内臓機能・体液系講義 内分泌生理 臨床例検討 神田 智史 平野 琢土 福井 駿介 症例1 65歳、女性。軽度の高血圧で外来通院中に 血清Ca値 11.2 mg/dl (正常値:8.4~10.0) を 指摘された。 考えられる診断名を挙げよ。 鑑別のために必要な検査は? 高カルシウム血症 症状 全身症状 脱水・倦怠感・易疲労感 消化器症状 悪心・嘔吐・食欲不振・消化性潰瘍・膵炎 ⇒ガストリン分泌の亢進 神経・筋症状 傾眠傾向・近位筋の筋力低下・うつ状態・意識障害 ⇒脱分極が起こりにくい 尿路系症状 口渇・多飲・多尿・腎機能低下 ⇒抗利尿ホルモンの作用が阻害される 尿路結石 ⇒大量のCa²⁺が尿路から排出 その他 関節痛・皮膚瘙痒感・帯状角膜症 ⇒異所性石灰化が起こる Ca代謝にかかわるホルモンと臓器 ・ 副甲状腺ホルモン ・ カルシトニン ・ 活性型ビタミンD₃ 腎や骨、小腸に作用する 副甲状腺ホルモンとCa代謝の関係 症例1 65歳、女性。軽度の高血圧で外来通院中に 血清Ca値 11.2 mg/dl (正常値:8.4~10.0) を指摘された。 考えられる診断名を挙げよ。 鑑別のために必要な検査は? 考えられる症状は… ~Hint~ 高カルシウム血症ということは、副甲状腺の機能が どうなっているのか? ① 原発性副甲状腺機能亢進症 ② 悪性腫瘍 ③ ビタミンD中毒症 これら3つの疾患を鑑別するために、血中のPTH、 活性型ビタミンD₃、リンの濃度を調べる PTH 活性型ビタミンD₃ リン 原発性副甲状腺 機能亢進症 悪性腫瘍 ビタミンD中毒症 症例2 35歳、女性。数年前から時に足が「つれ る」ことがある。そのつど近医を訪れるが、 異常はないといわれていた。身体所見など に異常はない。他医で血清Caを測定したと ころ 6.5 mg/dlであった。血清アルブミン4.1 g/dl (正常値: 4.0~5.5)。 鑑別診断は? 症例3 23歳、男性。職業はバーテンダー。最近疲 れやく、全身の骨に痛みがあるという。血清 Ca値 7.4 mg/dl, リン 2.2 mg/dl (正常値: 2.5 ~4.5), アルブミン 3.8 g/dl。 鑑別診断は? 体内でのCaの分布 体内のCaの割合 血液中のCaの割合 骨 99% 遊離Ca²⁺ 60% 血液 1% 蛋白結合性Ca 40% 血液検査で血清Ca値を測定する際、 低アルブミン血症におけるCa補正が必要である。 低カルシウム血症 症状 テタニー症状 手・足・口唇のしびれ、全身痙攣 ⇒脱分極に要する電位差の低下による 中枢神経症状 いらいら、記憶力低下、錐体外路症状 ⇒神経細胞の被刺激性が高まるため 異所性石灰化 ⇒CaがPとともに大脳基底核に沈着する 消化器症状 腹痛、悪心、嘔吐 ⇒Oddi括約筋の攣縮による 呼吸器症状 喘息、呼吸困難 ⇒喉頭筋・呼吸金の攣縮による その他 白内障、皮膚乾燥、色素沈着 毛髪は粗、爪は脆弱化 テタニー症状 クボステーク徴候 トルソー徴候 考えられる症状は… ~Hint~ 低カルシウム血症ということは、副甲状腺の機能が どうなっているのか、またその他の原因は? ① 副甲状腺機能低下症 ② ビタミンD欠乏症 副甲状腺機能低下症について 病因 PTH分泌 特発性 免疫異常(HAM症候群) 先天性形成不全 (DiGeorge症候群) 副甲状腺の破壊や形成不全により PTH分泌は低下する 続発性 甲状腺・頸部の手術 副甲状腺の摘出により低下する 偽性 腎臓・骨のPTH受容体異常 PTHが標的細胞に作用できず、血 中Ca濃度が低下するため副甲状 腺からのPTHの分泌は増加する 特発性と続発性は病因は異なるが、 PTH分泌の低下による病態は同じである ビタミンD欠乏症の原因 1.経口的なビタミンDの摂取不足 2.日光の曝露不足 3.腎の先天性異常(小児のくる病) 4.