平成16年度 マーケティング調査支援事業成果報告書 (ベンチャー企業等商品化・事業化可能性調査報告書) 調査テーマ 代表法人 (グループ名) 石臼挽き豆腐の販路拡大のためのマーケティング調査 代 表 法 人 株式会社 築 屋 グループ名 石臼挽き豆腐販売研究会 調査テーマを有する 株式会社 築 屋 中小企業 調査機関 有限会社 ティーエムマーケティング 協力企業 株式会社 田中住建 1.グループの概要 (1)調査テーマを有する中小企業の概要 企業名 株式会社 築 屋 代表者 代表取締役 田中信一 所在地 長野県佐久市大字長土呂 819‑2 電話/fax ( (0267)‑67‑4726 / (0267)‑67‑1588 (2)調査機関 企業名 代表者 所在地 電話/fax ホームページURL 有限会社 ティーエムマーケティング 代表取締役 村山達伸 長野県千曲市屋代 1063‑1‑102 (026)‑274‑1870 / (026)‑274‑1872 http://www15.ocn.ne.jp/ tmket/ (3)その他の協力会社 企業名 代表者 所在地 電話/fax ホームページURL 株式会社 田中住建 代表取締役 田中信一 長野県佐久市大字長土呂 819 番地 2 (0267)‑67‑4736 / (0267)‑67‑1588 http://www.tanakajyuken.co.jp/ 2 新しい事業(製品・サービス)の概要 (1)特徴、性能等 ① 石臼挽き豆腐の特徴 セラミック製の臼で大豆を挽いた場合、600度という高熱が発生する。その高熱により大豆 の持つ各種成分が破壊される。これに対して石臼で大豆を挽いた場合には高熱は発生せず、ミネ ラルなどの健康に良い成分が保たれ、大豆本来の風味も多く残る。 ・舌 ざ わ り…わずかなねばりがあり、ややまったりとしている。 ・風 味…大豆本来の持つ香りとコクのある味が残されている。 ・健康への効果…リノール酸等の含有量が通常豆腐の数倍多い。リノール酸はコレステロールの 分解を助ける働きがあるとされる。 ・石臼挽き豆腐はセラッミクグラインダー挽きに比べ、必須脂肪酸が多く含まれる。 (製品100gあたり、単位 mg) 成 分 P/S 比 種類 通常絹ごし 石臼挽き絹ごし 対比 パルチン酸 16:0 飽和 353 390 1.1 倍 ステアリン酸 18:0 飽和 188 120 0.6 倍 オレイン酸 18:1 不飽和 656 810 1.2 倍 (必須)リノール酸 18:2 不飽和 1439 2080 1.4 倍 (必須)リノレン酸 18:3 不飽和 199 390 1.9 倍 ②石臼自体の持つ特徴 ア 呉(浸漬した大豆を磨り潰した粉)の生産能力は毎時30㎏でグラインダー挽きと同等 イ 空挽きがないので臼の磨耗により必要となる「目立て」が不要 ウ 臼の昇降は上臼電動昇降装置が付いているので、清掃作業が容易 (2)これまでの事業化への取り組み状況 「水車石臼」のメーカーである田中住建の石臼製造の技術から派生したものである。 2003 年5月より研究開発に着手し、2003 年 9 月から本格的に試作を開始した。 2004 年1月末に「絹ごし」が完成し2月より販売開始。その後「もめん」 、 「寄せ」 、 「おぼろ」も完 成し販売している。 (3)事業化へ向けての課題事項 ①「味」・ 「品質」の更なるレベルアップ ②製造面におけるコスト削減 ③建設業からの新分野進出であるため販路には大きな課題がある。 3 販路開拓に関する調査内容 (1) 量販店頭における試食販売等による調査 ○実際の食品小売の現場において、一般消費者の当社製品に対する意見や評価を調査。 ア 価格の妥当性について イ 量目の適否について ウ 味の評価について エ 石臼挽き製法についての反応 オ 表示内容や製品デザインについて これらの意識調査に基づき ・ 製品の価格戦略のデータとする。 ・ 製品デザインの変更や量目の適正化の資料とする。 ・ 試食販売により知り得た情報を、その後の店頭マーケティングのデータとして整理、新規開拓 のプレゼンテーションに役立てる。 ・ 試食販売行為が実施店舗と当社との信頼関係にどうのように影響するか考察する。 ・ 試食販売後の定番化の動きと、定番化後の売れ行きを分析、プロモーションのあり方を研究す る。 ○販売ターゲットの選定から商品導入にいたる一連の商談活動を通じて、商流の実際を把握 ア 販売ターゲットの選定方法を確立 ・ 当社製品が高額であること、製法の特殊性などを考慮の上慎重に選定する。 イ アプローチの具体的方法 ・ 飛び込み、紹介などより確実なアプローチの方法を研究。 ウ 今後力を入れるべきエリアの調査 ・ 商品流通と試食販売を通して、各地域における当社製品の潜在需要の有無を判断する。 エ 末端納品に至る過程で、仲介業者(人物)の関わりかた等の実態を把握する。 オ 販売先のマーケティングサイクルの把握。 ・ 商品切り替え(定番、季節)及び商談のタイミング ・ チラシやインプロ特売のタイミングと提案のタイミング カ 当社製品のライフサイクルの把握 ・ 商品導入から納品にいたる物流の実態を調査 当社工場出荷から末端小売店到着までのコスト及びマージン体系の把握 受発注リードタイムと工場出荷時間等 ・ 商品納入後の当社製品の動き 納入後に売上実績を上げる方法の研究 ① 地方百貨店における調査 3 回にわけ、合計 9 日間の試食販売調査を実施し、約 1,450 名が試食した。その際のインタビ ューの傾向としては、味については「大豆の味が濃厚」 「甘い」 「何もつけなくても食べられる」 など、非常に肯定的な意見が多く、価格については「高い」という意見が多いもの「高くても満 足」 「妥当な値段」などもあった。 顧客層は比較的高年齢層が中心であり、収入的にも安定〜高収入層が多いように見受けられる。 通常のスーパーよりも高級品を求める姿勢はあるが、同レベルの豆腐の平均販売数量は 1 日5パ ック程度であり、当社の製品が 250 円で定番化されたとしても安定的な売上増加は難しく、 試食販売をすると急激に売上が伸びるなど、サゼスチョンによる販売方法を今後定期的につづけ ることが必要である。スーパーとの差別化の必要性が示された。 また、試食した後に「おいしいから」と3〜5丁まとめ買いをする消費者もいた。当社製品の ような高額豆腐をまとめ買いする背景には、自家消費というよりも他人や知人に提供して喜んで もらいという心理が働いているようだ(仮説) 。 仮にギフト用の豆腐と位置づけで考えるならば ア 〔化粧箱入り豆腐〕 、 〔木枠入り豆腐〕 、 〔硬質プラスチック入り豆腐〕など容器に特色を持たせる (価格設定も500g入りで500円程度) 。 イ ボリュームディスカウントを行う。おつかい物や近所に配るなど試食後の購入者がオピニオ ンリーダーとなり口コミのよる認知度の向上を目指す。 ② 県内スーパーにおける調査 大手スーパーを中心に計 7 回、試食販売を実施した。 味や製法が、そのうち一社の戦略と一致していためオープニング当日などは築屋の豆腐がメイ ンとなるほどである。 しかし、購買客の価格に対する「高い」という意識が強く、今後は根気強く試食を進めていく と同時に、おいしくて安い石臼挽き豆腐の開発が急務である ・客層は特売商品中心の購買層が多いようである。 ・価格が高いのがネックとなっている ・「安くて美味しい石臼挽き豆腐」を開発する必要性を感ずる。 ・試食回数も毎月1回程度の割合で認知度を高める必要あり。 ・試食の食べさせ方が毎回同じではマンネリ化してしまう。 ・季節により試食方法の変更が必要。 (1 月より試食方法を湯豆腐などに変えている) ・季節や気候の状態に合わせた試食メニューの開発が重要である。 ○ 長野エリアは営業コストも低いことから、今後力を入れ徹底的に取り組んでいく。 ○ 差別化策の一環としてとらえる企業も多く、乱売されると困るという声が多い。当面は、現在 の販売先へ集中的に販売傾斜していく。 ③ 群馬県におけるマーケティング調査 ア 群馬県は佐久市からも近く、長野県以外の販路開拓エリアとして有望である。 イ 長野県と同様に、まず市場ルートの開拓からはじめる。 ウ 手当たりしだいに開拓するのではなく、取り組む相手を絞り込む。 調査結果は以下の通り。 ・ 価格に関して「高い」という声は少数派。 ・ 試食などのイベントには顧客の反応が良い。 ・ 佐久という地名については多くの消費者が好感を持っているようで、会話の中にたびたび出 てきた。製品開発や販路開拓において、 「信州」あるいは「佐久」というロゴは有効である。 特に関東方面にはその2つの良いイメージが浸透している。 ④ JA北関東に対する納品について JA北関東の「食材販売」の品質基準は甲信越地区の中でも最も厳しく、D社検査センターの 工場検査で最低「C1」以上の判定がないと取引には応じられないとのこと。 D社の指示により衛生管理体勢の確立を図る良い機会ととらえ、指示のとおりに改善を繰り返 し、JA北関東との取引基準を満たすに至る。 当社の製造工場の衛生管理上のレベルが高い位置にあることが客観的に証明されたため、この データをマーケティング資料としてあるいは、販売促進ツールへの利用を考える。 10 月 2 日 1 回目の審査で「C2」 《工場検査判定の概略》 ⇒指摘事項を改善し再申請 A 96 点以上 優良施設 B 90〜95 点 もう少し努力が必要 11 月 16 日 2 回目の審査で「C1」に向上 C1 85〜89 点 衛生管理体制を考える必要があり ⇒更に指摘事項を改善、再度審査を受ける C2 80〜84 点 衛生管理体制を考える必要があり 12 月 17 日の審査で「A」に向上 D 60〜79 点 ただちに改善する必要があり E 59 点以下 大変危険な施設 ⑤ 東京都区内での調査 全体としては以下の傾向があるものの、地域によって大きな差が見られたほか、課題も明らかに なった。食に対するこだわりを持つ層が多く居住する地域と思われる。 ・ 美味しければ値段の高さは仕方がないという顧客が多かった。 ・ 試食販売において、当社製品の成分要素が健康に良いということを訴えようとするがなかな か興味を待たれるまでに至らない。大豆製品は体に良いということは知ってはいるが、個々 の豆腐の要素までは気にしないという姿勢が顕著。 ・ 効能面よりも「石臼で挽いた」ことに昔を懐かしむ声が多かった。 ・ 昔懐かしい石臼挽きという面をもっと強調したデザインも取り入れてはどうか。 《課題》 試食等スポットでは取り扱うが、消費者の評判が良くても定番にはならない。 《ヒヤリング》 担当者によると 1 丁 200 円を超える豆腐の売れ行きは多くはない。ひどい時は全く売れない時 もある。他にもこだわり豆腐があり、回転率の鈍い商品を両方置くわけにはいかない。 《対策1》 試食を行う人件費・交通費等を考慮すると一回のコストは相当なものになる。その分を値引き などのほかのプロモーションに向けていく。 当店のように試食を何回か実施している場合、味になじみができているはずである。ただし安 易な値引き特売は商品イメージの低下を起こすためなるべく避けたい。 例えば、酒販店とのフランチャイズ契約で直販体勢をとる S 社では、店頭の豆腐が1丁 200 円 のところ 2 丁 200 円で売られている。他の特売豆腐と同じレベルとなる。 (2) 店頭マーケティングについて ・ プライスカード プライスカードや値札については各チェーンや店舗ごとに定められたものがあり当社独自の ものは必要ない。ただし「試食販売」や「築屋コーナーの設置」の場合には当社独自のプライ スカードが必要になる。 POPの導入 POP の導入について ・ POP 10% 30% A) B) C) A) POP の大きさや色使いなど明確に定められ て、その規定そった POP のみ採用する B) メーカー作成の POP は一切使用しない C) 社内に規制はなく売場のチーフやバイヤー が認めれば使用可能 60% POP POP支援歓迎度 支援歓迎度について 6% 6% 11% ① ② ③ ④ 77% ① POP の作成を歓迎する ② どちらでも良い ③ POP のアイデアが欲しい ④ POP をあまり歓迎しない ※ 結果は調査や商談の過程で、量販店のバイ ヤーと各店舗のチーフ、売場担当者とのコミ ュニケーションの中で当社担当が予想判断 した数値 大方の店舗は「POP の作成を歓迎」しているが、その理由は店側に「POP を作る能力がない」 、 「作る時間がない」などを理由としている。 「あまり歓迎しない」という店舗はわずかだが、その理由の中に、 「特定の企業との癒着があ るのではないかと競合メーカーから思われたくない」や「余計な POP は付けないという明確な企 業コンセプト」を持つ企業もあった。 「どちらでも良い」という企業は、POP の必要性を感じないような企業、いわゆるマーケティ ングノウハウに乏しい企業、あるいはマーケティングの教育が殆ど成されていない企業である。 「POP のアイデアが欲しい」と答えた企業は非常にマーケティングレベルの高いバイヤー、商 品担当である。