海外の保育者・保育学生を対象とした男性保育者

海外の保育者・保育学生を対象とした男性保育者に関するインターネット調査
佐々木宏之(新潟中央短期大学)
キーワード: 海外調査 インターネット 男性保育者
男性が保育職に就くようになって 30 余年たち、保
育園や幼稚園で男性保育者を見かけることは珍しくな
くなってきた。それでもまだ全体の 1 割にも満たず、
離職する割合も高いというのが現状である。日本国内
で男性保育者が少ない原因は、経済的な問題、人間関
係の問題、女性の仕事というイメージ、の 3 つが挙げ
られるが、海外の男性保育者事情はどういったものな
のか。例えばイギリスでは、男性保育者の割合は日本
とほとんど変わらず、しかも児童虐待をするかもしれ
ないといった男性への偏見もあり、日本以上に難しい
環境におかれている。そうした状況の中、どのような
意識をもって保育現場に就いているのか、イギリスを
はじめとした他国の男性保育者の生の声をインターネ
ットを通じて集めることが本報告の目的である。本調
査では、英語圏の 5 カ国(イギリス、アメリカ、ニュ
ージーランド、オーストラリア、アイルランド)を対
象にオンラインアンケートを実施した。
方 法
ホームページ作成
ホームページのタイトルを Online survey on Men
In Childcare とし、ホームページ上に研究の目的、自
己紹介、著者の Web サイト(短大ホームページ)へ
のリンク、Facebook へのリンク、プライバシー保護
の説明、アンケート、送信ボタン・リセットボタンを
掲載した。回答者がアンケートフォームに入力した内
容は、CGI プログラムによってメール送信された。ア
ンケートフォームの動作確認は 3 種類のブラウザ
(Internet Explorer、Firefox、Google Chrome)で行
い、問題がないことを確かめた。
アンケート内容
アンケートは基本属性 4 項目(性別、職業、国、年
齢)と保育に関する質問 5 項目から成る。保育に関す
る項目では、最初に現在働いている施設、あるいは就
職を希望する施設を答えてもらった。続いて、保育職
勤務の継続の意思、男性保育者に必要な資質、男性保
育者に対する偏見、男性保育者の労働環境改善策につ
いて尋ねた。
アンケート協力依頼
期間: 平成 23 年 10 月 6 日から 11 月 4 日の約一ヶ
月間。データ収集もこの期間中に行われた。
電子メールによる依頼: 協力を依頼する保育施設の
選定には Google や各国版のYahoo!を利用し、
nursery、
preschool、child care center、kindergarten、staff な
どの検索語で検索されたサイトにアクセスした。保育
施設であることを確認した上で、スタッフページに男
性保育者の在籍が確認できた施設と、男性保育者の不
在が確認できなかった施設に対して協力依頼メールを
送った。協力を依頼した保育施設の数は 253 施設に及
んだ。保育者養成校の選定では、college、early
childhood education などの検索語で検索されたサイ
トにアクセスし、保育者養成コースがあることを確認
できた短期大学や専門学校に協力依頼メールを送った。
協力を依頼した保育者養成校は 73 校だった。
Facebook による依頼: Facebook 上で men in
childcare と検索し、ヒットしたユーザーのうち「いい
ね!」登録者数が多い 3 ユーザーに協力依頼のメッセ
ージを送信したところ、ヨーロッパ男性保育者ネット
ワーク(非営利団体)から好意的な返事が送られてき
た。数回のやりとりの後、Facebook のコメント欄に
「日本の保育学生からのリクエストを紹介します。た
った 2 分で終わるから皆さん協力してあげてくださ
い。
」という紹介文が、我々の依頼メールの引用と共に
掲載された。
アクセス解析
アンケートへのアクセス状況を Samurai Factory
社の「忍者アクセス解析」ツールで記録した。このア
クセス解析ツールでは、
アクセス日時、
アクセス回数、
使用モニタの解像度、Java Script 設定、Cookie 設定、
リンク元 URL、使用 OS、使用ブラウザ、使用言語、
IP アドレスを解析できる。
結 果
アクセス解析
アクセス解析の結果、ホームページにアクセスがあ
った延べ回数は 100 回であった。そのうち、ヨーロッ
パ男性保育者ネットワークの Facebook からのアクセ
スは 51 回だった。残り 49 回は協力依頼メール上のリ
ンクからのアクセスだと思われる。イギリスからのア
クセスは協力依頼メールに対する反応が多く、アイル
ランドとオーストラリアからはヨーロッパ男性保育者
ネットワークの Facebook 閲覧者が多かった。
アンケート回答者の属性
