米国における特許訴訟 R. TERRANCE RADER, ESQ. RADER, FISHMAN & GRAUER PLLC 39533 WOODWARD AVENUE, SUITE 140 BLOOMFIELD HILLS, MICHIGAN 48304 USA 目次 第 I 節: 訴訟提起の決定 ................................................................1 特許権者にとって早急なリスクマネージメントが肝要である。 ...............................1 侵害被疑者にとって ....................................................................2 訴訟前の意見 ..........................................................................5 訴訟の開始 ............................................................................9 A. 訴訟を提起できるのは誰か ........................................................9 B. どこに訴訟を提起すべきか ........................................................9 C. 誰が被告となり得るか ...........................................................10 D. 訴状 ...........................................................................11 E. 答弁書 .........................................................................12 宣言的判決訴訟 .......................................................................13 紛争解決手続きの選択肢 ...............................................................14 A. 調停 ...........................................................................14 B. ミニ・トライアル ...............................................................14 C. 簡易陪審裁判 ...................................................................14 D. 中立的な専門家の事実認定者 .....................................................14 E. 早期中立者評価 .................................................................15 F. 仲裁 ...........................................................................15 G. 私的判事 .......................................................................15 第 II 節: ディスカバリー・プロセス.....................................................15 A. 質問書 .........................................................................16 B. 書類および財産の要請 ...........................................................16 C. 認否確認申請書 .................................................................17 D. 専門家報告書 ...................................................................17 E. 証言録取 .......................................................................17 F. 保全命令 .......................................................................18 G. 秘匿特権の請求 .................................................................18 規則 26 により要求される開示 ..........................................................18 証言録取の理由 .......................................................................19 第 III 節: 実体的な審理前申立 .........................................................21 分離審理の申立 .......................................................................23 予備的差止命令の申立 .................................................................24 A. 予備的差止命令の発行の根拠 .....................................................25 i 1. 2. B. 本案に関する勝訴の可能性 ..................................................25 a. 公共の黙認 ........................................................... 26 b. 以前の有効判決 ....................................................... 27 c. 特許侵害の立証 ....................................................... 27 回復不能な損害 ............................................................28 a. 差止命令要求の遅延 ................................................... 29 b. ライセンスの供与 ..................................................... 29 c. 侵害活動の中止 ....................................................... 29 3. 非申立人への損害と申立人への損害との均衡 ..................................30 4. 公共の利益への影響 ........................................................30 証拠審問 .......................................................................31 略式判決の申立 .......................................................................31 A. 特許権者にとっての略式判決 .....................................................32 B. 侵害被疑者にとっての略式判決 ...................................................32 1. 無効の略式判決 ............................................................32 2. 侵害の略式判決 ............................................................34 3. 非侵害の略式判決 ..........................................................34 4. 懈怠および禁反言の略式判決 ................................................34 5. 非衡平的行為の略式判決 ....................................................35 第 IV 節: 特許裁判準備 ................................................................36 専門家による証言 .....................................................................37 特許事件における専門家の種類 .........................................................38 A. 技術専門家 .....................................................................38 B. 法律専門家 .....................................................................41 C. 損害賠償専門家 .................................................................42 補償的損害賠償金 .....................................................................45 A. 逸失利益 .......................................................................45 B. 合理的なロイヤルティ ...........................................................48 故意侵害 .............................................................................50 損害賠償額の限定 .....................................................................51 第 282 節の通知 .......................................................................52 審理前最終会議 .......................................................................52 不適切証拠排除申立 ...................................................................54 陪審に対する説示の提案 ...............................................................54 ii 証人のタイプ .........................................................................55 トライアル ...........................................................................56 A. 証人準備 .......................................................................57 B. 陪審選定 .......................................................................58 C. 冒頭陳述 .......................................................................59 D. 直接尋問 .......................................................................60 E. 反対尋問 .......................................................................60 F. 異議 ...........................................................................61 G. 証拠申請 .......................................................................62 H. 申立 ...........................................................................62 I. 最終弁論 .......................................................................63 J. 審理後手続 .....................................................................63 iii 第 I 節: 訴訟提起の決定 特許権者にとって早急なリスクマネージメントが肝要である。 訴訟管理にはリスクマネージメントが必要となる。原告側のリスクマネージメントは 訴訟を提起する前から始まる。クライアントのファイルを徹底的に検討することや主要な証人 になり得ると思われる人々に面会することなどもその一環である。原告の弁護士は、当該事件 における潜在的脆弱性の大要をまとめなければならない。確認すべき問いとしては、次のもの が含まれる。 (a)先行技術は何か? (b) 調査は実施されているか? (c) 先使用、販売、販売 の申出のような法定拒絶理由は、適切に考慮されているか? (d) 特許出願書類の中に実験条 件は十分かつ正確に提示されているか? 開示は有効に機能しているか。最良の態様が開示さ れているか? (e) USPTO(米国特許商標庁)施行規則の規則 131 または 132 に基づく証拠のよ うな、特許性に関して提出された証拠が正確に提示されているか? (f) 原告にとって特許タ イトルや独占的ライセンスに欠陥はあるか? (g) これは、侵害状況の一因あるいは誘因であ るか? (h) クライアントが特許侵害反訴を提起される危険度はどうか? (i) クライアントが 独占禁止法上の反訴を提起される危険度はどうか? (j) 不正競争の問題は前進するか ?(k) 具体的な守秘特権の問題はあるか?および (l) 適切な制御集団は形成されているか? 下記の事項は訴訟戦略会議中に出されるべき情報の例である。 (a) 特許の有効性/執行可能性の問題:相手方の追加的な先行技術は発見されてい るか?当該特許は顕著な先行技術をすべて挙げているか? 言及されていない 先行技術は技術記録に追加されるか? 既知の先行技術は当該特許を無効にす るか? (b) 出願経過の問題はあるか? (c) 宣言証拠の問題はあるか? (d) 侵害:被疑製品を分析すると、文言上の侵害が認められるか、または均等理論 に基づく侵害か? (e) 反訴の可能性はあるか? 1 (f) クライアントの目的/目標: (1)仮差止命令を求める根拠はあるか? (2) 逸 失利益は損害賠償額に相応しいか? (3) 価格低下や価格引き上げ不能の証拠 はあるか? (4)市場シェアを喪失した証拠はあるか? (5) 受け入れられる非 侵害代替物がないことに関する証拠は何か? (6) 受け入れられるロイヤルテ ィの料率は? (7) ロイヤルティは、製品および「組合せ製品」の両方の販売 に基づいているか? (8) 不服申立をするとしても、裁判地選定を維持するた めにされて良いのか? (g) 裁判地について:ディスカバリー(証拠開示手続)の便、便宜、および陪審員 候補のような事項は特定の裁判地が有利か? (h) 保護命令/企業秘密/専有情報の問題はあるか? (i) 技術および経済専門家は特定され得るか? (j) 公表検討を含めて、顧客への訴訟に関する報告はあるか? (k) 何らかの合意または解決提案を含めて、当事者間の経緯(あれば)を調査する こと。 (l) どちらの当事者が訴えられている側か? 侵害被疑者にとって ライセンス供与、訴訟、または停止の予備判断は、利用可能な証拠や法的議論の公正 な評価に照らしてなされる。有効性や執行可能性に関し、侵害被疑者が利用できる証拠は、一 般に、当該特許に関する公開文書、出願経過、および先行技術である。侵害の可能性について は、侵害行為とクレームの文言(技術スタッフや技術専門家の協力を得て弁理士により解釈さ れる)との比較がなされるべきである。また、潜在的訴訟当事者は、特許侵害、独占禁止法違 反、特許不正使用、不正競争について、反訴の可能性も考慮しなければならない。これらの予 備評価(関連する経済問題や営業判断を含む)に基づき、潜在的訴訟当事者は、訴訟経過に関 し意思決定をする。 和解は、訴訟に代わる1つの方法である。ただし、和解に至ることが可能か否かは、 2 主として、特許権者の裁量次第である。何故なら、特許権者は、ライセンスを供与する義務、 あるいは法外な価格条件にならない範囲内でライセンスを供与する義務を負ってはいないから である。強制ライセンシングは米国には存在しない。侵害被疑者は、有利なライセンシング条 件を交渉するための態勢を取ろうとする。特許権者の戦略は、より高いロイヤルティや競争市 場における勢力回復を確保するために侵害被疑者に圧力をかけることである。 特許訴訟における和解は、「故意侵害」についての 35U.S.C. § 284 に基づく3倍賠 償の可能性を避けることができる。故意侵害は、「特許権者の権利に配慮することなく」ある いは当該特許が無効であるという「誠実な信念」なく侵害行為がなされるときに起こる。特許 法は、他人の特許権を侵害する可能性のある商業活動を開始する前に弁護士の客観的かつ適格 な助言を得る積極的義務を課している。故意侵害に対し増え続ける損害賠償金が一見善意の環 境において発生し得るところから、潜在的訴訟当事者は、特許訴訟において、より高額の損害 賠償金を求め、獲得する傾向が増大している点に鑑み、通り一遍でない入念な検討を行なわな ければならない。 