セクシャル・ハラスメントの理論と実務

2014 年 11 月 6 日ロイヤリング講義
講師:弁護士 山浦美紀先生
議事録作成者:斎藤理沙
「セクシャル・ハラスメントの理論と実務」
Ⅰ 講師自己紹介
私は、弁護士の山浦美紀です。平成 8 年に大阪大学法学部に入学し、平成 12 年、今から
14 年前に卒業しました。その翌年の平成 13 年に旧司法試験に合格し、大学院にも行ってい
たので平成 14 年 3 月に大阪大学大学院法学研究科修士課程を修了しました。大学、大学院
ともに、池田辰夫先生の民事訴訟法のゼミに在籍していました。その後一年半の司法修習
を経て、大阪弁護士会に弁護士登録を行いました。就職した事務所は北浜法律事務所とい
う大阪で 2 番目に大きな法律事務所で、今では弁護士が約 90 名在籍しています。そこで 11
年修行をさせていただいた後、今年から鳩谷・別城・山浦法律事務所という主人のいる法
律事務所に合流しました。専門は企業側の労働事件で、残業代の請求や、問題社員の解雇
等を扱っています。北浜時代は、特にリーマンショックの時には倒産事件をたくさん扱っ
ていました。
平成 21 年から大阪大学の非常勤講師をしており、ロイヤリングは今年で 6 回目です。毎
回セクシャル・ハラスメントを扱っています。コンプライアンス経営が言われるようにな
って、そのネックになるのがハラスメントです。企業内でハラスメントに対する問題意識
も高まっています。私も、ここのところ毎月 3 回から 4 回は企業の研修に行っており、ハ
ラスメントの話題は企業の人も非常に注目しています。皆さんも企業の新人研修などでハ
ラスメントについて非常に口すっぱく言われると思います。自分がしないように、そして
自分が管理職になってから部下にさせないように、研修を受けると思います。
今回は、ハラスメントのなかでもセクハラについて扱います。皆さんが就職するときにも
役に立つようなお話をさせていただきたいと思っています。
私は女性ということもあって、セクハラに関しては多くの裁判・交渉をやってきました。
官公庁、学校、企業からセクハラ研修の依頼も多いです。そうした研修を行っていたとい
うことが、リスクヘッジとなるからです。また、会社の社外通報窓口も多く経験してきま
した。現在も週1回、大阪地方裁判所民事調停官の仕事もしています。今、弁護士は就職
難であると言われていますが、弁護士業界は今、弁護士の仕事を増やそうとしています。
中でも、企業内弁護士(インハウスロイヤー)の数もここ数年で急激に増えています。企業内
弁護士ですと、福利厚生が充実しており、出産や育児もしやすいので、5 年程法律事務所に
勤めてから企業に移籍する人も増えています。
Ⅱ ハラスメント
今は昭和の時代ではありません。周りの意識も変わっています。仕事は、性的な会話や
行動なしでも成り立ちます。ですので、仕事中の性的な言葉や会話は、迷ったらやめるの
が原則です。
セクハラと他のハラスメントの違いは、完全になくせるかどうか、迷ったらやめられる
かどうかの違いです。セクハラは完全になくすことができる類型で、パワハラは業務上不
可避的に発生しうるものです。その他アカハラ等(セクハラとパワハラの融合)もありますが、
アカハラの裁判例で多いのは医学部で、次に、理系や音楽といった専門の上下関係がはっ
きりしている学部です。
Ⅲ セクハラ
1 セクハラとは
(1)定義
「相手方の意に反する性的言動」と定義されることが多い。
(2)男女雇用機会均等法における「セクハラ」概念
男女雇用機会均等法第 11 条第 1 項では、「事業主は、職場において行われる性的な言
動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を
受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当
該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理
上必要な措置を講じなければならない。
