解剖・栄養生理学

解剖・栄養生理学
泌尿器系の解剖と生理
参考書:
山本ら 第21章
香川&野澤 pp286~295
Mader 第10章
この講義で身に付けること
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腎臓および泌尿器系の解剖について理解する
腎臓の生理学的役割を理解する
腎機能検査の種類や手法について学ぶ
腎疾患の影響についてよる理解する
人工透析のしくみについて学ぶ
排泄
•
•
排泄=老廃物や毒物を
体外に排出すること
代表的な老廃物
– CO2(肺から排泄)
– 水(腎臓から排泄)
•
•
尿=老廃物や毒物を含
む液体
泌尿器=尿を生成し排
泄する器官
– 腎臓、尿管、膀胱、尿道
http://www.kimono-i.com/wp-content/uploads/2009/06/p1040264.jpg
ヒトは毎日約2.6Lの水分を排出する
皮膚
呼吸器系
腎臓
消化器系
腎臓の役割
• 3つの主要な役割
1) 不要な代謝産物を体外に運ぶ
2) 血液内の水分と電解質バランスを正常範囲内
に維持する
3) 同時に酸と塩基バランス(pH)を維持する
腎臓の解剖
腎臓
腎杯
腎動脈
腎孟
腎静脈
髄質
尿管
皮質
http://www.healthline.com/blogs/health_observances/uploaded_images/kidney-713543.jpg
ネフロン
皮質
髄質
ボーマン嚢
糸球体
輸入細動脈
輸出細動脈
尿管
腎盤
近位細尿管
遠位細尿管
集合管
ヘンレループ
http://kvhs.nbed.nb.ca/gallant/biology/nephron_structure.jpg
腎小体の構造
レニンの合成・貯蔵・分泌
腎小体
糸球体
ボーマン嚢
輸出細動脈
傍糸球体細胞
緻密斑細胞
近位尿細管
原尿Cl-濃度を感知
濃度低下プロスタグランジンを分泌
輸入細動脈
傍糸球体装置
http://legacy.owensboro.kctcs.edu/gcaplan/anat2/notes/Image136.gif
腎臓における経路
腎門
腎孟
(腎盤)
腎杯
の集合体
尿管へ
腎杯に
包まれる
腎乳頭
腎錐体
の先端部
腎錐体
太い尿細管
集合管の集まり
腎小体
1)ボーマン嚢
2)糸球体
尿細管
+
1)近位
= ネフロン
2)ヘンレループ
3)遠位
腎小体では血圧でろ過が起きる
ボーマン嚢
細動脈
圧が高い
水分・糖質・イオン
尿素・尿酸がろ過
される
ろ過された液体
ろ液(原尿)
~150L/日
分子が大きいタンパク質
はろ過されない
尿細管では再吸収が起きる
尿細管
非タンパク質性窒素
尿素・尿酸・アンモニア
クリアチニンなど
薬物など
そのまま分泌(排泄)
原尿の約1%(1.5L)
体内
水分・糖質・イオン
の殆どが
再吸収される
物質の輸送速度に
担体の数が
間に合わない
尿に残る
(例:糖尿病)
通常の尿中のたんぱく質代謝物質
一般値
男性
非タンパク性窒素
尿素窒素
尿酸
アンモニア
クレアチン
クレアチニン
女性
10~20g/日
10~20g/日
8~17g/日
8~17g/日
0.25~0.75g/日 0.25~0.75g/日
0.4~1.0g/日
0.4~1.0g/日
0~40mg/日
0~100mg/日
1.0~2.0g/日
0.8~1.7g/日
膀胱のサイズは尿量による
膀胱の平滑筋=排尿筋
交感神経排尿筋の緊張を緩
める&内尿道括約筋を収縮
副交感神経逆の働き
尿管
膀胱
尿路=尿の排出経路
腎盤尿管膀胱尿道
(尿量や成分は変化なし)
尿路は3層構造:
1)移行上皮
2)平滑筋
3)結合組織
蠕動運動
尿路上皮
膀胱三角
尿道
尿道括約筋
http://www.urologyhealth.org/common/images/anatomy_UretersBladder_coronal.jpg
排尿のメカニズム
• 膀胱に一定量の尿が溜まる
膀胱壁の伸展が骨盤神経の求心性神経を刺激
交感神経の活動により排尿筋の弛緩&内尿道
括約筋の収縮
• 膀胱壁がさらに伸展すると副交感神経による反
射が起きて膀胱の収縮が起きる(排尿)
• 排尿中枢は脊髄の下部および脳にある
– 損傷は尿閉や尿失禁が起きる
尿濃縮に影響を与える因子
薬
水の
摂取量
代謝
人種
加齢
食事
尿量
性別
溶質の
排泄量
電解質の調節
•
腎臓では体内の水と電解質のバランスを調節
する役割を担う
• Na+、K+、HCO3-、Mg2+が腎臓で調節される重
