シェル型浸透固化処理工法

シェル型浸透固化処理工法
五洋建設株式会社
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技術研究所
係長
秋本
哲平
はじめに
阪神淡路大震災,東日本大震災の際にも発生した液状化による被害は,社会的・経済的な問題とし
て大きくクローズアップされており,港湾の岸壁や空港滑走路,コンビナートの既設タンクなどで液
状化対策が実施されつつある.浸透固化処理工法は,構造物を供用しながら液状化対策を可能とした
技術で,東日本大震災の際にも,仙台港,仙台空港の浸透固化処理工法で液状化対策を施工した個所
は,液状化による被害は無く,その効果は実証されている.しかしながら,浸透固化処理工法は,高
い液状化対策効果や曲がり削孔など適用範囲の広さが優れている特徴を有している一方,薬液単価が
高価であるという課題があった.
本報では,従来の浸透固化処理工法に比べて 20%のコスト低減が可能なシェル型浸透固化処理工法
について報告する.
2
シェル型浸透固化処理工法の概要
浸透固化処理工法は,液状化が予想さ
薬液
土粒子
浸透固化処理
れる砂質地盤に対して,溶液型の恒久薬
液を低圧力で浸透注入することにより
地盤を低強度固化し,液状化を防止する
地盤改良工法である.工法の概念を図-1
に示す.浸透固化処理工法は,低圧力で
間隙水
飽和した緩い砂層
図-1
間隙水を薬液で置換
浸透固化処理工法の概念
の注入により,土粒子骨格を乱すことなく,間隙水を薬液に置換することができる.そのため,施工
による周辺構造物への影響はほとんどなく,施設を供用しながら施工することができる.また,斜削
孔や曲がり削孔を利用することにより,構造物直下の液状化対策も可能である
1) .本工法は,既設岸
壁背面,空港滑走路および既設タンク直下等で適用されており,これまでに 200 件以上の施工実績を
有している.注入薬液は,恒久型薬液を使用しており,その耐久性確認も継続して実施している.
(1) 注入管配置
(2) 薬液注入(外殻)
図-2
(3) 海水注入
(4) 固化体完成
シェル型浸透固化処理工法の施工方法
「シェル型浸透固化処理工法」は,従来
の浸透固 化処 理工法 の 薬液改良 固化 体の外
側部分に強い外殻(シェル)をつくり,中心
部分に未処理部分を 30%残すことで薬液使
用量を減 らす 低コス ト 型薬液改 良工 法であ
る.施工方法を図-2 に示す.改良対象地盤に
従来工法 と同 じ浸透 固 化薬液を 注入 した後
に,薬液と比重の近い海水等の液体を注入す
ることにより,シェル型固化体を造成するこ
写真-1
掘削により確認されたシェル型改良体
とができる.実際に作製した固化体を写真-1
に示す.2007 年に石狩湾新港にて作製した固化体である.1 箇所あたり,942L の薬液を注入後,628L
の海水を注入した(総注入量:1,570L).掘削により確認したシェル型固化体は,直径 1.9m の改良
体となって地盤中に造成されていた.
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シェル型浸透固化処理工法の適用性確認実験
直径 1.9m の改良体を作製した地盤は,均等係数 Uc が 2.0 程度のかなり均質な地盤であったために,
きれいな球状のシェル型固化体が造成されたと考えられる.そこで,シェル型浸透固化処理工法の適
用性を確認するため,均等係数を変えた地盤への薬液注入を実施して,固化体形状の確認を行った.
実験断面を図-3 に示す.実験は,ペール缶(内径 280mm,高さ 320mm の円筒形容器)内に地盤を作製
して,改良体造成に必要な薬液注入量の 70%分の薬液を注入した後に 30%分の海水を注入した.実験
ケースを表-1 に示す.ケース 1∼3 はシェル型
注入管
モルタル
固化体を作製し,ケース 4 は通常の固化体を作
製した.模型地盤は,均等係数を 2.0,5.5,9.6
薬液
砕石
ドレーンパイプ
ドレーンパイプ
ル缶を解体し,改良形状を確認した.解体後の
不織布
改良形状を写真-2 に示す.全ケースできれいな
ペール缶
球状固化体が作製されており,均等係数 Uc が
改良体外殻部
理工法の適用が可能であることが確認できた.
