内閣官房社会保障改革担当室 パブリックコメント係 御中 パブリックコメント(8 月 6 日締切) 「社会保障・税番号大綱」に関する意見 氏名 須田昭夫 東京保険医協会 政策調査部 部長 住所 〒160-0023 新宿区西新宿 3-2-7 KDX 新宿ビル 4F 電話 03-5339-3601 Fax 03-5339-3449 [意見] ・意見内容 以下のとおり 1.営利活用を踏まえた番号制度は国民のためにはならない 大綱 3 ページ 10 行目より、 「国民が不満・負担等を感じる状況は、民間サービスにおい ても生じており、民間事業者も正確な本人特定・本人確認のために多大なコスト・時間・ 労力を要している状況にある。」と表記されている。このようなことを大綱に記述している からには、将来的には情報連携基盤の活用を民間にも推し進めるのであろうと推測する。 また、平成 23 年 2 月 22 日に行われた第 5 回社会保障・税に関わる番号制度に関する実務 検討会では、各経済団体と意見交換をしており、議事要旨の中では将来の民間活用の可能 性もゼロではないことがうかがえる。もし、営利を目的とした民間事業までもが情報連携 基盤を活用できるとすれば、それに対しては明確に反対する。 平成 23 年 2 月 23 日に行われた第 6 回社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検 討会において各医療団体等が述べているように、医療は社会保障という枠組みの中で提 供されるもので、高い公共性と非営利の部分で価値があるものである。営利を追求する ところで患者の診療情報等を利用されることは健全な国民生活を損なうことにつながり、 反対である。 該当箇所:第2基本的な考え方>1.番号制度の導入の趣旨>(2)課題について (大綱 3 ページ) 2.匿名化情報は匿名ではない 当該箇所の最後の段落において「個人の匿名性を確保した上で診療情報等の二次利用を 行えば、医療統計データの効率的な収集が可能となり、医学の向上にも資することとなる」 とされているが、医療情報の取り扱いについてまだ議論がなされていない現時点で二次利 用について言及することはあまりにも時期尚早である。また匿名性の確保について、真に 匿名化を実現することは困難であると認識する。医療統計データとして有用なデータを構 築するには地域情報、年齢といった情報がどうしても必要になる。東京大学大学院情報学 環の山本隆一氏によれば、個人特定を困難にするため様々な対策を講じているが、完全な 匿名化とは言えないとされている。 医療情報の匿名化については海外諸国でも問題とされている部分である。イギリスでは 国民のプライバシーを守るために、一部の情報については公開・非公開だけでなく、デー タベースに登録をしないという選択肢も患者に提示し、患者の意思に基づいて運営されて いる。特に機微性のある医療情報についてはイギリスの例に倣って国民の意思が最大限に 尊重されるような措置が取られなければならない。 該当箇所:第2基本的な考え方>2.番号制度の導入の趣旨>(3)制度導入の目的と期 待される効果について (大綱 4 ページ) 3. 共通番号制度はきめ細かな社会保障と逆行する まず税と社会保障を一体的に考えることは必要なのか。社会保障とは個人の負担額に応 じて給付量が決まるようなものではなく、個人の必要度に応じて社会保障給付を国家が責 任を持って遂行するべき公共サービスである。もし負担に応じて給付が決まるようであれ ば、それはもはや社会保障とは言えない。正確な所得の把握と適切な社会保障給付は全く 別の問題である。 当該箇所(大綱 5 ページ)においては今回番号制度を導入する目的は国民の「社会保障 給付を適切に受ける権利」、「種々の行政サービスの提供を適切に受ける権利」を守るため である旨が記されているが、この「適切に」という言葉だけでは 2 通りの運用が考えられ る。すなわち「不正に必要以上の給付・サービスを受けることを是正すること」と、 「給付・ サービスの抑制」である。現時点での本大綱の考え方としては前者の解釈であろうが、所 得の把握を前提とした公平・公正な給付を目指すという点では後者の解釈に転換すること もありうる。本来、各家庭・各人の状況は全く異なるもので、社会保障給付というものは それぞれ個別に対応が求められるものである。