慈恵医大誌 200 5;12 0:245 ‑9 . 冠動脈造影(CAG) ・経皮的冠動脈形成術(PCI )における 経橈骨動脈アプローチ(t r ansr adi alappr oac h;TRA) の有用性 小 川 崇 之 高 塚 久 史 武 田 博 香 山 洋 介 荒 巻 和 彦 吉 田 哲 南 井 孝 介 森 力 望 月 正 武 東京慈恵会医科大学内科学講座循環器内科 富士市立中央病院循環器科 武田ハートクリニック (受付 平成 17年 8月 15日) USEFULNESSOF THE TRANSRADI AL APPROACH FOR CORONARY ANGI OGRAPHY AND PERCUTANEOUS CORONARY I NTERVENTI ON TakayukiOGAWA ,Yos ukeKAYAMA ,Kos ukeMINAI, AKATS UKA R AMAKI ,Kazuhi koA ,Chi kar aMORI, Hi s as hiT Hi r os hiTAKEDA ,Sat or uYOSHIDA ,Sei buMOCHIZUKI Division of Car diology, Depar tment of Inter nal Medicine, The Jikei Univer sity School of Medicine Depar tment of Car diology, Fuji City Gener al Hospital Takeda Hear t Clinic Thet r ans r adi alappr oac h(TRA)hasbe c omepopul arf orcor onar yangi ogr aphy( CAG) )be andpe r c ut ane ousc or onar yi nt e r ve nt i on( PCI c aus eofl oweri nvas i ve ne s sandt hee as eof hemos t as i s . Thus ,wer e vi e we dappr oac hs i t e si nc as e sofCAG andPCIatFuj iCi t yGener al Hos pi t alf r om J anuar y2 00 0t hr oughNove mbe r2 0 02 . TheTRA wasus edi n1 1 56c as e sof e l e c t i veCAG and41 1c as e sofel e c t i vePCI . Thenumberofcas esus i ngt heTRA i nc r e as e d yearbyye ar .I naques t i onnai r es ur ve yaf t erCAG orPCIatourhos pi t al ,pat i e nt spr ef e r r e d t heTRA f ors ubs e que ntCAG. Thes er e s ul t ss ugges tt hatt heTRA wi l lbe c omemor ec ommon i nt hef ut ur e . (TokyoJ i kei kaiMedi calJour nal2 005;1 20:2 45‑ 9) Keywor ds:t r ans r adi alappr oac h,c or onar yangi ogr aphy,per cut aneouscor onar yi nt er vent i on I .背 景 と 目 的 高齢者の虚血性心疾患患者の増加に伴い,その にした.冠動脈造影(CAG) ・経皮的冠血管形成術 (PCI )においての,経橈骨動脈アプローチ(t r ans 検査および治療において,より低侵襲であること r adi alappr oac h;TRA)もその一端を担ってい る.1 9 8 9年に Campe s auによる TRA での CAG が切望される.その点において,今日の医療技術 が報告され ,さらに 1 9 93年に Ki e me ne i jによる および医療機器の進歩は低侵襲であることを可能 経 橈 骨 動 脈 冠 動 脈 イ ン ターベ ン ション(t r ans 246 小川 ほか )が報告され ,その合 r adi ali nt e r vent i on;TRI 併症の少なさ,検査後の患者・医療従事者の負担 で親水性コートのシースを選択した.このため, の軽減が明らかとなり,TRA が大きく普及した. そこで,本学関連病院である富士市立中央病院に 換時にシースが抜けてしまうことがあるため, おける TRA の変遷,現況,および今後の有用性に 固定した. ついて検討した. ) シース挿入後は,ヘパリンをシースから投 4 与するのみであり,橈骨動脈の攣縮予防の投薬は I I .対 象 シースの可動性が増大し,カテーテルの操作・交 シース挿入後は滅菌されたテープでシース本体を しなかった.患者につとめて声をかけ,緊張をほ 富士市立中央病院は,心臓カテーテル医療ス ぐすよう努力した.スパスム出現の際には,硝酸 タッフ 3名で,年間約 5 00例の CAG,約 2 00例の イソソルビド,塩酸ベラパミルなどをシースから PCIを施行している日本循環器学会の教育関連 施設である.