SPECIAL CONTRIBUTION:本格的に動き始めた中国と台湾の両岸三通

特 別寄 稿
第1回
本格的に動き始めた中国と台湾の両岸三通
直行チャーター便の毎週末運航と中国人観光客の入境制限緩和
ANA総合研究所
主席研究員 工藤 政博
はじめに
便は駐機場で放水車によるシャワー
の歓迎を受けた。松山空港のエプロ
ンでは、軍用機と思われるモスグリー
「台湾-中国の直行チャーター便の
運航が 7 月 4 日スタートした。台湾側からは午前
ンの航空機の横を中国の旅客機が通り過ぎて行く
7 時 3 0 分に中華航空の 1 番機が台北市郊外の桃
という珍しい光景も見られた。乗客は国際線用と
園空港 1 から上海浦東空港に向けて飛び立った。
して整備された第 2 ターミナルで入境審査を済ま
ソンサン
これまで国内線専用だった台北市内の松山空港か
ユニ・エア
せる。上海から来た中国人ツアー客の女性は台湾
らは、午前 8 時に立栄航空機が上海に向けて出発
の第一印象を『皆がとても親切だ』と語った。中国
した。また直行便を利用して中国からは 7 5 3 名の
からのツアー客は、ターミナル前で花束贈呈などの
ツアー客 2 が台湾を訪問。台北故宮博物館や国父
簡単なセレモーに参加した後、続々と観光バスに
記念館、台北国際金融ビル(通称、台北 1 0 1)など
を見学した。夜には交通部観光局が一行を圓山飯
松山空港(台北)で放水車の歓迎シャワーを浴びる中国南方航空機
写真提供:NN A
店での晩餐会に招待した。中国からの観光客は現
在のところ 1 日 1,0 0 0 人程度で、年間 1 0 0 億元~
2 0 0 億元 3 の観光収入がもたらされるものと見られ
ている」。これは「中国時報」などの台湾の日刊
紙が、一面トップで大きく伝えた週末直行チャー
ター便の初日の模様である。
「松山空港でも 4 日、中国から
また別の記事 4 は、
の直行便が続々とほぼ定刻通りに到着した。到着
1
:以前は初代総統蒋介石の名前を取って「中正国際空港」と称していたが、陳水扁・前政権の一連の正名運動により 2 年前に「台湾桃園国際空港」と呼称変更
した。蒋介石の本名は「中正」で、
「介石」は字。蒋介石の英語表記 Chian Kai-Seki の頭文字をとって、C. K. S Air port という別称が多用されていた。
新政権に代わって以前の「中正国際空港」に戻す動きがある。
2:第一団は政府関係者、旅行業界、メディア関係者が中心で一般の観光客の台湾訪問は 7 月 1 8 日から開始
3:1台湾元(NTD)≒ 2.9 円( 2 0 0 8 年 1 1 月中旬時点)
4:
「NNA」香港亜州信息網絡有限公司・台湾分公司配信の日本語ニュース
24 ていくおふ . Winter 2009
乗車して目的地へと散って行った」と、中国人観
光客歓迎の様子を伝えている。懸案であった中国
と台湾の間のいわゆる「両岸三通 5」が本格的に動
き出し、この日を境に両岸交流が大きく前進するこ
とになったのである。
「三通」とは、中国と台湾間の直接往来を指す言
葉で、
「通商(ビジネス)
」
「通航(航空)
」
「通郵(郵便・
通信)
」の 3 分野の開放のことを言い、頭文字を
とって「三通」と称する。これまで「通商」と「通郵」に
関しては概ね実施されてきており、
「通航」だけが
進展していないことから、
「三通問題」とは主として
家旅遊局の統計資料によれば、2 0 0 7 年に中国を
両岸の直行航路の開設を指す言葉として台湾の運
訪問した台湾人は延べ 4 6 0 万人で、その大半が香
輸・観光業界では一般的に使用されている。
港やマカオ経由の定期便利用で不便を余儀なくさ
今回実現した「両岸三通」の進展は、大きく 2 つ
