追尾型太陽光発電システムに関する研究

追尾型太陽光発電システムに関する研究
BR11046 高橋 陽二郎
指導教員 松村 隆
1.研究の背景・目的
発されていることや、材料の単位当たりコストが安く使用量も少
地球温暖化による影響の顕在化が確認されるなか、再生可能エ
ないため太陽光発電コストを下げる可能性があるとされる 1)。この
ネルギーの利用拡大を進めることは極めて重要である。近年、国内
ため、本研究では、追尾型太陽光発電システムのうち集光追尾型太
外で導入された太陽光発電システムの種類をみると、スペイン、米
陽光発電システムを検討対象システムとすることとした。
国など海外では太陽の移動に対応して受光面を動かす追尾型太陽
表 1 追尾型システムと固定型システムの比較
光発電システムの導入が始まっているのに対し、わが国では試験
追尾型システム
方式
的な導入事例はあるものの限定的で、本格的な導入には至ってい
発電方法
ない状況にある。
国内ではなぜ追尾型太陽光発電システムが普及しないのだろう
か。わが国で導入可能とする技術ないし立地上の条件は何か。本研
メリット
究では、こうした問題意識の下、追尾型太陽光発電システムの導入
事例の収集調査と文献調査を行い、これまでの固定型システムと
の比較を通じて、追尾型太陽光発電システムの導入上の条件と課
デメリット
題解決について検討を行うことを目的とする。
通常型
集光型
・レンズ、鏡などによって光を
・モジュールが太陽光を直接
・モジュールが太陽光を直接
一点に集中させ、セルに当て
受け、発電する
受け、発電する
ることによって発電する
・固定型と同じモジュール枚
数でも固定型より高い発電
効率を持つ
・モジュールの量産性に富む
・少ないモジュール枚数で発
電を行うことが出来る。
・機械の駆動部が無いため
・必要とする半導体の量が少 保守が容易
なく、材料コストが安い
・無人化が可能
・太陽を追尾するモジュールを支えるため固定型よりも丈夫 ・モジュールの量産性に富む
な架台、支柱が必要
・駆動部があり、定期的なメンテナンスが必要
・装置を動かすため架台の設置が高コスト化
・設置実績の不足
・より天候に左右される
2.研究の流れ
4.ヒアリング調査
① 太陽光発電の事例調査及び現状把握
ヒアリング先:群馬県太田市役所
追尾型太陽光発電システムの国内における導入事例を対象と
導入システムの規模と種類:発電設備容量は16.8kWで集光追尾型
する現地でのヒアリング調査を行うとともに、既存文献やイン
システムを導入
ターネットでの技術情報の収集調査を補足的に行い、追尾型太
月日:2014年10月15日
陽光発電システムの基本性能、メリット、現状での課題等に関
結果の概要:群馬県太田市
する情報収集・分析を行う。
役所を訪問し、稼働中のシ
② 固定型及び追尾型太陽光発電システムの発電量試算
ステムの見学及びヒアリン
上記の結果を基に、国内における日射量データを用い、従来
グ調査を行った。同市は集
の固定型太陽光発電システム及び追尾型太陽光発電システムの
光追尾型太陽光発電システ
発電量をそれぞれ試算する。
ムを2013年に導入し、庁舎
③ 追尾型太陽光発電との比較
る(写真1及び写真2参照)
。
による発電量の比較を行い、追尾型太陽光発電システム導入上
市担当者へのヒアリング調
の課題と解決策について検討を行う。
査時の回答概要は次の通り
追尾型太陽光発電システムには、太陽光の受光方式の違いによ
写真 1 集光追尾型太陽光発電
敷地内駐車場で運用してい
得られたデータを基に、固定型システム及び追尾型システム
3.太陽光発電システムの概要
固定型システム
である。

太田市は、2012 年 9 月
写真 2 パワーコンディショナ
り、通常型と集光型の 2 種類がある。表 1 に追尾型太陽光発電シ
の定例市議会において、
ステムと固定型太陽光発電システムの技術特性等の比較を示した。
「太陽光発電推進のまちおおた」都市宣言を行った 2)。
追尾型太陽光発電システムは発電量の増加が見込まれる反面、

導入した集光追尾型太陽光発電の発電効率の実績値は悪く、こ
メンテナンスの必要性や架台コストなどの課題が存在する。この
れまでのところ当初見積もりの半分以下の発電量になってい
コスト問題に関しては、追尾システムのうち集光型は使用する半
る。2014 年度実績(9 月期までの月間値)は約 700kWh~約
導体を少なくすることが可能なため、システム全体としては低コ
1,480kWh である。
スト化が進んでおり、海外での利用も拡大している。

この集光型については、発電量が天候に左右されやすいという
欠点が指摘されているものの、40%を超える超高効率型セルが開
集光追尾型を採用する場合、周囲の遮蔽物がないこと、雲や雨
などが少なく日射が散乱しづらい環境が求められる。

