2014/11/22 4章 ベルヌーイの定理とその応用 4.1 の定理(Bernoulli’s theorem) 非粘性流体に関するオイラーの運動方程式(3.20)は,密度が一定の 非圧縮性流体では流線sに沿って容易に積分でき,次式となる. v v2 p ds gz ct t 2 ここで,c(t)は あるので, (4.1) で時間の関数である.定常流では第一項は0で v2 p gz const. [J/kg] 2 (4.2) 運動エネルギー + 圧力エネルギー + 位置エネルギー = 一定 を表す.流体では, エネルギーを含む合計が一定であることに注 意を要する.圧力エネルギーpAx/Axは に働く圧力がなす仕 事/流体質量であり,4.2節では流れエネルギーとも呼ばれる. 式(4.2)に密度をかけると なる. 当たりのエネルギーを表す次式と 1 2 v p gz const. 2 [J/m3] (4.3) ここで,左辺の各項は, (dynamic pressure), (static pressure), (hydrostatic pressure)と呼ぶ.さらに,式(4.2) を重力加速度gで割ると次式が得られる. v2 p z const. H [m = J/N] 2 g g (4.4) ここで,左辺の各項は, ヘッド(velocity head),圧力ヘッド( pressure head), ヘッド(potential head)と呼び,合計を総ヘッド あるいは全ヘッド(total head)と呼ぶ.ヘッドは と呼ばれること もあり,流体の単位重量当たりのエネルギーを表す. 式(4.2)~(4.4)は,いずれも (非粘性・非圧縮性流体)の定常 流に対するベルヌーイの式(Bernoulli equation)と呼ばれる. 1 2014/11/22 ベルヌーイの定理は で成り立 v12 ち,管路内の流れでも摩擦等によるエ 2g ネルー損失が無視できれば適用できる. 例えば,右図の場合A1 > A2 であるので, p1 g 連続の式より となるが,速度ヘッ 2 2 ドが v1 / 2 g から v2 / 2 g へ増えた分だけ p2はp1より低くなり,全ヘッドは一定の ままである. 全ヘッド v22 2g p2 g 圧力ヘッド v1 A1 ポンプと水車の理論動力と効率 ポンプ(pump)は水などの液体を加圧して 装 置である.例えば,質量m(= V)の水を高さHまで揚げ るためには,水にVgHの位置エネルギー[J]を与える必要 がある.水に与える動力[W] =エネルギー/時間は体積流 量がQ = V/Dt [m3/s]であるので, . 速度ヘッド (4.5) ただし,揚水時に壁面摩擦等の損失ヘッド Hlossが生じるので, Hの代わりに全揚 程Hp = Hloss + Hを用いる必要がある. v2 A2 x pump x ポンプの効率pは,モータやエンジンからポンプに伝えられた Ps(shaft power)の何割が水に伝わるかを表すものである. p Pp Ps QgH p (4.6) Ps (hydraulic turbine)は水の持つ位置エネルギーを使って回転軸に 軸動力Psを伝える装置であり,ポンプとは逆の役割を果たす.水が水 車に入るまでに の損失ヘッドHlossが生じるので,利用可能な位 置ヘッド,すなわち (effective head)はHt = H - Hlossに減って しまう.そのHtによって水車に伝えられる動力Ptを あるいは 理論出力(theoretical power)と呼び,次式で表わす. x (4.7) 水車の効率tは,Ptの何割が発電機を回す回転軸に軸動力 Psとして伝えられるかを表すもので,次式で与えられる. t Ps Ps Pt QgH t turbine (4.8) x 2 2014/11/22 4.2 流体のもつエネルギー ここでは圧力のエネルギーについて説明する. pの流体が シリンダー内に入っていて,受圧面積Aのピストンの外側には大気圧 が働いている.そのゲージ圧によってピストンを距離xだけ移動した ら,シリンダー内の圧力が大気圧と等しくなったとする.その間に流 体は [J]の仕事をしたので,圧力は仕事をする能力を表すと 考えることができる.そのような圧力のエネルギー[J]を単位質量あた りで表わすと,pV/V = p/となる. A p x 4.3 全圧と動圧 球面状の先端を持つ円柱に沿う流れにおいて先端Oに衝突する流線を 考える.上流の地点A(円柱の影響なし,O点と同じ高さ)からO点に 近づくにつれて流線上の速度vは減速し,O点でゼロとなる.