第3部 自治体のアウトソーシング

第3部 自治体の
自治体のアウトソーシング
第1章 なぜアウトソーシング
なぜアウトソーシングが
アウトソーシングが必要なのか
必要なのか
1 現状と問題点
公平性・画一性が求められた公共サービスに対し、住民ニーズは高度化・多様化し
つつある。
つまり、いかに住民に満足をしてもらうかが最重要課題となってきている。
しかしながら逼迫した財政状況のもとで、行財政改革の一環として更なる職員数の
削減に取り組んでいる現状において、新しい行政分野を所管する組織の新設や高度な
知識・技能を要する職員を採用・確保していくことは、非常に困難である。
比較的余裕のある組織では機構改革などで吸収させることも可能だが、小規模団体
においては行政改革の余地が少なく、住民の要望や地域の実情に合わせた行政運営を
行っていこうとしても、能力の発揮には限界がある。
2 アウトソーシングの必要性
市町村がそれぞれの地域性や独自性を発揮しながら、多様な市民ニーズに応え、よ
り高いサービスを提供していくためには、今までの横並び的な発想から脱却する必要
がある。他の市町村との横並びだけでなく、一つのサービスを住民に提供する場合で
も、画一的なサービスではなく、行政としての公平性を確保しつつ、その中で可能な
限り各々に応じたサービスの提供をすることが、住民の満足につながると考える。
例えば、高齢者への給食サービスの場合、全員の1日当たりの食費が同額であるの
は行政が提供するサービスとして当然だが、それを踏まえた上でパン食か米食を選べ
ることなど、可能な範囲で嗜好に応じられるような付加価値的な要素が、サービスを
受ける住民の満足向上につながる。
しかしながら、従来行ってきた公共サービスでは、全員に同じ食事を提供すること
が重要であり、そのための努力は行われてきたものの、質的な面については、対応し
きれていなかったきらいがある。
こうした多様なニーズに対応することは、変わりつつあるとはいえ、行政だけでは
きめ細かな質の提供は不可能ではないにしても、困難である。
それよりも NPO・ボランティア・民間企業等(以下この章において「民間」とい
う)が担った方がそのノウハウや人材面において効果的であるということも充分あり
-42-
得る。
公的サービスを何から何まで行政が担わなければならないというのではなく、
「多様
なニーズ」には、
「多様な担い手」があってよいのではないかと考える。
さらに、財政状況が厳しさを増し行財政運営の効率化が急務となっている現状におい
ては、こうした住民サービスの向上を目指すとともに、財政負担の軽減を図らねばな
らないという難しい対応が要求される。
これに応えていくための一つの手法が、公共サービスのアウトソーシングである。
今後は、これまで行政が独占してきた公共サービスに民間を活用する「公民パート
ナーシップ」を導入し、民間主体のノウハウ・創意工夫・柔軟性等を活かして行くこ
とを視野に入れなければならない。
民間企業は営利性の追求という側面はあるものの、こうした面においては、行政に
比べ優れている面も多いことは事実である。
住民の視点においては、公共サービスの提供主体がどこか(行政か民間か)という
問題よりも、どれだけ質の高いサービスが受けられるかが重要である。
3 行政が行わなければならないもの
行財政運営の効率化が求められている情勢下にあっては、
「民間でできることは、で
きるだけ民間に委ねる」の原則を下に、果たして行政が担わなければならない公的関
与の範囲とはどこまでかを改めて見直す必要に迫られている。
なお行政が引き続き担わなければならない分野については、以下のとおりである。
(1) 高い視点と広い視野からの政策立案機能の確立
これまで一体となっていた政策立案機能と実施機能を分離し、行政の役割を前者
に特化する。これにより実施部門の利害にとらわれない高い視点と広い視野から企
画立案ができるようになる。
(EX.保育政策と保育所)
また実施部門については、基本的に民間に委ねる。対価が徴収可能なものについ
ては原則として民営化及び民間委託を、対価が徴収できないとの理由で行政が担っ
てきた分野については民間委託が可能である。
(2) 公平性・中立性・透明性の確保
これらは引き続き行政が担うべき責務であり、既存の公権力の行使に必要不可欠
な要素であるが、今後の公共サービスの実施において、民営化又は民間委託により
提供されるサービスの質を、公平性・中立性・透明性のフィルターを通して監督す
ることが、求められていく。
-43-
また、住民の個人情報に関しても同様であり、個人情報の漏洩問題が社会問題に
なっているからこそ、その根幹にあたる部分については行政が責任を持って保護し
ていかねばならない。
さらに行政がこうした公平性や中立性を厳守していることを住民に認知してもら