故意侵害に対する高額の損害賠償金に加え、侵害被疑者は、特許権者の逸失利益、価 格低下、損害賠償裁定額に係る判決前利息、相手方の代理人費用、および何よりも重大な差止 命令に基づく法的責任に直面する畏れがある。 たとえ当該特許の有効性に対抗する強力な抗弁が成り立つとしても、特許権者を支持 する陪審員評決や差止命令の発行によってもたらされるかもしれない重大な結果のリスクを負 うよりも、条件が合理的な場合には、ライセンスの受諾を検討するほうが賢明な場合がある。 製品を商業生産に乗せる前に生産前侵害検討を実施することが、公正な商慣行のなか に盛り込まれるべきである。この侵害検討は、商業生産のための実質的支出をする前に、再設 計努力が必要な部分があれば、それを特定するものでなければならない。更に、製品設計のた めに適切な明確性を与える適格な侵害意見によって、故意侵害の認定や当該製品をめぐる訴訟 が軽減される。ただし、その意見は書面にて提示され、当該特許や侵害品の形式的な検討に終 ることなく、適格かつ徹底的な分析を反映するものでなければならない。それには、当該特許 の出願経過やクレームの解釈の可能性などの問題を慎重に検討することも含まれる。適格な助 3 言は、故意侵害と認定されるかもしれないリスクを実質的に少なくする。 侵害された知的財産事件の統計的データの価値は、判決された事件の特性をデータが 反映しているわけではないため、疑問である。平均して、米国の連邦地方裁判所には毎年 1,000 件を超える特許侵害訴訟が提起される。このうち、約 100 件がトライアル(事実審理) にかけられる。残りは、さまざまな理由から却下されたり、和解に持ち込まれる。相当数の陪 審および非陪審判決が連邦巡回控訴裁判所に控訴される。毎年、連邦巡回控訴裁判所は、地方 裁判所からの 100 件を超える控訴に決定を下す。一般的傾向から言うと、公平に見て、判決の 下った特許のうち、50%以上が最終的に有効と判決され、少なくとも 50%の事件において、 侵害が認定されていると言ってもよいだろう。 特許侵害事件に関連するリスク要因の完全な評価は、訴訟が提起されるまで不可能で あろう。何故なら、証拠の多くについて、ディスカバリーの完了まで知ることができないから である。しかしながら、なお、潜在的訴訟当事者は、訴訟に入る前に、証人や利用可能な証拠 の能力を評価することができる。例えば、侵害被疑者のために証言する証人は、複雑な原則の 意味を伝達したり、技術に精通しているわけではない裁判官や陪審員に対して事実認定者が主 題について理解することができるように自らの営業判断の根拠を説明することのできる優れた コミュニケーション能力が必要とされる。 特許裁判では、種々の問題に関する立証責任は、「証拠の優越」原則または「確信的 立証」原則に依る。「証拠の優越」原則によってある事実を提供する当事者が証明しなければ ならないのは、その事実の存在の可能性が存在しない可能性より「どちらかと言えば」高いこ とだけである。「確信的立証」原則の方が達成するためにより困難な基準であり、「優越」基 準と刑事裁判でおなじみの「合理的な疑いの余地なし」基準との間の中間に位置する。侵害の 立証責任は、優越原則に依っている。他方、侵害被疑者は、証拠の無効性や執行不可能性の問 題に関して、より高い立証責任(つまり、確信的証拠が要求される)を負う。無効性や執行不 可能性を証明するためのかかる高い立証責任によって、侵害被疑者は、強力な証拠を持たなけ ればならないことになる。そうでなければ、敗訴のリスクは単に受け入れがたいものになるだ けであろう。 4 さまざまなリスク、訴訟の費用および経費に加えて、訴訟は、訴訟当事者の役員や従 業員に対し大変な負担を課す。最大の負担は、戦略的事項に関する弁護士との協議や相手方当 事者からのディスカバリー要求への回答に要する膨大な時間から発生する。相手方は、証言録 取の準備をして、それに臨むために通常の任務や責務に費やす時間を割くことがなかなかでき にくい証言録取を受ける役員や取締役に狙いを定めるかもしれない。クライアントの役員や従 業員との協議は、証言録取の準備のためばかりでなく、当初開示やディスカバリー要求への対 応を準備するためにも必要である。協議セッションは、また、相手方や争訟の主題について知 り、訴訟や和解が取るべき方向を見定めるためにも必要である。通常、会社は、有効かつ適時 のコミュニケーションや準備を確保するために会社と弁護士との間の連絡役を果たすため 1 名 以上の職員を充てることが必要となる。 書類提出のため、一般に、従業員は、要請された文書を探索し、収集し、特定し、ま とめることが必要となる。このプロセスには数週間がかかり、ファイルや仕掛品を混乱させる ことがある。弁護士も会社の文書を審査し、営業および技術情報にマークをつけ、あるいは分 類し、完全に不適切な情報を修正し、弁護士・クライアント間の秘匿特権および弁護士が収集 した秘匿特権を有する情報を分類する。直接の競合者間の重要な特許侵害訴訟においては、数 万点に上る文書が提出のために処理されることも珍しくない。侵害被疑者の仕入先または顧客 との関係も、ディスカバリーによって影響を受けることがある。例えば、仕入先や顧客が、営 業への支障や不都合が避けがたい証言録取や書類提出のための召喚令状によって否応なく訴訟 に巻き込まれる可能性がある。したがって、訴訟の負担の中でも、特に、通常の営業活動への 支障、弁護士との協議やディスカバリー準備のための重要人物による相当の時間の投入、ファ イルの混乱、秘密情報の相手方への暴露(秘密保護命令が取得されない場合、ただし、取得さ れた場合でも、当該情報はなお、相手方代理人、裁判所、および専門家証人に対しては開示さ れる)、顧客および仕入先関係を損なう可能性、ならびに多額の代理人費用および経費が挙げ られる。 訴訟前の意見 特許訴訟は、敗訴の危険をもたらすのみならず、敗訴した「故意の」侵害者に対する 5 巨額の損害賠償金という追加的な危険ならびに相手方の訴訟費用や経費の支払をもたらすもの である。敗訴当事者が原告側の特許権者であるか被告側の侵害者であるかを問わず、「例外的 事件」および代理人費用の裁定は敗訴当事者行為に適用される。敗訴した特許権者は、事件が 「誠実」に提起あるいは告発されなかったことが示される場合、侵害被疑者の費用や経費に対 する法的責任を負う危険性を有する。特許権者または侵害被疑者に対する「悪意」の追究は、 敗訴当事者が弁護士の「適格な」意見を得て、これに依拠していたか否か(当該意見が最終的 に正しかったか、間違っていたかを問わず)によることが多い。 侵害意見の基本的要件は、侵害の懸念が存在しているか否かの問いから始まる。この 問いを特許権者が発するにしろ、侵害被疑者が発するにしろ、同一の基準が使用され、この問 いに答える法的意見をまとめるためには、どのような調査が必要で、どのような事項が検討さ れねばならないかが決められる。侵害意見の出発点は、クレームの解釈である。これは、意見 提出者は誰でも米国特許法に精通していなければならないということを示唆する。特許の範囲 に関して、専門家ではない人の意見は何の重要性も持たないからである。 クレーム解釈のための事実関係の基本的資料には、当該クレームの文言、特許明細書 の記述、ならびに当該特許の特許庁出願経過記録および審査経過記録(当該記録に挙げられた 先行技術の言及を含む)がある。侵害に関する適格な意見は、特許クレームの範囲を判断する ため、少なくとも上記の品目の検討に基づいていなければならない。特許クレームの適切な解 釈に達して初めて、被疑侵害装置や組成が当該クレームの範囲内に該当するか否かの問題を論 じることができる。 特許の1つのクレームの意味を決定する際には、他のクレームも検討しなければなら ない。独立クレームおよびさまざまな表現を用いた異なる従属クレームの存在は、クレームの 差異化原則に基づき他のクレームの意味や範囲に影響を与える。ある特許における異なるクレ ームは、通常、互いに異なる範囲を有すると解釈される。更に、クレームの個々の文言の意味 に関して、特許権者は、自らの辞書編集者であり、明細書は、さしずめ特許権者の辞書と言え よう。共通用語について、明細書は特許クレームに使用される共通用語に特別な意味を容れて いるはずはないと考えれば、彼らの辞書の定義は、妥当ということになる。したがって、特許 6 明細書を徹底的に読むことがクレーム解釈には欠かせない。 クレームの意味を求める次なる情報源は、当該特許の審査記録である。クレームの文 言がある意味を有し、その後のクレームで別の意味を有すると主張する論拠に基づいて、特許 の許可を願うことは法的にできないことは明瞭である。「審査経過禁反言」の最も明白なケー スは、先行技術拒絶を克服するために審査期間中にクレームが補正された場合である。この場 合、特許権者は、一般的に、特許の登録許可を確保するために補正して断念したクレームをク レーム解釈によって再獲得しようとすることはできない。 クレームが適切に解釈された後に来る問いは、クレームを被疑製品に関して読んでい るか?である。この段階の作業は、クレームの各限定要素が、適切に解釈されると、被疑製品 やプロセスに発見され得るか否かを判断することである。第一の問いは、各限定要素が文言上 被疑製品に発見されるか否かである。発見される場合、残された唯一の問いは、当該クレーム が有効であるか否かである。いかなる限定要素も被疑製品中に文言上発見されない場合、次な る問いは、当該限定要素が「均等理論」に基づき侵害されているか否かである。被疑製品が、 文言侵害されていないクレーム限定要素と「非実体的」に異なっている場合、侵害は、均等理 論に基づき発見されるかもしれない。非実体相違を示す1つの方法は、被疑製品が、同一の結 果を得るために、当該クレーム限定要素と実体的に同じ様に「実体的に同一の機能を果たす」 か否かである。 侵害の問題の分析を終えると、次の課題は、特許のクレームが有効であるか否かを判 断することである。クレームは侵害されていないと考えられる場合でも、特許の無効性の抗弁 を検討することなく訴訟に入るのは通常賢明ではない。同様に重要なことは、特許権者が侵害 を確信する場合、訴訟を提起する前に、有効性の問題に関する適格な調査や意見も必要となる ということである。 侵害をめぐる事実調査と違って、特許の有効性の問題は、重層的な調査である。クレ ーム、特許明細書、特許の審査記録について同様の分析が、特に特許の登録許可に異議申立を する何らかの理由があるか否かに傾注して実施される。有効性および侵害について判断する場 合、クレームに関し同一の解釈が用いられるべきであるということを念頭におかなければなら 7 ない。先行技術に関して、特許庁に記録のない先行技術があるか否かを割り出す目的で、以前 に実施した調査の再検討も実施すべきである。これは、特許の有効性に影響を与えたり、非衡 平的行為の嫌疑の根拠や執行不可能性の抗弁を形成するかもしれない。更に、米国特許庁に記 録のない、先行技術を探索するため、できるだけ広範な、追加的先行技術調査も実施すべきで ある。これは、クレームの有効性に影響を与えるかもしれない。最後に、主張され得る他の防 御が何かあるか否かを判断するために、当該発明の背景や展開について徹底的な検討が必要で ある。この調査の趣旨は、発明者要件における潜在的欠陥、当該発明の販売の先行申出や先公 共使用の証拠、当該発明の「最良の実施態様」の秘匿の証拠、その他、先行技術調査を通じて 得られた情報の補足のために有用であるかもしれない公開証拠を探索することである。 いかなる訴訟リスク分析も、侵害や有効性判断の域を超えたものでなければならない。 例えば、少なくとも下記の問題が問われるべきである。 (a) 当該特許はライセンス供与されているか否か。されている場合、ライセンス契 約に問題点はないか? (b) 当該発明がライセンス供与される場合、合理的なロイヤルティの根拠となるの は何か? (c) 販売において、販売高および成長率はこれまでのところどうであったか? (d) 全体的な市場動向および利益幅はどうか? (e) 会社の広告には何を使用し、何を訴えたか? (f) 業界誌は当該発明についての記事を載せたか?何が書かれたか? (g) 競合企業はどこで、その製品について、彼らの販売/マーケティング/広告慣 行はどのようなものか? (h) 特許権者は競合企業の買収を実施したり、試みたりしたことがあるか、ある いは、独占禁止法違反の防御の主張のための根拠を提出し得る何らかの行動過 程を実施したか? 分析結果を併せると、訴訟に進むべきか否かの判断の根拠を形成するためには十分な 情報があるはずである。投資および訴訟費用(国内と国外の両方)の規模を見積もり、潜在的 8 収益および損失の規模との釣り合いをとることができる。 訴訟の開始 A. 訴訟を提起できるのは誰か 訴訟を提起するには、原告としての「当事者適格」を有する法主体でなければならな い。当事者適格とは、訴訟の当事者となる能力を指す。特許の所有者または被譲渡人は、いつ でも訴訟を提起する当事者適格を有するが、ライセンシーの当事者適格は、多くの要因による。 例えば、独占的ライセンシーは、特許訴訟を維持する当事者適格を有するとみなされる。他方、 非独占的ライセンシーは、単独では、自らの名のもとで訴訟を提起する当事者適格を有さない のが通常である。したがって、非独占ライセンシーに関しては、通常、原告として特許権者が 含まれなければならない。 B. どこに訴訟を提起すべきか 事物管轄権に加えて、特許訴訟の原告は、当該裁判所が被告に対し「人的裁判管轄 権」を有していなければならないという要件も満たさねばならない。この要件は、被告が当該 裁判所と「最小限の接触」を有さなければならないということである。被告に対する人的裁判 管轄権は、被告の会社が設立された地域または被告が製造工場や販売施設を有する地域にある 可能性がある。侵害製品以外に被告の存在を示すものは何もない法廷地で侵害製品が見つかっ た場合、人的裁判管轄権について、より難しい問題が発生する。 人的裁判管轄権が複数の裁判所で成立し得る場合、原告がどの裁判所に訴訟を提起す るかの選択権を有する。ただし、原告は、裁判地要件を満たさなければならない。裁判地規則 の趣旨は、被告にとって不便な土地で被告が弁論しなければならなくことを防ぐことである。 裁判地についての準拠規則は2つあり、一般的な裁判地については、28 U.S.C. § 1391、特 許に関する裁判地は 28 U.S.C. § 1400(b)に定められている。 法人の被告に関しては、裁判地要件は、設立州、会社の本部の所在地、または被告の 営業地であって、かつ侵害を構成する行為の実施地である地域において当該法人を訴えること によって満たされる。ただし、個人については、当該者が居住し、または侵害行為をなし、か つ、通常の確立した営業場所を有する法廷地のみが適格な裁判地となる。 9 裁判地として不適格な地域において特許訴訟が提起された場合、裁判所は、当該訴訟 を却下するか、裁判地として適格な地域に訴訟を移管するであろう。被告が適時に裁判地に対 して異議を申し立てない場合、裁判地に関する権利は放棄され、裁判所が両当事者に対し人的 裁判管轄権および事物管轄権を有する限り、事件が進められる。裁判地が技術的に適格性を有 している場合であっても、法廷地によって不便を被っている当事者は、提訴が容認されるその 他の法廷地に当該事件が移管されるよう、28 U.S.C. § 1404(a)に基づき裁判所に申立を提出 することができる。不便な法廷地の申立を認めるべきか否かの判断において、裁判所は、過半 数の証人の便宜、提案されている裁判所で公正な裁判が行なわれる場合の利点と弊害、迅速で 比較的費用のかからない裁判のためのその他の要素に傾注する。 C. 誰が被告となり得るか すべての侵害当事者は、いかなる侵害に対しても、各自連帯して責任を負う。各自連 帯して責任を負う被告は、裁定された損害賠償金の全額に対して各自責任を負う。このように、 特許権者は、単独の侵害者を訴えるか、製造業者、販売業者および顧客を併せて共同被告とし て訴えるかの選択権を有している。唯一の限定要素は、特許権者が損害賠償金の全額を一度だ け回復できるということである。特許権者が侵害装置の製造業者を訴え、損害賠償金の 100% を当該製造業者から回復した場合、当該特許権者は、次に販売業者を訴えて追加の損害賠償金 を取り立てることはできない。 特許権者は、寄与侵害者および侵害を誘発する個人や法人を訴えることもできる。異 なる裁判管轄地において複数の訴訟が係争中である場合、特許権者は、先ず、主要な侵害者を 相手取る訴訟を進め、主たる侵害訴訟の判決が完全に下るまで、二番目の侵害者を相手取る訴 訟を停止する。この原則は、二番目の侵害訴訟後に主要な侵害者を相手取る訴訟が提起された 場合にも通常適用される。かかる場合に、停止が認められるか、拒否されるかに関し、衡平の 原則が考慮され、衡平が求められる場合には、一般原則は無視されるであろう。 ほとんどの場合、法人の取締役、役員、株主、および従業員は、法人に対する侵害行 為の責任を個人的には負わない。ただし、当該法人に関係する個人が積極的に侵害を誘発また は奨励した場合、当該個人は個人的に責任を負う。. 10 規則により別段の要求がなされる場合を除き、申立は、検証が必要とされることも、 宣誓供述書の添付が求められることもない。ただし、連邦民事訴訟規則の規則 11 により、当 事者が代理人によって代表されない場合を除き、各訴答書面には 1 名以上の代理人の署名を必 要とする。代理人の署名は、代理人が当該訴答書面を読了したという表明であり、また、自ら の知識、情報、信念に照らして、それを支持する相当の根拠があり、当該訴答は、遅滞なく提 出されたという表明である。近年、裁判所は、規則 11 の遵守について以前より厳格になって おり、弁護士/クライアントが不真面目な、あるいは価値のない訴答書面を提出したことに対 し制裁されている。 D. 訴状 訴訟は、原告が裁判所に訴状を提出するときに始まる。訴状は、通常、召喚状と共に 提出され、この 2 つの文書は、次に、被告に送達される。規則 4 は、訴状が提出された後 120 日まで、被告への送達を延ばすことができるとしている。この期間は、原告が和解の選択肢を 求める/評価するために使用することができる。訴状が提出されると、裁判所の書記は、当該 事件に事件整理(ドケット)番号を割当て、事件ファイルを作成する。裁判所の現地規則に基 づき、訴状が提出されると、通常、当該事件は連邦判事に無作為に割当てられる。当該判事は、 裁判期間中、当該事件を取り仕切る。また、多くの裁判所が下級判事制度を有しており、下級 判事も事件に配属され、通常、日常的なディスカバリーに関する事項を担当する。 訴状には、次の事項が記載される。 (1)裁判管轄権の依って立つ根拠に関する簡潔な 陳述; (2) 申立人が救済を受ける資格があることを示す主張の簡潔な陳述;および (3) 申立 人が求める救済に関する判決の要求。訴状は、主張についての簡単な陳述でよい。連邦規則で は、訴状は被告に対し、原告の苦情を「通知」すれば十分である。一般に、訴状には当該主張 における各要点を支援する事実が主張されるべきである。 原告が求める救済について具体的な申立がなされなければならない。原告は、該当す る場合、差止による救済、補償的損害賠償、故意侵害のための損害賠償、ならびに代理人費用 および経費を申し立てる。