所得把握だけでは測り知れない事情を汲み 取ることができないのであれば、むしろこれまでよりきめ細かい保障を達成することは不 可能であると考える。 本文中にもあるように今回導入する番号制度は主として給付のための番号として制度設 計することとされている。上記のとおりきめ細かい社会保障は個別に対応することが前提 となってくるのでその前提に逆行する番号制度には反対である。 該当箇所:第2基本的な考え方>1.番号制度の導入の趣旨>(5)我が国の理念につい て (大綱 5 ページ) 4.総合合算制度は社会保障制度を形骸化させるものである 番号制度を導入すれば今までよりきめ細やかな社会保障給付を実現できると考えるのは 大きな誤りである。端的な例をあげるとすれば、所得・負担額が明確にわかったからとい って各人に必要な保険給付や要介護度の認定がされるようになるのかというともちろんそ うではない。きめ細やかさを決定するのは番号ではなく各制度の内容と心のこもった運営 であろう。 また大綱 6 ページ中に掲げる「総合合算制度(仮称)」は社会保障個人会計にも繋がる恐 れがある。これは年金、医療、介護、雇用保険等の社会保障情報を、番号を用いて個人単 位で名寄せ・突合して明確にする仕組みである。社会保障個人会計においては個人におけ る負担と給付の割合が明らかになり、負担額の少ない経済的弱者を足手まといだと認識さ せ、社会的地位を脅かす恐れがある。また制度包括化は各社会保障制度の柔軟さを奪い、 給付の硬直化をも招いてしまうのではないか。本来であれば国民的議論が必要である施策 であるのに、総合合算制度が何たるかがまだ国民に周知されていない段階で政府が導入を 決定することは国民の意思を無視することにつながる。 該当箇所:第2基本的な考え方>2.番号制度で何ができるか>(1)よりきめ細やかな 社会保障給付の実現について (大綱 6 ページ) 5.不明確な番号制度の定義付けは医師と患者の信頼関係を損なう 大綱 8 ページ文中①及び③に「医療機関等」という表現があるが、医療従事者の立場か らするとこれは非常に曖昧な表現である。医療行為は患者から得られた情報と患者の同意 のもと行われ、個人の秘密は厳しく守られてきた歴史的な原則がある。個人情報の保護は ヒポクラテスの時代から医療が成り立つための大原則である。この原則によって医師・患 者の信頼関係が築かれ、臨床医療が成立してきた。個人情報の保護は欧米5つの学会が共 同で作成し、米英の代表的な医学誌に同時発表した「医師憲章」にも明文化されているこ とである。その後、日本医師会も独自の医師憲章を作成して、個人情報の保護を求めてい る。医療情報は特に機微性の高い個人情報であることから、医療機関等という表現にどの ような組織が含まれるのかを明確にしてもらわなければ、患者にメリット、デメリットを 伝えることができず、信頼関係を損なうおそれがあり、ひいては医療の根幹を揺るがすも のともなりうる。 また、第2―2. (6)③難病等の医学研究“等”(12 ページ)でも同じように目的が曖 昧なままとなっている。「誰が使うのか」「どのような目的に使われるのか」を明確に定義 されないままであれば、具体的な意見を述べることができず、パブリックコメントを募る 意義も薄れてしまう。 プライバシー保護の不十分な番号制度には反対の立場であるが、なんとしても共通番号 制度を実現するのであれば、このような曖昧な表現を残さず具体的な内容をもって制度の 範囲を明確化することが必要である。 該当箇所:第2基本的な考え方>2.番号制度で何が出来るのか>(3)災害時の活用に 関するものについて (大綱 8 ページ) 6.幻の「所得捕捉格差」是正ではなく、税制の抜本的改革が必要 大綱の全体の要旨としては国民全員の所得を把握しないといけないという立場であった のに対し、該当箇所では「事業所得や海外資産・取引情報の把握には限界がある」と指摘 しているようにすべての所得は補足できないという限界性を説明している。そのように、 この制度は重大な欠陥を持ち合わせている。 この所得の正確な捕捉の障碍としていわゆる「クロヨン」問題があると考えられるが、 果たしてこのクロヨン問題とは実在するのであろうか。所得捕捉格差があるというならそ の実態を示すべきである。所得捕捉格差があるかどうかを検証もせずに共通番号によって すべての国民の所得を把握し、適切な社会保障を目指すというのは砂上の樓閣を築こうと するようなものである。 