 3200 点の温度計測を 110 秒で可能にしている.基本的な開発は完了しているが,引き続き,半
導体温度センサの代わりアナログセンサを用いて広範囲の温度測定が可能なシステム構築を行う予定である.
Ⅱ-2-j-13
科学衛星の熱設計
主任開発員
太刀川純孝
助
教
大西
晃
科学衛星の熱設計に関する作業状況は,以下の通りである.
・金星探査機「PLANET-C」の TTM 試験を行い,熱数学モデルの検証を行った.システム熱数学モデルのチュ
ーニングを行い,フライト熱解析の実施によって熱設計の評価を行った.
・電波天文衛星「ASTRO-G」は,システム熱数学モデルを作成,フライト熱解析を行い,熱設計の妥当性を評価
した.
Ⅱ.研究活動
159
・「IKAROS」のフライト熱数学モデルを作製し,熱設計の評価を行った.
Ⅱ-2-j-14
科学衛星に使用する熱制御材料の劣化評価
主任開発員
太刀川純孝
助
教
大西
晃
九工大
岩田
稔
電波天文衛星「ASTRO-G」に使用予定の熱制御材料に対し,プロトン,およびエレクトロンを用いた照射試験
を行った.大気中では時間の経過とともに劣化の回復が生じることから,簡易型太陽光吸収率測定装置を照射試験
設備に持ち込み,照射後,すぐに材料の光学特性の測定を行うとともに,劣化の回復も観察した.
Ⅱ-2-j-15
高温エレクトロニクス
廣瀬和之
准教授
助
教
小林大輔
教
授
田島道夫
秘
書
西川三千代
惑星探査ミッションの実現にあたっては,衛星の熱設計に対してこれまでになく過酷な条件が課せられる.この
問題を解決するためには,高温環境でのデバイスの劣化メカニズムの理解と,高温動作するデバイスの開発が不可
欠である.近年,地上でも宇宙から降り注ぐ中性子線などの放射線が半導体デバイスに与える影響が深刻となって
きた.高温エレクトロニクスを考える上でも,今までは宇宙だけで問題となっていた放射線環境が危惧されてきて
いる.そこで,本年度は,“放射線の影響”をテーマとして,宇宙サイドと民生サイドの研究者が一同に会した第
19 回高温エレクトロニクス研究会を開催して,高温環境下で放射線が半導体デバイスに与える影響につい考えた.
Ⅱ-2-j-16
半導体デバイス界面の耐放射性・耐熱性の研究
廣瀬和之
准教授
助
教
小林大輔
教
授
田島道夫
将来ミッションとして計画している“高機能探査衛星を利用した惑星探査”を成功させる上で,衛星搭載用とし
て高機能性・小型軽量性に加え,耐放射性・耐熱性に優れた高信頼性半導体デバイスの開発が必須である.本研究
においては,このような民生デバイスの開発とは一線を画す極限デバイス開発のための基盤研究として,デバイス
動作の要である半導体界面に対する精緻な制御・評価技術を確立し,衛星搭載用デバイスの問題点を把握,最適構
造の検討および極限プロセスの開発を計っている.
今年度は,具体的に以下のことを明らかにした.
1)第一原理分子軌道計算法により,半導体デバイス(LSI)を構成する各種材料の光学的誘電率(屈折率の二
乗)を推定するまったく新しい手法を開発した.これにより,材料設計の強力なツールとともに,物性に与えるプ
ロセスの影響を考察するツールが得られた.
Ⅱ-2-j-17
宇宙用 SOI デバイスの開発
准教授
廣瀬和之
教
授
齋藤宏文
助
教
福田盛介
助
教
小林大輔
総研大
牧野高紘
宇宙機搭載用の耐放射線性半導体デバイスを民生 SOI 技術を利用して開発している.
LSI の動作周波数が大きくなるにつれて顕在化してきた SET(Single Event Transient)というあらたな放射線障害
のメカニズムを理解して対策を講じるために,放射線試験とシミュレーションを行った.SET パルスという数 100
ピコ秒の電圧パルスを高精度に測定する手法や,予測する解析手法を開発した.また,SET 伝播特性(SET パル
スの伸縮・消滅)を短時間かつ高精度に解析して,最適な SET 対策を選択するツールを,汎用 ASIC 設計ツール
をベースに開発した.
160
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-j-18
フォトルミネッセンスによる太陽電池用多結晶シリコン基板の欠陥評価に関する研究
教
田島道夫
授
特別共同利用研究員
池邊正俊
技術研修生
岩田恭彰
豊田工大
大下祥雄
明治大学
小椋厚志
太陽電池用多結晶 Si における鉄汚染効果を解明することを目的とし,B ドープ多結晶 Si の転位クラスターが少
ない領域と多い領域に対し,鉄汚染前後のフォトルミネッセンス(PL)を測定することにより,鉄汚染による少
数キャリアライフタイム減少現象ならびに鉄汚染が転位クラスターおよび酸素析出物に与える影響を調査した.そ
の結果,(1)転位クラスターの一定の領域が室温バンド端発光の非発光センターとして働いており,鉄汚染によっ
てその非発光領域は増大すること,(2)鉄汚染による転位クラスターへの鉄の析出の結果,D-line 発光センターの
電子的性が変化すること,そして(3)非発光センターとなる転位クラスターでは,部分的に不均一な酸素析出が
起こり 0.78 eV 発光を誘起するが,酸素析出領域は鉄汚染の影響を受けないことが明らかとなった.
また一方向性凝固成長法による Si 多結晶において,成長条件と欠陥発生状況および軽元素不純物挙動の関係を
調査している.
Ⅱ-2-j-19
フォトルミネッセンス法によるシリコン結晶の高濃度不純物定量に関する研究
教
授
田島道夫
14
17
技術研修生
岩井隆晃
-3
近年 Si 結晶太陽電池は残留ドナー・アプセプタ濃度の高い(1x10 ~1x10 cm )安価な原料を用いる傾向にあ
る.しかし従来の JIS 法によるフォトルミネッセンス定量技術(濃度領域:1x1011~1x1015cm-3)では上記領域に対
応出来ない.我々は JIS 法の測定で励起光強度を上昇させることで高濃度領域への拡張を図ってきたが,温度上昇
の影響で誤差が大きくなること,および拡張範囲が 1016cm-3 台に留まることという問題があった.そこで測定温度
を高温にして自由励起子発光線を測定しやすくし,なおかつ発光帯形状より正確に試料温度を算出することにより,
より高濃度領域の測定が可能となり,精度も向上しうることを示した.
Ⅱ-2-j-20
SiC 結晶の光学的評価の研究
教
授
田島道夫
大学院学生
磯野秀明
特別共同利用研究員
平野梨伊
宇宙用高温エレクトロニクス,パワーエレクトロニクス等の用途において,高い性能を持つ SiC(炭化珪素)デ
バイスの信頼性向上を目的とし,フォトルミネッセンス(PL)を用いた SiC 結晶基板中の構造欠陥の高感度・非
破壊評価を行っている.今年度は高純度半絶縁性 6H-SiC 結晶においてよく観測される深い準位の発光帯に対して
PL スペクトルおよび PL 励起スペクトルの温度依存性から微小欠陥起因の深い準位の発光機構を明らかにし,そ
れを基に室温におけるバンドギャップ以下の below-gap 励起により同発光帯を誘起することができることを利用し,
PL イメージングを用いてウエハー面内の構造欠陥分布を高感度かつ高速に検出することを示した.
また Si 基板上 3C-SiC ヘテロエピタキシャル成長結晶に対し,低減化が課題である積層欠陥の非破壊検出を目的
とし,PL スペクトル測定・マッピング測定を行っている.
Ⅱ-2-j-21
フォトルミネッセンス法を用いた SiC 半導体素子の欠陥評価
教
授
田島道夫
新機能素子研究開発協会
小坂賢一
室温フォトルミネッセンス高速ウエハーマッピングにより,パワーエレクトロニクスインバータ作製に用いる
SiC ウエハー中の結晶構造欠陥の高速な評価を可能とし,全反射 X 線トポグラフィに比べより表面近傍の欠陥の抽
出が可能であることを明示した.デバイス素子作製においては特に表面層の欠陥が重要になると考えられることか
ら非常に有用な評価法である.
また,これらのウエハーマッピング結果を基に,極低温フォトルミネッセンスマッピング法による欠陥の詳細な
Ⅱ.研究活動
161
電子状態の評価を行った.その結果,金属不純物の局在は確認されないこと,マッピングに現れる異常点は結晶構
造起因の欠陥が支配的であること,また全反射 X 線トポグラフィなどのウエハー全面評価では検出されない表面
層の結晶欠陥が存在することを観察するまでに至った.これらの結晶欠陥はデバイスキラーの可能性を示唆する.
Ⅱ-2-j-22
人工衛星用星姿勢センサの研究
授
齋藤宏文
教
授
橋本樹明
主幹開発員
廣川英治
准教授
紀伊恒男
教
授
堂谷忠靖
教
授
満田和久
准教授
水野貴秀
准教授
坂井真一郎
准教授
川勝康弘
助
坂東信尚
教
教
「はやぶさ」用に開発した小型軽量で 0.05deg 精度の広視野スタートラッカについて,「はやぶさ」
,「れいめい」,
「ひので」の軌道上での動作を評価を行っている.秒角精度の高精度スタートラッカについては,「すざく」,「あか
り」のものについて,軌道上での性能評価を行った.また,ASTRO-G,NeXT 用スタートラッカの要求仕様につ
いて検討した.
Ⅱ-2-j-23
人工衛星用太陽姿勢センサの研究
授
齋藤宏文
教
授
橋本樹明
主幹開発員
廣川英治
准教授
紀伊恒男
准教授
坂井真一郎
准教授
清水敏文
開発員
成田伸一郎
坂東信尚
開発員
清水成人
教
助
教
直交する 2 つの 1 次元 CCD を検出素子とする 2 次元高精度太陽センサを研究・開発している.精度 0.05 度(3
σ)のものとしては,「あけぼの」,「ようこう」,「あすか」に搭載されたものをセンサ部とエレキ部を一体型し,
「はやぶさ」,「すざく」,「れいめい」,「あかり」,「ひので」のフライトに供した.現在,軌道上データの評価を行
っている.高精度のセンサとしては,
「あかり」用に視野角を 2deg まで広げたタイプを開発し,「ひので」用には
視野角 1deg,精度 0.2arcsec の超高精度タイプを開発した,
「ひので」搭載超高精度太陽センサについては,軌道
上での性能評価を行っている.さらに,将来の小型衛星用軽量サンセンサの開発を行っている.
