BMXを楽しむ韓国人

暮らし
マウンテンバイクと
BMXを楽しむ韓国人
1980年代後半に韓国にマウンテンバイクが紹介されてから、韓国ではマウンテンバイクが
スポーツ自転車文化をリードしてきた。レジャーを目的とする自転車のほとんどが
マウンテンバイクであったが、最近になってロードバイクやミニベロが大きな人気を得ていて、
個人の好みや用途の多様化が自転車にも反映されているようだ。
ハン・ドンオク(韓東沃、月刊〈自転車生活〉編集長)
一
見理解しがたい現象だが、自転車は途上国と
2000年代に入ってからは自転車の普及にも拍車
先進国ともに広く利用されている。自動車や
がかかるようになる。韓国の関税庁の資料によると、
公共交通機関の発展が遅れている途上国では
2002年度に計100万台の規模だったマーケットが2007
自転車が交通手段として利用されているが、先進国で
年には230万台に増えており、5年ぶりに2倍を超える成
はレジャーライフを楽しむため、また交通渋滞・環境問
長を遂げた。着実に増えてきた自転車レジャー人口は
題に対する代案として自転車に乗る人々が毎年増えて
最近石油価格の高騰の影響で、省エネに対する関心が
いるのだ。同じ自転車といっても、その用途は完全に
高まったことで急増した。これが自転車関連産業にと
違う。韓国も1980年代までは自転車が安くて便利な交
って追い風となり、自転車関連会社の株価が上昇する
通手段として活用されていたが、経済の発展とともに
一方、各種の自転車大会が増えるなど、自転車は生活
国民の所得水準が高くなるにつれて、交通と輸送は自
の各分野に急速に浸透している。
動車にとって変わり、自転車は自然に韓国人に一番好
自転車の普及が進んだ背景に、最近の韓国政府
まれるレジャースポーツの一つとして位置づけられる
と自治体の自転車寄りの政策も大きな影響を与えたこ
ようになった。
とが挙げられる。これまで韓国の道路は歩行者や自転
車走行の安全よりは自動車優先に設計・運用されてき
韓国人の暮らしに浸透する自転車
たのが事実である。交差路では横断歩道の代わりに歩
韓国で自転車がレジャースポーツとして普及し始
道橋や地下道が建設されていて、自転車は危ない車道
めたのは1990年頃からである。自転車専門ショップを
と狭い人道に阻まれて安全な走行が難しかった。しか
中心とした各地域の同好会とパソコン通信を通じて自
し、政府と自治体レベルで、エネルギーと環境問題を
転車同好会が生まれるようになったのだ。90年代末か
制度面から解決しようとする意志を持つようになって
らはインターネットの大衆化に支えられて同好会の活
からは、自転車に優しい政策を掲げ始めた。新しく開
動がさらに活発化した。
発される都市の場合、自転車専用道路の建設が義務付
82 Koreana | 秋号 2008
© チェ・ジュングン(崔俊根)
マウンテンバイクに乗って、険しい山道のコースを早いスピードで一気に下るエクストリーム・スポーツのダウンヒルを楽しんでいる。
秋号 2008 | Koreana 83
けられ、ソウルのハンガンなど、都心部の川沿いと公園に
も自転車専用道路が建設された。また、無人自転車駐車場
も設けられて運営されるようになった。このような政策の
おかげで、自転車利用の恩恵を受けることになった市民も、
他の交通機関より自転車を選択するようになった。ソウル
市松坡区では、市民の自転車利用を図るために公共自転車
レンタル屋を設置して市民に歓迎されている。
韓国はマウンテンバイクの天国
韓国でレジャー自転車時代を切り開いたのはマウンテン
バイクである。1980年代から同好会を中心に広がり始め、現
在も一番人気のあるレジャースポーツの対象になっている。
中でもクロスカントリーはもっとも人気のある種目で
ある。自転車に乗って山岳地形を走る競技であるクロスカ
ントリーは国土の7割が山岳である韓国の自然環境にもっと
もふさわしい種目である。クロスカントリーを楽しむ人々
は週末になると、自転車に乗って近くの山に登るか、都市
を離れて江原道の山道まで足を伸ばす。
クロスカントリーと共にマウンテンバイクを代表する
種目にダウンヒル(Downhill)がある。険しい山道を早いス
ピードで走行するスポーツであるダウンヒルは、自転車の
性能がそのまま安全に直結するため、自転車は高価格であ
る上、高い山まで自転車を運ぶという不便さが伴うために、
大衆化するまではかなりの時間がかかったが、チャレンジ
精神に満ちてダイナミックなスポーツを楽しむ前向きな性
格の韓国人によく似合うスポーツでもある。ダウンヒルの
