教育ゼミナール講演会記録 - Great Mountain

財団法人 骨粗鬆症財団主催
第50 回
教育ゼミナール講演会記録
講演/ 1 ─────────────────────────────1
FRAXTM(骨折リスク評価ツール)の意義と活用
放射線影響研究所臨床研究部 藤原佐枝子
講演/ 2 ─────────────────────────────8
わが国でのFRAXTM ツールによる骨折リスク評価の経験
国際医療福祉大学熱海病院産婦人科 五來逸雄
講演/ 3 ──────────────────────────── 14
骨粗鬆症治療薬の現況と将来
城西国際大学薬学部臨床医学講座 和田誠基
第 50 回骨粗鬆症財団教育ゼミナール講演 I
FRAXTM(骨折リスク評価ツール)の意義と活用
放射線影響研究所臨床研究部
藤 原 佐 枝 子
骨粗鬆症と骨折の現状
わが国の骨粗鬆症の患者数は,日本骨代謝学会の骨粗鬆症診断基準 1996 年版を用いて推定すると約
1,075 万人に達するが1),医療機関受診者は,厚生労働省の平成 14 年の患者調査で 45 万人,平成 16
年の社会医療診療行為別調査で 51 万人,平成 16 年の国民生活基礎調査で 139 万人,骨粗鬆症財団に
よる調査では 197 万人とされ,骨粗鬆症患者のわずか 10~20%にすぎないと考えられている。
広島コホートにおいて,1994~96 年の 55~64 歳,65~74 歳,75 歳以上の骨粗鬆症有病率と,2003
年の同年代の骨粗鬆症有病率とを比較したところ,後者が低値であることが示されている。吉村らの
報告でも骨粗鬆症有病率の減少や骨密度の増加が報告されているが,一方,折茂らによれば,わが国
の 1992 年,1997 年,2002 年の大腿骨近位部骨折の発生率は高齢者で増え続けている2)。骨折は強度
が低下した骨に何らかの負荷がかかることによって起こり,骨密度以外にも骨強度には骨質(骨構造,
骨代謝,骨石灰化,微細骨折,骨基質)が影響しているため,骨密度増加傾向にもかかわらず骨密度
以外の要因の影響を受けて骨折が増加するという現象が起こっていると考えられる。
そうした流れから,NIH コンセンサス会議では骨粗鬆症の治療開始の条件として,年齢,低骨密度,
転倒に関連した臨床的危険因子(転倒歴,身体機能低下,認知機能低下,視力低下,環境ハザード),
骨形態(身長が高い,大腿骨頸部軸長,大腿骨の長さ),臨床的危険因子などをあげている。
また,わが国の「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006 年版」3)では,低骨密度と危険因子を考
慮した薬物治療開始基準を,診断基準とは別に次のように定めている。
すなわち,①脆弱性既存骨折がある場合(男女とも 50 歳以上),②脆弱性既存骨折がない場合は骨
密度 YAM70%未満,または骨密度 YAM70~80%の閉経後女性・50 歳以上の男性で,過度のアルコー
ル摂取,現在の喫煙,大腿骨頸部骨折の家族歴のいずれか一つを有する場合,としている 4)。
このガイドラインは,それぞれのカットオフ値あるいは危険因子の有無で集団を骨折リスクの高い
サブグループに分けている。これに対して,WHO が発表した骨折リスク評価ツール(FRAXTM)は,
患者ごとに危険因子をあてはめて患者ごとの骨折リスクを数字として算出することができる。
WHO の推計では世界の大腿骨頸部骨折数は,1990 年代に 150 万人であったものが,2050 年には 450
~630 万人にまで増加すると予想されている 4)。世界の大腿骨頸部骨折の多くをヨーロッパ・北米が占
めているが,今後は人口増加とともにアジアで大腿骨頸部骨折が増えることが予測されている。
骨密度は,骨折リスク者を判別するよい方法である。ところが,骨密度測定装置(躯幹骨 DXA)の
普及率は,南・北アメリカで 1 万 5,000 台,ヨーロッパ・アフリカで 8,000 台,日本・韓国・中国・
香港・台湾などを含めたアジア・パシフィック地域で 4,000 台,タイ・マレーシア・シンガポール・
インドなどの南アジアで 130 台,オーストラリア・ニュージーランドでは 260 台というのが現状であ
る。測定装置が普及していないため検査を受けられない人が多く,さらに骨密度だけでは高リスク者
を効率的に判別できないこともわかってきた。そこで WHO のワーキンググループは世界中でどこで
も使用可能であり,骨密度に依存せずに,すべての臨床家が使用可能な FRAXTM を作成した。このツ
-1-
10 年間の大腿骨頸部骨折確率(%)
20
15
10
5
0
50 60 70 80
50 60 70 80
スウェ-デン
米国
50 60 70 80 50 60 70 80 50 60 70 80
スペイン
日本
香港
年齢(歳)
図 1 国別・年齢別の 10 年間の大腿骨頸部骨折確率(女性)(文献 5 より
引用・改変)
ールは,薬物治療介入の指標として,臨床的に簡単に得られる危険因子から個人の骨折絶対リスクが
計算できるという利点がある。
1)骨折リスク
リスクの表し方には「絶対リスク」と「相対リスク」がある。絶対リスクとはある事象が発生する確率
であり,
「発生率」
「ライフタイムリスク」
「10 年間の骨折確率」などである。発生率の単位は(人/年)
で,ある集団を追跡して,追跡期間中に発症する割合として示される。ライフタイムリスクとは,生涯に
発症する確率である。最近,萩野らは日本人女性の大腿骨頸部骨折のライフタイムリスクは 20%と報
告している。10 年間の骨折確率とは,たとえば 60 歳であればその後 10 年間に骨折を起こす確率であ
り,ライフタイムリスクと同様に発生率と平均余命から算出される。一方,相対リスクとはリスクを
比で表し,たとえば「喫煙者は非喫煙者と比較してある疾患のリスクが 2~3 倍高い」という表現をさ
れる。
FRAXTM で使われたのは「10 年間の骨折確率」である。骨折発生率が高く,寿命が長い国ほど高く
なるので,図 1 に示すように年齢別の 10 年間の大腿骨頸部骨折確率を国別にみると,スウェーデン,
それに続き米国も高く,日本はスペインや香港と同等であった 5)。10 年間の骨折確率を用いる理由と
しては,①死亡率の変化によって推計値の信頼性が低下する,②薬物治療は副作用などが原因で中断
することがあり,生涯使われるわけではない,③危険因子の骨折予測力は長期になると低下する,④
10 年間は治療を受けている期間(普通 3~5 年)と治療の中止期間に相当する,といったことがあげ
られる。
2)危険因子の選定方法・選定基準
危険因子は,広島コホートを含む世界の前向き population-based cohort(EVOS/EPOS:ヨーロッパ,