オンラインアンケートには33 名から回答があった。
国別のアンケート回答者数は、イギリス 16 名、アメ
リカ 3 名、オーストラリア 6 名、ニュージーランド 2
名、アイルランド 6 名だった。職業に関する内訳は、
保育者 14 名、学生 16 名、その他 3 名だった。性別の
内訳は男性 7 名、女性 26 名だった。年齢の内訳は、
10 代が 4 名、20 代が 16 名、30 代が 8 名、40 代以上
が 5 名だった。
離脱率と回答の質
延べアクセス数100 回のうち回答者が33 名なので、
離脱率は 67%である。この結果は従来のインターネッ
ト調査に比べるとかなり低い(つまり回答率が高い)
。
また、空欄のままだった項目は 33 名の全回答(297
個)の中でわずか 8 個だけで、記入された項目の単語
数の平均は、勤務先・就職希望先への回答が 16.1 語、
保育職の継続意思への回答が 13.8 語、男性保育者に求
められる資質への回答が 10.2 語、男性保育者に対する
偏見への回答が 21.5 語、
男性保育者の労働環境改善策
への回答が 31.5 語だった。これらの記述量からは、ア
ンケートに対して真摯に取り組んだ姿勢が伺える。
保育に関する回答内容
勤務先・就職希望先への回答は、33 名中 16 名が
nursery school と答え、他は daycare center(3 名)
、
kindergarten(2 名)
、preschool(2 名)などであっ
た。また、回答者の中には、経営者とその職員という
二人もいた。保育職の継続意思については、男性 7 名
中 5 名が継続意思を持ち、女性 26 名中 21 名が継続意
思を持っていた。男性保育者に求められる資質への回
答は、
「男性らしさ」を指摘するものはほとんど見られ
ず、
「女性と同じ」という内容が 33 名中 13 名で突出
して多かった。男性保育者に対する偏見については、
33 名中 24 名が偏見を感じたことはないとする回答だ
った。男性保育者の労働環境改善策には様々な意見が
提示されたが(表 1)
、もっとも多かったのが「男性保
育者に対する社会認識の是正」を訴える内容(13 名)
で、
「男女平等の職場づくり」の提案(10 名)がそれ
に続いた。
考 察
本研究は、
インターネットの長所を最大限引き出し、
海外保育者の生の声を集めるという目的を達成した。
Facebook での依頼では、関連組織の主催者がアンケ
ートに協力するよう告知してくれたおかげで、数日と
いう短期間の間に51 名のアクセスと14 名の回答が得
られた。国内の SNS で最大級のシェアを持つミクシ
ィには、保育関連のコミュニティが無数に存在する。
したがって、国内の保育者をターゲットとして研究を
する場合は、ミクシィのコミュニティに協力を仰ぐと
よいかもしれない。
男性保育者に求められる資質について、海外の保育
者はどう捉えていたかというと、
「女性と同じ」とする
回答が多かった。また、男性保育者への偏見は「ない」
という答えが多数を占め、職場環境の改善策について
はネガティブファクターの除去よりもポジティブな側
面(男性保育者の必要性など)への注目が多く提案さ
れた。したがって、英語圏諸国における男性保育者を
取り巻く環境は、偏見や性役割を議論する段階を乗り
越え、
「男性保育者をいかに増やすか」という次のステ
ージに進みつつあることを示唆している。
これに対し我が国は、保育者を「母親代わり」と位
置づけてきた保育観がある。男性保育者に対する抵抗
感は依然として強く残り、男性保育者との勤務経験が
ない女性保育者は男性保育者に偏見を抱く傾向がある。
その一方で、90 年代後半以降は性役割の意識が変化し、
男性としてではなく保育者として個性を発揮すること
が求められるようになってきた。今回と同様のオンラ
インアンケートを国内の保育者を対象に実施したとき、
海外の保育者と同じように性役割や偏見を意識しない
という回答が得られるだろうか。
今後の課題としたい。
表 1 男性保育者の労働環境改善策についての回答例
アイルランド人女性
幼児教育分野全体についての人々の見方。もっとこ
の分野の価値が認められれば、この仕事を望む男性が
いる理由を容易に理解してもらえるだろう。
アメリカ人男性
職場を女性的なものにせず、よりニュートラルな職
場を作ること。
ニュージーランド人男性
もし政府が男性保育者に対して政策や給付金で支援
したなら、男性保育者を雇用している保育施設は、よ
り多くの資金援助を得ることができる。そうなれば、
男性保育者がより尊重され、恩恵を受けられるように
なる。
イギリス人女性
男性は女性と同じように、子ども達と働くための多
くの権利を与えられるべきだ。男性と女性が共に子ど
も達と働くことですばらしい利点があることを保護者
達は知る必要がある。