アミオダロン誘発性甲状腺機能異常症の 病態,診断

NP
Pr
og.Med.
2
0(s
.
1):5
95∼60
9,
200
0
uppl
特別講演
アミオダロン誘発性甲状腺機能異常症の
病態,診断および治療法
佐
藤 幹 二
件下で処理してやると,甲状腺濾胞のまま取り出すこ
はじめに
とができる .この甲状腺濾胞を,agar
os
eを塗付し
甲状腺は,心臓とは異なり頸部の皮下にあるので,
て細胞が接着できないようにした培養ディッシュにて
触診すれば大概のことがわかる .甲状腺は,輪状軟
培養すると,甲状腺細胞を濾胞のまま,浮遊状態で長
骨のすぐ下に位置して気管軟骨に張り付いているの
図1
期間培養することができる(
)
.この培養液中に,
で,輪状軟骨を触知できれば,甲状腺を確実に触診す
TSH と
ることができる.正常の甲状腺は,甲状腺が触れない
機ヨード( I
)を取り込み,有機化して甲状腺ホルモ
か,あるいはわずかに触れる程度である.本日,お話
ンを合成し,培養液中に denov
oに合成された甲状
しするアミオダロン誘発性の甲状腺ホルモン中毒症で
腺ホルモン( I
-T4および
は,時に少し痛みを訴える者もいるが,大部 は痛み
この際,甲状腺濾胞に取り込まれた
も結節もない甲状腺である.本日お集まりの c
ar
di
-
し,培養液中に 泌された甲状腺ホルモンを ● 印で示
ol
ogi
s
tの方々は,甲状腺にあまりなじみがないと思
したものが,図 2である .
われるので,まず最初に,甲状腺は何をしているのか
といった基本的なことから紹介したい.
Iを添加して培養すると,甲状腺濾胞は無
-T3
)
を 泌してくる.
I
Iをカラムで示
ヒトの TSH は,0
.
1μU/
mLの低濃度でも,甲状
腺濾胞細胞を刺激し
Iの取り込みを促進しているこ
とが明瞭である.さらに,高濃度になると TSH は培
甲状腺ホルモン産生は
養液中に deno
v
oに合成された甲状腺ホルモン
I
-
正常範囲の TSHにより調節されている
T4
+ I
T3 を 泌する.正常人の TSH の正常値は
甲状腺は,甲状腺濾胞細胞が集まって濾胞構造を形
0
.2
∼4.
0μU/
mLの範囲であるが,この図より,こ
成している.濾胞細胞膜上には,TSH 受容体が発現
の範囲の TSH により甲状腺ホルモンの
泌が調節さ
している.TSH によって TSH 受容体が刺激される
れていることが理解できる.甲状腺ホルモンが不足し
と,ヨードを取り込み,これを有機化して,サイログ
た場合には,下垂体より TSH が大量に
ロ ブ リ ン 上 で monoi
odot
yr
os
i
ne(MI
T),お よ び
るので,甲状腺を刺激して甲状腺ホルモンの 泌が一
(DI
di
i
odot
yr
os
i
ne
T)を 合 成 し,さ ら に MI
T と DI
T
段と促進される.
泌されてく
を coupl
i
ngさ せ て t
r
i
i
odot
hyr
oni
ne(T3), DI
Tと
ところで,この 3
0年間に TSH の測定法は,1
0年
(
を合成する.
DI
T を coupl
i
ngさせて t
hyr
oni
ne
T4)
間隔で 1
0倍以上ずつ測定感度が増しており,第 2世
合成された T3
,T4は甲状腺濾胞内に貯蔵されてお
代の TSH 測定法では 0.
1μU/
mL,さらに最近の第
り,TSH に刺激されるとサイログロブリンが
3世代の超 高 感 度 TSH 測 定 法 で は 実 に 0
.
00
5μU/
解さ
れて,血液中に T3
,T4として 泌されてくる.
.第 2世代のキ
mLまで測定可能となっている(図 3)
ところで,バセドウ病患者の甲状腺亜全摘術の際に
得られた甲状腺を di
s
pas
eや c
ol
l
age
nas
eで適当な条
K.Sat
o:東京女子医科大学内
第二内科助教授
泌疾患
合医療センター
ットで TSH を測定して 0
.1μU/mL以下,特に第 3
世代の測定キットで 0
.0
0
5μU/
mL以下であれば,甲
状腺ホルモン過剰症であると断言してよい.ところ
で,このように甲状腺ホルモンが過剰になる病態には
―1
6
55
(9
5
)―
.
20
.12
00
0
図1 I
nv
i
t
r
oでの甲状腺ホルモンの合成
泌系
甲状腺は濾胞より構成されている.バセドウ病患者の手術時に得られた甲状腺切片より濾
胞を採取して,浮遊状態で培養することにより,TSH やバセドウ病 I
gGに反応してヨード
を取り込み,培養液中に denov
-T4
+ I
-T3)を 泌す
oに合成された甲状腺ホルモン( I
るバイオアッセイ系を樹立することができる.
図 3 TSHの測定法の進歩
図 2 hTSHの甲状腺ホルモン
最近,開発された第 3世代の超高感度法により TSH(測定感
度 0.
01μU/mL以下)を測定すれば,患者が甲状腺機能亢進症
か否か,即座に診断できるようになっている.
泌刺激活性
ヒト甲状腺濾胞を浮遊状態でヒト TSH(
hTSH)を含んだ培
養液中で培養しておき, Iを添加して 3日間培養後に,甲状
腺濾胞に取り込まれた Iおよび培養液中に 泌された甲状腺
ホルモン
I
T4+ I
T3 を示す.ヒトの甲状腺機能は,0.
2
∼4μU/mLの範囲でコントロールされていることがよく理解
できよう(文献 3より引用,一部改変)
.