挙げられる。1 つは「直行チャーター便の週末運航
れており、直行便の拡大で利便性が大幅に向上す
ることになる。
への拡大」と、もう 1 つは「中国人観光客の台湾訪
また、今回の合意で中国人観光客の台湾訪問が
問の全面解禁」およびそれに付帯する「台湾での人
全面解禁され、同時に直行チャーター便の利用7 が
民元から台湾元への交換」である。特に中国人観
可能になったことで、中国からの台湾訪問者数が
光客の台湾訪問の全面解禁は、保安上の理由で制
増加し、これまで完全に台湾からの一方通行だっ
限していたこれまでの政策を 1 8 0 度転換させるも
た両岸の人的往来が双方向に向うだろう。
のであり、新政権の対中交流拡大に懸ける意気込
みの表れと言える。
一口に「三通問題」といっても、台湾や両岸問題に
関心のある読者以外には、なじみの薄い話題と思われ
これまで直行チャーター便は、1 0 0 万人とも言
るが、日本とつながりの深い中国と台湾との関係改
われる中国在住の台湾企業関係者とその家族の帰
善のテーマであるため、本稿ではあえてこの「三通
省や台湾人観光客の中国訪問に合わせて、年数回
問題」を取り上げ、その歴史的な背景を改めて検証
の大型連休期間(旧暦の春節、端午節、中秋節な
する中で、特に航空路の開設にかかわる「通航」
どの節日6 )に限って運航されていたが、7 月 4 日以
問題に焦点を当てて、中台間の人的交流の促進や
降は毎週末(金曜日から翌週の月曜日までの 4 日
直行便の拡大が日本を含む周辺地域へ、どのよう
間、年間 2 0 0 日以上)運航に拡大される。中国国
な影響を与えるのかを考えてみたいと思う。
5:台湾海峡を挟んでいることから、台湾と中国の関係のことを両岸関係と呼ぶ。
6:旧暦の春節(1 月 1 日)
、端午節(5月 5 日)
、中秋節( 8 月 1 5 日)は、新暦では、2 0 0 8 年は 2 月 7 日、6 月 8 日、9 月 1 4 日
7:中国人観光客のほか外国人も利用できることになった。
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特 別寄 稿
馬英九・国民党政権の誕生と両岸三通の進展
今回週 末 直 行チャーター便が 実 現したのは、
2 0 0 8 年 3 月 2 0 日に実施された台湾総統選挙で、
2000 年以来、2 期 8 年ぶりに政権復帰を果たした
国民党の馬英九政権 8 が選挙公約通り「両岸三通」を
進展させた成果である。馬総統は選挙期間中、経済
重視の姿勢を明確にし、
「6 3 3」9 と呼ばれる経済
目標を掲げ、対話路線による対中経済交流の拡大
と「愛台 1 2 項目建設」と呼ばれる大規模公共投資
などで台湾経済を成長させる方針を掲げていた。
高まっていた。
選挙結果の詳しい分析はここでは省略するが、
特に対中政策では規制緩和政策として直行チャー
馬英九候補が 2 0 0 万票、1 7% の大差をつけて民進
ター便の拡大以外にも、台湾企業の対中投資限度
党の謝長廷候補に勝利した要因には 10、陳水扁政
額規制の緩和、中国との共同市場(FTA)の造成
権が金銭スキャンダルに巻き込まれて民進党のク
や観光客の誘致、中国資本への台湾投資開放など
リーンなイメージが覆されたということもあるだろ
を選挙公約に盛り込み、成長著しい中国の経済上
うが、対中政策の差が大きく影響したと言われて
のメリットを取り込む方針を掲げていた。
いる。民進党政権下の 8 年間に台湾の民主化は大
国民党は 2 0 0 8 年 1 月に実施された立法院(日本
きく前進したが、同時に中国への経済依存度も増
の国会に当たる)選挙でも圧勝し、7 割を超える議
大しており、将来の経済発展を考えて有権者が現
