『最強のアパレル企業を目指して ∼スーパーストアへの脱却 ∼』

望月宏ゼミナール3年次進級論文
『最強のアパレル企業を目指して
〜スーパーストアへの脱却
〜』
E11−0740D
介
0
鈴木竜
・・・ P1
目次
序章
第1章
仮説の提起と論文全体の流れ
・・・ P2
世界と日本のアパレル市場
・・・ P4
日本のアパレル市場規模は10兆5337億円
アパレル輸入品による国内生産高減少の裏付け
第2章
序説
第3章
・・・ P7
アパレル小売業研究
世界のトップをいく産業水準
小売業研究①
専門店業界
小売業研究②
百貨店業界
小売業研究③
無店舗販売業界
・・・ P13
アパレル卸売業研究
業態の変化が注目される日本のアパレルメーカー
ライフサイクルのつかみ方
売れ残った商品はどこへ行くのかその分類
第4章
序説
・・・ P19
アパレル業界研究
画一化の時代から差別化の時代へ
アパレル業界研究①総合アパレル
アパレル業界研究②レディース
アパレル業界研究③メンズ
アパレル業界研究④インポート
第5章
序説
アパレル産業の今後
〜スーパーストアへの脱皮〜
SPA の今日的提起
SPA は21世紀型アパレル産業
リテイラー及びメーカーから SPA 化するメリット
スーパーストアへの脱皮
何を学べるか―論文全体としてのまとめ
1
・・・ P26
序章
仮説の提起と論文全体の流れ
日本はこれから本格的な『余暇の時代』を迎える。生活者の多様化がどんどん進み、十
人十色から一人十色の時代に入っている。それとともに、ライフスタイルも多様な広がり
をみせることだろう。それは海外からの情報や新しいブランドが大量進出してきているか
らだ。このようなグローバリゼーションの進展は、アパレル産業にも大きな影響を及ぼし
つつある。ビジネスにおいて国境の壁が徐々になくなり、世界単一市場が形成されつつあ
るいま、海外市場における国際競争だけでなく、国内市場における国際競争が起こってき
ている。それにより、これまで内在していた問題点が一気に露出され、産業構造や経営シ
ステムの転換が迫られている。このような海外企業の日本進出が続いているが、その事実
は裏を返せば『日本市場にそれだけの魅力がある』からに他ならない。『世界水準』を視
野に置きながら、ライフスタイルの変化に対応し、生活者の要求する商品、サービスを提
供し続ける限り、これからもますます発展していくマーケットであることは間違いないと
考えている。
最近では、ロードサイドに大型ファッションストアを目にすることが多くなった。中で
も特にギャップやユニクロの新規出店やその好調さが業界紙だけでなく、一般誌や雑誌に
などにもよく取上げられ、大型ファッションストアは一種のブームとなっている感がある。
ユニクロの昨今の営業利益の急上昇により、2001年の営業利益は小売業でもセブンイ
レブンジャパンに次ぐ2位である。この2つの企業に共通していえることは生産、物流、
販売までを一貫した製販一貫体制(SPA)を採用していることと、スーパーストア型業態
をとっていることである。つまりSPA化することが今後のアパレル業界が展開すべき姿
だと考え、スーパーストアへの脱皮こそがSPAにとっての究極の姿ではないかと考えて
いる。
確かにどの参考文献をみても、これまではSPA化することだけが今後のアパレル業界
が展開すべき姿だと考えられてきた。しかし私はさらに1歩踏み込んで、スーパーストア
への脱皮こそがSPA、強いては今後のアパレル業界が展開すべき究極の姿ではないかと
考え、これをこの論文全体の仮説としている。ならば、仮説を立証するためにもまずはア
パレル産業における課題を浮き彫りにするための業界研究をする必要があると考える。業
界研究をしていくうちにさまざまな問題点にぶつかるはずである。アパレル産業はそのい
くつか挙げられるであろう問題点を解決していくため、今後どのような展開をしていくべ
きかについて論じていく。結論はあくまでスーパーストアになるべきというのが私の仮説
である。しかし、どのようなスーパーストアになるべきかは業界研究をしたうえで考察し
ていく。
そこで第1章では、アパレル市場規模とグローバリゼーションの進展の事実を考察して
2
いく。第2章から第4章ではアパレル産業を3つの業界に分類し、それぞれの章において、
論文全体の結論である今後のアパレル産業を考察するうえで必要なキーワードを抽出して
いく。それを受け、結論として第5章では、アパレル産業の今後を考察し、仮説が正しい
か正しくないかをはっきりとさせ、もし正しいとすればその肉付けをし、正しくないと判
断すれば他にどのような展開をみせるかを考察する。
3
第1章
世界と日本のアパレル市場
○日本のアパレル市場規模は10兆5337億円
図1−1で示した繊維産業構造改善事業協会のデータから、日本のアパレル市場規模(ア
パレル:靴下類、下着類、シャツ・セーター類、洋服のみとする)を家計消費ベースで考え
てみると、最近のピークであった91年には、12兆634億円の市場であったものが、
95年に10兆5337億円となった。じつに両年を比較すると1兆5000億円、14.
5%も市場規模が減ったことになる。その要因としてバブル経済崩壊以降、高級品に対す
る消費離れが起こるとともに、価格革命が吹き荒れ、単価の値下げが続いた。その後の平
成不況で、消費が長期にわたって低迷したことが、アパレル市場規模の縮小をもたらした
といえる。
このような時代背景があり、消費が低迷したのだ。しかし95年の後半には、『商品価
値と価格のバランス』指向が台頭し、96年に、価格がようやく下げ止まった。とはいえ、
消費者の選択消費傾向は強まっており、衣服も量より質の時代へ移行した。日本のアパレ
ル市場規模が今後、順調に拡大成長できるかどうかは予断を許さない状況である。
以上が日本のアパレル市場規模における現状である。むしろ私がいわんとしていること
は、その中でも輸入品が占める割合について注目していきたい。次の項では、アパレル輸
入によって国内生産高が減少し、そこに生じる問題点と今後の展開について論じていく。
図 1−1
○アパレル輸入による国内生産高減少の裏付け
いまや、日本国内に輸入品が大量に入ってくるため、国内での生産が減少し、日本はま
4
さに『輸入品大国』といわれている。このことは衣類品に関してもいえることであり、日
本国内に輸入品が大量に入ってくるため国内での生産が減少していると考える。これをこ
の項の結論として仮説する。また、輸入品が国内に増加することで、さまざまな問題点が
指摘されるはずだ。以上のことから、データを用いて結論に対する裏付けをし、またこれ
によって生じる問題点を考察していく。
まず始めに、国内生産高についてのデータをみていきたい。日本のアパレル生産数量は
1979年以降、一貫して減少している。繊維産業構造改善事業協会のデータのよると9
5年の生産数量*1 は、24億996万点。生産金額*2 をみても2兆8786億円と、9
1年のピーク時に比べて、79.4%水準に止まっている。この金額はちょうど、80年の
水準である。生産金額に関しては、国内製品の高額化とコスト高により増加を続けてきた。
しかし、ここ数年では、生産数量・金額の両方が減少を示している。
*1 商品の数
*2 人材コストや生産コスト
次に、輸入金額について、日本繊維輸入組合のデータよると、日本のアパレル輸入は2
000年30億4883万点、金額にして1兆9053億円となっている。当時、5年前
の95年と比較して、前者はプラス 44%、後者はプラス26%というデータが得られた。
数量の伸び率が、高い上昇率を示したのに対し、金額の伸び率がそれと伴っていないのは、
第1の輸入相手国が安い中国であることによるものと考えられる。さらに輸入品を数量ベ
ースに見てみると、中国がトップで全体の85,5%、韓国 6.6%、米国3.9%、ベトナ
ム 1.8%、タイとインドネシア 1.6%と続き、輸入品を金額ベースに見ると、中国がトッ
プで全体の77,9%、イタリア8.5%、韓国6.0%、米国5.2%と続いている。この
中でイタリアは、高級品分野での力が強いことを裏付けている。
*3 アパレル輸入品
*4 アウターシャツ、セーター、Tシャツ、下着
*5 紳士用のズボン、シャツ、下着、コートや婦人用のズボン、ブラウスなど。
以上、国内生産高とアパレル輸入の現状について考察してきたわけだが、ここで本題に
戻り、インポートブランドが日本国内でどれだけ供給されているのかを示すためには、ア
パレル国内供給に対する浸透率(輸入÷〔国内生産+輸入−輸出〕)をみる必要がある。実
際のデータによると93年に41%、94年には48%、95年には53%と過半数を超
えるまでになった。
アパレル輸入について、日本の国内生産高と結び付けて述べてきた。結果として、やは
り私が最初に仮説した通りだったようだ。日本国内に輸入品が大量に入ってくるため国内
での生産が減少している。ブランドを海外に供給することによって国内のブランドを消費
者が求めなくなり、それによって国内での生産高も減少するというわけだ。