バセドウ病と無痛性甲状腺炎
1つは,甲状腺ホルモンの合成および
泌がともに
亢進しているもの(
s
t
i
mul
at
i
on-i
nduc
e
d hyper
t
hyr
表1
2つあることを注意しておきたい(
)
.
oi
di
s
m)であり,代表的なものがバセドウ病である.
また頻度は少ないが,甲状腺細胞が結節性に増殖し
て,自律性に(
独りがってに)甲状腺ホルモンを 泌し
―1
6
65
(9
6
)―
第 4回アミオダロン研究会講演集
図 4 バセドウ病と無痛性甲状腺炎の病態
正常人の甲状腺機能は,脳下垂体から 泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)でコントロールされている(左
図).バセドウ病患者では,異常な免疫担当細胞から 泌された TSH 受容体抗体(TRAb)が,甲状腺細胞膜上に
ある TSH 受容体を刺激する結果,甲状腺ホルモンが過剰に産生 ・ 泌される(中図).無痛性甲状腺炎では,細
胞障害性のリンパ球などが甲状腺細胞を破壊する結果,濾胞内に備蓄されていた甲状腺ホルモンが血中に大量に
逸脱してくるために,甲状腺ホルモン過剰症を生じる(
右図)(
文献 1より引用,一部改変)
.
表 1 甲状腺ホルモン過剰状態を呈する疾患
一気に血中に逸脱してきたために,甲状腺ホルモン過
A) 甲状腺ホルモンの合成 & 泌の亢進によるもの
(
St
i
mul
at
i
oni
nduce
dhype
r
t
hyr
oi
di
s
m)
バセドウ病(
→
Gr
aves di
s
eas
e TSAb)
妊娠時の甲状腺機能亢進症 (
ge
s
t
at
i
onal
t
hyr
ot
oxi
cos
i
s→ hCG)
Aut
onomousf
unct
i
oni
ng t
hyr
oi
d nodul
es
(AFTN)
TSH 受容体の ac
t
i
vat
i
ngpoi
ntmut
at
i
on
Toxi
cmul
t
i
nodul
argoi
t
er
剰症が起こってくるものであり(
de
s
t
r
uc
t
i
oni
nduc
e
d
)
,これの代表的なものが無痛性甲状
t
hyr
ot
oxi
c
os
i
s
腺炎である.
本日のテーマであるアミオダロン誘発性の甲状腺ホ
ルモン過剰症には,実は両型のものがあることが明ら
かになっている .ここでまず初めに,両者の病態を
明確にするために,バセドウ病と無痛性甲状腺炎がど
のように違っているのかを説明したい.バセドウ病
Pl
ummersdi
s
eas
e
アミオダロン誘発性甲状腺中毒症(
t
ype )
TSH-pr
oduci
ngpi
t
ui
t
ar
yadenoma
B) 貯蔵された甲状腺ホルモンの過剰漏出によるもの
(
)
De
s
t
r
uct
i
oni
nduce
dt
hyr
ot
oxi
cos
i
s
無痛性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎
アミオダロン誘発性甲状腺中毒症(
t
ype )
C) 甲状腺ホルモンの過剰摂取によるもの
Fac
t
i
t
i
oust
hyr
ot
oxi
c
os
i
s
は,自己免疫疾患であり,TSH 受容体に対する抗体
(
が甲状腺の TSH 受容体を刺激して,
TRAb,TSAb)
甲状腺ホルモンの合成および 泌が過剰となり,甲状
腺ホルモン過剰症を起こしてしまう s
t
i
mul
at
i
on-i
nduc
e
dhyper
t
hyr
oi
di
s
m である.これに対して無痛性
甲状腺炎は,慢性甲状腺炎がベースにあることが多
く,細胞障害性の T リンパ球などが甲状腺内に侵潤
して甲状腺濾胞を破壊してしまうので,甲状腺濾胞内
に貯蔵されていた甲状腺ホルモンが大量に漏出して生
図
ず る de
s
t
r
uc
t
i
oni
nduce
dt
hyr
ot
oxi
c
os
i
sで あ る(
て く る aut
onomousf
unct
i
oni
ng t
hyr
oi
d nodul
es
4
)
.両者の大きな違いは,バセドウ病では甲状腺機能
(
がある.
AFTN)
亢進状態が 2
∼3カ月以上,時には 10年以上も持続す
もう 1つは,甲状腺が何らかの機序により破壊され
るのに対し,無痛性甲状腺炎では甲状腺ホルモン過剰
て,甲状腺濾胞内に貯蔵されていた甲状腺ホルモンが
状態がせいぜい 2カ月ぐらいしか続かないことである
―1
6
75
(9
7
)―
.
20
.12
00
0
図 5 バセドウ病と無痛性甲状腺炎
バセドウ病では,治療しないと甲状腺機能亢進症は持続した
ままであるが,無痛性甲状腺炎では,甲状腺ホルモン過剰状態
がおよそ 2カ月続いた後,甲状腺ホルモンが枯渇して一時期,
甲状腺機能低下症になり(
2∼4カ月持続),その後,回復期を経
て,全経過,半年ほどで自然にもとの状態に戻る.
ヒト甲状腺濾胞をバセドウ病患者より得た I
)ともに
gG(TSI
培養した甲状腺濾胞の VEGF mRNA の発現を GAPDH と比
したもの(文献 9より引用).
図5
(
)
.