」
では、何がセクハラなのか。11 条の文言の解釈を行っていきます。
ア
職場
ます、
「職場」とは、「事業主が雇用する労働者が業務を遂行する場所」を指し、
「当
該労働者が通常就業している場所以外であっても、当該労働者が業務を遂行する場所」
については、
「職場」に含まれます。つまり、オフィス以外でも仕事をする場所すべて
を指します。具体的には、取引先の事務所、取引先と打ち合わせをするための飲食店。
このような飲み会の場所でもセクハラは起こりやすいです。もちろん、就業時間外の
昼休みのランチの場合も含まれます。出張先のホテルや部署の飲み会も多いです。次、
移動中の交通機関もよくおこります。例えば、タクシーの中や新幹線の自宅、顧客の
自宅です。職場という概念の広さについて、覚えておいていただければと思います。
イ
労働者
正社員はもちろん、パートタイム労働者、契約社員等いわゆる非正規社員、派遣社
員も該当します。特に、正社員以外の人々がセクハラの対象となりやすいです。何年
も一緒に働くことになる正社員だと気まずいが、非正社員であれば後腐れもないから
です。また、「頑張ったら正社員にしてあげる」という口実を使う事によって、「いや
だ」と言えない場合もあります。
ウ
性的な言動
(ア)性的な内容の発言
性的な内容の発言にあたるのは、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情
報を意図的に流布すること、性的な冗談やからかい、個人的な性的体験談を話した
り、聞いたりすること等です。例えば、
「昨日と同じ服だよね?昨日彼氏の家に泊ま
ったの?」
「最近太ったんじゃない?」「スリーサイズは?」といった発言です。ま
た逆に、上司が、女性社員が痩せたことを心配して「最近痩せたんじゃない?」と
いうことがよくありますが、前置きもなしに言うと「自分の体ばかり見ている」と
とられてしまう場合もあるので注意が必要です。
「胸が小さいね」のように、胸や腰、
お尻といった性的な意味合いのあるからだの部分に言及することも NG です。
東京都議会の議員さんの発言が問題となったように、結婚や出産に言及することも、
まさにセクハラです。また、女子だけ殊更「~ちゃん」付けで呼ぶこともセクハラ
に含まれます。また、これは裁判例ですが(和歌山青果卸売会社事件・和歌山地裁平
成10年3月11日判決)、
「おばん、ばばあ、くそばばあ」こういったこともアウト
です。これも裁判例(千葉セクハラ(A設計会社)事件・千葉地裁平成11年1月1
8日判決)ですが「子持ちばばあ」
「おばさん」 もセクハラに当たります。女性の年
齢を総称するような言葉はだめです。
(イ)性的な行動
性的な関係を強要すること、必要なく体に触れること、わいせつな図画を配布す
ること、強制わいせつ、強姦です。ここで強姦と書いていますが、強姦というのは、
見知らぬ人同士よりも知り合い同士の間で起こるケースの方が多いようです。また、
強姦の被害者は、抵抗すれば殺されるかもしれない、という心理が働き、その場で
は抵抗しないこと、強姦の被害にあったことを恥ずかしさからなかなか警察に言え
ないことが裁判例では分析されています。ですので、「抵抗しなかった」という抗弁
は成り立たないこともあります。強姦や強制わいせつというのは、一般の人が思っ
ているよりも起こりやすいのです。被害者の証言だけで立件される場合もありえま
す。
では、具体例を見ていきます。性的な関係を強要することの例では嫌がっている
のをわかっていながら、
「飲みにいこうよ」と毎日さそうこと。必要なく体に触れる
ことの例では、「肩がこっているね」と肩を触ること、「手相を見てあげよう」と言
って手を触ること、自分の筋肉を触らせること。スポーツ新聞や雑誌のグラビア写
真などが掲載されているページを広げて読むこと、女性従業員を個室の執務室に呼
びつけて隣に座らせる、なども該当します。これは逆に、何もしていないのに女性
に「キャー」と叫ばれたりするリスクもあります。また、普通の企業では、自分の