席を獲得しており、少数与党が故に苦しい議会運営
実路線をとる国民党を選択した結果というのが大
を強いられた前政権と異なり、新政権はよりスピー
方の見方である。
ディーに政策運営を行える環境下にある。しかし、
民進党も敗れたとはいえ、謝長廷候補の得票率
それだけに景気浮揚に失敗すると世論の風当たり
41. 6%と得票数 544 万票は決して無視できる数字
は強くなることが予想される。
ではなく、馬政権としては台湾の主体性を重要視し、
一方、陳水扁前政権も在任中、段階的に「両岸
対中経済依存度の一段の高まりに警戒感を示す世
三通」の拡大を図ってきたが、ここ数年は中台間
論にも配慮しながら、慎重に政策を推し進めるこ
の対立を背景に規制緩和のペースを遅らせ、投資
とになるだろう。
案件に対する管理強化へと方針転換していたため
に産 業 界の間で 経 済 政 策 運 営に対 する不 満 が
筆者は 2 0 0 3 年秋から 2 0 0 7 年春までの 3 年半、
台湾に駐在した経験を持つ。赴任した 2 0 0 3 年は
8:総統への正式就任は 5 月 2 0 日
9:2 0 0 9 年に経済成長率を 6% 以上、2 0 1 2 年の失業率を 3% 以下、2 0 1 6 年の平均国民所得 3 万米ドル達成する。
10:馬候補は 7 6 6 万票を獲得、得票率は 5 8.4%
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本 格的に動き始めた中国と台湾の両岸三通
年の始めに発生した S A R S 騒動でアジア全域が
春に行われた総統選挙で、民進党はもう少し善戦
震撼し、台湾、香港をはじめとしたアジア域内の
できたのではないかというのが筆者の感想である。
航空旅客が激減した年である。日本と台湾間も春
以降ほとんどの航空便が運休となり、日本人駐在
今回合意した三通(通航)の内容
員の中には本社から「帰国無用」の指示が出された
人もいて、9 月の段階では状況はかなり改善に向
馬英九新政権は就任後「両岸三通」進展に向け
かっていたものの、まだ SARS 禍の影響が市内に
て素早く対応した。就任式から 2 日後の 5 月 2 2
残っていたのを覚えている。
日には最初の閣議を開き「週末の両岸直行チャー
翌 2 0 0 4 年 3 月に行われた総統選挙では、選挙
11
ター便、中国からの観光客の台湾訪問解禁案」を
前日に台南で発生した銃撃事件 の影響が出たの
閣議決定し、6 月 1 3 日には日本の国会に当たる
か、大方の予想を裏切って民進党の陳水扁総統が
立法院で台湾本島での人民元の売買を可能とする
国民党の連戦候補を僅差で破って再選され、民進
「両岸人民関係条例」の修正案を可決した。
党政権がさらに 4 年間続くことになった。3 年半ほ
5 月 1 8 日には国民党の呉伯雄主席が中国を訪
どの台湾駐在期間中に、民進党政権下での三通問
問し、胡錦濤中国国家主席と会見して、双方が
題に対する台湾政府の取り組みや、2 期目に入って
「九二共通認識」14 の下で速やかに交渉を開始し、
金銭スキャンダル 1 2 に見舞われた陳政権に対する
「週末直行チャーター便と中国人観光客の台湾訪
厳しい世論の動向も目の当たりにした。台湾では
問」を早期に実現させることに合意した。
日本に比べて一般の人たちの政治への関心は非常
これを受けて6 月12日と13日の両日、北京を訪問
に高い。両陣営が主催する大規模集会には地方か
中の台湾側民間窓口機関15 である海峡交流基金会
らも多くの支持者たちが貸切バスを何台も連ねて
(台湾交流基金会)董事長の江丙坤氏 16 が釣魚台
台北に集結した。そして、市政府前広場での集会
国賓館で中国の陳雲林・海峡 両岸関係協会(中