飼料で飼育していくと,TSH の
というのは,われわれの甲状腺はおよそ 8mgのヨ
ードを含んでいる .大部
図 6 バセドウ病 I
gGの VEGFmRNA発現促進作用
泌が起こり,甲状
腺は刺激されて,最初に血管内皮細胞の増殖が起こる
は既に有機化されたヨー
ことが 1
9
70年代に NI
H の Wol
l
manらにより明らか
ドであり,およそ 3
5%ほどが T4として貯蔵されて
にされていた .その当時は,angi
ogenes
i
sf
act
orの
いる.T4の
本態は不明であったが,Wol
l
manらは,詳細な電顕
子量は 7
7
7で,このうち 4個のヨード
が占める割合は 6
5%なので,甲状腺内に T4として,
的観察により,甲状腺濾胞細胞は刺激されると,何ら
およそ 4
.
2mgほど備蓄されていることになる.T4
かの angi
oge
ne
s
i
sf
ac
t
orを産生して血管内皮細胞の
の 1日
増殖を促進すること,増殖した血管内皮細胞同士が
泌量は 7
0
∼8
0μgなので,ヒトの甲状腺は
非常事態に備えて,およそ 2カ月
の T4をストック
していることになる.したがって,甲状腺が破壊され
2
∼3日後には融合して毛細血管腔が拡大し,そのた
めに血流量が増加することを提唱していた .
て生じる甲状腺ホルモン過剰状態は,せいぜい 2カ月
そこで,前述の ヒ ト 甲 状 腺 濾 胞 の 浮 遊 培 養 系 に
が限度であると言える.しかし,アミオダロンのよう
TSH あ る い は バ セ ド ウ 病 患 者 の I
gGを 添 加 し て
にヨードを大量に含む薬剤を内服している場合には,
2
∼3日ほど培養し,最も強力な血管内皮細胞の増殖
甲状腺内に蓄積されているヨードが多いので,時には
刺激因子である vas
c
ul
arendot
hel
i
algr
owt
hf
ac
t
or
数カ月にも及ぶ甲状腺ホルモン中毒症を呈する場合も
(
VEGF)mRNA の発現レベルを Nor
t
he
r
nbl
ot法で
あり得る.もう 1つの大きな違いは,バセドウ病では
検討してみると,TSH もバセドウ病 I
gGもヒト甲状
血流量が多いのに,無痛性甲状腺炎では血流量がほと
腺細胞の産生する VEGF mRNA レベルを増加させ
んど増えていないことである .
図 6) .さらに,ラットを用いて
ることが判明した(
Wol
l
manらの実験を忠実に再現してみると,T3,
バセドウ病甲状腺では
T4が減少するにつれて TSH が増加する(図 7下).
なぜ血流量が多いのか?
TSH に刺激されて真っ赤に腫大した甲状腺よりトー
バセドウ病患者の甲状腺に聴診器を当てると,血管
タル RNA を,飼育開始 3
,7
,1
4
,2
1
,2
8日後に抽
雑音(
)が聴取される.この br
br
ui
t
s
ui
t
sは,抗甲状腺
出 し て,VEGFお よ び そ の 受 容 体 で あ る flt
1と
剤を過剰に長期間投与されて甲状腺機能低下症になっ
KDRの c
DNA を pr
obeとして,Nor
t
he
r
nbl
otを行
てしまい TSH が著増しているバセドウ病患者でも聴
うと,TSH の上昇した 3日目に VEGF mRNA が著
取される.したがって,甲状腺の血流量は,甲状腺ホ
増 し,そ れ に 呼 応 す る か の よ う に,VEGF受 容 体
ルモンによってコントロールされているのではなく,
図
(
-1
,KDR)の mRNA の発現レベルも増加した(
flt
甲状腺細胞の刺激因子によりコントロールされている
7上)
.したがって,TSH やバセドウ病患者 I
gGによ
と推測される.ところで,ラットを抗甲状腺剤入りの
り TSH 受 容 体 を 刺 激 さ れ た 甲 状 腺 濾 胞 細 胞 は,
―1
6
85
(9
8
)―
第 4回アミオダロン研究会講演集
図 7 TSHによる VEGFmRNA発現刺激作用
ラットを抗甲状腺剤(t
)
入りの飼料で飼育していくと,甲状腺機能低
hi
our
ac
i
l
下症が誘発され,TSH が上昇してくる.各時点で腫大した甲状腺より t
ot
al
RNA を取り出し,Nor
t
her
nbl
ot法で VEGFおよびその受容体(
flt
,KDR)の発
現レベルを検討したもの(文献 9より引用).
図 8 バセドウ病甲状腺での血流量増加機序
バセドウ病 I
gGや TSH が甲状腺細胞膜上に発現している TSH 受容体を刺激すると,甲状腺細胞
は VEGFを産生する.細胞外に 泌された VEGFは,血管内皮細胞膜上に発現している VEGF受
容体を刺激する.刺激された血管内皮細胞は増殖して互いに癒合するので,血管内腔が 4倍にも増
大する.したがって,バセドウ病甲状腺では血流量が増加しており,血管雑音が聴取される(
文献 9
より引用)
.
―1
6
95
(9
9
)―
.
20
.12
00
0
図 9 カラードップラー法による甲状腺血流量の測定
無痛性甲状腺炎では血流量は少なく(pat
,バセドウ病
t
er
n0)
の活動性が激しいほど血流量は増加しており(
∼3
),
pat
t
er
n1
はなはだしい場合には t
hyr
oi
d i
nf
e
r
noの状態を呈する(
pat
文献 1
0より引用)
.
t
e
r
n3)(
VEGFmRNA を産生し,VEGFを産生する.細胞外
に
泌された VEGFは par
acr
i
ne的に作用して,血
管内皮細胞膜上に発現している VEGF受容体を刺激
図1
0 アミオダロン誘発性甲状腺中毒症(
ami
odar
one-i
nとアミオダロン誘発性
ducedt
hy
r
ot
ox
i
cox
s:AI
T)
甲 状 腺 機 能 低 下 症(ami
odar
one-associ
ated
hy
pot
hy
r
oi
di
s
m:AAH)の甲状腺機能
点線部は正常域:T4;5.
