あじさい Vol.14,No1,2005 Jan.2005 Vol.14 No.1 ★特集 シリーズ 疾病に影響を及ぼす薬剤−6 『甲状腺疾患』 要旨:甲状腺機能異常には、甲状腺ホルモンが不足するために生じる甲状腺機能低下症と、過剰により 生じる甲状腺機能亢進症の2つがあり、それぞれ逆の作用を呈する疾患です。甲状腺ホルモンは標的臓器をも たず、全身の臓器・ 組織に作用します。 甲状腺機能に影響を与える薬剤で、「 甲状腺機能疾患」の患者に投与禁忌の薬剤には、中枢神経興奮薬の 塩酸メチルフェニデート、ペモリン、局所麻酔薬( エピネフリンを配合した場合)、抗コリン薬の塩化アセチルコチ ン、塩化ベタネコール、ナパジシル酸アクラトニウム、塩化カルプロニウム、ネオスチグミン、昇圧薬の塩化エチレ フリン、メチル硫酸アメジニウム、ドロキシドパ、塩酸ミドドリン、血圧降下剤のニトロプルシドナトリウム、鎮咳薬の エフェドリン、ホルモン剤の乾燥甲状腺配合薬、泌尿生殖器用薬の塩酸リトドリン、Mg 配合の輸液、禁煙補助剤 のニコチンなどがありました。 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 2.甲状腺の働き ◎ 甲状腺について1) 甲状腺の働きは、(図2)のように食物中のヨードを 材料にして甲状腺の中で甲状腺ホルモンを2種類 1.甲状腺とは 合成し、血中に分泌する内分泌の臓器です。その 甲状腺は咽頭と気管の前面にある内分泌腺で、 甲状腺ホルモンは、トリヨードサイロニンといって3個 ちょうど蝶が羽を広げて気管を抱くような形でくっつ のヨードを含むT3、もう一つはサイロキシンといって いています。大きさは、左右に広く縦4cm厚さ1cm 4個のヨード含むT4とそれぞれ呼ばれ、トリヨードサ で重さは15g、正常の甲状腺は柔らかいので外か イロニン(T3)の方がサイロキシン(T4)より4倍も強 らは触ってもわかりません。 い働きをします。甲状腺ホルモンの量は、脳にある 脳下垂体からでる甲状腺刺激ホルモン(TSH)によ 図 1 甲状腺 り調整されています。 甲状腺機能を正常に保つ、ヒトでのヨード必要量 は、1日当たり、100∼200μg です。 74 あじさい Vol.14,No.1,2005 3.甲状腺ホルモンの働き 甲状腺ホルモンのは、体の新陳代謝を促す作用 があります。 発育や成長に欠かすことができず、また全身(脳、 心臓、消化管、骨、筋肉、皮膚、その他)の新陳代 謝を活発にする働きがあり、精神神経や身体の活 動の調整にも働きます。 図 2 甲状腺の働き 図 3 甲状腺・ 副甲状腺のホルモンの作用 甲状腺 副甲状腺 甲状腺ホルモン( T4、 代謝促進 カルシトニン 血中Ca低下 副甲状腺ホルモン 血中Ca上昇 ◎甲状腺の病気の種類2)3) 1.甲状腺機能亢進症 機能亢進症は、色々な原因で甲状腺ホルモン の分泌が増えて(血液中の甲状腺ホルモンが多 すぎる)、体の新陳代謝を必要以上に高める指示 をだしてしまう為におこる疾患です。 よって、年中暑がり、汗がでて、だるくなり、 怠け者や更年期障害と間違われやすいのです。 原因疾患として、一番多い病気はバセドウ病で す。他に何かの原因で甲状腺組織が破壊され、 一過性に甲状腺に貯められていたホルモンが血 中に流れ出る無痛性甲状腺炎や、高熱が出て甲 状腺部位が痛む亜急性甲状腺炎、ホルモンを分 泌する腫瘍ができる甲状腺機能性結節などがあ ります。 甲状腺疾患は、病因による分類、甲状腺腫の有 無による分類、甲状腺機能による分類でわけられて おり、それぞれが重なりあうため理解しにくいことが あります。(図4)甲状腺の病気には、甲状腺の「働 き」の変化と「形」の変化という二つの特徴がありま す。病気によって機能の変化と形の変化が両方現 れたり、あるいはどちらか一方だけが現れたりしま す。 甲状腺の病気にはたくさんの種類がありますが、 大きくわけると以下の3つの疾患に分けられます。 図4 甲状腺疾患の概念4) 甲状腺腫があるか 単純性びまん性甲状腺腫 線腫様甲状腺腫 甲状腺腫瘍 亜急性甲状腺炎 機能性甲状腺結節 化膿性甲状腺炎 橋本病 バセドウ病 機能異常があるか 甲状腺ホルモン 過剰服用 術後、131I治療後 無痛性甲状腺炎 特発性粘液水腫 バセドウ病 橋本病 病因は自己免疫か ( 抗体が陽性か) 橋本病 バセドウ病 ( ユーサイロド グレーブス病) 甲状腺疾患は甲状腺腫の有無、機能異常の有無、病因の三つの観点から分類されている。 それぞれの○の内側は各設問がYESのもの、外側はNoのものを示す 75 あじさい Vol.14,No1,2005 表1 ルモンを作り続けるバセドウ病になると考えら れています。 <症状> 病態別にみた甲状腺機能亢進症の種類 病態 疾患 全身症状 暑がり、疲れやすい、だるい、体重減少、又は体重増加 バセドウ病(ユーサイロドグレーブス病) 体温 微熱 gestational transient hyperthyroidism 顔つき・首 目つきがきつい、眼球突出、複視、甲状腺腫大 神経・精神症状 イライラ感、落ち着かない、集中力低下、不眠 循環器症状 動悸、頻脈、心房細動、心不全、むくみ、息切れ 消化器症状 食欲亢進、食欲低下、口渇、軟便、排便回数増加 皮膚 発汗、脱毛、かゆみ、皮膚が黒くなる ヨードバセドウ 甲状腺ホルモンの 甲状腺ホルモン不応症(一部) 過剰生産 繊毛性疾患(一部) toxic stuma ovary TSH産生腫瘍 無痛性甲状腺炎 甲状腺からの ホルモン流出 筋骨症状 亜急性甲状腺炎 脱力感、筋力低下、骨粗鬆症、手足のふるえ 周期性四肢麻痺( 男性のみ) 出産後一過性甲状腺中毒症 甲状腺ホルモンの 甲状腺ホルモンの過剰服用 摂取 食品への甲状腺ホルモンの混入 太字は一般内科医が遭遇する頻度の高い疾患を示す 月経 月経不順、無月経、不妊 血液値 コレステロール低下、血糖上昇、血圧上昇、肝障害 <治療> バセドウ病の治療方法には、抗甲状腺薬の内 服、手術(甲状腺亜全摘術)、アイソトープ治療 (放射線ヨード内服)の3つの治療法がありま すが、病気の程度やライフスタイルによって選 択は異なります。 はじめは抗甲状腺薬を服用し、個人差や病気 の状態など経過を見て治療法を決めます。薬は 長期服用する必要があるので、それが困難な場 合は手術やアイソトープ治療も考えます。どの 治療法を選ぶにしても、ポイントは甲状腺ホル モンを正常な量にコントロールする事です。そ して、甲状腺ホルモン量が正常になれば、健康 な人と変わらない生活ができます。 1) バセドウ病 甲状腺機能異常があると、全身にさまざまな 症状が現れます。 まず新陳代謝が活発になり、その為に常にジ ョギングしているような状態で、脈拍が速く、 汗が多く、暑がりで疲れやすくなる、37.5℃前 後の微熱といった症状が現れます。 精神的には、落ち着きが無く、いらいら感や 不眠になり、食欲が増しても体重が減ってしま う人や、むしろ食べ過ぎて体重が増えてしまう 人もいます。 顔つきや目つきがきつくなったり、眼が出て くる眼球突出はバセドウ病の代表的な症状です が、眼球突出をきたす割合は3割程度です。甲 状腺腫とは、甲状腺が腫れて大きくなっている ことで、甲状腺の腫れは首が太くなってきて気 づきます。しかし、自分の顔は毎日鏡で見てい るのにその下の首は、かなり腫大しても気づか ない事があります。 又、60歳以上の高齢者は甲状腺が腫れにく い為、甲状腺疾患が見逃される理由の1つだと 思われます <原因> 体質の変化により、自分の甲状線を異物とみ なして、甲状腺の細胞の表面にある TSH レセ プターに対する自己抗体(TSH レセプター抗 体:TRAb)が産生されます。 この TRAb が甲状腺の TSH レセプターにくっ つくと、常に甲状腺を刺激する為に、甲状腺ホ 76 あじさい Vol.14,No.1,2005 表2 甲状腺機能亢進症の治療 治療法 1.薬物療法 抗甲状腺剤 無機ヨード 15) 適応 副作用 すべての症例 無顆粒球症 過敏症、肝機能障害 胃腸障害、皮膚 手術前や放射線治療後の甲状腺中毒 過敏症 症。甲状腺クリーゼや重症心不全で迅速 Jodbasedow な治療を要する場合 甲状腺中毒症の増悪 特徴 甲状腺ホルモン合成を阻害する。効果発 現まで3∼6週かかる 数日で効果が現れる。10∼28日でエス ケープが起き、無効になる場合がある 糖質コルチコイド 無機ヨードと併用して迅速な効果を期待 高血糖、消化性潰瘍 する場合 感染症増悪など 甲状腺ホルモンの放出とT4からT3への 交換を阻害する。効果発現は早い βブロッカー T4からT3への交換阻害作用はあるが、 基本的には補助的薬剤 抗甲状腺剤治療の初期や無機ヨード使 用時の甲状腺中毒症状の改善 気管支喘息 心ブロックや徐脈 2.放射線内照射 手術後の再発例。高齢者や全身状態か 放射線甲状腺炎 ら手術を行わず、抗甲状腺剤も使えない 治療後の機能低下が高率に起きる 場合 効果発現に数週かかり数ヶ月後でも効果 は続く。甲状腺腫の大きさにより投与量を 決める。治療前の甲状腺中毒症のコント ロールが重要 3.手術療法 甲状腺腫瘍を伴う場合。若年者(30歳以 副甲状腺機能低下症 術前の甲状腺中毒症のコントロールが重 下)や妊娠中で抗甲状腺剤が使えない場 甲状腺機能低下症 要 合。巨大な甲状腺腫 反回神経麻痺 出血や感染など一般的な手術の副作用 くなります。 <抗甲状腺薬の服用上の注意> バセドウ病の治療法である抗甲状腺薬はMM I(メルカゾール)、PTU(チウラジールかプ ロパジール)の2種類しかありません。薬は甲 状腺ホルモンの合成、生産を抑制する作用があ り、病気により多すぎる甲状腺ホルモンを常に 正常値内に入れるよう薬の量を調節します。 2.甲状腺機能低下症 機能低下症は、逆に甲状腺のはたらきが衰え て、血液中の甲状腺ホルモンが少なくなる疾患 です。冷え、皮膚の乾燥、無気力、もの忘れ、 いつも眠い、受け答えがゆっくりになるなどの 症状がでる為、怠け者やうつ病と間違われる事 もあります。 ほとんどが甲状腺に慢性の炎症がある橋本病 ですが、血液中の甲状腺ホルモンが正常の範囲 内にあり、甲状腺の肥大の少ない橋本病の場合 は、とくに治療の必要はありません。 