デート DV ~お互いを尊重する関係を考える~

平成 26 年度女性に対する暴力防止講演会 in 鹿島市
特別講演要旨
講師:西山さつき氏(NPO 法人レジリエンス副代表)
デート DV
~お互いを尊重する関係を考える~
●DV(ドメスティック・バイオレンス)
、デート DV とは
DV とは、夫婦間や恋人間など親密な関係の二人の間における暴力のことです。また、夫
婦間だけではなく、結婚していない若い恋人の間でも暴力は起こります。これをデート DV
と呼びます。若い人たちにもっと関心を持ってほしいということから、デート DV という
言葉がつくられました。
●デート DV 被害の実態と予防教育について
アウェアという団体の調査結果(2007 年)では、交際経験のある女子高校生、女子大生
の 5 人に 1 人が被害にあっているという数字が出ています。5 人に 1 人が被害者というこ
とは、友達が被害にあっているかもしれないということです。デート DV の被害を誰に相
談するかという問いで、一番多い答えは、親でも先生でもなく友人です。まず、友人に相談
するのです。その友人がデート DV を知らないと、間違った対応をしてしまい、相談した
友人を危険な目に遭わせてしまうかもしれません。もし、友人がデート DV について正し
い認識を持っていて、
「それはデート DV だよ」
「ちゃんとした機関に一緒に相談しようよ」
と導いてくれれば、被害にあっている友人を助けることができるかもしれません。デート
DV の相談を一番に受けるという役割は若い人にしかできません。だからそこ、若い人に、
デート DV を知って、対応できる力を養ってほしいのです。
若い人にデート DV を知ってもらうため、市区町村でデート DV のイベントを企画する
こともあります。かわいらしいチラシなどを作成して、若い人に PR する工夫をしています
が、イベントに足を運んでくれるのは、主に先生や保護者などです。もっと、若い人に聞い
てもらう機会を増やそうと、学校で、デート DV について知ってもらう時間(デート DV 予
防教育)を取り入れてもらうようにもしています。
●DV、デート DV のしくみ
DV(ドメスティック・バイオレンス)と聞くと、真っ先に「暴力」を想像されるのでは
ないでしょうか。しかし、
「暴力」は DV もしくはデート DV の関係の中では一つの要素に
過ぎません。DV は「権力(力)に差がある関係性」
、
「一方がもう一方を支配する関係性」
、
そして「暴力」の三つの要素によって成り立っています。暴力は、手っ取り早く相手をコン
トロールすることができる、不健全で間違った力です。
そしてその暴力には、
「身体的暴力」、
「性暴力」
、
「経済的暴力」
、「精神的暴力」、
「デジタ
ル暴力」の 5 つの種類があると考えています。
「身体的暴力」には、殴る蹴るなどの直接的
な暴力のほかに、アルコールや薬物を強要する、長時間説教して眠らせないなどの間接的な
暴力もあります。
「性暴力」では、加害者が見知らぬ人であるという印象が強いかもしれま
せん。しかし、交際相手が避妊に協力しない場合や、本当の意味で同意をしていない性行為
は性暴力に含まれます。性暴力は、被害者の生きる意力を蝕んでいくような破壊力を持ちま
す。デート DV にも「経済的暴力」はあります。いつも奢らされる、貸したお金を返してく
れない、性産業での就労を強要し給料を搾取するなどの問題が、意外と身近で起こっていま
す。
「精神的暴力」としては、見下した態度、無視をする、別れたら自殺をすると脅すこと
などがあります。
「デジタル暴力」には、ネットを使って居場所を管理されたり、アカウン
トを乗っ取られたり、リベンジポルノをされるということがあります。
暴力が起きると、そのあと、暴力をふるった方は優しくなります。しかし、その期間は長
くは続きません。徐々に二人の間の緊張感が高まっていき、再度暴力が起きてしまうのです。
このサイクルを何度も繰り返すのが DV の特徴です。期間限定の優しさが暴力の直後にの
みあらわれ、相手をコントロールしていくのです。暴力と優しさが交互に起きるなかで、
「別
れられない」
「ここでなんとか上手くやらなくてはならない」という特殊な心理状態トラウ
マティックボンディングが発生します。特に、デート DV は結婚していない二人の間の問
題であるため、周囲は別れればいいのにと簡単に思いがちです。緊張と優しさを繰り返すこ
とは、戦場での捕虜への洗脳と同じ手法です。だからこそ、専門機関の相談につながること
が大切なのです。
●デート DV の問題点とその対応
デート DV の問題点としては、保護命令など、DV 防止法が適用されなかったり(未婚で
も、同居の事実が確認できれば適用される場合がある)
、周囲から問題を軽視されることな
どがあります。発達段階にある脳は、いい影響も悪い影響も受けやすくなっています。特に、
性虐待などの重大な被害を受けた場合、大人よりもダメージが大きく、解離症状を生じ易く
なると言われています。進路の選択にも影響を与えることがあるため、人生を大きく左右す
ることにもつながります。
デート DV への対応では、まず、被害者に「あなたは悪くない」と伝え、相談機関を案内
します。そして、安全プランとして、本当に危ない時は 110 番すること、携帯電話を取り
上げられる可能性を考え必要な番号はメモを取っておくことなどなどの対処法を考えるよ
うに伝えます。安全プランを考えることは、本当に危ない時の対処法を考えておくことと、
自分自身のことを考える時間を少しずつ増やしてもらうという意味もあります。加害者を
批判したり、
「別れなさい」というだけの提示では、相談してくれた被害者が離れていくこ
