妊娠ラット摘出心におけるブピバカインとロピバカインの心抑制作用

431
原
聖マリアンナ医科大学雑誌
Vol. 30, pp.431–437, 2002
著
妊娠ラット摘出心におけるブピバカインとロピバカインの心抑制作用
や ざき
たい じ
たて だ
たけ し
矢崎
泰司
舘田
武志
(受付:平成 14 年 8 月 20 日)
抄
録
ブピバカインは,長時間作用性局所麻酔薬であり運動神経への作用が少ないことから,多くの
施設で術中術後の局所麻酔に使用されている。一方,その心血管系に対する毒性は強く,特に妊
娠時にブピバカインの心毒性が増強されることが報告されている。新しく開発された局所麻酔薬
であるロピバカインはブピバカインとほぼ類似した化学構造式を有しており,その性質や作用時
間はブピバカインと似ているが,心血管系に対する毒性はより少ないとされている。
この実験では,妊娠ラットの摘出心を用いロピバカインによる直接心抑制作用が,ブピバカイ
ンと同様に妊娠時に増強されるかどうかを検討した。
妊娠ラット(妊娠 11 〜 13 日前後)摘出心を Langendorff 法により灌流圧 70 mmHg で 95%O2 –
5% CO2 混合ガスを吹送した 37˚C Krebs-Ringer 液にて灌流させた。左房よりバルーンを左室に挿
入し,左室拡張終期圧が 5 mmHg となるように調節した。さらに,300 bpm でペーシングし,左
室収縮期圧(SLVP)を測定した。循環動態安定後に baseline の測定を行い実験を開始した。バス
内にブピバカイン,ロピバカインをそれぞれ 10–8M, 10–7M, 10–6M, 10–5M の濃度となるように溶解
し,10 分間灌流させた後各パラメーターを測定した。
Baseline の測定では妊娠群,非妊娠群共に SLVP に有意差は認められなかった。ブピバカイン
投与においては妊娠群,非妊娠群共に SLVP を減少させたが,10–7M において非妊娠群より妊娠
群において SLVP を有意に減少させた。一方,ロピバカイン投与においても妊娠群,非妊娠群共
に SLVP を減少させたが,ブピバカイン投与より抑制率は少なく,両群間に有意差は認めなかっ
た。
以上より,ブピバカインの心抑制作用は妊娠により増強されるが,ロピバカインにおいては妊
娠による心収縮力への影響は軽度であり,心抑制作用は増強されないと推察された。
索引用語
ブピバカイン,ロピバカイン,妊娠,心抑制
王切開術や無痛分娩における硬膜外麻酔に対して最も
緒
言
一般的に使用されている。しかし,その心血管系への
ブピバカインはリドカインやメピバカインといった
毒性はリドカイン,メピバカインといった他の局所麻
他の局所麻酔薬と比較して長時間作用性であることと
酔薬より強くブピバカインによる局所麻酔薬中毒で心
運動神経に対する遮断作用が少ない
1)
停止を生じると蘇生が困難であることが報告されてい
ことから,帝
る 2)3)。ブピバカインによる局所麻酔薬中毒の多くが
妊婦への硬膜外麻酔で発症することから,妊娠によっ
聖マリアンナ医科大学 麻酔学教室
(教授 山中郁男)
てブピバカインの局所麻酔薬中毒症状が増強されるの
209
432
矢崎泰司 舘田武志
ではないかと考えられている 1)。
mM)にて摘出心を灌流させた。左心耳を切開後,ラ
一方,ロピバカインは本邦での臨床使用が新しく認
テックスバルーンを左室に挿入し,左室収縮期圧
められた局所麻酔薬である。Single enantiomer(s 体)
(systolic left ventricular pressure: SLVP),左室拡張終期
の長時間作用性アミド型局所麻酔薬であり,その化学
圧(left ventricular end diastolic pressure: LVEDP)を測
構造は既存のラセミ体の塩酸メピバカインやブピバカ
定した。また,右房,右室にそれぞれ針電極を取り付
4)
インに類似している 。また,ブピバカインと比較し
け , 電 気 刺 激 装 置 ( Electronic stimulator SEN-1101,
て痛覚神経遮断作用,持続時間はほぼ同等であり 5),
Isolator SS-101J, 日本光電)により心拍数を 300 回/分
かつ低濃度において運動神経遮断が弱く,知覚神経遮
に固定した。灌流圧はリザーバーの高さを調節し
断作用と運動神経遮断作用の分離に優れ,また中枢神
70 mmHg に,LVEDP は左室内のバルーンを調節し
経系や心血管系に対する作用は他の局所麻酔薬より少
5 mmHg に維持した。
ないという特徴を有している 6~8)。さらに,種々の動
2.実験試薬
物実験においてロピバカインはブピバカインに比べ心
