パネルディスカッション - NPO法人イムクルス IMCRTH

第8回包括的遺伝子医療研究会
『予防医学への道』
‐ 東 日 本 大 震 災 を 経 験 し て「 今 こ そ 考 え よ う 、障 害 者 自 立 支 援 と 食 の 安 全 」‐
日時:平成 23 年 12 月 5 日(月)
午後 1 時∼5 時 40 分
会場:東京都新宿区河田町 8 番 1 号
東京女子医科大学総合外来センター5 階
大会議室
総合司会
田中建志
(NPO 法人イムクルス審議員)
開会挨拶
髙倉公朋
(NPO 法人イムクルス理事長)
講
講
演
演
細川佳代子
【演題】
インクルージョン∼共生社会をめざして
宮田
(日経 BP 社
満
【演題】
講
演
(NPO 法人勇気の翼インクルージョン 2015 理事長)
医療局主任編集委員)
震災と医学研究
松岡瑠美子(若松河田クリニック院長)
三谷
明
(石井食品株式会社
【演題】
新規事業本部
統括マネージャー)
パンフレット「脂肪と健康」と食生活に関するアンケート
について
‐なぜ先生が言ったことが守れないのかー
パネルディスカッション
司
会
パネリスト
高垣洋太郎
(NPO 法人イムクルス審議員)
細川佳代子、宮田満、松岡瑠美子、
石井健太郎(石井食品株式会社
閉会挨拶
高倉公朋
代表取締役会長)
(NPO 法人イムクルス理事長)
懇親会・石井食品試食会「自然食品による素食がおいしい試食会」
(レストラン&カフェ
ポールライト)
第8回包括的遺伝子医療研究会
パネルディスカッション
※転載はご遠慮下さい
日
時
:
平成 23 年 12 月 5 日(月)午後 1 時∼5 時 40 分
場
所
:
東京女子医科大学
司
会
:
高垣洋太郎
(NPO 法人イムクルス審議員)
パネリスト:
細川佳代子
(NPO 法人勇気の翼インクルージョン 2015 理事長)
宮田
(日経 BP 社
満
総合外来センター5 階
大会議室
医療局主任編集委員)
松岡瑠美子
(若松河田クリニック院長)
石井健太郎
(石井食品株式会社
代表取締役会長)
【編集部より】
日下部きよ子先生(東京女子医科大学名誉教授
画像診断・核医学科非常勤講師)
によるご講演「放射線被ばく」とパネルディスカッションへのご参加を予定してお
りましたが、体調不良により当日ご欠席となりました。
(要約)
(敬称略)
司 会 ( 高 垣 ):最初に今日お話しいただきました先生方に、それぞれの先生の
ご講演をふまえて一言ずつお話をいただきたいと思います。最初に感動的
なお話をいただきました細川先生お願いいたします。
細 川:先ほど、どうして障害のある方が生まれてくるのかと申し上げましたが、
それは神様からの贈り物とお話しました。最近そうした方の数が増えたと
いうことは、それは人災というか、私たちの生活が贅沢になり乱れたため
にその被害を被っている人が誕生しているといえると思います。私は食物
の専門家でも科学的な研究をしている者ではないので無責任なことは申せ
ません。先日大阪大学の教授の先生方が「子どもの発達を考える会」とい
う NPO を立ち上げるということでお話を伺いました。
学校現場で先生やカウンセラーの方が発達障害のあることを親御さんにお
話しすると 9 割の方が拒絶をされます。1,2 回の目の検査で障害の有無に
ついてわかるということであり、科学的実証があれば親御さんも納得する
ことができると思います。2 歳までにわかり早期療養をすれば、すくすく
と成長し、社会人として育てることができるという朗報に接しました。親
はすぐに油っこいものや甘いものなどを子どもに与えてしまいます。食の
安全ということについての勉強をご家族に指導していっていただきたいと
強く思いました。
司 会 ( 高 垣 ):ありがとうございました。療育の問題や社会をこれからどのよ
うにしていくかという大きな問題にふれていただきました。震災というこ
とに目を向けるとまだまだ放置されている問題もあるように思います。宮
田先生、一言付け加えることはございませんか。
宮 田:今起こっていることは、食生活の変化や人類が子どもを育てたり社会を
創ったりする環境が急速に変化しているのだということを感じています。
食生活、子育て、コミュニティーの急速な変化が一番弱いところ∼子ども