の後、党のカラーである青(国民党)や緑(民進党)
国両岸関係協 会 )会 長と会 談し、「 海 峡 両 岸 包
ののぼりを押し立てて、目抜き通りの仁愛路を総
機(チャーター便)会談紀要」および「海峡両岸
督府前広場に向けて、大声を上げて練り歩く光景に
関於大陸居民赴台湾旅遊協議」の 2 項目について
何度も遭遇した。2 0 0 6 年 9 月に巻き起こった陳政
合意、調印した。前者は(台湾)海峡両岸の直行
13
権の腐敗を糾弾する座り込み運動 に当社支店の
チャーター便運航に関するもので、後者は中国籍
台湾人スタッフまでもが勤務終了後、デモ用の服
旅行者の台湾観光に関する取り決めである。これ
に着替えて参加したのには、さすがに驚いた。
により台湾の馬新総統が選挙公約に掲げた 2 0 0 8 年
この一連の金銭スキャンダルがなければ、この
7 月からの週末直行チャーター便の運航と中国か
11:民進党の陳水扁総統候補と呂秀蓮副総統候補が台南市内で遊説中に何者かに銃撃された事件
1 2: 陳総統の女婿である趙建銘氏の不正取引や呉淑珍夫人による総統府機密費流用疑惑など陳総統の近親者による一連の金銭スキャンダルのこと
1 3:民進党元主席の施明徳氏が中心になって総督府前広場で座り込み運動を展開し、陳総統の退陣を要求した。
14:次章で詳細解説
15:台湾政府で両岸関係を扱う部署は行政院大陸委員会、中国側は国務院台湾弁公室が担当、弁公室主任は前駐日大使の王毅主任。本来は政府当局間の交渉マターで
あるが、両岸関係という特殊事情により民間団体に交渉を委任という形式を取っている。
16:国民党副主席で元経済部長(経済産業省大臣に相当)
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特 別寄 稿
らの台湾観光旅行の全面解禁が実現する運びと
むところ、両岸の直行航空路が未整備のために
なったが、一部の議題は 11 月に開催予定の次回協
一旦南下して香港 F I R を通過した後に再び北上
議に持ち越しとなった。主な合意内容は図表 1 の
するルートを取ることになり、飛行時間は 2 時間
通りである。
3 0 分と 1 時間以上余分にかかってしまう。台北―
今回の合意を受けて馬英九総統は、今後の目標
北京間も同様で、利用者利便の向上の観点からも
は直行チャーター便の平日運航(毎日運航)
、飛行
燃料消費量削減の観点からも、ぜひとも次回協議
ルートの直行短縮化、就航地点の拡大、貨物チャー
での実現を願いたいものである。
ター便の運航であり、優先順位を付けて交渉して
行きたいと表明しているので、次回以降の協議で
三通進展の背景「九二共識」
何らかの進展が見られるかも知れない。特に「飛行
ルートの直行短縮化」関しては、例えば 図表 2 と
今回「両岸三通」が大きく前進した背景に、台湾
図表 4 を見ていただければお分かりの通り、台湾桃
の新政権が、いわゆる「九二共通認識(九二共識)
」
園空港から上海浦東空港まで飛行するのに、最短
を受け入れたことがある。この「九二共識」というも
の直行飛行ルートを取れば 1 時間 20 分の飛行で済
のを理解しないと、今回進展した背景はなかなか理
図表1 週 末の直 行チャーター便 運 航についての主な合意内容
項目
内容
1. 運航開始
2008年7月4日(金)
2. 便数
中国・台湾双方から 1 8 往復
毎週金曜日から翌週月曜日までの 4 日間
北京オリンピック後に倍の 7 2 往復の運航を目指す
3. 使用空港
中国側 5 空港 北京、上海、広州、厦門、南京
台湾側 8 空港 台北松山、桃園、台中、高雄、花蓮、台東、金門、馬祖
4. 航空会社
中国側 6 社 中国国際、中国東方、中国南方、厦門、上海、海南
