平成24年3月12日

(ICP関係資料)
平成24年3月12日
国際交流部会活動報告(NO.2)
国分寺市国際協会主催講演会 出席(中村 洋)
1. 日時 平成24年3月10日(土) 14:00~16:00
2. 場所 国分寺市/本多公民館
3. 講演会/講師と演題
(講師) 脇 祐三 日本経済新聞社/論説副委員長(一ツ橋大学経済学部卒。
中東諸国駐在後現職)
(演題) 「『アラブの春』と今後の中東情勢の行方について」
4. 講演要旨
アラブ諸国とはアラビア語を話す人々であるアラビア人が主に住む地域を指すが、
アラブ諸国とはアラビア語を話す人々であるアラビア人が主に住む地域を指すが、
具体的にはサウジアラビア、イラク、シリア、ヨルダン、クウェ-ト、バ-レ-ン、
具体的にはサウジアラビア、イラク、シリア、ヨルダン、クウェ-ト、バ-レ-ン、
UAE(アラブ首長国連邦)、カタ-ル、オマ-ン、イエメン、レバノン、エジプト、
リビア、ス-ダン、ソマリア、ジプチ、チュニジア、アルジェリア、モロッコ、モ-
リタニア、パレスチナなどの国々のことで
リタニア、パレスチナなどの国々のことである。
(1)「アラブの春」の前の政治状況・・・「9・11」を契機にブッシュ政権下で米
国が中東に過剰介入し、結果イラクにアラブで初めてイランと同じシ-ア派が主
導する政権が誕生。シリアではシ-ア派に近いアラウィ派のアサド政権がイラン
導する政権が誕生。シリアではシ-ア派に近いアラウィ派のアサド政権がイラン
との同盟関係を強化。レバノンではシ-ア派原理主義組織とヒズボラが政党とし
との同盟関係を強化。レバノンではシ-ア派原理主義組織とヒズボラが政党とし
ても影響力を強め、パレスチナではガザを実効支配する原理主義組織ハマスは
スンニ派であるが、イランやシリアから支援を受け、かくて「シ-ア派の弧」が
スンニ派であるが、イランやシリアから支援を受け、かくて「シ-ア派の弧」が
広がりイスラエルと対峙し、シ-ア派の影響力拡大をサウジアラビアなどスンニ
派王政諸国やエジプトなども警戒する構図が続いた。また、アラブでも情報通信
派王政諸国やエジプトなども警戒する構図が続いた。また、アラブでも情報通信
革命が進展し、これまでオフライン化されていた国民が瞬時にオンライン化して
革命が進展し、これまでオフライン化されていた国民が瞬時にオンライン化して
行動することが可能になってきた。
(2)
中東社会の構造問題・・・人口増加率が高く、中東・北アフリカの総人口は
中東社会の構造問題・・・人口増加率が高く、中東・北アフリカの総人口は
1970年に1億9千万人であったものが今や約5億人。政治情勢変化の背後に
ある最大の構造問題は、爆発的な人口増加、高学歴化の一方での高率の若年失業
ある最大の構造問題は、爆発的な人口増加、高学歴化の一方での高率の若年失業。
人口増加、高学歴化の一方での高率の若年失業。
最近の食料価格高騰に伴う生活苦への不満も大きい。日本と対照的な「多子若
齢化社会」のアラブでは人口の60~70%が30歳未満。
齢化社会」のアラブでは人口の60~70%が30歳未満。人口増に雇用創出が
追いつかない。ILOの推計による2009年の15~24歳世代の失業率は北
追いつかない。ILOの推計による2009年の15~24歳世代の失業率は北
アフリカが25%、中東が22%で世界最高。「学校を出ても職がない」状態が、
これまではイスラム過激派の再生産にもつながっていた。主要な雇用の受け皿だ
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った役所や国営企業は満杯。人口8000万人のエジプトに400~600万人
の国家公務員、「実働時間は1日7分」。民間部門の成長は遅れ気味で雇用機会が
の国家公務員、「実働時間は1日7分」。民間部門の成長は遅れ気味で雇用機会が
乏しい。学校を出ても職を得るのはコネ次第。職の見つからない学生がキャンパ