うためにも、情報公開は必要不可欠なものである。
公共サービスに求められる分野はどんどん減っていくか、というとおそらくそうで
はないであろう。高齢化が進み、少子化が進み、また、過疎過密もさらに進行する予
測の中では、公共サービスへのニーズは確実に拡大しており、特に最も住民に近い市
町村についていえば、分権が進めば、担うべき業務は間違いなく大きくなる。だから
こそ、実施部門を民間に委託したり、廃止したりすべきである。
こうしたことから、今後行政が進むべき方向は、いわゆる「小さな政府」であり、
この「小さな政府」というのは、福祉や教育などに行政が関与しないということでは
なく、
「
(既存の)大きな政府」が直接カバーしようとした、教育・福祉等公共サービ
スの分野について、民間の力で実現できる環境整備だけをするというものである。
その結果として、
「大きな政府」よりも「大きな福祉」を、すなわち小さな政府で
大きな公共サービスの提供を実現しようとするものである。
-44-
第2章
アウトソーシングの
アウトソーシングの活用
1 直営とは
地方公共団体が、その権限に属する事務・事業等を直接実施・運営する方式をとる
こと。公共的なサービスで、かつ民間で行えない業務を行う。
ここでは、正規職員以外の選択肢として次のものが考えられる。
① 臨時職員
一定の雇用期間を定めて賃金で雇用され、短期間又は季節的業務
に従事する者をいう。
② 嘱託職員
専門的な分野において、特別な経験や資格が求められる人材が必
要となった場合、各自治体が独自に採用する者をいう。
③ 再任用制度
高齢社会への移行に対応して、高齢者の知識・技能・経験を社会
において活用していくとともに、年金制度の改正に合わせ、60歳
代前半の生活を雇用と年金の連携で支えるため、退職後の市町村職
員を再び任用する制度をいう。
④ 任期付職員
専門的知識経験等を有する者の任期付採用のほか、新たな任期付
き職員の採用制度として一定期間内に終了が見込まれる業務及び一
定の期間内に限り業務量の増加が見込まれる場合等に任期を定めて
採用する者をいう。
(1) 直営のメリット
① 行政が直接コントロールできる。
② 自治体の政策や意向が発揮しやすい。
(2) 直営のデメリット
① 行政サービスを直営で行うと、民間事業者に比べてコストが高くなりがちで
ある。
② 施設において、開館時間、休館日などの制約がある。
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③ 施設において、運営上赤字が発生し、赤字分を自治体が補填する場合には、
さらに自治体の負担が大きくなる。
(3) 今後の課題
① 自治体の役割の見直し
② 行政が行っている事務事業、サービス活動の見直しや点検を行う。
2 業務委託とは
地方公共団体がその権限に属する事務・事業等を直接実施せず、他の機関又は特定
の者におこなわせること。
ここで言う「業務委託」とは次の②「私法上の委託」を指し、本来地方公共団体が
直接遂行すべき業務を直営で処理するのではなく、行政責任を果たすうえで必要な監
督権などを留保したうえで、民間企業や住民団体などの諸団体または個人にその事務
処理を委ねることをいう。
① 公法上の委託
ア 収納した証券の取立て及び給付の委託(自治法231の2Ⅴ)
イ 使用料、手数料等の徴収又は収納事務の私人委託(自治令158)
ウ 支出事務の私人委託(同令165の3Ⅰ)
エ 事務の委託(自治法252の14Ⅰ)
② 私法上の委託
ア 私人に委託させる方が有利でかつ効果的な業務
イ 専門的技術又は知識を要する業務
(1) 業務委託に適するもの
① 定型的な事務事業
② 業務形態が時期的に集中するもの
③ 専門的な知識・技術設備等を必要とするもの
④ イベントなど効果的な運営が期待できるもの
⑤ 同種の業務をおこなう民間の事業主体があるなど、効率的な執行が期待でき
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るもの
(2) 業務委託の判断基準
① 住民サービスが維持または向上するか
② 人件費等の経費の節減になるか
③ 事務処理の効率が向上するか
④ 外部の専門的知識や技術の活用が図れるか
⑤ 行政責任が確保でき住民の理解が得られるか
⑥ 法令に適合しているか
(3) 委託の区分
① 請負
請負人がある仕事を完成することを約束し、地方公共団体がその仕事の結果
に対して報酬を与えることを約束することにより成立する契約のこと。
契約の主眼は仕事の結果にあり、したがって仕事は、必ずしも請負人自身の
労務によってなされることを要しない。つまり、下請けに出してもよいことと
なる。
(ただし、建築工事の請負は建築業法により一括下請負を原則的に禁止
している。
)
② 委任