そこで次に、これら輸入依存により生じる問題点について考えていく。まず第1に輸入
品の浸透率の上昇は一方で、日本のアパレル輸出の弱さの現れであることがいえる。
5
その理由としても考えられる第2の問題点として、産業の空洞化が挙げられる。先にも
述べたとおり、生産数量・金額の両方が減少を示すということは、製造業の空洞化を物語
っていることに他ならない。この項で述べてきたことから考察して、空洞化の原因として
考えられることは、次の2点である。第1に、急速な円高の定着による輸入品の高位安定
とグローバル化・ボーダレス化の進展にあること。これに関連して、円高・リラ安はイタ
リア製品の輸入を増加させ、国内の高級品マーケットを席巻する勢いをみせている。
第2に、生産地を中国やベトナムなどのアジアへ移転させ、国内生産基盤を縮小させて
きたことである。
これらの課題を解決していくため、今後の展開として日本のアパレル産業に必要なこと
は、戦後生まれが多数派になったレベルの高い消費者層を基盤に、そのライフスタイルを
的確に捉えた日本のオリジナル商品の開発を進めるべきだと私は考えている。
6
第2章
序説
アパレル小売業研究
世界のトップをいく産業水準
1990年代に入り、人々の生活の仕方、考え方はますます、個性化・多様化の傾向を
強めている。単なる大衆ではなく、一人ひとりがはっきりと自分の意見を持っている知的
大衆の登場により、ファッションの個性化・多様化が叫ばれるようになった。アパレル産
業は、人々の要求する商品、サービスを提供するため、ファッションビジネスの枠だけで
は止まらず、これからも大きく伸びようとしている産業である。また、その店舗のほとん
どが中堅規模サイズであり、そこで働く一人ひとりの努力が目にみえている形で手応えを
感じることのできる産業でもある。
いまや情報革命の時代といわれ、ファッションビジネス型のアパレル産業はますますそ
の役割の重要さを増している。流行をいち早く企画に取り入れ、人々の生活を豊かにする
商品とサービスを提供することこそ、アパレル産業の役割といえるであろう。
そこで第2章では、小売業界における現状を述べ、その課題について考察し、論じてい
く。同様に第3章では、卸売業界について論じていく。また、論文全体の結論である今後
のアパレル業界を考察するうえで必要なキーワードをそれぞれの章において抽出していく。
図2−1
出所:『よくわかるアパレル業界』繊研新聞社編集局
第2章
アパレル小売業研究
○小売業研究①
格差広がる専門店業界
まず始めにこの項では、専門店業界における現状と都心型専門店の成長の理由を考察し、
今後のアパレル業界を考察するのに必要なキーワードを抽出していく。
早速であるが、ファッション関連専門店は今、格差の時代を迎えているといわれる。好
業績が続く専門店がある一方で、業績悪化にあえぎ、信用不安説がくすぶる専門店も少な
くない。分野や取り扱い商品による格差が大きく、中には売り上げ記録を更新している店
7
もあり、企業間格差が広がる傾向がみられる。その傾向は数字にも表れている。繊維研究
新聞社調べの95年度の売上データによると、レディス専門店の売上高は合計1兆170
0億円。前年比マイナス2.9%で、売上高が4期連続、経常利益が6期連続のマイナスと
なった。一方、メンズとカジュアル専門店の売上高は合計1兆800億円。前年比プラス
2.6%であった。企業別にみても、成長力、収益力、財務力とも徐々に格差が開きつつあ
る。その中で、売り上げの伸びが著しいアパレル企業として、ユナイテッドアローズ、L.
L.ビーン・ジャパン、アニエス・ベー・サンライズ、ビームス、良品計画などが挙げら
れる。
これらすべてのアパレル企業に共通していえることは、新鮮なファッションの提案力が
指示されている都心型専門店だということである。つまり、ファッション提案力が新鮮に
指示されている都心型専門店の成長力が目立っている。価格競争力もファッション提案力
も、固定客を増やせる力も『個性』がはっきりとしているからだ。逆にいえば、業績の厳
しい専門店には個性を実現する経営力やMD(マーチャンダイジング)力*6 が欠けている
ともいえる。ある専門店は、これまで店舗のスタッフに求めてきた情報は『売れ筋は何か。
売れ筋をどれだけ追加してほしいか』だけだったという。要するに“守りの情報”を求めて
いたわけだ。だが、今は店舗スタッフにも“攻めの情報”を求めている。
『今は売れているが、
そろそろ売れなくなる商品は何か。何があったら売れるか、その根拠は何か』といった情
報だ。売れなくなる時期の適切な判断は、次の売れ筋を仕入れる“攻め”にも欠かせない。
そのためにもより大きな視野で、商品と顧客をみることが求められている。
*6 商品化計画を行なう力。
また最近では、直営店の出店に力を入れるアパレルメーカーが増え、海外のSPAの日
本進出も相次いでいる。ここでも構造変化に対応している専門店と、対応できない専門店
との格差は一層開いていくと考えられる。
以上、専門店業界における現状と都心型専門店の成長の理由について考察してきた。こ
の項全体を通じ、結論としていえることは、専門店業界にとって、より専門性を追求し、
質の向上を目指した商品の提供と、店頭の情報を的確に商品へとフィードバックできるこ
とこそが、今後発展していくのに必要不可欠なことであると考えられる。
最後に、この項から読み取ることができた今後のアパレル業界を考察するのに必要なキ
ーワードは、
『都心型専門店』
、
『個性』
、
『MD』
、
『攻めの情報』である。
○小売業研究②
真価が問われる百貨店業界
次に、小売業研究の第2番目として、この項では、百貨店業界における現状と残された
課題を考察し、今後のアパレル業界を考察するのに必要なキーワードを抽出していく。
消費市場の低迷と競争激化という二重の厳しい環境に置かれている百貨店業界。百貨店
の売上が最高値を記録したのは91年だった。92年以降は前年割れが続き、96年度に
ようやく前年を上回ったものの、97年は前年実績をクリアすることはできなかった。全
8
国の百貨店の97年度決算をベースとした単店舗別売上高上位100社の総売上高は7兆
1400億円(前年比1.4%減)であった。総合売上高ランキングをみると、上位100
店舗中で前年を上回ったのが18店舗に過ぎないという状況である。
そのような中で、95年下半期からは店舗の改装などの動きが活発化した。例えば、9
6年10月に東京地区新宿高島屋の出店により、開店1ヶ月で500万人を集客した。そ
の他、伊勢丹本店や西武百貨店池袋店などの有力店による相次いでの大型改装、横浜地区
丸井の出店、横浜そごうが増床を実施するなど。大阪地区でも阪急百貨店本店が全店規模
の改装に取り組んでいた。特に、百貨店の“新宿戦争”は、連日のようにマスコミをにぎわ
すことになった。この他、郊外立地でも、ジャスコの開発するショッピングセンターに西
武百貨店が出店するなど、新たな動きが浮上している。郊外型の店舗も加えると、百貨店
の出店攻勢はかつてない勢いとなる。
しかし、このことは百貨店業界における課題を浮き彫りにすることにもなった。その残
された課題としてまず第1に考えられることは、収益力の向上である。収支の改善は、緊
急避難的な経費圧縮によるものが多い。攻めの投資を再開したなかで、収支構造をどのよ
うにコントロールできるかが、百貨店にとっての最大の課題といっても過言ではない。
次に、第2として考えられることは、MDや販売力の問題である。百貨店は仕入れ方式
を委託仕入れ*7 による取引先依存で強めるなかで、『顧客の顔を見失った』といわれる。
その理由でもある委託仕入れの問題点として、派遣店員が発注している商品でも、百貨店
に納品したものを自由に動かすことはできないのだ。また、小売価格についても取引先が
設定し、小売店が自分で決めることはできない。では、委託仕入れを採用している要因は
何か。店頭に納品されたものは、表面的には小売店の所有となるが、売れ残った商品につ
いては取引先に返品することができることから、委託仕入れを採用している。小売業の仕
事は、突き詰めれば買い(仕入れ)と売り(販売)である。しかし、百貨店は小売業にも
かかわらず、品揃えも販売形態も取引先に依存してきた。顧客が求める商品を仕入れ、満
足度の高い接客で販売するのが百貨店の基本である。そうした依存体質を見直し、自営の
力量を高めていかなければ、生活者の変化に対応することはできない。
*7
店頭に納品されたものは表面的に小売店の所有となるが、売れ残った商品については
取引先に返品することができる仕入方式。
以上、百貨店業界の現状と、残された課題について考察してきた。この項の結論として
いえることは、百貨店にとって、環境は厳しいものの、生活者の期待には依然として高い
ものがある。攻めの競合が激化するなかで、それぞれ百貨店の業務改革や体質改善の真価
が問われている。そのためにも取引先依存の体質を見直し、自営の力量を高め、生活者の
変化に対応した収益力の向上に努める必要があるということだ。
