扇 や 通信 扇 や 通信 - 岳温泉 あだたらの宿 扇や

扇や通信
春号
み 終 え る と、「 み ん な で 見 て ご ら ん 」 分のボサボサの髪を束ねただけの姿を
は、苦しい秋でした。熊の親子はあち
よういん”さ、行ってみでぇ」という
こちをぐるぐる回って餌を探していま
と、「 お め は ま ~ だ、 早 い 早 い!」 と 「こどももいるのにかわいそうだなぁ」
と 宿 の 女 中 た ち に 貸 し て く れ る の で、 思 っ て、「 ん だ な ぁ、 お ら も そ の“ び
その時がくると女中たちは争うように
サキは藪の中にうずくまりながら、た
すが、さっぱり見つからない様子です。
本を見ては、みんなでため息をついて
見 入 っ て お り ま し た。 サ キ も 同 じ で、 女 中 た ち は 笑 い ま し た。 で も、「 び よ
め息をつきました。
ました。宿では、お客さんの膳の残り
ういんに行ってみたい」という気持ち
物は、裏庭に面した厨房の出口の大き
むずかしい字は読めなくとも、見たこ
な樽に貯めておいて、それを農家の人
は、サキの心の底でずうっと小さな火 宿に戻ったサキは、ふと、思いつき
が肥やしにともらいに来ます。「うん、
ともない美しい女の人たちの、見たこ
を集めに森に出かけました。ずんずん
の 下 で、 春 は 待 っ て い て く れ ま し た。 首飾り…。きものだって目のさめるよ 秋も深まったある日、サキは焚き木
ぽり埋もれてしまいましたが、その雪
うなきれいな模様、ふんわり結い上げ
森の奥に進んで行くと、藪の中で、ご
この冬、あだたら高原は豪雪にすっ
森の樹々の芽はふくらみ、雪どけ水の
た髪型…。サキもただため息をつくば
と も な い 服、 波 打 っ た 髪 型 や 髪 飾 り、 になって燃えておりました。
音が響き、鳥たちは歌の練習をはじめ
これを熊にやるべ、これなら熊も助か
るべ!」 そ
―れからサキの秘密の日課
が始まりました。夜明け前、宿がまだ
そごそ大きな音がします。息を殺して
のぞいてみると、熊の親子がしきりに
かりです。
餌を探していました。冬ごもりが近い
ます。また岳の美しい春がめぐってき
事がのっていました。流行の髪形をし
ました。今回は春の夜空の星にちなん ある時、その雑誌に「美容院」の記
だお話です。
寝しずまっている時に、残飯を抱えて
いてくるのです。次の朝、サキがそこ
くの、大きなぶなの木の根元に餌を置
森に行き、熊の親子に出会った藪の近
ので、その前にいっぱい食べて、力を
銀河美容院と熊の星座のおはなし
たきれいな女の人たちがほほ笑んでい
昭和の始め頃 ―
岳 温 泉 の ま ち に も、
花の都・東京の花びらが風に乗ってち
らほら流れてくる時代のお話です。
い ま し た。「 ち っ と は 腹 の 足 し に な っ
に着くと、残飯はきれいになくなって
て、 こ の 髪 を つ く っ た 人 と「 美 容 院 」
通 り の 両 側 に 宿 が 並 ん だ 温 泉 町 は、
安達太良山脈につながる森の入り口ま
そのうち、熊の親子は、ぶなの木の
たがなぁ」サキは少しほっとして、次
さな村から、小学校を出るとすぐに奉 「 び よ う い ん。 髪 洗 っ て く れ て、 き れ
下でサキを待っているようになりまし
の写真もありました。サキが「美容院」
いな髪型にしてくれたり、パーマネン
た。サキはうれしくて、いっそう張り
で伸びておりましたが、その森のすぐ
トっつう、くるくるの巻き毛にもして
切って残飯を運びました。親熊は、熊
の日もまた次の日も、ぶなの木の根元
公に来た女の子で、十三歳。おしゃれ
くれたり、とにかく女の人の頭をすて