Rochester:米国,CaMos:カナダ,Dubbo:オーストラリア,EPIDOS/OFELY:フランス,Rotterdam:
オランダ,Kuopio:フィンランド,Gothenburg:スウェーデン,Sheffield:英国)のデータをメタア
ナリシスして得られた。世界の各地域で,性別を問わず利用することができる危険因子で,簡単に得
ることが可能で,統計的に有効である因子が選定された。危険因子の選定にあたっては,骨密度に依
存するか否か検討され,性別や年齢で,骨折リスクに対して重みが異なるか,など詳細に検討が行わ
れた。
図 2 に示すように骨密度調整前は BMI の低下にしたがって全骨折・骨粗鬆症性骨折・大腿骨頸部骨
折のリスクが高くなった。骨密度調整後は BMI と全骨折・骨粗鬆症性骨折との関係は消失したが,大
-2-
骨密度調整後
骨密度調整前
リスク比(vs BMI=25)
5
5
4
4
全骨折
骨粗鬆症性骨折
大腿骨頸部骨折
3
全骨折
骨粗鬆症性骨折
大腿骨頸部骨折
3
2
2
1
1
22kg/m2
0
0
15
図2
20
25
30
35
2
BMI(kg/m )
40
45
20
25
30
35
2
BMI(kg/m )
40
45
BMI と骨折リスク(文献 6 より引用・改変)
骨
大腿骨頸部骨折
折
6
6
骨密度調整前
骨密度調整後
5
リスク比
15
4
4
3
3
2
2
1
1
0
0
50 55 60 65 70 75 80 85
年齢(歳)
50 55 60 65 70 75 80 85
年齢(歳)
図3
骨密度調整前
骨密度調整後
5
既存骨折と骨折リスク(文献 7 より引用・改変)
腿骨頸部骨折のリスクは BMI が低下するにしたがって高くなった6)。すなわち BMI は骨密度と独立し
て大腿骨頸部骨折リスクを予測するが,BMI は全骨折・骨粗鬆症性骨折に対しては骨密度を介した影
響であった。
次に既存骨折と骨折リスクを年齢別に検討した結果では,図 37)に示すように骨密度調整後,骨折・
大腿骨頸部骨折の相対リスクの低下が認められたが,依然として有意であり,既存骨折は骨密度と独
立して骨折リスクを予測すると考えられた。さらに,年齢と既存骨折の交絡関係を検討すると,若年
者と高齢者で骨折に対する既存骨折の重みが異なり,若年者は高齢者に比べて既存骨折が将来の骨折
の大きなリスクとなった。
喫煙に関しては,大腿骨頸部骨折リスクに対する喫煙の影響は男女でほとんど変わらないが,骨粗
鬆症性骨折や全骨折のリスクは,喫煙の影響は女性に比べて男性で高かった。また,現在の喫煙より
過去の喫煙歴のほうがリスクは低かった(図 4)8)。
図 5 に示すとおり,大腿骨頸部骨密度と骨折リスクを年齢別に検討した結果では,若年者ほど骨折
リスクは大腿骨頸部骨密度低下の影響を受けた。
これら骨折の臨床的危険因子を検討した結果,既存骨折,喫煙,飲酒,骨折家族歴などが,骨密度
と独立した危険因子として選ばれた。BMI は骨密度を含めなければ骨折を予測したが,骨密度を調整
すると大腿骨頸部骨折以外は予測しないため,骨密度が得られない場合に,骨密度の代用とされる。
最終的に FRAXTM に用いられる危険因子は,年齢,性,大腿骨頸部骨密度(骨密度がない場合は BMI),
-3-
男
女
2.5
2.5
現在喫煙
過去
リスク比
2.0
2.0
1.5
1.5
1.0
1.0
0.5
0.5
0.0
0.0
全骨折 骨粗鬆症性 大腿骨頸部
骨 折
骨 折
図4
現在喫煙
過去
全骨折 骨粗鬆症性 大腿骨頸部
骨 折
骨 折
喫煙と骨折リスク(文献 8 より引用・改変)
相対リスク
骨粗鬆症性骨折
大腿骨頸部骨折
5.0
5.0
4.0
4.0
3.5
3.5
3.0
3.0
2.5
2.5
2.0
2.0
1.5
1.5
1.0
1.0
0
0
50 55 60 65 70 75 80 85
年齢(歳)
図5
50 55 60 65 70 75 80 85
年齢(歳)
大腿骨頸部骨密度と骨折リスク
成人後の脆弱性骨折歴,ステロイド使用(現在あるいは 3 ヵ月以上,5mg 以上のプレドニゾロンある
いは等量のステロイドの経口投与を受けた場合),二次性骨粗鬆症,関節リウマチ,親の大腿骨頸部骨
折歴,現在の喫煙,アルコール 1 日 3 単位以上(1 単位はアルコール 8~10g,標準的なグラスでビー
ル 1 杯に相当)の摂取である。
3)FRAXTM 日本版の作成
九つの前向き population-based cohort のメタアナリシスで各コホート間において危険因子と骨折リ
スクの関係の差異を検証したところ,日本人と欧米人のコホート間に統計的に有意な差が認められな
かったことから,危険因子と骨折の関係は各国共通と考えられた。そこで共通の危険因子を使ったモ
デルを,各国の骨折発生率,年齢別の平均余命で調整し,日本,英国,米国,中国などの 9 ヵ国,12
の人種のモデルが作成された。
FRAXTM 日本版は日本人の骨折(大腿骨近位部骨折,橈骨下端骨折,上腕骨近位部骨折,臨床的椎
体骨折)発生率と年齢別の平均余命を用いて 10 年間の骨折確率を算出する。臨床的椎体骨折について
は,わが国では臨床的な椎体骨折発生率のデータがないため,形態的骨折の 30%として推計された。
年齢別の平均余命は厚生労働省から発表されている寿命が用いられた。
FRAXTM のプログラムは web 上で公開されており(www.shef.ac.uk/FRAX),日本人用の FRAXTM を
用いて,10 年間の骨折リスクを計算することができる(図 6)。
FRAXTM には大腿骨頸部骨密度が利用されるが,わが国では,大腿骨頸部骨密度の測定誤差が大き
-4-
図6
TM
web 上で公開されている WHO 骨折評価ツール(FRAX )
10 年間の確率(%)
骨粗鬆症性骨折
大腿骨頸部骨折
既存骨折
骨折家族 歴
糖質ステロイド
二次性骨粗鬆症
飲酒
喫煙
図7
なし
0
既存骨折
0
骨折家族 歴
1
糖質ステロイド
5
二次性骨粗鬆症
2
飲酒
10
喫煙
3
なし
15
10 年間の骨粗鬆症性および大腿骨頸部骨折確率(日本人 65 歳女性,BMI
2
23.4kg/m )(文献 9 より引用・改変)
いとされ,腰椎骨密度がよく利用されている。そこで広島コホートを用いて腰椎・大腿骨頸部骨密度
の骨折予知能を比較したところ,欧米と同様に骨折・骨粗鬆症性骨折を同等に予測したが,大腿骨頸
部骨折については腰椎骨密度より大腿骨頸部骨密度の予測能が強かった9)。
FRAXTM を用いて日本人の 10 年間の骨粗鬆症性骨折確率を求めた。50 歳代の男性と女性では寿命と
骨折発生率に大きな違いがないため,10 年間の骨折確率は同等であった。しかし男性では,80 歳代で
T スコア-3 のときに骨粗鬆症性骨折確率が 10%を超えるが,女性は T スコア-1 の時点で 10%を超