肝機能障害、慢性腎不全(成人の骨軟化症) ビタミンD欠乏症の症状 ・X脚、O脚となる(くる病) ・骨折の増加や自発痛による歩行困難(骨軟化症) これら3つの疾患を鑑別するために、血中のPTH、 活性型ビタミンD₃、リンの濃度を調べる PTH 活性型ビタミンD₃ リン 特発性・続発性 副甲状腺機能 低下症 偽性副甲状腺機能 低下症 ビタミンD欠乏症 症例4 25歳、男性。ネフローゼ症候群で通院中。 6.8 mg/dlの低Ca血症を指摘された。 診断は? ネフローゼ症候群 糸球体基底膜(血液を濾過し尿を作る部分)の障害により、 本来もれ出ることのない高分子蛋白質(主としてアルブミン) が尿中にもれ出してしまう症状。 診断 低アルブミン血症による低カルシウム血症と考えられ、 低カルシウム血症については、生体の機能に問題はないため、 治療をしていく必要はないと考えられる。 症例5 28歳、女性。職業、看護師。最近2~3カ 月、体重減少(約2 kg)、手の震え、過剰発 汗出現。血清甲状腺ホルモンT4 18.6 mg/dl(正常値:5.8~10.1)を指摘された。 鑑別診断のため、病歴、診察、検査でどん な情報がほしいか? 甲状腺ホルモンT4 ・サイロキシンという。T3(トリヨードサイロニン) というものもあり、どちらも甲状腺から分泌され る。 • 体内を循環し、身体の代謝を高めるホルモン 。 • 過剰に分泌される疾患を甲状腺機能亢進症 、分泌が不足する状態を甲状腺機能低下症 という。今回のケースは前者である。 各種病態でのホルモンの変化:フィードバックの理解 正常 甲状腺 バセドウ病 甲状腺ホルモン TSH 慢性 下垂体性 ホルモン 産生腫瘍 産生腫瘍 甲状腺炎 機能低下症 過剰投与 (プランマー病) (橋本病) TRH TSH T3/T4 刺激型抗TSH 受容体抗体 甲状腺ホルモン過剰摂取と診断するためには 1.病歴として、やせ薬(甲状腺ホルモン)の過 剰摂取をしていたかどうかを見る 2.TRH,TSHが低下で甲状腺ホルモンが過 剰なのはこの場合と、Basedow病とプラン マー病であるが、この場合、甲状腺(首)が腫 れていないことにより鑑別できる。 3.プランマー病も甲状腺は腫れていないが、 腫瘍があるので、それにより鑑別。 Basedow病と診断するためには 前スライドでも書いたように、TRH,TSH値が低下していて、 甲状腺ホルモンが亢進しているのは3つ。Basedow病であ ると鑑別するためには、びまん性甲状腺腫があるかどうか (甲状腺が腫れているかどうか)を見る。 甲状腺が腫れていることにより、TSH産生腫瘍もあり得る。あと はTSH値が高いことによりTSH産生腫瘍であると鑑別する。 ←Basedow病の症状 症例6 57歳、女性。1年ほど前から前頸部に腫 瘤出現。症状はほとんどない。、血清甲状 腺ホルモンT4 6.1 mg/dl(正常値:5.8~ 10.1)、TSH 15.9 mU/ml (正常値:0.5~5) を指摘された。 鑑別診断は? TSHが高くて、甲状腺ホルモンが正常であることについて 甲状腺の機能が低下する 甲状腺刺激ホルモン(TSH)が異常に産生される 見かけ上甲状腺ホルモン値は正常→だから症状がほとんどない つまり、、、甲状腺の機能は低下している!!!! 甲状腺機能低下症 • 症状には、、、 1.寒がり 2.皮膚の乾燥 3.発汗量が減少 など 今回の場合、甲状腺ホルモンが低下したわけではないので、少 しずれる。 ・潜在性甲状腺機能低下症 T4ホルモン値は正常で、TSHのみが基準 値以上である場合を甲状腺機能低下症の 中でも、潜在性甲状腺機能低下症という。 このため、鑑別するとまではいかないが、 TSH値が10μU/mLを超えていると認知能 が低下したり、動脈硬化が進むと考えられ ている。つまり、今回の場合は大幅に超え ているため、あてはまる。 