地方公共団体が法律行為その他の事務の処理を相手方(受任者)に委託し相
手方がこれを承諾することによって成立する契約のこと。
受任者は、委任の本旨に従い「善良なる管理者の注意」
(社会通念上要求さ
れる程度の注意)をもって委任事務を処理する義務を負う。
③ 準委任
法律行為以外の事務の委託契約のこと。
委任は法律行為の委託契約とされるため、法律行為以外の準法律行為や事実
行為、またはその混在事務を委託する契約は委任にならないが、これらはすべ
て準委任になり、委任と同じ権利義務関係が認められる。したがって委任と準
委任を区別する実益はほとんどなく、委任と同視してよいとされる。
④ 労働者派遣
派遣元が労働者を雇用し、その労働者が地方公共団体の指揮命令下に使用さ
れることをいう。
-47-
労働基準法上の使用者責任の分担は、労働契約、賃金、36 協定・変形労働時
間、年休、産前産後休暇、災害補償、就業規則等については派遣元事業主が、
労働時間、休憩、休日、深夜業、育児時間、生理休暇、安全衛生等については
派遣先事業主が負う。
(4) 委託のメリット
① 財源の有効活用
受託者の弾力的な経営手法の活用により直営に比べて経費の縮小が期待でき
る。
② 事務処理の効率化
夜間・早朝の不規則な勤務など一般的な公務員の勤務形態になじまない業務
や、短期的に多くの事務量を処理する必要がある場合には、勤務実態に応じた
効果的な事務処理が可能になる。
③ 事務の高度化
地方公共団体の有する情報、知識、技術だけでは目的の達成が困難な業務に
対し、高度な技術を持つ専門業者に委ねることにより事務処理が迅速かつ的確
に遂行されることが期待できる。
(5) 委託のデメリット
① 経費節減の思惑はずれのおそれ
委託か直営の選択の際の算定誤り(直営の場合の人件費の計上もれなど)
② 初回の契約時は割安でも回を重ねる毎に契約額が高くなることがある。
(1 円
入札など)
③ 委託業者のノウハウの蓄積により代替業者が見当たらない。
④ 苦情の増大の可能性
機械的な作業により細部に関心が及ばない。
⑤ 丸投げによる職員の無関心(担当者の知識、能力の低下)
(6) 今後の課題
① 公権力を行使するもの(滞納処分、課税など)の取り扱い
業務の細分化により直接的なもの以外は委託のおそれあり。
② 守秘義務の取り扱い
-48-
契約中に守秘に関する事項を明文化する。
個人情報保護に関する規定の遵守を確認。
③ 質の低下を危惧(議会・住民側)
先進地事例などをもとに丁寧な説明を行い懸念の払拭に努める。
④ 余剰人員の取り扱い
業務委託を行ってもそれに携わる職員が減少しなければ委託分の経費が単純
に上乗せになるだけであるため、
人員配置の再考や退職不補充と併せて行うこと
が必要である。
(中長期的な戦略の必要性あり。
)
また、
業務執行上の責任は委託者にあり受託者にすべてを任せることができな
いため、契約業務や指導監督業務(新たなコスト)が発生することに注意が必要
である。
⑤ 人材派遣の活用
「労働者派遣法」
(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業
条件の整備等に関する法律)を活用し地方公共団体の指揮命令下で派遣職員を
業務に従事させることで、直接的な人件費はもとより、共済費や退職手当など
の付帯的な人件費が削減できる。
⑥ 契約の方法
随意契約→恣意性が介入しやすい
競争入札→機会均等や価格の低下をもたらすメリットがある反面、
品質やサー
ビスの水準が低下するおそれがある。
3 民営化とは
民営化とは「民間でできるものは民間で」という原則に基づき、市民サービスや各
種事務事業を民間事業者に移譲することである。運営に関しては、次に掲げる形態が
想定される。
① 公設民営方式 行政が建設した施設を民間事業者が独立採算制を基本に運営する
② 民設民営方式 行政が土地のみを提供し民間事業者が土地の上に施設を建設し、
管理運営も行う
-49-
(1) 民営化に適するもの
行政によるサービス提供は、
いろいろな制約や施設などへの均一なサービス提供
が求められるなど、一般に似かよったものとなりがちである。そのため、サービス
の利用者である住民のきめ細やかなニーズに適切な対応ができない場合がある。
ま
た、
ニーズの高いサービスの場合、
それに応じたサービスを行政が提供し続けると、
結果として、コストがかかり、住民の負担が増すこととなる事態も考えられる。
こうした多様なニーズに対して、
民営方式を導入することで、
行政で行うよりも、
柔軟かつ効率的な運営が期待できる。
また、次のような分野への導入が考えられる。
① 法令等の改正により行政が主体となって行う必要性がないまたは減少してい
るもの
② 民間によって、同様またはそれ以上のサービス提供が得られるもの
③ 住民の需要が多く、民間の経営努力により採算がとれると見込まれるもの