1∼11.
2μg/dL,T3;90
∼1
70ng/
dL, TSH;0.2∼4.0μU/mL, Thyr
ogl
obul
i
n;<20ng/
;AI
mL,データは平 ±SD(
N=13
T,N=11;AAH).
図 8)
する(
.刺激された血管内皮細胞は次第に癒合し
て毛細血管腔が拡大するので,Poi
s
e
ui
l
l
eの法則に従
ほど大量に排泄されていた.アミオダロンの常用量
って血流量が飛躍的に増加するという機序が判明した.
(
10
0
∼2
0
0mg)
を内服しているものでは,3
7∼7
4mg
したがって,バセドウ病と無痛性甲状腺炎の血流量
のヨードを常に摂取していることになり,そのうち
をカラードップラー法でみると,TSH 受容体が刺激
1
0%ほどが脱ハロゲン酵素により遊離してくるので,
されているバセドウ病では血流量が増加しており,甲
予想された排泄量であると思われる.また,アミオダ
状腺が破壊されて TSH の 泌が抑制されている無痛
ロン誘発性の甲状腺ホルモン過剰症は,アミオダロン
性甲状腺炎では血流量は全く増加していない.という
内服開始後,2
∼5年後に突発してくることが多いの
わけで,典型的な場合は即座に両者を鑑別できるほど
に対し,アミオダロン誘発性の甲状腺機能低下症は,
図 9)
である(
.
内服開始後,1
∼3年以内に徐々に発症してくる傾向
がある.
アミオダロン誘発性甲状腺ホルモン過剰症
アミオダロンは 3
7
%ものヨードを含有しているた
アミオダロンは,ヨーロッパで開発された薬剤なの
で,その副作用についても,ヨーロッパの t
hyr
oi
d-
め,開発当初から甲状腺機能に様々な影響を与えるこ
ol
ogi
s
tによって詳細に検討されている
とが予測されていた.筆者は,東京女子医科大学内
よると,アミオダロン誘発性の甲状腺ホルモン過剰症
泌センター内科で甲状腺を専門に診ている臨床内 泌
には,甲状腺ホルモンの合成と 泌が亢進して甲状腺
医であるが,当大学の日本心臓血圧研究所の笠貫教授
機能亢進症を生ずるタイプ(
Ⅰ型)
と,アミオダロンが
らより多数の患者を紹介していただいたお陰で,これ
何 ら か の 機 序 で 甲 状 腺 破 壊 的 に 作 用 す る 結 果,
までアミオダロン誘発性の甲状腺ホルモン過剰症を
de
s
t
r
uc
t
i
vet
hyr
oi
di
t
i
sのような病態を呈するもの(Ⅱ
1
0数例,甲状腺機能低下症をほぼ同数ほど診る機会
型)
とに大別されている(表 2) .
に恵まれている .
.それに
筆者が最初に診る機会のあったアミオダロン誘発性
アミオダロン誘発性の甲状腺ホルモン過剰症では,
の甲状腺中毒症は,最も重篤であり,甲状腺も大き
当然のことであるが血中の T3
,T4は高値であり,
く,動悸や息切れを訴えて来院した.しかも,初診時
図
.
1μU/
TSH は全例 0
mL以下に抑制されて い る(
に TRAbが弱陽性であったために,バセドウ病かも
1
0)
.また,de
s
t
r
uc
t
i
veな機序を反映してか,サイロ
しれないと え,抗甲状腺剤(
チアマゾール)
を投与し
グロブリンが高値である傾向が認められた.尿中のヨ
図1
1
た(
) .しかし,甲状腺の血流量は増加しておら
ードを測定してみると,c
∼7mg
r
eat
i
ni
ne1
g当たり 6
ず,今にして思えば t
ypeⅡの des
t
r
uct
i
vet
hyr
oi
di
t
i
s
―1
7
06
(0
0
)―
第 4回アミオダロン研究会講演集
表 2 Ami
odar
onei
nducedt
hy
r
otox
i
cos
i
s
甲状腺の基礎疾患
病態 T3,T4の合成
甲状腺腫
甲状腺 I取り込み
血中 I
L-6濃度
甲状腺エコー
甲状腺血流量
類似の病態
治
療
Type
Type
あり
なし
↑
,T4の 泌↑
T3
(
−)
貯蔵 T3
,T4の漏出
多結節性または
びまん性
甲状腺はほぼ正常大
びまん性(
時に痛み+)
→∼
→∼
結節+,甲状腺腫+∼++
∼↑
↓
↑∼↑↑
正常
→
l
odi
ne
i
nduc
e
d
hype
r
t
hyr
oi
di
s
m
無痛性甲状腺炎
De
s
t
r
uc
t
i
vet
hyr
oi
di
t
i
s
抗甲状腺剤
副腎皮質ステロイド?
図 11 甲状腺ホルモン過剰状態が 8カ月も持続した ami
odar
onei
nducedt
hy
r
o(t
toxi
cosi
s
ype )
37歳,男性.ARVDのためアミオダロンを 3年以上も内服していたところ,著しい
t
hyr
ot
oxi
cos
i
sが生じてきた.本例では TRAb弱陽性であり,バセドウ病との鑑別が問題
となったが,この TRAbには甲状腺刺激活性はなく,de
s
t
r
uct
i
vet
hyr
oi
di
t
i
sに続発して
生じてきたものと推測された.
上段: ■ ;T4
(μg/
,
dL), ▲ ;T3(
ng/dL),中段: ● ;サイログロブリン(
ng/
mL)
下段: ● ;TSH(
μU/mL)(
文献 1
4より引用).
