鋼桁橋における床版連結工法の適用(原田)

鋼桁橋における床版連結工法の適用
振動問題:交通振動対策としての単純桁の連結によるノージョイントのうち,床版を連結する鋼桁橋床版連結工法の
適用上の問題点について検討を行った.
1.
はじめに
斜橋,曲線橋など適用範囲が広いが,路面からの施工が
主体となるため,主桁連結工法や横桁連結工法より,交
橋梁の振動・騒音の低減工法として最も実績が多く,
通規制の時間が長くなる欠点がある.また,連結部床版
効果が期待できる工法が上部構造対策である.その上部
の耐力上,主桁連結工法より適用できる橋梁の支間長が
構造対策の中でも,単純桁の連結によるノージョイント
短い傾向にある.
化がよく実施されており,埋設ジョイント工法,主桁連
結工法,床版連結工法,横桁連結工法の 4 工法に大きく
3.
床版連結工法
分類される.埋設ジョイント工法は,舗装のみで路面を
連続化する工法で,採用の適否に対する上部構造や下部
主桁連結工法は,連結する橋梁同士の主桁中心線が一
構造における構造的な問題がないが,耐久性の問題があ
致しなければならないなど適用範囲が狭いことから,主
る.他の 3 工法は連結型ノージョイント工法とも呼ばれ,
桁連結工法が適用できない条件の鋼桁橋での連結型ノー
埋設ジョイントと比べ耐久性に優れるが,上部構造の構
ジョイント工法の適用を目指して,実績のある床版連結
造性によって適用が制限される.ライフサイクルコスト
工法の検討を行った.
では耐久性に優れる連結型ノージョイント工法が安価と
なることから,構造的に可能な場合には連結型ノージョ
イント工法の適用が優先される.
連結板
鋼橋における連結型ノージョイント工法としては,主
桁連結工法の事例が多いが,主桁中心線が一致し,直線
区間であるなどの制約条件が厳しく,適用範囲が狭いと
いう問題がある.そこで,鋼橋における連結型ノージョ
イント工法の適用範囲の拡大を目的に,床版連結工法の
検討を行った.
2.
弾性支承
(a) 主桁連結工法
鋼桁橋での連結型ノージョイント工法
RC端横桁
鋼桁橋を対象とした場合,図-1 に示すような工法が考
えられる.
PC鋼棒
主桁連結工法は,隣接する主桁同士をモーメントプレ
ート,シアプレートで連結する構造で,鋼桁橋での実績
スタッドジベル
のほとんどがこの工法である.主桁中心線が一致してい
る場合にのみ適用可能であり,主桁本数が不一致や桁高
弾性支承
差が大きい場合などは適用ができない工法である.
(b) 横桁連結工法
横桁連結工法は,端横桁を鉄筋コンクリートで巻立て,
床版はつり幅
2000
PC 鋼材で連結する構造で,PC 橋での実績はあるが,鋼
桁橋ではほとんどない.鋼桁橋での適用においては隣接
する横桁同士あるいは横桁と主桁の結合方法など解明し
なければならない構造的な課題があるが,主桁中心線の
弾性支承
不一致,斜橋,曲線橋など適用範囲が広い工法となると
考えられる.
床版連結工法は,隣接する床版をはつり,鉄筋同士を
ダンパー
重ね継手あるいは溶接継手で継ぎ,コンクリートを打設
(c) 床版連結工法
して一体化する工法である.鋼桁橋,PC 橋ともに施工実
績があり,横桁連結工法と同様,主桁中心線の不一致,
図-1
鋼桁橋の連結型ノージョイント工法
3.1
連結部床版の設計方法
L荷重による断面力は,以下の強制変位を受ける両端
床版の連結部は,図-2 に示すような構造となっており,
固定梁と仮定し,断面力が算出される.
隣接する主桁の上フランジ同士を継ぐ連結板,変形性能
① 桁端回転による強制回転変形
向上を目的とした床版支間の延長化のための分離層とし
② 桁端回転に伴うキックアップによる強制鉛直変位
ての発泡スチロールあるいはゴム板,鉄筋コンクリート
(上向き)
の連結部床版から構成させる.その連結部床版の設計は,
T 荷重と L 荷重とその組み合わせの荷重ケースに対して
③ 支点反力による弾性支承の強制鉛直変位(下向き)
活荷重は,図-4 に示す片側の径間だけに満載した場合
照査される.