Ⅱ-2-j-24
人工衛星用慣性センサ及びその応用の研究
授
橋本樹明
准教授
坂井真一郎
教
准教授
峯杉賢治
主幹開発員
廣川英治
助
教
坂東信尚
研開本部
鈴木秀人
研開本部
石島義之
研開本部
巳谷真司
人工衛星用慣性姿勢基準装置(FRIG および TDG 方式)につき開発的研究をしている.
特に TDG 方式については,
「ASTRO-G」等の高速姿勢変更衛星に適用する際に問題となる,スケールファクタ
精度について限界性能把握を行っている.またこれらの機械式ジャイロを用いた慣性姿勢基準装置の発生する振動
擾乱の測定およびその発生メカニズムの解明を行い,低減策についての研究も行っている.
Ⅱ-2-j-25
人工衛星用光ファイバージャイロの高精度化の研究
授
齋藤宏文
東大・工
研開本部
教
授
橋本樹明
保立和夫
准教授
戸田知朗
鈴木秀人
研開本部
石島義之
教
准教授
坂井真一郎
教
坂東信尚
研開本部
巳谷真司
研開本部
岩田隆敬
助
可動部を持たないため振動擾乱の発生が無く,信頼性も高いと考えられている光ファイバージャイロの高精度化
162
Ⅱ.研究活動
研究を行っている.ひとつは小型衛星用に,小型,安価な量産型光ファイバージャイロに対して温度制御等を行う
ことにより極限性能を引きだす研究を行っている.もう一方は,現在の高精度機械式ジャイロに匹敵する性能を達
成するため,相対強度雑音補正機能などの各種新規技術の適用によって世界最高レベルの性能を達成する研究を行
っている.
Ⅱ-2-j-26
磁気軸受ホイールを用いたアクティブ振動擾乱抑制の研究
教
橋本樹明
授
成田伸一郎
開発員
研開本部
井澤克彦
研開本部
鈴木秀人
磁気軸受ホイール(特に全自由度能動制御型)を,人工衛星の姿勢制御アクチュエータとして使用するための,
理論的及び実験的な研究を行っている.特に,衛星搭載機器の発生する振動擾乱を,磁気軸受ホイールの軸受制御
によりキャンセルする方式について,理論的検討と実験による計測を行っている.
Ⅱ-2-j-27
星同定に基づく人工衛星の姿勢決定法の研究
教
授
橋本樹明
主幹開発員
廣川英治
准教授
紀伊恒男
教
授
堂谷忠靖
准教授
川勝康弘
助
坂東信尚
教
スタートラッカによる星撮像データとスターマップをマッチングさせる星同定法についての研究を行っている.
「はやぶさ」については,全天の星から機上星同定を行うアルゴリズムを開発し,軌道上で実運用に使用している.
「すざく」については,予想視野方向のスターマップをアップロードすることにより,星同定および高精度の姿勢
決定を行っている.「あかり」については,視野内を移動する星を対象とした星同定アルゴリズムを開発し,その
有効性の確認を軌道上で行っている.
Ⅱ-2-j-28
人工衛星の姿勢制御方式の研究
教
授
橋本樹明
教
授
川口淳一郎
准教授
村田泰宏
教
授
久保田孝
研究員
望月奈々子
准教授
紀伊恒男
准教授
坂井真一郎
坂東信尚
准教授
川勝康弘
開発員
藤原
助
教
謙
科学衛星の三軸姿勢指向制御方式に関し以下のような研究を行っている.
(1)姿勢変更制御(姿勢マヌーバ)方式について,最短時間で所望の姿勢変更を行う
実用的制御アルゴリズムの研究を行っている.また高トルクアクチュエータとして CMG(コントール・モーメン
タム・ジャイロ)を用いた高速姿勢マヌーバについて,その駆動方式の検討,特異点解析,制御性能評価などを行
っている.
(2)リアクションホイール 1 台によるバイアスモーメンタム 3 軸姿勢安定化方式についての研究を行っている.
「れいめい」の(観測要求による)磁気トルカを使用しない制御モード,「はやぶさ」の 1 ホイール制御モードにて
使用され,軌道上での動作特性の把握を行っている.
Ⅱ-2-j-29
画像航法の研究
教
授
橋本樹明
教
授
川口淳一郎
教
授
久保田孝
助
教
坂東信尚
会津大
出村裕英
助
教
福田盛介
探査機による月・惑星表面の撮像画像と,既にわかっているクレータ等の特徴地形の地図とをパターンマッチン
グすることにより,探査機の軌道・姿勢情報を含むパラメータ値が求められる.このような画像データと従来の電
Ⅱ.研究活動
163
波航法データ・姿勢センサデータを併せてカルマンフィルタで推定を行えば,精度の高い軌道・姿勢推定が可能で
ある.その一例として「のぞみ」の月スウィングバイ時の画像や,「LunarOrbiter」の画像からクレータを抽出し,
これを月面地図と比較することにより航法精度を向上させることを試みている.
また,将来の月探査機の自律航法を目指して,クレータの抽出,地図データベースとのマッチングを自動的に行
い,それにより得られる情報を用いて機上にて航法精度を向上させるアルゴリズムについて研究を行い,計算機シ
ミュレーションにより,その性能を確認している.
Ⅱ-2-j-30
自然地形の特徴点を利用したランデブー・着陸法の研究
授
川口淳一郎
教
授
橋本樹明
月惑星
松本甲太郎
月惑星
片山保宏
教
授
久保田孝
研開本部
照井冬人
教
小惑星等の未知天体にランデブー,着陸する際には,自然地形の撮像画像をもとに探査機の相対位置を計測し,
目標点まで誘導する必要がある.従来この種の処理は高度な自然地形認識が必要と考えられてきたが,画像のフィ
ルタリングによる自動特徴点抽出を用いることにより,高速に相対位置が計測できることがわかった.現在,この
特徴点抽出アルゴリズムと探査機制御則を組み合わせて,探査機の小惑星表面への誘導シミュレーションを行って
いる.
Ⅱ-2-j-31
画像を用いた自然地形の認識に関する研究
教
授
橋本樹明
准教授
教
授
澤井秀次郎
久保田孝
教
福田盛介
月惑星
片山保宏
助
天体への着陸,天体表面の移動を行うためには,当該地域の地形の認識,すなわち山であるか谷であるか平地で
あるか等の認識が必要になる.従来はこのような認識を行う場合,まず天体の 3 次元地図を作製し,その地形を評
価関数にかけて分類,認識を行っていたが,膨大な計算量が必要であった.本研究では,あらかじめ分類に必要な
地形カテゴリーを限定することによって,1 枚の陰影画像から高速に地形分類,認識を行うことを行っている.
また着陸地点の安全度(傾斜,障害物の有無)を判定する方法として,天体表面の反射率の非線形性を利用して
複数地点から撮像された陰影画像から惑星表面の状態を求める手法,ステレオ画像を用いる方法,太陽光の陰を利
用する方法等を開発し,計算機シミュレーションにより各アルゴリズムの比較およびその性能の確認を行っている.
Ⅱ-2-j-32
超電導磁石を用いたフォーメーションフライト相対位置制御の研究
准教授
坂井真一郎
教
授
橋本樹明
2 つの衛星を地球周回軌道を所望の相対位置関係を保って飛翔させるフォーメーションフライトは,将来の望遠
鏡ミッションなどへの応用が期待されている手法である.
このような場合,相対位置維持のためには低推力とはいえ推力が常時必要となり,特にミッション期間が長い場
合には膨大な燃料を必要とする.そこで,超電導磁石の吸引反発力を利用して 2 衛星の相対位置を制御する手法を
提案している.近地球での地磁場による外乱トルクを低減するためには,それぞれの衛星の超電導コイルは
0.01Hz ないし 0.1Hz 程度の交流駆動されることが望ましい.このような状態でコイル間の吸引反発力を制御する
には,その位相差を制御すればよい.この位相差制御を電力的に効率よく行うために,インパルス的に電圧印加を
行い位相差を制御する駆動方式と回路を提案し,その検討を行っている.
164
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-j-33
高々度気球を用いた微小重力実験システムの研究
授
橋本樹明
准教授
石川毅彦
准教授
坂井真一郎
准教授
澤井秀次郎
准教授
稲富裕光
准教授
吉光徹雄
准教授
齋藤芳隆
助
教
坂東信尚
研開本部
小林弘明
研開本部
藤田和央
助
教
福家英之
横国大
上野誠也
武蔵工大・工
門岡昇平
開発員
清水成人
教
高々度に飛翔させた気球から 2 重殻構造の機体を落下させ,その内殻部分に搭載した実験装置を理想的な無重力
状態とさせるシステムの開発を行っている.本年度は,大気球実験場の大樹町移転作業などにより,飛翔実験はで
きなかったが,ユーザインターフェイスの改良などを行った.
Ⅱ-2-j-34
高々度気球を用いた微小重力実験システムの姿勢決定系に関する研究
教
授
橋本樹明
准教授
坂井真一郎
准教授
助
教
坂東信尚
開発員
清水成人
特別研究員
澤井秀次郎
バウスト・ぺータ
高々度気球からの自由落下を利用した微小重力実験システムの発展形として,水素エンジンの超音速飛行実証を
行う計画がある.これに必要な小型の 3 軸姿勢決定パッケージの開発を行っている.太陽センサ,地磁気センサ,
傾斜計,GPS,ジャイロと搭載計算機から成り,機体計算機へ姿勢決定値とセンサ生データを送るように設計され
ている.この予備試験として,本年度は工学ゴンドラに製作した姿勢決定系を搭載し,太陽センサ,地磁気センサ,
GPS の基礎データを取得した.
Ⅱ-2-j-35
月惑星探査機のダイナミックタッチダウン制御
授
橋本樹明
教
授
久保田孝
准教授
澤井秀次郎
助
教
大槻真嗣
助
教
坂東信尚
准教授
吉光徹雄
大学院学生
田口勝也
教
教
授
樋口
健
准教授
坂井真一郎
月や火星などの重力の大きな天体に着陸するためには,衝撃吸収用の着陸脚が必要となるが,ハニカムクラッシ
ュ構造等により衝撃を吸収しても,着陸時の衝突速度の反力等により,探査機が転倒する可能性がある.本研究で
は,着陸の前後での衝撃吸収と転倒モーメントの吸収を,アクティブ制御可能な着陸脚等を使用して実現する方式
を検討している.
Ⅱ-2-j-36
月面探査ローバシステムの研究
教
授
久保田孝
准教授
吉光徹雄
助
教
大槻真嗣
助
教
福島洋介
助
三田
助
教
豊田裕之
主事補
嶋田貴信
開発員
成田伸一郎
愛知工科大
中谷一郎
明治大
黒田洋司
中央大
國井康晴
教
信
月面を無人探査する探査ローバのシステムに関する検討を行った.ハードウエアおよびソフトウエアについて試
作を進めた.