え,女性のほうがリスクが高い9)。
次に,日本人の女性(65 歳,BMI 23.4kg/m2)の 10 年間の骨粗鬆症性骨折および大腿骨頸部骨折確
率を危険因子の有無で計算した。骨粗鬆症性骨折の場合,危険因子がない場合 7.5%,喫煙者で 8%程
度,既存骨折を有すると 14%であった(図 7)9)。
FRAXTM 日本版をわが国の臨床で用いるにはいくつかの課題がある。FRAXTM では NHANESⅢの白
-5-
10
30
10 年間の確率(%)日本の基準
大腿骨頸部骨折
8
24
6
18
T-スコア=
-2
-1
0
+1
+2
4
2
0
0
2
4
6
8
T-スコア=
-2
-1
0
+1
+2
12
6
0
10
0
6
12
18
24
30
10年間の確率(%)NHANES III
10年間の確率(%)NHANES III
図8
骨粗鬆症性骨折
NHANES III および日本人の標準値から求めた T スコアから計算した 10 年間の骨折
確率の比較
人標準値から求めた T スコア・Z スコアが使われているが,わが国では腰椎骨密度が利用されること
が多い。FRAXTM は,大腿骨頸部骨密度に基づいて作成されており,腰椎骨密度(T スコア・Z スコア)
は使用できない。
わが国では T スコア・Z スコアは,日本人若年女性(YAM)の大腿骨頸部骨密度から求められてい
る。NHANESⅢの参照データでは 20~29 歳女性の大腿骨頸部平均骨密度が 0.858g/cm2 (1SD=
0.120g/cm2 )であるのに対し,日本骨代謝学会の診断基準による YAM の大腿骨頸部平均骨密度は
0.786g/cm2(1SD=0.107g/cm2)であり,日本人の YAM 値が白人に比べて低い。そのため,DXA の報
告書で示される大腿骨頸部骨密度 T スコア・Z スコアを FRAXTM に入力すると,骨折リスクに差が生
じる。T スコアが小さい場合(-1,-2)には,差はほとんどないが,大きい場合(+1,+2)に問
題となる(図 8)9)。
FRAXTM は治療開始の指標として作られているため,治療を受けている人には使えない。もし,治
療を受けている人に対して FRAXTM を使用した場合には,治療効果を見込めるため,実際よりも骨折
リスクを高く見積もる可能性がある。
日本骨代謝学会の「骨粗鬆症診断基準(2000 年改訂版)」あるいは「骨粗鬆症の予防と治療ガイド
ライン 2006 年版」のカットオフ値を用いて 10 年間の骨折確率を計算した。診断基準の脆弱性骨折の
既往がない場合 YAM70%(NHANESⅢ参照値で相当する T スコアは-2.7SD),既存骨折がある場合
YAM80%(同-1.8SD)を用いると,骨密度が YAM70%で臨床的危険因子がない 60 代,80 代女性の
10 年間の骨粗鬆症性骨折確率はそれぞれ 8.7%,23%であった。また YAM80%で既存骨折ありの場合,
それぞれ 10.5%,23.4%であった。50~80 歳代の各年代における 10 年間の骨粗鬆症性骨折確率は,
同じ年齢で比べると二つのカットオフ値の条件は同等であったが,年齢によって大きな違いがあっ
た9)。
まとめると,わが国で FRAX 日本版を使う際の注意点として,DXA による大腿骨頸部骨密度測定結
果(T スコア・Z スコア)を使う場合には,Z スコアを用いるほうが誤差は少ない。大腿骨頸部骨密度
以外には総大腿骨近位部骨密度は使えるが,これらがない場合には体重と身長を使う。一方,薬物治
療介入の基準として,10 年間の骨粗鬆症性骨折リスク 10%が現行の診断基準に近いが,その妥当性に
ついてはわが国の医療経済などにも考慮した検討が必要である。
危険性評価の国際的な動向
図 910)に示すのはヨーロッパガイダンスにおける骨折リスク評価のアルゴリズムである。危険因子
-6-
危険因子を使ったツール
骨折確率
高リスク
治
中リスク
低リスク
骨密度測定
療
骨密度を使ったツール
高リスク
治
図9
低リスク
療
骨折リスク評価のアルゴリズム(ヨーロッパガイダ
ンスより)(文献 10 より引用・改変)
を使って高リスク,中リスク,低リスクの三つに分け,高リスク者は治療を開始,中リスク者は骨密
度測定を行い,さらに骨密度測定結果により骨折リスクを高リスク,低リスクと分けている。
2008 年に発表された米国の National Osteoporosis Foundation(NOF)のガイドラインで,閉経後女
性・50 歳以上の男性で,①大腿骨頸部骨折あるいは椎体骨折(臨床あるいは形態学的)がある,②他
の部位の既存骨折があり,低骨量(-1<T スコア<-2.5)である,③二次性の原因がない場合は T
スコア≦-2.5,④二次性の原因があり-1.0<T スコア<-2.5,⑤-1.0<T スコア<-2.5 かつ WHO
FRAXTM の US 版を用いて,10 年間の大腿骨頸部骨折確率が 3%以上,あるいは骨粗鬆症性骨折確率が
20%以上の場合に治療を開始することを勧告している。
お わ り に
今後の課題として,わが国で FRAXTM を薬物治療介入基準としてどのように導入するのか検討する
ことと,精度の高い大腿骨頸部骨密度測定の普及があげられる。薬物治療介入基準については,現在,
米国やヨーロッパでは医療経済に基づいて薬物治療開始基準となる 10 年間の骨折リスク閾値が発表
されている。わが国では基礎的な医療経済のデータが少ないのが現状であり,今後,効用値(費用効
用分析),骨折の予後,骨折直後および慢性期の費用など対経済効率を考慮したデータを集積し,さら
に,現在の医療状況をふまえて,治療介入開始基準を検討していく必要がある。
文
献
1) 山本逸雄ほか. Osteoporosis Jpn 1999;7:10-1.
2) 折茂 肇ほか. 日事新報 2004;25:4180.
3) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(代表 折茂
イン 2006 年版. 東京: ライフサイエンス出版; 2006.
4) WHO Technical Report Series 921, 2003.
5) Kanis JA, et al. J Bone Miner Res 2002;17:1237-44.
6) De Laet, et al. Osteoporos Int 2005;16:1330-8.
7) Kanis JA, et al. Bone 2004;35:375-82.
8) Kanis JA, et al. Osteoporos Int 2004;16;155-62.
9) Fujiwara S, et al. Osteoporos Int 2008;19;429-35.
10) Kanis JA, et al. Osteoporos Int 2008;19:399-428.
