「新品種のアンケートについて」 「アイダホ旅行記」

「新品種のアンケートについて」
「アイダホ旅行記」
有限会社菊水堂
代表取締役
岩井菊之
「新品種のアンケートについて」
(現場の実情と目的)
日本いも類研究会アンケート17年版
日本いも類研究会アンケート18年版
アンケートの内容は、すでにホームページに掲載してありますので、それぞれご覧いただけ
ます。この度の講演会では、パワーポイントを使って、現場の実情とその目的は何なのかとい
うところを、さらにご理解いただければという気持ちで講演させていただきました。
ポテトチップを作っている工場の現況をまず簡単に説明いたします。
有限会社 菊水堂
埼玉県八潮市垳(がけ)58番地
つくばエクスプレス線の秋葉原始発駅から数え8番目の八潮駅で降りていただいて、約1km
の距離に位置しています。
昭和28年05月 設立
昭和39年06月 ポテトチップ製造
昭和41年06月 製造設備調査のため渡米
昭和49年11月 日本ポテトチップ協会創立
平成06年10月 埼玉県彩の国工場の指定を受ける
馬鈴薯使用量 2000トン/年
私が、ポテトチップ用馬鈴薯に望むものとして、4点挙げさせていただきました。
1.おいしい:適期に収穫された完熟したもので、貯蔵性の良いもの。
2.安心:生産履歴が記録され、早い調査ができること。
3.安全:必要最低限の農薬を使用および管理されていること。
4.差別化:安価な米国、中国 原料および製品との競争に対抗するもの。
特に4番目の問題は、全く予想がつきませんが、大変な脅威で、20、30年ほど前には、
冷凍の馬鈴薯であるポテトフライが、円高を背景に、安価な米国製品として津波のように日本
を襲いました。同様のことがいつポテトチップで起きてもおかしくないのではないかと思って
います。
1、2、3の点については、弊社では馬鈴薯工場搬入時に受入検査および使用履歴を付け、
管理しております。
さて、新品種の馬鈴薯でポテトチップを作り、配布試食を
試みてみたいというきっかけは、
「ばれいしょ加工適性研究会」にオブザーバー参加させてい
ただいたことです。
本年は、平成19年2月27−28日に開催され、参加させ
ていただきました。この研究会では、新品種のサラダ、コロ
ッケ、フライ等の適性について、検討されています。
参加して感じたことは、
1.使用目的の範囲が狭い(サラダ、コロッケ、フライ等)。
2.ラボ実験が多い。
3.試食者が限定的。
4.いろいろな品種がある。
また疑問や「何か手伝いたい」との思いが生じました。
1.ホントにおいしいの?
2.使用目的にこだわらず、何でもポテトチップにしてみよう。
3.弊社のポテトチップ本ラインに流して製造してみよう。
4.皆に試食してもらえたら、おもしろい結果ができるのでは?
5.皆に新品種の育種されている苦労などを知ってもらいたい。
6.ポテトチップにすれば、気楽に参加できるのでは!
ポテトチップ本ライン製造の問題点
1.作付面積が少ないけれど、最低必要量160kg の原料がほしい。
2.数分で揚げるため、一回勝負。失敗が許されない。
3.新品種は揚げた経験がない。
4.ロット毎の優位差が出ないように連続で製造。
5.同一条件(厚さ、ブランチング温度、塩味)で作る難しさ。
6.品種に適した条件で設定できない。
事前の受入検査で、フライ予測を立てますが、ギャンブルをやるよ
うなものです。
毎日の温度記録とテスト時の温度記録のデータを画像でお見せし、比
較させていただきましたが、日頃は、温度ぶれ幅が±2℃程度で安定
しているものが、テスト時のデータでは、温度曲線が、ノコギリの刃
のようになっていて、うまく説明できませんが、乱気流の中で飛行し
ているようにご理解いただけたらと思います。
東京家政学院学生の資料を一部お借りして、講演会資料として説明いたしました。
当日の記録では、(ほぼ原文のまま記載します)
1.コガネマル;10℃高く流れてしまった。
予定では 145℃で投入予定が 155℃で投入してしまった。
2.オホーツクはフライ中、早く火を止めすぎた。
3.西海は、温度低下が予想外に早く起きてしまい、後半はちゃんと揚がらなかった。
4.インカパープル(チップス)のサンプル時刻は、実際はもう少し遅かったと思われる(社
員さんがアルミ袋に詰めてくれていた。)
5.スライス後にデンプンを落とすために 20 秒ドラム中で洗浄し、ブランチング槽を2分間か
けて処理する。しかし、小ロットではタイムラグができてくるので、実際には、生スライス
サンプリング後に、2分 20 秒以上経ってからブランチング後のサンプルを採取した。
6.フライ時間は約3分(イモの様子を見ながら、ヒーターを入れたり消したりして調節する)
7.インカレッドのブランチング温度は本来 75℃くらいだが、設定をし忘れたため、