であり,最初から副腎ステロイド剤を
ったと現在では
用すればよか
えている(
補:TRAbは無痛性甲状
は,甲状腺がやや大きく,大量の T4が貯蔵されてい
たためと えている.
腺 炎 で も 稀 に は 弱 陽 性 に な る こ と が あ る.こ の
このような重篤な症例は,例外的であると現在では
TRAbは,バセドウ病で検出されるような甲状腺刺
えている.次の症例は,自覚症もほとんどないので
激作用はないタイプのものである) .この症例はチ
アミオダロンを中止せずに,しばらく無投薬で経過観
アマゾールできっちり治療したにもかかわらず,甲状
察していたところ,T4が次第に正常化してしまった
腺ホルモン過剰状態は実に半年以上も持続した.これ
図1
2
(
)
.私見ではあるが,呼吸機能障害さえなけれ
―1
7
16
(0
1
)―
.
20
.12
00
0
図 12 自然に軽快したアミオダロン誘発性甲状腺ホルモン中毒症
69歳.ARVDによる VT 発作のため,アミオダロンを 4年ほど内服してい
たところ,甲状腺ホルモン中毒症が生じてきた.しかし,何の自覚症もないの
で,無投薬でしばらく経過を観察していたところ,甲状腺機能はひとりでに正
常化してしまった(文献 10より引用)
.
図 13 アミオダロンの血中半減期
アミオダロンの血中半減期は 40日以上もあるので,投薬を中止したからといっても,ただちに甲
状腺機能が改善するわけではない(
文献 1
6より引用,一部改変).
ば,甲状腺ホルモン過剰症を呈しても,アミオダロン
い甲状腺機能検査を検討しているが,ときどき TSH
は中止せずにそのまま経過観察してよいと思われる
が0
.
1μU/mL以下に抑制される.そしてその時期に
図1
1,1
2
,15
(
)
.なぜならば,アミオダロンの血中半
一致して,サイログロブリンが測定感度以上(
>5ng/
図1
3
減期は非常に長く 4
0日以上もあるため(
) ,ア
mL)となるので,マイルドな des
t
r
uct
i
vet
hyr
oi
di
t
i
s
ミオダロンを中止したからといって,甲状腺機能が急
が生じているものと推測している.例えが適切でない
によくなるわけではないからである.
かもしれないが,小噴火を繰り返している火山は大噴
次の症例は,TSH が 0
.
1μU/
mL以下になったと
火をしないのと同様に,絶えずガス抜きをしている本
いうので,紹介されてきた症例である(図 14).この
症例では,著しい甲状腺ホルモン過剰症は起こらない
患者も自覚症は何もないので,月に 1回来院してもら
のかもしれない.
―1
7
26
(0
2
)―
第 4回アミオダロン研究会講演集
図 14 TSHが 0
.
1μU/mL以下に繰り返し抑制された症例
70歳,男性.OMI
+VT あり,アミオダロンを 3年以上,中断することなく内服してい
るが,この間に 3回ほど,TSH が 0.
2μU/mL以下にまで抑制された.自覚症は特になく,
以上となる
TSH が抑制された時期に一致して,サイログロブリンが測定感度(<5ng/
mL)
ので,軽い des
文献 1
0より
t
r
uct
i
vet
hyr
oi
di
t
i
sが繰り返し起こっているものと推測される(
引用).
図1
5 アミオダロン誘発性甲状腺機能低下症を起こした後,甲状腺ホルモン中毒症を呈し
た症例
甲状腺ホルモン(
T4)を投与して甲状腺機能は正常に維持されていたが,甲状腺ホルモン過剰症が
生じてきた.やや疲れやすいなどの自覚症があったので,プレドニゾロンを投与したところ速やか
に甲状腺機能が正常化した(文献 10より引用).
次の症例は,アミオダロン投与中に次第に TSH が
これまで,心研より紹介されてきたアミオダロン誘
上昇して,ついに 10μU/
mLを超えるようになった
発性の甲状腺中毒症患者では,甲状腺エコー上は何も
ので,T4の補充療法を開始した.しかし,4年後に
異常がなく,カラードップラーでは血流量が乏しいの
甲状腺ホルモン過剰状態となったため,プレドニゾロ
で,全 例 de
(t
s
t
r
uc
t
i
on-i
nduced t
hyr
ot
oxi
cos
i
s
ype
ンを投与したところ甲状腺機能が比 的速やかに正常
Ⅱ)
と
図 15
化した(
)
.
少ないヨーロッパでは,AFTN が多く,潜在性の甲
―1
7
36
(0
3
)―
えている .これに対して,ヨード摂取量の
.
20
.12
00
0
状腺機能亢進症の予備群が多いために,t
ypeⅠ型の
細胞に直接作用して,炎症性サイトカインである I
L-
アミオダロン誘発性甲状腺機能亢進症が生じるものと
6の産生を促進することが見出された.アミオダロン
推測される.
誘発性の甲状腺ホルモン過剰症には TypeⅠとⅡがあ
治療であるが,i
odi
nei
nduc
e
dhyper
t
hr
yoi
di
s
mと
ることを提唱している Bar
t
al
e
naらは,t
ypeⅡでは
も言うべき t
ypeⅠでは,理論的にも抗甲状腺剤が奏
血中の I
L-6濃度が高値であることを見出している
効 す る は ず で あ る.こ れ に 対 し て,薬 剤 誘 発 性 の
が ,これはアミオダロンの直接作用であることが明
de
s
t
r
uc
t
i
vet
hyr
oi
di
t
i
sである t
ypeⅡでは,甲状腺ホ
らかになった.