-7-
肇)編. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドラ
第 50 回骨粗鬆症財団教育ゼミナール講演 II
わが国での FRAXTM ツールによる
骨折リスク評価の経験
国際医療福祉大学熱海病院産婦人科
五 來 逸 雄
はじめに
これまで骨粗鬆症の診断は骨密度値に基づいて行われてきた。諸家の研究により骨密度値と同等,
あるいは骨密度値を超えて骨折を予測する危険因子が存在することが報告されてきた。現在,将来の
骨折予測は骨密度値の有無にかかわらず,危険因子によって算出可能であると考えられている。Kanis
らを中心とする WHO のワーキンググループは,臨床的に簡単に得られる危険因子から,10 年間の骨
折絶対リスクを算出し,治療介入の指標となり得る「WHO fracture risk assessment tool:FRAXTM」を
作成した1)。これは骨密度を測定できる国はもちろん,できない国でも,かつ男性,女性でも使用可能
なツールとされている。
われわれは,わが国で初めて骨粗鬆症診療における「日本語版 FRAXTM」の実用性・簡便性につい
て婦人科外来受診者を対象に評価した。同時に,骨密度による従来の診断基準に基づく診断と,初診・
再診時に FRAXTM を用いた骨折リスクの評価を行い,脆弱性骨折リスクの印象,薬物治療の必要性を
前向きに比較・検討したので報告する。なお,本研究は国際医療福祉大学倫理委員会にて承認済であ
る。
FRAXTM による骨折リスクの総合的評価の実際
1)対象と方法
初診時に文書による同意のもと,危険因子として年齢,体重,身長,50 歳以降の骨折既往(R1),
親の大腿骨頸部骨折の既往(R2),現在の喫煙(R3),ステロイド使用歴の有無(R4),関節リウマチ
の有無(R5),他の続発性骨粗鬆症(R6),アルコール摂取(1 日 2 単位以上)(R7)を問診した後,
危険因子から脆弱性骨折リスクの印象,薬物治療の必要性の評価を行った(A 段階)。次に,FRAXTM
に危険因子を入力し,10 年間の絶対骨折リスクを算出し,同様に脆弱性骨折リスクの印象,薬物治療
の必要性を評価した(B 段階)。同時に患者には骨密度測定を行った。再診来院時に危険因子と腰椎,
総大腿骨,大腿骨頸部骨密度値から,脆弱性骨折リスクの印象,薬物治療の必要性を評価した(C 段
階)。最終段階では FRAXTM による危険因子と DXA による大腿骨頸部骨密度値(Z スコア)を入力し,
10 年間の絶対骨折リスクを再度算出し,脆弱性骨折リスクの印象,薬物治療の必要性について再評価
を行った(D 段階)(表 1)。
検証内容は,上記の A~D 段階での脆弱性骨折リスクの印象,薬物治療の必要性についての印象の
ほか,①FRAXTM 入力測定に要した時間,②10 年間の絶対骨折リスクについて患者に説明を行ったか,
③骨密度を検査しないで FRAXTM 測定を行いたいか,④医師からみて FRAXTM は患者の骨粗鬆症の重
症度に対する病識の理解度向上に役立つと思われるか,⑤医師からみて FRAXTM は患者の治療意欲の
向上に影響がみられたか,⑥医師からみて FRAXTM の使用は簡便でユーザーフレンドリーと考えるか,
などである。
-8-
表1
FRAT 評価の実際
1)最初の通常の診察,問診後(A 段階)
患者さんが脆弱性骨折のリスクが高いとの印象を持ちますか?
(はい
いいえ)
患者さんに薬物治療(Ca 剤,native D 剤を除く)が必要との印象を持ちますか?
(はい
いいえ)
(はい
いいえ)
(はい
いいえ)
(はい
いいえ)
2)最初の FRAT 測定後(B 段階)
患者さんが脆弱性骨折のリスクが高いとの印象を持ちますか?
(はい
いいえ)
患者さんに薬物治療(Ca 剤,native D 剤を除く)が必要との印象を持ちますか?
3)骨密度 BMD(DXA による)測定後(C 段階)
患者さんが脆弱性骨折のリスクが高いとの印象を持ちますか?
(はい
いいえ)
患者さんに薬物治療(Ca 剤,native D 剤を除く)が必要との印象を持ちますか?
4)2 回目の FRAT 測定後(DXA 値を入力したもの)
(D 段階)
患者さんが脆弱性骨折のリスクが高いとの印象を持ちますか?
(はい
いいえ)
患者さんに薬物治療(Ca 剤,native D 剤を除く)が必要との印象を持ちますか?
表2
対象症例の骨密度と 10 年間の絶対骨折リスク(68 名)
2
L-BMD
0.822±0.158g/cm
2
FN-BMD
0.631±0.118g/cm
TH-BMD
0.752±0.136g/cm
2
FRAX
10.5±8.6%
FRAX-L-BMD
12.2±9.8%
FRAX-TH-BMD
8.2±5.9%
FRAX-FN-BMD
9.2±6.6%
今回の研究は骨粗鬆症専門医が行ったもので,同様の調査を一般の実地臨床医が行った場合の結果
については現在検討中である。
2)結果と考察
対象は閉経後日本人女性 68 名(年齢 63.3±9.3 歳,体重 53.3±8.5kg,身長 154.2±5.5cm,BMI 22.4
±3.3kg/m2)で,骨代謝に及ぼす薬剤服用の既往はなかった。リスク因子の分布は R1:5.9%,R2:
7.4%,R3:11.8%,R4:7.4%,R5:4.4%,R6:0%,R7:2.9%であり,リスク因子を有する割合は
少なかった。
骨密度入力前の FRAXTM による 10 年間の絶対骨折リスクは 10.5±8.6%,大腿骨頸部骨密度入力後
の骨折リスクは 9.2±6.6%であった。腰椎骨密度の平均値は 0.822±0.158g/cm2,大腿骨頸部骨密度の
それは 0.631±0.118g/cm2,総大腿骨密度のそれは 0.752±0.136g/cm2 であり,日本骨代謝学会の原発性
骨粗鬆症診断基準における腰椎と大腿骨頸部骨密度のカットオフ値を基準にすると,正常あるいは骨
量減少とされる症例が大部分を占めた(表 2)
骨密度入力前の FRAXTM による絶対骨折リスク(FRAX%)は,大腿骨頸部骨密度値(FN-BMD)
と相関しなかった(図 1)が,大腿骨頸部骨密度入力後の絶対骨折リスク(FRAX-FN-BMD)と有意
に相関した(図 2)。大腿骨頸部骨密度測定の有無にかかわらず,FRAXTM では同様な骨折リスクが算
出されることが判明した。
脆弱性骨折高リスク群および薬物治療必要群の 10 年間の絶対骨折リスクを 10%以上と想定すると,
初診時 FRAXTM 測定前に主治医の臨床的判断で脆弱性骨折が低リスクとされた 59 名のうち,FRAXTM
測定後は 15 名が高リスクとなり,一方,測定前高リスクとされた 9 名のうち,測定後 2 名が低リスク
-9-
2
1.1
FN-BMD=0.679-0.005×FRAX%,r =0.113
1.0
0.9
0.8
FN-BMD
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
5
10
15
20
25
30
35
40
FRAX%
図1
FRAX%と FN-BMD との相関
2
30
頸部FN-FRAX%=2.076+0.672×FRAX%,r =0.782
FRAX FN-BMD
25
20
15
10
5
0
0
図2
5
10
15
20
FRAX%
25
30
35
40
FRAX%と FRAX-FN-BMD%との相関
と診断された。この相違は年齢によるものと考えられる。骨密度測定後では骨密度値により初診時の
リスク因子のみによる判定を変更することがある。今回,骨密度測定後に低リスクとされた 46 名のう
ち FRAXTM-骨密度測定後 9 名が高リスクとなり,逆に高リスクとされた 22 名のうち 13 名が低リスク
と判定されている。これは年齢と骨密度値が要因と考えられる(図 3)。
また,初診時に主治医の臨床的判断から薬物治療が不要と判断された 62 名のうち,FRAXTM 測定後
18 名が治療必要,薬物治療が必要とされた 6 名のうち 2 名が不必要とされた。再来時,骨密度測定後