最後に、この項から読み取ることができた今後のアパレル業界を考察するのに必要なキ
ーワードは、
『収益力の向上』
、
『MDや販売力』
、
『生活者の期待』
、
『自営の力量』である。
9
○小売業研究③
期待されるインターネット通販業界
インターネットやマルチメディアの波は、繊維・ファッション業界にも押し寄せている。
ホームページ(HP)を開設する企業が増え、電子通販や仮想商店街の取り組みも始まっ
ている。そこで私は今後、カタログ通販以上に成長するであろうインターネット通販に注
目した。この項では、無店舗販売業界とりわけ、インターネット通販における現状と課題
を考察し、今後のアパレル業界を考察するのに必要なキーワードを抽出していく。
サーチエンジン『goo』のインターネット上での買い物調査によるとファッション関
連の購入者が22.2%いる。1000万人以上いるといわれているネットユーザーの5割
が買い物経験者。100万人以上の人がファッション関連商品を購入した計算になる。未
来型ショッピングが現実になってきたのだ。しかし、アクセスする人は多いのだが、実際
の購買にはあまり結びついていないのが現状である。gooの調査によると『店の信頼性』
、
『商品の探しやすさ』を9割の人が重視すると答えている。
また、インターネット通販に関する各種調査報告では、2000年暮れから2001
年2月にかけて実施された『インターネット利用者のインターネット通販利用実態調査』
と、国内のバーチャルショップの内容についての調査が報告された。インターネット通販
の利用実態調査報告のよると、『2000年の1年間でインターネット通販を利用したこ
とのある人』は回答者の過半数を超え、とくに女性の利用経験者が大幅に増えるなど、イ
ンターネット通販の利用が着実に広まっていることが報告された。しかし一方で、セキュ
リティ面に不安を感じる人が約6割いるのを始め、決済や商品内容にも不安を感じる人が
少なくないことも指摘された。一方の国内のバーチャルショップ調査報告では、インター
ネット通販の信用性がないといわれる裏付けとして、訪問販売法で表示が義務づけられて
いる第9項目(販売価格や送料、返品の可否、事業者の代表者名や住所など)を満たして
いるサイトが3割ほどしかないことが報告された。このように、さまざまな問題点がイン
ターネット通販に関する各種調査報告により、指摘される形となった。
以上の現状から、インターネット通販における今後の課題について考察していく。ま
ずその第1番目として、信頼性を生活者に持ってもらうことである。インターネット販売
する側は、商品の説明、価格、クレジット決済の安全性、宅配の方法など、買う側の立場
になって商品を説明することが必要である。
第2に、サイトをわかりやすい内容に工夫することである。日本だけでなく、世界的
に見てもファッションサイトでの購入が少ないのは、サイトを制作する人が技術者やグラ
フィック関係者ばかりで、ファッションの現場に直接携わっていないためだと考えられる。
実際のサイトの中身としては、グラフィックや英字ばかりが目につき、商品のカタログや
日本語での説明書きが全くなく、私自身、ファッションサイトに欲求不満をかかえている。
誰にとっても見やすいことが、通信販売の最重要ポイントと考えたときに、画像の中にも
テキストを入れたり、英字を乱用しないで日本語で書くべきではなかろうか。具体的な提
案として、現場で働く従業員たちの生の声をサイトに載せるなど、みていて楽しいものに
10
してもらいたいものだ。他にも、売れ筋商品やアイテム、旬のトータルコーディネイト、
従業員のライフスタイルなどを紹介するといった具合である。そういった工夫がアクセス
件数を増加させ、実際の購買に結びついていくと考える。
第3に、病気や障害を持つ人たちへのフォローをしっかりと整えることである。カタロ
グ通販の場合、その顧客として、病院に長期入院いている人が多いという話を聞いたこと
がある。健常者にとっては当たり前のことも、病気や障害を持つと外出することも大変で
あり、情報もあまり入らない。インターネット通販においてもそういった体の不自由な人
たちに向けての研究が行なわれている。実際にアメリカの大手ハードウエアメーカーは、
視覚、聴覚、手などの障害があっても使えるコンピュータを開発、販売している。つまり、
『誰にでも使える』ことがインターネット通販でのキーワードとなる。
第4に、集中化による競争原理を働きかけることである。インターネット通販も店舗販
売同様、優れた商品が集中し、競争原理が働けばもっと成功すると考えている。そのため
にも、各企業がより良いサイトを制作し、確実な顧客ニーズをつかむことが必要だと考え
られる。
第5に、郊外の小売店こそインターネット通販を積極的にやるべきだということである。
私自身の経験から、郊外や地方で買い物をしようとすると目的のものがなく、時間ばかり
かかってしまうことが多々ある。大手百貨店も郊外店になると有力ブランドがなかったり、
結局、都心に行くという経験をした人が私以外にも多いのではないだろうか。このような
状況を打破すべく、最近では都市機能の分散化が騒がれている。しかし、私には逆に都心
への集中化が加速しているように思える。つまり、ファッションに関しては、誰でも低価
格ではなく旬を買いたいがために都心へと集中するのだ。結果としていえることは、地方
や郊外の小売店こそインターネットによる顧客の意識調査をすべきである。そうすること
により、生活者が郊外店に何を求めているかという顧客ニーズが分かるはずだ。また、生
活者、読者の生の意見を聞くことは、次の商品開発をするうえでも役立つのである。
第6に、時間効率を考えたショッピングによる貨幣不携帯が可能になることである。イ
ンターネット通販の強みとしては、発信地は全国どこからでもよいことだ。もちろん家か
らでも発信できる。この利便性を味わってしまうと、時間効率を考えたショッピングにな
っていくと考えられる。ある通信販売の会社のデータによると、インターネット通販の顧
客の40%以上が首都圏在住の人だという。これはどういうことかというと、実際に店頭
に行き、下調べをして、家に帰ってじっくりと検討した結果、購入するケースが多いとい
う現状だ。このことにより、お金を持たなくてもよいショッピングが可能となる。それは
まさに、無貨幣経済への第1歩だといっても過言ではない。
以上、序文で触れたように、インターネットやマルチメディアの波は、繊維・ファッシ
ョン業界にも確実に押し寄せている。特に、インターネット通販は、飛躍的に伸びている
ことがデータからも読み取れたはずだ。カタログ誌の通販を追い越す時代が早い時期に来
るであろう。その来たるべき未来に向けて、今やるべきことは何かを確実に読み取らなけ
11
ればならない。そのためにもこれら6つの課題に真剣に取り組むことがさらなる発展へと
結びつけるために必要だといえる。
12
第3章
アパレル卸売業(アパレルメーカー)研究
○業態の変化が注目される日本のアパレルメーカー
現在、日本のアパレル卸の企業数(紳士服、婦人・子供服、下着の合計)は約1万50
00社あるといわれている。その業態にはさまざまなタイプがあり、その最も基本的な分
類は、扱い商品の違いによる業種別分類である。その業種としては、総合アパレルと専業
アパレルの2つのタイプがある。総合アパレルでは複数のアパレル商品を扱い、専業アパ
レルでは婦人服、紳士服、子供服、スポーツ、インナー、ユニフォームなどを専門的に扱
っている。機能別にみてみると、一般アパレル卸、アパレル製造卸、インポーター、セレ
クトショップ*8、アパレル製造小売業(SPA)に分類できる。しかし、現在のアパレル
企業の大半はアパレル製造卸とアパレル製造小売業であるという事実からこの2つに的を
絞って考察していく。また、アパレル製造小売業に関しては、この論文全体としての結論
であるため、ここではその概要について少し触れておくだけとする。そこでこの項では、
アパレル製造卸における課題について考察していく。早速、アパレル製造卸とアパレル製
造小売業の概要について述べてみたい。
*8
1つのブランドやアイテムにこだわらず、オーナー独自のセンスで選んだ商品を集め
たショップ。服や小物、雑貨などの旬の話題のもの、海外の人気ブランドのものをそろえ
た店が続々と誕生している。
アパレル製造卸とは、自らの商品企画に基づいて自己リスクで原材料を仕入れ、自家工
場なり協力工場に発注し、自己のブランドで販売するタイプの卸売業である。一般アパレ
ル卸と違い、自らが企画・製造するのが特徴である。商品企画と生産、販売機能を併せ持
つアパレル製造卸は俗にアパレルメーカーと呼ばれる。
こうした既存の分類と異なって、最近注目されているのがアパレル製造卸とアパレル製
造小売業という分け方である。前者はあくまで卸商業態だが、後者はアパレル製造卸とア
パレル小売業の両機能を併せ持った業態であり、そのため『製造小売業』と呼ばれている。
つまり、企画、生産、流通、小売りまで一貫して行う業態であり、当然、直営店での販売
が主体となる。