又、特発性粘液水腫といって、甲状腺が破壊さ れ萎縮した為に甲状腺ホルモンが作りきれなく なってしまう病気もあります。 ① 甲状腺ホルモンが正常値内に入って自覚症 状がなくなったからと言って、服用を中止 すると数カ月で再発します。検査しながら 甲状腺ホルモンの正常化により、薬を徐々 に減量していき最後には1日おき1錠まで になります。その状態で、バセドウ病の原 因物質であるTRAb(TSHレセプター 抗体)の陰性化が数カ月続けば、薬は中止 できます。 ② 抗甲状腺薬を服用していても甲状腺ホルモ ンが高くなる事があります。その場合薬を 増量する事になります。そのため時々検査 が必要です。 再発防止のため1年以上の薬の服用が必要で す。薬を中止後、再発する可能性がないとは言 えない為、自覚症状がなくても必ず6ヶ月に1 度ずつ血液中の甲状腺ホルモンが正常のままか どうか検査が必要です。再発した場合は薬の再 開が必要で、早期に治療を開始した方が早く良 77 あじさい Vol.14,No1,2005 乳など可能になります。 なお最近、ヨードが体に大変良いと宣伝され、 根昆布などの健康食品も流行しています。ヨー ドを多く含む昆布は、一部の人や橋本病の人に は甲状腺機能低下を助長させるので、普通以上 に食べない方が良いといわれています。 表3 病態別にみた甲状腺機能低下症の種類 病態 疾患 橋本病(慢性甲状腺炎) 先天性甲状腺ホルモン合成障害 甲状腺自体の障害・破綻(原 地方性甲状腺腫(ヨード欠乏による) 発性甲状腺機能低下症) 薬剤性(抗甲状腺薬、リチウム、ヨード製 剤、インターフェロン) 術後、131I治療後 甲状腺への刺激の 欠如・ 阻害 <症状> ① 甲状腺腫大 慢性甲状腺炎のため、硬く腫れてくる場合が多 いです。 ② 甲状腺機能が正常の場合 甲状腺ホルモンが正常値内にあるので身体に 影響はありません。その為、自覚症状は全くあ りません。甲状腺腫が大きい人は、たまに喉の 圧迫感や違和感を訴える人がいます。 ③ 甲状腺機能が低下すると 必要量の甲状腺ホルモンが作りきれない為に、 全身の新陳代謝が悪くなり、以下のような様々 な症状が現れます。 TSHの欠乏*1(シーハン症候群、TSH単独 欠損症など) TRHの欠乏*2(胚芽腫、頭蓋咽頭腫など) TSBAbの存在(特発性粘液水腫) 末梢組織での 甲状腺ホルモン不応症(Refetoff症候群) 甲状腺ホルモン作用の障害 甲状腺破綻後の ホルモンの一過性の欠乏 無痛性甲状腺炎 亜急性甲状腺炎 出産後一過性甲状腺中毒症 1) 橋本病 甲状腺機能低下症の代表が橋本病です。 甲状腺機能低下症は、バセドウ病と正反対で、 甲状腺ホルモンの量が不足して、新陳代謝が低 寒がり、疲れやすい、動作が鈍い、体重増加、声かれ、低 下し全てが老けていくような症状がみられます。 全身症状 音 無気力で頭の働きが鈍くなり、忘れっぽく、ひ 体温 低体温 どくなると痴呆の原因の1つにもなります。寒 顔つき・首 むくみ、甲状腺腫大、のどの違和感、ボーとしたような顔 がりで皮膚も乾燥してカサカサになったり、体 神経・ 精神症状 物忘れ、無気力、眠たい、ぼっとしている 全体がむくみ、髪も抜け、眠気がありボーっと 循環器症状 徐脈、息切れ、むくみ、心肥大 して活動的でなくなります。 消化器症状 食欲低下、舌が肥大、便秘 橋本病も甲状腺臓器特異性自己免疫疾患の1 皮膚 汗がでない、皮膚乾燥、脱毛、眉が薄くなる、皮膚の蒼白 つで、体質の変化により甲状腺を異物とみなし 筋骨症状 脱力感、筋力低下、肩こり、筋肉の疲れ て甲状腺に対する自己抗体(抗サイログロブリ 月経 月経不順、月経過多 ン抗体、抗マイクロゾーム抗体)ができます。 血液値 コレステロール上昇、肝障害、貧血 この抗体が甲状腺を破壊していく為、徐々に甲 状腺機能低下症になっていきます。 しかし、甲状腺が肥大したり、喉の違和感を <治療> 訴え橋本病と診断されても、すべての橋本病が 橋本病で治療が必要なのは、甲状腺が腫れて 甲状腺機能低下症を伴うわけではありません。 大きくなり、のどに違和感がある人、甲状腺機 約40%の人に機能異常があります。 能が低下している人です。 橋本病の治療についてですが、甲状腺機能が 前者では、甲状腺ホルモン剤を服用して様子 正常であれば体に影響がないので薬は必要あり を見ますが、甲状腺が大きくなって気管を狭窄 ません。ただし、甲状腺腫がかなり大きい場合 している場合は手術が必要になる場合がありま は、甲状腺ホルモン剤を服用すると腫れを小さ す。後者では、甲状腺ホルモン剤を服用して不 くする事ができます。 足しているホルモンを補充します。 甲状腺機能低下症がある場合は、 不足している 甲状腺ホルモン剤は、最初は少量ずつ服用し、 量の甲状腺ホルモンを薬として服用します。し 徐々に増やしてその人の体に合った量を調べま かし、単に足りない分を補充しているだけです す。体調がよくなったからといって服用を中止 ので長期間の治療が必要となります。ですが、 してしまう人がいますが、体に足りない分を薬 薬の効果がでれば、すべての症状は消失し日常 で補充してバランスがとれているわけですから、 生活は薬を服用しながら運動、仕事、妊娠、授 毎日決められた量を必ず服用する必要がありま 78 あじさい Vol.14,No.1,2005 す。 橋本病は、甲状腺機能が正常な人は治療の必 要はありません。しかし、将来甲状腺ホルモン 表4 が低下する可能性があるので、三∼六か月に一 度ずつ診察を受ける必要があります。 甲状腺ホルモン製剤(T4 製剤と T3 製剤の特徴の比較)16) 製剤名 正常値へ補充できる 血中ホルモン濃度 半減期 血中ホルモン濃度の安定性 服用法 維持量決定の指標 服用時間と採血時間との関係 T4製剤 T3製剤 FT4及びFT3濃度( 末梢組織でT4からT3へ転 FT3濃度のみ 換されるため) (T3からT4へは転換されない) 6∼7日 FT4、FT3濃度ともに1日中ほぼ一定 TSH濃度も安定 通常、1日1回で可 TSH濃度とともに FT4、FT3濃度の正常化で総合的に判定 TRHテスト 1日 T3投与後急激に上昇、4∼6時間でFT3濃度 はピークに達し、以後急速に減少(激しく変 動) 数回以上に分服を要する TSH濃度のみ FT4濃度は不可能 FT3濃度は動揺するため難しい 考慮不要 考慮必要 作用発現 緩徐、穏やかに効く 急速 作用消失 遅い、持続する 急速 少ない 早期に出現 力価 安定 安定 free型(血中において) 0.04% 0.40% 服用が抜けた場合の影響 昆布以外の海藻はヨードはあまり含まれてい <甲状腺ホルモン剤服用上の注意> ないので気にしないで下さい。 甲状腺ホルモン剤には、人工合成した錠剤のチ ⑥ 甲状腺に痛みや動悸や発熱などがまれに出る ラージン S(L−サイロキシン)と、豚や牛の甲 場合があり、一時的に甲状腺ホルモンが過剰 状腺を摘出して粉末にした乾燥甲状腺末の2種 になる事があります。 類があります。 ① どちらの薬も最初は少量ずつ投与し、徐々に 増量、その人の体に合った維持量を検査しな がら決めます。体の調子が良くなったからと いって薬を中止してはいけません。体に足り ない分を外から補充しているので、毎日決め られた量を服用し、甲状腺ホルモン剤が適量 かどうかを時々検査する必要があります。 ② 薬の効果が出て、甲状腺ホルモンが正常値内 に入り症状がとれるのには個人差があり、病 気の程度などにより1ヶ月∼4ヶ月はかかり ます。 ③ 薬の効果が出て、甲状腺ホルモンが正常値に 入り症状がなくなったら、運動や仕事など何 でも普通の人と同じようにしてかまいません。 しかし薬の服用は、医師の指示通りに行なっ て下さい。 ④ 適量の薬を服用している限り、薬の副作用は 特にありません。妊娠中や授乳中でも安心し て飲めます ⑤ ヨードを多く含む昆布は、甲状腺機能低下を 助長するので普通以上に食べないで下さい。 79 あじさい Vol.14,No1,2005 表5 甲状腺ホルモンの不足、過剰による生体の変化1) 甲状腺機能亢進 甲状腺機能低下 行動 精神過敏、いらいら、暑がり、不眠、せっかち 全体として Negatibe Nitrogen balance基礎代謝が高い酸素消費の増 低成長・低発育、基礎代謝が低い、酸素消費の低下、低体 加、微熱、低コレステロール血症、Oxyhyperglycemia(糖代 温、高コレステロール血症 謝異常) 臓器別 ①心血管 知能低下、精神鈍麻、寒がり・眠がり、動作緩慢 高心拍出、血圧:脈圧の増加、収縮期血圧の増加、拡張期 低心拍出、循環時間の延長、脈拍数の減少、カテコールア 圧の低下、循環時間の短縮、脈拍数の増加、動悸、カテ ミンの受容体の減少 コールアミンの受容体の増加 ②消化器 ③皮膚 ④四肢・指 ⑤免疫 ⑥血液 食欲亢進、多食、下痢、吸収亢進 食欲低下、便秘、吸収低下 湿潤、多汗 乾燥 振戦、筋力低下 筋力低下、Hypotomia 感染症にかかりやすい 感染症にかかりやすい erythropoiesisの亢進、赤血球寿命の短縮、血清Feの減少: 貧血 鉄消失速度の増加、mild leukopenia relative lymphocytosis ⑦体液、電解質 血中Caの増加、低Mg血症 体液貯留、低Na血症:SIADH ⑧顔貌 眼球突出、眼裂の拡大、上眼瞼後退、怖い顔つき 分厚い口唇、巨舌、しもぶくれ 組織 酸素消費の増加、アドレナリンに対する感受性の増加、カテ 酸素消費の減少、アドレナリンに対する感受性の低下、カテ コールアミンの受容体の増加、Na+ーK+ATPase↑ コールアミンの受容体の減少、Na+ーK+ATPase↓ 3. 結節性甲状腺腫 甲状腺内に腫瘤ができる疾患です。腫瘤の多 くは、甲状腺機能には影響しないので、体調や 精神状態に大きな影響がでることはありません。 しかし良性と悪性があり、良性の結節性甲状腺 腫には、甲状腺腺腫注 1 )と、腫瘤が多くできる 腺腫様甲状腺腫と、甲状腺ホルモンを分泌する 甲状腺機能性結節があります。 甲状腺悪性腫瘍は、乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、 未分化癌、悪性リンパ腫など5種類に分けられ ています。 以下のように分類されます。 • • • 甲状腺良性結節(腺腫・腺腫様甲状腺腫・ 嚢胞) 甲状腺悪性腫瘍(乳頭癌、濾胞癌、髄様 癌、未分化癌、悪性リンパ腫) 甲状腺機能性結節( プランマー病) 査である穿刺吸引細胞診を行ないます。 <原因・症状> 原因:不明 症状: 甲状腺腫瘤 一般的に甲状腺の働きは正常で、甲状腺ホル モンに異常はないので身体に影響はありません。 その為に、よほど大きくならない限り自覚症状 はまったくありません。 甲状腺機能結節 甲状腺ホルモンを必要以上作っており、いろい ろな症状(バセドウ病と同じ)がでます 注1) ます。 1. 結節性甲状腺腫は、甲状腺の機能にほとんど 異常がないため自覚症状はなく、知らない間に 徐々に大きくなり、喉の一部が腫れ、腫瘤に気 付いていきます。 自覚症状が何もない為に放っておく患者さん がいますが、悪性腫瘍の場合もああるため、検 査をする必要があります。 腫瘤は、良性か悪性かきちんと鑑別する事が 絶対必要です。その為に、超音波、シンチグラ フィー、MRIなどの画像検査や腫瘤の組織検 甲 状 腺 が腫 れ た り し こ り が で き た り し て 形 態 的 に 変化するものです。甲状腺腫は次の2つに分類され びまん性甲状腺:甲状腺全体がそのままの形で大き くなったもの 2. 結節性甲状腺腫:甲状腺の一部にしこりができたも の 80 あじさい Vol.14,No.1,2005 ます。 TSH は脳下垂体から分泌され、甲状腺ホルモ ン(T3,T4)の生産を調整する甲状腺刺激ホル モンです。血液中の甲状腺ホルモン(T3,T4) が低くなると TSH は増加し、逆に血液中の甲 状腺ホルモンが多くなると TSH が減少します。 甲状腺機能が正常な場合は、血液中の T3、 T4 が低下すれば TSH が増え、逆に血液中の T3、 T4 が多くなると、TSH が減って T3、T4 の分 泌を抑えようとする為に、甲状腺ホルモンは常 に一定量にコントロールされます。このような 調節のしくみをネガティブ・フィードバック機 構といいます。ところが甲状腺機能に異常がお こると、この調節がきかなくなり、甲状腺ホル モンの量が過剰になったり少なくなったりする のです。フリーT3、フリーT4 が高く TSH が低 くなれば甲状腺機能亢進症で、フリーT3 フリー T4 が低く TSH が高くなれば甲状腺機能低下症 となります。 このように、血液のフリーT3・フリーT4・ TSH の3つを測定すれば甲状腺の機能異常か どうかが簡単に診断できます。 びまん性甲状腺腫(バセドウ病や橋本病等) は、甲状腺にだけ特異的に見られる自己免疫疾 患で、自分の甲状腺を異物とみなして甲状腺に 対する自己抗体ができてしまう疾患です。 甲状腺疾患は自己免疫によるものと非自己免 疫、すなわち遺伝子異常などによるものとに分 けられます。機能異常症の大部分は自己免疫に より発病するので、病因の検索として甲状腺自 己抗体を検査します。 表6 非中毒性甲状腺腫の種類 1 単純性びまん性甲状腺腫 びまん性甲状腺腫があるだけで、ホルモ ンの合成に異常のないもの。 び ま ん せ い 甲 状 腺 腫 結 節 性 甲 状 腺 腫 2 バセドウ病 甲状腺を刺激する物質があるためにホ ルモンの合成が高まりすぎるもの。まぶ たがはれたり、目が出たりすることもあ る。 3 橋本病 甲状腺に慢性の炎症がおこったもので、 慢性甲状腺炎ともいう。ホルモンの合成 に異常がないことも多いが合成が低下 することがある。またホルモンが一時的 に甲状腺からもれ出ることがある( 無痛 性甲状腺炎)。 4 亜急性甲状腺炎 甲状腺がはれて痛みがある。しばしば発 熱もある。ホルモンが一時甲状腺からも れ出るために、バセドウ病のような全身 症状をだすが次第に正常になり、再発は まれ。 5 腫瘍性疾患 甲状腺に腫瘍ができる。大部分のものは ホルモンの合成には異常がない。ふくろ 状になったなかに液のたまるものもあ る。 ◎ 甲状腺機能検査 甲状腺機能に異常があるかどうかは、甲状腺 ホルモンと甲状腺刺激ホルモンの血中濃度を測 定すればわかりますが、病因を特定するには自 己抗体検査が必要です。腫瘤が良性か悪性かき ちんと鑑別するには、超音波・シンチグラフィ ー・MRIなどの画像検査や腫瘤の組織検査で ある穿刺吸引細胞診を行う必要があります。 図5 1.血液検査 甲状腺機能に異常があるかどうかは、甲状腺 ホルモンと甲状腺刺激ホルモンの血中濃度を測 定すればわかります。 甲状腺ホルモンには、トリヨードサイロニン (T3)とサイロキシン(T4)という二種類があ ります。血液中に遊離したこの二つのフリーT3 とフリーT4 を測定すれば、甲状腺機能が正常か、 亢進しているか、低下しているかがわかり、使 用している薬の効果も調べる事ができます。 また脳下垂体から分泌される TSH という甲 状腺刺激ホルモンは、T3 と T4 の量をコントロ ールするので TSH もあわせて測定する事によ り、甲状腺機能に異常があるかどうかがわかり 81 ネガティブフィードバック 甲状腺刺激ホルモン 甲状腺刺激ホルモン 甲状腺ホルモン 甲状腺ホルモン 1)バセドウ病の場合 TRAb ができて甲状腺を刺激し、必要以上に 甲状腺ホルモンをつくってしまいます あじさい Vol.14,No1,2005 TPOAb 又はMCHA⇒甲状腺ペルオキシタ ーゼに対する自己抗体です。橋本病やバセドウ 病では、この自己抗体が高く検出されます。 ③ TSHレセプター抗体(TRAb) 甲状腺の細胞にある TSH がくっつく所(TSH レセプター)に対する抗体です。この TRAb は 甲状腺の TSH レセプターにくっついて、甲状 腺を刺激し甲状腺ホルモンをどんどん作らせて しまうので、バセドウ病の原因物質と考えられ ており正常の人は持っていません。 バセドウ病を薬で治療すると、TRAb 値は下 がってきますが、陰性にならないと薬は中止出 来ません。 2)橋本病の場合 TgAb と TPOAb ができて甲状腺を破壊、徐々 に甲状腺ホルモンがつくられなくなってしまい ます。甲状腺の異常は、甲状腺機能検査により わかります。全部で六項目の検査ですが、一回 の採血ですべて測定する事ができます。 病因を特定するには、抗サイログロブリン抗 体(TgAb)、抗ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)、 TSHレセプター抗体(TRAb)の三項目の検 査が必要です。 ① サイログロブリン抗体 TgAb 又はTGHA⇒甲状腺にあるサイログ ロブリンという蛋白に対する自己抗体です。 ② 抗甲状腺ペルオキシターゼ抗体= 抗マイクロゾーム抗体(MCHA) 表7 甲状腺関連血液検査4) 略号 FT4 FT3 T4 T3 T3U TBG rT3 TSH TgAb TPOAb TGPA MCPA TRAb TSAb TSBAb Tg CT 検査名 遊離サイロキシン 遊離トリヨードサイロニン サイロキシン トリヨードサイロニン トリヨードサイロニン摂取率 サイロキシン結合グロブリン リバーストリヨードサイロニン 甲状腺刺激ホルモン 抗サイログロブリン抗体( 精密測定) 抗甲状腺ペルオキシダゼ抗体( 精密測定) 抗サイログロブリン抗体(凝集法) 抗マイクロゾーム抗体(凝集法) TSHレセプター抗体 甲状腺刺激抗体 甲状腺刺激阻害抗体 サイログロブリン カルシトニン 主な検査目的 甲状腺機能異常 甲状腺機能異常 甲状腺機能異常、TBG異常 甲状腺機能異常、非甲状腺疾患 甲状腺機能異常、TBG異常 TBG異常 非甲状腺疾患 すべての甲状腺疾患(原発・続発) 橋本病、バセドウ病 橋本病、バセドウ病 橋本病、バセドウ病 橋本病、バセドウ病 バセドウ病、特発性粘液水腫 バセドウ病 特発性粘液水腫 甲状腺腫瘍、バセドウ病 甲状腺骨髄様癌 参考基準値 0.9∼1.8ng/dl 2.4∼4.4pg/ml 4.5∼13.0μg/dl 0.8∼1.8ng/dl 25∼35% 14∼28μg/ml 19.0∼37.5ng/dl 0.4∼3.5μU/ml <0.3U/ml <0.3U/ml 陰性( 100倍未満) 陰性( 100倍未満) <10% <145% -29∼+21% <30ng/dl <110pg/ml*3 太字は重要な検査、基準値は測定法・施設ごとに異なるのでおよその目安 *1 T4・FT4、T3・ FT3、FT4・ FT3、T4・ TBGとT3Uとでを三つ組み合わせると保険上T3Uは算定されない *2 TgAbとTGPOA、TPOAbとMCPA、TRAbとTSAbそれぞれを同時に測定すると、保険上、一定は算定されない *3 年齢差が大きい 表8 甲状腺疾患を疑った場合の血液検査の選択 FT4 FT3 TSH 抗体 TRAb TG CT びまん性甲状腺腫 疑われる疾患 ◎ ○ ◎ ◎ △ ○ − 結節性甲状腺腫 ◎ ○ ◎ − − ◎ ○ 甲状腺機能亢進症 ○ ◎ ◎ △ △ △ − 甲状腺機能低下症 ◎ ○ ◎ △ △ − − バセドウ病 ○ ○ ◎ ○ ◎ △ − 橋本病 ◎ ○ ◎ ◎ − − − 無痛性甲状腺炎 ◎ ○ ◎ ◎ △ − − 特発性粘液水腫 ◎ ○ ◎ ○ ○ − − ◎:ぜひ実施すべき必須検査 亜急性甲状腺炎 ◎ ○ ◎ △ △ ○ − ○:できる限り実施すべき検査 急性化膿性甲状腺炎 ◎ ○ ◎ − − ○ − △:診断を進めるうえで二次的に実施する検査 甲状腺腫瘍(腺腫、癌) 腺腫様甲状腺腫 ◎ ◎ ○ ○ ◎ ◎ − − − − ◎ ◎ ○ − ー:実施する必要がない検査 82 *1 TgAb+TPOAb あるいは TGPA+MCPA あじさい Vol.14,No.1,2005 表9 びまん性甲状腺腫診断の為の検査と参照基準値 び ま ん 性 甲 状 腺 腫 基準値 甲状腺機能亢進症 甲状腺機能低下症 甲状腺機能正常 TSH 機 能 検 査 (甲状腺刺激ホルモン) ↓ ↑ → 0.7∼1.7ng/dl ↑ ↓ → 2.2∼4.1pg/ml ↑ ↓ → 0.3U/ml未満 バセドウ病で陽性 橋本病で陽性 橋本病で陽性 0.3U/ml未満 バセドウ病で陽性 橋本病で陽性 橋本病で陽性 10%以下 バセドウ病で陽性 4 ( フリーサイロキシン) フリーT 3 ( フリートリヨードサイロニン) 自 己 抗 体 検 査 0.35∼3.8μU/ml フリーT TgAb ( 抗サイログロブリン抗体) TPOAb ( 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体) TRAb (TSHレセプター抗体) 2.