同士のけんかかなにかでケガをしたの
という字を指して「これ、なんてゆう
がちょっと気になる年頃になっており
~ き に し て く れ る 店 だ よ 」「 う ん、 そ
か、右の耳の端がギザギザなので「ギ
そばに「山吹や」という宿がありまし
山吹やの女将は、温泉まち一番のお
こらへんの床屋だの、髪結いさんだの
ザ 」、 子 熊 は 白 い の ど 輪 の 端 が ふ ん わ
に残飯を運んでやりました。
しゃれで通っており、他の宿の女将よ
と は ぜ ん ぜ ん ち が う ん だ よ 」「 お ら も
り丸くて、こぶしの花のつぼみまたい
の?」 と 年 か さ の 女 中 に た ず ね る と、
りどこかあか抜けしている、と評判で
一 回 で い い が ら、 美 容 院 に 行 っ て み で も そ の 年 の 夏 は、 冷 た い 雨 続 き
ました。
した。女将のたのしみは、東京で発行
ました。
た。そこで働くサキは、山を越えた小
蓄えておかなければならないのです。
される婦人雑誌を年に何回か町の本屋
あこがれも語るのでした。サキも、自
でぇなぁ」「んだなぁ」 女
―中たちは、 だったせいで、山は、栗もどんぐりも
物知り顔に講釈しながら、自分たちの 山ぶどうもきのこも不作で、そういう
ものを食べ物にして生きる動物たちに 何日残飯運びが続いたでしょう。い
なので「ツボミ」と名前をつけてやり
を〝研究〟することでした。それを読
から取りよせて、最新流行のおしゃれ
’
14
'14・春号
扇や通信
いてくれると、大事な友達ができたよ
つものように、ギザとツボミが待って
てするもんでねぇ。わがったな」
らすけだものによげいな節介、けっし
来たことがない、といってみんなが恐
に、これまでいっぺんも裏庭まで熊が
とみんなが不思議がると、鉄砲打ちは
ん だ か、 娘 の 声、 聞 こ え た よ う だ が 」
ガタガタふるえて立っていました。「な
の樽をあさっていると、後ろから肩を
ある朝、いつものようにサキが残飯
自分を待っているにちがいないギザと
ません。食事のときは、腹を減らして
でもサキは、つらくてつらくてたまり
姿のお客さんが腰を抜かしてすわり込
の者が駆けつけました。そこには浴衣
~っ」と大きな悲鳴が聞こえて、宿中
し た。 夜 遅 く、 裏 庭 の 方 か ら「 ぎ ゃ
時だった…と。みんなは、ことの恐ろ
きて、熊に抱きつくのと、撃つのが同
ら、女の子が植え込みから飛び出して
寸前に、
「うつなーーッ!」と叫びなが
いいました。熊を狙って引き金を引く
ろしがりました。
たたかれました。サキが飛び上がって
ツボミを思って、ぼろぼろ涙をこぼし
姿は、その日からぷっつり消えました。 そ う す る う ち に、〝 事 件 〟 が 起 き ま
びっくりすると、宿の番頭が立ってい
しさに真っ青になって黙りこみました。
そかな楽しみになりました。
うで、夜明けの森に通うのがサキのひ 明け方にいそいそと森に行くサキの
ました。
「サキ、おめぇだったんだな。 て、 ほ か の 者 を 不 思 議 が ら せ ま し た。 んでいました。なかなか寝付けないの
せしてしまったというのです。サキは
死 ん だ!」「 な ん で サ キ が こ ご さ い る
ん な の 悲 鳴 が あ が り ま し た。「 サ キ が
キ が 倒 れ て い ま し た。「 あ あ っ!」 み
る熊をよけてみると、その腹の下にサ
で、一風呂浴びて湯上がりに裏庭をぶ 男たちがうつぶせになって死んでい
張ってだんだ。これはな、百姓さまの
ばかりでした。
胸がつぶれる思いでただおろおろする
番頭だけが黙ってサキのそんな姿を見