販売力も相当あり有望な取り組み先である。 他の売場ディスプレイについて 百貨店の試食販売では、製品コンセプトや製法(石臼挽き)をパネルに作成し売場に提示した。 ・ パネルサイズ 900mm×1,200mm 1) 店各やコンセプト、ターゲット客層に合致するデザイン 2) 当社の製品のイメージと連動するデザイン(落ち着いた色調) 3)製法の特徴を表現する(石臼挽き) 4)安心安全と品格の高さを表現(原料の始祖を明確に 原料大豆の写真) ・ のぼり旗 遠くから注意を引くことはできるが、あまり多用すると販売には逆効果となる。 1) 200円〜300円なので、早く簡単に買い物を済ませたいという意識が働くその ため、仰々しいディスプレイには近づこうとしない消費者もいる。 2)あまりディスプレイに懲りすぎると商品が高いという意識を与える (3) 市場(公設市場、民間市場等)でのマーケティング実態調査 都道府県の管理する「公設市場」と、完全に民設民営の「地方卸売市場」がある。 公設市場は、卸会社と呼ばれる企業と仲卸会社と呼ばれる2種の卸によって形成される。卸会 社は公設市場において産地や製造メーカーから出荷された商品をまとめて仕入れる役割を担い、 通称 荷受け と呼ばれる。仲卸会社は荷受から商品を仕入れ末端の量販店や飲食店等に販売・ デリバリーする機能を持つ。 公設市場には都市の規模により2〜3社(競争促進のため)の卸会社が置かれ、その下に数社 から数十社の仲卸企業が配置されている。量販店や飲食店などの業者は、通常卸会社から直接仕 入れることはできず。必ず仲卸会社から仕入れなければならないとされている。 各市場には仲卸組合が存在し、仲卸の頭を超え、直接荷受と取引をする行為 問屋中抜き を 厳しく取り締まるところもある。また、卸会社から仲卸会社に対するマージン 口銭 は 5.5% と市場法により定められている。 地方卸売市場は完全なる民間企業によって運営されているもので、マージンや仲卸経由などの しばりがない。 この他、市場ではないが、一般の食品問屋が各地に多数存在する。規模は全国規模のものから 地域に 1 店舗というものまで、大小様々である。 ①卸での豆腐の取り扱いについて 豆腐は末端における分類では「和日配」というカテゴリーに属する。 扱う卸は以下の通り。 ア 公設市場における水産物荷受け、加工食品課 練り製品課 イ 地方卸売り市場加工品課、練り製品課 ウ まれに青果物の公設市場や青果物卸商も扱う エ 全国規模のドライグロッサリー系の問屋では、特殊な場合を除き扱わない ②卸経由販売のメリット(流通経路調査から) ア 自前の物流を持たず、営業マンが不足している当社にとり、当社に代わって卸の営業マンが 販売を代行してくれる。 イ 東京など都市部においては大荷受企業の下に仲卸が存在し、彼らがスーパーや飲食店などに 直接の商流や物流を担っている。その物流体勢は強固なもので、煩雑極まりない都市部の流 通において最も合理的な手段となる。 ウ 生鮮品を扱う卸の支払いサイトは比較的短く、公設市場の中には支払いサイトが「〆後 4 日」 という企業もある。 *ちなみに、日配メーカーに対する聞き取り調査によると、末端量販店の製造メーカーに対する直接 の支払いサイトは 40〜60 日にわたる。 *またホテルや旅館、居酒屋、外食チェーンなどの支払いサイトは更に長く 60 日〜90 日、ひどいも ので 120 日に及ぶといわれている。 ③営業のポイント(先進メーカーからヒヤリングにより調査) ○ 需要のありそうなところを見つける。 ○ 需要を創造しながら拡大する。 卸経由での一般的活動 1)試食販売 2)同行販売 3)商談同行 4)単独商談 ④開拓方法のポイント 市場の営業マンは総じて営業力に乏しく、当社の製品コンセプトや差別化のポイントを明確に プレゼンテーションできない。従って市場経由での営業手法は直接末端取引先に主体的積極的に 商談を進め、後に、帳合い先として荷受け及び仲卸企業への報告をするパターンをとる。 ○ 直接末端への紹介 ボトムアップ型 2つのパターンがある。 ○ 卸会社から末端へ・・ トップダウン型 【仲卸会社 扱い分野別 】 ①マグロ ②日配 ③鮭鱒 ④小魚 ⑤乾物 ⑥鮮魚 ⑦特殊 ⑧練り加工 豆腐を扱う仲卸は「日配」と「練り製品」 、まれに「乾物」の扱いに含まれる。 