国際競争のもとでの国内の空港民営化政策についての分析

国際競争のもとでの国内の空港民営化政策についての分析
Analysis of internal airport privatization with international competition
公共システムプログラム
13M43130 佐藤 周 指導教員 武藤滋夫
Public Policy Design program
Amane Satou, Adviser Sigeo Muto
ABSTRACT
In this study, considering role of local airports in real life, we analyze the internal airport privatization with international
competition. In Japan, many local airports join internal hub airports. After reaching internal hub airports ,passenger may
travel to foreign countries. Taking this role of local airports into account, we propose a model in which there are two
routes from a local airport: first route is from a local airport to an internal hub airport and second route is from a local
airport to a hub airport of the other country via a internal hub airport. In this model, we analyze whether the optimal
policy of one country is privatization or nationalization, given the hub airport of the other country is privatized. We show
that (1) the optimal policy changes from privatization to nationalization as the number of passenger increase and (2)
increasing the number of passenger who use the second route narrows the range where nationalization is the optimal
policy.
第1章
はじめに
規模の国内ネットワークを有する国の場合、前者の国は国営
化を選択し後者は民営化を選択することが最適であると示し
空港民営化はイギリスやオーストラリアに始まり、世界的
ている。この結果から羽田空港における最適な政策は国営化
に民営化政策は主流な政策である。日本でも仙台空港や福岡
することであるという結論も示している。また一方の国を民
空港など民営化への動きがみられている。空港民営化のメリ
営化されているとし最適な政策を分析した場合、民営化政策
ットは公共投資の必要性が小さくなり、政府の介入や規制が
と国営化政策を比較するとある一定以上に自国の地方空港数
減り経営の柔軟性が高まることである。その結果、生産効率
を増やすと国営化政策をした方が社会厚生を大きくするとい
の改善・競争促進・資金調達の拡大が促され経営改善がなさ
う結論を示している。
れる。しかし、利益に重点が置かれてしまうと私的独占によ
本研究では地方空港の役割を再度考察し、より現実に近い
る価格の上昇・低質なサービスの提供・必要最小限の投資に
形で分析を行う。Kawasaki (2013) において地方空港は『地
よる不十分な投資などのデメリットが発生する可能性がある。 方空港から国内のハブ空港』と『地方空港から相手の国のハ
近年では、理論研究において空港民営化の研究が盛んに行
ブ空港』へ向かう2つの航路を有していた。しかし、日本に
われるようになってきている。理論研究における空港民営化
おいては国内線の旅客の 78%が国内の主要ハブ空港に集中し
の研究には①民営化が与える投資と着陸料への影響②民営化
ており、地方空港の役割は国内のハブ空港(羽田空港や関西
政策と国営化政策の比較による最適な政策の分析③空港部門
空港)への輸送と言っても過言ではない。これを考慮し地方
(滑走路)と非航空部門(建物)の一体経営についての比較
空港の航路を『国内のハブ空港へ向かう航路』と『国内のハ
に分かれている。
ブ空港を経由し海外のハブ空港へ向かう航路』の2つとし地
方空港の役割を変え分析を行う。本研究では一方の国の空港
第2章 先行研究の紹介と本研究の特徴
をハブ空港のみであり、すでに民営化されている状況を仮定
する。この状況下でのもう一方の国の最適な政策を分析する。
理論研究において国際競争が行われている中での最適な政