特許訴訟において可能な救済形式の中には、35 U.S.C. § 284 に 基づく損害賠償金が含まれる。これは、合理的なロイヤルティまたは逸失利益の額以上でなけ 11 ればならない。逸失利益は、特許権者が、侵害が「なければ」生み出せたであろう利益、市場 に侵害者が存在したことによる価格低下によって失われた実際の販売高における逸失利益、ま たは売上見積りからの逸失利益から割り出すことができる。故意侵害の場合、損害賠償金もま た、裁判所または陪審員団により算定された額の 3 倍まで引き上げることができる。特許権者 は、また、当該侵害からの、判決前利益、第 285 条に定められたところにしたがい代理人費用、 および該当する場合、差止による救済を要請すべきである。 特許庁の面前における非衡平的行為は、具体的に申し立てられるべき詐欺の1つであ る。非衡平的行為を主張するだけでは不十分である。訴状が提出される時点で、主張されてい る非衡平的行為の基になっている事実についての原告の知識が不十分な場合、訴状に当該非衡 平的行為を記載すべきではない。むしろ、「詐欺を構成する状況」を申し立てるための詳細性 基準を満たすことのできる具体的な情報が明らかになった時点で、当該申立を補正すべきであ る。 陪審審理が求められる場合、規則 38 にしたがって要請されねばならない。何れの当事 者も陪審審理を要求することができる。この規則によると、それぞれの陪審審理の要求は、 「訴訟開始後の何れかの日であって、係争点に対する最後の訴答書面の送達後 10 日以内に」 なすことができる。 E. 答弁書 連邦民事訴訟規則の規則 12 によると、召喚状および訴状の送達後 20 日以内に、被告 は自らを弁護する答弁書を提出する必要がある。答弁書には、訴状に記載された主張に関する 自らの立場を記載しなければならない。応答的訴答には、すべての積極的抗弁を挙げなければ ならない。当該特許の非侵害、侵害責任の排除、執行不可能性、特許の無効性、および 35 U.S.C. § 112 の不遵守などの抗弁がなされなければならない。 答弁書において、被告は、反訴として、原告に対して有するいかなる申立も主張すべ きである。被告は、原告が主張する特許の無効性および非侵害の宣言的判決を求めて反訴を記 載することが多い。このステップは、原告が訴えを一方的に取り下げることを防ぎ、したがっ て、非衡平的行為によって確保された、あるいは規則 11 に違反して提出された特許に基づく 12 訴訟によって損害を被った被告に交渉効力を与える。訴状と同様に、反訴には、裁判管轄権に 関する反訴理由が述べられ、被告の反訴が如何なるもので、その反訴が如何なる根拠に立脚し ているかを原告に通知するための短い陳述が記載されている。 第三者に対する交差請求も規則 8 によって認められている。特許訴訟における最も一 般的な交差請求は、補償を求めるものである。 反訴に対しては応答が必要である。被告の反訴に対する応答は、被告の答弁書の送達 後 20 日以内に送達されなければならない。 規則 12 により、被告は、申立により幾つもの抗弁が認められる。適切な場合、侵害被 疑者は、却下の申立または移管の申立を提出することができる。裁判所は、事件を却下するよ り、裁判地が適切な地域に事件を移管することの方を好む。 また別の戦略として、例えば宣言的判決訴訟のような独立した訴訟を提起して、移管 および併合の促進のための根拠を提供する方法もある。 宣言的判決訴訟 宣言的判決訴訟は、28 U.S.C. § 2201 に基づき、特許訴訟の潜在的な被告が、訴訟 提起においてのイニシアティブを取り、非侵害、執行不可能性、または無効性の宣言を求める ことによって、原告になることを可能にする。宣言的判決を求める際の主要な要件は、両当事 者間に現実の紛争が存在することである。例えば、主張されている侵害は単なる思惑や予想で あってはならない。更に言えば、潜在的な被告は、特許権者が訴訟を提起するであろうという 合理的な予測を持っていなければならない。これは、通常、特許権者がその特許権を行使しよ うとするであろうという合理的な予測に基づき宣言的訴状を提出するために、現実のまたは暗 黙の侵害嫌疑がなければならないことを意味する。 大半の宣言的判決訴訟は、潜在的な被告によって提起されるが、特許権者による潜在 的判決訴訟も、稀ではあるが、知られていないわけではない。将来、侵害しようと準備してい る者を相手取り特許権者が宣言的判決訴訟を提起することもあり得る。実質的な準備および緊 急性について十分な疑惑があれば、特許権者は、将来の侵害者を相手取り宣言的判決を求める ことができるはずである。 13 紛争解決手続きの選択肢 A. 調停 調停において、公平な第三者、すなわち「中立者」が両当事者により選ばれ、紛争の 解決を支援する。このプロセスは、一般に、私的で自発的なものである。中立者は、如何なる 意思決定もせず、合意や条件を強制する何の権限も有さない。中立者は、先ず両当事者と一緒 に、次は別々に会って、互いの提案を伝えるために外交官のような役割を果たし、両当事者が 敵対的でない環境の中で相互に合意できるようなビジネス上の結果に到達するよう全般的に支 援することができる。 B. ミニ・トライアル ミニ・トライアルは、調停よりやや正式なものである。ミニ・トライアルでは、両当事 者がそれぞれの主張の実体について、和解交渉の際に助言や支援をする中立者に提示すること が必要となる。通常、何れの側からも上級のエグゼキュティブが直接交渉のため出席すること が必要となり、また、弁護士の意見に関係なく当該紛争を評価することも必要となる。中立的 助言者は、それぞれの主張の実体に関し、また、裁判結果の予想に関し実質的な見解を披瀝す るよう求められるであろう。合意が成立しない場合、このプロセスの一切は、その後の法的手 続において証拠能力のない極秘事項として取り扱われる。 C. 簡易陪審裁判 これは、主としてもっと複雑な事件を想定したものであり、現実のトライアル(事実 審理)とほぼ同じ方法で選ばれた「陪審員」団に対し、弁護士の簡易意見書の提示や予想され る審理証拠の検討のテクニックが必要となる。審議の後、「陪審団」は、両当事者の要請にし たがい、拘束力のない単数または複数の評決を下す。この評決は、当該事件についての独立し た、実質的な評価を与えるものである。後で行われる和解交渉のため、また、証拠の実体や代 理人の意見書の説得力に関し陪審員の質問があるかもしれないため、当事者本人の主要な代表 者の出席が期待される。 D. 中立的な専門家の事実認定者 14 特許事件においては、争点が特定の技術的な問題に依りがちである。この手続では、 証拠に基づいた双方の提示を審理した後、拘束力のあるもしくは拘束力のない事実認定をする 独立した中立的な専門家の意見に両当事者が同意する。この方法は、両当事者が自らの主張の 相対的な力を再検討し、時間のかかる訴訟やトライアルを避けて和解に至るよう導くものであ る。 E. 早期中立者評価 この手続は、双方による実体についての簡潔な提示を審理し、費用、ディスカバリー、 相対的実体など、諸々の側面から事件を分析し、和解に貢献する中立的かつ経験豊富な弁護士 または下級判事の任命を必要とする。中立者は、通常、事件の結末の予想について最初の率直 な評価を提供する。ディスカバリーの簡素化にも貢献するかもしれない。 F. 仲裁 仲裁は、通常、紛争前の契約に起因し、両当事者の相互合意によって、いつでも始め ることができる。通常、1 名ないし 3 名の仲裁人(「パネル」)が選ばれ、トライアルよりは 略式であるが、上記の各手続より正式な手続で証拠を審理する。パネルは、(意見書を付して、 または意見書を付さず)拘束力のある判断を下すが、これには、上訴の選択権がなく、裁定判 断の登録によって執行が可能となる。限定的ディスカバリーのためのおよび証拠受領のための 制定されまたは修正された規則を適用するさまざまな仲裁テクニックがある。このプロセスは、 正式の法廷訴訟に比べ、短時間で、簡単で、費用がかからないことを意図している。 G. 私的判事 下級判事または「雇われ判事」手続は、連邦手続の形式や証拠規則を守り、現実の法 律に即しながらも、迅速な審理を提供し、訴訟事件表に示されるような混雑を回避するもので ある。下級判事または私的判事の意見および判断は、裁判所自体の意見および判断として提出 され、受け入れられることができ、したがって、完全な上訴権が留保されている。 第 II 節: ディスカバリー・プロセス 審理前ディスカバリーは、両当事者が、事件の争点に関し相手方の事実および論点に 15 関する情報を収集することを意図する、訴訟の段階である。ディスカバリーでは、証拠能力の ある証拠が開示されると合理的に予想される物なら何でも求めることができる。ディスカバリ ーの期間(一般に6ヵ月ないし 12 ヵ月以上)は、裁判所のスケジュールにより、裁判所が定 める。 連邦民事訴訟規則は、相手方および第三者から情報を取得するために使用され得る幾 つかのツールを定めている。これらのディスカバリー・ツールの一般的な解説を以下に記載す る。 A. 質問書 これは、一方の当事者が他方当事者に送付する質問書であり、これには宣誓して答弁 されなければならない。当事者は、知られている事実に関してのみならず、合理的に入手可能 な事実に関しても応答しなければならない。質問書は、精通している個人、製品の識別、製造 日、その他の関連情報を含む情報を取得するために役立つ。通常、質問書は、事実質問書、論 点質問書、および専門家質問書に分類される。 事実質問書は、文書の位置にしたがって、特定の業務を遂行した人の氏名および住所 を入手するために有用である。論点質問書は、トライアルや和解交渉のために主張事実を準備 する際に有用である。例えば、特許権者に対して、ある先行技術を克服するに十分早い発明日 を示す事実を述べるよう求めたり、ある特許のクレームと先行技術引例との相違を明示するよ う求めたりすることは適切であろう。同様に、被告に対して、被疑製品と当該特許のクレーム とを識別するために主張される相違を説明するよう求めることは有用である。専門家質問書は、 要求された専門家報告書を受け取る前に、相手方の論点を予告するものとなる。 B. 書類および財産の要請 これは、要請当事者による閲覧やコピーのため、訴訟の争点に関係がある(または訴 訟の争点に関係がある事物の開示に導く)かもしれない(秘匿特権のない)一切の書類を提出 するよう一方の当事者から他方当事者へなされる要請である。構内および装置の検査も認めら れると思われる。 書類要請は、最も有用なディスカバリー・ツールである。書類要請では、具体的な書 16 類を特定することもできるが、通常は、書類のカテゴリーを述べることが多い。書類提出の規 則では、書類を提出するために 2 つの選択肢が認められている。書類は、「通常の業務の過程 で維持されているとおりに」提出されるか、あるいは書類要請におけるカテゴリーに応じて整 理され、ラベルを付されて提出されるかである。 書類は、規則 45 に基づく召喚状により第三者から入手することもできる。この規則は、 単に書類の提出を要求する召喚状を許可しているが、この召喚状は、それが送達された人に対 し出頭して、同時に証言してくれるよう要請することもある。 書類の閲覧の許可に加えて、規則 34 は、規則 26 の基準に基づき関係のある財産の閲 覧、コピー、試験、またはサンプリングについて定めている。これは、機械、製品、その他有 形財産が関与することが多い特許事件において重要であろう。規則 34 は、検査その他の目的 による立入についても定めている。これは、相手方の工場、機械、および施設を検査すること ができることを意味する。 C. 認否確認申請書 これは、疑う余地のない事実の認否確認を取得するために使用される事実陳述書であ る。応答当事者は、知識および誠実性に基づき回答しなければならない。 D. 専門家報告書 規則 26 により、当事者は、「専門家証言を提供するために在職し、または特に雇用さ れた」者または「当該当事者の従業員としての任務が専門家証言を提供することを恒常的に伴 う」者に代わって専門家報告書を提供するよう求められる。報告書には、表明されるべき意見 陳述、それの根拠および理由、意見を構築する際に専門家が検討したデータその他の情報、使 用された何らかの証拠、専門家の資格、専門家に支払われる報酬、および専門家が証言した事 件のリストを記載しなければならない。 E. 証言録取 証言録取は、証人(専門家証人および訴外証人を含む)の口頭証言を取るための手続 である。米国のどこであっても訴外証人については、規則 45 に基づき召喚状を発行すること ができる。法人の証言録取は、特定の事実または問題について精通している人物として当該法 17 人が指名した者を通じて、規則 30(b)(6)に基づき取ることができる。証言録取は、トライア ルの後半で証言する証人の証言を弾劾するためによく使われる。 F. 保全命令 会社の業務の多くには、秘密保持、企業秘密、その他の機密専有情報が関与している。 したがって、いずれにしても秘密情報または専有情報である書類や資料を提出する前に、両当 事者は、相応しい保全命令について協議しなければならない。この保全命令は、秘密保持、企 業秘密、専有情報などが当事者にいかに取り扱われるべきかを規定するものである。この保全 命令は、かかる情報の開示を受けることができる者を限定し、相手方当事者の従業員に対する 秘密情報の開示を禁止することができる。保全命令が、秘密情報を見ることができる者を具体 的に特定している場合も多い。例えば、ある当事者の特許実施業務に関与しておらず、当該当 事者の経営や業務上の意思決定の責任者でもない社内代理人が保全命令の中で指名されて、相 手方の秘密情報の開示を受けることは、許されることである。保全命令は、双方の弁護士およ び当事者により雇われた独立した専門家への開示も認めている。保全命令は、書類を少なくと も 2 つのカテゴリーに分けている。極秘書類の開示は、社外弁護士および専門家証人のみ受け ることができる。これ以外の秘密書類の開示は、相手方当事者の選ばれた従業員が受けること ができる。 G. 秘匿特権の請求 秘匿特権を有する資料(すなわち、代理人とクライアント間の通信、および訴訟を予 期して代理人または当事者が準備したワーク・プロダクト)を保留することが可能である。た だし、保留当事者は、保留されることになる書類、通信、または財産の性質を述べ、相手方が、 請求された秘匿特権の適用性について評価できる十分な情報を提供しなければならない。一般 的に、保留されている秘密情報を漏洩することなく、著者および当該書類またはコピーを受領 した全員の氏名、日付、当該書類の主題を提供することが必要となる。 規則 26 により要求される開示 規則 26 は、 相手方の正式な要請を待つことなく、書類の情報の開示を要求する。要 求される開示には、訴答書面で主張されている真偽が問われている事実に関連する開示可能な 18 情報を有する個人の特定、訴答書面で主張されている真偽が問われている事実に関連する書類 のコピー、損害賠償金の算定、保険契約の開示、およびトライアルで証言するであろう専門家 証人の氏名が含まれる。 証言録取の理由 口頭の証言録取では、代理人は、証人に質問し、証人の質問と答の両方が速記その他 の方法で記録される。手順は、判事も陪審員もいないことを除けば、法廷での尋問に似ている。 口頭証言録取は、尋問代理人に適度の奇襲の機会を与え、そのため、証人が前もって準備した 応答をする可能性を減らすことができる。証人が与える回答によって、証人が状況の事実とは 違う論理や戦略を練り上げる機会を持たないうちに、全く新しい探索可能な尋問分野が開かれ る可能性がある。 証言を録取する然るべき理由には、下記のものが含まれる。 (a) 相手方の主張の強みおよび弱みの発見、例えば、侵害クレームまたは無効性抗 弁の根拠となる事実、ならびに証人の質および信頼性 (b) 相手方当事者の地位に関する言質、重要な争点に関する知識の有無に関する言 質 (c) 書類の真正性証明、先行技術の開発などを含めて、トライアルで使用するため の事実発見および証拠入手 (d) トライアルにおいて、後で使用するための証言の証拠保全 (e) トライアルにおいて使用するための弾劾や有効な反対尋問の資料の取得 (f) 略式判決申立、有利な和解、または判事もしくは陪審員の面前における勝利を 支援する目的に反する告白の確保 (g) トライアルでの予想外な展開を回避し、訴訟の争点を絞るため、相手方のスト ーリーの把握。 ディスカバリーの証言録取は、証人を教育し、ストーリーに関与させる効用の方が、 相手方にあなたの主張が知られることより価値がある場合にのみ、実施されるべきである。更 19 に、費用便益分析によって、証言録取することに合理性があるかどうかを判断しなければなら ない。ディスカバリーの他の選択肢– – – 例えば、書類の提出要請、認否確認要請、質問書な ど– – – の方が、トライアルに備えて、口頭による証言録取よりも費用効果が高いかもしれな い。証言録取に着手する前に、その目的が何かを考える必要がある。証言録取によって相手側 から得られる知識の有無に関する告白または言質が、略式判決における勝敗の分かれ目となる ことがある。略式判決申立に反対しようとしている当事者にとって、略式判決を要求している 方の当事者のために提出された宣誓供述書に関してより、自身の証言録取の証言に関して必要 な事実問題に関する争点を生み出すことはもっと難しい。各当事者ができる証言録取の数には 制限があるので、証言録取をするかどうかの選定には選択能力が必要である。 法人は、尋問時にその資格にて行為する役員または経営代理人を通じて、規則 30(b)(6)に基づき、尋問を受けることができる。規則 30(b)(6)の証言録取の通知には、尋問 に要請される事項が詳細に記載されていなければならない。規則 30(b)(6)の証言録取の通知 に対して、法人は、証言録取通知に特定された尋問事項に応答するための役員、取締役、経営 代理人、またはその他の者を指名しなければならない。 現在、当事者が録取できる数は 10 以下で、各録取がそれぞれ 7 時間を超えてはならな い。更に、当事者は、以前録取した証人に再尋問することはできず、裁判所の許可なくまたは 両当事者による約定なく、規則 26(d)に規定されている日程より前に証言録取することもでき ない。規則 30(b)(6)の証言録取は、証言するため複数の人が指名されている場合であっても 1 つの録取と数えられる。録取の制限やディスカバリーの日程設定には、当初ディスカバリー期 間中、両当事者間の協力を進めようという意図がある。 通常、証言録取に最適な場所は、あなたが管理している場所である。書類その他の物 的証拠がすぐに手に入る相手方の工場や製造施設で録取するのが便利な場合もある。原告が非 居住者である場合、訴訟が提起された法廷地での録取に応じるよう原告に求めることができる というのが、裁判所のこれまでの一般的な見解である。非居住者の証人への召喚令状は、裁判 所から証言録取の予定地– – – 通常は証人の住居の近く– – – に対して発行しなければならな い。反論が予想される場合、証言録取をビデオテープ録画するのが証人やその弁護士を冷静に 20 する上で有効であり、また、証人が出廷できない場合や召喚令状の支配が及ばないときに、そ の証言が法廷で使用されると有効な場合もある。 十分な準備と整理が証言録取の成功の鍵である。