交通事故損害賠償の項目について

◆交通事故損害賠償の項目について◆
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はじめに
交通 事故 にあったときに、加 害者 に対して、損害 賠償 請求 をし ます。
そのときの項目について説明をします。
損害 の項 目は様 々なものがありますが、
「積極損 害」 (交通事故による被害のために、実際に出費したもの)
と
「消極損 害」 (交通事故による被害のために、本来得られるはずの利益が得られなくなったもの)
と
「慰謝料 」 (経済的な損害とは別に、精神的苦痛を受けたことについての損害)
とに分けて、ポイントを説 明します。
以下 の解 説は、交通 事故 の裁判 実務で基準 とされる内容 の解説 です。
基本的に、弁護士が実務で参考にする「交通事故損害額算定基準」((財)日弁連
交 通事 故相 談セン タ ー刊) の基 準に 従っ てい ます。
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積 極損害
実際 に出 費せざるを得なかった損害 です。主なものは次の通りです。
(1 )
治療費
実際に 治 療を受 けた際 の治 療費 です。
多くの場合は、医療機関に交通事故(被害)によるものであることを申告し、加害者
の任 意保 険会社 から医療 費を支 払ってもらうことになります。
「症状固 定」までの治 療費 が対 象になるのが原 則とされます。
「症状固定」以後の治療費が賠償の対象となるかどうかは、症状の内容、程度、治
療の内容 によりま す。
実際に必要であった治療費(診断書等の作成費用を含みます。)は全額が賠償の
対象 になります。
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た だ し 、 加 害 者 ( 保 険 会 社 ) 側 か ら 、 治 療 の 必 要 性 が 争 われ る ケ ー ス が あ り 、 治 療 が
長期にわたっているケースや、髄液漏れの治療など医学的に発展途上の分野における
治療などでは、その治療費が損害賠償の対象になるかどうかが争われることがありま
す。
【用語】
症 状固 定 … 治療 を続け ても 大幅 な改善 が見込 めず、大 きな回 復・ 憎悪
のない安 定的 な状態 が続くよ うになった段階 のことを言 います。
実際 には、治療を受 けている医師の判断により、その時点 何
らかの症状が残っておればそれを後遺 症として「後遺 障害 診
断書 」を書いてもらいます。その時期 が、症状 固定の時 期とな
ります 。
(2 )
付添看護費
入院や通院などに付添が必要な場合の費用です。必要性は、医師の指示があった
かどうか等により判 断されます。
一 定 の 日 額 基 準 で 計 算 し ま す (例
家族が入院付添をした場合 1日につき5500
円~7000円)。
(3 )
雑費
症状によって、通常の生活では必要のないものを購入するなどの必要がある場合が
あり ます。その出費 に つい て、必要 で相当 なも ので あれば賠償 対象 に含まれ ます。
但し、一々の領収証を集めたり検討したりする労力を省くため、入院中については、
入院1日につき1400円~1600円の基準を用いて、概算して、損害賠償額と決め
る事 が多 いです。
(4)
交通費
通院のために必要 であった交 通費 について認められます。
電車やバスを利用した場合は全額認められますが,タクシー料金についてはタクシー
を利用する必要があった場合にのみ認められ,自家用車を利用した場合は実費(ガソ
リン代,高 速道 路料 金,駐車料 金)が認 められます。
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(5 )
葬祭費
死亡事 故の場合 、認められます。
但し、高額の葬儀等であったとしても、一定基準(130万~170万円)を限度とし
て賠償の対象となります。
(6 )
家屋・自動車などの改造費
高度の後遺障害が残って,家屋や自動車などを改造する必要があった場合に、相
当な限度 で認められます。
(7)
装具など
義足、車椅子、補聴器、入歯、義眼、かつら、眼鏡などについて相当なものが認め
られます。
【用語】
相 当 … こ こでいう「相当 」 というのは、不必 要に高 額なものは認められない
と いう意味 です。
仮 に、 事故 の影 響で視 力が低下 して 眼 鏡を購入 するとき 、ブラ
ンド品 等の高価な眼鏡を購 入したとしても、その費用 が全て損害と
して認 められるわけではなく、平均 的な眼鏡 の金額 だ けが損 害とし
て 認 め られ る 、とい う意 味 で す 。
(8 )
その他
例えば、学費(本来よりも余分にかかってしまったもの)、成年後見費用等の出費な
どについても、その事案によって、必 要で相 当な範囲 で認 められます。
(9 )
弁護士費用
訴訟の場合 には、請 求し認められた額 の1 割 程度 を限度と して 、認 めら れます。
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消 極損害
(1 )
休業損害
交通事故による負傷やその治療のために休業したために、本来ならば得られたはず
の収 入が得 られなくなった金額 がこれにあたります。
サラリーマンなど給与所得者の場合は、会社から、現実の給料額と、事故による休
業がなかった場合の本来の給料額の差額を証明してもらうことによって、額を計算する
ことが出来ます。
通常、「休業損害証明書」という書式があり、それに、会社側で記入してもらうことに
よって休業 損害額 を証明 します。
自 営 業 等 の 場 合 は 、 帳 簿 の 記 載 や 、 確 定 申 告 額 に よ っ て 、 事 故 前と 事 故 後 を 比較
し計 算し ます。
主婦など家事従事者の場合は、一定の基準(女性の平均賃金。年あたり約350
万円。1日あたり約9600円。)を基礎に、休業が必要であった期間分を計算して休
業損 害の額と考えます。
(2 )
後遺障害による逸失利益
事故により後遺障害を残したことによって、その後、一生の間に、その人の労働能力
が下がるために、本来は得られるはずであった収入を得られなくなったことについての損
害です。
一生にわたって残るような後遺 障害がある場合 は、高額 になることが多 いです。
①
計算 方法
基礎 収入
=
×
労 働能 力喪 失率
×
喪 失期 間に対応 するライプニッツ係 数
逸 失利益 の金額
という計 算により、算出 します。