④ 行政の事務事業を廃止または縮小することにより、
民間によるサービスの拡大
が期待できるもの
(2) 民営化の判断基準
① 需要が多くあるか
② 需要が発生する確実性が高いか
③ 同一サービスを提供する民間の事業主体が多いか
④ 受益者負担を求めることができるか
⑤ 民営化にあたって法令上の制約がないあるいは制約の弱いものであるか
(3) 民営化のメリット
① 行政部門をスリム化できる
② 地域住民のニーズに柔軟に対応することが期待できる
③ 専門的なノウハウの蓄積、サービスの質の向上が期待できる
④ 税収が期待できる
(4) 民営化の懸念事項
① 民営化に向けての準備検討段階と移行時にコストがかかる
-50-
② 議会や住民、あるいは職員からの反発のおそれがある
③ 経営が順調でない場合、事業の縮減や事業者の撤退もありうる
④ 行政部門に余剰人員を生ずることがある
⑤ 住民負担が軽くなるとは限らない
(5) 今後の課題
過去に国鉄や電電公社が、JR や NTT になり民営化することで、コストを削減し、
競争によるサービスの向上が図られるということを実証している。
各自治体でも保育園の民営化をはじめ、最近では市立図書館にも完全民営化の波
が押し寄せている。
しかし、民営化することが必ずしもよい結果になるとは限らず、実績や利益を上
げることが目的となってしまい、結果的に質を下げてしまうなどの不安や問題があ
る。
それを防ぐ為には、業務をただ丸投げするのではなく、選考委員などを立ち上げ、
サービス内容等についてプロポーザルを行うなど、相手方となる者の業務遂行能力
や執行体制などの適性について十分な検討が必要である。民営化後においては、そ
の後、評価を行うなど十分な監視・指導が行うことが必要である。
4 PFI(Private Finance Initiative)とは
PFI とは、従来、地方公共団体が自ら行ってきた公共施設などの設計、建設、維持
管理、運営を、民間の資金、経営能力、技術的能力を活用して行う手法である。
事業の実施者はあくまでも民間事業者であり、事業実施の責任は基本的に公共部門
から民間事業者に移転されることを事前に契約により定めることとなっている。
・平成11年7月・・・
「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関す
る法律」
(PFI 法)が制定。対象施設、実施手続き等に関する
規定が定められた。
・平成12年3月・・・PFI の理念とその実現のための方法を示す「基本方針」が、
民間資金等活用事業推進委員会(PFI 推進委員会)の議を経
て、内閣総理大臣によって策定され、PFI 事業の枠組みが設
けられた。
-51-
(1) 代表的な PFI の分類
PFI は、運営中における施設の所有形態、運営責任の帰属及び期間終了後の帰属
の在り方等により次のとおり分類される。
① BOT 方式(Build-Operate-Transfer)
民間事業者が資金調達を行い、施設を建設し、契約で定められた期間中施
設を所有して維持管理・運営を行い、
資金を回収し、
公共に施設を譲渡する方式。
② BTO 方式(Build-Transfer-Operate)
民間事業者が資金調達を行い、
施設建設後に当該施設の所有権を公共に譲渡す
る。さらに、契約で定められた期間中施設の維持管理・運営を行い、資金を回収
する方式。
③ BOO 方式(Build-Own-Operate)
BTO 方式の変形で、施設の公共への譲渡がない方式。
④ BLT 方式(Build-Lease-Transfer)
民間事業者が資金調達を行い、施設を建設し、公共に施設をリースし、リー
ス料を得て資金回収を行った後、公共に施設を譲渡する方式。
(2) PFI の対象施設・事業
※PFI 法に掲げられている。また、ハード事業だけでなく、ソフト事業の PFI も想
定している。
1 公共施設
2 公用施設
道路・鉄道・港湾・空港・河川・水道・下水道
工業用水道等の公共施設
庁舎・宿舎等の公用施設
公営住宅・教育文化施設・廃棄物処理施設・医療施設
3 公益的施設
社会福祉施設・更生保護施設・駐車場・地下街等の公益的施
設
4 その他の施設
5 上記以外
情報通信施設・熱供給施設・新エネルギー施設
リサイクル施設・観光施設・研究施設等
上記に掲げる施設に準ずる施設として政令で定めるもの
-52-
(3) PFI のメリット
① コストの削減及び良質な公共サービスが提供される。
② 事業リスクの一部について、最初に締結する契約にさだめ、民間側に移管する
ことが可能である。
③ 民間の事業機会を創出することを通じ、経済の活性化が期待される。
④ 初期コストは発生せず、提供されたサービスへの支払いという形で契約期間全
般にわたり平素化された支払いが実施できる。