本研究に用いた薬物は,バス内に投与した際に適切
毒性が低いことや,痙攣誘発量から致死量までの用量
なモル濃度となるように調製した。
の幅が大きく中枢神経に対する安全域が広いことが示
① ブピバカイン
9)
ブ ピ バ カ イ ン ( Sigma) を 蒸 留 水 で 溶 解 し た 後 ,
されている 。ブピバカインと異なりロピバカインに
Krebs-Ringer 液で希釈した。
よる心抑制は妊娠により増強されないとも報告されて
いる 10)。妊娠時においては薬物代謝,蛋白結合など
② ロピバカイン
種々の因子が局所麻酔薬中毒反応に影響を与えること
塩酸ロピバカイン(アナペイン注 ®: Astra Zeneca)
が示唆されている
1)
を Krebs-Ringer 液で希釈した。
が,ロピバカインの心臓に対す
3.測定方法
る直接抑制作用が妊娠で影響されるかどうかの報告は
SLVP,LVEDP,灌流圧は圧トランスデューサー
ない。
今回,我々は妊娠ラットの摘出心を用いてブピバカ
(SCK-700, オメダ)を介してポリグラフ(RM-6000,
インおよびロピバカインの心収縮力抑制作用に対する
日本光電)に表示させ熱線記録器で記録した。実験の
妊娠の影響を非妊娠ラットと比較検討した。
測定項目は SLVP とした。循環動態が安定したところ
で baseline の 測 定 を 行 い ブ ピ バ カ イ ン ( 非 妊 娠 群
実験方法
n=31,妊娠群 n=27),ロピバカイン(非妊娠群 n=34,
1.材料および摘出心標本の作製
妊 娠 群 n=30) を そ れ ぞ れ 10 –8 M, 10 –7 M, 10 –6 M,
非妊娠群として 14 週齢 Wistar 系雌ラット(体重
10–5M のいずれかの灌流液で 10 分間灌流させた後に
230 〜 320 g)を用いた。妊娠群として 14 週齢 Wistar
SLVP を測定した。さらに baseline からの変化率(心
系雌ラット(体重 260 〜 320 g)を用い,雄ラットと
収縮抑制率)を算出し,非妊娠群,妊娠群の比較を
同じゲージ内で 4 日間飼育,交配させ,妊娠 11 〜 13
行った。なお,control(妊娠群 n=7,非妊娠群 n=10)
日で実験に供した。尚,妊娠の有無は心臓摘出前に開
として薬物を投与しない群も同様に測定を行った。ま
腹し確認した。ペントバルビタール(ネンブタール ®,
た,予備実験として 14 週齢 Wistar 系雌ラット(妊娠
大日本製薬)25 mg/kg BW の腹腔内投与により麻酔
群,非妊娠群,各々 n=7)の血清プロゲステロン値を
後,直ちに開腹,開胸し心臓を摘出した。摘出心は
測定し比較検討した。血清プロゲステロン値の測定は
4˚C の Krebs-Ringer 液にて心拍動を停止させ,脂肪組
ラットの血液を遠心分離後,血清を冷凍保存し HPLC
織などを除去した。ついで,Langendorff 法にて大動
法にて測定した。
脈から逆行性にカテーテル(SECALON® T, 日本ベク
測定値は平均±標準誤差(mean ± SEM)で示し,
トンディッキンソン株式会社)を大動脈弁直上まで
統計処理はブピバカイン群とロピバカイン群および妊
挿入し,37˚C の Krebs-Ringer 液(NaCl 108 mM,KCl
娠群と非妊娠群の比較には Student-t 検定(対応あり)
4.75 mM,MgSO4 · 7H2O 1.19 mM,KH2PO4 1.19 mM,
を,各群内の比較,濃度間の比較には分散分析を用い
CaCl2 · 2H2O 2.54 mM,Glucose 10 mM,NaHCO3 22.5
Scheffe の多重比較を行い危険率 5% 未満を有意差あり
210
妊娠ラットにおける局所麻酔薬の心抑制
433
Table 1. Effects of Bupivacaine and Ropivacaine on SLVP in Nonpregnant Group
Values are mean ± SEM.
Baseline: Baseline measurements, After: 10 min after bupivacaine or ropivacaine administration
SLVP: Systolic left ventricular pressure
*:p<0.05 VS control, #: p<0.05 vs baseline measurement
Table 2. Effects of Bupivacaine and Ropivacaine on SLVP in Pregnant Group
Values are mean ± SEM.