台湾側 5 社 17 中華、長栄、華信、立栄、復興
双方の航空会社は、相互に事務所開設が可能
5. 中国国籍者の
台湾観光
台湾側は毎日 3,0 0 0 人まで受け入れる
第1団(国家旅遊局関係、旅行業者が主体)は 7 月 4 日のチャーター便で訪台
一般観光客の台湾訪問は第 3 週目の 7 月 1 8 日(金)からとする
6. 交渉継続事項
貨物輸送機の直行チャーター便運航は 9 月までに交渉、合意を図る
飛行ルートは当面は現行(香港 F IR 通過1 8)とし新航路開設については双方の意見調整後、協議する
7. その他
外国人もチャーター便利用可能
17:台湾側も当初遠東航空が就航予定だったが、経営破たんのため除外され 5 社になった。華信(マンダリン航空)は中華航空の子会社、立栄(ユニ・エアー)は長栄
航空の子会社
18:2 0 0 5 年春節(旧正月)のチャーター便運航に際して、香港での義務着陸要件が撤廃されたが、迂回ルートである香港 FIR 通過の条件が課せられ、現在に至って
いる。FIR は当該管制区が航行支援する空域のこと
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本 格的に動き始めた中国と台湾の両岸三通
図表 2 台 湾桃園国際 空港からの所要時間
台湾桃園国際空港からの所要時間
中国の空港
第 3 地区経由
同左(着陸なし)
直行ルート
北京
6 時間 20 分
3 時間 45 分
2 時間 30 分
上海
5 時間
2 時間 30 分
1時間 20 分
厦門
4 時間 20 分
1時間 30 分
1時間
広州
3 時間 50 分
1時間 30 分
1 時間 30 分
第 3 地区(香港)経由便の所要時間(乗り継ぎ時間は1時間~ 2 時間)
台北-香港 1時間 45 分、香港-北京 3 時間 25 分、香港-上海 2 時間 30 分
解できないと思われる。この言葉は 19 9 2 年に台
談し、国民党と共産党との間で両岸関係改善に合
湾側の交流基金会董事長で先年他界した実業界の
意したことから第 3 次国共合作などと言われたが、
大物・辜振甫氏と当時中国側の両岸関係協会会長
公式ルートではないために大きな進展は図られな
だった汪道涵氏が香港で政経分離について会談し
かった。3 年前に連戦氏が訪中した際、中国側が
た際に、口頭で確認したと言われる「一中各表」
「台湾にパンダを贈呈する」と約束し、台湾の動物
(「一個中国、各自表述」の省略形)のことを指し、
園が受け入れに名乗りを上げたとのニュースをご記
その意味は「中国は 1 つだが、その解釈は各自で
憶の読者も多いと思うが、当時の陳政権は動物保護
19
表 明 す る 」というもの で 別 名「 9 2 年コンセン
の国際条約などを理由に挙げて受入れを拒否して
サス」とも呼ばれ、協議進展を図るための妥協案
いた。この「団団」と「円円」の 2匹のパンダも、ようや
だった。中国は「各自表述」には触れずに「九二
く台北市動物園が受入れることが決まり、今回の合
共識」ので「1 つの中国」を認めたものとし、協議
意で 2008 年 11 月末から 12 月の初めに四川省成都
再開の条件として台湾側にこの共通認識の受入れ
から台湾に運ばれてくることになった。
を求めていたが、陳水扁政権はこの共通認識その
ものの存在が不明確として受け入れを拒んできた
初便就航に向けて双方が準備に入る
経緯がある。
前政権時代にも連戦・元国民党主席などの野党幹
中国国家旅遊局は中国人観光客の台湾訪問解禁
部が相次いで中国を訪問して中国共産党幹部と会
を受け、今回訪問を開放する中国人の居住地を発表
19:中国側は中華人民共和国、台湾側は中華民国と解釈。中国側としては、いまだ国民党と共産党とは内戦状態にあり、実質的に内戦に勝利した中国共産党が