要な電解質
• Na+の再吸収の制御はホルモンによって行わ
れる
レニンーアンギオテンシノゲンーアルドステロン
システム
レニンーアンギオテンシノゲンーアルドステロン
システム
http://protecs.web.infoseek.co.jp/images/Fluid9.gif
レニンーアンギオテンシノゲンーアルドステロン
システム
• Na+の量が少なくなると血圧が低下
傍糸球体装置のJG細胞からレニン(酵素)が輸入
細動脈中に分泌
アンギオテンシノゲン(肝臓で作られる血漿タンパ
ク質)をアンギオテンシンI(ANGI)に変換
ANGIがアンギオテンシン変換酵素(ACE)の働き
でアンギオテンシンII(ANGII)に変換される(:主
に肺の毛細血管で)
ANGIIは血管を収縮し、副腎皮質からアルドステ
ロン分泌を促進
 Na+の再吸収↑水の再吸収↑血圧↑
尿量の調節
ADHとANP
体内の水分が増加
血液中の浸透圧↓
心房筋が伸展
心房細胞
心房性ナトリウム
利尿ホルモン
(ANP)分泌↑
視床下部
浸透圧受容
ニューロン
下垂体後葉
抗利尿ホルモン
(ADHバソプレシン)
分泌抑制
水の再吸収抑制
→尿量増加(希釈尿)
レニン&アルドステロン分泌抑制
→Na+の排泄を促進
→水分の排泄↑
→尿量増加
pHの維持
•
肺と腎臓がpHを維持する機能を持つ
H+ + HCO3•
•
•
•
H2CO3
H2O + CO2
基本ルール:HCO3-を再吸収してH+を排泄
血液が酸性の状況ではH+を排泄
血液が塩基性の状況ではHCO3-(炭酸水素イ
オン)の再吸収&H+の排泄が起きない
アンモニアやリン酸はH+を緩衝する働きを持つ
様々な腎機能検査が存在する
•
•
•
•
•
•
•
RBF (Renal Blood Flow):腎血流量
– (650~1100mL/分) http://www.naoru.com/kensa2c.htmlより
RPF (Renal Plasma Flow):腎血漿流量
– 400~650mL/分
GFR (Glomerular Filtration Rate): 糸球体ろ過速
– 70~130mL/分
FF (Filtration Fractionation): ろ過率
– FF = GFR/RPF, 0.2~0.22
クリアランス
濃縮・希釈試験
血中尿素: 9~20mg/dL
クリアランス
•
•
腎機能検査の一つ
手順:
– 1分間の尿量(V)を計測する(1時間の尿量
/60)
– 特定の物質の濃度(U)を計測する
– V x Uで物質の1分間の尿中排出量が算出で
きる
– 血漿中の物質濃度(P)で割ることでクリアラン
スを算出できる
クリアランス値(mL/分) = (U x V)/P
• 計測する物質によって意味合いが変わる
イヌリンクリアランス
•
•
GFRのゴールドスタンダード
糸球体ろ過液中のイヌリン濃度は血漿中の濃
度と等しいため
GFR(mL/分) = (U x V)/Pとなる
• 実測ではなくクリアチニンクリアランスからGFR
値を推定することも可能
– eGFR (mL/min/1.73m2) = 0.741 x 175 x
Age-0.203 x Cr-1.154
– 女性では上記の後に0.742をかける
(i.e. x 0.742)
クリアチニンクリアランス
からの腎機能分類
腎機能正常
腎機能軽度低下
腎機能中等度低下
腎機能高度低下
腎不全期
尿毒症期
•
Ccr 91ml/min以上
Ccr 71~90ml/min以上
Ccr 51~70ml/min以上
Ccr 31~50ml/min以上
Ccr 11~30ml/min以上
Ccr 10ml/min以上-透析前
慢性腎不全にいたる経過はSeldinらの考え方を基本
に4期に分類される
– 腎予備機能低下、腎機能障害期、腎不全期、尿毒
症期
• 臨床では軽度の腎機能低下をさらに細かく分類して
いる
検査項目
と
関連部位
http://www.medic-grp.co.jp/kensa/medical/pdf/07a.pdf
腎機能と輸液
•
•
•
•
輸液:体が必要な水分と電解質を補う
体内に水を蓄えるためには浸透圧などを考慮
する必要があるためナトリウムなどの電解質の
必要量を把握する必要がある
輸液量は腎機能(尿濃縮力や尿希釈力)を考慮
する必要がある
対象の健康状態や年齢によって腎機能が違う
– 高齢者や子供ではGFR(糸球体ろ過量)が低い
腎機能正常者における輸液の安全域
y (L/日)