Baseline: Baseline measurements, After: 10 min after bupivacaine or ropivacaine administration
SLVP: Systolic left ventricular pressure
*: p<0.05 VS control, #: p<0.05 vs baseline measurement, ¶: p<0.05 vs nonpregnant group
とした。
結
果
1.プロゲステロン値の測定(予備実験)
血清プロゲステロンは非妊娠群と比較して,妊娠群
では約 6.1 倍増加した(p<0.05)(Fig. 1)。
2.SLVP(Systolic left ventricular pressure)の変化
1)非妊娠群における baseline の測定ではブピバカ
イン,ロピバカイン共に,各濃度間で control と比較
Fig. 1 Progesterone level in nonpregnant and pregnant
groups.
Values are expressed as mean ± SEM (n=7 for each group).
*: p<0.05 vs nonpregnant
して有意差は認められなかった(Table 1)。
–6
–5
2)非妊娠群においてはブピバカイン 10 M,10 M
で,ロピバカイン 10–7M,10–6M,10–5M で SLVP は有
意に低下した(p<0.05)。また control との比較では,
ブピバカイン 10–6M,10–5M で SLVP は有意に低下し
バカイン 10–7M,10–6M で SLVP は有意に低下した
た(p<0.05)が,ロピバカインでは有意差は認められ
なかった(Table 1)。
(p<0.05)が,ロピバカインでは有意差は認められな
3)妊娠群においてはブピバカイン 10–7M,10–6M,
かった。また,ブピバカイン 10–7M において非妊娠群
10–5M で,ロピバカイン 10–6M,10–5M で SLVP は有
と比較して SLVP は有意に低下した(p<0.05)(Table
意に低下した(p<0.05)。control との比較では,ブピ
2)。
211
434
矢崎泰司 舘田武志
3)非妊娠群と妊娠群の比較(Fig. 2, 3)
ブピバカインでは妊娠群の方が非妊娠群より抑制が
大きく 10–7M で有意であった。ロピバカインでは両群
間に有意差は認められなかった。
考
察
長時間作用型の局所麻酔薬であるブピバカインは,
心臓に対する直接抑制作用が短時間作用型のリドカイ
ン,メピバカインより強力であるとされている 11)。
局所麻酔薬の心毒性は,心筋の Na+ チャンネルが遮断
Fig. 2 % change of systolic left ventricular pressure (SLVP)
from the baseline in nonpregnant group.
Values are expressed as mean ± SEM.
*: p<0.05 vs control
§: p<0.05 vs Ropivacaine
されることにより興奮伝導の抑制をきたし,伝導障
害,心室性期外収縮誘発により致命的不整脈が惹起
されることにより発現する。この不整脈の他,直接心
筋収縮力抑制も心毒性の重要な因子である。局所麻酔
薬の直接心筋抑制作用の機序は,① Na+- Ca2+ 交換ポ
ンプ抑制による Ca2+ の細胞内流入減少,② L 型 Ca2+
チャンネル遮断による細胞内 Ca2+ 流入減少,③ 筋小
胞体からの Ca2+ 遊離抑制などによる細胞内 Ca2+ イオ
ンの減少以外にも,④ 細胞内ミトコンドリア機能抑
制,⑤ cyclic AMP 産生抑制などが考えられている 12)。
我々の実験においては心毒性の中でも不整脈について
ではなく陰性変力作用について検討したが,非妊娠群
においてはブピバカインはロピバカインより強い陰性
変力作用を示した。ブピバカインでは 10–6M,10–5M
Fig. 3 % change of systolic left ventricular pressure (SLVP)
from the baseline in pregnant group.
Values are expressed as mean ± SEM.
