平成 18 年男女雇用機会均等法改正のポイント

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■『労働法解体新書〔第 2 版〕』補遺■
平成 18 年男女雇用機会均等法改正のポイント
平成 18 年 6 月 15 日、「雇用の分野における男女の均等な機会
及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する
法律」(以下、「改正均等法」という)が成立し、平成 19 年 4 月 1 日
から施行される。改正均等法は、職場で働く人が性別により差別
されることなく、また、働く女性が母性を尊重されつつ、その能
力を十分発揮することができる雇用環境を整備するため、性別に
よる差別禁止の範囲の拡大、妊娠等を理由とする不利益取扱いの
禁止等を定めたものである。今回の改正のポイントは主に以下の
5 つ(1 ∼ 4 は男女雇用機会均等法関係、5 は労働基準法関係)。そこ
で以下では、旧法と比較しながら、改正均等法の内容について見
ることにする。
1 性別による差別禁止の範囲の拡大
第一に、旧法では女性に対する差別のみを禁止していたが、改
正均等法では男女双方を対象とする性差別禁止法への転換が図ら
れた。その結果、平成 19 年 4 月 1 日からは男性への差別も禁止
され、差別を受けた男性も均等法に基づく調停など個別紛争の解
決援助が利用できるようになる。
第二に、旧法では、募集・採用、配置・昇進・教育訓練、福利厚
6,
7,
8 条)、
生、定年・解雇に係る差別が禁止されていたが(旧法第 5,
改正均等法ではそれに加えて、降格、職種変更、パートへの変更
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などの雇用形態の変更、退職勧奨、雇止めについても、性別を理
由とした差別を禁止した(改正均等法第 5,6,7 条)。
第三に、今回の改正均等法の最大の目玉は、「間接差別」禁止
規定が新設されたことである(改正均等法第 7 条)。間接差別とは、
外見上は性に中立だが、実際には一方の性(ほとんどの場合は女性)
に相当程度の不利益を与えている制度・基準・慣行で、しかも職
務との関連性など合理的な理由がないものをいう。一見して性に
中立のように見えても、結果的には一方の性(特に女性)に大き
な差別をもたらすことから、間接差別は「均等法の隠れ蓑」とし
てこれまで議論の的になってきた。したがって、今回の均等法改
正により、間接差別を禁止する規定が置かれたことは非常に大き
な進歩である。
なお、具体的に間接差別が禁止される対象として、①業務に必
要がないのに労働者の募集・採用に当たって一定の身長・体重を
要件としたため、女性の多くが不利になる場合、②合理的理由が
ないのに、総合職の募集・採用において全国転勤を要件にしたた
め、女性の多くが不利になる場合、③業務に関係ないのに、転居
を伴う転勤経験がないと昇進しないという要件を入れたため、女
性の多くが不利になる場合、など 3 つの事例が省令に列挙されて
いる(指針第 3−2,3,4 参照)。もっとも、このように間接差別の事
例を限定的に列挙してしまうと、それ以外は間接差別ではないと
解釈される恐れがある。そこで、付帯決議では「間接差別は厚生
労働省令で規定するもの以外にも存在しうるものであること、及
び省令で規定する以外のものでも、司法判断で間接差別法理によ
り違法と判断される可能性があること」とした。省令に列挙され
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た3つの事例は均等法による行政救済措置の対象を限定する意味
であって、司法救済によるこれ以外の可能性が確認された点は非
常に重要である。
2 妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの禁止
旧法では、妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由とする解雇
を禁止していたが(第 8 条第 3 項)、改正均等法ではそれに加えて、
省令で定める理由による解雇その他の不利益取扱いも禁止される
こととなった(改正均等法第 9 条第 3 項)。省令で定められている
のは、労働基準法の母性保護措置や均等法の母性健康管理措置を
受けたこと等であり、また不利益取扱いの内容としては、退職勧
奨、雇止め、パートタイムへの変更等がある。また、妊娠中や産
後 1 年以内に解雇された場合、事業主が妊娠・出産・産前産後休
業の取得その他の省令で定める理由による解雇でないことを証明
しない限り、解雇は無効になる(改正均等法第 9 条第 4 項)。
3 セクシュアルハラスメント対策
旧法では、職場における女性に対するセクシュアルハラスメ
ント対策として事業主に雇用管理上必要な配慮を義務づけていた
が、改正均等法では、男性に対するセクシュアルハラスメントも
含めた対策を講じることが義務づけられた(改正均等法第 11 条)。
また、同法で対象となる労働者は、いわゆる正規労働者のみなら
ず、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規労働者も含
むすべての労働者である(「事業主が職場における性的な言動に起因
する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」〔平成 18 年
厚生労働省告示第 615 号第 2(3)〕)。
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4 男女雇用機会均等の実効性の確保
――調停および企業名公表制度の対象範囲の拡大――
事業主に妊娠中および出産後の健康管理に関する措置(保健指
導または健康診査を受けるための必要な時間の確保など)を義務づけ
る現在の規定に加えて、改正均等法では、①こうした措置が講じ
られずに是正指導にも応じない場合、企業名公表の対象となるこ
と、②紛争が生じた場合に、調停など個別紛争解決援助の申出を
行うことができるようになった(改正均等法第 15 条・16 条・30 条)。
また、セクシュアルハラスメントについても、対策が講じられず
是正指導にも応じない場合、企業名公表の対象となるとともに(改
正均等法第 30 条)
、紛争が生じた場合に男女とも調停などの個別
紛争解決援助の申出を行うことができることとなった(改正均等
法第 16 条および第 20 条)。
5 労働基準法上の女性の坑内労働の規制緩和
旧法では、原則として女性労働者の坑内労働を禁止していた
が、改正均等法は、女性技術者が行う管理・監督業務について坑
内労働が行えるよう規制を緩和した(改正均等法第 64 条の 2)。なお、
引き続き妊産婦および作業員の業務については坑内労働を禁止し
ている。
【2007 年1月 文責:川田知子】