追尾機能は過去の気象データを基にしている。半年に一度駆動
部のメンテナンスをしている。売電は行っておらず、市庁舎内
ステムで必要となる駆動用モータの電力消費量は限定的であると
で使用している。
されているので、今回の試算では除外した。
5.固定型及び追尾型太陽光発電システムの発電量試算
5.1 対象地域の選定
26,000
24,810
23,570
24,000
日照条件の異なる 2 地点に固定型システム及び集光追尾型シス
22,329
21,089
22,000
テムを導入した場合の発電量を試算する。導入地域は日照条件に
発電量/KWh
19,848
恵まれた地域として長野県松本市を、日照条件の厳しい地域とし
て石川県輪島市を選定し、上記 2 つのシステムを導入した場合の
発電量を試算した。なお、松本市は年平均全天日射量が
20,000
18,000
12,000
10,000
kWh/m2 以上であり、輪島市は年平均全天日射量、最適傾斜角にお
17,767
17,367
16,000
16,832
16,127
15,897
14,962
14,000
3.8892kWh/m2 以上、最適傾斜角における年平均日射量が 4.4448
18,702
18,608
14,027
13,091
12,156
1.3
1.4
1.5
1.6
1.7
1.8
1.9
2
乗数
ける年平均日射量ともに 3.3336 kWh/m2 以上である 3)。
輪島市発電量
5.2 発電量試算の方法と結果
松本市発電量
図 1 固定型と集光追尾型との発電量比較
発電量の試算に当たり、まずブーゲの式により法線面直達日射
図 1 は松本市においては、集光追尾型システムが固定型システ
量を求め、それに対して天候、日照時間を考慮し修正を行った。修
ムと比べて約 1.46 倍の発電効率を得ることができれば、発電量に
正を行った値(表 2)をもとに発電量試算を行った。
おいて固定型に対しての優位性を持つことを示している。一方、輪
表 2 月別日射量
月
1月
2月
松本市(kWh/ 2 )
2.34
輪島市(kWh/ 2 )
1.68
7月
8月
3.68
2.87
3月
2.61
1.84
4月
2.88
2.01
9月
3.50
2.79
島市については、入手できた発電効率の値を前提にすると、集光追
5月
3.17
2.32
10月
3.43
2.73
3.55
2.68
11月
3.21
2.47
尾型システムの優位性はなく、導入は不向きであるということを
6月
3.65
2.77
12月
2.79
2.13
2.44
1.77
計算条件は表 3 のとおりである。なお、固定型システムの発電
示している。
7.結論:結果のまとめと今後の研究上の課題
本研究では、日照条件が異なる 2 か所として松本市及び輪島市
を選定し、集光追尾型太陽光発電システム及び固定型太陽光発電
システムを導入した場合の発電量をそれぞれ試算した。
量の試算には、NEDO で公開されている年間最適傾斜角日射量の
その結果、国内においても日照条件に恵まれた日射量の多い地
4.54kWh/m2 、松本の集光型システムでは法線面直達日射量の平
域で導入し、また、一定以上の発電効率を得ることができれば十分
均値である 3.10kWh/m2 をそれぞれ用いて計算を行った。
に実用的な発電量を得られることが分かった。しかし、今回の輪島
表 3 試算条件
発電量 = H×K×P×365÷1
K = 損失係数 = 73%
365 = 年日数
H = 1日当たり年平均日射量 = 4.54 kWh/
P = システム容量 = 15kW
1 = 日射強度
市のような日照条件が厳しい地域では、今回入手できた既存デー
2
タで示された発電効率の範囲では、これまでの固定型システムに
対する優位性は確認できなかった。
太陽光発電セルについては、小面積かつ高効率なセルの開発が
その結果、集光追尾型システムの発電量は 12,405 kWh、固定
進められており、また生産コストに関しても集光追尾型システム
型システムの発電量は 18,145kWh であった。しかし、集光追尾
は多くのセルを必要としないため発電コストを抜本的に下げる可
型システムは固定型システムの 1.3~2.0 倍程の発電効率が得られ
能性があり、十分に本格的導入の可能性はあると考える。
るとされているので、本研究では得られた値に対し、1.3~2.0 を
乗じた数値を集光型システムの発電量とした 1)4)。輪島市の例も
最後に、今後の研究上の主要課題を掲げる。

同様にして試算を行った(表 3)
。
今回の発電量試算における法線面直達日射量は手計算によっ
て算出された値である。したがって、より正確な発電量を試算
表 4 集光型システムの発電量
するには、日射量の実測値を用いた試算作業が必要である。
乗数
1.3 1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2
2
松本市集光型発電量(kWh/ ) 16,127 17,367 18,608 19,848 21,089 22,329 23,570 24,810
輪島市集光型発電量(kWh/ 2 ) 12,156 13,091 14,027 14,962 15,897 16,832 17,767 18,702

6.試算結果の考察
1)桑野幸徳・近藤道雄監修:最新太陽光発電のすべて(2011 年)
2)群馬県太田市ホームページ http://www.city.ota.gunma.jp/
3)NEDO:NEDO 日射量データベース
http://app7.infoc.nedo.go.jp/
太陽光発電導入ガイドブック
4)IT メディア 太陽光を追って集めて発電効率 2 倍に
上記のとおり、集光追尾型システムの場合の発電効率には幅が
ある。そこで、固定型太陽光発電システムの発電量を基準とした
場合の集光追尾型太陽光発電システムの発電量の発電効率による
差分を計算した。図 1 に計算結果を示した。なお、集光追尾型シ
現在、追尾型システムの設置場所は地上に限られる。今後、屋
根設置に適した軽量型の追尾架台の開発などが望まれる。
参考資料・文献
http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1403/31/news017.html