症例7 7歳、男児。軽度の成長障害を指摘され、 来院。血清甲状腺ホルモンT4 12.3 mg/dl (正常値:5.8~10.1)、TSH 7.5 mU/ml (正 常値:0.5~5)を指摘された。 鑑別診断は? ~問題点~ 1.甲状腺ホルモンT4が過剰に分泌されているに も関わらず、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が抑制 (ネガティブフィードバック)されていない TSH不適合分泌症候群 ・甲状腺ホルモン不応症 ・TSH産生腫瘍 各種病態でのホルモンの変化:フィードバックの理解 正常 バセドウ病 TSH 産生腫瘍 慢性 下垂体性 甲状腺炎 機能低下症 (橋本病) ??? TRH TSH T3/T4 刺激型抗TSH 受容体抗体 軽度の甲状腺 機能低下症 甲状腺ホルモン不応症 ・甲状腺ホルモンは体の中にたくさんあるのに、ある原因で 甲状腺ホルモンの働きが鈍くなる病気のこと。 ・成長障害は甲状腺ホルモンがうまく働いてないことが一因 となっていると考えられる。 体が甲状腺ホルモンの働きを感じなくなる。 TSHが分泌される。 甲状腺ホルモンがまた分泌される。 どちらの病気も甲状腺は腫れていて、TSH,甲状腺ホルモン 値は高い。よって、鑑別は難しい。 甲状腺ホルモン受容体(ホルモン不応症)異常疑い ↓ 甲状腺ホルモン過剰投与でも反応しない? 甲状腺ホルモン過剰投与による 甲状腺ホルモン作用に対する反応性の検査 T3投与 入院日 1 50 mg /日 2 3 4 ↓ 脈拍 TSH,T3,T4 生化学的検査 100 mg /日 200 mg/日 5 6 7 8 9 10 ↓ ↓ 脈拍 脈拍 TSH,T3,T4 TSH,T3,T4 生化学的検査 生化学的検査 11 (日) ↓ 脈拍 TSH,T3,T4 生化学的検査 (永山 追加) 症例8 血液ガス: pH PaCO2 HCO3- 7.44 (7.35-7.45) 42 mmHg (35-45) 28 mEq/l (22-26) 電解質: Na K Cl 150 mEq/l (136-148) 1.9 mEq/l (3.6-5.0) 108 mEq/l(96-108) 39歳、男性、10年前から高血圧を指摘され、6年前から 高血圧が悪化しているという。一過性の四肢麻痺の既往 もある。身体所見としては血圧166/100 mmHg(降圧薬服 用中)の他には特記すべき所見はない。 Henderson-Hasselbalchの式 pH = pK + log [HCO3¯] / [H2CO3] H2CO3 (mmol/l)=0.03 x pCO2 (mmHg) 代謝性アルカローシス、高Na、低Kであることから 以下の病を患っている可能性が考えられる。 ・原発性アルドステロン症 ・偽性アルドステロン症 ・腎血管性高血圧症 ・リドル症候群 (永山追加) 代謝性アルカローシスの原因 低カリウム血症の鑑別 1.消化管からの酸の喪失 1.代謝性アシドーシスを伴う場合 嘔吐 下痢 吸引などによる胃液喪失 尿細管性アシドーシス 2.尿中への酸の喪失 鉱質コルチコイドの過剰 2.代謝性アルカローシス 利尿薬の使用 高血圧を伴う 3.外因性のアルカリ投与 原発性アルドステロン症 重炭酸ナトリウム 腎血管性高血圧 クエン酸塩(輸血製剤に含まれる) 甘草などの漢方薬服用 Liddle症候群 血圧正常 Bartter症候群 偽Bartter症候群 (利尿薬服用) アルドステロンとは アルドステロンは,副腎皮質から放出されるホルモン 腎臓の尿細管でのNa+再吸収とそれに伴う水分吸収, およびK+の排出を促進 傍糸球体細胞から放出されるレニンという物質によって 調節されている。 原発性アルドステロンと 偽性アルドステロン症 腎血管性高血圧 腎動脈狭窄により腎臓への血液量が低下することで、体内 が低圧状態である、と腎臓が誤って認識してしまい、その結 果として引き起こされる高血圧のこと。 