NPT 会議と被爆者の取り組み ニューヨーク訪問(4.26~5.2)報告 2015.5.5 小寺隆幸(原爆の図丸木美術館代表理事) 4 月 27 日から国連で始まった 5 年に一度の NPT(核 拡散防止条約)再検討会議では広島・長崎の記憶が改め てクローズアップされています。原爆の惨禍は過去のこ ととしてではなく、現在の、そして次の世代の切迫した 問題として語られているのです。NPT は一部の国にだけ 核保有を認める差別条約で、 この枠内で 「核のない世界」 は実現しえませんが、それでも重要な機会です。大事な ことは核保有国に私たちの未来を委ねるのではなく、世 界の市民社会が手を携えて権力者を監視し、働きかけ、 新たな国際人権法の体制を構築するステップとすること です。私はこの国際市民社会の動きを知るとともに「ア メリカ展」の広報を行うために私費で訪米しました。 4 月 26 日パイオニアワークス訪問 反核デモ 11-12 月に原爆の図の展示を行うブルックリンのギャ ラリー「パイオニアワークス」を訪問。赤レンガ倉庫を 改築した館内は素敵な空間です。ブルックリンは若いア ーチストの街。代表のガブリエルさんともお会いし、原 爆の図と現代アートとのコラボレーションへの思いをお 聞きしました。11 月の展覧会が楽しみです。 この日は 2008 年以来、ニューヨークの高校・大学の生 徒 25000 名以上に被爆者が直接話す機会を作ってきた NGO “Hibakusha Stories”の取り組みを見るために国連 インターナショナルスクールを訪問しました。 この組織は当時国連軍縮局に勤務していたサリヴァ ンさんらが立ち上げ、被爆者と生徒との交流をつくると ともに軍縮教育のための教師プログラムも開発していま す。彼女は今回のアメリカ展の企画者早川さん、平田さ んとともに 2011 年に丸木美術館を訪ねています。被爆 者が高齢になる中で、今年が最後になるかもしれないと お聞きし、ぜひ直接見てみたいと思いました。 今年のプログラムもハードな日程です。カナダ在住の 被爆者サーローさん、メキシコ在住の山下さん、東京の 山田さん、平田さんらの被爆者を 1 か月近くニューヨー クに招き、2つのチームが連日午前、午後と証言し対話 するのです。そこにトルーマン大統領の孫のダニエルさ んも加わります。4 月 27 日から 5 月 17 日まで 50 か所以 上の学校で実施します。その最初が国連インターナショ ナルスクールでした。100 名ほどの高校生にサーローさ んと山下さんが英語で自分の体験を語り、その後生徒の 質問に答えます。真剣に聞く子どもたちの姿が印象的で した。(左からサリヴァン、山下、サーローさんです。) 夕方、国連ギャラリーで被団協主催の原爆展開幕の集 いが開かれました。国連正面玄関を入るとロビーの正面 に「原爆の図第15部長崎」と平山郁夫さんの「広島生 変図」の大きなパネルが目に入ります。 午後はニューヨーク中心街で、 被爆者を先頭に 7500 名 のデモ。日本からの 2000 名、世界各国の NGO の方、アメ リカ市民の方々と共に丸木の旗を掲げて歩き、アメリカ 展チラシを多くの人に手渡しました。 4 月 27 日国連学校の対話、NPT 会議、原爆展開会 開幕式では国連軍縮問題担当上級代表ケインさんが 感動的なスピーチをされました。 その一部を紹介します。 「今日に至っても被爆者の苦しみが続いていることはと ても悲しく見るに堪えない。骨髄異形成症候群で亡くな った吉田さんの『私の中に原子爆弾はまだいる』という 言葉を忘れてはいけません。被爆者の皆さんは個人の苦 しみを超え、続く世代を核兵器の呪縛から解き放つとい うより大きな目的を果たそうとしている。この不断の努 力のおかげで皆さんの記憶と願いは何百万人の人々に届 けられてきた。文明をつなぎ、人間らしさを保つことを 教えてくれる存在こそが被爆者です。皆様はかって想像 を絶する恐怖の中に突き落とされ、そして生き延びられ た。どのような苦しみの中にあっても希望をお忘れにな りませんでした。それこそが皆さんが私たちに残してく ださったメッセージです。 