(4) PFI のデメリット
① 事務や契約の手続きが複雑で、法律面、財政面での知識が従来の公共事業とは
比較にならないほど必要となるため、コンサルタント会社等への委託費用など事
前コストがかかってしまう。
② 民間資金の場合、調達金利が公共より高いためコストが上がってしまう。
(5) 今後の課題
メリットとしてあげている事業費用の削減効果については、事業規模が大きくな
ることにより顕著に現れるため、小事業には適用しにくい。また、事前費用がかか
るなど、メリットがデメリットとなる可能性もある。したがって、PFI 方式と、自
治体が単独で施設を建設し、運営や維持管理を民間に委託する委託方式とのコスト
差等を分析し、導入を検討していかなければならない。
また、BOT 方式、BTO 方式など、分類もたくさんあるため、それぞれの事業に適し
た方式を選び、より効果的、効率的に活用していくことが必要である。
-53-
第3章 指定管理者制度について
指定管理者制度について
1 指定管理者制度導入の背景
これまで、
「公の施設」については、地方自治体が直接、あるいは、地方自治体が出
資法人となっている外郭団体等に管理を委託する管理委託制度により運営してきたと
ころである。
しかしながら、近年、民間においても十分なサービス提供能力を有する事業者、N
PO等の団体が増加しており、また、市民ニーズが多様化、高度化、専門化している
ことから、これらのニーズに効果的、効率的に対応するためには、民間団体の持つノ
ウハウを積極的に活用することが有効と考えられている。
そこで、平成14年12月に総合規制改革会議から示された「総合規制改革会議の
推進に関する第2次答申」では、
「民間にできることはできるだけ民間にまかせる」と
いう新たな視点に立ち、官民の役割分担の再構築に向けた具体的な施策として、
「公の
施設」の管理について、具体的な方針が打ち出されたところである。
このような状況を踏まえ、地方自治法の改正が行われ、平成15年9月2日から、
「公の施設」の管理運営を行うことのできる主体として、民間事業者、NPO等を含
めた幅広い団体を対象とする指定管理者制度が導入されたところである。
-規制改革の推進に関する第2次答申 抜粋-
「公の施設」の管理 地方自治法(昭和22年法律第67号)では、地方公共団体は
住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設(公の施設)を設ける
ものとし、その管理を地方公共団体の出資法人、公共団体、公共的団体に限定して委託
することができる旨規定している。この規定の趣旨は、施設の利用料金の決定と収受は
民間に委託することができないというにすぎず、それ以外の管理行為については広く民
間へ委託することが可能であることを直ちに地方公共団体に周知徹底すべきである。
【平
成14年度中に措置】
また、一定の条件の下での利用料金の決定等を含めた管理委託を、地方公共団体の出
資法人等のみならず、民間事業者に対しても行うことができるように現行制度を改正す
べきである。
-54-
2 制度の概要
(1)
指定管理者の要件
指定管理者制度は、
「公の施設(※)
」の管理運営について、
「法人その他の団体」
に行わせようとするものであり、個人は指定管理者になることはできないが、市
の出資法人、社会福祉法人、民間事業者、NPO等の幅広い団体がその対象とな
っており、法人格のない自治会等でも指定管理者になることができる。
(2)
従来の管理委託制度との違い
これまでの管理委託制度は、
受託者である外郭団体等の出資法人が、
「公の施設」
の設置者である市との契約に基づいて、
「公の施設」の管理に係る具体的な事務事
業を行うもので、施設の管理権限及び責任は市が有しており、使用許可(行政処
分)などは委託できなかったところである。
これに対して、指定管理者制度は、
「公の施設」の管理に関する権限を地方公共
団体が指定した指定管理者に代行して行わせるもので、従来の管理委託の範囲に
加えて指定管理者は施設の使用許可などができることになった。また、一定の範
囲で利用料金の設定もできるものとされている。
しかし、使用料の強制徴収や不服申立てに対する決定など、法令上、地方公共
団体の長のみが行うことができる権限については、指定管理者に行わせることが
できない。
また、地方公共団体は、管理権限の行使自体を自ら行うことはないが、指定管
理者の権限の行使について、設置者としての責任を果たす立場から、必要に応じ
て、指示を行い、指示に従わない場合には、指定の取消等を行うことができる制
度である。
なお、指定手続や管理基準、業務の範囲など必要な事項は条例で定めるため契
約を結ぶ必要はないが、具体的な事項等については、協定を締結し、明確にして
いくことになる。
