都市のイメージ /ケヴィン・リンチ

『都市のイメージ』
序
ケヴィン・リンチ
文
都市の外観・その重要性・変化させることが出来るかなどについて述べている
都市の風景の役割のひとつ…人々に見られ、記憶され、楽しまれること
都市に視覚的な形態を与えることは特殊なデザイン上の問題
→『都市的なスケールを持つ視覚的形態と取り組むひとつの方法を示し、都市のデザインについての第
1原則をいくつか提案する』ために、
ボストン、ジャージー・シティ・ロサンゼルス
を検討
Ⅰ.環境のイメージ
都市…スケールが非常に大きい
長時間かけてようやく感じ取れるもの→デザインは時間が生み出す芸術
調整され限定されたシークエンスはほとんど用いられない
あらゆる光とあらゆる天候のもとで眺められるもの
出来事・眺め…単独ではない。その四周の情況、その時までに次々に起こった出来事、過去の思い出との関
係において体験される
市民が、自分の住む都市に抱くイメージは記憶と意味づけに満たされている。
都市における重要度:動く要素(人間とその活動)=静的な物理的要素
都市における感じ方は部分的・断片的でその他いろいろの関心事と混ざる
→すべての感覚が活動
それらすべてが合成されイメージへ
都市・様々な数百万の人間が感じとり楽しむ対象
・ たくさんの制作者達の作品
…自分なりの理由で構造に絶えず手を加える→細部は常に変化
感覚の喜びのために都市を形作る芸術と建築・音楽・文学は異なる
村より大きな規模を持つアメリカ都市に住むアメリカ人
…環境というものがどんな意味を持つことができるのか、ほとんど理解していない
■分かりやすさ
Legibility
わかりやすい都市…地域、目印、道路などが見分けるのが容易で全体的なパターンへとまとめやすいもの
わかりやすさ…都市のスケールを持つ環境について考える場合、空間・時間・複雑さの点で特に重要
→都市自体と都市に住む人々によって感じ取れるものとして考える必要がある
環境を組み立てたり見分けたりする能力…すべての移動性の動物にとって必要不可欠
手がかり(視覚的な感覚・におい・音・接触・筋肉運動の感覚・重
力感・電場や磁場の感覚など)が用いられる
能力…道をみつける神秘的な
本能
などは存在しないらしい
周囲の環境から得られるいくつかの明確な感覚的手がかりが徹底的に取り入れられ、組み立てられ
ている
→organization…自由に動き回る生活の能率・生活の存在そのものにとって必要不可欠
道に迷う→不安感・恐怖感(均衡感・安心感と密接に関係)
道を見つける手がかり:環境のイメージ=個々の人間が物理的外界に対して抱いている総合
的な心像
イメージ:現在の近くと過去の経験の両者から生まれる
情報を解釈して行動を導くために用いられる
個々の人間にとって広く実際的な面でも情緒の点でも重要
秩序ある環境→大きな座標系又は行動・信念・知識などを組織するものとして役立つ
個々の人間に選択の可能性とより広く情報を獲得するための出発点を与える
各個人にとっての有益な基礎となる
素材を集団のコミュニケーションのシンボル又は共通の思い出にする
鮮明なイメージ→人間の行動をなめらかにし、すみやかにする
所有者に情緒の安定という大切な感覚をもたらす
秩序ある環境によって、鮮明なイメージ=すぐれた環境のイメージができる??
