協働事業紹介 (財)おかやま環境ネットワークニュース No.69 〔 NPO 法 人 里 海 づ く り 研 究 会 議 〕 ミ ニ シ ン ポ ジ ウ ム “ ア マ モ と カ キ の 海 ~ 日 生 を 里 海 に ~ ”「 ひ な せ 千 軒 漁 師 の 里 」 1.開会挨拶 (1) NPO 法人里海づくり研究会 議・奥田節夫理事長 近年「里海」という言葉は国 策に反映されるなど注目されて きている。当研究会議は「里海」 を主軸に各分野の研究者が集ま った組織であり、実際に産官学 民の 4 者が協力して「里海」づ くりをしていく為、日生地区を 最初に取り組みたいと考えてい る。今回はその一歩目であり、 参加頂いた方との意見交換、討 論を中心に理解を深め、課題や 方向性を共有していきたい。 (2)日生町漁業協同組合・淵本 重廣代表理事組合長 日生ではアマモを増やす取り 組みを続けてきており、近年で は大きな成果となってきた。そ れに伴いカキの生産も安定、向 上してきている。これからも研 究者の知恵を借りながら漁業者 をはじめ多くの方とアマモ場造 成や里海づくりの取り組みを続 けていきたいので、幅広いご支 援ご協力お願いしたい。 2.講演 (1)『アマモの役割と機能~カキ を育てる海草~』岡山県農林水 産部水産課・鳥井正也総括主幹 アマモ類は日本の沿岸域によ く生える海草で、岡山では「ア マモ」と「コアマモ」の 2 種類 が見られる。 日生の海は濁り(栄養)があり 水温が高いのでアマモが少々生 えにくいが、その環境の中で生 きていけるようアマモ自身が種 を多く残すようになった。 アマモが多く生えている場所 (アマモ場)には、主な機能が 4 つあり、それは①魚介類の育成 場や産卵場、②魚介類の餌場、 ③海水の浄化、④栄養分の再配 分、である。 海水の浄化というと、海水の 中の栄養分を取ってしまうので はないかと思う方もいるが、実 際には海底へ落ちてきた栄養を 根から吸収している。また、抜 けたり枯れたりしてもすぐに腐 らない。だから、アオサのよう に腐って、吸収された栄養分が 再び海に溶け出すことがない。 更に、木や葉っぱと同じように 光合成を行い、二酸化炭素を吸 収して酸素をつくっている。 アマモ場を増やしていくには、 ①水がきれいなこと、②浅いこ と、③波が静かなこと、がポイ ントである。その為の場所づく りも行っている。アマモ場が復 活してもすぐには魚が戻ってこ ないという意見も言われるが、 復活したアマモ場に固有の生態 系が出来上がるのに 5 年以上は かかると言われている。日生の ように 20 年以上もアマモを増 やす取り組みを続けているとこ ろはない。日生ではカキ養殖が 盛んだが、アマモ場が増えるこ とによる効果(水温を下げる、栄 養を提供しているなど)をもっ としっかりと確認してきたい。 (2)『岐路に立つ瀬戸内海漁業』 京都大学大学院農学研究科応用 生物科学専攻海洋生物環境学分 野・藤原建紀教授 瀬戸内海の栄養や水温、流れ について調査をしている。 近年、 ノリやワカメの色が落ちてきて おり問題となっていて、その原 因と対策を検討している。 瀬戸内海への栄養は、主に① 陸から川を流れてくるもの、② 太平洋などの外海からくるもの、 の 2 つある。その中で、今まで 調査した結果として、陸域から の栄養が減ってきている。 海水の濁りについて言うと、 大変キレイになってきている。 これは栄養が減ってきているの で、生物からしてみれば餌が無 くなってきているということ。 最近、 「磯やけ」という海藻が なくなる現象が各地で起きてお り、ウニやアイゴなどの食害が 注目された。しかし、多くの海 域では水温が高いことや栄養が 無くなったことなど、環境の変 化が原因であることが分かった。 瀬戸内海の海砂利採取によっ て、海底が深くなり光が届かな くなり、濁りが増えたことで海 藻が無くなり、イカナゴや貝類 などが減少した。それが、海砂 利採取の禁止となり、濁りが回 復し場所によってはアマモ場が 再生したりしている。日生は瀬 戸内海において恵まれた海域で あり、播磨灘や備讃瀬戸におい て、海底におちた栄養や生物が 日生沖で湧きあがってくる。潮 も速いので海水も混ざりやすい。 (財)おかやま環境ネットワークニュース 栄養が少なくなり、砂漠化した 海を豊かな海にするには、ゆっ くり育つ植物を育てること。