アパレル製造小売業の市場参入は、アパレル製造卸の構造問題を直撃する形となった。
その中でも特に、マーケティングに問題があるのではないかと考えられる。実際、アパレ
ル製造卸では委託販売と派遣販売員による実売管理によるマーケティングを行なってきた。
第2章の小売業界研究 でも述べたように委託仕入れとは、店頭に納品されたものは表面
的に小売店の所有となるが、売れ残った商品については取引先に返品することができる仕
入方式のことである。委託仕入れだとさまざまな点で百貨店との調節が必要になる。実態
としては派遣店員が発注している商品でも、百貨店に納品したものを自由に動かすことは
13
できないなどが挙げられる。そういった意味でも、アパレル製造卸は新たな課題に直面し
ているのだ。アパレル製造卸のマーケティングは、『売るしくみ』というレベルに止まら
ないで、消費生活者に対するライフスタイル提案へと向かう質的変化が求められている。
それが、今回の不況によって浮き彫りとされる形になった。今回の不況は前述したように、
日本のアパレル産業の構造問題を直撃しており、その改革の方向はアパレル業態だけでな
く、小売業態の変化にも結びついている。時間のかかるテーマだけに、戦略的な新ブラン
ドを次々と打ち出していく、
『ブランド総入れ替え』を行なっていく必要があると考える。
そういったマーケティング戦略を打ち出すためには、商品自体についても考えていく必要
がある。そこで次の項では、商品自体のライフサイクルとアパレルメーカーとの相互性に
ついて考察していく。
○ライフサイクルのつかみ方
図 3−1
14
出所:『マーケティング・マネージメント』P.コトラー著
第2章と第3章の前項までは、アパレル小売業界とアパレル卸売業、特にアパレルメー
カーの現状を把握し、問題も挙げられた。では、実際の商品についてはどうであろうか。
この項では、前項でも触れたように、商品ライフサイクルとアパレルメーカーとの相互性
について論じていく。商品ライフサイクルを通じ、メーカーにとって何が必要であるのか。
アパレル商品のライフサイクルについて、そのプロセスと、メーカーにとって必要とされ
るのは何かをここでは考察していく。
まずは、商品ライフサイクルの概要について述べていきたい。ファッション商品の場合、
そのライフサイクルは、市場への導入期、成長期、成熟期、衰退期の4段階に分類される。
この商品ライフサイクルのプロセスの概要としては、図3−1で示されているように、導
入期は徐々に進行するが、成長期には急速に伸長し、それ以後しだいに成長が鈍化して成
熟期を経過、最終的には下降し始め、衰退期に入る。このサイクルは、シーズン単位、ブ
ランド単位で予測し、マーケティング戦略展開のプロモーション活動と連動させなければ
ならない。
では、実際のプロセスの中身についてもう少し深く掘り下げていきたい。まず、商品が
市場に出まわり始める導入期では、商品を対象客層(消費者ターゲット)に十分に知って
もらい、店頭までみにきてもらうために、売上目標額に比べて高水準の販売促進費が投入
される。この導入期にはとにかく、店頭に足を運んでもらうためのプロモーションが必要
とされる。次に、成長期に入ると、競争相手も追従してくるため、広告による差別化を訴
求しなければならない。そして何よりも、次の成熟期を極力ロングランにするために、差
15
別化をはかったプロモーション活動などを店頭で催したりしている。商品的にピークを迎
える成熟期では、それまでの情報をもとに、新規デザインを投入したり、色、柄、サイズ
をフォローし、確実に売上金額、着数増加に努めていかなければならない。前途のように
シーズン的にもピークを迎え、客数も上がっていなければならない時期でもある。また、
この時期に、来年同シーズンに向けての商品案や、次シーズンの傾向をみせ筋としてた試
験的なディスプレイ*9 をして、そのテスト結果を情報として把握しておく必要がある。特
に最近のように、反応の早い生活者に対しては、積極的なテスト・マーケティングが必要
なのだ。最後に衰退期が訪れる。基本的に、衰退期に入ったとされるのは、商品の成長率
が完全にマイナスになったときである。前述のテスト・マーケティングは、この段階との
接点で行われるケースが多い。つまり、既存の商品と新しく提案していく商品の両方を店
頭にディスプレイすることにより、店頭をリフレッシュさせ、新たな顧客を獲得するため
に、『新商品』という言葉に弱い生活者の深層心理をついた戦略といえる。店頭を常にリ
フレッシュする原則からみてもテスト・マーケティングは必要なことである。
*9 陳列、展示
以上のことからこの項の結論として、商品ライフサイクルを通じ、メーカーにとって何
が必要であるのかについて考察していく。
この項で読み取れることは、アパレルメーカーにとって、商品を極力ロングランにする
ためのプロモーション活動や次シーズンの傾向を見せ筋とし、また、それと同時に店頭を
リフレッシュさせる効果があるテスト・マーケティングを積極的に行なうことが必要なこ
とだと考えられる。そのためにもアパレルメーカーは、週単位で店頭の動向(得意先別、
マーク別の消化着数、在庫量)を把握し、サイクルのどの段階かを正確に判断しなければ
ならないのである。つまり、アパレルメーカーは商品ライフサイクルを正確に把握しなけ
れば消費者ニーズに応えていけないといえる。そこで、なぜアパレル商品にもライフサイ
クルがあるのかと考えたときに、顧客の欲求がたえず変化し、既存の商品に対して飽きを
感じるからに他ならない。アパレルメーカーは常にそういった人々に対し、新しい商品を
提案して、差別化をはかっていく必要がある。新しいものが導入されれば古いものはいら
なくなる。そこで、在庫の問題に関してはどうであろうか。特に『成熟期』の後半から『衰
退期』にかけては、細かく指示していかなければならない。次の項では、そういった在庫
処分の問題を売れ残った商品はどこへ行くのかと題し、売れ残る原因と売れ残った商品の
行き先について考察していく。
○売れ残った商品はどこへ行くのかその分類
この項では前述のように、在庫処分の問題について、売れ残る原因と売れ残った商品の
行き先について考察していく。
売れ残る原因としてまず第1に、鮮度の低下が考えられる。衣服は、生鮮食料品と同様
に考えられている。参考文献(よくわかるアパレル業界
16
−日本実業出版社)の中では、
このことをファッション『魚屋論』と呼んでいる。しかし、新しいものだけがよいかとい
うと一方では、リーバイス・ジーンズの初期モデルが数十万円の価値がでる場合などがあ
る。ここでいう一般的なものは、着る側にとって今日的新鮮さを失っているもののみとす
る。
第2に、品揃えのバランス切れが考えられる。欲しいのは自分のサイズであり、好みの
色であるのは当然である。片寄ったサイズと色にフォローがきかなければ、残品は売り場
から引き揚げるしかないのだ。
第3に、タイミングのずれが考えられる。これは異常気象のおかげで、猛暑のシーズン
が冷夏であったらノースリーブは売れない。逆に暖冬のときは毛皮に手を出さないといっ
た具合である。
売れ残る原因については、以上の3点を考察することができた。結果としていえること
は、生活者は常に新しいものを求め、価値を認めなければ買わないのである。それと同時
に、メーカーは売れ残ることにより在庫の問題に悩まされることになる。では次に、その
売れ残った商品の行く先にはどのようなものがあるのか考察していく。
まず第1に、日本で売れなければ、海外へ輸出することが考えられる。色、柄、サイズ
の種類が比較的揃っているものの場合、夏物であれば、東南アジアの百貨店バイヤーと商
談が成立するケースが多い。この場合、結果としては商いにつながっているといえる。
第2に、国内での処分が考えられる。全国各地の有名ブランドのアウトレットストアが
話題を呼んだことは記憶にも新しい。そのアウトレットストアを集積した大型施設をアウ
トレットモールと呼び、ベイサイトマリーナの場合はまさにアウトレットモールそのもの
である。繊研新聞の99年のデータによると、アパレルメーカーの半数以上がすでに出店
しているとある。しかし、売れ残った商品といっても破格の値段で取り引きしているとい
ったら、メーカーの信用に関わる問題となってしまう。メーカーにすれば、名誉を維持し
たいことから、織ネームを切ったり、下げ札を取り替えたりと正式商品との差別化をはか
っている。
第3に、特別セールによる一斉処分が考えられる。その代表的なものとして、夏と冬の
年に2回ある大型小売店のバーゲンやお正月の福袋、創業記念セール、最近でも記憶に新
しいものとしてダイエーの優勝セールや東急百貨店日本橋店の閉店セールなどがある。
第4に、バッタ屋が買い取り、処分してしまうことが考えられる。1万円のものは大体
2000円ぐらいで、まさに商品価値を無視した価格で転売している。
以上、売れ残った商品の処分について、現時点で考えられる範囲だけ述べてみた。この
ようにして売りさばいてしまう理由は、処分品を少しでも多くの現金に換え、次の資産に