∼に襲いかかっているのだと思います。これは退化であると同時に進化で
もあり、どうやって折り合いをつけていくかが問題だと思います。福島の
復興に係わっている大人たちが「年をとった大人たちのことはどうでもよ
い、復興の優先順位、判断基準は子どもだ」と語っていました。細川先生
のお話を伺っていても私たちは子どもを大切にしてこなかったと気づかさ
れました。個人として社会としてどのようにして子どもを大切にしていく
かを考えていかなければならないと思います。
司 会 ( 高 垣 ): 子どもたちの健康状態が危機的な状況にあるというお話をされ
た松岡先生いかがでしょうか。
松 岡 : 私たちは文部科学省の研究費で IREIIMS というプロジェクトを 5 年間
で 43 億円という多額の予算で当時の学長であった高倉先生を中心にやっ
てきました。文部科学省の方々をはじめ多くの方々のお力添えをいただき
研究を進めてきました。こうしたチャンスをいただき、多くの方との出会
い、幅広い交流を行ってまいりました。IREIIMS プロジェクト終了後、こ
れを発展させ、2年前に個の医療、個の予防の確立をめざし若松河田クリ
ニックを立ち上げました。さらに H24 年 2 月にはこれを支える福祉工房を
含む GENNKI HAUSUE Luce(ルーチェ)の設立計画 や 5 年後には障害
者のコロニー作りの計画もあります。私どもの外来には全国から患者さん
がお見えになっておられます。中には、一つの遺伝子の傷でもいろいろと
問題があるのに、その数万倍もの塩基配列に問題があるという厳しい現実
の子ども達もいらっしゃいます。社会生活が思うようにはいかなくて、う
つや統合失調症など様々な病気を抱えながら頑張っておられる方々もいま
す。その子達の食生活の改善を図っておりますと病状が増悪せずに良くな
る子も出てまいります。そうであるならば、広く一般の人にはもっと効果
があるのではないかと、話が広まってまいりました。私どもは問題を抱え
ている子どもたちから学び、そのノウハウを駆使し、個の医療、個の予防
の発展に貢献したいと考えています。その中で、人々の病気の軽減と健康
を守るためには、衣食住から見直さなければならないということになり、
多くの方々のご協力を仰ぎながら私どもで出来ることならば独自に何でも
やろうという姿勢で現在活動を進めております。
司 会 ( 高 垣 ): 食を提供されるお立場から石井先生いかがでしょうか。
石 井:食のあるべき姿を語るのは非常に簡単ですが、それをどのように履行す
るかという難しい問題があります。私たちは美味しいものを作るというの
が仕事の定義だったのですが、それを変えようということになりました。
その方に望ましい食事を提供するというサービスをしていこうという大
それたことを考えています。食品業界が抱える問題として企業は儲けなけ
ればいけない、一方消費者は便利さを追求する。ビジネスとして安くて便
利なものを供給するというなかで問題をかかえています。
今日子どもの問題が語られているので少し触れますと、お母さん方は子
どもの好きなものを与える。子どもが野菜が嫌いだというと一切与えなく
なる。何で野菜が嫌いなのか、どの野菜が嫌いなのか、どの料理が嫌いな
のかということをしつこく聞かなければいけない。そしてハウスものすべ
てがいけないというわけではないが、人参であれトマトであれ味のないも
のが多い。一方私どもが仕入れているトマトはポルトガル産のものです。
リスボンの北に大きな川が流れており、冬には雨が降り洪水となる。夏は
日照りが続きます。5,6 月にトマトを植えるとミネラル豊富な土壌と太陽
を浴びて美味しいものが出来上がります。コストもかかりますが、適切な
作り方によってできたものを与えたい。近代的な社会はまた様々な制限が
あります。そして人それぞれの好み、好き好きといったものを取り入れて、
要請があればこういう物はどうですかと提案、供給できる体制を作ってお
く必要があります。食材の生産地が大事になってきます。
司 会 ( 高 垣 ): 会場の方からも質問があれば随時挙手をしてください。
食の問題と社会のあり方=教育=子どもという 2 つのテーマが浮かび上が
ってきました。細川先生のお話の中に教師もお手上げの状況で、わらにも
すがる思いで、いじめの多い中学に障害者が関わることで状況が大きく変