そのよう なO点を (Stagnation point)と呼び,そこでの圧力pOはA点- O点間のベルヌーイの式より次式で与えられる. (4.9) ここで,左辺第一項は (dynamic pressure)あるいはよどみ圧,第 二項は動圧と区別するために (static pressure)と呼ばれる.そし て,両者の和pOは全圧あるいは (total pressure)と呼ばれる. Stream line Ax O x Stagnation point 3 2014/11/22 1 4.4 タンクオリフィスからの流れ 大きなタンクの底や側面に設けた小 孔を (tank orifice) と呼ぶ.ここでは,そのような小孔か らの水の流出を数式化する. 小孔の面積Agがタンク水面の面積A と比べて極端に小さければ,水の流出 に伴う水面の降下は無視できるほどに 小さい.このような場合について,ベ ルヌーイの式を に適用する. p1 v12 2 gz1 p 2 v22 2 (p1 = p2) p2 縮流部 (ベナコン トラクタ) 水平基準面 gz 2 (4.10) ここで,p1 = p2 = 大気圧, の条件を上のベルヌーイ式に適用 すると の定理と呼ばれる次式が得られる. v22 2 g ( z1 z 2 ) 2 gh ⇒ しかし,実際の流出速度vexpは摩擦等 によるエネルギー損失のためにv2よ りも少し小さくなる. (4.13) ここで,Cvを速度係数(velocity coefficient)と呼ぶ.式(4.13)のvexp に小孔の断面積Agをかけると体積 流量Qが出そうではあるが, (contraction)が生じて小孔の有効 断面積が小さくなるので,Qは次 式で与えられる. (4.11) 1 (p1 = p2) p2 縮流部 (ベナコン トラクタ) 水平基準面 Cd:流出係数(= Cv×Cc,discharge coefficient) ≒ 0.6 Cc:縮流係数(= Aj/Ag ,contraction coefficient)≒ 0.65 (ベナコントラクタ部の断面積は穴65%くらいになるとういうこと) 4 2014/11/22 小孔面積Agが水面の面積Aと比べて無視できな ければ,水の流出に伴って水面は降下し,式 (4.10)におけるv1は値を持つ.そのような場合, 連続の式 を式(4.10)に代入して整理 すると次式を得る. v2 2 gh 1 Ag A 2 2 gh 1 Ag A 2 A 1 Ag A t1 C d Ag 2 g h2 h2 dh h1 h 2 gh 1 Ag A 2 2 A 1 Ag A 2 小孔の 断面積 Adh C d Ag 2 (t 2 t1 ) dt h 容器の断面積 dt dt dh A (hが減少するのでマイナス) t2 h1 (4.12) 次に,水位がh1からh2まで低下する時間を求 める.高さhから 間に-dhだけ低下す ると,流出した体積dVは次式で与えられる. dV C d Ag - dh C d Ag 2 g h1 h2 pa 4.5ピトー管(Pitot tube):流速測定に使用 まず, を持つ流れ(open channel flow) に関する速度測定法を説明する.ピトー管よりも 十分に上流の点Aと の先端点Bの間にベ ルヌーイの式を適用すると次式を得る. 1 p A v A2 p B ⇒ v A 2 p pA (4.17) 2g B g ここで, p B pa g h z h pa , z A B Open channel flow (4.18) を式(4.17)に代入すると v v A 2 gh (4.20) 次に, (pipe flow)の場合を説明する.点A-点B間の距離 は短く,その間の圧力損失は無視できると考えると(細管内の流れで は不適であるが),次式が成り立つ. 5 2014/11/22 pa pa , p B pa g h0 z (4.21) h これを式(4.17)に代入すると v v A 2 g h0 h z (4.23) A ただし,上の各式は理論上のものであって,実 際にはピトー管製作時の加工精度や粘性の影響 を考慮して, Cv(velocity coefficient 1)を乗じて速度を求める. pB p A g v Cv 2 g h0 B Pipe flow (4.24) 圧力差 (PB - PA)は,気流ではU字管水(あるいはアルコール)マノメ ータで,水流でも流速が大であれば 水銀マノメータや差圧変換 器で測る.