ともあります。加害者と別れるまでにたくさんの時間を要したり、別れたり復縁したりを繰
り返すこともありますが、被害者に寄り添い続けることが大切です。
そして、交際が終わって目の前の暴力がなくなったとしても、心の傷であるトラウマが残
ることがあります。トラウマが残ってしまうと、自尊感情の低下や身体的症状を招きます。
だからこそ、心の傷の手当ては、とても大切なのです。過去は変わらなくても、過去の捉え
なおしはできます。捉えなおしをすることで、現在への影響が変わってきます。
加害者には、暴力が駄目だというだけではなく、健全なコミュニケーションについて伝え
ていけたらと思います。
●社会の中の暴力と恋愛幻想
時に、夫婦間や学校の体罰など、狭い関係性での暴力を容認する声も聞かれますが、第三
者への暴力として当てはめた場合に許されない行為であれば、やってはいけないことなの
です。被害者や加害者に焦点を当てて活動するだけではなく、これからは、周囲の人達の意
識を変えるため、社会の中で暴力を容認しない空気を醸成することが必要です。
加害者は、自分が暴力をふるっていいと思っている人に対してのみ暴力をふるい、自分に
とってメリットのある相手に対しては、いい人にふるまうという二面性を持つことが多く
あります。暴力をふるう原因は、怒りやストレスにあるのではなく、その怒りやストレスを
感じたときに暴力をふるっていいと考える考え方にあります。この考え方は、若ければ若い
ほど変えることが容易です。子ども達の考え方を変えるためには、言葉だけではなく、周囲
の大人が暴力をふるわない良い生き方を見せることが必要です。
二人だけの世界にどっぷりはまっているような関係がいい恋愛関係であるかのようなメ
ッセージ(「やっと出会えた運命の人!」、
「会いたくて震える」など)が世の中にあふれて
いますが、いい恋愛関係というのは、それぞれが自分をしっかり持ち、二人の世界だけでは
なく、勉強や部活、家族との時間などの時間を大切にすることで育まれるのではないかと思
うのです。自分のことを大事にできる人は、相手のことも大事にできるので、結果的にいい
関係性を築くことができます。運命の人に出会ったから幸せになれる、運命の人に出会った
ら自分の人生をリセットできるのではなく、幸せになる力はそれぞれの中にあるのです。
●親の DV 問題について
内閣府の調査では、女性の 3 人に 1 人が DV 被害者という数字が出ています。よって、
学校で講演する場合には、家が DV の問題を抱えている生徒が含まれているという可能性
を念頭に置いています。そうした子どもたちは、自分の周りで起きていることについて情報
を必要としています。単にデート DV 予防教育としてだけではなく、虐待や DV について
も何らかのメッセージになるのではないかという思いで活動しています。
ある高校での講演会の後、一人の男子がそっと質問をしてきました。「もし、その子の家
に暴力があったとしたら、その子は加害者になるしかないのですか?」。おそらく、彼が言
う「その子」とは彼自身のことです。彼の家には何らかの暴力があり、自分が将来暴力をふ
るってしまうのではないかという暴力の連鎖に心を痛めているのではと感じました。私は、
「周りには、暴力を使わないいい生き方をしている大人がいるはずだから、その方たちの生
き方を見て、感じて、吸収してください。自分は暴力をふるわない人生を生きていくんだと
決心して取り組んだら、まだまだ間に合う、と彼に伝えてください。
」と言いました。私は、
それ以来「暴力の連鎖」という言葉を使うことをやめました。
子どもは、親の DV に責任を感じることもあります。講演などでは、
「もし、両親の間で
DV の問題があっても、子どもであるあなた達には全く責任がない」ということをきっぱり、
しっかり伝えます。講演では、
「責任がないという一言がきけてよかった。」という感想が寄
せられることがあります。また、DV には専門の相談機関があることも、講演会の中で話す
ようにしています。子どもを通じて、被害者である親が相談機関につながるという流れも増
えてきています。
●DV の危険サイン
DV の暴力に首を絞められる(窒息させられる)という行為が含まれていた場合、その後
殺害される確率が 8 倍高くなると言われます。また、身体的暴力、性的暴力、ストーカー
行為の組み合わせで行為に及ぶ加害者の場合、危険が非常に高まると言われています。危険
性が高まれば、被害者のトラウマも非常に大きくなります。
被害者の自傷行為には、生き延びるためその行為に及ぶことがあるということも認識し
ておかなければなりません。自傷行為によって、生きていく辛さを一瞬麻痺させることがで
きるのです。
「こんなことをしないで。」と伝えると、逆にバランスを崩してしまうこともあ
ります。
「あなたはすごく大事な子なんだよ。」
「大事な体だから手当しようよ。」という声掛
けも支援の方法のひとつです。対応は非常に難しいのです。
●デートDV予防のための様々な企画
若者がデートDVについて考えるきっかけになるよう、レジリエンスでは学校でのデー
ト DV 予防教育以外にも様々な企画を実施しています。ネイルサロンと協力して行ったパ
ープルリボンのネイルシールや、ある大学と共同開発したデートDVチェックアプリ、大学
での講演の際に作成するチラシの企画段階で学生に参加してもらうなどの工夫をしていま
す。アメリカでは、若者がつくった連絡先への緊急連絡アプリ(circle of6)や、ホワイト
ハウスではデートDV予防啓発のための短い映像(1is2MANY)を作成しユーチューブに
アップされています。若い人には、若い人たちに向けたアプローチが必要なのです。
(*この講演要旨は、講演内容の一部を佐賀県DV総合対策センターでまとめたものです。
)