中国の正当な政府と主張できる。
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特 別寄 稿
タ
ロ
コ
した。まず 13 の市と省(北京市、天津市、上海市、
続いて花蓮県にある太魯閣渓谷が 3 2%、第 3 位は
重慶市と福建省など 9 省2 0 )の居住民を対象とし、
阿里山、以下淡水、台北故宮博物館の順となって
今後、対象地域を順次拡大していく。団体(10 名~
いるそうだ。
4 0 名単位)での旅行と直行チャーター便の往復利
6 月 24 日、台湾交通部は 7 月 4 日から直行チャー
用が条件となっており、手続きはあらかじめ指定さ
ター便を正式にスタートさせると発表。同時に
れた旅行代理店に申請書類一式を提出し、中国当
第 1 週目の時刻表をリリースした。総便数 3 6 往復
局の事前審査を受けた後に台湾への旅行許可証で
の使用空港別の内訳は図表 3 の通りである。
ある「大陸地区居民来往台湾地区通行証」を受け
注目したいのは、これまで国内線専用だった台北
取り、その後台湾側の受けの代理店を通して台湾
市内の松山空港が両岸チャーター便に初めて使用
側ビザの発給を受けることになる。
されることになったことである。第 1 週目の運航
また、航空会社が相互に事務所を開設できるこ
では 3 6 便中 1 3 便が松山空港に降り立っている。
とになったのを受けて、中国の航空会社の代表が
台北市内にあり便利なことが人気の理由だ。台北
相次いで台湾を訪問し、台北市内のオフィス物件
市街区の北部(松山区)に位置し、超高層ビルの台
を探すとともに台湾の航空会社の本社を訪れて地
北 101 の展望台からは眼下に眺めることができる。
上ハンドリング業務などの業務提携について協議
松山空港では 7 月 4 日の初便就航に間に合わせよ
を開始した。
うと急きょ国際線用にターミナルビルの改装工事が
一方、中国の旅行代理店の代表一行も台湾の観
開始された。台湾を訪れたことのある方は中華宮
光事情視察のため 11 日間にわたって台湾各地の観
殿風の大型ホテル圓山大飯店(グランドホテル)の
光地を回り、ホテルなどの事前視察を行った。台湾
上空をかすめて着陸態勢に入る台湾の航空機をご
交通部観光局の調べでは中国人観光客が訪問した
覧になったことがあるのではないかと思う。3 0 年
い人気観光スポットは台湾中部の南投県にある有
前に当時の中正国際空港21 がオープンし、すべての
名な湖、日月潭が No.1 の 4 3%と最も人気があり、
国際線が移管されて以降は国内線専用空港として
図表 3 使 用空港と便 数 使用空港と便数
台湾の空港
桃園16便、台北松山13便、台中3便、花蓮1便、馬公(馬祖)3便
中国の空港
上海浦東16便、厦門8便、北京6便、広州5便、南京1便
2 0:福建省のほかに遼寧省、江蘇省、浙江省、山東省、湖北省、広東省、雲南省と陝西省の合わせて 9 省
21:台北市内から桃園空港までの所要時間は、高速道路が空いていれば車で 4 0 分ほど、混雑時は 1 時間以上を要する。
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本 格的に動き始めた中国と台湾の両岸三通
使われてきたが、何分長い歴史が
図表 4 台北 _ 上 海間の航空路(イメージ)
あるために空港施設も老朽化して
いる。
台湾では国内線航空会社 4 社 2 2
が狭い台湾域内で激しい競争を繰
り広げ、特に高雄便などはシャトル
便並みに 2 0 ~ 3 0 分おきに出発す
るなど活況を呈していた。しかし、
2 年前に台北と高雄を結ぶ台湾新
幹線が開通し、台北から高雄まで