*: p<0.05 vs control
§: p<0.05 vs Ropivacaine
¶: p<0.05 vs Nonpregnant group
で著明に心収縮を抑制し,ロピバカインでは 10–7M,
10–6M,10–5M で心抑制が認められたがブピバカイン
より軽度であった。ロピバカインもブピバカインと同
様の機序で心抑制を示すと考えられた。さらにロピバ
カインの知覚神経遮断作用はブピバカインと同程度の
効力を示すが,運動神経に対する遮断作用は心血管系
3.SLVP の変化率(baseline からの心抑制率)
に対する毒性と同様に,ブピバカインより弱いことが
1)非妊娠群における変化率の比較ではブピバカイ
知られている 6~8)。この両薬剤の心毒性の違いは,①
ン,ロピバカイン共に 10–6M,10–5M において control
ロピバカインは神経膜 Na+ チャンネルに対する作用選
群より有意に抑制を示した(p<0.05)。また両薬剤間
択性は高いが 13),心筋 Na+ チャンネルへの作用が弱
での比較では,10–5M においてロピバカインよりもブ
く,局所麻酔薬レセプターとの結合がブピバカインよ
ピバカインで抑制率は大きかった(p<0.05)(Fig. 2)。
り短いこと 14),② 脂質親和性がロピバカインではブ
2)妊娠群における変化率の比較では,ブピバカイ
ピバカインより低いこと(脂溶性ロピバカイン:ブピ
ン 10–7M,10–6M,10–5M において,またロピバカイ
バカイン= 2.9 : 27.5)が関与していると考えられ
–6
–5
る 11)。さらに in vivo では,③ ロピバカインでは血管
ン 10 M,10 M において control 群より有意な抑制を
–7
示した(p<0.05)。両薬剤間での比較では,10 M,
–6
–5
収縮作用を,ブピバカインでは血管拡張作用を有する
10 M,10 M においてロピバカインよりもブピバカ
こと 15),④ ロピバカインはブピバカインより半減期
インの方が有意な抑制を示した(p<0.05)(Fig. 3)。
が短く,代謝排泄が速いことなど 1)も両者における
212
妊娠ラットにおける局所麻酔薬の心抑制
435
心毒性の差に関与することが考えられる。これらのこ
較しプロゲステロンの前投与による心抑制に差がな
とから,一般的にブピバカインの血管内誤投与により
かったとする報告 14)や,妊娠羊においてロピバカイ
生じた循環虚脱からの蘇生は困難とされている。特に
ンの毒性増加はなかったとする報告 10)と一致してい
無痛分娩などに対するブピバカインによる硬膜外麻酔
る。非妊娠群と妊娠群の間でロピバカインの陰性変力
において妊婦での局所麻酔薬中毒が多いことから,ブ
作用に有意差を生じなかった原因は,ロピバカイン自
ピバカインによる心毒性の増悪因子に妊娠があげられ
体の心筋 Na+ チャンネル選択性が少ないこと 13)が大
ている 11)。これは妊娠によりプロゲステロンが増加
きく関与したと考えられる。
することでブピバカインによる心筋や末梢神経での興
結論として,妊娠ラット摘出心におけるブピバカイ
奮伝導遮断作用が増強されることが原因の 1 つとして
ンとロピバカインの心抑制作用を比較検討した結果,
考えられている 12)16)。我々の実験においては,ラッ
ブピバカインではロピバカインよりも心抑制作用が強
トにおける妊娠によるプロゲステロン値の上昇は妊娠
く,妊娠により心抑制作用が増強されることが示され
14 日前後にピークに達することから
17)
,妊娠 11 〜
た。一方ロピバカインは妊娠群,非妊娠群ともに心抑
13 日前後にこの実験を行った。予備実験において,
制作用が弱く,妊娠による心抑制作用増強も認められ
妊娠群では非妊娠群と比べ血中プロゲステロン値が
なかった。これらのことからロピバカインは妊娠時に
6.1 倍に増加していることが示された。Moller らは,
も比較的安全に使用できる局所麻酔薬であることが示
ウサギの摘出心筋においてプロゲステロン前投与がブ
された。また運動神経遮断作用が弱いこと 5)からも,
ピバカインの心抑制を 2 〜 3 倍増強することを示し
帝王切開や無痛分娩に対する持続硬膜外麻酔に適した
た 14)。我々の研究においてもブピバカイン投与群で
局所麻酔薬であると考えられる。
–7
は,非妊娠群では抑制の認められなかった 10 M にお
謝
辞
稿を終えるにあたり,御指導と御校閲を賜りました聖マ
リアンナ医科大学麻酔学教室 山中郁男代表教授に深甚な
る謝意を捧げます。また,本研究に甚大なる御協力を頂き
ました同麻酔学研究室 二神雅子実験助手に感謝いたしま
す。
いて妊娠群では抑制が強く認められ,Moller らの実験
と同様の結果を示した。妊娠時におけるブピバカイン
の心毒性の増強は,ブピバカインの心筋組織に対する
感受性の増加や,妊娠による薬物動態の変化(妊娠時
の低蛋白血症による蛋白結合減少で,遊離ブピバカイ
ンが増加すること)も原因と考えられる 16)。プロゲ
文
献
1) Santos AC, Arthur GR, Wlody D, De Armas P,
ステロンは,局所麻酔薬レセプター部位でブピバカイ
ンと競合拮抗を生じる可能性が示されている 16)。し
Morisima HO and Finster M. Comparative systemic
たがって,プロゲステロン濃度が増加すると遊離型の
toxicity of ropivacaine and bupivacaine in non-
ブピバカイン濃度が増加し,より多くの Na+ チャンネ
pregnant and pregnant ewes. Anesthesiology 1995;
ルがブピバカインで遮断され心毒性が増強されると考
82: 734-740.