仲卸を経由した、豆腐製品は居酒屋(チェーン系、独立系) 、レストラン(全国チェーン、地 域、独立、食堂) 、病院、結婚式場、スーパー(チェーン、小規模独立店) 、ホテル旅館、地方市 場、百貨店、ディスカウントストア等の業種や業態の企業に販売される。 【メーカー聞き取り調査による業態別卸の特色】 公設市場 …・門戸は広いがお任せ主義、自ら営業努力をしない(朝売り中心) 。 地方民間問屋…・各企業ごとに強みの取引先を持ち営業力やマーケティング力の差がある。 仲卸 …・規模が小さく、販売力弱いが、配送業務の利便性を買われている。 【築地市場内における流通構造を調査】 製造メーカー・産地 物流 商品情報 商談 築地市場内荷受け 7社 大都魚類 千代田水産 築地魚市 中央魚類 総合食品 第一水産 東都水産 中堅・大手 量販店・飲食チェーンの 契約する物流企業 5.5%〜8%マージン 大手飲食店 中堅量販店 小規模スーパー 食品小売 小規模飲食店等 ホテル・旅館 12%〜18% 8%〜12% 大手量販店 仲卸業者 950社 規模年商 1 億〜250 億円規模 7〜14%物流経費 (4) 同業 S 社の展開する小売部門に注目し、当社の小売事業の可能性について考察 S 社は設立当初から大手量販店中心に豆腐の卸売業を営んでいたが、2000 年頃より営業の主体を 工場直営小売方式に転換、2003 年には豆腐業界初めてマザーズに上場した。現在豆腐の直営店の他、 豆腐料理を主体とする外食店、大豆を原料とする各種食品の開発製造とその販売に力を注いでいる。 当社は業歴も浅く、S 社の戦略をそのままマネするわけにはいかないが先進成功事例として十分 研究する必要があると考える。特に、S 社の中核事業である小売部門の現状がどのようになってい るのか、財務データと実際の小売店リサーチの資料を合わせて検討する。 まず、小売事業部門の収益構造 S 社の小売事業の売上 (単位 千円) について検討する。2004 年の売 【小売事業】 2003/9 月 2004/9 月 前期比% 備考 上高は前年対比96%に落ち込 直営店売上 430,269 389,106 90.4% 4店舗閉鎖 んでいる。その内訳は、フランチ F 卸売上 77,341 326,331 421.9% 125 店増加 ャイズ契約における 2003 年度 FC C 工事収入 25,313 6,709 26.5% 卸の売上が421.9%増と急激な伸 加盟金 16,500 47,800 289.7% びを見せ、それに伴い FC 加盟金 その他 5,650 15,583 275.8% チラシ代 収入も約3倍の伸びを示す。反面 合 計 1,254,911 1,205,738 96.1% FC の工事収入は 2003 年度 2 億 5313 万円から 6709 万円に激減している。これはフリースタンディングスタイルタイプの FC 契約が 減少し、既存酒販店との売場で展開するタイプの契約が増えているからである。 注目すべきは直営店を 4 店舗閉鎖し、売上も 1 割近く落ち込んでいる点である。 FC 加盟の方法を見てみると、兼務型の FC が全 FC147 店の内 137 店を締めている。兼務型とは小 規模な酒販店の一角に S 社の豆腐販売コーナーを併設させるという方式であり、売上減少に悩む酒 販店とのコラボレーションタイプの FC である。 従って、S 社の業績好調の支えになっているのは、酒販店 FC の増加であることがわかる。 ① S 社直営の店舗の年間売上高を単純計算してみる。 3 億 8910 万円÷18 店舗=2162 万円となり、月平均の売上高が 180 万円となる 粗利益率60%としても粗利益高で 108 万円であり、人件費や地代家賃、水道光熱費などの諸 経費を考えると健全経営が成り立つ規模ではない。 S 社の方針の中にも、直営店舗は採算が合わないので、今後は FC 展開に力を注いでいくと明言 されている。 平成 16 年 9 月 決算時における S 社の店舗展開 出店地域 工場直売所 外 食 Tofu Sweets 店舗数 直営店 FC店 店舗数 直営店 FC店 店舗数 直営店 FC店 北海道・東北 1 ‑ 1 2 ‑ 2 ‑ ‑ 1 関 東 165 18 147 37 1 36 5 5 137 甲信越・北陸 16 ‑ 16 2 ‑ 2 ‑ ‑ 16 東 海 9 ‑ 9 1 ‑ 1 ‑ ‑ 9 関 西 42 ‑ 42 1 ‑ 1 1 1 42 中国・四国 4 ‑ 4 4 ‑ 4 2 2 4 九州・沖縄 5 ‑ 5 3 ‑ 3 2 2 5 合 計 242 18 224 50 1 49 10 10 214 ②都区内の豆腐店の事例 東京都江東区の商店街内の豆腐直売店である。