わったという事例がありました。私たちが見過ごしてきたエレメントなど
についてもう少しお話しください。
細 川:どうして子どもが変わったのかというと、私の想像ですがいじめが蔓延
していると怖くて怯えている。誰も自信を持って発言できなくなる、疑心
暗鬼になってしまう。そうすると勉強にも身が入らないという状況になり
ます。そして塾通いや家庭内でのゲームやパソコンに触れるという環境に
ある。子ども力、人間力という集団生活を通して養われるものが劣化し、
コミュニケーション能力がとても低下していると思います。そういう子ど
もの前に突然知的障害をもった大人が現れるとどうしてよいかわからな
くなる。それでもどうしてもフロアホッケーをやらなければならない。自
分も練習しながらシュートをさせたり、ルールを教えたりしなければなら
ない。先生も誰も手助けしてくれなくて困り果てて苦労するという経験を
初めてした。次の週、また次の週とやっていくうちに皆どうすればよいか
ということを考え出した。工夫をして成功すると、うまくいった喜びや感
動を味わった。笑顔がでて、
「ありがとう」
「ごめんね」と言ってもらえる。
障害者と関わることにより純粋な喜怒哀楽が引っ張り出されてきた。最後
には感謝の手紙を受け取りました。苦労の末に人の役に立ったという喜び
や達成感、自信を味わうという学びをしたと思います。ただ単に先生の言
ったことを書いたり覚えたりする授業、友達同士ではいじめがある・・・
そんな地獄のような生活が一変し、助けあえる、いじめなんてくだらない
と感じるようになった。校長先生は「これぞ教育だ」と感慨を込めておっ
しゃいました。今の学校教育は何とかしなければいけないと思っています。
司 会 ( 高 垣 ): 障害者と触れ合うことによって新しく学ぶ機会が与えられ、試
行錯誤することによって喜びと成長が得られたということなのでしょう
か。
細 川:自尊感情と自信と役に立ったという喜びと満足感で一杯になり目つきや
顔つきが変わります。そうした場を与えていない今の学校現場は一体何を
しているのだという気持ちになります。目先の学力向上ばかりに目を向け
るのではなくて人間力を育む教育をしなければ大変なことになるのでは
ないかと心配をしております。
司 会 ( 高 垣 ): 自分で答えを見つけるのではなく、誰かが用意した答えをうま
くあてることで点数を稼いでいくような教育がなされ、物を考える力がな
くなってきていると感じます。そういうことは教育の現場は気が付いてい
て「ゆとり教育」にシフトしようとしたのだが見事に失敗してしまった。
欧米では人手をかけて教育している。大学教育も創造力がないと言われて
いますが完全にマス教育であり、効率化されて人間関係が希薄な状況にあ
ります。教育やコミュニティーという観点から震災の復興を考えていくと
きに人間がバラバラになってしまっている。これから起こりうる災害に対
しての提言などについて、宮田先生いかがでしょうか。
宮 田:アメリカ軍は「ともだち作戦(TOMODACHI OPERATION)」を行い、
その後 5 月末にはあまり報道されていませんが「ともだちイニシアチブ」
をいうものを立ち上げました。彼らはとにかく東日本を復興させなければ
いけないと考えました。それは人道的な観点もありますが、被災地はあら
ゆる産業の部品を製造している地域でもある。当初アメリカは国産化しよ
うとしたが、シンクタンクが調べたところ 5 年を要することがわかった。
そこで何としても復興をさせなければならないということになった。彼ら
のやり方は非常にスマートであり、現地の若い人が担い国際的な交流を通
じてサクセスストーリーを作っていくということが大切であると考えて
いる。我々は助言を求められたときに手助けをするということでなければ
いけない。権限移譲をして現地の人々の出番を用意し、元気な若者を支援
することにより新たなコミュニティーを作っていくことが大切なのでは
ないかと考えています。
司 会 ( 高 垣 ): 震災が世代交代を促進するという興味深い指摘をいただきまし
た。
宮 田:若い人が駄目になったとか言いますが、ひょっとしたらすごい底力を持
っている。先ほどの細川先生のお話にあったように、困ったらやる能力が