大 事 な 肥 や し に な る も ん だ。 お め ぇ、
次の日、宿の主人はふもとの村から
んだ!」 そ
―の場に泣きくずれる者も
ありました。気を取り直した番頭が抱
なんだがこの頃、残飯が減ってるっつ
なんで残飯盗んでだんだ?」 昔
―から
山吹やに奉公してもう七十を超えてい
鉄砲打ちをたのんで、熊を打つことに
き起こすと、サキは小さく息をしまし
らぶらしていたら、熊の親子と鉢合わ
る番頭はおだやかな人柄で、女中や小
きめました。山吹やに熊が出るという
た。「 だ い じ ょ ぶ だ、 気 絶 し た だ げ
守っていました。
さな奉公人からも慕われておりました
話が広がったら、商売あがったりだと
うがら、ふしぎだど思って、今朝は見
が、この時ばかりは、サキが見たこも
ぱ り わ か り ま せ ん で し た。 番 頭 だ け
ない厳しい顔で立っています。
でもどうすることもできません。
いうのです。こんなことになったのは だ!」 み
―んな胸をなで下ろしました
自分のせいだ、
とサキは苦しみました。 が、サキがなぜそこにいるのか、さっ
「番頭さん、おら、盗んだんでねぇ!」
サキはそのわけを話しました。
来てはなんね!」と、サキは心の中で
サキだけは、しごとの合間に人にかく
ま た 元 通 り お だ や か に な り ま し た が、
が、
「サキ、熊はかわいそうだったなぁ
雪が降った夜のこと ――
。夜更けに勝
手口の外でごそごそ音がするので、女
叫んでいましたが、時間は刻々とたっ
れて泣いてくらしました。あの晩、母
とうとう、鉄砲打ちがやってきまし
中がおそるおそるのぞいてみると、大
て、親子が現れる夜中になりました。
黙って聞いていた番頭は、静かにい
くてつらいつらい年だ。んでもな、そ
きな熊と子熊が残飯の桶をひっくり返
熊が撃たれて人が大騒ぎしている時
…」とつぶやいて、そっとサキのほっ
れは神様からもらった〝運〟つうもん
して食べている、と大騒ぎになりまし 宿の者がみんな息を殺して厨房に集
に、走って森の方に逃げていく子熊を
ぺたの泥をふいてやっていました。
だ。けだものも人も、みんな神様から
まっていると、まもなくズドーン!と
見たという話だけが、サキのかすかな
れて熊がくるのを待ち伏せて撃つとい
もらった〝運〟で生きている。凶作で
た。「 あ あ、 ギ ザ と ツ ボ ミ だ!」 サ キ
いう銃声と、女の子の叫び声が同時に
救いでした。親をなくしたツボミはど
た。その晩、裏庭の植え込みの中に隠
食うものがなくて死ぬのも、豊作で腹
が飛んで行ってみると、ひっくり返っ
響きました。みんなが外に飛び出して
うしているんだろう、と思うと食事も
い ま し た。
「 な ぁ、 サ キ。 今 年 は な、
い っ ぱ い 食 っ て 生 き る の も、 み ん な
た樽のまわりに残飯が散らばっている
みると、大きな熊が腹から血を流して
のどを通らない日が続きました。 そ
―
山のもの食って生きる熊も、キツネも それから半月ほどして、ちらちら初
〝 運 〟 だ。 サ キ が こ う や っ て、 熊 に 餌
ばかりで、もう親子の姿はありません
倒れています。かたわらに鉄砲打ちが
う の で す。「 ギ ザ、 ツ ボ ミ、 来 る な! 熊の事件もひとまず落ち着いて宿も
やってだら、次から熊は自分で餌取っ
でした。山吹やは森のすぐ隣にあるの
タヌキもリスも、鳥も、みんな餌がな
て生ぎる気がなぐなっちまう。山でく
れから半月ばかりして、サキはそっと
しい時です。サキも、山を越えて両親
公人が、お盆の次に実家に帰れるうれ
河美容院」という木の看板がかけてあ
しながら近づいてみると、ドアに「銀
間に見えてきました。サキがドキドキ