するためである。しかし一方では、メーカーの信用に関わる問題につながると指摘した。
そこで売れ残った商品の行く先の第5番目として考えられることは、焼却処分してしま
うことである。本当にブランドを大切にするアパレルメーカーは、最後は焼却処分すると
聞いた。しかし、残念ながらそのデータを取ることはできなかった。環境保護の意識が強
17
まる中で、焼却処分の事実を公表してしまうと、それこそメーカーの信用に関わるからで
あろうと考えている。
何が学べるか
第3章のまとめ
今回の不況により、消費者に対するライフスタイル提案へと質的変化が求められている。
顧客の欲求がたえず変化し、既存の商品に対して飽きを感じるからに他ならない。アパレ
ルメーカー自身が新しい商品を提案して差別化をはかる必要があるのだ。そのために、商
品ライフサイクルを正確に把握したプロモーション活動やテストマーケティングを積極的
に行ない、『ブランド総入れ替え』による、マーケティングを打ち出していかなければな
らない。そのためにも週単位での店頭動向を把握し、消費者ニーズをつかまなければ戦略
的なマーケティングを展開することは不可能である。
以上、第3章では、アパレル卸売業、特にアパレルメーカーの課題について考察し、解
決していくために必要なことは何かについて論じてきた。今後のアパレル業界を考察する
のに必要なキーワードも、『ライフスタイル提案』、『ブランド総入れ替え』、『商品ライフ
サイクル』、『マーケティング戦略における積極的なテスト・マーケティングとプロモーシ
ョン活動』、『対象客層』と5つ挙げることができた。これらの条件を考えた日本のアパレ
ルメーカーの将来が期待される。
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第4章
序説
アパレル業界研究
画一化の時代から差別化の時代へ
かつてのファッションは、ミニスカートに代表されるように、画一化された、他人と同
じ服装をするものであった。しかし、時代の流れとともにファッションは多様化し、他人
と同調するよりは差別化したいと思うようになった。さらに、生活者の価値観が量から質
へと転換した。すなわち、それまでは多く持つことに価値を見出していたものが、良いも
のを少し買う消費行動に変わったのだ。80年代に入ってからは、イタリア、フランス、
アメリカからのインポート品も増加した。そして90年代、感性の時代といわれる現在に
おいて、人々の衣服、服装に対する欲求は単に流行に追随したり、高価なブランド品に満
悦するのではない、自分なりの服装の確立を目指すものとなっている。アパレル業界は、
このように高度化した生活者欲求にかない、かつ同じ業界の企業との差別化をはかる必要
から、さまざまな展開に挑戦し、新製品を提供し続けている。
そこで第4章では、アパレル業界における現状を述べ、そのメリット、デメリットにつ
いて考察し、論じていく。また、論文全体の結論である今後のアパレル産業を考察するう
えで必要なキーワードをここでも抽出していく。
○アパレル業界研究①
活発化する総合アパレル
総合アパレルとは、婦人服、紳士服、子供服のすべての服種の商品企画、生産、販売を
手掛けるアパレル製造卸をいい、企業によっては洋品や肌着も展開している。その販路は
というと、一部企業を除き、百貨店、専門店、量販店などの主要小売りチャネルを網羅し
ている。大手総合アパレルの代表的な企業としては、レナウン、オンワード樫山、ワール
ド、ファイブフォックス、フランドルなどがある。この項では、総合アパレルのメリット、
デメリットを考察し、そうした状況に対し、今後のアパレル業界を考察するのに必要なキ
ーワードを抽出していく。
まずは、総合アパレルのメリット、デメリットについて考察していきたい。総合アパレ
ルのメリットとしてまず第1に考えられることは、1つの服種の市況が悪くても他の服種
で業績をカバーできるということである。しかし、1つの業績が悪くても他でカバーする
ことができるのは、それ相応の実力と実績がなければ成し得ない芸当といえる。
次に、第2として挙げられることは、婦人服と紳士服、子供服が相互に影響し合い、ト
ータルな企画を打ち出すことができるということである。婦人服と紳士服がトレンド*10
として相互に影響し合い、子供服も大人服の感性を取り入れたデザインや素材傾向を強め
る中で、すべての服種に関する情報を自社内で把握し、その情報に基づき、それぞれの服
種についてトータルに今日的な商品企画を打ち出すことができるというメリットを持って
19
いる。
*10 流行がある一定期間持続する場合の、その方向性や傾向。
総合アパレルのメリットとして、以上の2点を挙げることができた。一方のデメリット
についてはどうであろう。そのまず第1として考えられることは、服種とアイテムと売り
場の多さによる在庫増加の問題である。バブル経済崩壊後のデフレ的な経済下では服種と
アイテムと売り場の多さは、ともすれば在庫の増加に結びつきかねず、それぞれの商品企
画の的中率とプロパー価格*11 での店頭販売を高めることや、売り場も含めた経営の効率
化が一段と強く求められている。
*11 値引きなしの正値で販売する商品価格。固有の、専門の価格。
また第2として挙げられることは、百貨店の出店をめぐり、インポートブランドとの過
酷な競争をしていかなければならないことである。主戦場の百貨店を中心に、欧州や米国
の有力インポートブランドとの競争も激しく、ブランドの開発や洗練化の努力を怠れない
状況に立たされている。
こうした状況に対し、総合アパレル業界の中では、商品企画と効率化を連動させたSP
A(製造小売業)型ビジネスに乗り出す(乗り出している)企業や、ローコストオペレー
ションの一環として、中国などアジア地域で生産を拡大する(している)企業が多い。ま
た、アパレル業界研究の で述べる、日本市場だけでなく、海外市場でも販売する『国際
服』も登場している。さらに、総合力を生かした次世代づくりとして大手総合アパレルの
ワールドは、SPA(製造小売業)型の婦人アパレルに紳士服の新ブランド『ボイコット』
を97年に設立し、複合大型ショップによる展開を始めている。また、ブランドミックス
による165平方メートル(50坪)以上といった複合大型インショップの展開も活発化
している。
以上のように、大手総合アパレルメーカーではブランド開発や販売手段を大きく変える
動きが活発化している。そこでこの項の結論として、総合アパレル業界全体を通していえ
ることは、総合力を生かした次世代型の新ブランド開発や、メガストアと呼ばれる大型複
合ショップなど、新しい売り場づくりに挑戦しながら世界レベルでものをつくっていかな
ければならないと考える。その際に、デメリットである在庫の問題を打ち消すためにも、
商品企画の的中率とプロパー価格での店頭販売を高め、売り場も含めた経営の効率化をは
かることが求められていると考える。
最後に、この項から読み取ることができた今後のアパレル業界を考察するうえでキーワ
ードとなるのは、『SPA型ビジネス』、『ローコストオペレーション』、『大型ショップ』
である。
次の項では、アパレル業界研究 と題し、流行変化の最も激しい婦人アパレルについて
論じていく。
○アパレル業界研究②
流行変化の激しいレディース
20
婦人アパレルは今まさに、グローバル時代に対応し、海外デザイナーや企画機能を使っ
た新しい手法による次世代型新ブランドの開発を通じ、既存ブランドとの『総入れ替え期』
に入っている。前項で述べた、もともと婦人アパレルであったワールドが、紳士服の新ブ
ランド『ボイコット』 を設立したのもその一例だといえる。
この項では、婦人アパレルのメリット、デメリットを考察し、そうした状況に対し、今
後のアパレル業界を考察するのに必要なキーワードを抽出していく。まずはその概要につ
いて述べていく。
婦人アパレルとは、婦人服の商品企画、生産、販売を手掛けるアパレルメーカーのこと
を意味しており、狭くは婦人服専業、広くは総合アパレルの婦人服事業も含めて婦人アパ
レルと呼ぶ。その販路も各企業により、百貨店主力、専門店主力、量販店主力などの違い
がある。主販路が百貨店のため、総合アパレルの婦人服事業と合わせて、大手婦人アパレ
ルと呼ばれている。婦人服専業の代表的な企業としては、東京スタイルなどがある。また、
大手婦人アパレルの代表的な企業としてはワールド、レナウン、オンワード樫山などがあ
る。婦人服市場は、百貨店とともに伝統的に専門店市場のシェアも高く、専門店を主販路
とする中堅、中小婦人アパレルは企業数が圧倒的に多い。何よりも婦人服はアパレルの中
で流行の変化が最も激しい分野として、ここ数年で服のテイスト*12 ががらりと変わって
いる。特に最近のフレンチカジュアルブームを境に、従来のタイプであるエレガント服は、
その時代を終え、デザインと素材を生かした軽くてシンプルな縫製仕様の服が台頭し、着
回しファッションが主流となった。
*12 センス、風味
また最近では、タレントや歌手、ショップ店員などを中心とした若い世代がファッショ
