1034.米国市民に聞いた銃の購入、所持、保守管理の実際 銃社会の住人の本音(上) 日本経済新聞2013.1.15. (傍線:吉田祐起引用) 児童20人を含む26人の命が奪われた米コネティカット州の小学校銃乱射事件から、14日で1カ 月。惨事が絶えないにもかかわらず、米国で銃規制が進んでこなかったこと自体不可解だが、そも そも素人である一般市民が銃の扱いをどこで覚え、どうメンテナンスしているのか。銃社会の住人 ”の実態を聞いた。 でない我々にはそこがわからない。街の人々に “銃のある暮らし” 銃販売店では、ライフルなど大型銃は壁がけに、 小型銃はカウンターケース内に展示されていることが多い(カリフォルニア州)=ロイター 「小柄で非力な私には、身を守るために銃が必要」。テキサス州ダラスの女性看護師、アシュレイ ・ファーランドさん(31)は自衛のために銃を所持している。「ダラスは大都市で道が渋滞することが 多い。もし何者かが家に侵入してきて、警察に電話したとしても、警察官が駆けつけるのに5分以 上、もしかすると30分ほどかかってしまうかもしれない。その間、自分の身を守るには、銃しかな い。素手で戦うのは現実的でないし、家にあるフライパンや包丁などを使っても、大柄な男をひるま せることはできない。実際に発砲するかしないかは別にして、銃を持っていれば、攻撃者を自分に 近寄らせず、ひるませることができる」と話す。 … ■銃があれば、身を守れる… 最初に銃を買ったのは2009年。約300ドルで「シグ・ザウエル・モスキート」という銃を買った。手 が小さい彼女でも握りやすい小型なサイズで軽いのと、使用弾が 100発5ドル程度と比較的安いこ とが購入の決め手となった。銃の扱いに慣れてから、より破壊力が強力なスミス・アンド・ウェッ ソ ンの642レボルバーを約400ドルで買った。「この銃なら、どんな大柄で力の強い攻撃者からでも 身を守ることができる」と力を込める。 彼女が銃を買ったのは地元の銃販売店。アメリカの一般的な銃販売店では、ショットガンやライフ -1- ルなどの大型の銃は壁などのケースに並べて展示され、ピストルなどの小型銃はカウンターの鍵 のかかったディスプレーケースの中に入れられていることが多い。宝石店のように、実際に手にと って見たい場合は店員に声をかけなくてはならず、店員は客が商品を見ている間はずっと付き添っ ていることがほとんど。1回に手に取れる商品は1つで、違う商品を見たければ、商品を一度ディス プレーケースの中に戻し、鍵をかけ直す。こうして盗難などを防止するのが一般的だという。 また、展示されている銃には弾が入っていることはなく、銃弾は別の場所に展示されていることが 多い。 米国では、地元販売店のほかに、 銃の青空市「ガンショー」で多くの人が銃を購入する(ユタ州)=AP 多くの州で、ライフルやショットガンの購入は18歳以上、ピストルの場合は21歳以上という年齢制 限が設けられている。ただ、実際にはその年齢より上に見えれば、商品を見せてくれるといい、店 が最初から年齢や銃の利用経験の有無を聞くことはほとんどない という。 アメリカでは、このような地元の銃販売店のほかに、インターネットや、ガンの青空市とでもいうべ きガンショーなどでも銃を購入できる。 インターネットの銃販売サイトでは一般的なインターネット通販と同様、買いたい銃をクリックし て、クレジットカードなどで購入できる。イーベイのようにオークション形式の販売形態を取る店も多 い。ただ、購入した銃は直接家には届かない。 銃の販売は犯罪歴があり銃を購入できない人や、未成年者に銃が渡るのを防ぐため、 対面式が原 則となっている。このためネットで購入したガンは販売元のディー ラーから、まず購入者の最寄り のディーラーに届けられる。購入者はそこでチェックを受け、銃を受け取る。中継ディーラーには銃 1丁あたり、約10~15ド ルの手数料が入る。 1月5日に開催された「ロッキーマウンテン・ガンショー」では、数多くの人が訪れた(ユタ州)=AP ガンショーもアメリカで銃を購入するのに多く使われる。全米で年5000回程度開催されていると される。