ルモンの合成が亢進しているわけではないので,抗甲
また,ラットにアミオダロンを投与し,甲状腺を電
状腺剤は無効である.副腎皮質ステロイド剤をプレド
顕的に詳細に検討した Pi
t
s
i
avasらは,甲状腺細胞内
ニゾロン換算で 3
0mg程度から投与していくとよい
にi
nc
l
us
i
onbodyという玉葱状の構造物が増加して
とされている.しかし,自覚症も乏しく,T4の値も
くること,一部は ne
c
r
os
i
sや apopt
os
i
sに陥って い
それほど高値でなければ(<16μg/dL),特に投薬の
ることを報告している
必要はなく,ただ単に経過観察のみでも十 である.
r
e
t
i
c
ul
um の内腔の開大像も認められており,死滅し
前述したように,甲状腺ホルモン過剰になったからと
た細胞の処理のために単核球が侵潤してきて,pai
n-
いって,アミオダロンを急いで中止する必要はない.
l
e
s
st
hyr
oi
di
t
i
sのような病理学組織像を呈する.そ
.ま た, endopl
as
mi
c
こで,上記の培養系にアミオダロンを 1
∼20μM 添加
アミオダロン誘発性
して,甲状腺濾胞に及ぼす影響を電顕的に観察した.
甲状腺中毒症 型の病因
低濃度のアミオダロンでも i
nc
l
us
i
onbodyが認めら
アミオダロン内服中の患者血中のアミオダロン濃度
れ,アミオダロンが高濃度になるにつれて,その数は
は,1μM 程度である.これまで,FRTL-5というラ
増加する傾向にあった(
図省略)
.また,高濃度のアミ
ットの甲状腺細胞株を用いて,高濃度(1
0
0μM)のア
オダロン(1
0
∼2
0μM)では,ne
c
r
os
i
sや apopt
os
i
sを
ミオダロンは細胞毒性を発揮するというデータがよく
示唆する所見が散見された.したがって,アミオダロ
引用されている .しかし,このような phar
macol
-
ンは臨床的濃度では,甲状腺細胞に細胞毒性を発揮す
ogi
c
alな濃度での検討は,臨床医の参
にはならな
るわけではないと思われる.しかし,年余にわたり内
い.そこで,アミオダロンの原末を大正製薬から提供
服してきたアミオダロンが,なぜ,ある時期より急激
していただき,患者の血中濃度のアミオダロンが,正
に甲状腺を破壊するようになってしまうのか,その成
常ヒト甲状腺にどのような影響を及ぼすかを検討し
因は全く不明である.
た.
アミオダロン誘発性甲状腺機能低下症
バセドウ病患者の手術時に得られた甲状腺より,前
述のごとく濾胞を採取し,濾胞のまま通常の培養ディ
アミオダロン誘発性の甲状腺機能低下症では,T3
,
ッシュに蒔くと,濾胞は接着して徐々に濾胞が扁平化
T4は減少し,TSH は上昇する.TSH には,サイロ
していき,単層培養状態になっていく.TSH を添加
グロブリン 泌促進作用もあるので,サイログロブリ
して培養し続けると,培養開始後 7
∼1
4日の間には甲
図1
0
ンも上昇している(
) .
状腺機能が維持される.甲状腺細胞は,TSH に反応
して T3
,サイログロブリンを濃度依存性に
る.I
6(
)
も
nt
er
l
e
uki
nI
L-6
泌す
泌されるが,TSH の影
響は受けない.
正常人の甲状腺は,主に T4を
T4は肝臓や腎臓などの末
泌している.この
組織中に存在する 5-脱
ヨード酵素活性により,外側のヨードが 1個外れて,
活性型の 3,3
,5
(
に変換され
t
r
i
i
odot
hyr
oni
ne
T3)
この培養系にアミオダロンを添加して培養していく
る.しかし,栄養状態の不良なときや重篤な病態のと
と,1
∼5μM の臨床的濃度では T3
,サイログロブリ
きには,内側のヨードが 1個外れて,非活性型の 3,
ン,I
L-6は何の影響も認められなかった.しかし,
5,3
-t
(r
,r
)
に変換され
r
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odot
hyr
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ne
eve
r
s
eT3
T3
1
0
∼2
0μM の高濃度になると甲状腺機能は障害され,
る.アミオダロンは前者のⅠ型脱ヨード酵素活性を抑
T3とサイログロブリンの産生は減少した(図省略).
制する性質があるため,アミオダロンを大量に内服し
しかし,I
6の産生は有意に増加することが見出さ
L-
た初期には,T4や r
T3はやや高値,T3はやや低値
れた.したがって,アミオダロンは高濃度では甲状腺
図1
6
となる(
) .さらに,アミオダロンは下垂体細胞
―1
7
46
(0
4
)―
第 4回アミオダロン研究会講演集
図1
7 WolChai
ko 効果
ヒト甲状腺濾胞を種々の濃度のヨードを含有した培養液中で
培養し,培養液中に 泌されてきた T3および T4を測定した
もの.超高濃度のヨードと培養された甲状腺細胞は,甲状腺ホ
ルモンの合成および 泌を停止してしまう.
▲:t
μg/dL)
ot
alT3(
ng/
dL),■:t
ot
alT4(
泌している.また,正常人や甲状腺全摘患者に T4を
内服させると,およそ 80
%が消化管より吸収される
図1
6 アミオダロン投与初期の甲状腺機能への影響
大量のアミオダロン(2
0mg/kg/day 1
)を静注し,その後ア
ミオダロン(
600mg)
を連日内服すると,T3は有意に減少し,
,T4はやや増加し,TSH は次第に上昇す
r
T3は増加し(上段)
る(下段).しかし,本邦での投与量は少量投与法なので,これ
ほどの明らかな変化は認めにくいようである(
文献 20より引
用,一部改変).
ことがわかっている .したがって,何らかの原因で
甲状腺機能低下症になった患者には,T4を体重 1kg
当たり 1
.2
∼2
.
