2016 年までの農業予測

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2016 年までの農業予測
米国農務省局間農業予測委員会
米 国 農 務 省(USDA) の「 局 間 農 業
であったが、予測期間中は年率約1.1%
予 測 委 員 会(Interagency Agricultural
に減速すると見込む。
Projections Committee)」 は、2007年 2
◦原油価格は、2007年から2011年間におい
月、「2016年 ま で の 農 業 予 測、 米 国 農 務
ては、最初若干値下がりするが、その後
省(USDA Agricultural Projections to
インフレ率の範囲内で上昇する。2011年
1
2016)」を公表した。農業予測は、毎年2
以降はインフレ率を上回る率で上昇する
月、大統領予算が議会に提出された後、公
と予測。
表されているもので、大統領予算の編成や
◦2002年農業法(改正されるが)と2005年
農場プログラムの経費を予測するために作
農業調整法は、予測期間を通じて継続さ
成されている。委員会は、経済研究局、農
れると見込む。
業サービス庁、農業市場局、主任エコノミ
◦保全保留プログラム(CRP)による契約
スト室、予算・プログラム分析室、リスク
面積は、比較的高い CRP 契約料によっ
管理庁、自然資源保全局、協同州研究教育
て徐々に増加し、予測期間の終わりま
普及局がメンバーになり、世界農業見通
でに登録の最大面積の3,920万エーカー
ボードが統轄している。
(1,596万ヘクタール)に上がると見込む。
◦2005年エネルギー政策法によってガソ
予測の基になる主たる前提
リンに混入する再生可能燃料(メチル・
◦2007年から2016年(予測期間)において
ターシャリ・ブチル・エーテル(MTBE)、
は、世界の経済成長は年平均3.4%、米
エタノール及びバイオディーゼル油)の
国の国民総生産 (GDP) は約3%、発展
量を2012年まで75億ガロンに拡大するこ
途上国の経済成長は5.6%と予測。
とが義務化された。再生可能燃料のうち、
◦ 世界人口の増加率は、1980年代は1.7%
MTBE については、ガソリン添加剤と
1 “USDA Agricultural Projections to 2016”は110頁、関係部分を抄訳した。
URL は、http://www.ers.usda.gov/publications/oce071/oce20071.pdf
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しての使用を抑制する法律が制定されて
ものと見込まれ、そのことが世界の飼料穀
いる2。エタノールとバイオディーゼル
物の需要と貿易を支える。ブラジル、アル
油のバイオ燃料については、予測期間を
ゼンチン、黒海諸国との貿易競争とドル相
通じてガソリン混合に対する税控除と輸
場の上昇によって、いくつかの穀物では、
入関税が残ると見込んだ。この結果、エ
輸出は抑えられよう。加えて、エタノール
タノールの生産は、予測期間の終わりに
生産の拡大によって米国内のとうもろこし
は、米国で年間120億ガロン以上が見込
の消費量が増加し、また大豆からとうもろ
まれ、またバイオディーゼル油は2011/
こしへ作付けが転換されることから、予測
12年には700百万ガロンに増加すると見
期間の初めの数年間は、米国の穀物輸出は
込む。
限られたものとなろう。
◦ EU、ブラジル、アルゼンチン、カナダ
2002年農業法は、予測期間を通じて続く
では、向う10年間にバイオ燃料の生産が
ものと見込んだが、農産物の高価格が予測
飛躍的に増加すると見込む。
されることから価格志向型のプログラムの
このほか、米ドルの為替相場、牛肉貿
給付金は減額されることになる。例えば、
易、世界貿易等についても前提が述べら
飼料穀類に対する価格支持融資額と価格変
れている。
動型支払い額は最少になる。また、2009
年を通して保全保留プログラム (CRP) に
予測結果
登録された面積は減少するが、その後は、
1.主要作物の作付面積
CRP の 契 約 料 が 高 い こ と か ら、CRP 面
とうもろこしからのエタノールの生産が
積は予測期間の終わりまでに3,920万エー
大幅に伸びると予測され、国内需要、輸出、
カーに達すると見込まれる。保留農地の約
価格、作付面積割合のすべての分野におい
3分の2は、主要8作物(とうもろこし、
て影響が出る。加えて、米国と世界の経済
ソルガム、大麦、オート麦、小麦、米、綿
が着実に成長が見込まれ、農作物の他用途
花及び大豆)の作付けに向けられる。
利用にとって好ましい環境を作ることにな
価格が上昇し生産者純収益が増加するこ
る。このことによってとうもろこしは、消費
とから生産が刺激され、主要8作物の米国
と貿易の面で長期的に拡大し、歴史的にみ
内の作付面積は、2006年の約2億4,300万
て高いレベルの価格を維持することになる。
エーカー(1億ヘクタール)から予測期間
世界の畜産物の生産は、飼料価格の高騰
のほとんどの年で2億4,700万エーカー以
によっていくぶん抑制されているが、所得
上に増加すると見込まれる。
と生肉需要が増えることに反応して伸びる
2 MTBE については、環境汚染・発ガン性が懸念されている。
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かし適切に拡大することは、給餌量と輸
出の拡大に結び付き、生産者収益を支え、
高いレベルで作付面積を安定させる。
◦小麦の作付面積は、価格の上昇に反応し
