高所環境とその影響―――高所登山のためのテキスト 文部省登山研修所編 平成 8 年 3 月 増山茂 第1部 高所環境とその影響 第一章 環境への順化 第二章 高所環境 第一節 高所とは 第二節 気圧と低酸素 第三節 寒冷 第四節 湿度 第五節 日射・紫外線・宇宙線 第六節 高山地域 第三章 高所環境への適応 第一節 低酸素への生理学的反応 第二節 酸素の利用 第三節 酸素の取り入れと換気応答 第四節 肺での酸素の拡散 第五節 心臓血管系 第六節 血液学的変化と血漿量 第七節 ヘモグロビンと酸素の親和性、酸塩基平衡 第八節 末梢組織での酸素利用 第九節 高所での運動 第十節 栄養と身体の組成 第十一節 寒冷 1 第1部 高所環境とその影響 第一章 環境への順化 第二章 高所環境 第一節 高所とは "高所"といっても人により定義は様々である。あるものは 3000m 以上を、あるものは 5000m 以上をイメージするだろう。またあるものは 8000m なければ高所じゃないと意気がる。し かしどの場合にも共通するのは、この言葉に"異常な状態である"というニュアンスを与えてい ることのように思われる。 富士山(3,788m)は古代の日本人にとっては"最も高所"にある聖なる山であって、そ の頂に到達することには、苦行を意味したのであろう、昔からある種の宗教的意義が与えられ てきた。けれども、ほぼ同じ高度のチベットのラサ(3,700m)では、今では 20 万人の市民がごく 普通の日常生活を送っている。ヨーロッパの最高峰モンブラン(4810m)登頂の歴史には高山 病に悩まされた伝説が連なるのであるが、この高度以上を生活圏とする人々は全世界 10 万 人を越えると考えられている。"異常"も時が過ぎ所が変われば意味を変える。 本書でいう"高所"にも、ある意味では"異常"というニュアンスを持たせよう。"高所"と Fig.2-1 世界の高山地帯 は、その地理的物理的特性(高度)がそこに赴く人々に医学的生理学的異常を与えうる所、と 一応定義しておくことにしよう。大体標高 3000m 以上ということになろうが、標高 2500m でも肺 水腫になる人もいる。地理学・物理学的というより、医学的な定義である。 エベレストから生の映像がリアルタイムで茶の間に送り出される時代である。今や多く の人にとって"高所"といえばこのヒマラヤの"異常な"空間が想像されるのかもしれない。たしか にここは紛れもない"高所"である。医学的生理学的異常はもはやこの高度では生理的馴化順 応により回復させることができない。長期間の生存は保障されない。このあたりは"超高所"と呼 2 ぶことにしよう。大体 6、000m 以上になろう。 ヘルマン・ブールに「8000m の上と下」という著書がある。空気に壁はないのであるが、 ヒマラヤ登山ではこの 8000m を越えた数百 m に特別な意味を与えてきた。ここは死の臭いの する特殊な場所であって生命は軽い。この登山史を尊重して、8、000m 以上を"極高所"と呼ぶ ことにする。 "高所"の地理的な分布を示そう(Fig.2-1)。 第1部 高所環境とその影響 第一章 環境への順化 第二章 高所環境 第一節 高所とは 第二節 気圧と低酸素 *標準化された高度と気圧と酸素分圧の関係:Standard Atmosphere(ICAO, 1968) 高く登ると空気の圧力(気圧)が下がり気温も低下する。空気の組成は一定だから気 圧が下がると酸素分圧も低下する。ガスの圧力は気温の影響も受ける。 地球表面(対流圏)でのこれらパラメータの関係を示したのが次の table である。 Table2-1:標準気圧(ICAO;International Civil Aviation Organization) 高度 気圧 PO2 (‘mmHg) 気温 密度 (m) (mmHg) 乾燥 湿潤 (℃) (kg/m^3) 0 760 159.2 149.3 15 1.225 1000 674.1 141.2 131.4 8.5 1.112 2000 795 124.9 115.1 2.00 1.007 3000 526 110.2 100.3 -4.99 0.909 4000 462.5 96.9 87.0 -10.94 0.819 5000 405.4 84.9 75.1 -17.47 0.736 6000 354.2 74.2 64.3 -23.96 0.660 7000 308.3 64.6 54.7 -30.45 0.590 8000 267.4 56.0 46.2 -36.94 0.526 9000 231.0 48.4 38.5 -43.42 0.467 これが現在では標準的な関係であるとされ、高度計表示の基礎となっている。また、Haldane & Priestry(1935) の教科書によれば、気圧と高度の関係は次の式で与えられる。 PO/PH=288/(288-1.98H)^5.256 ちなみに、PO は海面での、PH はある高度 H(feet)での気圧(mmHg)である。 *緯度が変わると気圧も変わる 3 ところで、ヒマラヤ登山 隊が持ち帰る気圧のデータは Fig.2-2-1 予想気圧と実測気圧 上記の式になかなか当てはまら なかった。Pugh, 1957 らによる 英国エベレスト登山隊(1953)が 測定した 7300m までの気圧の データは、実験室でのデータか ら標準化された上記式から得ら れた値よりもかなり高いものであ った。Fig.2-2-1 は 1981 年の米 国隊のデータである。やはり同 様の傾向であって、高度があが るにつれて ICAO の標準気圧との差は大きくなる傾向があった(West, 1983)。 実際の地球の上では、緯度が変わると気圧も変わり、季節が変わっても気圧は変わ るのである(Fig2-2-2)。この図は標 高 8848m での気圧を縦軸に、緯度 Fig.2-2-2 緯度・高度・季節 を横軸にとったものである。赤道付 近で 253mmHg あった気圧は北緯 70 度ではたった 215mmHg へと低 下する。3本の曲線はそれぞれ上 から6月、10月、1月の気圧を表す。 同じ緯度でも季節によりつまりは気 温により気圧は異なる。寒冷の季節 には気圧が低くなっている。 * ヒ マ ラ ヤでの気圧と低 酸素の関係 一口に高所登山といって も、場所によっても季節によっても" 高所"の中身が異なる。寒ければ寒 いほど、北へゆけばゆくほど、"山は高くなる"と考えればよい。北緯 63 度にあるマッキンレイ山 (6194m)の頂上では冬期の平均気圧は 325mmHg くらいであるが(Hackett,1994)、これをヒマラ ヤの緯度にもってくればゆうに 7000m 峰といえる。逆にいえば、同じ山でもなるべく暖かい季 節に登れば高度は低くなる。 4 Fig.2-2-3 はニューデリー上空 8848m での月平均気圧を気球を用いて測定したデー タである。真夏と真冬の差は 10mmHg 以上にも広がっている。各月毎にも各日毎にも変化が あるから、年間を通じ最も気圧が高い日と最も 低い日の差は 20mmHg にも達する。8000m を Fig.2-2-3 ニューデリー上空 8848m での月 越える高度ではこの気圧差は約 500m の高度 平均気圧 差に相当する。(サイクロンなどの熱帯性低気 圧がやってくれば一日の内の気圧差が 20mmHg を越えることもある。) 1981 年 10 月 24 日、米国医学調査 隊の Pizzo はエベレスト頂上で初めて気圧を 実測したのであるが、この日はなんと 253mmHg を記録していた(West,1984)。これ はこの図で予測されるより 4.3mmHg も高い。 ICAO の標準気圧と比較すると 17mmHg も高 いのである。この日は素晴らしい快晴温暖な日で、エベレスト頂上でもたった-9℃しかなかっ たのであった。 *大気圧(PB)と吸入気酸素分圧(PIO2) 大気圧(PB)がわかってしまえば、大気中の酸素の割合(20.94%)はどこでも一定であ るから(ここには緯度も気温も効いてこない)、肺に吸入される空気の酸素分圧(PIO2)は次の 式で決定される。 PIO2=0.2094*(PB-47) (mmHg) 47mmHg は体温 37℃での(つまり肺の中の)飽和水蒸気圧であり気圧に影響されず温度のみ に左右される。 吸入気の酸素分圧は気圧からこの水 高度と吸入気・肺胞気組成 (単位mmHg) PaCO2=40(0m), 30(4500m), 20(8848m) R=0.8(0m),1.0(4500m),1.1(8848m) とする。 少ない酸素を 47mmHg の水蒸気圧と 肺の中の二酸化炭素が奪い取ってい ることがわかろう。 5 47 47 81 47 47 51 37 19 肺胞気 くることになる(Fig.2-2-4)。ただでさえ 8848m 上がるほどこの 47mmHg が重く効いて 200 180 47 47 160 140 120 100 80 149 60 99 40 20 0 肺胞気 47mmHg であるから、高度が上がれば 0m 中の水蒸気圧はどの高度でも 肺胞気 ある。残りはほとんど窒素である。肺の 4500m 蒸気圧をひいたものの約 21%なので 飽和水蒸気圧 肺胞気CO2分圧 吸入気O2分圧 肺胞気O2分圧 海面(760mmHg)では PIO2=0.2094*(760-47)=149.3mmHg 150mmHg 程度の酸素を吸っているのだが、一方 ICAO の基準気圧 8848m=236mmHg では PIO2=0.2094*(236-47)=36.9mmHg たった 37mmHg にしかならない。 高いところでは気圧の変化が決定的であることがお分かりでしょう。米国隊の Pizzo のエベレスト頂上での実測気圧が予想より 17mmHg 高かったということは、 +17mmHg(PB)=+0.2094*17=+3.4mmHg(PIO2) 3.4mmHg だけ吸入気の酸素分圧が高かったことに相当する。36.9mmHg 中の 3.4mmHg だか ら、つまり約 10%分吸入気の酸素分圧を引き上げたわけである。これはすごい。 *エベレスト頂上では生きられない? さて、肺胞では(肺の末梢部分。空気はここで血液と接触する)吸入した空気に、静 脈血に溶けていて肺胞に出てきた二酸化炭素(CO2)が加わる。肺胞気は水蒸気と窒素と二酸 化炭素とそして酸素で構成されるわけである。つまり肺胞気の酸素分圧 PAO2 はつぎの式で 求められる。 PAO2≒PIO2-PACO2/R PACO2 は肺胞での二酸化炭素分圧。動脈中の二酸化炭素分圧とほぼ等しい。R はガス交換 比といい、体内で発生させた(静脈から肺へとでてきた)二酸化炭素の量と消費される(肺から 動脈へとけ込んだ)酸素の量の比。