Ⅱ-2-j-37
MEMS 技術を応用した探査機システムへの応用研究
教
授
久保田孝
東京電機大学
原島文雄
東大生研
橋本秀紀
最新のマイクロエレクトロニクス技術を用いて,超小型・軽量・低消費電力のセンサシステムの研究開発をめざ
Ⅱ.研究活動
165
している.大学の専門家との強い連携を行い,宇宙探査機システムへの応用の検討を進めている.
Ⅱ-2-j-38
惑星探査用多脚ロボットに関する研究
教
授
久保田孝
九州大
外本伸治
惑星探査において,脚型ロボットは不整地における走破性の高さから活躍することが期待されている.今年度は
回転型移動歩行手法の詳細な設計検討を進めた.
Ⅱ-2-j-39
宇宙における探査機構に関する研究
教
久保田孝
授
豊田工業大
古谷克司
宇宙探査ミッションが高度化するにつれて,惑星表面および内部の直接探査が要求されており,サンプル採取や
サンプルの研磨・研削などの加工技術,内部探査機構などが必要となっている.本年度は,岩石破砕機プロトタイ
プの性能を評価した.また切断用ワイヤ方式を試作し,実験的評価を進めた.
Ⅱ-2-j-40
月・惑星探査におけるテレサイエンスシステムに関する研究
教
授
久保田孝
中央大
國井康晴
地球からの遠隔操縦でロボットによる科学探査を行う場合,科学者の操作しやすいシステムが必要である.そこ
で,惑星探査用テレサイエンスシステムの構築を進めた.
Ⅱ-2-j-41
惑星探査における自律移動メカニズムに関する研究
教
授
久保田孝
明治大
黒田洋司
惑星表面のように凸凹した自然地形を自由に移動し,自分で判断して行動する高い自律移動メカニズムが必要と
なる.そこで新しい自律移動査ロボットシステムの構築を行い,実験による検討を進めた.
Ⅱ-2-j-42
月面地形における車輪走行機構に関する研究
教
授
久保田孝
中央大
飯塚浩二郎
月面科学探査において,探査ロボットは科学的に興味深い場所に移動し,観たいところ観ることが要求される.
月表面の砂地において,車輪型移動ロボットの走行機構がどのように影響するかについて実験的検討および理論検
討を進めた.
Ⅱ-2-j-43
探査ロボットの行動知能システム構築に関する研究
教
授
久保田孝
理化学研究所
下田真吾
月や惑星表面を移動しながら探査を行うシステムが科学的に重要となっている.そこで,未知環境で自律的に探
査を行う行動知能システムが必要となる.人間の脳の高度な処理系をモデル化し,探査ロボットの行動知能に関す
る研究を進めた.
166
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-j-44
惑星探査における岩石研磨システムに関する研究
教
授
久保田孝
岡田達明
准教授
中央大
國井康晴
表面のサンプルを研削研磨して詳細な観察をすることは科学的に意義が高い.そこで,惑星において効率よく研
削する方式について検討を行っている.今年度は,超音波岩石研磨機における研削面の状態解析を進めた.
Ⅱ-2-j-45
超音波振動技術の宇宙仕様化に関する研究
教
久保田孝
授
中央大
國井康晴
新しいアクチュエータとして,超音波振動技術を利用したモータの宇宙への応用を検討している.ジンバル機構
を試作し,その性能評価を行った.
Ⅱ-2-j-46
ミミズ型内部探査ロボットに関する研究
教
久保田孝
授
中央大
中村太郎
月惑星内部を探査するロボットとして,ミミズに注目し,その移動メカニズムの検討および試作機による実験を
進めた.
Ⅱ-2-j-47
探査ロボットの移動メカニズムに関する研究
教
授
久保田孝
吉光徹雄
准教授
教
大槻真嗣
大学院学生
水上憲明
助
移動型探査ロボットの移動メカニズムについて検討をしている.軟弱地盤と車輪の特性を把握し,トラクション
コントロールについて検討を進めている.
Ⅱ-2-j-48
将来月探査のための着陸探査機に関する研究
教
授
久保田孝
大学院学生
デイビッド
ボドキン
月の起源や進化の解明には,月面に着陸し地質探査や内部探査などその場分析による直接探査が必要である.着
陸機は,目標とする着陸地点に安全にかつ精度よく確実に着陸することが要求される.また着陸後の電力確保およ
び熱制御が重要となる.いくつかのミッションを設定し,重量,電力,軌道,航法誘導系,構造,推進系などシス
テムに関して解析を行い,探査機のシステムについて検討を行った.
Ⅱ-2-j-49
探査ロボットの環境認識および経路計画に関する研究
教
授
久保田孝
大学院学生
杉浦
学
月惑星表面の不整地を移動可能な探査ロボットのナビゲーションについて,3 次元地図の生成および経路計画に
ついて検討した.
Ⅱ-2-j-50
小天体探査ロボットのナビゲーション関する研究
教
授
久保田孝
准教授
吉光徹雄
大学院学生
エドモンド
ソー
重力の小さい小天体をホップしながら移動探査を行うロボットの運動推定手法とナビゲーション手法について,
検討を進めた.
Ⅱ.研究活動
167
Ⅱ-2-j-51
自律移動型地中探査ロボットの研究
教
久保田孝
授
田中
准教授
智
教
大槻真嗣
大学院学生
永岡健司
助
月・惑星探査において内部探査は科学者からの要求の高いミッションである.そこで内部を掘削しながら探査を
行うロボットの検討を行っている.掘削ロボットの地中推進手法について,掘削方式の解析とモグラ型実験システ
ムによる実験的検討を行った.
Ⅱ-2-j-52
探査ロボットの知的マニピュレーションに関する研究
教
久保田孝
授
助
大槻真嗣
教
大学院生
ホドリゴ・ミンギニ
月惑星探査において,自律的に探査を行うシステムが求められている.そこで,探査ロボットに搭載する小型軽
量なスマートマニピュレータの検討を行った.
Ⅱ-2-j-53
探査ロボットの移動機構に関する研究
教
授
久保田孝
助
教
大槻真嗣
大学院学生
内木孝将
月惑星探査において,自由自在に移動探査するロボットシステムが求められている.そこで,走破性の高い移動
メカニズムの検討を行った.
Ⅱ-2-j-54
高精度自律着陸システムの誘導制御に関する研究
教
授
久保田孝
大学院学生
メヘディ・イブラヒム
月惑星探査において,安全にかつ高精度に着陸するシステムが求められている.着陸目標地点へ燃料最少,高精
度に着陸する誘導制御システムについて検討を進めている.
Ⅱ-2-j-55
小天体への画像航法誘導に関する研究
教
授
久保田孝
大学院学生
セドリック・コーコー
小天体探査において,目標地点への着陸探査,サンプル採取は,科学的に重要である.そこで,画像情報を用い
た航法誘導手法について検討を進めている.
Ⅱ-2-j-56
科学衛星用電池の運用データ解析
准教授
曽根理嗣
科学衛星に係り外部配信されているデータについて,特に「はやぶさ」「れいめい」にかかる地上試験データと
の評価解析を行った.特に,「はやぶさ」搭載バッテリの過放電後の軌道上データについて詳細評価を実施し外部
報告としてまとめるとともに,「れいめい」運用データから軌道上電池と地上試験電池とのデータの適合性につい
て検証を進めた.
168
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-j-57
月惑星着陸機搭載着陸レーダ(電波高度速度計)の研究
准教授
水野貴秀
助
教
福田盛介
開発員
坂井智彦
研究員
岸本健児
惑星表面に着陸する探査機に必要不可欠な航法センサーである電波高度速度計(着陸レーダ)の開発を行ってい
る.本レーダは,着陸機が垂直降下に移る高度 3.5km から使用できる,C 帯(4.3GHz)のパルスレーダであり,
宇宙機の惑星表面に対する高度及び速度を同時に測定できる機能を有している.現在 BBM を製作して,航空機を
使用したフィールド試験を重ねて,信号処理,アンテナ,レーダシステムに関して研究を行っている.
Ⅱ-2-j-58
2 次元走査レーザレーダの研究
准教授
水野貴秀
助
教
三田
信
研究員
梶川泰広
惑星探査機に搭載されているレーザレーダは,主に 100km 以近での距離計測に使用され,航法及び科学観測の
両面から極めて重要な技術である.本研究では惑星探査機に搭載する 2 次元走査レーザレーダに必要とされる,小
型軽量かつ高信頼性の走査光学系を,MEMS 技術を適用することによって実現する.受信光学系には,テレセン
トリック光学系,マイクロレンズアレイ,マイクロシャッターアレイを用いてビーム走査を可能としおり,大口径
の受信ビームを回転ミラーを使用することなくビーム走査を実現しているところに特徴がある.
Ⅱ-2-j-59
レーザレーダ受信回路用デバイスに関する研究
准教授
水野貴秀
教
授
池田博一
開発員
川原康介
惑星探査機に搭載されるレーザレーダは,数 10km から数 10m までの広い測距レンジを要求されるため,パル
ス受信回路は入力信号レベルで 60dB もの広いダイナミックレンジを要求される.また,はやぶさに搭載された
LIDAR の測距精度はデジタルカウンタのクロックに依存しているが,デジタルクロックをアナログ的に補間する
ことによって駆動クロックを低く抑えつつ精度を向上させることができる.本研究では,ランデブー用のレーザレ
ーダに要求される広いダイナミックレンジと高い分解能を実現する専用デバイスの開発を行っている.
Ⅱ-2-j-60
ペネトレータ搭載アンテナに関する研究
准教授
水野貴秀
LUNAR-A 計画で使用されるペネトレータは月面下約 1.5m に貫入し,月震データを取得して月軌道にある母衛
星と UHF 帯(TLM400MHz,CMD450MHz)で通信を行う.ペネトレータに搭載されたアンテナは送受共用で,月
レゴリス中に完全に埋没した状態で,月面クレータ下から電波を放射して母船との通信を行う特殊なアンテナであ
る.クレータ下から電波を放射するため,本研究ではクレータによる電波散乱の影響 TLM 法を用いて解析してい
る.
