水際線施設の一体整備ガイドライン

水際線施設の一体整備ガイドライン
平成17年1月
国土交通省港湾局
目次
■本ガイドラインの性格と位置付け・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
Ⅰ.水際空間の企画及び計画
1.1.水際空間の魅力・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.2.地域アイデンティティの共有・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1.3.防災機能の確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
1.4.水際空間の活用方針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
1.5.パブリックアクセスの確保・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
1.6.統一的な空間形成による水際の快適な空間の創出・・・・・・・・・・・・・16
1.7.関連計画との調整・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
Ⅱ.水際空間の整備
2.1.事業化における役割分担・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
Ⅲ.水際空間の利用及び運営
3.1.水際空間の利用における公共施設の使用許可・・・・・・・・・・・・・・・24
3.2.水際空間の利用における水域の活用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
3.3.民間のノウハウを活かした水際空間の運営を図る方策・・・・・・・・・・・33
3.4.水際空間の魅力を継続的に維持・向上させる方策・・・・・・・・・・・・・35
Ⅳ.水際空間の一体的な計画・整備・運営
4.1.水際空間の一体的な計画・整備・運営を行う主体とスキーム・・・・・・・・36
4.2.水際空間の一体化な計画・整備・運営へ向けて・・・・・・・・・・・・・・39
臨海部都市再生事業における水際線施設の一体整備に関する調査委員会名簿・・・・・・40
1
■本ガイドラインの性格と位置付け
目的
○ 本ガイドラインは、臨海部(港湾区域とこれに接する陸域:以下同じ)における、公共施設
の適切な整備、運営及び利用を促進するとともに、民間の発想と能力を活用して背後地域の
開発と調和した適正な水際空間を形成する上で留意すべき事項についてとりまとめ、もって
港湾空間の質的向上を通じた臨海部における都市再生を迅速に促進することを目的とする。
(背景及び目的)
我が国においては近年、都市に近接する臨海部の土地利用が大きく転換しつつある。
臨海部における都市再生事業では、内部陸域を民間事業者が、水際空間を港湾(海岸)管理者が整
備及び管理を行う事案は多数あるものの、民間の能力を活用して内部陸域と水際空間を一体的かつ連
続的に整備することにより開発が行われた事例はまだ少く、官民ともにノウハウに乏しい。こうした
開発事業についてのポイントについて体系的な整理を行うことで、効率的に事業が進められ、臨海部
都市開発の価値付加と港湾空間の一層の質的向上を実現することが出来、また、水際空間で様々な主
体による利用活動が展開されることで、地域活性化に貢献することが期待される。
本ガイドラインにおいては、民間の能力を活用して水際線施設(空間)の一体的整備・運営を行う
上で留意すべき基本的事項を取りまとめることとし、本ガイドラインが広く活用されることにより、
我が国の臨海部における都市再生事業が推進されることを目的とする。
位置づけ
○ 本ガイドラインは、全国の臨海部における都市再生事業において留意すべき基本的な事項を
とりまとめたものである。民間事業者においては本ガイドラインを水際空間の開発企画を行
う上で参考として活用し、港湾管理者においては本ガイドラインを行政判断の参考資料とし
て活用することにより、臨海部における都市再生事業の推進がなされることが期待される。
○ 本ガイドラインは、国内外の先進事例を参考に、主に東京臨海地域内の豊洲・晴海地区をモ
デル地区とし臨海部における都市再生の推進方策についてとりまとめたものであり、全国各
地の個別事業においては、それぞれの立地条件、環境条件等に基づき、港湾管理者(海岸管
理者)・民間事業者間の合意の下に、詳細が決められる。
(ガイドラインにもとづく個別事業計画の策定)
個別の臨海部都市再生事業における水際空間の一体的整備に当たっては、本ガイドラインを基礎と
して関係機関の連携と協調のもとに、対象とする水際空間が有する個別の諸条件に基づいて詳細が決
められることとなる。
2
Ⅰ
水際空間の企画及び計画
1.1
水際空間の魅力
○ 内陸部にはない臨海部特有の魅力としては、水際空間における以下の特性が挙げられる。
・水際空間でしか行うことのできない多様なレジャー活動
・過密な都市における開放的な水辺景観
・時代に応じて変遷してきた水際空間の歴史・文化
(水際空間の魅力)
水際空間は、海と陸が出会う場であり、陸上生活者である我々にとって「海」という別世界に触れ
る最前線にある空間である。そのような立地条件から、内陸部にはない次のような魅力がある。
・海水浴やウィンドサーフィン、船遊び等、水際空間でしか行うことの出来ない多様な海洋レジャー
活動を行うことができること。
・過密な都市の景観に開放的な視点を提供し、水面に反射する建造物の全貌を見せたり、幻想的な夜
景を見せるなど、都市空間にとって貴重なオープンスペースであること。
・中世以前においては漁業や交易の拠点であり、同時に舟遊び等のレジャー活動の舞台でもあった。
近代においては殖産工業の拠点であり、かつ異国との窓口として、異文化との出会いや旅人の旅立
ちが交錯する交流空間であった。戦後の高度経済成長期においては造船、鉄鋼、化学、エネルギー
産業等が立地する工業地帯であった。このように水際空間は時代毎に様々な役割で活用されてきて
おり、時代に応じた歴史・文化を持っていること。
1.2 地域アイデンティティの共有
○ 水際空間を活かした都市再生事業の対象地域は、地理的につながりがあり、一定の水域を共
有する地域を一体として考え、且つ歴史的・文化的背景を考慮し検討することが望ましい。
○ 計画の立案にあたっては、事業者、港湾(海岸)管理者、地元自治体に加えて利用者となる
地元住民が水際空間の「地域アイデンティティ」を確立し共有することが重要である。
(水際空間の形態的特性と地域アイデンティティ)
本ガイドラインが想定する水際空間は、主に都市再生事業の実施可能性が高い都心に近い臨海部で
ある。海岸や湖水など開放的な他の水際空間に対して、都心に近い臨海部は一つの水面を取り囲むよ
うな水際空間を持つことが多く、その際には、同じ水面に面する水際線の一体的な地域アイデンティ
ティの共有が特に重要である。
また、地域アイデンティティの共有により、地域が長期的な展望をもち、地域の文化という恒久的
な価値を地域にもたらす効果も考えられる。
そのため、地域アイデンティティを確立するためには、経済活動を含む日常の持つ文化性、地域の
歴史、人々のその地域から喚起されるイメージ等を盛り込むことが必要となる。
3
水際空間の地域アイデンティティの一例として、水際空間が各々の時代で持っていた多様な歴史
的・文化的背景を活用することが考えられる。その際、地域のシンボルとして水際空間の歴史的・文
化的資源(市場、倉庫、貨物線鉄橋、クレーン等荷役機械、歴史的船舶、造船ドック等)を保存・活
用すること、地域の産業活動の歴史や海洋文化を発信する場を設けることも考えられる。
(事例紹介:水際空間における地域アイデンティティ確立の事例)
・英国ドックランド
英国ロンドンのテムズ川両岸で繁栄した造船ドックが立ち並ぶ地域の再開発において当局が重視
したのは、造船ドックであった。他地区と差別化を図る手段としてドックを含む複雑な地形を出来る
限り保存し、内部を多様な小型船舶の係留施設として活用している。また、歴史的建造物(倉庫・教
会等)を保存し、内部を改装して地域のランドマークとして活用している。
造船ドックの地形を保存している
ドックの内部は係留施設として活用している
左は地域のランドマークとして活用している倉庫
4
(モデル地区における地域アイデンティティ)
モデル地区である豊洲・晴海地区については、東京都は、豊洲・晴海開発整備計画(平成 14 年
9 月)において次の3つの開発目標を示している。
①職住近接の都市型居住のまちの形成
豊かな水辺環境や大規模敷地等の好条件を活かしながら、多様化する都市生活に対応した質の高
い居住機能を積極的に導入し、職住近接の都市型居住のまちの形成を図る。
②業務・商業・居住・文化などが調和した複合市街地の形成
まちの活性化やにぎわいの創出を図るため、居住機能に加え、業務・商業・市場・文化など、多
様な機能を複合的に配置し魅力的なまちとする。
③東京の海の玄関にふさわしい文化と交流のまちの形成