(3)
指定管理者制度への対応
① 管理委託制度により管理の委託をしている「公の施設」
改正前の地方自治法の管理委託制度により管理の委託をしている
「公の施設」
については、経過措置があり、改正法の施行日である平成15年9月2日から
3年以内に、指定管理者制度に移行するか否かを決定しなければならない。
-55-
② 新設の「公の施設」
新設の「公の施設」については、経過措置の適用がないことから、
市が直接管理をする場合を除き、指定管理者を指定する必要がある。
③ 市が直接管理運営している「公の施設」
市が直接管理運営している「公の施設」については、行政目的の達成、市民
サービスの向上、行政運営の効率化、地域経済の活性化等の観点から、直営を
継続していくのか、あるいは指定管理者制度を適用していくのかを今後検討し
ていくことになる。
※ 公の施設
「住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設」
(自治法24
4条)とされ、庁舎、試験研究機関、競輪場や競馬場等のギャンブル施設等を除く
大部分の公的施設で設置及び管理については、法令等の特別な場合を除き地方自治
体が定めることとなっている。
-「公の施設」の例示 -
○ 民生施設:保育所、母子寮、養護老人ホーム、老人福祉センター、老人憩いの家、
福祉会館、児童館
○ 衛生施設:し尿処理施設、ごみ処理施設、下水処理施設、下水終末処理場、公衆
便所、健康センター、健康増進施設
○ 体育施設:体育館、陸上競技場、プール、野球場、武道館、キャンプ場
○ 社会教育施設:中央公民館、地区公民館、勤労青少年ホーム、青年の家、自然の
家、中央図書館、地区図書館、博物館、資料館、小中学校の開放
○ 宿泊施設:国民宿舎、その他宿泊施設
○ 公園:公園、児童公園
○ 会館:市民会館、公会堂、文化センター、勤労会館、婦人会館、コミュニティ
センター、集会所
○ 診療施設:病院、診療所
公の施設であっても、それぞれの施設の設置を根拠づける法律によってその施設の
目的も管理運営も規制されているものがある。すなわち最初から対象外であったり、
対象にはなるが指定管理者になれるものの制限があったり、管理事務の種類に制限が
-56-
あったりするなど様々であり、
「地方自治法の一部を改正する法律の公布について(通
知)
(
」平成15年7月17日付け総行行第87号総務省自治行政局長通知)
の第2 公
の施設の管理に関する事項の4 その他において、
「道路法、河川法、学校教育法等個
別の法律において公の施設の管理主体が限定される場合には、指定管理者制度を採る
ことができないものであること。
」とされている。
しかしながら、個別法により管理主体が限定されている施設においても国からの通
知等により対象施設が拡大されているので、次の表を参照されたい。
-57-
施設
担当
法律等
区分
措置の概要
河川
国土交通
河川法
通知
河川管理における指定管理者制度の導入
公営住宅
国土交通
公営住宅法
通知
公営住宅管理における指定管理者制度の活用
港湾施設
国土交通
港湾法
通知
港湾施設管理における指定管理者制度の導入
道路
国土交通
道路法
通知
道路管理の民間開放(指定管理者制度)
都市公園
国土交通
都市公園法
法律
第159国会に民間事業者等の積極的な活用を可能
通知
とする法改正案を提出、通知も発出
公民館
文部科学
地方自治法により指定管理者制度が導入されたこと
社会教育法
を受け、今後は館長業務を含めた全面的な民間委託
図書館
文部科学
図書館法
博物館
文部科学
博物館法
医療施設
厚生労働
医療法
周知
が可能であることをあらためて明確の周知
(第24回経済財政諮問会議平成15年11月21
日開催資料)
医療法の非営利原則により営利法人は指定管理者と
なれない。
但し、
下記の業務は指定管理者が行うことができる。
通知
①受付や会計事務等の医師等の診療又は患者の入院
等影響を与えない業務
②食事の提供や医療機器の保守点検等の業務
③診療行為や療養上の世話等の医療本体
保健衛生施 厚生労働
地域保健法
住民に対する健康相談、保健指導及び健康診査など
設
(市町村保
全ての業務について指定管理者制度の利用が可能
周知
健センター)
(民間資金等活用事業推進委員会平成16年3月2
9日開催資料)
社会福祉施 厚生労働
老人福祉法
指定管理者制度を活用した場合において、全ての業
設
児童福祉法
務において委託が可能。
通知
児童自立支援施設においては、職員等が都道府県の
吏員に限定されているため指定管理者制度を活用で
きない。
-58-
3 指定管理者による管理
指定管理者に公の施設の管理を行わせる場合には、個々の公の施設ごとに「指定管
理者の指定手続きや指定管理者が行う管理の基準および業務の範囲その他必要な事項