砂 地に生えるアマモは、根から栄 養をとるので海中に栄養が少な い環境にも強く、濁りが少なく なったことで育ちやすい条件が できている。また、カジメなど の大型海藻が育つ基質や魚礁を 入れることで岩場をつくってや ればよい。その他、生物の育成 環境を向上させるような取り組 みを加速させていけば、 「きれい で豊かな海」は実現される。 (3)『日生における里海創生論 ~アマモとカキの里海~』九州 大学応用力学研究所・柳哲雄教 授 「里海」とは、人の手が加わ ることにより、生産性と生物多 様性が高くなった沿岸海域とし ている。里山もそうであるが、 人や町がうまく環境を使ってい かなければならない。 様々な生物が多く居る環境は、 それぞれの生息環境がなければ ならず、人が整備しなければ上 手くいかない。 日生町漁協では、アマモの他 にも海底ゴミの持ち帰り、自主 休漁など、他の漁協が取り組め ていない活動が先進的に進めら れている。五味の市では、旦那 が漁獲し嫁さんが販売すること で、 売れ筋などの情報が分かり、 生産量を調整することができ、 雑魚を美味しく調理して食べる 文化もある。このような取り組 みは大いに宣伝していき、付加 価値を高くしていくべきと思う。 日本には、日生の他にも進ん だ取り組みをしている地区があ る。三重県志摩市や沖縄県恩納 村などがその一例だが、参考に なるものはどんどん取り入れて より良いものを追求していって 欲しい。世界にも面白い事例は 多い。 里海として続けていく為には、 地元の知恵や文化と科学的な数 値と技術が必要になってくる。 新しいアイデアを試したり、新 しい技術や工夫を行うなど、と もに力を合わせていきたい。 3.総合討論 ~会場参加型パ ネルディスカッション コーディネーター:奥田節夫 (NPO 法人里海づくり研究会 議理事長・京都大学名誉教授) パネリスト:大久保賢治(岡山 大学大学院環境生命科学研究科 教授)/清野聡子(九州大学大 学院工学研究院環境社会部門准 教授)/藤原建紀(京都大学大 学院農学研究科応用生物科学専 攻海洋生物環境学分野教授)/ 松田治(広島大学名誉教授)/ 鳥井正也(岡山県農林水産部水 産課総括主幹)/柳哲雄(九州 大学応用力学研究所教授) パネリスト(未講演者)の自己 紹介の後に、 総合討論を行った。 (1)岡山大学大学院・大久保教授 より自己紹介 自身の専門は水の流れや速さ などである。岡山、水島などで 流れの調査や研究を行っており 濁りと関係が強い。 (2)九州大学大学院・清野准教授 より自己紹介 岡山とは縁が深く、カブトガ ニや玉野栽培センターにはお世 話になった。日生を色々と勉強 したい。韓国の海洋博覧会から 帰ったばかりであるが、岡山と 環境が非常に似ていると感じた。 (3)広島大学・松田名誉教授より 自己紹介 色々な地区の「里海」づくり No.69 に携わっていて、日生は進んだ 取り組みが多くあるが、その一 歩先へ進めるよう考えていきた い。 (4)総合討論(抜粋) Q:埋立地を海に戻すことに取 り組んだことがある。元の自然 や干潟などにすることが重要に 思う。 (一般参加者) A:総論的には非常に良いと思 う。他の地区でスケールは小さ いが潮受け堤防の水門を開放し て堤防内の劣化した環境を再整 備した事例があるが、所有権や 利用調整の問題がでる。共存共 栄を見据えて諦めないことが大 切。(松田) Q:ヘドロを改善できる技術は 無いか?行政の行う調査に協力 することがあるが底質が悪いこ とを目の当たりにする。海を混 ぜ返すような台風が来ないのも 気にしている。(漁業者) A:岡山県内で成果が出ている、 カキ殻による底質改善技術を試 したい。地元から粘り強く要望 を挙げて欲しい。(柳) A:丁寧な調査や協議をしてい くことが大切。(清野) A:これから詳しい調査をして いきたい。泥は良いものもある。 (大久保) 4.閉会挨拶 NPO 法人里海づくり研究会 議・柳哲雄副理事長 意見、疑問など尽きないと思 うが、いつでも聞いて欲しい。 今回のパネリストは鳥井総括主 幹以外、当 NPO 法人のメンバー である。先般、日生町漁協、岡 山県、おかやまコープ、当 NPO 法人での 4 者協定の調印が行わ れ、これからみんなで「感動」 をしてけるような取り組みをし ていきたい。
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