証言録取で与えられる証言は、訴訟 の最終結果を決する可能性があるので、代理人は、慎重に準備し、各証言録取の目標や目的を 定めなければならない。一般に、準備には、下記が含まれるべきである。 (a) 訴答書面、実体法、およびクライアントによって提供され、または調査中に入 手したすべての情報を検討することによって、訴訟に関する事実および法的問 題についての詳細な知識を得ること。 (b) 代理人が扱おうとしている問題の要点を略述すること。ただし、予定している 各質問をそのまま書き記すことは避けるべきである。尋問において臨機応変で 自発的な対応をする代理人の能力が損なわれるからである。 (c) 尋問の過程で使うつもりのすべての書類または論証的証拠を検討、整理、特定 すること。 (d) 録取される人の経歴や気質に関しできるだけ多くの情報を入手すること。およ び (e) 別の証言録取においてなされた当該証人についての言及を整理し、自分のもの とする。 第 III 節: 実体的な審理前申立 申立は、どんな救済を要請しているのかを簡潔に記載した書面にてなす。申立書には、 要請されている救済を裏付ける法律のメモランダムを添付する。書類による証拠、証言録取記 録、訴答書面、宣言書もしくは宣誓供述書、またはディスカバリー応答書を申立書と共に提出 することができる。当該申立に異議を唱えている当事者は、要点およびその申立が認められる べきではない理由を規定する典拠のメモランダムを提出する。これにも証拠を添付することが できる。裁判所の規則により、申立当事者が異議申立書に対する「回答」を提出できる場合も ある。更に、非申立人は、同じ法律問題に関し、反対の救済を求める反対申立をすることがで 21 きる。注目すべきは、申立は陪審によって決定を下されることはなく、常に、裁判官によって 決せられることである。 22 分離審理の申立 特許訴訟においては、トライアルを二股に分けるためのまたは分離審理のための申立 がよく見受けられる。F.R.C.P. 42(b)により、裁判所は、請求、交差請求、反訴、または何ら かの別個問題に関し、一方当事者に生じる不利益を回避したり、紛争を迅速かつ経済的に解決 するために、便宜上分離審理を実施することができる。 分離の申立には、規則 26(d)に基づき、当該争点に関するディスカバリーを分離のた め停止するよう要求する申立が伴なうことがある。争点を分けて解決することによって全体の 紛争が処理される場合、その後の審理およびディスカバリーについて争点を分けることが妥当 であるかもしれない。特許訴訟において決定的な問題の例としては、特許を無効にするであろ う先行販売または公共使用があったか否か、ならびに新規性の欠如に関する問題、禁反言、懈 怠、非衡平的行為などが挙げられる。 特許事件における責任および損害賠償金の問題を分ける申立はしばしば提出され、認 められることがあるが、実体的ディスカバリーの前であることが多い。分離の申立は、損害面 に関するディスカバリーの停止を要求する申立を伴なうことが多い。特許権者が侵害に対する 責任を立証していない場合、訴訟は損害賠償問題を掘り下げることなく、時間および費用を実 質的に節約して終る。 申立人は、特許権者であるか侵害被疑者であるかを問わず、裁判所にとっての便、権 利侵害の回避、および/または訴訟費用の節約を示す必要がある。更に、分離申立に関する決 定は、裁判所の裁量である。裁判所が分離の判断をすべきか否かに関する問題について、連邦 地方裁判所から出された下記の所見が参考となる。: 責任および損害賠償の問題の分離は、審理における首尾一貫性および訴訟費用の節約 を促進する場合、妥当である。事件の被告の責任問題に関する予備調査結果によって、 損害賠償尋問の必要がなくなり、裁判所や弁護士にとって実質的な時間の節約になり、 当事者にとって大きな費用の節約となる。更に、責任問題に関して原告側が勝訴する 場合、被告は、[…]裁判を長引かせることを避け、損害賠償金を決着させるのも良い かもしれない。ただし、事実が複雑に錯綜していて、分離するのは不可能であったり、 明らかに原告に対し不公平であったりする場合、分離審理は相応しくない。 問われるべき最初の質問は、審理の対象となる各争点が明確に別個の問題であるか否 かである。損害賠償問題を有効性/侵害問題から切り離す申立に関し、特許権者が「逸失利 23 益」または「合理的なロイヤルティ」理論に基づき損害賠償金を求めるか否かを問わず、ほと んどの場合、上記の質問への回答は、(別個の問題ではないという)否定的な答である。通常、 証人も書類も、有効性/侵害問題に関する審理区分と損害賠償問題に関する審理区分は区別さ れる。つまり、有効性/侵害問題は技術的問題であるが、損害賠償問題は明らかに金銭的問題 であるということである。しかしながら、商業上の成功の証拠は、有効性と損害賠償金の両方 に関係する可能性がある。同様に、模倣品作成の証拠は、有効性、損害賠償金、および故意侵 害に関係する可能性がある。したがって、有効性/侵害問題が損害賠償問題と重なり合う場合 があるのである。 もうひとつの問題は、当該争点が陪審審理によるべきか、裁判官によって審理される べきかである。裁判所は、訴訟費用の節約を維持したいため、陪審審理による分離審理を好ま ない。特許権者が、争点の根拠となる事実問題の決定を伴ないがちな「故意侵害」を論点にし ている場合は、特にそうである。他方、裁判所は、複雑な事件において陪審の混乱を避けるた め、損害を責任問題と分離したがることがある。 もうひとつの問題は、分離に異議を唱えている当事者に対する権利侵害が分離によっ て生じるか否かである。ディスカバリーの遅れが、この場合の潜在的権利侵害の主要な原因と なる場合、たとえ分離審理が許可される場合であっても、裁判所は、損害のディスカバリーを 責任段階中、継続することを認めることがある。このような状況は、潜在的に分離し得る争点 についての審理中の証拠が、別の争点に関する当事者の立場に不利益を与える状況においても 起こることがある。例えば、特許事件における故意性の証拠が責任に関する陪審員の審理に影 響を与えることがある。潜在的損害の証拠に関与する争点を分離することは、潜在的不利益を 避けるために妥当な場合がある。 前にも述べたように、分離審理および/またはディスカバリー停止の申立の許可また は棄却は裁量により決定される。したがって、裁判所は先例の決定を参考にすることが多いか もしれないが、通常は、自らの優先順位にしたがい、かかる申立を処理すべきである。 予備的差止命令の申立 特許権者が利用できるかもしれない救済の一形式は、事件の係争期間中、侵害被疑者 24 に侵害被疑活動の継続を禁じる予備的差止命令である。特許事件における予備的差止命令は、 35 U.S.C. § 283 により認められる。この法律は、「本法に基づく事件の管轄権を有する裁 判所は、衡平の原則にしたがい、特許により確保された権利の侵害を防ぐため、裁判所が合理 的とみなすところにしたがい、差止命令を認めることができる」と規定している。特許法によ り与えられている主要な価値は、他人が当該発明品を製造、使用、販売することを排除する権 利であるため、かかる特別の救済が与えられる。(35 U.S.C. § 154)(金銭的な救済が特許 法により与えられる唯一の救済だとしたら、差止命令は不要となり、訴訟が継続する限り、侵 害者は、強制的ライセンシーとなる。) A. 予備的差止命令の発行の根拠 連邦巡回控訴裁判所は、予備的差止命令を承認することが適切か否かの判断に、以下 の 4 要素の均衡テストが適用されるべきだと判決している。 (a) 特許権者が本案に関し勝訴の合理的な可能性を有しているか否か。 (b) 差止命令が棄却される場合、特許権者は回復不能な損害を被るか否か。 (c) 予備的差止命令が発行されなかった場合に特許権者に与える損害は、申立が承 認された場合に他方当事者に与える損害を上回るか否か。および (d) 予備的差止命令の承認は、公共の利益に資するか否か。 連邦巡回控訴裁判所は、これらの要素の重要性を評価する際に、「衡平法によれば、 何れの要素も決定的なものではなく、他の要素と相対的に、また、要求されている救済に対し て、評価するべき」と述べている。 1. 本案に関する勝訴の可能性 予備的差止命令により与えられる救済の特殊性のため、特許権者は、侵害、または侵 害被疑者により主張されている無効性もしくは執行不可能性の抗弁につき、本案に関する勝訴 の合理的可能性を示さねばならないという責任を担う。この責任は、審理における立証責任と は異なる。この立証責任は、明白かつ説得力を有する証拠によって無効性および執行不可能性 を証明するよう、特許の有効性に異議を唱えている当事者(すなわち、侵害被疑者)に課すも のである。 25 連邦巡回控訴裁判所は、本案に関する勝訴の可能性の「明確な提示」を求めている。 連邦巡回控訴裁判所の説明によれは、申立人に課せられる責任は、特許事件において、他の知 的財産の場合と同様、一般に、明確な提示が1つだけ要求される。 予備的差止命令の要請は、特許訴訟の早い段階で承認または棄却される。このような 予備的段階において、裁判所は、有効性、執行可能性、および侵害の実体的問題を解決してい ない。それどころか、裁判所は、証拠の説得力に関し評価するが、ディスカバリーの中でもっ と十分に探索され、審理で詳細に検討されるはずの証拠の恩恵なく、この作業をすることを認 めざるを得ない。したがって、申立人に有効性を証明する責任はないとは言え、申立人は、侵 害被疑者の抗弁が実体を欠いていることを示すべきである。 35 U.S.C. § 282 に、「特許は、有効であると推定されるべきものとする」および 「無効性を確立する責任は、無効を主張する当事者にあるものとする」という規定がある。ト ライアルでは、無効性を確立する責任は、有効性に異議を唱えている当事者に課せられ、異議 当事者は、明白かつ説得力ある証拠によって、主張されている各クレームが無効であることを 示す責任を負う。侵害被疑者が、予備的差止命令の審問で有効性に異議を唱えるのは通常のこ とである。無効性を裏付けるために提示された証拠が実体的問題を挙げている場合、予備的差 止命令を求めている申立人は、有効性の推定のみに依存することはできず、それだけでは、勝 訴の可能性を決定する際に「評価され」得る証拠とはならない。推定は、証拠を挙げる責任お よび侵害被疑者にトライアルにおいて主要な立証責任を課す手続的手段である。 予備的差止命令を求める特許権者は、次の3つの方法のうちの何れかによって特許の 有効性の十分な提示をすることができる。 (a) 特許の有効性に関する公共の黙認 (b) 以前の 特許有効判決、または (c) 特許の有効性を裏付ける技術的証拠。 a. 公共の黙認 公共の黙認は、特許権者が多年にわたって当該特許取得製品を製造し、使用し、また は販売し、その間、競合者はその製品を製造、使用、または販売を差し控えたという状況で示 される。公共の黙認の更なる証拠は、競合者が特許権者から先ずライセンスを取得しないで特 許取得製品を製造したり、使用したり、または販売したりすることを差し控えた場合に存在す 26 る。公共の黙認の証拠は、他の状況証拠により裏付けられることができ、または反証されるこ とができる。例えば、特許取得製品の長年の商業的成功、業界における熾烈な競争の存在、お よび業界で長い間感じられていて満たされなかった製品必要性は、公共の黙認によって生じた 有効性の推論に影響を与えるに違いない。しかしながら、公共の黙認は、特許が有功であると いう公共の認識に基づくべきで、他の理由であってはならない。例えば、分かりやすい事例を 挙げると、ある事件で地方裁判所は、特許権者の競合者が特許を侵害することを当初差し控え たのは、新規参入するには市場が小さすぎると考えたからだったということが分かり、公共の 黙認の認定を拒絶した。 b. 以前の有効判決 ある別の侵害者に対し、ある特許を有効とする以前の判決は、一般に本案において勝 訴する強力な可能性を示すものとみなされる。地方裁判所は、別の侵害被疑者の関与する過去 の訴訟における有効性の判決に拘束されるものではないが、裁判所は、かかる認定を相当重視 する可能性があり、連邦巡回控訴裁判所による控訴において確定した場合は特にそうである。 ただし、以前の特許有効判決が重要視されるか否かは、2つの手続における法律および事実問 題の類似性に依存する。連邦巡回裁判所によると、「十分な審理の後、特許の有効性を支持す る判決が出された先例は、類似の事実および法律問題を含んでいる場合、差止命令の承認のた めの強力な裏づけとなる。」また、以前の判決は、本案における勝訴の可能性の証拠とみなす ためには、最終判決である必要はない。 c. 特許侵害の立証 特許権者は、証拠の優越により侵害をトライアルで立証する責任を有する。予備的差 止命令の段階では、特許権者は、侵害の立証責任をトライアルで果たすことに成功する合理的 な可能性を示さねばならない。ただし、特許権者は、侵害問題に関し、本案における勝訴の可 能性を示すため、文言上の侵害を立証する必要はない。むしろ、特許権者は、予備的差止命令 の申立を支持する根拠として、均等理論に依拠することができる。しかしながら、侵害を確立 するために均等理論へ依拠することによって、裁判所が、侵害問題に関する特許権者の勝訴の 可能性は不明確とみなす可能性もある。 27 2. 回復不能な損害 特許侵害訴訟において予備的差止命令を獲得するためには、特許権者は、予備的差止 命令が拒絶された場合、訴訟経過中に回復不能な損害を被ることを示さねばならない。「回復 不能な損害」は、金銭では回復できない損害である。特許権者の排他権のために回復不能な損 害の推定を立証するためには、特許の有効性および侵害を明確に立証することで十分であると 連邦地方裁判所は以下のように判決している。 この [回復不能な損害の]推定は、ひとつには、特許期間の有限性に由来している。訴 訟期間中でも特許の満期が延長されるわけではなく、時の経過が回復不能な損害とな り得るからである。長引くことで悪名高い特許訴訟期間中の発明実施機会は、それ自 体、侵害者を誘惑するものかもしれない。 このように、他人を排除する権利は、損害賠償金の付与によっては十分に回復され得 ない財産権を構成すると判決されている。 特許権者が、回復不能な損害の推定をするために、有効性と侵害の両方についての 「明確な提示」をすることはできない場合、回復不能な損害を個々に提示しなければならない。 裁判所は、伝統的に、侵害被疑者が金銭判決を満たす能力がないことを回復不能な損害の証拠 と認めてきた。更に、長引く訴訟期間中の市場シェアの喪失は、予備的差止命令により与えら れる特別の救済を正当化するであろう損害を構成するかもしれない。更に、裁判所は、差止命 令がないと、他の潜在的侵害者は侵害を奨励されるであろうと認定している。 損害問題を伴う事件において、ある連邦地方裁判所は、既に実体的競争が存在してお り、侵害被疑者は実体的市場プレゼンスを有していると認定した。更に、争点の技術は急速に 変化し、研究も盛んであった。当該地方裁判所は、次のように述べた。 訴訟が終了するまでに当該特許の価値がなくなる可能性は高い。 [申立人]が市場の地 位を確立し、取引関係を樹立し、その結果、市場での地盤を築く上でその特許が役立 つ限りにおいて、その価値は失われるであろう。その特許は依然として存在するかも しれないが、技術はそれを越えていたり、現在は存在しない代替物を発見している可 能性が高い。この場合、市場で自らを確立する[申立人の]機会は破壊されているであ ろう。 回復不能な損害の推定は、反証可能である。特許の有効性および侵害の明確な提示が なされた場合であっても、裁判所は、回復不能な損害が存在するか否かを判断する前に、幾つ かの追加要素を調べるべきである。相手方当事者が提示する可能性のある証拠には、次のもの 28 がある。 (a) 予備的差止命令の要求における特許権者の遅延、 (b) 特許権者によるライセン スの供与、および (c) 侵害被疑者による侵害活動の中止。 a. 差止命令要求の遅延 予備的差止命令申立の提出の遅延は、侵害被疑者側の抗弁を提供することがある。懈 怠または禁反言抗弁を確立することにより、侵害被疑者は、回復不能な損害の仮定に反証する ことができる。被告は、次の事項を立証する責任を有する。(a)被告に対する原告の請求につ いて原告が知った時または合理的に考えて知っていたはずの時から不合理かつ釈明不能な期間 訴訟提起を遅延した。および(b)その遅延は、被告の不利益または損害になった。予備的差 止命令の要求における特許権者の遅延は、回復不能な損害に法律問題として反証する働きをす るわけではない。連邦巡回控訴裁判所は、遅延期間は、回復不能な損害が存在するか否かを判 断する際に考慮される1つの要素に過ぎないと、次のように説明している。 回復不能な損害の決定を排除するために、地方裁判所の裁量に際し、遅延の提示は大 変重要であるが、遅延の提示は、法律問題として、回復不能な損害の決定を排除する ものではない。遅延期間の存在は、地方裁判所が考慮すべきすべての状況のうちの1 つの状況にしか過ぎない。 特許権者は、遅延の然るべき原因を立証することによって、懈怠の抗弁を回避するこ とができる。連邦巡回控訴裁判所は、予備的差止命令の要求における特許権者の遅延は、特定 の状況および財源を条件として、釈明されると判決している。特許権者の遅延が、訴訟以外の 手段により侵害被疑者との紛争を解決しようとした結果である場合にも、懈怠は回避できる。 b. ライセンスの供与 特許権者による広範なライセンシングは、回復不能な損害の認定に対抗する要素と解 釈する裁判所もある。ライセンスの供与は、差止命令救済の根拠を形成する排除権の重視と両 立しないと解釈されている。 c. 侵害活動の中止 侵害被疑者による侵害活動の中止も、回復不能な損害の推定に反証することができる。 例えば、連邦巡回控訴裁判所は、被告による被疑製品の製造の申立前中止は、回復不能な損害 の不在を成立させると判決した。 29 3. 非申立人への損害と申立人への損害との均衡 裁判所は、「不用意に承認される予備的差止命令が価値のない特許に過当な価値を与 える可能性がある」ことを心配するのが常である。予備的差止命令が侵害被疑者に与えるかも しれない困難にも拘わらず、連邦巡回控訴裁判所は、困難性の均衡が特許権者に有利に傾くこ とを求めているわけではない。困難性の均衡は、考慮される単にひとつの要素である。 侵害被疑者の活動が特許権者に対して相対的に僅かな影響しか及ぼさない場合、困難 性の均衡が侵害被疑者に有利に傾くと認定した裁判所もある。例えば、侵害被疑者が特許権者 と実際に競合することなく侵害装置を使用した場合や、侵害被疑者が小企業であった場合であ る。困難性の均衡が侵害被疑者に有利に傾く状況には、次の場合が含まれる。(a) 特許権者が 大きな市場占有率を有している。(b) 当該分野における侵害被疑者のプレゼンスは小さい。 (c) 差止命令が承認された場合、侵害被疑者の従業員はレイオフされねばならないであろう。 および (d) 製品が後で非侵害と分かった場合でも、侵害被疑者の市場確立能力に重大な悪影 響が残る。しかしながら、裁判所は、禁じられているリスクを無視する侵害被疑者に対し同情 を示す可能性は少ない。例えば、ある事件で、侵害被疑者は、特許権者が装置の侵害を非難し、 何年も未決の侵害訴訟を継続するつもりであることを具体的に承知しているにも拘らず、自ら を防御する財政的手段をとらず、被疑装置の販売を継続した。裁判所は、侵害被疑者に課せら れた困難性はほとんど自ら招いたものと認定した。 