特色がある&わかりやすい環境→安定感をもたらす・人間の体験が達し得る深さと密度を高める
ジャージ・シティ:わかりにくい環境→積極的な価値を持っていない
積極的な価値:情緒の満足感をもたらす・医師の伝達や概念の構成のための骨組となる・日常の
体験の新しい奥行きを与える
環境の中の神秘や迷路や意外さなどにもかなりの価値がある
<条件>①そこから抜け出せなくなる危険性がない事
②迷路や神秘は、さらにつきつめて調べればやがて理解できるような形態をそなえている事
我々の求めるものは究極的な秩序ではなく、ますます発展し続ける可能性を持つ未完結な秩序→外界を知
覚するとき、観察者自身が積極的な役割を演じ、イメージを発展させるのに創造的役目を受けもつ
■イメージづくり Building the Image
環境のイメージ…観察者と環境との間に行われる相互作用の産物
→出来たイメージ:目に見えるものを限定に強調
新たに知覚されたものに照らし合わされる→絶え間ない相互作用
イメージの凝集の方法
① 長い間慣れ親しまれ、心像が実態と組み立てをもつ
② 新しい対象で、すでにつくり上げているステレオタイプに一致
③ 新しい対象で、著しい物理的特徴を備えていてそれの持つパターンを暗示・押し付け
イメージはより一層均質なグループでは本質的に一致する
↓
都市計画家たちの関心
=パブリックイメージ:ある特定な物理的事実と共通の文化と基本的な生理学的特質という3要素が相互作
用をおこなう時に、そこからあらわれてくると予想される一致領域
都市のイメージのエレメント(要素)を分類するための形態のタイプ
「道路 path、目印 landmark、縁 edge、接合点・集中点 node、地域 district」
■ストラクチャーとアイデンティティ
Structure and Identity
環境のイメージの成分…①アイデンティティ
(それがその対象物を他のものから見分けていること、独立した実体として見
分けていること)
②ストラクチャー
(対象と観察者・他の物体との間の関係、パターンの関係、構造)
③ミーニング
(対象は観察者にとって何らかの意味をもつこと)
①②③は常に同時に現れるもの
都市における意味
→複雑、意味のグループ・イメージは実体と関係の知覚ほどには一貫していない
→個人的の場合、その形態がわかりやすい場合でさえ非常にばらばら
→都市のイメージのアイデンティティとストラクチャーに集中して考える
イメージが生活空間において位置づけされる価値をもつ為に必要とされる特質
① 与えられた環境の中で意のままに行動できるという実用的な意味において、十分真実であること
② 頭脳労働の節約のために十分明晰でまとまりが良いものであること
③ 安全であること
④ 未完結で、変化に順応できるものであること
⑤ ある程度他の人々に与えられるものであること
良い
イメージのためのこれらの基準の相対的な重要性は、人・場合により異なる
■イメージアビリティ
Imageability
イメージアビリティ=わかりやすさ legibility・見えやすさ visibility
(鮮明に強烈に諸視覚に訴えるという意味で)
…心に描かれるイメージのアイデンティティとストラクチャーの性質に関わる物理的特質
色・形・配置
→その物体があらゆる観察者に強烈なイメージを呼び起こさせる可能性が高くなる
非常にイメージアブルな都市→よく形作られ、明瞭で人目につく
→周囲に対して感覚的な把握が単純化される・拡大され深みを増す
→時がたつにつれ、明瞭な相互関係をもつ多くの独得な部分からなる非常に連
続的なパターンとしてとらえられる
→知覚力が鋭く住み慣れた観察者は新たな感覚的な刺激を吸収することが出来
る
→新たな刺激によりそれまでのものの多くについてより理解する
ex)ヴェニス市、マンハッタン、サンフランシスコ、エストン、シカゴの湖畔
研究の目的…知覚の世界におけるアイデンティティとストラクチャーの必要性を考慮し、イメージアビリテ
ィが複雑で常に変化しつつある都市環境に対して特殊な関連をもつことを説明すること
イメージの展開は観察者と観察されるものの間の相互作用
→イメージを強める方法
①記号による仕掛けを用いる
仕掛け:良相互連絡についての濃縮な資料を提供するのに有力
危なくした時に方角を見失う
仕掛けそのものを絶えず正確か確かめ現実に即したものにする
→全面的にたよる時は不安感と努力が必要
全面的に頼ると相互連絡を完全に体験するため鮮やかなイメージを深く発展させ
ることが出来ない
②観察者を再訓練する
既成のイメージには調和しない新しい刺激が観察者に強いる学習の過程
:新しい刺激を概念的に説明するような仮説的な形態から始まると同時にまだ古い形態の
幻影が持続する
By Kilpatrick
われわれの都市の果てしないぶざまな広がりの中からも隠れた形態をみつけ出すことを学ぶ
必要がある