東京の海の玄関口である晴海客船ふ頭を中心として、国際交流拠点や豊洲の文化・交流・レクリ
エーション拠点を整備するとともに、市場とそのにぎわい施設を中心とした食の提供などにより
世界の人々や都民に開かれた文化と交流のまちを形成する。
また、東京インナーハーバー連絡会議※において次の4つの開発コンセプトを提案している。
① 高質の水辺居住空間
② 24 時間活動する世界の観光拠点
水上交通によるベイエリアの観光スポット巡り
水域を活用したエンターテイメントゾーン
市場を活用したグルメワールド
巨大テーマパークホテル・ショッピング
③ 産学連携による新産業創造
④ 2 大エネルギー企業(東電・東ガス)と水上交通等による都市防災拠点
※東京インナーハーバー連絡会議:豊洲・晴海地区の地元地権者からなる連絡会議。東京湾の最
奥部に位置する中央・江東臨海部の豊富な水域を積極的に活
用し、東京の新名所ともなる魅力と活力にあふれる複合市街
地の形成を目指すことを目的として活動している。
これらを参考に地域アイデンティティを確立し、関係者間で共有化を図っていくことが望ましい。
5
豊洲・晴海地区には、以下のような歴史的資産、文化的資産、景観があり、これを地域のシン
ボルとして保存、活用していくことが考えられる。
歴史的資産:造船ドック、旧鉄道橋、旧防波堤、
ガス・電気エネルギー拠点としての歴史等(共に昭和前半)
文化教育的資産:新市場(築地市場が平成 24〜28 年度に移転予定。外部市場も含めた活用が
検討されている。)、ガスの科学館等
景観シンボル:高層建築群
旧鉄道橋
造船ドック跡地
ガスの科学館
豊 洲
ゆりかもめ
東雲3号橋
駅
駅
東雲1号橋
東雲2号橋
旧防波堤
豊洲駅
晴豊1号橋
晴豊2号橋
新市場
地下鉄有楽町線
晴 海
200m
豊洲晴海地区の歴史的・文化的資産
凡例
交通結節点(駅)
新市場
高層建築群
地下鉄有楽町線
ゆりかもめ
防潮護岸
埋立範囲
6
1.3
防災機能の確保
○ 水際空間は、高潮や津波、越波などの災害から都市空間を防護するラインでもあることから
海岸保全施設の防災機能を損なわないように計画されなければならない。水際空間の短期的
な利用に対応した仮設建造物においても、同様である。
○ 非常時に水上交通を円滑に活用するため、水際空間にオープンスペースを設けること、常時
より水上交通の活用を図ることが望ましい。その際、非常時における地方自治体等の優先利
用を担保する等の工夫が必要である。
(防災機能の確保)
水際空間の利用施設の計画にあたって、例えば工作物(桟橋・係留施設)を海岸保全区域内に設置
する場合、海岸保全施設を損傷したり、安全性・防護機能に悪影響を与えないことが必要である。
阪神大震災において有効性が確認された水上交通による震災時における緊急物資・人員輸送を円滑
に行うためにも、水際空間に非常時にも救助船が着岸できるスロープ、緊急物資仮置き、避難者のた
めのオープンスペースを確保すること、常時より水上交通の活用を図ることが望ましい。その際、民
間が所有・管理する港湾施設であっても、非常時においては地方自治体が優先的な利用を担保する等
の工夫が必要である。
(参考:海岸法)
(海岸保全区域について)
第三条 都道府県知事は、海水又は地盤の変動による被害から海岸を防護するため海岸保全施設
の設置その他第二章に規定する管理を行う必要があると認めるときは、防護すべき海岸に係る
一定の区域を海岸保全区域として指定することができる。(以下略)
(海岸保全区域の占用について)
第七条 海岸管理者以外の者が海岸保全区域(公共海岸の土地に限る。)内において、海岸保全施
設以外の施設又は工作物(以下次条、第九条及び十二条において「他の施設等」という)を設
けて当該海岸保全区域を占用しようとするときは、主務省令で定めるところにより、海岸管理
者の許可を受けなければならない。
2 海岸管理者は、前項の規定による許可の申請があった場合において、その申請に係る事項が
海岸の防護に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めるときは、これを許可してはならない。
(海岸保全区域における行為の制限について)
第八条 海岸保全区域内において、次に掲げる行為をしようとする者は、主務省令で定めるとこ
ろにより、海岸管理者の許可を受けなければならない。(以下略)
一(略)
二 水面又は公共海岸の土地以外の土地において、他の施設等を新設し、又は改築すること。
三(略)
2 海岸管理者は、前項の規定による許可の申請があった場合において、その申請に係る事項が
海岸の防護に著しい支障を及ぼすおそれがあると認めるときは、これを許可してはならない。
7
(モデル地区における防災機能の確保)
モデル地区の護岸(海岸保全施設)周囲において水際空間を活用しようとするとき、
(船舶を係留する場合)
○係留された船舶が津波・高潮時に海岸保全
施設に打ち付けられてこれを破損し、海岸
保全機能を損なわないこと
(施設を設置する場合)
○施設の荷重が、海岸保全施設に悪影響を及
ぼさないこと
○津波・高潮時に施設が波によりさらわれ、
海岸保全施設を破損し、海岸保全機能を
損なわないこと
○海岸保全施設の補修に障害とならないこと
等を検証・担保しながら、海岸管理者が許可・不許可の判断を行う。
8
1.4
水際空間の活用方針
○ 水際空間が持つ空間の質を決定付ける要素は「水面」であり、まず公共空間たる水域の活用
方針を地域アイデンティティを踏まえ行政が示すことが重要である。
○ 示された水域の活用方針を基に、これに接する陸域の活用方針を行政と民間が共同で定める
ことにより、水域を中心とした一体的な水際空間の整備・利用を進めることができる。
(水域の活用方針)
水際空間の最も重要な要素である水域の活用方針が空間全体を特徴づけるものであり、陸域は水域
の活用方針を基にその活用方針が定められることにより、空間の質的一体性を創出することができる。
また、水域は公共空間であり、その活用方針は関係者間で共有した地域アイデンティティを踏まえ
て港湾管理者が示すことが求められる。その際、水域には一般的なふ頭前面のように大きな広がりを
持った水域や運河のように比較的対岸の距離が近い水域など様々なケースが想定され、その活用方針
もスケールを意識したものとすることが望まれる。
(陸域の活用方針)
上記水域の利用方針を基に、陸域については行政及び民間が共同で空間の活用方針を定めること
が望ましい。その際、陸域においては水際線に顔を向けた施設配置を行うと、空間としての一体性
がより一層創出される。
また、水際線は海と陸が接する場所という立地条件のため、海陸の温度差により、強い風が吹く
ことが多い。そのため、夏季は涼しく過ごしやすいが、冬季は体感温度が低いため屋外での利用者
が減少する傾向にある。したがって、水際線の活用にあたっては、通年で行う利活用のみならず、
季節によってメニューを変えるなど四季を活かした活用を行う必要がある。
9
(事例紹介):水際線の活用方針策定の事例
・米国サンアントニオの事例
米国のサンアントニオ市では市内中心部を大きく湾曲して流れるサンアントニオ川の両岸に歴史
的建造物の立ち並ぶスペイン風の古い町並みをコンセプトにした商店を建設し、河川をそのまま活か
して町を開発する計画(リバーウォーク構想)が採択され、第二次大戦後には荒廃したリバーウォー
ク再生のマスタープラン「パセルデルリオ(川の遊歩道)」が採択された。
公共空間である河川敷を対象に市がマスタープランに基づいて遊歩道を整備し、水門による水位調
整で河川敷におけるオープンカフェ等の活動を可能にしているが、公有地たる河川敷を民間事業者に
貸し出す土地リース契約の中で、建物の開発・広告・植栽を諮問委員会方式で細かく規定している。
また、1988年に完成したリバーセンター(客室1000室のホテル、商業施設、レストラン・劇場の複
合施設)にはサンアントニオ川の水を引き込んだ運河を新規に整備。水を向いた都市開発により、
現在サンアントニオ市には年間約1560万人(2002年)の観光客が訪れている。
リバーウォーク構想における河川沿いの開発イメージ。低層階の建物が中心となっている。
リバーウォーク沿いのホテルがレストランが
た前面に設置したオープンカフェ
Just add water をスローガンに延長・開削され
新しい水路を取り囲むようにして建設された複合
施設・リバーセンター。水路をツアー船が走る。
10
(モデル地区における水際空間の活用方針)
東京都は、豊洲・晴海開発整備計画(平成 14 年 9 月)において以下の開発目標と水域利用・水際
線の整備方針を定めている。
○水域利用
(前略)晴海・豊洲間の水域及び豊洲・有明北間の水域は夢の島マリーナや辰巳の森海浜公
園、有明親水海浜公園、お台場海浜公園などと連携を図り、船舶航行の安全を確保しつつ、
海洋性スポーツ・レクリエーションなどに積極的な活用を図っていく。
このため、東電堀背後地の文化・交流・レクリエーション拠点に小型船の係留施設や教育訓
練などの支援施設、イベント広場、にぎわいを演出する施設などが一体となって機能する空
間を形成する。