と両側の桁に満載した場合を想定するものとしている.
T 荷重による断面力は,図-3 に示すように連結部床版
片側の径間だけに活荷重が満載した場合には,弾性支承
の中央に 10tf の輪荷重を載荷して算出される.その値は,
による桁の鉛直変位の影響を大きく受けるが,両側の桁
着目する部位とその方向によって,表-1 の式によって求
に活荷重を満載した場合には弾性支承による桁の鉛直変
められる.
位の影響を受けないことになる.したがって,連結部床
版の設計断面力は,片側の径間に活荷重を満載した場合
切削範囲
と,両側の径間に活荷重を満載した場合のどちらか大き
い値を用いることになる.
表-1
T 荷重による設計曲げモーメント(kgf・m/m)
橋軸方向
橋軸直角方向
連結部床版中央
+(0.22L+0.08)P×80%
+(0.06L+0.06)P
連結部床版端部
-(0.22L+0.08)P×80%
―
連結部床版支間
P=10,000kgf
連結部床版
主桁
発泡スチロール
鋼板
床版支間 L
連結板
図-2
(a)
連結部の構造
図-3
片側桁載荷
T 荷重の載荷
(b)
図-4
L荷重の載荷
1)
両側桁載荷
3.2
各種要因による影響
(1)支承の鉛直バネの影響
鋼桁橋においては,連結する桁の支間長が長くなると
弾性支承の鉛直バネの影響として,鉛直バネと鉄筋と
連結部床版の断面力が大きくなり,床版厚や鉄筋配置の
コンクリートの応力度の関係を図-6 に示す.これは,連
制約上,床版連結工法の適用が困難となる傾向にある.
結部床版の支間長 66cm,支承位置から連結部床版までの
そこで,連結部床版に作用する断面力がどのような要因
距離 2cm,連結部床版厚 20.8cm,鉄筋 D22ctc10cm(上
により影響を受けるか検討を行った.その要因として,
下),桁端の回転角 1/429(格子解析結果)の条件で算出
弾性支承の鉛直バネ,連結部床版の支間長と床版厚,桁
したものである.
端の回転角に着目した.検討対象とした橋梁は,図-5 に
弾性支承の鉛直バネによって,L 荷重両側桁載荷時や
示すような径間長 35m の鋼単純合成 I 桁橋である.床版
T 荷重載荷時の応力度は変化せず,L 荷重片側桁載荷時
厚 21cm,ハンチ 6cm で,それから主桁上フランジ厚,
の応力度が変化する.L 荷重片側桁載荷時には,バネ定
フィラープレート,添接板,分離層を差し引くと連結部
数が 40∼70tft/mm をボトムに増加する傾向にある.今回
床版の最大床版厚は 20.8cm となる.
の条件では,L 荷重両側桁載荷時と L 荷重と T 荷重の組
着目した応力度は,次の 5 ケースとし,その許容値を
み合わせ時の応力度が,どのようなバネ定数を採用して
も許容値を満足することはできないが,全体的にはバネ
表-2 に示す.
① L 荷重片側桁載荷時の非載荷桁側連結部床版端部
定数 40∼70tft/mm 程度が応力度を低減するには最適値と
考えられる.
の応力度
② L 荷重片側桁載荷時の載荷桁側連結部床版端部の
応力度
(2)連結床版の支間長の影響
③ L 荷重両側桁載荷時の連結部床版端部の応力度
50tf/mm,連結部床版厚 20.8cm,鉄筋 D22ctc10cm(上下),
④ T 荷重載荷時の連結部床版端部の応力度
⑤ ④+max(①,②,③)の連結部床版端部の応力度
表-2
鉄筋
35m
35m
2
連結部床版の許容応力度(kgf/cm )
T 荷重④
コンクリート
連結部床版の支間長の影響として,支承の鉛直バネ
L 荷重①②③
σ ck/3.5 かつ 100 以下
1200
T+L 荷重⑤
左記の 40%増し
1800( ひ び 割 れ
L 荷重に対する
を許容)
左記の 20%増し
図-6
支承の鉛直バネの影響
図-5
検討対象橋梁
35m
桁端の回転角 1/429(格子解析結果)の条件で算出した,
力度としては,L 荷重と T 荷重の組み合わせ時が支配的
連結部床版の支間長と鉄筋とコンクリートの応力度の関
となっており,コンクリートの応力度が床版厚による影
係を図-7 に示す.
