旅客船マイタウン橋桁衝突事件(簡易)

平成 16 年横審第 80 号
旅客船マイタウン橋桁衝突事件(簡易)
言 渡 年 月 日 平成 17 年 1 月 20 日
審
判
庁 横浜地方海難審判庁(中谷啓二)
理
事
官 松浦数雄
受
審
人 A
職
名 マイタウン船長
海 技 免 許 四級海技士(航海)
損
害 船首甲板の天蓋に設置の大型ガラス板 3 枚破損
原
因 橋梁下を航行時、バラスト漲水状況の確認不十分
裁 決 主 文
本件橋桁衝突は,橋梁下を航行するに当たり,バラスト漲水状況の確認が不十分で,船体と
橋桁との間隙を保たなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
裁決理由の主旨
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成 16 年 7 月 16 日 18 時 10 分
東京都隅田川
2 船舶の要目
船
種
船
名 旅客船マイタウン
総
ト
ン
数 118 トン
全
長 29.60 メートル
機 関 の 種 類 ディーゼル機関
出
力 367 キロワット
3 事実の経過
マイタウン(以下「マ号」という。
)は,船首端に操舵室を備えた最大搭載人員 510 人の鋼
製旅客船で,京浜港東京区及び同区に接続する河川流域において,水上バスと称し専ら定時運
航されていたところ,A受審人ほか機関長が乗り組み,旅客 68 人及び売店従業員 2 人を乗せ,
船首 1.2 メートル船尾 2.3 メートルの喫水をもって,平成 16 年 7 月 16 日 17 時 55 分当日の第
6 便として日の出桟橋を発し,隅田川河岸の東京都台東区浅草地区にある水上バス発着場に向
かった。
ところで,日の出桟橋と浅草地区間は,航程約 5 海里,所要時間約 40 分で,その間,10 数
箇所に橋梁が存在し,マ号を含む多数の旅客船を就航させているB社は,運航基準として,各
船が橋梁下を航行するに当たっては船上の空間を 20 センチメートル(以下「センチ」
という。
)
以上保つ旨を定めていた。
A受審人は,航程半ばに位置し,長さ約 185 メートル幅約 25 メートル中央桁下端の東京湾
平均海面上高さが約 4.7 メートルで,目的地までの各橋梁の中で最も高さが低い,永代橋下を
航行するに当たり,操舵室屋根上の起倒式マストを倒すことに加え,潮位によって喫水調整が
必要であることを知っており,東京芝浦地区の潮高が 180 センチ以上ある時間帯には,下流の
築地川水門にある水位標も確認したうえ,あらかじめ 5 箇所のバラストタンクをフルバラスト
として喫水を 30 センチばかり深め対処していた。そして,同バラスト操作は,操舵室左舷前
部に設置されているバラストポンプ制御盤上で主電源を入れたのち,制御電源,自動,注水
開始とそれぞれ記された各ランプ付押しボタンスイッチ(以下「スイッチ」という。
)を順次
入れる手順になっており,全タンクが満水となるまでに約 13 分を要し,漲水状況については,
同制御盤上のバラスト管系統図に添って取り付けられているバラストポンプの運転停止,バル
ブの開閉,バラストタンクの水位などの状態を示す各ランプの点灯状況により容易に確認でき
た。
当日の運航開始に先立ちA受審人は,永代橋航過時に喫水調整を要することから,起倒式マ
ストを倒し,前便において日の出桟橋出航後にフルバラストとして浅草地区を折り返し,永代
橋を航過後,日の出桟橋での乗下船を容易にするため,いったんバラストを全量排出しており,
第 6 便の発航わずか前,再度必要なバラスト漲水を行う際,発航時刻が遅れ気味で気が焦り,
制御電源スイッチを入れたのち自動スイッチを入れることを失念したまま注水開始スイッチを
入れた。そして,発航後に各バラストタンクへの漲水が行われていない状況であったが,注水
開始スイッチのランプが点灯していたことから漲水されているものと思い込み,バルブ等の状
態を示す各ランプの点灯状況により漲水状況を十分に確かめることなく,このことに気付かず,
喫水調整が行われないまま隅田川を北上した。
18 時 05 分ごろA受審人は,永代橋から 600 メートルばかり下流に架かる中央大橋を航過
し,まもなく永代橋付近を南下する数隻の屋形船を認め,適宜機関を使用しながら河流の右側
に寄せてそれらの通過を待ったのち,18 時 09 分同橋まで約 80 メートルの東京都江東区永代 1
丁目の三角点 2.70 メートル(以下「永代三角点」という。
)から 320 度(真方位,以下同じ。)
100 メートルの地点で,針路を永代橋の中央部に向け 344 度に定め,機関を微速力前進にかけ,
2.9 ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
A受審人は,依然,漲水状況を確かめないまま永代橋中央部に差し掛かり,川筋に沿うよう
徐々に右転中,18 時 10 分永代三角点から 333 度 170 メートルの地点において,マ号は,019
度に向首したとき,船首甲板の天蓋頂部が永代橋の橋桁下端に衝突し,これを擦過した。
当時,天候は晴で風力 1 の南西風が吹き,潮候は下げ潮の初期であった。
衝突の結果,永代橋橋桁に損傷はなかったが,マ号は,船首甲板の天蓋に設置されている大
型ガラス板 3 枚を破損した。
また,本件後,安全対策としてマ号のバラストポンプ制御盤上に,スイッチ操作順序及び各
バルブやポンプの作動,タンクの状態を確認すべき旨の注意事項が記されたパネルが取り付け
られた。
(原 因)
本件橋桁衝突は,隅田川において,永代橋下を航行するに当たり,バラスト漲水状況の確認
が不十分で,喫水を深めて船体と橋桁との間隙を保たなかったことによって発生したものであ
る。
(受審人の所為)
A受審人は,隅田川において,永代橋下を航行するに当たり,喫水を深めるためバラスト漲
水を行う場合,漲水状況を十分に確かめるべき注意義務があった。しかるに,同人は,バラ
ストポンプ制御盤上でバラスト操作後,注水開始スイッチのランプが点灯していたことから漲
水されているものと思い込み,同制御盤上のバルブ等の状態を示す各ランプの点灯状況により
漲水状況を十分に確かめなかった職務上の過失により,漲水が行われていないことに気付かず,
喫水を深めて船体と永代橋橋桁との間隙を保たないまま航行して橋桁との衝突を招き,マ号船
首甲板の天蓋に設置されている大型ガラス板を破損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第 4 条第 2 項の規定により,同法第 5 条第 1
項第 3 号を適用して同人を戒告する。