直接的感覚→間接的感覚→象徴的コミュニケーション の長い生物的文化的な進歩をさらに
進めなければならない
われわれの命題…内的学習の過程・外的な物理的形態の操作によって環境のイメージを発展
させることができる点
③環境を改造する
現在短時間に全く新しい風景を創ることは技術的には可能
→設計家たちは、観察者がその各部分を見分け全体を組み立てることが容易であるような
風景を形作る問題に取り組んでいる
急速につくり出しつつある大都市地域という機能的な単位
単位…それ相応のイメージを持つべき
機能的な単位としての大都市地域は視覚にうったえるようにつくられた全体的環境である
By Suzanne Langer
Ⅱ.3つの都市
目的:環境のイメージが都市生活においてどんな役割を果たしているのかを理解する。
手段:イメージを視覚的現実と対比させて、どんな形態が強いイメージを生むのか知る。それによって都市
のデザインのためのいくつかの原則を提案する。
分析:①観察者が歩きながら現地におけるエレメントのありのままの外観のみにもとづいた主観的な評価を
する。(視覚的現実)
②面接でもって物理的環境に対する彼ら自身のイメージを知る。(グループイメージ)
考察:物理的形態そのものの役割によるグループイメージが存在する。
→非視覚的な筋からくる階層や歴史の連想が類似をさらに強めていた。
イメージを作るうえで環境の形態そのものが重大
→イメージと物理的形態との関係性
3つの都市の間にイメージアビリティについての明白な相互がみられた。
また、ある種の特徴(空地、植物、道路における運動感、視覚的なコントラスト)が、都市の眺めにとっ
て特殊な重要性をもつ。
■ボストン Boston
形態が鮮やかでありながら、同時に位置づけが難しくユニークな存在。
都市の特徴:大都市地域の商業中心、スラムから高級住宅地まで高密度な住宅地域。
ボストン中心部の形状はすごく曖昧。
視覚的現実:
グループイメージ:特色のある地域と曲がりくねった分かりにくい道路
古く歴史的な建物が多いが、古い中にも新しいものがある。
広場やレクリエーション用のスペースが足りない。
独特な
小さなまたは中程度の大きさの都市である。
水や空間を感じさせる遠景、夜の明かりがともる夜景を好む。
ほとんどの人が理解できる河までの骨格的なストラクチャーがある。
ボストンが半島であることを理論的には知っていたが、河と港を視覚的に関連づけれない。
⇒チャールズ河の縁から遠ざかるにつれて正確さや内容が失われてしまう
概念的に消滅してしまった、地図上には存在しない地域がある
主題は鮮明であっても形態が不明瞭で配列がわかりにくい。
道路は市を貫通しているが市とは関係ない
外部
のものであるかのようだ。
接合点・交点がシークエンスの中心として非常に重要。
■ジャージー・シティ Jersey City
外見は形が明瞭でなく、一見イメージアビリティが極端に低いような存在。
都市の特徴:鉄道と高架道路が縦横に交差し人間が住むための場所というよりはむしろ通過するための場所。
空間の無定形や構造の不均質などの上に、調整されていない道路システムによる完全な混乱が
ある。
視覚的現実:地域の大部分に強いエッジ(縁)がありばらばらにされている。
イメージのストラクチャーにおいて最も重要なのはジャーナルスクエア。
道路が基本的なパターンである。
際立ったエレメントにおいての意見の一致が少ない。
ニューヨーク・シティのスカイラインが人を畏敬させる眺めである。
⇒この地域が独特の性格にかける。
中心的な地点がかけている。
高速や高架道路、絶壁のつらなり、2つの河岸など強い縁や境界線が特徴。
グループイメージ:強いイメージが図分の家の周りの狭い部分に集中している。
また、高地の部分が強く低地が弱くなっている。
一つにまとまっていない、中心になるものがない、たくさんの部落の寄せ集めのような
ものだ。
この都市を象徴するのは、川向こうのニューヨークシティの眺めだ。
かれらの環境にたいする知識はあまりなく、かれらが抱くイメージは視覚によるもので
はなく概念的なものである。
Ex)通りの名前、用途の種類、用途の変化の度合い、手入れ状態など道を区別するものは道
路標識のみ。
⇒包括的な(全体をおおっている)概念を持ち合わせているものはいない。
環境のイメージアビリティの低さはそこに長く住む人々のイメージに反映する。
不満や不十分なオリエンテーション、その各部分を説明したり区別できない。
混乱状態にある環境の中にもある種のパターンがある。人々は物理的外観ばかりでなくほかの面にも
注意を払いながらこのパターンをつかんでいる。
■ロサンゼルス Los Angeles
まったく異なる尺度を持つ新しい都市で、その中心部の平面は格子状。
都市の特徴:多くの意味と活動が密接にからみ、大きな、特色ある建物に満ちている。
格子状の道路網という基本パターンを持つ。
だが、都市地域の分散化、格子状のパターン自体に変化がすくないこと、エレメントそのもの