通常は二酸化炭素排泄量がやや小さい。この比が1であ れば、PAO2 は吸入気の酸素分圧から動脈の二酸化炭素分圧を引いたものになる。さて、通 常海面で呼吸している私たちの動脈の二酸化炭素分圧はというと約 40mmHg である。この私 たちがヘリコプターでエベレストの頂上に降り立ったとすると、肺胞の酸素分圧 PAO2 は、R を 1とすると、 PAO2=36.9-40=-3.1mmHg !! なんと、理屈の上では肺胞には酸素がまったくないことになってしまった。みなさん瞬時にして 一巻の終わりである。 もちろん Fig.2-2-4 にあるように実際には PCO2 レベルや pH レベルが 変化するので、一巻の終わりにはならないのであるが、それでも非常に苦しいのには変わりが ない。 戦前から長く続いたヒマラヤ登山での酸素使用の是非をめぐる大論争に多くの生理 学者が冷淡であったのは無理からぬことであった。"これは良い悪いの問題ではない。酸素補 給なしでエベレストに登頂するなどそもそも理論的に不可能なのだから、と。" 多くの人の場合にはこの古い理屈がなりたつのであろう。しかし 1978 年一人の勇敢 な登山家メスナーが無酸素でエベレスト登頂をなしとげ、この古い理屈を現実の登攀で覆した。 1981 年には米国隊がエベレストの頂上で実際に登頂者の呼気をサンプルし動脈血中の酸素 6 (PaO2) と 二 酸 化 炭 素 分 圧 (PaCO2)を 推 定 し て く れた。 Table2-2 にそれを示す。なんと、 PaO2=28mmHg, PaCO2=7.5mmHg である!この値が生きているヒトのデータであるとは、優秀 な臨床医は優秀であればあるだけ信じないであろう。ヒトは(勿論選ばれた人であろうが)この ような驚くべき環境にすら、もっぱら自らの肉体だけを使って到達できるのである。 以下の章では、どのようにしてこのような環境への適応が可能となったかに関する新 しい考え方を述べることにしよう。 Table 2.2エベレスト頂上の肺胞気ガス・動脈血ガスの組成 肺胞 動脈 PIO2 PO2 PO2 PCO2 pH 高度 気圧 mmHg mmHg mmHg mmHg mmHg 8848m 253 43 35 28 7.5 >7.7 0m 760 149 100 95 40 7.4 SO2 % 70 97 第二章 高所環境 第三節 寒冷 気圧低下や低酸素についで"高所"を特徴づけるのは、"山の上は寒い"という事実で ある。 152m 登ると気温は大体1℃低下する。これは単純な物理法則であって、緯度とは無 関係である。ただし高緯度地方では夏と冬の気温差が大きい。赤道直下のキリマンジャロでは 気温は年間を通じて安定しているのだが、冬のマッキンリーは厳しい。前記 ICAO では (Table2-1)エベレスト頂上の平均気温を-40℃とみなしているが、冬期マッキンリーでは-50℃に もなる(Hackett,1994)。ただ寒いだけではない。日中と夜間の温度差も大きくなる。照り返しの ある氷河上であると日中の+30℃から夜間の-15℃へと 45℃の格差がありえ(Swan,1961)人の 適応力を奪う。 風は寒さを増幅する。体感温度は低下する。風 Fig.2-3-1 冷え効果(wind-chill factor)という(Ward, 1975)。 Fig.2-3-1 に風冷え効果指数(K)と暖寒感覚と の対比図を示す(Unsworth,1977)。氷つくほどに 感じる風冷え効果指数(K)は 1400 ほどである が、-40℃であればほとんど風がなくてもこのレ ベルにあるが、-12℃であっても 72km/時の風が あれば到達してしまう。エベレスト頂上の風速は 150km/時に達することがある。 人は恒温動物である、というが、つまりは身体の 7 細胞や組織で行われる生化学的反応を媒介する酵素の活性がある非常に狭い温度範囲でし か保障されないということを意味する。体温が奪われると、全身の生化学反応が落ちる。筋肉 は硬直し協調性を失う。心臓の刺激伝達は失調し心筋の収縮力は落ち心拍出量が低下する。 寒冷に伴う利尿による循環血液量の低下もあいまって組織とくに脳への酸素供給が阻害され、 すべての脳の神経活動の低下がおこる。つまりは、全身的には低体温症、局所的には凍傷と いう手痛いしっぺかえしを食らう。時には不可逆的な肉体的損傷を招くことになりかねない。 私たち低地居住者が寒冷に曝されたとき、体内で熱を急速に発生させるため持って いる手段はまことに乏しいものがある。まず皮膚表面の血流を少なくする。皮膚温が一定以下 に低下すると、皮膚の寒冷受容体が脊髄経由で低下した血液温度とともに視床下部の温熱 調節中枢を刺激する。いつもは随意に動かしている骨格筋のしかし不随意な神経支配による 共同的運動、つまりは身震い、が始まる。持っている主要な武器はたったこれだけである。も ちろん意識的に筋肉を動かし続けていればよいのだが、あっという間にエネルギー源がなくな る。身震いによって通常の3倍くらいの熱産生が可能であるが、身震いをいつまでも続けるわ けにはゆかない。高地居住民はこの身震いだけではなく褐色脂肪を燃やして熱産生を行うの である(Smith & Horowitz,1969)が、たかだか筋肉を震わせて乏しい熱を作ることを考えるより 熱を失わない工夫をすることが肝腎であろう。この問題も後の章でふれることにしよう。 第二章 高所環境 第四節 湿度 相対的湿度は山の上でも天候により変化する。雨や雪が降れば湿度が 100%になる のは珍しくない。ただし、空気中に含まれる水蒸気の絶対量は高度と強い関係がある。高度と いうより気温がこれを決定する。20゚C の飽和水蒸気圧は 17mmHg である。つまり 20゚C の空気 は 17mmHg 分の水分を含みうる。ところが-20゚C での飽和水蒸気圧は 1mmHg。空気はたった 1mmHg 分の水分しか含めないのである。相対的湿度はどうであれ、高所の空気は常に"乾い て"いる。 高所ではだれもが呼吸が大きく早くなる。高度 5500m でのほんの軽い運動でも、呼 吸によって肺から失われる水分は一時間あたり 200ml と推定される(Pugh,1964)。発汗による水 分喪失も乾燥した空気のもとでは大きくなる。急激な水分喪失による脱水は血液を濃縮させ、 血液を固まり易くする。高所での脱水では地上での場合ほど強い口渇感をもたらすことがない ので、登山者は意識して水分摂取につとめる必要がある。尿量を十分(1.5リッター/日)保つこと も重要なので、高所登山者は一日最低 3-4リッターの水分の摂取が必要である。 8 第二章 高所環境 第五節 日射・紫外線・宇宙線 空気の層が薄いこと、空気中の水蒸気量が少ないこと、いづれも太陽光線の空気中 で の 散 乱 量 を 減 ら す 。 海 抜 0 m に 届 く 日 射 量 を 測 定 し て み ると 963kJ/m2/h で あ っ た (Ward,1975) が 、 一 方 標 高 5790m の 晴 れ た 日 の 場 合 で は 、 人 体が吸収する日射量は 1465kJ/m2/h と 50%の増加となっていた(Pugh,1963)。とくに短波長の紫外線領域に影響が強 くでやすい。海抜0mと比較すると高度 4000m では波長 400nm の紫外線強度は 147%,波長 300nm では 250%になるという(Tousey,1966;Elterman,1964)。地表面の反射も重要な要素であ る。通常では地表面の反射率は 20%に満たないが、高所の雪や氷河では 90%に達すること がある(Buettner,1969)。皮膚・目が障害を受けやすい。光学的遮蔽物ー帽子やサングラスは ー必携である。 同じ理由で電離放射線被爆も増えると考えられている。3000m では年間 70mrad の 被爆量の増加があるという。 第二章 高所環境 第六節 高山地域 "高所"とは、そこに赴く人々に医学的生理学的異常を与えるうる所、と定義したのだ が、この困難な地域にも多くのひとびとが定住している。正確な高地居住民人口を算出するこ とは難しいが、標高 3000m 以上に 1300-1400 万人が住んでいると推定される。 永住住民が多いのは世界でも3地域に限られる。 まず、南米である。コロンビアからチリ中央部に高原と山岳地帯が連なる。この地域 には、1980 年時点で、標高 2500m 以上に 1000-1700 万人が住むとされる。ペルーでの統計 では 120-160 万人が標高 2500m 以上に、6 万人が標高 4000m 以上に住んでいる。 アフリカの北部、標高 2400m から 3700m に広がるエチオピア高原にも多くの人が住 む。1300 万人が標高 2000m 以上に住むと推定される。 第三のは、ヒマラヤ地域およびチベット高原である。ヒマラヤ地域の定義は難しいが、 西はナンガパルバットから東はナムチェバロア。パミール・西部コンロン・カラコルムなどその周 辺地域を含むものとする。フンザ・キルギス・ウイグルなど多種多様な人々が住んでいる。人口 の 推 定 は 難 し い 。 ヒ マ ラヤ山脈南面ネパールには6万人が標高 3000m 以上に住む。 4000-5000m の高原で構成されるチベットには独自の文化を築き上げてきたチベット民族が住 む。チベット民族がネパールやブータンのヒマラヤ地域山岳民族のオリジンとなっていることも 多い。すべてが高所に住んでいるわけではないであろうが、チベット人は 300-400 万人いると される。チベット人と漢族で構成される現在のチベット自治区の人口は約 200 万人。これはほ とんど標高 3000m 以上に住んでいると考えてよい。 メキシコ高地・米国カナダ中部山岳地帯にも少数の人々が標高 3000m 以上に住む。 カフカス・テンシャン・キルギスタンなど旧ソ連邦の地域にも古くからの高地居住民がいる。イラ ン・トルコ東部・アフガンの山岳地帯、ヨーロッパアルプス・ピレネー地方、東部南部アフリカの 9 山岳地域にも小数の人々が住む。 これらの山岳地帯は、一部を除き、多量の降雪や降雨・強い乾燥・厳しい寒冷・激し い日射・紫外線といった厳しい自然環境にある。経済的にはほとんどが発展途上国とされるこ の地域であるが、その国の内でさえも低開発地域とみなさることが多い。また国境地域にまた がることが多く政治的に不安定な状況におかれている地域もある。低圧低酸素環境・不衛生 による慢性感染症・痩せた土地がもたらす低栄養・電離放射線の影響もありうる遺伝的負荷な ど、見た目にはとても貧しいと映るであろうが、しかし、どの人々もその地域の環境と歴史に根 ざした文化を誇っている。高所環境の一部でもあるそこに住む人々およびその文化に十分な 敬意を払うことを忘れてはならない。 