に薬物治療が不必要と判定された 43 名のうち FRAXTM-骨密度測定後 9 名が必要と判断され,逆に必
要とされた 25 名のうち 16 名が不必要と判定された(図 4)。
FRAXTM による骨折リスクの予想は患者に比較的容易に理解され,入力には約 5 分を要した。今回
は対象者数が少なく,対象は主として健康でかつ比較的若年の閉経後早期の女性であるため危険因子
を有する率が少なかった。高齢者を対象にした場合,骨折リスクの保有率が増えると思われる。以上
の結果より FRAXTM はわが国の実地臨床でも有用である可能性が示唆された。
FRAXTM をめぐる世界の現状
現在,海外では FRAXTM を使用して薬物治療介入患者の選択が行われている(図 5,6)2)。2008 年
の第 12 回国際閉経学会では,骨粗鬆症セッションの話題の中心は FRAXTM であった。どの国も治療開
始基準については暗中模索の状態であるが,ドイツは低リスク 20%未満,中リスク 20~30%,高リス
- 10 -
1st visit w/o
FRAX(A)
1st visit with
FRAX(B)
BMD w/o
FRAX(C)
Yes
Yes
Yes
7
9
No
4
2
2
No
2
Yes
5
Yes
5
Yes
5
10
59
44
31
1st visit with
FRAX(B)
Yes
4
No
2
BMD w/o
FRAX(C)
6
Yes
3
5
Yes
1
No
12
Yes
1
No
30
No
No
Yes
7
No
11
3
1
Yes
1
2
No
2
62
Yes 15
No
44
No
BMD with
FRAX(D)
Yes
Yes 18
図4
No
脆弱性骨折のリスクが高いとの印象をもつか
1st visit w/o
FRAX(A)
No
1
3
3
No
Yes
No
No
Yes 13
図3
3
No
No
No
Yes
Yes
Yes 15
No
BMD with
FRAX(D)
29
Yes
5
No
2
Yes
7
No
4
Yes
1
No
14
Yes
1
No
28
薬物治療が必要との印象をもつか
クは 30%以上と治療介入閾値を設定,カナダでは低リスク 10%未満,中リスク 10~20%,高リスク
は 20%以上と設定している 3)。薬物治療介入閾値や薬物治療介入のアルゴリズムは国や地域によって
異なり,今後各国がそれぞれの事情にあわせて治療開始基準を決定することが肝要である。
薬物治療患者の治療開始時の FRAXTM による 10 年間の絶対骨折リスクの評価
原則として,治療中の患者では FRAXTM は使用しない。今回,骨粗鬆症治療患者を対象に FRAXTM
を用いて後方視的に治療開始時の絶対骨折リスクを検討したので報告する。
1)対象と方法
2006 年 8 月までに治療開始した,腰椎骨密度<-2SD の閉経後日本人女性 130 名を対象とした。腎
臓病,副甲状腺機能亢進症,甲状腺機能亢進,糖尿病,乳がん,子宮体がん,静脈血栓塞栓症,ビス
フォスフォネート治療歴がある者,骨代謝に影響を及ぼすことが知られている薬物療法を受けている
者は除外した。対象 130 名をラロキシフェン投与群,ラロキシフェン+ビタミン D3 併用群,ビタミン
D3 投与群に無作為に割付け,1 年半以上治療を受けた 58 名(平均年齢 64.2±7.3 歳,体重 50.7±8.3kg,
身長 152.1±6.0cm,BMI 21.9±3.5kg/m2)にて 10 年間の絶対骨折リスクを算出した。
- 11 -
Women with CRFs
Prior fragility
fracture
Other CRFs
Consider
treatment
図5
Age 65+years
Age <65years
Consider
treatment
BMD test
Parental history of
hip fracture
Glucocorticoids
Treat if T-score <-1
Treat if T-score<-2
Secondary causes of OP
Cigarette smoking
Alcohol>3units daily
Treat if T-score<-2.5
薬物治療介入のアルゴリズム(英国)(文献 2 より引用)
CRFs
Fracture
probability
High
Intermediate
Treat
BMD
Low
Reassess
probability
High
Low
Treat
図6
薬物治療介入のアルゴリズム(スウェーデン)
(文献 2 より引用)
2)結果と考察
治療開始前のリスク因子を FRAXTM で解析したところ,R1:19.0%,R2:13.8%,R3:15.5%,R4:
1.7%,R5:0%,R6:1.7%,R7;3.5%であり,前述の婦人科外来受診群と比較すると分布がかなり
異なった。治療開始前の FRAXTM 測定による 10 年以内の骨折リスクは平均 11.3±7.3%,大腿骨頸部
骨密度(Z スコア)を加えると骨折リスクは 11.9±9.0%となった。治療開始前の FRAXTM 測定による
結果を低リスク(10%未満)
,中リスク(10~20%),高リスク(20%以上)にわけると,それぞれ 52%,
38%,10%であり,低リスク症例が多数を占めた。骨密度値は腰椎は 0.659±0.082g/cm2,大腿骨頸部
- 12 -
は 0.549±0.082g/cm2,総大腿骨は 0.649±0.089g/cm2 であり,前述の健常群と比べて骨密度値は低かっ
た。
大腿骨頸部骨密度(Z スコア)入力後の FRAXTM による絶対骨折リスクと年齢とは相関を認めたが,
体重・身長・BMI とはほとんど相関を認めなかった。大腿骨頸部骨密度入力後の FRAXTM の骨折リス
クは大腿骨頸部,総大腿,腰椎骨密度値の順で相関が良好であった。今回の後方視的検討により,骨
折予防効果を指標とした薬物治療患者の選択において,FRAXTM は有効である可能性が示唆された。
文
献
1) Kanis JA, et al. Osteoporos Int 2005;16:589-9.
2) Kanis JA, et al. Osteoporos Int 2008;19:399-428.
3) 第 12 回国際閉経学会.
- 13 -
第 50 回骨粗鬆症財団教育ゼミナール講演 Ⅲ
骨粗鬆症治療薬の現況と将来
城西国際大学薬学部臨床医学講座
和 田 誠 基
は じ め に
わが国の骨粗鬆症有病率は加齢とともに上昇し,女性では 50 歳代後半から,男性でも 60 歳代以降
に急増してくる。そしてわが国のデータでは折茂らによる大腿骨頸部骨折の全国調査の結果で,骨折
の発生率が増え続けていることが示されている 1)。フィンランドやカナダの疫学調査では,1990 年代
後半から大腿骨頸部骨折数は減少に転じている2)。この理由としては,骨粗鬆症に対する関心が高まり,
食事や運動など生活習慣の改善が行われ,またビスフォスフォネート製剤や塩酸ラロキシフェンを中
心とした新規の骨粗鬆症治療薬により,骨折頻度が減少したものと考えられている。
わが国では骨密度装置が普及しているにもかかわらず十分に活用されていない。また,二次性骨粗
鬆症をどこまで除外するかという問題もある。こうした点を含め,本稿では低骨量を呈する症例をま
じえて診療ガイドラインに基づいた骨粗鬆症治療の現状と,新しい治療薬の可能性,今後の展望につ
いて内科医の視点から概説する。
骨粗鬆症治療の実際
【症例 1】
腰椎骨密度 0.420g/cm2,若年成人平均値(YAM)38%の症例を図 1 に示す。一般的に骨梁が粗雑化
し,場合によって骨梁が菲薄化するため,骨粗鬆症患者のエックス線所見ではエックス線の透過性が
増している。本例の所見も骨は粗鬆化しており,数値からは骨粗鬆症と診断されるが,これだけ数値
が低いと骨粗鬆症以外の疾患も疑われる。