Ⅱ-2-j-61
小型月着陸実証機の研究
准教授
澤井秀次郎
准教授
水野貴秀
准教授
久保田孝
助
教
福田盛介
助
教
三田
信
助
教
坂東信尚
助
教
小林大輔
助
教
豊田裕之
教
授
樋口
健
月着陸技術の開発・実証には地上試験だけでは不十分で,航法センサを含めた航法誘導技術の試験を実際の月面
に対して実施することが重要である.このような試験を行うための着陸実験機が,どこまで小型かつ低コストで実
現できるかの検討を行い,そのために必要な新規技術の開発研究を行う.本研究により大型月着陸探査ミッション
Ⅱ.研究活動
169
に先行して,着陸実験を行うことが可能となることに加えて,小型ペイロードを月面まで輸送する手段として,あ
るいは他の惑星探査機に搭載する小型着陸機としての使用可能性もあり,月惑星探査に対する敷居を下げる有効な
手段となる.
k.宇宙情報・エネルギー工学研究係
Ⅱ-2-k-1
アクティブフェーズドアレーアンテナ(APAA)の研究
授
山田隆弘
教
授
池田博一
教
主幹研究員
風間保裕
主幹開発員
鎌田幸男
研究員
菅原
章
東大生産研
年
日本無線
須田
保
教
吉洋
授
川崎繁男
次世代移動通信システムへの応用を目的として,省スペース,省電力,かつ低コストで量産可能な APPA システ
ムの開発を進めている.
今年度の成果は:(1)アンテナの主ビームを仰角 30~60°の範囲でアンテナ利得 16dBi と一定した利得でほぼ
半球面状にビーム走査可能である結果を得た.また 3 角配列による 243 素子の大規模アレーについてシミュレーシ
ョンによる検討および試作を行った.(2)低雑音 MMIC では,12.5GHz の動作周波数において,NF1.4dB,利得
31dB の性能をもち,約 11%の省面積化(2.0mmx2.7mm)を達成した.(3)SPDT スイッチを製作し,RF-MEMS
の設計チップ単体の特性として,駆動電圧 2V~25V,応答速度 10us~12us,挿入損失 3dB@12GHz を得た.(4)
ビーム制御用の LSI は集積回路自体のサイズを 2mm×2mm に圧縮するとともに,パッケージを 7mm×7mm の
QPN パッケージに実装した.(5)応用システムとして Ku 帯車載用衛星通信システムを想定したデモモデルを試作
した.
Ⅱ-2-k-2
静電駆動型マイクロアクチュエータの不安定性の利用
助
教
三田
信
東大生産研
藤田博之
東大生産研
年
吉洋
静電型マイクロアクチュエータ,特に平行平板型の場合,pull-in(引き込み)現象などの不安定性が存在する.
この静電マイクロアクチュエータ特有の不安定現象を積極的に利用し,自励発振や乱数の発生するデバイスの開発
を行った.
Ⅱ-2-k-3
回路シミュレータを用いた MEMS デバイスのシミュレーションに関する研究
助
教
三田
信
東大生産研
藤田博之
東大生産研
年
吉洋
回路シミュレータを用いて運動方程式を解く方法を開発しそれを用いて MEMS デバイスのシミュレーションを
行った.回路シミュレータ内で電気と機械の連成シミュレーションが可能になり,MEMS デバイスのシミュレー
ションが可能であることが確認できた.これにより周辺回路を含んだ MEMS デバイスのシミュレーションが可能
になるため,MEMS デバイスの研究・開発に有用である.
Ⅱ-2-k-4
マイクロアクチュエータの研究・開発
助
教
三田
信
東大生産研
藤田博之
東大生産研
年
吉洋
MEMS 技術を用いて新しいマイクロアクチュエータの研究・開発を行った.2 次元駆動可能な慣性駆動型のアク
チュエータを開発し,動作の確認を行った.また,安定性の良いジンバル型の 2 次元くし歯マイクロアクチュエー
タの研究及び開発を行った.この 2 次元アクチュエータを用いた光応用デバイスの開発を行った.
170
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-k-5
大容量固体キャパシタの研究
助
三田
教
信
助
豊田裕之
教
東大生産研
年
吉洋
耐環境性の高い電源を実現するため,電気を蓄える要素としてセラミックコンデンサのような固体キャパシタを
採用し大容量化する.固体であるため温度環境の影響が少なく真空環境でも使用できるため耐環境性が非常に高い
充電池となる.2008 年度は 1 層のみ試作し評価を行った.
Ⅱ-2-k-6
相対 VLBI による軌道決定の研究
准教授
吉川
真
准教授
加藤隆二
教
開発員
市川
勉
富士通
竹内
央
大西隆史
NICT
関戸
衛
NICT
市川隆一
NICT
近藤哲朗
助
深宇宙探査機の軌道決定では,レンジとドップラーという観測量を用いることが従来から行われており,これが
軌道決定の基本であるが,より軌道決定精度を向上させたり,また,探査機の運用に自由度を持たせたりするため
には,相対 VLBI 観測による軌道決定が有望である.相対 VLBI による軌道決定を実現するために,地上での受信
だけでなく探査機からの信号の送信方法についても検討を行った.具体的には,IKAROS によって試験を行う検討
が行われた.
Ⅱ-2-k-7
「はやぶさ」後継機による探査の検討
准教授
吉川
准教授
岩田隆浩
准教授
田中
助
教
助
教
会津大学
真
授
川口淳一郎
助
教
安部正真
准教授
川勝康弘
教
授
國中
智
研究開発本部
照井冬人
准教授
西山和孝
森
治
宇宙航空プロジェクト研究員
森本睦子
准教授
山田哲哉
矢野
創
准教授
吉光徹雄
愛知東邦大学
高木靖彦
出村裕英
会津大学
平田
成
茨城大
野口高明
東京大学
宮本英昭
秋田大学
秋山演亮
教
均
「はやぶさ」に続く小惑星探査ミッションについて検討を行っている.「はやぶさ」に続く小惑星ミッションとし
ては,「はやぶさ」とほとんど同じ探査機でサンプルリターンを行う「はやぶさ 2」と,より進んだサンプルリタ
ーンを行う「はやぶさ Mk2」の 2 つが検討されている.特に「はやぶさ Mk2」については,ヨーロッパの研究者
と共同して,ESA に「マルコ・ポーロ」という名称でミッションを提案した.主な検討課題としては,様々な科
学観測に加えて,サンプリングの手法,着陸機ないしローバによる探査,そして内部構造の探査が挙げられる.こ
れらの検討を続けるとともに,「マルコ・ポーロ」ミッションについての協議をヨーロッパ側と続けた.
Ⅱ-2-k-8
地球接近天体の軌道についての研究
准教授
吉川
真
総研大
山口智宏
国立天文台
伊藤孝士
国立天文台
黒田大介
地球に接近するような天体について,観測データより軌道決定を行い,衝突の確率を求める研究を行っている.
最近,観測される小惑星の数が急増しているが,日本でも,岡山県の美星スペースガードセンターを中心に多くの
データが得られている.このデータを使って,小惑星の軌道を正確に求め,仮に地球に接近するような場合があれ
ば,地球との衝突確率を算出するようなシステムの構築を行った.具体的には,クラスター計算機のハードウエア
の作成と,軌道解析用のおよび結果の可視化用のソフトウエアの製作を行った.
Ⅱ.研究活動
171
Ⅱ-2-k-9
ラグランジュ点を中継した宇宙輸送システムについての研究
准教授
吉川
真
山川
京都大学
宏
総研大
中宮賢樹
太陽系空間(惑星間)をいかに効率良く移動するかをテーマに,惑星のラグランジュ点を利用する研究を行って
いる.この場合のラグランジュ点というのは,例えば地球の場合,太陽‐地球の系におけるラグランジュ点のうち,
地球と太陽を結ぶ線上で地球の前後にある点である.このラグランジュ点においては,探査機を留めておくための
エネルギーが少なくて済むという特徴がある.一例として,地球から火星に飛行する場合について,地球のラグラ
ンジュ点から火星のラグランジュ点に飛行する軌道を設計し,より少ないエネルギー(燃料)で移動できる軌道を
求めた.
Ⅱ-2-k-10
太陽発電衛星の研究
教
授
佐々木進
准教授
田中孝治
教
授
川崎繁男
教
授
樋口
准教授
小川博之
准教授
石村康生
助
教
成尾芳博
助
教
奥泉信克
帝京大・経
松岡秀雄
麻布大・環境保健
P コリンズ
京大・生存圏
篠原真毅
東京農大
石井忠司
健
太陽発電衛星のシステム及び小型衛星による軌道上実証について総合的な研究を行った.システムについては,
研究開発本部・高度ミッション研究グループと連携して,ビーム方向制御機能を持つ kW 級マイクロ波送電の地上
実証システムの検討,形状記憶合金を利用した発送電パネルの自動展開・平面度維持制御系の試作研究,ポリイミ
ド薄膜シートを基板とした軽量フレキシブルレクテナの試作研究を行った.また小型衛星による軌道上実証実験の
検討では,コンフィギュレーション,計測システム,実験シナリオについての検討を行った.これらの研究活動と
平行して,太陽発電衛星の研究を全国的に推進するための太陽発電衛星研究会の事務局活動(慶應義塾大学におけ
る SPS シンポジウムの開催及びニュースレターの発行)を行った.
Ⅱ-2-k-11
超高速宇宙浮遊物による薄膜構造物の破壊と衝突放出物に関する研究
教
授
佐々木進
准教授
田中孝治
共同研究員
矢守
章
大学院学生
長岡洋一
宇宙浮遊物(メテオロイドやスペースデブリ)の宇宙機への超高速衝突現象の中で,特に衝突プラズマについて
注目して研究を行った.レールガン及び二段式軽ガス銃からの高速弾(速度 4-5km/s)を金属薄膜に衝突させた実
験のデータ(昨年度取得)を詳細に解析するとともに比較のためレーザ生成プラズマの研究も行った.金属薄膜へ
の超高速衝突及びレーザ照射で発生するプラズマを高速度カメラで観測及び薄膜前後に配置したプラズマプローブ
で観測したデータを用いてその伝搬特性を調べた.その結果,衝突プラズマは進行方向側に弾とともに移動しなが
ら半球状に伝搬し逆進行方向側には膜面に沿って伝搬するのに対し,レーザプラズマは照射点を起点として膜面前
後に半球状に伝搬することがわかった.このことは.薄膜への超高速衝突の場合は薄膜からよりも弾そのものから
発生するプラズマが量的に支配的であることを示唆している.
Ⅱ-2-k-12
システムのモデル化技法の研究
教
授
山田隆弘
Kent 大学
Peter Linington
Malaga 大学
Antonio Vallecillo
人工衛星のような複雑なシステムに関する情報をデータとして一元的に管理できるようにするためには,システ
ムに関する様々な情報をどのように分類しデータとして表現するかということを決める必要がある.そのようなも
のの表現方法を一般的にモデルと呼んでいるが,本研究では分野ごとに必要とされるモデルを統一的な手法で作成
できるような方法の開発を行っている.具体的には,分散処理システム用のモデルである Reference Model of Open
172
Ⅱ.研究活動
Distributed Systems(RM-ODP)とシステム記述言語である System Modeling Language(SysML)を基にし,これら
をさらに一般化することにより様々な分野のモデルを統一的に作成できるようなモデル化技法の構築を目指してい
る.