ンリーダーとなっている。97年の夏、東京・渋谷の109を震源地に『セクシーカジュ
アル*13』がブレイクし、98年のストリートの主役を務めた。
*13 茶髪のストレートヘアで、黒く肌を焼いた若い女性が着る露出度の高いファッション
を総称していう。もとはリゾートファッションやサーファースタイルから発想したものを
いったが、クラブシーンをイメージさせるものも加わり、ストリートスタイルとして確立
した。
以上の現状から次にメリット、デメリットについて考察していく。まずメリットとして、
以下の2点が考えられる。アパレル産業の中で最大のマーケットを持っていること、流行
の火がつきやすいことである。つまり、セクシーカジュアルなど流行商品に一度火がつく
と、それが爆発的な売上に繋がるということである。
一方の婦人アパレルのデメリットとして考えられることは、流行の変化が最も激しいこ
とから、その変化をいち早くキャッチしなければ生き残れないことである。もし、流行の
変化を間違った方向に読み取ってしまったら、それが在庫として残ってしまうというわけ
だ。
以上のことからこの項の結論としていえることは、グローバル化の波が押し寄せる中で、
21
流行を素早く、そして敏感にキャッチし、女性が満足する商品つまりは売れるブランドを
つくることが求められていると考えられる。既存ブランドとの『総入れ替え期』に入って
いる今だからこそ、新たな成功の可能性が広がっているのだ。
最後に、この項から読み取ることができた今後のアパレル業界を考察するうえでキーワ
ードとなるのは、
『流行の変化』
、
『着回しファッション』
、
『フレンチカジュアル』である。
では、一方の紳士アパレルに関してはどうであろう。そこで次の項では、アパレル業界
研究と題し、活性化されつつあるメンズについて論じていく。
○アパレル業界研究③
ピンポイントニーズのメンズ
従来のメンズ業界は、アイテム、デザインともに少なく、流行の変化があまりない業界
であった。そのため業界としてもあまり注目されていなかった。しかし、ここ数年のカジ
ュアルブームをきっかけに、レディースを超す勢いをみせている。昔のように、ただ値段
が安ければ買うというケースがなくなった。消費者は、価値を認めない限り、ものを買わ
なくなったのである。この項では、スーツブームからカジュアルブームへ、時代の移り変
わりにおけるライフスタイルの変化から、かつてのスーツブームにおける問題点、今後の
アパレル業界を考察するのに必要なキーワードを抽出していく。
まずはその概要でもあるスーツブームについて述べてみたい。かつて、メンズ業界にお
いて最も印象的なのが、メンズスーツだった。『激安スーツ』といって、置けば飛ぶよう
に売れた商品だったが、今は見る影もない。年間の生産数量をみても92年をピークに減
り続けた。その要因でもある問題点として、市場の悪化に加え、インポート商品が急増し
たことを理由に、消費者にとっては同じような商品ばかりで魅力がないのである。つまり、
インポート商品と激安スーツを比較したときに、デザインや機能性を重視しているインポ
ート商品に対して激安スーツは、余りにもつまらないと感じたためだと考えられる。売れ
るものが集中し、類似品は売れない時代になっていったのだ。これを変えるきっかけにな
ったのが、服装のカジュアル化である。スーツ一辺倒で、仕事一筋であった男のライフス
タイルが大きく変わったのだ。
いずれにせよカジュアルブームの到来により、メンズマーケットが活性化された。その
中でもとりわけヤングマーケットの拡大で、私が注目したいライフスタイルはスポーツテ
イストだ。ストリートファッション、インポートカジュアルにしろ、スポーツテイスト人
気は衰えるどころかますます拍車がかかる。ファッション雑誌がこれでもか、とばかりに
新しいスポーツファッションをとりあげるのもその要因のひとつだ。特にスマート、ブー
ンという2つのライバル誌が、バイブル的な存在である。しかし、ライフスタイルがスポ
ーツ一辺倒になるのかというと、どうやらそうでもないようだ。私の場合、メンズノンノ、
チェックメイトという2つの雑誌を毎月愛読している。その中でも最近また、スーツスタ
イルのヴィジュアル系特集を組んでいることに気がついた。雑誌が行なっているブランド
アンケート結果でも、男性の場合、ポールスミス、グッチ、タケオ・キクチなどが、上位
22
に顔を出している。時代の変化は繰り返すのだと感心した。しかし、同じスーツでも、カ
ジュアルに着崩すスタイルを消費者は構築するようになったのだ。
以上のことから考察して、メンズファッションがスーツ、スポーツのどちらか一辺倒に
ならず、自由で個性的なスタイルや状況にあったスタイルに変化すると考えられる。その
ため、自己主張をするベストなスタイルを自分自身でみつけ出すことが重要となる。つま
り、今後のメンズ業界の展開としては、それらの人々に対し、ピンポイントのニーズをし
ていかなければならない。そのためにも、今メンズアパレルに問われていることは、生活
者、特に感性豊かな若い世代の購買意欲をわきたたせる新鮮な商品開発といえる。
最後に、この項から読み取ることができた今後のアパレル業界を考察するうえでキーワ
ードとなるのは、『ライフスタイルの変化』、『魅力ある商品』、『カジュアル化』、『時代の
変化は繰り返す』である。
そこで次の項では、アパレル業界研究 と題し、インポート業界の問題点について考察
し、それに対する見解を論じていく。また、次の項のインポート業界は、この論文全体の
結論である『スーパーストアへの脱皮こそがアパレル産業の究極の姿』を考察するうえで
私が最も注目している業界として、結論のモデルになっている。
○アパレル業界研究④
話題のインポート業界と国際服
この項では、インポート業界の現状から、日本のアパレル業界における問題点、今後の
アパレル業界を考察するのに必要なキーワードを抽出していく。それにはまず、インポー
トとは何かについて述べる必要がある。
一般的に、『輸入、輸入品』の意味として使われているが、ファッションの世界では十
数年前から、欧米ブランド商品に限定して“インポートブランド”と呼ぶ習慣が定着してい
る。
では、そのブームの概要について述べてみたい。現在までに、インポートの波は大きく
分けて2波押し寄せていると考えられる。その第1波として、欧米の高級インポートブラ
ンドブーム。第2波として、欧米、アジアのSPA(製造小売業)や、小売業態丸ごと進出
してくるといったブームの波である。それはまさにアパレル業界における黒船来襲といえ
る。インポートの波の具体的な内容として、第1波により、『シャネル』、『ルイ・ヴィト
ン』、『アルマーニ』などビッグブランドは不動の地位を固め、『グッチ』、『プラダ』、『フ
ェラガモ』などのバッグ、靴のブランドはアパレル商品でもヒットを飛ばして若い客層を
つかんだ。
今現在、その勢力の強い波である第2波として、米国の『GAP』、『L.L.ビーン』
などのSPA型ブランド群が挙げられる。辻村金五イトキン会長も、第2波の影響のほう
が大きいとして、「黒船どころか、第2次世界大戦の連合艦隊のように強力だ」と指摘し
ている。これら大型ショップの大量出店は、今後より一層、日本市場に深く浸透しつつあ
る。
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では、そもそもインポートブランドブームが起きたのはなぜか。そのもとになる部分に
ついて考察してみたい。1994年に、アパレル業界から『黒船襲来』発言が飛び出して
話題を呼んだ。世界中の有力なアパレル企業が日本に殺到してきたのだ。外国の企業にと
って日本という市場は、世界で最も購買力が豊かな市場であり、ファッション商品に世界
で1番お金を使う市場であると考えているからだ。日本のアパレル業界はこれに対抗して、
真剣にグローバル化をはからなければ生き残れない状況に追い込まれている。つまり、激
烈する日本市場で勝ち残ることが世界に通用する条件として捉えることができる。
だが一方で、このこととはまったく逆の見解もある。それは、いまや日本も海外に進出
しなければ生き残れないという見解だ。大手アパレル各社は世界販売を視野に入れたブラ
ンド開発を進めるため、世界同時販売とする『国際服』を登場させた。世界中の有力なア
パレル企業が日本に殺到してきている一方で、アパレル各社の国際服開発が活発なものに
なっているのもまた、事実である。これらの事実を比較、検討するためにも、日本発の『国
際服』を生み出した要因と世界に通用するための条件について、以下考察していく。その
ためにもまず国際服とは何かについて述べなければならない。
大手アパレルメーカーのオンワード樫山は、95年秋冬物から発売した『ICB』(イ
ンターナショナル・コンセプト・ブランド)を、世界同時販売とする『国際服』として登場
させた。日本のアパレルメーカーの製品を衣服の先進国である欧米市場で販売することは、
業界としての長年の『悲願』であった。ICB発売以降、大手アパレル各社は一斉に世界