山はこれらの人々の生活圏内にある。住民の宗教的文化的統合の象徴となる名山 も多い。高所登山に出かける登山者は、登攀の対象たる山それ自体の技術的攻略に心血を 注ぐことは勿論として、高所環境の一部でもあるそこに住む人々およびその文化に十分な敬 意を払うことを忘れてはならない。 参考文献 Pugh LGCE,1957 Resting ventilation and alveolar air on Mount Everest: with remarks on the relation of barometric pressure to altitude in mountains. 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WHO/PAHO/IBP Meeting of Investigators on Population Biology of Altitude, Pan American Health Organisation, Washington DC, 1968 10 第三章 高所環境への適応 第一節 低酸素への生理学的反応 1. 急性の低酸素:秒-分-時間 2. 亜急性低酸素:時間-日-月-年 3. 慢性経年的低酸素:数十年 4. 何世代もの低酸素:数世紀 急性反応(rapid response) 馴化(Acclimatization) 順応(Adaptation) 遺伝的順応(genetic Adaptation) 生体が環境に適応してゆくプロセスは時間に依存する。暴露される時間によって反 応の性格が異なる。時間は単調に流れているのではないともいえるし、反応のために用意さ れる体内の細胞や組織や器官が異なるといってもよいのかもしれない。低酸素への生理学的 反応でも同じことがいえる。ほんの数秒で反応する細胞や組織もあれば、数十世代にわたる 歴史的時間を経て初めて表現される特性もある。ただし、ヒトという生体は酸素がないと生存で きないように作られている。当たり前であろう。ヒトが現在の地球上に含まれる程度の酸素を最 も有効に利用できるエネルギー産生機構を作り上げるには何億年という時間が必要であった のだから。 (Fig3-1) Fig3-1 低酸素への適応と時間軸 急性低酸素:急性の低酸素 への反応は、秒-分-時間単位でおこ る。ここで起こるのは、減少する酸素 の摂取量をなんとか増やそうとする緊 急の反応である。薄い空気を多く取り 入れる。肺では空気と血液の接触面 積をなるべく増やしてやる。同じ程度 の酸素でも赤血球のヘモグロビンが 沢山結合できた方がよいだろう。血液 に含まれる酸素をなるべく多くかつ早 く身体の組織に送り出す。もちろん、 重要な組織には多く分配し、不要不 急な組織には供給を削減する必要が ある。大動脈から頚動脈を分岐する場所にある小さなセンサー(頚動脈体)がこの情報ーー動 脈血のなかの酸素欠乏ーーを最初に察知する。もちろん、反応の強さは低酸素の程度による。 エベレストの頂上にヘリコプターで降り立てば、いくらこの急性反応機構ががんばっても追い つかない。もっとも酸素欠乏に感受性の高い組織・脳が機能不全をおこし、意識を失ってしま い、そのうち一巻の終わりである。 亜急性低酸素:慢性の低酸素に対する反応は、時間-日-月-年単位でおこる反応で ある。エベレストの頂上にヘリコプターで降り立つのは不可能であるが、時間をかけて麓から 11 徐々に身体を高地に慣らしてゆけば、頂上に立つことは不可能ではない(これができるヒトは 限られているとしても)。急性の反応は緊急時の反応であって長続きはしない。また低酸素は 本質的にはすべての組織に対し抑制的である。少ない酸素でもある期間なんとかしのぐ、低 酸素の抑制作用をかいくぐろうとする反応が次に生ずる。この反応総体を馴化 (Acclimatization)とよぶ。各組織器官でその時間応答特性は異なる。たとえば、換気の増大反 応は当初は頚動脈体の刺激によるところが大きかったのだが、そのうち延髄の腹側にある二 酸化炭素に対する呼吸センサーの resetting が働いてくるようになる。脈拍は当初は急増する が数日でおちついてくる。骨髄での赤血球産生も増えてくるのだが、その前に、水分調節に 働くホルモンによって血管内水分量をへらして相対的にヘモグロビン濃度をあげる機構が働 いている。とまれ、この機構をフルに働かせて私たちは山に登ってゆく。 慢性経年的低酸素:数十年にわたる過程である。新中国成立後、中国本土からチ ベットへ到着した漢人の第一陣はもう 40 年間もこの標高 4000m の地に住んでいることになる。 かの地で生まれ育った漢人の子供はもはや成人となっている。本来は低地居住民であるかれ らが獲得してきたこの反応を順応(Adaptation)とよんでいる。もはや低酸素という異常環境に過 剰に反応することのないようにある程度身体を作り替える。呼吸や循環の反応は抑え気味とな る。食生活を炭水化物中心とし呼吸商を大きくすれば、肺胞での酸素分圧を高くすることがで きる(注)。骨格筋の毛細管も増やすことや筋線維組成を変化させるのも有効であろう。 何世代もの低酸素:数世紀にわたる低酸素環境への、これも順応(Adaptation)という べきであろう。生体のエネルギー産生は細胞中のミトコンドリアの上で行われるのであるが、ミト コンドリア濃度は、高地居住民族では少ない。乏しい酸素環境では数は必要ないのであろう か。しかし、同程度のミトコンドリア量で達成できる最大酸素消費量は平地居住民に比べて大 きい(Kayser, 1991)。細胞のレベルでの改善である。ヒマラヤを越えるカモがいる。ある種のカ モのヘモグロビンはヒトではあっというまに一巻の終わりとなる低酸素環境でもしっかりと酸素を 結合し組織でうまく離すことができる特性をもっている。ヘモグロビンの構造はヒトもトリも似たよ うなものであるが、ふつうのヒトのヘモグロビンを構成するアミノ酸をほんの2箇所変えただけで (2箇所のポイントミューテーションを起こしただけで)あのスーパーバードが誕生するのである (Weber, 1993)。別の例をひく。低酸素は肺の血管を収縮させる。マイルドな低酸素であればこ の反応は血流と換気をマッチさせる合目的な効果をもたらすが、通常はこの肺血管の収縮に よって肺の血圧が上がり、心臓からの血液の拍出を抑制するので、低酸素下での運動を制限 する一つの重要な要素となっている。ところで、ある種の高所居住動物ヤクはこの低酸素性の 肺血管の収縮反応が乏しいかまったくない。平地に住む普通のウシとはたったひとつの遺伝 子が違うだけである(Harris,1986)。遺伝的な適応がもっとも根元的である。 しかし酸素はヒトには、いや鳥類以上の動物には essential である。少なくとも、ある濃 度以上の酸素環境下に生きることを前提にヒトは作られていよう。順応が可能だとしても限度 12 がある。この限界を慢性高山病といわれる高地居住民の病気に、高地衰退をきたした登山者 にみることができる。5000m を越える高度では、たとえかなり長く滞在できたとしても、また遊牧 など生活の場とすることができたとしても、ここを再生産の場とすることはできない。つまり、定 住の場とすることはできない。超高所 6000m をこえると急性の馴化もその限界をみせる。一度 高所による障害をうけると回復は困難であってただ衰退するのみである。せいぜい数週間可 能だとしても1カ月の滞在が限度である。極高所 8000m を越える高度に酸素補給なしで5日 間以上滞在できたヒトは、高地居住民を含めても、いないはずである。 ヒトは酸素を必要とする動物の仲間である。乏しい酸素を有効利用するためにどのよ うな工夫をしているか、以下でみてゆくことにしよう。 参考文献 Harris, P. ,1986 Evolution, hypoxia and high altitude. In Aspects of Hypoxia, (ed. D. Heath), Liverpool University Press, Liverpool, pp. 207-16., 1986 Kayser, et al. 1991 Muscle structure and performance capacity of Himalayan Sherpa. 70(5):1938-42, 1991 Weber RE, Jessen TH, Malta H., Tame J., 1993 J. Appl. Phisiol. Mutant hemoglobins (α119->Ala and β55->Ser): Functions related to high-altitude respiration in geese. J. Appl. Phisiol. 75:2646-2655, 1993 第三章 高所環境への適応 第二節 酸素の利用 エネルギー代謝に必要な酸素を取り入れその代謝物である二酸化炭素を排泄する ためには、Fig3-2 に示すように外界の空気と血液とのガス交換を担当する呼吸器系・肺と体組 織とを連結し酸素二酸化炭素を運ぶ循環器系・細胞レベルでのガス交換系の 4 つのシステム が歯車をスムースに噛み合わせる必要がある。とくに低酸素状態にあるときはそうである。 13 第一のステップ、環境から肺胞まで空気を運ぶためには、横隔膜・肋間筋などの呼 吸筋をバランスよく収縮させる必要がある。 第二のステップで、空気は肺胞で血液と接することになるが、空気が効率よく血液と 巡り会うように換気と血流のバランスをとってやるとよいだろう。また酸素はスムースに拡散させ Fig.3-2 O2, CO2 の輸送と拡散 たいものだ。 酸素は血液中のヘモグロビンと結びついて組織に送られることになるが、同じ低酸 素状態でもでも沢山の酸素を結合できるようその形を変えられるとよい。赤血球自体を増やし てもよい。 第三のステップは、体循環である。心拍数を増やしたり心臓を強く収縮させ心拍出 量を増やしてで沢山の血液を組織に送りだす反応も要求されるであろう。 最後の第4のステップが組織での拡散である。組織にたどりついた酸素は毛細管か ら細胞へと拡散してゆく。この拡散距離が大きく響いてくる。もちろん酸素を用いてエネルギー を生み出す細胞内の工場ミトコンドリアの濃度や性能が大切であることは当然である。 二酸化炭素はこの逆の過程を経て肺から外界へ放出される。 以下では、急性・慢性の低酸素状態でこれらの過程がどのように変化することによっ て低酸素に馴化・順応してゆくかを詳しくみてゆくことにしよう。 14 第三章 高所環境への適応 第三節 酸素の取り入れと換気応答 #呼吸の馴化 薄い空気から酸素を多く取り入れるためにはがんばって換気を増やせばよい。