甲状腺画像検査:甲状腺超音波 甲状腺の大きさ、炎症や血流の程度や腫瘍が あるのか、腫瘍の性質やリンパ節への転移など がわかります。甲状腺の病気をしている人に最 低限必要な検査です。 ◎各疾患治療時に甲状腺疾患に 影響を与える注意すべき薬剤8)14) 甲状腺ホルモンは全身の臓器・組織に作用し、特 定の標的器官をもちません。甲状腺ホルモンはあら ゆる細胞の核に作用し、その細胞を調節します。そ して甲状腺ホルモンは生体の発育をうながし、代謝 の調節をします。 甲状腺ホルモンの不足、過剰による生体の変化 がおこります。 薬の中には、甲状腺疾患の症状を悪化させるも の、甲状腺機能が薬剤の体内動態に影響を与える ものがあります。 添付文書を参考に薬剤の禁忌、慎重投与等を まとめてみました。全部の商品を網羅することはで きませんので代表的商品名を[ ]内に記載していま す。(表14参照) 備考欄には、注意事項を記載しています。 3.甲状腺画像検査:甲状腺シンチグラフィー 放射線物質を利用し検査する方法ですが、と ても少量の放射線物質を使用するので、妊娠し ている方以外は心配がありません。 この検査の目的は、甲状腺機能亢進症の原因 疾患の鑑別診断にとても重要です。バセドウ病 や機能性結節には放射性物質のとりこみがあり ますが、他の病気にはとりこみがないか又はわ ずかです。 甲状腺機能亢進症の原因疾患により、それぞ れ治療期間・治療方法は全て違ってきます。よ って、このシンチグラフィーの検査を行い、き ちんと鑑別しなければなりません。シンチグラ フィー検査は、腫瘍の大きさ・形がわかり、癌 禁】 :禁忌 の場合は移転したリンパ節の診断に役立ちます。 【 【 慎】 :慎重投与 【 副】 :副作用 ① 甲状腺画像検査:甲状腺 MRI、CT、レント の意味を示しています。 ゲン 甲状腺の腫大や腫瘤が、他の臓器である食道 や気管にどのように影響しているかが診断でき ます。 甲状腺腫や腫瘍の大きい場合は、気管が圧迫 され偏位や狭窄されている患者さんがいます。 正常の気管は正中にまっすぐ通っていますが、 甲状腺腫瘍のため気管が細くなり右へ偏位して います。 83 あじさい Vol.14,No1,2005 1)ヨード誘発性甲状腺機能低下症 大量ヨードは甲状腺機能低下症を誘発します。 これをヨード誘発性甲状腺機能低下症といいます。 ヨードは甲状腺ホルモンの原料です。しかし一方、 大量のヨードは甲状腺機能を抑制し、甲状腺機能 低下症を引き起こします。 日本人の1日ヨード摂取量は 0.5∼1.5mg であり、 多く、米国人の1日ヨード摂取量は 0.2mg です。ヨ ードを大量に含む食品としては海藻、健康食品、ビ タミン剤などがあります。 ヨードを含む医薬品としては、ルゴール液、イソジ ン、ヨードチンキ、KI 液、造影剤、抗不整脈アミオダ ロン等があります。 1日 10mg 以上のヨードは甲状腺機能低下症を 引き起こす危険があります。大量ヨードは甲状腺ホ ルモン合成を抑制します。これを wolff-chaikoff 効 果といいます。しかし、さらに大量ヨードを投与し続 けると、ヨードの甲状腺ホルモン合成抑制効果は消 失します。なお、このエスケープが起きないことがあ ります。エスケープが起きないと、永続的に甲状腺 機能低下症になります(永続的 wolff-chaikoff 効 果) 。 健康な人が大量ヨードを長期間服用しても、甲 状腺機能低下症にはなりません。しかし、長期間大 量ヨードを服用すると、ヨード誘発性甲状腺機能低 下症になりやすい人があります。基礎に甲状腺疾 患があるとヨード誘発性甲状腺機能低下症になりま す、甲状腺機能正常の橋本病の患者に1日 180mg のヨードを与えると、半数以上で甲状腺機能低下 症になります。また、バセドウ病で放射線療法や甲 状腺亜全摘術を受けた例、亜急性甲状腺炎、出産 後甲状腺機能異常症を示した患者では、ヨード誘 発性甲状腺機能低下症をみます。甲状腺以外の 疾患、例えば cystic fibrosis などでもヨード誘発性 甲状腺機能低下症とみます。 表10 薬剤選択時の注意事項 禁忌:投与を避ける 原則禁忌:投与はなるべく避ける。 副作用:副作用に甲状腺機能異常があるもの。投与時に は注意深い観察が必要 投与可能:今の所、添付文書に副作用の記載のないもの で、一応甲状腺に与える影響が少ないと考えられるもの。 相互作用:甲状腺治療薬との相互作用があり投与に注意 する必要のあるもの 1.抗てんかん薬 小児、特に身体発育にとって甲状腺ホルモンが 重要と考えられる乳幼児期に抗てんかん剤を投与 する場合は、甲状腺低下症の出現に留意すべきで あると思われます。 フェニトイン、フェノバルビタール、プリミドンなどは 甲状腺機能低下の患者には慎重投与となっていま す。 2.抗不整脈薬 抗不整脈薬であるアミオダロンは分子構造上ヨウ 素を含み、構造はサイロキシンに類似しています。 このアミオダロンで治療中、甲状腺機能亢進あるい は低下を来す症例の報告はあります。 よって、甲状腺機能障害のある患者には慎重投 与となっています。 3.ヨード含有製剤10)11)12)13) 「海藻類の食べ過ぎでバセドウ病にかかる場合が ある」というのは事実です。しかし、日本ではそのよ うなことは稀で、むしろ逆に「海藻類の食べ得すぎ で甲状腺機能低下症になることが多い」ことを認識 することが重要です。 甲状腺機能を正常に保つ、ヒトでのヨード必要量 は、1 日当たり100∼200μg です。ヨードは自然界 では海藻類、特に昆布に多く含まれています。その 他、食品添加物や造影剤、咳止めシロップなどの 多くの医薬品に含まれています。経口摂取されたヨ ードの吸収は主に小腸で行われ、吸収率は非常に 高くなっています 。造影剤には共有結合の形で非 常に多く含まれていて、検査によっては数 mg の遊 離ヨードが体内に入る可能性があります。正常血中 ヨード濃度は 4∼9μg/dl 程度です。 一般に日本人のヨード摂取量は欧米人より多く、 200μg/日から数 mg/日に及びます。よって、日本 ではヨード不足による甲状腺機能低下症は、通常 は存在しません。 甲状腺機能に及ぼすヨードの作用は複雑です。 表11 ヨード誘発性甲状腺機能低下症の起きや すい場合 1.甲状腺疾患の既往にある場合 1)橋本病 2)バセドウ病治療後( 131I療法、甲状腺亜全摘) 3)亜急性甲状腺炎 4)出産後甲状腺機能異常症、 クッシング術後甲状腺機能異常症 2.甲状腺以外の病態 cystic fibrosis 84 あじさい Vol.14,No.1,2005 2) ヨードバセドウ病 面白いことに、ヨード不足地域などでは、逆にヨ ード過剰によって甲状腺機能亢進症が発症する ことがあります。ヨードバセドウ病又はヨード誘発性 甲状腺機能亢進症と呼ばれます。ヨードバセドウ 病には、もともとあった multinodular goiter が自 立性を獲得したものと、潜在性のバセドウ病がヨ ードの過剰摂取によって顕性化したものがあると 考えられます。ヨードバセドウ病は日本では稀で す。日本では、ヨードが過剰に摂取される機会が 多いので、「もともと慢性甲状腺炎のある人などで は、ヨード過剰による一過性甲状腺機能低下症 に注意すべきである」 ということになります。 4.交感神経刺激薬 甲状腺機能亢進症では、甲状腺からホルモンの 過剰分泌が起こっており、甲状腺ホルモンは交感 神経興奮薬(カテコールアミンのエピネフリン、血管 収縮薬のエチレフリン等、鎮咳薬のエフェドリン、β 2 刺激薬等、キサンチン系のテオフィリン)はカテコ ールアミンのレセプター部位における反応性の感 受性を高め交感神経興奮作用(心悸亢進、頻脈 等) が増強されます。 また、交感神経刺激薬はチロキシン(甲状腺ホ ルモン)の分泌を亢進し、甲状腺亢進症を増悪す るおそれがあります。 昇圧剤のエチレフリン、アメジニウム、ドロキシドパ、 ミドドリン、鎮咳薬のエフェドリンは、甲状腺機能亢 進症には投与禁忌となっています。 図6 甲状腺ホルモン増加時の循環器への影響 17) 表12 ヨード摂取量と甲状腺機能に及ぼす影響 摂取量 不足 20∼100μg/日 必要量 100∼200μg/日 北米人平均摂取量 200∼700μg/日 日本人平均摂取量 200μg∼数mg/日 過剰 数mg∼数百mg/日 備考 ヨード不足地域での平 均摂取量 甲状腺ホルモン(FT3↑、FT4) 心臓への直接作 用 間接作用 ①甲状腺機能低下症 ( wolf-chaikoff) 全身臓器の代謝亢進 (末梢血管抵抗↓) カテコールアミンと の相互作用 心収縮↑、心拍数↑ ②バセドウ病の治療 ③ヨードバセドウ病 ( ヨード不足地域等) 循環血液量↑ 高心拍出量 三尖弁閉鎖不 全 心房細動 表13 主な食品・ 薬剤中のヨード含量 こんぶ(乾) 167mg わかめ( 乾) 10mg 味付けのり(乾) 7mg 寒天( 乾) 海草類 (100gあたり いわし の含量) 白米 健康食品等 消毒殺菌剤 高心拍出性心不全 2mg 5.成長ホルモン21) 下垂体小人症に自己免疫疾患が合併した場合、 hGH 補充療法によりその自己免疫疾患を悪化な いし顕在化させる可能性が考えられるので、注意す る必要があります。 GH と免疫システムの関係はマウスやヒトで免疫 機能の発達と維持に GH が重要な役割を演じてい ると考えられるようになってきています。しかしながら GH 治療が自己免疫疾患の経過に関与するかどう かは今後の問題のようです。 267μg 39μg パン 17μg 牛肉 16μg さつまいも 9μg 健康食品、ビタミン類などでヨードを含む物がある ・ヨードチンキ(40mg/ml) ・ポピドンヨード(イソジン消毒剤( 10mg/ml) ・イソジンガーグル( 7mg/ml) ・ルゴール液(4mg/滴) ・ヨウレチン( 第一薬産) ・KI(ヨードカリ) 液( 50mg/滴) 抗不整脈薬 アミオダロン 造影剤 ヨード造影剤 6.