を条例で定めるもの」とされている。
(自治法244の2Ⅳ)
したがって、個々の施設ごとに条例で、以下の内容について定める必要がある。
① 申請、選定、事業計画の提出等、指定管理者を選定する際の指定の手続き
② 施設の休館日、開館時間、使用制限などの管理の基準
③ 施設・設備の維持管理、個別の使用許可の業務の具体的範囲などを定める。
今後、指定管理者制度を積極的に導入する予定の場合、①について包括的な条例
を定めることが合理的である。
(⇒P67参照)
条例で定める選定の手続きにおいては、以下の内容を定める必要がある。
ア 最も業務執行計画が適切であること。
イ 最も適切かつ確実な管理を行うために必要となる能力を有するものであること。
ウ 最も効果的かつ効率的な管理ができるような選定基準。
4 指定管理者の指定
指定管理者が施設の管理を行う権限は、長の指定という行為によって生じ、契約な
どの特別の行為は必要としない。
指定管理者の指定は、行政処分の一種とされており、地方自治法上の「契約」には
該当しないため、当然入札の対象にはなり得ない。
また、地方公共団体から、管理権限を指定管理者に委任することにより、当該地方
公共団体の代わりに管理を行うものであり、
両者に取引関係が成立するものではなく、
「請負」にも該当しないと解釈されている。
5 指定管理者の指定に当たり議決すべき事項
指定管理者を指定しようとするときは、次の事項について、あらかじめ議会の議決
を経ることが必要である。
(1) 指定管理者に管理を行わせようとする公の施設の名称
(2) 指定管理者となる団体の名称
(3) 指定の期間など
-59-
6 利用料金制度について
公の施設の利用については、本来、使用料の徴収が認められており、使用料は地方
公共団体の収入になるが、地方公共団体が、適当と認めた場合には、指定管理者にそ
の管理する公の施設の利用に係る料金(利用の対価)を当該指定管理者の収入として
収受させることができる。
これにより、指定管理者よる自主的な経営努力の発揮や、使用料徴収等の会計事務
の効率化が期待されている。
7 事業報告書の提出
地方公共団体の長または委員会は指定管理者の管理する公の施設の管理の適正を期
すため、指定管理者に対して、管理の業務または経理の状況に関し報告を求め、実地
に調査し、また必要な指示をすることができる。
8 指定管理者制度の導入に当たり懸念される事項
① 指定管理者へ管理委託する仕様の策定が困難
② 指定管理者を選定するに当たり、適切な選定方法が分からない。
③ 指定管理者が提供するサービス水準を監視するシステムがない。
9 指定管理者制度の導入に当たり民間事業者等に期待する事項
① 財政支出の削減
② 提供されるサービス水準の向上
③ 自治体行政の全体的な構造改革
④ 既存の公的団体の改革
⑤ 自治体職員の意識改革
⑥ 民間事業者等との新たな連携関係の構築
⑦ 地域の雇用の拡大
10 民間事業者の活用時の懸念事項
① 施設及び地域により民間事業者の参入がない可能性がある。
② 民間事業者を活用してもコスト面で効果が期待できない可能性がある。
③ コスト縮減のためにサービス水準が低下する可能性がある。
④ 個人情報の管理レベルが一様ではない。
-60-
⑤ 民間事業者が管理することに、地域住民から理解が得られない。
⑥ 民間事業者を指定管理者とすることに職員から理解が得られない。
⑦ 現在管理している公的団体の今後のあり方が整理されていない。
11 指定管理者制度に民間企業は参入しているのか(現状の調査)
広島県庄原市では三日市保育所を庄原市総合サービス株式会社に、東京都中野区で
は宮の台保育園をコンビチャチャ株式会社に、横浜市では白幡地区センターをアクテ
ィオ株式会社に、
堺市では「のびやか健康館」をさかいウェルネス株式会社に管理の「代
行」を決めている。YМCAなども参入してきている。
その中で指定管理料やそこで働く労働者の賃金・労働条件、管理・運営の実態がど
うなっているのか、フォローが必要である。
12 住民組織等を指定管理者に指定した事例
① 名古屋市 なごやボランティア・NPOセンター
◎ 概要
名古屋市では、ボランティアやNPO活動など市民の自主的な参加による自発
的な活動で、営利を目的としない公益性を有する活動を促進するため、平成14
年4月に開設した、なごやボランティア・NPOセンターについて、平成16年
8月1日より、指定管理者による管理運営制度を導入した。
② 愛知県丹羽郡大口町 老人福祉センター「憩いの四季」
◎ 概要
昭和54年に建設した老人福祉センターは、
「生きがいと健康づくり」
・
「憩う」
・
「助け合い」
をコンセプトに、
高齢者の生きがいと学びの場の新たな創造のため、
同センターを平成15年度に改修した。