この患者に対しては,「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006 年版」1)に示すように薬物療法が第
Comparison to reference
T スコア
2
L2-4 BMD(g/cm )
一選択となる(表 1)3)。われわれ医師が骨粗鬆症患者に対して薬物療法を提案しても,10 人中 8~9
年齢(歳)
2
L2-4 BMD(g/cm )
L2-4% Young Adult
L2-4% Age Matched
図1
低骨量を呈する症例 1(原発性副甲状腺機能亢進症)
- 14 -
0.420±0.01
38±2
47±2
表1
骨粗鬆症治療薬の評価と推奨のまとめ(文献 3 より引用・改変)
薬剤名
骨密度
椎体骨折
非椎体骨折
総合評価
カルシウム製剤
C
C
C
C
女性ホルモン製剤
A
A
A
C
活性型ビタミン D3 製剤
B
B
B
B
ビタミン K2 製剤
B
B
B
B
エチドロネート
A
B
B
B
アレンドロネート
A
A
A
A
リセドロネート
A
A
A
A
塩酸ラロキシフェン
A
A
B
A
イプリフラボン
C
C
C
C
カルシトニン製剤
B
B
C
B
(A~C:推奨の強さ)
A:行うよう強く勧められる,B:行うよう勧められる,C:行うよう勧めるだけの根拠が
明確でない,D:行わないよう勧められる。
ビタミンD摂取量(μg/日)
12
-9.6%,p=0.17
平均
11.8
-18.7%,p=0.70
10
平均
9.3
8
6
4
2
0
優良
良好
不良
(n=7) (n=11) (n=7)
優良
良好
不良
(n=14) (n=15) (n=16)
女性
図2
男性
糖尿病患者を HbA1c 6.5%未満の優良群,6.5~7.5%の良好群,7.5%
以上の不良群に分けてビタミン D 摂取量を比較した結果
人は同意せず生活習慣改善の指導を希望する。生活習慣の改善や続発性骨粗鬆症における二次性因子
の除去は重要だが,実際の効果は大きくはない。
われわれは女子栄養大学の上西らと共同で糖尿病外来患者を対象に血糖コントロールの指標である
HbA1c6.5%未満の優良群,6.5~7.5%の良好群,7.5%以上の不良群に分けてビタミン D 摂取量を比較
した結果,不良群,良好群,優良群の順でビタミン D 摂取量が少なかったという知見を得ている(図
2)。血糖コントロールが悪い例ほど食事の多様性が少なく,特に肉食が多くなるため,魚に多量に含
まれるビタミン D3,キノコ類に含まれるビタミン D2 の摂取が不十分であると考えられる。そこでこ
れを改善させるため,飲酒の習慣がある者には魚や豆腐,黄緑色野菜などビタミン D やビタミン K を
多量に含む食品をつまみとして摂取するように指導している。
症例 1 には活性型ビタミン D3 製剤とビスフォスフォネート製剤の併用が行われた。アレンドロネー
トやリセドロネート,塩酸ラロキシフェンは「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006 年版」でも高
く評価されているが,本例では投与後,血清カルシウム(Ca)値が高くなり,ビタミン D 中毒症が疑
われた。担当医の紹介で来院,診断の結果,原発性副甲状腺機能亢進症と判明した。副甲状腺の腺腫
- 15 -
Comparison to reference
L2
L3
L4
T スコア
2
L2-4 BMD(g/cm )
L1
年齢(歳)
2
L2-4 BMD(g/cm )
L2-4% Young Adult
L2-4% Age Matched
図3
低骨量を呈する症例 2(骨軟化症)
表2
続発性骨粗鬆症
0.632±0.01
56±2
56±2
内分泌疾患
性腺機能低下症,甲状腺機能亢進症,Cushing 症候群,糖尿病
膠原病
慢性関節リウマチ
消化器疾患
胃切除後,吸収不良症候群
呼吸器疾患
慢性閉塞性肺疾患
血液悪性疾患
多発性骨髄腫,悪性リンパ腫
薬物療法
副腎皮質ホルモン,抗痙攣薬,免疫抑制剤,抗腫瘍剤
を除去すると,血清 Ca,リン(P)値は正常に戻った。副甲状腺ホルモン(PTH)が過剰に分泌され
ることによりおこる無症状の原発性副甲状腺機能亢進症は,以前は外来診療で 1,000 人に 1 人の割合
だったが,現在では 300~400 人に 1 人の割合となっている。しかも初診時での採血だけでは原発性
副甲状腺機能亢進症と判断することは難しい例も多い。また,手術を拒否する患者で,塩分負荷の影
響で時間経過とともに Ca 値や P 値が正常に戻る症例もある。
【症例 2】
42 歳女性,腰椎骨密度 0.632g/cm2,YAM56%の症例を図 3 に示す。骨粗鬆症の条件を満たしている
が,診断にあたっては骨密度値だけで評価しないように注意が必要である。
症例として,平成 6 年より両膝関節に運動時痛が出現し,抗核抗体陽性であり,全身性エリテマト
ーデスが疑われている。自己判断で日光照射を避けるようになり,この頃より肉や魚,牛乳・乳製品
をまったく摂取しない穀物主体の食事を摂るようになった。その理由として,当時直腸がんであった
母親が栄養士に勧められた穀物主体の食事に変えたところ調子がよくなったことに影響を受けたため
である。その後,関節痛は軽快したが,平成 14 年 8 月に健診で ALP 633 IU/L,Ca 7.9mg/dL と高値を
認め,精査目的に当科外来を受診した。診断の結果,ビタミン D 欠乏状態で骨軟化症が判明した。
骨軟化症は高齢者の多い老人保健施設でよくみられる。単調な食事になりがちで体の不自由な場合
も多い高齢者では,食事管理や屋外での日光浴が介護士のいる施設でも難しいのに,近年多くなって
いる老々介護や単身の世帯ではほとんど困難である。
症例 2 のような続発性骨粗鬆症では表 2 に示すように基礎疾患を除外したうえで,治療を行うべき
である。
わが国の骨粗鬆症治療薬
1)骨粗鬆症治療薬の現状
わが国は,海外に比べてアレンドロネートやリセドロネートの導入が遅れ,ようやく近年になって,
週 1 回製剤も認められた。また,これまでは服薬が面倒で薬を捨ててしまう骨粗鬆症患者も少なくな
- 16 -
12
プラセボ
イバンドロネート連日 2.5mg 投与群
骨折発生率(%)
10
イバンドロネート間歇 20mg 投与群
8
6
4
2
0
1
2
3
観察期間(年)
図4
イバンドロネートによる椎体骨折抑制効果(文献 4 より引用)
かったが,飲み忘れても翌日や翌々日に服用できる週 1 回製剤の登場によって,患者の服薬上の負担
がかなり軽減された。
さらに今後は,現在適応申請中のミノドロネートなど,わが国で開発されたビスフォスフォネート
製剤を使用する時がくれば,多くの製薬会社がビスフォスフォネート製剤を販売することによって骨
粗鬆症に対する医師の意識もより高まっていくものと思われる。すでに多くのビスフォスフォネート
製剤が発売されているのにさらに必要なのかという意見もあるが,たとえばアンジオテンシン受容体
拮抗薬(ARB)と同様,同じ範疇の薬剤でも独自の特性をもつこともあるので,ビスフォスフォネー
ト製剤も特徴に応じて,個々の患者で使い分けられていく可能性もある。
2)新たな骨粗鬆症治療薬
現在,わが国の骨粗鬆症治療ではおもにアミノ基含有ビスフォスフォネート製剤や塩酸ラロキシフェ
ンなどの骨吸収抑制剤が用いられているが,海外では同系統のイバンドロネートやゾレドロネートに加
えて,
自己注射による PTH やラネリック酸ストロンチウムなど骨形成作用を有する薬剤が用いられるよ
うになっている。
①骨吸収抑制剤
イバンドロネートは,骨粗鬆症に対して連日 2.5mg 投与を行い,12 ヵ月で 5%,36 ヵ月で 6%の新
規非椎体骨折抑制効果が証明されている。また,イバンドロネート連日 2.5mg 投与群と間歇 20mg 投
与群とプラセボとの比較で,1 年目は両群に有意差は認められなかったものの,2~3 年目には,両群
とも有意な椎体骨折抑制効果を認めたことが報告されている(図 4)4)。この結果,150mg を月1回経