抗血小板薬 8) 甲状腺機能異常の患者では、病態の変化又は治 療過程で甲状腺機能が正常化し、凝血能が変化 することがあります。 85 あじさい Vol.14,No1,2005 子として重要です。甲状腺機能低下症は二次性高 脂血症の代表的なものであるだけに、高脂血症を 見た際には甲状腺機能低下症を除外することは、 副 作 用 回 避 の観 点からも高 脂 血 症 治 療の first step と心得る必要があると考えられます。 よって、スタチン系の薬剤は「甲状腺機能低下症 の患者」 に慎重投与となっています。 陰イオン交換樹脂のコレスチラミンは甲状腺製剤 の吸収を阻害するため、コレスチラミンの投与前4 時間若しくは投与4∼6時間以上、又は可能な限り 間隔をあけて慎重に投与する必要があります。 ワルファリンの作用は甲状腺機能亢進状態では 増強され低下状態では減弱されます。これはビタミ ン K 依存性の凝固因子の異化が甲状腺機能亢進 状態で増加することによるとされています。従って、 抗甲状腺薬によって甲状腺機能亢進状態から正 常状態になれば、ワルファリンの作用は相対的に減 弱します。 抗甲状腺薬とワルファリンを併用する場合は、血 中プロトロンビン活性をモニターして、必要であれ ば投与量を調節します。 甲状腺機能亢進症患者に合併した梗塞治療に 際して注意が必要です。 11.インターフェロン(IFN)20) IFN の使用時には甲状腺の異常が発生しうるこ とを、とくに甲状腺疾患の既往歴のある者や抗甲状 腺抗体が陽性の例では念頭におく必要があります。 さらに IFN の投与により発生する甲状腺の機能異 常は、十分にコントロールできる病態であるというこ と、また甲状腺の異常が出現した例では IFN の有 効な例が多いということも念頭に置く必要があります。 IFN の投与前に甲状腺自己抗体が陽性であって も、IFN の治療は必ずしも禁忌ではなく、また、たと え IFN 療法中に甲状腺の異常が出現しても、IFN の投与を中止する必要はなく、甲状腺の治療を併 用すべきです。 7.輸液 甲状腺機能低下症の患者は血中マグネシウムが 増加するといわれています。よって、Mg を含有する 輸液剤は高マグネシウム血症が悪化したり、又は誘 発されることがあるため投与禁忌となっています。 8.糖尿病治療薬8) 甲状腺ホルモン製剤は糖代謝全般に作用し血糖 値を変動させると考えられています。 1)甲状腺ホルモンの過剰状態ではグルコースの産 生、利用の両方が増加し糖代謝回転が促進し、イ ンスリンの作用が増強される。 2)甲状腺ホルモンの不足状態ではグルコースの利 用が減少し、インスリンの血糖低下作用は減弱する ことが考えられる。 よって、経口血糖降下薬やインスリン製剤と、甲 状腺製剤、抗甲状腺薬との相互作用があります。 軽症の糖尿病合併例では甲状腺機能が正常化 するまでは、あまり厳しい血糖コントロールは行いま せん。 重症の糖尿病合併例では抗甲状腺薬とヨード剤 を併用し、甲状腺機能を早急に正常化することがも っとも重要です。血糖コントロールにはインスリンが 用いられます。 9.抗コリン薬 甲状腺機能亢進症において、抗コリン作用により 頻脈等の交感神経興奮症状が悪化することがあり ます。 泌尿生殖器薬のポラキス、バップフォーや、抗ヒ スタミン薬等は、甲状腺機能亢進症の患者に慎重 投与となっています。 10.高脂血症治療薬18) 甲状腺機能低下症は、横紋筋融解症の危険因 86 表14 甲状腺機能に影響を与える薬剤 薬効分類 禁忌 慎重投与 副作用 相互作用 フェニトイン[アレビアチン] フェニトイン配合剤[ヒダントール] プリミドン[プリミドン] フェノバルビタール[フェノバール] フェノバール・フェニトイン[複合アレビアチン] カルバマゼピン[テグレトール] エトトイン」[アクセノン] 113 抗てんかん薬 投与可能 添付文書( 理由) 【 慎】 甲状腺機能低下症の患者 [ 甲状腺機能の異常を来すおそれがある] フェニトイン等よにより甲状腺ホルモンであるT4およびT3が影響を 受けるとの報告がある。血清T4の濃度は、有意な低下を示すとい う報告が多いが、血清T3の濃度については、有意に低下するとの 報告、有意な変化はないとする報告、あるいは有意に上昇すると の報告、有意な変化はないとする報告、あるいは有意に上昇する との報告もある。以上のようにフェニトインの甲状腺ホルモンに対 する影響については一定した見解は得られていないが、フェニトイ ンを甲状腺機能の低下している患者に投与する場合は、甲状腺機 能の変動に注意する。 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] 【 相】 甲状腺製剤の血中濃度が低下し,作用が減弱することがある ので,用量に注意する。併用する場合には甲状腺製剤を増量する など慎重に投与すること/甲状腺ホルモンの異化を促進すると考 えられている。 117 精神神経用薬 塩酸メチルフェニデート[リタリン] ペモリン[ベタナミン] 塩酸メタンフェタミン[ヒロポン] 【 禁】 甲状腺機能亢進のある患者 [ 循環器系に影響を及ぼすことがある] 甲状腺機能亢進による精神症状( 神経質情緒不安定等) を悪化さ せるおそれがある。 塩酸クロミプラミン[アナフラニール] 塩酸イミプラミン[トフラニール] 塩酸アミトリプチリン[トリプタノール] アモキサピン[アモキサン] 塩酸ドスレピン[プロチアデン] 塩酸ノルトリプチリン[ノリトレン] 塩酸マプロチリン[ルジオミール] 塩酸ロフェプラミン[アンプリット] マレイン酸ト リミプラミン [スルモンチール] 塩酸クロルプロマジン,塩酸プロメ タジン, フェノバルビタール[ベゲタミン] フマル酸クエチアピン1[セロクエル] 【 副】 甲状腺疾患,T3減少 オランザピン[ジプレキサ] 【 副】 甲状腺機能亢進症 【 慎】 心不全・ 心筋梗塞・ 狭心症・ 不整脈(発作性頻拍・ 刺激伝導障 害等)等の心疾患のある患者又は甲状腺機能亢進症の患者[ 循環 器系に影響を及ぼすことがある] 塩酸クロルプロマジン,塩酸プロ メタジン,フェノバルビタール[ベ ゲタミン] 【 慎】 甲状腺機能低下症の患者 [ 血中甲状腺ホルモン(T4)濃度が低下することがある] 【 副】 甲状腺機能検査値(血清T4値等)の異常 炭酸リチウム[リーマス] 【 慎】 甲状腺機能亢進又は低下症の患者[ 甲状腺機能低下を起こ すおそれがあるため,甲状腺機能亢進症の診断を誤らせる可能性 がある。また,甲状腺機能低下症を増悪させるおそれがある] 【 副】 甲状腺機能異常(T3,T4及びPBIの低下,甲状腺131I摂取率の 増加及びTRH負荷後のTSH分泌反応の増大)//非中毒性甲状腺 腫,粘液水腫,甲状腺中毒症( 急激な中止により症状が増悪するこ とがある) 119 経口脊髄小脳変性 症治療剤 121 局所麻酔剤 タルチレリン水和物[セレジスト] メピバカイン[カルボカイン][キシロカイン注射液・ エピレナミン含有] プロカイン[オムニカイン] ジブカイン[ペルカミン](脊椎麻酔、表面麻 酔) ブピバカイン[マーカイン] プロピトカイン[シタネスト] 塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチル アミノエチル[テーカイン] 【 副】 TSHの変動,甲状腺ホルモン(T3,T4),プロラクチンの上昇 エピネフリンを添加しない。 【 禁】 甲状腺機能亢進のある患者[ これらの病状が悪化するおそれ がある] エピネフリンを添加すると、エピネフリンの作用のため、甲状腺機 能亢進症患者では頻脈、息苦しさ、胸痛などの症状を起こすこと がある。 1/9 表14 甲状腺機能に影響を与える薬剤 薬効分類 123 自律神経系用薬 禁忌 慎重投与 副作用 相互作用 クエン酸モサプリド[ガスモチン] 塩酸イトプリド[カナトン] メトクロプラミド[プリンペラン] ドンペリドン[ナウゼリン] マレイン酸トリメブチン[セレキノン] エリスロマイシン[エリスロシン] ジノプロスト[プロスタルモンF] パンテノール[パントール] パンテチン[パントシン] メシル酸ジヒドロエルゴタミン[ジヒデ ルゴット] 塩化アセチルコリン[オビソート] 塩化ベタネコール[ベサコリン] ナパジシル酸アクラトニウム[アボビス] 塩化カルプロニウム[アクチナミン] ネオスチグミン[ワゴスチグミン] 臭化メペンゾラート・フェノバルビタール [トランコロンP] ヨウ化オキサピウム[エスペラン] 211 昇圧剤 塩酸エチレフリン[エホチール] メチル硫酸アメジニウム[リズミック] ドロキシドパ[ドプス]※ 添付文書( 理由) 【 禁】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 心血管系に作用して不整脈を起こすおそれがある] 甲状腺機能亢進症の患者においては、頻脈、動悸等の循環器系 の症状を呈することが多く、本剤の投与により、症状が悪化するお それがある。 【 禁】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 心悸亢進,頻脈等を悪化させるおそれがある] 甲状腺機能亢進症では甲状腺からホルモンの過剰分泌が起こっ ており、甲状腺ホルモンは本剤( 交換神経興奮性アミン) のレセプ ター部位における反応への感受性を高め、交感神経興奮作用が 増強されるおそれがある。 【 慎】 甲状腺機能低下症のある患者 [ 非臨床試験において甲状腺ホルモンの変動に起因する甲状腺 腫瘍が報告されている] ベスナリノン[アーキンZ] 塩酸ミドドリン[メトリジン] 211 強心剤 投与可能 【 禁】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 甲状腺機能亢進症の患者は,ノルエピネフリン等と類似の作用を 持つ交感神経刺激薬により過度な反応を起こす可能性が知られ ている。