第 7 講 信じること:本当のこと

地学
小出良幸
第 7 講 信じること:本当のこと
http://ext-web.edu.sgu.ac.jp/koide/chigaku/
▼ 真理とは
1 真理とは
例:同じものが違って見える
1.本当のこと。間違いでない道理。
2.意味のある命題が事実に合うこと。
3.論理の法則にかなっているという形式的に正
しいこと
2 本当のこと
・主観的に「本当のこと」
・客観的に「本当のこと」
3 客観的に「本当のこと」の評価
○ 証拠の提示
・実験
・実物
・現象
○ 論理性
▼ 「信じる」こととは
1 個人的レベル
「信じる」「それを本当だと思い込む。正しいと
して疑わない」
2 社会のレベル
例 地域や時代による差
3 科学のレベル
4 「この世」のレベル
例 ゲーデル(23 歳)の完全性定理(1929)
例 数学の論理は不完全である(1930)
5 「真理」追究からの教訓
・論理的であるかどうか
・証拠があるのかどうか
▼ 占星術(astrology)
1 なぜ、占星術なのか
2 占星術の歴史
起源
先駆的伝承
本格的伝承と隆盛期
AC5 世紀以降
ルネッサンス期
▼ 占星術の原理
1 原理
前提:星の相対的位置や見かけの運動と、地上の
人間や事件の間に、なんらかの関係がある
E-mail:
[email protected]
星を指標にして地上の事象を知ろうとする技術
2 構成要素
中心から、地球、月、水星、金星、太陽、火星、
木星、土星、その外側に恒星の天球
3 相互関係
各天球には相互間に一定の数比関係が成り立つ
全体の構造は、部分にも反映される
4 ホロスコープ(horoscope)
○惑星(プラネット planet)
○黄道 12 宮(ゾディアック zodiac)
○12 室(ハウス house)
○角度(アスペクト aspect)
▼ 占星術の問題点
1 論理の問題
・前提に根拠がない
・理論自体の矛盾
2 新しい事実を取り込めない
3 運用上の問題
▼ 現代の科学と占星術
1 占星術と天文学の共存最後の時代
○コペルニクス
○ケプラー
2 近代科学の成立:占星術の否定
○ガリレオ
○ニュートン
▼ 第 2 回レポート
天動説で困ることを考えなさい。
天動説とは、地球の周りを他の天体が回っていると
いう考え方である。
11 月 24 日 24 時(締切り厳守)
紙でのレポートは、各回の講義の最後に小出に出
してください。なおレポートには、氏名、学生番号、
テーマを忘れないようにしてください。
地学
小出良幸
第 7 講 信じること:本当のこと
http://ext-web.edu.sgu.ac.jp/koide/chigaku/
E-mail:
[email protected]
▼ 真理とは
1 真理とは
例:同じものが違って見える
ある人が信じていることは、もしかすると間違っているかもしれない。しかし、本人は正しいと思って
いるようなことがある。
もし、そのようなある人が正しいと信じていることを、その人にとっての「本当のこと」あるいは「真
理」と呼んでいいかもしれない。
「真理」の意味を、国語辞典でひくと、
1.本当のこと。間違いでない道理。
2.意味のある命題が事実に合うこと。
3.論理の法則にかなっているという形式的に正しいこと
とある。
いちおう、理解できるが、整理していく。
2 本当のこと
「本当のこと」という意味が「真理」にはあったが、「本当のこと」が、主観的か、客観的かによって、
意味合いが大きく分かれていく。
・主観的に「本当のこと」
主観的に「本当のこと」とは、ウソであろうが、本当であろうが、その客観的真偽は問題ではなくる。、
その人が、「本当のこと」と「信じること」さえできれば、主観的に「本当のこと」はいいわけである。
・客観的に「本当のこと」
客観的に「本当のこと」とは、多くの人が信じられることで、できればすべての人が本当だと思えるこ
ととなる。こうなれば、より普遍的「真理」というべきものであろう。
3 客観的に「本当のこと」の評価