私物は出してはいけないという決まりがあるところもあります。
エ
類型
セクハラには、2 つの類型があります。
1つ目は、対価型ハラスメントです。職場において行われる労働者の意に反する
性的な言動に対する労働者の対応(拒否や抵抗)により、その労働者が解雇、降格、減
給等(労働契約の更新拒否、昇進・昇格の対象からの除外、客観的にみて不利益な配
置転換等)の不利益を受けることです。
2 つ目は、環境型セクシャルハラスメントです。労働者の意に反する性的な言動に
より労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生
じる等その労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることです。具
体的には、事業所内において、上司が、労働者の腰、胸等にたびたび触ったため、
その労働者が苦痛に感じて、その労働意欲が低下していること、です。また、同僚
が、取引先において労働者に係る性的な内容の情報を意図的かつ継続的に流布した
ため、その労働者が苦痛に感じて仕事が手につかないこと、です。また、抗議して
いるにも関わらず、事業所内にヌードポスターを掲示しているため、その労働者が
苦痛に感じて仕事に専念できないこと、です。ヌードポスターでなくても、パソコ
ンでアダルトサイトを閲覧することも含まれます。
2 違法性の判断基準
今まで、セクハラにあたる行為をみてきましたが、実際の裁判になった時には、
すべてが違法になるわけではありません。金沢セクシャルハラスメント事件1では、
違法性の判断基準が示されました。
まず、行為の態様です。そして、行為者の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、
婚姻歴の有無、両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、行動の反復継続
性、被害女性の対応といったことを総合的に判断し、それが社会的見地から不相当
とされる程度のものである場合には、性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を
侵害するものとして違法になる、というふうに判断されています。これはあくまで
裁判になった時の基準です。セクハラというのは、常に訴えられるリスクがありま
1
「行為の態様、行為者である男性の職務上の地位、年齢、被害女性の年齢、婚姻歴の有無、
両者のそれまでの関係、当該言動の行われた場所、その言動の反復・継続性、被害女性の
対応等を総合的にみて、それが社会的見地から不相当とされる程度のものである場合には、
性的自由ないし性的自己決定権等の人格権を侵害するものとして、違法となる」
(金沢セク
シャル・ハラスメント控訴事件
(名古屋高裁金沢支判平成 8 年 10 月 30 日労判 707 号 37 頁))
す。訴えられたことは報道されるが、裁判の結果はほとんど報道されません。裁判
の結果はあまりニュースにならず、敗訴しようが勝訴しようが、マスコミの種にな
ってしまうので、訴えられること事態がリスクなのです。ですので、常に意識をし
て、未然に防ぐ必要があるというのがセクハラのみそです。
3 セクハラが行われた場合のペナルティ
(1)セクハラを行った従業員自身に対するペナルティ
ア 刑事責任
登場人物は、被害者、加害者、会社、上司です。原告の従業員はまず告訴を検討
します。罪名で一番重いのは強姦罪です。次に強制わいせつ罪。飲み会で多いのは、
準強制わいせつ罪・準強姦罪です。お酒を飲ませて、抗拒不能状態にして行うもの
です。飲み会の場所で女性を抗拒不能状態にして強姦を行うと、準強制わいせつ罪
や準強姦罪で立件されます。また、
「こいつは何人もの女を手篭めにしている」など
性的な発言をした場合には、名誉毀損も成立しえます。面と向かって性的な侮辱を
したときには、侮辱罪が成立します。
それから、公然わいせつ罪です。