あるということだと思います。大人は困らせないようにしてきたという大
きな間違いを犯してきたのです。この震災は若者を鍛える機会となったと
いえると思います。
司 会 ( 高 垣 ): 政策的にやろうとしていたグローバル化が今回の震災を機に実
質的に動き出したということなのでしょうか。
宮 田 : いろんなプログラムを今、公募しています。ある程度の NPO のような
ものの活動をグローバルに連携をとってやること。日本の NPO も頑張っ
てやっているけれどもアメリカのシンクタンクの分析によると力が弱い
という状況にある。細川先生のところのように 2 億円も集めるというのは
例外的なものです。規模を大きくして資金調達能力をつけさせて自律的な
若者の団体を作るというのが大きなテーマです。そんなことを日本政府は
何も考えていなかったし、私たちも考える選択肢を持っていなかった。そ
ういう意味でアメリカのやり方はすごく賢い。こうやって親米の気分を盛
り上げていく∼これこそ外交だと思います。
フ ロ ア ー A( 男 性 ): 松岡先生の患者です。宮田さんに質問です。日経新聞が
CSIS(戦略的国際問題研究所)をネット上でバーチャルなシンクタンクを
創るという話を聞いていますが現状を教えてください。
宮 田:今のところ具体的にどうなのかということは社内にいてもよくわかって
いないのですがその方向に動いていると思います。バーチャルな議論の場
というのは意見交換には適していると考えています。ただそれがどのよう
な実効性を持つのかということについてはまだよく見えていません。もう
少しお待ちいただきたいと思います。
フ ロ ア ー B( 女 性 ): 私も松岡先生の患者です。私の故郷は福島県です。今一
番問題になっているのはやはり食の安全の問題です。皆さんセシウムの線
量計を持って測定をしたり、コメの作付を控えたり、東京のお母さんは東
京の水は子どもに飲ませないなどと言ったりと、非常に混乱しています。
この混乱の収め方について伺いたい。きちんとしたデータ開示と説明、勉
強をすれば収まるものなのか。政府の言っていることはどこまで信用でき
るのか。マスコミのいうことと私たちの日常生活にギャップがある気がし
ます。本当に安全なのかということを知りたいと思います。
司 会 ( 高 垣 ): 情報や教育が不十分でありデータとその解釈の仕方についての
十分な理解が行き届いていない状況にあると思います。本日は日下部先生
がお体の具合が悪く欠席であり残念でした。新聞も時折いろんなデータを
発表しており、08 年の朝日新聞では、1950‐60 年代というのは太平洋で
核実験が行われていて放射能のバックグラウンドが今の 1000 倍くらいあ
ったとのことです。子どもの頃のことを思い出しても天気予報で「明日雨
になるので傘をさしてください。放射性のストロンチウムが骨に貯まりま
すので注意しましょう」などといっていた記憶があります。70 年代は中国
の核実験の影響で 100 倍以上であった。
私たちはそういう時代を経てきている。宮田先生によれば、何が人間に害
があるかないかというデータや解釈がまだ不十分だというお話もありまし
たが、いかがでしょうか。
宮 田 : 核実験が行われていた時期の大気圏の放射線量は先ほど 1000 倍と言わ
れましたが 10000 倍だという人もいます。広島・長崎のデータを解析し、
広報すべきだと思いますが残念ながら継続的な疫学調査は不足していま
す。科学的な研究データが不足しているため、個人の感受性の違いでいろ
んなことを言うことになってしまっている。政府や厚労省は誤りを恐れる
のではっきりしたことは言わない。権威ある数字を出せる科学研究がなさ
れていないということが問題です。これから 10 年、20 年をかけてしっか
りとした追跡調査がなされるべきだと思います。東北メディカルメガバン
クの設立もそうした意味で重要です。今、信頼できるデータや研究がない
状況下でどうやって自分たちの身を守るのかということは非常に難しい
問題です。未知の脅威に対して我々が正しい判断をしていくのかというこ
とは、とてもわからない。もう一つは報道や政府の情報提供の未熟さとい
うことがあるのかもしれません。さらに先ほどの教育の問題について言え
ば、すべてのものにリスクがあるということを教わっていない。リスクが