日本弁護士連合会が示すように、高額所得者に対しては、把握された所得に対する課税 も累進的とは言えない。平成 19 年の政府資料である申告納税者の所得税負担率では、申 告所得額が 5000 万円から 1 億円の層の所得税負担率 26.5%をピークにそれ以上の高額所 得者の所得税負担率は極端に減少している。真に公平な税負担を掲げるのであればまずは 共通番号の導入よりも税制の抜本的改革を先に行うべきではないのか。また日本は企業に よる社会保障費の負担が少ないことで知られている。まずこのことを改めるべきである。 該当箇所:第2>5.番号制度の可能性と限界・留意点>(2)番号制度の限界 (大綱 19 ページ) 7.本人同意を前提としない番号制度は国家によるプライバシー侵害である 大綱 20 ページにおいて原則として本人同意を前提としない仕組みとするとされている がこれは信じ難い暴論である。国家が国民の個人情報を集積することは、個人情報が外部 に漏洩するかどうかの問題ではなく、憲法 13 条に保障された「最大の尊重をされる」べ き個人の人権の問題である。個人情報の取扱について国民の同意を前提としないのであれ ば、仮に法律で定めたとしてもそれは国家による重大な憲法違反である。 そもそも年齢も判断能力も問わずに日本国内にいるすべての人に番号が強制的に付番さ れ、国民に管理責任を押し付けるということにも同意しかねるところである。海外ではエ ストニアのように、出生と共に個人認証番号を付番する国もあるが、我が国においては戸 籍制度がすでに存在し、大きな問題を起こすことなく今日まで運営されてきた。 戸籍制度等にみられるようにこれまでの行政サービスの実績を鑑みれば、多額の費用を 投じて個人のプライバシーを脅かし、利益が少なく危険極まりない共通番号制度を導入す ることはまさに百害あって一利なしといえるだろう。 該当箇所:第2>5.>(4)本人同意の取り扱いについて(大綱 19~20 ページ) 8.システム導入のコストは国が責任を持つべきである 政府の試算では共通番号制度を導入するにあたり初期費用が最大 6000 億円も必要にな るとしている。これに対する経済効果を示していただきたい。初期費用には金融機関、医 療機関、介護事業所等の民間側の負担は含まれていないと思われる。本文中に「…費用を 誰がどのように負担するかについて、受益者負担の観点も踏まえつつ、別途検討する必要 がある…」との表記があるが導入のコストについては国が責任を持つべきである。そして、 誰がどのような経済的利益を得るのかを示して欲しい。医療機関窓口において瞬時に医療 保険資格の確認が可能になれば確かに便利ではあるが経済的な利益はわずかである。その システムの導入コストが高額で、なおかつ各医療機関の負担を強いられるという事であれ ば、いくら事務コストを下げられると言っても導入は難しい。我が国の保険診療において は、消費税はかからず患者から徴収しない一方で、医療機関は診療に使う機器については 消費税を払わなければならないと同時に実質的には診療報酬には消費税が反映されず医療 機関は厳しい経営を強いられている。金融機関、医療機関、介護事業所で働く人も国民で あり、これらの場所で働く人々がメリットを感じられないのに費用負担を強いることは許 されない。社会保障サービスの為に必要なインフラということであれば、導入のコストに おいても国が責任をもつのが当然である。 また、なりすまし対策や被害を被った国民への保障といった社会的コストも含まれてお らず、政府の試算は雑なものであると言わざるを得ない。共通番号制度導入によって諸手 続きの簡素化など事務コストは削減できるだろうが、それは国民にとっては間接的な便益 にすぎず、国民が恩恵を感じられるのは各社会保障制度による給付を充実させることによ ってしか達成できない。 該当箇所: 第 2>2.>(5)事務・手続きの簡素化、負担軽減に関するもの>②医療機関における 保険資格の確認 (大綱 11 ページ) 第2>7.今後の進め方>(3)番号制度の導入に係る費用と便益について (大綱 22 ページ) 9.納税者番号と社会保障番号を共通の番号とすることは有害である 納税者番号と社会保障番号を共通の番号とする必要性はない。むしろ有害であり、共通 番号としないこと。 社会保障の給付は年金のような現金給付サービスと、医療のような現物給付サービスに 大別される。