また、晴海・豊洲間の水域のうち、環状2号線延伸部の西側の水域は、旅客線ふ頭や官庁
船バース等を利用する大型船が航行する水域とする。
なお、朝潮運河については、周辺の状況や今後の開発の方向性と整合を図り、多面的に活用
していく。
○水際線の整備
豊洲・晴海地区の水際線は、旅客船ふ頭や官庁船バース等の整備を図るとともに、海洋性ス
ポーツ・レクリエーションや市街地における景観形成、水質保全への配慮など魅力ある水際線
の実現を目指した整備をすすめていく。
(1)水際線の積極的な活用
水際線は、その前面水域とともに、港湾活動やスポーツ・レクリエーションなど様々な活用
が図れるよう魅力ある空間の創出を図る。
(2)多様で変化に富んだ水際線の創出
広く人々に開かれた空間とするため、景観的にも変化をもたせた水際線の創出を図る。
(3)後背地と調和した空間の形成
水際線は、その後背地に整備される住宅・業務・商業施設、オープンスペースなどと調和を
図り、地域環境の形成に配慮したうるおいとゆとりのある親水空間の形成を図る。
レクリエーション水面
(水上レストラン、レストラン船、
水上イベント開催、マリンスポーツ等)
アミューズメント水面
船舶航行水面
(海上バス、マリンスポーツ
アトラクション等)
水辺のふれあい水面
(船舶航行、水辺の遊び、散策、
海釣り)
海上遊覧・レジャー水面
モデル地区の水域利用イメージ
11
1.5
パブリックアクセスの確保
○ 水際空間のもつ魅力を誰もが共有できるよう、水際空間に対するパブリックアクセスが確保
されることを原則とすべきである。
(水際空間にわかりやすく快適に近づけること)
水際空間の施設配置計画にはまず、内部陸域又は水域からの接近の容易性が重要である。そのため
に、交通結節点(駅・駐車場等)から水際空間へのアプローチ、陸上交通と水上交通との連携を確保
することが重要である。
また、物理的なアクセス手段の充実だけでなく、周辺道路や公共輸送機関等からの水辺の視認性(視
覚的アクセス)が確保されるとともに、空間の一体性に配慮した交通結節点から水際空間までの演出
が図られるよう留意する。
上島ら(※1)によると、水辺との一体性を確保する拠点としての水際の「滞留空間」の幅員は最
大25m、滞留空間を含む水際空間のオープンスペースの幅員は人が動作を識別できる距離である1
50m以内としており、水際空間の魅力を引き出すためにはこの範囲に滞留空間、オープンスペース
を収めることが望ましい。
また、奥田ら(※2)により、水際部緑地においてベンチや芝生園地での滞留時間が非常に長く、
そこでの行動も多様であることが確認されていることから、眺望を楽しむ、あるいは水際独特の環境
を感受しながら食事を楽しむ等、水際空間の魅力を有効に活用するためには、水際空間にベンチや芝
生園地等を適切に配置する必要がある。
(水際空間の回遊性を高めること)
各地区において空間の魅力向上が図られた場合にそれを結ぶ連続したプロムナードの整備により
回遊性を確保することが、水際空間の相乗的な魅力向上に資することとなる。水際空間を利用者が飽
きることなく自由に行き来できるためには、連続性を確保すること、人間の飽きの来ない歩行距離の
限界(500m〜600m)
(※3)等に配慮し、それに応じて適切な休息施設等を設けること、水際線や
水際空間の形態、水際施設の機能に多様性を持たせる等、水際空間の持つ多様な魅力を視覚的に楽し
めるよう工夫することが望ましい。
(誰もがわかるサイン(標識)の配置)
水際空間への入り口及び内部において、官民が協力して統一的、かつ適切なサイン(標識)計画
(※4)に基づいた万人に分かりやすい誘導や、地域の歴史や文化に関する情報を提供することが重
要である。
※1上島顕司、善見政和、齋藤潮:港技研資料 No.940 都市と水辺の一体性を確保した水際空間
の構成原理とデザイン,運輸省港湾技術研究所,1999
※2奥田薫、小林亨、村田利治:港技研資料 No.877 人の動的形態からみた水際部緑地の空間特性
運輸省港湾技術研究所,1997
※3横内憲久、ウォータフロント計画研究会:ウォーターフロントの計画ノート,共立出版,1994
※4サイン計画とは、一般の市民がわかりやすく目当ての施設に到着できるよう、道路や交差点、
駐車場等に設置する標識の配置計画である。
12
(参考事例:シドニーダーリングハーバーにおけるパブリックアクセスとサイン計画)
ダーリングハーバー地区には様々な施設が立地していることから,様々な人が・それぞれの目的を
もって来訪する。7か所の公園およびそれを結ぶ「ウォーターフロントプロムナード」により水際に
沿った遊歩道を整備することで,一般市民が自由に立ち入ることのできる空間を重点的に確保してい
る。また、人々が容易に目的としている施設に到達できるように、サイン計画に力を入れており、統
一したデザインのサインを作成し,施設の性格ごとに色彩を決めてサインに表示している。
水際線の各施設を結ぶウォータフロント
プロムナード
建物をセットバックさせてプロムナードと
の一体感を演出している。
(参考事例:水際線と陸域の高低差を利用した階段状の滞留スペース)
防潮護岸の法面は、スロープとして利用する他、階段状とすることで休憩したり海を眺めたりでき
る滞留スペースを生み出すことができる。また、観客席として利用すればイベント会場としても利用
できる。
円形に階段を配置し舞台としての利用も可能。
(マリンピア神戸 さかなの学校)
13
海を眺めながら休憩できる滞留スペースとな
っている。(伏木富山港 海王丸パーク)
(モデル地区におけるパブリックアクセス①)
豊洲晴海地区の水際空間おいて、パブリックアクセスを確保し、水際線の魅力を人々が享受するた
めには、以下の点に留意する必要がある
・水際線から 25m以内にベンチや芝生等、人が滞留できるような工夫が必要となる。
・水辺を眺める建物から、水上イベント等様々な取り組みを行う水域までの距離は人の動作を識別で
きる最大距離とされている 150m 以内に収めることが望ましい。
人の滞留を進める工夫
水上イベント
が必要(ベンチ、芝生等)
緑地
防潮護岸
浮き桟橋
滞留空間:25m以内
50m
オープンスペース:150m以内
モデル地区における水際線までの距離
14
(モデル地区におけるパブリックアクセス②)
豊洲晴海地区全体においてパブリックアクセスを確保するために以下の点に留意する必要がある。
・水際線にわかりやすく快適に近づけること
交通結節点である地下鉄・ゆりかもめの駅から水際空間への良好なアプローチを確保する。
水上バスターミナルと地下鉄の駅・ゆりかもめの駅との連携を確保する。
交通結節点から水際空間まで、空間の一体性に配慮した演出を図る。
周辺道路や公共交通機関からの水辺の視認性が確保されるよう配慮する。
・水際空間の回遊性を高めること
橋梁部、晴海・豊洲間における連続性の確保に配慮する。
利用者の快適歩行距離(約 500m)に配慮して適切な休憩施設を設け、水際空間の形態・機能
に多様性を持たせることが望ましい。
・誰もがわかるサイン(標識)の配置
水際空間への入り口及び内部において官民が協力して統一的・かる適切なサイン(標識)計画
に基づいた万人にわかりやすい誘導や地域の歴史(造船やエネルギー基地等)や文化(市場、海洋
文化)に関する情報を提供することが重要である。
地下鉄有楽町線
晴 海
豊洲駅
晴豊1号橋
晴豊2号橋
水上バスターミナル
豊 洲
(構想)
東雲3号橋
ゆりかもめ
駅
駅
東雲1号橋
東雲2号橋
150m
500m
凡例
防潮護岸
交通結節点(駅)
アプローチの確保
連続性の確保
15
1.6
統一的な景観形成による水際の快適な空間の創出
○ 水際線の活用方針を基に創出される水際空間の魅力を最大限に活かすため、統一的な景観形
成を目指し、臨海部空間を地域アイデンティティに配慮した設計をすることが重要である。
臨海部における空間の魅力を最大限に活かすためには、統一的な景観形成を目指すことが不可
欠である。具体的には港湾(海岸)管理者や地権者等による景観協定の締結などを行い、連担に
よる空間の相乗効果を享受することが望ましい。その際、水域のスケールに応じた空間形成を図
ることが重要である。
具体的な検討にあたっては、可能な限り、模型やバーチャルリアリティの活用を図り、具体的
な共通イメージを関係者が持つことが適当である。また、互いに締結する協定に記載されるべき
事項としては以下のようなものが考えられる。
・対岸景観への配慮
建物を水面に向ける・夜景の演出等、相互に
対岸からの景観に配慮する。
(神戸メリケンパーク)
・色彩及びデザイン
地域アイデンティティをアピールする海や港にちなん
だ色彩やストリートファニチャーのデザインに配慮する。
(ドックランド)
・建物の高さ及び壁面のセットバック
水面に向かうすり鉢状の曲面を想定し、周囲の建造
物から水面への眺望を確保するとともに、水際空間の
開放性を維持する。
(シドニー)
・ビジュアルアクセス
後背陸域から水際空間の見通しを適切な間隔
(神戸メリケンパーク)
で確保する。
・ヒューマンスケール
広大な空閑地や大規模建造物が立地しやすい水際空間
において、特に水辺を利用する市民が心地よさを感じら
れるようなスケール感を守るよう、高層建築物の低層部