1 時間半で行くことができるように
なって、その影響を直接受けて国
内線旅客が激減し、各社が相次い
で大幅な減便を行った。その結果、
松山空港の 1 日当たりの発着便数
は大幅に減少している。台湾交通
部は今 後の松山空 港の展開につ
いて、両岸チャーター便以外にも
日本や韓国を結ぶ路線の開設も検
討したいとしている。
台湾側では 1 日当りの中国人観光客の受入れ数を
期待外れの中国人観光客の台湾訪問
3,0 0 0 人までとして、当面は 1,0 0 0 人程度と見積
もっていたが、いざふたを開けてみると、事前の予
最初のニュース記事でもご紹介したように、
想をはるかに下回る結果となった。
台湾での熱烈歓迎を受け、鳴り物入りでスタート
台湾交通部の統計によると、7 月のチャーター
した直行チャーター便だったが、これまでの実績
便の実績は 1 4 4 便、利用者数は 5 万 2,9 3 3 名で、
は台湾の観光関連業者にとって期待外れだったよ
そのうち台湾を訪問した中国人観光客はわずか
うで、台湾からは最近、ニュース番組でもほとん
1 6 2 団体の 4,4 8 2 人にとどまり、1 日当たりの平均
ど報道されなくなったという情報が届いている。
利用者数は 3 0 0 人に満たない数字だった。チャー
2 2:国内線4社は華信航空、立栄航空、復興航空、遠東航空(運航停止中)
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特 別寄 稿
ター便そのものは台湾企業関係者と台湾人観光
れる国慶節(1 0 月 1 日)の長期休暇には、
1 5 7 団体、
客が搭乗者の 9 0%を占め、利用率も 9 0%以上を
4,2 8 6 人が台湾を訪問し、年末にかけて、さらに訪
維持した。彼らは従来の香港やマカオ経由便から
問者数が増加するものと予想されている。
直行便に切り替えたようで、その結果、台湾と香港
やマカオを結ぶ定期路線は、1 週間当たり 1 万人規
第 2 回両岸協議で毎日チャーター便運航に合意
模の旅客が直行チャーター便に流れ、大きな影響
を受けている。
中国側「海峡両岸関係協会」の陳雲林会長が率
中国人観光客の比率が 1 0%にとどまった要因に
いる代表団一行 6 0 名が 1 1 月 3 日、台湾を訪問し
ついては、北京オリンピックの影響で中国での申請
4 日と 5 日の両日、台北市内で開催された第 2 回
手続きに時間を要したことや、チャーター便数が少
両岸協議に臨んだ。議題は前回の 6 月協議で持ち
なく台湾企業関係者でほぼ満席状態になっている
越しとなった直行チャーター便の拡充や飛行ルート
ため予約が取りづらかったことなどが挙げられた。
の直 行 短 縮 化などで、初日の 4 日は、①空運協
しかし、中国側の資料によれば、中国当局は今年
議「直行旅客チャーター便の毎日運航と直行貨物
末までに 1 8 万 7,0 0 0 人の中国人観光客の台湾訪問
チャーター便の運航」②海運協議「海運直行航路の
を許可しており、中国のゴールデンウィークといわ
開設」③両岸郵便協議「郵便の直接往来」④食品安
図表 5 第 2 回両 岸協議での合 意事 項
6 月合意
直行チャーター便
中国側使用空港
週末運航(36 往復 / 週)
5 空港
貨物チャーター便
飛行経路
なし
香港 FIR 通過
海運
なし
(現行は日本の石垣島または香港に寄港)
郵便
なし(現行は香港経由)
食品安全
なし
11 月合意
毎日運航(108 往復 / 週)3 倍に拡大
21 空港 23
月間 60 往復(双方 2 ~ 3 社指定)24
「中台特殊航路」開設、ただし北行きのみ
25
台湾側 11 港開放(基隆、台北、高雄など)