販売を視野に入れたブランド開発を進めるようになり、一挙に国際服が話題となった。
じつは過去にも日本国内の急速なファッション消費に支えられて成長したアパレルメー
カーが一致団結して世界に売ろうと試みた。しかし、その後の日本市場の消費過熱化とと
もに国内販売に力を入れる企業が増えたことで結果的に海外市場に力を入れなくなってい
った。日本市場の消費過熱化が安定しだした現在、再び世界販売に乗り出すきっかけとな
ったのがICBというわけだ。オンワード樫山のインタビューの記事で馬場彰会長は「オ
ンワードグループが世界各国に張ってきたネットワークがあったからこそ、ICBの世界
販売を現実のものとすることができた」と語っている。
ではなぜ、国際服を生み出したのか、その要因について以下考察していく。まず国際服
を生み出した理由は3つあると考えられる。国際服を生み出した理由1としては先ほども
述べたとおり、日本のアパレルメーカーの製品を衣服の先進国である欧米市場で販売する
ことは、業界としての長年の『悲願』であったことが挙げられる。いわゆる国際服を生み
出し、それを成功させることは業界としての悲願達成でもあったと考えられる。
国際服を生み出した理由2として、日本市場の競合激化があったことからである。世界
の有名ブランドが、一斉に日本市場で激突する時代になり、国産のアパレルには製品の国
際競争力が問われるようになった。そのような中で、国産のアパレルは世界の強豪との戦
いに勝たなければならない状況に追いやられた。否応なく戦略的な国際服を生み出す必要
に迫られたことから国際服を生みださざるえなくなったと考えられる。
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国際服を生み出した理由3として、国の際がなくなっている時代だからこそ、日本のア
パレルも世界販売に踏み込むことができるようになったと考えられる。日本の生み出す国
際服といっても組み立てはさまざまな国が行なっている。素材はヨーロッパから調達し、
デザイン、企画は欧米のデザイナーが手掛け、実際の生産は香港、中国を中心とした東南
アジアで行なっている。いまや国際服を実現する条件は国際分業体制が前提となっている
のだ。
以上、『激烈する日本市場で勝ち残ることが世界に通用する条件』という見解と、『いま
や日本も海外に進出しなければ生き残れない』という見解の2つについて考察してきた。
確かにアパレル業界のさまざまな書籍を読んでみると、いまや日本も海外に進出しなけれ
ば生き残れない時代となったと述べているものが多い。しかし私個人としては、日本市場
において、日本市場には世界中から有力ブランドが進出してきている事実の方に注目して
いる。つまり、日本のアパレル企業にとって、激烈する日本市場で勝ち残ることが世界に
通用する条件であり、逆に、日本でのビジネスに成功しなければ世界的ビジネスへの発展
はおぼつかないという見解だ。以上のことから、私は世界に出て行くのに焦る必要はない
と考えている。そのことを裏付けるものとして、実際に世界販売に乗り出しているところ
はまだ少ないのが現状である。しかし、日本という狭いビジョンだけで生き残っていけば
いいのかということでは決してない。私が本当にいいたいことは、むしろこの日本市場を
第1のステップとして海外に進出してほしいということだ。その土台づくり(ネットワー
ク)をしっかりしなければならないということだ。そのための成功の条件として、世界に
売るという掛け声だけでなく、実際に売る仕組みを持つことが大切である。
最後に、この項から読み取ることができた今後のアパレル業界を考察するうえでキーワ
ードとなるのは、『ネットワーク』、『グローバル化』、『日本市場の競合激化』、『国の際が
なくなっている時代』である。
25
第5章
序説
アパレル産業の今後
〜スーパーストアへの脱却〜
SPAの今日的提起
SPAとは、
『Specialty store retailer of Private label Apparel』の略で、米国ギャップ
社のドナルド・フィッシャー会長が同社の新事業体制について宣言した造語である。直訳
すると、『自社オリジナル企画ブランドによるアパレル製造直売専門店』という意味だ。
また、SPAと称される事業には2つのパターンがあり、専門店の小売業がオリジナル商
品を開発して進化したケースと、メーカー(企画製造卸業や工場)が消費者に直販して進化
したケースがある。つまり、狙う事業形態は異なるが、いずれにせよSPA事業において
欠かせない本質的なポイントとしては以下の4つが挙げられる。顧客への直接販売、店舗
やメディアの直接運営、情報システムの統括、商品企画とサプライのリーダーシップのこ
の4点だけは外せない。
以上のことからSPA、SPA化、SPA事業について私なりに提起した。まずSPA
とは、『消費(顧客)とサプライを最効率に結び、顧客の求める価値を最適に実現する事業シ
ステム』のことであり、SPA化とは、『顧客の求める価値を実現すべく、顧客をダイレ
クトにつかんで調達と提供のプロセスを革新していくこと』、SPA事業とは、『すべての
業務プロセスを一貫してロスとコストを極小化し、チャンスの極大化をはかる』こととい
える。
SPAは“ストア”を売るエンターテイメントビジネスとして、スーパストアへの脱皮こ
そがこの論文全体の結論であり、SPAのゴールでもあると考えている。
○SPAは21世紀型アパレル産業
SPA(製造小売業)が世界のファッションビジネスを変える勢いをみせている。すで
に日本市場に進出しているSPA企業は主に百貨店インショップ*14 として、一種のブラ
ンドビジネスを展開している。しかし、97年以降からその基調が大きく崩れた。百貨店
には新増設ブームでまだ多少のスペースが残されているがほぼ限界に達している。現在展
開されているものとしては、専門店や量販店など一定のパートナーシップを結びつつ、日
本市場での展開をはかる動きがみられている。丸井とジグソーを例に挙げると、ジグソー
は丸井の単なるインショップではなく、大手小売業との合併、あるいは、共同事業として
のシステム面も取り込んだブランド、店舗事業を本格的に目指そうとしている。その背景
として前述のように、企画・生産と販売とが個別に存在し、成長発展できる余地が少なく
なったことで、消費者ニーズあるいは生活様式を同時に挟んで双方がせめぎ合い、溶け込
んでいく。
26
*14 大型小売店内の仮説型ショップ。
以上のことから、近い将来のアパレル産業構造は、専門家集団(デザイナー、コンセプ
ター、企画集団、生産メーカーなど)と小売業が生活者のライフスタイルを中心とした同
心円的な産業構造に転換していくと考えられる。SPA化はその第1ステップに過ぎない
のだ。
そこで、SPA化によるメリットとは何かという疑問が私の中で浮上した。前述のよう
にSPAと称される事業には2つのパターンがあり、専門店の小売業がオリジナル商品を
開発して進化したケースと、メーカーが消費者に直販して進化したケースがあると提起し
た。
そこで次の項では、それぞれがSPA化するメリットを考察していく。
○リテイラーおよびメーカーからSPA化するメリット
リテイラーには、専門店、百貨店、バーチャル・モールなどが含まれる。まずは、リテ
イラーからのSPA化する場合のメリットについて述べ、SPA化する目的を考察してい
く。
その大きなメリットとして第1に、各メーカーの得意アイテムを企画段階でコーディネ
イトできること、第2に、メーカーの企画開発機能をフル活用できることが挙げられる。
つまりこれら2点から考察すると、企画、生産、販売、三位一体でロスとコストとリード
タイム*15 の極小化、チャンスの極大化を追求するとともに、顧客の真のニーズを検証し
て価値を実現できるのだ。またこれらのメリットから、SPA化の目的について読み取る
ことができる。オリジナリティの追求と社内スタッフによるオリジナル開発を進めること
である。つまり、差別化商品の確保がリテイラーからSPA化する目的なのだと考える。
*15 企画されてから製品化されるまでの時間。製品を発注してから配達されるまでの時間。
一方のメーカーからのSPA化する場合はどうであろう。メーカーとは、企画製造卸業
のことである。そこで次に、メーカーからのSPA化する場合のメリットについて述べ、
SPA化する目的を考察していく。
その大きなメリットとして、全事業プロセスを自ら運営する必要なく小売業者や企画製
造卸業者とのコラボレーション*16 によってSPA化を進めて良いことが挙げられる。つ
まりこのことから考察できることは、エンドユーザーを直接掌握できることにより、顧客
の真のニーズを検証してメーカーオリジナルの企画と商品技術が生かせるのだ。
*16 協業
またこのメリットから、SPA化の目的についても読み取ることができる。エンドユー
ザーを直接掌握する、流通コスト大幅圧縮する、仮需要リスク*17 を極小化してQRサプ
ライを可能にする、オリジナルな企画と商品技術を活用する、キャッシュフロー*18 を速