ぶせました。帽子の中はぽかぽかあっ
うな帽子を運んできて、サキの頭にか
巻きました。それから、大きな釜のよ
塗って、銀色の小さな筒でくるくると
がなくて飢え死にしたのでしょう。「お
くなって横たわっていました。食べ物
て、お参りしていこうと、雪に埋もれ
つものぶなの木のところにさしかかっ
分けながら、森の道を進みました。い
すると、その根元に、ツボミが冷た マントに雪靴でサキは深い雪をかき
ん中には大きな鏡と、その前に椅子が
ン、とひとりでに開きました。壁の真
の よ う に、 鈴 を 付 け た ド ア が チ リ リ
りました。
爪をていねいに磨いて桜色の液体を塗
キツネは、サキの手に何か軟膏を塗り、
たかくて、サキがうとうとしていると、
ぎん
宿を抜け出して森に入り、いつものぶ
ります。サキが来るのを待っていたか
らのごど、待ってだんたなぁ、ごめん
た ツ ボ ミ と ギ ザ の 墓 を 探 し て い る と、 一つ…。サキがあたりを見回している
び よういん
と弟たちが待つ家に帰ります。
な、ごめんな…」サキはすっかりやせ
見 慣 れ な い 立 て 札 が あ り ま す。 見 る
が
なの木のところに行ってみました。
細ってあばら骨が浮き出ているツボミ
たキツネ…そして、小さな熊と大きな
た、見たこともない自分がいます。
「う
かりました。化粧箱の中には、おしろ
と、部屋の奥から白いエプロンを付け サキが居眠りからさめると 鏡
―の中
に、黒いきれいな髪がゆったり波打っ
と、赤い、しゃれた文字で「銀河美容
熊が現れました。それを一目見たとた
わぁ、これが“パーマネント”っつう
サキはおそるおそる、その矢印の方に
みのような白いのど輪ーまぎれもな
い 花 の 小 さ な 黒 い 実 と、 カ ヤ の 実 が
び よう
を抱きしめました。
院」と描いてあり、その下の小さな矢
ん、サキはわっ、と泣きながら熊たち
のが!」サキは小さく叫びました。そ
ギザの死骸は鉄砲打ちに持っていかれ
進 ん で み ま し た。 森 は だ ん だ ん 深 く
い、ギザとツボミの親子ではありませ
ぎん が
目がつぶれるほど泣きながら、サキ
印が森の奥を指していました。「あれ?
れからキツネは、サキの化粧にとりか
てしまいましたが、サキの心の中にい
なって心配でしたが、あちこちの木の
いん
は太い棒切れで穴を掘って、ツボミを
ザの右耳、小さな熊の、こぶしのつぼ
ぶ な の 木 の そ ば に 埋 め て や り ま し た。 女将さんの本にあった〝美容院〟だ…」 にかけよりました。大きな熊のギザギ
る姿をツボミといっしょにほうむって
幹に赤い矢印が描いてあるので、サキ
ら白い花びらのような雪が墓を包むか
サキが手を合わせると、折りしも空か
て、 か ん べ ん し ろ な 」 と つ ぶ や い て、 は勇気を出して歩いていったのです。
守 り な が ら、「 さ ぁ、 始 め ま す よ 」 と
めていました。キツネはその様子を見
くるサキの頬を、熊たちはやさしくな
実 を つ ぶ し て 赤 い 果 肉 を 取 り 出 す と、
襟足にはたきました。それからカヤの
の綿毛のパフでパタパタとサキの顔と
ふるって、白い粉にすると、タンポポ
ず、黒い実を手早く石ですりつぶして
いっぱい詰まっています。キツネはま
や り ま し た。
「飾る花がなんにもねく
んか。 「
―ギザ!ツボミ!会いでがっ
た!」親子の首を抱きしめて泣きじゃ
のように降ってきました。
いうようにサキを椅子に座らせました。
自分のしっぽで作った筆に付けて、サ
も、ちっとも心が浮きたちません。そ
ま っ て、 東 京 の す て き な 雑 誌 を 見 て
ら、 サ キ は す っ か り ふ さ ぎ こ ん で し
