「被保険者」の定義

本 欄 は 、NEXI の 解 釈 が 必 ず し も 確 立 し て い な い と 思 わ れ る 事 項 に つ い て 、私 の 個 人 的 見
解 を 示 し た も の で 、NEXI が 本 解 釈 を 認 め る と は 限 り ま せ ん が 、議 論 の 叩 き 台 と し て 理 論
構成を参考にして頂ければと思い、プロ用に掲載しているものです。
貿易一般保険における「被保険者」の定義
●b
1 「被保険者」の定義の基本となる規定は以下の2つとなる。
a 貿 易 保 険 法 第 1 条 ( 目 的 )「 こ の 法 律 は 、 外 国 貿 易 そ の 他 の 対 外 取 引 に お い て 生 ず る
為替取引の制限その他通常の保険では救済することができない危険を保険する制度を
確立することによって、外国貿易その他の対外取引の健全な発展を図ることを目的と
す る 。」
b 貿 易 保 険 法 第 2 条 ( 定 義 )「 輸 出 者 と は 、 輸 出 契 約 の 当 事 者 で あ っ て 、 貨 物 を 輸 出 す
る 者 を 言 う 。」( 法 律 に 「 被 保 険 者 と は 」 と い う 項 目 は 無 い の で 、 輸 出 者 = 被 保 険 者 と
な る 。「 仲 介 貿 易 者 」 も 「 技 術 提 供 者 」 も 趣 旨 は 同 一 )
c 運 用 規 定( 貿 易 一 般 保 険 運 用 規 定 第 2 条 )は 定 義 を 補 足 す る も の な の で 、定 義
の 前 提 と な る 規 定 に は 含 ま な い 。( 貿 易 一 般 保 険 運 用 規 定 第 2 条 ( 適 格 被 保 険 者
等)は、合理的であるとは言い難い。後述参照)
2 売り方単名契約の被保険者
a 貿 易 一 般 保 険 の 保 険 の 目 的 物 は 輸 出 契 約 書 で あ る 。輸 出 契 約 が 履 行 さ れ な い / で き な
い 危 険 を 担 保 す る も の で あ り 、輸 出 契 約 上 の 売 主 は 、契 約 書 に 基 づ き 権 利 を 行 使 す る
こ と の で き る 唯 一 の 者 な の で 、 リ ス ク を 誰 か に ヘ ッ ジ し て い る か 否 か を 問 わ ず 、「 被
保険者」であり、包括保険の付保義務がある。
b 契 約 に 従 っ て 相 手 方 に 対 し て 貨 物 を 船 積 し 、代 金 を 請 求 す る 者 は 輸 出 契 約 の 当
事 者 以 外 に あ り え な い 。 保険 金 を受 領 し た 時 に、バ イ ヤー に 対 する 権利 を 保 険 者 に
譲 渡 し 得 る の も 、 契 約 者 を お い て 他 に な い 。 B /L 上 の “ Shipper” に な る と か 、
通関上の申告者となるとかは、輸出者と供給者との売買契約上の条件であって、
対外契約には関係がない。
c 損害保険には「損をする人が被保険者」という大原則がある。それでは、貿易保険
の 被 保 険 者 は 損 を し な く て も 良 い の か と い う 命 題 が あ る が 、貿 易 保 険 は 、物 や 人 に か
か っ て い る の で は な く 、対 外 契 約 を 保 護 す る 保 険 で あ り 、輸 出 契 約 書 に か か っ て い る
のだから、契約が履行されなかったら輸出契約者に損失が発生することは明らかで、
そ れ を 誰 か と 分 担 し て い て も 、誰 か に ヘ ッ ジ し て い て も 、輸 出 契 約 者 が 一 義 的 に 損 を
蒙ることは紛れもない事実である。
d 貿易保険は、対外契約者のリスクを填補する保険であって、その裏側に居る人達も
含めて、当該輸出契約上に発生した損失をカバーする保険なのである。
輸 出 者 が 商 社 で あ っ て 、メ ー カ ー と リ ス ク を 分 担 し て い る 場 合 に お い て 、被 保 険 者
で あ る 商 社 が メ ー カ ー か ら 払 わ れ た 金 額 を 回 収 金 と 扱 わ な い の は 、「 対 外 債 権 額 が 減
ら な い の だ か ら 損 失 が 減 少 し た 訳 で は な い 」と い う 考 え 方 か ら で あ り 、裏 側 に 居 る メ
ーカーも含めてカバーしている保険だからである。被保険者に支払われた保険金が、
被保険者の裏側でどのように分配されようが「保険者は与り知らないこと 」である。
1
3 貿易一般保険運用規定第2条1号の解釈
貿易一般保険運用規定