4. 公共の利益への影響 予備的差止命令の承認が公共の利益に資するか否かは、予備的救済を承認することに よって損害を被る重要な公共の利益が存在するか否かに絞られる。予備的救済を承認すること に反対の評価をする重要な公共利益の1例は、被疑装置の可用性が公共福祉に影響を及ぼす場 合の公共の利益である。連邦巡回控訴裁判所は、侵害被疑者の癌・肝炎検査キットの可用性を 維持することによる公共の利益に基づき、このキットを予備的差止命令から排除することは、 裁量権の濫用に当たらないと判決した。予備的差止命令の承認に反対の評価をする今1つの公 共の利益は、競争促進における公共の利益である。有効特許により確保される権利の保護に公 共の利益があるにも拘らず、裁判所の公共の利益分析は、一般に、予備的差止命令を承認する 30 ことにより損害を被る重要な公共の利益が存在するか否かに注意が向けられる。 B. 証拠審問 F.R.C.P. 65(a)は、予備的差止命令の発行の前に、相手方当事者に対し通知を与える ことを明示的に求めている。予備的差止命令の登録に関する証拠審問の権利は、規則 65(a)の 通知要件に暗示されている。連邦巡回控訴裁判所は、一般的規則として、予備的差止命令は、 宣誓供述書のみに基づき発行すべきではないと述べている。連邦巡回控訴裁判所は、原告が関 係市場で支配的地位を占める場合、独占禁止法上の懸念と知的財産権保護の必要性との均衡を 損なう危険性が高いかもしれないと警告している。しかしながら、質問の量により審問の実用 性が損なわれる場合、予備的差止命令が宣誓供述書だけに基づき発行されることができる。 予備的差止命令のための証拠審問の範囲は多様である。正式証拠審問は、直接尋問お よび反対尋問を通じて双方から証拠が提示されるもので、実際のトライアルに類似していると 言える。証人による証拠提示の効用は、商標および特許分野で特に重要である。この分野では、 原告は、このような差止命令の使用により、被告の事業の履行を全面的に妨げることがある。 予備的差止命令の可用性は、特許権を実施するための強力な手続ツールを特許権者に 提供する。予備的差止命令救済を得るためには、所定の証拠提示が求められるため、4要素の 均衡テストの確実な把握が肝要である。 略式判決の申立 略式判決の申立は、トライアルの前に、事件の全体または一部を解決しようとする試 みである。当該事件において何らの未解決な重大事実がなく、法律問題としての判決が相応し いことを示す責任が申立人側にある。略式判決の申立は、通常、ディスカバリーの終了近くも しくは終了後に提出されるが、申立人は、もっと早期に略式判決を申し立てることもできる。 略式判決の申立は、宣誓供述書、証言録取、質問書に対する答弁書、その他の容認される証拠 によって裏付けられる。相手方当事者は、判決の登録を回避するために、対抗する証拠により 応答せねばならない。相手方当事者は、申立人が提供した証拠に異を唱えるだけでは不十分で ある。略式判決の申立は、事実的な論点を限定する手段とみなされることが多い。 最高裁判所は、1986 年の三部作判決において、裁判所による略式判決の活用を奨励し 31 た。裁判所は、複雑な事件にあっても略式判決の重要性を再表明し、略式判決に反対している 当事者に対し、重要事実の真正な争点が存在するという証拠を提供する責任を課した。最高裁 の略式判決事件の三部作に先立ち、既に最高裁判所は、特許事件において、略式判決の活用を 承認している。 A. 特許権者にとっての略式判決 略式判決は、特許権者および侵害被疑者にとって等しく利用できるものでなければな らないが、特許権者が有効の略式判決を得るのは稀である。先行技術の性質および内容、先行 技術と特許クレームの相違、および関係技術における通常の技能レベルに関する事実の争点を 挙げることにより、侵害被疑者は、通常、有効性についての特許権者の略式判決の申立を破る ことができる。しかしながら、特許権者は、侵害の略式判決を求めることができる。トライア ル前に侵害問題を処理することにより、トライアルにおける争点が限定され、トライアルを簡 素化することになる。 B. 侵害被疑者にとっての略式判決 侵害被疑者が特許侵害事件における被告であるか、宣言的判決訴訟における原告であ るかを問わず、侵害被疑者は、略式判決において、特許権者より勝訴する可能性が高い。無効 性の略式判決は、非侵害の略式判決より取得が難しい。無効の略式判決が下される場合、侵害 被疑者は、35 U.S.C. § 103 による「自明性」に基づくというより、35 U.S.C. § 102 によ る法定拒絶理由の1つに基づき無効略式判決申立で勝訴する可能性が高い。非衡平的行為を理 由とする執行不可能性の提示に基づく略式判決は、非常に稀である。これらの事件では、意図 に関して、事実問題が争われている。非侵害の略式判決は、特許事件で最も一般的に認められ る申立である。非侵害略式判決のほとんどの事件において、特許クレームから1つまたはそれ 以上の要素の明確な省略、実質的に異なる実施態様、または出願経過禁反言があった。 1. 無効の略式判決 連邦巡回控訴裁判所は、35 U.S.C. §§ 102 および 103 の規定に基づき、無効の略 式判決を与えた地方裁判所の判決を維持した。例えば、連邦巡回裁判所は、35 U.S.C. § 103 に基づき、以下のように、無効の略式判決を維持した。 32 特許有効性の主要な争点は法律問題であるが、発明は自明ではなかった(新規性があ った)であろうという結論は、幾つかの基本的事実審問に依拠する。したがって、自 明性についての事実審問によって重要事実の真正な争点が何ら提示されない場合、地 方裁判所は、特許無効性に関する略式判決申立を法律問題として、適切に承認するこ とができる。 連邦巡回控訴裁判所は、補助的考慮事項(長い間感じられてきた必要性、他の失敗例、商業的 成功)が特許権者有利の評価をしていることを地方裁判所が明らかにしている場合であっても、 地方裁判所の略式判決を維持した。連邦巡回控訴裁判所は、補助的考慮事項が、先行技術との 近似性に基づく自明の決定を覆すに十分な効力を持たないことを認めた。 他方、連邦巡回控訴裁判所は、多数の無効の略式判決裁定を覆してもいる。例えば、 控訴裁判所は、発明の最良の実施態様が留保されているという決定を覆した。控訴裁判所は、 省略された情報は、日常的製造選択肢にしか過ぎないと判断した。別の事件では、連邦巡回控 訴裁判所は、早く出願された意匠特許は、後で出願される継続出願特許がより早い有効出願日 を取得できるための 35 U.S.C. § 112 に基づく十分な明細書を提供していないとの決定を覆 した。また別の例は、連邦巡回控訴裁判所が 35 U.S.C. § 103 に基づく無効の略式判決を覆 した事件に見ることができる。控訴裁判所は、地方裁判所が過度に再審査手続に頼り、規則 131 の宣誓供述書が先行技術に先行するためには不十分であると誤った判断をしたと、次のよ うに述べている。 地方裁判所における非侵害訴訟において、35 U.S.C. § 103 に基づく特許無効性は、 当該裁判所における手続で提示される先行技術に基づき決定されねばならない。当該 特許の再審査証を取得するため、特許権者の立場の適切性を単に受諾し、または拒絶 することにより争点を決定することはできない。 * * * 関係先行技術の継続的なグラハム分析が、特許された発明の自明性に関する判決に先 行せねばならない。また、審査官は当初、35 U.S.C. § 103 に基づき Greenwood のク レームを拒絶したという事実は、地方裁判所の侵害訴訟における自明性の証拠とはな らない...地方裁判所で適切なグラハム分析がなされていないので、35 U.S.C. § 103 に基づく自明性の略式判決は、無効とすべきである。 要するに、連邦巡回控訴裁判所の判断は、重要事実の真正な争点がない場合、無効の 略式判決が取得される可能性がある(ただし、有効の推定が明白かつ説得力のある証拠によっ て克服されねばならない)ということである。 33 2. 侵害の略式判決 前に述べたように、連邦巡回控訴裁判所は、侵害の略式判決を維持した。例えば、連 邦巡回控訴裁判所は、譲渡人の禁反言によって被告が特許の有効性に異議を唱えることができ なくなったという地方裁判所の判決を確認した。連邦巡回控訴裁判所の判決は、略式判決の申 立当事者により立証された一応有利な事件を覆す証拠能力のある証拠を提示する重要性を示し ている。 3. 非侵害の略式判決 連邦巡回控訴裁判所は、第一審裁判所が略式判決に関する自らの決定を支持する認定 および結論を明示的には述べていない場合でも非侵害の略式判決裁定を維持した。連邦巡回控 訴裁判所は、非申立人の証拠が、陪審審理を必要とする重要事実の問題を提示していない場合、 文言上の侵害および均等理論に基づく侵害の両方に関して非侵害という略式判決の裁定を維持 した。 4. 懈怠および禁反言の略式判決 連邦巡回控訴裁判所は、懈怠および禁反言の両方に関する地方裁判所の略式判決の裁 定を覆すことに関し、特許侵害訴訟に適用できる懈怠および禁反言の原則を明確にした。当初、 裁判所は、懈怠および禁反言の抗弁は、裁判官の妥当な裁量に任されている事項であり、裁判 官の決定は、裁量濫用基準に基づき検討されるべきとした。しかし、連邦巡回控訴裁判所は、 下級裁判所が、懈怠の一応有利な抗弁を否定するための主要な説得責任を特許権者に不当に移 したので、地方裁判所の懈怠に関する略式判決の裁定は誤りであると結論づけた。 禁反言に関しても、連邦巡回控訴裁判所は、地方裁判所の略式判決に誤りがあると決 定した。 更に、明確な話す義務がない限り、沈黙だけでは禁反言を生じさせないであろう、あ るいは、特許権者の継続的な沈黙は、被告が責められないだろうという、原告の黙認 からの被告の推論を強化する。最後に、略式判決に関して、かかる推論は、証拠から の唯一可能な推論でなければならない […]。 このように、懈怠および禁反言の抗弁は、妥当性のない6年を超える遅延の事実が示 される特許事件において、なお見込みのある抗弁であるが、連邦巡回控訴裁判所は、懈怠およ 34 び禁反言の原則ならびに立証責任を明確にした。 5. 非衡平的行為の略式判決 連邦巡回控訴裁判所は、非衡平的行為(訴訟中の特許の許可を取得するため規則 132 に基づきごまかしの宣誓供述書が提出され、基準日前の販売情報が留保された)に対し、執行 不能の略式判決を維持した。 注目すべきこととして、この事件は、非衡平的行為の争点に関し、当事者が陪審審理 を受ける資格を有すという主張を終らせることになった。 最後に、非衡平的行為に関する地方裁判所の判決の実体に入る前に、この争点に関し、 陪審審理を奪われたという Paragon により繰り返された主張を訂正しなければならな い。多くの最高裁の事件が陪審により解決されるべき争点として意図を挙げる。しか しながら、詳しく分析すると、最高裁の主張は、非衡平的行為の抗弁の文脈では何ら の適用性も有しないことは明白である。完全に衡平法に従うことを特徴とする特許訴 訟における非衡平的行為の抗弁は、陪審が決める争点ではない。特許権者は、非衡平 的行為の抗弁の一環として、悪意についての事実要素に関する陪審審理の権利を有し てはいない。 特許庁に先販売について知らせなかったことに起因する非衡平的行為に関し、連邦巡 回控訴裁判所は、次のように述べた。 地方裁判所は、非衡平的行為の更なる根拠の1つとして、特許装置の基準日前の商業 的販売について審査官に開示しなかったことを挙げた。Paragon は、この販売を開示 せずに審査官を欺く意図の要素に関し、少なくとも事実上の争点があることを記録が 示していると主張する。 非衡平的行為の告発当事者は、説明のつかない誠実義務違反を提示することにより、 一応有利な事件にすることができる。これに応答してまたは否認して、特許権者は、 出願者および/またはその代理人が知覚していたような特定の状況下では、悪意があ ったとの推論をすべきではないということを示す事実を述べることができる。例えば、 真正な争点を挙げるには、法律上もしくは事実上の善意の過ちまたは単なる過失を示 す事実だけで十分であろう。 説明がない場合、商業化の一切の留保表示を含めて、販売について故意に開示しなか った証拠は、発明者の代理人が米国特許商標庁を欺くつもりであったとの推論を合理 的に裏付けるものとなる。例えば重要な特許引例の開示を出願者が怠ったときなどと 違って、販売情報の秘匿は、審査官が自身でその情報を確保する方法を持たないため、 特別に言語道断なものと言える。 このように、連邦巡回控訴裁判所は、通常、略式判決が禁止されていると考えられて いる分野にまでこれを広げようとしている。しかしながら、多くの裁判所は、非衡平的行為の 抗弁に関する意図の争点を解決するためには略式判決は不適切だとまだ考えている。 35 適切に用いれば、略式判決は、特許権者または侵害被疑者にとって、特許侵害訴訟に おける強力なツールとなり得る。これによって、複雑で費用のかかる訴訟がトライアル前に巧 く処理され、簡素化される。最高裁判所の三部作略式判決事件は、連邦巡回控訴裁判所の先判 決を確認し、特許侵害訴訟で通常発生する広範囲で多岐にわたる争点を整理する際の有用な手 段として略式判決利用を後押しするものとなった。 第 IV 節: 特許裁判準備 特許事件のトライアルには、少なくとも次の 2 つの争点の検討が含まれる。 (a) 当該 特許は有効であるか?および (b) 侵害被疑者は、訴訟中の特許を実際に侵害したか?特許の 有効性は、特許された発明は 35 U.S.C. § 102 に基づき予期されたか否か、および 35 U.S.C. § 103 に基づき先行技術から見て自明か否かについての検討を必要とする。先行技術には、 もちろん、特許、公表されている文献、および当該発明がなされた時点で存在していた利用可 能な情報が含まれる。 Panduit Corp. v. Dennison Manufacturing Co.事件, 810 F.2d 1566 (Fed. Cir. 1987) (『合衆国控訴審裁判所判例集』中の判例)に記載されているように、35 U.S.C. § 103 に基づき特許有効性の評価における最初の決定要素は、関係先行技術およびクレームされ ているものであった。 分析は、主要な法律問題– – クレームされた発明は何か?– – から始まる。裁判所は、 クレームされた発明を全部とみなすよう求められる。(35 U.S.C. § 103)...も う1つの主要な予備的法律問題は– – 先行技術は何か?– – である。(同文献、 1597) 事実認定者は、Graham v. John Deere Co.事件, 383 U.S. 1, 17-18 (1966)に記載さ れた事実関係の質問を済ませなければならない。この質問には、先行技術の範囲および内容の 決定、先行技術とクレームされた発明との相違、先行技術で通常の技能レベルを解決すること、 および通常「補助的考慮事項」と称される客観的証拠の検討が含まれる。この最後の質問には、 「当該発明による商業的成功、発明に至った他の失敗例、長い間感じられていた必要性、当該 技術の熟練者の他への移動、専門家の懐疑、先行技術より当該発明を優先した複製、その他、 36 現実世界で実際に起こったと証明された事由」のような要素が含まれるかもしれない。 Panduit、1598 侵害問題に関し、裁判所(および陪審が関与する場合、各陪審員)が特許された技術、 ならびに被疑装置やプロセスの特徴(動作の仕方、構成方法、被疑装置や方法に関する特許ク レームの読み方を含む)を理解することも必要である。特許権者は、侵害事件を立証するため, 均等理論に基づき進めることが必要となるかもしれない。これが必要な場合、事実認定者は、 特許中に開示された事項を経て、クレームされた発明の均等物を構成するものに関し教示され る。侵害被疑者は、侵害が存在しない理由、または特許が無効もしくは執行不能である理由を 立証するという、反対の立証任務を負う。 裁判官または陪審員が先行技術特許、技術文献、およびその他の形式の科学技術情報 に直面することになるので、各当事者は、それらが理解され、把握されるように教育する任務 を担う。これが、専門家証人が特許事件で重要である主要な理由である。 専門家による証言 連邦証拠規則 702 によれば、専門家は、「事実認定者が証拠を理解したり、争点事実 を決定するために役に立つ」ものなら何についても証言してもよいとされる。規則 702 に基づ く証言の主要な考慮は、「有用性」である。規則 702 は、「専門家」として証言できる人の資 格について述べている。正規の教育を受けた人に加えて、正規の教育は受けていないが、その 分野で実務経験を有する人も専門家として証言することができる。 連邦証拠規則の規則 703 は、専門家が自らの意見の基礎とすることができる証拠、情 報、または資料の特徴を規定している。専門家が依拠することができる下記の 3 つの事実また はデータのソースがある。 (a) 専門家が直接的に、独自に知っていた事実またはデータ、 (b) トライアルで専門家に知らされた事実またはデータ、および (c)トライアル前に専門家に 知らされた事実またはデータ。 連邦証拠規則の規則 704 によれば、専門家は、事実に関する究極的争点に関し、意見 を言うことが許される。規則 704 によれば、意見証言その他容認される証言は、事実認定者に より決せられる究極的争点を含んでいる限り、反対すべきではない。特許事件において、有効 37 性、無効性、自明性、非自明性、侵害、非侵害、故意性、およびその他の争点は、すべて、事 実認定者によって決せられる「究極的争点」とみなすことができる事項である。 連邦証拠規則の規則 705 は、専門家が、基礎となる事実またはデータの先行開示する ことなく、意見について、その理由を付して、証言することを認めている。専門家は、資格を 述べて後、そのまま、意見の陳述に入り、その後、その意見の根拠の説明をすることができる。 連邦証拠規則の規則 706(裁判所指名の専門家)は、裁判所が技術的争点を扱う際に 自身のための支援を必要とする場合があることを認めている。複雑な技術に直面する多忙な第 一審裁判所判事は、トライアル前に技術を理解しなければならない場合、独立した教育または 解説を求めることができる。例えば、特許事件において、略式判決の申立の判断をする際に、 技術についての独立した説明および両当事者の立場を理解する際の助力を得ることが有用であ ると裁判官が考えるかもしれない。 特許事件における専門家の種類 A. 技術専門家 特許事件における技術専門家には、発明者または当該分野で働いている、もしくは技 術的主題に関し必要な知識を有するその他のベースを持つ独立した専門家が含まれる。技術専 門家は、下記の機能のうちの1つ以上を果たすことができる。 (a) 被疑製品またはプロセス に関し、試験をし、または検査をする。 (b) 基礎となっている技術に関し、裁判官および陪 審員を教育する。および (c) 広範な特許争点を証言する。 技術専門家は、被疑製品、特許製品またはプロセスの試験もしくは検査または先行技 術またはプロセスの試験もしくは検査を実施するために利用できる。これらの試験および検査 は、特許がプロセスまたはメソッドを対象としている場合、特に望ましいと言える。特許クレ ームには、物理的な検査や試験なしにはすぐには確かめられないステップまたはパラメータを 記載することがある。