口投与する高用量製剤が臨床応用されるようになった。いまや国際的にスタンダードな骨粗鬆症治療
薬であるイバンドロネートの注射剤・経口剤が,わが国でも臨床使用できるようになることが期待さ
れる。
ゾレドロネートはプラセボとの比較で椎体骨折を 70%減少させ,また大腿骨頸部骨折の発症も有意
に低下させることが 2007 年の N Engl J Med 誌に報告された(表 3)5)。ビスフォスフォネート製剤は,
薬理効果が長期に存続するために副作用に対応しにくいという問題点もあり,特に最近,ONJ(顎骨
壊死)との関連を示唆する報告もあることから注意が必要である。
エストロゲンは,Women’s Health Initiative(WHI)研究の結果から,大腿骨頸部骨折の抑制効果や
大腸がん発生抑制効果が報告されたが,一方で乳がんや子宮がんなどのリスクを伴うことも明らかに
なったため6),閉経後女性に使用することが難しくなっていた。こうした背景のもとに登場したのが骨
組織に対してエストロゲン作用を発揮し,乳腺組織や子宮内膜には抗エストロゲン作用を示す選択的
エストロゲン受容体モジュレーター(SERM)である。SERM 第一世代のタモキシフェンは,乳がん
- 17 -
表3
ゾレドロネートの骨折抑制効果(文献 5 より引用)
Placebo
Type of fracture
Zoledronic acid
RR or HR(95%CI)
p value
No. of patients
Primary end points
MV(stratum 1)
Hip
310
92
0.30(0.24-0.38)
<0.001
88
52
0.59(0.42-0.83)
0.002
Secondary end points
Non vertebral
388
292
0.75(0.64-0.87)
<0.001
Any clinical
456
308
0.67(0.58-0.77)
<0.001
Clinical vertebral
84
19
0.23(0.14-0.37)
<0.001
Multiple(≧2)MV(stratum 1)
66
7
0.11(0.05-0.23)
<0.001
MV:Morphometric vertebral,RR:Relative risk,HR:Hazard ratio
1
バゼドキシフェン10mg投与群
バゼドキシフェン20mg投与群
0
バゼドキシフェン40mg投与群
補正後変化率(%)
6
12
18
24(ヵ月)
-1
ラロキシフェン60mg投与群
プラセボ投与群
-2
1
0
-1
6
12
18
24(ヵ月)
-2
図5
閉経後骨粗鬆症患者に対するバゼドキシフェンの効果(文献 7 より引用)
の予防・治療薬として承認され,第二世代 SERM の塩酸ラロキシフェンは,骨粗鬆症の予防・治療薬
として用いられている。塩酸ラロキシフェンは既存椎体骨折例でアレンドロネートやリセドロネート
と同等の新規骨折抑制効果が認められている。
バゼドキシフェンは 2007 年 12 月に世界同時に発売申請された。閉経後骨粗鬆症患者を対象に投与
したところ,バゼドキシフェン 20mg,40mg 投与群では塩酸ラロキシフェン 60mg 投与群とほぼ同等
の骨密度保持効果が認められた(図 5)7)。
55~85 歳の閉経後骨粗鬆症患者 7,492 名を対象とした 3 年間の第Ⅲ相臨床試験では,バゼドキシフ
ェン 20mg 投与群でプラセボに比して新規椎体骨折リスクを 42%減少させたことが報告され,現在,
欧州やわが国でも申請が行われている。空腹時でなくても服用可能であることから,さらなる骨粗鬆
症治療薬の選択肢として期待される。
モノサイト・マクロファージ系細胞を破骨細胞へと分化誘導させる receptor activator of NFκB ligand
(RANKL)抑制を目的に開発されたのが RANKL 抗体(デノスマブ AMG162)である。デノスマブは
完全ヒト型モノクローナル免疫グロブリン G2(IgG2)抗体であり,高い親和性と特異性をもって
RANKL に結合する。閉経後女性を対象とした第I相臨床試験では尿中 NTX を指標にプラセボと比較
して骨吸収抑制効果が認められている8)。新たな作用機序の骨吸収抑制剤として期待される。デノスマ
- 18 -
患者の割合(%)
テリパラチド 20μg群
プラセボ群
16
14
12
10
8
6
*p<0.001(プラセボ群との比較)
65%*
4
2
0
64
77%*
22
22
5
(n=448)(n=444)
(n=448)(n=444)
新規椎体骨折
多発椎体骨折
(1つ以上の骨折を有する女性の数)
(2つ以上の骨折を有する女性の数)
図6
テリパラチドによる新規または多発椎体骨折効果(文献 10 より引用)
ブとアレンドロネートを比較した第Ⅱ相臨床試験では,腰椎,大腿骨,全身骨密度は両群で同等だっ
たが,橈骨遠位端ではデノスマブ群でアレンドロネート群を上回る骨密度増加効果が認められてい
る9)。皮質骨を多く含む部分で骨密度増加効果が認められていることから,大腿骨頸部骨折に対しても
よい影響を与えることが示唆される。
これら以外に破骨細胞に発現する骨吸収に必須の酵素の作用を阻害することで骨吸収を抑制し,骨
粗鬆症性骨折を予防するカテプシン K 阻害薬が開発されている。現在までに発売されている多くの骨
吸収抑制剤の優劣を決めるのは難しい。試験ごとに対象の骨折頻度にバラツキがあり,評価も異なっ
てくるからである。現状では骨吸収抑制剤には一定の椎体骨折抑制効果が認められており,詳細な比
較は今後の課題といえよう。
②骨形成促進剤
すでに海外では PTH などの骨形成促進剤も使用され,骨粗鬆症治療薬のなかで重要な地位を占め
ている。わが国でも内分泌内科医はインスリン自己注射を指導しているため,PTH 注射剤が導入され
た場合も,使いやすい薬剤になると思われる。
副甲状腺は頸部の甲状腺の後方にあり,Ca の低下を感知して PTH を分泌する臓器である。その生
物活性から,PTH(1-34)や PTH(1-84)が骨粗鬆症に対して有効であると考えられており,間歇投
与によって骨形成作用が発現し,骨密度を増やし骨折抑制効果が認められる。最近,米国ではステロ
イド性骨粗鬆症にも適用が広がっている。また Neer らの報告では,PTH 投与群でアレンドロネート
を凌駕する腰椎骨密度増加が認められ,大腿骨近位部においてもアレンドロネートに比較して高い骨
密度増加効果を認めている。PTH 投与では,対照群と比較して椎体骨折頻度を 77%減少させたこと
が報告されている(図 6)10)。また,PTH(テリパラチド)20μg 投与群によって対照群との比較で非
椎体骨折を 53%減少させることも報告されている。
われわれは,約 20 年前に悪性腫瘍における高 Ca 血症の原因物質として PTHrP のクローニングを
行ったが,当時は PTHrP が骨粗鬆症治療に用いられるとは想像もしていなかった。PTHrP が骨形成
促進剤として臨床的に用いられる日もくるかもしれない。
ラネリック酸ストロンチウムは骨形成促進作用および骨吸収抑制作用をあわせもつ唯一の薬剤であ
り,Spinal Osteoporosis Therapeutic Intervention(SOTI)試験,Treatment of Peripheral Osteoporosis
(TROPOS)試験でその効果が報告されている。SOTI 試験では,プラセボとの比較で 1 年間で 49%,
3 年間で 41%の新規椎体骨折発生リスク低減を認め11),TROPOS 試験では,プラセボに比し有意な非
椎体骨折予防効果を認めている(図 7)12)。また,Seeman らの報告では,80 歳以上の女性に投与をし
たところ,プラセボとの比較で新規椎体骨折頻度は 1 年間で 59%,3 年間で 32%,新規非椎体骨折頻
度は 1 年間で 41%,3 年間で 31%それぞれ減少している13)。
ストロンチウムの放射性核種(Sr-89)は前立腺がんの骨転移における疼痛抑制薬として承認されて