Ⅱ-2-k-13
宇宙システムのアーキテクチャーに関する研究
教
山田隆弘
授
Peter Shames
NASA/JPL
人工衛星,惑星着陸機,宇宙ロボットなどで構成される将来の宇宙システムは,地上で使用されているシステム
よりもはるかに複雑なシステムとなる.このような複雑なシステムを効率よく構築するためには,システム全体の
概念や構成を統一的に記述するためのモデルが必要になる.本研究では,分散処理システム用のモデルである
Reference Model of Open Distributed Systems(RM-ODP)を基礎にしつつも構成の複雑な宇宙システムにも適用でき
るようにいくつかの拡張を行い,宇宙システム用アーキテクチャーの構築を行っている.
Ⅱ-2-k-14
宇宙通信アーキテクチャーに関する研究
教
授
NASA/JPL
ESA/ESTEC
山田隆弘
Peter Shames
Jean-Luc Gerner
Adrian Hooke
NASA/HQ
NASA/GSFC
ESA/ESTEC
Dave Israel
Chris Taylor
NASA/JPL
Wallace Tai
NASA/JSC
Jason Soloff
ESA/ESOC
Wolfgang Hell
宇宙通信システムを構築するためには,システムの構成要素をそれらの接続の仕方を定めなければならない.現
在は,これらのことはシステムを構築する毎に定めているが,本研究では,宇宙通信システムの基本構成要素と基
本的な回線種別,それらを特徴づける特徴,それらを分類する方法を標準的に定めることを目標としている.具体
的には,宇宙回線,通信機能,通信プロトコル,参加組織の 4 つの観点から標準要素とそれらの属性を定義するこ
とによって宇宙通信システムのアーキテクチャーの構築を行っている.さらに,どのようなミッションでどのよう
な要素をどのように接続するか(これを宇宙通信シナリオと呼んでいる)を記述するための標準的な方法も開発し
ている.
Ⅱ-2-k-15
テレメトリ・コマンド伝送方式の国際標準規格化
教
授
山田隆弘
NASA/JPL
Grez Kazz
人工衛星のテレメトリ及びコマンドの伝送方式としては,宇宙データシステム諮問委員会(CCSDS)が国際標
準規格として制定した方式が世界的に使用されている.しかし,従来の規格においては,テレメトリ・コマンドの
伝送に特化した規定の仕方がなされており,一般的なネットワーク用の標準規格と組み合わせてこれらの規格を使
用することは考慮されていなかった.そこで,将来の宇宙システムにおけるネットワーク的な環境においても使用
できるように,従来の標準規格をさらに一般化した標準規格の作成を行った.この標準規格は,既に宇宙データシ
ステム諮問委員会(CCSDS)および国際標準化機構(ISO)から標準規格として発行されているが,現在は世界各
国の宇宙機関より提出された意見に基づき,規格の改訂作業を行っている.
Ⅱ-2-k-16
宇宙ネットワーク構築方式の研究
教
授
山田隆弘
複数の宇宙機より構成されるネットワークにおいて宇宙機の搭載機器に対してコマンドを伝送し,これらの搭載
機器よりテレメトリを受け取るためには,個々の搭載機器を識別する方法とそれらの間を接続するための方法が確
立されていなければならない.現在は,宇宙データシステム諮問委員会(CCSDS)が制定したパケット伝送方式
がコマンドとテレメトリの伝送に広く使われているが,この方式は単独で運用される単一の衛星に搭載機器が搭載
Ⅱ.研究活動
173
されている場合しか考慮されていない.今後の宇宙システムでは,複数の衛星が一つのネットワークを構成する場
合が増えてくるが,現在の方式はこのようなシステムには対応できない.そこで,将来の宇宙ネットワークにも対
応できるように現在のパケット伝送方式を拡張するための検討を行っている.
Ⅱ-2-k-17
惑星探査に適したデータ伝送方式の研究
教
授
山田隆弘
現在の惑星探査機で使用されているデータ伝送方式は,基本的には近地球衛星で使用されているものと同一であ
る.しかし,惑星探査では,遅延時間が近地球と比べて非常に大きく,さらに,最近の惑星探査では,ある探査機
のデータを別の探査機が中継する場合が増えている.本研究では,将来の惑星探査用に全く新しい概念によるデー
タ伝送方式の検討を行っている.この概念は,ネットワーク管理技術に基づくもので,ネットワークの状態を定め
られた状態に近づけるという方向でデータ伝送を管理するという方法である.
Ⅱ-2-k-18
データ記述用言語の研究
教
授
山田隆弘
人工衛星の運用やデータ処理を行うためには,人工衛星に関する各種のデータを使用する必要がある.これらの
データの形式は,データ処理システム毎に規定されていることが多く,複数のシステムでデータを共有することは,
一般的には困難である.しかし,データを標準的な記述形式で表現すれば,複数のシステムでデータを共有するこ
とが可能になる.このような目的のために,Extensible Markup Language(XML)を標準的な記述形式として採用
するケースが増えているが,現実には XML の使い方がシステム毎に異なるために,複数のシステムでデータを共
有することは未だに困難である.本研究では,このような問題を解決するために,XML の上位の言語としてデー
タの構造を規定するための標準的な言語の開発を行い,データの共有を真に可能にするための検討を行っている.
Ⅱ-2-k-19
科学衛星標準データ処理アーキテクチャーの研究
教
授
山田隆弘
教
授
准教授
高橋忠幸
准教授
松崎恵一
高島
助
尾崎正伸
健
教
現在は,宇宙研の衛星におけるデータ処理方式は,衛星毎に別々に検討されている.また,データ処理のための
機器も,過去の衛星で使用された機器が流用されることはあるが,どの衛星でも使用できるような標準機器は存在
しなかった.本研究では,科学衛星の開発を効率化するために,どのような科学衛星にも適用できる標準的なデー
タ処理方式を定義し,その方式を実現するための標準的なデータ処理要素の開発を行っている.標準的なデータ処
理要素は,標準ハードウェア,標準ソフトウェア,標準通信プロトコルに分類され,個々の衛星の規模及びその衛
星で必要とされるデータ処理機能に応じて,これらの標準要素を自由に組み合わせ,その衛星に合致したデータ処
理システムを構築できるようになっている.
Ⅱ-2-k-20
衛星の機能モデルの研究
教
授
山田隆弘
准教授
松崎恵一
准教授
高島
助
尾崎正伸
助
山本幸生
教
教
健
現在は衛星の搭載機器の機能設計は搭載機器毎に別々に行われている.また,共通的な基盤がないために,ある
機器の設計結果を他の機器の設計に流用することも困難である.本研究では,搭載機器の機能を設計するときに準
拠すべき標準モデルを定義し,搭載機器の機能設計の方法を標準化することを目指している.このモデルを使用す
れば,衛星の機能の単位として機能オブジェクトという単位を定義し,個々の機能オブジェクトの属性を定めるこ
174
Ⅱ.研究活動
とにより衛星の機能設計が行えるようになる.また,将来は,標準的な機能オブジェクトのライブラリを整備し,
個々の搭載機器はライブラリ内の適当な機能オブジェクトに適当な追加を行うことにより設計できるようにしたい
と考えている.
Ⅱ-2-k-21
衛星監視制御プロトコルの研究
教
授
山田隆弘
准教授
松崎恵一
准教授
高島
助
尾崎正伸
教
健
衛星の監視制御に使用されるデータに関しては,テレメトリ及びコマンドの基本的なデータ構造についての国際
標準規格は存在しているが,データの意味内容の規定に関してはプロジェクトが独自に行っており,プロジェクト
間の互換性は確保されていない.本研究では,テレメトリ及びコマンドの意味内容に関する規定も含んだ標準的な
インターフェースを確立するための検討を行っている.具体的には,衛星の搭載機器を機能オブジェクトとして記
述し,コマンドとテレメトリの意味内容を機能オブジェクトの制御と監視という観点で記述することにより,あら
ゆる種類の衛星に対応できる方式の開発を行っている.
Ⅱ-2-k-22
衛星情報ベース 2(SIB2)における機能定義の研究
教
授
山田隆弘
准教授
松崎恵一
准教授
高島
助
尾崎正伸
教
健
宇宙科学研究本部ではテレメトリ及びコマンドに関する情報を統一的に蓄積・管理するためのデータベースとし
て衛星情報ベース(SIB)というものを「のぞみ」以降の全ての科学衛星で使用している.現在の SIB は,テレメ
トリ及びコマンドのデータ形式とコマンドの検証方法を蓄積しているだけであるが,将来は搭載機器の機能に関す
る情報も蓄積できるようにするために衛星の機能モデルと衛星監視制御プロトコルに準拠したデータベースの設計
を行っている.今年度は,昨年度に引き続き,搭載機器の振る舞いを記述するための標準方式の開発を行い,さら
に機能の定義をデータベースに入力するための方式の検討を行った.
Ⅱ-2-k-23
衛星運用手順記述方式の研究
教
授
山田隆弘
准教授
松崎恵一
准教授
高島
助
尾崎正伸
助
福田盛介
教
教
健
現在,宇宙科学研究本部では衛星運用手順を記述するための方法がいくつか存在するが,この研究ではそれらを
すべて統一し,さらに運用で必要となる様々なルールを統一的に記述できるような方法の研究を行っている.特に,
今までの方法では,ある条件が成立しているか否かを調べ,その結果によって実行すべき手順を変えるための記述
方法が存在しなかったが,本研究ではイベント駆動の構文を採用することによって,それを可能にすることを目指
している.
Ⅱ-2-k-24
衛星開発方法論の研究
教
授
山田隆弘
宇宙研と欧米の宇宙機関とでは衛星開発の方法が大きく異なっている.例えば,欧米では要求定義と設計とは別
の作業として定義されているが,宇宙研ではその区別は厳密ではなく,要求定義という作業はほとんど存在しない.
また,担当者の役割や作成される文書にも宇宙研と欧米では大きな違いがある.本研究では,宇宙研と欧米の衛星
開発方法を比較し,どちらの方法のどの部分がどの程度,衛星の質の向上と開発の効率化に貢献しているかを検証
することを目指している.