高Na血症、低K血症がみられる。 リドル症候群 アミロライド感受性ナトリウムチャンネルの遺伝子異常により Naと水分を過剰に再吸収し、それに伴いKとHを過剰に排出し てしまう病気。 これにより、高Na血症や低K血症となる。 以上4つの疾患は病状が似ており鑑別することが 難しい。 アルドステロン濃度とレニン活性を調べる。 原発性アルドステロン症 偽性アルドステロン症 腎血管性高血圧症 リドル症候群 アルドステロン濃度 上昇 低下 上昇 低下 レニン活性 低下 低下 上昇 低下 症例9 血液ガス(room air): pH PaCO2 HCO3電解質: Na K Cl 6.99 22 mmHg 8 mEq/l 138 mEq/l 3.9 mEq/l 104 mEq/l (7.35-7.45) (35-45) (22-26) (136-148) (3.6-5.0) (96-108) 71歳男性。意識障害で救急車にて来院。11年前から糖尿病の指摘 を受け、4年前よりインスリンの自己注射を行っている。5日前より、 37℃台の発熱と下痢が持続、2日前より食欲低下のためインスリン自 己注射を中止していた。昨夜頻回に嘔吐していたという。 来院時に大きな声で呼びかけると開眼するが、すぐに目を閉じる。体 温37.9℃、胸部に湿性ラ音を聴取、浮腫はない。血圧112/68 mmHg, 脈拍114/min, 口腔, 皮膚乾燥著明,血糖872 mg/dl, 尿糖3+,尿タン パク+,尿ケトン体3+。 アニオンギャプとは? Anion gap = Na - (Cl + HCO3) (正常値:10-14 mEq /l) 代謝性アシドーシスかつアニオンギャップの上昇により 以下の病を患っている可能性が考えられる。 ①ケトン性アシドーシス ・糖尿病性アシドーシス ・アルコール性アシドーシス ②尿毒症性アシドーシス ③乳酸性アシドーシス ④薬物中毒-サリチル酸、メタノール 糖尿病性アシドーシス インスリンを投与している糖尿病患者が、風邪をひいた ときなどにインスリンの投与を怠るとケトアシドーシスを 引き起こしてしまうことがある。 症状としては、頻尿、多尿、多飲、脱力、疲労、および精 神状態の変化、体重減少、悪心・嘔吐、クスマウル大呼 吸、視力障害および意識障害など。 アルコール性アシドーシス 慢性のアルコール過剰摂取患者が食事を取らないで多 量に飲酒した後に起こることがある。 症状としては、悪心、嘔吐、腹痛、クスマウル大呼吸、頻 脈など。 血糖値は通常、低い。 尿毒症性アシドーシス 腎機能の低下により起こる臓器、組織、さらには細胞機 能の障害により起こる。 全身倦怠感 、クスマウル大呼吸、高血圧、心不全、不整 脈、悪気・嘔吐、食欲不振、便秘・下痢、腹痛、味覚障害、 口内炎、アンモニア口臭などの症状がある。 乳酸性アシドーシス 肝機能障害などで乳酸の分解に障害が生じ、体内に乳 酸が蓄積しすぎることで引き起こされる。 特定の薬剤でも副作用的に引き起こされることがある。 症状は意識障害、口渇、多飲、体重減少、全身倦怠感 など。 (永山追加) 症例10 血液ガス: pH PaCO2 HCO3生化学: Na K Cl BUN Cr 7.34 32 mmHg 18 mEq/l 140 mEq/l 5.5 mEq/l 112 mEq/l 36 mg/dl 2.4 mg/dl 48歳、男性。12年前より糖尿病を指摘され食事療法を行ってい た。4年前より視力障害を訴え、光凝固を行ったが著明な改善は 認められなかった。血圧160/96 mmHg。 尿検査:タンパク(2+)、糖(2+)、潜血(-)
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