策について分析したのが Matsumura and Matsushima (2012) で
第3章 基本モデル分析
ある。この研究では両国の空港を民営化するという政策が最
適であるという結論を得ている。実際、ヨーロッパを中心に
新しい航路を設定するモデルを考えていく前に地方空港の
イギリスのヒースロー空港やフランスのシャルル・ド・ドゴ
航路を『国内のハブ空港へ向かう航路』のみとしたモデルケ
ール空港・アメリカの JFK 国際空港・オーストラリアのシド
ースをまず考察する。
ニー空港など多くの空港が民営化されている。しかし、国内
3.1 モデル
線ネットワークを考慮すると一概に民営化政策を推進するこ
このモデルでは2つの国(A 国と B 国)を想定し、A 国の総
とが最適であるとは言い切れない。それを示したのが
利用者数を
、B 国の総利用者数を
とする。A
Kawasaki (2013) である。この研究では国際競争が行われて
国にはハブ空港 と地方空港 が存在し、B 国にはハブ空港
いる中で国内の地方空港が n 個存在し、国内線ネットワーク
のみが存在する。B 国に存在するハブ空港 は民営化され
の大小に応じた最適な政策を提示している。両国が大きな国
ている状態であると仮定する。航空会社はそれぞれの国に1
内ネットワークを有している場合は共に国営化を行うことが
つずつ設立されており、航空会社1は A 国に属し、航空会社
最適な政策となり、大きい国内ネットワークを有する国と小
2は B 国に属する。航空会社1は『ハブ空港 からハブ空港
』
・
『ハブ 空港からハブ空港 』
・
『地方空港 からハブ空
港 』の3つの航路を持っており、航空会社2は『ハブ空港
からハブ 空港』
・
『ハブ 空港からハブ空港 』の2つの航
路を持っている。
航空会社を利用する乗客は以下の3つの場合を考える。(i)
ハブ空港 を出発しハブ空港 に向かう航路を利用する乗
客(ii)ハブ空港 を出発しハブ空港 に向かう航路を利用
する乗客(iii)地方空港 を出発しハブ空港 に向かう航路
を利用する乗客(i)(ii)(iii)の利用者数をそれぞれ ・ ・
とする。 ・ ・ は以下の式を満たす。
は
i 国の総利用者数である。 (2)式は国土交通省のホームページ
で公開されている航空旅客数の推移をもとに導出した。
次に利用者の効用関数と予算制約式を定義する。
(i)の場合
となる。
次にこのモデルでのゲームの流れを説明する。まずこのモ
デルは 3-stage game を想定している。まず第1期に A 国の政
府が空港を民営化もしくは国営化する政策を選択する。第2
期においては A 国と B 国の空港管理者が着陸料( ・ )
を決定する。このとき A 国の管理者は第1期で選択した政策
に基づき着陸料を決定し、B 国は民営化政策に基づき着陸料
を決定する。民営化政策に基づく場合は目的関数が空港の利
潤関数、国営政策の場合は社会厚生関数が目的関数となる。
第3期では航空会社1と航空会社2が第2期に決定された着
陸料をもとに運賃を決定する。両航空会社は価格競争を行っ
ており、利潤を最大化するように価格を決定する。本研究で
はこのゲームを逆向き帰納法で解いていく。
3.2 均衡の導出
3.2.1 第三期分析
まず第 3 期から考察していく。航空会社の目的関数は利潤
関数である。(3)(4)(5)(6)式より一階条件を求める。
一階条件より
(ii)の場合
(iii)の場合
航空
の『ハブ空港 からハブ 空港』航路を利用
した際の運賃と一人あたりの利用量を
、 航
空の『ハブ空港 からハブ空港 』航路を利用した際の運賃
と一人あたりの利用量を
、航空会社1の『地
方空港 からハブ空港 』航路を利用した際の運賃と一人あ
たりの利用量を
と表している。 は製品の差別化の
度合いを表すパラメーターである。この場合の製品の違いは
サービスとしている。例えば
の時、2社が同等のサービ
スを提供しており、完全代替が成り立っている。一方で
の時、2社のサービスが全く異なり、2社の製品はそれぞれ
独立していると言える。
は所得を表しており、
は航空運賃以外に支出する支出額を表している。
次に効用関数と予算制約式から需要関数を求めると
航空会社は1機運行させる時出発した空港と目的地の空港
に着陸料を払うとし、着陸料以外のコストを 0 とする。これ
らを考慮し航空会社の利潤関数を示すと
3.2.2 第二期分析
A 国が民営化政策を行う場合と国営化政策を行う場合の2
ケースについて分析していく。
2 国がともに民営化政策を行う場合
このケースでは両国の空港管理者の目的関数は空港利益と
なる。(7)(8)(10)~(13)式を用いて一階条件を求める。
一階条件より
A 国が国営化政策を行い B 国が民営化政策を行う場合てすと
このケースでは A 国の目的関数は社会厚生であり、B 国の
目的関数は空港利益である。(8)~(13)式を用いて一階条件を求
める。
一階条件より
次に
(
)に
を代入し
空港の利潤関数は
(
)
を得る。これらを(10)~(13)式に代入し各航路の運賃と着陸
消費者余剰は
料を A 国が民営化した場合と国営化した場合の2つのケース