では、客観的に「本当のこと」とは、どのようにして、より普遍的な「本当のこと」と評価するのか。
その方法として、辞書に書いてあったような、
・「意味のある命題が事実に合うこと」
・「論理の法則にかなっているという形式的に正しいこと」
という検証法がある。
○ 証拠の提示
「意味のある命題が事実に合うこと」とは、ある命題(論理)が、
「事実」で裏づけされているかどうか
を演繹的に評価していくことである。
論理が「事実」という証拠にあっているか、ということであろう。
ところが、この「事実」とは、実はあいまいだが、 実験、実物、現象などなんでもいいから、他人が
客観的に判断できるための証拠を提示することである。
・実験
実験の証拠は、第 3 者が追試や分析などをしても同じデータや統計が出てくるものでなければならない。
つまり、再現性があるものでなければいけない。
・実物
もし、実物なら、他人がその実物を手にでき、追試や分析できること、あるいは、第 3 者が追試や分析
する手間をはぶいて、客観的に評価できる測定値、統計など、定量的データを提示したものでなければな
らない。
・現象
現象で、何度も起きるものなら、第 3 者が追試や分析可能な再現性があるものでなければいけない。
一度しか起きなかった現象なら、実物と同じように、第 3 者が追試や分析する手間をはぶいて、客観的
に評価できる測定値、統計など、定量的データを提示したものでなかればならない。
証拠の提示とは、再現性のあるものか、定量的データによって第 3 者が客観的に判断できるようにする
ことである。
○
論理性
「論理の法則にかなっているという形式的に正しいこと」とは、あることや考えが、論理という形式を
満たせば、それは、「真理」としていい、ということである。
論理性をもつかどうか、つまり、論理的であるかどうか、という一点だけを重視して評価する方法であ
る。
以上まとめると、客観的に「本当のこと」、より普遍的に「本当のこと」、「真理」は、
・証拠の提示
・論理性
によって、見分けることができるものである。
ただし、それは、まさに、
「真理」という「形式をみたしている」のであって、本当に「真理」かどうか
は、長い時間を経て、歴史のなかで、多くの人が検証して、裏づけをするのであろう。多分、普遍的に「本
当のこと」など、存在しない、はず。現状では、
「真理」とは、普遍的「真理」に近い「一番もっともらし
いもの」をいい、当面、それを「真理」とするしかない。
▼ 「信じる」こととは
「信じる」ということは、どういうことかを、別の見方でみていく。個人的レベル、社会のレベル、科
学のレベル、
「この世」のレベルで考える。
1 個人的レベル
「信じる」ということは、どういうことか。
国語辞典では、「それを本当だと思い込む。正しいとして疑わない」
と書いてある。つまり、真理でなくても、本当はウソでも、
「本当だと思い込み」
、
「疑わなければ」は、そ
れは「信じる」ということである。
個人的レベルで、
「信じる」ということを考えると、
「信じる」内容は、当然、自由だし、
「私はこう信じ
る」と言い切ってしまえば、他人とどんなに違っていても、
「私が信じる」という点では、他人がとやかく
言う筋合いのものではない。
自分が信じていることを、他人に理解してもらうためには、まず、個人的レベルで、
「信じる」というこ
とは、尊重すべきである。
ただし、その人が信じていることについての、真偽はわからないことを留意すべきである。
「信じる」ことなどの内容を深く探る学問体系としては、
宗教や哲学、倫理、心理学
などの分野の学問体系がある。このレベルの内容は、この講義で扱うものではない。
2 社会のレベル
もし、すべての人が、自分の信じることが、あり、それぞれが違っていたり、統一がとれてなかったり、
ウソや、デタラメだったりすると、社会は成り立たない、あるいは成り立ちにくい。
社会のレベルでは、ある統一的な「信じること」が必要である。それは、
常識、世間の目、法律、憲法、
などの、理性に訴えかける何かによって、トンでもないことを「信じ」ないための、はどめとして働いて