」 その次に被爆者代表として発言されたサーローさん は、安倍政権の後ろ向きの姿勢を厳しく批判しました。 4 月 28 日 Hibakusha Stories・日本協会の集い Hibakusha Stories と Japan Society が共催し、午前・ 午後各4校計 400 名の高校生が参加。この日はトルーマ ンさんも話されました。彼は祖父から原爆のことを聞い たことはなかったのですが、9 歳の息子が佐々木禎子さ んの本を読んだことがきっかけで禎子の甥と出会い、 Hibakusha Stories にもずっと協力しています。日本か ら運んだ 「原爆の図」 小パネルが壇上に据えられました。 5 月 2 日 軍縮のためのコンサートへの参加 Hibakusha Storiesなどが主宰したこのコンサートは、 核をテーマに思索し、感じ、共鳴する場でした。「感謝 の言葉」「マンハッタンプロジェクト」「その瞬間」「今 日ある核兵器」「原子力と核のゴミ」「ニュークリア・ ガーデアンシップへの旅」というテーマに分かれ、各テ ーマの中で山下さん、笹森さん、サーローさんが証言さ れ、音楽が演奏されます。核時代を生み出したマンハッ タン計画から始まり、原発による放射能が私たちを蝕む 現在までを振り返り、未来への希望を問いかける 3 時間 でした。フィナーレは長崎の「ひまわり」とニューヨー クの高校生との合同合唱で参加者は総立ちで拍手しまし た。 会場で原爆の図4作品の小パネル展を開催しました。 4 月 29 日 国連学校への被団協訪問に同行 国連学校の中学と小学部に被団協の被爆者の方々が証 言された様子を見学させていただきました。子どもたち も真剣に聞き、質問していました。 6 月~12 月「原爆の図アメリカ展」への期待 この 10 年の被団協や Hibakusha Stories の取り組み でニューヨークの 3 万人以上の若者が直接被爆者から証 私立の Cardinal Spellman 高校へ。11 年生 300 名ほ 言を聞いています。その中で、政治的な意味以前に被爆 どが講堂で話を聞きました。私もアメリカ展チラシを配 者の生き様に感動し、アメリカへの憎しみを核廃絶へと 布し、 原爆の図について話す時間を少しいただきました。 昇華させた思想に共感する若者が増えています。また核 夜は日本協会での“Nagasaki in New York~thepast 兵器の非人道性の認識が国際社会で深まっています。 and current reality of nuclear war”に参加。被爆者だけ その中で行われるアメリカ展。アメリカン大学やボス からなる合唱団ひまわりのコーラス、田上市長の話、被 トンでの展示は広島・長崎の被爆資料と一体化したもの 爆者の証言、 長崎大学生のスピーチなどが行われました。 になります。パイオニアワークスでの展示は若い芸術家 とのコラボレーションとなり、 「原爆の図」に新たな光を 5 月 1 日NPT再検討会議のNGOセッション 当てるものになるでしょう。 午後国連の会議場で開かれたセッションを傍聴しま また 4 月 29 日、安倍首相はワシントンで演説しまし した。議長はピースボート代表の川崎さんです。第一部 たが、戦争への反省は一般的にしかふれませんでした。 は被爆者代表のサーローさん、田上長崎市長ら 4 名によ 日本政府の歴史認識が問われる中で開催される「アメリ る講演と議論でした。サーローさんが「これまでパワー カ展」で、日本人の加害をも描いた丸木夫妻の思いをア バランスが議論されてきたが、今回人間性が前面に出て メリカ市民がどう受け止めるでしょうか。 きた。これは大きな転換だ」と語られました。 ニューヨークでアメリカ展への期待を多くの方から 第二部は世界の反核 NGO16 団体がスピーチしました。 お聞きし、ぜひ成功させねばと強く思い帰国しました。 4 月 30 日高校での Hibakusha Stories と長崎集会
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