スに吹きだまる。カイロ大学の在学生は23~25万人。不満を募らせる若者を
スに吹きだまる。カイロ大学の在学生は23~25万人。不満を募らせる若者を
原理主義組織や過激派がオルグするパタ-ンとなっている。また、人口増加と並
原理主義組織や過激派がオルグするパタ-ンとなっている。また、人口増加と並
行して大都市への人口の集中も加速。更には経済グロ-バル化の波が押し寄せ、
行して大都市への人口の集中も加速。更には経済グロ-バル化の波が押し寄せ、
直接投資の誘致、国内の民間投資振興が経済活性化のカギになった。補助金のカ
ット、役所のスリム化、産業民営化などの政策。産業多角化に投資増が
ット、役所のスリム化、産業民営化などの政策。産業多角化に投資増が不可欠で、
市場原理を導入し投資環境を
市場原理を導入し投資環境を整備。独裁下で経済テクノクラ-トを登用した内閣が構造改
革を進めたのが、1990年代以降のアラブ諸国であったが、民営化の利権が権力者の
周辺に独占される傾向も強く、権力者とパワ-エリ-ト
周辺に独占される傾向も強く、権力者とパワ-エリ-トが国民から遊離した(チュニジア
占される傾向も強く、権力者とパワ-エリ-トが国民から遊離した(チュニジア
の銀行利権、シリアの第二通信会社の利権などがその典型)。
の銀行利権、シリアの第二通信会社の利権などがその典型)。また、新たな富裕層が
登場した反面で「格差」も拡大、「新しい飢餓」現象が広がった。エジプトのムスリム同胞
団、パレスチナのハマス、レバノンのヒズボラなど地域に根を張る原理主義組織は、貧
困層への医療や教育の支援、住居や仕事の世話などで支持を広げ、福祉NGOとして
存在感を高め、政治勢力としても影響力を強めていた。
こうした変化の中で、チュニジア、エジプトでデジタル・ネイティブの若者
(貧困層ではない)が既存の体制への異議申し立て運動に火をつけ、「アラブの春」
が始まった。「アラブの春」が始まると、各国は取り敢えず構造改革路線に急ブレ
-キをかけ、緊急避難策として役所での新規雇用を増やし、食料への補助金を大
幅に増やして不満を抑える動きに出た。
(3)
アラブの春の中間決算・・・ただ、一口に「アラブの春」といっても
アラブの春の中間決算・・・ただ、一口に「アラブの春」といっても、各国同
ただ、一口に「アラブの春」といっても、各国同
質ではなく、Yes
質ではなく、Yes we can の変革熱は広がったが、実際の運動は各国ごとの事情で
の変革熱は広がったが、実際の運動は各国ごとの事情で
政権に不満を抱く勢力が相乗りして、チュニジアやエジプトでは既得権益維持を
政権に不満を抱く勢力が相乗りして、チュニジアやエジプトでは既得権益維持を
狙う軍が大統領を見限ったし、
狙う軍が大統領を見限ったし、部族社会のイエメンやリビアではカネの配分もからみ部
し、部族社会のイエメンやリビアではカネの配分もからみ部
族や軍が割れて内戦型となり、シリアでは少数勢力のアラウィ派の政権が身内で軍や
族や軍が割れて内戦型となり、シリアでは少数勢力のアラウィ派の政権が身内で軍や
治安組織を掌握しているが、デモ参加者が恐怖の壁を越え弾圧への抵抗が強まった。
これらは体制の制度疲労と長すぎた独裁がもたらしたものだ。他方、歴史的な「権威」と
経済的な「恩恵」を支えに、アラブの王政・首長制の国
経済的な「恩恵」を支えに、アラブの王政・首長制の国
は、共和制下の独裁より統治の正統性への異議は小さく、少数のスンニ派による
王政と多数のシ-ア派住民という宗派対立があるバ-レ-ンを除き、王制打倒の
王政と多数のシ-ア派住民という宗派対立があるバ-レ-ンを除き、王制打倒の
声は聞かれない。
(4)
台頭するイスラム政党・・・穏健イスラム勢力が独裁崩壊後のアラブ諸国の政
台頭するイスラム政党・・・穏健イスラム勢力が独裁崩壊後のアラブ諸国の政
治で当面、最大の影響力を持つ傾向が鮮明となってきた。これを無視したら、中
東外交は成り立たない。むしろ移行期の政治プロセスでイスラム勢力に現実主義