で比較を行うと次のことが分かった。
任意の , において
社会厚生は
が成り立つ。この分析は mathematica を用いて行った。
得られた結果の説明を行っていく。民営から国営に政策を
変更することで政府は消費者余剰を重視するようになり、着
陸料を減少させる。つまり、
を減少させる。一方で、 は
戦略代替性により
が減少すると増加するので
という結果になる。次に運賃についての大小比較の説明を行
う。2ヵ国の空港が民営化されると
と
が増加す
る。着陸料が増加すると
と も増加し、全ての航路の運
賃は民営化されると上昇することになる。
3.2.3 第1期分析
ここでは両国が民営化政策を行った場合の社会厚生
と A 国のみ国営化政策を行った場合の社会厚生
の比較を行う。
は第二期分析から求め
た各航路の
と
を
に代入し求
める。分析は mathematica を用いて行った。
得られた結果を記す(図1参照)
。ある一定の狭い範囲
のみ の値が政策に影響を与え、それ
以外の範囲では
の値に関わらず の値が政策に影響を与
えていることが分かった。直感的な説明は以下のとおりであ
る。国営化することで消費者余剰を重視するため着陸料を減
少させ消費者余剰を増加させるが、空港利益は減少する。地
方空港からの航路の利用者が少ない場合、着陸料の減少によ
る消費者余剰の増加分は空港利益の減少分より小さく国営化
するメリットがない。しかし、地方空港からの航路の利用者
が増加するにつれ着陸料の減少による消費者余剰の増加幅が
増える。増加分が空港利益の減少分より大きくなった時、国
営化する政策を採ることが最適となる。
1
式は国内線の利用者数が国際線の利用者数の 1.5 倍という仮
定のもと導出している。
(14)式の制約を加えると(iv)の利用者の効用関数と予算制約
線は以下となる。
この効用関数と予算制約式から(iv)の需要関数を求めると
航空会社の利潤関数を示す。着陸料以外のコストを 0 とす
る。
空港の利潤関数は
A 国の消費者余剰は
社会厚生は
0
【図1】
第4章 拡張モデル分析
本研究は基本モデルに『地方空港 からハブ空港 』とい
う新しい航路を設けたモデルを分析する。
4.1 モデル
ここでは基本モデルで設定した航路に加えて、
『地方空港
からハブ空港 』という新しい航路を設けた状況を考える。
この航路は航空会社1を利用し地方空港 からハブ空港
へ向かい、ハブ空港 を経由して航空会社1もしくは航空会
社2を利用しハブ空港 へ向かう航路である。この航路を既
存の航路(『ハブ空港 からハブ 空港』
・
『ハブ空港 から
ハブ空港 』・
『地方空港 からハブ空港 』)と区別するた
め新しい変数を次のように定義する。
『地方空港 からハブ空
港 』航路における『地方空港 からハブ空港 』間の一人
あたりの利用量と運賃を
とし、
『ハブ空港 からハブ
空港 』の一人あたり利用量と運賃を
(
)と
する。そして、
と
(
)は以下の式を満たす。
(16)式の説明をする。これはハブ空港 へ向かうにはハブ
空港 を経由しなくてはならないことを表す。
このモデルでは基本モデルにおける3つの航路の利用者
(i)・(ii)・(iii)に加え、(iv)地方空港 を出発しハブ空港 に向か
う航路を利用する乗客を考慮する。新しく加えた利用者の人
数を とし、基本モデル同様 (i)(ii) (iii)の利用者数をそれぞれ
・ ・ とする。 ・ ・ ・ は以下の式を満たす。(16)
このモデルでのゲームの流れは 3-stage game を想定してい
る。第1期に A 国の政府が空港を民営化もしくは国営化する
政策を選択する。第2期においては A 国と B 国の両国が着陸
料( ・ )を決定する。第3期に航空会社1と航空会社2
が第2期に決定された着陸料をもとに運賃を決定する。両航
空会社は価格競争を行っており、利潤を最大化するように価
格を決定する。逆向き帰納法を用いて分析する。
4.2 均衡の導出
4.2.1 第三期分析
まず第 3 期から考察していく。航空会社の目的関数は利潤
関数である。(3)(4)(17)~(20)式より一階の条件を求める。
一階条件より
1
1
0
0
1
4.2.2 第二期分析
2ヶ国の政府が民営化政策を行った時と1国の政府のみが
国営化政策を行った場合の
を求めていく。
2 国がともに民営化政策を行う場合
このケースでは2国とも目的関数は空港利益となる。
(21)(22)(24)~(30)式より一階条件を求める。一階条件より
が求まる。
A 国が国営化政策を行い B 国が民営化政策を行う場合
このケースでは A 国の目的関数は社会厚生であり、B 国の
目的関数は空港利益である。一階の条件より
が求まる。
次に、
『地方空港 からハブ空港 』航路の利用者数 が
総利用者数の(Ⅰ)50% (Ⅱ)25% (Ⅲ)10%が利用するという3つ
のケースを考える。別の形で記すと(Ⅰ)
(Ⅱ)
(Ⅲ)
と表せる。(15)(16)式を用いて
(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ) それぞれのケースにおいて求めた