フリーマーケットのようなイメージで、大型会議場のような場所を使い、大型のガンショーで は、1000以上の銃のディーラーが集まり、展示即売している。ショーの入場料は 10ドル前後だ。 -2- アシュレイ・ファーランドさんも、ガンショーに何度も足を運び、様々なディーラーに銃について話 を聞くことで、銃についての知識を深めていったそうだ。セキュリティーがしっかりしているショーで は家電量販店のように、銃にワイヤーを取り付けるなどして盗難を防止している。また、客が銃を 持ち込む際は、銃弾を外すのを原則としている。しかし、きちんと身分照会もせずに売買する、いい かげんなマーケットもなくはない。 ■厳重な身元確認、FBIを活用 銃販売店やガンショーで実際に銃を買うとなると、支払い後に身元のチェックがある。連邦政府の 書類の数多くの質問に正確に答える必要がある。もし、ウソや誤った情報を申告すると、罰金刑や 投獄になるケースもあるという。 安全を確保するため、非番の警察官を雇い、客が持ち込む銃の銃弾が外れているか 確認するガンショーもある(ミズーリ州)=ロイター 客が書類を記入した後、ディーラーはこの書類に記載された情報と客の運転免許証などの身分 証明書をもとに、米連邦捜査局(FBI)に電話をかけて客の犯罪歴を調べる。電話の間、客はその まま店舗で待つ。約10分でFBIの犯罪歴確認が終わり、そこで問題がなければ、ディーラーから銃 を手渡される。カリフォルニアなどの購入規制の厳しい州では、確認に時間をかけるため、銃を入 手するのは数日後になる。 こうした売買だけなら銃の監視の目も届きそうだが、問題は個人間の売買も認められていること。 テキサス州などでは、合法的に銃を買える住民の間での売買を許可している。もちろん、犯罪歴が ある人や未成年者ら、購入資格のない者に銃は売れず、違法売買は厳しく処罰される。しかし、現 実には個人間の売買が広く行われており、社会に出た銃のその後を追跡することは不可能。こうし た売買で、犯罪者が銃を手にすることも多いという。 ガンショーで銃を購入するための書類に記入する女性(ミズーリ州)=ロイター オハイオ州の30代の女性は、知人から銃を購入した一人だ。定年退職した警察官から、スミス・ アンド・ウェッソンの357というピストルを数百ドルで購入。「使いやすい銃を新品より安価で手に入 れられたので満足している」と話す。 -3- 銃を購入した後はどのように保管しているのだろうか。アメリカ映画にあるように、一般家庭でも 枕元のダッシュボードにゴロンと置いているものなのだろうか。 アシュレイ・ファーランドさんは床にネジで固定した容器に銃を入れ、鍵をかけて保管している。使 わないときは安全のため、銃弾と銃は別の場所に保管しているそうだ。夜に家に1人でいる場合な どは、銃を荷物入れから取り出してベッド横のスタンドに置くこともある。オハイオ州の30代の女性 も、なにかあったときにすぐに取り出せるよう、常にベッド横のナイトスタンドの引き出しに入れて保 管しているそうだ。 銃を持ち歩く免許を取得するため、専用のクラスを受講する米国民も増えている (フロリダ州)=ロイター 日本人にはわかりづらい点かもしれないが、銃を携帯して持ち歩くことはただ所有するだけのこ ととはレベルが異なる行為とされ、州ごとに様々な規制をかけている。テキサス州やオハイオ州で は、家の外などで銃を持ち歩くのに専用の免許が必要だ。この免許を取るためには銃の安全につ いてのクラスを受講し、射撃場での実地試験に合格しなくてはならない 。クラスは約10時間で、実 地試験とともに数年に1度、更新するために受ける必要がある。クラスと試験を受けるには約100 ドルが必要で、免許を取るのに約70ドルかかるのが一般的。更新時は約半額の45ドル程度のよう だ。 テキサス州はこの免許があっても、銃を他人に見えるようにして持ち歩いてはならないと州法で 定めている。携行するにしても必ずバッグの中などにしまい、人に見えないようにしておかなけれ ばならない。一方、アリゾナ州では見えるようにして持ち歩いてもかまわない。 また、免許があっても、テキサス州では空港、学校、病院、そしてバーには持ち込めない。