(適 格 被 保 険 者 等 )
第 2 条 約 款 に お け る 適 格 被 保 険 者 及 び 輸 出 契 約 等 の 相 手 方 の 取 扱 い は 、 次 の 各 号 に よる 。
一 適 格 被 保 険 者 は、本 邦 人 又 は本 邦 法 人 (本 邦 内 に居 住 する外 国 人 及 び本 邦 内 に所 在
する外 国 法 人 の支 店 、支 社 その他 の営 業 拠 点 を含 む。)であって、輸 出 契 約 等 の当 事 者 で
あり、輸 出 契 約 等 の締 結 に関 与 し、自 己 の危 険 負 担 において当 該 契 約 上 の義 務 を履 行 す
る もの で あ って 、 被 保 険 利 益 の 実 質 的 な 帰 属 体 と な る も の とす る 。
a 本 規 定 の 元 と な っ た 、運 用 通 達「 貿 易 保 険 法 第 1 条 の 2 第 2 項 に 規 定 す る「 輸 出 者 」
の 解 釈 に つ い て 」( 3 3 通 局 5 0 0 号 = 今 は 存 在 し な い )の 趣 旨 は 、
「輸出契約の当事者で
あって、貨物を輸出する者」が被保険者であることを否定する意味はまったく無く、
それ一辺倒では処理しきれない特殊な場合の例外規定として存在したもの。
b 実質的に契約当事者と同じ立場にありながら、第三者に輸出契約名義人となること
を 委 任 す る こ と に よ っ て 、輸 出 者 で な く な る こ と を 認 め て し ま う と 、合 法 的 に 包 括 保
険 逃 れ を 許 す こ と に な る の で 、運 用 通 達 で は「 輸 出 貨 物 の 生 産 者 が 、委 任 契 約 に よ り
第 三 者 に 輸 出 手 続 の み を 委 任( 輸 出 貨 物 の 所 有 権 の 移 転 を 行 わ な い )す る 場 合 に お い
て は 、委 任 契 約 に よ り 、受 任 者 の 行 為 に 基 づ く 効 果 は 、た だ ち に 委 任 者 に 帰 属 す る も
の で あ っ て 、貨 物 の 輸 出 に 伴 う 危 険 は 委 任 者 た る 輸 出 貨 物 の 生 産 者 が 負 担 す る も の で
あ る の で 、実 質 的 に は 、貿 易 保 険 法 に い う「 輸 出 者 」と 何 ら 変 わ ら な い も の で あ る こ
と」と規定している。
c 即ち、基本は「輸出契約の当事者であって、貨物を輸出する者」が被保険者である
が、それを悪用する輩がいた場合に、個々に見極めて排除するために作られたもの。
従って、包括加入者が単名で輸出契約を締結していながら、業務協定書によりリス
クをメーカーにヘッジしていることを理由に包括保険を申込まないことを認める考
え方は含まれていない。
d 上述の通り、この規定は貿易保険法の規定とバッティングしているし、もし、
規 定 に 忠 実 に 運 用 し よ う と す る と 、契 約 書 上 の 義 務 を 履 行 す る 者 と 危 険 負 担 す る 者 が
異 な る 場 合 に ど う 捌 く の か 、契 約 者 が い か な る 場 合 に い く ら 損 を し て 、契 約 者 以 外 の
者がいかなる場合にいくら損をするのかを調べなければ保険契約ができないことに
な る し 、付 保 し た い 場 合 は そ の ま ま 付 保 し 、付 保 し た く な い 場 合 は 輸 出 契 約 者 が 危 険
負担をしていないという業務協定書を提出すれば付保を免れるという行動が横行す
る こ と に な り 、と て も 実 現 不 可 能 な も の に な る 。今 ま で そ の よ う な 運 用 を し て 来 な か
っ た 筈 で あ る か ら 、本 項 は 過 去 の 運 用 通 達 を 簡 略 化 し た ら 言 葉 足 ら ず に な っ て し ま っ
たと捉えるのが妥当な解釈であろう。
e 即 ち 、売 主 の 裏 に 隠 れ て い る 者 を 探 し 出 し て 、そ の 関 係 を 見 に 行 く こ と は し な い し 、
裏 側 に あ る 契 約 内 容 を 理 由 に 付 保 義 務 を 免 れ る こ と も で き な い 。 逆 に 、輸 出 契 約 者 が
包 括 保 険 非 加 入 者 の 場 合 に 、包 括 加 入 者 が 当 該 契 約 上 の リ ス ク を 負 担 し て い る こ と を
以 て 、被 保 険 者 と し て 包 括 保 険 を 付 保 す る こ と も で き な い 。 こ こ を 緩 め る と 収 拾 が つ
かなくなる。