響が小さいこともあり,今回の条件ではその床版厚に対
T 荷重載荷時の応力度は支間長と増加により漸増する
しても許容値を満足しない結果となっている.ただし,
が,L 荷重両側桁載荷時は漸減する傾向にある.L 荷重
鉄筋応力度においては,21cm 程度以下であれば許容値を
片側桁載荷時においては,載荷桁側の連結部床版端部応
どのケースにおいても満足する結果となっており,今回
力度が非載荷桁側の連結部床版端部応力度より常に大き
の検討ケースでの最大床版厚である 20.8cm が今回の条
く,連結部床版の支間長によって大きく変化しない傾向
件の中では最適と考えられる.
にある.応力度としては,L 荷重と T 荷重の組み合わせ
時が支配的であり,支間長 100mm までは支間長の増加
(4)桁端の回転角の影響
とともに応力度が減少するが,それ以上の支間長では応
主桁の桁端回転角の影響として,支承の鉛直バネ
力度の変化はほとんど認められない.また,今回の条件
50tf/mm,連結部床版の床版厚 20.8cm,支間長 100cm,
ではどの支間長においても許容値を満足しない結果とな
鉄筋 D22ctc10cm(上下)の条件で算出した,桁端の回転
っている.これらのことから,連結部床版の支間長は,
角と鉄筋とコンクリートの応力度の関係を図-9 に示す.
100mm 程度が今回の条件では最適値と考えられる.
T 荷重載荷時の応力度は,桁端の回転角の影響を受け
ないため,一定の値を示している.L 荷重片側桁載荷時
の非載荷桁側では桁端の回転角の増加に伴って,鉄筋と
(3)連結床版の床版厚の影響
連結部床版の床版厚の影響として,支承の鉛直バネ
コンクリートの応力度は減少する傾向にあるが,それ以
50tf/mm,連結部床版の支間長 100cm,鉄筋 D22ctc10cm
外のケースでは応力度は増加する傾向にある.今回の条
(上下),桁端の回転角 1/429(格子解析結果)の条件で
件では,L 荷重両側桁載荷時と L 荷重と T 荷重の組み合
算出した,連結部床版の床版厚と鉄筋とコンクリートの
わせ時のコンクリート応力度が支配的となっており,桁
応力度の関係を図-8 に示す.
端の回転角を 1/500 程度以下としなければ,許容値を満
T 荷重載荷時の応力度は支間長と増加によりわずかで
足しない結果となっている.
あるが,減少傾向が見られる.しかし,それ以外のケー
スでは,増加傾向にあり,L 荷重片側桁載荷時の連結桁
側と L 荷重両側桁載荷時での鉄筋応力度の増加傾向は大
きいが,その他のケースは著しく小さくなっている.応
図-7
連結部床版の支間長の影響
図-8
連結部床版の床版厚の影響
図-9
桁端の回転角の影響
4.
床版連結工法の実挙動
鋼桁橋への床版連結工法においては,その適用範囲の
拡大のためには,桁端の回転角の影響が大きく,回転角
を小さくすることが必要となる.桁端の回転角を低減さ
せる方法としては,主桁の曲げ剛性を向上させる方法と
活荷重を低減させる工法が考えられる.主桁の曲げ剛性
図-10
を向上させる方法としては,主桁の下フランジに補強材
計測対象橋梁 2)
を高力ボルトで接合あるいは主桁を増設するなどがある
表-3
が,多大な費用を要することから,ここでは実橋梁での
計測結果を参考に活荷重を低減させる方法を検討する.