商店街は全国でも名だたる繁盛店を有する商店街で、 食料品店の構成が多く、集客力は商店街の中で日本一ともいわれている。他にも 5 店舗の豆腐店が同 じ商店街の中にあるが、中でも一番繁盛していそうな店舗をピックアップした。 調査結果は以下のとおりである。 月商は 150 万円程度で家賃や水道光熱費、人件費などを考慮すると決して楽な数字ではない。 ア 業績分析 1 日あたり販売実績 平日 平均 4〜5 万円 MAX10 万円 月商150万円 粗利益75万円 ヒヤリング 売れ筋値ごろ帯 150 円から 250 円 家賃 25万円 人件費20万円 おぼろ豆腐 約400g 1 丁 320円 購入して試食 水道高熱費 5 万円 イ 商品分析 味 甘味 悪い やや悪い ない 食感 なめらか ボリューム 少ない 単価 高すぎる 清潔感 かなり悪い 接客態度かなり悪い 普通 やや良い 若干ある やや少ない やや高い やや悪い やや悪い 良い ある 適量 値ごろ 普通 普通 やや多い やや安い やや良い やや良い かなり良い かなりある かなり多い かなり安い かなり良い かなり良い ウ 商品構成 木綿豆腐 絹ごし豆腐 油揚げ がんも 豆乳 にがり 寄席豆腐 朧豆腐 他 エ 店舗調査 ・来店客は調査に入った自店では来店客の姿は従業員以外になし。 ・豆腐の販売単価は通常 200 円という定価のものが2丁で 200 円という売り方(ディスカウント)をしていた。 ・賞味期限切れの豆腐も若干目についた。 ・品揃えは豆腐の他にがんも、沖縄の塩、豆昆布、金時豆、シューマイ、豆乳、豆腐プリン、塩辛などがあり、全て S 社のブランドが張られていた。 ・豆腐以外の製品は一般のスーパーに販売されている食品に、S 社のブランドを付けた程度のものである。 ・店員にも元気や活気がなく店内の照明も暗かった。 上記 S 社 FC にて購入した商品 1 品 150 円〜200 円 当社において、消費者に直接販売する窓口は工場のみであり、通常のおかずとして消費者を集客す るのはおいしいだけでは難しいと考える。 工場店舗においてはこれまでも、チラシによる販売促進や多くのサンプル配布、あるいは地元商工 会議所の催し物に積極的に参加するなど販売促進に努力をはらってきたが、直接販売の売上高は上昇 に至っていない。 S 社の財務データや実際の店舗調査により小売事業での展開は困難であることが伺える。 (5) 販売戦略 今後力を入れていくべき販売エリアについて ・ 長野県内は、 「こだわり製品」を支える顧客層の少なさが試食販売の調査から判明している。 ・ 将来における人口動態も首都圏中心に推移する。 ・ 佐久市からの「物流インフラ」は築地市場などとの取引で確認済み。 ・ 都内著名量販店における試食販売においても当社の評価は高い。 これらのことから、当社製品の販路開拓エリアを、東京都を中心とする首都圏エリアとし、積極 的な営業活動を展開する。 ・ 現在展開中の築地、足立区、南行徳、品川エリア ・ 西東京地区 あ ・ 横浜、川崎を中心とする神奈川県エリア 以上3エリアの販売を強化していく あ あ 販路拡大に向けた具体的なアプローチで注意すべき点は以下の通り。 ① ② ③ 売場全体を管理する立場の人間と、現場に近いセクションの人物との導入意思決定には大きな差 がある。メーカー政策という立場から検討する統括部長に対し、商品の品質やおいしさから即納 を求める現場サイドの担当者との温度差はどこの食品売り場にも存在する、政策的にものごとを 進める立場の人物なのか、顧客の喜ばれるものを売場に陳列し早々に売り上げ向上を図りたい、 という立場の人物なのかを見分け話題や攻め方を変えていく。 百貨店のように成熟した売場では、まず新製品に対する潜在的拒否反応が生まれるため、試食や 商品を見てもらうまでが重要なポイントとなる。今回はコンサルタントの紹介によりスムーズな 商談に取り付けたが、飛び込みのような場合もいかにしたら商談にこぎつけることができるかを 考察する必要がある。 ターゲット企業の商談者の立場により商談の進め方を変えていく。 