当院における,待機的 CAG・PCI症 投与した. 例の appr oac h部位を調査し,TRA の占める割 合,TRA を選択しない場合にはその理由,および 経年的変化について検討した.当院では,原則的 に待機症例に関しては,主治医がその病状,検査 目的,治療法,過去の検査歴などから総合的に判 断し,十分なインフォームドコンセントのうえ, ) 診断造影において,右側アプローチであれ 5 ば,4 FrBr ac hi alカテーテルを使用,左側アプ ローチであれば 4 FrJudki nsカテーテルを基本的 に使用した.PCIにおいては経大腿動脈アプロー チと同様のカテーテルを使用した. ) シースは CAG・PCI直後にカテ室にて抜 6 去した.当初は圧迫止血用パッド付絆創膏(ステ appr oac h部位を決定している.また緊急症例に 関 し て は,原 則 経 大 腿 動 脈 ア プ ローチ(t r ans プテイ)の粘着テープ部分をとりのぞき(表皮剥 f emor alappr oach;TFA)を選択しているため, 緊急症例は除外した.2 00 0年1月から 20 0 2年 1 1 め) ,エラテックスクテープに貼りなおしたうえ 月までに施行された CAG 1 , 3 8 4例,PCI60 0例 ていた.しかし圧迫による疼痛が強いこと,圧迫 のうち,待機的 CAG 1 , 15 6例,PCI41 1例を対象 圧が定量的でないことなどから,その後空気注入 とした. 法による Bl e ed s af e2(ダイリン社製)や TR (テルモ社製)などの定量的止血デバイスの band I I I .方 法 離をまねくため長時間の使用は好ましくないた で,穿刺部を圧迫止血し,バンドでさらに圧迫し 使用に変更した.これらは,穿刺部位のみを選択 ) 橈骨動脈を触知し,原則アレンテストが正 1 常であることを確認した. 的に圧迫するため,循環不全による浮腫や疼痛軽 ) 術前処置はとくに必要とせず,前投与薬と 2 して,安定剤(ジアゼパムなど)を投与し,さら 可能であることから,経時的な定量的減圧が可能 に術中カテ室には音楽を流し,患者の精神的安定 を図った. ) 穿刺およびシース :穿刺側に関しては,特 3 に限定していない.シースは,テルモ社製ラジ 減効果は顕著であり,また圧迫圧が定量的に調節 であった.4 Fr使用であれば約 3時間程度,6 Fr使 用であれば約 6時間程度の患部のみの安静・圧迫 とした.なお検査室は 1階であり,7階の病棟には 車イスで帰室している. フォーカス・イントロデューサーを使用した.穿 ) 本検討同時期に外来通院中の CAG・PCI 7 の施行歴を有する患者 16 外来受診の際, 次 7名に, 刺針は疼痛軽減もふくめ,なるべく細いものを使 回再度 CAG ・PCIを行うのであれば,どの部位か 用し,4 Frには 23G・1i nc hを,6Frには 2 0G・ らのアプローチを希望しますか 1 . 25i nc hの穿刺針を使用した.また,ミニガイド ワイヤーには,挿入性の向上を図るため,従来の 査を実施した.また,その選択理由についても聞 既製品に一部改良を加えた. CAGは 4 Fr ,PCIは ) 統計学的解析としては,2 8 0 00年 1月から 年 月までに施行された 20 0 2 1 1 TRA,TRIの経 6 Frのショートシースを原則用い,またシース挿 入時の抵抗を軽減し,攣縮の誘発を予防する目的 との聞き取り調 き取りを行った. 年的変化と TFA,TFIの経年的変化について,そ CAG・PCIにおける経橈骨動脈アプローチの有用性 れぞれ SAS Ve r s i on 9. 1を使用し Cochr an‑ Ar mi t age傾向検定を行い,p <0. 0 5を有意とした. I V. 結 果 247 理由の約 6 0% が冠動脈バイパス術後(4 1%)と右 心カテーテル施行のため(25 . 8 %)であった.経上 腕動脈アプローチ(t r ans br achi al appr oac h; TBA)を選択した理由では,腹部大動脈瘤・閉塞 2 0 0 0年 1月から 20 0 2年 11月までに施行され た待機的 CAG症例は 1, 1 5 6例,PCIは 4 11例で 脈の穿刺失敗・攣縮の発生・解剖学的問題などの あった.そのうち待機的 CAGにおける TRA 選 ために TBA に変更したものが(2 6. 9 %),それぞ 択例は 7 02例で 60 . 7 %,PCIは 21 6例で 5 2 . 6 %で れ約 3 0 % 程度であった.ただし,理由不明なもの あった.経年的変化においては,CAGで,TRA が もあり,橈骨動脈の穿刺失敗などに起因するもの 2 00 0年 5 7. 3 %,20 0 1年 55 . 7 %,2 0 02年 7 0 . 1 %と )のに対し 2 00 2年は有意に増加していた(p <0 . 05 が多く存在するものと考えられた.また,PCIに おける,TBI ・TFIの選択理由であるが,慢性完 て,TFA は 2 00 0年 2 6. 5 %,2 0 01年 2 4 . 