て2007年に6,000万エーカーまで跳ね返
るが、その後は他の作物との競合があり、
5,800から5,900万エーカーまで下がる。
注)主要8作物はとうもろこし、ソルガム、大麦、
オート麦、小麦、米、ワタ及び大豆
◦大豆作付面積は、とうもろこし生産によ
る収益が多いことから大豆向けの農地が
図1 主要8作物の作付面積の予測
引き剥がされ、6,900万エーカー未満に
減少する。
2.とうもろこし、小麦及び大豆の作付面
積
各作物の作付面積は、予想される純収益
によって影響を受ける。農産物価格が低い
ときは価格支持融資によって収益は増える
ことになるが、純収益は、市場価格と生産
量、生産コストよって決まる。
◦とうもろこし、小麦及び大豆の作付面積
図2 とうもろこし、小麦及び大豆の作付面積の予測
は、予測期間を通して、主要8作物のう
ち約88%を占める。とうもろこしの作付
3.国内消費と輸出
け増と大豆離れという作付けの流れが続
1)とうもろこし
くとみられる。特に、米国ではとうもろ
主としてエタノール生産によってとうも
こしからのエタノール生産がとうもろこ
ろこしの国内消費量は、予測期間を通じて
しの需要を伸ばし、同価格を上げ、収益
増加する。2009/10年以降は、世界経済の
をあげる。
成長によって米国産とうもろこしの輸出は
◦とうもろこしの作付面積は、エタノール
生産が急速に伸び、とうもろこしの需要
増加する。
◦今後数年間、エタノール生産に向けられ
と価格、生産者利益を引き上げるため、
るとうもろこしは、大きく増加すると予
2010年までに9,000万エーカー(3,640万
測される。オイル価格が比較的高いこと
ヘクタール)に達すると見込まれる。と
からエタノール生産において満足できる
うもろこしの米国内の給餌量と輸出は伸
利益をもたらし、また、政策プログラム
びる。とうもろこしの需要が確実に、し
と結び付いて、エタノールの生産設備の
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拡大に対して経済的インセンティブを提
れる。バイオディーゼル油生産向けの破
供する。
砕大豆の増加はまた、国産大豆油の需要
◦ とうもろこしの飼料・残留物使用量は、
初期の数年間は減少するが、その後は、
増に反映する。
◦エタノール生産のために大豆の作付面積
エタノール生産の副産物である蒸留カス
がとうもろこしに移行すること及びブラ
の給餌量の増が家畜飼料の需要を満たし、
ジルとの競争を受けて、米国の大豆輸
若干ではあるが増加する。
出は900百万ブッシェル未満に減少する。
◦とうもろこしがエタノールの生産に多く
その結果、世界の大豆貿易に占める米国
使用されることから、米国のとうもろこ
のシェアは25%未満に低下する。
し輸出は、ここ数年間は減少する。米国
このほか、小麦、綿花、米についても
でエタノール生産の伸びが緩慢になった
予測が記述されている。
後は、飼料穀類に対する世界的な需要が
強まることから米国のとうもろこし輸出
は増加する。
◦加えて、米国産とうもろこしのメキシコ
への輸出は、米国からのとうもろこし輸
入関税が撤廃されることから増加する。
図4 大豆の国内消費と輸出の予測
4.とうもろこし、小麦及び大豆の在庫
米国とうもろこしの在庫は、エタノール
に対する強い需要があるため、急激に減少
すると見込まれる。大豆の作付けからとう
もろこしの作付けにシフトするため、大豆
図3 とうもろこしの国内消費と輸出の予測
の在庫は近年では記録的な落ち込みになる。
2)大豆
エタノールの拡大は、予測期間の後半はに
大豆は、国内消費がゆっくり上昇し続け
ぶり、とうもろこしの在庫はいくぶん増え、
るが、米国産大豆の輸出は、最初低下し、
大豆の在庫は低いレベルで安定する。小麦
その後非常に緩やかに上昇する。
の在庫は、高価格に刺激されて面積と収量
◦米国産の粉砕大豆は、主に家畜飼料向け
が伸び、2006/07のレベルから回復する。
米国産大豆ミールの需要が増加している
その後数年間、小麦の輸出が増加するため、
ことによって長期的な伸びが引き起こさ
在庫は減少する。
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め、生産量が少し増加する。にもかかわ
らず、高い価格が保たれる。予測期間の
後半では、小麦の輸出がほどよく増加し、
在庫率は下がり、小麦価格は更に上がる。
図5 とうもろこし、小麦及び大豆の在庫率の予測
5.とうもろこし、小麦及び大豆の価格
とうもろこし、小麦及び大豆の予測され
図6 とうもろこし、小麦及び大豆の価格の予測
る農場価格は、ある程度、これら作物の在
庫率を反映することになる。
◦とうもろこしは、エタノール生産がとう
(参考) 米国のとうもろこし需要の推移
もろこしの需要を刺激することから2009
/10年を通して価格は急上昇する。長期
的には、作付面積の拡大と収量増によっ
て、エタノール生産の伸びが緩慢になる
こと、及び輸出の伸びが適正になること
からとうもろこしの在庫率は高まり、価
格は下落する。それにもかかわらず、と
うもろこし価格は高水準に止まる。
◦ 大豆は、予測期間の初期段階を通じて、
大豆作付面積と在庫の大幅な減少によっ
て大幅な価格上昇につながる。長期的に
は、大豆価格は、南米からの供給を受け
て幾分下がると予測される。
◦小麦は、予測期間の初期段階では、とう
もろこしの価格が高いことから小麦の飼
料使用を増加させ、小麦価格を支えるた
出典:農林水産省「我が国の食料自給率 -平成17
年度食料自給率レポート-」
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