大き く早い呼吸を意識して行えばよいように思える。しかしこれを続けるのは無理がある。まず眠っ てしまえば意識的な過換気はできなくなる。起きていたって、呼吸が増えれば体内の二酸化 炭素が排泄され、PCO2 レベルが低下し血液はアルカローシスに傾く。呼吸はもっぱら CO2 の レベルや体液の pH を維持するために保たれているといってよいから呼吸中枢は換気をする 必要がないと判断して換気量が減ってしまうはずである。 長期間の低酸素暴露はあらゆる意味で抑制的に働く。呼吸にも抑制的に働くはず である。ところが、高所に馴化すると1ー2週間にわたって換気亢進(無意識の状態でも)が持 続する。持続するばかりか、4000m以上に2週間以上滞在すると、下界に戻り低酸素の刺激が なくなり体液の pH が元に戻っても、この換気の亢進は数日間持続する(Smith, 1986,)。何故だ ろうか? #低酸素に対する呼吸の反応 低酸素を感受して呼吸を増やそうとす る反応を低酸素換気応答と呼ぶ。総頸動脈の 分岐部にある小さなセンサー(頚動脈体)が動 Fig.3-3-1 高所滞在と低酸素換気応答の変 化 脈血のなかの酸素欠乏を察知し、大きく呼吸す るようにと延髄の呼吸中枢に信号を送る。このセ ンサー頚動脈体は、換気が増えて PCO2 が低 下すると、通常は性能が落ちる(Honda)。しかし、 ラットを4週間ほど低酸素環境下で飼育すると 数時間の暴露の時とことなり、頚動脈体の性能 は逆に向上するという成績が得られた (Barnard ,1987)。ヒトでも、オペレーションエベレ スト ll とよばれたエベレスト登山を模した長期に わたる低圧室での滞在実験によると、高度が上 がるにつれ時間が経過するにつれ低酸素換気 応 答 が 増 強 し て い た ( Schoene, 1990).(Fig.3-3-1)。実際の高所でも、標高 3700m のラサ到着直後に低酸素換気応答は一時 低下するが以後2週間にわたって亢進してゆく(Masuda ,1992)。どうも時間経過で反応の性質 が変わるようである。 15 強い低酸素換気応答つまりしっかりした低酸素センサー能力は高所馴化・高所で の運動能改善に有利に働く。例えば Hackett,. 1982) に よ れ ば 、 Pheriche(4250m)でより高い Fig.3-3-2 低酸素換気応答と登山 SpO2、より低い PCO2 を示すトレッカーは、つ まりは高い低酸素換気応答をもっていることに なるのだが、高山病になりにくい。 Schoene, 1984 はこれを低酸素換気応答を実測すること で示した。米国エベレスト医学登山隊では高 い低酸素換気応答をもつ隊員はより高く登る ことができた(Fig.3-3-2)。また低酸素環境下で の運動にともなう desaturation はこの反応が大 き い 者 ほ ど 小 さ く て す ん だ (Fig.3-3-2b) 。 Masuyama, 1986)のカンチェンジュンガでの成 Fig.3-3-2b 低酸素換気応答と運動時低酸素 績も同様であって、この反応が高い者は高所 での高山病症状が少なくより多く高く活動する ことができた。酸素を取り入れる第一の過程・ 呼吸がよく反応することが望ましいのは当然 のように思える。 しかし、もっと長い時間スパンでみる と、物事はそれほど簡単ではなさそうだ。ヒマ ラヤの峰を重い荷を背負い軽やかに駆けるあ のシェルパに代表される高地居住民はこの低 酸素換気応答があまりない(Lahiri, 1968)。そ れどころか、まったく低酸素が呼吸を刺激しな い例すらみられる。長年低酸素に曝された高年シェルパに多い。彼らはといえば、エベレスト を3回も登っていたりするのだ。低地居住者でも職業的に長期間ヒマラヤを歩く者には上の傾 向がみられない(Oeltz, 1986)。世界ではじめて無酸素でエベレストを極めた2人のうちの一人 は、この反応があまりない(Scjoene, 1987)。 16 高山では、夜間の睡眠中に、 激しい息と静かな無呼吸がくりかえされる Fig.3-3-3 高所での睡眠時周期性呼吸 ことがある。このパターンは周期的に繰り 返さ れるの でこれを周期性呼吸という (West, 1984)’Fig.3-3-3)。どうも低酸素換 気応答の大きいものほどこの周期性呼吸 がでやすいようである(Lahiri, 1984)。高地 での周期性呼吸では、これが起こらずに 低換気状態が続いている時より SpO2 が 高いこともあるので、生体に有利に働い ている可能性も考えられている (Masuyama,1989)が、息が止まるなどとい うのはぞっとしない話であるし、あの強い シェルパたちにはこれが起こらないのだ。 低酸素換気応答が有利に働くのは、まだ 高地高山に慣れていない新参者の場合と考えるべきかもしれない。 とまれ、この頚動脈体の低酸素センサーを刺激する薬剤があれば高所で役に立つ と考える方もいよう。ないことはない。ヨーロッパでは実際使われてきた。日本では副作用のせ いで発売されていないのであるが。 #炭酸ガスに対する換気応答が亢進あるいは閾値の resetting が起こる。 上で述べたように、呼吸が刺激 され二酸化炭素が肺から放出され PCO2 Fig.3-3-4 二酸化炭素の代謝 が低下し pH がアルカリ性に変わっても依 然として換気の亢進が持続しているとす れば(これこそ換気における馴化といえ る)、二酸化炭素に刺激されて起こる換気 の増大反応もその性格を変えているに違 いない。PCO2 の増加に反応するメインの センサーは延髄の腹側、第四脳室にすぐ 接する場所にあるといわれている(最近で はもう少し内側にあるとも考えられているが)。呼吸中枢といわれる延髄の中枢のすぐ近くであ る。血液中の CO2 は脳血管函門を楽々通過し脳脊髄液にとけ込み脳脊髄液の水素[H]イオ ン濃度を高める。次の式 1 を参照のこと。(Fig.3-3-4 ) CO2 + H2O <--> H2CO3 <--> H + HCO3 式1 [H+] = 24*PCO2/[HCO3-] 式2 17 CO2 センサーはこの[H+]イオンに反応して刺激を呼吸中枢に送ることになる。平地 では、Fig.3-3-5 にみるように大体 PCO2 Fig.3-3-5 高所滞在と炭酸ガス換気応答 が 40mmHg を越える(横軸)程度から換 気が増えてくる(縦軸)。高所に入ると、 この反応直線は左へ偏位し(換気が刺 激されるレベルが下がってくる)かつそ の傾きが強くなるようにみえる(Kellogg, 1963) (Fig3-3-5)。この図は普段の換気 状態での PCO2(26l/min の線をみよ)が 低下してゆくことも示している。Schoene, 1990 によると炭酸ガス換気応答の傾き が高所で増強されることを示している(Fig.3-3-6)。 Fig.3-3-6 高所滞在と炭酸ガス換 高所における換気の馴化を Severinghaus は脳 気応答の変化 脊髄液の[HCO3-]濃度が予想以上に低下することに求 めた。(Severinghaus,1963)。PCO2 が低下し CSF の pH がアルカリ性になれば、腎臓から HCO3 が排泄され血 清の[HCO3-]は低下するのだが、脳脊髄液の[HCO3-] はそれ以上に低値をとっているという。つまりその分だけ [H+]が増加し(つまり換気が増え)CSF pH は元にもどる。 [H+]感受性の延髄腹側のセンサーの働きが馴化を説 明するとしたのである。CSF の [HCO3-]が下がるとすれ ば、濃度勾配に逆らって脳脊髄液から能動輸送されて いるか、脳内に無酸素代謝物質(細胞からでてくる乳酸 を考える)により[HCO3-]が消費されていることになる。これが有名な呼吸馴化の理論である。 Severinghaus がこの説をとなえてから 30 年以上たつが、必ずしもこの説を支える有 力な証拠は生まれていない。CSF pH が血液 pH と異なる調節をされることはないようだ。 Severinghaus らの再度の実験では CSF pH は高所暴露直後も馴化した後も一定レベルに保た れていた(Crawford,1978)。能動輸送や無酸素代謝は証明されていない。素直にみれば、セ ンサー細胞近傍の低い PCO2,[HCO3+]レベル(強い呼吸の抑制があるはず)にもかかわらず、 その他のメカニズム(低酸素換気応答の増強、脳血流の変化など)により換気は維持されてい ると考えるべきであろう。 さて、上の式をもう一度みてみよう。呼吸を刺激するには中枢のセンサー近くの[H+] イオンを増やしてやればよい。式2をみれば CO2 を与えてやればよいことがわかる。炭酸ガス を吸えばよい。炭酸ガスがないときはどうするか。式1をみよう。この一連の反応を律する酵素 を炭酸脱水素酵素という。この酵素をブロックしてやれば CO2 を与えなくとも反応が右側に流 18 れない分 CO2 が溜まってくるはずだ。脳細胞や赤血球でこの反応が起きれば CO2 は CSF へ と拡散し CSF[H+]を上昇させ換気を刺激することになる。この炭酸脱水素酵素阻害剤とよば れるブロッカーは腎臓の尿細管では[HCO3+]の再吸収を阻害するので(だから利尿剤として も使用される)代謝性アシドーシスをもたらす。これもまた換気を刺激することになろう。 高山でこんな便利な薬があるととても便利だと思いませんか?そう。Acetazolamide、 商品名ダイアモックスとよばれる薬剤がまさしくこれである。高山病予防に効きそうだと思いま せんか? 参考文献 Barnard P, Andronikou S, Pokorski M, Smatrek N, Mokashi A, and Lahiri S.,1987 of hypoxia on carotid body chemosensory function. 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Physiol. 74:303-311, 1993 20 第三章 高所環境への適応 第四節 肺での酸素の拡散 #DLCO, DLO2 Fig.3-4-0:肺胞壁と赤血球 Fig.3-4-1 拡散のシェーマ 肺胞にたどりついた酸素は肺胞上皮を抜け間質 を通り毛細管壁を抜けその中を流れる赤血球のヘモグロビンと結合する必要がある。Fig.3-4-0 に肺胞領域の電子顕微鏡を示す。どんなガスも圧勾配により拡散することで移動する。酸素 は肺胞から毛細管へ、二酸化炭素は毛細管から肺胞へと拡散する。肺での酸素の拡散のシ ェーマを(Fig.3-4-1)に示す。 