にアーケードを設けたり、駐車場の連続を避けるなどの
(ボルチモア)
配慮を行う。
・屋外広告物への規制
屋外広告物や看板の大きさや色彩を地域アイデンティティに対応したものとする。
16
(事例紹介)水際空間における主な景観ガイドライン既定項目の抜粋
(みなとみらい21地区(横浜港))
・みなとみらい21地区街づくり基本協定
第7条:建築物等の基準
1 最小敷地規模
2 スカイライン
(2)海側から山側に向けて、除々に建物高さが高くなるようなスカイラインを形成するため別図
(略)のような基準高さを設定する。ただし、その建て方について海へのビスタの妨げにな
らないような配慮を行った建物で、協議会が認めるものについては、その高さを越えること
ができる。
3 ペデストリアンネットワーク
4 外壁後退
5 駐車場
6 広告物
「みなとみらい21地区建築物色彩計画基準」
1 基調色の設定
2 調和した景観の形成
3 街並みの個性演出
(お台場地区(東京港))
・臨海副都心まちづくりガイドラインー改定−
Ⅲ まちづくりの計画指針 2 開発誘導指針 (2)敷地利用
2)壁面線の位置
①道路境界線、隣地境界線
②シンボルロードと敷地の境界線
③集客性の高い水際線とそれに隣接する敷地との境界線
ア お台場海浜公園に隣接する商業ゾーンの敷地では、水際線沿いの連続したにぎわいのある歩
行者空間「お題場シーサイドプロムナード」を形成していくため、主要施設部分の壁面線を
20m程度セットバックさせる。
イ 上記人工地盤等の上部には、にぎわいを演出するため、低層の商業・サービス施設を適切に
配置する。
ウ 人工地盤等の下部の区画道路沿いについては、景観面に配慮するため、にぎわいを演出する
商業・サービス施設やギャラリー、ショールーム、ロビー等の公共サービス空間、植栽など
を設けて、人工地盤下の駐車場等が直接区画道路に面さないようにする。
17
・臨海副都心広告協定書
第7条:掲出広告物のうち自家用広告物については次の各号に掲げる表示歩法では、表示、掲出又は
設置をしてはならない。ただし、第2号から第5号までに掲げるもののうち、地域のにぎわいを創
出する上で必要があるものであり、かつデザインが優れ、周囲の景観とよく調和したものであって、
第10条に定める委員会の承認を得たものについてはこの限りではない。
一 敷地外に突出するもの
二 横断幕、垂れ幕をしようするもの
三 屋上へ取り付けるもの
四 建物から突出するもの
五 光源の点滅するもの及び赤色光又は露出したネオン管をしようするもの
第 8 条:この協定に加入している者(以下「協定者」という)は、協定区域内に自家用広告物を設
置しようとするときは、(略)委員会の審査を受けなければならない。
22 協定者は、この協定の締結後に土地の所有者等となる者と土地賃貸借契約等を締結しようとす
るときは、土地の所有者等となる者がこの協定へ加入することを契約条件として付さなければ
ならない。
3 協定者は、その所有者等となる者がこの協定へ毛入することを契約条件として付さなければな
らない
(関門海峡地区(北九州門司港及び下関港))
・関門景観条例
関門景観条例は、下関市、北九州市の両市民の貴重な共有財産である
関門景観を保全、育成、創造するために必要なことを定め、関門景観の
魅力をさらに高めるとともに、将来の両市民に継承するため、平成13
年10月に制定された。複数の自治体が県域を越えて景観に関して同一
名称、同一条文の条例を制定するのは、全国初の取り組みである。
主な内容
関門海峡
・基本理念
(1) 関門景観の形成は、両市、両市民が連携して取り組む。
(2) 関門景観の形成は、市域内部のみならず、海峡の対岸及び海上からの眺望についても配慮する。
(3) 将来の市民に、関門景観をより魅力あるものとして継承する。
・市民及び事業者の責務
市民は、関門景観の形成に関する意識を高めるとともに、自ら進んで関門景観の形成に寄与する。
事業者は、事業活動に際しては、関門景観の形成に寄与するよう努める。市民及び事業者は、関門景
観基本構想を尊重し、市が実施する関門景観の形成に関する施策に協力する。
・関門景観形成地区
関門海峡に面した地域のうち、関門景観の形成を積極的に推進していく必要がある地区を関門景観
形成地区として指定し、地区に即した目標やガイドラインを定める。一定規模以上の建築物の建築な
どの際には、事前に届出を義務づけ、調和のとれた関門景観の形成を進める。
18
1.7 関連計画との調整
○ 水際空間を、多様な活動の場として整備するに当たり、関連する計画や法制度との調整が必
要になる場合がある。
○ これらの計画及び法制度との調整に当たっては、必要に応じて、分区条例に基づく特認規定や特
区制度を活用することも可能である。
水際空間を、多様な活動の場として再整備するにあたって、例えば以下のような手続きが想定
される。
(港湾計画の変更)
港湾において新たな港湾施設の配置計画、土地利用や水域利用の変更を行う場合、港湾計画の変
更を行う必要がある。ただし、例えば以下のようなケースについては港湾計画の軽易な変更で対応
することができる。
・一定の水域をマリンスポーツ等のために優先的に活用することとし、レクリエーション水域と
して指定する場合
・直轄工事の対象としない係留施設を位置づける場合
・面積20ha未満の一団の土地利用の用途変更をする場合
(埋立免許の変更)
埋立てにより造成しようとしている水際空間の用途、護岸断面形状を変更する際には、埋立免許
の変更手続きが必要である。埋立面積・埋立汀線が増加する場合には、新規に埋立免許手続きが必
要となる。なお、その手続きには、数ヶ月程度を要する。
(分区条例に基づく特認規定)
分区条例において原則として認められていない構築物の建設を許容しようとする場合において、
港湾管理者は、建設しようとする構築物が港湾の管理運営上支障ないことについて確認を行う必要
がある。
その際に、そもそも港湾として必要不可欠な施設であるが、構築物を建設することにより、港湾
の利用増進に繋がる、市民のためになる等の判断を行うのであれば、分区条例で認めていない構築
物の建設であっても、分区条例に基づく特認規定を活用も可能ではないかと考えている。また、一
時的又は暫定的なものではなく恒久的なものであり、かつ港湾として必要ない地域であると判断す
る場合には、臨港地区を解除することで対応することになる。
(特区制度の活用)
水際空間のうち、埋立により造成した土地は、埋立竣工認可の告示後10年間は埋立免許を受けた
土地利用を変更する際には港湾管理者の許可が必要となるが、特区に位置づけられた場合には、土
地利用転換の制限を緩和することができる。
19
(参考:港湾法施行規則)
(港湾計画の軽易な変更)
第一条の二 法第三条の三第四項の国土交通省令で定める軽易な変更は、当該港湾計画についての
港湾法施行令(昭和二十六年政令第四号。以下「令」という。)第一条の四第三号から第五号ま
でに掲げる事項のうち次に掲げるもの以外のものに係る変更とする
一 第十五条の六第一項及び第二項に掲げる施設(規模又は配置の変更により当該施設となるも
のを含む。)に関する事項の追加、削除又は当該施設の規模若しくは配置に関する事項の変更
二 第十五条の六第一項第三号に掲げる係留施設の用に供する荷さばき施設及び保管施設の敷
地の面積が三ヘクタール以上増減することとなる規模に関する事項の変更及び当該係留施設
の用に供する主要な荷役機械に関する事項の追加、削除又は主要な荷役機械の種類若しくは配
置に関する事項の変更
三 面積二十ヘクタール以上の一団の土地の造成に関する事項の追加、削除又は主要な荷役機械
の種類若しくは配置に関する事項の変更
四 面積二十ヘクタール以上の一団の土地利用に関する事項の追加、削除又は主要な荷役機械
の種類若しくは配置に関する事項の変更
五 第十五条の六第一項及び第二項に掲げる施設(利用形態の変更により第十五条の六第一項
第三号に掲げる係留施設となるものを含む。)の利用形態に関する事項の変更
六 港湾計画の基本的な事項に関する基準を定める省令(昭和四十九年運輸省令第三十五号)第
十六条及び第二十二条に規定する事項の内、第十五条の六第一項及び第二項に規定する港湾施
設に係るものの追加、削除又は変更
(参考:特区制度における公有水面埋立法の取り扱い)
公有水面埋立法第 27 条 1 項において、埋立て完了の告示より 10 年間は、埋立地の所有権の移転、
地上権等の設定もしくは賃貸借他の使用及び収益を目的とする権利を設定しようとするときには、当
該都道府県知事の許可を受けなくてはならない、という土地処分の制限期間が設定されている。
また、同法 29 条において、埋立完了の告示の日から 10 年以内に埋立地を異なる用途に供しよう
とするときには都道府県知事の許可を受けることとされている。
これに対して埋立時に予定していた土地利用用途とは異なる利用を希望する企業からの立地の関
心や、許可基準にある用途区分が細分化しているために企業ニーズに適合しない用地となるケースが
あることから埋立地の効率的な利用促進を望む構造改革特区提案が寄せられ、次のような措置を実施
している。(平成 15 年 4 月より構造改革特別区域計画(特区計画)の認定開始)