に な り ま し た。 熊 の 事 件 が あ っ て か
働き者のサキの手はアカギレで真っ赤
やつやの漆のような黒髪になりました。
キのボサボサの茶色がかった髪は、つ
ているサキの髪を、ていねいに洗いま
いすの背をひょいと倒し、びっくりし
うとこなんだ…」サキは感激して、鏡
サ キ が い ま し た。「 こ れ が 美 容 院 っ つ
立って、うっとりしているうちに、サ 鏡の中には、お姫様のように美しい
し た。 花 の 香 り の す る 泡 が い っ ぱ い
の中の自分をただうっとりながめるば
たような髪飾りを付けてくれました。
ろにまとめると、星を小さな花束にし
波打った髪をくるりと巻き上げて、後
な 白 い 器 を サ キ の 後 ろ に も っ て き て、 キのくちびるに塗りました。それから
そして、たっぷりお湯をいれた大き
んなサキの小さな慰めは、かまどの火
それからキツネは、ピカピカの小さ
も 温 泉 ま ち も 真 っ 白 な 雪 に お お わ れ、
岳の冬がやってきました。山も野原
を つ け る 枯 れ 枝 を 拾 い に 森 に 行 っ て、
しょう、青い色の壁にきらきら光る窓
も と と の え る と、 金 色 の 液 体 を 髪 に ど の ぐ ら い 時 が た っ た の で し ょ う。
前髪をきれいにそろえて、わきも後ろ
な は さ み で、 サ キ の 髪 を 切 り ま し た。 かりです。その姿を、ギザとツボミが
ガラスをはめた、小さな建物が木立の
その時に、ぶなの木のそばのギザとツ しばらく行くと…なんとしたことで
ボミの墓にお参りすることでした。
うれしそうに見ておりました。
そのうちに、お正月が来ました。奉
'14・春号
扇や通信
す。
「 ん じ ゃ 帰 る よ。 ギ ザ も ツ ボ ミ も
森に差し込む陽が傾きはじめていま
くり顔で映っています。
サボサ髪のすすけた顔のサキが、びっ
になったかと心配するほどでした。
た。宿の者はみんな、サキの頭がへん
んざしが銀色に輝いておりました。
した。花嫁の髪には、星の形の花のか
あんまりヘタクソで、サキは笑いそう
…」と思いながら、ふと自分の手を見
ボミに会えたし、美容院にも行ったし
キ ツ ネ が 前 足 で 鏡 に 何 か 書 き ま し た。 …。んでも、よがったなぁ、ギザとツ
会 え ね ん だ べ が …。
」 サ キ が い う と、 いや、キツネにだまさっちゃんだべが
しているかのように輝く星の群れがあ
いでいると、北の空に、まるで呼吸を
た。サキがいつものように星空をあお
ん で、 星 空 が と り わ け 美 し い 晩 で し
べ」とうれしそうに説明するので、サ
あそこに大きい熊と小さい熊がいます
夜空の“星見”をすすめては、「ほうら、
が、春になると、宿のお客さんに北の
キツネさんも、
ありがと。んでも、
はぁ 「おら、山の中で夢見だんだべが…。 その日は、朝からかっきりと空が澄 サキはそれから幸せにくらしました
に な り ま し た が、
「 ハ ル ノ ヨ ル、 キ タ
キの宿はいつしか「熊星や」とよばれ
るようになったということです。
ります。サキに「ここだよ」と信号を
傷 口 が き れ い に ふ さ が っ て い る う え、 送っているように、大きく小さく光っ
ノ ソ ラ、 マ タ ア エ ル 」 と 読 め ま し た。 ると、あんなにひどかったアカギレの
「春の夜にどうやって北の空で会える
す。「 あ ぁ、 あ れ だ!」 サ キ は 見 つ け
ボミ、大熊座と小熊座をさがしてみて
る星。春、北の空に現れる、ギザとツ
つは、澄み切った夜空いっぱいに広が