本剤は,薬理学的にこれらの薬剤と同様な反応を起こすお それがある] エピネフリン[ボスミン] 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂ ンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] 甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモン分泌の異常亢進が主原因 だが、その他血中ノルエピネフリンが高値を示すことや、受容体の 感受性が亢進することが知られており、本剤の作用において交感 神経を刺激することにより過大な作用発現が起こる可能性が考え られるため。 実際の臨床経験はないが、本剤と同効薬剤において既に投与禁 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 甲状腺機能亢進症の患者では,頻脈,心房細動がみられることが あり,投与により悪化するおそれがある] 【 相】 冠不全発作が現れることがある//甲状腺ホルモンは心筋の β-受容体を増加させるため,カテコールアミン感受性が亢進すると 考えられている 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者[ 激しい頭痛,羞明等を伴う著明な 血圧上昇が起こることがある] ノルエピネフリン[ノルアドレナリン] 抗甲状腺製剤 チアマゾール[メルカゾール] プロピルチオウラシル[チウラジール] ジギトキシン[ジギトキシン] デスラノシド[ジギラノゲンC注] メチルジゴキシン[ラニラピッド] ラナトシドC[ジギラノゲンC] プロスシラリジン[タルーシン] イソプレナリン[プロタノール] ベスナリノン[アーキンZ] 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] 2/9 【 慎】 甲状腺機能低下症[薬剤血中濃度↑] 【 相】 抗甲状腺製剤がジギタリス製剤の作用を変化させることがあ る。抗甲状腺製剤の投与により甲状腺機能亢進状態が正常に なったり、機能低下状態となった場合、ジギタリス製剤の作用が増 強することがある。心房細動に対するジゴキシンの必要量は、甲 状腺機能亢進症患者では正常者の4倍であったという報告があ る。甲状腺機能亢進症状態でジギタリス製剤の必要量が増加して いる機序としては吸収、腎クリアランス、分布容積の変化による血 中濃度の低下、心筋の感受性の変化等が考えられる。 表14 甲状腺機能に影響を与える薬剤 薬効分類 禁忌 慎重投与 副作用 相互作用 β1-遮断剤 アテノロール[テノーミン] ナドロール[ナディック] ピンドロール[カルビスケン] ビソプロロール[メインテート] アセブトロール[アセタノール] アルプレノロール[アプロバール] インデノロール[プルサン] オクスプレノロール[トラサコール] カルテオロール[ミケラン] ソタロール[ソタコール] ブフェトロール[アドビオール] プロプラノロール[インデラル] メトプロロール[セロケン] セリプロロール[セレクトール] チリソロール[セレカル] ボピンドロール[サンドノーム] 212 抗不整脈薬 投与可能 アテノール、ナドロール、ピンドロー ル等は、初回通過効果を受けにくい ので、甲状腺機能に影響されること は少ない 添付文書( 理由) 【 慎】 甲状腺中毒症の患者 [ 中毒症状をマスクするおそれがある] β遮断剤は心拍低下作用により、甲状腺機能亢進症の脈拍等の 臨床症状をマスクすることが報告されている。 【 相】 甲状腺ホルモン剤の投与により、β遮断剤の作用が変化す ることがある。甲状腺ホルモン剤の投与により、患者の甲状腺ホ ルモンの血中濃度が正常より高くなっているときにβ遮断剤を使 用すると、β遮断剤のクリアランスが増加し、作用が減弱すること がある。逆に、甲状腺ホルモン剤を投与されていても、患者が甲状 腺機能低下状態にあればβ遮断剤のクリアランスが減少し、作用 が増強されることがある。 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂ ンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] アミオダロン[アンカロン] 【 慎】 甲状腺機能障害のある患者 [ 甲状腺機能障害を増悪させるおそれがある] ヨード含有製剤であるため、甲状腺機能障害を悪化するおそれが ある 【 慎】 高度の頻脈及び高心拍出性心不全(甲状腺中毒症等)のある 患者 [ 反射性交感神経亢進作用及び血管拡張作用により,症状を悪化 させるおそれがある] 213 利尿薬 ヒドロクロロチアジド配合剤[エシドライ] フロセミド[ラシックス] 214 血圧降下剤 ニトロプルシドナトリウム[ニトプロ] 【 禁・ 慎】 甲状腺機能不全の患者 ニトログリセリン[バソレータ注、ニトログリ [ 代謝物のチオシアンにより甲状腺機能が低下する場合がある] セリン注ACC、ミリスロール注] 216 血管収縮剤 フェニレフリン[ネオシネジンコーワ注] 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 交感神経興奮作用が増強されるおそれがある] /甲状腺機能亢 進症の患者[ 血圧上昇により,頻脈,息苦しさ,胸痛等の症状を起こ すおそれがある] メトキサミン[メキサン注] 218 高脂血症治療薬 アトルバスタチン[リピトール] シンバスタチン[リポバス] ピタバスタチン[リバロ] プラバスタチン[メバロチン] フルバスタチン[ローコール] コレスチミド[コレバイン] ベザフィブラート[ベザトールSR] フェノフィブラート[リパンチル] クリノフィブラート[リポクリン] シンフィブラート[コレソルビン] ニコモール[コレキサミン] ニセリトロール[ペリシット] コレスチラミン[コレバイン] ↓ 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] 3/9 【 慎】 甲状腺機能低下症の患者 [ 横紋筋融解症が現れやすいとの報告がある] 横紋筋融解症の危険因子 【 相】 甲状腺製剤の血中濃度が低下するおそれがある。甲状腺製 剤の吸収阻害を避けるために,コレスチラミンの投与前4時間若しく は投与後4∼6時間以上,又は可能な限り間隔をあけて慎重に投与 する 表14 甲状腺機能に影響を与える薬剤 薬効分類 禁忌 慎重投与 副作用 相互作用 219 高リン血症治療薬 沈降炭酸カルシウム[カルタン] 221 呼吸促進剤 222 鎮咳剤 ドキサプラム[ドプラム] エフェドリン[エフェドリン] メチルエフェドリン[メチエフ] メチルエフェドリン配合剤[アストフィリン、カフコ デN、フスコデ] エフェドリン配合剤[アストモリジンD,M] 224 抗喘息薬 コデイン配合剤[濃厚ブロチンコデイン] エフェドリン・ジヒドロコデイン配合[セキコデ] 225 気管支拡張薬 投与可能 添付文書( 理由) 塩酸セベラマー[レナジェル、フォスブロック] 【 禁】 甲状腺機能低下症又は副甲状腺機能亢進症の患者 [ 症状を悪化させるおそれがある] テオフィリン[テオドール] ジモルホラミン[テラプチク] 塩酸エプラジノ[レスプレン] グアイフェネシン[フストジル] チペピジン[アスベリン] シャゼンソウエキス[フスタギン] 桜皮エキス[ブロチン] キョウニン[キョウニン水] 塩酸クロフェダノール[コルドリン] クロペラスチン[フスタゾール] 燐酸ジメモルファン[アストミン] 臭化水素酸デキストロメトルファン[メ ジコン] ノスカピン[ナルコチン] ペントキシベリン[カルベタペンテン] 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者 塩酸エプラジノ[レスプレン] グアイフェネシン[フストジル] チペピジン[アスベリン] シャゼンソウエキス[フスタギン] 桜皮エキス[ブロチン] キョウニン[キョウニン水] 塩酸クロフェダノール[コルドリン] クロペラスチン[フスタゾール] 燐酸ジメモルファン[アストミン] 臭化水素酸デキストロメトルファン[メ ジコン] ノスカピン[ナルコチン] ペントキシベリン[カルベタペンテン] 【 慎】 甲状腺機能低下症(粘液水腫等)の患者 [ 呼吸抑制や昏睡を起こすおそれがある] 臭化イプラトロピウム[アトロベント] 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂ 臭化オキシトロピウム[テルシガン] 臭化フルトロピム[フルブロン] ンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] アミノフィリン[ネオフィリン] ジプロフィリン[ネオフィリンM] ホルモテロール[アトック] メトキシフェナミン[フェナミン] 【 禁】 甲状腺機能亢進症が悪化 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 交感神経刺激作用により甲状腺機能亢進症を悪化させるおそれ がある] 交感神経刺激によりチロキシン( 甲状腺ホルモン) の分泌を亢進 し、甲状腺機能亢進症を増悪するおそれがあるため。( ジプロフィ リンおよび dlー塩酸メチルエフェドリンによる) 【 慎】 甲状腺機能低下症(粘液水腫等)の患者 [ 呼吸抑制や昏睡を起こすおそれがある] /甲状腺機能亢進症の 患者[ 甲状腺機能亢進症が悪化するおそれがある] 甲状腺機能低下症の患者は、チロキシンの濃度が低下しており、 体内での代謝機能が低下しているため。( 燐酸ジヒドロコデインに よる) 【 慎】 甲状腺機能亢進に伴う、代謝、カテコールアミンの作用を増 強することがある。 キサンチン系は交感神経刺激作用ががる 甲状腺機能とテオフィリンのクリアランスは正の相関があると考え られている。甲状腺機能低下症の患者ではテオフィリンのクリアラ ンスは減少しているが、甲状腺ホルモン剤の投与により甲状腺機 能が正常に回復すると、テオフィリンのクリアランスも回復して増加 するため、テオフィリン血中濃度が低下、作用が減弱する。 【 処置】 甲状腺機能低下症の患者に甲状腺ホルモン剤を投与して 治療するときは、テオフィリンの作用が減弱することに注意し、テオ フィリン血中濃度をモニターして、濃度が低下したり効果が減弱す るようであればテオフィリン増量する必要がある。 