いる。
でも、たとえばある法律は、その機能している社会では、
「正しい」とされていても、別の時代、別の民
族、別の国、別の社会では、
「正しくない」、
「間違っている」、
「違反している」ということだってありうる。
例 地域や時代による差
人を殺してもとがめられない:戦争
どんなときでも犬を殺したらその人は咎められる:江戸時代の生類憐みの令
牛は神様の使いである:ヒンズー教
社会的レベルの「信じる」こととは、ある社会がその時点で守ろうという、約束事であって、普遍的に
「本当のこと」というべきものでは、けっしてない。
3 科学のレベル
科学のレベルで、
「信じる」こととは、個人的レベルや、社会のレベルを越えた、もっと、普遍性をもっ
たものであるべきである。普遍性とは、時代や、民族、国、社会の違いを越えたものでなければならない。
しかし、
「普遍性」とはいっても、その当時、その時点で、一番もっともらしいことである。つまり、そ
の時点でのもっとも普遍的に「本当のこと」らしきものにすぎず、論理的に「本当のこと」と呼ぶべきも
のである。
以上のことから、論理的「真理」は、証拠の提示と、論理性によって、一応、見つけることができるこ
とがわかった。
科学のレベルで「信じる」ということは、証拠のある論理的「真理」とよばれるもの、となる。
だし、それは、形式をみたしているだけの確かさであって、本当に「真理」か、現状では、もしかする
と将来にわたっても検証できないかもしれない。
4 「この世」のレベル
「この世」のレベルで、「信じる」ことを求めたら、どうなるか。
そんなものが、はたしてあるのか。あるとすると、どんなものか。
それは、「この世」をどう定義するかによっている。この講義では、「この世」を「宇宙」と定義した。
従って、「この世」のレベルの「信じる」こととは、「宇宙」のどこでも信じること、となる。そして、信
じることとは、科学のレベルと含み、さらに広い視点での、証拠の提示、論理性を追究し、さらに時間や
空間に左右されない普遍的な「真理」となる。
このときに必要なものは、
証拠や論理を導く方法論や体系の普遍性である。
例 ゲーデル(23 歳)の完全性定理(1929)
アリストテレスの 3 段論法にはじまる推論規則(古典論理)が完全にシステム化されることを示した。
正しく完全であること示した。
これらの方法論は、
「この世」のレベルのある程度利用可能である。そのような学問体系は、前に紹介し
たいくつかの学問分野であるが、本当に「この世」レベルの学問体系はまだない。
例 数学の論理は不完全である(1930)
「この文章は間違っている」
というような、自己回帰する内容に誤りがあると、そこでは論理的破綻をきたすことがある。
1901 年 論理学者バートランド・ラッセルは
「自分自身を要素としない集合の集合」
が集合論上に定義できることに気づいた。
1928 年 ダーヴィット・ヒルベルドは、67 名の数学者を率いてラッセルのパラドックスを解決するた
めに、全数学を形式化していく「ヒルベルト・プログラム」作成の作業をはじめた。「プリンピキア・マ
ティマチカ」では、
1+1=2
を証明するために数百ページが使われている。
しかし、1930 年 クルト・ゲーデルは「不完全性定理」を証明した。
「不完全性定理」は、自然数論を
完全にシステム化できないことを示した。有意味な情報を生み出す体系は自然数論を含むことから、これ
は、いかなる有意味な体系も完全にシステム化できない。
オッペンハイマーは
「人間の理性一般の限界を示した」
と述べた。
ゲーデルの偉大さは、
「アリストテレス以来の最大の論理学者」という評価
「アリストテレスと比べるくらいでは、ゲーデルを過小評価しすぎだ」という評価
あるいは、プリンストン高等研究所のアインシュタインは
「私が研究所に行くのは、ゲーデルと散歩する恩恵に浴するためだ」
といっている。
この講義では、数学がいちばん論理的であるといったが、じつはその数学においてすら、ゲーデルの「不