えられる。また,プロゲステロン自体が Na+ チャンネ
2) Albright GA. Cardiac arrest following regional anes-
ルの局所麻酔薬レセプターに直接作用することが心毒
thesia with etidocaine or bupivacaine. Anesthesiology
1979; 51: 285-287.
性を増強させるという説もある 16)が,一致した見解
3) Marx GF. Cardiotoxicity of local anesthetics–The
–7
はない。我々の研究でも,ブピバカイン 10 M では非
plot thickens. Anesthesiology 1984; 60: 3-5.
妊娠群に比べ妊娠群では陰性変力作用は増強された
4) Feldman HS and Covino BG. Comparative motor-
が,10–6M,10–5M では両群間に差は認められなかっ
blocking effects of bupivacaine and ropivacaine, a
た。これは,我々のモデルではブピバカインの陰性変
new amide local anesthetic, in the rat and dog. Anesth
力作用が 10–7M でピークに達したため,それ以上の濃
Analg 1988; 67: 1047-1052.
度では心抑制が増加しなかったと考えられた。一方,
5) Bader AM, Datta S, Flanagan H and Covino BG.
ロピバカインの陰性変力作用はブピバカインに比べて
Comparison of bupivacaine and ropivacaine induced
弱く,また妊娠,非妊娠両群間で有意差は認められな
conduction blockade in the isolated rabbit vagus
かった。これはロピバカインではプラセボ投与群と比
nerve. Anesth Analg 1989; 68: 724-727.
213
436
矢崎泰司 舘田武志
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214
妊娠ラットにおける局所麻酔薬の心抑制
437
Abstract
Effect of Pregnancy on Myocardial Depression Induced by Bupivacaine
and Ropivacaine in Isolated Rat Heart
Taiji Yazaki and Takeshi Tateda
Bupivacaine is widely used for regional anesthesia in obstetric patients because of its motor sparing properties
and long duration of action. However, it is well known that the cardiotoxicity of bupivacaine is greater than lidocaine.
Furthermore, several investigators reported that pregnancy enhanced the cardiotoxicity of bupivacaine. Ropivacaine
is a new amino amide local anesthetic that is structurally similar to bupivacaine but has been shown to be less
cardiodepressant than bupivacaine.
This study evaluates the direct cardiac effect of bupivacaine and ropivacaine in pregnant and non-pregnant
rats.
According to the method of Langendorff, 64 pregnant (gestational age, 11 or 12 days) Wistar rat hearts and 75
non-pregnant Wistar rat hearts were perfused with a solution through which 95% O2 ⁄ 5% CO2 passed and which
was warmed at 37˚C. Perfusion pressure and left ventricular end-diastolic pressure were maintained constant at
70 mmHg and 5 mmHg, respectively. Heart rate was paced electronically at 300 bpm. Systolic left ventricular
pressure (SLVP) was measured isovolumetrically with a pressure transducer connected to a latex balloon that had
been filled with saline and inserted into the left ventricle. After baseline measurements, hearts were perfused with
a solution containing either bupivacaine or ropivacaine at a concentration of 10–8, 10–7, 10–6, or 10–5M for 10
minutes and then SLVP was measured and recorded. At the baseline measurements, there was no significant
difference in SLVP between the pregnant and the non-pregnant groups for either drug. Bupivacaine caused a more
significant reduction in SLVP in the pregnant group (26% reduction from baseline) than in the non-pregnant group
(6% reduction from baseline) at a concentration of 10–7M (p<0.05). However, ropivacaine induced no significant
difference in SLVP between the pregnant and the non-pregnant groups at any dose. These results demonstrate that
ropivacaine-induced myocardial depression was not enhanced in pregnancy.
We concluded that ropivacaine is less cardiodepressant than bupivacaine in both pregnant and non-pregnant
states and suggest that ropivacaine is a safe local anesthetic for obstetric patients.
(St. Marianna Med. J., 30: 431–437, 2002)
Department of Anesthesiology
St. Marianna University School of Medicine, 2-16-1 Sugao, Miyamae-ku, Kawasaki 216-8511, Japan
215