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 甲状腺機能亢進に伴う代謝亢進,カテコールアミンの作用を増強 することがある] 4/9 表14 甲状腺機能に影響を与える薬剤 薬効分類 225 気管支拡張薬 226 消毒薬 禁忌 慎重投与 β2刺激薬 クレンブテロール[スピロペント] トリメトキノール[イノリン] プロカテロール[メプチン] マブテロール[ブロンコリン] フェノテロール[ベロテック] オルシプレナリン[アロテック] サルブタモール[ベネトリン] テルブタリン[ブリカニール] ツロブテロール[ホクナリン] イソプロテレノール配合剤[ストメリン]D イソプレナリン配合剤[イソパール・P] サルメテロール[セレベント] ポビドンヨード[イソジンガーグル] 副作用 相互作用 投与可能 臭化イプラトロピウム[アトロベント] 臭化オキシトロピウム[テルシガン] 臭化フルトロピム[フルブロン] ポビドンヨード[イソジンガーグル] 添付文書( 理由) 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者は過剰な甲状腺ホルモンが交感神 経の緊張を高めているため過敏反応を示すおそれがあるため 【 慎】 甲状腺機能に異常のある患者 [ 血中ヨウ素の調節ができず甲状腺ホルモン関連物質に影響を与 えるおそれがある] アズレンスルホン酸Na[アズノールうが い液、含嗽用ハチアズレ] 【 副】 甲状腺//血中甲状腺ホルモン値(T3,T4値等)の上昇あるいは 低下などの甲状腺機能異常 234 制酸剤 アルミニウム含有制酸剤[アルミゲル] ↓ 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] 241 成長ホルモン ソマトロピン[ジェノトロピン] ソマトロピン[ジェノトロピン] ↓ 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] 245 副腎皮質ホルモン コハク酸ヒドロコルチゾンNa[サクシゾン] ヒドロコルチゾン[コートリル] コハク酸メチルプレドニゾロンNa[ソル・コーテ フ] デキサメタゾン[デキサメサゾン] リン酸デキサメタゾンNa[オルガドロン] パルミチン酸デキサメタゾン[リメタゾン] トリアムシノロン[レダコート] トリアムシノロンアセトニド[ケナコルトA] プレドニゾロン[プレドニン] ベタメタゾン[リンデロン] ベタメタゾン配合剤[セレスタミン] リン酸ベタメタゾンNa[リンデロン注] メチルプレドニゾロン[メドロール] リン酸ヒドロコルチゾンNa[水溶性ハイドロ コートン] リン酸プレドニゾロンNa[プレドネマ] 酢酸コルチゾン[コートン] 酢酸デキサメタゾン[酢酸デキサメタゾン懸濁 注] 【 相】 同時に服用することにより,これら甲状腺製剤の吸収を遅延又 は阻害することがある。これらの作用は薬剤の服用時間をずらす ことにより,弱まると考えられる//消化管内で本剤と吸着することに より,これらの薬剤の吸収が阻害される 【 相】 甲状腺ホルモン//甲状腺ホルモン補充療法を受けている患 者では,本剤投与により軽度の甲状腺機能亢進様症状を起こすこ とがあるので,本剤による治療開始後及び本剤の投与量変更後に 甲状腺機能検査を行うことが望ましい//T4からT3への転換が促 進され,血清T4の低下及び血清T3の増加が生じる 【 副】 甲状腺機能亢進症: 甲状腺機能亢進症が現れることがある ので,観察を十分に行い,異常が認められた場合には中止するなど, 適切な処置を行う 【 慎】 甲状腺機能低下のある患者 [ 代謝が阻害され,副作用が現れるおそれがある] 血中半減期が延長するとの報告があり、副作用があらわれること がある。 5/9 表14 甲状腺機能に影響を与える薬剤 薬効分類 禁忌 慎重投与 副作用 相互作用 投与可能 添付文書( 理由) 【 慎】 甲状腺機能低下のある患者 [ 代謝が阻害され,副作用が現れるおそれがある] 酢酸パラメタゾン[パラメゾン] 酢酸ハロプレドン[ハロアート] 酢酸フルドロコルチゾン[フロリネフ] 酢酸ベタメタゾン・リン酸ベタメタゾンNa[リ ンデロン懸濁注] 酢酸メチルプレドニゾロン[デポ・メドロール] コハク酸プレドニゾロンナトリウム[水溶性 プレドニン] 血中半減期が延長するとの報告があり、副作用があらわれること がある。 メタスルホ安息香酸デキサメタゾンNa[セル フチゾン] 248 混合ホルモン 乾燥甲状腺配合剤[メサルモンF] 結合型エストロゲン[プレマリン] 249 その他のホルモン 剤 【 相】 甲状腺ホルモン製剤は糖代謝全般に作用し血糖値を変動さ せると考えられている。 1)甲状腺ホルモンの過剰状態ではグルコースの産生、利用の両 方が増加し糖代謝回転が促進し、インスリンの作用が増強され る。 2)甲状腺ホルモンの不足状態ではグルコースの利用が減少し、イ ンスリンの血糖低下作用は現弱することが考えられる。経口血糖 降下剤の投与時も同様な機序が考えられる 【 副】 甲状腺機能異常 インスリン製剤 ↓ 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] 酢酸リュープロレリン[リュープリン] 酢酸ブセレリン[スプレキュア] オキシブチニン[ポラキス] 259 泌尿生殖器用剤 【 禁】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 甲状腺末により,病態が悪化することがある] 【 副】 甲状腺腫大 塩酸フラボキサート[ブラダロン] 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 抗コリン作用により頻脈等の交感神経興奮症状が悪化するおそ れがある] プロピベリン[バップフォー] 塩酸リトドリン[ウテメリン] 261 殺菌消毒剤 塩酸イソクスプリン[ズファジラン] ヨウ素[カデックス軟膏] ポビドンヨード[イソジンゲル] 269 その他の皮膚科用 剤 精製白糖・ポビドンヨード[ユーパスタコーワ] 322 ヨウ素製剤 ヨウ化カリウム ヨウ素[カデックス軟膏] ポビドンヨード[イソジンゲル] 【 禁】 重篤な甲状腺機能亢進症の患者 [ 症状が増悪するおそれがある] 【 慎】 甲状腺機能に異常のある患者 [ 創面から吸収されたヨウ素により症状が悪化するおそれがある] 【 副】 甲状腺//血中甲状腺ホルモン値(T3,T4値等)の上昇あるいは 低下などの甲状腺機能異常 塩化リゾチーム[リフラップ軟膏 ]幼牛血液抽出物[ソルコセリル] アルミニウムクロロヒドロキシアラン 【 慎】 甲状腺機能に異常のある患者[ 甲状腺機能に異常がある場 トイネート[イサロパン] 合はポビドンヨード投与により血中ヨウ素値の調節ができず,甲状 トレチノイントコフェリル[オルセノン] 腺ホルモン関連物質に影響を与える可能性がある] /新生児[ 新生 トラフェミン[フィブラストスプレー] 児にポビドンヨードを使用し,甲状腺機能低下症を起こしたとの報 告がある] 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者 [ ヨウ素誘発性甲状腺腫が生じるおそれがある] /甲状腺機能低下 症の患者[ 症状を悪化させるおそれがある] 【 慎】 慢性甲状腺炎のある患者/先天性の甲状腺ホルモン生成障 害のある患者 ヨウ素レシチン[ヨウレチン] 6/9 表14 甲状腺機能に影響を与える薬剤 薬効分類 禁忌 慎重投与 副作用 相互作用 322 鉄剤 325 輸液 投与可能 添付文書( 理由) 【 相】 チロキシンの吸収を阻害するおそれがある//相手薬剤と高分 子鉄キレートを形成し,相手薬剤の吸収を阻害するおそれがある 鉄剤[スローフォー、フェログラデュメット] ↓ 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] 高カロリー輸液用薬 アミノ酸製剤 [フルカリック] [ネオパレン] [アミノトリパ] [ピーエヌツイン] [ユニカリック] [ハイカリック] [リバビックス] [アリメール] [トリパレン 糖液 配合する 総合ビタミン剤 【 禁】 甲状腺機能低下症の患者 [ 高マグネシウム血症が悪化又は誘発されるおそれがある] 甲状腺機能低下症の患者は血中マグネシウムが増加するといわ れている。高マグネシウム血症は、神経症状として嗜眠・ 婚眠・ 中 枢性呼吸麻痺、筋肉症状としては骨格筋クラーレ様麻痺、心筋症 状として徐脈・ AVブロック・ 筋外収縮・ 心電図変化をきたし、また血 管平滑筋が弛緩して血圧低下を起こす。 高カロリー輸液用基本液 [ハイカリック] 333 抗凝血剤 低濃度アミノ酸製剤 [アミノフリード] [アミカリック] [マックアミン] [プラスアミノ] 細胞外液補充剤 [フィジオ140] [ラクテック] [ソルラクト] [ヴィーンF] 2号液 [KN補液2A] 維持液 [フィジオゾール3号] [アクチット] [ヴィーン3G] [アルトフェッド] [ソリタックス-H] [トリフード] [フィジオ35] [KN補液2B] [ソリタ-T2] [KN補液3A] [KN補液3B] [ソリタ-T3] [ソルデム3A] [リプラス3号] [EL3号] [フルクトラクト] 抗甲状腺製剤 チアマゾール[メルカゾール] プロピルチオウラシル[チウラジール] ワルファリンカリウム[ワーファリン] アスピリン[バファリン] チクロピジン[パナルジン] 甲状腺製剤 シロスタゾール[プレタール] レボチロキシンナトリウム[チラーヂンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] ヘパリンNa[ノボ・ ヘパリン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] ダルテパリンNa[フラグミン] レビパリンNa[クリバリン] 7/9 【 慎】 甲状腺機能亢進症,又は甲状腺機能低下症の患者 [ 甲状腺機能異常の患者では,病態の変化又は治療過程で甲状腺 機能が正常化し,凝血能が変化することがある。