的な判断に立脚した政策の責任を担ってもらうことが重要である。
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(5)
当面の焦点はシリアの行方・・・「アラブの春」はイスラエル・パレスチナ関係
当面の焦点はシリアの行方・・・「アラブの春」はイスラエル・パレスチナ関係
にも大きな影響を及ぼすが、核開発問題をめぐるイラン締め上げ強化と、シリア
にも大きな影響を及ぼすが、核開発問題をめぐるイラン締め上げ強化と、シリア
の政権打倒が並行して進み、イランの影響力を低下させる流れになっていること
が、目下の中東の地政学変化の最大の注目点である。シリアに関しては、イラン、
が、目下の中東の地政学変化の最大の注目点である。シリアに関しては、イラン、
ロシア、中国も、アサド政権に政治改革を促しているが、イランやロシアはシリ
アの現政権がひっくり返ると自らの戦略に影響が及ぶので、なんとかして体制を
維持せよとのメッセ-ジを送り続けており、「内政干渉反対」の中国もアラブ連盟
の動きを見ながら軌道修正の余地を探っている。
(6)
米国の退潮、トルコの台頭、イスラエルの孤立・・・
米国の退潮、トルコの台頭、イスラエルの孤立・・・すでに米国は中東情勢を
スラエルの孤立・・・すでに米国は中東情勢を
コントロ-ルする力を失っている。米・イスラエルの隔たりが大きくなり、米・
サウジ・エジプト枢軸も「アラブの春」でガタガタになった。アラブ諸国で国民
サウジ・エジプト枢軸も「アラブの春」でガタガタになった。アラブ諸国で国民
感情が外交に反映しやすくなっている。軍事対決に戻るわけではないが、独裁政
権の存続を前提にしてアラブの反イスラエル世論を抑えるのも難しくなる。一方
中東・北アフリカ地域でトルコの存在感が増してきた。また、イスラエル社会の
変化にも注目すべきである。欧州出身の「白いユダヤ人」が建国した国だが、そ
変化にも注目すべきである。欧州出身の「白いユダヤ人」が建国した国だが、そ
の後に中東・アフリカ諸国から受け入れたユダヤ教徒が今では国民の多数派。更
の後に中東・アフリカ諸国から受け入れたユダヤ教徒が今では国民の多数派。更
に冷戦後に旧ソ連から100万人以上の移民を受け入れ、ユダヤ教の教義に極め
て厳格な超正統派の人口増も目立つ。和平志向のある左派リベラルや中道勢力が
地盤沈下し、和平志向の乏しい右派や宗教勢力の発言力が強まっている。現在、
パレスチナとの和平を急ぐ政治環境にはない。エジプトのムバラク政権を失い、
パレスチナとの和平を急ぐ政治環境にはない。エジプトのムバラク政権を失い、
トルコとの関係が冷え込み、シリア情勢が流動化するなど、戦略環境が激変し孤
立が深まっていることへの対応を考えなければならない。これからのイスラエル
立が深まっていることへの対応を考えなければならない。これからのイスラエル
の出方が、中東の地政学の次の大きな焦点となる。
(7)
中東の政治変動で日本が考えるべきこと・・・中東側がいま日本に期待する3
中東の政治変動で日本が考えるべきこと・・・中東側がいま日本に期待する3
大分野は①産業多角化・雇用機会創出のための直接投資と技術移転、②人口爆発
大分野は①産業多角化・雇用機会創出のための直接投資と技術移転、②人口爆発
と産業多角化に対応するための水や電力などのインフラ再整備、③自国民を雇用
可能な人材にするための教育・職業訓練や知識の移転。日本は石油・ガスを輸入
し、ハ-ドの機材を輸出する貿易関係にとどまらず、中東の国づくりに多面的に
協力し、投資も双方向で活発にしてゆくことが重要であり、また国造り・人造り
で日本への期待が続き、日本への敬意が残っているうちに、これを外交やビジネ
スの資産として活用する必要があろう。中東を「異なる文明」の特殊地域と考え
ず、双方にコモングラウンドがあると、まず考えることも重要である。
以上
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