9%,2 00 2 年は 11 . 4 %と2 0 02年は有意に減少していた(p < 全閉塞病変(Chr oni c t ot al oc cl us i on:CTO) , ) Rot at i onalAt he r ec t omy (Rot abl at or ,Di r e c - ) .さらに PCIではその変化は顕著であり, 0 . 05 TRIが 2000年 36. 9%,2001年 52. 3% , 2002年 t i onalCor onar y At he r ec t omy (DCA)などの PCIの手技によるもので,そのほとんどが 7 Fr以 )のに 6 8. 8 % と年々有意に増加していた(p <0 . 05 対して,TFIは 20 0 0年 51 . 1 %,20 0 1年 25 %,2 00 2 上のシース挿入を必要とするものであった. 年1 ) 4 . 5% と年々有意に減少していた(p <0 . 05 (Fi ) .また CAGにおいて,TFA を選択した g. 1 ,2 性動脈硬化症の術前造影のため(3 1. 2 %)と橈骨動 TRA においての合併症であるが,本検討時ま でに重篤な合併症は経験していない.1例に,術後 上腕部での血腫形成を認めたため,抗凝固薬・抗 Fi g. 1. El ect i veCAG (r at eofappr oachs i t e) Fi g.2. El ec t i vePCI( r at eofappr oachs i t e) 248 小川 ほか いことより,患者サイド・医療サイドの負担の軽 減は明らかであり,TRA の増加は当然の結果と いえる .まず CAG・PCI直後にシースはその場 で抜去,止血するため,当然医療スタッフにかか る止血のための時間は節減される.医療スタッフ が少ない施設においてはこの点は大きな利点であ る.また基本的に TRA は患者の安静を必要とせ ず,患者は直後より座位での食事はもちろん,歩 いてトイレにいくことも可能であり,長時間の安 静による腰痛がないことも含め,患者の負担軽減 Fi g. 3. Ther es ul t sofi nt er vi e wf r om out pat i ent s whoexpe r i enc edCAG and/orPCIi nourhos pi t alas t o whi ch appr oac hs i t e st he y woul d c hoos ei ncas eofne xtCAG and/ orPCI . TRA was s uppor t edby8 6. 2 % oft hepat i ent s . も明らかである.この点は TFA とまったく異な る点であり,聞き取り調査の結果にも一致するも のである.最近では大腿動脈止血デバイスも存在 するため,とくに TFIでのその使用頻度が増加し ているが ,保険上の制約や,止血成功率の問題, あるいは止血可能であっても 2 〜3時間は安静を 血小板薬の一時中止で対処し,問題なく経過した 要する点など,まだまだ TFA の止血・安静の問題 症例を認めたが外科的な観血的処置や輸血などを を解決するには至っていないと考える. 必要とした症例は認めていない.また,数例に慢 性期での橈骨動脈の脈拍触知消失例を認めたが, ACCESS試験 にみられるように穿刺部合併 症の少ない点も重要である.当院では TRA にお とくに症状もなく処置せず経過している. いて,外科的な観血的処置を必要とした症例は認 CAG・PCI施行におけるアプローチ部位に関す る聞き取り調査については,過去に CAG・PCIの めていない. 施行歴を有する当院外来通院中の患者を対象に, な点があげられるが,すべての症例で TRA が選 1 67名の患者に外来受診の際に聞き取り調査を実 施 し た.1 67名 全 例 に 回 答 が 得 ら れ,1 4 4名 択できるわけではない.慢性腎不全例・血液透析 (86 . 2 %)が次回施行するならば TRA の選択を希 望するものであった( .また,その中で過去 Fi g. 3) 絶対的に橈骨動脈の閉塞を回避したい症例におい このように他のアプローチに比し TRA の有用 例や冠動脈バイパス術の可能性が高い症例など, に TFA,TRA の両方の経験がある患者 1 1 3名に ては,TRA は選択すべきではない.そして当然な がら,橈骨動脈の穿刺失敗・攣縮の出現・大動脈 おいても,1 01名(8 9 . 3%)が次回も TRA を選択 弓に至るまでの解剖学的問題などで他のアプロー していた.その理由としては,トイレ歩行が可能 チへの変更を要する例も存在する.また本検討時 であること,腰痛など長時間の安静の問題がない においては腹部大動脈瘤・閉塞性動脈硬化症等の ことなどが主であった.なお 8名(4 . 8 %)の方が 術前造影は解剖学的理由により TRA を選択して TFA を希望されたが,その理由としては,前回 TFA でとくに問題がなかった,あるいは TRA で いなかった.しかし,橈骨動脈の穿刺に関しては, 橈骨動脈の穿刺失敗・攣縮の発生などの問題が生 腹部大動脈瘤・閉塞性動脈硬化症の術前造影も通 じたためであった.