肺胞からヘモグロビンまで拡散する酸素の量を V とすると、拡散する速度 dV/dt は、 肺胞の酸素分圧(PalvO2)と混合静脈血(毛細管血)の酸素分圧(PvO2)の差で決まるから、 式1 dV/dt=k*(PalvO2-PvO2) で与えられる。ここで k は、肺胞からの拡散面積や肺胞壁の厚さ及び拡散定数をひっくるめた 定 数 と な る。この K が酸素の拡散しやすさをあらわす。酸素(O2)の肺(Lung)での拡散 (Diffusion)であるので、これをD LO2 と表記し"肺での酸素の拡散能"と呼ぶ。 式2 DLO2=dV/dt/(PalvO2-PvO2) 測定上の都合から酸素の替わりに一酸化炭素(CO)を用いることが多いが、この場合は DLCO と表記する。通常血液中に CO はほとんど含まれていないから PvCO=0 となり、 式3 DLCO=dV/dt/PalvCO という簡単な式となる。安静時運動時を通じ DLO2/DLCO=1.2 程度なので、これをふまえてい れば、どちらを使っても拡散能を評価することができる。 (Fig.3-4-1)に示すように、拡散の障害となるのは肺胞毛細管膜と赤血球と の結合の仕方の二つのコンポーネントである。よって DLCO は肺胞毛細管膜の拡散能 DM と 血液因子θVc とにわけて考えられる。 21 式4 1/DLCO=1/DM+1/θVc #拡散の制限 肺毛細管血液量(Vc)は血流量と接触時間により決定される。激しい運動をすると血 流量は増えるが、血流速度も上がって赤血球が肺胞と接触している時間が短くなる。一気圧 Fig.3-4-2 拡散の制限 下であれば Fig.3-4-2 左図にみるように接触時間が少々短くなっても静脈血(PvO2=40mmHg) は、肺胞の酸素分圧(PAO2)が高いおかげでなんとか酸素化される。動脈血の酸素分圧は肺 胞のそれと同等になる。一方、エベレスト頂上をシミュレイトしてみる。PvO2 は 21mmHg 程度し かない。吸入気酸素分圧 PIO2 は 43mmHgPAO2 は 34mmHg である。右図にみるように、圧の 格差が小さいため、静脈血は肺胞との接触の最後になっても十分酸素化されず、肺胞の酸 素分圧と動脈血の酸素分圧差(A-aDO2)が大きくなる。接触時間が短くなればなおさらである。 ただでさえ乏しい酸素が動脈に届かなくなる。 実際、低圧環境で運動するとさらに低酸素血症がもたらされる。標高 5360m で 25kg の負荷をかけた2分間のスクワッティングでさえ SpO2 は 78%から 72.5%に低下したとの報告が ある(Hasako,1987)。 22 米国のエベレスト隊の 6300m の報 Fig 3-4-3 高所での運動は低酸素をもたらす 告 で は 、 Fig 3-4-3 に み る よ う に SpO2 は負荷の強さに応じて直線的 に低下する(West,1983)。計算では 肺胞と動脈の酸素分圧格差は 21mmHg とみつもられる。強度の運 動になると平地での運動でさえ、拡 散 障 害 が 生 じ て い る 。 Torre-Bruno,1985 は拡散障害を定 量的に評価しているが、酸素摂取 量が 3l/分を越えると(普通の人では 最大負荷に近い負荷量である)拡 散障害が検出されるという。Hammond,1986 達も同様の結果を示している。我々にとって Fig.3-4-4 拡散の障害が低酸素をもたらす 興味深いことに、拡散障害がでてくるのは 平地ではやはり酸素消費量 3l/分以上であ るのだが、11%酸素吸入下(4600m の高度 に相当する)ではたかだか 1.5l/分以上の運 動で拡散の障害が検出される(Fig.3-4-4)。 #換気と血流の不均等分布 肺胞と動脈の酸素分圧較差を作り 出すもう一つのメカニズムは換気と血流の 不均等な分布である。通常血液は重力の せいで肺の下部に多く分布する。一方換気 は血流に比べ相対的に上部に分布する。 運動は肺尖部の血流を増加させこの不均 等な 分布を改善すると考えられてきた (Bake,1968) 。また低酸素環境下では肺の中でも低酸素状態の部分(換気が十分にされてい ない部分)の血管が収縮し他の部分へと血流をシフトさせる反応・低酸素性血管収縮がおこる。 これも不均等分布を改善させる可能性のある反応といえる(Marshall,1981)。 しかし、Gale1985 らの報告によると、0m でも 4600m の高度でも、運動は換気と血流 の不均等分布を悪化させる。上記 Hammond,1986 の場合でも、拡散障害があらわれる前でも AaDO2 は 拡 大 す るの だ が こ れ は 換 気 血 流 の 不 均 等 が 悪 化 し た こ と に よ るの で あ る。 Wagner,1986 の報告でも同様であって、低酸素性肺血管収縮が不均等におこること、肺の各 部位で呼吸の時定数が異なること、あるいは間質の浮腫形成などにより、運動時に換気血流 23 の不均等が悪化しうる。低圧低酸素条件では上記条件はさらに悪くなるであろうという。 どうも、運動時の低酸素血症は、高所ではとくに、拡散障害と換気血流の不均等が あいまって進行させるらしい。 問題は高度でその割合がどう変化するかである。Fig.3-4-5 は長期間の低圧室滞在 実験 OEll での成績である Wagner, 1987。縦軸に AaDO2、横軸に酸素消費量であらわされる 運 動 量 を と る 。 上 か ら そ れ ぞ れ 760torr(0m), 429torr(4500m), Fig.3-4-5 高所での運動中の拡散障害・換気血流不均 等の割合 347torr (6000m), 282torr(7500m), 240torr(8848m)での成績を示す。 "PREDICTED"と示されたライン は V/Q mismatching から理論的 に 予 測 さ れ た AaDO2 、 "MEASURED"と あ る の は 実 測 値。その差は拡散障害によるも の と み な さ れ る 。 760torr で は 3l/min あたりで両者が開いてくる (拡散障害がでてくる)が、 429torr だと 1.5l/min ですでに開 き 始 め る 。 347torr282torr ・ 240torr つまり 6000m を越える高 度では 1l/min 程度の運動で拡 散の障害がでてくることがわか る。 さて、この拡散障害は 高さに比例して悪化するのだろ うか。Fig.3-4-6-B をみてみよう。 実線は拡散障害で引き起こされ る肺胞と動脈の酸素分圧差、破 線はこの分圧差を酸素含有量 の差(実質的には酸素飽和度 SaO2 の差)として置き換えたも のである。分圧差は 6000m までは 8-9torr とほぼ一定であるがこれを越えると小さくなる。一方 これを酸素含有量の差でみると 6000m まで直線的に増大し以後頭打ちとなっている。PaO2 が 100torr 近くある標高 0m では 8torr の差は酸素含有量(酸素飽和度 SaO2)にさして大きな影響 を与えない。高度が増して PaO2 が低下し、酸素解離曲線の急峻な部分にくると 8-9torr の差 が大きな SaO2 の差としてあらわれてくる。6000m 以上では拡散障害によって 4ml/100ml の酸 素を失っていることになる。動脈の酸素含量は平地では 20ml/100ml、8848m で 12.5ml/100ml 24 くらいだと見積もられているから、この 4ml/100ml がいかに大きいかがわかろう。 拡散障害と換気血流比不均等はどちらが高所での運動時の AaDO2 開大に寄与す ること大なのだろうか。Fig.3-4-6-A をみてみよう。全体の AaDO2 を拡散障害による部分と換気 血流比不均等による部分とにわけて表 示したものである。高度が増すにつれ、 拡散障害がますます重要になってくるこ Fig.3-4-6 高所における AaDO2 に対する拡散障 害・換気血流比不均等の関与 とがわかる。4000m ではほぼ半々、エベ レスト頂上では拡散障害が 85%寄与し ていることになる。 極高所では肺での拡散が決 定的である! 肺の拡散能(DLCO)は高地滞 在でいくらか亢進するらしい。安静時で も、運動の時もそうらしい。上の式4でい うと、θは PaO2 が低下すると大きくなる。 赤血球ヘモグロビンが増えれば毛細管 血液量 Vc も増える。さすれば DLCO は 大きくなるはずである。しかし高所で起 こっているであろう肺間質の浮腫や低 酸素性肺血管収縮を考えると膜の部分 DM は低下している可能性がある。トー タルで DLCO を改善させることができる者が有利であろう。 DLCO は高地居住民で亢進している。3700m に住むアンデス住民は予測値より 50% も高い(Remmers,1969)。これはただの人種差ではなく、同じ人種でも長期間高所に暮らしてき た人々でも同様の結果がみられている(Dempsy,1971)。DLCO は安静時も運動中も高くなって いる。赤血球の因子というより、換気に与る肺胞の面積や毛細血管の量がこの増大を支えて いると考えられている。 拡散能の改善が順応にあたるか否かは別として、拡散能の障害は厳しい低酸素環 境下では決定的な運動制限因子となる。平地でも運動による軽度の間質の浮腫性変化がも たらされる(Schffartzik,1992) 。高所での低酸素・激しい運動はこれを増強する。肺間質の浮 腫は直接肺胞毛細管膜の拡散能 DM を低下させ DLCO を悪化させるばかりか、換気血流の 不均等を悪化させトータルの AaDO2 を開大させることになる。拡散は essential. 参考文献 Bake B. et. al. 1968 The effect of sitting and graded exercise on the distribution of pulmonary blood flow in healthy subjects studied with the 133xenon technique. Scand. J. Clin. Lab. Invest. 22:99-106,1968 Dempsy JA, Reddan WG, Birnbaum ML, Forster HV, Thoden JS, Grover RF, Rankin J.1971 25 Effects of acute through life-long hypoxic exposure on exercise pulmonary gas exchange. Respir. Physiol. 