いる。ストロンチウムは骨代謝が活発な部位に集積する性質があり,Eastell らは新たな骨粗鬆症治療
- 19 -
非椎体骨折の累積発生率(%)
RR=0.84,95% CI (0.702-0.995),p=0.04
15
プラセボ群
10
5 5
ラネリック酸ストロンチウム群
0
6
12
24
18
30
42
36
観察期間(ヵ月)
図 7 ラネル酸ストロンチウムの非椎体骨折予防効果(TROPOS 試験)
(文献 12 より引用)
ED-71 0.5μg 群
プラセボ
骨密度変化率(%)
4
ED-71 0.75μg 群
腰椎骨密度
3
*†
2
*†
*†
2
*†
*†
*†
1
ED-71 1.0μg 群
大腿骨頸部骨密度
‡
1
‡
0
0
-1
-1
-2
0
-2
12(ヵ月)0
6
6
12(ヵ月)
*p<0.01(ベースラインとの比較)
, p<0.01(プラセボとの比較)
, p<0.05(プラセボとの比較)
†
図8
‡
ED-71 による腰椎および大腿骨頸部骨密度の変化
薬としてマレイン酸ストロンチウム(NBS-101)の開発を始め,現在,米国で認可を目指して治験が
進められている。
一方,Wnt シグナル伝達経路の構成因子の一つである LRP5 の効果を抗体でブロックして骨形成促
進作用をもたらす創薬も試みられている。
今回,紹介した骨吸収抑制剤・骨形成促進剤は,これまでの諸家の研究で強力な椎体骨折抑制効果
が示されている。現在,わが国では,骨吸収抑制剤しか使用できないが,今後は骨形成促進剤のラネ
リック酸ストロンチウムや PTH を併用して,個々の症例に合った骨粗鬆症治療が行えるようになる
ことが期待されている。
わが国の成績として国際的に注目を浴びているのが ED-71 である。2008 年後半には ED-71 の第 III
相臨床試験での骨折抑制効果判定が発表される予定である。血清 25(OH)D が低値の症例にビタミン D
400IU/日または 200IU/日の補充下で,骨密度増加を主要評価項目として,ED-71 0.5μg,0.75μg,1.0μg
投与の効果を検討した結果,プラセボに比し,ED-71 投与群では腰椎骨密度が増加し,大腿骨頸部骨
密度も維持もしくは上昇させた(図 8)。今後,わが国発の骨粗鬆症治療薬として情報を発信していく
必要があろう。
- 20 -
6
*p<0.001
アンドロゲン除去療法なし(n=20,614)
アンドロゲン除去療法実施(n=6,953)
5
骨折発生率(%)
骨折発生率(%)
*p<0.001
*
24
22
20
18
16
14
12
10
8
6
4
2
0
4
*
*
3
2
1
0
全骨折
椎体骨折
大腿骨頸部骨折
アンドロゲン除去療法:1 回以上の GnRH 製剤投与,または除睾術。
骨折発生率:前立腺がん診断後 12~60 ヵ月の骨折発生率を解析。
図9
アンドロゲン除去療法の前立腺がん患者における骨折率(文献 14 より引用)
骨粗鬆症治療の今後の展望
現在,原発性骨粗鬆症治療はおもに女性対象であり,男性の骨粗鬆症や大腿骨頸部骨折に対する認
識は不十分といえる。さらに,どういった人のリスクが高く,どんな薬剤が有効なのか,また海外で
証明されたリスク因子が日本人にあてはまるのかなど,検討課題は山積している。
最近,天皇が前立腺がんを罹患し,骨粗鬆症の可能性もあることが報道されたことで,泌尿器科医
から骨粗鬆症のケアについて質問されることが増えた。これまで泌尿器科医が日本骨粗鬆症学会や日
本骨代謝学会に参加して研究発表して情報公開する機会は少なかったが,今後はたとえばリュープロ
レリンやアンドロゲン抑制療法を受けた前立腺がん患者に対する骨粗鬆症治療や,骨密度増加,骨代
謝マーカー改善の方法を泌尿器科医とともに考えていくことも重要である。N Engl J Med 誌に,アン
ドロゲン除去療法実施患者では,全骨折や椎体骨折,大腿骨頸部骨折の発生頻度が増加することが報
告されている(図 9)14)。
年齢が若いころには心筋梗塞や糖尿病治療が重要視され,高齢になって骨粗鬆症に罹患しても,す
でに多くの薬剤を服用しているために治療が後回しにされることが多いのが現状だが 15),それでよい
のだろうか。椎体骨折や大腿骨頸部骨折の既往がある女性に対して骨粗鬆症管理が行われる割合はわ
ずか 18%であり,女性の骨粗鬆症患者でさえもプライオリティが低いのが現状である16)。われわれ内
科医をはじめ,整形外科医や産婦人科医で骨粗鬆症関連学会に参加したい者,あるいは情報を知る機
会が少ない医師に,少しでも骨粗鬆症を認識してもらい,積極的に治療やケアを行えるような素地を
つくることが緊急の課題であろう。
かつて骨粗鬆症に関心のある内科勤務医は一人もいなかったともいわれるが,現在はそうではない
と思われる。それでも糖尿病・高血圧・高脂血症と比較すれば骨粗鬆症のプライオリティは低い。そ
こで医師に対する骨粗鬆症の啓蒙,可能なら患者を通じての啓蒙が必要と考える。日本骨粗鬆症学会
に多くの医師に参画いただき,学会をより活性化し,今後は多くの骨粗鬆症患者を適切に治療してい
くことが重要と思われる。
文
献
1) 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(代表折茂
肇)編. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドラ
イン 2006 年版. 東京: ライフサイエンス出版; 2006.
2) Kannus P, et al. J Bone Miner Res 2006;21:1836-8.
3) 第 8 回日本骨粗鬆症学会速報. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006 年版
Osteoporosis Jpn 2006;14:665-8.
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シンポジウム開催.
4) Chesnut III CH, et al. J Bone Miner Res 2004;19:1241-9.
5) Black DM, et al. N Engl J Med 2007;356:1809-22.
6) Rossouw JE, et al. JAMA 2002;288:321-33.
7) Miller PD, et al. J Bone Miner Res 2008;23:525-55.
8) Bekker PJ, et al. J Bone Miner Res 2004;19:1059-66.
9) McClung MR, et al. N Engl J Med 2006;354:821-31.
10) Neer RM, et al. N Engl J Med 2001;344:1434-41.
11) Meunier PJ, et al. N Engl J Med 2004;350:459-68.
12) Reginster JY, et al. J Clin Endocrinol Metab 2005;90:2816-22.
13) Seeman E, et al. J Bone Miner Res 2006;21:1113-20.
14) Shahinian VB, et al. N Engl J Med 2005;352:154-64.
15) Health Plan Employer and Information.
16) 厚労省長寿科学総合研究班 2005.
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財団法人
骨粗鬆症財団主催
第 50 回教育ゼミナール講演会記録
2008 年 11 月 7 日発行(非売品)
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ALF08記録00801
ISBN978-4-89775-258-7
2008年11月作成