10
GFR = 100L/日
尿最大希釈能 50mOsm/kg ・H2O
尿最大濃縮能 1,000mOsm/kg ・H2O
520
C y = 50 - x
D y=
輸
液
量
900
1,000 - x
輸液の安全域
5
B xy = 1,360
0
A xy = 17
x
500
1,000
輸液浸透圧濃度 (mOsm/kg ・H2O)
高齢者における輸液の安全域
y (L/日)
GFR = 50L/日
尿最大希釈能 200mOsm/kg ・H2O
尿最大濃縮能 700mOsm/kg ・H2O
10
輸
液
量
580
C′y = 200 - x
5
780
D′y =
700 - x
B′xy = 680
0
A′xy = 17
500
1,000
x
輸液浸透圧濃度 (mOsm/kg ・H2O)
腎疾患
•
遺伝的な疾患&他の疾患による間接的な疾患
– 糖尿病、尿路感染症、高尿酸血症
•
高尿酸血症:尿酸の血中濃度が7mg/dL以上
(プリン体の過剰生産もしくは排泄低下)
– 合併症として痛風や尿酸結石、腎障害、高血圧や
動脈硬化があげられる
腎不全
•
•
•
種類
特徴
急性腎不全
ネフロンのGFR低下
慢性腎不全
機能ネフロン数の減少
単一ネフロンのGFRは正常以上
腎機能(濃縮力や希釈力)の低下(腎炎は炎症が起きて
いる状況:必ず腎不全になるとは限らない)
ろ過量の増加→尿細管流速の増加→ろ過液量が尿細
管壁と接触する時間の短縮→Na再吸収の抑制→尿希
釈障害・間質浸透圧勾配の低下→尿濃縮障害
中枢神経障害、心血管障害、高K血症、高血圧、尿毒
症などを引き起こす
GFRによる腎不全の判定基準
病期
ステージ
重症度の説明
進行度による分類
GFR(mL/分)
ハイリスク群
90≦
腎障害が存在するが
1
90≦
GFR正常~亢進
2
腎障害が存在 GFR軽度低下
60~89
3
GFR中等度低下
30~59
4
GFR高度低下
15~29
5
腎不全
<15
※ ハイリスク群とは、糖尿病、高血圧、脂質異常症、高尿酸血症、
尿路結石、膠原病、肥満、家族にCKD、60歳以上、感染症、消
炎鎮痛剤を常用、喫煙
日本腎臓学会編 CKD診療ガイド http://www.crc-group.co.jp/crc/q_and_a/84.html
高尿酸血症
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•
•
•
•
•
•
定義:性・年齢を問わず血漿中の尿酸溶解濃度
が7mg/dLを超える状態
男性に多く見られる
痛風(尿酸塩結晶沈着症)の基礎疾患
心臓・脳血管疾患の発症、肥満や耐糖能異常
との関係が示唆・報告されている
尿路結石や腎障害
長期腎髄質で間質性腎炎痛風腎尿毒
症
現在では尿毒症の発症例は低下
高尿酸血症の診断
•
•
1)尿酸産生過剰型、2)尿酸排泄低下型と3)混
合型に分類
診断:高プリン食制限下絶食飲水負荷時の
– 尿酸尿中排泄量(EUA)
– 尿酸クリアランス(CUA)
– クリアチニンクリアランス(腎機能の補正)
日本通風・核酸代謝学会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン
http://www.tufu.or.jp/pdf/guideline_digest.pdf
高尿酸血症の治療方針
日本通風・核酸代謝学会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン
http://www.tufu.or.jp/pdf/guideline_digest.pdf
人工透析
•
•
•
腎障害などで腎機能が損なわれると老廃物や
代謝産物を排出することができなくなる
人工透析=人工的に腎臓の役割を補う
人工透析の役割
–
–
–
–
•
血液中の老廃物の排出
余分な水分を取り除く
電解質の濃度調節
血液のpH調節
透析液-血液間の物質交換は拡散の原理
人工腎臓と人工透析
http://www.jsao.org/public/file/16.jpg
http://members.jcom.home.ne.jp/rex-uchida/image1/2_1_1.gif
腎臓病患者に対しての食事管理
•
•
•
食事制限が必要
高カリウムを防ぐため食事から除去する
塩分の取りすぎを控える
– 高血圧の場合は5g未満が望ましい
•
•
カルシウムや水溶性ビタミンは十分摂取する
高尿酸血症による痛風では内臓、飲酒を控え
る(運動療法と併用)