13:62-89, 1971 Gale GE, Torre-Bueno JR, Moon RE, Saltzman HA, Wagner PD.1985 Ventilation-perfusion inequality in normal humans during exercise at sea level and simulated altitude. J. Appl. Physiol. 58:978-988, 1985 Guleria JS, PAnde JN, Sethi PK, Roy SB. Pulmonary diffusing capacity at high altitude.1971 J. Appl. Physiol. 31:536-43, 1971 Hammond MD, Gale GE, Kapitan KS, Ries A, Wagner PD.1986a Pulmonary gas exchange in humans during exercise at sea level. J. Appl. Physiol. 60:1590-98,1986 Hammond MD, Gale GE, Kapitan KS, Ries A, Wagner PD.1986b Pulmonary gas exchange in humans during normobaric hypoxic exercise. J. Appl. Physiol. 61:1749-57,1986 Hasako, K Masuyama S al.1988 hypoxia. 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Physiol. 52:265-279, 1983. 26 第三章 高所環境への適応 第五節 心臓血管系 1 高所では心機能は低下するか。 心臓血管系は肺で取り込んだ乏しい酸素を組織に届ける役割をはたす。急性の低 酸素状態では脈がどきどきし心臓はがんばって働いているように思えるが、高所ではむくみが でたり息切れがしたりと、どうも心機能が十分に働いていないように思える。実際 Alexander1967 は 3100M の高度で 10 日間滞在後の運動時の心臓の一回拍出量・心拍出量 は平地と比べて低下していると報告している。一方、Pugh,1964 の 5400m での報告では、心拍 出量は平地でより高くなっている。心拍出量の反応については色々な報告をみる。 しかしフィールドにあって正確に心拍出量を測定するのは難しい。古い時期の報告がこの点 に関して一致しないのも測定法の厳密さに原因がありうる。また馴化の程度で結果にばらつき がでる可能性もある。完全に馴化した平地人を確立された同じ方法で測定し比較する必要が あるがこれも必ずしも今までの報告では一貫してはいない。また心拍出量の変化を考える際 には呼吸の増大との相互作用を考慮する必要がある。Mizoo,1996 によれば、低酸素負荷時 の呼吸応答と心拍出量応答の間には逆比例の関係がある(Fig.3-5-1-1)。つまり呼吸の反応が 強いものは心拍出量の反応が弱い。呼吸の反応が小さければ心拍出量は大きくなる。このよ うな相互作用も考慮に入れる必要がある。 2 高所でも心機能は保たれている。 高所では確かに運動能力は落ち Fig.3-5-2-1 高所で最大酸素摂取量の低下 る。とくに最大酸素摂取量(最大運動負荷 量といってもよい)は高度が増すごとに低下 する。Fig.3-5-2-1 にこれまでの代表的な報 告をまとめてみる。吸入気酸素分圧(PIO2) が低下するにつれ(高度があがるにつれ) 最大酸素摂取量(VO2max)は低下してゆく。 エベレストの頂上では平地のせいぜい 1/3 から 1/4 にすぎない (Cymerman, 1989)。こ の低下に心臓の機能はどの程度関わって いるのだろうか。 27 Reeves JAP, 1987 の OEll での データをみてみよう。現時点では、長期 Fig.3-5-2-2 高所での運動強度と心機能 間の低圧室滞在中に行われた右心臓 カテーテル検査によるこの実験によるデ ータがもっとも信頼しうる。Fig.3-5-2-2-に 示すように運動量(横軸)に対する心拍 出量(縦軸)の関係は、高度が上がれば 運動量が減るので直線の長さは短くな っているが、いずれも同じようなライン上 にある。これは、運動負荷量と心拍出量 の関係は高度によって影響を受けない ことを意味している。しかしこの結論は やや奇妙に思える。高所で運動すると、 平地と比べて脈が早いように感じられる からだ。実際、Fig.3-5-2-3 のように酸素 消費量当たりの心拍数をプロットしてみ ると、高所でのラインは平地のそれより 上にある。同じ程度の運動で心拍数が 高くてかつ心拍出量が似たようなものだとすれば、一回の拍出量が小さいということになる (Fig3-5-1-3B)。これは心機能が抑制されている証拠ではないだろうか。 一回拍出量は心筋の収縮力が低下すれば低下するであろう。しかし循環血液量が 減り静脈還流が減れば同じように低下しう る。しかし、Fig3-5-2-4 に示すように右房 Fig.3-5-2-3 高所での運動強度と心拍数 圧や左室圧と一回拍出量の関係は保た れているし、酸素投与でこれらの関係に 変化はなかった。また Suarez,1987 による 安静時及び運動時の心臓超音波検査に よると、Fig.3-5-2-4 に示すように心臓左心 室筋の収縮力は高所でも維持されていた。 駆出分画でみると低下しているどころか逆 に平地で平均 69%からエベレスト頂上で 79%へと向上していた。この収縮力強化 はカテコラミンの増加を伴っており、この 低酸素状態でも心筋の交感神経活動に 対する反応性は保たれているのである。 28 どうも、エベレスト頂上でも低酸 素による心筋への直接的な機能障害を心 配する必要はないようである。もちろんこ Fig.3-5-2-4 心臓左心室筋の収縮力は高所で も維持されている れは十分に馴化した健常人についての みいえることであって、高齢者、心血管系 の患者にとっては低酸素は著しく悪影響 を及ぼすであろう。 3 運動時の肺高血圧が問題と なりうる。 問題になるとすれば、肺血管の 反応であろう。肺の小細動脈の平滑筋細 胞はその周囲にある肺胞が低酸素状態 になると収縮する(Fishman,1978)。逆に動 く例ではあるが、赤ん坊を思い浮かべると よい。母親の胎内から外界へ生まれ落ち 外の空気を吸い始めそれまで低酸素状 態にあった肺に酸素が満ちると、低酸素 性肺血管収縮反応は解除されて肺血管が広がり、胎盤を経由した胎児循環から肺を経由す る肺循環へとスイッチが切り替わる。この一瞬にこの反応のもっとも重要な生理的意義がある。 しかし大人になってもこの反応は残っている。個々人によりその強さは様々であるが、 低酸素状態にある部分への血流を遮断し他の部分に血液をより多く送ろうとする合目的な生 理学的反応であるとも考えられる(Marshall,1981)。しかし全体的にみると肺血管の抵抗を高め、 肺の血圧を上げ肺高血圧症(肺動脈平均圧が 20mmHg を越える場合)をもたらすことになる。 平地で低酸素ガスを吸ってもこの低酸素性肺血管収縮反応は起こるから、高所でも当然起き ていることが予想される。 29 Sime,1974 に よ る と 平 地 で 12mmHg で あ っ た 肺 動 脈 の 平 均 圧 は Fig.3-5-3-1 高所での運動時の肺動脈圧 4500m に一年住んでいると 18mmHg に上 昇していた。もちろんもっと急激な高所暴露 でもおこる。 Groves JAP, 1987 の成績を みてみる(Fig.3-5-3-1)。これも OE2 での成 績である。横軸は心拍出量、縦軸は肺血管 の圧格差(肺動脈圧から左心室圧を引いた 圧)。左から平地、6000m、7500m に相当す る。安静時の肺動脈圧はそれぞれ 15mmHg, 24mmHg, 34mmHg となっており 安静時でもすでに肺高血圧症となっている。安静時よりも面白いのは運動時の変化である。 運動量が増すにつれどの高度でも肺血管の 圧格差が大きくなっていくが、その勾配は高 度とともにきつくなってくる。つまり、ほんのわ Fig.3-5-3-2-高所での運動時の心拍出量と肺 動脈圧の関係 ずか運動負荷量が増えただけで肺血管の圧 格差が急増する。同一面にあらしてみると勾 配が強くなっているのがよくわかる (Fig.3-5-3-2)。圧格差を心拍出量で割ったも のが抵抗であるから、肺血管抵抗は Fig.3-5-3 に示すように安静時も運動中も高度につれ上 昇する。 低酸素性肺血管収縮反応は文字通 り低酸素により引き起こされるのであるから、 酸素を与えれば消失するはずである。事実健 常人では急性の低酸素ガス吸入による肺血 管収縮反応は可逆的である。ところが驚くことに、 Groves JAP, 1987 の実験では、酸素を与え ても肺動脈圧は完全には元に戻らないし肺血管抵抗は有意な低下をみせない。 30 これと同じ現象は高地居住民にもみられる。長期間 4330m の高所に住む南米の住 民 Quechuas は軽度から高度の肺高血圧症を呈する。Fig.3-5-3-4 で、縦軸は肺動脈圧をあら わす。a は平地居住者の安静時、b は運動 時。c は Quechuas の安静時、d は運動時。 Fig.3-5-3-4 高地居住民の肺動脈圧 Quechuas の 安 静 時 及 び 運 動 時 の 圧 は Groves JAP, 1987 たちの 6000m での値を上 回っている。彼らの肺高血圧は酸素投与だ けでは改善しない。下がってせいぜい 15 から 20%である(Penaloza, 1962)。この反応 の悪さはかれらの肺動脈がもはや器質的 に変化してしまっていることによる。Heath & Williams 1991 によれば、本来平滑筋構造 を持たない小細肺動脈の中膜の肥厚、筋 性化が起こる。30mm 程度の細い動脈での変化も例外ではない。中膜の縦方向に成長する平 滑筋の増成も確認されている。これらはいわゆる肺血管構造の remodelling を起こしてくる (Smith, 1992 :Heath D, Williams D, 1991)。本来筋性構造を持たないこのレベルの肺血管の 変化は当然血管抵抗を高め肺動脈圧を高める。すでに器質的にできあがっているものである から、酸素投与が効を奏さないのも当然というべきである。 だが、平地居住者がたかだか数週間や数ヶ月高所に滞在したからといって、上記の ような組織学的変化を起こしてくるとは考えにくい。低圧そのものが、肺血管内皮細胞から放 出され肺血管の緊張をコントロールする物質(現在ではNO一酸化窒素であると考えられてい る)の生成や代謝に影響を与えるのかもしれない。