完全性論理」によって、完全ではないことが証明された。
つまり、われわれは現在、ある種の古典的論理の正しさは知っているが、
本当に「この世」レベルで完全な学問体系を持っていない、あるいは持てないということがわかっている。
しかし、
「この世」のレベルの「真理」を求める方法論は、証拠の提示と論理性は単純だが、唯一の手が
かりで、その普遍性を常に意識したものでなければならない。
5 「真理」追究からの教訓
個人のレベルでは、何かを信じ、何かを信じなくても、自由である。
しかし、もし、個人レベルででも、「何を信じればいいのか」という疑問が生まれたとき、「真理」追究
につかった手法は役に立つ。
「真理」に近づく一番、有用なやり方は、
・論理的であるかどうか
・証拠があるのかどうか
を充分、吟味することである
そうすれば、その時点で、個人のレベルでは最大限の判断基準になるであろう。あとは、自分の判断を
「信じて」、その道を進むのみである。
さらに、どのようなレベルの「真理」でも、最終的には、個人のレベルでの「信じる」、「信じない」に
なってくる。もし、自分の信じることを、他人に伝えたいのであれば、自分の「真理」と同程度に、他人
の「真理」を尊重していく必要がある。他人の「真理」も自分の「真理」もそれぞれの人にとっては、同
じほどの重みがあることである。
この他人の「真理」を尊重することから、自分の「真理」を伝えることもスタートする。
▼ 占星術(astrology)
1 なぜ、占星術なのか
占星術は、長年にわたって、
「この世」の「真理」だと考えられてきた。おそらく、人類において、いち
ばん長く「この世」の「真理」と考えられてきた学問体系は、占星術であろう。しかし、17 世紀後半には、
占星術と天文学(科学)とは、決別した。
2000 年以上にわたって、「この世」の「真理」であっても、よりよい「真理」の検証法(論理性と証拠
の提示)が発見されたことによって、偽という評価がでれば、科学では、棄却、つまりその論理は捨てら
れるのである。
以下、その方法を、詳しく見ていき、そして、どこが、間違っていたのかを、証拠と論理の上からみて
いく。
何度も繰り返すが、
占星術を「信じる」、「信じない」は、個人的レベルのはなしである。科学のレベルでは、以下で述べるよ
うに、「真理」ではないとされているにすぎない。
2 占星術の歴史
起源
占星術は、多くの文明で、似たような体系として起こった。初期文明は、農耕に依存していたため、気
候の変化や季節変化を知るために、正確な暦や天文学が必要であった。
その中から、占星術も生まれてきたと考えられる。BC2000 年の初頭に、天体の運行と人間や国家の運命
に対応関係があるという記録がある。最古のものとして、4000 年も前にその起源がさかのぼるかもしれな
い。
少なく見積もっても、3000 年以上前に起源はある。
西アジア(メソポタミア)バイビロン第一王朝(最盛期 BC1700 年ころ)最古の占星術の文献「エヌマ・
アヌ・エンリル」が成立している。
現在の西洋占星術はバビロニア文明を開いたカルデア人のあいだで発祥。カルデア人は天文学にすぐれ
ていた
5 つの惑星(水星、金星、火星、木星、土星)を発見
↓
占星術に発展
先駆的伝承
ギリシアには、前ソクラテス期(BC6 世紀後半~BC5 世紀前半)に宇宙論的興味を元に、西アジア(メソ
ポタミア)から導入された
本格的伝承と隆盛期
本格的にはアレクサンダー大王の東征(BC4 世紀後半)以降に伝承
レニズム文化、ローマ文化は占星術が大隆盛期
プトレマイオスの「テトラビブリス(四書)」
、
マニリウスの「アストロノミコン(天文譜)」
は西洋占星術の原典といえる
AC5 世紀以降
キリスト教会が非合理的として占星術を弾圧
ルネッサンス期
「流入 emanation」という概念ですべての現象を説明する新プラトン主義が占星術にも適用された
▼ 占星術の原理
現代での古代の用法とほとんど変わらない。
1 原理
前提:星の相対的位置や見かけの運動と、
地上の人間や事件の間に、なんらかの関係がある
↓
