IV. 自信喪失 閉塞感 歴史の峠

IV.
自信喪失
閉塞感
歴史の峠
日本は、企業も政府公共部門も、変化への適応力の弱さと遅さが問題です。
生産性と競争力を増すため、「全体最適」を実現する必要がありますが、
特に、リーダーシップと、経営と政策の執行プロセスの陳腐化が問題です
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スイスのビジネススクール IMD が毎年発表する世界競争力ランキングを
見ると、日本の順位は、89 年から 93 年まで 5 年連続 1 位、しかし、
順位
1992
1996
1998
2000
2002
1
日本
米国
米国
米国
米国
2
ドイツ
シンガポール
シンガポール
シンガポール
フィンランド
3
スイス
香港
ルクセンブルグ
オランダ
ルクセンブルグ
4
デンマーク
日本
オランダ
フィンランド
オランダ
5
米国
デンマーク
香港
アイルランド
シンガポール
6
オランダ
ノルウエー
フィンランド
ルクセンブルグ
デンマーク
7
オーストリア
オランダ
アイルランド
スイス
スイス
8
スウエーデン
ルクセンブルグ
カナダ
カナダ
カナダ
9
アイルランド
スイス
スイス
アイスランド
香港
10
フィンランド
ドイツ
デンマーク
オーストラリア
アイルランド
20
日本
ノルウエー
チリ
24
オーストリア
日本
台湾
30
アルゼンチン
中国
日本
その後低下し、
1996 年 4 位、
1998 年 20 位、
2000 年 24 位、
2001 年 26 位、
2002 年 30 位
となっています。
もとより単純な指標で国のすべてを表せるはずもありませんし、そんな評価は認めがたいと考えられる方
も少なくないと思いますが、そのような評価が公表されていることは受け止めなければならない現実です。
http://www02.imd.ch/wcy/ranking/
24
日本の自信喪失の拡大は、過去 10 年間のこの動きと一致します。
日本では、
1.政府・公的部門の過去 10 数年にわたる政策が、時代と環境に適
合しなくなったのに、その清算がいまだ行なわれていません。
政策の「計画・立案、実行、点検・評価、見直し」という至極当
然の「プロセス(過程)マネジメント」
(Plan
PlanPlan-DoDo-Study & Act
の PDSA サイクル)が、本質的なところでなされていません。
サイクル
http://www.aiweb.or.jp/iso/iso3.htm
それは、政府の行政部門と関連団体や規制産業の企業群など、
「広
い意味での公的な部門の政策の執行にかかわる、イノベーション
イノベーション
能力と生産性
生産性の低さ」の問題です。
生産性
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日本では、省庁や局など縦割りの「部分最適」
部分最適」を追求して行われ
部分最適」
た個別政策の総和が、かつては自然のうちに「全体最適」
全体最適」に近い
全体最適」
ものになっていました。
しかしこの 10 年余り、
「歴史の峠
歴史の峠」に遭遇し、
「部分最適の追求
歴史の峠
の総和」が全体最適になるどころか、逆に陳腐化を招いて日本を
蝕むようになっていたのに、有効な手が打てませんでした。
DEX
DEX
DEX
DEX
26
従来の「部分最適型施策」
部分最適型施策」が行われ続けて、
「全体最適」
全体最適」実現の
部分最適型施策」
全体最適」
ため公的部門全体に生産性
生産性と競争力、競争優位
生産性 競争力、競争優位を高めようという
競争力、競争優位
①
省庁や業界の壁を越えた「統合された見方、目的意識
統合された見方、目的意識」と
統合された見方、目的意識
② (施策の立案と執行の)プロセス
プロセス(
プロセス(過程)
過程)マネジメントと
マネジメント
③ それを実現するリーダーシップ
リーダーシップ
が欠けたまま、今日まで来てしまったのです。「新たな時代にフ
ィットする組織運営の仕組み」がなかったことを物語っています。
DEX
DEX
27
DEX
DEX
DEX
2.民間企業においても、産業の刷新性、事業革新の柔軟性と迅速性、
経営者の国際感覚とリーダーシップ
リーダーシップ、経営戦略の策定能力と実行
リーダーシップ
力、技術と経営と経営執行プロセス
技術と経営と経営執行プロセス(
陳腐化(イノベーシ
技術と経営と経営執行プロセス(過程)
過程)の陳腐化
陳腐化 イノベーシ
ョン不足)が問題なのです。
ョン不足
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この 10 年、こうして日本が立ちすくんでいる間に、欧米アジアな
ど諸外国はどうしていたのでしょう?