Ⅱ.研究活動
175
Ⅱ-2-k-25
金星・水星探査機用次世代 X 帯ディジタルトランスポンダの開発
准教授
戸田知朗
開発員
長江朋子
測距信号再生技術,ベースバンド部のディジタル信号処理化,民生部品選択の低コスト化による小型・軽量・省
電力な深宇宙用次世代 X 帯トランスポンダの開発を実証フェーズに移した.金星(Planet-C)・水星探査機
(BepiColombo)への搭載に向けてフライトモデル(FM)開発が進行中である.相模原キャンパス飛翔体研究開発
棟クリーンルームで Planet-C の一次噛み合わせ試験が実施され地上試験装置との間でトランスポンダ FM は設計通
りの性能を示した.内之浦宇宙空間観測所においてトランスポンダのプロトモデル(PM)を組み込んだシミュレ
ータと地上局装置との適合性試験も実施され,Planet-C のために期待通りの通信回線が問題なく成立することが示
された.2009 年 6 月から始まる Planet-C 総合試験に向けて FM 開発の最終局面を迎えている.
Ⅱ-2-k-26
科学衛星用次世代 S 帯トランスポンダの開発
准教授
戸田知朗
助
教
冨木淳史
開発員
長江朋子
近地球科学衛星および月探査機に向けた次世代小型 S 帯トランスポンダ BBM の整備を進めている.重要なのは
搭載 S 帯トランスポンダに研究・開発要素があるわけではなく.小型・軽量化のために有用な先進技術を早期に S
帯トランスポンダへ移植可能とする技術実証を進めることである.搭載技術は極めて保守的であり,メーカを利用
した開発には先進的な成果を取り込むことが極めて難しい.国内の宇宙技術開発体制の不備を補う技術サポートを
このテーマで行っている.
Ⅱ-2-k-27
磁気圏探査を目指す編隊飛行衛星間の通信システムの開発
准教授
戸田知朗
助
教
冨木淳史
准教授
齋藤義文
助
教
津田雄一
客員教授
小林岳彦
磁気圏探査ミッション SCOPE のための,衛星間および衛星地上局間通信(データ,測距,時刻同期)システム
の性能評価を実施した.SCOPE 計画の観測技術に必要とされる編隊機同士の測距と時刻同期の機能を通信システ
ムへ搭載する技術実証を目指している.ブレッドボードモデル(BBM)を用いて親衛星と子衛星間および子衛星
間同士の通信,測距,時刻同期機能の要求条件を満たせた.同期,非同期時のクロック信号の位相安定度評価も行
い時刻同期の機能を定量的に評価した.
Ⅱ-2-k-28
電界効果半導体レーザの研究
准教授
戸田知朗
新しいレーザデバイスとして 4 端子構造で活性領域への電流注入と印加電圧の関係に新規自由度を持つ電界効果
半導体レーザの試作を行っている.また 4 端子構造デバイス用の評価実験系の構築を行った.過去の電極コンタク
ト形成上の問題を解決し発振動作を得るために,外部ベンダーによる高不純物濃度の成長基板を購入し,これに改
良したデバイスプロセスを適用し評価サンプルを完成させた.サンプル評価を実施している.
Ⅱ-2-k-29
次世代深宇宙局に向けた送受信機の開発と Turbo 符号/LDPC 符号復号器の導入
准教授
戸田知朗
助
教
冨木淳史
教
授
齋藤宏文
臼田 64m アンテナ局の後継となる将来地上局の心臓部である地上局送受信装置の開発を進めている.X 帯から
Ka 帯に対応するシステムとして設計し従来の局システムにはない機能・構成における柔軟性と汎用性を備える.
CCSDS 標準 Turbo 符号方式の全ての形式が RF 変復調を含めた End-to-End のブレッドボードモデルシステム上の
176
Ⅱ.研究活動
試験で理論値通りの復号性能を示しシステムのハードウェア損失は十分に小さく実用レベルに抑えられた.Turbo
符号に比肩する LDPC 符号の導入研究も立ち上げている.
Ⅱ-2-k-30
アレイ構成による次世代深宇宙局の研究
准教授
戸田知朗
助
教
冨木淳史
客員教授
小林岳彦
Ka 帯にも対応可能な深宇宙地上局の実現方法としてアレイアンテナ群による構成方法の基礎検討を行っている.
Ka 帯のように波長が短くなると深宇宙探査が求めるような大型のアンテナではその鏡面形状や面精度を維持する
設計が困難になると同時に建設コストが膨大になってしまう.Ka 帯でも十分製作可能な小型のアンテナを束にし
て大型アンテナと等価な性能を発揮させる方が現実的かもしれない.臼田 64m アンテナ局の後継局の議論が始ま
っている.後継局をどのような姿で残すか,未来を左右する重要な決断である.ダウンリンクとアップリンク双方
の確立を条件として X 帯ダウンリンクを主軸とした X/Ka 帯アレイシステムを考える.野辺山天文台の気象データ
に基づき X/Ka 帯での大気揺らぎ,局内遅延変動など信号合成を阻害する要因について実験とシミュレーションを
通じて評価し合成損失への影響を明らかにした.これに基づいて最適なアンテナ構成(サイズ,機数)を評価し後
継局としてのシステムの実現性を明らかにする.
Ⅱ-2-k-31
搭載用 Ka 帯送信機の開発
准教授
戸田知朗
助
教
冨木淳史
客員教授
小林岳彦
次世代深宇宙ミッションの科学データ伝送に必須とされる Ka 帯ダウンリンク回線を実現するために搭載 Ka 帯
送信機の開発を行った.次世代 X 帯トランスポンダのアタッチメントとして効率的に機能を実装できるように配
慮しながら周波数設計の最適化を図っている.特に,キャリア周波数近傍領域の超低位相雑音を実現するため,基
準発振器の特性を損なわない Ka 帯までのアップコンバート特性の実現が課題である.ブレッドボードモデル
(BBM)を製作し X 帯トランスポンダ BBM と組合せた試験を実施するところである.
Ⅱ-2-k-32
搭載用高安定発振器の開発
准教授
戸田知朗
助
教
冨木淳史
ミリ波帯利用に向けて高安定な搭載基準信号発振器はその回線性能を決める重要な要素である.超高安定発振器
の性能は科学観測や One Way での測位性能を大きく左右し,先進の深宇宙探査で欠かすことができない.超高安
定発振器無くしては,惑星軌道投入に際して探査機の安全確保のため長期間に渡る軌道推定モデルの検証作業を実
施しなくてはならない.海外宇宙機関は,このようにミッションの成否に関わる技術要素を独自に保有しており,
JAXA のような第三者機関が要求性能通り安定に購入可能な製品はない.そこで,これまでの水晶振動子や新しい
MEMS などの技術を取り入れて JAXA 独自の超高安定発振器開発を立ち上げた.まず超高安定発振器の位相雑音
劣化のない周波数合成機能の開発を実施した.次の段階は発振器性能に本質的な超高安定基準発振器の開発である.
Ⅱ-2-k-33
MEMS-水晶ハイブリッド発振器の開発
准教授
戸田知朗
助
教
三田
信
高安定から中程度安定までの発振器(-7 乗~-10 乗桁の安定度)は近地球ミッションに十分な発振器である.従
来,水晶発振器で必要な安定度を確保するためには恒温槽を必要とし,寸法・重量の増加および消費電力の増大を
招いてきた.水晶材料は成熟した技術で依然として短期安定に優れて代わる材料が見つからないが,近年,MEMS
発振器は耐環境性に優れ長期安定度には水晶材料に優れる結果も報告されている.振動や衝撃にも強く,水晶材料
が苦手としてきた方面を上手く補う特性が期待される.そこで,MEMS 発振器と水晶発振器のそれぞれ優れる特
Ⅱ.研究活動
177
性を合成して両者の長所を採用できるハイブリッド発振器を開発する.MEMS 発振器は小型・低消費電力で,その
採用によって従来発振器が備える恒温槽を排除できれば発振器の小型・軽量化に繋がる.また,耐振動・衝撃性も従
来より優れる発振器となり得る.
Ⅱ-2-k-34
宇宙機コンポーネント間無線通信技術
准教授
戸田知朗
助
冨木淳史
教
客員教授
小林岳彦
宇宙機コンポーネントを結ぶ計装線を電源線を除きワイヤレス化できたとすると計装線の排除によって宇宙機重
量の軽量化に大きく資する.コンポーネント配置の自由度も増す.但し,宇宙機外部は自由空間に接するが,宇宙
機構体内部は金属壁の囲われた特殊な伝搬環境となり,従来の短距離無線通信の規格をただ当てはめるだけでは機
能しない.自明なこととして任意の構体内環境(コンポーネント配置や構造物設置による変化)で通信のデッドス
ポ ッ ト を 生 じ さ せ な い た め に 周 波 数 ダ イ バ ー シ テ ィ を 取 る 必 要 が あ る . そ の 点 で 超 広 帯 域 ( Ultra Wide
Band,UWB)通信は構体内通信に適用しやすい性質を備えている.通信設計の基礎データとして UWB 信号の構体
内伝搬特性を調査している.極端なマルチパス環境となることから独自の通信設計技術も必要になる.「れいめ
い」の機械環境試験モデルや特殊な宇宙機構体内環境に見立てた電波シールドボックスを用いて伝搬特性の解明を
急いでいる.
Ⅱ-2-k-35
マイクロ波リモートセンシングにおける統計的データ解析に関する研究
助
教
福田盛介
地球観測や惑星探査に用いるマイクロ波帯の能動センサである合成開口レーダ(SAR)により得られる画像は,
昨今の高分解能化に伴い,その統計が非ガウシアン的な性質を呈する傾向が強まっている.情報(テクスチャ)と
雑音(スペックル)が乗法的に重畳した空間的な揺らぎの統計的ふるまいを理解することは,種々の SAR リモー
トセンシングのアプリケーションにおいて重要である.このような観点から,非ガウシアンモデル(K 分布など)
を基に,ターゲット構造の理解や物理量抽出アルゴリズムに関する研究を継続して行っている.
Ⅱ-2-k-36
レーダポーラリメトリの研究
助
教
福田盛介
SAR リモートセンシングにおいて,送受信に複数の偏波を使用するポーラリメトリック観測は,各偏波チャネ
ルの位相差や,散乱行列から導出される諸行列の固有値解析,また素過程モデルの重ね合わせなどにより,撮像対
象の散乱プロセスを明らかにすることができ,ターゲット分類などへの応用に繋がる強力な技術である.特に,テ
クスチャによる受信強度の揺らぎの偏波依存性に興味があり,過去に PI として参加した航空機 SAR の多偏波画像
を用い,撮像エリアのフィールドワークで得たグランドトゥルースデータと突き合わせつつ,モデルの構築や検証
を進めている.
Ⅱ-2-k-37
将来の惑星探査機搭載 SAR のための機上画像生成処理の研究
助
教
福田盛介
開発員
坂井智彦
将来の惑星 SAR ミッションの実現には,広帯域通信を前提として地上で画像合成を行う地球観測用の従来シス
テムとは一線を画した,斬新なブレークスルーが求められる.本研究では,近年の宇宙用電子部品の飛躍的な性能
向上を背景に,探査機上における SAR 画像生成処理の検討を行っている.具体的には,惑星ミッションに適した
合成開口処理や,軌道パラメータの推定誤差を吸収し得る機上処理に適したオートフォーカスアルゴリズムの研究
を行うとともに,ハードウェアリソースの見積もりを実施している.