星を指標にして地上の事象を知ろうとする技術
2 構成要素
中心から、不動の地球、月、水星、金星、太陽、火星、木星、土星が張り付いた 7 つの透明な天球があ
り、その外側に恒星の天球ある
3 相互関係
各天球には相互間に一定の数比関係(アナロジー)が成り立つ
全体の構造は、部分にも反映される
4 ホロスコープ(horoscope)
ある時点、ある地点の天体の配置図(ホロスコープ)は、その時間、その空間の中で生じた人間や事象
の構造を決定する。
つまり、このホロスコープを解読することが占星術である。
ホロスコープは、以下の4つの要素からなる
○惑星(プラネット planet)
占星術では、太陽、月も惑星として扱う。各惑星には基本的意味がある。
表 惑星とその基本的意味
-----------------------------------------惑星
基本的意味
-----------------------------------------太陽
生命、活力、男性、権威、支配
月
感性、感情、受容性、女性、変化
水星
知性、鋭敏、雄弁、交流、怜悧
金星
美、優雅、魅力、芸術性、社交性
火星
精力、勇気、衝動、攻撃、情熱
木星
楽天、寛大、高貴、荘厳、膨張
土星
悲観、自制、着実、制約、収縮
-----------------------------------------天王星、海王星、冥王星ときには小惑星も取り入れることもある。
-----------------------------------------天王星 独創、霊感、自由、個性、孤立
海王星 神秘、曖昧、幻想、想像、流動性
冥王星 変革、死、再生、破局、動乱
-----------------------------------------○黄道 12 宮(ゾディアック zodiac)
現在の天文学では使われていない。黄道を中心として上下 8 度の範囲を恒星は運動する。これを獣帯と
いう。この獣帯を春分点から 30 度ずつ、12 等分したものを黄道 12 宮という。12 宮は、恒星の星座に投影
され、星座の名前で呼ばれることがある。
表 12 宮
----------------------------------------------------------宮
性別 動き 4 区分
星座
----------------------------------------------------------白羊宮
男
動
火
おひつじ
金牛宮
女
静
地
おうし
双子宮
男
変
風
ふたご
巨蟹(きよかい)宮 女
動
水
かに
獅子宮
男
静
火
しし
処女宮
女
変
地
おとめ
天障宮
男
動
風
てんびん
天蝎(てんかつ)宮 女
静
水
さそり
人馬宮
男
変
火
いて
磨羯(まかつ)宮
女
動
地
やぎ
宝瓶(ほうへい)宮 男
静
風
みずがめ
双魚宮
女
変
水
うお
----------------------------------------------------------○12 室(ハウス house)
現在の天文学では使われていない。
ある時点、ある地点において、東の地平線上に現れた 12 宮上の位置を上昇点(ascendant)という。上昇
点を起点に、全天を一定の規則で 12 分割したものを 12 室という。各室には活動領域が与えられ、ホロス
コープ解読上のヒントとする。
○角度(アスペクト aspect)
惑星の相対的角度のこと。角度によって惑星の影響力の強弱や吉凶を判断する。
▼ 占星術の問題点
1 論理の問題
・前提に根拠がない
占星術の前提である
「星の相対的位置や見かけの運動と、地上の人間や事件の間に、なんらかの関係がある」
という論理に、論理性、根拠がない。例えば、今の物理学では、力学的関係は見出せる。しかし、その影
響から人間や社会への影響を探ることはできない。また、個々の人間の運命、つまり未来を左右するとい
うような、論理が出てこない。だから、論理的でない体系であるといえる。
・理論自体の矛盾