未処理部
20
10 程度の地盤に対してもシェル型浸透固化処
260
2020
に調整した試料で作製した.注入 3 日後にペー
対象試料
砕石
280
図-3
表-1
ケース 1
Uc=2.0
ケース 2
Uc=5.5
写真-2
4
ケース 3
Uc=9.6
ケース 4
Uc=9.6
実験断面
実験ケース
実験ケース
ケース1
地盤材料
材料1:Uc=2.0
ケース2
ケース3
材料2:Uc=5.5
材料3:Uc=9.6
ケース4
材料3:Uc=9.6
実験結果
改良体
シェル型
シェル型
薬液注入割合
70%
70%
シェル型
70%
通常
100%
シェル型固化体の液状化対策効果に関する模型実験
遠心載荷模型実験装置を用いた実験により,シェル型固化体の液状化対策効果の確認を行った.実
験における初期地盤条件として相対密度 60%の水平地盤を選定した.相馬産の 5 号珪砂を用いて模型
地盤を作成した後,20G の遠心加速場条件の下で,層厚 0.25m の地盤模型に対して 300Gal の地震動
を与える実験を行った.
表-2
実験ケース
Case
地盤改良方法
1
未改良(相対密度 60%)
2
締固め(相対密度 90%)
3
浸透固化処理工法(70%部分改良)
4
シェル型浸透固化処理工法
70%部分改良体
シェル型改良体
実験ケースは,表-2 に示すように,Case1:地盤改良を行わないケース,Case2:相対密度を 90%
に締固めたケース,Case3:改良率 70%で部分改良を行うケース,Case4:シェル型浸透固化処理工
法の適用ケースの 4 ケースを選定した.
シェル型固化体の加速度応答,ひずみ特性,過剰間隙水圧特性を調査した結果,固化体内部の未改
良部分は液状化する可能性があるが,薬液固化体で形成されている外殻は液状化せずに,従来工法と
同じ改良強度を発揮するため,液状化した固化体内部の土は殻外に流出せず,改良対象地盤全体の変
形抑制性能は従来工法と同等の性能を発揮することが確認された.
また,各ケースにおける実験後の最大地表面沈下量を
表-3 に示す.部分改良のケースでは,未改良部分の液状
化により地表面沈下量が有意に発生するのに対し,シェ
ル型浸透固化のケースは,シェル型固化体が強い変形抑
表-3
実験後の最大沈下量
実験ケース
最大沈下量
1 (未改良)
0.12m
2 (締固め)
0.04m
3 (70%部分改良)
0.12m
4 (シェル型改良)
0.02m
制性能を発揮するため,地表面沈下がほとんど生じない
ことが確認された.
5
おわりに
提案するシェル型浸透固化処理工法は,従来工法と比較して,薬液の使用量を 30%程度抑えること
により,20%のコストダウンを実現でき,従来工法と同等の地盤の変形を抑制する性能を有すること
が確認された.また,固化体を球体とする必要があることから,均一な地盤しか適用することができ
ないと考えられていたが,均等係数 10 程度までは適用が可能であることがわかった.
本工法は,当社が保有している「曲がり削孔技術」及び 「長距離曲がり削孔技術」 との併用が可
能であるため,構造物直下地盤の対策が可能である.
港湾地域では公的施設はもとより,民間施設においても BCP の観点から液状化対策の需要は高ま
っている状況の中,本技術が提案できるものと考えられる.
1)浸透固化処理工法技術マニュアル(2010 版),沿岸技術開発センター,2010