くすることなどが考えられる。
*17 価格上昇や物資不足を予想して在庫増大や投機を行うために生じる需要が予測できな
い危険性。
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*18 お金の流れ。
○スーパーストアへの脱皮
図5−1
出所:商業界『SPAの成功戦略』小島健輔 著
スーパーストアへの脱皮こそ、SPAにとっての究極の姿である。私が序章で仮説した
この論文全体の結論である。その裏付けをすべくこの項では、スーパーストアのメリット
から進化の条件を考察し、今後のさらなる発展のため、デメリットについても考察してい
く。
まずはスーパーストアのメリットは、以下の3点が挙げられる。その第1として、コン
セプトを強烈に訴求するスケール・パワー。第2に、運営コストの低さがもたらす抜群の
収益性。第3に、人と商品を育てるインキュベート*19・パワーがあることだ。このことに
ついてもう少し深く掘り下げていく。第1番目のコンセプトを強烈に訴求するスケール・
パワーについて、VMD*20 を中核としたストア・エンバイロメント*21 により商品ライン
の拡充によるコンセプトを強烈に訴求できるのだ。つまりスーパーストアは、『ストアを
売る』のに最適な仕掛けであると考えられる。
*19 培養
*20 視覚的な商品化行為、演出行為。
*21 店舗環境の総体から受けるイメージ。
第2の運営コストの低さがもたらす抜群の収益性について、スーパーストアでは曜日と
時間帯に合わせて最適な人員配置が可能である。つまりこれはどういうことかというと、
ピーク時の機会損失が少なく、図5−1をみても分かる通り、1人当たりの保守面積も格
段に大きくできるので、売上対比の人件費率を低く抑えることができるのだ。
第3の人と商品を育てるインキュベート・パワーについて、小型店の場合では勤務のロ
ーテーションだけで精一杯で、新人を計画的に指導し、育てていく余裕はあまりないが、
スーパーストアなら、店舗スタッフの多さからそれが十分に可能である。また、新人の指
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導は販売力、チームワークの形成に役立つだけではなく、十分な指導により顧客の支持と
なって、商品のラインナップ*22 も広がっていくのだ。
*22 陳容、顔ぶれ
以上のことから、スーパーストアへの進化条件は極めてシンプルであると考えられる。
まず第1に、オリジナルのコンセプトが多くの人々の共感を得るシンプルで明確なもので
あることだ。その典型的な例としてコムサ・イズムやギャップ、無印良品などが挙げられ
る。コムサ・イズムのコンセプトは、『家族の絆』であり、家族の形成期にあるニューファ
ミリーの共感を広範に得ている。またギャップのコンセプトも『シンプル、クリーン、ア
メリカン』と明快で、アメリカン・ライフスタイルに共鳴する都市の広範な人々の支持を
得ている。
第2に、コンセプトが拡張性を持っていることだ。コンセプトがシンプルで明確である
がゆえに品揃えとVMD、接客によるオペレーションがストア・エンバイロメントをつく
り出し、それが顧客の支持となって商品のラインナップを広げていくのである。
つまり結論としていえることは、シンプルで明快なコンセプトを徹底するからこそ、顧
客の支持と商品ラインが広がっていく。オリジナルのコンセプトにパワフルな拡張性があ
るか否かが極めて重要なのだ。そこで、実際のスーパーストアの開発手法として必要なも
のは何かと考えたときに、商品ラインの拡張と調達の効率化、ストア・エンバイロメント
の構造が必要だといえる。
以上から、メリットは把握し、進化するための条件についても考察できた。では、一方
のデメリットはどうであろう。その最も大きなものとして、在庫問題がある。図5−1を
みてもわかる通り、店舗の面積を広くすればそれだけ在庫が増えることになる。鮮度が命
のこの業界で、新鮮さを失った商品をいつまでもディスプレイしておけないのだ。これと
関連して、デメリットの第2番目としての管理費の問題についても真剣に取り組んでいか
なければならない。
そこで最後の項では、この論文全体のまとめとして、これまでの問題点を打ち消すため
の究極のスーパーストア像を考察していく。
○何が学べるか
論文全体としてのまとめ
世界の有名ブランドが、一斉に日本市場で激突する時代になり、国産のアパレルには製
品の国際競争力が問われるようになった。外国の企業にとって日本という市場は、世界で
最も購買力が豊かな市場であり、ファッション商品に世界で1番お金を使う市場であると
考えているからだ。日本のアパレル業界はこれに対抗して真剣にグローバル化をはからな
ければ生き残れない状況に追い込まれている。売れるものが集中し、類似品は売れなくな
ったのだ。
このような日本に進出してくる世界のインポートブランドに対抗すべく、日本のアパレ
ル産業は生活者のライフスタイルの変化をつかみ、生活者に対してピンポイントのニーズ
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をしていかなければならない。そのためにも生活者、特に感性豊かな若い世代の購買意欲
をわきたたせる新鮮な商品開発を打ち出していかなければならないのだ。つまりマーケテ
ィングに関しては、『売るしくみ』というレベルに止まらないで、消費生活者に対するラ
イフスタイル提案へと向かう質的変化が求められている。商品ライフサイクルを正確に把
握したプロモーション活動やテストマーケティングを積極的に行ない、新ブランドを次々
と打ち出していく『ブランド総入れ替え』による戦略的マーケティングをしていかなけれ
ばならない。自営の力量を高め、生活者の変化に対応した収益力の向上に努める必要があ
るということだ。
そのためにはコンセプトを強烈に訴求する仕掛けが必要である。つまりコンセプトに拡
張性がある意味でもスーパーストアは、『ストアを売る』のに最適な仕掛けであると考え
られる。品揃えもストア・エンバイロメントも圧倒的なスケールで顧客に迫り、コンセプ
トを強烈に訴求することができる。集客力、販売力も強力であるから有利な条件で出店が
進められ、何より店舗運営コストの低さで抜群の収益力が期待できる。その出店場所に関
して、都心型専門店にするのが最もよいと考える。新鮮なファッションの提案力が指示さ
れ、コンセプトを強烈に訴求することができるからだ。つまり、スーパーストアへの脱皮
こそがアパレル業界にとっての今後の展開といえる。
しかし一方では、デメリットとして在庫の問題がある。どうやらスーパーストアへの脱
皮だけでは究極の姿だとはいえないようだ。その在庫問題を打ち消すためにも、アウトレ
ットの開設とインターネットによる戦略的マーケティングを展開すべきだと考える。SP
A業態をとるアパレルは、自社の判断で容易に在庫品の処分をすることができ、直接処分
をするための小売展開のノウハウも持っている。そのため、アウトレットを商品処分チャ
ネルとして位置づける。しかし、メーカーにとっては決して面白い話ではない。不況で商
品が余っているからアウトレット、アウトレットが良さそうだからアウトレット・モール
という発想ではなく、プロパー商品の適切な処分のチャネルとしてアウトレットが位置づ
けられるようにすべきだと考える。また、インターネットでは公式のWebサイトをつく
り、トータルコーディネイトできる商品カタログやスタッフのライフスタイル、次回の商
品コンセプトなどを載せて、顧客の購買意欲をわきたたせるのだ。その際に、『誰にでも
使える』をキーワードにサイトをわかりやすい内容に工夫し、通販の場合は、買う側の立
場になって商品を説明することが必要である。戦略的マーケティングを展開するうえで最
も必要と考えていることは、インターネットによる顧客の意識調査を行なうことである。
これにより生活者が店舗に何を求めているかという顧客ニーズがつかめ、在庫を最小限に
抑えられるはずだ。このような攻めの情報による質の向上を目指した商品の提供と、店頭
の情報を的確に商品へとフィードバックできることこそが、今後発展していくのに必要不
可欠なことであるのだ。
以上のことから結論としていえることは、戦略的マーケティングによるアウトレットと
インターネットを活用したSPA型スーパーストアこそが、今後のアパレル業界における
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究極の姿だといえる。
参考文献
☆ファッション界就職読本別冊
☆ファッションと生活
☆SPA の成功戦略
西山京子
酒井豊子
小島健輔
☆よくわかるアパレル業界
☆アパレル産業未来戦略
株式会社アパレルルーム
藤原康晴
放送大学教育振興会
株式会社商業界
中村洋一郎
椎塚武
日本実業出版社
エール出版社
☆週刊東洋経済 01/11/3 特大号「ユニクロ神話は崩壊したのか?」東洋経済新報社
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