支間中央の鉛直変位 2)
新495
新632
新709
連結前 連結後 連結前 連結後 連結前 連結後
支間中央の鉛直変位
(単位:mm)
都市内高速道路での鋼桁橋の床版連結工事での計測
結果として,計測の対象橋梁を図-10 に,支間中央の鉛
荷重車
計測時
直変位を表-3 に示す 2) .計測は,ダンプトラック(20tf)
1 台を荷重車として 60km/hで走行した場合と,24 時間の
一般車
走行時
一般車走行の場合について,床版連結化の前後で行われ
計測値
(A)
-2.85
-2.38
-2.55
-2.85
-1.04
-0.75
格子解析値
(B)
-4.12
-3.86
-2.52
-2.42
-1.89
-1.83
割合
(A/B)
69.2%
61.7%
101.2%
117.8%
55.0%
41.0%
計測値
(A)
-6.20
-5.40
-3.90
-4.70
-4.00
-2.10
格子解析値
(B)
-33.01
-25.31
-14.23
-11.30
-10.16
-7.75
割合
(A/B)
18.8%
21.3%
27.4%
41.6%
39.4%
27.1%
ている.格子解析は,連結部床版の設計断面力算出のた
めにB活荷重によって行われたものである.
荷重車走行時に着目した場合,表-3 では 3 箇所の床版
5.
まとめ
連結部の計測結果が示されているが,計測値では新 632
で 12%の増加,新 495 で 16%の減少,新 709 で 28%の
鋼桁橋における連結型ノージョイント工法の適用範
減少とばらつきが見られる.これは,荷重車の載荷位置
囲の拡大を目指して,床版連結工法を対象に,支承の鉛
や支承の水平移動拘束度のばらつきによるものと考えら
直バネや桁端の回転角などの影響について検討を行った.
れ,理論的には格子解析値に示されるように 5%程度の
本検討で得られた結果をまとめると以下の通りである.
低減が期待できる.また,計測値と格子解析値を比較し
(1) 支承の鉛直バネは,L 荷重片側桁載荷時の応力度に
た場合,一般的には実構造物では解析値の 80%以下の値
影響を与える.鉛直バネが大きくなると連結部床版
3)
となることが知られている が,新 632 を除いてその傾
の応力度が減少して増加することから,ボトムとな
向が確認できる.これは,格子解析でモデル化を行って
るバネ値を採用することが望ましい.
いない高欄,地覆,下横構などの部材の抵抗断面として
の寄与,支承の水平移動拘束などによるもので,連結部
床版の設計に使用する桁端の回転角にもこの影響を考慮
することは十分に可能である.
(2) 連結部床版は,支間長を大きく,床版厚を薄くする
と L 荷重載荷時の応力度が低下する傾向にある.
(3) 主桁の桁端の回転角が小さくなると連結部床版の応
力度が減少する.
一般車走行時に着目した場合,計測値が格子解析値に
(4) 回転角を低減する方法として,実構造物と構造解析
対して 40∼20%程度と大幅に小さな値となっている.こ
の違いを補正する構造解析係数と実交通を反映した
の要因としては,前述での構造解析のモデル化の影響と
設計活荷重の導入が考えられる.
設計活荷重と実交通の違いが考えられる.設計活荷重は,
車両走行が可能な幅員の全てに載荷しているのに対して,
参考資料
実交通では車線にしか車両が走行していないことと,大
1) (財)道路保全技術センター:既設橋梁のノージョ
型車混入率が設計で想定しているものと違っていること
が考えられる.これより,実交通を反映した設計活荷重
イント工法の設計施工手引き(案),1995.1.
2) 臼井恒夫,中村充,山藤和隆,才竹正志:床版連結
を用いることで桁端の回転角の低減は可能と考えられる.
化による構造物変化と発生応力,土木学会第 61 回年
また,床版連結を行う橋梁は,連結前の状態において,
次学術講演会講演概要集,6-020,2006.9
橋梁の安全性が担保されており,連結部床版の健全度が
橋梁全体の安全性に影響しないことから,橋梁の主要部
材とは違った要求性能(安全率)を設定することも考え
られる.
3) 日本道路協会:鋼道路橋の疲労設計指針,丸善,2002.