星座と 12 宮は、春分点が歳差運動で年間 50.29 秒ずつ移動するため、ずれていく。
例えば、白羊宮の初点は、現在、うお座にある。
このことからも、占星術の体系は 2000 年以上前に誕生したことがわかる。
今から 700 年後には、白羊宮の初点はみずがめ座に入る。というように、この理論は、現状では非常に
矛盾している。その修正をしないまま利用されている。
2 新しい事実を取り込めない
惑星の数は、過去と比べて格段に増えている。
かつては、土星までの惑星、太陽、月を用いていた。
惑星は、天王星、冥王星、小惑星、カイパーベルト小惑星が見つかっている
他にも、各種の周期的彗星がある。
などというように、新しい観測事実を取り込みきれない理論である。つまり、新しい事実を、この理論で
は説明できない。新しい証拠の検証能力がない理論である。
3 運用上の問題
実際に占星術師が、天文学的計算をして、ホロスコープを個別に書いて、占いをしていない。現状では、
ホロスコープを書くには、コンピュータを使わなければ、すぐには書けない。
▼ 現代の科学と占星術
占星術(astrology)は天文学(astronomy)とは、源は同じ。ギリシア語の「星の学問」astrologia か
ら由来。今ではまったく目的の違うものとなった。
占星術は、科学的検討や合理的根拠がなくなり、いまではまったく科学とは、別のものとなった。その
プロセスを見ていこう。
1 占星術と天文学の共存最後の時代
○コペルニクス
コペルニクスは占星術的関心から天文学者となった。コペルニクスは、プトレマイオスの天動説の考え
をより単純な地動説で解釈した。地動説「天球の回転」(1543 年)
宇宙の中心を太陽に置くことによって複雑な惑星運行を単純に説明できるようにした。
宇宙に中心がある。天体の運動は完全な円運動であると考えた。
○ケプラー
ケプラーは極貧で、家族も多く、生活費を稼ぐために占星術をおこなっていたらしい
「世界の調和」(1618 年)
ケプラーの法則:天体の運動は、物理法則にのっとっておこっている。
神秘性はない。
2 近代科学の成立:占星術の否定
17 世紀の近代科学成立以降から現代まで、占星術と科学とは別のものとなった。
占星術は現在も生きているが、それはあくまでも個人的レベルのものにすぎない。個人的レベルでは、
何を「信じる」のも自由である。
科学は、「この世」のレベルのもので、「真理」を目指すために道具となっていった。
○ガリレオ
地動説「天文対話」(1632 年)
総合的方法と分析的方法という、科学的方法(論理的、証拠の提示に基づく)で理論を展開、構築してい
った。
○ニュートン
「自然哲学の数学的原理(プリンキピア)」
(1687 年)
ベーコン的精神で実験を重んじ、帰納法による手法を用いた。
「原理とは到達されるべき目標である」と考
えた。
ギリシア以来の自然哲学と、コペルニクスやケプラーの示した天体の運動法則と、ガリレオが示した数
学的な運動の科学と、デカルトとベーコンがたどり着いた哲学の方法論を総合して、新しい世界体系を導
き出した。
さらに、占星術の原理「星の相対的位置や見かけの運動と、地上の人間や事件の間に、なんらかの関係
がある」を、科学的手法で否定した。
ニュートン的は、宇宙観は、機械論的宇宙観とよばれる。
さらに、このような科学的手法は、後の西欧科学技術文明の方向性を決定づけた。
そうして、私たちは、現代の社会の安全や豊かさを、手に入れた。
今では、天文学と占星術とは、違うレベル(科学と個人)での世界をもっている。
▼ 第 2 回レポート
天動説で困ることを考えなさい。
天動説とは、地球の周りを他の天体が回っているという考え方である。
11 月 24 日 24 時(締切り厳守)
人の考えではなく、自分で考えて、自分自身の考えを述べること。レポートは資料や参考書を見ないよ
うに!!レポートはメール(携帯の E-mail でも可)の提出でもかまいません。紙でのレポートは、各回の
講義の最後に小出に出してください。なおレポートには、氏名、学生番号、テーマを忘れないようにして
ください。