0μg(平
1.
6μg/
kg/
day)ほど投与し
ていけば,甲状腺機能を正常に維持できる .この
際,TSH を正常範囲内(0
.
2∼4μU/
に入るよう
mL)
に厳重にコントロールする必要はなく,正常範囲∼や
内の T3核受容体にも拮抗的に作用するためか ,
や高値(
2
∼5μU/mL)
になるように,通常,チラージ
TSH がやや上昇する傾向もある.したがって,アミ
ン S(
0μg含有)
を1
∼2錠補充 し て い け ば よ
T4を 5
オダロンを投与すると,TSH がやや高値となるのは
い.
当然のことでもあり,TSH がどれくらい上昇したら
アミオダロン誘発性
甲状腺機能低下症とするか,一定の基準は見当たらな
甲状腺機能低下症の成因
い.
とりあえず,TSH がコンスタントに 1
0μU/
mL以
甲状腺は,ヨードを原料として T4
,T3を産生す
上に増加しているものをアミオダロン誘発性の甲状腺
る甲状腺ホルモン産生工場である.ヒト甲状腺濾胞を
機能低下症と定義すると,これまで 1
3例ほど心研内
培養しておき,培養液中の無機ヨードの濃度を 10
科 よ り 紹 介 さ れ て い る.こ の よ う に TSH が 軽 度
注:これは欧米人の血中ヨード濃度に相当)
から
M(
(
1
0∼20μU/
に上昇した症例にいろいろと問診し
mL)
1
0 M まで変えていくと,培養液中に
ても,自覚症は皆無である.しかし,TSH が 1
0
0μU/
る T3濃度は,10 M(
注:昆布を食べている日本人
mL以上にまで上昇した症例では,寒がりや発汗減少
の血中ヨード濃度に相当)で最高となる.しかし,よ
などの甲状腺機能低下症の症状を自覚しているもので
り高濃度では T3の 泌は抑制されてしまい,超高濃
ある.したがって,TSH が毎回 1
0μU/mLを超える
度(
1
0 M)では T3の
ようになってきたら,予防的に T4を投与して,甲状
図1
7
(
)
.このように,甲状腺ホルモン産生工場には,
腺を休ませてあげたほうがよいと筆者は えている.
原料を大量に供給された場合には操業(
甲状腺ホルモ
この際,T4をどのくらい投与したらよいかである
ン合成 ・ 泌)
を一時的に自粛するという,一種の安
が,正常人の甲状腺は T4をおよそ 7
0∼80μgほど
泌されてく
泌は完全に停止してしまう
全装置が備わっている.この甲状腺特有の安全装置を
―1
7
56
(0
5
)―
.
20
.12
00
0
図1
8 アミオダロン誘発性甲状腺異常症の診断と治療指針
Wol-Chai
ko 効果という .
ように な っ た )
,2
∼3カ 月 か け て 維 持 量(
5
0∼10
0
ところで,アミオダロン内服中の患者では,連日,
μg/
とすればよい.
day)
大 量 の ヨ ー ド を 摂 取 し て い る に も か か わ ら ず,
ところで,アミオダロン内服中の患者の TSH が
Wol-Chai
ko 効果が持続しておらず,甲状腺ホル
0
.0
5
∼0
.
2μU/
mL付近にまで抑制された場合には 2
モンは適当な量だけ 泌されており,甲状腺機能は正
図1
8
つの可能性が えられる(
)
.1つは潜在性の甲状
常である.しかし,もともと甲状腺に橋本病などの病
腺中毒症であり,このような症例は自覚症も乏しいの
気が潜在していた症例では,大量のヨードを摂取し続
で,慎重に経過観察をしていけばよい.もう 1つは,
けると,この WolChai
ko 効果が持続しており,
心筋梗塞などを併発した non(
t
hyr
oi
dali
l
l
ne
s
s
e
ut
h-
甲状腺ホルモンの合成 ・ 泌が抑制されたままなの
であるが,病歴より明らかなの
yr
oi
ds
i
c
ks
yndr
ome)
で,甲状腺機能低下症になってしまう.アミオダロン
で原疾患に対する治療を積極的に行えばよい.
内服後に原発性甲状腺機能低下症を呈してくる症例
しかし,TSH が 0
.
05μU/
mL以下にまで抑制され
は,もともと甲状腺に何らかの病変があり,ヨード効
た場合には,ami
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odar
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nduc
e
dt
hyr
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oxi
c
os
i
sで
果から e
s
c
apeできない病態であると推測されてい
ある.無症状の場合は経過観察のみでも十 の場合も
る.
あるが,何らかの症状を訴える場合には治療の対象と
なる.これまでわれわれの経験したアミオダロン誘発
アミオダロン投与中の患者に対する
性 の 甲 状 腺 ホ ル モ ン 過 剰 症 は,す べ て t
ypeⅡ の
甲状腺機能検査
de
s
t
r
uc
t
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vet
hyr
oi
di
t
i
s型である.したがって,亜急
アミオダロン投与中の患者には,最初の 1年間は月
性甲状腺炎の治療に準じて,副腎皮質ホルモンを 3
0
に 1回程度,1年後でも 3カ月に 1度は甲状腺機能を
mgほど甲状腺機能が落ち着くまで投与するのが,現
測定すべきである.この際,TSH は第 3世代の超高
在のところ最も妥当な治療法と思われる.
感度法で測定したほうがよい.
前述のごとく,TSH の正常値は 0
.