の視覚的な特徴が欠けていることなどから、イメージが鋭さにおいて劣っている。
大きな地形のまわりに建物がへばりつくことによって、これが視覚から葬られてしまっている。
活動的で生態学的にも整然と組み立てられた大都市の中心部。
ごく小さな規模において、特徴のある植物がる。
中間的な大きさの地域のイメージアビリティが大体において弱い。
視覚的現実:中心部はいわば真空に包まれている。
パーシングスクエアは最もあざやかなエレメントだが目立つ存在とは言えず、横切ることもで
きないといった悪状況ゆえ非常にくっきりしたイメージがもたれている。
→正確な位置は曖昧
→広場の中心からは外れている。
種々の道路を混合してしまう。
方向を見分ける重要な手がかりは通りの終わりの風景や用途、歩行者の密度の違いにある。
グループイメージ:どこまでも限りなく続く広いところ
視覚的な材料そのものが粗末。
自動車交通と道路システムが支配的。
日々、心身を緊張させ消耗させ、瞬間的に方向を見失う。
古いものに感情的に執着し激変から免れたものすべてに対して愛着を持つ
概念的かつ無性格な格子はあるが、強いシンボルはなにもない。
中心部のイメージに安心感やこころよい意味が欠けている。
■共通のテーマ
人々は自分の環境に順応しており、わずかな手がかりをもとにストラクチャーとアイデンティティを引き
出している。
環境の image に影響を与える強い形態
眺めの広がり
広い眺めはときには混乱を暴露し性格の欠除からくる寂しさを表現する。
うまく処理されたパノラマは都市の美しさの要素となり、感情的な喜びを生む。
印象的な眺め
自然のままの、まとまりのない空間
形態をもつ空間における対照的な眺め
→機能的な重要性にふさわしい空間的な性質が備えられることによって中心的な存在
となりうる。
都市の中の自然の要素
自然を注意深く、喜びをもってみている。
道路
視覚的に支配的であること、道路網が人々が環境を経験するさいの出発点である。
社会経済的な階級
都市の風景に見られるコントラスト
その重要性は全体のなかでどんな位置を占めるかにより左右される。
環境の流動性と過去のなごりをとどめう物理的エレメントの不在
→物理的な景観が時間の経過を象徴している
様々な変化は時に人々の精神的なイメージにもその傷跡を残している。
Ⅲ.都市のイメージとエレメント
パブリックイメージはどんな都市にも存在し、また各個人がその環境の中で要領よく行動し仲間との協力
を進めていくためには必要なものである。
パブリックイメージに影響するイメージアビリティには社会的な意味や、機能、歴史などがあるが、こ
こでは形態そのものの役割を明らかにすることにあるので、物理的な知覚できる物体がもたらす効果のみ
を対象にする。
その物理的な形態は以下の 5 つに分類でき、またこれらは色々な環境に登場する点からも、一般的に対
応できそうである。
1、パス paths
2、エッジ edges
3、ディストリクト districts
4、ノード nodes
5、ランドマーク landmarks
①
パス
…
観察者が通る可能性のある道筋のことで、多くの人びとにとって支配的。
・ 都市のイメージにおいては、このパスのアイデンティティの明確さが重要な要素となる。
そのアイデンティティを強める要素としては…
・習慣的にそのパスを通行すること
・交通の流れをまとめ、構造をわかりやすくする意味での障害物
・パス沿いに特殊な用途や活動が集中していること
・空間的な特質(極端に道幅が広かったり、狭かったり)
・パス沿いにある建物のファサードの特徴
・パスがその都市にある特殊な地形に近いこと
・パス自体が視覚的にむき出しになっている、もしくはそのパスから都市の他の部分が
むき出しになって見えること
があげられる。
逆に主要なパスがアイデンティティを欠くとき、もしくは他のパスと混同されがちなときは都
市のイメージはあやふやになる。
・
またアイデンティティの明確さ以外にもパスが連続性をもつということも機能上重要である。
パスの連続性の基本的な必要条件は床面が続いていることであり、それをさらに強める要素
としては、並木、ファサード、建物タイプ、等々がある。しかし道幅が変化したり、空間的
連続性が中断されると人びとはパスの連続性を認識しづらい傾向もある。
・
さらにパスはアイデンティティと連続性を持つと同時に方向性を持つこともできる。
方向性とはパスに沿った一つの方向がその逆の方向と区別できるということであり、それを
特性づける要素として、
・地形的変化度
・用途の集中の変化度
・建物の新しい古いの違いや手入れの違い
・長いゆっくりとしたカーブ(運動の方向に沿った一様な変化を示すため)
・始点と終点が明瞭であること
・パスのどちら側にあるかが良く知られているエレメントがあること
があげられる。
・
また、人がまっすぐだと勘違いするような微妙なカーブや、パスと周囲のエレメントが著しく