電話により商談のアプローチをした結果 集計企業 25 社 商談OK アポイント成否 2.5 7 2 1.5 商談OK 1 0.5 店 以 上 10 店 舗 3店 舗 10 5〜 商談の必要なし 商談に応じても良い 2店 舗 0 1店 舗 18 このデータは 7 月に 25 社に電話し、商談のアプローチを取ったデータである。 1)商談の必要なしと断られた例が 18 社、商談のアポイントが取れた企業が7社であった。 2)商談のアポイントの取れた企業の規模は1〜3店舗規模である。 3)アポイントがとれた企業の中でも、当社の製品を十分に売りこなす能力のある企業はわずか。 4)マーケティング力のある有望企業は、いきなりの電話アポイントで商談に応ずるところは少ない。 4 調査事業実施後の事業展開 (1)製造直販について 工場での一般消費者向けの直販は現在一日 100〜150 丁ほどである。4 月にチラシを入れたり、商 工会議所の催事などに積極的にも参加しても効果のほどは上がっていない。他店の事例でも豆腐の みでは単独小売販売が困難であることがわかる。 ①「軽井沢〜上田」にかけての観光ゾーンや「望月、白樺湖、清里」などの観光ゾーンと密接な位 置関係にある ② 付近に「おぎのや」などの強力な観光誘致施設がある。 ③ 大型バスなどが入る十分な敷地がある。 ④ わずか数百メートルに先に上信越自動車道佐久インターがある。 これらの理由から、工場での直販顧客に観光客を含める。観光バスの誘致や観光関連のパンフレ ットに掲載し PR 活動を行うなどの行動を今後行う。 それにより、地元顧客への再度のアピールとなる。 (2)量販店納品について ① 新規口座の開設は非常に消極的 ・ チラシやインプロ、試食など現在売場に並ぶ多くの豆腐メーカーは手間とコストをかけて育 ててきた、現在の豆腐構成を簡単に変えるわけにはいかないという意識が強い。規模が大き くなるにつれてその傾向がある。 ・ こだわり豆腐の販売に最も適した、マーケティング能力の高い量販店ほどガードが固い。 ・ 既にこだわりや高額商品を定番化している量販店も、上のような理由から商談にも応じても らえない、いわゆる門前払いの傾向が強い。 ② 流通コストの負担が大きすぎる。 ・ 1丁 50 円とか 100 円という低価格の量販商品であれば、十分に物流コストは吸収されると思 われるが、当社のように末端売価 250 円を超える高額豆腐の一店舗 1 日あたりの販売量は平 均6丁程度である。 例 1)上野にある Y 社に豆腐を納入する場合をシュミレーションしてみる。 (運賃) 佐久 築地 1 個 350 円 築地 上野 1 個 450 円 ・現在当社の発注単位は量販店は6丁単位。 仮に6丁の注文を受け発送した場合には 1 丁あたり物流経費 (350 円+450 円)÷6丁≒117 円 Y 社の築地市場からの仕入れ単価は現在 190 円。 当社の手取り金額/1 丁あたりは 190 円−117 円=73 円 ・センターを持つような大規模な量販店と直接取引した場合も同様である。 例 2) 大手 GSM の実際のコスト構造でシミュレーションする。 関東 D 社と直接取引すると過程した場合、物流は船橋の冷蔵倉庫に一旦配送され、そこから船 橋DCと川崎DCの2拠点に転送され、その2拠点から各店舗に配送される。 掛る運賃経費は以下のとおり 佐久 船橋 物流経費 350 円÷6= 60 円/1 丁 冷蔵庫入出庫&荷捌き料 10% 19 円/1 丁 受発注伝票発行処理会社(セリティフーズ) 7% 14 円/1 丁 船橋 2DC D 社各店 物流経費 150 円÷6= 25 円/1 丁 1 丁あたり物流経費 当社の手取り金額 118 円/1 丁 190 円‑118 円=72 円/1 丁 物流経費の面でも、末端量販店などとの直接取引は採算があわない (3)市場(公設市場・民間卸問屋)経由による販路開拓について ・ 商品拡販機能 市場の営業力によるが、当初狙っていたターゲットの他にも販路が広がる可能性があり。 ただし、問屋の能力や営業努力の有無によりそのままでは広がらない場合も多い。 市場経由の販路開拓の場合、入り込もうとする問屋の能力を見極めることが重要である。 