こうし た場所に出入りするときは車などに置いて行く。車は自宅の延長と解釈されている。 ■子供のころから銃に親しむ人も 銃を持ち歩く免許がないと、家などでしか使えない。射撃場や、銃販売店にメンテナンスで持って いくなど、家から持ち出す必要があると判断される場合のみ、携行できる。その際は、 銃弾を取り外 し、銃をバッグなどに入れて持ち歩かなくてはならないという。 銃を使いこなせるよう、射撃場で日々練習する米国人も多い(コロラド州)=AP -4- 銃の所持が認められているといっても、いきなり使える人は少ないだろう。アメリカ人は、射撃場 などの練習場や、銃のトレーニングクラスなどを受講することで銃の使い方を覚えている。アシュレ イ・ファーランドさんも「いざというときに、銃を使えなくては意味がない。暗い場所でも銃弾を補充 できるなどうまく使えるよう、日ごろの練習は不可欠」と話しており、少なくとも3カ月に1回は練習に 出かけ、1年に1000発撃つという。「私は熱心な方かもしれないが、買ってから一度も練習しない 人もいる」 子供の頃から、親に銃の使い方を教わっている人も多い。オハイオ州の男性会社員アンディさん (31)は、狩猟用にショットガンを約600ドルで数年前にスポーツ用品店で購入した。趣味のクレー 射撃などに使っているという。アンディさんは10歳頃から、米国陸軍に所属したことのある父から、 銃 の手ほどきを受けた。父の監修のもとに射撃場で練習し、10代後半には銃の安全についての クラスを受講して、銃について勉強したという。彼は、銃を使わないときは、家の見えない場所に隠 して置いている。子供ができたら、それに加えて、鍵をかけて保管することを検討するという。 何かあったときにすぐに銃を使えるよう、メンテナンスも重要だ。アシュレイさんもアンディさんも、 射撃場で練習した後などはきちんと汚れを拭き、油をさし、銃のさびや劣化を防いでいる。 レッスン通いやメンテナンスに時間とお金をかけてでも、銃を持ち続ける人々がいる。それに応じ たマーケットがあり、トレーニング施設がある。銃のある生活の根本を知らないと、銃規制の議論も 我々にはみえてこないだろう。 (電子報道部 岸田幸子) ヨシダコメント: 個人の銃保持是非論を云々することは避けますが、銃社会のアメリカの実態を本記事で知ることが できました。一方的に「銃所持はケシカラン」と言いきるにはいかない感じがします。 日本みたいに銃保持が厳禁されている国ですら、信じられないような銃による集団殺人事件は根 絶できません。その気になれば銃の入手は非合法であるかないかの別なく、不可能ではないから です。 No.1027:米で進む「学校の武装化」乱射事件から1カ月(フィリピンでは武装化が常態化) でも関 連記事として掲載していますので、クリックしてみてください。フィリピンの実態がご覧いただけます。 本記事に対する「ヨシダコメント」は、従って同No.1027に類するものですが、簡単に私見を述べ ます。此処フィリピンでは、銃の個人所有は米国ほどではありませんが、私が住んでいる「ヴィレ ジ」(日本の住宅団地)のガードマンも含め、公共場所のガードマンはすべて銃を持っています。現 在では違和感が全くないほど見慣れる光景です。逆に安心感すら抱きます。 本記事の内容からして想うことは、正当な理由をもって銃所持する一般人であるならば、何がなん でも銃を取り上げるということは、現実的でないような気がしてきました。銃規制はより厳しくすると いう大前提で、銃社会を「容認」するしかないような気がしてくる本記事です。 オバマ大統領が銃規制に乗り出すようですが、ヨシダの想像は、今後の銃取得規制を極度に厳しく する、ということに限定され、既保有者のものまで取り上げる、ということにはならない感じです。万 一、それに手を出したら・・・と、この後は書かない方がイイでしょう。 No.1(1-300) No.2(301-400) No.3(401-500) No.4(501-700) No.5(701-900) -5-
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