①横浜港:公有水面埋立地の用途変更等の制限期間(10 年)を 5 年に短縮
②大阪港りんくうタウン地区:公有水面埋立地における用途変更等の柔軟化
③岡山県水島港:公有水面埋立地における用途変更等の柔軟化、同用途区分の柔軟化
(モデル地区において想定される各種関係計画との調整)
・以下の場合、港湾計画の軽易な変更が必要
一定の水域をマリンスポーツ等のために優先的に活用することとし、レクリエーション水域とし
て指定する場合
直轄工事の対象としない係留施設(浮桟橋等)を位置づける場合
20
Ⅱ
水際空間の整備
2.1
事業化における役割分担
○ 都市再生をめざした水際空間整備の事業化においては、一般利用者の参加も想定される複合
的かつ段階的なプロジェクトになることから、行政と民間による適切な役割分担が必要とな
る。
○ この場合、原則として「不易」
「流行」による役割分担をし、公共は安全性、快適性を確保
するための基本施設(不易)を提供し、民間はエンターテイメントを付加するサービス施設
(流行)を提供するための行政と民間によるパートナーシップの推進が必要となる。
○ 具体の整備の実施に際しては、空間としての一体性を確保した方法を選択することが重要で
ある。
基本施設とサービス施設を共に整備する際には「不易」と「流行」に基づく、官民の役割分担を踏
まえつつ、プロジェクトを実施する必要がある。「不易」と「流行」の視点による一般的な施設の区
分は以下の通りである。
「不易」:海岸保全施設、緑地基本施設(広場、植栽、ベンチ等)、水上交通のための浮き桟橋
「流行」:緑地内の収益施設(飲食・売店)、水上の収益施設(水上レストラン、レストラン船等)
及びそのための係留施設
地域の状況や、民間の能力等の条件により必ずしも「不易」と「流行」の役割分担は明確に区分さ
れるものではなく、様々な役割分担の形がありうるが、具体の事業の実施にあたっては、次のケース
が考えられる。
ケース1 港湾管理者(海岸管理者)による基本施設整備及び民間によるサービス施設整備(従来型)
安全性・快適性を確保するための基本的な施設(いわゆる公共施設と同義)については、従来の公
共事業で行い、エンターテイメントを付加するサービス施設の整備については民間が行う。ただし、
現在の公共の財政状況等を勘案した場合、整備スピードの不一致が生じることも十分に想定され、公
共施設と民間施設の一体性を確保するためには、関係者による十分な調整が必要となる。
その際、公共性などの条件が整えば、民間の土地を無償で行政が借り受けて港湾緑地を整備し、土
地の固定資産税を免除するパブリックアクセス事業や、公共性などの条件を満たす民間のサービス施
設整備への民活事業や民都事業による融資制度や税制特例等の支援の活用が考えられる。
21
ケース2 都市再生無利子貸付事業による民間整備
前面の護岸等の基本施設整備が背後地のサービ
ス施設整備と時期を合わせることが困難な場合に、
背後開発を行う民間事業者が無利子貸し付けを受
けて基本施設を立替施工し、完成後は施設を公共
に引渡し、公共が民間に後年度分割払いする制度
である。認定事業となるための一定の規模や手続
きを要するが、トータルデザインの向上や民間開
発の速度に合わせた基本施設整備を行うことがで
きる。資金調達や税制に優遇措置を受けることが
防潮護岸
出来る等のメリットがある。
(平成15年度より都市再生緊急整備地域内の港
湾施設についても事業実施が可能となった。)
都市再生無利子貸付事業による整備イメージ
ケース3 PFI事業
PFI法に基づく契約手続に従って民間事業者
が基本施設を建設し、サービス施設と一体的に運
営を行う。PFIには、公共負担を伴わず民間事
業者が運営収入で事業を賄う独立採算型と公共が
施設整備費等を負担する公共サービス購入型があ
る(これらの組み合わせも可。)緑地のような収
益性が低い施設の場合には、独立採算型になじま
ず、公共サービス購入型の採用が見込まれる。コ
ンサルタントとのアドバイザリー契約の締結や特
防潮護岸
定目的会社設立のために費用負担を要するため、
事業を実施するにはある程度の事業規模が必要に
PFI 事業による整備イメージ
なる。
また、透明性確保を目的に公募を行うため、事前に事業者を想定できないが、行政財産の低額又は
無償の貸付を受けられること、PFI事業者が施設利用を見据えて設計・施工を行えること、資金調達や
税制に優遇措置を受けられること等のメリットがある。
タイプ4 民間のみによる単独事業
民間事業者が独自の開発スケジュールを優先させるため、基本施設とサービス施設ともに単独で整
備する方式である。この場合、NTT-A 方式による基本施設整備への融資制度もある。
22
表:事業費による役割分担における整備・運営の一体性評価
負担
ケース1
ケース2
ケース3
ケース4
(凡例
○:良好、△:通常)
一体性
基本施設
(不易)
公共
サービス施設
(流行)
民間
整備
運営
△
△
民活法
公共
民間+公共
△
△
民都法
公共
△
△
○
△
○
○
○
○
○
○
○
△
公共事業+民間事業
民間
(融資制度)
都市再生無利子貸付事業
公共
民間
(後年度負担) (融資制度)
独立採算型
民間
民間
PFI
(融資制度)
サービス
公共
民間
購入型
民間整備
民間
民間
NTT‑A 制度
民間
(融資制度)
民間
(モデル地区における事業の役割分担の例)
豊洲・晴海地区の水際線空間で想定される事業の役割分担の例・メリット・デメリットは以下
の通りである。
負担
メリット・デメリット
事業
スキーム
公共
民間
商業施設
ケース1
公共+民間
護岸・緑地・
浮桟橋
ケース2
都市再生
護岸・緑地・
浮桟橋
(後年度負担)
ケース3
PFI
(サービス
購入型)
護岸
(公共整備)
緑地・浮桟橋
ケース4
民間整備
なし
○民間負担が少ない
×事業スピードが遅い
×空間の一体性に難
商業施設
○同一主体が整備するため空間の
一体性が確保
○事業スピードが速い
×事業認定に一定の手続きを要する
商業施設
◎同一主体が整備・運営を行うため
空間の一体性が良好
○後年度負担の場合は事業スピード
が速い
×採算をとるためにある程度の事業
規模が必要
護岸、緑地、 ○事業スピードが最も速い
浮き桟橋、 ○調整が少ない
商業施設
×民間事業者単独で行うには初期
投資が過大で困難
23
Ⅲ
水際空間の利用及び運営
3.1
水際空間の利用における公共施設の使用許可
○ 公共施設の整備の本来の目的を阻害せず、その空間の利便性、快適性の一層の向上に資する
場合には、公共施設の使用許可について、弾力的に対応することが望ましい。
○ 公共施設の使用許可については、利用の公平性、透明性の客観的な評価に基づき対応するこ
とが重要である。
(公共施設の使用許可)
現在、国有財産である港湾施設・海岸保全施設の使用許可期間については、国有財産法第 19 条及
び第 21 条の規定を踏まえて、10 年を超えることができないとされている。この場合の運用として、
行政財産の使用を長期にわたって認めるときは、その用途又は目的を妨げる恐れがあることから、財
務省通達により原則として 1 年以内とされているが、必要に応じて更新を妨げないものとされている。
また、地方公共団体の行政財産である港湾施設については、地方自治法第 238 条の四により、その
用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができるとされている。
なお、各個別事例に係る使用許可の適否や期間については、本来の行政財産としての用途又は目的
を妨げず、この使用により行政財産の機能を増進させること等の判断に基づき、許可の適否や期間に
ついて港湾(海岸)管理者が判断を行うこととなる。
3.2
水際空間の利用における水域の活用
○ 港湾の利用・保全に支障をきたさず、港湾計画や地区の水域活用方針との整合性が図られ、
水際空間の質的向上に資する場合には、長期的な港湾区域(水域)の占用許可について、必
要に応じて弾力的に対応する。
○ 水面利用について、航行船舶の安全性を確保しつつ、水際線空間の魅力を活用する多様な利
用と、水域の適切な利用を両立させるための方法として、利用活動相互の調整を図るスキー
ムの構築を図ることが望ましい。
○ 水域の占用許可については、利用の公平性、透明性の客観的な評価に基づき対応することが
重要である。
(港湾区域(水面利用)の占用許可)
臨海部都市再生事業が行われる水際空間においては、水面を活用したマリーナ、ホテル、レスト
ラン等に係る水面の占用許可について、公益上必要と認める場合の取消条件、許可終了・取消後の
現状回復義務、適切な配置等、公有水面の性格を損なわない範囲で、周辺の水域も含めた水域占用
許可を弾力的(占用許可期限については 10 年を限度:港湾局通達による)に運用することも考え
られる。
(水域利用調整)
臨海部都市再生事業が行われる水際空間において水上スポーツやレジャー用船舶による水面利
用が計画される場合、水際線の活用と水域の適切な利用を両立するため、利用者相互の調整を進め
ることが望ましい。
24
(参考事例:水面を占用した水際空間活用)