皆の中には、お酒を飲むと服を脱ぎたくなる人はいませんか。飲み会で友達が脱
ぎたがっているときは、おもしろがらずに止めてください。囃し立てたら、共犯に
なってしまいます。女性もそうですよ。それから、職場でヌード写真をひろげたま
まにしているなどの場合は、わいせつ物陳列罪になることもあります。
イ
損害賠償責任
次に、民事上の機損害賠償義務です。被害者の従業員と加害者の従業員には契約
関係がないので、加害者に対して損害賠償する場合には、民法 709 条、不法行為責
任です。普通、加害者だけを訴えることはまずないので、このケースはおまけみた
いなものです。損害の内容ですが、例えば被害者がうつ病になってしまった場合は、
就労不能期間の逸失利益や治療費。それで賄うことができない精神的苦痛は、慰謝
料でまかないます。
慰謝料は、強姦罪など身体的苦痛を伴うものだと高くなり、1000 万円近くになり
ます。言動だけでも数十万円になることもあります。また、懲戒処分(解雇や降格、
減給、戒告など)もあります。
(2)セクハラを行った従業員の管理職に対するペナルティ
ア
損害賠償義務
例えば、加害者に注意をしなかった上司なども、損害賠償を請求されます。この
場合も、契約関係はないので 709 条です。
イ
懲戒処分
管理職に対しても、上司としての監督義務を怠ったということであれば、懲戒処
分を受けることもあります。
(3)雇用主(会社)に対するペナルティ
ア
損害賠償義務
ここは雇用契約があるので、契約上の義務も請求できます。債務不履行責任も請
求できます。まず、715 条不法行為責任。次に、415 条 安全配慮義務2・職場環境
調整義務違反3をもとに、債務不履行責任の追及です。安全配慮義務違反というのは、
今は労働契約法5条に定めてあります。職場環境調整義務とは(仙台セクハラ事件)
セクハラがおこらないようにする義務もあるし、事後適切な対応をする義務もあり
ます。この義務違反をすると、安全配慮義務・職場環境調整義務違反を利用とする
不法行為責任の追及をされてしまいます。
イ
行政指導
男女雇用機会均等法に違反した場合、報告の徴収並びに助言、指導及び勧告(男
女雇用機会均等法第 29 条)
、公表(男女雇用機会均等法第 30 条)
、過料(男女雇用
機会均等法第 33 条)を受けます。
ウ
レピュテーションリスク
会社が最も避けたいのが、レピュテーションリスクです。特に、エンドユーザー
や一般市民に直結する企業であると、ダメージが大きいです。学校でセクハラがお
こってしまうと、入学する生徒が減り、入学金が減り、偏差値も下がってしまうと
いうケースも考えられます。
4 セクハラと労災
労災とは、労働災害です。労災がおこると、労働保険が出ます。セクハラで精神障
害を発病した場合でも、労災に該当すると厚生労働省が発表しています。
(1)事例1:上司から身体接触を含むセクハラを継続して受けたことにより、うつ病
2安全配慮義務「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつ
つ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
」(労働契約法 5 条)
3職場環境調整義務「事業主は、雇用契約上、従業員に対し、労務の提供に関して良好な職
場環境の維持確保に配慮すべき義務を負い、職場においてセクシャルハラスメントなど従
業員の職場環境を侵害する事件が発生した場合、誠実かつ適切な事後措置をとり、その事
案にかかる事実関係を迅速かつ正確に調査すること及び事案に誠実かつ適正に対処する義
務を負っているというべきである。」
(仙台セクハラ(自動車販売会社)事件(仙台地判平
成 13 年 3 月 26 日労判 808 号 13 頁)
)
を発病したとして認定された事例
【状況】A さんは、B 社のある支店で経理事務に携わっていたところ、入社後約1年半
が経過した頃から、事務室で1人になったときに上司である C 課長に胸やお尻を触
られる、抱きつかれるというセクハラを受けるようになった。A さんは、会社に相談