大衆化が進んだ理由としてはまず、韓国の自転車市場の急
© トピックポト
速な成長が挙げられる。インターネットを通しての取引が
一般化するにつれて、海外の大型ショッピング・モールに直
接自転車を注文できるようになり、また輸入業者も増える
ようになると、自転車の値下がりが進む一方、世界的に有
名なマウンテンバイク選手らが乗る自転車を手に入れたい
と思うマニア層も増加するようになった。最近はダウンヒ
ルだけを楽しむ同好会も増えていて、その同好会のメンバ
ーらは冬のシーズンを終えたスキー場と直接タイアップし
て、自分たちが希望するコースを作ってもらいバイク・パー
クを設けたり、独自の大会を開催するほどの熱心さで積極
的な活動を繰り広げている。
2年前からソウルで英語講師として働いているカナダ人
のジェフリー(Jeffrey、29)さんは、もっぱらマウンテンバイ
クのために韓国を訪れた。外国での就職を希望していた彼
1
2
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はマウンテンバイクを楽しむに最適の条件を備えて
者が集まるほどの盛況ぶりを誇る大規模の自転車フ
いる韓国の地形に惹かれて韓国行きを決めた。
ェスティバルである。江原道と済州特別自治道では、
「韓国はマウンテンバイクの天国と言ってもい
ダウンヒルとは反対の性格である、丘を早くのぼる
い環境ですね。ソウルは世界的な大都市でありなが
ことを競うヒルクライム(Hill climb)大会も開かれて
ら山に囲まれているため、特別な交通手段がなくて
いるが、20キロメートル前後の丘を上り詰める厳し
もいつでも山に登れます。仕事帰りにそのまま自転
い競技であるにも関わらず、チャレンジ精神と達成
車に乗って山岳ライディングが楽しめることはライ
感を満喫するために、年を追うごとに多くの参加者
ダーには最高の魅力ですね」
が集まっている。
彼は週末ごとに韓国の同好会のメンバーらと一
緒に近郊の山を訪れる。自動車で狭くて険しい道路
華麗な自転車の技、
を通って山頂に向かう時は辛いが、自転車で稜線を
BMX(Bicycle Motocross)
切り開きながら走って降りる瞬間に、すべてのスト
マウンテンバイクが険しい山で楽しむ危ないス
レスが吹っ飛ばされてしまうと言う彼は、韓国でし
ポーツであれば、BMXは市街地や公園など、都心の
か楽しめないダウンヒル・ライディングにはまって
中を舞台に繰り広げられる華麗なエクストリム・ス
いる。
ポーツである。
BMXはオートバイに乗ったようなスピード感
ウンテンバイク大会が主流である。毎年20回以上の
や、インライン・スケートのフリーなスタイルを同
マウンテンバイク大会が開かれているが、中でも一
時に楽しめる自転車であり、普通の自転車に比べて
番有名で人気のある大会は毎年5月の第3週に開催さ
車体が小さくて軽いことが特徴である。車輪は20イ
れる「三千里自転車全国マウンテンバイク大会」であ
ンチ程度のものが普通で、幅が広くて丈夫である。
る。また夏のシーズンにソウル周辺の江村遊園地で
BMXを構成しているすべての部品は一般自転車より
開かれる「江村チャレンジ大会」も2000人近くの参加
もっと大きな衝撃にも耐えられるように作られてい
irt)
るバート(V
の一種であ
スポー
1 BMX競技
の
こ
。
景
いる光
を楽しんで
ったような
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ツは円筒の
ながら多彩
し
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トリーム・
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な技を披露
。
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ど、都心の
中や公園な
街
2~3 BMXは
れる華やか
繰り広げら
中を舞台に
ーツであ
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ス
リーム・
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に乗って各
テンバイク
る。マウン
道を往復し
い
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クや険
