2004年

アイルランド
(3) 英国北アイルランドとの市場統合に向けて
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Ⅲ.電力需給
アイルランドでは、電力・ガスの市場を英国北ア
イルランドと統合する動きがある。市場の統合に
1.需給バランス
は、需要家の選択肢の拡大、競争価格の提供、安定
2002 年 の 総 発 電量 は 252 億 kWh で 、 電 源 別 内 訳
供給などの利点があり、さらに、島レベルで給電や
は、天然ガス52.1%、石炭24.5%、石油9.6%、ピー
設備投資を行ない、環境問題へ取り組むことで、ア
ト7.9%、再生可能エネルギー2.1%であった。石炭
イルランドと北アイルランド双方にとって長期的に
は1995年には発電量の40%を占めていた。また、90
みて経済的にも社会的にも利益をもたらすことを目
年代には国産資源のピートを保護する政策が取られ
指している。
ていた。しかし、CO2排出量の少ない天然ガスや石
2004 年 6 月 、 通 信 ・ 海 洋 ・ 天 然 資 源 省
油への燃料転換がすすみ、石炭とピートの占める割
(DCMNR)と英国北アイルランドの企業・通商・
合は大きく低下した。前出のNCCSの施行により、
投資省(DETI)は、市場統合についての方針案を
2010年には総発電量の80%がガス火力となり、石炭
発表した。この方針案では、エネルギー関係者が、
は14%、石油は1.4%まで下がるとされている。
市場統合について十分議論できるよう情報を提供す
2002年の最終電力消費量は、218億kWhであり、
ることを目的とし、市場統合に関する政策や課題
部門別内訳は、産業用40.0%、住宅用33.9%、商業
点、統合のメリットなどについて確認している。
用28.5%であった。1990年以降の年平均伸び率は
同案では、市場統合に向け、2007年までに、以下
の4分野を優先的に取り組むとしている。
①インフラの整備:島全体で効率よく給電をする
ため、インフラ面での障壁を取り除く。
5.4%で、1999年-2000年で6.9%伸びている。電力
需要は年々増加しており、ピーク需要は1990年の260
万kWから2003年の440万kW(1月)へと大きく伸び
ている。
②取引協定の制定:健全な投資環境を整えるた
め、透明で、統一された、自由な取引を促すよ
Ⅳ.電力設備
うな取引協定を制定する。
③規制機関とTSO(送電系統運用者)の整備:同
1.発電設備
案では、送電系統の運用者と規制機関を最終的
2003年の総発電設備容量は450万8,000kW、ピー
には統合し、さらに、両地域の管轄で、従来通
ク需要は440万kWであった。1990年のピーク需要は
り地域市場を監督する機関も必要であるとして
340万kW(予備率は31%)、2000年は429万kW(予
いる。そのための基盤づくりを行なう。
備率は12%)であり、需要の伸びに対して設備投資
④持続可能な開発:近年伸びている電力需要を満
が追いつかない状況となっている。このような需要
たし、かつ炭素の排出量を減らす努力をする。
の増加に対応するため、発電設備への投資が必要と
市場の統合とともに、エネルギー効率の改善、
されている。
コージェネレーションや再生可能エネルギーの
取引やサービスを発展させる。
2004年現在、ESBは16の発電所を運転し、発電設
備容量の85-90%を占有している。発電においても
競争を促すため、2005年までにESBの設備容量の占
上記の③にもあるように、市場の統合には両規制
有率を60%まで下げる予定となっている。
機関の協力が不可欠である。エネルギー規制委員会
主要な発電所としては、アイルランド西部にある
( CER ) と 北 ア イ ル ラ ン ド の 規 制 機 関
マニーポイント発電所(91万5,000kW)が首都ダブ
(Ofreg/NIAER)は、市場の統合に向けて互いに協
リンに電力を供給している。同発電所では、石炭を
力するという内容の共同声明を発表した。両規制機
燃料としているため、温室効果ガスの排出が問題と
関は2007年7月1日までにアイルランド島全体を網羅
なっている。京都議定書の目標を達成させるため、
する卸電力市場を創設するとしている。
石炭からガスへの燃料転換が急務とされている。
また、アイルランドの特徴として、ピートを燃料
アイルランド
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とした火力発電所が3ヶ所で運転されていることが挙
ている。送電系統の線路亘長は、合計5,800kmであ
げられる。ピートは国産の資源として、政府によっ
る。400kVの送電線は、大型石炭火力のマニーポイ
て長い間保護されてきた。ESBはピート電力の購入
ント発電所と首都ダブリンとの間で運用されている。
義務を負っており、その費用は公共サービス義務料
配電系統は38kV、20kV、10kVで、2,000Vの配
金として、需要家が一部を負担している。ピート
電線に接続している最終需要家数は約163万軒であ
は、不経済であることと、燃焼した際のCO2の排出
る。配電系統の線路亘長は、合計8万kmである。
が多いことが問題となっており、消費量は年々減少