すると職場に居づらくなるかもしれないと思い、相談せずに仕事を続けていた。そ
の後も、C 課長によるセクハラは、約6ヶ月ほど続き、A さんは耐え切れず、本社の
相談窓口に相談したところ、C 課長は他の支店に異動となった。しかし、この相談を
契機として他の上司・同僚からいわれもない誹謗中傷を受け、抑うつ気分、不眠な
どの症状が生じた。そのため、精神科を受診したところ、「うつ病」と診断された。
【労災認定の判断】
①「うつ病」は認定基準の対象となる精神障害である。
②上司である C 課長から、胸やお尻を触られる、抱きつかれるというセクハラを継
続して受けていたことが認められ、また、会社の相談窓口への相談後に、他の上司・
同僚から誹謗中傷され、職場の人間関係が悪化したことからも、心理的負荷「強」
の具体例に該当し、総合評価は「強」と判断される。
③業務以外の心理的負荷、個体側要因はいずれも顕著なものはなかった。
【労災認定】認められた。
(2)事例2:派遣先の社員から身体接触のない性的な発言を長期間にわたって受けた
ことにより、適応障害を発病したとして認定された事例
【状況】派遣労働者の D さんは、E 社の工場で製造業務に従事していたところ、同じ
職場の F 主任から女性の生理現象などの内容を含むセクハラ発言を日常的に受けて
いた。D さんは、最初は、F 主任が冗談で言っているのだと思い、聞き流していたが、
その後、約1年以上にわたって同様の発言が続いた。そのため、D さんは、セクハ
ラの被害を受けたことを E 社と派遣元の G 社の人事担当者にそれぞれ相談し、他の
部署への配置換えの希望を伝えた。しかし、E 社、G 社ともに対応は難しいとして D
さんの希望を認めず、D さんに対して何ら配慮や対処を行なわなかった。このよう
な状況下、D さんには、吐き気、不眠、食欲不振などの症状が生じ、診療内科を受
診したところ「適応障害」と診断された。
【労災認定の判断】
①「適応障害」は認定基準の対象となる精神障害である。
②身体的接触は伴わないものの、同じ職場の F 主任から性的な発言を継続して受け、
また、会社がセクハラを把握していたにもかかわらず、何も適切な対応がなされな
かったことから、心理的負荷「強」の具体例に該当し、総合評価は、
「強」と判断さ
れる。
③業務以外の心理的負荷、個体側要因はいずれも顕著なものはなかった。
【労災認定】認められた。
最近は、セクハラによる精神障害も労災認定されるように、細かく基準が定められ
ています。
5 男女均等な採用選考ルール
(1)男女雇用機会均等法
続いて、これから皆さんが就職するときに、気をつけてほしいことをお話します。
就職活動のとき、男子にだけパンフレットを送るなど男女で差を設けている場合、男
女雇用機会均等法違反(「性別を理由とする差別の禁止」(法5条)「間接差別の禁止」
(法7条))になります。
(2)具体例
それでは、具体例をお話します。
ア
採用計画・募集
以下のような採用計画を立てることは違反です。
例えば、男性のみ or 女性のみを対象として募集活動をする、募集要項を男子校また
は女子校にのみ配布する、学校に推薦を依頼する際、男女を限定する、募集にあた
って男女で異なる条件を設定する、女性は未婚、子供がいない、自宅通勤に限るな
ど、業務に必要がないのに、身長体重を制限する(警備員であっても、単なる出入者
のチェックだけの業務に体力要件を課す)、業務に必要ないのに、
「全国転勤に応じら
れること」を条件とする、など。
イ
情報提供
募集要項や会社案内の資料送付について男女差を設ける、資料請求があっても、
女子には送らない、どちらかの資料送付を遅くする、資料の内容を変える、募集要
項や就職情報誌に、男女いずれかを募集する職種を表示する、「ウエイター」「ウエ
イトレス」「○○レディ」
「○○ボーイ」、「男のための職場」「女性向きの職種」、イ
ラストや写真で一方の性に偏った職場を強調する、などは違反です。
ウ
会社説明会、セミナー
会社説明会やセミナーの案内を男女どちらかにしか送らない