種のトリッ
する。
な技を披露
ながら様々
© ニュース
© ニュース
バンクイメ
ージ
ージ
バンクイメ
韓国で開かれている自転車関連のイベントもマ
2
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る。ハンドルは360度回転でき、ジャンプや回転な
径が大きくて厚さは薄く、ハンドル部分が下の方に
どの技を決めることができるため、「妙技自転車」と
曲がっているものが多い。
も呼ばれる。若者たちは様々なトリックや険しい道
道路ではロードバイクに乗ることが当然視され
を選んで、技を磨く。マウンテンバイクが心肺力と
ているが、これまで韓国では専門的な選手以外にロ
筋力を高めるなど、身体を鍛えることを目的とする
ードバイクを楽しむ人はほとんどいなかった。一般
レジャー・スポーツである反面、BMXは若者たちの情
の人は普通の道路でもマウンテンバイクに乗ってい
熱とチャレンジ精神を発散できる精神的快感が重視
たが、それは自転車に優しくない道路環境のせいで
されるレジャー・スポーツといえる。
あった。マウンテンバイクが大衆から人気を得たの
BMXは大きくレーシングとフリースタイルに区
もロードバイクの大衆化を遅らせた原因であった。
分できる。レーシングは砂で凸凹トラックを設けて
従って、ロードバイク関連大会も専門選手を対象にし
完走までのタイムを競う競技である。一方、フリー
たものがほとんどであり、同好会の少数の人々は大会
スタイルはまたバート(Virt)とストリート(Street)に
に参加する機会すら得られなかった。ところが、認識
分けられる。バートは円筒のパイプを切ったような
の変化と施設の充実化に支えられてロードバイクを
形のハープパイプを往復しながら区間内で多様な技
楽しむ人が増えたため、2005年には同好会のメンバー
を決める競技であり、ストリートは市街地を走りな
を対象にした初めてのロードバイク大会が開かれた。
がら出会う階段、欄干、段差、壁などの構造物を利
韓国最大のロードバイク大会である「ツール・ド・
コ リ ア 」も 2 0 0 7 年 か
韓国でレジャー自転車時代の幕開けをリードしたのはマウンテンバイ
クである。韓国はマウンテンバイクには打ってつけの自然環境である。
ソウルは大都市でありながらも、高さも様々で特色のある山々に囲ま
れているため、いつでも簡単に山に登れる。退社後、都心から離れな
くてもマウンテンバイクの魅力が味わえることは、ライダーにとって
大きなメリットであるのだ。
ら専門選手のみなら
ず、同好会のメンバ
ーにも門戸を広げた。
同大会は2008年からは韓
国に止まらず日本まで舞
台を広げて大会名も「ツ
ール・ド・コリア-ジャパ
ン」に変えた。
用して様々な技を決める競技である。
韓国では1980年代後半から外国文化の影響を
車輪が20インチ以下であるミニベロ(Minivelo)
が若者を中心に大きな人気を博し始めたのも2003年
受けた若者たちによって紹介され、90年代を過ぎて、
以降の大きな変化である。ミニベロはマウンテンバ
都心のヨウィド広場を中心にマニアが形成された。
イクやロードバイクに比べて、日常生活の中で乗り
BMX人口の増加を見た韓国の自転車メーカーはBMX・
やすい便利さが特徴である。車輪が小さいため保管
チームを作って販促活動にも活用した。2000年代に
しやすい上、フレームも畳めるため、持ち運びに便
入ってから様々なエクストリーム・スポーツが紹介
利で大衆交通機関との連携性も優れている。最近は
されてBMXを楽しんでいた人々が減ったが、全国を
多くの人々が短距離の出勤や通学に愛用している。
舞台に活動している幾つかのチームを中心にその伝
さらにミニベロは多様なデザインのため、単なる移
統を着実に維持している。現在も幾つかの同好会が
動手段ではなく、ファッション・トレンドとして選
活動しており、BMX専門ショップもできた。
ばれるケースも多い。
いまや自転車は韓国人の暮らしやレジャーライ
ロードバイクの復活とミニベロの登場
フにおいても欠かせないほど重要な要素となった。
ロードバイクは自転車の先駆であり、世界的に
自転車に対する人々の関心はさらに高まり、自転車
一番大衆化されたスポーツ自転車である。ロードバ
向けの政策も増えているだけに、韓国人と自転車の
イクは道路で早いスピードが出せるように車輪の直
関係はさらに深まっていくと思われる。
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