・シーサイドももち・マリゾン
シーサイドももちの人工海浜から海に浮かんだデッキ構造の人工地盤
上をプロムナード、レストラン、店舗などとして活用している。
・クリスタルヨットクラブ
天王洲の運河沿いに水域占用許可を取得して、民間事業者が係留施設を
整備・運営している。係留施設に併設されているクラブハウスにもレス
トランがある。
※両施設とも毎年水域占用許可を更新している。
25
(モデル地区における公共施設の使用許可、水域の占用許可)
モデル地区において、民間事業者から提案されたメニューに取り組む際の条件の整理と今後
のあり方は以下の通りである。
○ケース1:水上スポーツ大会や水上コンサート、フリーマーケットやオープンカフェイベント
・イベントの目的が営利目的ではなく、住民参加が目的であること、都や区の後援を受けること
が必要となる。
・水上レストランの設置には港湾管理者の水域占用許可をとることが必要となる。
○ケース2:水辺のカフェテリアや水上レストランの運営
・海岸保全区域内においては構造物が海岸保全施設を破損しない等、海岸の保全の障害にならな
い担保が必要。
・海上公園内において、今後、民間セクターが参入しやすくなるよう、売店やレストランの設置
許可にあたっての公募制の導入や許可条件の緩和など、条件整備を進めていく。
・水上レストランの設置には港湾管理者の水域占用許可をとることが必要となる。
○ケース3:水上交通拠点
・海岸保全区域内においては構造物、係留船舶が海岸保全施設を破損しないか等、海岸の保全の
障害にならないかの担保が必要
・PFI事業により整備する際には、保全施設の占用許可を受けることが出来る。
・海上公園内において民間事業者が切符売り場等を設置する際には設置許可が必要となる。
今後、設置許可にあたっての公募制の導入や許可条件の緩和など、条件整備を進めていく。
・浮き桟橋の設置には港湾管理者の水域占用許可をとることが必要となる。
○ケース4:マリーナ
・浮き桟橋の設置には港湾管理者の水域占用許可をとることが必要となる。
○ケース5:ビオトープ、盛り土
・水際線から20m以内において、0.5t/m2を越える盛り土を行う際は港湾管理者の許可が必要と
なる。
・海岸保全区域内において10t/m2以上の盛り土を行う場合には海岸管理者の許可が必要となる。
・海岸保全区域内において地表から1.5m以内、もしくは海岸保全施設から5m以内において土地
掘削を行う場合には海岸管理者の許可が必要となる。
※国土交通省港湾局においても、従来、第三セクターに限定していた港湾緑地内のレストラン、売
店等の収益施設の民間事業者による設置管理を可能とした。
それぞれの水際線の利活用メニューに関する現状と今後の取り組みについて次ページ以降に
記載する。
26
【水辺空間利用の分類とモデル地区における諸制約条件等の整理】
水際線から20m以内
・
港湾管理者が指定する護岸、堤防、さん橋又は物揚場の水際線から20m以内の地域
において、載荷重が港湾管理者が指定する重量を超える構築物を建設する際には港湾
管理者の許可を得なければならない(港湾法第三十七条、同施行令第十四条)
海岸保全区域
・
・
旧護岸法線
陸域 50m以内
水域 50m以内
海岸保全区域内の水面、土地において海岸保全施設以外の施設又は工作物を新
設、改築する際には海岸管理者の許可を得なければならない。
海岸管理者は上記の許可申請があった場合、その申請に係る事項が海岸の防護に
著しい支障を及ぼすおそれがあると認めるときはこれを許可してはならない。
(海
岸法第七条、第八条)
埋立地
・
埋立免許を交付した埋立地において、埋立面積の減少、埋立地の用途若し
くは設計の概要を変更する際には都道府県知事の許可が必要となる(公有
水面埋立法第十三条ノニ)
港湾区域
・
・
港湾区域内の水域の占用を行う際には、
港湾管理者の許可を得なければならな
い
なお、水域の占用許可を行うにあたって
は、公益上必要と認める場合の取消条
件、許可終了、取消後の原状回復義務、
適切な配置等、公有水面の性格を損なわ
ない範囲で周辺の水域も含めた占用許
可、占用許可期間について弾力的(10
年を限度)に運用して差し支えない、
(港
湾法第三十七条他)
海上公園(港湾緑地)
・
海上公園に設けられる海上公園施設としての建築物は百分の七以
下とする。
都は、自ら設置し、又は管理することが不適当又は困難であると認められ
るものに限り、都以外の者に当該海上公園施設を設置させ、又は管理させ
ることができる。その際、規則に定めるところにより知事に申請し、許可
を得なければならない。
・ 都以外の者が海上公園施設を設置し、又は管理する期間は十年を超えるこ
とが出来ない。これを更新する際も同様とする。
※海上公園施設には売店、飲食店も含まれる。
・ 物件等を設けないで海上公園施設を占用しようとする際には知事の許可を
得なければならない。なおその際の占用期間は三月を超えることが出来な
い。これを更新するときの期間についても同様とする。
(東京都海上公園条例)
・
行政財産
・
・
・
行政財産は、その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可する
ことが出来る。
行政財産の使用を許可した場合において公用若しくは公共用に供するために
必要を生じたとき、又は許可の条件に違反する行為があると認められるとき
には、その許可を取り消すことが出来る。
(地方自治法第二百三十八条の四)
国及び地方公共団体は必要であると認めるときは PFI 事業の用に供するため
PFI 事業者に貸し付けることが出来る(民間資金等の活用による公共施設等
の整備等の促進に関する法律第十一条の二)
27
ケース①水上イベントの開催
水上スポーツ大会や水上コンサート、フリーマーケット等、イベント活動を行う。
参考事例:芝浦運河祭り
平成 16 年 3 月 24 日、25 日に地元自治会、商店会からなる芝浦運河祭り実
行委員会主催による芝浦運河祭りが開催され、運河沿いの遊歩道(海岸保全
区域内)において、屋形船の係留による水上レストラン、露店等が開催され
た。
水際線から20m以内
・
港湾管理者が指定する護岸(豊洲・晴海の護岸は全てこれに該当する)
の水際線から20m以内の地域において、載荷重が港湾管理者が指定
する重量(0.5t/m2)を超える構築物を建設する際には港湾管理者の許
可を得なければならない。
海岸保全区域
旧護岸法線
水域 50m以内
陸域 50m以内
・
海岸保全区域内に水上ステージを仮設する場合、海岸管理者の許可を得
なければならない。
水上ステージが海岸保全施設を破損しないことを担保する必要がある。
・ 海岸保全区域内にテント・テーブル・イス等を設置する場合は海岸管理
者の許可を得なければならない。
オープンカフェ・テント(移動可能)
フリーマーケット・テント(移動可能)
水上スポーツ大会
水上ステージ
海上公園(港湾緑地)
港湾区域
・
・
・
水上ステージの設置には水域占用許
可が必要となる。
水域の一時的な占用には、イベントの
性格が営利目的ではなく、住民参加が
目的であること、都や区の後援を受け
ることが必要となる。
(東京都ヒアリング)
イベント的にボートを航行させる場
合、他の船舶が通航する水域ではボー
ト天国等の水域調整を行うことが望
ましい。
ボート天国を行うためには、港湾管理
者、地元市町村、水上スポーツ団体と
協議会を設置し、ボート天国の開催
日、開催区域、開催イベント、一般船
舶の航行を制限する区域を設定。海上
保安庁と協議の下、航行制限区域、日
時を公表、ボート天国を実施する。
(海上保安庁ヒアリング)
・物件などを設けないで海上公園施設を占用しようとする再には知事
の許可を得なければならない。なおその際の占用期間は三月を超え
ることが出来ない。これを更新するときの期間についても同様とす
る。(東京都海上公園条例)
テント等の設置に際しては、イベントの性格が営利目的ではなく、
住民参加が目的であること、都や区の後援を受けることが必要とな
る。(東京都ヒアリング)
行政財産
28
ケース②
水辺のカフェテラスの運営
水際線において、立地を活かした飲食・物販施設等を運営する。
水上レストランを運営する。
参考事例:博多港マリゾン
博多港百地地区において、海岸保全施設上に福岡市の第三セクター
㈱博多港開発が水域占有許可を取得して設置した。内部に休憩施設
レストラン、物販施設等がある。
水際線から20m
・
港湾管理者が指定する護岸(豊洲・晴海の護岸は全てこれに該当する)
の水際線から20m以内の地域において、載荷重が港湾管理者が指定
する重量(0.5t/m2)を超える構築物を建設する際には港湾管理者の許
可を得なければならない。
海岸保全区域
陸域 50m以内
水域 50m以内
旧護岸法線
・海岸保全区域内に仮設店舗等を設置する場合、海岸管理者の許可を得なければならない。
・その際、仮設店舗等が海岸保全施設の機能を阻害してはならない。
・仮設店舗の荷重により海岸保全施設に悪影響を与えないか、高波等により仮設店舗が流
されることにより、海岸保全施設を破損しないか、海岸保全施設を補修する際に建築物
を移動できるか等を検証する必要がある。