彼らは、着実に迅速性と柔軟性を増し、経営の信頼性を高める努力
と IT 化などによる効率性向上などに取り組みました。
そして、それによって、格差が更に大きく拡大しました。とりわけ
90 年代後半から現在まで、日本の抱える問題は、ますます大きな
問題として認識されるようになりました。
公共部門も民間も、ともに「変化への適応力の弱さと遅さ
変化への適応力の弱さと遅さ」が問題
変化への適応力の弱さと遅さ
である。外国は日本に、繰り返しそう指摘し続けています。
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財政の悪化も止まりません。国と地方の借金である、長期債務残高
は、合計で 700 兆円もあります。500 兆円ある GDP の 140%
に近づいています。そして毎年毎年、借金が膨らみ続けています。
長期債務残高=約 693 兆円
(平成 14 年度、国・地方合計)
財政は
悪化の一途
134.1 兆円
(S56 年)
http://www.mof.go.jp/mof/tomorrow/08.htm
30
また、失業率
失業率も同じく増加の一途を辿り、中高年の失業だけではな
失業率
く、若者も高校や大学を出ても就職が困難です。
失業率・有効求人倍率の推移
%
%
1.60
6.0
5.2 1.40
5.0
4.5
4.6
4.7
4.0
3.5
3.0
2.8
2.4
2.0
2.3
2.2
2.1
3.0
3.3
1.20
1.00
3.6
0.80
2.4
0.60
0.40
1.0
失業率(左目盛り)
有効求人倍率(右目盛り)
0.20
0.00
0.0
89
90
91
92
93
94
95
96
97
98
99
00
01
02
・失業率は総務省より
・有効求人倍率は厚生労働省の資料より作成
31
犯罪が増加し、検挙率
検挙率も低下しています。住民の不安感も増してい
検挙率
ます。窃盗犯を中心に刑法犯の認知(発生確認)件数が急増してい
るため、事件発生時の対応に追われ窃盗犯の検挙に繋がる余罪捜査
にまで手が回らないのが実情です。
検挙率(交通関係を除く一般刑法犯)
(件)
(率)
認知(発生確認)件
3,000,000
60
検挙率
2,500,000
70
50
2,000,000
40
1,500,000
30
1,000,000
20
500,000
検挙数
10
警察庁の統計資料による。
http://www.npa.go.jp/toukei/keiji1/15keihou.pdf
32
01
99
97
95
93
91
89
87
85
83
81
79
77
0
75
19
73
0
その上、個人の自己破産も年を追って増加し昨年は 21 万件以上、
また 4 年連続 3 万人以上が自殺
自殺に追い込まれています。暗く息苦
自殺
しい世の中です。これらは第2次大戦後初めて経験するものです。
自己破産申立件数の推移(’91~’02)
(件)
自殺者数の推移
35,000
250,000
総数
30,000
200,000
25,000
20,000
150,000
15,000
60 歳以上
100,000
10,000
50,000
5,000
50 歳台
0
0
1991
93
95
97
99
01
78
19
(年)
最高裁判所の調査データより作成
http://www.zenkinren.or.jp/gaiyou/hasan1.htm
33
80
82
84
86
88
90
92
94
96
警視庁生活安全局地域課より
http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki/chiiki09.pdf
98
0
00
2(年)
バブルの崩壊からすでに 10 年以上が過ぎたのに、構造改革
構造改革が叫ば
構造改革
れ続けるほどそれが空しく響き、「何ともいえない閉塞感
何ともいえない閉塞感」と「漠
漠
何ともいえない閉塞感
然とした不安」そして「元気を出そうにも出せない虚脱感
虚脱感」が今の
然とした不安
虚脱感
日本社会に充満しています。
経済と社会の構造転換に即応できなかった「公共部門と民間の政策
政策
と企業経営の誤りの連鎖」、そして私達一人一人の油断。
油断。
これらがより大きなバブルとその崩壊を生じさせ、10年以上にわ
たるデフレ不況
デフレ不況を招いています。
デフレ不況
34
私達は、これまでの経験では対処できない経済社会の構造の変化に
直面し、長い間、なす術を知りませんでした。
それは、従来からの「技術や組織の体系
技術や組織の体系、仕事の進め方
技術や組織の体系 仕事の進め方、コンセン
仕事の進め方 コンセン
サス重視と事前調整型の経営意思決定手法」
サス重視と事前調整型 経営意思決定手法」など、それまでうまく
経営意思決定手法」
回っていたすべてのプロセス(過程)
プロセス(過程)が陳腐化
歴史の
プロセス(過程) 陳腐化してしまう「歴史の
陳腐化
峠」の時代の到来を、自らのこととして想像できなかったからです。
そして私達は、今もなお「歴史の峠
歴史の峠」
歴史の峠 に呆然と立ちすくんでいます。
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私達は、これから本当に険しい歴史の峠を、覚悟して越えなければ
なりません。
私達の多くが今そこにある危機を、いまだ他人事のように感じてい
る間は、日本は立ちすくんだ状態から決して抜け出せないでしょう。
いや、それどころか、このまま根本的な手当てをしないと、日本は
経済社会の離陸に失敗するでしょう。対症療法的な滑走路の延長を
懸命に行っても、結局は徒労に終わり、オーバーランの末、最後は
滑走路の淵から海に落ちてしまうか、あるいは山に激突して大爆発
を起こすことになってしまうでしょう。
そうなれば、予想できないほどの数の犠牲が出ます。
36
私達の国日本は、恐らく最後のチャンス
最後のチャンスかもしれませんが、
「根本
最後のチャンス
的な治療を迅速に行えば、まだ今なら何とか経済社会の離陸と再生
経済社会の離陸と再生
が可能のはずだ」という認識は、多くの方々と共有できると思いま
が可能
す。
DEX
今、本当に、離陸の最後のチャンス。
37