専門家が検査や試験で得た識見がトライアルにおける証言の基礎である と言える。 特許侵害は、事実問題に関する争点である。連邦巡回控訴裁判所は、被疑製品または プロセスが、文言上または均等理論上、各クレームの範囲に抵触するか否かについて、十分詳 38 細に説明する限り、侵害に関する専門家証言を容認している。均等理論に関する専門家証言は、 特許権者が、クレームされた発明の「機能・方法・結果」要素と被疑製品またはプロセスの当該 要素とをいかに比較しているかを伝えることができたり、その両者の相違が実体的なものか、 あるいは非実体的なものかを説明することができたりする。 トライアルにおいて、技術専門家(発明者を含む)に当該発明、基礎となる技術、お よび先行技術を説明させるのは一般的なことである。特許権者は、当該発明がいかに選定され た先行技術を超えた重要な先進性を有し、被疑製品またはプロセスが、文言上または均等理論 上、争点のクレームにいかに抵触しているかを説明することが多い。特許権者の提示は、専門 家の証言を説明する論証的証拠を付した、専門家が被疑製品またはプロセスに侵害されたクレ ームを適用した事例を含むことが多い。 均等理論上の侵害が主張される場合、技術専門家は、クレームの限定要素と被疑製品 またはプロセスにおける対応する要素との間の「非実体的相違」、「機能・方法・結果」、お よび「予測可能な置換可能性」について、証言することができる。出願経過禁反言が主張され ている場合、技術専門家は、出願経過およびクレーム中に使用された技術用語の意味に関して も証言することができる。 自明性の基礎的事実審問に関する専門家証言は、容認されている。技術専門家は、下 記の事項に関し証言することを容認されている。(a)関係技術において当業者の一般的知識、 (b)先行技術の検討および説明ならびに先行技術とクレーム間の相違点または類似点の比較、 (c)先行技術引例の教示ならびに先行技術の組合せについて、先行技術中の示唆の存在また は不在、(d)所定の先行引例はよく機能しているか否か、および当業者がそのように理解し ているか否か、(e)先行技術の変更は、当業者に知られていたか否か、および(f)当業者は、 関係先行技術引例の組合せの動機を持つか否か。 長い間感じられてきた必要性、他の失敗例、商業的成功などのいわゆる「補助的考慮 事項」に関連した専門家証言は容認されている。手段+機能クレームに関し、専門家証言が容 認されているのは、手段+機能の範囲で言及された構造、その構造を含む先行技術、およびそ の構造の機能が先行技術における構造の機能と同一または均等であるか否かに関してである。 39 連邦巡回控訴裁判所は、欺く意図および開示されなかった情報の重要性の争点に関す る証言およびその情報が当業者に何を教示しているかについての意見を含めて、非衡平的行為 の争点に関する専門家証言の活用を承認している。 Markman 判決*以来、裁判所は、クレームの意味について結論する際に考慮すべきクレ ームの用語の意味に関して専門家証言を容認している。専門家証言の必要性は、Markman 審問 に関連して想起されよう。連邦巡回控訴裁判所は、特許クレームを解釈するための主要なソー スは、クレームそのもの、明細書、および出願経過、つまり、いわゆる「内部証拠」であると 決定した。内部証拠の考慮後になお曖昧さが残る場合、辞書、取決め、先行技術などの「外部 証拠」を考慮することができる。専門家証言は裁判所にとって、当該技術についての、および 当該内部証拠が当業者にいかに理解されるかについての理解に達する上で有用であるとも言え よう。 専門家証言または宣誓供述書および専門家報告書は、特許訴訟において、予備的差止 命令および略式判決申立に関連して使用されている。多くの場合、技術専門家は、技術を説明 し、先行技術およびクレームの文言を解釈し、その他、侵害または自明性のような実体的争点 に関して述べるために活用されている。しかしながら、Markman 事件における決定は、特許事 件の特許クレーム構成部分に関連して、技術専門家を含めた専門家の適切な役割に関し、不確 実さおよび不一致を生んだ。 1995 年、連邦巡廻控訴裁判所は、特許クレーム中の文言の意味を解釈するのは、専ら裁判官に よって決定さるべき法律問題であり、陪審を必要とする事実問題ではないと認定した。特許ク レーム中の文言の意味は専ら法律問題であるという認定において、連邦巡廻控訴裁判所は Markman v. Westview Instruments, Inc. 事件, 52 F.3d 967, 979 (1995) の中で、「侵害訴訟が起きた場 合、法律を修得している裁判官が特許や関係公共記録を同じように分析し、解釈の確立した規 則を適用し、かくして、法的効果が与えられる特許権者の権利について真正かつ一貫した範囲 に到達すると、競合者が確信を持てるべきである」と認定した。裁判官が特許クレームの文言 を解釈し、次に、陪審員に*その意味について教示するよう Markman 判決は求めている。侵害ま たは有効性に関する略式判決申立に決定を下す前に Markman 決定を行なうことが一般的慣行と なった。 40 B. 法律専門家 特許法の専門家は、特許庁の実務および特許法について専門知識、訓練、教育、およ び経験を有する者である。かかる専門家は、訴訟に関わる技術を包含した専門的経歴も有して いるであろう。クレーム解釈における特許専門家の役割は、特に Markman 決定の観点から、軽 視されるようになった。しかしながら、特許専門家は、特許庁手続および特許実務を説明し、 訴訟中の特許の出願経過を分析する役割をまだ担っている。 トライアルでは、技術専門家の証言に続いて、特許法専門家が証言するのが一般的で ある。特許法専門家は、特許の実務および手続ならびに特許出願経過の具体的観点および手続 処理中に考慮すべき先行技術について説明する。特許専門家は、出願経過禁反言の法的争点に 関する証言も提供できる。裁判所は、特許法専門家が出願経過禁反言および侵害の究極的争点 について意見を述べるのをどの程度まで許容するかという問題は、裁判所により実質的に異な る。 35 U.S.C. § 103 に基づく「自明性」は、主要な法律問題であるので、自明性の究極 的結論に関する専門家の意見(法律専門家であるか、技術専門家であるかを問わず)は、要求 されることもなく、支配することもなく、証拠となることさえない。実務において、通常、技 術専門家は、基礎となる事実的考慮事項を解説し、当該発明は、発明された時点で、当業者に 自明であった(または自明でなかった)という意見を言うことができる。技術専門家の証言は、 特許法専門家の証言により裏付けられることがある。この特許法専門家は、技術専門家をはじ めとする専門家(発明者を含む)の証言に依拠しながら、自明性に関し、出願経過からの関連 点を論じる。このように、訴訟中の特許の出願経過に適用された技術的争点の方により焦点を 合わせるべきである。 侵害被疑者の代理人が著した弁明の意見書が故意侵害の嫌疑を否定するために出され た場合、特許法専門家は、その意見書について、その完全性およびその種の法務に対する一般 的実務基準への適合性に関し批判することが認められる。 要するに、特許法専門家は、特許庁で起こったことおよび特定の特許の手続処理が正 式か異例かを裁判官または陪審員に説明するのが望ましい。特許専門家は、広く活用され、そ 41 の証言は、たとえその証言に説明や法律の適用が含まれていても、一般に受け入れられている。 他方、結局のところ特許法に関する講義や法律問題の議論に過ぎない証言を行なう法律専門家 は、トライアルでの証言から排除されることがある。 C. 損害賠償専門家 特許事件において、責任問題が特許権者に有利に決着し、特許が有効で執行可能であ ると判断され、クレームの1つ以上が侵害被疑者によって侵害されていると認定された場合、 損害賠償額が決定される。経済専門家は、損害賠償額の算定基準が「逸失利益」であるときに は、特許権者が失った利益に基づき、損害賠償額の算定基準が「合理的なロイヤルティ」であ るときには、特許の価値に基づき、トライアル中に(事件を分離していない場合)証言するこ とができる。損害賠償専門家は、損害賠償額の算定基準が合理的なロイヤルティである場合、 ライセンスの交渉方法について説明すると有用な場合がある。専門家の証言は、特許権者がい かに損害を被ったかを説明し、限界費用および増分利潤を立証し、いかに経済的事実が特許権 者が求めている損害賠償額のレベルを裏付けるかを説明および実例説明することができる。逆 に、侵害被疑者は、特許権者の経済専門家の算定額の根拠に異議を唱える自らの経済専門家を 出すであろう。 特許訴訟の賠償問題は、損害賠償金の算定額およびその方法、ならびに逸失利益が求 められる場合、損害賠償金供与の適切性についての証言が必要となるであろう。損害賠償専門 家は次のようなカテゴリーに分けられる。(a)会計専門家、(b)特許ライセンシング専門家、 (c)産業専門家、および(d)エコノミスト。更に、技術専門家は、非侵害代替物の可用性お よび適切性に関する争点について証言を与えることができる。 会計専門家は、通常、適切な会計慣行に基づき損害賠償額を算定する。ライセンシン グ専門家は、Georgia Pacific Corp. v. United States Plywood Corp. 事件, 318 F. Supp. 1116, 1121 (S.D.N.Y. 1970) の要素を適用することによって、合理的なロイヤルティを算定 規準とする損害賠償金に関し証拠を提示する。産業専門家は、通常、逸失利益に対する特許権 者の権利に関する争点について証言する。最後に、エコノミストは、通常、産業専門家によっ て論じられた争点、例えば「関係市場」などを解析し、価格低下や市場シェアに関し逸失利益 42 の理論などを取り上げる。 特許訴訟において、許容される損害賠償額の算定基準には次の2つがある。逸失利益 と合理的なロイヤルティである。逸失利益を回復するために、特許権者は、特許権者が補償を 求める原因となった経済的損害を実際に侵害者が発生させたことを示さねばならない。逸失利 益賠償額には、侵害に起因する逸失販売額、価格低下、および増加した費用が含まれる。 特許権者が逸失利益賠償金の権利を証明する典型的な方法は、Panduit Corp. v. Stahlin Bros. Fibre Works, Inc.事件, 575 F.2d 1152, 1156 (6th Cir. 1978) に記載され た試験である。Panduit 試験は、特許権者に次の事項を立証することを求める。(a)特許製 品に対する需要、(b)受け入れられる非侵害代替物の不在、(c)需要を高める特許権者の製 造能力およびマーケティング能力、および(d)特許製品が挙げたであろう利益額。 特許権者は、合理的なロイヤルティ以上の額を受け取る権利を有する。この損害賠償 額の算定基準は、特許権者と侵害が起こった場合の侵害者との間の仮想交渉に基づく」。事実 認定者は、両当事者間のアームスレングスの交渉の結果として合意されたロイヤルティの額を 考慮する。Georgia-Pacific では、裁判所は、合理的なロイヤルティを決定する上で考慮され るべき 15 要素を列挙した。特許法規すなわち 35 U.S.C. § 284 は、損害賠償額を算定する上 で専門家の役割を以下のように定めている。「裁判所は、専門家の証言を損害賠償額の決定ま たは当該状況下で合理的なロイヤルティの決定のための参考として受け取ることができる。」 通常、当事者は、合理的なロイヤルティを算定規準とする損害賠償金を算定する際に 産業専門家または特許ライセンシング専門家に依頼する。ライセンシング専門家は、通常、 Georgia-Pacific 要素および関係分野においてライセンス契約を起草・交渉した際の自らの知 識や経験を適用する。ロイヤルティ額の決定において、当事者の他のライセンス、関係業界に おけるライセンシング慣行、および商業的成功または特許された発明の先駆的性格に関する証 人の証言に注意を向けるのが妥当である。 損害賠償専門家も、事件の事実および状況によっては、逸失利益を算定する際に必要 とされることがある。2供給業者市場がある場合、または損害賠償金が専門請負案件の失われ た落札機会に密接に連携している場合、当事者は、会計専門家ならびに産業および技術専門家 43 を用いることがある。「逸失利益」が適切な損害賠償額の算定基準である場合、技術専門家が 非侵害代替物および商業的成功の争点を処理する。当事者のマーケティング担当者を含めて、 産業専門家は、通常、特許製品の需要、その需要を満たす製造・マーケティング能力、および 特許された発明の商業的成功について述べる。会計専門家は、増分費用および適用可能な粗利 益ならびに特許権者または業界に固有の特定の会計慣行に留意しながら、逸失利益額を算定す る。会計専門家は、通常、逸失利益および支払利息の総額に関して証言する。 場合によっては、特許権者は、逸失利益または合理的なロイヤルティによる損害賠償 金を「全市場価値ルール」に基づき求める。かかる場合、技術専門家の証言は、特許されたコ ンポーネントおよび非特許のコンポーネントが、単独機能ユニットに類似しているか否かを立 証する必要がある。 特許訴訟には、複雑な技術的争点、米国特許庁の独自の慣行および手続、ならびに複 雑な損害賠償理論が関与する。特許訴訟の多くには、事実および法律が混じりあった争点が伴 なう。特許事件の争点の複雑さは、事実認定者が証拠を理解し、その証拠から事実上の争点を 解決できるよう助力する上で専門家証言がほとんど欠かせないことを強く示唆している。 特許事件における専門家証言は、益々、連邦巡回控訴裁判所の監視下に置かれ、特許 訴訟の専門家の役割はまだ発展途上である。それでもなお、Daubert v. Merrell Dow Pharmaceuticals, Inc. 事件, 509 U.S. 579 (1993)(つまり、専門家の意見は適格でなけれ ばならない等)に記載された考慮事項にしたがい、事実認定者が証拠を理解し、事実上の争点 に決定を下す際の助けに専門家証言がなる場合、究極的な争点に関してさえ、専門家証言を認 めるのが連邦証拠規則の趣旨である。 要するに、特許事件における専門家証言は、常に、当該特許が有効であるか否か、お よび侵害被疑者が実際に訴訟中の特許を侵害したか否かという問題の検討に関するものである。 特許事件の専門家証言は、予備的差止命令および略式判決申立ならびに Markman 審問に関連し て利用されることもできる。更に、専門家証言は、技術を説明し、先行技術およびクレームの 文言を解釈し、侵害や自明性のような争点を分析し、特許の出願経過を説明し、特許実務を説 明し、および合理的なロイヤルティおよび/または「逸失利益」に基づき損害賠償額を算定す 44 るために利用されることができる。したがって、特許事件において、専門家の主要な役割は、 頻繁に発生する複雑な争点の理解や把握に役立つことである。 補償的損害賠償金 一旦特許が有効、執行可能、および侵害されていると判決されると、損害賠償の問題 が検討されねばならない。特許事件では、損害賠償は法律 (35 U.S.C. § 284) に規定され ている。侵害された特許の特許権者は、(a)特許権者が侵害が「なければ」発生していたで あろう売上からの逸失利益の裁定額、(b)侵害販売に対する合理的なロイヤルティ、または (c)逸失利益と合理的なロイヤルティの組合せ、に対する権利を有する。合理的なロイヤル ティ報酬は、損害賠償額の下限を示す。また、特許権者は、逸失利益または合理的なロイヤル ティに発生した、侵害発生時から裁定額支払時までの期間の利息を受け取る権利および地方裁 訴訟で負担した費用を受け取る権利を有する。費用には、裁判所に支払われた額、証人料およ び交通費、記録費ならびに雑費が含まれる。代理人費用は含まれない。利息および費用は、侵 害補償費に含まれる。このように、特許権者の逸失利益もしくは侵害者の販売に対する合理的 なロイヤルティ、または逸失利益と合理的ロイヤルティ報酬の組合せは、利息および費用を含 めて、「補償的損害賠償金」と称される。更に、侵害者が、自らの侵害を認識していた、また は認識していたはずだとしたら、特許権者は、故意侵害に対し増額された損害賠償金(補償裁 定額の3倍まで)を受け取ることができ、35 U.S.C. § 285 に基づき、代理人費用も受け取 る権利があろう。補償的損害賠償金を上回る損害賠償金は、「懲罰的損害賠償金」と称される。 損害賠償の争点は、裁判官、陪審員のどちらかによって審理されることができる。 A. 逸失利益 逸失利益は、侵害が「なければ」特許権者が挙げていたであろう利益である。侵害者 が侵害していなかったとしたら、特許権者が挙げていたであろう追加的な利益は、「なけれ ば」世界における増分利益率×侵害によって侵害者に奪われた販売高に等しい。逸失利益の証 明は、一般に、以下の事項の提示を必要とする。(a)侵害がなければ、特許権者は、売上を 挙げていたであろうという合理的な蓋然性があること、および(b)証拠によって裏付けられ る金額の算定。この争点に関する立証責任は、証拠の優越による。裁定額の正確さに関する如 45 何なる疑問も、侵害者に対して解決されねばならない。 逸失利益の決定に際し、しばしば裁判所が適用するテストにおいて、特許権者は下記 の事項を証明するよう求められる。 (1) 特許製品の需要、 (2) 受け入れられる非侵害代替物、 (3) 需要を開発する特許権者の能力、および (4) 特許権者が挙げたであろう利益。 2供給業者市場がある場合、最初の2つの要素の充足は、通常、推論され得る。更に、 重要でない競合者および他の侵害者は、無視することができる。2供給業者市場では、特許製 品に対する需要は、通常、特許権者の売上と侵害者の売上の合計に等しい。したがって、2供 給業者市場事件においては、特許権者は、通常、第3番目および第4番目の要素– – – 侵害販 売を可能にした特許権者の能力および特許権者が受け取る権利のある額– – – を証明するだけ でよい。 通常、侵害者により販売される特許製品の「需要」は、それの販売がなされたという 事実から推論される。需要問題に関係があるとみなされる他の要因は、長い間感じられてきた 必要性および特許製品の商業的成功などである。 受け入れられる非侵害代替物の存在または不在は、侵害の時点で決定される。したが って、なかでも、特許訴訟提起後にも継続した侵害は、受け入れられる代替物がないことの証 拠である。受け入れられる非侵害代替物であるためには、当該代替物は、特許製品の利点をす べて備えていなければならない。したがって、製品が競合するという事実によって、必ずしも それが受け入れられる非侵害製品になるとは限らない。受け入れられる非侵害代替物が市場に ある場合であっても、特許権者は、その市場シェアに基づき逸失利益に対する権利を立証する ことができるかもしれない。ただし、特許権者はなお、自身の製品と侵害者の製品が類似して おり、同じ顧客に対して競合していることを証明しなければならない。かかる事件において、 特許権者は、侵害販売が続いていて、それに対する逸失利益は証明されなかったものに対し、 合理的なロイヤルティの権利を有するであろう。 46 市場における供給業者の数に関係なく、特許権者は、自身が、侵害製品を製造販売す る能力を有していることを立証せねばならない。ただし、その能力が整備済みである必要はな く、各製品を受注している必要もない。