余計になるだけで悲鳴を上げてお国のせいだというようになってしまう。
結婚にだってリスクはある。リスクと上手に付き合う方法というものを常
識として身につけるという教育が必要だと思います。松岡先生に申し上げ
たいけれど科学や医学というのはまだまだ未熟です。まだまだ分からない
ことが多い。その中であなたはどういう選択肢を選ぶのかということが問
われるのだと思います。えてして答えをすぐに欲しいという気持ちになり、
本当はよくわかっていない権威に頼るようになる。リスクがないなどと思
うようになったのはこの 20,30 年のことです。みんな困っている、それを
知恵を出し合いながら何とかしていくというのが大切だと思います。
石 井:食品会社としては困っています。自己防衛しなくてはならないのでどう
いうことをしているのかについてお話しします。国の基準がなかなか決ま
らない、あるいは決めてあるものに対して社内基準や県の基準は国の数値
の 20%を目安にしています。また以前からやっていることですが、農薬は
もとより、畑についての検査をします。放射線を含め検査の結果合格した
ものはその情報を公開する。あとは買う方が判断してくださいということ
になる。鶏肉や野菜などは国産ですよというところから始まって、次に○
○県産、それから○○市町村産という表示になってきた。生産者を守らな
ければならない。ですから生産者が自信をもって作っているものについて
はしっかりと情報を公開していかなければならないと思い、実行していま
す。
司 会 ( 高 垣 ): 放射能ということで世の中は少し過敏になりすぎているのでは
ないかと思います。私たちの体は三分の二が水ですので、放射能を浴びる
と水が分解し、遺伝子を傷つけることになります。お酒を飲みすぎても同
じようなことが起こります。実は我々が浴びている放射能の世界の平均は
2.4 ミリシーベルト/年といわれていて、そのうちの三分の一ぐらいは自分
が放射能を出しているわけで、自分たちも放射線源であるということを忘
れてはいけないわけです。そういう観点からいうとγ線を浴びる、電磁波
を浴びるわけですからむしろ高圧線の下の方で白血病が多発していると
いうアメリカのデータとか、マイクロウエーブの携帯電話が脳腫瘍を起こ
しているということを含めて、我々の周りのリスクはどういう風にあるの
かということをもっと勉強していかなければいけないし、あるいはマスコ
ミの方々も社会に情報を流し教育していくという努力をどんどんしてい
ただきたいと思います。もっと知ること、すなわち知の力で今の状況を乗
り越えていきたいと思うわけです。また食べているものも私たちを変えて
いくという大きな問題があります。松岡先生のお話の中に n3 系と n6 系と
呼ばれるものの比率が大事だという指摘がありました。サプリメントの製
造会社が、松岡先生が害があるとおっしゃっていた n6 系のアラキドン酸
を売り出すという間違いを犯したこともありました。
社会的にそうした知識が少ないということがあるといえます。なぜ油の問
題が起こってくるかというと、食の工業生産に伴い、トウモロコシや大豆
の油が食品の中にはいってきていることによって比率が変わってきてしま
った。文明、食の大量生産ということが我々の不健康をもたらしたのでは
ないか。鬱気味の学生が相談に来て、聞いてみると朝食を食べていないか、
夕食がコンビニ弁当であるケースが多い。コンビニ弁当というのは、長持
ちをさせるために熱を与えていますのでビタミンが壊れている。
ですからビタミン剤を与えると意外と簡単に回復することがあります。つ
まり精神的な様態というものは食べているものによって変わってくる。食
べているものの内容と同時に食べているものの色や味などが与える精神的
な影響というものがある。70 億の世界人口を養う意味からは大量に安く食
料生産をしなければならないという面がありますが食料生産のあり方につ
いても考えていかなくてはならない。自給率や TPP、農業の問題なども考
えていかなければならないと思います。そのあたりの問題を松岡先生お願
いします。
松 岡:放射能のことについて私が外来でどのような話をしているかと言います
と、
「あなたはタバコを吸ってらっしゃいますか」と尋ねると「毎日 20 本