切り離されていることはパスの方向性とそれより大きなシステムとの関連性を妨げわかりにく
くなる。
・
非常にたくさんのパスでもそれら一つ一つの間に規則的かつ予測可能な関係があればパス全体
が
一つのネットワークとして受け入れられる。
②
エッジ
…
パスでない線状のエレメントで 2 つの局面のある境界。
・チャールズ河のように連続性と可視性が保たれれば強いエッジになり得るが、セントラルアーテ
リーのように理論的には連続でも実際には不連続な場合は断片的なエッジとなり弱くなる。
・しかし必ずしも通り抜けできてはいけないエッジが強いものではなく、多くのエッジは切り離す
ものというよりも、結びつける縫い目となっている。
・また、エッジには同時にパスであるものが多く観察者が自由に通行できる場合は境界としての性
格の強いパスと認識される。
※ジャージーシティとボストンの高架鉄道は通りにアイデンティティをあたえつつも障害とはなってい
ないという点で将来の都市におけるオリエンテーションのためのエッジのエレメントとして非常な効
果を上げるのでは…
③
ディストリクト
… 観察者が心の中でその内側に入ることができしかもその内部に何らかの同じ
特徴が見られる都市の部分
・ディストリクトを決定付ける物理的な特徴は、テーマが共通していることであり、普通それら
の典型的特徴は特色群として、つまりテーマの単位としてイメージされている。
・さらにディストリクトの、強いイメージを作り出すには手がかりを補強する必要がありその一
つに社会的な意味を与えることがある。(例えば地域に対する階級的意味づけや、名称によっ
て昔からの連想を誘い地域にアイデンティティを与えるなど)
・しかし、主要な必要条件が満たされ都市の他の部分と対照を成すテーマの単位が確立されてし
まうと内部の同一性は重要ではなくなる。
・ディストリクトの中には周囲と関係なく単独で存在するものもあるがボストンの中心部のよう
に互いに連結しあうものもあり、それらの各ディストリクトのコントラストと近接さがそれぞ
れのテ−マを強めあうこともある。
■ノード
Nodes
・ノードとは観測者がその中に入ることの出来る焦点のことであり、その代表的なものは、パスの接合、
または何らかの特徴の集中によってできたもの。
どのようなものがノードとなり得るのか??
→何らかの面でユニークで特徴的であり、同時にその周囲の特徴も強めるものであること。
ノードの性質を強めるには
物理的な明確さ(形態など)
個性(視覚的だけではない)
接合によるノードの例としては、主に交通の変調点などが挙げられる。
交差点
鉄道の駅
など
特徴の集中によるノードの例は、独特な空間や活動によって作り上げられる。
広場
公園
など
また、接合点と集中点の両方の性質を併せもつ場合もある。
■ランドマーク
Landmarks
・ランドマークとは点を示すもので、観測者からは、離れて存在し、いろいろな大きさの単純な物理
的要素から成り立っているもの。
どのようなものがランドマークとなり得るのか??
→特異性、つまり周囲のものの中でひときわ目立ち覚えられやすい何らかの特徴をもったもの。
(ランドマークを使用するということは、必然的に限りない多くの可能性の中から、ひとつの
エレメントを取り出すということであるから、この場合一番重要な特色は特異性である。)
ランドマークの性質を強めるには
配置、古さ、規模などの対比(古い都市の中の新しいものなど)
歴史的な連想が可能なもの
音
におい
さらにこれらは単体で存在するよりは、群の中に存在しているほうが、関係性
が生まれ、互いに強化し合う。
ランドマークの例としては、主に建物が挙げられる。
建物といっても規模や高さは様々で、遠方から見えるものもあれば、限られ
た場所でしか見えないものもある。
■エレメントの相互関係
Element Interrelations
パス Paths、エッジ Edges、ディストリクト Districts、ノード Nodes、ランドマーク
Landmarks
これらは互いに強化しあい、共鳴しあって、それぞれのエレメントの力を増すこともあるし、衝突
し、破壊しあうこともある。
強化の例として
パスは多くの人がイメージの組み立てる上で支配的な地位にある。
このパスの交差点や、終着点は自動的に接合のノードとなる。そしてそのノードの形態が、道中の瞬
間を強調する。次にそのノードはランドマークによって強化される。
パスは、それ自身の形態やその接合点によってばかりでなく、それが通り抜けるディストリクトやそ
れが接するエッジ、そしてその全長に散らばっているランドマークに
よってもアイデンティティとテンポを与えられる。
破壊の例として
エッジかパスかはっきりしないような大きな通りは、あるディストリクトを貫通することにより、そ
のディストリクトを分裂させてしまうこともある。
大抵の観測者は都市をイメージするとき、都市を各エレメントが相互に依存し合っていてその相互関係