社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会中間とりまとめ (平成 22 年 6 月 29 日)の段階では B-1 案「税務分野+社会保障の現金給付に利用」、B-2 案「税務 分野と社会保障情報サービスに利用」というように分かれていたはずであるが、本大綱に おいてはその二つを混同している。機微な情報に関しては特段の措置を設けるという言葉 だけではプライバシーは守られない。例として「レセプト情報等の提供に関する有識者会 議」がすすめるナショナルレセプトデータベースがある。このデータベースでは、蓄積し たデータの使用に関して研究のみを目的として活用の検討を始めている。しかしこのデー タベースに格納されているデータは2回暗号化を施したと言いつつも、東日本大震災では 患者のレセプト情報を引き出し、個人を特定することが可能であることを白日の下に晒し た。このナショナルレセプトデータベースの是非については医療界でも統一意見が熟成さ れていないが、百歩譲歩してこのデータベースの存在を許したとしても、研究のみを目的 としているデータベースを、将来は民間活用も考えている情報連携基盤にリンクさせるこ とに関して全くメリットを感じることができない。むしろプライバシーの問題を考えれば デメリットのほうがはるかに大きい。遺伝的疾患や重大な疾患情報が漏洩した場合、社会 保障の充実はおろか、むしろ個人の生活や、雇用まで脅かしてしまうことを忘れてはなら ない。 医療情報に関してはあくまでも情報連携基盤を通じて番号と紐付けせず、それらとは別 の体系で独立させるべきである。 該当箇所:第3 法整備>1.社会保障分野 (大綱 33 ページ) 10.第三者機関は政府から独立すべき 第三者機関は強い独立性を確保するべきである。 平成 23 年 6 月 24 日の第 10 回社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会では 公正取引委員会のような国家行政組織法第 3 条に基づく委員会ではなく、同法第 8 条に基 づく委員会の設立ということも検討しているしかし 8 条委員会は所管省庁に従属する組織 のため、公正取引委員会のような独立性はなく、人事や予算などで親省庁と密接な関係が ある。このような独立性のない委員会を設立したとしても、それは形だけの第三者機関で あり、そのような貧弱な監視機能で国民のプライバシーを守れると考えているようであれ ば言語道断である。福島第一原発の事故は独立性のない委員会が所管省庁を監視できない ことを教えてくれた。 万が一国民の情報が漏洩すれば芋づる式に秘匿な情報までも他人の目にさらされてしま う。そのようなプライバシーの問題だけでなく、マイポータル等での本人なりすましによ り、実際に金銭的な被害を被ることもありうる。事後的に不正利用、犯罪を取り締まった としても被害者の被った損害の埋め合わせとはならない。 すでに諸番号制度を導入しているヨーロッパ諸国では第三者機関の管理・監視機能を強 めプライバシーの確保に注力している。住民基本台帳ネットワークシステム最高裁判決に よる要件「個人情報を一元的に管理することができる期間または主体が存在しないこと」 に対する対策としては、分散管理、番号そのものではなく符号を使用、符号から番号を推 測できない様にする旨が記載されている。これは大綱 5 ページに挙げられているオースト リアのセクトラルモデルを参考にしているものであると認識するが、そのオーストリアで は第三者機関であるデータ保護委員会が政府から独立しており、各政府機関同士がデータ を融通する場合にはデータ保護委員会を介さなければならないというシステムになってい る。国民のプライバシーを守り、国民から信頼されるに足りるものとしたいのであればオ ーストリアのように第三者機関を介するシステムが妥当である。また、ドイツにおける第 三者機関であるデータ保護監察官は連邦議会や各州議会により選出されており、公的機関 を監督することとなっている。 第三者機関の行政上の立場については上記の国々に習い、独立性を確保すること。 該当箇所: 第2>4.>(3)住民基本台帳ネットワークシステム最高裁判決との関係 (大綱 17 ページ) 第3法整備>Ⅺ 第三者機関について (大綱 48 ページ)
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