178
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-k-38
月惑星着陸誘導用レーダの対表面水平速度測定に関する研究
助
福田盛介
教
准教授
水野貴秀
開発員
坂井智彦
特別研究員
岸本健児
開発中の月惑星着陸誘導用電波高度速度計(着陸レーダ)において,水平速度測定の信号処理方式に関する研究
を行っている.これまでに提案した「複数サンプル方式」と「中心方向推定方式」のバイアス/ランダム誤差の要
因検討や,地形の影響の考察など,両者のトレードオフスタディを実施するとともに,これらをハイブリッド的に
併用するアルゴリズムについて,過去にヘリコプタ試験(レーダの BBM を搭載)により取得したデータを用いて
実証的に研究した.
Ⅱ-2-k-39
小型月着陸機の航法誘導に用いる画像処理に関する研究
助
小林大輔
教
助
教
福田盛介
准教授
澤井秀次郎
准教授
水野貴秀
小型衛星として提案している小型月実験機では,分散誤差 100 メートル程度の高精度着陸の技術実証をねらって
おり,地形照合や障害物検知に用いる画像処理の研究を行っている.今年度は,S/W-H/W 協調設計ツールをベー
スとしたアルゴリズム検証プロセスについて検討した.
Ⅱ-2-k-40
ハードディスクの宇宙機搭載に関する検討
助
教
研開本部
福田盛介
准教授
高島
高田
開発員
坂井智彦
昇
健
研開本部
教
授
関
妙子
齋藤宏文
重量リソースが厳しく,かつ大量なデータを発生するミッションにおいて,ハードディスクドライブ(HDD)
を用いたデータレコーダの軽量化・大容量化が期待されており,衛星搭載化に向けたフィージビリティスタディを
続けている.今年度は,前年度に試作した気密容器(車載用 HDD を収納した EM 相当品)の気密性・耐振動の向
上に関し,実験やシミュレーションを実施した.
Ⅱ-2-k-41
小型衛星のための標準バス技術/アーキテクチャに関する研究
助
教
福田盛介
准教授
坂井真一郎
准教授
教
授
澤井秀次郎
齋藤宏文
小型衛星の低コスト・短期開発を支え,かつ多様なミッション要求に柔軟に対応し得る標準バス技術の研究を行
っている.モジュール化やプロダクトプラットホームなどのシステムアーキテクチャを検討するとともに,次世代
小型標準バス技術 WG のメンバと協力し,試験性・ハンドリング性を含めたユーザビリティの一層の向上に資す
るサブシステム技術について,研究を実施している(例:標準ネットワークをベースとしたバス試験系の効率化・
高機能化など).これらの研究成果は,小型科学衛星シリーズなどに実践的に投入される予定である.
Ⅱ-2-k-42
臼田 64m,内之浦 34m の VLBI システムの研究
准教授
加藤隆二
准教授
吉川
真
准教授
村田泰宏
助
竹内
央
研究員
望月奈々子
教
深宇宙探査機の軌道決定精度を向上する方法として,従来の RARR に加え,ΔVLBI の方法が有効である.その
ためには,臼田 64m,内之浦 34m の局位置を正確に求める測地 VLBI 実験を行う必要がある.昨年度に引き続き,
今年度も,臼田 64m,内之浦 34m ともに 1 回,測地 VLBI 実験を行った.臼田 64m については 3mm の精度で局位
Ⅱ.研究活動
179
置が決定できた.(内之浦 34m は解析中).
Ⅱ-2-k-43
太陽電池パドルと周辺プラズマとの相互作用及び太陽電池パドルの表面電位制御に関する研究
准教授
田中孝治
教
授
佐々木進
大電力宇宙機のための高電圧太陽電池パドル開発の基礎研究として,高電圧太陽電池パドル表面の放電を起こし
にくい電位分布形成と衛星電位が周辺環境から受ける影響を解明するための基礎実験を行った.
Ⅱ-2-k-44
EDT に関する研究
田中孝治
准教授
授
佐々木進
大学院学生
住野
静岡大学教授
山極芳樹
首都大教授
小島広久
教
諒
Electro Dynamic Tether(EDT)の基礎実験として,導電性ベアーテザーを用いたプラズマ収集実験を行った.ま
た,テザーを用いたプラズマ収集実験のための観測ロケット搭載機器の開発を行った.
Ⅱ-2-k-45
観測ロケット搭載用 GPS の開発
田中孝治
准教授
授
齋藤宏文
開発員
坂井智彦
大学院学生
三吉祟大
客員准教授
海老沼拓史
教
観測ロケットに搭載のために,オープンソースの GPS 受信機を用い,ロケットスピンに対応するために RF 合
成システムを採用した GPS 受信システムの開発を行った.
Ⅱ-2-k-46
月・惑星探査のための遠隔 SIMS に関する研究
准教授
田中孝治
教
授
佐々木進
氷が存在すると考えられる月の永久影の領域の探査として,イオンビームやレーザービームを用いた遠隔 SIMS
の基礎研究を行っている.月面探査のミッション検討を行った.
Ⅱ-2-k-47
水サイクルシステムを用いた宇宙機電源システムの研究
准教授
田中孝治
教
授
佐々木進
共同研究員
石井忠司
助
豊田裕之
開発員
鵜野将年
開発員
嶋田貴信
東京農工大教授
都木恭一郎
教
人工衛星や惑星探査機,宇宙基地における太陽光と水を利用した宇宙エネルギーシステムとして,水の電気分解
と燃料電池を組み合わせたシステムの基礎研究を実施した.技術実証ミッションを検討し,蓄電,発電,推進系か
らなるシステムの構成を検討した.燃料電池に関しては微少重力環境用の外部拡散相を用いた評価セルの試作を行
い,動作特性の取得を行った.水電解システムに関しては評価用セルを使用し,先端的電解膜を用いた場合の動作
特性の取得を行った.ガス貯蔵,循環システムに関しては微小重力環境に対応するための新しいコンセプトに基づ
き,除湿,加湿装置の試作を開始した.特に,ガス貯蔵に関しては,水電解セルで 6 気圧以上の加圧が可能である
ことを確認した.
180
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-k-48
Delta-DOR 国際規格の作成
助
教
統合追跡ネットワーク技術部
竹内
央
成田兼章
NASA/JPL
James Border
吉川
准教授
ESA/ESOC
真
Roberto Madde
准教授
加藤隆二
ΔVLBI の原理に基づき深宇宙探査機の軌道決定精度を向上させる技術である Delta-DOR(Delta Differential Oneway Range)の,国際的な相互運用性を確立するために,宇宙データシステム諮問委員会(CCSDS)にて国際標準
規格・推奨規格の作成を行っている.JPL,ESA,JAXA の間で受信データを交換するための translator を開発し相
互運用体制を整えた.JAXA 臼田局,JPL/DSN の Goldstone 及び Canberra 局,ESA の New norcia 局の,異なる宇宙
三機関の計 4 局を用いて「はやぶさ」探査機の Delta-DOR 実証観測を実施し,Delta-DOR 計測を行う事に成功し
た.
Ⅱ-2-k-49
Delta-DOR・VLBI データ取得のための広帯域 A/D サンプリングに関する研究
助
竹内
教
央
NICT
小山泰弘
VLBI 受信データの国際標準規格(VSI-H)に対応した VLBI サンプラとしては世界最高速となる,最大 8Gbps
(2Gsps×2bit×2ch)の出力レートを持つ A/D サンプラを開発している.サンプラに搭載された FPGA にプログラ
ミングする事により,Ka 帯及び X 帯の Delta-DOR 国際標準規格に対応したマルチトーン信号を取得する事が可能
になる.サンプリングされる広帯域信号を直接記録する事により,電波天文 VLBI において微弱天体の高感度撮像
観測に使用することも可能になる.CCSDS の Delta-DOR データフォーマットの標準規格の詳細は現在策定が進行
中であり,詳細仕様が決まり次第,A/D サンプラの FPGA プログラムに反映させて実証試験を行う予定である.
l.宇宙科学情報解析研究系
Ⅱ-2-l-1
衛星と地上望遠鏡を用いた銀河面からの X 線放射およびその起源天体の研究
教
授
海老澤研
助
教
辻本匡弘
天の川銀河面から強い硬 X 線放射が放出されていることは 20 年以上前から知られていたが,それが拡散プラズ
マによるものなのか,多くの暗い点源の重ねあわせによるものなのか,未だ決着がついていない.我々は Chandra
衛星を用いて銀河面の深 X 線観測を行い,多くの新しい X 線源を発見したが,これらの天体について「すばる」
望遠鏡を用いて近赤外線分光観測も行い,その起源を調べた.また「すざく」衛星を使って銀河面の高分解能スペ
クトル観測を行い,鉄輝線構造を詳細に調べた.さらに,銀河面放射の起源天体の有力な候補である磁場の強い白
色矮星連星系について,「すざく」衛星を使ってその性質を調べている.
Ⅱ-2-l-2
科学データの音声化
客員准教授
准教授
宇野伸一郎
篠原
育
授
海老澤研
助
教
田村隆幸
宇宙航空プロジェクト研究員
宮下幸長
助
教
三浦
教
准教授
昭
松崎恵一
日本福祉大学宇野研究室と共同で,科学データ音声化プロジェクトを実行している.これは,科学データを音声
化し教材とするだけでなく,視覚障害者と共に科学データを理解する方法を模索するプロジェクトである.
今年度は,X 線天文学の分野で広く使われている,QDP と呼ばれるプロットツールと音声化プログラムを融合
させた.これにより,QDP によってグラフ表示される任意の数値データを,音声として聞くことができるように
なった.
Ⅱ.研究活動
181
Ⅱ-2-l-3
宇宙空間での非熱的プラズマ加速の研究
准教授
篠原
育
関
大学院学生
教
授
克隆
大学院学生
藤本正樹
技術参与
湯村
翼
向井利典
「GEOTAIL」衛星のデータの解析作業や数値シミュレーション,理論計算を通して,宇宙空間プラズマ現象を支
配するプラズマ素過程・物質輸送過程・エネルギー変換過程について研究を行っている.特に,衝撃波での粒子加
速による非熱的粒子の生成プロセスに注目している.最近注目されている電子慣性長からイオン慣性長での微視的
プラズマ過程に伴う大振幅電場と電子加速の関連について,その非線形性や複雑性に着目した研究を進めている.