男女で説明会の内容や場所を変える、「男性は少ない」「女性はすぐやめる」
「これは
男性の仕事」といった説明をする
エ
採用試験
男女どちらかにしか試験を受けさせない、男女の試験の形式や応募書類が異なっ
ている、面接の質問で「子供が生まれたときの就業意思の確認」をするなど、男女
で質問をことさら変える、といった行為は違反です。
オ
選考及び内定者の決定
「男性だから」
「女性だから」という基準で採否を決定する、男女どちらかの選考
基準を厳しくする、といった行為は違反です。
(3)違法とならない場合
業務上一方の性でなければならない職務(芸術・芸能分野、守衛・警備員等防犯上の
理由、宗教、風紀、スポーツ競技等)は、認められています。また、ポジティブアクシ
ョンの取り組み(職場の女性の割合が4割を下回っている区分における募集採用にあた
って、女性に有利な取り扱いをすること)も許されています。
最近は裁判所でも、非常に女性が増えていることを実感します。
6 セクハラの判断において注意を要する事例
最後に、事例を見ていきたいと思います。
(1)事例①:
「女性が受け入れていた」との抗弁はかなり困難です。
・横浜セクシャルハラスメント事件
加害者は、被害者が20分間もの間、抱きつかれて無理やりわいせつ行為を
されたのに、逃げるとか悲鳴を上げることをしなかったのが不自然であるとい
う主張を行ったが、裁判所は、「職場における性的自由の侵害行為の場合には、
職場での上下関係による抑圧や友好的関係を保つための抑圧が働き、これが、
被害者が必ずしも身体的抵抗という手段をとらない要因として働くことが認め
られる」「(被害者が)事務所外へ逃げたり、悲鳴を上げて助けを求めなかった
からといって、
・・・不自然とはいえない。」と主張を排斥した。
・学校法人甲音楽大学事件
加害者は、被害者が20分間もの間、抱きつかれて無理やりわいせつ行為を
されたのに、
逃げるとか悲鳴を上げることをしなかったのが不自然であるという
主張を行ったが、裁判所は、「職場における性的自由の侵害行為の場合には、職
場での上下関係による抑圧や友好的関係を保つための抑圧が働き、これが、被害
者が必ずしも身体的抵抗という手段をとらない要因として働くことが認められ
る」
「
(被害者が)事務所外へ逃げたり、悲鳴を上げて助けを求めなかったからと
いって、
・・・不自然とはいえない。
」と主張を排斥した。
・X社事件
社会経験もそれなりにある昭和44年生まれの女性社員に対し、既婚の上司
が関係を迫り、8ヶ月間の性的関係を含む2年間の男女関係があったことについ
て、退職した当該女性社員はセクハラであると主張したのに対し、上司は合意の
上での不倫関係であると反論したのに対し、裁判所がセクハラを認定した。
原告女性社員が入社直後から、被告上司はドライブや居酒屋に誘うようにな
り、その後月に1回程度ラブホテルで性行為等をする関係が8ヶ月程度続き、原
告が拒絶したあとも、上司の性的な接触行為が続き、原告は体調不良で休職後、
被告会社にセクハラの申告と損害賠償請求を行い、休職期間満了で退職している。
被告女性社員からは、高価な贈り物をし、誤解させるような言動もあった事
案であるが、
女性側の供述が一貫して不合理でなければセクハラを認める傾向に
あると言える。
これはかなり際どい事例でした。男性側は、いわゆる不倫の抗弁を主張しますが、不
倫の場合、男性の側は証拠を残していないことが多いのです。対して、女性の側はよく
覚えている。
不倫だったとしても、セクハラに該当しうるとした裁判例です。
・熊本バドミントン協会役員事件(熊本地裁平成9年6月25日判決)
バドミントンの選手Xは、バドミントン協会の会長Yに強姦され、その後も
Yから結婚を真剣に考えてる等と言われたことや、要求を拒めば、バドミント
ン選手としての将来が閉ざされるかもしれないと考えて性関係を続けた。慰謝
料300万円認容。
セクハラによくあるのが、
「相手はいやがっていない」
「相手はむしろ好意を持ってい