水上レストラン等
海上公園(港湾緑地)
B. 港湾区域
・
水上レストランの設置には水域占用
許可が必要となる。
・現在、海上公園内では東京都が建物等を整備し、運営を東京港
埠頭公社に委託して公社がテナントを募集している。
・今後、民間セクターが参入しやすくなるよう、売店やレストラ
ンの設置許可にあたっての公募制の導入や許可条件の緩和な
ど、条件整備を進めていく。
(海上公園の今後の方針:東京都)
行政財産
29
ケース③水上交通拠点
浮き桟橋を①公共、②PFI、③民間により整備して海上バス等船舶を寄港させる。
参考事例:東京港青海地区海上バスターミナル
東京港青海地区の海岸保全区域内において、東京都が客船ターミナル(待
合室、切符売り場)を整備し、東京都及び民間事業者が浮き桟橋を整備し
ている。
水際線から20m
・
港湾管理者が指定する護岸の水際線から20m以内の地域において、
載荷重が 0.5t/m2 を超える構築物を建設する際には港湾管理者の許
可を得なければならない(港湾法第三十七条、同施行令第十四条)
海岸保全区域
旧護岸法線
陸域 50m以内
水域 50m以内
・海岸保全区域内に切符売り場、浮き桟橋を設置する場合、海岸管理者の許可を得なければな
らない。その際、海岸保全施設の機能を阻害してはならない。(海岸法第七条、第八条)
・切符売り場の荷重により海岸保全施設に悪影響を与えないか、高波等により切符売り場、浮
き桟橋、係留船舶等が流されることにより、海岸保全施設を破損しないか、海岸保全施設を
補修する際に建築物、浮き桟橋を移動できるか等を検証する必要がある。
切符売り場等
海上バス・遊覧船等
浮き桟橋
海上公園(港湾緑地)
港湾区域
※海上公園施設には旅客施設も含まれる。
③の場合、切符売り場の設置許可が必要となる。
(東京都海岸条例)
設置許可にあたっては今後、民間セクターが参入しやすくな
るよう、公募制の導入や許可条件の緩和など条件整備を進めて
いく。
(海上公園の今後の方針:東京都)
行政財産
・
②の場合、国及び地方公共団体は必要であると認めるときは PFI 事業の
用に供するため PFI 事業者に貸し付けることが出来る
(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律第十一条の二)
30
ケース④マリーナ
①公共、②PFI、③民間でマリーナを整備・運営する。
参考事例:東京港夢の島マリーナ
東京都港湾局が整備した公共マリーナ。東京都の第三セクターで
ある東京テレポートセンターが運営している。
海岸保全区域外にある。
水際線から20m
海岸保全区域
陸域 50m以内
水域 50m以内
旧護岸法線
・海岸保全区域内に浮き桟橋を設置する場合、海岸管理者の許可を得なければなら
ない。
その際、係留船舶、浮き桟橋等が海岸保全施設の機能を阻害してはならない。
・浮き桟橋の設置により海岸保全施設に悪影響を与えないか、高波等により浮き桟
橋、係留船舶が流されることにより、海岸保全施設を破損しないか等検証する必
要がある。
カフェテラス等
浮き桟橋
海上公園(港湾緑地)
港湾区域
・②.③の場合港湾区域内の水域の占用
を行う際には、港湾管理者の許可を得
なければならない
・今後、民間セクターが参入しやすくなるよう、売店やレストラン
の設置許可にあたっての公募制の導入や許可条件の緩和など、条
件整備を進めていく。
(海上公園の今後の方針:東京都)
行政財産
31
ケース⑤緑地(ビオトープ)、護岸の盛り土(晴海 4 丁目護岸のみ)
護岸背後に公共がビオトープを設置する。日常の維持管理は住民が行う。
護岸背後からの視点場を確保するため護岸背後の盛り土を行う。
水際線から20m以内
・
港湾管理者が指定する護岸(豊洲晴海の海岸保全施設は全て指定される。)、
堤防、さん橋又は物揚場の水際線から20m以内の地域において、載荷重が
港湾管理者が指定する重量(0.5t/m2)を超える盛り土を行う際には港湾管
理者の許可を得なければならない
海岸保全区域
水域 50m以内
旧護岸法線
陸域 50m以内
・
・
ビオトープ、盛り土が海岸保全施設の機能を阻害してはならない。
海岸保全区域内で 10t/m2 以上の盛り土を行う場合には海岸管理者の許可が必要と
なる。
・ 地表から 1.5m 以上の土地掘削を行う際は海岸管理者の許可が必要となる。
盛土
ビオトープ
埋立地
・
港湾区域
埋立て地の護岸断面を変更しようとする際には、都道府県知事の許
可が必要となる。
海上公園(港湾緑地)
行政財産
32
3.3
民間のノウハウを活かした水際空間の運営を図る方策
○ 活気ある水際線の創出を図るために、
「流行」を担う民間のノウハウを活かした水際空間の
運営を進めることが望ましい。
(水際空間の運営における民間活力の活用)
公共による公共施設の維持管理は、施設の公共性、安全性の確保等という観点から行われている
ところであるが、臨海部における都市再生を実現し、賑わいと潤いのある空間を創造するためには、
「流行」を担う民間のノウハウを活かすことが不可欠である。また、公共施設の使用については一
般公衆の利用の確保とその質的向上、公平性の確保、透明性の確保が必要となる。民間のノウハウ
の活用については、以下のような制度の充実が近年図られているところである。
・PFI事業への行政財産の貸付(PFI法第11条の2)
PFIにより公共施設を整備し、引き続きPFI事業者が運営を行う場合、その事業期間中において事
業者にPFI事業に必要な行政財産を貸し付けることが出来る。
(参考事例:横須賀市長井海の手公園)
PFI事業により民間企業が公園を整備・管理運営を行う
予定。公園施設にはレストラン、売店、青空市場、有料
駐車場、陶芸体験棟等の収益施設が含まれる。(これら
の施設の整備費、運営費はPFI事業者が収益から支出。)
その際、事業に必要な行政財産である土地について無償
で貸付を受けている。なお横須賀市は公園施設(収益施
設を除く。)の整備費、維持管理費(行政が直接整備、
維持管理を行う際の約8割)をPFI事業者に対して支出、国も公園整備費について補助金を交付し
ている。
・指定管理者制度(地方自治法第244条の2第3項)
従来、地方公共団体、地方公共団体が出資する団体、公共的団体に限定されていた公の施設の管
理を指定管理者(議会の議決を受けたその他の団体:以下同じ)も行うことができる。指定管理者
が行うことのできる業務の範囲は施設の使用許可、料金の収受、警備、清掃、保守点検等である。
(公権力の行使は含まれない。)なお、指定管理者に行わせる業務の範囲は条例により明確に定め
る必要がある。
33
(参考事例:東京都立小山内裏公園)
東京都では都立公園の管理・運営業務に民間事業者も参入できるよう、平成16年3月に都議会にて東
京都立公園条例を改正し、平成16年7月に新規開園予定の東京都立小山内裏公園(約46ha)の指定管
理者を公募した。17団体からの応募を受けて、5月に民間企業4社からなる事業者グループを指定管理
者候補者として選定し、6月開催の都議会の議決を得て正式に指定された。
委託先の選定方法は、提出された事業計画書等により、一次審査(書類審査)を行った後、通過者
による二次審査(プレゼンテーション)を実施した上で指定管理者を内定し、都議会での議決後に最
終決定を行う手順で進められた。
選定基準は以下の通りである。
1 公園施設の維持・管理業務に、相当の知
識及び経験を有する者を従事させることが
できること
2 安定的な経営基盤を有していること
<小山内裏公園>
<パークセンター>
3 公園の効用を最大限に発揮するとともに、効率的な管理運営ができること
4 公園の維持の技術に係る指導執行体制が整備されていること
なお、具体的な責任分担の区分は以下の通りである。
業務区分
指定管理者
・公園の運営管理(企画調整、利用指導、案内、警備、苦情対応、都
◎
民協働、自然環境保全、利用促進活動等)
・公園施設の維持管理(植物管理、清掃、施設保守点検、設備等法定
◎
点検、補修修繕、安全衛生管理、光熱水費支出等)
・管理所、倉庫内等の物品管理
◎
・災害時対応(待機連絡体制確保、被害調査・報告、応急措置)
◎
・災害復旧 (本格復旧)
・公園の法的管理(占使用許可)
○(受付・交付及び
徴収事務に限る)
・公園施設の整備、改修
・包括的管理責任(管理瑕疵を除く)
34
東京都
○指示等
◎
◎
◎
◎
3.4
水際空間の魅力を継続的に維持・向上させる方策
○ 水際空間の持つ魅力を長期間に渡って維持、向上させていくためには、開発利益を還元して
集客力を高めるためのイベントやパフォーマンスを支える運営組織が有効である。
(参考事例:水際空間の魅力を継続的に創出する仕組みの事例)
・ボルティモアの事例
インナーハーバーを含めたボルチモア市全体の活性化と振興を図るため、イベントや催しごとの
企画・運営を一手に担当する「ボルチモア振興・芸術事務所」という組織を持っている。この事務
所は、ボルチモア振興事務所と市役所の芸術・文化部門を統合して出来た準公共的な NPO であり、
管理費と人件費(職員数約 30 名)は市が支出しているが、イベントの開催費に関しては事業者の
寄付でまかなっている。