また間質には contractile interstitial cells とよ ばれる低酸素に感受性のある細胞がほかにも同定されている。これらの関与も考える必要もあ ろう。 低酸素性肺血管収縮反応は低酸素状態にある部分への血流を遮断し他の部分に 血液をより多く送ろうとする合目的な生理学的反応 かもしれないと述べた(Marshall,1981) が、高所にあってはこれに期待をかけすぎない方がよさそうである。この反応が均等に起こっ てくれればまだしも、不均等に起こるとすれば、部分的に高圧な毛細管を生みだし liquids の leak を招き肺水腫をもたらす可能性もある(Hultgren,1978-)。肺水腫にならなくとも、換気血流 の不均等を増大させる可能性は大きい(Wagner,1987)。 31 Yoshida によれば、平地であっても肺血管障害がある患者では運動時の肺血管抵抗 の急激な増大が運動の規定因子となっている。高地においておや。高地肺水腫に一度なっ たヒトは再度なりやすいことが知られている。この肺水腫になりやすい人を集めて、低酸素吸 入により肺血管抵抗・肺動脈圧がどうなるかを調べてみる。 Fasules,1985 Kawashima らによる と、こういう人々は低酸素に対する肺血管抵抗・肺動脈圧の上昇が著しい。515mmHg の低圧 負荷によっても,また 15%O2 の低酸素吸入においても、肺血管抵抗及び肺動脈圧が高くなる。 50W の軽運動負荷でも、control では肺血管抵抗が低下したにもかかわらず、肺血管抵抗・肺 動脈圧は上昇し、高度の低酸素血症が招来される。Fig.3-5-3-2 でみた圧と運動量の関係の 傾きが急峻となる。肺循環は体循環と異なり 低圧系なのである。右室は左室と違って大き Fig.3-5-3-5 Sun な圧を作り出すことができない。肺高血圧が 続くと右心がまいってしまうことになる。 上にみた高地居住者は南米でのも のであった。アジアのチベット系はいくらか反 応が違うようである。 Sun,JAP,199?はチベット のラサ(3700m)で運動中の右心カテーテル検 査を行い、現地のチベット人と移住してきた 漢 人 の 肺 血 管 の 反 応 性 を 比 較 し て い る。 Fig.3-5-3-5 をみるとチベット人のほうが同じ運 動に対して肺動脈圧上昇の程度が低いこと が分かる。南米の高地居住民との違いがどの 点にあるのか現時点では分かっていないが、チベット人の反応が適応という意味では好ましい のであろう。インド北部高原地帯標高 4000m に居住するチベット系のラダックの住民について の面白い報告がある。培検によると、かれらの肺小細動脈には中膜の肥厚も筋性変化もほと んど認めなかった。Gupta,1992 はこれは高地生息動物にみられるような適応かもしれないと考 えている。 参考文献 Alexander, J.K., Hartley, L.H., Modelski, M. and Grover, R.F. 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Physiol. 63:2348-59,1987 33 第三章 高所環境への適応 第六節 血液学的変化と血漿量 #ヘモグロビン濃度は赤血球量と血漿量により決まる。 赤血球量の調節;酸素を結合して組織へ運ぶヘモグロビンの濃度は赤血球量と血 漿量により決まる。赤血球の量が少なくなることを貧血という。貧血は様々な原因ーー製造工 場であるの骨髄の障害、製造原材料の不足、破壊や喪失ーーにより生ずる。高所に出かける 者にはこれらの障害がないことにしよう。この場合赤血球の産生量はもっぱらエリスロポエチン と呼ばれるホルモンに依存する。エリスロポエチンは主として腎臓の Jaxtaglomerular apparatus において作られる。主に次の二つの困った状態がエリスロポエチン産生を刺激する。一つは 血液の喪失である。これは有史以来動物がもっとも頻繁に直面してきた危機的状況である。こ れに対応する重要な反応である。そして今一つが低酸素である。それほど低酸素は動物にと って危機なのであろう。 いままで頚動脈体、肺の動脈という二つの低酸素センサーをみてきた。これらと比較 してみよう。 1 頚動脈体 換気 組織(脳)低酸素(動脈) 酸素分圧 2 肺の動脈 血流 組織(肺)低酸素(肺胞) 酸素分圧 3 腎 赤血球 組織(全身)低酸素(静脈) 酸素含量 1や2の酸素センサーとと大きく違う点は、反応がゆっくりしている所にある。1、2ともほんの数 秒の単位で反応をおこす。一方エリスロポエチンは数時間かけないと上昇してこない低酸素 は EPO gene の引き金を引き EPO RNA を数百倍のレベルに高め腎皮質の peritubular interstitial cells に働きかけ EPO の産生を調節する(Jelkman,1992)。もう一つの大きな違いは1、 2ともセンサー近傍の(動脈あるいは肺胞の)PO2 に反応するのに対し、エリスロポエチンは酸 素含量に反応する点である(貧血はまさしく酸素含量の低下をもたらす)。ゆっくりしたかつ全 身的反応といえる。 血漿量の調節: (Fig.3-6-1) 血液全体から赤血球や 白血球などの血球成分を取り除 Fig.3-6-1 血漿量の調節に関与する主な因子 いた液体成分を血漿という。血 漿量の調節に関与する主な因 子は ANP・Ald・ADH といったホ ルモンである。これに脱水の程 度・静脈の血管量・体位・寒冷・ Na 摂取・重力・運動などが修飾 を加える。Fig.3-6-1 にシェーマを 示す。 34 高所に滞在すると上の二つの調節があいまって血液量を調節する。低酸素自体に も利尿作用がある(Honig,1983)ばかりか、脱水・運動・寒冷のせいで、高所到着数日で循環血 漿量は減少する。Fig.3-6-2 に示すように、4000m 滞在 18 週目には血漿量は 21%減となって いる。赤血球も増えてきているが Hb 濃度は血液量減少を背景にしてさらに増加度が高い。II はさらに 3-6 週後 5800m でのもの、III はさらにその後 9ー14 週後 5800m でのものであるが、 血漿量は徐々に元に復する。Hb は横ばい、赤血球は増加を続ける。 さて、急性高山病は体液の異常貯留および体内での分布の異常と結び付けて考え な け れ ば ならない(Hackett,1981)。 HAPE での水分代謝に関連するホ Fig.3-6-2 高所滞在に伴う血液量の推移 ルモン、ペプチドには様々な報告が ある。ANP, ADH, Aldosterone が注 目されている。 と こ ろ で 、 平 地 で で Hb=15g/dl SaO2=98%,PaO2=90mmHg で あ っ た登山者が 4000m に滞在すること2 か 月 で Hb=20g/dl で SaO2=80%,PaO2=50mmHg に なっ たとしよう。動脈の酸素含有量 CaO2 は CaO2=1.34*Hb*SaO2/100+0.003*PaO2 で与えられるから 平地での CaO2=1.34*15*98/100+0.003*90=19.5 ml/dl 高所での CaO2=1.34*20*80/100+0.003*50=21.1 ml/dl なんと動脈の酸素運搬能力は、低酸素のせいで SaO2 が落ちているにもかかわらず、向上し ているではないか。これぞ馴化だ、と喜んでいるばかりではいけない。 高 所 滞 在 で ヘ モ グロビンが異常に増えるのは望ましくない、と考えられている (Winslow & Monge,1987)。過度に Hb 濃度が増えると血液の粘稠度が高まる。Hb が 18g/dl を 越えるとさらに加速される。粘稠度が高まると体循環・肺循環とも末梢での抵抗が増え、結果 的に心拍出量を落としてしまう。 組織への酸素供給量=動脈の酸素含量*心拍出量 であるから、後者を落としてしまっては元も子もない。 高地居住民はどうなのかという疑問がわく。たしかに南米の高所居住民では以前か ら Hb=20-22g/dl(4300m:男性、以下同じ)などと異常に高い報告が多かった(Merino,1959; Penaloza,1971)。しかし高地居住民でも Hb が 22g/dl を越える異常者は慢性高山病患者とよば れる低酸素不適応者である。上記の報告はこれらの人々を含んでいるようである。ネパールシ 35 ェルパでの報告では、17g/dl(3700m:Adams,1975), 16.2g/dl(3500m:Morpurgo,1976)程度であ る。チベット人では Sun によれば 17g/dl(4000m)程度である。Bell,1987-adaptation はもっと高い 地域を調べているが 18.4g/dl(5000m)。これらの中にも、慢性高山病とまではゆかずとも適応不 全者も含まれているはずである。8000m 峰を幾つも登った一流のシェルパでは 15g/dl であっ た。南米とアジアの高地居住民はこの点でなんらかの遺伝的差異があるのかも知れない。 とまれ Hb の値とクライミングパフォーマンスの間には何の関係もない。高すぎるとあ きらかに不利になる。大切なことは、循環血漿量を保ち十分な腎血流量を保つよう適切な水 分補給を心がけることである。 #凝固系の変化 高所における脳血管障害とくに脳血栓は多数の報告例がある。半身マヒを呈したり (Clarke,1983)半昏睡になったり(Fujimaki,1986)とかなり重症例から、一過性脳虚血発作と視力 障害を呈した例(Wohns,1978:Miyahara,1995)まで様々である。1994 年 10 月サウスコルからエ ベレスト頂上を目指した 60 歳の宮原は南峰直下で左視力を失って下山を余儀なくされた。視 力は C4 に下りると回復していた。宮原はその2か月前にも一過性脳虚血発作をおこし倒れて いる。視力障害も一時的な血栓症と考えられた。Dickerson,1983 は、ヒマラヤトレッキング中に 急性高山病で死亡した7人の貴重な剖検例を報告している。肺毛細管にフィブリン血栓・塞栓 及び肺胞内に線維素の析出が認められており、凝固線溶系の異常も疑われた。Chohan,1984 は 高 所 に 到 着 し た 際 に は 凝固系の亢進、線溶系の低下傾向がみられるという。しかし Bartsch, 1989, Cucinell,1987 らによれば凝固線溶系の異常が HAPE の発症を直接惹き起こし ている証拠はない。また OE2 での Andrew,1987 によると、凝固因子の異常はほとんどみられて いない。 参考文献 Adams, W.H. and Strang, L.J. 