その結果として本 剤の作用が見かけ上減弱,又は増強するおそれがある] 【 相】 甲状腺機能が亢進すると凝固因子の合成・ 代謝亢進により, 相対的にクマリン系抗凝血剤の効果は増強する。本剤投与により 甲状腺機能が正常化すると,増強されていたクマリン系抗凝血剤 の効果が減弱するとの報告がある 甲状腺ホルモンがビタミンK依存性の凝固因子の異化を促進す る。 表14 甲状腺機能に影響を与える薬剤 薬効分類 禁忌 慎重投与 396 血糖降下剤 副作用 相互作用 経口血糖降下剤 投与可能 ↓ 甲状腺製剤 レボチロキシンナトリウム[チラーヂンS] リオチロニンナトリウム[チロナミン] 乾燥甲状腺[チラーヂン] 399 その他の代謝用薬 【 副】 甲状腺機能の異常 【 副】 甲状腺機能低下 ミコフェノール酸モフェチル [セルセプト] ラロキシフェン[エビスタ] 421 抗癌剤 441 抗ヒスタミン剤 【 相】 ラロキシフェンによるレボチロキシンの吸収低下[投与間隔を あけるとよい] シクロホスファミド[エンドキサン] マレイン酸クロルフェニラミン[ポララミン] 塩酸シプロヘプタジン[ペリアクチン] マレイン酸クロルフェニラミン配合剤[複合 D・M錠] 添付文書( 理由) 【 相】 甲状腺ホルモン製剤は糖代謝全般に作用し血糖値を変動さ せると考えられている。 1)甲状腺ホルモンの過剰状態ではグルコースの産生、利用の両 方が増加し糖代謝回転が促進し、インスリンの作用が増強され る。 2)甲状腺ホルモンの不足状態ではグルコースの利用が減少し、イ ンスリンの血糖低下作用は現弱することが考えられる。 経口血糖降下剤 【 副】 甲状腺機能亢進等 フマル酸ケトチフェン[ザジテン] メキタジン[ゼスラン] 【 慎】 甲状腺機能亢進症のある患者 [ 抗コリン作用により症状が増悪するおそれがある] 塩酸アゼラスチン[アゼプチン] フマル酸エメダスチン[ダレン] オキサトミド[セルテクト] 塩酸エピナスチン[アレジオン] エバスチン[エバステル] 塩酸セチリジン[ジルテック] ベシル酸ベポタスチン[タリオン] 塩酸フェキソフェナジン[アレグラ] 塩酸オロパタジン[アレロック] ロラタジン[クラリチン] 520 漢方 【 慎】 甲状腺機能亢進症の患者 [ 症状が悪化するおそれがある] 麻黄配合剤 よく苡仁湯 越婢加朮湯 葛根湯 葛根湯加川きゅう辛夷 桂麻各半湯 五虎湯 小青竜湯 神秘湯 防風通聖散 麻杏よく甘湯 麻杏甘石湯 麻黄湯 麻黄附子細辛湯 エフェドリン含有製剤 エフェドリンの項参照 【 副】 甲状腺//甲状腺機能障害又は甲状腺腫 622 抗結核薬 パラアミノサリチル酸カルシウム [ニッパスカルシウム] 【 副】 甲状腺機能低下 エチオナミド[ツベルミン] リバビリン[レベトール] 【 副】 自己免疫現象(頻度不明): 自己免疫現象によると思われる症 状・ 徴候[ 甲状腺機能異常の増悪又は発症等] が現れることがあ るので,定期的に検査を行うなど観察を十分に行い,異常が認めら れた場合には中止するなど適切な処置を行う ロピナビル・ リトナビル[カレトラ] サキナビル[インビラーゼ] 【 副】 甲状腺機能低下 625 抗ウイルス剤 8/9 表14 甲状腺機能に影響を与える薬剤 薬効分類 禁忌 慎重投与 副作用 相互作用 インターフェロンα[スミフェロン] 639 インターフェロン 投与可能 ラミブジン[ゼフィックス] プロパゲルマニウ[セロシオン] 添付文書( 理由) 【 慎】 自己免疫疾患の患者又はその素因のある患者 [ 自己免疫現象によると思われる症状・ 徴候[甲状腺機能異常]が 現れることがある] 【 副】 自己免疫現象: 自己免疫現象によると思われる症状・ 徴候[甲 状腺機能異常(0.1∼5%未満) 721 造影剤 799 禁煙補助剤 インターフェロンアルファ-2b (遺伝子組換え)[イントロンA] インターフェロンβ[フェロン] 【 副】 自己免疫現象: 自己免疫現象によると思われる症状・ 徴候[甲 状腺機能異常,]が現れることがあるので,定期的に検査を行うなど 観察を十分に行い,異常が認められた場合には中止するなど適切 な処置を行う インターフェロンα-2b[ペガシス] インターフェロンアルファコン-1 [アドバフェロン] 【 副】 甲状腺機能異常: 甲状腺機能亢進又は低下が増悪又は発症 することがあるので,定期的に検査を行うなど観察を十分に行う。 甲状腺機能の管理が難しい場合には,中止を考慮する。なお,甲状 腺機能異常等で中止後もなお処置の継続を必要とした症例が報 告されている インターフェロンβ-1b[ベタフェロ ン] 【 副】 甲状腺腫、甲状腺機能異常: 甲状腺腫、甲状腺機能異常が あらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められ た場合には投与を中止するなど、適切な処置を行うこと。 アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン [ウログラフィン] イオタラム酸メグルミン[コンレイ] イオタラム酸ナトリウム[コンレイ] イオトロクス酸メグルミン[ビリスコピン] イオキサグル酸[ヘキサブリックス] イオキシラン[イマジニール] イオジキサノール[ビシパーク] イオトロラン[イソビスト] イオパミドール[イオパミロン] イオプロミド[プロスコープ] イオヘキソール[イオソール] イオベルソール[オプチレイ] イオメプロール[イオメロン] ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル[リ ピオドールウルトラフルイド] ニコチン[ニコチネルTTS] 【 禁・ 慎】 重篤な甲状腺疾患のある患者 [ ヨウ素過剰に対する自己調節メカニズムが機能できず,症状が悪 化するおそれがある] ニコレット(慎重投与) 9/9 【 禁】 甲状腺機能亢進症,褐色細胞腫,糖尿病(インスリンを使用して いる)等の内分泌疾患のある患者[ 症状が悪化するおそれがある] あじさい Vol.14,No.1,2005 甲 状 腺 ホ ル モ ン 製 剤 ;医 薬 ジ ャー ナ ル 34:3.105,1998 17) 濱崎ら.特集 甲状腺疾患 不整脈、心 甲状腺機能異常には甲状腺ホルモンが過剰の 不全; 臨床と薬物治療 16:4.310,1997 ために、その作用が亢進する甲状腺機能亢進症と、 18) 野崎ら.HMG-CoA 還元酵素阻害剤投 甲状腺ホルモンが欠乏するために生じる甲状腺機 与によりCPK 著明高値,筋脱力を呈した甲状 能低下症の2つがあり、逆の作用をしめします。 腺機 能低下症の 1 例; PROGRESS IN また、甲状腺ホルモンは全身の臓器・組織に作用 し、特定の標的器官をもたず、甲状腺ホルモンはあ MEDICINE 21(10):2441-2443,2001 19) SIRAJ-E-S ら.レボチロキシンの吸収不 らゆる細胞の核に作用し、その細胞を調節している 良を引き起こしたラロキシフェン; ARCHIVES ため 多くの合併症を伴い、様々な薬剤の影響が考えら OF INTERNAL MEDICINE れます 163:1367-1370,2003 深澤ら.特集 甲状腺疾患−多面的なと よって、特に薬剤を服用している患者に対しては、 20) らえ方 <甲状腺疾患の病因> インターフェ 薬剤とサプリメントとの相互作用を熟知した上で患 ロン治療と自己免疫性甲状腺疾患内科 80: 者にアドバイスしなければいけません。 5)876-879,1997 21) 岡田.わが国において GH 治療中に発症 <参考文献> した甲状腺機能亢進症について; PHARMA 1) 高 須 .甲 状 腺 の しくみ とバ セ ドウ病 ;薬 局 MEDICA 17: 2.149-155,1999 43:8.1,1992 22) GUDBJORNSSON-B ら.アミオダロン 2) 山田.Ⅶ.代謝・内分泌系(5) 10.甲状腺・副 療法によりおこった疼痛性自己免疫性甲状腺 甲 状 腺 の は た ら き と疾 患 ;月 刊 薬 事 炎 ACTA MEDICA SCANDINAVICA 42:8.111,2000 3) 野口ら.甲状腺疾患の種類とその病態;臨床と 221(2):219-220,1987 薬物治療 16:4.282,1997 4) 久保田.甲状腺疾患を疑ったときの血液検査; 臨床と薬物治療 16:4.292,1997 5) 高須.バセドウ病; 薬局 45:1.401,1994 6) 村田ら.バセドウ病治療薬の生体内動態;薬局 43:8.29,1992 7) 石川ら.合併症を伴うバセドウ病患者の薬物療 法 43:8.23,1992 <編集後記> 8) 熊本県病院薬剤師会編.医薬品の使用禁忌と その理由 改訂3版 甲状腺疾患へ影響を与える薬剤は本当にた 9) 高須.ヨード含有食品・薬剤による甲状腺機能 くさんあり、全てを網羅できませんでしたが、甲状 低下症; 日本医事新報: 4148.90,2003 腺疾患患者の薬剤選択の参考資料としてご使用 10) 西川.ヨードの大量摂取と甲状腺疾患の していただければ幸いです。 関係; 日本医事新報:4178.87,2004/12/22 11) 藤本.有機ヨードを含む海藻・薬剤の接 種 と甲 状 腺 機 能 へ の 影 響 ;日 本 医 事 新 報 発行者: 富田薬品( 株) 4022.105.2001 医薬営業本部 池川登紀子 12) 橋爪.ヨード摂取と甲状腺疾患;日 本 維 持新報:3778.108,1996 お問い合わせに関しては当社の社員又は、下記 13) 高須.ヨードを含むうがい薬の甲状腺機 までご連絡下さい。 能への影響; 日本医事新報:4041.93,2001 14) 添付文書 TEL (096)373-1141 15) 市川.甲状腺疾患とその治療 病気2)バ FAX (096)373-1132 セドウ病; 医薬ジャーナル 34:3.73,1998 E-mail t-ikegawa@tomita-phar ma.co.jp 16) 宮原ら.甲状腺疾患とその治療 薬剤2) ♪♪♪♪♪まとめ♪♪♪♪♪ 87
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