また 1 1名(6 . 6 %)の方がどこ からでもよいという回答であった. 常のカテーテル長よりも長いものを選択すること V. 考 察 本検討の結果から,年々TRA の占める割合は 有意に増加し,そのほとんどが TRA となってき ている.低侵襲であること,穿刺部合併症の少な 経験的に確実に成功率は上がるものであり,また により TRA で施行可能となった.このような変 化はバイパス術後も同様であり,両側内胸動脈造 影用カテーテルを使用することで,TRA でも施 行可能となっている .さらに右心カテーテル,冠 動脈攣縮薬物負荷例も現在,TRA を選択するこ とが通常となっている. CAG・PCIにおける経橈骨動脈アプローチの有用性 一方 PCIにおいては,DCA・Rot abl at or( Bur r ・Ki s i ze 1 . 75以上使用症例) s s i ng bal l oon t e c h・7 ni que ( KBT) Fr血栓吸引カテーテルなどの 7 Fr以上の大きなガイディングカテーテルを必要 とするものを TRA の対象外とすることが多い. 249 検定に際して,貴重なるご助言を賜りました臨床研 究開発室松島雅人先生に深謝いたします. 文 献 ) Campe 1 au L. Per cut aneous r adi al ar t er y しかし実際には 7Frでも十分 TRI可能な橈骨動 appr oach f orc or onar y angi ogr aphy. Cat het Car di ovas cDi agn1 989;16:3‑ 7. 脈を有する症例は存在する.また CTOであって ) Ki 2 eme nei jF,Lar r manGJ . Per cut aneoust r an- も,ガイディングカテーテルの支持力が 7 Fr ,8 Fr に比し弱いといえるものの,6 Frで施行可能であ る.また Rot abl at orも Bur rs i z e1. 75mm であれ ば6 FrTRIでまったく問題なく施行可能である. s r adi alar t er yappr oachf ort hecor onar ys t ent i mpl ant at i on. Cat hetCar di ovas cDi agn1 993; 30:173‑ 8. ) 孫崎信久,細田瑳一,川岸直子,山口徹,酒谷秀 3 雄,土師一夫 ほか.心臓カテーテル検査及び治療 施設間の差は大きいと思われるが,少なくとも当 後の止血ならびに早期歩行に関するコラーゲン 院に お い て は 2 0 0 2年 の DCA (3 %)と Rot abl at or( 6 %)をあわせても全体の 10 % 以下であ を用いた止血器具の有用性の検討.多施設共同研 り,適応例は決して多くない.DCA に関しては, 薬剤溶出性ステント時代の到来により,その使用 の減少が予想される.Ki s s i ngbal l oont ec hni que ( ) に関しても, 最近の内腔の大きいガイディ KBT ングカテーテルや一部のバルーンカテーテルを用 いれば,6Frでも KBT は可能である.血栓吸引カ テーテルにおいても,6 Fr対応の Thr ombus t e r (カネカ社製),TVAC(ニプロ社製)等でも,十 分な効果が得られており,すでに症例によっては 緊急例でも TRA を選択している.今後さらに TRA に移行していくと考えられる. このように TRA の制約も徐々に改善されつつ あり,今後も,デバイスの改良・開発,各施設に おける様々な工夫・努力等により,さらに発展・ 進化してゆくと考えられる. 究.JCar ‑8. di ol1 9 99;34:131 ) Sai 4 t oS,Mi yakeS,Hos okawa G,Tanaka S, Kawami t s uK,KanedaH,etal . Tr ans r adi al cor onar yi nt er vent i on i n Japane as e pat i e nt . ‑41 Cat hetCar di ovas cI nt er v1 999;4 6:37 . ) Ki 5 eme nei jF,Lar r manGJ,Odeker kenD,Sl agboom T,van derWi eken R. A r andomi z ed compar i s onofpe r cut aneoust r ans l umi nalcor onar y angi opl as t y by t her adi al ,br achi aland f emor alappr os c hes:t heacc es ss t udy. JAm Col lCar di ol1 997;2 9:12 69‑ 75. ) 吉岡二郎,赤羽邦夫,戸塚信之,澤木章二,宮澤 6 泉,臼井達也 ほか.上肢アプローチによる内胸動 脈造影 右橈骨動脈アプローチによる両側内胸 動脈造影を中心に.J pnJI nt e r v Car di ol2 002; 17:464‑ 9.
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