・千葉県佐倉市ユーカリヶ丘地区の事例
当該地区では犯罪の増加に危機感を覚えた住民が市民パトロール団体を設立。警察署と協力して
パトロール活動を行う一方、駅前広場の清掃や花壇の植え替えを行っている。現在、団体の会員数
は225名。経費は地域住民・企業からの会費130万円/年と、開発会社からの寄付50万円/
年で賄っている。
・豊洲地区の事例
豊洲地区では、地権者である企業体が行政のバックアップを受けて野外コンサート等大規模な
イベントを実施した実績がある。また、今後のまちびらきに向けイベントの検討を進めている。
(モデル地区における水際空間の魅力を高める取り組みイメージ)
地権者企業、商店主
地域住民
運営経費の拠出
管理団体への参加
行政(都、区)
施設の使用許可
水域の占有許可
管理団体(NPO、株式会社等)
事業
イベントの開催
清掃活動
イベント時の安全
管理の実施
35
Ⅳ
水際空間の一体的な計画・整備・運営
4.1
水際空間の一体的な計画・整備・運営を行う主体とスキーム
○ 水際空間の継続的な維持管理と魅力の向上には、地域アイデンティティを同一にする、同じ
水面を囲む一般利用者である市民からなる組織、事業者、地権者、自治体、港湾管理者及び
一般利用者である市民からなる組織等が、水際空間の計画・整備・運営を一体的に行うこと
で水際空間の一体化を促進することができる。
(水際空間の経営母体について)
水際空間の一体的な計画・整備・運営による魅力の向上には、水域・公共施設・民有地という区分
を超えた、水際空間全体の資源を最大限に活用するという経営的な視点と実践活動が非常に有効であ
ると考えられる。そのためには地域アイデンティティを同一にする、同じ水面を囲む事業者、地権者
と自治体、港湾管理者及び一般利用者である市民からなる組織等が水際空間全体を計画・整備・運営
にわたってコーディネート及び実施をすることが望ましい。そのスキームとしては、例えば以下のも
のが考えられる。
・協議会方式
これまでの権利関係は変わらないが、関係する事業者、地権者、自治体、港湾管理者、水際線の利
用者が水際空間の活性化方策を話し合う場を密に持つ合議組織を設ける。合議組織で決定された事項
を各々の主体が共同で実施するという緩やかな一体化である。
メリット :新たな手続きが発生しない
デメリット:整備・運営の一体性が弱い
民間
=>利便施設を整備
行政
=>基本施設を整備
××地区協議会
地域の活性化策を定期的に議論
水域利用団体
行
政
地域住民・企業
協議会で決定された事項を共同で実施
緑地
防潮護岸
係留船
浮き桟橋
協議会方式イメージ
36
・管理団体への一括運営委託
初期の基本的な施設の整備は公共が実施し、施設整備後の公共施設・水域の活用をその用途を妨げ
ないよう港湾管理者との協定で具体的に定める範囲において公募により選ぶに包括的に運営委託す
る。応募団体が複数の場合は、港湾管理者に支払う公共施設の利用料金及び提供できる公共的サービ
ス水準(周辺の美化活動やイベント開催等)により事業者を選定する。管理団体の財源は、行政から
の委託費の他、寄付金や収益事業による収入が考えられる。NPO法人の場合、収益事業による収入
を配当することなく、非収益事業や収益事業等に投資するため、公共施設の利用によって、特定の者
に利益を供与するという問題点を解決し、占用許可における公益性・公平性を担保しやすいという特
徴を有する。
メリット :公共性の担保が容易
デメリット:経営基盤が比較的弱い
管理団体
=>行政から運営を受託
行
=>基本施設を整備、管理団体へ運営を委託
政
行
政
港湾管理者との協定でその用途を妨げない範囲で公共施設、水域の運営を委託
管理団体への参加
管理団体(NPO 法人等)
イベント開催
水上イベント開催
地域住民・企業
清掃活動の実施
緑地
防潮護岸
浮き桟橋
管理団体への一括運営委託イメージ
37
・PFI事業者による運営
PFI事業の開発主体となる特定目的会社は整備後も運営業務を行うため、水際空間の一体化を進
めるために有効である。この場合、PFI事業に必要な公共施設の貸付を行うことができ、かつ公募によ
る事業者の選定を行うことによる透明性の確保が図られる。さらにPFI事業者に水域占用許可を与
えることにより、水際空間全体の一体化を図ることが出来る。
メリット :PFI事業者がその後の運営も行えるため一体性が良好
デメリット:SPCの設立やアドバイザリー契約等のコストがかかるためある程度の事業規模が必要
行
=>地域住民の意見等を参考に水際線施設の実施方針、募集要項を作成
公募により PFI 事業者を選定し、施設供用後、基本施設
につい
て整備費等を支出し、サービス水準を監視
政
PFI 事業者
=>PFI 事業を整備・運営。収益施設
PFI 事業者が支出
行
については整備・運営費を
政
PFI 事業者を公募、選定。基本施設
について整備費等を支出
PFI 事業者
施設を整備・運営
収益施設について
収益施設
整備運営費を支出
収益施設
緑地
防潮護岸
浮き桟橋
係留船
費用の支払
︵管理者↓企業︶
施設の供用
補助金交付の決定
︵国↓管理者︶
補助金の要求
︵管理者↓国︶
民間事業者の選定
民間事業者の募集
特定事業の選定
実施方針の策定
PFI事業者による運営イメージ
国庫補助を伴うサービス購入型 PFI 事業のスケジュールイメージ
PFI事業の実施方針策定に際しては、地域住民等の意見を反映させると共に、複数の企業から施設配
置、運営のノウハウについて意見聴取を行い、民間のノウハウを十分活用できるようなものとするよ
う実施方針、募集要項を修正していくRFP方式を採用することも考えられる。また、予想来訪者数
など、収支計算に必要な基本的なデータも同時に提供することが望ましい。
38
前述のような主体に対し、水域占用許可、港湾施設の使用許可及び海岸保全施設の使用許可を一体
的に、かつ事業者が事業設計を行いやすくするよう一定の期間に渡り付与することにより、一体的な
水際空間の創造が図られる。また、民間所有の用地、施設であっても、地権者が当該主体に低額又は
無償で貸し付けたり、または自治体及び港湾管理者が連携しながら例えば一体的な公共空地の提供を
図るなど連続した空間の創造を図ることが望まれる。
4.2
水際空間の一体的な計画・整備・運営に向けて
○ 臨海部都市再生を実現するためには、既存制度内での運用を図りつつ、実験的に事業を進め、
必要に応じて、制度を拡充するなどの取り組みが求められる。
水際空間の一体的な活用は、これまで例がなく、その事業性も不確定な要素が大きい。特に施設の
整備については、初期投資の経費が非常に大きいものとなることから、イベントの開催や仮設物の活
用などにより、実験的に事業性の検証をしながら、長期的な空間の活用につなげていくことが必要で
あろう。
また、制度においても、まずは既存の制度の範疇において出来ることを着実に進めながら、例えば、
水域、港湾施設、海岸保全施設の一体的な使用許可といった制度の更なる構築を図っていくことが考
えられる。
運河での花火
まちびらきイベント
野外コンサート
イベントの開催イメージ
・制度面の検証
・事業性の検証
課 題
課 題
・新たな制度の運用上の不確
定要素が大きい
・事業性の不確定要素が大きい
・初期投資が大きい
実験的
仮設物の活用などによる
実験的な事業性の検証
既存制度の運用による対応
特区制度の活用等
一般制度化へ
施設整備へ
実験的な取組み流れ
39
海部都市再生事業における水際線施設の一体整備に関する調査委員会
委員名簿
(順不同・敬称略)
区分
氏
名
部
署
・
役
職
委員長
今野
修平
元大阪産業大学経済学部教授
委員
深沢
克己
東京大学大学院人文社会系研究科教授
委員
齋藤
潮
東京工業大学大学院社会理工学研究科社会工学専攻教授
委員
小林
成弘
日本政策投資銀行首都圏企画室長
委員
上薗
晃
(財)民間都市開発推進機構港湾部長
委員
阿部
和彦
(財)日本開発構想研究所理事・研究本部長
委員
植田
裕
都市基盤整備公団土地有効利用事業本部業務第二部長
委員
佐藤
敬造
都市基盤整備公団土地有効利用事業本部業務第三部長
委員
落合
庸人
東京インナーハーバー連絡会議事務局長
委員
水上
博史
三菱地所(株)資産開発事業部副長
委員
古賀
信博
NTT都市開発(株)取締役住宅事業部長
委員
吉田
豊
石川島播磨重工業(株)再開発プロジェクト室長
委員
江口
洋
東京ガス豊洲開発(株)取締役社長
委員
松井 直人
国土交通省都市・地域整備局まちづくり推進課都市総合事業推進室長
委員
城福
健陽
国土交通省港湾局管理課企画官
委員
塩﨑
正孝
国土交通省港湾局計画課港湾計画審査官
委員
田所
篤博
国土交通省港湾局海岸・防災課海岸企画官
委員
川上
泰司
国土交通省港湾局環境整備計画室課長補佐
委員
藤田
郁夫
国土交通省関東地方整備局港湾空港部長
委員
樋口
和行
東京都港湾局港湾整備部長
委員
滝野
義和
東京都港湾局港湾整備部計画調整担当部長
委員
萩原
豊吉
東京都港湾局臨海開発部開発調整担当部長
事務局
久米
秀俊
国土交通省港湾局民間活力推進室長
宏
東京都港湾局臨海開発部課長
オブザーバー 前田
40