が相対的に固定しているようなひとつのまとまりとして感じている。
→つまりイメージとは連続的な場であり、ひとつのエレメントが乱れれば、他のすべてのエレメント
に影響が及ぶと言うこと。
ある対象の認識は、その対象の形態ばかりでなく、前後関係によるところが大きい。
■変化するイメージ
The Shifting Images
観測者は、必要に応じて、街路のレベルでのイメージから、住宅地区の、都市の、あるいは都市地域レ
ベルでのイメージに頭を切り替える。
またイメージは関係する地域の大きさばかりでなく、視点、時間、季節によっても変化する。
(つまり観測者はイメージをこれらの絶え間ない変化に直面するたびに、適合させていかなければなら
ない。)
そしてこの変化するイメージに対して重要なこととは・・
これらの変化において連続性を維持させることである。
組み立ての各レベルの間にそれらを結びつけるものが必要であるのと同様に
かなりの変化をものともせず持続するような連続性も必要なのである。
被験者が都市の略図を書くと
これらは決して、精密な縮図ではない。
時には、方向はねじ曲げられ、距離は引き伸ばされたり、圧縮されたり、さらに何かのエレメント
が追加されたり、融合されたりすることさえある。
しかしシークエンスは正確で、部分部分の関連づけや組み立ては正確であった。
→つまり各レベルにおいて連続性が存在するということ。この連続性が重要である。
■イメージの特質
Images Quality
あるひとつのエレメントに対するイメージは、観測者によって差がある。
そして同様に、全体のイメージはその部分がいかに配列され、関係づけられていると
いうストラクチャーの質についても差があり、区別される。
筆者はそのストラクチャーの質を4段階に分けている。
第1段階
各種エレメントがばらばらで部分相互間に、何の構造も関係もない。
第2段階
各部分は離れ離れのままであるが、相互間の大体の方向と相対的な距離などの点で
関係を持っている。
第3段階
各部分は連結されてはいたが、その結びつきがゆるく、心理的な地図でゆがんでいる。
第4段階
結びつきが増す。各部分はあらゆる次元でしっかり互いに接続されゆがみも固定させる。
第4段階までくると、どんな方向、どんな距離においても相互作用が可能なような、全体的な場の性格を
持つようになる。
このような密度が濃く、鮮明なイメージは、最良であるが、ごくまれにしかあり得ない。
最も多いのは第3段階であり、そのイメージを特定の文化のタイプに適合させたり、そこに住む人々の色々
な要求を満たすように色々形づくり、われわれ独自の環境を組み立てることを絶えず試みることが必要で
ある。
Ⅳ.都市の形態
・この研究(都市のイメージ)の向かうところ・・?
「都市は、技術によって人間の目的のために作られるという最もよい意味における人工の世界でなければな
らない。環境に適応し、感覚的に触れるものを何でも識別し、それらを組み立てるのは、われわれの古代か
らの習慣である。われわれが生き残り優勢を保っているのはこの感覚的な適応性のおかげであるが、いまや
われわれは、この相互作用の新たな局面へ進んでもよいのだ。環境そのものを人間の知覚のパターンと抽象
的な過程に適応させることを、まずわれわれのホームグラウンドで開始してみよう。」
p119
↓
イメージアビリティの高い環境は、市民からの意味の連想を可能にし、そうなってこそ初めて環境は真の場
所になる。という調査にもとづく仮説や、イメージアブルな場所(都市以外も含んだ)の分析から
リンチは人工の可能性を問いたかったのではないだろうか
・ パスをデザインする
パス path の集合、つまり都市という複合体の中で、いつも通る、またはいつかはそこを通るかもしれぬ動線
のネットワークは、全体を秩序立たせるためのもっとも有効な手段である。
1 連続性→視覚的な体系、つまり主要な道筋を感覚的に選び出し、それらを連続して近くさせるエレメント
として統一することは、都市の骨格となるものである。
2方向性→観察者にはパスは何かに向かって進むものとして知覚される。パスに強烈な目的地やなにかの変
化度、または向きによって異なる特徴を与えなければならない。
3構造→どんな位置にいるかを何らかの方法で測定できる場合、距離を感じ取らせることもできる。
また、道中は、それ自身が意味を持ち、一つの経験となるような資格をもっているのである。
4集合→交差点そのものが鮮明なイメージを生み、交差するパスの相互関係もはっきり表現されているなら
ば、観察者は申し分ない構造を築き上げることができる。また、3本以上からなるパスの接合点に
明瞭イメージを育てるためには、そこには位相幾何学的単純さが必要である。
パスまたは一組のパスを組み立てるための最終的な方法は、パスに沿う出来事や特徴、ランドマーク、空間
