漁船松福丸浸水事件(簡易) - 海難審判・船舶事故調査協会

公益財団法⼈
海難審判・船舶事故調査協会
平成 20 年函審第 31 号
漁船松福丸浸水事件(簡易)
本件は,国土交通省設置法等の一部を改正する法律(平成 20 年法律第 26 号)附則第 4 条の規
定に基づき,同法第 3 条の規定による改正前の海難審判法(以下「旧法」という。
)の規定により
行うものである。
言 渡 年 月 日 平成 20 年 11 月 13 日
審
判
所
函館地方海難審判所(工藤民雄)
理
事
官
古川隆一
受
審
人
A
名
松福丸船長
職
操 縦 免 許
小型船舶操縦士
損
害
主機,逆転減速機,交流,直流発電機,雑用ポンプなどを濡損
原
因
主機の冷却海水管系統の点検不十分
裁 決
主
文
本件浸水は,主機の冷却海水管系統の点検が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
裁決理由の要旨
(海難の事実)
1
事件発生の年月日時刻及び場所
平成 19 年 12 月 19 日 08 時 30 分
北海道恵山岬北方沖合
(北緯 41 度 56.0 分 東経 141 度 13.0 分)
2
船舶の要目
船
種 船
名
漁船松福丸
総
ト ン
数
11.25 トン
登
録
長
13.90 メートル
機 関 の 種 類
出
3
力
過給機付 4 サイクル 6 シリンダ・ディーゼル機関
368 キロワット
事実の経過
松福丸は,昭和 56 年 3 月に進水した,すけとうだら刺し網漁業及びえびかご漁業に従事す
るFRP製漁船で,機関室のほぼ中央には,主機としてB社が製造したS6B3F-MTK型と
呼称する連続最大出力 368 キロワット同最大回転数毎分 2,000 のディーゼル機関と逆転減速機
とを組み合わせて装備し,動力取出し軸で油圧ポンプ,集魚灯用交流発電機,充電用直流発電
機及び雑用ポンプなどをそれぞれ駆動できるようになっていた。また,機関室船尾左舷側には
ビルジポンプが設置されていたが,ビルジ警報装置は設けられていなかった。
主機の冷却は,間接冷却方式で,清水冷却器を内蔵した膨張タンクから清水ポンプにより吸
引加圧された冷却清水が,潤滑油冷却器,各シリンダジャケット及び排気マニホルドに送られ,
各部を冷却したのち,温度調整弁を経て膨張タンクに戻る経路で循環しており,この清水系統
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には,清水温度が摂氏 98 度以上で作動する温度上昇警報装置が設置されていた。
一方,冷却海水系統は,機関室船底 2 箇所の船底弁から取り入れられた海水が,吸入管で合
流し,海水こし器を介して海水ポンプで吸引加圧され,逆転減速機潤滑油,空気及び清水の各
冷却器に通水されたのち,左舷船側の吐出口から船外に排出されるようになっていた。
ところで,冷却海水系統の海水ポンプ吸入管には,外径 63.5 ミリメートル(以下「ミリ」
という。)厚さ 3 ミリの銅製管が,長さ約 250 ミリのゴム継手をバンド止めにより中継ぎして
使用されていた。
A受審人は,昭和 56 年 4 月の就航時から船長として乗り組み,操船のほか機関の運転保守
にも当たっており,平素,出航前に潤滑油量や冷却清水量の点検を行うほか,漁期の合間には
業者に依頼して機関の整備を行っていた。
松福丸は,平成 19 年 9 月下旬,業者により潤滑油及び同こし器エレメント,冷却海水系統
の保護亜鉛各交換など機関の整備が行われたとき,海水ポンプ吸入管のゴム継手差込部におい
て長期間の使用により同管の腐食衰耗が進行していたが,海水管系統の点検及び整備が行われ
ないまま機関の整備を終え,やがて 10 月下旬から北海道恵山岬沖合の漁場において,日帰り
のすけとうだら漁に従事しているうち,前示の腐食衰耗していた海水ポンプ吸入管に破孔が生
じ始めた。
A受審人は,同 19 年 12 月 19 日 07 時 20 分ごろ北海道尾札部漁港において,主機の始動準
備のため機関室に入ったとき,前示海水ポンプ吸入管破孔部からの海水の漏洩を認めることが
できる状況であったが,それまでビルジ量の著しい増加が見られなかったことから,海水管系
統に異常がないものと思い,海水管を注視するなどして,同管系統の点検を十分に行っていな
かったので,このことに気付かず,主スイッチを投入し,潤滑油量及び冷却清水量の各点検を
行ったのち機関室を離れて操舵室に行き,主機を始動した。
松福丸は,A受審人ほか 2 人が乗り組み,すけとうだら漁の目的で,07 時 30 分尾札部漁港
を発し,恵山岬北東方沖合の漁場に向かっていたところ,前示海水ポンプ吸入管の破孔が拡大
して多量の海水が機関室に浸入するようになり,冷却海水の不足により主機冷却清水温度が上
昇した。
こうして,松福丸は,主機を回転数毎分 1,600 にかけ,10.5 ノットの対地速力で航行中,冷
却清水温度が警報設定値を超え,08 時 30 分恵山岬灯台から真方位 011.5 度 7.3 海里の地点に
おいて,温度上昇警報装置が作動し,操船中のA受審人が主機を回転数毎分 600 に落として機
関室へ赴いたところ,機関台頂部まで浸水しているのを発見した。
当時,天候は晴で風力 4 の北西風が吹き,海上には白波があった。
A受審人は,主機を停止し,僚船に救助を要請したのち,急ぎ水中ポンプによる排水作業に
取り掛かった。
この結果,松福丸は,主機,逆転減速機,交流及び直流発電機並びに雑用ポンプなどを濡損
したが,来援した僚船に曳航されて北海道臼尻港に引き付けられ,のち,主機及び逆転減速機
が修理され,交流及び直流発電機並びに雑用ポンプなどが取り替えられた。
(海難の原因)
本件浸水は,主機の冷却海水管系統の点検が不十分で,海水ポンプ吸入管が腐食衰耗して破口
を生じ,多量の海水が機関室内に浸入したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
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A受審人は,主機の運転保守に当たる場合,冷却海水管に破孔などを生じて機関室内に海水が
漏洩することがあるから,漏洩箇所を見落とさないよう,海水管を注視するなどして,同管系統
の点検を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,それまでビルジ量の著しい増加
が見られなかったことから,海水管系統に異常がないものと思い,海水管を注視するなどして,
冷却海水管系統の点検を十分に行わなかった職務上の過失により,海水ポンプ吸入管から漏洩し
ていることに気付かず,多量の海水が機関室内に浸入する事態を招き,主機,逆転減速機,交流
及び直流発電機並びに雑用ポンプなどを濡損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,旧法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1 項第 3 号
を適用して同人を戒告する。
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