る」と思ってしまうことです。この考えは大間違いです。表立っていやそうな反応をで
きることはむしろ、稀です。平成 25 年度国家公務員セクシャル・ハラスメント防止週
間標語で、
「親しみを
込めたつもりは
自分だけ」というものが最優秀作品に選ばれ
ました。よくできているなあと思ったので、紹介させてもらいました。
(2)事例②:女性から男性へのセクハラも成立する。
今まで、男性から女性へのセクハラを取り上げてきましたが、男性から女性へのセ
クハラもありえます。
・日本郵政公社(近畿郵便局)事件(大阪地裁平成16年9月3日)
部下Y(男性)が、局内の浴室を利用し、上半身裸で体を乾かしていたとこ
ろ、上司X(女性)が入ってきて、Yに近づき、じろじろ見ながら、
「何してる
の。なぜお風呂に入っているの。」など質問した。
→Yは休職した。郵政公社はXの行為を認識したあとも適切な対応をとらなか
ったとして、慰謝料10万円。
・日本郵政公社(近畿郵政局)事件(大阪高裁平成17年6月7日)
Xの行為について、職務である防犯パトロールの一環であり、国賠法上違法
であるとか雇用契約上の義務違反があるとはいえず、セクハラに該当するとの
評価はあたらないとして、第1審判決取消。
↓
「同性間」のセクハラも成立する
(男女雇用機会均等法施行規則等の改正により明示、平成26年7月1日より施
行)
(3)事例3:ついうっかりは許されない
【事案】
A男(男性50歳管理職)は、よくできる部下B子(35歳)の将来のこと
を常に気にかけている。B子は、結婚しており、3歳の子どもを保育所に預け
ながら働いている。非常に優秀であり、計画中のプロジェクトチームの主任に
推薦したいと考えているが、しかし急に、2人目の子どもを妊娠し、産休・育
休を取得するか否かが気になっていた。A男は心配になり、
「君、育休とったり
しないよね?」と聞いた。
↓
業務上の必要性があれば、尋ねること自体は違法ではないのですが、何の脈
絡もないときにいきなりこのような発言をすることは、あまりに不用意です。
「自分はもう不要なのでは。」との誤解を招いてしまうので、出産・育児・産休
についてての発言は、状況によってはセクハラに該当します。
(4)事例4:
「職場」の概念は広い。プライベートだからといって許されない。
・Y市役所事件(横浜地判平成16年7月8日)
上司Yは、歓迎会や暑気払いの場で、部下Xに対し、「早く結婚しろ」「子供
を産め」「結婚しなくてもいいから子供を産め」「言葉のセクハラだけで、体の
セクハラがないのは、自分に魅力がないからか、おれたちに理性があるからか
考えろ」などと言い、私費参加の課長宅でのバーベキューパーティ(時間外職
場外の私費懇親会、原則全員参加、職員の親睦を深める目的)で、写真撮影の
際に、Xを自分の股の間に座らせ、
「不倫しようよ」といった。他市との懇談会
の席で、
「うちにいいのがいるから」と述べた。
この行為につき、裁判所は、慰謝料120万円を認容しました。これは、Y 市役所
も訴えられたのですが、職場の概念は広いということが分かります。
(5)事例5:酔っていたでは許されない
【事案】
A男(男性56歳管理職)
、部署の忘年会を企画した。忘年会には、部署の全
員が参加した。A男は、酒に弱く、少し飲んだだけですぐ寝てしまう体質であ
った。忘年会でも、開始後1時間で寝入ってしまった。次の日、部下のB子か
ら、
「昨日、忘年会のとき、C男(同僚)が肩を抱いてきたり、キスしたいと顔
を近寄せてきたりした。
」との申告を受けた。A男は寝入っていて、全く、その
ときの状況が思い出せない。
皆さんの中にもお酒が強い人、弱い人がいると思います。この事案の上司は、上司
失格ですよね。皆さんは今、学生だからよいのですが、会社に入ったら、自分がお酒
を飲んだらどうなるかというのを知っていないといけないのです。社会人になってか
ら、何か粗相をしてしまうと自分の一生を棒に振ってしまう可能性があります。今は、
「飲めない」ということが通用する時代です。自分のお酒の許容量は、ぜひ知ってお
いてください。
以上