製造能力要件を満たすには、作業が下請され得ること、 特許権者の施設が当該製品を製造するに十分であること、または特許権者が当該侵害製品の需 要を十分満たすことができるよう自らの施設を拡張できることを示すことが必要である。余分 なシフトを稼働させる必要性の指摘だけでは能力を否定できない。販売能力要件を満たすには、 特許権者が当該市場を開発し、その市場を保護し、実質的売上や広告予算を計上し、直接の販 売者を雇い、大企業バイヤーからの注文を確保するため必要な営業技術について認識している ことを示すことが必要である。製造能力または販売能力の欠如が侵害による場合、能力要件は 満たされたとみなされる。 損害賠償額は、精密に証明される必要はないが、推測であってはならない。最も直接 的な算定には、侵害に関する売上高(ドル)を決定することおよびこれに特許権者の総利益率 または増分利益率を掛けることが必要となる。固定経費– – 生産の増加に伴い変化することの ない経費– – は、この算定から除かれる。通常の固定経費の例としては、給与、資産税、保険 などがある。 侵害に関する販売高に特許権者の総利益率を掛けることによって決定された損害賠償 額は、侵害の補償として適切でない場合もある。例えば、特許権者は、市場に侵害者がいなけ れば、(a)特許権者がその製品にもっと高い値を付けることがあり得た、(b)特許製品に対 する需要はもっと大きかったであろう、または(c)特許権者は、侵害者によって販売された 特許製品の販売と共に他の非特許製品を販売していたであろうという証拠があれば、追加的な 補償に対する権利を一般に有する。 追加の供給業者が市場に参入する場合、価格競争の可能性は高くなる。価格競争は、 しばしば、「価格低下」を招く。侵害者が価格による競合をしなければ、その侵害者が存在せ ず、特許権者はもっと高い値を付けていたであろうということになるのが普通である。裁判所 は、その高い方の価格で競合したであろう代替物について考慮することができる。この争点に 関して考慮される証拠には、特許権者および侵害者によって付けられた相対的価格、侵害者の 47 市場参入後の価格の低下または特許権者による割引の増加、実体的訴訟による出費に帰せられ る販売成長率の抑制、および入札の失敗または成功の理由(入札書類または実際に製品の販売 に携わっている者の証言に見出される)などが挙げられる。 侵害者の提供する製品の品質が特許権者の提供するものより劣る場合がある。かかる 場合、そのような提供が当該製品の評判に影響を与え、ひいては、特許権者の製品の販売に影 響を与える可能性がある。 「全市場価値ルール」によって、特許権者が通常特許製品と共に販売することを通常 予想している非特許製品に基づく損害を特許権者は回復することができる。考慮される要素に は、製品の製造方法、価格リスト、特許製品と共に非特許製品を販売する業界の慣行、非特許 製品自体の市場性、および非特許製品の特許製品への物理的依存などがある。 B. 合理的なロイヤルティ 逸失利益が立証できない場合でも、特許権者は、少なくとも、侵害者が特許製品から 挙げた売上に関する合理的なロイヤルティに対する権利を有する。法律によると、合理的なロ イヤルティは、損害賠償額がそれ以下にはなれない「下限値」である。合理的なロイヤルティ の裁定額は、通常、侵害者による侵害製品の総売上に合理的なロイヤルティ料率を掛けること によって決定される。損害賠償額の算定に使用されるロイヤルティ料率は、(a)仮想交渉の 構築、(b)確立されたロイヤルティ料率の適用、または(c)「分析的アプローチ」の使用に よって、決定することができる。 仮想交渉は、次の前提条件に基づく。「合理的なロイヤルティは、事業計画として、 特許製品の製造・販売を希望している人が、ロイヤルティとして支払うことを厭わず、しかも 市場で、合理的な利益を挙げながら製造・販売をすることができる金額である。」言い換えれ ば、合理的なロイヤルティとは、侵害者が、アームスレングスの交渉において、侵害を始める 前に支払うことを厭わなかったであろう金額である。 その交渉は、実際の自発的特許権者とライセンシー間で行われる通常のロイヤルティ 交渉と同等に扱われることはできない。かかるアプローチは、訴訟の費用を無視するであろう し、特許権者に強制ライセンスを課すであろう。 48 仮想交渉アプローチを使用する合理的なロイヤルティの決定において、通常、次の 15 の要素が考慮される。 (1) 訴訟中の特許のライセンシング、ある確立したロイヤルティの立証、または立 証に類する行為に対し、特許権者が受け取るロイヤルティ (2) 訴訟中の特許に匹敵する他の特許の使用に対し、ライセンシーが支払う料率 (3) 地域に関し、または製品の販売対象者に関し、独占的もしくは非独占的、また は限定的もしくは非限定的である当該ライセンスの性格および範囲 (4) 他人が発明品を使用するためのライセンスを与えないことにより特許独占を維 持する、または当該独占を維持するよう意図された特別の状況下でライセンス を与えることによって独占を維持する、ライセンササーの確立した方針および 販売計画 (5) ライセンサーとライセンシー間の商業的関係、例えば、同一業種、同一地域に おける競合者であるか否か、または彼らが発明者および販売促進者であるか否 か (6) 他の製品の販売促進において特別品として特許製品を売る効果、非特許製品の 販売ジェネレータとしてライセンサーにとって発明品の既存の価値、およびか かる非特許製品の販売限度 (7) 特許存続期間およびライセンス期間 (8) 特許に基づき生産される製品の確立した収益性、その商業的成功、および現在 の人気 (9) 類似の結果を産出するために使用されてきた旧式の様式または装置を超える特 許財産の実用性および利点 (10) 特許された発明の性質、ライセンサーが所有・製造するその発明の商業的実施 例の性格、およびその発明を使用した人々にとっての恩恵 (11) 侵害者が発明を利用した範囲およびその使用を立証する何らかの証拠 (12) 特定の業種または類似業種において、その発明または類似の発明の使用を許す、 49 慣習のようになっている利益または販売価格の一部 (13) 非特許の要素、製造工程、事業リスク、または侵害者によって加えられる特徴 もしくは改良とは区別される当該発明に帰せられるべき実現可能な利益の一部 (14) 適格な専門家の意見証言、および (15) ライセンサー(特許権者など)およびライセンシー(侵害者など)が合理的か つ自発的に合意に達しようとしていたなら、双方が(侵害が始まった時に)合 意していただろう金額、すなわち、慎重なライセンシー– – – 事業計画として、 特許された発明を実施する特定の製品を製造・販売するためにライセンス獲得 を希望した者– – – であれば、ロイヤルティとして支払うことを厭わなかった であろう金額であって、しかも、合理的な利益を挙げることができる金額であ り、その金額は、ライセンスの供与を厭わなかった慎重な特許権者によって受 け入れられたであろう金額。 一方、合理的なロイヤルティ料率を決定する際に、「分析的アプローチ」が使用され ることもある。このアプローチは、自発的ライセンサーと自発的ライセンシー間の仮想交渉に 基づくが、侵害者が支払を厭わなかったであろう額に主として焦点が絞られる。場合によって は、特に侵害者の侵害前の期待が高く、それが証明された場合、大変高いロイヤルティ料率が 算出されることがある。侵害者が実際に何らかの利益を挙げている必要はなく、むしろ、侵害 者がそれを期待していることこそ必要となる。分析的アプローチは、侵害者の予期した総利益 に始まり、侵害者の間接費を差し引き、受け入れられるまたは通常の純利益を侵害者に配分し、 残りの利益を特許権者に認定する。 故意侵害 故意侵害は、明白かつ説得力を有する証拠によって立証されねばならない。故意に侵 害するためには、侵害者は、当該特許についての認識を持っており、その特許が侵害されてい ない、無効である、または執行不能であるという誠実な信念なく、侵害行為を進めたにちがい ない。通常、侵害が故意であるか否かの決定に際しては、総合的な状況が考慮されねばならな い。最も重要な状況は、弁護士の助言– – それが求められたか否か、いつ、誰からそれは求め 50 られたか、およびその助言は従われたか否かを含めて– – を巡る状況である。故意の争点を含 む他の状況は、侵害者が特許製品を模造したか否か、ライセンスの申出を断ったか否か、およ び特許が過去に有効と判決されているか否かである。 35 U.S.C. § 285 に基づき、例外的事件において、勝訴側に代理人費用を与えるのは 裁判所の裁量である。特許権者が勝訴側当事者となった場合、事件を例外的にすることのでき る侵害者の行為は、訴訟中の違法行為または訴訟に対する不真面目な抗弁である。更に、例外 的事件は、故意の事件であることを明白に、説得力を有して、立証することによって確立され ている。しかしながら、代理人費用の供与を後押しするような悪意または不公正の要素がなけ ればならない。 損害賠償額の限定 状況によっては、損害賠償額は、法律によってまたは「懈怠」および/または禁反言 の均等理論によって限定されることがある。訴訟中の特許について特許番号を特許製品にマー キングすることにより公に推定告知していない場合、または侵害者が侵害の告発について実際 の通知を受けていない場合、35 U.S.C. § 287 に基づき、損害賠償金は一般に取り立てるこ とができない。通知は訴訟の提起によって成立する。マーキング要件は、方法の特許には及ば ない。製品と方法の両方が特許され、侵害被疑者に主張される場合、方法の侵害に対する損害 賠償金を取り立てるためには、当該製品が特許されている旨の通知が必要となる。法律によれ ば、損害賠償金の取立期間は、訴訟提起から6年以上遡ることはできない。 特許権者が訴訟提起を遅延し、その遅延が不当で、弁明の余地なく、侵害被疑者に不 利益を与える場合、懈怠は、訴訟提起以前の期間の損害賠償金の取立を妨げることがある。特 許権者が自らの侵害認識から6年を超えて遅延している場合、遅延が不当で、弁明の余地なく、 権利侵害が発生するという推定が生じる。その推定を克服するための立証責任は、特許権者に 移行する。ただし、懈怠の抗弁に関する究極的な説得責任はあくまでも侵害被疑者にある。米 国特許庁による他の訴訟への関与または遅延は、その推定に反駁するものとして、裁判所があ る程度その正当性を認めている。 しかしながら、衡平法上の禁反言は、過去および未来にわたり、一切の損害賠償金を 51 妨げることができる。衡平法上の禁反言には、以下の証拠が必要となる。特許権者が訴訟手続 を認められている場合、(a)侵害に対して訴えられないと侵害被疑者に思わせた特許権者の 積極的行為(作為または誤解を招く不作為)、(b)特許権者の行為への侵害被疑者の不利な 信頼、および(c)その信頼が侵害者に及ぼす重大な不利益。 第 282 節の通知 特許法第 282 節によれば、特許の有効性または侵害に関する訴訟において、無効また は非侵害を主張する当事者は相手方当事者に対し、トライアルで依拠する先行技術に関し通知 を与えるよう規定されている。その通知は、少なくともトライアルの 30 日前までに、訴答書 面その他の書面にてなされるものとする。通知には、国、番号、日付、および特許権者の氏名、 ならびに訴訟中の特許に対する予測性の抗弁において依拠される何らかの出版物のタイトル、 日付およびページ番号、または技術水準の提示が含まれなければならない。先行発明者として、 または訴訟中の特許の発明の先行知識があったとして、もしくはその発明を以前に使用したり、 販売を申出たとして依拠される人の氏名および住所も必要となる。かかる通知が出されていな い場合、通知に基づき必要となる事項の立証は、裁判所が認める場合以外は、なされることが できない。 審理前最終会議 審理前最終会議は、一般に、トライアルの前であって、しかもトライアルの日に合理 的に見て可能な限り接近した日に開催される。この会議で、トライアルの計画が策定される。 準備命令が事前に作成され、認められた事実、係争中の事実、法的争点の陳述(合意された陳 述および係争中の陳述)、全証人のリスト、および証言に供される全証拠について広範に定め る。トライアルの詳細な計画となる裁判所命令が提出される。 審理前最終会議の重要性は、どれほど強調しても足りないほどである。証拠に関する 異議の解決のシステムを含めて、証拠がいつ、どのように認められて記録されるかという問題 について、裁判所から説明があると思われる。裁判所は両当事者に対し、審理前最終会議の前 に既に証拠リストや異議リストを交換するよう求めていることが多い。裁判所は、両当事者が 証拠に関する異議の解決を図り、未解決の異議を主張するかまたは放棄するか準備して来るよ 52 う求めることもある。特許事件においては、当事者は、個々の証拠に真正な争点がある場合を 除き、文書の真正性への同意を促されると思われる。弁護士は、証拠決定や手続の取扱いに関 する裁判官の傾向について、実用的な知識で武装して審理前最終会議に臨むべきである。 最終準備命令は、審理前最終会議が開催された後に出される。最終準備命令は、証拠 の順番;事実的、法的、および手続的規定;証拠の認容性;明白な事実の詳細な陳述;および 係争中の事実的および法的争点の陳述などの事項について述べる。最終準備命令は、「明白な 不正を防ぐ」場合にのみ修正されることができる。 最終準備命令の策定方法は、裁判所の裁量の範囲内である。通常、広範な事項が最終 準備命令に含まれる。例えば、 (a) 訴訟の性質の陳述、争点が挙げられる訴答、および反訴、交差請求等が関与す るか否か。 (b) 連邦裁判管轄権の憲法上または制定法上の根拠およびかかる裁判管轄権を裏付 ける事実の簡略な陳述 (c) 認められ、何らの証拠も要求されない事実の陳述 (d) 何れかの当事者がまだ訴訟中であると主張する事実問題の陳述 (e) 何れかの当事者がまだ訴訟中であると主張する法律問題の陳述 (f) 質問書およびそれに対する答弁書の指定を含む、マーキング前証拠のリスト、 ならびに認否確認要請および応答に、異議なく証拠として認められるであろう もの、異議が唱えられるであろうもの、および異議の証拠物の明細を添えて。 (g) 直接本人または証言録取により、当事者がトライアルに証言のため呼ぶつもり の全証人の氏名および住所 (h) 原告が請求を裏付けるため提供を意図しているものの陳述(損害賠償金の詳細 または請求されているその他の救済を含む) (i) 被告が抗弁として証言するつもりの事柄の陳述 (j) 反訴者による陳述 53 (k) 当事者が望む訴答修正、および (l) 権限を有する人達が誠実に和解による紛争解決を探索したという証明書 不適切証拠排除申立 審理前会議において、裁判所は、「不適切証拠排除申立」により、裁判所の審理にも たらされる証拠の認容性に関し考慮し、高度の決定をなすことができる。したがって、当事者 は、容認できないと主張されている証拠をトライアルから排除するために、審理前最終会議の 前に当該申立をすることができる。不適切証拠排除申立の主たる目的の1つは、陪審以外の場 所で、権利侵害になるかもしれない証拠上の事項を処理することである。陪審以外の場所で、 申立により発生した争点を検討することにより、陪審を待たせたり、トライアルでの証言を中 断したりすることなく、その争点が処理できるようになる。不適切証拠排除申立は、事件が陪 審によって審理されない場合であっても、重要な役目を果たす。証拠の認容性に関する早期の 決定は、本案に関し当事者の勝訴の可能性があるかどうかが明確になることが多く、そのため、 和解を促進すると思われる。更に、不適切排除申立が承認されると、非申立当事者は、トライ アルの前に代替の証拠を探索する時間を確保できる。 特定の証拠を排除する審理前の決定の効果が、いつでも事を解決するとは限らない。 トライアルの展開によって、以前の決定にも拘らず、証拠が認容される場合もある。陪審以外 の場所で、以前に排除されたトライアルでの証拠の再申込をすることは重要である。トライア ルでの証拠の再申込をしないことによって、裁判所の決定を控訴で再審理する可能性が妨げら れるかもしれない。 陪審に対する説示の提案 連邦規則は、陪審審理における全証言の終結時に、または裁判官の指示する同様の時 点で、当事者は、陪審に対する説示の要請書を提出することができると、規定している。陪審 に対する説示の要請書提出の手続は、通常、地方規則中に規定されているか、裁判官の裁量に 委ねられている。一般に、陪審に対する説示要請書は、審理前最終会議の前に両当事者が交換 すべきであり、双方が合意した説示は、当該会議の直前に裁判所に提出されるべきである。当 54 事者が特定の説示に関する相違を解決できない場合、各当事者は、相違がある部分における自 身の陪審説示提案書にこれを裏付ける典拠リストを添えて提出しなければならない。実用的観 点から、陪審に対する説示の提案書は事件のできるだけ早い時点で作成されねばならない。陪 審に対する説示提案書は、法律問題および事件に必要な証拠に関する案内書として利用するこ とができ、早期の作成は、当該提案書の作成に時間を費やして、最終準備命令やトライアルの 段階を迎えることを避ける上で役立つ。 証人のタイプ 事実証人は次の3つのカテゴリーに分類することができる。 (a) 友好的、 (b) 中立 的、および (c) 敵対的。友好的な事実証人は、重要で有用な情報を有し、トライアルで好意 的かつ自発的に証言するであろう人達である。彼らは、通常、クライアントの従業員または元 従業員である。時には、第三者の従業員である証人が友好的である場合もある。彼らの現在の 雇用主がクライアントと共通の利害関係を有する場合(クライアントの訴訟中の特許のライセ ンシーなどの場合)、あるいは、クライアントと同様に、訴訟中の特許を無効とみなしたい第 三者などがその例である。ある時期、同じ技術分野で働き、現在は無関係な分野の別の会社の 従業員である場合や退職している場合なども友好的な証人となり得る。 中立的な証人は、通常、当業界で働き、一般に、訴訟に関連する分野と同じ技術分野 にいる第三者の従業員である。また、中立的な証人から情報を引き出す望ましい方法は、形式 ばらない面接によるものであるが、かかる証人がトライアルでの証言に重要か否かに関する決 定は、召喚状に基づく証言録取による以外は、不可能であろう。相手方当事者が、反対尋問で かかる証人から不利な証言を引き出す可能性があるところから、この方法にはある程度のリス クが伴なう。 敵対的証人は、通常、訴訟の相手方の従業員もしくは元従業員、またはクライアント の潜在的相手方の従業員もしくは元従業員である。通常、敵対的証人は、ディスカバリー中に 証言が録取された場合を除き、トライアルでの証言に召喚されない。 模擬トライアルの開催は、主張の法理や要件に最も適合し、反対尋問に効果的に対応 する事実や事由を証人がはっきり述べる上で役立ち、トライアルのために友好的な証人を準備 55 する適切な手段である。模擬トライアル証言はビデオテープ録画すべきである。経験豊富な弁 護士が判事を務め、その事件に経験豊富な弁護士が直接尋問を行ない、別の経験豊富な弁護士 が反対尋問を行なう。証人は、少なくとも主要点に関して、この模擬トライアルに備えなけれ ばならない。直接および反対尋問は、2時間ないし 3 時間に限定され、すべての主要争点を網 羅しなければならない。証人のため、模擬トライアルはできるだけリアルで、現実の法廷手続 を模倣したものでなければならない。