2
4 売り方連名連帯責任契約における「被保険者」と「契約の種類」の判定
a 連 名 契 約 で あ っ て も 、 そ の 原 則 は 何 ら 変 わ り な い の だ が 、 連 名 ハ ゚ ー トナ ー が 外 国 企 業 (非
居 住 者 )の 場 合 は 、 貿 易 保 険 法 の 制 約 に よ り 外 国 企 業 分 を 排 除 し な け れ ば な ら な い こ
と 、連 名 ハ ゚ ー トナ ー が 本 邦 企 業 ( 居 住 者 )の 場 合 は 、包 括 加 入 者 と 非 加 入 者 を 区 別 し な け れ
ば な ら な い こ と か ら 、包 括 加 入 者 同 士 の 連 名 契 約 の 場 合 を 除 い て 、連 名 ハ ゚ ー ト ナ ー 間 の 業
務 協 定 書 に 基 づ い て 契 約 を 区 分 す る 。即 ち 、売 主 の 裏 側 は 見 に 行 か な い が 、必 要 が あ
る 場 合 に は 横 (売 主 相 互 間 の 関 係 )は 見 に 行 く 。
b 区 分 の 物 差 し は 、[ リ ス ク 負 担 ]に よ る 。売 主 相 互 間 で 、代 金 回 収 業 務 の 任 に 誰 が あ
た る か も 、代 金 が ど の よ う な ル ー ト で 回 収 /分 配 さ れ る か も 、品 質 責 任 や 契 約 履 行 責 任
を 誰 が 負 う か も 関 係 が な い 。 誰 が コンソーシアムリーダーで あ る か も 勿 論 関 係 が な い 。 貿 易 保 険
上の区分は、「輸出契約の当事者であって、貨物を輸出する者」の中で、相手方が契
約を履行しなかったら誰が損をするかである。
c 包 括 保 険 の 対 象 か 否 か を 決 め る に は 、 先 ず 最 初 に 契 約 の 種 類 (輸 出 契 約 ・ 仲 介 貿 易 契
約 ・ 技 術 提 供 契 約 )を 決 め る 。本 邦 企 業 同 士 の 連 名 の 場 合 は 、例 え メ ー カ ー は 貨 物 の 輸
出 の み 、 ジェネコンは 工 事 部 分 の み と 明 確 に 区 分 さ れ て い よ う が 、 包 括 加 入 者 と 非 加 入 者
との連名だろうが、当該契約書全体で契約の種類を決める。同様にして、外国企業と
の連名の場合は、外国企業分を排除した後、本邦企業分全体で契約の種類を決める。
契約の種類が決まれば自動的にどの包括保険の対象かが決まる。
d 商 社 の 口 銭 分 に 被 保 険 利 益 が あ る か 否 か は 、連 名 ハ ゚ ー ト ナ ー 間 の 業 務 協 定 書 の 定 め 方 に よ
る。バイヤーから払われた代金の中から口銭分を貰う場合には、口銭分について被保
険 者 と し て の 資 格 が あ る が 、 バ イ ヤ ー が 代 金 を 払 わ な く て も パートナーか ら 貰 え る 口 銭 の
場 合 は 、商 社 に は 損 失 が 発 生 し な い し 、 ハ ゙ イ ヤ ーに 対 す る 請 求 権 も 全 額 ハ ゚ ート ナ ー に 取 ら れ る
の で 、被 保 険 者た り え な い 。 (バイ ヤ ー か ら の入 金 の 有 無に 関 係 なく、船 積 時 と か 決
済 期 日 時 な ど に 、 商 社 が パートナーに 仕 入 代 金 を 支 払 っ て い る 場 合 に は 、 商 社 に 契 約 金 額
全額の被保険利益があるので、全体について付保することになる。)
な お 、外 国 企 業 と 日 本 商 社 の 連 名 契 約 の 場 合 で あ っ て 、商 社 の 取 り 分 が 口 銭 だ け の 場
合 、 契 約 取 り 纏 め 、 輸 出 手 続 業 務 、ファイナンスアレンジ業 務 な ど の 商 社 の 役 割 は 、 「 契 約 の 相
手方に提供する役務」ではないので、商社分を技術提供契約と捉えるのではなく、契
約 全 体 を ハ ゚ ー セ ント で 分 担 し て い る 契 約 、 即 ち 「 横 割 り の コ ン ソ ー シ アム 」 と 捉 え る 。
e 尚 、 商 社 が 契 約 者 に な る 場 合 で あ っ て 、 メ ー カ ー が 契 約 書 に ”Manufacturer”と し て 、
若 し く は“ w i t n e s s ”と し て サ イ ン す る 場 合 が あ る が 、こ れ は 連 名 契 約 に は 該 当 し な い 。
以
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上