販路開拓における問屋の能力 ①営業努力の度合い ②商品知識のレベル ③商談のレベル ④取引先とのリレーションズ ⑤バイヤーとの力関係 当社の対応姿勢 努力度合いに応じて当社がフォロー レベルの高低に応じて同行セールスなどのメーカーフォロー レベルの高低に応じて同行セールスなどのメーカーフォロー リレーションの深さによって帳合い先を変更 強い力関係を持つ問屋と付き合う ・メーカーと量販店が直接接触することを嫌う問屋もある。 上記の中で、積極的な営業活動を行い、商品知識や商談のレベルが高い問屋程、メーカーと量 販店が直接商談することを嫌う。明確に禁止しているところもある。そのようなエリアにおいて は量販店との取り組み以前にその問屋との結びつきや気に入られることを最優先する。レベルの 高い問屋と取引する場合は、全てを任せるくらいのほうが良い。問屋の担当者との人間関係さえ 築ければ安定した取引が行える。 ・営業努力のない、やる気のない問屋。 営業努力もしないで、朝売りが終わったらそうそうに帰ってしまうような問屋は、荷捌き、配 送などの物流機能にのみを期待し、商談は末端の量販店や業務店にメーカーが積極的に仕掛けな ければダメである。 ・営業は積極的に行うが商談レベルが低いタイプの問屋 メーカーの働きかけに喜んで営業活動をしてくれる積極的営業マンでも、ノウハウが足りずに 効率良く販売に結びつかない場合がある。1人で1000アイテムもの商材を扱う問屋の営業マ ンの知識は、一般的に広く浅い、メーカーがプレゼンテーション資料の作成や、同行営業などの で問屋営業マンの活動を支援していく。 (4) 量販店での店頭マーケティングについて ・ POPの提示について各バイヤーは、好意的であったが、利用するかどうかは各々の企業で異 なった。現場での確認においても貼付は極めて少ない状況。先にも述べたように、そのメーカ ーの商品にだけPOPをつけるということに抵抗があるようだ。 ・ 試食販売においては、全ての企業で歓迎された、試食販売の店側の目的には 1)一時的な売上が欲しい場合 2)純粋に当社製品を認知させ育てる の2通りの目標があるようだ。どちらにせよ価格の高い商品だけに試食活動は今後とも辛抱強 く積極的に行っていくべきである。 (3〜5年間は続ける) (5) リテイルサポート機能について ・ 試食販売を行ったデータを簡易に加工し店舗の豆腐売場の活性化に役立ててもらう。 ・ バイヤーによっては当社の製品のみでなく、豆腐売場全体のマーケティングプランの提案を求 めるところもあった。当社には商品的にも各層の豆腐を構成する能力がないため、売場提案型 のセールスは今のところできていない。今後はリテイルサポートの研究も進めていく必要があ る。 (6) 製品戦略について 現在の主力は ① 絹ごし豆腐 330g ② 木綿豆腐 370g ③ よせ豆腐 250g ④ おぼろ豆腐 220g が中心であるがすでに ⑤ 豆乳製品 ⑥ ゆば製品 のカテゴリーで新製品が完成している。更に、売価ラインを引き下げた商品も現在急ピッチで 開発しており、豆腐製造業としてのフルラインの品揃えが可能となった。 5 調査テーマに関する社長のコメント 今回、7 月から 2 月迄の 8 ヵ月間において当社の石臼挽き豆腐についての販路拡大のためのマーケ ティング調査を行いました。 当社製品は昨年の 4 月より事実上の販売を開始したところであり、それ以前は製品の開発に主力を 置いていたこともあり、まさに今回のマーケティング調査は当社にとって販路拡大のためには絶好の タイミングであったと言えます。 調査期間中はほぼ毎日のように試食販売や商談を行ってきた訳ですが、食品業界進出という初の試 みであった当社にとっては日々が勉強の毎日でありました。 特に当社のようなこだわり豆腐は販売先に受け入れてもらうまでに時間がかかり、商談成立後も定 番メニューとなるまでにはかなりの労力と根気強い営業が必要となります。 また物流機能のない当社では流通コストの吸収という大きな課題もあり今後も販路を拡大していく ためには更なる営業努力が必要となるものと思います。 今回のマーケティング調査を通し当社製品の優位性と問題点(課題)が再認識出来、更には今後の販 売戦略が明確となりました。調査データにつきましては今後の営業活動の糧とさせて頂きたいと思い ます。関係者の皆様にはご協力大変感謝申し上げます。ありがとうございました。
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