2015 年 8 月 24 日 14:00~ 於 東洋大学 白山キャンパス 6 号館 1 階 6101 教室 軍記・語り物研究会 2015 年大会シンポジウム 《戦後 70 年企画》 「近代日本と軍記物語-戦争と英雄像-」 『平家物語』 『太平記』を始めとする軍記物語は周知の通り、戦前戦時において国民道徳たる武士道を伝える古典とし て国家権力に利用された。我々が研究対象としている軍記物語は、つまり戦争に利用されやすい古典作品なのである。 戦後70 年というこの節目に、 明治から終戦に至る時期に軍記物語とそれに纏わる言説がどのように扱われてきたのか、 その動向を改めて真摯に見つめ直し、議論を深めておく必要があるのではないか。 本シンポジウムでは近代の問題を取り上げる。そして、今回は特に英雄像の問題に焦点を当ててみたい。英雄像は知 識人にとっても一般の民衆にとっても影響力の大きい文化装置と成り得ていたと考えられるからである。例えば、 『保元 物語』の源為朝や『平家物語』の源義経、 『太平記』の楠正成父子といった軍記物語の英雄達は国民道徳たる武士道、尊 皇愛国を説く上で模範となる存在として教育にも積極的に利用されていた。 また、源義経、源為朝、朝比奈義秀といった英雄達については、蝦夷地、琉球、朝鮮半島などの異域に渡航したとい う伝承が中近世以来ある。異域と関わりの深い人物の話としては他に、神功皇后や豊臣秀吉、加藤清正の朝鮮半島への 侵攻の物語もある。これらに取材した歴史小説や児童向けの読み物が近代以降、対外侵略と植民地獲得という時代背景 とも関わってか、盛んに創作され広く享受されて行くという動きがあった。その一方で、こうした英雄達に纏わる言説 は実は民衆だけの問題ではなく、知識人達の間でも積極的に利用されてゆくという動きが並行してあり、その連関も注 目される。なお、この他、英雄をめぐっては、 『平家物語』が明治期において西洋の文学概念である叙事詩(epic)とし て捉え直される過程で、平清盛、源義仲といった人物も知識人達の間で新たに英雄として捉えられる動きもあった。つ まり、近代に入って新たに発見された英雄達もいるわけである。 以上と併せて、戦争を伝えるメディアにおいて英雄がどのように描かれ、それがどのように受け止められてきたかと いう問題もまた重要である。近代には武士ではない人々も日本軍の兵士として戦う存在となった。そうした兵士達に武 士や英雄のイメージが重ねられてゆく上で多大な影響力を発揮したのが、戦争を伝えるメディアに描かれ、語られる英 雄像であったと考えられるからである。錦絵や画報といった視覚的メディアにおける英雄像モチーフの変遷。戦争を語 る存在としての従軍講談師達の動向と、その体験記ないし“際物”としての従軍講談。そして、そこに叙述される英雄 のレトリックの諸相と、視覚的メディアとの相関関係。前近代との繋がりが認められる一方で、これらは現代の英雄像・ 武士観にも直接的に連なる問題を孕んでいるものとも思われる。 軍記物語を研究する我々は、そして我々の学界は、来たるべき次の時代と如何に対峙してゆくべきなのか。これを考 える契機としたい。軍記・語り物研究会会員諸氏のみならず様々な領域の方々にも御参集頂ければ幸いである。 軍記・語り物研究会運営委員 [パネリスト] : ▶大津雄一氏(早稲田大学) : 「 時勢と英雄 」 ▶目黒将史氏(日本学術振興会) : 「 武人言説の再生と沖縄 ─為朝渡琉譚を起点に─ 」 ▶向後恵里子氏(明星大学) : 「 目撃される英雄: 近代の戦争における従軍者の語り、観戦者のまなざし 」 [コメンテーター] : 井上泰至氏(防衛大学校) ・佐谷眞木人氏(恵泉女学園大学) [司会] : 佐伯真一氏(青山学院大学) 〈参考文献〉 ・大津雄一『 『平家物語』の再誕─創られた国民叙事詩』NHK 出版、2013 年 ・佐谷眞木人『日清戦争 ─「国民」の誕生』講談社現代新書、2009 年 ・渡辺匡一「為朝渡琉譚のゆくえ─齟齬する歴史認識と国家、地域、人─」 『日本文学』50 巻1号、2001 年 1 月
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