を
(
)に代入すると
を(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)それぞれのケースにおい
て求めることができる。
これらを(24)~(33)式に代入し比較する。分析は mathematica
を用いて行った。そして、次の結果を得た。
任意の , において
が(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)のケース全てで成り立つ。
の比較
においては(Ⅰ)(Ⅱ)(Ⅲ)のケースともに大部分の範囲で
となる結果を得た。しかし、(Ⅰ)(Ⅱ)のケース
における , の値が共に高いとき
となる範
囲が存在する。この範囲は
の値が小さくなるにつれ範囲
が狭くなり(Ⅲ)においては完全に民営化の時のほうが高くな
る。
の比較では
の値に依存し大小関係が変
化する。 の値が小さくなるにつれ、
となる
範囲が狭くなる。
4.2.3 第一期分析
この分析では両国が民営化政策を行った場合の社会厚生
と A 国のみ国営化政策を行った場合の社会厚生
の比較を行う。
は第二期分析から求め
た各航路の
と
を
に代入し求め
る。この比較を『地方空港 からハブ空港 』航路の利用者
数 が総利用者数の(Ⅰ)50% (Ⅱ)25% (Ⅲ)10%の3つ場合で
考察する。分析は mathematica を用いて行った。
得られた結果を示す(図2参照)
。(Ⅰ)(Ⅱ) (Ⅲ)のケースとも
に
が大小関係に大きく影響することが分かった。そして、
民営化した方が社会厚生を大きくする範囲が広いことが分か
った。しかし、 の値が高いとき国営化した方が高くなる範
囲も存在する。その範囲は
の値が大きくなるにつれ範囲が
狭くなる。また、 が小さくなるにつれモデルケースの結果
に近くなり、
のとき新しい航路の利用者が 0 になり
モデルが基本モデルと一致する。
1
(Ⅰ)
第5章
1
1
0
0
1
1
(Ⅱ)
0
1
1
0
(Ⅲ)
【図2】
結論と今後の課題
今回の分析では B 国の空港が民営化されているという仮定
のもと基本モデルおよび基本モデルに新しい航路『地方空港
から相手国のハブ空港』を加えたモデルにおいて最適な政策
を分析した。基本モデルでは『地方空港から国内のハブ空港』
の航路の利用者数( )によって最適な政策は変化し、どち
らの政策も最適な政策になりうるという結果を得た。しかし、
Matsumura and Matsushima (2012)では A 国は任意の外生
変数に対して民営化政策を行う方が社会厚生は大きくなると
いう結果を示していた。国営化による消費者余剰の増加分が
空港利益の減少分より小さくなるため国営化が最適な政策と
なり得なかった。本研究の基本モデルでは地方空港が加えら
れたことで国内利用者も考慮されている。国内線の利用者は
着陸料の減少による消費者余剰の増加幅が大きいため国営化
による消費者余剰の増加分をより増やし、その結果空港利益
の減少分より大きくなり国営化が最適な政策となり得る。つ
まり、地方空港を加えることで国営化が最適な政策となると
いう結果を得た。この基本モデルに『地方空港から相手国の
ハブ空港』の航路を加え分析を行うと、基本モデルと同様に
どちらの政策も最適な政策になりうるという結果を得た。国
営化政策が最適な政策となるのはある一定数以上に『地方空
港から国内のハブ空港』の航路の利用者数( )が増加した
ときである。この結果は Kawasaki (2013) で示されている結
果に類似している。この結果に加え、本研究では各航路の利
用者数の変化が政策に与える影響を分析することができた。
新しい航路の利用者が増加するにつれ国営化が最適な政策と
なる範囲が狭くなり、全利用者の半分が利用するとほぼ民営
化を選択することが最適な政策となる。今後の課題は2つあ
る。1つ目は B 国を民営・国営のどちらも選択できるモデル
を考え、両国にとって最適な政策を分析することである。2
つ目は地方空港の数を増やし、より応用性のあるモデルで分
析することである。
参考文献
【1】アン・グラハム(2010),中条潮・塩谷さやか訳,『空港経営―民
営化と国際化―』中央経済社,pp.9-10.
【2】国土交通省ホームページ, 航空旅客数・貨物取扱量の推移
航空旅客数【国内】
:http://www.mlit.go.jp/common/000997442.pdf
航空旅客数【国際】
:http://www.mlit.go.jp/common/000997441.pdf
【3】Akio Kawasaki (2013) “Airport privatization competition
including domestic airline networks” , working paper.
【4】Matsumura, T., and N, Matsushima, (2012) “Airport
Privatization and International Competition” Japanese Economic
Review, Vol. 63, No 4, pp431-450.