中国側 63 港開放(海港 48 港、河港 15 港)
営業税、所得税を免除
国旗は掲揚せずに会社旗のみ掲揚
直接往来
( 一般郵便、書留、小包、EMS などの解禁 )
郵政業務の直接清算システムの確立
双方で情報の共有、協議システムの確立
2 3:現行の 5 空港(北京、上海浦東、広州、アモイ、南京)に、16 空港(成都、重慶、杭州、大連、桂林、深圳、武漢、福州、青島、長沙、海口、昆明、西安、瀋陽、天津、
鄭州)を追加
2 4:直行貨物チャーター便の拠点は、台湾が桃園と高雄、中国が上海浦東と広州の 2 空港
2 5:北行きルート~国際航路B 5 7 6 を飛行、その後西に進路を取り、中国の東山で中国の国内線ルートに接続する。
南に向かうルート(アモイ、桂林など)は継続協議する。
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本 格的に動き始めた中国と台湾の両岸三通
る必要に迫られていたためではないかと思われる。
陳会長は以前、国務院台湾事務弁公室主任を務めた
最高幹部の1人で、1 9 4 9 年に国共内戦が集結して
以降に中国が台湾に派遣した中国要人の中では最
高レベルの政府高官であり、内外に双方の関係改
善を強く印象付けた。しかし台湾では、昨今の景気
低迷を受けて馬政権への支持率が急激に低下した。
台湾の主権を棚上げにして中台関係改善に突き進
む馬政権への警戒心を抱く世論もいまだに根強く、
全協議「食品安全問題への双方による取り組み」―
1 0 月 2 5 日には野党民進党が呼び掛けた反馬英九
の4 項目について台湾側と合意した。2日目の 5日は、
デモには、主催者発表で 6 0 万人の民衆が集結した。
金融、経済、貿易分野について双方が意見交換を
野党支持者による激しい抗議デモを目の当たりに
行った。3 回目となる次回協議は 2 0 0 9 年に中国で
して、台湾滞在期間中、中国側代表団は台湾民衆
開催されることになり、金融面での協力、台湾系
の対中不信感を緩和させるため、中国の「善意」を
企業の投資保証などが主なテーマとなる。
示そうとする姿勢に終始した。
詳しい合意内容は図表 5 に示す通りであるが、
次号では「両岸三通の歴史的背景」について検
直行チャーター便が毎日運航に拡大され、さらに最
証するとともに、もう1つの三通である金門島を
短飛行ルートである「中台特殊航路」が設定され、
経由した「小三通」の実態と、その後の直行チャー
飛行時間が短縮されることで利便性が大幅にアッ
ター便の利用状況と台湾の世論の動向についてお
プし航空運賃も下がることから、今後利用者は増
知らせする。今後の両岸関係に注視したい。
加するものと予想される。また直行貨物チャーター
便の運航や海運の直接往来が認められたことで、
物流コストの削減が見込まれる。上記の合意項目
のうち空運、海運、郵便物については調印から 4 0
日後に、食品衛生は 7 日後に発効する。三通とは
直接関連のない第 4 項目の食品衛生が急きょ協
議項目に入ったのは、日本でも問題となったメラミ
ン混入食品問題が台湾では大きな社会問題となり、
中国政府としては台湾側に誠意を示し沈静化を図
PROFILE
工藤 政博(くどう・まさひろ)1949 年大分県生まれ。72 年
東京外国語大学卒業。同年 ANA 入社。88 年成田空港支店
管理室管理課リーダー、8 9 年ロサンゼルス支店総務マネ
ジャー。ホテル事業部、日本貨物航空、関西航空貨物ターミ
ナルサービス出向などを経て 2 0 0 3 年台北支店長。営業
推進本部を経て、0 8 年より ANA 総合研究所主席研究員
(現職)
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