平成 17 年長審第 74 号 遊漁船昭生丸乗揚事件 言 渡 年 月 日 平成 18 年 7 月 31 日 審 判 庁 長崎地方海難審判庁(尾崎安則,長浜義昭,吉川 理 事 官 坂爪 受 審 人 A 名 昭生丸船長 職 操 縦 免 許 損 進) 靖 小型船舶操縦士 害 船首部に圧懐,推進器翼,同軸に曲損,舵柱,操舵機に損傷 釣り客 1 人が頭部挫創,頸椎捻挫 原 因 飲酒運航防止措置不十分 主 文 本件乗揚は,飲酒運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を 1 箇月 15 日停止する。 理 由 (海難の事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成 17 年 4 月 8 日 23 時 40 分 長崎県樺島東岸 (北緯 32 度 33.6 分 2 東経 129 度 47.4 分) 船舶の要目等 (1) 要 目 船 種 船 名 遊漁船昭生丸 総 ト ン 数 4.8 トン 長 11.78 メートル 機 関 の 種 類 ディーゼル機関 登 録 出 (2) 力 220 キロワット 設備及び性能等 昭生丸は,昭和 58 年 7 月に進水し,航行区域を限定近海区域とするFRP製小型兼用船 で,船体後部に操舵室を,その前部に船員室をそれぞれ配置し,操舵室前部左舷側に船員 室への出入り口があり,同部右舷側に操舵輪を装備し,その船尾側に自動車のリクライニ ングシートを流用した操縦席を備え,操舵輪船首側の左右に渡した棚上にレーダー,GP Sプロッタ,自動操舵装置及び魚群探知器を装備していた。 3 事実の経過 昭生丸は,A受審人が 1 人で乗り組み,釣り客 3 人を乗せ,遊漁の目的で,船首 0.52 メ ートル船尾 1.08 メートルの喫水をもって,平成 17 年 4 月 8 日 22 時 50 分長崎県茂木港を発 し,同県樺島の南西方 20 海里ばかりの釣り場に向かった。 これに先立ち,A受審人は,約 8 時間の睡眠を取って同日 06 時半に起床し,漁獲物の陸 送作業に当たったのち昼食を取り,13 時から友人 1 人とともに茂木港周辺の瀬でヒジキ漁を 行い,19 時ごろに帰港し,採取したヒジキの陸揚げ作業等を終えたので,その友人を慰労す ることとしたが,22 時 30 分に前示の遊漁目的で出航する予定であったものの,少量であれ ば操船に支障はないだろうと思い,飲酒を断念するなり,知人に船長の代理を依頼するなり して飲酒運航の防止措置を十分にとることなく,船内で飲酒を始めた。 A受審人は,空腹状態のまま,19 時 30 分ごろから 21 時過ぎまでの間に,350 ミリリット ル入りの缶ビール 3 本と焼酎約 2 合を飲んだのち,さらに長崎市の繁華街に出かけて同缶ビ ール 1 本を飲み,22 時半帰船したときには,足下が少しふらつく酩酊状態となっていた。 こうして,A受審人は,操縦席に座って手動操舵にあたり,23 時 08 分半トウノ瀬照射灯 から 115 度(真方位,以下同じ。)0.5 海里の地点で,樺島南東岸を右舷側に 200 メートルば かり離す 221 度に針路を定め,機関を回転数毎分 2,000 の全速力前進にかけ,17.0 ノットの 対地速力で進行した。 23 時 26 分A受審人は,アルコールの影響を受けて強い眠気を覚え,右舷側の窓を開けて 外気を入れたものの効なく,いつしか居眠りに陥り,無意識のうちに操縦席から下りて左脇 の床に座り込み,舵を放置したことから,舵がわずかに右に取られた状態となって回頭を始 め,23 時 40 分樺島灯台から 054 度 0.9 海里の地点において,昭生丸は,船首が 240 度を向 いたとき,原速力のまま,樺島東岸の岩場に乗り揚げた。 当時,天候は曇で風力 2 の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。 乗揚の結果,船首部に圧壊を,推進器翼及び同軸に曲損を,舵柱及び操舵機に損傷をそれ ぞれ生じたが,のち修理され,船員室で寝ていた釣り客の 1 人が,1 週間の加療を要する頭 部挫創及び頸椎捻挫を負い,同月 15 日A受審人は遊漁船業者の廃業届を出して受理された。 (本件発生に至る事由) 1 3 時間後に釣り客を乗せて出航する予定のとき,飲酒したこと 2 少量であれば操船に支障はないだろうと思い,飲酒を断念するなり,知人に船長の代理を 依頼するなりして飲酒運航の防止措置を十分にとらなかったこと 3 酩酊状態で出航したこと 4 操船中に居眠りに陥ったこと (原因の考察) 本件は,遊漁船の操縦者が,飲酒して判断力を低下させ,酩酊状態となって出航し,居眠り に陥って樺島に乗り揚げるに至ったもので,3 時間後に釣り客を乗せて出航する予定のとき, ヒジキ漁を終えて帰港したのち,一緒に漁に出かけた友人を慰労するに際し,自らは飲酒を断 念するなり,知人に船長の代理を依頼するなりして飲酒運航の防止措置を十分にとっていたな ら,酩酊状態で出航することも操船中に居眠りに陥ることもなく,昭生丸が樺島に乗り揚げる 事態を回避できたと認められる。 したがって,A受審人が,3 時間後に釣り客を乗せて出航する予定のとき,少量であれば操 船に支障はないだろうと思い,飲酒を断念するなり,知人に船長の代理を依頼するなりして飲 酒運航の防止措置を十分にとらなかったことは,本件発生の原因となる。 (海難の原因) 本件乗揚は,夕刻ヒジキ漁を終えて帰港したのち,一緒に漁に出かけた友人を慰労すること とした際,飲酒運航の防止措置が不十分で,操縦者が酩酊状態で出航し,夜間,長崎半島南東 岸に沿って南下中,居眠りに陥り,樺島東岸に向かって進行したことによって発生したもので ある。 (受審人の所為) A受審人は,夕刻ヒジキ漁を終えて帰港したのち,一緒に漁に出かけた友人を慰労すること とした場合,3 時間後に釣り客を乗せて出航する予定であったのだから,安全に航行できるよ う,飲酒を断念するなり知人に船長の代理を依頼するなりして,飲酒運航の防止措置を十分に とるべき注意義務があった。ところが,同人は,少量であれば操船に支障はないだろうと思い, 飲酒運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により,飲酒して判断力が低下し,多 量に摂取して酩酊状態となったまま出航し,単独で手動操舵中に居眠りに陥り,樺島東岸に向 かって進行して乗揚を招き,昭生丸の船首部に圧壊を,推進器翼及び同軸に曲損を,舵柱及び 操舵機に損傷をそれぞれ生じさせ,釣り客 1 人に頭部挫創及び頸椎捻挫を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1 項第 2 号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を 1 箇月 15 日停止する。 よって主文のとおり裁決する。
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