最初のうちは西海と同じくらいの温度のままで、後半一気に温度を上げた。(記録時は
67.5℃)
8.西海は、前回(7/7)の条件に合わせるために、本来のイモの状態の最適温度よりも低めの
ブランチング温度で実施した。
9.原料イモの皮をむく必要がないことを「コガネマル」の時に社長さんが指示を出していた。
10.フライ温度は大ロットでは3分間(油への投入時と揚げる際)不変だが、小ロットでは
変動しやすいため、今回は、菊水堂さんの指示が出た時点で温度を読み取った。
以上。
これを読んで、何が起きているか、説明しにくいのですが、
いろいろなトラブルに見舞われていることは、ご理解いただ
けると思います。トラブルのものは、なるべく廃棄をし、正
常なものを皆様に送れるようには、努力いたしました。
東京家政学院試食風景を会場で、お見せいたしましたが、
真剣なまなざしで取り組んでいただいたことに感謝の気持ち
でいっぱいです。また、皆様のご協力ありがとうございまし
た。
これからの課題
1.新品種を積極的に宣伝し、理解を深めたい。
2.多くの参加者を募りたい。(昨年は、実りのフェスタで、試食配布しました)
3.この研究会で来年度も実施したい。
4.他国に負けない、より良いチップ原料をぜひ開発していただきたい。
5.おいしいポテトチップを作り続けたい。
アイダホ旅行記
(息子と一緒に観光旅行)
私と息子
私は、小学校高学年頃から父と九州長崎、四国高知、関東、北海道など、訳もわからずに、
産地回りに同行していました。
私の息子も幼い頃は、茨城の畑に、小学生になると北海道道南で、ハーベスターに乗り選果の
手伝いなどをし、馬鈴薯に触れさせてきました。昨年は、ちょうど中3の夏休みにあたったの
でアイダホへ「おいしいステーキが食べられる」と誘い、連れて行きました。
息子の卒業論文(パワーポイントを借用しました。ほぼ原文のまま記載します。
)
「じゃがいもの必要性」
<じゃがいもとは>
1.じゃがいもとは、ナス科のナス属の植物で、私たちが普段食べているのはじゃがいもの茎
(塊茎)の部分です。
2.原産国は南アンデスでそこからヨーロッパに伝わり、ヨーロッパから日本に伝えられまし
た。
3.当時は観賞用として使われていましたが、飢えをしのぐ食べ物とわかり、急速に各地へ広
まりました。
<じゃがいもの品種>
日本の主な品種
1.男爵
2.メークイン
アメリカでは
1.ラセットバーバンクが有名です。
<じゃがいもの需要>
日本では年間約370∼400tのじゃがいもが使われています。
大きく分けると、家庭用、加工食品用、でんぷん原料の三つに分けられます。
1.家庭では肉じゃが、カレー、味噌汁の具など
2.加工用ではコロッケ、ポテトサラダ、フライドポテトの原料
3.でんぷん原料では片栗粉として、インスタントラーメンによく使われています。
<じゃがいもの栄養>
じゃがいもは野菜の性質とご飯のような食べ物の性質をもっています。
じゃがいもはビタミン C とカリウムを多く含み、各種ビタミンをバランスよく含んでいます。
卵と組み合わせるとほとんどの栄養素を摂取できるといわれ、乳製品、肉など、各種食べ物と
も合い『組み合わせの王様』と言われています。
<結論>
気候の変動に強く、ポテトチップ、フライドポテト、肉じゃが、カレーなどさまざまな料理
に使用できる重要な作物です。
いろいろな栄養面に富んでいるため、これからの食料危機に十分対応できます。
以上。
私は、卒業論文の発表会に参加しました。発表慣れしていないので、大変早口でしたが、与
えられた時間は3∼5分間でしたので、要点が整理されていると感じました。近年は、インタ
ーネットで簡単に検索できるので、どなたかの資料の丸写しかもしれません。その節は、ご容
赦ください。
アイダホの話の前におさらいとして、以下の画像を見ていただきました。
まずは、畑の大きさの比較です。
1.北海道士幌町の掘取り風景(平成16年)
2.中国雲南省の馬鈴薯畑(平成16年)
3.4年ほど前に訪れたアイダホの畑(平成14年)
5.飛行機から見たアイダホの畑(平成18年8月)
4.雲南省のじゃがいも畑(平成16年)
6.じゃがいも展示圃場(平成18年8月)
日本の圃場と比べると、どれも広大さを感じさせられます。アイダホのハーベスターは、特
に大きく感じます。ただ、雲南省のじゃがいも畑は、二毛作をすると思える点などから、圃場
としては、広大だけれども、人海戦術で収穫するのではないかと思えます。
次に、じゃがいもの売り場風景です。
1.雲南省昆明の市場(平成16年)
2.大連ウオルマート(平成17年)
3.きれいに並んだ陳列棚(平成18年8月アルバートソン)4.陳列棚(平成18年8月ウォルマート)
5.家の近くのスーパーマーケット(平成19年3月3日)
アイダホのスーパーのじゃがいもは、どれもきれいで、おいしそうに陳列されています。雲