吸っています」と答えられる方がおられます。「最近はさらに多いといっ
た意見もありますが、1 本のタバコは 1 から 1.5 マイクロシーベルトに相
当するといわれておりますので、あなたは 1 日に約 30 マイクロシーベル
トのポロニウムの被曝(α線)を受けているのですよ。」、さらに「でもあ
なたは元気ですよね」という会話をいたします。現在、結局どこまで安全
なのかというはっきりしたデータがない。一方、放射能はすべて悪いわけ
でなく、ある程度の放射能がないと人間は生きていけない存在であり、癌
をわずらった方がわざわざラジウム温泉に入りにいくということもあり
ます。ですから、大切なことは、放射能ということでナーバスになりすぎ、
それがストレスにならない様にするということです。人を育てるのは、精
神的な安定感と体に入れるものと出すものをきちんとしておくことであ
り、このことは食の大切さにつながることだと思います。個々人を客観的
にきめ細かく診ていくことが医療の本質であり、それを今後も続けていき
たいと思います。
司 会 ( 高 垣 ): 精神的な影響が非常に大きいのだと思います。食の豊かさとい
う観点から石井先生お願いします。
石 井 : 今までずっと議論されてきたことが二つあります。
一つは自給率などの量の問題であり、もう一つは栄養の分析表の問題です。
どんなトマトでも目の前にあるトマトは同じ分析(値)になっていること
が問題だと以前から指摘してきました。それぞれ全部味が違います。流通
ということでいうと形が整っていて、赤く色づいていて傷もないというも
のが高く売れる。しかし自然の中で育ったトマトというものは形がいびつ
だったり大きさが違っていたりする。早く収穫して冷蔵庫の中に入れてお
くと色が変わってくる。けれども熟成しません。野菜の熟成というものは
太陽を浴び、水を吸って光合成が起こり、様々なミネラルが作られる。そ
れが美味しさです。素材のおいしさということを追求していきたい。今後
栄養の成分表も産地や育て方、品種ごとに測定することが望ましいと思い
ます。
こうした震災があって感じるのですが、食事の中で一番大事なのは主食
といわれるものです。今の日本ではお米は電気釜で炊くものとなっていま
すが、かつてはガス釜であり、その前はまきで炊いていました。また世界
のお米(中国米、タイ米、イタリア米、スペイン米)などは炊くのではな
く、煎るという調理法です。
歴史や風土が培ってきた調理法、手間ひまをかける調理法なども研究す
ると食の豊かさを実感でき、面白いと思います。冷凍のエビを入れて電気
釜で炊いたら美味しくなかったなどという話もありますが、当たり前のこ
とです。冷凍のものを入れれば温度が上がりません。それが電気釜の機能
であり、それを理解せずに調理するのは間違いです。
司 会 ( 高 垣 ): 細川先生は次のご予定があります。今日は素晴らしいお話をあ
りがとうございました。これからもますますパワフルにご活躍されること
をお祈りいたします。
拍手をもってお見送りいたしましょう。
(拍手)
細 川 : ありがとうございました。失礼いたします。
司 会 ( 高 垣 ): マスコミ、報道の問題について。原発事故についての海外メデ
ィアの情報が今振り返ってみれば正しかったという事実がありますが、日
本のメディアの代表として、宮田先生いかがでしょうか。
宮 田:認めざるを得ない事実ですが、我々も一時情報に接近して情報を執ろう
としていた努力は認めていただきたい。今のメディアは全般的に保守的な
方向に傾いています。
ニューヨークタイムスやグーグルの情報の方が正しかったといえます。言
い訳になりますが取材する相手、原子力学者も悪かった。彼らはこうした
リスクを想定して議論することを封印していました。ほとんどが御用学者
であり、ほとんどが東電と経産省の体制の中の発言ばかりであり、ネタ元
が腐っていたということです。ただし、私たちも真実を語る学者を発掘す
る努力を怠ったことも忘れてはならないと思っています。その意味で被災
地のメディアの奮闘と被災地に乗り込み放射能検査を行った NHK の e テ
レの努力は光っています。
日本のメディアは、遺体を映さないという自主規制は強いものがあります。
フ ロ ア ー C( 男 性 ): 私は元共同通信のカメラマンで、今は年金生活者ですが
