同一課題で難易度を調整した体幹スタビリティ

第 50 回日本理学療法学術大会
(東京)
6 月 6 日(土)ABC 区分
ポスター会場(展示ホール)【運動制御・運動学習 5】
P2-A-0510
同一課題で難易度を調整した体幹スタビリティトレーニングにおける腹壁筋の変化
腹横筋の収縮で提供できる難易度限界の検索
山本
泰三
株式会社 スターティング アゲイン
key words 腹横筋・体幹スタビリティ・超音波画像
【はじめに,目的】
体幹深部筋のトレーニングについては針筋電図や超音波画像を用いて報告されている。Juker らは体位と構え
を変えた 35 種類の課題で体幹筋を評価し,腹横筋(以下,TrA)は側臥位ブリッジで最も収縮していたと報告している。大久
保らは四つ這い位で上肢や下肢を挙上させて体幹筋評価し,左 TrA は左上肢挙上時に増加したと報告している。いずれも TrA
が収縮を増加しているものの外腹斜筋(以下,EO)も同程度またはそれ以上に増加していた。体位や構えを変化させて体幹筋
を評価し,体幹筋の収縮が全体的に増加しているなかで,TrA が収縮している度合いを報告しているものが多い。Crommert
らは立位で 3kg の重りを両手に持ち,前後上下に挙上させ構えの変化を強調した 7 種の課題で体幹筋を評価し,頭上に挙上した
ときに TrA が他の筋より収縮していたいと報告している。本実験の目的は,同一課題で難易度を調整し TrA の収縮のみが増加
する体幹スタビリティトレーニングを検索することである。
【方法】
対象は,腰椎疾患の既往がない女性 4 名,男性 6 名とした。10 名の年齢は 24.7±4.1 歳であった。課題は膝立ち位で体幹
前傾とし,難易度は体幹の前傾角度で調整した。被験者はレッドコードトレーナー(レッドコード社製)の真下に膝立ち位にな
り,上肢下垂させ肘関節 90 度屈曲位で肘頭部をスリングした。膝立ち直立位で TrA を主動作筋とする臍引きを 2mm 行わせ,
大腿部から頭部を棒状に維持したまま体幹前傾するよう十分に練習させた。股関節屈曲や腰椎の形状の変化や肩関節伸展を最
小限とした。体幹の前傾角度は胸骨に水準計を当て直立位からの変化を測定した。膝立ち直立位から 5 度前傾,10 度前傾,20
度前傾,30 度前傾させて体幹スタビリティトレーニングの難易度を変化させた。腹壁筋の厚さは超音波画像診断装置
(Sono Site
社製 Micro Maxx)
を用いて膝立ち直立位,5 度前傾,10 度前傾,20 度前傾,30 度前傾で測定した。測定部位はリニアプローブ
を前腋窩線で肋骨下端と腸骨稜間の中点の水平面上に当て TrA,内腹斜筋(以下 IO)
,EO の厚さを測定し,同一水平面上で臍
方向にプローブを移動し腹直筋(以下,RA)の厚さを測定した。測定は布施らや伊藤らの超音波画像診断装置による TrA 測定
の信頼性についての報告をもとに,超音波画像診断装置による腹壁筋測定に精通した 1 名が 1 回測定した。統計的処理は,膝立
ち直立位の腹壁筋の厚さを基準とし,5 度前傾,10 度前傾,20 度前傾,30 度前傾のパーセント値を分散分析後にポストホック
テストした。危険率 5% とした。
【結果】
基準となる臍を引き TrA を収縮させた膝立ち直立位での腹壁筋の厚さは,TrA が 5.6±1.0mm,IO が 11.0±2.1mm,EO
が 5.7±0.5mm,RA が 10.4±1.4mm であった。膝立ち直立位の腹壁筋の厚さを 100% とした 5 度前傾は,TrA が 115±14%,IO
が 101±19%,EO が 98±9%,RA が 103±7%。10 度前傾では,TrA が 105±16%,IO が 106±11%,EO が 101±23%,RA
が 103±7% であったであった。20 度前傾では,TrA が 102±22%,IO が 100±26%,EO が 108±24%,RA が 117±7% であっ
たであった。30 度前傾では,TrA が 93±19%,IO が 101±20%,EO が 117±31%,RA が 124±6% であったであった。5 度前
傾,および,30 度前傾で角度要因に主効果があり,5 度前傾で TrA が他の 3 筋より収縮が増加した
(p<0.05)
。30 度前傾で TrA
は EO と RA より収縮が低下し,IO は RA より収縮が低下した(p<0.05)
。TrA は膝立ち直立位より 5 度前傾で増加し,30
度前傾では 5 度前傾より低下した(p<0.05)
。
【考察】
ローカル筋としての TrA を選択的に収縮させる方法として臍引き課題がある。臍引き課題後に体幹スタビリティを向上
させるためには,ローカル筋の機能を土台としたグローバル筋の機能向上練習が提唱されている。側臥位ブリッジや四つ這い位
体節挙上は腹壁筋全体が収縮しており TrA が選択的に収縮していない。今回の膝立ち位で 30 度前傾させた難易度では TrA
より EO と RA が収縮していた。運動制御には自由度があり難易度が高いと収縮が認識しやすいグローバル筋が選択されやす
い。膝立ち位前傾課題で腹横筋の収縮が提供できる難易度限界は 5 度前傾であった。5 度前傾させた膝立ち位で 2 重課題として
の体節の運動を加える練習を行い,ローカル筋による体幹スタビリティの質を向上させた上で,難易度をアップさせていく方法
が示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
体幹スタビリティトレーニングの初期に TrA 収縮を選択的に増加させる基準が得られた。ロー
カル筋である TrA の収縮機能を土台としたグローバル筋による体幹スタビリティトレーニングが望まれる。