南省では、二次成長のものは少し見られますが、これもきれいでした。中国大連のものも、黒
土でしたが、それほど悪くはありません。大変残念なのは、八潮市の家の近くのスーパーマー
ケットです。打撲痕と発芽、緑化のものばかりで、日本は先進国なのか? 大変疑問を持ちま
す。東京日本橋の有名な百貨店でも残念ながら、同様のものに遭遇することがあります。父が
9年程前にバングラデシュに行って見たじゃがいもは、大変よいものだと言っていましたし、
写真でもきれいに写っていました。
講演の最後に
「食品衛生研究」3月号p.41−43の話をしました。
緑化イモの自然毒(α-ソラニンおよびα-チャコニン)による食中毒事例を茨城県日立保健所
の方が投稿しています。
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平成17年7月小学6年生が食中毒になった事例で、食中毒発症グループ全体では、体重あ
たり2.51mg/kg、非発症グループでは1.92mg/kgとなっています。比較事例
として、平成13年6月兵庫県内幼稚園、発症児1.52mg/kg、非発症児1.14mg
/kgとあり、若年者の感受性が高いという内容です。
対策として
1.ジャガイモの栽培時には植え付け間隔を大きくし、芽かきをして茎を1∼2本としてジャ
ガイモを大きく育て、土寄せしてジャガイモに日光があたって緑化しないようにする。
2.緑化しているジャガイモは避ける、または皮をむき調理し、苦みを感じたら食べるのをや
めること。
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以上部分引用しました。
私がこの部分をお話しした目的は、対策にあります。
1.については、
収穫後、未熟芋を風乾させ、緑化させた可能性が高いことが原因と思われました。栽培につ
いては、約30cm間隔に植えているので、問題はないと考えました。
2.については、
緑化イモは、そもそもおいしくないので、苦みを感じる前に、食べるのをやめた方がよいの
ではないかと思いました。古い社員などには、緑化イモのポテトチップを食べさせたりしてい
ます。おいしくないです。子どもには、美味しいものを食べてもらいたい。先生が、自分たち
が栽培したから、「おいしい」というのは、正しいけれど、ちょっと方向性が違うと思い、講演
の話題にさせていただきました。
また、環境破壊についても感じたことがあります。
1.中央左側で山火事(Snake River を背景に)
2.川の上流に堰がある(Shoshone Falls を背景に)
3.二つの滝の右側は堰に(Twin Falls を背景に
4.川を挟んで乾燥地帯(Boise)
アイダホでは、Snake River を利用し、積極的に水を利用した歴史があります。それは、ゴ
ールドラッシュです。金を掘るために、多くの水が必要で、積極的に堰を作り、灌漑をしたよ
うです。これが、現在の馬鈴薯の大産地として成長してきた1つの要因のようです。一方で、
この年は、各地で山火事があったようで、テレビでも放映されておりましたし、ハイウェイの
隣接する山の、山火事にあった痕や1の写真の遠方にみえる山火事の映像など、環境破壊の問
題も痛感させられました。Snake River の水は、冬の積雪によるところが大きいようです。今
年の関東地方は、冬の積雪が少ないので、夏場の水不足が懸念されるとのニュースがありまし
たが、同様のことが起きているものと思われました。
スナック売り場について
1.スナック売り場(アルバートソン)
3.ホテルでポテトチップの袋を開けて観察
2.スナック売り場(ウォルマート)
米国は特に、ポテトチップの売り場が多いように感じます。また、コーンのスナックも多く、
多くの陳列スペースをとっています。スーパーで買ってきたポテトチップをホテルで観察しま
した。きれいなポテトチップに中心空洞、少し焦げているもの、緑化などがありました。けれ
ども、世界で一番きれいなポテトチップではないでしょうか。
最後になりましたが、第 6 回世界馬鈴薯会議は、
1.第 6 回世界馬鈴薯会議(アイダホ18年8月20日−26日)
2.会場の昼食に赤皮のじゃがいも
3.ラセットバーバンクをデザインしたデザートのアイスクリーム
4.FARM SHOW
5.じゃがいも展示圃場
会場の様子、昼食に出た赤皮のじゃがいも、夕食に出たアイスクリーム、参加した皆様の様
子、そして、最後の日程のじゃがいも展示圃場での、砂と一緒に掘取り、砂埃をあげながらの
収穫、掘取り搬送、トラックに積む直前の状態など、一連の作業を観察しました。
さらなる挑戦
1.安心できるじゃがいも
2.よりおいしいじゃがいも品種
3.いつもおいしいポテトチップ
気軽に今度、世界馬鈴薯会議に行きませんか?