大口町では、地方自治の本来あるべき姿である住民自治、住民による住民のた
めの施設有効利用を目指し、指定管理者制度を導入し、住民組織にその管理運営
を全権委任した。
-大口町の考え方 抜粋-
本町の政策理念にもある『住民の参画と参加、自主自立』の精神の下、老人ク
ラブ「ちとせ会」を中心に各種団体や行政と、
「憩う・学ぶ・働く」をテーマに検
討を重ねて設計方針を決定し、広い廊下、全室バリアフリーなど多様化する高齢者
-61-
社会に対応できる機能を備え、町内外を問わずどなたでもご利用いただける施設へ
とリニューアルを遂げました。
こうした中、平成15年9月の自治法改正により、
「管理の代行委託」とは異
なる新しい管理体制として、公の施設を民間の団体が管理する「指定管理者制度」
が法制化されました。そして、当町ではこの制度をいち早く有効に活用すべく、
県下としては初めての試みの中、
「大口町老人福祉センター運営委員会」という
住民組織に指定管理者として委任しました。
今後は、
『住民(みんな)が考える住民(みんな)のためのサービス』を提供
するために運営委員会の皆様の創意工夫やご尽力によって一層親しまれる施設
になると共に、必ずや運営に携わる住民の皆さんの生きがいづくりにもつながる
と確信しています。
13 指定管理者制度の導入に当たり
(1) 地域公共性への配慮
指定管理者制度の導入自体が、既存の行政直営又は外郭団体等で管理運営してい
たものを、民間企業等の参入により、より経済的かつ効率的に運用しようとするも
のであり、単なる行政側のリスクの回避、コストの削減が目的ではない。
あくまで「公の施設」に関する管理を委ねるわけであるから、その公共的施設の
管理運営にふさわしい事業体であることも大切な要素である。すなわちその事業体
の社会に対する貢献度についても考慮する必要があるのではないだろうか。
そこで、以下のような点についても指定管理者選定上のポイントとして、評価す
べきである。
① 男女共同参画社会に向けて、女性の働く場の提供や男女間の格差是正に積極的か
どうか
② 障害者の職業生活への参加に積極的かどうか
③ 高齢者の雇用機会の提供になるかどうか
④ コスト削減のために職員に低賃金労働を強いていないかどうか
⑤ ISO取得といった環境や品質に関するマネジメントシステムの確立に積極的
かどうか
⑥ 組織体として法令遵守の考え方がどれだけ浸透し、また制度化されているのかど
うか
-62-
(2) 債務負担行為の設定
指定管理者に関する議決としては、①指定管理者にかかる(手続)条例等の制定・
改正、②指定管理者の指定の 2 つについて、議会の議決を得ればよいことになっ
ている。
しかしながら、指定期間については、多くの場合3~5年間と複数年契約にわた
るケースが想定されるため、
委託料積算においても指定期間通算での事業費をもと
に検討を行うものと考えられる。
こうしたことから、複数年指定の場合は債務負担行為の設定を行い、その議決を
得るべきである。
(3) 指定管理者の指定の取消しへの行政としての担保
指定管理者への管理運営を委ねた施設について、当該指定管理者の倒産・撤退等
その指定を取り消すに至る場合をも想定し、
速やかに他の事業体へ指定を移行でき
るよう行政内部として、
次点以降の優先交渉権を留保するなどの対策が必要である。
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指定管理者制度、
指定管理者制度、管理委託及び
管理委託及び業務委託の
業務委託の違いについて
位置付け
業務委託
管理委託
指定管理者制度
サービスの提供
権限の委任代理
管理代行(行政処分)
出資団体(1/2 以上出資)
、公 法人その他の団体
限定しない
共団体、公共的団体
(民間事業者、NPO、公共的団
受託者
体等)
特になし
条例で規定
議会の議決を得て指定
指定管理者
(営業時間、休館日などの設定
施設の経営権
地方公共団体
地方公共団体
や業務の範囲は条例で定め
る。
)
対外的責任
地方公共団体
一義的には受託者
指定管理者
①指示された施設サービスの ①自主的な施設サービスの提
供
提供
業務の範囲
契約範囲内のサービスの提供
②施設の維持管理
②施設の維持管理
③使用許可等の行政処分
原則公募
業者選定
原則入札
及び契約形態
委託契約
受託者の範囲内で随意契約
契約ではなく、議決(指定管理
者の指定)を得て協定
指定管理者(地方公共団体は上
料金の帰属
地方公共団体
基本的には地方公共団体
限額)
①条例制定時
議会の関与
なし
条例制定時
②指定管理者の指定のための
議決
根拠法令
改正前の地方自治法
地方自治法
第244条の2第3項
第244条の2第3項
なし
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