んだべ…」 サキは首をかしげながら 爪 が 美 し い 桜 色 に 染 ま っ て い ま す。 て、それはほかのどの星よりも、ぬれ
―
「銀河美容院」を後にしました。
「やっぱり、夢でながったんだべが…」 た よ う に 鮮 や か に 輝 き つ づ け て い ま あだたら高原自慢のおもてなしの一
ギザとツボミは名残惜しそうに付い
なギザと、その下に小さなツボミがい
ました。星の群の形をたどると、大き
ください。
の木にさしかかると、ふうっと消えて
ま す。「 お ー い、 見 つ け た よ、 そ こ に
てきましたが、いつも会っていたぶな
しまいました。
に、星座はいちだんと強い光を送って
ぶと、ギザとツボミが応えるかのよう
ん。 迷 子 に な ら な い よ う に 気 を つ け
院」の看板が出ているかもしれませ
いるんだな!」サキが空に向かって叫 それから、森のどこかに「銀河美容
ぼんやりしながら、寝床に入ろうとす
サキはなんだかわけもわからないま
ま、でも、うきうきと家路を急ぎまし
て、訪ねてみてください。
色の星の花を束ねた小さな髪飾りが
みると、朴の枯葉の包み…中には、銀
になりました。
合うのがなによりの楽しみとなぐさめ
ると夜空をあおいで、熊の親子と語り
福島県二本松市岳温泉1-3
T E L . 0 2 4 3 ( 2 4) 2 0 0 1 FAX.0243 ( 24 ) 2004
きました。
光っています。そして、枯葉になにか
あだたらの宿
ると、きもののふところでなにかカサ
サキの家はぽっかり明かりをつけ
うっすら字が書いてあります。明かり また時がたって、十九になったサキ
が、空にそっと手をふってつぶやきま
た ひ と り 知 っ て い る、 花 嫁 姿 の サ キ
政府登録旅館
た。 道 々、
「きれいになったおらのご
て、久しぶりに帰ってくる娘を待って
ど見で、父ちゃんも母ちゃんも、弟も、 カサいうものがあります。取り出して それからというもの、サキは春にな
お り ま し た。
「 た だ い ま ー っ!」 サ キ
にすかしてみると「ハルノヨル、キタ
たまげで腰ぬがすべなぁ」
が飛び込むと、家族がみんなにこにこ
ノソラ、ワスレナイデ」と読めました。 れて、山吹やの親戚筋の、岳温泉の宿
は、気立てのよさと働きぶりを見込ま
と 迎 え て く れ ま し た。
・・ で も、 だ ぁ
に 嫁 入 り し ま し た。 サ キ の 婚 礼 の 晩、
北の空の星の群が、まるで地に下りて
れ も 腰 を 抜 か さ な い ば か り か、
「 正 月 正月三日の休みも終わり、サキは胸
だっつうのに、娘らしいかっこうもで
くるかのように近く見え、いつになく
の中に小さな秘密を抱いて温泉まちに
ぎねで帰ってきて、
かわいそうだなぁ」 戻りました。
と、母親が涙ぐんでサキを抱きしめま や が て 雪 が と け て、 春 が き ま し た。 強い光を放って輝いて、嫁入り行列の
みます。サキは、毎晩毎晩、キツネの
ツボミ、ありがとう」そのわけをたっ
伝言をたよりに空をあおぎ続けまし
夜は満天の星を散りばめた空が岳を包
す。 サ キ は、 し い ん、 と 考 え 込 ん で、 美 し い 緑 の 山 々 に 白 い こ ぶ し が 咲 き、 人 々 を び っ く り さ せ ま し た。「 ギ ザ、
納戸に駆け込んで、鏡をのぞいてみま
した。 す
―ると、さっきあんなにきれ
いだった自分ではなくて、いつものボ
●大切な方、親しい方へのあったかいプレ
ゼントに、扇やのペア宿泊券(お2人で
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