「春のパリへ」
追記
春休みの最後を利用し、息子と激動の上海に行って参りました。蛇足ですが、付け加えさせ
ていただきます。
目的は、息子に「今」を見せたかったことです。どう変わるでしょうか?
1.激動の中国上海と上海郊外の町(朱家角)
2.80年程前の現存する上海フランス租界の家(近日取り壊し)
3.林立する上海マンション群
4.高級レストランと上海家庭料理
5.豚の尻尾から耳まで何でも売っているスーパーの売り場
上海に着いて迎えてくれた上海の友人に、「3年ぶり」と挨拶。私には、この10年で6回目
の上海の町です。晴れているのに空はよどみホコリっぽく、人混みとクラクションの音が迎え
てくれました。南の島、ロンドン、パリ、アイダホなどに行った息子は、かなりなショックを
受けていました。「今度は、静かなところでのんびりしたい」と。
私は、学生時代から10年連続で、変わり行く尾瀬を訪れ、自然破壊の様子をスライドのよ
うに記憶にとどめています。上海はどうでしょうか?
観光地のヨ園、外難、浦東は、欧米人を始め地方の中国人など多くの観光客で埋め尽くされ
ています。自転車は減っているものの、二輪車専用道路があり相変わらず多く、車もドイツ、
米国、韓国、日本などの合弁企業の車が多いため、各所で大渋滞。
上海中心部から50km 程の朱家角にも多くの観光
客が訪問していました。友人の案内で、路地裏に入り、
地元の生活を垣間見ました。ふと白い壁から両親の昔
の農家の香りが漂ってきました。
友人のフランス租界の家、上海観光地「新天地」の
ように是非残してほしい。画家陳秋草(昨年生誕10
0周年の行事が上海美術館で行われた)の造った家で
す。この絵は、1970年後半に、陳秋草が「四人組」
を上海蟹に見立てて風刺したもので、友人の父親が所
有しています。私は、この家庭に招かれ、この絵を観
て大変感動しました。学生時代、「文化大革命」は、
大変すばらしいと教えられ、それを信じて疑いません
でした。
上海のマンション群は、激動なのでしょうか、バブ
ルなのでしょうか? 入口には多くの警備員が立ち、
部屋にはコードレス電話、無線LAN(ADSL)のパ
ソコン、40インチ以上の液晶テレビ、大理石のテー
ブル、紫檀の家具。息子は、どう感じたのでしょうか?
「お父さんと違って、友達は皆、金持ちだね」と。料
理は、昼食のレストランでの飲茶が一番美味しかった
と言っていました。
スーパーの売り場では、きれいにラッピン
グされ産地表示されたじゃがいもが売られ
ていました。これは、新じゃが(新土豆)6
円/㎏と書かれていました。大変きれいなも
のでした。
私の買った「上好佳」ポテトチップ(50
g45円、100g70円)は、3月製造で、
きれいな揚がりと障害などがなく、油も3年
前より良くなり、貨物船で身近な上海のポテ
トチップは、大変な脅威に感じました。
スーパーの生鮮食肉売り場は、息子にとっ
ては、苦痛そのものでした。
これから、北京オリンピック、上海万博と続きます。中国はどう変わるのでしょうか? 私
には、答えは見えません。
前出の息子の卒業論文「じゃがいもの必要性」には、「<結論>気候の変動に強く、ポテトチ
ップ、フライドポテト、肉じゃが、カレーなどさまざまな料理に使用できる重要な作物です。
いろいろな栄養面に富んでいるため、これからの食料危機に十分対応できます。」と結んでいま
す。
日本の馬鈴薯産業の発展に多くを期待するところです。