需要の伸びに対応するため、送電設備も改修と拡
している。Rhodeピート火力発電所(4万kW)で
張が進められている。2001年-2005年の5年間のプロ
は、2001年5月に、所内のボイラーの管が破裂し、従
ジェクトとして26億ユーロの予算が組まれ、特に南
業員がけがをする事故が起こり、2002年2月に同発電
岸・西岸の送配電系統の改修・拡張に重点が置かれ
所の閉鎖が決定された。5,000kWのCahirciveen発
ている。内訳は、送電系統に8億2,000万ユーロ、配
電所も2002年以降に閉鎖されている。2005年以降、
電系統に16億6,500万ユーロとなっている。
残りの3ヶ所のピート火力発電所も閉鎖され、
ShannonbridgeとLanesboroの2地点(既存サイト)
3.国際連系
に新しくピート火力発電所が立て直される予定であ
(1) アイルランド-英国北アイルランド
る。この2ヶ所の発電所の総容量は25万kWとなる。
アイルランドでは、2004年現在、唯一の国際連系
発電設備を新しいものに取り替え、ピート発電の熱
として英国北アイルランドとの連系線によってピー
効率を上げることで、温室効果ガス排出の問題に対
ク時の電力の融通が行なわれている。国境を超えた
処する予定である。
電力取引はあまり活発でない。
なお、アイルランドでは、需要の規模が他の先進
この英国北アイルランドとの連系線は、北アイル
国と比較して小さいため、原子力発電は利用されて
ランド紛争によって一部が破壊され、長い間運用が
いない。
停止されていた。1995年に、同地域の政治的な緊張
が緩和したことから、取引が再開されている。2001
表-1 ESBの所有している発電所(2004年)
発電所
燃料
容量(万kW)
ピート
12.5
Shannonbridge
ピート
8.5
Lanesboro
ピート
4.0
Bellacorick
水力(揚水式)
29.2
Turlough Hill
水力
3.8
Liffey
水力
8.6
Ardnacrusha
水力
6.5
Erne
水力
0.4
Clady
水力
2.7
Lee
石炭
91.5
Moneypoint
石油
62.0
Tarbert
石油
24.0
Great Island
ガス
52.5
Aghada
石油・ガス
102.0
Poolbeg
石油・ガス
26.6
North Wall
ガス
11.5
Marina
合計
446.3
出所
ESBホームページ.
2.送配電設備
送電系統は、400kV、220kV、110kVで運用され
年には連系線が改修され、片道の容量が30万kWか
ら60万kWに上げられた。費用の1,950万ユーロは、
ESB 、Viridian(北アイ ルランドの主要電力事業
者)、及び欧州地域開発基金(EUの域内格差を是正
するための地域政策のひとつ)が等分して出資し
た。このほか、北アイルランドとの間には容量12万
kWの予備の連系線があり、アイルランド-英国北
アイルランド間の連系線の総容量は片道72万kWと
なっている。しかし、両地域の系統上の制約から、
実質の送電容量は北アイルランドからの輸入が19万
kW、輸出が6万kWである。
(2) アイルランド-英国ウェールズ
また、アイルランドと英国ウェールズ地方とを結
ぶ連系線(2回線;送電容量は各50万kW)の建設が
計画されており、2004年8月、アハーン通信・海洋・
天然資源大臣は、建設の着手を発表した。これは、
アイルランドと大ブリテン島を結ぶはじめての連系
線であり、直流で両国の系統を接続する海底ケーブ
アイルランド
ルが建設される。この連系線による供給力は、国内
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Ⅴ.料金
の電力需要の約20%に相当する。
これまで、この計画の遂行には、コストの高さが
1.料金規制
ボトルネックとなっていた。しかし、EU加盟国間の
2001年以降、CERは送電線の使用料金、配電線の
電力取引の促進とEU域内の安定的な電力供給を促す
使用料金、及びESBの一般需要家向け小売料金の見
目的で、EUの「欧州横断エネルギーネットワーク
直しを毎年行っている。これは、2005年2月から小売
(TEN)」政策が取られ、その中で、アイルランド
市場が完全に自由化されることを見越して、コスト
-英国北アイルランド-英国大ブリテン島間の連系
を反映させた電気料金体系を整えることを目的と
線を優先的に増強することが決まった。系統の送電
し、ESB以外の電気事業者が競争市場に新規参入す
容量の増強費用の20%を上限として欧州委員会から
る際に価格設定において不利にならないように、配
融資を受けられるようになり、プロジェクトの遂行
慮したものである。
に弾みがついた。建設にはCERがフィージビリティ
スタディを行い、競争入札を実施する。このプロジ
2.料金レベル
ェクトではPPPモデルが採用され、民間資金と技術
(1) 料金の変遷
が活用される。
1980年代には大口産業用需要家の平均単価が、
図-1
アイルランド島の系統図
V
500k
スコットランド
北アイルランド
国境
アイルランド
火力発電所
水力発電所
変電所
出所
UCTE.
400kV
220kV
220kV(2回線)