の変化、ダイナミック感じを、メロディーのある流れとして組み立てるものである
cf:位相幾何学とは:長さ・大きさなどの量的関係を無視し、図形相互の位置、つながり方などを、連続的
に変形させて、その図形の不変な性質を見つけたり、またそのような変形のもとでどれほど異なる図形
があるかを研究する幾何学。すなわち、図形の位相的性質を研究する幾何学。スイスの数学者オイラー
の一筆書きの研究などから始まる。トポロジー
・ 他のエレメントのデザイン
エッジ :エッジもパスと同じく、その全長に渡って、その形態にある種の連続性があることを必要とする。
また、エッジの両端に明確な終点があって、それをしめくくるとともにその位置を明らかにする錨
となっていることが大切である。
ランドマーク:ランドマークにとって絶対必要な特徴は、その特異性、つまりその周辺あるいは背景との対
照である。そして、ランドマークは必ずしも、大きな物体である必要はなく、問題はその位
置である。
また、イメージの強さは、そのランドマークとなんらかの連想とが一致していれば、さらに
増大する。つまり環境を意義深いものにすることを望むなら、このように連想とイメージア
ビリティとを一致させることが必要である。さらに、いくつかのランドマークが群になって
いれば、互いに強化試合それぞれを加算したもの以上に強くなる。
ノード:ノードはわれわれの都市の中の、概念的な錨泊地点であると考えられる。
ノードが知覚的な支えとなる第一条件はそれらが特異性一貫性を持ち、それによってアイデンティ
ティを獲得することである。つまり、他のものとは間違えようがない、きわだった、忘れられない
ような場所であることである。
また、ノードは、その存在が何らかの意味でその付近できわだっている場合には、放射作用によっ
て、その周囲に大きなディストリクトを構成することができ、もしノードの内部でオリエンテーシ
ョン(方向付け、位置づけ)がはっきりしていて、上下、前後などの区別が容易であると、そのノ
ードはもっと大きなオリエンテーションのシステムと結びつくことができる。
つまり、いくつかのノードを並べて、関連性のある構造を持たせることは可能であり、このような
連結によって、かなり大きな都市地域が組み立てられるのである。
ディストリクト:都市のディストリクトとは、ごく単純に言えば、均質の性格を持つ地域、つまりその中の
いたるところで連続しているがその外部では連続していないような手がかりを通じて、認
識される地域のことである。
ディストリクトは内部にも、構造を持つことがあり、その内部が十分に分化している場合
にはディストリクトは都市の中のその他の要素との関係を表現することができる。つまり、
ディストリクト間のつながりや、あるいはノード、パスのどとのつながりがディストリク
トの性格を強めるとともに、それらをひとつにまとめるのである
・ 形態の特質
5 つのタイプから抽出されたキーワードからのアプローチ:
1特異性、2形態の単純さ、3連続性、4優越性、5接合の明快さ、6方向性、7視界、8運動を意識させ
るものであること、9時間的な連続、10名称と意味
ここに列挙したような特質は必ずしもばらばらに作用するようなものではない。また、都市にアイデンティ
ティとストラクチャーを与えるには、ある程度の繰り返しや重複や補強が必要である。
つまり、紛れもない地域とはその形態が単純で、建築物の様式と用途について連続性があり、その都市のな
かでは特異な存在で、明確な境界を持ち、隣接する地域とはっきり結合されていて、そして、見たところく
ぼみになっている地域のことである。
■全体としての感じ The Sense of the Whole(p137〜)
□部分と全体との相互関係
5 つのエレメントの特性をマスターしたら
↓
時間的に連続して感じられるような、部分が単に文脈として感じられるような全体を組み立てることが必要
となる。
パス→ディストリクトを目に入りやすくする。様々なノードを連結。
ノード→パスを接合、区分。
エッジ→ディストリクトの境界を定める。
ランドマーク→地域の中核を指し示す。
□形態を操作するとき
大都市が持つ様々なイメージ(昼のイメージ、夜のイメージ。遠くからのイメージ、近くからのイメージ。
etc….)の間に何らかの連続性が見られるよう配慮しなくてはならない。
2 つの全く異なる眺めをひとつに結びつけることで、都市のスケールを包括することができる。
⇒
全体的な場 というイメージの理想に近づく。
□現代の都市:複雑であるため連続性を必要とする。同時に個々の性格の対照、特殊化も提供。
明瞭に異なるエレメント同士が密接でしかもイメージされやすい関係におかれると、それらの対照はいっそ
う強まる。そうなるとそれぞれのエレメントもそれ自身の強烈な個性を持つ。
□自分の住む都市をいかに組み立てるか、どんなエレメントを頼りにするか、形態のどのような特質を歓迎
するかは人によって大きく違う。
⇒デザイナーは?