計算の要素である「基礎収入」「労働能力喪失率」「喪失期間に対応するライプ
ニッツ係 数」につ いて、以下 に解 説します 。
②
基礎 収入
原則 として、事故当 時の現 実の収 入額 を基準 にしま す。
ただし、主婦の場合は女性の平均賃金、未成年者(未就労)の場合はその人の
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属性(性 別、学 歴等 )に応 じた平均賃 金を基 準にします。
また、若年であるために給与の額が平均賃金よりも低い場合は、平均賃金額を
基礎収 入として計算することもあります。
③
労働 能力喪 失率
労働災害保険において別紙「労働能力喪失率表」のとおり、各段階(等級)ごと
に 基 準 と な る 喪 失 率 が 定 め ら れ て お り 、 交 通 事 故の 損 害 賠 償 実 務 に お いて も、 原則
としてこれに従っています。
④
喪失 期間に対応 するライプニッツ係数
喪失期間は、一生涯残ると思われる後遺障害の場合は、67歳までを認めること
が原則です。これに対して、神経症状(部分的な痛み等)が中心の後遺障害の場
合は、2~ 10年程度 の喪失 期間 であるとされる場合が多いです。
「ライプニッツ係数」とは、将来にわたる収入減少額を現在に一時金で受け取るこ
とから、将来の利息を考慮して計算するときに用いられる数字のことです。詳しい説
明は省 きますが、「将 来の利息 を現在において差し引く」という意 味合いです。
従って、例えば、労働能力喪失期間を20年とすれば、それに対応するライプニッ
ツ 係 数 は 「 1 2 . 4 6 2 」 と な り 、 実 際 の 年 数 (2 0 )よ り も 少 な い 係 数 を か け て 算 出 さ れ
ることになり ます。
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注意 点
以上のような計算による数字が後遺障害による逸失利益とされるのが原則です
が 、 現 実 に 、 事 故 前 と 事 故 後 で 収 入 が 変 わ っ て い な い 場 合 に は 、 後 遺 障 害 に よ る逸
失利益が認められるかどうかが争いになります。その場合、多くは、収入は減少して
いないが、後遺障害により苦労をしていること、仕事を維持するために特別の努力を
していることなどを証 明し、後遺 障害に よる損害 を請求 することになります。
死亡による逸失利益
(3)
死亡事故の場合、死亡したことによって、被害者が一生にわたって、本来得られるは
ずであった収入を得られなくなったことについての損害です。
①
計算 方法
基礎収入 × (1-生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係 数
=
逸 失利益 の金額
という計 算により、算出 します。
「基礎収入」については、「(2)後遺傷害による逸失利益」で説明したことと大体
は同じ です。
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②
生活 費控除
死亡 事故の場合は、逸失利 益を考 える際に「生活費 控除」をします 。
つまり、もし事故に遭わず生きていた場合、収入があることになる反面、生活へ出
費もし て いたことになる ので、その ことを考 慮する という ことです。
その人の事情(一家の支柱であった等)に応じ、収入に対して、概ね30~50%
の間で 、生 活費 控除が なさ れま す。
③
就労 可能年 数に対応 するライプニッツ係数
原則 として 67歳 まで就 労可 能と考え ます。
高齢 者の場 合は、平 均余命 年数の2分の1を基準 に することがあります。
「ライプニッツ係数」については、 「(2)後遺傷害による逸失利益」で説明したとお
りです。将来の利息を考慮して、現在の手取り分を計算するために用いられる数字
です。
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慰 謝料
事故による「傷害」に対する慰謝料と、「後遺障害」に対する慰謝料に分けて考えるこ
と が通 常 です。
「傷害」に対する慰謝料は、重症度と、入院通院日数によって一定の基準があり、そ
れを基本に決めら れます。
「後遺障害」慰謝料は、後遺障害の程度(等級)による基準があり、それに則って金額
が定 められま す。
死亡事故の場合は、概ね、2000万円から3100万円の範囲内で、その人の事情に
応 じて 定め られ ます。
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物 的損害
事故により自動車が損傷した場合や、その他の物が壊れた場合などは、原則として、
その実費が賠償の対 象になります。
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過 失相殺
自動車同士の事故の場合など、加害者側だけでなく、被害者側にも何らかの落ち度
が認 められる場 合が多 いです。
その場合、「被害者の落ち度:加害者の落ち度=1:9」という状態であれば、被害者
側 の損 害全 体に対 して 、加 害者 が賠償 すべき金額 は 9割と いうこ とに なります 。
このようにして、被 害者側 の落 ち度 の分を 賠償額 から控除 することが「過失 相殺」です。
そのために、事故の状況がどのようなものであったかが重要になります。通常は、警察に
よって「実況 見分 調書 」が作 成され事 故状 況が記 録として残 さ れています。
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損 害の填補(てんぽ)
既に、事故を原因として、加害者(保険会社)から支払いを受けた金額、自賠責保険
から支払いを受けた金額や労災保険から支払いを受けた金額などがあれば、損害額から
これを引いて請 求することになります。
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遅延損害金
損害賠償額全体について、事故日から支払いの日まで、年5%の割合による遅延損
害 金が発 生し ます。
但し、訴訟ではなく、保険会社との示談交渉などの場面では、加害者側は遅延損害
金 の請 求に 応じな いこ とが多 いで す。
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出典:(財)日弁連交通事故相談センター 専門委員会編『交通事故損害額算
定基準』(財)日弁連交通事故相談センター、2012 年、23 訂版、266 頁。