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PIO2-PAO2(Ventilation) 35 21 17 8 8 2. PAO2-PaO2(diffusion) 28 17 13 8 7 3. PaO2-PvO2(circulation) 69 21 19 14 4. PvO2(tissue diffusion) 19 12 14 14 私たち低地居住民が山に登るなどという短期的な馴化のレベルでは、1と2のステッ プが大切なのであろう。3の循環面は何とかこなせる。4の組織細胞レベルの改善を期待する のには滞在が短すぎる。 2のレベルでは換気と血流(V/Q)の不均等も重要である。OEll でも V/Q の不均等は 運動により悪化し、極端な例では安静時で 25%,運動時で 50%に達するシャント様効果が認 められた。不思議なことに,この V/Q 不均衡は酸素投与により改善しなかった。我々にとって 興味深いことには,平地で V/Q の不均等が大きい被験者は高所でもこれが大きい。この面は 遺伝的性質を持つのかもしれない。またこれは低酸素に対する耐性と関係している可能性も ある。一気圧下で低酸素ガスを吸入してもこれほど厳しい V/Q の不均等には進展しないから 低圧低酸素条件自体が肺血管の調節機構を変化させている可能性があるし,この調節機構 にそもそも障害のある場合は(Kawashima,1989)肺水腫などより重篤な病状へと進みうるのだっ た。 現時点で可能なチェック点 この1と2のステップをどのようにして改善するか、あるいは平地と同じように維持する できるかが、エベレスト頂上を酸素補給なしで踏もうとする者が試されるべきポイントになる。現 時点で可能なチェック点としては、低圧低酸素環境下での運動に際しての 1。換気の増大反応 2。肺血管の反応 3。肺の拡散・換気血流分布の反応 が重要になるであろう。 とまれエベレストの頂上は外界から取り入れる酸素の絶対量がここでの生存に必要 な酸素消費量とかろうじて拮抗しうる限界線である。1,2,3 をうまくクリアしたからといってその他 なにかひとつでも障害があれば、それは生命の喪失につながる。 この低圧低酸素環境下での運動というのはまことに特殊な状況である。上に述べた 慢性閉塞性肺疾患患者以外には通常経験することのない事態である。これを平地でシミュレ イトするのは特別な施設以外ではむずかしい。また、どういう運動を考えるかによっても状況は 変わる。8000M 以上でハードなクライミングを考えている人々には上で述べた 高尾山ハイキ 52 ング の状況設定はお気にめさないかもしれない。エベレスト頂上で酸素補給なしで無酸素性 筋肉運動を繰り返せるとは今までの報告からはとても考えられないから、それを目指す人々に は上に述べた生理的制約を打ち破ってもらう必要がある。とまれ、この特殊な状況を今まで何 度も無事にこなせたひとたちが、この特殊な状況にもっとも適応してきた人たちなのであろう。 その人々の特性を抽出できればよいのであるが。 ところで、これだけは強調しておく。上に述べた推論が成り立つのは、(お金も暇も十 分ある)うまくまとまったリーダーシップのもとにある技術の優れた快活な登山隊であって、それ 以外のすべての心身の条件が十全・栄養状態も十分であり、高所で痩せるとはいえ筋力も保 ち、高度馴化も完全にこなして疲労も最小限であり、それまでのタクティクスが成功裏に進行 し、なおかつ当日は無風快晴であって気圧が予想より 17ッmHg ほど高いという条件があっての ことである。 これらをすべて満たすことができるのは、人工的な気象室において以外ありえないで あろう。実際のフィールドはかならず上記の条件をいくつも欠く。上に述べた 普通の 生理学 的条件を備えたひとが酸素補給なくエベレスト頂上から戻ってくるのは生命をかけた挑戦とい うべきであろう。 参考文献 Cymerman A, Reeves JT, Sutton JR, et al: Operation Everest II: Maximal oxygen uptake at extreme altitude. 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J Appl Physiol 54:12- 15., 1985 第三章 高所環境への適応 第十節 栄養と身体の組成 1. 体重減少(++)は食物摂取の減少だけからは説明不能である(Rose(OE2,1988,JAP)) ヒマラヤなどの高所登山を終えて帰ってきた登山者は人が変わったかと思 うほどやせ衰えている。必ずしも 8000m 以上でハードな登はんをしてきたクライマーばかりで はなく、BC に滞在していただけのキャンプ要員でも同様にやつれてみえる。この体重減少は 脂肪の減少によるものだけではなさそうである。Yamamoto,1995 によれば、チョーユー(8201m) 無酸素登山前後の体重の変化は 83.5-->71.7kg と 11.6kg(−14%)も減少していた。内訳をみ ると体脂肪量が 13.4-->9.1kg と 4.3kg(−32%)も減少したばかりではなく、除脂肪組織量も 69.9-->62.6kg と 7.3kg(-10%)と大きく減っている。VO2max が 4.68l/min-->3.50l/min へと 25%、 脚伸展パワーが 1159-->850w と 27%も激減しているのは、この筋肉量の減少によるところが大 きい。小野寺,1994 の報告も同様である。 なぜこのようにやせるのであろうか?高所では食欲がなくなり摂取量がそもそも少な い(4、18、29)こともあろう。脂肪の吸収が悪くなる(21、22、28)可能性もある。安静時でも軽度の 運動時でもエネルギー代謝が亢進している(16,21)。しかしただそれだけではなさそうである。 低酸素それ自体の作用を考える必要がある。 Rose,1988OE2-372 の成績を見てみよう。この 40 日間の低圧室滞在が実際の高所登 山と異なるもっとも大きなポイントの一つはその食事にあった。被験者は三度三度専用の栄養 士が用意した豊富なメニューの中から好きなだけの食事をとることを許されていた。間食も推 奨されており、水分摂取も好きなだけ可能であった。全く結構な身分というべきであるが、被験 者は被験者、毎日の摂取カロリー・その組成・摂取水分量・基礎代謝・エネルギー消費量・体 重などをチェックされるのである。体組成の変化は、入室前そして終了後 20 時間以内に CT ス キャンにより検査された。被験者はエベレスト登山に必要な行動をシミュレートすべく低酸素下 で“8848m”に 登山 したのではあるが、このような条件ではやせるはずなどないと思うでしょう。 ところが、 1。カロリー摂取量は 43%減った。2。必須なビタミン・電解質・蛋白は十分摂取され ていた。3。運動時に必要なエネルギー消費は高度が上がるにつれて増えていた。4。平均 54 7.7kg の体重減少があった。この減少はカロリ摂取低下だけでは説明されない。5。低酸素の せいか適当な運動不足のせいか食欲はみな減退した。6。脱水はほとんど認められなかった。 7。7.7kg の体重減少のうち 33%が脂肪、67%が体組織量からの減少だった。8。体脂肪はす べての被験者で減った。9。筋肉量の減少がもっとも大きかった。10。%BF は 9.6%減った。 この快適な条件ですらこの有り様である。高所の低酸素のもつ驚くべき力を見よ。低 酸素はそれ自体で筋肉を食べてしまう!私たちはこれよりさらに厳しい状態におかれるのであ る。下痢に悩まされるのは普通のことである。栄養士はいないし、いたとしたって、腕が振るえ る食材などヒマラヤでみたためしがないではないか。最高の条件でこうなのである。 高所では高炭水化物食が有利ではないかという議論が昔からある。急場のエネルギ ー産生にはグルコースが望ましいことは当然だが、それだけであろうか。長寿であるという高所 居住民は穀類を主として食べている。肺胞気酸素分圧 PAO2 は次の式で与えられた。 PAO2=PIO2-PaCO2/R PIO2 は吸入気酸素分圧、PaCO2 は動脈の炭酸ガス分圧、R は呼吸商(VCO2/VO2)であった。 PAO2 をあげるためには、(PIO2 は気圧で決まってしまうから)PaCO2 を小さくするか R を大き くしてやればよい。R は脂肪食では 0.7 であるが、脂肪を全く抜いて高炭水化物食(蛋白もよろ しい)にすると R は理論的には 1.0 となる。標高 5800m での PIO2 は約 70mHg として PAO2=70-30/0.7=28mmHg (PCO2=30mmHg, R=0.7 とする) PAO2=70-30/1.0=40mmHg (PCO2=30mmHg, R=1.0 とする) なんと 12mmHg もの差が出てしまう。Consolazio,1969 は高所での高炭水化物食群と普通食 群を比べている。高炭水化物食群で高山病の程度が低くてすみ持久力も勝っていたという。 ただ、 Rose,1988 の成績では隊員に格別の炭水化物嗜好は見られなかったというが。逆に脂 質摂取比率が増えたという。 脂質代謝に及ぼす影響はどうだろうか?Young1989)によれば、T-CHO,HDL-CHO は 登山 期間中を通じて一貫して低下していた。Glycerol は著減したが Plasma FFA ははっき りした変化を示さなかった。TG は逆に増加した。不思議に思える。ふつう適度な運動は T-CHO,TG の減少、HDL-CHO の上昇をもたらす(Thompson,1983)といわれているからである。 また激しい登山のあとには以上すべてのパラメーターが減少するとする報告が多い(山 本,1995)。しかしこの TG 上昇は空腹時の Insulin レベルを一貫して伴っていた。insulin の増 加が肝臓における TG 合成をもたらした可能性がある。 しかし OEll はとても特殊な環境にあったのだった。あらゆる好みの食べ物が供給さ れ、筋肉(蛋白)の喪失が脂質の減少より大きかったくらいである。厳しい環境では脂質関係 の指標はすべて減少するという多くの報告の方が正しいと思われる。登山で考えるべきは低 酸素の影響だけではないとする証拠の一つとなろう。 とまれ、どんなに快適なエベレスト登山であったとしても、今までみてきた程度の筋萎 縮を認め最大酸素摂取量を落としてしまうのである。とくに超高所では厳しい。ここに 馴化 するのは不可能といってよい。速攻が必要である。 55 参考文献 Boyer, SJ and Blume FD. 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