Ⅱ-2-l-4
磁気リコネクションにおける電子-イオンスケール間結合の研究
准教授
篠原
育
研究員
田中健太郎
教
授
藤本正樹
磁気リコネクションは宇宙プラズマでの重要なプラズマ加熱・加速過程であるが,その詳細な物理機構は未だに
解明されていない.それは,無衝突プラズマにおける散逸スケール(電子運動のスケール)と大規模構造(イオン
運動のスケール以上)の間に大きな隔たりがあるということが大きな理由であるが,これらは本質的に独立には取
り扱えない.電子とイオンのダイナミクスを結合させる物理機構の存在に着目し,プラズマの粒子シミュレーショ
ン計算によって磁気リコネクションにおける散逸の素過程に関する研究を進めている.大規模なプラズマ粒子シミ
ュレーション計算により,イオンの運動スケールの厚さを持つ電流層中での非常に速い磁気リコネクションの発展
を可能とする物理過程が明らかになりつつある.
Ⅱ-2-l-5
搭載系ソフトウェアの自動生成の研究
准教授
松崎恵一
衛星搭載機器の開発において,設計した内容と実装した結果が一致することが必須である.従来の開発では,設
計に基づき手作業のプログラミングが行われることが多く,設計と実装の間の一致の確認作業に時間を要していた.
そこで,我々は,衛星の設計情報の記述(SIB)に基づき,搭載ソフトウェアのソースコードの一部を自動生成す
る枠組みの開発を進めている.本年度は,この枠組みで作られるソースコードが衛星の搭載品質を実現するように,
生成ソースコードの信頼性の向上を実施した.静的ソースコード解析と C1 レベルのカバレッジの試験を組み合わ
せることで,昨今の標準的なレベルの信頼性を確保したソースコードが,自動生成の枠組みにおいても生成可能な
ことを実証した.
Ⅱ-2-l-6
宇宙科学データベースの構築方法の研究
准教授
松崎恵一
教
田村隆幸
准教授
篠原
国立天文台
下条圭美
教
海老澤研
助
授
育
我々は,宇宙科学データベースをいかに構築すれば,効率よく,利便性の高いデータベースが構築できるかの研
究を行っている.これまでに,その検討結果は「Web データベース開発ガイドライン」としてまとめられている.
本年度は,このガイドラインに従って,天文学・太陽物理学・太陽地球系科学のデータベースのウェブインタフェ
ースの構築と改良を実践することで,ガイドラインの妥当性を検証した.また,これらの構築に用いているミドル
ウェア(Tsunagi)の機能を見直し,より簡便にウェブアプリを構築可能なように Tsunagi Basic Edition として,再
整備した.この再整備では,特に,従来のものに比べて,表示部分のエンジンとパラメータ授受の機能が強化した.
182
Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-l-7
X 線観測による銀河・銀河団の研究
助
教
田村隆幸
教
授
満田和久
主に「すざく」衛星を用いて,銀河および銀河団プラズマの研究を行った.X 線で明るい銀河団では,暗黒物質
による重力ポテンシャルに X 線を放射するプラズマと銀河が閉じ込められている.したがって,プラズマの性質
を調べることで,銀河団の進化過程を探り,暗黒物質の役割に制限を加えることができる.「すざく」衛星は,銀
河団プラズマを X 線分光するのに優れた性能を有している.X 線分光によって,プラズマの温度や重元素量の分
布を測定している.今年度は,特に Perseus 銀河団のデータ解析をおこなっている.この銀河団は,全天 でもっ
とも明るい天体であり,過去にない精度で,X 線分光が実現できる.加えて,A85 銀河団についても解析を行い,
銀河団衝突の考察をおこなっている.
Ⅱ-2-l-8
サブストーム開始に伴う磁気圏尾部の発展の研究
宇宙航空プロジェクト研究員
宮下幸長
京大・理
大学院学生
斉藤実穂
京大・生存圏
教
藤本正樹
准教授
授
町田
忍
名大・STE 研
家田章正
上出洋介
京大・理
能勢正仁
篠原
技術参与
向井利典
准教授
齋藤義文
育
サブストームの発生機構を解明するために,サブストーム開始に伴う磁気圏近尾部の発展について調べた.本年
度は,特にプラズマシートにおける磁場双極子化に伴う圧力変化に着目し,Geotail 衛星のデータを用いた統計解
析と事例解析を行った.その結果,これまでに言われていた結果と違い,イオン圧力は,磁場双極子化が最初に起
こる領域では,磁場双極子化に伴い増加することがわかった.この結果をもとに,サブストーム発生に重要な磁気
リコネクションと磁場双極子化の因果関係について考察した.
m.大気球研究系
Ⅱ-2-m-1
超伝導スペクトロメータを用いた宇宙線の観測
高エネルギー加速器研究機構
山本
明
高エネルギー加速器研究機構
高エネルギー加速器研究機構
吉村浩司
名誉教授
教
授
NASA ゴダード飛行センター
吉田哲也
J.W. Mitchell
野崎光明
西村
純
教
福家英之
メリーランド大学
E.S. Seo
デンバー大学
J.F. Ormes
助
反陽子などの宇宙線の精密観測を通じて初期宇宙における素粒子現象を探求すべく米国と共同で気球実験を進め
ている.今年度は,2004 年 12 月と 2007 年 12 月に南極上空の気球飛翔(それぞれ 8.5 日間と 29.5 日間)によっ
て得られた宇宙線事象データの解析を実施した.2007 年の実験における観測器の改良による性能向上が,データ
解析により確認された.今後,より詳細なデータ解析を進める予定である.
Ⅱ.研究活動
183
Ⅱ-2-m-2
エキゾチック原子を用いた宇宙線反粒子の研究
助
教
福家英之
教
授
コロンビア大学
コロンビア大学
C.J. Hailey
嗣夫
ローレンスリバモア国立研
W.W. Craig
R.A. Ong
カルフォルニア大学バークレー校
S.E. Boggs
吉田哲也
荒牧
カルフォルニア大学ロサンゼルス校
宇宙線中に極僅かに存在している可能性がある反重陽子などの反物質成分の高感度探索を通じて宇宙の暗黒物質
などに関する知見を獲得すべく,米国と共同で気球実験の準備を進めている.本年度は,エキゾチック原子を用い
た新しい検出器原理の基礎的な検討を行った.今後,測定器の詳細設計を進める予定である.
Ⅱ-2-m-3
ECC による高エネルギー宇宙線電子観測
正
研究員
研究補助員
太田茂雄
名誉教授
准教授
斎藤芳隆
青学大
名大
小林
星野
香
河田二朗
研究員
野中直樹
西村
純
教
授
吉田哲也
教
福家英之
名
大
丹羽公雄
宇都宮大
佐藤禎宏
宇都宮大
大森理恵
助
宇宙線源や銀河内伝播のメカニズムを調べるために,10GeV-1TeV 領域の宇宙線電子のエネルギースペクトル観
測を原子核乾板とX線フィルム,鉛板で構成された ECC(Emulsion Cloud Chamber)を用いた気球実験で継続的に
行っている.本年度は 2004 年に行った気球実験の原子核乾板飛跡自動読取装置による解析を継続すると共に,原
子核乾板およびX線フィルムの解析システムの新規開発を行い,2001 年の気球実験の再解析を開始した.
Ⅱ-2-m-4
気球搭載型天体追尾システムの開発
准教授
斎藤芳隆
研究員
野中直樹
山形大理
石川優詩
教
山田和彦
山形大理
郡司修一
助
重量数百 kg,大きさ 1.5m 角程度の観測装置を,0.1 度の精度で天体に指向させ日周運動を追尾させる PC/104
規格のモジュールを用いた姿勢制御装置の開発を進めた.本年度は,微小な制御を実現する際に問題となっていた
より戻しモーターの不感帯を抑圧するため,モーターの回転を検知し,モータードライバーを組み込む改良を行な
った.来年度,PHENEX 実験に搭載し,気球環境での動作を実証し,その後萌芽的な実験のサポートの一環とす
る予定である.
Ⅱ-2-m-5
CALET による高エネルギー宇宙線電子およびガンマ線観測
早稲田大
鳥居祥二
神奈川大
田村忠久
芝浦工大
吉田健二
横浜国大
片寄祐作
立教大
村上浩之
准教授
斎藤芳隆
助
福家英之
教
CALET プロジェクトでは,宇宙線観測装置を国際宇宙ステーションに搭載して,宇宙線中の電子,ガンマ線な
どの高エネルギー成分を測定し,宇宙線の加速・伝播や宇宙の形成についての知見を得ることを目指している.
2006 年度に気球実験を実施した際のプロトタイプ検出器に改良を加えた測定器を開発して 2009 年度に気球飛翔を
実施すべく,準備を進めている.
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Ⅱ.研究活動
Ⅱ-2-m-6
サブMeVガンマ線検出器 SMILE による気球を用いたガンマ線観測
京
大
谷森
達
京
大
窪
秀利
京
大
身内賢太朗
京
大
株木重人
京
大
西村広展
京
大
服部香里
京
大
上野一樹
京
大
黒澤俊介
京
大
岩城
京
大
井田知宏
京
大
高橋慶在
宇宙航空プロジェクト研究員
智
高田淳史
2 度目となる次回の気球実験でのカニ星雲から到来するガンマ線の観測を目指し,2006 年 9 月の実験では
10x10x15cm3 と小型であった検出器を 30x30x30cm3 と大型化し,放射線源を用いた実験室でのガンマ線観測に成功
した.また,大型化にともない読み出し回路の数が増加するため消費電力の大幅な増加が予想されるが,一部につ
いては回路を改良し検出器としての性能を落さず省電力化することに成功した.2006 年気球実験の実験結果につ
いては,これまでとは別の大気放射線モデルを用いて上空での放射線環境を改めてシミュレーションし,実験結果
が放射線環境モデルに大きく依存していないことを確認した.
Ⅱ-2-m-7
俵型スーパープレッシャー気球の開発
准教授
斎藤芳隆
教
井筒直樹
助
教
山田和彦
招聘研究員
秋田大輔
東海大
中篠教一
助
スーパープレッシャー気球の赤道部を同じ断面形状を保ったまま延長し,長手方向には張力の発生しないシリン
ダー形状とした俵型スーパープレッシャー気球の開発を進めている.この形状(特許申請中)は,通常のスーパー
プレッシャー気球と比較すると同一容積で気球重量の小さい解が存在することが知られ,また,シリンダー部を延
長することによって気球容積を変更できるため,新規の容積の気球設計が容易である.これまでに複数のスケール
モデルを試作し,地上での膨張試験による形状の評価,設計の検証を行なってきた.本年度は,これまでの結果を
踏まえ,飛翔試験を目的とした直径約 20m の俵型スーパープレッシャー気球を製作した.