昔の仲間の科学部長さんもお見えです。メディアの原発取材について聞き
たい。さらに通産省やメディアの批判も出ましたが、要するに東大閥の中
の体制順応型の方が全てを仕切っているということについてもお聞きし
たい。私は東北地方を何百キロか歩いて来まして、この半年たったところ
で東京国際フォーラムで新聞社が撮影したものとフリーランスが撮影し
たものを統括して展示し、来年の 3 月には国連でもやります。先ほど話題
にもなっていましたがシンクタンクの CSIS に非常に関心を持っています。
日経がなぜこの期に及んでやるのか。CSIS は CIA の委託を受けて活動し
ている権威あるシンクタンクです。専門紙であるならば上っ面の自己批判
などはやめてもらいたい。食の安全も非常に重要な問題であり、残念なが
ら今日は日下部先生がご欠席ですで、私を含めて素人集団ですがもう少し
突っ込んだ議論をしてほしい。宮田さんには少し荷が重いかもしれません
がお話しください。
宮 田:シンクタンクの方は日経本紙のほうでちゃんとやっていると思いますが
まだ明らかにできない状況です。これからのメディアの生き残りを考える
と一般紙はやはり厳しい状況にあります。日経も経済紙や専門紙と言って
いる割にはまだダメなんです。そういう意味ではグローバルな意味で私た
ちは力をつけようと努力しているところだということをご理解いただき
たいと思います。今メディアで何が起こっているかというと部数がどんど
ん減り、広告も減っている。アメリカでも 3 年あるいは 4 年前からそうし
た状況にあります。最も利益が上がった年が 06 年であり、そこからダー
ンと落ち込んでいます。日本も同じようなスピードで落ちてきますので今
迄のように政府と仲良くやって、同じようなニュースを流しても大儲けで
きるという時代ではなくなってきています。ですから私たちも厳しい競争
に晒されてきていますのでここで頑張らなければいけないと思っていま
す。先ほどのご質問、叱咤を激励であると勝手に受け止めさせていただき
ます。日経 BP 社というのは医系の専門媒体を創っているところでありま
すが、食の安全とか安心と言う様な所はすっぽりと抜け落ちていることこ
ろなので、そのあたりのところは今後の宿題とさせていただきます。私は
もともとバイオテクノロジーの専門記者でありまして、先生もご存じのと
おり、遺伝子が傷ついてもかなりの部分は自然治癒するんですよね。です
から先ほども申し上げましたが放射線量が少しでもあれば確率的な危険
性が高まるという LNT 仮説は実は再検討が必要だと個人的には思ってい
て、そのあたりを一生懸命まじめにやっている人たちと探りながら、少し
でも放射線量が増えるのは嫌だという素朴な感覚に対して、そんなに気に
する必要はありませんよという人を探している状況です。そんなところか
らお手伝いをさせていただきたいと思っています。
司 会( 高 垣 )
:先ほど災害派遣医療チーム Disaster Medical Assistance Team が入
っていったときに情報の指揮系統がうまくいかなかったというお話があ
りましたが、この Web の時代にそんなに情報がいきわたらなかったという
のはショッキングなことだと感じているのですが・・・。
宮 田 : それは現実です。ブラック・アウトしてしまうのです。電源がやられ、
インターネットの無線局も動かなくなってしまうのです。24 時間から 48
時間は完全にブラック・アウトの状態です。携帯も繋がらないので皆、ど
こへ行っていいのかわからないまま、とにかく北へ向かえということでし
た。本当は衛星電話があって、300 チームぐらいが組織的に動ければもっ
と人命を救うことができたのではないかと思っています。通信網に関して
は余りにも杜撰であったというべきでしょう。石巻の日赤病院には 6 時間
ほどして NTT から衛星電話が届けられ、孤立していた病院が外の世界と
繋がりました。NTT も頑張ったのですが、主要な中核病院などには衛星電
話が必要だという認識はできたと思います。
司 会 ( 高 垣 ): だんだん本質的な話になってきましたが、残念ながら時間が参
りましたので続きは試食会の場において意見交換をすることとし、パネル
ディスカッションはこの辺で終わりといたします。ありがとうございまし
た。