2∼4
.0μU/mL
であるが,アミオダロン内服中の患者では,投与初期
には TSH が 6
∼7μU/mL程度まで上昇しても,甲
状腺機能は正常範囲であると鷹揚に えてよい.しか
し,TSH が次第に 1
0μU/
mL以上となってくる症例
では,チラージン Sを 2
5μg/
日より投与し(注:チラ
ージン Sはこれまで T4を 5
0μg含有するものしかな
かったが,2年前より 25μg含有のものが市販される
献
1)佐藤幹二:甲状腺の病気.保 同人社,1
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9
8年 7月発
行
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)佐藤幹二ほか:TZ(
レボチロキシンナトリウム)
T4
の甲状腺機能低下症に対する臨床試験.ホルモンと臨
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質疑応答
座長/笠貫
演者/佐藤
宏(東京女子医科大学附属日本心臓血圧研究所循環器内科教授)
幹二(東京女子医科大学内
笠貫(
座長) 佐藤先生,どうもありがとうごさいま
した.アミオダロン誘発性甲状腺機能異常症の病態,
泌疾患 合医療センター第二内科助教授)
しましたが,その程度でも非常に強力な甲状腺刺激作
用をもっています.
診断,治療について非常にわかりやすくお話しいただ
伊藤 どうもありがとうございました.
きました.少し時間が押していますが,せっかくの機
山田(
筑波大) アミオダロン誘発性甲状腺機能障害
会ですのでご質問がありましたら,いくつかお受けし
では,甲状腺機能亢進症と低下症のいずれが発症しや
たいと思います.
すいかという,発症頻度のことでお聞きします.亢進
伊藤(
滋賀医科大) 昨年度の本研究会で甲状腺腫が
出てきた症例が教室でありましたが,あまり文献的に
症と低下症の発症頻度はヨード摂取量の影響を受け,
人種差,地域差があると報告されています.
もないようです.そのときアミオダロン 2
00mgを
私たちの施設では 70例のうち hype
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0mgに減量しまして,軽快したら少し縮小したの
わずか 1例で,TSH が 10μU/
0
mL以上の症例が 1
ですが,また VT が出てきましたので現在 1
50mgで
数例あり,日本人の特性として hypot
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m のほ
経過をみています.薬剤で経過をみていると,甲状腺
うが発症しやすいという印象をもっていました.しか
腫が大きくなったり,小さくなったりするようです
し,先生の先ほどの発表では,亢進症と低下症の発症
が,そういった機序はどのように えたらよろしいの
数にはあまり差がありませんでした.発症率はどのよ
でしょうか.
うになっているのでしょうか.
佐 藤(
演 者) そ れ は,い わ ゆ る ami
-i
odar
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佐藤 笠貫先生のほうから送られたきた症例だけを
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dhypot
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m という病態です.有名なもの
みていますので,発症率に関しましては私はコメント
に昆布をたくさん食べる北海道の漁師の方に c
oas
t
する立場にありません.
goi
t
erがあるのですが,ヨードをたくさん摂取すると
笠貫先生,頻度についてはいかがでしょうか.
甲状腺が大きくなることが多いのです.
笠貫 私の印象では,治療を要する t
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それは,Wol-Chai
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tが少し絡んでいる
と hypot
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m の頻度はそんなに違わないと思い
のではないかと私は推測していますが,ヨードがたく
ます.今後,日本の特徴については,このような研究
さんあると甲状腺ホルモンを産生しなくなるのです
会で共同で調べてみる必要があると思います.
ね.甲状腺には原料をたくさん供給されると,甲状腺
山田 ありがとうございました.
ホルモンを逆に産生しなくなる性質があるのです.
笠貫 日本人には t
ypeⅡ が 多 く,ヨ ー ロ ッ パ で
,T4が低下しますと,TSH が出てきます.TSH
T3
t
ypeⅠが多いということでしたが,そのメカニズム
は甲状腺の血流量も増加させますし,甲状腺細胞の増
については何かお えですか.
殖も促進する作用があります.ですから,長い間には
佐藤 要するにt
ypeⅠ は,AFTN(
aut
onomous
甲状腺が大きくなって,goi
t
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rが出てくるのではない
)
をベースにして起こっ
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かと思います.
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m で す.ヨ ー ド 不
伊藤 TSH は 1
0μU/
mL程度ですので,それほど
高くはないのですが.
佐藤
足のヨーロッパでは,甲状腺が大きく結節がゴロゴロ
あって,それらがある程度自律性をもって甲状腺ホル
1
0μU/
mLというのは先ほどスライドで示
モンを産生していることが多いのです.そういった方
―1
7
86
(0
8
)―
第 4回アミオダロン研究会講演集
がアミオダロンを服用してヨードが大量に入ってきま
まで甲状腺疾患をずいぶん診ていますが,1
0例もあ
すと,もともと aut
onomousに甲状腺ホルモンが
りません.日本では t
ypeⅠはほとんどないでしょ
泌されておりますので,甲状腺機能亢進症を起こしま
う.し か し,日 本 人 で aut
onomous
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す.それが t
ypeⅠだと思います.
t
hyr
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cnodul
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sがあって VT などを発症し,どう
なかにはバセドウ病になりかかっているのですが,
してもアミオダロンを服用しなければならないという
ヨードの摂取量が足りないために,サブクリニカルな
方がいた場合には,t
ypeⅠのアミオダロン誘発性の
バセドウ病であったのが,アミオダロンを服用して明
甲状腺機能亢進症が発症する可能性はあると思いま
らかなバセドウ病になったという例もあると思われま
す.
す.しかし,こういう例は少なくて,イタリア人たち
笠貫 どうもありがとうございました.まだ先生に
は,AFTN の患者さんがたまたまアミオダロンを服
教えていただきたいことがありますが,時間が参りま
用して,甲状腺ホルモン産生過剰症を起こしたものを
したので,これで特別講演を終わらせていただきま
t
ypeⅠと言っているのだと思います.
す.
日本では AFTN は非常に少ないのです.私はこれ
―1
7
96
(0
9
)―