その場合,式(4.20)と(4.23)は使えないので,測定法に応じ て(pB - pA)を正しく求めて式(4.24)に代入して速度を求める. 4.6ベンチュリ管 (Venturi tube) ベンチュリ管は管内流の流量測定に使われる.水平なベンチュリ管 の上流1と (throat)2間にベルヌーイの式を立てると すると v2 (4.25) ,v1 = (A2/A1)v2,を代入して整理 1 2 1 ( A2 / A1 ) 2 よって,理論 Qth A2 v2 throat 2 1 p1 v12 p 2 v 22 ∵z1 = z2 g 2 g g 2 g z ’ p1 p2 (4.26) ノズル形ベンチュリ管 Qth [m3/s]は A2 1 ( A2 / A1 ) 2 2 p1 p2 (4.27) 6 2014/11/22 実際には二つの断面間でエネルギーの損失があるので, Q Cd A2 2 1 ( A2 / A1 ) 2 p1 p2 A2 2 p1 p2 (4.29), (4.31) であり,は流量係数(discharge ここで,Cdは0.98~0.97の coefficient)である. なお,図示のマノメータでは は次式となる. p1 g z h p2 gz ' gh より, p1 p2 ' gh これを式(4.31)に代入すると,次式となる. ' Q A2 2 gh 1 throat 2 1 z ’ 4.7オリフィスとノズル (Orifice, Nozzle) とノズルは,ベンチュリ管と同じく管内流の流量測定に 使われる.体積流量はベンチュリ管に関する式(4.31)と同じく次式 で求められる. Q A2 2 p1 p2 (4.38) ただし, の値はベンチュリ管におけるの値とは違うので, 使用に際しては次に示す 規格を調べること. •オリフィス(テキストの図4.7(a)): JIS Z 8762-2 •ノズル(テキストの図4.7(b))及びノズル形ベンチュリ管: JIS Z 8762-3 •円錐形ベンチュリ管(テキストの図4.6と同じ形): JIS Z 8762-4 オリフィス前後の流れの様子と壁面静圧分布を図4.8に示す. 7 2014/11/22 オリフィスの1D上流(Dは 管内径)の断面1付近からオリ フィスによる の影響が 現れ,縮流が始まり圧力は上 昇し始める.オリフィス通過 後に は急低下し,縮流は 0.5 D下流の断面2まで続く.そ の後, は徐々に広がって, オリフィスから5Dの地点で元 に戻る.それに伴い,圧力は 次第に回復し, 流れ における圧力勾配と同じ勾配 をとるようになっていく. オリフィスは容易に製作できるが,ノズルやベンチュリ管と比べて 圧力損失が大きいのが難点である.なお,圧力p1とp2の測定位置は, 図4.8の断面1と2をとることもあるが,通常はオリフィス板の直前と直 後からとる. 2 4.8サイホン(siphon) x h1 右図(a),(b)において管内を水で満たし 1 x ておくと,水面の を駆動力として水 が流下する.このような管路をサイホンと Tank 1 呼ぶ.ここでは,サイホンを通る水のエネ ルギー損失が無視できるとして, ならびに流出速度を与える式を導く. 作動限界 水面上の点1と最高点2の間の 式より, p1 p v2 2 h1 g g 2 g h2 3 x Tank 2 (a) 2 の (4.39) x h1 1x h2 ⇒ p 2 p a gh1 v 2 2 (4.40) 3 x (b) これより,h1とvが大きいほど圧力p2が下がることが分かる. 8 2014/11/22 液体の pvまでp2が下がると,液体中の溶存ガスと水蒸気の気 泡が現れ,その気泡によって流れが途切れてサイホン機能は停止する. すなわち,サイホンの は次式で表わされる. p2 pv 2 (4.41) x h1 1 流出速度 x h2 3 水面上の点1と地点3の間のベルヌーイの Tank 1 式より, p3 v 2 p1 h2 g g 2 g x Tank 2 (4.42) (a) なお,図(a)の場合には,サイホンからタンク2に入る水流の持つエネ ルギーがタンク内で 消散されるので,その消散分として 2 v /2gを右辺に加えた.これを あるいは廃棄損失と呼び,詳 しくは8.2.2項で述べる.式(4.42)にp1 = p3 = paを代入すると v 2gh2 (4.43) 9
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