都市にできるだけ多くのパス、エッジ、ランドマーク、ノード、ディストリクトを備えるとともに、形態の
特質にしてもひとつや二つでなく、そのすべてを利用するよう心がけなくてはならない。そうすれば観察者
は、各自の見方に応じて見分けるための手がかりを見出す。
知覚的な環境にはある種の柔軟さが必要。
□すぐれた組立ての例;ボストンのいくつかの部分
パスがかなり自由に四方に広がる
それとわかるようなエッジがたくさん重なり合って網の目をなす
すぐれた組立てとなるには、大きな骨組みの中で、ある種の柔軟性、つまり構造や手がかりとなりうるもの
が豊かに存在していることが必要。そうなれば、観察者は他人にも伝えられる安全で、十分な、しかも自分
自身の要求にあったイメージを抱くことができる。
■大都市の形態
Metropolitan Form(p141〜)
□大都市のイメージはどの部分も鮮明で、全体との関係もはっきりしている。
□全体的な地域のためのパターンを構成するとき(新たに計画するとき)
テクニック1;その地域全体を静的な体系として構成する。
△問題点:大都会における種々のつながりの自由と複雑さを否定。
テクニック2;ひとつないし2つの支配的なエレメントを用いる。そのエレメントに他の小さなエレメント
を結び付ける。
△問題点:相互の関係や連続について直接的に示しはするが、環境の規模が増大するにした
がって困難が増す。十分に大きく、ある程度の
表面積
をもった支配的なエレメントが見
出しにくい。
もうひとつの組立て方;シークエンス、時間的なパターンを用いる。
エレメントのつながりが、そのどちらの順序でも連続した形態をもたなければならない。
逆転がきくと同時に、中断されてもよいようなシークエンス。終わりが無く、しかも連続性
を持ち、かつ変化に富む。
都市地域全体は、このようにして組み立てられたシークエンスがたくさん集まって織り成す
ネットワークによって組み立てられる。
■デザインの過程
The Process of Design(p146〜)
□現に存在する都市地域;何らかのストラクチャーとアイデンティティをもつ。
⇒すでに現存する環境を改善する方法;その中の強いイメージを発見して保存し、知覚上の困難を解決する
こと、とりわけ混乱の中に潜むストラクチャーとアイデンティティとを引き出すこと。
□新しいイメージの創造;感覚に訴えやすいものとするために、計画的に周囲の世界を操作することに頼ら
ねばならない。
□都市の規模での視覚プランの作成時;デザイナーの目標→公共のイメージを強化すること。
ランドマークの設置、保存。
パスの視覚的な体系化。
ディストリクトのためのテーマの単位の確立。
ノードの創設や明瞭化。
重点を置くのは、エレメントの相互関係、運動中におけるそれらの認識、完全に目に見える形態としての都
市の概念。
□最終目標は物理的形態そのものではなく、心の中に描かれるイメージの質。よって、観察者の注意力を高
め、学習を通して人々の都市のイメージを育てることも可能。都市デザインには知識と批評眼をもった聴衆
が必要。
Ⅴ.新しいスケール(p150〜)
□おさらい
・都市の知覚の特殊性:他の芸術とは本質的に異なる。
・都市を享楽し、利用する:環境のイメージの鮮明さと一貫性が決定的な条件。
・このイメージ:観察者と観察されるものとの間の往復過程の所産。その過程の中で操作可能な外的な物理
的形態が大きな役割を果たす。
・都市のイメージのもつ5つのエレメントの分類、エレメントの特質、相互関係
・目標は全体的なパターンとみなされるような都市の形態の創造
□求められる都市または大都市の形態
・連続性を持ち、全体としてまとまっていながら、入り組んでいて流動的な、複雑なパターン。
・何千もの市民の知覚的な習慣に対して柔軟で、機能や意味の変化に対して開放的で、新しいイメージの形
成を受け入れるもの。
・見る人々を新しい世界探検へ誘うようなもの。
□ストラクチャーの明晰さとアイデンティティの鮮明さこそ、強力なシンボルを育てるための一歩。
□見てわかる、視覚的な都市であれば、恐怖感や混乱状態が景色の豊かさと力がもたらす喜びに置き換えら
れる。
□イメージの発展にとって、見られるものを作り直すことばかりでなく、見るための教育を行うことも重要。