模擬トライアルが終ると、証人と弁護士は、ビデオテー プを見直し、証人の証言を批評する。 トライアル 一般に、陪審審理は、特許侵害賠償金に関し非常に多額な陪審評決が出される場合が あるところから、特許権者にとって、より有利とみなされている。裁判官審理に比べ、陪審審 理は、陪審説示のための高度な準備および証拠や論証的証拠やトライアル証言を整える上での 配慮を必要とする。陪審審理は、通常、裁判官審理より早く評決および終局判決を出す。更に、 陪審評決は、陪審に対する説示に権利侵害となる誤謬がなかったと想定すると、その事実認定 に関し控訴でこれを覆すのは、より困難である。通常、陪審審理が不可能な衡平法上の争点に は、増額(最大 3 倍まで)された損害賠償裁定額、代理人費用の供与 (35 U.S.C. § 285)お よび利息の供与が含まれる。 初めから、事件を審理するための1つの「正しい方法」があるわけではない。トライ アルを行なう上で 2 つの目標がある。第一の目標は、あなたのクライアントを勝訴させるよう、 事実認定者を– – – それが裁判官であっても陪審員であっても– – – 説得することである。第 二の目標は、それに基づき事実認定され、控訴で支持される記録を確立することである。トラ イアルの前に、事件を 2 つまたは 3 つの法律上および事実上の争点に単純化するのが非常に望 ましい。主張の単純なテーマまたは論理を展開することも望ましい。このテーマは、ディスカ バリー計画を策定し、ディスカバリーがどのように論理に影響を及ぼすかを確認し、トライア ル戦略の概略を定める基礎となる。 事件がトライアルで適切に判断されるためには、事実および証拠が整理され、適切に 提示されなければならない。適切に提示されるためには、事実及び証拠が適切に準備されねば 56 ならない。準備は、クライアントに最初に連絡をとることから始まり、主張の論理やテーマの 展開のため開始される取組みの一環となる。主張の論理は、裁判所の選定、ディスカバリーの 内容および範囲、回復または防御の論理の決定、主張されるべき争点および審理前に提示され るべき争点、陪審の選定、冒頭陳述の内容、トライアルでの直接および反対尋問の方向および 範囲、ならびにトライアルの最後の最終弁論に影響を及ぼす。 トライアルで主張を提示する際、通常、ある人間的現象が重要な意味を持つ。その現 象とは、「初頭(効果)」、「新近性(効果)」、および「注意持続時間」である。 「初頭 (効果)」は、最初に聞いた情報が最も残るという概念に関係する。「新近性(効果)」は、 最後に聞いた情報が最後に残るという概念である。「注意持続時間」は、裁判官や陪審員の、 集中力を持続させる能力を指している。大抵の人にとって、効果的に集中できる時間は限られ ている。大抵の人の注意持続能力は、30 分未満である。 注意持続時間の問題は、物的証拠や視覚資料の利用により解決しようとすることがで きる。これは、退屈な口頭証言を中断し、焦点を明確にする。尋問およびそれに対する証言の 速度も明らかに重要な要素である。しかしながら、速度が速すぎ、ついて行けない場合、理解 にマイナスの影響を与える。 A. 証人準備 トライアルにおける証人および証拠の提示の順番については、トライアル前に決定す べきである。裁判官または陪審員に提示する必要のある「ストーリー」を提供するために、ど の証人にどんな順番で証言させるべきかについての決定が必要である。定義や背景についての 基本的な基調証言が、トライアルの初めに、これから行われる証言に関し裁判官および陪審員 に教示するために提示されることが多い。しかしながら、証人や証拠の役割は、トライアル手 続の全体を通じて、裁判官または陪審員にクライアントの観点からの事実や主張の争点を教示 することである。事実認定者は、事実の観点からストーリーを理解できなければならない。他 方、専門家証人は、自らが専門的意見や知識を有する特定の技術的争点に関し、事実認定者に 教示する。事実証人も、専門家が後で証言し、意見を述べる事実上の根拠や背景を提供すると 57 ころから、教示者と言える。 証人が選定され、命令が決定された後、証言中に使用される証拠に関する決定がなさ れなければならない。各証人の証言の概略が必要となる。これは、証言を正確にし、証人の事 実の見方と整合性が保てるよう、証人との協議によって行なわれなければならない。また、証 人の審理前準備によって、各証人の長所および欠点の評価が可能となり、トライアルで使用さ れる質問の作成に役立つ。証人概略は、直接尋問や審理前証人準備を進めるための行程表とな る。 証人のトライアルにおける証言の準備をしている時に、潜在的問題を考慮せねばなら ない。例えば、審理前証言録取および相手方の審理証拠リストに基づき、反対尋問に何が必要 かを決定せねばならない。例えば、トライアルで提示される証人の証言の一部が証言録取でな された証言と一致しない場合、その不一致の根拠や証言の不一致を説明する追加的な事実が準 備されているかどうかに関し決定がなされなければならない。あなたが担当する事件に潜在的 にダメージを与える事実を証人を通して提示することが、その事実に対しあなた自身の「ひね り」を加えることができるため、有用である場合がある。これは、トライアルでクライアント が事実を隠しているという印象を作り出すよりも賢明なアプローチかもしれない。このことは、 相手側の弁護士によってその事実が暴露される場合に、認識されるであろう。したがって、証 人は、正直でないという印象をトライアルで残す状況を回避するために、反対尋問で予想され ることに関しできるだけ多くの指導を受けなければならない。 トライアルでの証人との問題を解決し、または制限するための効果的な方法は、トラ イアルの前に彼らの証言をビデオテープ録画し、それを証人と一緒に分析することである。直 接尋問の全体および予想される反対尋問を証人に経験させることにより、証人は、自分自身の 身体の動き、声の調子、聴いている人に与える影響を再検討することができる。ビデオの映像 を分析し、証人と一緒に見直すことにより、証人は、トライアルでの自らの証言を強化する方 法を学ぶ。 B. 陪審選定 裁判管轄区または裁判所は、陪審員を選定する独自の方法を各自持っている。審議の 58 ために少なくとも 6 名の陪審員が必要である。裁判所は、陪審員見込者に尋ねる質問集を備え ていることが多い。陪審員見込者に尋ねておいて欲しいと思う質問を提出するように弁護士に 要請する裁判所も珍しくない。大抵の裁判所は、陪審選定の前に、陪審員見込者の集団に含ま れるであろう陪審員見込者のリストを弁護士が入手できるようにしている。この情報を予め検 討して、陪審員見込者の経歴についての情報を取得することができる。裁判所が陪審員見込者 の尋問(「予備尋問」)を終えると、陪審員見込者の簡単なリストが双方の弁護士間を往復し、 最終的に陪審団が選定されるまで、次々に候補者の氏名を削除していく。一般に、陪審団は、 6 名の陪審員と 2 名の補充要員とで構成されている。この過程は、選定と言うより、最も偏向 していると思われる陪審員を排除し、または陪審義務を免除していく作業である。 C. 冒頭陳述 陪審団が選定されると、両当事者の弁護士による冒頭陳述により、トライアルが始ま る。冒頭陳述の目的は、裁判官および陪審員に、事件の性質、あなたの観点からの事件の事実 を全般的に伝えること、ならびに、証拠が提示され、証言が聞かれるにあたり、それらの証拠 や証言が事件に対して有している関連性を陪審が理解できるようにする基盤を提供することで ある。 冒頭陳述は、推論ではなく事実を盛り込むべきである。冒頭陳述は、陪審員が提示さ れている主張について意見を形成しなければならなくなる最初の機会である。冒頭陳述におけ る誤りは、陪審員に簡単なストーリーを紹介する代わりに、陪審員が後で聞くことになる証拠 をすべて長々と詳細に述べることである。冒頭陳述の長さは、事件により異なる。調査による と、80%の陪審員がトライアル終了後に答申したと同じ内容の評決を冒頭陳述後に決めていた という。事実、最も優秀で効果的な冒頭陳述の中には、15 分ないし 20 分のものがある。 冒頭陳述は、裁判官および陪審員に両当事者を紹介し、簡潔かつ簡単に事実の全般的 で正確な陳述をするものでなければならない。事実の誇張や提示されることになる証拠に関し 非現実的な保証をすることは、回避されるべき誤りである。陪審員は、証拠や証言を自分で関 連づけたいと思っている。したがって、冒頭陳述は、陪審員の良識に訴える力を持ち、事件の 基本的な主張の概略を提供するものでなければならない。 59 D. 直接尋問 冒頭陳述が終ると、原告の主たる争点が原告の各証人の直接尋問を通して提示される。 尋問は、説明、質問、回答の組合せで進めることができる。説明は、簡単な質問と共に提示さ れ、それに応じて長い回答が続き、証人が長い時間注目を集める。質問と回答のアプローチは、 短い回答を求める質問が必要である。尋問が説明、質問、回答の 3 つの組み合わせで行われる としても、質問と回答の 2 つの組合せであるとしても、証言の予行演習をしたように見えない ことが肝要である。そう見えると、陪審員に信用性を疑われるかもしれないからである。証言 ができるだけ誠実で、説得力があることが重要である。正直な証人が与えた印象は、弁護士に よるどんな主張より持続する。 証人の経歴や状況説明に関する予備的で紛争外の問題を対象とした、直接尋問におけ る誘導尋問には異議が唱えられることは稀であるが、争点の核心に触れる質問は、それが誘導 尋問である場合、異議が申し立てられるであろう。質問中に回答を示唆することにより、証人 に事実を提示させることによる衝撃が小さくなる。陪審員は、弁護士が証人に答を教えなかっ たなら、証人はその回答をすることができたであろうかと疑問に思うだろう。したがって、質 問と回答の尋問に説明的な回答を混入し、主要な争点に注意を維持し、尋問が退屈にならない ようにするのが最も良い。直接的な応答を引き出す簡潔な質問が、適切な速度で問われると、 陪審員はついて行くことができる。したがって、尋問様式の選定は、視覚資料その他の論証的 ツールの利用と共に、提示を興味深くするために必要である。 E. 反対尋問 反対尋問には、質問をすべきか否かや、いつ止めるべきかの判断および能力が必要と される。反対尋問の重要な原則は、具体的な目標を設定すべきということである。頭に入れて おくべき具体的な規則もある。第一の規則は、証人に自らの証言を変えさせることは難しいと いうことである。したがって、証人が正直に証言したとあなたが思う事柄について、その証人 と対決することは危険である。また、事件に対する重要性に関係なく、あなたが質問できる問 題があることを陪審員に主張するだけのために証人に反対尋問してはならない。証人に反対尋 問する試みが、証人に自らの主張をする好機を再度与える場合もある。陪審員は初回にはその 60 証言を理解していなかったとしても、その証人からそれを再度聞いて理解するであろう。した がって、直接尋問を繰り返させるような質問をしてはならない。また、証人が自らの証言に付 言する機会を与えるような開放型の質問もしてはならない。更には、質問をする前に答の予想 がつかない場合にも、質問してはならない。 反対尋問では、証人を掌握していることが肝心である。これは、あなたが終始誘導尋 問を利用しなければならないことを意味する。質問は、短く、単純であるべきで、証人が説明 したり、長々とおしゃべりする余地を与えてはならない。詳細な説明をする機会を証人に許し てはならない。反対尋問における要点を選定するにあたり、最終弁論を頭に入れておくべきで ある。弁護士が1つの質問を過度にして、主張にマイナスの影響を与える回答がなされた反対 尋問の例は多い。 あなたの弁論と一致する追加的かつ有利な証言を引き出すために反対尋問を利用する ことができる。証人の信用を落とし、証人の証言の根拠や論拠の信用を落とし、ひいては、証 人が不適切だとみなされ、証人が言うことが陪審員に無視されるようにするために反対尋問を 利用することもできる。証人と議論するより、反対尋問を止めることの方が得策である。更に は、反対尋問は、証言録取ではなく、したがって、出現するかもしれないと期待している何か を求めて探りを入れるために利用すべきではない。 専門家証人に反対尋問をする場合、証人によって提示された技術や背景に関して証人 の信用を落とすのは不可能かもしれない。それよりも、その専門家が言ったり見せたりしなか ったのは何かを考える方が実り多いであろう。可能なら、専門家に言及されずに残されている 事実があることを示し、専門家の意見の根拠に対し陪審員の心に疑いが芽生えるようにすべき である。したがって、専門家の意見が依拠している根拠を攻撃することが、通常、より生産的 である。更には、専門家の経験の範囲を限定することができる場合もある。例えば、当該専門 家は別の分野では博識であるが、争点の技術の専門家ではない場合などである。 F. 異議 何れのトライアルにも数多くの状況が生じ、その中で適切に異議が唱えられることが ある。裁判官も陪審員も絶えず頻繁に異議が発せられるのを好まないということは、認識され、 61 理解されるべきである。絶えず異議を唱える弁護士は、陪審員としての自分達が真実を聞くの を妨害しようとしていると、陪審員は考える。他方、異議を唱えるべき堅固な法的根拠がある 場合、簡単で、明瞭で、適時の方法で、応答前に異議を申し立てるべきである。 残念ながら、記録を保護するために、つまり、控訴の目的で誤りを記録するため、お よび陪審員が不当な証拠を聞いたり、見たりしないようにするために、証拠に関する重要な異 議は、出されなければならない。誤って不当な証拠をトライアルに入れた場合、通常、適切か つ適時の異議がトライアル中に出されない限り、控訴の権利が放棄される。 G. 証拠申請 重要とみなされる証拠を排除する異議が認められた場合、あなたはその記録を維持す るために証拠申請をしなければならない。この申請は、記録を作ることにもなり、その結果、 上訴裁判所は、排除された証拠が何であるか分かり、その排除が適切か否か、その決定が修正 可能な誤りを構成したのか否かを決定することができる。 証拠申請をするための1つのアプローチは、陪審員の聞いていない所で、提案されて いる証言が何であるかについて裁判官に単に説明することである。通常、これは、説明的な形 式で弁護士によってなされる。場合によっては、陪審員のいないところで、証人が、一連の質 疑応答を通して証言することもある。これは、排除された証言を一字一句変えずに口述した記 録となる。 H. 申立 原告の主張の終わりに、被告は、法律問題としての判決を申し立てなければならない。 これは、裁判官がトライアルの一部または全部を終結させ、または原告が一応有利な事件とす るためには不十分な証拠しか出していないため、1 つ以上の争点に関する抗弁のための判決を 登録することを要請する。この申立は、口頭でなされることが多く、記録も取られているが、 書面による申立書を提出する方が良いだろう。同様に、被告の主張の終わりに、被告が弁論の 終わりを告げると、証拠が一応有利な事件を立証していない被告の抗弁および/または反訴の 何れかに関し、法律問題としての判決を申し立てるのは原告の責任である。被告はその時に、 または、あれば、原告の反証提出終了時に、自らの申立を更新する。法律問題としての判決申 62 立は、陪審事件において、全証言の終わりに提出され、更新されるか、再審の申立と一緒にさ れることもある。 I. 最終弁論 最終弁論は、提示された証拠、証人、およびその信用性について省察し、主張を要約 する時である。冒頭陳述の後、多くの陪審員がどちらが勝訴するかに関し、当初から結論を出 していたかもしれないが、最終弁論で、その結論が強固になる可能性も、変わる可能性もある。 証拠に関し、証拠から導かれ得る推論に関し、ならびに直接および反対尋問中に発現した証言 に基づく証人の信用性に関し、意見を言うことは完全に容認されている。ただし、陪審事件の 中で法律を論じることは異議が出されるかもしれない。裁判官が陪審員に対し、事件に適用さ れるべき法律に関して適切な陪審説示を通して、説示するからである。 最終弁論では、主張の論理を再検討すべきである。証人の証言を要約し、その中の重 要な発言を陪審員に指摘することもできる。最終弁論は、あなたが強力な事実に基づく主張を 有する場合、主張事実の論理的な再検討に基づくことができ、その事実が受け入れられた場合、 それによって勝訴が可能となるだろう。最終弁論における別のアプローチは、陪審員の同情と 感情に訴えることである。最終弁論に関する最も重要な要素は、弁論を行う者は陪審員と心を 通わせることができなければならないということである。弁論者が陪審員が理解できるような 言葉で彼らに語れば、陪審員は、その弁論をもっと簡単に自分の頭で理解し、トライアルで展 開された事を思い出し、それに賛成するだろう。大部分の事件は、争われている数少ない事実 に関して決定される。だが、数少ないそれらの事実こそ、最終弁論で強調されねばならない。 最後に、陪審員の注意持続時間は限られており、それ故、最終弁論では、主張について陪審員 に分かって欲しいと思う事を明確に述べなければならないということを忘れてはならない。 J. 審理後手続 連邦民事訴訟規則の規則 50 は、当事者が、判決登録後 10 日以内に法律問題としての 判決申立を提出できると定めている。この規則は、規則 59 に基づく再審申立を法律問題とし ての判決申立の更新に併合することができる、あるいは、再審が択一的に要請できるとも規定 している。当事者は、全証言の終わりに、法律問題としての判決を申し立てることにより、規 63 則 50 に基づく法律問題としての判決申立を提出する権利を維持しなければならない。証言の 終わりで申立をしないと、判決後規則 50(b)の申立をする当事者の権利を放棄することになる。 米国連邦巡回控訴裁判所は 1982 年に創設された。連邦巡回控訴裁判所は、地方裁判所 からの特許事件の控訴をすべて審理する。特許事件における敗訴側当事者は、地方裁判所にお ける最終判決からの控訴を提起する権利を有する。連邦巡回控訴裁判所における控訴の記録は、 地方裁判所に提出された原本書類および証拠、手続記録、ならびに要録(ドケット)記載事項 の認証謄本からなる。控訴する際に重要な仕事の1つは、添付書類に記載すべき資料を適切に 選択することである。連邦巡回控訴裁判所では、主たる上訴趣意書は、ダブルスペースで 50 ページを超えてはならず、応答理由書は、特定の資料を除き、25 ページを超えてはならない。 口頭弁論が通常行われ、3 名以上の裁判官のパネルにより審理され、決定される。ただし、争 点がケース・ウォラントに関わる場合、もっと多くの裁判官が審議することになろう。連邦巡 回控訴裁判所は、通常、1当事者に口頭弁論のため 15 分を割り当てている。弁護士は、通常、 積極的に質問を浴びせるパネルに向き合うことになるので、いつでもパネルからの広範な質問 に答えられるよう準備しておかねばならない。 連邦巡回控訴裁判所の決定は、サーシオレイライ(裁量的上訴)令状の上訴状により 28 U.S.C. § 1254 に基づき、最高裁判所の審理に服する。上訴状提出の時期は、最終決定または判決の 日から 90 日である。最高裁判所が裁量上訴を認める可能性は、特に特許事件の場合、低い。 以上 64
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